(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】検出装置、インプリント装置、平坦化装置、検出方法及び物品製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20221128BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20221128BHJP
G01B 11/25 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
G01B11/25 H
(21)【出願番号】P 2018104910
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】岩井 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】古巻 貴光
(72)【発明者】
【氏名】吽野 靖行
(72)【発明者】
【氏名】林 望
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-030757(JP,A)
【文献】特開2017-010962(JP,A)
【文献】特開2013-102139(JP,A)
【文献】特開2016-027325(JP,A)
【文献】特開昭62-172203(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0266706(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0740995(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/00
9/00
B29C 59/02
G01B 11/00
G01D 5/38
G02B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型を用いて基板上にパターンを形成するインプリント装置において、
第1方向に周期をもつ1次元の第1回折格子
を有する型と、
前記第1方向に前記第1回折格子と異なる周期をもつ1次元の第2回折格子
を有する基板と、
前記第1回折格子と前記第2回折格子とを照明する照明光学系と、
前記第1回折格子と前記第2回折格子で回折された回折光を検出する検出光学系と、を備
え、
前記照明光学系は、その瞳面において第1極と光軸に対して前記第1極とは反対側の第2極とを形成するための光学部材を有し、
前記照明光学系により前記第1極と前記第2極からの光を前記第1方向から斜入射させて前記第1回折格子及び前記第2回折格子を照明することによって前記第1回折格子及び前記第2回折格子の一方で回折され、さらに他方で回折された回折光を前記検出光学系が検出する、ことを特徴とする
インプリント装置。
【請求項2】
前記
インプリント装置は、該検出された回折光に基づいて前記第1回折格子と前記第2回折格子の前記第1方向の相対位置を求めることを特徴とする請求項1に記載の
インプリント装置。
【請求項3】
前記第1極と前記第2極は前記光軸に対して対称であることを特徴とする請求項1又は2に記載の
インプリント装置。
【請求項4】
前記第1極と前記第2極は前記第1方向における光強度分布のピークを含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の
インプリント装置。
【請求項5】
前記検出光学系は、前記第1回折格子と前記第2回折格子で回折された回折光により生じるモアレ縞を検出することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の
インプリント装置。
【請求項6】
前記光学部材は開口絞りであることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の
インプリント装置。
【請求項7】
m1、n1、m2、n2を整数とし、回折次数の符号を0次光に対して一方側を正、他方側を負とすると、
前記第1極からの照明によって発生する、前記第1回折格子をm1次、前記第2回折格子をn1次で回折した回折光、および前記第1回折格子をm2次、前記第2回折格子をn2次で回折した回折光を干渉させることによる干渉縞と、
前記第2極からの照明によって発生する、前記第1回折格子を-m1次、前記第2回折格子を-n1次で回折した回折光、および、前記第1回折格子を-m2次、前記第2回折格子を-n2次で回折した回折光を干渉させることによる干渉縞と、を合成した光強度分布を前記検出光学系が検出することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の
インプリント装置。
【請求項8】
前記第1極からの照明によって発生する、前記第1回折格子を1次、前記第2回折格子を0次で回折した回折光、および前記第1回折格子を0次、前記第2回折格子を1次で回折した回折光を干渉させることによる干渉縞と、
前記第2極からの照明によって発生する、前記第1回折格子を-1次、前記第2回折格子を0次で回折した回折光、および前記第1回折格子を0次、前記第2回折格子を-1次で回折した回折光を干渉させることによる干渉縞と、
を合成した光強度分布を前記検出光学系が検出することを特徴とする請求項7に記載の
インプリント装置。
【請求項9】
前記第1極からの照明によって発生する、前記第1回折格子を2次、前記第2回折格子を-1次で回折した回折光、および前記第1回折格子を0次、前記第2回折格子を1次で回折した回折光を干渉させることによる干渉縞と、
前記第2極からの照明によって発生する、前記第1回折格子を-2次、前記第2回折格子を1次で回折した回折光、および前記第1回折格子を0次、前記第2回折格子を-1次で回折した回折光を干渉させることによる干渉縞と、
を合成した光強度分布を前記検出光学系が検出することを特徴とする請求項7に記載の
インプリント装置。
【請求項10】
前記第1極からの照明によって発生する、前記第1回折格子を2次、前記第2回折格子を-1次で回折した回折光、および前記第1回折格子を1次、前記第2回折格子を0次で回折した回折光を干渉させることによる干渉縞と、
前記第2極からの照明によって発生する、前記第1回折格子を-2次、前記第2回折格子を1次で回折した回折光、および前記第1回折格子を-1次、前記第2回折格子を0次で回折した回折光を干渉させることによる干渉縞と、
を合成した光強度分布を前記検出光学系が検出することを特徴とする請求項7に記載の
インプリント装置。
【請求項11】
前記第1回折格子又は前記第2回折格子はセグメント化された部分を有することを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の
インプリント装置。
【請求項12】
前記検出光学系は、前記検出光学系の瞳面において、前記照明光学系の瞳面における前記第1極と前記第2極の位置より光軸側の位置に配置された検出開口を有し、
前記検出光学系は、前記第1回折格子及び前記第2回折格子の一方で回折され、さらに他方で回折された回折光を前記検出開口を介して検出することを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の
インプリント装置。
【請求項13】
前記
検出光学系による検出結果に基づいて前記型と前記基板の位置合せを行う制御
部を有することを特徴とする
請求項1乃至12の何れか1項に記載のインプリント装置。
【請求項14】
型を用いて基板上の組成物を平坦化する平坦化装置において、
第1方向に周期をもつ1次元の第1回折格子を有する型と、
前記第1方向に前記第1回折格子と異なる周期をもつ1次元の第2回折格子を有する基板と、
前記第1回折格子と前記第2回折格子とを照明する照明光学系と、
前記第1回折格子と前記第2回折格子で回折された回折光を検出する検出光学系と、を備え、
前記照明光学系は、その瞳面において第1極と光軸に対して前記第1極とは反対側の第2極とを形成するための光学部材を有し、
前記照明光学系により前記第1極と前記第2極からの光を前記第1方向から斜入射させて前記第1回折格子及び前記第2回折格子を照明することによって前記第1回折格子及び前記第2回折格子の一方で回折され、さらに他方で回折された回折光を前記検出光学系が検出する、ことを特徴とする平坦化装置。
【請求項15】
第1方向に周期をもつ1次元の第1回折格子と、前記第1方向に前記第1回折格子と異なる周期をもつ1次元の第2回折格子と、を照明光学系を用いて照明する照明工程と、
前記第1回折格子と前記第2回折格子で回折された回折光を検出する検出工程と、を含む検出方法であって、
前記照明工程において、前記照明光学系の瞳面に形成された第1極からの光と、光軸に対して前記第1極とは反対側の第2極からの光を前記第1方向から斜入射させて前記第1回折格子及び前記第2回折格子を照明し、
前記検出工程において、前記第1極からの光と前記第2極からの光で照明された前記第1回折格子及び前記第2回折格子の一方で回折され、さらに他方で回折された回折光を検出する、ことを特徴とする検出方法。
【請求項16】
前記照明工程において、前記第1回折格子からの回折光の強度と前記第2回折格子からの回折光の強度とが等しくなるように、前記第1極からの光と前記第2極からの光の波長を選択することを特徴とする、請求項15に記載の検出方法。
【請求項17】
前記第1回折格子からの回折光の強度と前記第2回折格子からの回折光の強度とが等しくなるように、前記第1回折格子又は前記第2回折格子がセグメント化されていることを特徴とする、請求項15に記載の検出方法。
【請求項18】
前記第1回折格子からの回折光の強度と前記第2回折格子からの回折光の強度とが等しくなるように、前記第1回折格子又は前記第2回折格子のデューティが調整されていることを特徴とする、請求項15に記載の検出方法。
【請求項19】
mを整数として、前記検出工程において前記第1回折格子又は前記第2回折格子からのm次の回折光を検出するために、前記第1回折格子又は前記第2回折格子の周期を1/mにすることを特徴とする、請求項15に記載の検出方法。
【請求項20】
前記検出工程において、前記第1回折格子及び前記第2回折格子の一方で回折され、さらに他方で回折された回折光を検出光学系の検出開口を介して検出し、
前記検出光学系の検出開口は、前記検出光学系の瞳面において、前記照明光学系の瞳面における前記第1極と前記第2極の位置より光軸側の位置に配置されていることを特徴とする請求項15乃至19の何れか1項に記載の検出
方法。
【請求項21】
請求項15乃至20の何れか1項に記載の検出方法を用いて、検出された回折光に基づいて型に設けられた第1回折格子と基板に設けられた第2回折格子の第1方向の相対位置を求める工程と、
求められた相対位置に基づいて前記型と前記基板を位置合せする工程と、
位置合せされた前記基板上の組成物にパターンを形成する工程と、
パターンが形成された基板から物品を製造する工程と、を有することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項22】
請求項15乃至20の何れか1項に記載の検出方法を用いて、検出された回折光に基づいて型に設けられた第1回折格子と基板に設けられた第2回折格子の第1方向の相対位置を求める工程と、
求められた相対位置に基づいて前記型と前記基板を位置合せする工程と、
位置合せされた型を用いて基板上の組成物を平坦化する工程と、
平坦化された組成物を有する基板上にパターンを形成する工程と、
パターンが形成された基板から物品を製造する工程と、を有することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置、インプリント装置、平坦化装置、検出方法及び物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光インプリント方式の半導体製造技術が知られている。まず、基板(例えば半導体ウエハ)上に光硬化樹脂からなる樹脂層を形成する。次に、所望の凹凸構造が形成されたモールドを前記樹脂層に押し当て、加圧する。その後、紫外線を照射することで光硬化樹脂を硬化させ、樹脂層に凹凸構造が転写される。更に、この樹脂層をマスクとしてエッチング等を行い、基板へ所望の構造が形成されることになる。このような半導体製造に際しては、モールドと基板のアライメント(位置合わせ)が必要である。例えば、半導体のプロセスルールが100nm以下になるような昨今の状況において、装置に起因するアライメント誤差(位置合わせ誤差)の許容範囲は、数nm~数十nmと言われる程、厳しいものとなっている。
【0003】
モールドと基板の位置合せを行うための方法として、モールドのアライメントマークと基板のアライメントマークにより形成されるモアレ縞を検出し、検出結果に基づいてアライメントマーク間の相対位置を求める方法がある。非特許文献1は、アライメントマークとして1方向に周期をもつ1次元の回折格子を1方向からのみの斜入射照明で照明して、暗視野でモアレ縞を検出する方法を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Shaolin Zhou,Song Hu,Yongqi Fu,Xiangmin Xu,and Jun Yang,“Moire interferometry with high alignment resolution in proximity lithographic process”,APPLIEDOPTICS,10 February 2014,Vol.53,No.5,pp951-959
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1による方法では、1次元の回折格子の周期方向におけるモールドと基板の相対位置が変化しなくても、モールドと基板の間隔等が変わると、検出されるモアレ縞に位置ずれが生じ、計測誤差が大きくなってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、複数の回折格子により形成されるモアレ縞を高精度に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の一側面としてのインプリント装置は、型を用いて基板上にパターンを形成するインプリント装置において、第1方向に周期をもつ1次元の第1回折格子を有する型と、前記第1方向に前記第1回折格子と異なる周期をもつ1次元の第2回折格子を有する基板と、前記第1回折格子と前記第2回折格子とを照明する照明光学系と、前記第1回折格子と前記第2回折格子で回折された回折光を検出する検出光学系と、を備え、前記照明光学系は、その瞳面において第1極と光軸に対して前記第1極とは反対側の第2極とを形成するための光学部材を有し、前記照明光学系により前記第1極と前記第2極からの光を前記第1方向から斜入射させて前記第1回折格子及び前記第2回折格子を照明することによって前記第1回折格子及び前記第2回折格子の一方で回折され、さらに他方で回折された回折光を前記検出光学系が検出する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の回折格子により形成されるモアレ縞を高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態における回折光を示した図である。
【
図2】インプリント装置の概略構成を示した図である。
【
図3】第1実施形態に係る検出装置の構成の一例を示す図である。
【
図5】モアレ縞を発生するアライメントマーク及びモアレ縞を示す図である。
【
図6】光学系の瞳面における照明光及び検出開口を示す図である。
【
図7】光学系の瞳面における照明光及び検出開口の変形例を示す図である。
【
図8】電磁場解析によって得られたモアレ縞の波形を示す図である。
【
図9】第2実施形態における回折光を示した図である。
【
図10】第3実施形態における回折光を示した図である。
【
図11】セグメント化された回折格子の断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
図2は、本実施形態のインプリント装置の構成を示す図である。このインプリント装置は、半導体デバイスなどのデバイス製造に使用され、被処理体である基板(ウエハやガラス)上の未硬化樹脂(インプリント材、組成物)をモールド(型)で成形し、樹脂のパターンを基板上に形成する装置である。なお、本実施形態のインプリント装置は、光硬化法を採用するものとする。また、以下の図においては、基板およびモールドに平行な面内に互いに直交するX軸およびY軸をとり、X軸とY軸とに垂直な方向にZ軸を取っている。インプリント装置1は、紫外線照射部2と、計測光学系3と、モールド保持部4と、ウエハステージ5と、塗布部6と備える。また、インプリント装置1は、インプリント装置1の各部を制御する制御部Cを有する。
【0011】
紫外線照射部2は、モールド7とウエハ8上の樹脂とを接触させる押型処理の後に、樹脂を硬化させるために、モールド7に対して紫外線を照射する紫外線照射装置である。この紫外線照射部2は、不図示であるが、光源と、該光源から射出される紫外線を被照射面となる後述の凹凸パターン7aに対して所定の形状で均一に照射するための複数の光学素子とから構成される。特に、紫外線照射部2による光の照射領域(照射範囲)は、凹凸パターン7aの表面積と同程度、または凹凸パターン7aの表面積よりもわずかに大きいことが望ましい。これは、照射領域を必要最小限とすることで、照射に伴う熱に起因してモールド7またはウエハ8が膨張し、樹脂に転写されるパターンに位置ズレや歪みが発生することを抑えるためである。加えて、ウエハ8などで反射した紫外線が後述の塗布部6に到達し、塗布部6の吐出部に残留した樹脂を硬化させてしまうことで、後の塗布部の動作に異常が生じることを防止するためでもある。ここで、光源としては、例えば、高圧水銀ランプ、各種エキシマランプ、エキシマレーザーまたは発光ダイオードなどが採用可能である。なお、この光源は、被受光体である樹脂の特性に応じて適宜選択されるが、光源の種類、数、または波長などにより限定されるものではない。
【0012】
また、モールド7は、ウエハ8に対する面に所定のパターン(例えば、回路パターン等の凹凸パターン7a)が3次元状に形成された型である。なお、モールド7の材質は、紫外線を透過させることが可能な石英などである。
【0013】
モールド保持部(型保持部)4は、真空吸着力や静電力によりモールド7を引きつけて保持する型保持手段である。モールド保持部4は、不図示であるが、モールドチャックと、ウエハ8上に塗布された紫外線硬化樹脂にモールド7を押し付けるためにモールドチャックをZ軸方向に駆動するモールド駆動機構を含む。さらに、モールド保持部4は、モールドをX軸方向およびY軸方向に変形させて樹脂に転写されるパターンの歪みを補正するモールド倍率補正機構も含みうる。なお、インプリント装置1における押型および離型の各動作は、このようにモールド7をZ方向に移動させることで実現してもよいが、例えば、ウエハステージ5(ウエハ8)をZ方向に移動させることで実現してもよく、または、その両方を移動させてもよい。
【0014】
ウエハステージ5は、ウエハ8を例えば真空吸着により保持し、かつ、XY平面内を移動可能とする基板保持部である。ここで、ウエハ8は、例えば、単結晶シリコンからなる被処理体であり、この被処理面には、モールド7により成形される紫外線硬化樹脂(以下、単に「樹脂」と表記する)9が塗布される。
【0015】
また、インプリント装置1は、モールド7とウエハ8との相対アライメントのための計測を行う計測光学系3(検出装置)を備える。計測光学系3はモールドとウエハとにそれぞれ配置されたアライメントマーク10および11を光学的に検出して両者の相対位置を計測するための光学系であり、その光軸がモールドまたはウエハに対して垂直になるように配置されている。また、計測光学系3はモールドもしくはウエハに配置されたマークの位置に合わせて、X軸方向およびY軸方向に駆動可能なように構成されている。さらには、マークの位置に光学系の焦点を合わせるためにZ軸方向にも駆動可能なように構成されている。制御部Cは、計測光学系3で計測されたモールドとウエハの相対位置の情報(検出装置の検出結果)に基づいてウエハステージ4や倍率補正機構の駆動を制御する。計測光学系3とアライメントマーク10および11については後で詳述する。
【0016】
塗布部6は、ウエハ8上に樹脂(未硬化樹脂)9を塗布する塗布手段である。ここで、樹脂9は、紫外線を受光することにより硬化する性質を有する光硬化性樹脂であって、半導体デバイスの種類などにより適宜選択される。なお、塗布部6は、
図1に示すようにインプリント装置1の内部に設置せず、別途外部に塗布装置を準備し、この塗布装置により予め樹脂を塗布したウエハ8をインプリント装置1の内部に導入する構成もあり得る。この構成によれば、インプリント装置1の内部での塗布工程がなくなるため、インプリント装置1での処理の迅速化が可能となる。また、塗布部6が不要となることから、インプリント装置1全体としての製造コストを抑えることができる。
【0017】
次に、インプリント装置1によるインプリント処理について説明する。まず、不図示の基板搬送部によりウエハ8をウエハステージ5に搬送し、このウエハ8を載置および固定させる。続いて、ウエハステージ5を塗布部6の塗布位置へ移動させ、その後、塗布部6は、塗布工程としてウエハ8の所定のショット(インプリント領域)に樹脂(未硬化樹脂)9を塗布する。次に、ウエハ8上の塗布面がモールド7の直下に位置するように、ウエハステージ5を移動させる。次に、モールド駆動機構を駆動させ、ウエハ8上の樹脂9にモールド7を押型する(押型工程)。このとき、樹脂9は、モールド7の押型によりモールド7に形成された凹凸パターン7aに沿って流動する。さらにこの状態で、ウエハ8およびモールド7に配置されたマーク10および11を計測光学系3によって検出する。そして、制御部Cは、検出結果に基づいて、ウエハステージ5の駆動によるモールド7の押型面とウエハ8上の塗布面とのアライメント、および倍率補正機構によるモールド7の倍率補正などを実施する。樹脂9の凹凸パターン7aへの流動と、モールド7とウエハ8とのアライメントおよびモールドの倍率補正などが十分になされた段階で、紫外線照射部は硬化工程としてモールド7の背面(上面)から紫外線を照射する。モールド7を透過した紫外線により樹脂9が硬化する。この際、計測光学系3は紫外線の光路を遮らないように退避駆動される。続いて、モールド駆動機構を再駆動させ、モールド7をウエハ8から離型させる(離型工程)ことにより、ウエハ8上にモールド7の凹凸パターン7aが転写される。
【0018】
続いて、計測光学系3とモールド7およびウエハ8にそれぞれ配置されたアライメントマーク10および11の詳細を説明する。
図3は本実施形態の計測光学系3の構成の一例を示す図である。計測光学系3は検出光学系21と照明光学系22で構成されている。照明光学系22はアライメント光源23からの光を、プリズム24などを用いて、検出光学系21と同じ光軸上へ導き、アライメントマーク10および11を照明する。アライメント光源23には例えばハロゲンランプやLED、半導体レーザー(LD)、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプが用いられ、レジストを硬化させる紫外線を含まない可視光線や赤外線を照射するように構成されている。検出光学系21と照明光学系22はそれらを構成する光学部材の一部を共有するように構成されており、プリズム24は検出光学系21と照明光学系22の瞳面もしくはその近傍に配置されている。アライメントマーク10および11はそれぞれ回折格子から構成され、検出光学系21は照明光学系22によって照明されたアライメントマーク10と11からの回折光同士の干渉により発生する干渉縞(モアレ縞)を撮像素子25上に結像する。撮像素子25はCCDやCMOSなどが用いられる。モールド7およびウエハ8上のアライメントマーク(回折格子)による回折光によって干渉縞(モアレ縞)が発生するため、モールド7およびウエハ8の回折格子の回折効率によって、得られるモアレ縞の光量が変わってくる。特に、回折効率は波長に対して変化するため、効率よくモアレ縞を検出することができる波長とモアレ縞の検出が困難な波長が出てくる。モアレ縞の検出が困難な波長の光はノイズとなりうる。
【0019】
プリズム24はその貼り合せ面において、照明光学系の瞳面の周辺部分の光を反射して回折格子に導く反射膜24a(導光部)が構成されている。
図3に示す構成では、プリズム24の反射膜24aにより回折格子を照明する光を形成する。
【0020】
また、反射膜24aは、検出光学系21の瞳の大きさNAo(検出NA)を規定する開口絞りとしても働き、反射膜24aより内側の、光軸に近い中心部分を透過した回折光を撮像素子25に導く。ここで、プリズム24は、貼り合せ面に半透膜を有するハーフプリズムや、あるいはプリズムに限らず表面に反射膜を成膜した板状の光学素子などであってもよい。また、
図3のプリズム24の周辺部分24aを透過部(導光部)、中心部分を反射部とし、アライメント光源23と撮像素子25の位置を入れ替えた構成としてもよい。この構成では、プリズム24の周辺部分24aの透過部を透過した光が回折格子に導かれて、回折格子からの回折光が反射部で反射され、撮像素子で受光される。これらの構成によると、アライメント光源23からの照明光100、101は、XZ面内においてアライメントマーク10および11を斜め方向から照明し、そこから発生する回折光102を信号検出用のNAo内に取り込むことができる。ここで、照明光100と101は、XZ面内において、照明光学系の光軸に関して反対側、好ましくは対称に配置される。
【0021】
なお、本実施形態にかかる開口絞りが配置される位置は、必ずしもプリズム24でなくてもよい。例えば、
図4に示すように、検出光学系21と照明光学系22はそれぞれ、その瞳面に個別の開口絞り26および27を有する構成としてもよい。この構成では、プリズム24にはその貼り合せ面に半透膜を有するハーフプリズム等が用いられる。また、開口絞りは、瞳面における光強度分布を形成できる位置であれば、検出光学系21と照明光学系22の瞳面もしくはその近傍でなくてもよい。
【0022】
図5(a)~(f)を参照して、アライメントマーク10及び11からの回折光によるモアレ縞の発生の原理、及び、かかるモアレ縞を用いたアライメントマーク10(モールド7)とアライメントマーク11(
ウエハ8)との相対位置の検出について説明する。
図5(a)及び
図5(b)に示すように、アライメントマーク10としてモールド7に設けられた回折格子(第1回折格子)41と、アライメントマーク11として
ウエハ8に設けられた回折格子(第2回折格子)42はX方向に周期をもつ1次元の回折格子である。1次元の回折格子は、1方向(第1方向)に周期的に多数の直線(凹凸や反射膜など)が平行に並んだ1次元パターンを有する。第1回折格子41と第2回折格子42では、周期方向(パターン繰り返し方向)においてパターン(格子)の周期が僅かに異なっている。このような格子の周期が互いに異なる2つの回折格子を重ねると、2つの回折格子からの回折光同士の干渉によって、回折格子間の周期差を反映した周期を有するパターン、所謂、モアレ縞が現れる。この際、回折格子41、42同士の相対位置によってモアレ縞の位相が変化するため、モアレ縞を検出することでアライメントマーク10とアライメントマーク11との相対位置、即ち、モールド7と
ウエハ8との相対位置を求めることができる。ここで、回折格子41と回折格子42の周期方向における相対位置が変化したとき、モアレ縞はX方向に移動する。
【0023】
具体的には、周期が僅かに異なる回折格子41と回折格子42とを重ねると、回折格子41及び42からの回折光が重なり合うことで、
図5(c)に示すように、周期の差を反映した周期を有するモアレ縞が発生する。モアレ縞は、上述したように、回折格子41と回折格子42との相対位置によって明暗の位置(縞の位相)が変化する。例えば、回折格子41及び42のうち一方の回折格子をX方向にずらすと、
図5(c)に示すモアレ縞は、
図5(d)に示すモアレ縞に変化する。
図5(c)及び
図5(d)は撮像素子25によって取得されるモアレ縞の画像であり、それぞれの画像に対応するモアレ縞の信号を
図5(e)及び
図5(f)に示す。
図5(e)、
図5(f)の横軸はX座標であり、縦軸は信号強度を表す。モアレ縞は、回折格子41と回折格子42との間の実際の位置ずれ量を拡大し、格子の周期よりも大きな周期の縞として発生するため、検出光学系21の解像力が低くても、回折格子41と回折格子42との相対位置を高精度に計測することができる。
【0024】
このようなモアレ縞を検出するために、回折格子41及び42を斜め2方向から照明し、回折光のみを暗視野で検出する場合を考える。
図6は、計測光学系3の照明光学系22によって形成される照明光の瞳強度分布(IL1乃至IL2)と、検出光学系21の開口数NAoとの関係を示す図である。第1極IL1は照明光100(
図3、4参照)を形成し、第2極IL2は照明光101(
図3、4参照)を形成する。なお、ここでは、照明光学系22の瞳面における光強度分布において周囲よりも強い光強度を有する領域を極と呼ぶ。第1極IL1からの照明光100は、X方向に周期性を有する回折格子41、42に照射され、XZ面内の所定の方向に回折光が発生する。その際、回折格子41、42で回折を受けない反射光成分(所謂0次回折光)は検出用のNAo内に戻らないため、暗視野検出が実現される。そして、周期が僅かに異なる回折格子41,42によってXZ面内に回折した光は、2つの回折格子間のX方向の相対位置情報を有して、検出光学系21の瞳上の検出領域(NAo)に入射し、撮像素子25で検出される。第2極IL2からの照明光は、同様に暗視野照明を実現し、周期が僅かに異なる回折格子41,42によってXZ面内に回折した光は検出光学系21の瞳上の検出領域(NAo)に入射し、撮像素子25で検出される。ここで、照明光100及び101は、XZ面内において、光軸103(
図3、4参照)に関して反対側好ましくは対称な配置となっている。2つの照明光によって形成されるモアレ縞を合成して計測することにより、回折格子41、42の相対位置を高精度に求めることができる。
【0025】
ただし、アライメントマーク10と11は、それらのZ方向の位置や間隔(距離)は常に不変に保たれることが理想であるが、実際には僅かであるが変動する。その際、第1極IL1或いは第2極IL2の一方の照明によってモアレ縞の計測を行うと、計測結果が両アライメントマーク間のZ方向の距離や位置によって変動してしまう。両アライメントマーク間のZ方向の距離や位置が変わると、照明光がマークにより反射又は回折される位置が周期方向にずれてしまい、結果としてモアレ縞が周期方向にずれてしまう。しかし、アライメントマークのZ方向の距離や位置の変動に対して、第1極IL1の照明光と、第2極IL2の照明光とでは、モアレ縞のずれの方向は逆方向に発生する。そこで、本実施形態では、第1極IL1及び第2極IL2を光軸に対して反対側好ましくは対称に配置することで、両マーク間のZ方向の距離が変動に対しても、モアレ縞のずれを小さくし、マーク間の相対位置の計測誤差を低減している。第1極IL1及び第2極IL2を光軸に対して対称に配置した場合は、モアレ縞のずれ量の大きさが同じで逆方向にずれが発生するので、ずれが相殺されて、計測誤差が発生しない構成にすることができる。なお、
図6において第1極IL1及び第2極IL2の中心位置がX軸上にあるが、X軸方向から照明する照明光成分があれば、X軸上からY方向にずれた位置にあってもよい。
【0026】
回折格子によって回折された光について、
図1(a)に第1極IL1の光の経路、
図1(b)に第2極IL2の光の経路の一例を示す。回折格子11による回折の回折次数を変数mで表し、回折格子10による回折の回折次数を変数nで表すと、両回折格子によって連続的に回折を起こすことによって生成される合成回折光は次数(m,n)の組み合わせによって表すことができる。ここで、mとnは整数である。
【0027】
第1極IL1からの照明光100は、モールド上のアライメントマーク10(回折格子41)を透過し、ウエハ上のアライメントマーク11(回折格子42)を照射する。回折格子42は反射型であり、回折格子42により回折次数m1、m2で規定される方向に回折光が発生する。それぞれの回折光は回折格子41を下面から照射し、回折格子41により回折次数n1、n2で規定される方向に回折光が発生する。2つのアライメントマークで回折された光束は、(m,n)=(m1,n1)次数の組み合わせで規定される合成回折光110、及び(m,n)=(m2,n2)次数の組み合わせで規定される合成回折光111として検出光学系21の方向へ進む。2つの合成回折光110、11が検出光学系21の瞳、即ち開口数NAo内に導かれて干渉することによってモアレ縞が形成される。モアレ縞が適切に撮像素子で観察されるためには、回折格子40、41のピッチと照明光100の照明角度を適切に設定するとともに、回折次数m1次、m2次、n1次、n2次(整数)を適切に選択する必要があり、具体的な設定、選択の例は後述する。
【0028】
第2極IL2からの照明光101は、照明光学系の光軸に対して照明光100とは反対側(逆の方向)からアライメントマーク10、11を照明する。2つのアライメントマークからの回折によって生成される合成回折光112と113の干渉によってモアレ縞が形成される。ここで、照明光100と照明光101が光軸に対して対称的に配置される場合、合成回折光112は(m,n)=(-m1,-n1)次数の組み合わせで規定され、合成回折光113は(m,n)=(-m2,-n2)次数の組み合わせによって規定される。ここで、照明光100及び照明光101に共通して、紙面に向かって見た場合、回折次数の符号を0次光に対して左側(一方側)を正、右側(他方側)を負として、
図1や以降の図においても表記している。
【0029】
照明光100と照明光101は互いにインコヒーレント(干渉性が低い)であるため、2つのモアレ縞は撮像素子25上で強度として足し合わされ、ひとつのモアレ縞として検出される。
【0030】
モールド上のアライメントマーク10(回折格子41)のピッチをP1、ウエハ上のアライメントマーク11(回折格子42)のピッチをP2とすると、モアレ縞の周期はP1×P2/|P1-P2|で表すことができる。つまり、アライメントマーク10のシフト量に対して、計測されるモアレ縞はP2/|P1-P2|だけ拡大してシフトするため、アライメントマーク10を単体で計測よりも精度よく位置を計測することができる。
【0031】
ここで、モールド上の回折格子とウエハ上の回折格子は物理的にZ方向(フォーカス方向)の位置に差(以降、ギャップ)が生じる場合を考える。例えば、第1極IL1のみによって照明を行うと、モアレ縞を形成する2つの合成回折光110と111の振幅が異なる場合には、モールド上の回折格子とウエハ上の回折格子のギャップ量に依存して、計測されるモアレ縞の位置に差が生じる。例えば、光線の入射角度が8度、モールド上の回折格子とウエハ上の回折格子のギャップ量が100nmの場合、14nmの位置誤差が生じることになる。特に、モールド上の回折格子とウエハ上の回折格子のギャップ量の大きい装置を製作する場合や、モールドとウエハとの間に屈折率の大きな物質を用いる場合、ギャップ量による計測誤差は無視できない量となる。
【0032】
そこで、モールド上の回折格子とウエハ上の回折格子のギャップによる計測誤差を緩和するため、本実施形態では照明光としての第1極と第2極の2方向から回折格子を照射している。第1極および第2極からの照明によって、それぞれの極によって形成されるモアレ縞は反対方向へシフトして形成される。それぞれの極からのモアレ縞が合成されて検出されるため、コントラストは下がるがシフトとしては検出されない。そのため、モールド上の回折格子とウエハ上の回折格子のギャップによる誤差を小さくすることができる。つまり、第1極のみから光を照射した場合と、第1極および第2極から光を照射した場合とでは、形成されるモアレ縞のシフト量という点から、2つの極を用いて照射した方が有利である。
【0033】
なお、これまで、X方向に周期性をもつ回折格子について説明したが、Y方向に周期性をもつ回折格子を追加して用いても良い。照明光として
図7に示すように照明光を用いる。
図7は、照明光学系22の瞳面における光強度分布(極IL1乃至IL4)と、検出光学系21の開口数NAoとの関係を示す図である。
図7の照明光には、極IL1と極IL2の他に、Y方向に配置された極IL3とIL4が追加されている。極IL1と極IL2は、X方向に沿って斜め方向から回折格子を照明し、極IL3とIL4は、Y方向に沿って斜め方向から回折格子を照明する。つまり、この照明光によって、X方向およびY方向の両方から斜入射で回折格子を照明することが可能である。これにより、Y方向からの照明(極IL3およびIL4)によって、モールド上のY方向のアライメントマークおよびウエハ上のY方向のアライメントマークの相対位置を計測することができる。このとき、X方向に周期をもつ1次元の回折格子とY方向に周期をもつ1次元の回折格子を撮像素子25で検出できる範囲に配置する。そして、
図7の照明光で照明された回折格子が形成するモアレ縞を撮像することによって、X方向およびY方向の相対位置を一度の撮影で計測することが可能である。これにより、XとY両方の計測に必要な時間を短縮することができる。このとき、非計測方向からの光(X方向の回折格子の場合はIL3およびIL4、Y方向の回折格子の場合はIL1およびIL2)は、検出光学系21の開口数NAoで検出されない。そのため、迷光として検出されないので、計測精度には影響しない。
【0034】
なお、照明光学系22の瞳面における光強度分布において、周囲よりも強い光強度を有する領域を極としているが、極と極の間に光があっても良い。さらに、光強度分布の形状として、輪帯状であってもよい(輪帯照明)。この場合、X方向とY方向においてそれぞれ、2つの光強度のピーク(極)が形成される。そのため、輪帯照明を用いても照明光学系は非計測方向に、複数の極を有する光を照射することができる。また、照明光学系22の瞳面における光強度分布を形成する手段としては、上記の開口絞り以外にも、回折光学素子、ホログラム、ファイバやプリズムなどの光束を変形する光学部材を用いることができる。
【0035】
インプリント装置1の制御部は、以上のように検出されたモアレ縞のデータを取得し、取得したモアレ縞のデータに基づいてモールドとウエハの各アライメントマーク間の相対位置を求める。そして、求めた相対位置に基づいて、X、Y方向におけるモールドとウエハの相対位置、モールドの形状又はウエハのショット形状を制御する。モールドとウエハの相対位置は、ウエハステージやモールドステージを駆動させて行う。モールドの変形はモールドの側面に圧力を加える機構を用いることができる。ウエハのショット形状は、ウエハを光で照射して加熱することによって変形することができる。
【0036】
モールドとウエハの相対位置、モールドの形状又はウエハのショット形状を制御した後に、再び相対位置計測を行う処理を繰り返すことによって、精度よくモールドとウエハの位置や形状の調整を行うことが可能となる。
【0037】
以上のように、本実施形態によれば、光軸に対して互いに反対側の2方向からの照明光で1次元の回折格子を照明してモアレ縞を検出することによって、モアレ縞の横ずれを低減し、計測精度を向上させることができる。
【0038】
(実施例1)
回折格子の具体的な例を説明する。モールド上の回折格子41のピッチをP1=5.2μm、ウエハ上の回折格子42のピッチをP2=4.2μmとする。照明光100に対しては、(m,n)=(0,1)と(m,n)=(1,0)の2つの合成回折光の干渉によって形成されるモアレ縞の周期はP1×P2/(P1-P2)=21.84μmとなる。同様に照明光101に対しては、(m,n)=(0,-1)と(m,n)=(-1,0)の2つの合成回折光の干渉によって形成されるモアレ縞の周期もP1×P2/(P1-P2)=21.84μmとなる。この時、ウエハ側に1μmのシフトが生じた場合、モアレ縞は5.2μmシフトするため、ウエハ側の回折格子の位置ずれ量に対して、5.2倍の精度で計測が可能となる。
【0039】
検出光学系21の開口数NAoを0.07、照明光学系22の瞳強度分布(IL1乃至IL4)の照明光入射角度を8.6度(NA0.15相当)、照明光の波長をλ=0.7μmとする。この条件では、(m,n)=(0,0)で規定される0次回折光は検出光学系21の開口数の外に照射されるため、検出されない。ウエハで0次で反射した光であって、モールド側で±1次で回折した光、即ち(m,n)=(0,±1)で規定される合成回折光は、NAo=0.07の範囲内に収まって検出光学系21へ向かう。また、ウエハ側の回折格子で±1次に回折してモールド側の回折格子を透過する光、即ち(m,n)=(±1,0)の合成回折光もNAo=0.07の範囲内に収まって検出光学系21へ向かう。即ち上記のパラメータを用いることにより、
図1に示す合成回折光110、111、112、113は何れも検出光学系21に導かれてモアレ縞の形成に寄与できる。
【0040】
ここで、照明光の波長λを0.7μmとしたが、検出光学系21の開口数NAoで検出できる範囲で波長を変更することや、ブロードな波長を用いることが可能である。また、上記実施例では、回折光の回折次数を-1≦m,n≦1の範囲に限定した。しかし、m、nの次数として±2次や±3次、更なる高次であっても、(m,n)の組み合わせで規定される合成回折光が検出光学系21の開口数NAo内に取り込むことができれば、モアレ縞を発生させることができる。ただし、一般的に回折次数が高くなればなるほど回折光の振幅が弱くなるため、撮像素子25によってモアレ縞の信号を検出することができなくなるという問題が出てくる。
【0041】
図8に電磁場解析によって得られたモアレ縞の波形を示す。横軸はパターンの位置、縦軸は撮像素子25で得られる光の明るさである。ここでは、モアレ縞2周期分の長さの回折格子パターンで計算している。
図8によれば、正弦波状のモアレ縞が発生していることがわかる。ここで、モアレ縞に一定値のバイアスが生じていることがわかる。これは、(m,n)=(0,1)の合成回折光と(m,n)=(1,0)の合成回折光の光強度(検出した場合の検出信号の振幅)が異なるためである。モールド上の回折格子41からの回折効率(次数mに依存)と、ウエハ上の回折格子42からの回折効率(次数nに依存)が異なるため、両者の合成によって与えられる合成回折効率にアンバランスが生じて、バイアスとなる。回折効率は、回折パターンの形状や材料の違いによって生じ、また、波長によっても異なる。材料の反射率に波長依存性があるためである。バイアスはない方が好ましいが、コントラストが得られれば精度よく計測することが可能である。
【0042】
バイアス成分を減らすためには、光源23からの光の波長を、モアレ縞を形成する合成回折光の光強度(検出信号の振幅)が等しくなるように、選択することによって達成できる。波長を選択する手段として、光源23でレーザーを用いる場合は、互いに異なる波長の複数のレーザーをビームスプリッタ等で合成しておいて、必要な波長のレーザーだけ点灯させたり、各レーザーの出力強度を調整させたりする手段が考えられる。また、光源23がハロゲンランプやメタルハライドランプ、LED光源などブロードな光源の場合は、波長カットフィルタを用いて特定波長のみを透過又は反射させて、回折格子を照明することができる。
【0043】
また、モアレ縞を形成する合成回折光のそれぞれの振幅を等しくするための手段として回折格子のパターンをセグメント化することが挙げられる。セグメント化とは、回折格子パターンのうち、例えば、通常1つの凸部に相当する数μmの幅の部分に、10~500nm程度の周期で複数の凹凸パターン(以下、セグメント部分)を形成することである。
図11(a)に示すように、通常、回折格子は周期的な凹凸のパターンが形成され、隣り同士の凸部51、52の間隔が回折格子の周期(ピッチ)Pとして表される。
図11(b)に、セグメント化された回折格子の断面拡大図を示す。
図11(b)に示すように、凸部51、52に対応する部分にさらに微細な凹凸のパターンが形成されており、この部分をセグメント部分53、54と呼ぶ。セグメント部分53、54の間隔が回折格子の周期Pであり、各セグメント部分には周期Pよりも小さい周期P1で微細な凹凸パターンが形成されている。通常の回折格子パターンをセグメント化することによって、高次の回折光が発生したりして、回折効率が下がる。そのため、回折効率の高い回折格子のパターンをセグメント化して、所定の次数の回折光の回折効率を下げることによって、各合成回折光の光強度を調整することができる。
【0044】
さらに、回折格子の凹凸パターンのデューティ(凹部の幅に対する凸部の幅の比)を変化させることによっても、各合成回折光の光強度を調節することができる。
【0045】
<第2実施形態>
次に、
図9に基づいて第2実施形態について説明する。本実施形態の装置は、第1実施形態と同じ構成の装置(
図2~4)に対して適用できる。
図9は第2実施形態における照明光及び合成回折光の振る舞いを示す。照明光100、101がそれぞれモールド上のアライメントマーク10(回折格子41)を透過し、ウエハ上のアライメントマーク11(回折格子42)で回折次数mによって反射して回折する。このように反射した回折光が、モールド上の回折格子でn次の次数で回折して検出光学系21の開口数NAo内に入る。回折次数m、n、符号の定義は上記の実施形態、実施例の説明で用いたものと同様である。
図9には、第1極IL1による照明光100と第2極IL2による照明光101それぞれによって発生する合成回折光のうち、検出光学系21に入射してモアレ縞形成に寄与する成分のみを示す。120は(m,n)=(0,1)、121は(m,n)=(2,-1)で規定される合成回折光であり、干渉によって第1のモアレ縞を形成する。122は(m,n)=(0,-1)、123は(m,n)=(-2,1)で規定される合成回折光であり、干渉によって第2のモアレ縞を形成する。第1、第2のモアレ縞は同一の周期を有しており、その足し合わせによってモアレ縞信号が得られ、モールド上のアライメントマーク10とウエハ上のアライメントマーク11の相対位置を計測することができる。
【0046】
ウエハ上の回折格子42については、m=0とともにm=±2次の回折光を用いるため、m=±1次の回折効率を抑制してm=±2次の回折効率を増強可能なパターンを用いることが望ましい。簡単には、ウエハ上の回折格子42の±1次の回折光が、m=±2次に相当する回折角度で回折するようなピッチを有するパターンにすることで実現することができる。これにより、
図8で示すようなバイアス成分を抑えることができる。
【0047】
照明条件は、第1実施形態と同様に、
図6および
図7に示す計測光学系3の照明光学系22の瞳強度分布を用いることが可能である。第1実施形態との違いは、第1実施形態はウエハ側の回折光としてm=0次とm=±1次を用いたが、第2実施形態では、ウエハ側の回折光としてm=0次とm=±2次を用いる点である。これにより、モールド上のアライメントマーク10(回折格子41)のピッチをP1、ウエハ上のアライメントマーク11(回折格子42)のピッチをP2とすると、モアレ縞の周期はP1×P2/(2×|P1-P2|)で表される。そのため、アライメントマーク10のシフト量に対して、モアレ縞はP2/(2×|P1-P2|)だけ拡大してシフトする。第1実施形態と比較して、拡大の倍率は1/2になるが、その分、周期の短いモアレ縞が形成される。
【0048】
ウエハ上の回折格子パターンの形状に誤差(パターン倒れ、パターンエッジのかけ等)が生じると、形成されるモアレ縞に歪みが生じる。そのため、モアレ縞の周期数が少ないと、回折格子パターンの形状誤差による影響を大きく受ける。周期の短いモアレ縞を形成することができれば、同じパターン領域に周期数の多いモアレ縞を形成できるため、ウエハ上の回折格子パターンの形成誤差に対して有利となる。
【0049】
m=±2次の回折光の強度を強めるための手法として、回折格子のパターンをセグメント化するということがあげられる。m次の回折光の強度を強くしたい場合、回折格子のパターンの周期を1/m(mは整数)にする。つまり、回折格子パターンにP2´=P2/mのパターンを形成する。例えば、回折格子パターンにP2´=P2/2のパターンを形成することによって、m=±2次回折光の強度(振幅)を上げることができる。
【0050】
(実施例2)
ここで第2実施形態の具体的な構成を記述する。モールド上の回折格子41のピッチをP1=5.2μm、ウエハ上の回折格子42のピッチをP2=4.6μmとする。(m,n)=(2,-1)と(m,n)=(0,1)で規定される回折光によって形成されるモアレ縞の周期はP1×P2/(2×|P1-P2|)=19.93μmとなる。この時、ウエハ側に1μmのシフトが生じた場合、モアレ縞は8.7μmシフトするため、ウエハ側の回折格子の位置ずれ量に対して、8.7倍の精度で計測が可能となる。
【0051】
回折格子42のピッチはP2=4.6μmであるが、本実施例ではm=±2次回折光の回折効率を高めるため、実質的にP2´=P2/2=2.3μmのピッチを有する回折格子パターンを採用する。
【0052】
検出光学系21の開口数NAoを0.07、照明光学系22の瞳強度分布(IL1乃至IL4)からの照明角度を8.6度、照明光の波長をλ=0.7μmとする。この条件では、(m,n)=(0,0)で規定される0次回折光は検出光学系21の開口数の外に照射されるため、検出されない。一方で
図9に示す合成回折光120、121、122、123は何れも検出光学系21に導かれてモアレ縞の形成に寄与できる。
【0053】
<第3実施形態>
次に、
図10に基づいて第3実施形態について説明する。本実施形態の装置は、第1実施形態と同じ構成の装置(
図2~4)に対して適用できる。
図10は、第3実施形態の照明光及び合成回折光の振る舞いを示す。照明光100、101がそれぞれモールド上の回折格子41を透過し、ウエハ上の回折格子42で回折次数mによって反射した光が、モールド上の回折格子でn次に回折して検出光学系21の開口数NAo内に入る。
図10には、第1極IL1による照明光100と第2極IL2による照明光101それぞれによって発生する合成回折光のうち、検出光学系21に入射してモアレ縞形成に寄与する成分のみを示す。130は(m,n)=(1,0)、131は(m,n)=(2,-1)で規定される合成回折光であり、干渉によって第1のモアレ縞を形成する。132は(m,n)=(-1,0)、133は(m,n)=(-2,1)で規定される合成回折光であり、干渉によって第2のモアレ縞を形成する。第1、第2のモアレ縞は同一の周期を有しており、その足し合わせによってモアレ縞信号が得られ、モールド上のアライメントマーク10とウエハ上のアライメントマーク11の相対位置を計測することができる。
【0054】
上記の合成回折光を使用することによるメリットは、ウエハ上の回折格子からのm=0次の回折光(直接反射光)を用いないため、ノイズとなる余分な光が有効に除去できることである。これにより、検出光学系21で検出されるモアレ縞のバイアス成分を抑えることが可能である。
【0055】
ここでウエハ上の回折格子について、m=1次とm=2次、或いはm=-1次とm=-2次の回折光を用いるため、回折光の振幅に違いが生じる。一般に高次の回折光は振幅が小さくなるため、高次回折光の回折効率を高めるパターンが望ましい。高次の回折光の振幅を上げるための手法として、前述のパターンをセグメント化する方法があげられる。
【0056】
照明条件は、第1実施例と同様に、
図6および
図7に示す計測光学系3の照明光学系22の瞳強度分布を用いることが可能である。
【0057】
モールド上のアライメントマーク10のピッチをP1、ウエハ上のアライメントマーク11のピッチをP2とすると、モアレ縞の周期はP1×P2/|P1-P2|で表される。そのため、アライメントマーク10のシフト量に対して、P2/|P1-P2|だけ拡大してシフトする。
【0058】
(実施例3)
ここで第3実施形態の具体的な構成を記述する。モールド上の回折格子41のピッチをP1=2.8μm、ウエハ上の回折格子42のピッチをP2=3.8μmとする。(m,n)=(1,0)と(m,n)=(2,-1)で規定される合成回折光の干渉によって形成されるモアレ縞の周期はP1×P2/|P1-P2|=10.64μmとなる。この時、ウエハ側に1μmのシフトが生じた場合、モアレ縞は2.8μmシフトするため、ウエハ側の回折格子の位置ずれ量に対して、2.8倍の精度で計測が可能となる。
【0059】
検出光学系21の開口数NAoを0.07、照明光学系22の瞳強度分布(IL1乃至IL4)からの照明角度を8.6度(NA0.15相当)、照明光の波長をλ=0.7μmとする。この条件では、(m,n)=(0,0)で規定される0次回折光は検出光学系21の開口数の外に照射されるため、検出されない。一方で
図9に示す合成回折光130、131、132、133は何れも検出光学系21に導かれてモアレ縞の形成に寄与できる。
【0060】
回折次数の選び方として上記3つの実施例で述べたもの以外にも、様々な組み合わせが存在する。本発明はそれらにも広く適用可能なことは言うまでもない。
【0061】
(物品の製造方法)
次に、前述のインプリント装置を利用した物品(半導体IC素子、液晶表示素子、カラーフィルタ、MEMS等)の製造方法を説明する。まず、前述のインプリント装置を使用して、基板(ウェハ、ガラス基板等)上のインプリント材に型を接触させて、基板と型との位置合わせを行い、インプリント材を硬化させる。そして、硬化したインプリント材のパターンをマスクとしてエッチングを行う工程、他の周知の加工工程で処理することにより物品が製造される。他の周知の工程には、インプリント材の剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等が含まれる。本製造方法によれば、従来よりも高品位の物品を製造することができる。
【0062】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。なお、型として凹凸パターンを有する型を説明したが、凹凸パターンが形成されていない薄い平板状の型を用いることができる。薄い平板状の型は、型で基板上の組成物を押圧することによって組成物が平坦になるように成形する成形装置(平坦化装置)で用いられる。平坦化装置を用いる場合は、平板状の型を組成物を接触させ、組成物を硬化させ、組成物から型を離すことによって組成物を平坦化する工程を行う。さらに、平坦化された組成物を有する基板上にパターンを形成する工程をへて、パターンが形成された基板から物品を製造することができる。