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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/085 20060101AFI20221128BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20221128BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20221128BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20221128BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20221128BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20221128BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20221128BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/091
G02F1/1333 500
G09F9/30 310
H01L27/32
H05B33/02
H05B33/14 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017510248
(86)(22)【出願日】2016-04-01
(86)【国際出願番号】 JP2016060913
(87)【国際公開番号】W WO2016159344
(87)【国際公開日】2016-10-06
【審査請求日】2019-03-01
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2015076617
(32)【優先日】2015-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015164474
(32)【優先日】2015-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 敦己
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】粟野 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-236759(JP,A)
【文献】特開2011-105554(JP,A)
【文献】特開2012-184146(JP,A)
【文献】国際公開第2011/001920(WO,A1)
【文献】特表2011-522767(JP,A)
【文献】国際公開第2014/100432(WO,A1)
【文献】米国特許第4634684(US,A)
【文献】米国特許第4180618(US,A)
【文献】特開昭61-261232(JP,A)
【文献】特開昭61-236631(JP,A)
【文献】特開昭61-44732(JP,A)
【文献】特開平1-126239(JP,A)
【文献】特開2003-283028(JP,A)
【文献】特開2010-64921(JP,A)
【文献】特開2011-11933(JP,A)
【文献】特開2015-28827(JP,A)
【文献】特開2015-28828(JP,A)
【文献】特開昭60-42246(JP,A)
【文献】SAKAGUCHI Koichi, ”Compositional dependence of infrared absorption of iron-doped silicate glasses”, Journal of Non-Crystalline Solids, 2007, vol.353, pp.4753-4761
【文献】V. Kh. NIKULIN et al., ”ACOUSTIC PROPERTIES OF ALKALI-FREE ALUMINOSILICATE GLASSES”, THE SOVIET JOURNAL OF GLASS PHYSICS AND CHEMISTRY (TRANSLATED FROM RUSSIAN), 1982, Vol.7, No.4, pp.287-291, ISSN 0360-5043
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/085, 3/087, 3/091
G09F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で、SiO 65~80%、Al 13~30%、B 0~1%、MgO 1~10%、CaO 2~20%、BaO 1~7.5%、ZnO 0~0.1%、ZrO 0~0.2%、TiO 0~0.1%、P 0~0.1%、LiO+NaO+KO 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 5~35%、La+Y 0.1%未満を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.4以上、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Alが1.15以下、モル比SiO/Alが4.5~6であり、且つ30~380℃の温度範囲における熱膨張係数が40×10-7/℃未満であることを特徴とするガラス。
【請求項2】
の含有量が1モル%未満であることを特徴とする請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
LiO+NaO+KOの含有量が0.5モル%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Alが0.3~1.15であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のガラス。
【請求項5】
モル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.5以上であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のガラス。
【請求項6】
歪点が750℃以上であることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のガラス。
【請求項7】
歪点が800℃以上であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載のガラス。
【請求項8】
(102.5dPa・sにおける温度-歪点)が1000℃以下であることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載のガラス。
【請求項9】
102.5dPa・sの粘度における温度が1800℃以下であることを特徴とする請求項1~8の何れかに記載のガラス。
【請求項10】
平板形状であることを特徴とする請求項1~9の何れかに記載のガラス。
【請求項11】
有機ELディスプレイの基板に用いることを特徴とする請求項1~10の何れかに記載のガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスに関し、特に有機ディスプレイ、液晶ディスプレイの基板に好適な無アルカリガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の電子デバイスは、薄型で動画表示に優れると共に、消費電力
も低いため、携帯電話のディスプレイ等の用途に使用されている。
【0003】
有機ELディスプレイの基板として、ガラス基板が広く使用されている。この用途のガラス基板には無アルカリガラス(ガラス組成中のアルカリ成分の含有量が0.5モル%以下となるガラス)が使用されている。これにより、熱処理工程で成膜された半導体物質中にアルカリイオンが拡散する事態を防止することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この用途の無アルカリガラスには、例えば、以下の要求特性(1)~(3)が要求される。
(1)ガラス基板を低廉化するために、生産性に優れること、特に耐失透性や溶融性に優れること。
(2)p-Si・TFT、特に高温p-Si等の製造工程において、ガラス基板の熱収縮を低減するために、歪点が高いこと。
(3)ガラス基板上に成膜される部材(例えば、p-Si)の熱膨張係数に整合するように、低い熱膨張係数を有すること。
【0005】
ところが、上記要求特性(1)と(2)を両立させることは容易ではない。すなわち、無アルカリガラスの歪点を高めようとすると、耐失透性と溶融性が低下し易くなり、逆に無アルカリガラスの耐失透性と溶融性を高めようとすると、歪点が低下し易くなる。
【0006】
また、上記要求特性(1)と(3)を両立させることも容易ではない。すなわち、無アルカリガラスの熱膨張係数を低下させようとすると、耐失透性と溶融性が低下し易くなり、逆に無アルカリガラスの耐失透性と溶融性を高めようとすると、熱膨張係数が上昇し易くなる。
【0007】
また、ディスプレイの薄型化には、一般的に、ガラス基板のケミカルエッチングが用いられている。この方法は、2枚のガラス基板を貼り合わせたディスプレイパネルをHF(フッ酸)系薬液に浸漬させることにより、ガラス基板を薄くする方法である。よって、ガラス基板のケミカルエッチングを行う場合、要求特性(1)~(3)に加えて、ディスプレイパネルの生産効率を上げるために、HFによるエッチングレートが高いことが求められる。
【0008】
更に、ガラス基板の撓みに起因する不具合を抑制するために、ヤング率(又は比ヤング率)が高いことが求められることもある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み成されたものであり、その技術的課題は、耐熱性が高く、熱膨張係数が低く、しかも生産性に優れるガラスを創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、ガラス組成を所定範囲に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 55~80%、Al 12~30%、B 0~3%、LiO+NaO+KO 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 5~35%を含有し、且つ30~380℃の温度範囲における熱膨張係数が40×10-7/℃未満であることを特徴とする。ここで、「LiO+NaO+KO」は、LiO、NaO及びKOの合量を指す。「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量を指す。「30~380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、ディラトメーターで測定した平均値を指す。
【0011】
本発明のガラスは、ガラス組成中にAlを12モル%以上、ガラス組成中のBの含有量を3モル%以下、且つLiO+NaO+KOの含有量を1モル%以下に規制している。このようにすれば、歪点が顕著に上昇して、ガラス基板の耐熱性を大幅に高めることができる。更に熱膨張係数を低下させ易くなる。
【0012】
また本発明のガラスは、ガラス組成中にMgO+CaO+SrO+BaOを5~25モル%含む。このようにすれば、耐失透性を高めることができる。
【0013】
第二に、本発明のガラスは、Bの含有量が1モル%未満であることが好ましい。
【0014】
第三に、本発明のガラスは、LiO+NaO+KOの含有量が0.5モル%以下であることが好ましい。
【0015】
第四に、本発明のガラスは、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Alが0.3~3であることが好ましい。ここで、「(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量をAlの含有量で割った値である。
【0016】
第五に、本発明のガラスは、モル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.5以上であることが好ましい。ここで、「MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)」は、MgOの含有量をMgO、CaO、SrO及びBaOの合量で割った値である。
【0017】
第六に、本発明のガラスは、歪点が750℃以上であることが好ましい。ここで、「歪点」は、ASTMC336の方法に基づいて測定した値を指す。
【0018】
第七に、本発明のガラスは、歪点が800℃以上であることが好ましい。
【0019】
第八に、本発明のガラスは、(102.5dPa・sにおける温度-歪点)が1000℃以下であることが好ましい。ここで、「高温粘度102.5dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0020】
第九に、本発明のガラスは、102.5dPa・sの粘度における温度が1800℃以下であることが好ましい。
【0021】
第十に、本発明のガラスは、平板形状であることが好ましい。
【0022】
第十一に、本発明のガラスは、有機ELディスプレイの基板に用いることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 55~80%、Al 12~30%、B 0~3%、LiO+NaO+KO 0~3%、MgO+CaO+SrO+BaO 5~35%を含有する。上記のように、各成分の含有量を規制した理由を以下に説明する。なお、各成分の説明において、下記の%表示は、モル%を指す。
【0024】
SiOの好適な下限範囲は55%以上、58%以上、60%以上、65%以上、特に68%以上であり、好適な上限範囲は好ましくは80%以下、75%以下、73%以下、72%以下、71%以下、特に70%以下である。SiOの含有量が少な過ぎると、Alを含む失透結晶による欠陥が生じ易くなると共に、歪点が低下し易くなる。また高温粘度が低下して、液相粘度が低下し易くなる。一方、SiOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が不当に低下することに加えて、高温粘度が高くなって、溶融性の低下、更にはSiOを含む失透結晶等が生じ易くなる。
【0025】
Alの好適な下限範囲は11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、特に15%以上であり、好適な上限範囲は30%以下、25%以下、20%以下、17%以下、特に16%以下である。Alの含有量が少な過ぎると、ヤング率が低下したり、歪点が低下し易くなったり、高温粘性が高くなり溶融性が低下し易くなる。一方、Alの含有量が多過ぎると、Alを含む失透結晶が生じ易くなる。
【0026】
モル比SiO/Alは、高歪点と高耐失透性を両立する観点から、好ましくは、2~6、3~5.5、3.5~5.5、4~5.5、4.5~5.5、特に4.5~5である。なお、「SiO/Al」は、SiOの含有量をAlの含有量で割った値である。
【0027】
の好適な上限範囲は3%以下、1%以下、1%未満、特に0.1%以下である。Bの含有量が多過ぎると、歪点が大幅に低下したり、ヤング率が大幅に低下する虞がある。
【0028】
LiO+NaO+KOの好適な上限範囲は1%以下、1%未満、0.5%以下、特に0.2%以下である。LiO+NaO+KOの含有量が多過ぎると、高温p-Si工程等でアルカリイオンが半導体物質に拡散して、半導体特性が低下し易くなる。なお、LiO、NaO及びKOの好適な上限範囲は、それぞれ1%以下、1%未満、0.5%以下、0.3%以下、特に0.2%以下である。
【0029】
MgO+CaO+SrO+BaOの好適な下限範囲は5%以上、7%以上、9%以上、11%以上、13%以上、特に14%以上であり、好適な上限範囲は35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、18%以下、17%以下、特に16%以下である。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が少な過ぎると、液相温度が大幅に上昇して、ガラス中に失透結晶が生じ易くなったり、高温粘性が高くなって溶融性が低下し易くなる。一方、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなり、またアルカリ土類元素を含む失透結晶が生じ易くなる。
【0030】
MgOの好適な下限範囲は0%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、特に6%以上であり、好適な上限範囲は15%以下、10%以下、8%以下、特に7%以下である。MgOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下し易くなったり、アルカリ土類元素を含む結晶の失透性が高くなり易い。一方、MgOの含有量が多過ぎると、Alを含む失透結晶の析出を助長して、液相粘度を低下させてしまったり、歪点が大幅に低下してしまう。なお、MgOは、ヤング率を高める効果を有するが、アルカリ土類酸化物の中で、その効果が最も顕著である。
【0031】
CaOの好適な下限範囲は2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、特に7%以上であり、好適な上限範囲は20%以下、15%以下、12%以下、11%以下、10%以下、特に9%以下である。CaOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下し易くなる。一方、CaOの含有量が多過ぎると、液相温度が上昇して、ガラス中に失透結晶が生じ易くなる。なお、CaOは、他のアルカリ土類酸化物と比較して、歪点を低下させずに液相粘度を改善する効果や溶融性を高める効果が大きい。またCaOは、MgOに少し劣るものの、高ヤング率化に有効な成分である。
【0032】
SrOの好適な下限範囲は0%以上、1%以上、特に2%以上であり、好適な上限範囲は10%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、特に4%以下である。SrOの含有量が少な過ぎると、歪点が低下し易くなる。一方、SrOの含有量が多過ぎると、液相温度が上昇して、ガラス中に失透結晶が生じ易くなる。また溶融性が低下し易くなる。更にCaOとの共存下でSrOの含有量が多くなると、耐失透性が低下する傾向がある。
【0033】
BaOの好適な下限範囲は0%以上、1%以上、2%以上、3%以上、特に4%以上、であり、好適な上限範囲は15%以下、12%以下、11%以下、特に10%以下である。BaOの含有量が少な過ぎると、歪点や熱膨張係数が低下し易くなる。一方、BaOの含有量が多過ぎると、液相温度が上昇して、ガラス中に失透結晶が生じ易くなる。また溶融性が低下し易くなる。なお、BaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では最もヤング率を下げる効果の高い元素なため、高ヤング率化の観点からはなるべく含有量を抑えるか、含有量が多い場合はMgOと共存する設計にする必要がある。
【0034】
耐失透性を高める観点から、モル比MgO/CaOの下限範囲は、好ましくは0.1以上、0.2以上、0.3以上、特に0.4以上であり、上限範囲は、好ましくは2以下、1以下、0.8以下、0.7以下、特に0.6以下である。なお、「MgO/CaO」は、MgOの含有量をCaOの含有量で割った値を指す。
【0035】
耐失透性を高める観点から、モル比BaO/CaOの下限範囲は、好ましくは0.2以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、特に0.8以上であり、上限範囲は、好ましくは5以下、4.5以下、3以下、2.5以下、特に2以下である。なお、「BaO/CaO」は、BaOの含有量をCaOの含有量で割った値を指す。
【0036】
歪点と溶融性のバランスを鑑みると、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Alの下限範囲は、好ましくは0.3以上、0.5以上、0.7以上、特に0.8以上であり、上限範囲は、好ましくは3.0以下、2.5以下、2.0以下、1.5以下、1.2以下、特に1.1以下である。
【0037】
モル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)は、好ましくは0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、特に0.6以上である。このようにすれば、溶融性が向上し易くなる。一方、MgOは、歪点を大幅に低下させる成分であり、MgOの含有量が少ない領域では、歪点を低下させる効果が顕著である。よって、アルカリ土類金属酸化物の中でMgOの含有割合は少ない方が好ましく、モル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)は、好ましくは0.8以下、特に0.7以下である。
【0038】
7×[MgO]+5×[CaO]+4×[SrO]+4×[BaO]は、好ましくは100%以下、90%以下、80%以下、70%以下、65%以下、特に60%以下である。アルカリ土類金属元素は、何れも歪点を低下させる効果を有するが、その影響はイオン半径が小さい元素ほど大きくなる。よって、イオン半径が大きなアルカリ土類元素の割合が大きくなるように、7×[MgO]+5×[CaO]+4×[SrO]+4×[BaO]の上限範囲を規制すると、歪点を優先的に高めることができる。なお、[MgO]はMgOの含有量、[CaO]はCaOの含有量、[SrO]はSrOの含有量、[BaO]はBaOの含有量をそれぞれ指す。そして、「7×[MgO]+5×[CaO]+4×[SrO]+4×[BaO]」は、7倍の[MgO]、5倍の[CaO]、4倍の[SrO]及び4倍の[BaO]の合量を指す。
【0039】
21×[MgO]+20×[CaO]+15×[SrO]+12×[BaO]は、好ましくは200%以上、210%以上、220%以上、230%以上、240%以上、250%以上、特に300~1000%である。アルカリ土類金属元素は、何れも溶融性を高める効果があるが、その影響はイオン半径が小さい元素ほど大きくなる。よって、イオン半径が小さなアルカリ土類元素の割合が小さくなるように、21×[MgO]+20×[CaO]+15×[SrO]+12×[BaO]の下限範囲を規制すると、溶融性を優先的に高めることができる。但し、21×[MgO]+20×[CaO]+15×[SrO]+12×[BaO]が大き過ぎると、歪点が低下する虞がある。なお、「21×[MgO]+20×[CaO]+15×[SrO]+12×[BaO]」は、21倍の[MgO]、20倍の[CaO]、15倍の[SrO]及び12倍の[BaO]の合量を指す。
【0040】
本発明者の調査によると、Alの含有量が多く、イオン半径が小さなアルカリ土類元素の割合を大きくする(特にMgOの含有量を多く、BaOの含有量を少なくする)と、ヤング率を効果的に高めることができる。よって、9×[Al]+7×[MgO]-4×[BaO]は、好ましくは95%以上、105%以上、115%以上、125%以上、特に135%以上である。なお、「9×[Al]+7×[MgO]-4×[BaO]」は、9倍の[Al]と7倍の[MgO]の合量から4倍の[BaO]を減じた量を指す。
【0041】
[MgO]+[CaO]+3×[SrO]+4×[BaO]は、好ましくは27%以下、26%以下、25%以下、24%以下、特に23%以下である。[MgO]+[CaO]+3×[SrO]+4×[BaO]が大き過ぎると、密度が上昇し易くなるため、比ヤング率が低下して、自重による撓み量が大きくなり易い。なお、「[MgO]+[CaO]+3×[SrO]+4×[BaO]」は、[MgO]、[CaO]、3倍の[SrO]及び4倍の[BaO]の合量を指す。
【0042】
上記成分以外にも、以下の成分をガラス組成中に導入してもよい。
【0043】
ZnOは、溶融性を高める成分であるが、ガラス組成中に多量に含有させると、ガラスが失透し易くなり、また歪点が低下し易くなる。よって、ZnOの含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~0.5%、0~0.3%、特に0~0.1%である。
【0044】
ZrOは、ヤング率を高める成分である。ZrOの含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~0.5%、0~0.2%、特に0~0.02%である。ZrOの含有量が多過ぎると、液相温度が上昇して、ジルコンの失透結晶が析出し易くなる。
【0045】
TiOは、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であると共に、ソラリゼーションを抑制する成分であるが、ガラス組成中に多く含有させると、ガラスが着色し易くなる。よって、TiOの含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~1%、0~0.1%、特に0~0.02%である。
【0046】
は、耐失透性を高める成分であるが、ガラス組成中に多量に含有させると、ガラスが分相、乳白し易くなり、また耐水性が大幅に低下する虞がある。よって、Pの含有量は、好ましくは0~5%、0~4%、0~3%、0~2%未満、0~1%、0~0.5%、特に0~0.1%である。
【0047】
SnOは、高温域で良好な清澄作用を有する成分であると共に、高温粘性を低下させる成分である。SnOの含有量は、好ましくは0~1%、0.01~0.5%、0.01~0.3%、特に0.04~0.1%である。SnOの含有量が多過ぎると、SnOの失透結晶が析出し易くなる。
【0048】
上記の通り、本発明のガラスは、清澄剤として、SnOの添加が好適であるが、ガラス特性を損なわない限り、清澄剤として、CeO、SO、C、金属粉末(例えばAl、Si等)を1%まで添加してもよい。
【0049】
As、Sb、F、Clも清澄剤として有効に作用し、本発明のガラスは、これらの成分の含有を排除するものではないが、環境的観点から、これらの成分の含有量はそれぞれ0.1%未満、特に0.05%未満が好ましい。
【0050】
SnOを0.01~0.5%含む場合、Rhの含有量が多過ぎると、ガラスが着色し易くなる。なお、Rhは、白金の製造容器から混入する可能性がある。Rhの含有量は、好ましくは0~0.0005%、より好ましくは0.00001~0.0001%である。
【0051】
SOは、不純物として、原料から混入する成分であるが、SOの含有量が多過ぎると、溶融や成形中に、リボイルと呼ばれる泡を発生させて、ガラス中に欠陥を生じさせる虞がある。SOの好適な下限範囲は0.0001%以上であり、好適な上限範囲は0.005%以下、0.003%以下、0.002%以下、特に0.001%以下である。
【0052】
希土類酸化物(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu等の酸化物)の含有量は、好ましくは2%未満、1%以下、特に1%未満である。特に、La+Yの含有量は、好ましくは2%未満、1%未満、0.5%未満、特に0.1%未満である。Laの含有量は、好ましくは2%未満、1%未満、0.5%未満、特に0.1%未満である。希土類酸化物の含有量が多過ぎると、バッチコストが増加し易くなる。なお、「Y+La」は、YとLaの合量である。
【0053】
本発明のガラスは、以下の特性を有することが好ましい。
【0054】
密度は、好ましくは2.80g/cm以下、2.70g/cm以下、2.60g/cm以下、特に2.50g/cm以下である。密度が高過ぎると、ディスプレイの軽量化を達成し難くなる。
【0055】
30~380℃の温度範囲における熱膨張係数は、好ましくは40×10-7/℃未満、38×10-7/℃以下、36×10-7/℃以下、34×10-7/℃以下、特に28×10-7~33×10-7/℃が好ましい。30~380℃の温度範囲における熱膨張係数が高過ぎると、ガラス基板上に成膜される部材(例えば、p-Si)の熱膨張係数に整合し難くなり、ガラス基板に反りが発生し易くなる。
【0056】
歪点は、好ましくは750℃以上、780℃以上、800℃以上、810℃以上、820℃以上、特に830~1000℃が好ましい。歪点が低過ぎると、熱処理工程でガラス基板が熱収縮し易くなる。
【0057】
ヤング率は、好ましくは75GPa超、77GPa以上、78GPa以上、79GPa以上、特に80GPa以上である。ヤング率が低過ぎると、ガラス基板の撓みに起因する不具合、例えば電子デバイスの画像面が歪んで見える等の不具合が発生し易くなる。
【0058】
比ヤング率は、好ましくは30GPa/(g/cm)超、30.2GPa/(g/cm)以上、30.4GPa/(g/cm)以上、30.6GPa/(g/cm)以上、特に30.8GPa/(g/cm)以上である。比ヤング率が低過ぎると、ガラス基板の撓みに起因して、ガラス基板の搬送時に割れる等の不具合が発生し易くなる。
【0059】
10質量%HF水溶液に室温で30分間浸漬した時のエッチング深さは、好ましくは25μm以上、27μm以上、28μm以上、29~50μm、特に30~45μmになることが好ましい。このエッチング深さは、エッチングレートの指標になる。すなわち、エッチング深さが大きいと、エッチングレートが速くなり、エッチング深さが小さいと、エッチングレートが遅くなる。なお、SiOの含有量を少なくすると、エッチングレートを高速化し易くなるが、アルカリ土類金属の内、イオン半径の大きな元素を優先的に導入することでもエッチングレートを高速化し易くなる。
【0060】
本発明に係るSiO-Al-RO(ROはアルカリ土類金属酸化物を指す)系ガラスは、一般的に、溶融し難い。このため、溶融性の向上が課題になる。溶融性を高めると、泡、異物等による不良率が軽減されるため、高品質のガラス基板を大量、且つ安価に供給することができる。一方、高温粘度が高過ぎると、溶融工程で脱泡が促進され難くなる。よって、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、好ましくは1800℃以下、1750℃以下、1700℃以下、1680℃以下、1670℃以下、1650℃以下、特に1630℃以下である。なお、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、溶融温度に相当し、この温度が低い程、溶融性に優れている。
【0061】
(102.5dPa・sにおける温度-歪点)は、高歪点と低溶融温度を両立させる観点から、好ましくは1000℃以下、900℃以下、850℃以下、特に800℃以下である。
【0062】
平板形状に成形する場合、耐失透性が重要になる。本発明に係るSiO-Al-RO系ガラスの成形温度を考慮すると、液相温度は、好ましくは1450℃以下、1400℃以下、特に1300℃以下である。また、液相粘度は、好ましくは103.0dPa・s以上、103.5dPa・s以上、特に104.0dPa・s以上である。なお、「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値を指す。「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0063】
本発明のガラスは、種々の成形方法で成形可能である。例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法、リドロー法、フロート法、ロールアウト法等でガラス基板を成形することが可能である。なお、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形すれば、表面平滑性が高いガラス基板を作製し易くなる。
【0064】
本発明のガラスは、平板形状である場合、その板厚は、好ましくは1.0mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、特に0.4mm以下である。板厚が小さい程、電子デバイスを軽量化し易くなる。一方、板厚が小さい程、ガラス基板が撓み易くなるが、本発明のガラスは、ヤング率や比ヤング率が高いため、撓みに起因する不具合が生じ難い。なお、板厚は、成形時の流量や板引き速度等で調整可能である。
【0065】
本発明のガラスにおいて、β-OH値を低下させると、歪点を高めることができる。β-OH値は、好ましくは0.45/mm以下、0.40/mm以下、0.35/mm以下、0.30/mm以下、0.25/mm以下、0.20/mm以下、特に0.15/mm以下である。β-OH値が大き過ぎると、歪点が低下し易くなる。なお、β-OH値が小さ過ぎると、溶融性が低下し易くなる。よって、β-OH値は、好ましくは0.01/mm以上、特に0.05/mm以上である。
【0066】
β-OH値を低下させる方法として、以下の方法が挙げられる。(1)含水量の低い原料を選択する。(2)ガラス中の水分量を減少させる成分(Cl、SO等)を添加する。(3)炉内雰囲気中の水分量を低下させる。(4)溶融ガラス中でNバブリングを行う。(5)小型溶融炉を採用する。(6)溶融ガラスの流量を速くする。(7)電気溶融法を採用する。
【0067】
ここで、「β-OH値」は、FT-IRを用いてガラスの透過率を測定し、下記の式を用いて求めた値を指す。
β-OH値 = (1/X)log(T/T
X:ガラス肉厚(mm)
:参照波長3846cm-1における透過率(%)
:水酸基吸収波長3600cm-1付近における最小透過率(%)
【実施例
【0068】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示
である。本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0069】
表1~4は、本発明の実施例(試料No.1~58)を示している。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
次のように、各試料を作製した。まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合したガラスバッチを白金坩堝に入れ、1600~1750℃で24時間溶融した。ガラスバッチの溶解に際しては、白金スターラーを用いて攪拌し、均質化を行った。次いで、溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、平板形状に成形した。得られた各試料について、密度ρ、熱膨張係数α、歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Ts、高温粘度104.0dPa・sにおける温度、高温粘度103.0dPa・sにおける温度、高温粘度102.5dPa・sにおける温度、液相温度TL、液相粘度logηTLを評価した。
【0075】
密度ρは、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0076】
熱膨張係数αは、30~380℃の温度範囲において、ディラトメーターで測定した平均値である。
【0077】
歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Tsは、ASTM C336又はASTM C338に準拠して測定した値である。
【0078】
高温粘度104.0dPa・sにおける温度、高温粘度103.0dPa・sにおける温度、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0079】
液相温度TLは、各試料を粉砕し、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、白金ボートを取り出し、ガラス中に失透(失透結晶)が認められた温度である。液相粘度logηTLは、液相温度TLにおけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0080】
β-OH値は、上記式により算出した値である。
【0081】
表1~4から明らかなように、試料No.1~58は、歪点が高く、熱膨張係数が低く、量産可能な溶融性と耐失透性を備えている。よって、試料No.1~58は、有機ELディスプレイの基板として好適であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のガラスは、歪点が高く、熱膨張係数が低く、量産可能な溶融性と耐失透性を備えている。よって、本発明のガラスは、有機ELディスプレイの基板以外にも、液晶ディスプレイ等のディスプレイ用基板にも好適であり、特にLTPS、酸化物TFTで駆動するディスプレイ用基板として好適である。更に、本発明のガラスは、半導体物質を高温で作製するためのLED用基板としても好適である。