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特許7182885運転開始条件変換装置および運転開始条件変換方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】運転開始条件変換装置および運転開始条件変換方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20221128BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018054105
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019168763
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2019-11-01
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、内閣府「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)/社会リスクを低減する超ビッグデータプラットフォーム/ファクトリセキュリティ/つながる工場シミュレーターおよび故障・攻撃検知アルゴリズムに関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】永谷 達也
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】中里 翔平
【審判官】田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-28363(JP,A)
【文献】特開平10-192918(JP,A)
【文献】特開2005-190062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品を生産する生産システムの各設備が実施する複数の作業のタイミングが時間で指定された運転スケジュールに含まれる前記複数の作業を、優先度の異なる作業リソースに分類する作業リソース分類部と、
前記複数の作業を、製品への直接作業および供給部品の変更または工具の交換を含む段取り替えを含む製品への間接作業に分類する作業種別分類部と、
前記製品への直接作業のうち、優先度の低い作業の作業完了を第1の運転開始条件として設定する製品組立順序条件設定部と、
前記製品への間接作業のうち、前記段取り替えで影響を受ける作業の作業完了を第2の運転開始条件として設定する部品供給条件設定部と、を備え、
前記運転スケジュールを前記第1および第2の運転開始条件によって作業の完了を含むイベントで指定された運転計画に変換し、運転開始条件が成立済みの作業のうち優先度の高い作業から実行するように前記生産システムを運転する制御システムに入力する、運転開始条件変換装置。
【請求項2】
前記運転スケジュールは、特定の単位に分割して入力され、
前記運転開始条件変換装置は、先に分割入力された運転スケジュールに基づいて作成した出力済み運転計画による前記生産システムの運転状態を外部から受付ける運転状態入力部をさらに備え、
前記製品組立順序条件設定部は、
前記運転状態と前記出力済み運転計画とに基づいて、新たに分割入力された運転スケジュールに前記第1の運転開始条件を設定し、
前記部品供給条件設定部は、
前記運転状態と前記出力済み運転計画とに基づいて、前記新たに分割入力された運転スケジュールに前記第2の運転開始条件を設定する、請求項1記載の運転開始条件変換装置。
【請求項3】
前記新たに分割入力された運転スケジュールは、
前記先に分割入力された運転スケジュールと、該運転スケジュールに基づく前記生産システムの前記運転状態との乖離を低減するように修正された運転スケジュールである、請求項2記載の運転開始条件変換装置。
【請求項4】
前記第1および第2の運転開始条件を含む前記運転計画は、
前記生産システムを構成する設備間での干渉を避けるための前記設備間での制約と共に前記制御システムに入力される、請求項1記載の運転開始条件変換装置。
【請求項5】
前記設備間での制約は、
前記段取り替えを含む前記製品への間接作業の実行中には前記製品への前記間接作業が開始できないとの条件を少なくとも含むインターロックである、請求項4記載の運転開始条件変換装置。
【請求項6】
作業リソース分類部が、製品を生産する生産システムの各設備が実施する複数の作業のタイミングが時間で指定された運転スケジュールに含まれる前記複数の作業を、優先度の異なる作業リソースに分類するステップと、
作業種別分類部が、前記複数の作業を、製品への直接作業および供給部品の変更または工具の交換を含む段取り替えを含む製品への間接作業に分類するステップと、
製品組立順序条件設定部が、前記製品への直接作業のうち、優先度の低い作業の作業完了を第1の運転開始条件として設定するステップと、
部品供給条件設定部が、前記製品への間接作業のうち、段取り替えで影響を受ける作業の作業完了を第2の運転開始条件として設定するステップと、を備え、
運転開始条件変換装置が、前記運転スケジュールを前記第1および第2の運転開始条件によって作業の完了を含むイベントで指定された運転計画に変換し、前記生産システムを運転する制御システムに対して、運転開始条件が成立済みの作業のうち優先度の高い作業から実行させる運転開始条件変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産システムにおける運転計画を作成する運転開始条件変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の製造装置と、各製造装置で生産されたワーク(製品)を自動搬送車(AGV:Automatic Guided Vehicle)で搬送する生産システムにおいては、例えば特許文献1に開示されるように、製造装置で生産するワークの生産順序を予め計画しておき、ワークを必要とするAGVの到着順序を、製造装置でのワークの生産順序と同じになるようにAGVの運行を制御する方法が知られている。ここで、AGVが搬送する製品には製品番号が振られており、その製品番号に必要なワークの情報は事前に決められている。
【0003】
また、特許文献2には、製造している製品の完成納期までの余裕度を算出し、余裕度に基づいて製造の優先度を決定し、その優先度に基づいて製造装置とAGVへの運転指示を決定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-143716号公報
【文献】特開2008-250826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示される運転管理方法では、製品の生産順序とAGVが巡回する製造装置の順番が固定であることが前提となっている。そのため、製品の生産順序が固定でない場合には、AGVの巡回順序が不明となるという課題があった。別の言葉で説明すると、各製造装置へ到着するAGVの順番が固定であっても、各AGVの製造装置への巡回順序が固定されない場合は、各AGVの巡回順序によっては製造装置の待ち時間が増加する等、運転計画が破綻する可能性がある。
【0006】
特許文献2で開示される運転管理方法では、優先度を算出して次の作業をオンラインで判断するため、製造数、製造装置数およびAGV数が増えると、作業の実行開始の判断に必要な計算リソースが増えるという課題がある。また、現時点での優先度だけで判断するため、大域的な判断ができず、全体としては無駄が多い運転計画に陥るという可能性がある。
【0007】
本発明は上記のような問題を解決するためになされたものであり、生産システムにおける各設備の運転開始の判定にかかる計算負荷を抑制した運転計画を作成する運転開始条件変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る運転開始条件変換装置は、製品を生産する生産システムの各設備が実施する複数の作業のタイミングが時間で指定された運転スケジュールに含まれる前記複数の作業を、優先度の異なる作業リソースに分類する作業リソース分類部と、前記複数の作業を、製品への直接作業および供給部品の変更または工具の交換を含む段取り替えを含む製品への間接作業に分類する作業種別分類部と、前記製品への直接作業のうち、優先度の低い作業の作業完了を第1の運転開始条件として設定する製品組立順序条件設定部と、前記製品への間接作業のうち、前記段取り替えで影響を受ける作業の作業完了を第2の運転開始条件として設定する部品供給条件設定部と、を備え、前記運転スケジュールを前記第1および第2の運転開始条件によって作業の完了を含むイベントで指定された運転計画に変換し、運転開始条件が成立済みの作業のうち優先度の高い作業から実行するように前記生産システムを運転する制御システムに入力する。

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、時間で指定された運転スケジュールを、第1および第2の運転開始条件によってイベントで指定された運転計画に変換するので、運転開始条件の判定に必要な計算負荷を抑えながら、運転スケジュールに則った生産システムの運用を行うことが可能な運転計画を生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】運転スケジュールの一例を模式的に示す図である。
図2】本発明に係る実施の形態1の運転開始条件変換装置を備えた生産システムの構成を示すブロック図である。
図3】ジョブショップの一例を表す模式図である。
図4】運転スケジュールの一例を模式的に示す図である。
図5】本発明に係る実施の形態1の運転開始条件変換装置から出力される運転計画に基づいて、各設備に運転指示する場合のソフトウェアアーキテクチャを模式的に示す図である。
図6】本発明に係る実施の形態1の運転開始条件変換装置の構成を示す機能ブロック図である。
図7】運転スケジュールにおける各設備の作業を作業リソースに分類した結果を示す図である。
図8】製品組立順序条件設定部で追加された制約の一例を示す図である。
図9】部品供給条件設定部で追加された制約の一例を示す図である。
図10】本発明に係る実施の形態1の運転開始条件変換方法を示すフローチャートである。
図11】設備の制御プログラムに含まれるインターロックの一例を示す図である。
図12】本発明に係る実施の形態2の運転開始条件変換装置を備えた生産システムの構成を示すブロック図である。
図13】本発明に係る実施の形態2の運転開始条件変換装置の構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態1>
本発明の適用対象は、AGV(Automatic Guided Vehicle)を利用したジョブショップ生産システムである。AGVは工場内で製品および部品を自動で搬送する車両であり、最近では、Slam(Simultaneous Localization and Mapping)といった自己位置推定と地図作成の技術によって、工場内の任意の位置に移動可能なAGVが開発されている。
【0012】
ジョブショップとは、製品または部品の投入機能、加工または組立といった作業、製品の払い出しといった、一定の機能を複数備えた、何らかの作業を独立して実施する生産設備である。AGVを利用したジョブショップ生産システムとは、ジョブショップ間の製品の運搬をAGVが行い、製品が複数のジョブショップを経由して完成される生産システムである。以降、生産設備とAGVを纏めて、設備と記載する。同等の機能を有するジョブショップは複数あり、どのジョブショップで製品に対する作業を実施するかを選択する自由度がある。
【0013】
ジョブショップ生産システムを効率的に運用するためには、AGVと生産設備の運転スケジュールが重要である。生産システムのスケジュール作成は、一般的に、製造装置の生産能力と、各運転指示における生産設備の作業時間と、AGVの移動時間などの運転能力情報に基づいて実施される。製造する製品の種類と数が含まれる注文データに対して、運転能力情報に基づいて、最適と考えられる運転スケジュールを作成する。
【0014】
ここで、最適と判断する目的関数は、生産システム全体における生産時間が短いこと、各生産設備の稼働時間の合計が短いこと、仕掛品の仕掛中の時間が短いことなどが挙げられる。また、注文上に納期情報または優先度情報、またはその両方が含まれる場合には、納期を守る制約および優先度を守るといった制約が含まれることもある。
【0015】
納期情報は、顧客への納期ではなく、工場内の生産完了時刻で表現されることもある。運転スケジュールを適切に設定することによって、設備の稼働率を高めて運転時間を短くすることができ、生産コストを下げることができる。
【0016】
ジョブショップ生産システムにおける運転スケジュールの作成は、大規模な最適化問題となるため、生産設備の作業時間、AGVの移動時間等の運転能力情報は固定値として扱うことが主流である。そのため、運転スケジュールは生産設備とAGVが何時にどういった作業を実施するかで一意に記述できる。また、仕掛品の仕掛中時間が目的関数に含まれない場合には、運転指示の順番だけで記述することもできる。図1には運転スケジュールの一例を模式的に示している。
【0017】
図1においては、製造装置1~3における作業と、AGV1~3における移動のスケジュールを示しており、例えば、AGV1が、移動1-1で運んだワークに対して作業2-2を実施し、その後、AGV1が移動1-2で移動させる。また、AGV2が、移動2-1で運んだワークに対して、作業3-2を実施する。また、作業1-1の実施を完了したワークに対して、AGV3が移動3-2で移動させる。
【0018】
このような運転スケジュールは、生産設備の作業時間と、AGVの移動時間等の運転能力情報に基づいて作成されているが、このような運転スケジュールでは、実際に生産システムを運用することはできない。それは、実際の生産設備の作業時間およびAGVの移動時間には運能力情報からの誤差が発生するからである。また、投入部品の誤差に起因する生産設備での作業ミス、AGVの移動における他車両等の回避および渋滞等といった、スケジュールを作成した時点では予測できない事象も発生する。これらの理由から、時間で指定された運転スケジュールを厳密に運用することはできない。そのため、時間で指定された運転スケジュールを、作業完了に基づいて運転指示を実行する等、作業の完了を条件にした運転計画に変換して運用する必要がある。
【0019】
また、実際の運用に当たっては、局所的な最適化と大域的な最適化を組み合わせて運用することが望まれる。局所的な最適化の例として、AGVとジョブショップ間の移載作業、ジョブショップ内での部品の加工または組立作業の両方が実行可能な状況を想定する。
【0020】
例えば、他の設備の運転効率を上げることを考えれば、ジョブショップ内での作業より、AGVとの移載作業を優先して実行した方が良い場合もある。具体的には、あるジョブショップにおいて、AGVの次の行先とは異なるジョブショップに渡す製品への作業を優先すると、AGVへの移載作業が完了せず、AGVの移動開始が保留され、結果としてAGVの次の行先であるジョブショップでの運転効率が低下する状況となる。このように、ジョブショップ内の今の状態という局所的な状況の情報だけでも簡単な最適化が実現可能である。このような、ジョブショップ内の情報またはジョブショップ内の今の状態などの、空間的または時間的に局所的な情報のみで行う最適化を局所的な最適化という。
【0021】
局所的な最適化は、判断に必要な計算リソースが少なく、製造装置の制御装置で実現できるという利点がある。作業の優先度を予め設定しておき、運転開始条件が成立している作業のうち、優先度の高い作業から実行する等の方法で実現されることが多い。
【0022】
大域的な最適化は、工場全体または運転スケジュール全体、またはその両方に基づいて実施する最適化である。例えば、納期が近い製品の製造を優先するために、他製品の製造を保留して生産設備を空けて待つという方法が挙げられる。他には、製造装置の段取り替えが減るように、同じ作業が連続して実施可能なように運転スケジュールを組むという方法が挙げられる。
【0023】
大域的な最適化は、最適化するための情報と判断基準が多岐に渡るため、スケジューラ等の専用の機能を有した、生産システムの運用とは別の機器で処理される場合が多く、その処理においては、時間で規定された運転スケジュールについて、従来から広く研究されているスケジューリング問題の解決策を適用することができる。
【0024】
実際の運用においては運転スケジュールから作業の遅れが発生するため、大域的な最適化に影響しない範囲、例えば、開始時間が前後しても条件が揃えば作業を開始する、また、作業順序を問わない作業の完了を待たないなどにより、局所的な最適化を適用することが好適である。
【0025】
<生産システムの構成>
図2は本発明に係る実施の形態1の運転開始条件変換装置20を備えた生産システム100の構成を示すブロック図である。図2に示すように、生産システム100は、スケジューラ10、運転開始条件変換装置20、MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)30、複数の製造装置41,42~4nおよび複数のAGV51~5mを備えている。
【0026】
スケジューラ10は、図示しないデータ入力装置から入力される、注文データおよび生産システムの運転能力情報に基づいて、生産設備とAGVの運転スケジュールを作成して出力する。この運転スケジュールは、例えば図1に示したように、どの時刻で各設備がどのような作業をするかといった形式で表現される。
【0027】
運転開始条件変換装置20は、スケジューラ10から入力された運転スケジュールに対して運転開始条件を時間による指定から、作業の完了などのイベントによる指定に変換し、実際のシステムで運用できる運転計画として出力する。運転開始条件変換装置20は、例えば、記憶部21および処理部22等を備えた演算処理装置で構成される。
【0028】
MES30は、運転開始条件変換装置20から入力された運転計画に基づいて、製造装置41~4nおよびAGV51~5m等の各設備に運転指示を送信する制御システムである。
【0029】
MESからの運転指示を受けた製造装置41~4nおよびAGV51~5mは、予め設定された運転プログラムに基づいて作業を実施する。なお、図2ではMES30と各設備とが直接接続されているが、MES30と各設備との間に中継用または統合管理用の計算装置および専用のコントローラを配置しても良い。
【0030】
<ジョブショップの構成>
図3はジョブショップの一例を表す模式図である。図3に示すジョブショップは、ロボット、作業台、部品供給機、がそれぞれ2セット、加工機が1台が備わっている。ロボットRB1およびRB2は、それぞれAGV1および2と、作業台WS1およびWS2との間での製品の移載作業と、それぞれ部品供給機PS1およびPS2から供給された部品を製品に組立てる作業と、加工機MCへの製品の投入作業を行う。
【0031】
作業台と部品供給機を2セット備えており、AGVの待機場所もロボットによって異なるため、作業台での作業とAGVへの移載作業は各ロボットが独立して実行可能である。一方で加工機はジョブショップで1台のため、2台のロボットで共用する。
【0032】
ロボットRB1およびRB2は広く知られている垂直多関節型の産業用ロボットである。作業台WS1およびWS2は、それぞれロボットRB1およびRB2が作業を行う場所であり、製品を固定する治具等が設置されているが図示は省略している。
【0033】
部品供給機PS1およびはPS2は、それぞれロボットRB1およびRB2に部品を供給し、パレットチェンジャのような供給する部品の種別を変更できる機能を有している。また、加工機MCは、工具を自動で変更可能な機能を有している。
【0034】
AGV1は、製品PD1およびPD2を搭載し、AGV2は、製品PD3およびPD4を搭載している。なお、図3は、ジョブショップの一例であり、この形態に限定されるものではない。
【0035】
<運転スケジュールおよび運転計画>
図4はスケジューラ10(図2)が出力する運転スケジュールの一例を模式的に示す図である。横軸は時間を表し、各作業リソースにおけるブロックは、その長さに対応する期間に作業をしていることを表し、また、各製造装置に対して、どの時刻でどのような作業を実施するかをブロックの種類で表現している。データとしては各作業の作業種別と作業開始時間を含んでいる。また、作業のパラメータ等を指定する付加情報、作業時間等を含んでいても良い。
【0036】
図4に示す運転スケジュールは、図3に示したジョブショップに対応する運転スケジュールであり、加工機MC、部品供給機PS1およびPS2、ロボットRB1およびRB2のそれぞれについて、作業種別、作業開始時間、作業時間を表している。
【0037】
なお、各製造装置での作業には、作業順にブロックに連番を付しており、例えば、加工機MCについては1から6を付している。また、各ブロックには、作業種別が異なることをハッチングの違いで表しており、加工機MCにおいて、1番、4番および6番の作業と、2番、3番および5番の作業とでは、ハッチングが異なっている。なお、この連番は、各製造装置での一連の作業であることを表すために、図7、8~10においても同様に付している。
【0038】
加工機MCについては、工具交換作業と加工作業を含んでおり、部品供給機PS1およびPS2については、供給部品変更作業だけであり、ロボットRB1およびRB2については、それぞれ、AGVへの移載作業、加工機への投入作業および作業台での組立作業を含んでいる。
【0039】
何れの製造装置においても、作業は時系列に並べられており、各作業の運転開始が時間で指定された運転スケジュールとなっている。このような、時間で指定された運転スケジュールを運転開始条件変換装置20に入力し、時間で指定された運転開始条件を、作業の完了などのイベントで指定された運転開始条件に変換することで、実際のシステムで運用できる運転計画に変換する。
【0040】
図5は、図4に示した運転スケジュールを運転開始条件変換装置20に入力し、運転開始条件変換装置20から出力される運転計画に基づいて、各設備に運転指示する、MES30のソフトウェアアーキテクチャを模式的に表す図である。
【0041】
運転開始条件変換装置20から出力される運転計画は、作業の内容、タスク番号および作業タスクで表現される。各設備での作業は、優先度と種類等に基づいて作業リソースとして分類される。タスク番号は各作業リソース内で一意に決められる番号である。運転開始条件は、作業タスクに含まれる作業指示をMES30が各設備に送信するに際しての条件である。
【0042】
図5に示されるように、作業リソースごとにタスクキューを保持し、運転計画に含まれる作業タスクがタスク番号順に取り出される。例えば、部品供給機PS1における供給部品変更の作業リソースのように、実行済み最終タスク番号が1である場合で、実行中の作業タスクが空(NULL)の場合には、タスクキュー先頭の作業タスク、すなわち2番の作業タスクを取り出すが、当該作業タスクの運転開始条件が未成立の場合には、その作業タスクをガード中の作業タスクとし、ガード中作業タスク番号を2とする。一方、タスクキューから取り出した作業タスクの運転開始条件が成立している場合には、当該作業タスクを実行中タスクとし、実行中タスク番号を2とする。
【0043】
実行中タスクとなった作業タスクは、その作業内容を対応する設備に送信し、当該設備から作業完了を受信するまでは実行中タスクとなっているが、作業完了を受信すると、実行中タスクは破棄されて空になる。そして実行済み最終タスク番号が更新されて2となる。
【0044】
運転開始条件は、作業リソースとタスク番号で指定されており、指定されている作業リソースの実行済み最終タスク番号が、指定されているタスク番号以上の場合には、条件が成立しているものとする。例えば、図5において、ロボットRB1のAGV1移載作業の作業リソースにおいて、タスクキューから取り出した3番の作業タスクの運転開始条件が、ロボットRB1の加工機投入作業の作業リソースにおける3番の作業タスクで指定されているとすれば、ロボットRB1の加工機投入作業の作業リソースの実行済み最終タスク番号が3となっていれば、ロボットRB1のAGV1移載作業の作業リソースの3番の作業タスクは、条件が成立しているものとして、当該3番の作業タスクを実行中タスクとし、実行中タスク番号はNULLから3に変わる。
【0045】
また、タスクキューから取り出した作業タスクの運転開始条件が未成立の場合とは、指定されている作業リソースの実行済み最終タスク番号が、指定されているタスク番号より大きい場合である。なお、運転開始条件が未成立で、ガード中の作業タスクとなった場合でも、指定された作業リソースの作業が進み、運転開始条件が成立すれば、ガード中の作業タスクは実行中タスクとなる。また、ガード中の作業タスクが存在する場合には、実行中タスクが空でも、タスクキューからは作業タスクは取り出されない。
【0046】
なお、以上説明した処理方式は一例であり、本実施の形態の運転開始条件変換装置20での適用はこれに限定されるものではなく、入力された運転スケジュールに、運転開始条件となる制約を適切に設定できれば良い。ここで適切であるとは、予め決められた法則で運転計画を実行していく生産システムにおいて、少ない制約で、大域的な最適化ができ、必要な作業順序を保てることである。
【0047】
先に説明したように、図5に示すソフトウェアアーキテクチャは、スケジューラ10(図2)から出力される運転スケジュールを運転開始条件変換装置20に入力し、時間で指定された運転開始条件を、作業の完了などのイベントで指定された運転開始条件に変換して得られる運転計画に基づいて作業指示を行っている。以下、運転開始条件変換装置20について説明する。
【0048】
<運転開始条件変換装置の構成>
図6は、運転開始条件変換装置20の構成を示す機能ブロック図である。図6に示されるように、運転開始条件変換装置20には、運転開始条件変換装置20へのデータ入力を担う機能部であるデータ入力部23を介して、スケジューラ10(図2)から出力される運転スケジュールD1の他に、製品データD2と作業データD3が入力され、記憶部21に保存される。なお、データ入力部23は記憶部21が有していても良い。
【0049】
製品データD2は、製造する製品の組立順序、部品種別といった製品の製造方法に関するデータである。作業データD3は、各製造装置での作業に関するデータであり、各製造装置が実施する各作業に対して、製品製造に関する直接作業なのか、部品供給または段取り替えに関する間接作業なのかを区別するための情報が含まれている。これらのデータは、基本的には生産システム100を構築する際に記憶部21に入力し、生産システム100を変更するような場合には、更新、追加される。
【0050】
<運転開始条件変換装置の動作>
<作業リソース分類部での分類>
処理部22に含まれる作業リソース分類部221は、運転スケジュールD1、製品データD2および作業データD3を記憶部21から読み出し、運転スケジュールD1における時間で指定された運転開始条件を解除する。そして、運転スケジュールD1に含まれる各設備の作業を、優先度別に作業リソースとして分類する。ジョブショップは、複数の異なる作業を実施することができるので、作業の種類に優先度をつけることで、局所的な最適化を実現することができる。
【0051】
運転スケジュールにおける、各設備内での作業に対して優先度を設定するために、作業リソース分類部221は、運転スケジュールでの各設備の作業を、優先度別の作業に分類する。例えば、生産設備とAGVとの間の移載作業を最優先の作業とし、それ以外の作業はより優先度の低い作業として2つの優先度を設定し、運転スケジュールに含まれる作業をどちらかに分類する。ただし、1つの生産設備に含まれる作業であっても、互いに独立して作業できる場合には、別々の作業リソースとして分類する。
【0052】
図7には、作業リソース分類部221において、図4に示した運転スケジュールにおける各設備の作業を作業リソースに分類した結果を示しており、横軸は時間を表し、各作業リソースにおけるブロックは、その長さに対応する期間に作業をしていることを表している。
【0053】
また、図7においては、各生産設備の上側に記載される作業ほど作業の優先度が高いものとして表されている。すなわち、加工機MCにおいては、工具交換が加工より優先度が高く、ロボットRB1およびRB2においては、AGVへの移載作業、加工機への投入作業、作業台での組立作業の順に優先度が高く設定されている。
【0054】
このように分類された各生産設備での作業リソースにおいて、例えば加工機MCについては、1番、4番および6番の作業が工具交換に該当し、2番、3番および5番の作業が加工に該当する。また、ロボットRB1については、1番および12番の作業がAGV1への移載作業に該当し、2番、6番、7番および11番の作業が加工機MCへの投入作業に該当し、3番、4番、5番、8番、9番および10番の作業が作業台WS1での組立作業に該当する。また、ロボットRB2については、1番および10番の作業がAGV2への移載作業に該当し、8番および9番の作業が加工機MCへの投入作業に該当し、2番~7番の作業が作業台WS2での組立作業に該当する。
【0055】
なお、優先度による局所的な最適化を全て適用していては、大域的な最適化に影響が出ることがある。そのため、作業種別分類部222以降の処理においては、大域的な最適化に影響が出ないように、運転開始条件を設定する。
【0056】
<作業種別分類部での分類>
作業種別分類部222は、作業リソース分類部221で分類された作業リソースに対して、作業データD3に基づいて作業種別を分類する。この分類は、「(a)製品への直接作業」と「(b)段取り替え等の製品への間接作業」の2つに分類する。「(a)製品への直接作業」は、製品の加工または組立、製品の移載などの、製品に接する作業である。「(b)段取り替え等の製品への間接作業」は、供給部品の変更または工具の交換などの、いわゆる段取り替えの作業で、複数の製品の製造に関係するが、製品に対して直接に接することのない作業である。図7の例では、「(a)製品への直接作業」は、加工機MCでの「加工」作業およびロボットRB1およびRB2での全ての作業である。そして、「(b)段取り替え等の製品への間接作業」は、加工機MCでの「工具交換」作業と部品供給機PS1およびPS2での「供給部品変更」作業である。
【0057】
<製品組立順序条件設定部での制約の追加>
製品組立順序条件設定部223は、作業種別分類部222で分類された「(a)製品への直接作業」に対して、各製品を製造する作業順序に関する制約を追加する。すなわち、運転スケジュールで次の条件を満たす作業に対して、運転開始の制約を追加する。具体的には、制約が追加される作業は、「(a)製品への直接作業」に分類された作業で、同一製品に対して、同一装置内で優先度の低い作業が先行して実施されている作業である。そして、追加する制約は、先行して実施されている作業が完了することであり、先行して実施されている作業が複数の製品に対する作業の場合には、何れか1つの製品でも該当すれば、制約を追加する。なお、製品組立順序条件設定部223で追加された運転開始の制約を第1の運転開始条件と呼称する。
【0058】
図8は、製品組立順序条件設定部223で追加された制約の一例を、図7で分類された作業リソースに当てはめて示した図であり、「(a)製品への直接作業」に分類されるロボットRB1およびRB2における組立作業の完了が、制約として追加されている。
【0059】
追加された制約の説明のため、図8において、ロボットRB1については、作業台WS1での組立作業に該当する3番、4番、5番、8番、9番および10番の作業に対して、それぞれa、b、c、d、eおよびfのアルファベットを付しているが、これらはそれぞれの作業で対象としている製品のIDである。また、加工機MCへの投入作業に該当する2番および6番の作業には製品のIDとしてdを付し、7番および11番の作業には製品のIDとしてbを付している。また、AGV1への移載作業に該当する12番の作業は、IDがa~fの製品が対象となるので、IDとしてa~fを付している。
【0060】
同様にロボットRB2については、作業台WS2での組立作業に該当する2番~7番の作業に対して、製品のIDとしてそれぞれg、h、i、j、kおよびlを付し、加工機MCへの投入作業に該当する8番および9番の作業には製品のIDとしてhを付している。また、AGV2への移載作業に該当する10番の作業は、IDがg~lの製品が対象となるので、IDとしてg~lを付している。
【0061】
図8においては、矢印を用いて制約を表している。すなわち、矢印を発する作業が完了することが、矢印が達する先の作業の運転開始条件となっていることを表している。
【0062】
具体的には、ロボットRB1の加工機MCへの投入作業において、7番の作業の対象となるIDがbの製品を加工機MCに投入する場合には、より優先度が低い作業台WS1での組立作業において5番の作業の対象となるIDがcの製品への作業が完了していることを制約として追加している。
【0063】
また、ロボットRB1のAGV1への移載作業において、12番の作業の対象となるIDがa~fの製品を移載する場合には、より優先度が低い加工機MCへの投入作業において、11番の作業の対象となるIDがbの製品に対する加工が完了していること、および作業台WS1での組立作業において10番の作業の対象となるIDがfの製品への作業が完了していることを制約として追加している。
【0064】
同様に、ロボットRB2の加工機MCへの投入作業において、8番の作業の対象となるIDがhの製品を加工機MCに投入する場合には、より優先度が低い作業台WS2での組立作業において7番の作業の対象となるIDがlの製品への作業が完了していることを制約として追加している。
【0065】
<部品供給条件設定部での制約の追加>
部品供給条件設定部224は、作業種別分類部222で分類された「(b)段取り替え等の製品への間接作業」に対して、段取り替えの開始を待たせる等の制約を追加する。すなわち、運転スケジュールで次の条件を満たす作業に対して、運転開始の制約(第2の運転開始条件)を追加する。制約が追加される作業は、「(b)段取り替え等の製品への間接作業」に分類された作業で、当該段取り作業で変更される物を使用して先行して実施されている作業、すなわち段取り替えで影響を受ける先行して実施されている作業である。そして、追加する制約は、当該先行して実施されている作業が完了することである。
【0066】
図9は、部品供給条件設定部224で追加された制約の一例を、図7で分類された作業リソースに当てはめて示した図であり、「(a)製品への直接作業」に分類されるロボットRB1およびRB2における組立作業の完了、および加工機MCにおける加工作業の完了が制約として追加されている。
【0067】
図9においては、矢印を用いて制約を表している。すなわち、矢印を発する作業が完了することが、矢印が達する先の作業の運転開始条件となっていることを表している。
【0068】
具体的には、部品供給機PS1およびPS2の供給部品変更においては、それぞれロボットRB1およびRB2の組立作業で使用する部品を変更するので、より優先度が低い作業台WS1での組立作業である5番の作業および作業台WS2での組立作業である5番の作業が完了していることを制約として追加している。ただし、部品供給機PS1およびPS2のそれぞれで、供給部品変更の1番の作業には、先行して完了している作業がないため、制約は追加されない。
【0069】
また、加工機MCの工具交換においては、より優先度が低い加工の作業である3番の作業および5番の作業が完了していることを制約として追加している。
【0070】
以上説明したように、運転開始条件変換装置20における各機能ブロックでの処理を経ることで、作業リソースの分類および作業種別の分類を行い、分類された「(a)製品への直接作業」および「(b)段取り替え等の製品への間接作業」に対し運転開始条件を追加することができる。
【0071】
<運転開始条件変換方法>
以上説明した本発明に係る実施の形態1の運転開始条件変換装置20における運転開始条件変換方法を、図10に示すフローチャートを用いて説明する。
【0072】
まず、作業リソース分類部221において、記憶部21から読み出した運転スケジュールD1における時間で指定された運転開始条件を解除し(ステップS1)、運転スケジュールに含まれる作業を優先度の異なる作業リソースに分類する(ステップS2)。
【0073】
次に、作業種別分類部222において、分類された作業リソースに対して、作業データD3に基づいて「(a)製品への直接作業」と「(b)段取り替え等の製品への間接作業」の2つに分類する(ステップS3)。
【0074】
次に、製品組立順序条件設定部223において、「(a)製品への直接作業」に分類された作業で、優先度の低い先行して実施されている作業の完了を運転開始の制約(第1の運転開始条件)として追加する(ステップS4)。
【0075】
次に、部品供給条件設定部224において、「(b)段取り替え等の製品への間接作業」に分類された作業で、段取り替えで影響を受ける先行して実施されている作業の完了を運転開始の制約(第2の運転開始条件)として追加する(ステップS5)。
【0076】
<インターロックの追加>
運転開始条件変換装置20で追加された運転開始条件に対して、生産システムを構成する設備間での干渉を避けるために、設備の制御プログラムに組み込まれている制約としてインターロックが挙げられる。
【0077】
図11は、設備の制御プログラムに含まれるインターロックの一例を、図7で分類された作業リソースに当てはめて示した図である。例えば、ロボットRB1およびRB2による製品の加工機MCへの投入作業の実施は、加工機MCが、工具交換および加工の作業を実施していない、停止状態の時のみ実行可能である。換言すれば、加工機MCでの工具交換および加工の作業は、ロボットRB1およびRB2による製品の加工機MCへの投入作業が実行中でない時のみ実行可能である。例えば、図10において、ロボットRB1における製品の加工機MCへの投入作業である2番の作業は、加工機MCにおける工具交換の作業である1番の作業が完了した後でないと実施できず、加工機MCにおける加工作業である2番の作業は、ロボットRB1における製品の加工機MCへの投入作業である2番の作業が完了した後でないと実施できない。
【0078】
また、ロボットRB1およびRB2による製品の組立作業は、組立作業の部品が供給されていることを確認するため、部品供給機PS1およびPS2での部品供給変更の作業が実行中でない時のみ実行可能である。例えば、図10において、ロボットRB1における製品の組立作業である8番の作業は、部品供給機PS1における部品供給変更の作業である2番の作業が完了した後でないと実施できない。
【0079】
このような、設備の制御プログラムに含まれるインターロックと、運転開始条件変換装置20の製品組立順序条件設定部223と部品供給条件設定部224で制約を設定した運転計画とを組み合わせることで、ジョブショップ生産システムはスケジューラ10が出力した運転スケジュールに則った運用を実現することができる。
【0080】
なお、上述した、時間で指定された運転開始条件の解除と、インターロックおよび制約の追加により、作業の開始時刻がスケジューラが出力した運転スケジュールとは異なる場合がある。また、状況によっては、各装置内の作業順序についても変更される可能性がある。しかし、どの製品から製造するかといった製造順序、段取り替えのタイミングといった、大域的な最適化を保つための制約は遵守される。
【0081】
また、本実施の形態では1つのジョブショップ内での制約の追加の例を説明したが、制約の追加は工場全体で実施しても良いし、製品の組立は複数のジョブショップに渡るように実施される場合もあるので、追加される制約が他のジョブショップでの作業の完了となっても良い。
【0082】
以上説明したように、本発明に係る実施の形態1の運転開始条件変換装置20は、運転スケジュールに含まれる作業を優先度の異なる作業リソースに分類する作業リソース分類部221と、各作業が製品への直接作業か、段取り替え等の製品への間接作業かを分類する作業種別分類部222と、製品への直接作業のうち優先度の低い作業の作業完了を運転開始の制約として設定する製品組立順序条件設定部223と、製品への間接作業のうち、段取り替えで影響を受ける作業の作業完了を運転開始の制約として設定する部品供給条件設定部224とを備え、運転スケジュールを、イベントで指定された運転計画に変換して出力する。これにより、運転開始条件の判定に必要な計算負荷を抑えながら、運転スケジュールに則った生産システムの運用を行うことが可能な運転計画を生成できる。
【0083】
<実施の形態2>
実際の生産システムでは、作業の失敗と作業遅れ等の外乱が発生するため、運転スケジュール通りには運用できない。そのため、作成した運転スケジュールと生産システムの運転状態である運用実績との乖離が大きくなり、納期の制約を守れない可能性が高いと判断された場合には、運転スケジュールを修正することが望ましい。
【0084】
また、生産システムの運用では、運転指示を各設備に送信する時点までに運転計画がMESに入力されていれば良い。
【0085】
そのため、スケジューラはその時点で必要となる運転スケジュールだけを作成して出力しておけば良く、当該運転スケジュールは、過去に出力した運転スケジュールと運用実績との乖離が大きく納期を守れない可能性が高いと判断された場合には、納期の制約を守れる可能性が高い運転スケジュールとすることで、制約を守る可能性を上げることができる。
【0086】
<生産システムの構成>
図12は本発明に係る実施の形態2の運転開始条件変換装置20Aを備えた生産システム200の構成を示すブロック図である。図12に示すように、生産システム200は、スケジューラ10A、運転開始条件変換装置20A、MES30、複数の製造装置41,42~4n、複数のAGV51~5m、スケジュール分割指示装置60および運転状態送信装置70を備えている。
【0087】
スケジューラ10Aは、実施の形態1の生産システム100のスケジューラ10と同様に、図示しないデータ入力装置から入力される、注文データおよび生産システムの運転能力情報に基づいて、生産設備とAGVの運転スケジュールを作成して出力すると共に、MES30において検出された製造装置41~4nおよびAGV51~5m等の各設備における運転状態を運転状態送信装置70を介して受信し、各設備の運用情報も参考にして運転スケジュールを作成する。
【0088】
先に説明したように、生産システムの運用では、運転指示を各設備に送信する時点までに運転計画がMESに入力されていれば良いので、スケジューラ10Aは、生産システム200における全工程の運転スケジュールを一度に作成する必要はなく、想定した運転スケジュールと運用実績との乖離が大きくなった場合には、運転スケジュールを修正できるように、運転スケジュールを分割して作成すれば良い。
【0089】
そのためにスケジュール分割指示装置60は、スケジューラ10Aに対して、作成する運転スケジュールの分割方法を指示する。分割方法は、例えば15分単位といった時間による分割が挙げられる。15分単位でMES30が送信すると想定される運転指示が含まれる運転スケジュールを出力すれば良い。ただし、運転開始条件変換装置20Aでの処理時間、MES30での処理時間等も発生するため、これらの処理時間を余裕時間として含むような運転スケジュールを出力する。例えば、余裕時間を15分とした場合、現時点から15分から30分以内でMES30が送信すると想定される運転指示が含まれる運転スケジュールを出力すれば良い。
【0090】
MES30は、運転開始条件変換装置20Aから入力された運転計画に基づいて、製造装置41~4nおよびAGV51~5m等の各設備に運転指示を送信するだけでなく、各設備の運転状態をモニターし、その結果を運転状態送信装置70に送信する。運転状態送信装置70はMES30から送信された各設備の運転状態を受信し、スケジューラ10Aおよび運転開始条件変換装置20Aに対して送信する。
【0091】
スケジューラ10Aは、運転状態送信装置70から送信された各設備の運転状態の情報に基づいて、過去に作成した運転スケジュールと、当該運転スケジュールに基づく生産システムの運転状態である運用実績との乖離を検出する乖離検出部11を有している。
【0092】
先に図4を用いて説明したスケジューラ10で作成された運転スケジュールと同様に、スケジューラ10Aで作成した運転スケジュールも、各製造装置における作業が時系列に並べられた、時間で指定された運転スケジュールであるので、乖離検出部11では各設備の運転状態の情報に基づいて、時間で指定された運用実績を作成し、運転スケジュールと比較することで、両者の乖離、例えば各作業の時間のずれを検出するようにすれば良い。または、納期の制約が守れるかを検出してもよい。そして、納期の制約が守れる可能性が低い、または制約を守ることができないと判断された場合には、納期を守れるように、次に出力すべき運転スケジュールを修正する。
【0093】
スケジューラ10Aは、修正された運転スケジュールを運転開始条件変換装置20Aに入力する。
【0094】
図13は、運転開始条件変換装置20Aの構成を示す機能ブロック図である。図13に示される運転開始条件変換装置20Aにおいては、運転開始条件変換装置20と同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0095】
図13に示されるように、運転開始条件変換装置20Aには、データ入力部23を介して、スケジューラ10A(図12)から出力される運転スケジュールD1、製品データD2および作業データD3が入力され、記憶部21に保存される。また、記憶部21には、運転開始条件変換装置20Aが過去に出力した出力済み運転計画D4も記憶されている。出力済み運転計画D4は、過去の全ての運転計画であっても良いが、一定期間または未完成の製品に関する作業が含まれる運転計画であっても良い。
【0096】
また、運転開始条件変換装置20Aには、運転状態送信装置70から送信された各設備の運転状態の情報が運転状態入力部225を介して入力される。各設備の運転状態D5は、運転状態入力部225を介して製品組立順序条件設定部223に入力され、また、記憶部21から出力済み運転計画D4も入力される。なお、出力済み運転計画D4は、運転状態入力部225を介して製品組立順序条件設定部223に入力するようにしても良い。
【0097】
そして、製品組立順序条件設定部223は、運転状態と出力済み運転計画とに基づいて、例えば、未完成の製品に関する作業を抽出し、新しく入力された運転スケジュールに対して、第1の運転開始条件を追加する。
【0098】
同様に、部品供給条件設定部224は、運転状態と出力済み運転計画とに基づいて、例えば、未完成の製品に関する作業とそれに関連する段取り替え作業等を抽出し、新しく入力された運転スケジュールに対して、第2の運転開始条件を追加する。
【0099】
このように、第2の実施の形態の運転開始条件変換装置20Aによれば、運転スケジュールを分割して作成した場合に、各設備の運転状態を考慮して運転開始条件を追加することができる。
【0100】
このような方法は、生産の遅れがあった場合には、納期を満たすために、例えば、段取り替えが増えたとしても、優先度の高い製品を先に処理するような場合に有効であり、段取り替えが増え、全体の作業時間が増えたとしても、納期を満たすことを最優先とするような場合に有効である。
【0101】
<変形例>
以上の説明においては、運転スケジュールの分割を時間で分割する方法を示したが、時間ではなく、製品の単位で分割しても良い。例えば、1つの製品に対する作業に関しては、運転スケジュールを分割せず、その製品が完成するまでに必要な作業を全て含んだ運転スケジュールとして出力する。この方法であれば、該当する製品の製造が間に合いそうになければ、その他の優先度の低い製品の作業よりも当該製品の製造を優先させるような運転スケジュールを作成するなどの措置を採ることができる。
【0102】
なお、時間による分割と製品単位での分割とを組み合わせても良いし、時間による分割または製品単位での分割と、他の要素による分割と組み合わせても良い。
【0103】
<謝辞>
本研究は、総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一環として実施したものです。「This work was funded by ImPACT Program of Council for Science, Technology and Innovation (Cabinet Office, Government of Japan).」。
【0104】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0105】
20 運転開始条件変換装置、221 作業リソース分類部、222 作業種別分類部、223 製品組立順序条件設定部、224 部品供給条件設定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13