(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】生体情報測定装置および生体情報測定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20221128BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20221128BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20221128BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
A61B5/02 310B
A61B5/0245 B
G01N21/17 610
A61B5/1455
(21)【出願番号】P 2018060730
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 伯夫
(72)【発明者】
【氏名】金子 大輔
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-245069(JP,A)
【文献】特表2003-508744(JP,A)
【文献】特開平09-182739(JP,A)
【文献】特開2016-182286(JP,A)
【文献】特開2011-152321(JP,A)
【文献】特開平07-088105(JP,A)
【文献】特表2013-533769(JP,A)
【文献】特表平11-506206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/0245
A61B 5/145-5/1455
G01N 21/17-21/359
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から照射され測定対象から反射された反射光を波長ごとに分光する分光手段と、
前記分光手段により分光された反射光を受光する受光手段と、
前記受光手段によって受光された前記波長ごとに分光された反射光から特定の波長を選択し、選択した前記特定の波長の光強度を所定時間にわたって取得する取得手段と、
前記所定時間にわたって取得した前記光強度
の時間的な変化に基づき、前記測定対象の
脈波を検知する検知手段と、を備えることを特徴とする生体情報測定装置。
【請求項2】
前記受光手段は、前記波長ごとの光強度をそれぞれ検出する複数の受光素子を有し、前記複数の受光素子から得られた光強度を示す情報をメモリ部へ記憶し、
前記取得手段は、前記メモリ部から前記特定の波長の光強度を逐次的に読み出すことを特徴とする請求項1に記載の生体情報測定装置。
【請求項3】
前記光源から照射された光を前記測定対象へ向けて導光する照明部と、前記反射光を集光導光する集光部が一体化された導光部材をさらに備えることを特徴とする請求項1
または2に記載の生体情報測定装置。
【請求項4】
前記分光手段は、前記導光部材により集光導光された反射光を分光する回折格子を有することを特徴とする請求項
3に記載の生体情報測定装置。
【請求項5】
前記受光手段は、前記回折格子によって分光された光束の光強度を波長ごとに検出するために、直列に配置された複数の受光素子を備えることを特徴とする請求項
4に記載の生体情報測定装置。
【請求項6】
前記回折格子は凹面回折格子であることを特徴とする請求項
4または
5に記載の生体情報測定装置。
【請求項7】
前記光源と、前記導光部材と、前記受光手段がケース部材により一体化されていることを特徴とする請求項
3乃至
6のいずれか1項に記載の生体情報測定装置。
【請求項8】
外部装置から波長の選択の指示を受け付ける受付手段を備え、
前記取得手段は、前記受付手段が受け付けた指示により選択される波長を前記特定の波長として選択することを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の生体情報測定装置。
【請求項9】
前記光源は白色光源であることを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の生体情報測定装置。
【請求項10】
前記光源と前記受光手段が同一基板上に配置されていることを特徴とする請求項1乃至
9のいずれか1項に記載の生体情報測定装置。
【請求項11】
前記分光手段は所定の波長域において所定の分解能を有し、前記所定の波長域は、可視光域から近赤外光域を含むことを特徴とする請求項1乃至
10のいずれか1項に記載の生体情報測定装置。
【請求項12】
前記分光手段は所定の波長域において所定の分解能を有し、前記所定の波長域は、可視光域であることを特徴とする請求項1乃至
10のいずれか1項に記載の生体情報測定装置。
【請求項13】
生体情報測定装置による生体情報測定方法であって、
光源から照射され測定対象から反射された反射光を波長ごとに分光し、
前記分光された反射光を受光部により受光し、
前記受光部で受光された前記波長ごとに分光された反射光から特定の波長を選択し、選択した前記特定の波長の光強度を所定時間にわたって取得し、
前記所定時間にわたって取得した前記光強度
の時間的な変化に基づき、前記測定対象の
脈波を検知すること、を備えることを特徴とする生体情報測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に光を照射しその反射光もしくは透過光の時間的な光量変動を検知することにより生体情報を測定する生体情報測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人体の一部に特定の波長を有する光を照射し、生体内の血管中を移動する血液からの反射光量もしくは透過光量を、受光センサを用いて検出することにより、血液の移動に伴う血液脈波(以下、脈波)を検出するバイタルセンサが市販されている。脈波は脈拍数の測定に用いられる。また、脈波を2階微分することにより得られた加速度脈波を用いて、血管内壁部の老化もしくは蓄積物による血管の硬化度合を取得し、これを血管老化度もしくは血管年齢として提示することが提案されている。
【0003】
一般に、この種の測定装置は、所定の波長を有するLEDによる光源を用いて測定対象に光を照射し、その測定対象からの反射もしくは透過光量を受光センサにて検知し、その出力の時間的な変動量を測定する。具体的には、緑もしくは赤色波長を有するLED光源を用いて、指先や手首、耳朶等の対象部へ光を照射し、対象部からの反射もしくは透過してくる光量の変動により、血管中の血液の時間的な移動状態、すなわち脈動(脈波)を検知する。特許文献1には、指尖部に対して光源から出射された光束を照射しその反射光を光電変換受光センサにて受光し、その受光光量の時間的な変動を測定評価する脈波測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記光源として用いられているLEDから発光される光は、所定の波長の光が支配的ではあるものの、他の波長の光も含まれており、これが不要な波長成分の光によるノイズの原因となる。また、対象部からの反射もしくは透過光に交じって、外部からの光線が受光センサ部に入光することにより、受光信号に対して不要な波長成分をノイズとして与えてしまうことがあった。
【0006】
本発明は以上のような状況に鑑みたものであり、生体情報を安定して高精度に測定することが可能な生体情報測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による生体情報測定装置は以下の構成を備える。すなわち、
光源と、
前記光源から照射され測定対象から反射された反射光を波長ごとに分光する分光手段と、
前記分光手段により分光された反射光を受光する受光手段と、
前記受光手段によって受光された前記波長ごとに分光された反射光から特定の波長を選択し、選択した前記特定の波長の光強度を所定時間にわたって取得する取得手段と、
前記所定時間にわたって取得した前記光強度の時間的な変化に基づき、前記測定対象の脈波を検知する検知手段と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生体情報を安定して高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る脈波測定装置の外観斜視図。
【
図4】(a)は分光計の光学系を説明する上面図、(b)は分光計の光学系を説明する斜視図。
【
図5】(a)はヘモグロビンの吸光特性図、(b)は全波長での出力振幅の測定結果の例を示す図、(c)は特定波長における光強度の出力(脈波)を示す図。
【
図6】第1実施系他の脈波測定装置の制御構成を説明する図。
【
図7】(a)は加速度脈波を説明する図、(b)~(d)は加速度脈波から血管年齢を推定する方法を説明する図。
【
図8】第3実施形態による腕巻き型の脈波測定装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態による生体情報測定装置としての脈波測定装置1の外観斜視図である。脈波測定装置1は、分光計を収納するハウジング5を有する。ハウジング5の上面は、測定対象を載置する面である。ハウジング5の上面には、上面に載置された測定対象とハウジング5の内部の分光計との間の光の往来を可能とする開口部15と、開口部15を覆う透明な材質からなる透明カバー4が設けられている。また、開口部15および透明カバー4の上部には、シャッタ部材2と、測定対象をガイドするガイド部材3とが設けられている。なお、
図1(a)は、シャッタ部材2が開口部15を覆った状態、
図1(b)は、シャッタ部材2が退避し、開口部15が開放され、測定対象である指6が開口部15を覆った状態、
図1(c)は、
図1(b)の状態において、指の図示を省略した図である。
【0012】
本実施形態において、シャッタ部材2とガイド部材3は接続されている、または、一体で構成されている。ガイド部材3は、ガイド形状部分31と指受け形状部分32とを有する。ガイド形状部分31とハウジング5に設けられたガイドレール部16によって、ガイド部材3及びシャッタ部材2は
図1中に示すX方向にスライド移動が可能となっている。ガイドレール部16の両端部は、ストッパ部18a、ストッパ部18bとして機能し、ガイド形状部分31がストッパ部18aに突き当たる位置と、ストッパ部18bに突き当たる位置との、2つの位置を規定する。ガイド部材3が指6により移動することにより、シャッタ部材2は、ハウジング5の開口部15の対向位置で開口部15を覆う第1の位置(
図1(a)と、開口部15の対向位置から退避した第2の位置(
図1(c))との間を移動可能となる。
【0013】
脈波測定装置1のハウジング5内に収納、配置された分光計10の外観を
図2(a)に示す。分光計10は、カバー部材11とケース部材13により外殻が形成される。電気基板12は、ラインセンサ104からの信号を増幅、A/D変換して波長ごとの出力信号(デジタル信号)を取得するための回路等を有する。分光計10のカバー部材11および電気基板12を外した状態を
図2(b)に示す。ケース部材13から光学系および受光センサを上部に分割抽出した構成を
図2(c)に示す。
【0014】
分光計10の光学系は、測定対象を照射するための光源である白色LED101、ライトガイド102、回折格子103、ラインセンサ104を有する。ライトガイド102は、白色光源としての白色LED101からの光束を測定対象へ向けて導光する照明部と、測定対象からの反射光を集光導光する集光部とが一体化された導光部材である。白色LED101からの光は、ライトガイド102の照明部により開口部15へ導かれ、開口部15を通じて測定対象(本例では指6)に照射される。測定対象からの反射光は、ライトガイド102の導光部により集光導光されて、所定の波長域において所定の分解能で分光する分光部である回折格子103に導かれる。反射光は、分光部としての回折格子103により複数の波長に分光され、受光部としてのラインセンサ104は、分光された光を受光する。ラインセンサ104には、複数の波長に分解された光を受光する受光素子が直列に配置されている。分光計10は、白色LED101、ライトガイド102、回折格子103、ラインセンサ104を一体に構成し、小型化を実現している。
【0015】
図3は、分光計10における光学系の構成を抽出し、白色LED101から出射された光線の進行状態をR1~R5の矢印で示した図である。また、
図4(a)に反射光の分光状態を示す光学系の上面図、
図4(b)に反射光の分光状態を示す光学系の斜視図を示す。
【0016】
分光計10の電気基板12に設置された白色LED101から出射された光束R1が、樹脂成型されたライトガイド102の曲面部で反射し、上面に照射光R2として出射する。照射光R2は、開口部15および透明カバー4を通過して、透明カバー4に載置されている生体の測定対象(本実施形態では指6)の腹部を照射する。その照射部位からの反射光R3は、樹脂成型されたライトガイド102の入射部106に入射される。
【0017】
入射部106に入射した反射光は、ライトガイド102により集光導光され、微小幅のスリット部105を介して回折格子103に光束R4として照射される。スリット部105は、ケース部材13に収納、固定されている。回折格子103は樹脂で製作され、回折格子が凹面上に形成された凹面反射型の回折格子(凹面回折格子)である。回折格子103は、例えば、回折格子表面にアルミニウム等の反射膜とSiO2等の増反射膜を蒸着して作成される。このような回折格子103によって分光された光束R5が、電気基板12上に設置されたラインセンサ104に照射される。本実施形態では、光源(白色LED101)と受光部(ラインセンサ104)が電気基板12、すなわち同一基板上に配置されている。
【0018】
上述のように、ラインセンサ104は、光電変換を実現する複数の受光素子がライン状に(直列に)配置された構成を有する。複数の受光素子上に分光された光がそれぞれ照射されることにより、それぞれの波長における光強度を測定することができる。例えば、波長分解能を5nm、ラインセンサ104に100個の受光素子が直列に配置されているとすると、ラインセンサ104は500nm程度の波長域をとらえることができる。分光する最短波長部を例えば400nmと設定すれば、波長域は、400~900nmの可視光域から近赤外光域をカバーする範囲であり、センサ感度と合わせて光測定に必要な波長帯域をほぼ確保できる。本実施形態では、回折格子103、ラインセンサ104、スリット部105の配置を、
図4(a)の二点鎖線で示す、いわゆるローランド円の円周上に配置することで、測定対象からの反射光を所定の光の波長に分光する小型な分光計を実現している。
【0019】
分光計10から出射される光束を指尖部に照射した場合、血液中の酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸光特性の差によって血液の脈動を測定できることが一般的に知られている。
図5(a)は、酸化ヘモグロビン(HbO2)と還元ヘモグロビン(Hb)の吸光特性を示す図である。
図5(a)において、横軸が光の波長、縦軸が吸光量である。
【0020】
図5(b)は、白色LED101を指尖部に照射することにより、400~700nmの可視光域における各波長について分光計10により測定された脈波の振幅を示す図である。横軸が波長、縦軸が平均化した各波長の振幅量を示す。
図5(b)の測定結果は、次の条件で行われたものである。すなわち、ラインセンサ104は回折格子103により分光された光束のうち上述の可視光域(400~700nm)を分光帯域とし、可視光域全体の波長域を数nm単位の分解能で光強度を測定する。なお、1回の光強度の測定結果には、所定回数にわたり光強度を取得し、それらを平均した値が用いられる。1回1回の信号には多少のばらつきが含まれるためである。以下、この平均値を測定された光強度とする。全波長域での反射光から数十msおきの光強度をラインセンサ104により約1分間にわたり測定し、得られた約1分間分のデータから、各波長の光強度の変動(脈波)の振幅(peak to peak)を取得する。更に、別途実施した白基準の測定データから脈波の振幅を正規化する。
図5(b)では、以上の処理を複数回実施して得られた複数の正規化された振幅値を平均化したデータを示している。
【0021】
一般的には、緑色等の単色のLED等を光源に使用し、その反射光量を測定している。この場合、波長は550nm前後である。
図5(b)からわかるように、550nm前後においても比較的大きな振幅が得られるが、可視光域の中でも吸光度が大きい570~590nmの波長範囲で最も大きい振幅が得られることがわかる。そこで、本実施形態では、最も振幅が大きい590nmの波長の光強度を逐次的に抽出することにより、脈波を得る。
図5(c)は、590nmの波長の光強度をおよそ13秒にわたって測定した結果を示す。横軸に時間(秒)縦軸に受光光量の強度(光強度)を示す。この波形がいわゆる血管中の血液の移動に伴う脈波を示している。
【0022】
図6は、脈波測定装置1における制御構成の一例を示すブロック図である。上述したように、白色LED101からの光束はライトガイド102を経て、透明カバー4(開口部15)からハウジング5の外部の測定対象に照射される。本実施形態では、脈波測定装置1の測定位置(透明カバー4の位置)に配置された指6の指先の腹部に白色LED101からの光が照射される。測定対象からの反射光は透明カバー4を経てハウジング5の内部へ入り、ライトガイド102により回折格子103へ導かれる。回折格子103は反射光を複数の波長(λ1~λn)に分光してラインセンサ104を照射する。
【0023】
ラインセンサ104は、回折格子103からの複数の波長の光強度を電気信号に変換するための複数の受光素子601を有する。複数の受光素子601は、分光された全波長の光強度を示す電気信号を出力する。信号処理部121は、複数の受光素子601から出力される電気信号を増幅、A/D変換し、光強度の情報(デジタルの測定値)としてメモリ部122に転送する。メモリ部122は、信号処理部121から出力された光強度を一時的に保持する。こうして、ラインセンサ104により得られた各波長の光強度が逐次にメモリ部122に記憶される。
【0024】
読み取り部123は、メモリ部122に保持されている全波長の光強度のうち、所定波長(本例では590nm)の光強度を逐次的に読み出し、送受信部124に送る。送受信部124は、所定波長の光強度を逐次に送受信I/F130を介して外部装置200へ送る。送受信I/F130は有線でも無線でも構わない。こうして、特定の波長の時間的な変動データをPC等の外部装置200の画面上に読み出し表示することにより、特定の波長の脈波データを確認することができる。制御部120は、プロセッサとメモリを含み、外部装置200との通信および上述した各部の制御を司る。
【0025】
なお、メモリ部122の各波長の光強度は、信号処理部121からの時系列的な次データによりオーバーライトされる。また、上述したようにラインセンサ104からの複数の出力値を平均することにより1回の光強度の測定値とするのが実用的である。したがって、信号処理部121は、ラインセンサ104の受光素子からの複数の信号を加算、平均する処理を行う構成を有している。
【0026】
以上のような脈波測定装置1によれば、白色LED光源と分光計を用いた構成で、指尖部に光束を照射しその反射光から脈波を測定することが可能となる。以上のようにして取得された波形(脈波)を元に、単位時間当たりの波形ピーク数を検出すれば、脈拍数を検知することができる。また、単位時間当たりの脈拍数から消費運動量を推定することも可能である。
【0027】
また、これらの脈波波形を形式的に2階微分すれば、いわゆる加速度脈波を得ることができる。単色のLEDを用いた一般的な脈波測定により得られた脈波波形は、不要な波長の光強度を含み、2回微分するとその影響が顕著に表れてしまう。そのため、正確な加速度脈波を得ることができない。これに対して、本実施形態の脈波測定装置1によれば、分光計により必要な波長の光強度を得ることができるので、正確な加速度波形を得ることができる。
【0028】
代表的な加速度脈波を
図7(a)に示す。加速度脈波に示されるa~eの振幅値を利用して、血管の老化度を7段階程度に分別評価することができる事は周知の技術である。具体的には、例えば、b/aとd/aを結んだ線分の傾きの値を元に凡その血管の老化度を推定することができる。事例を
図7(b)、(c)、(d)に示す。図中、b値とd値を結んだ線分を2点鎖線で示す。加速度脈波の初期振幅値aによって正規化されたb/a値とd/a値を結ぶ線分の傾きによって、血管の柔軟性が示すことができ、それらは凡そ人間の年齢にも相当するといわれている。なお、図では、b値からd値への傾きを示すことによりb/a値とd/a値の傾きの傾向を示している。
【0029】
20代から30代程度の年齢が若い人の柔軟性が高い血管で採られた加速度脈波の場合を
図7(b)に示す。b値が大きくd値が比較的小さく線分の傾きは右肩上がりになっている。そして、一般的に年齢が上がるとともに血管の柔軟性が劣る、または硬化度が増すといわれており、それに従い線分の傾きは、
図7(c)、(d)のように変化する。60代の人の代表的な波形として
図7(d)に示すように右肩下がりの状態、b値が小さくd値が大きくなっていくことが知られている。
【0030】
また、受光ラインセンサ上での波長を選択的に選定しているので、外光等の不要な波長成分光を取込むことがないので外光によるノイズにも高い耐性を持つ。従って、本実施形態によれば、分光計の利用により高精度な脈波測定を実現する、小型で高性能な脈波測定装置が提供される。
【0031】
特定の波長の光強度、すなわち、単一の波長の光強度を用いるのであれば、ラインセンサ104に代えて、回折格子103からで分光された光のうち特定の波長の光強度を検出するセンサが用いられてもよい。例えば、590nmの波長の光強度を検出する位置に配置された受光素子を有し、受光素子により得られた光強度の情報をメモリ部122に保持するように構成すればよい。
【0032】
また、制御部120が、外部装置200から送受信部124により受信された波長の選択の指示に基づいて、選択された波長の光強度を読み出すように読み取り部123を制御するようにしてもよい。すなわち、送受信部124が外部装置200からの波長の選択の指示を受け付ける受付部として機能し、制御部120は、受付部が受け付けた指示により選択される波長の光強度を逐次的に取得するように読み取り部123を制御する。このように構成すれば、外部装置200からの指示により任意の波長の光強度を使用することができる。
【0033】
さらに、読み取り部123がメモリ部122から複数の波長の光強度を読み出すようにしてもよい。分光計10を用いた脈波測定装置1を用いた場合、測定対象に対する照射光は単一光源の光であるので、複数の波長を選択しても低ノイズの信号を得ることができる。複数の波長の光強度を測定する生体情報測定装置の例について、以下の第2実施形態により説明する。
【0034】
<第2実施形態>
第2実施形態による生体情報測定装置としての脈波測定装置について説明する。第1実施形態では、生体情報として1つの波長の光強度を用いて脈波を測定する構成を説明した。第2実施形態では、複数の波長の光強度の変動を取得する。一般に、異なる複数の波長を用いる場合には、それぞれの波長に対応した複数の光源が配置されるため、波長ごとに光源の位置が異なってしまう。結果、測定対象に対して同一な箇所を照射するのが望ましいにもかかわらず、複数の光源が異なる位置に配置されるために照射位置が相互にずれてしまい、受光信号のノイズ要因となってしまう。また、複数の光源を同時に設置しようとした場合、照射対象部に対して光源の設置面積が過大となり装置の照射部ひいては装置全体が肥大化するという課題も発生する。
【0035】
複数の波長の光を用いた生体情報の測定例として、血中酸素飽和濃度を測定するパルスオキシメータが存在する。パルスオキシメータでは、指先部等に複数の波長(赤および近赤外)の光を照射透過させてこれを受光センサで受光する。受光量に基づいて、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの波長に対する異なる吸光比率を利用して血中酸素飽和濃度が算出される。具体的には、パルスオキシメータは、赤色光(波長660nm近傍)と近赤外光(940nm近傍)を指尖部や耳朶等に透過させて、その時の、光強度の変動を元に血中酸素飽和濃度(SpO2)を推定する。血液中に多く存在するヘモグロビンは酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンである。赤色光を透過させた場合、酸化ヘモグロビンの吸光度より還元ヘモグロビンが大きく、近赤外光の場合は還元ヘモグロビンが酸化ヘモグロビンよりわずかに低い吸光特性を持つ。このことから、ヘモグロビンの赤色と近赤外光の吸光度の比率は、「酸化ヘモグロビン」と「酸化ヘモグロビン+還元ヘモグロビン」の比率である酸素飽和度によって変化するといえる。
【0036】
ここで、脈波による吸光度の変化分ΔAは、Beer-Lambertの法則を適用することにより、脈波による透過光の強度変化分ΔIと透過光強度Iとの比、ΔI/Iで表すことができる。この値は測定される脈波の変動成分AC成分と静脈血等の吸収等で示されるDC成分の比、AC/DCと言い換えることができる。
【0037】
ここで、酸素飽和度の比率をRとすれば、
R=赤色光/近赤外光=(AC660/DC660)/(AC940/DC940) 式(1)
ここで660および940は波長を示す
として表すことができる。さらに、このR値を赤色の波長(660nm)と近赤外光の波長(940nm)で、前もって得たR値とSpO2の校正曲線に当てはめることにより血中酸素飽和濃度SpO2を求めることができる。
【0038】
以上では透過型を前提として説明したが、原理的には反射型であっても同様の測定が可能である。
【0039】
実際の測定おいては、これらを構成する赤色や近赤外色のLEDの波長が多少ずれていたりするので、校正曲線との間で誤差が生じたりする場合がある。また、測定部位の皮膚の厚さ、皮膚の色等により、LEDの発光光量や受光センサの感度補正等が必要になる。また、測定中に呼吸や体動等の影響における変動量が無視できない場合もある。これらの影響を排除する為に、例えば、特開2005-095606では、5つの波長の光強度を測定することを提案している。5つの波長の光強度を測定する場合、複数の波長に対応した複数の光源を用いると、脈波測定装置が大型化してしまう懸念がある。
【0040】
第2実施形態では、白色LEDの照射光の波長帯域を確保した上で、分光、検出される波長範囲を例えば600nmから1000nm程度の範囲に設定する。読み取り部123は、複数の波長(赤と近赤外色であれば、660nmと940nmの波長)の光量値をメモリ部122から読み出し、送受信部124を介して外部装置200へ送信する。外部装置200は時間的な光量変動に基づいてパルスオキシメータの機能を実現することができる。
【0041】
また、上述のように、5波長を設定することにより(例えば、660、700、730、805、875nm)、呼吸や体動の影響を排除することができる。これらの複数の波長は、単一光源としての白色LEDによる対象部への照明によって実現されており、分光計10のラインセンサ104に割り当てられた波長の中から選択することができる。すなわち、分光計10を有する第2実施形態の生体情報測定装置1によれば、上記の5つの波長の光強度の測定を、読み取り部123が5つの波長の光強度情報をメモリ部122から読み出すように構成することで、容易に実現できる。従って、個別の照射波長毎に光源を設置する必要がなく、装置の大型化を回避できる。すなわち、小型で高精度のパルスオキシメータを提供することが可能である。
【0042】
更に言えば、二波長パルスオキシメータでは、設定波長の660nmでカルボキシヘモグロビンCOHbと酸化ヘモグロビンHbO2の吸光特性がほぼ一致している。その為、カルボキシヘモグロビンCOHbと酸化ヘモグロビンHbO2を区別して認識することはできず、いわゆる一酸化炭素中毒の状態での患者を誤認するおそれがある。また、敗血症において一酸化炭素濃度の上昇が伴うことが知られており、CO濃度をモニターすることが重要であるとされている。そこで、7種類以上の波長を選択することにより、さまざまなタイプのヘモグロビン(酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、カルボキシヘモグロビン、メトヘモグロビン)を識別でき、体動の影響を排除できる。この事例は、マシモ社によって紹介(Masimo Rainbow(r) SET パルス CO オキシメトリ)されている。
【0043】
以上のような、7つの波長の光強度を同時に測定するような状態であっても、それらの波長がラインセンサ104の検出可能な波長域の中の波長であれば、読み取り部123はそれらの波長をメモリ部122から選択的に読み出すことができる。したがって、本実施形態によれば、体動の影響を排除しつつ、脈波、カルボキシヘモグロビン濃度、一酸化炭素濃度を検出することが可能な装置を提供することができる。
【0044】
また、単一の光源を用いているので複数の光源を設置した場合のような照射位置のズレが生じることがなく、受光信号に対するノイズの低減が実現される。また、設定の光源波長の実質的なバラツキ等も同一光源を分光して得られる波長成分であることから、誤差を軽減させることが可能である。また、分光された複数の波長を任意に選択することができるので、測定対象に応じて最適な波長および波長の組み合わせを選択することができるので、各種のノイズ低減を実現することができる。
【0045】
なお、上述した外部装置200による演算を制御部120が行うようにしてもよい。また、そのような演算の結果を表示するための表示部を脈波測定装置1に設けてもよい。
【0046】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態による脈波測定装置ついて説明する。小型の分光計10を採用することにより、机上で測定を行う脈波測定装置1以外に、例えば、装着型の脈波測定装置を提供すことも可能である。第3実施形態では、腕に装着する形態の脈波測定装置を説明する。
【0047】
図8(a)に示すように、第3実施形態の生体情報測定装置としての脈波測定装置1aは、本体部20とそれを腕部に装着する為のバンド21を有し、本体部20の表面に測定結果等を表示するモニター部22を備えている。
図8(c)、(d)に本体正面図と側面図をそれぞれ示す。本体部20の内部には破線で示したような分光計10が設けられている。分光計10は第1、第2実施形態で説明したような構成を有する。また、
図8(b)に本体部20を背面から見た場合の装置の斜視図を示す。腕に密着する本体部20の背面部位の一部に光照射用の開口部15が設置されている。
【0048】
腕部に装着した状態で、測定開始を脈波測定装置1aに指示すると、脈波測定装置1aは断続的に光を開口部15から腕部表面に照射する。そして、脈波測定装置1aは開口部15を介してその反射光を装置内に取込み、分光計10で分光し、所望の波長における光強度を検出、例えば脈波を評価することができる。
【0049】
以上のように、第3実施形態によれば、腕に装着した状態での長時間の脈波測定や就寝時の脈波測定等が簡便に実現することができる。また、装着者自身にも測定検査の意識負担が軽減される。
【0050】
以上説明したように、第1~第3実施形態によれば、小型化された分光計10を用いて生体情報測定装置を構成することにより、机上もしくは腕等に設置された状態で安定して脈波等を検知することができる生体情報測定措置が提供される。また、小型化の実現により、生体情報測定装置を机上に設置した際に場所の専有面積を小さくすることができる。さらに、被験者の手首等に設置可能に構成すれば、被験者が移動しながら生体情報を測定するなど、測定の自由度を高めることができる。
【0051】
以上のように、上記各実施形態によれば、分光計を生体情報の検出に適用したことにより、安価な構成で脈波などの生体情報を安定して高精度に検知することが可能な、小型の生体情報測定装置を市場に提供することができる。
【符号の説明】
【0052】
1、1a:脈波測定装置、10:分光計、11:カバー、12:電気基板、13:ハウジング、15:開口部、20:本体、21:バンド、22:表示部、101:白色LED、102:ライトガイド、103:回折格子、104:ラインセンサ