(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】荷役装置及び荷役装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/48 20060101AFI20221128BHJP
B66C 13/22 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
B66C13/48 B
B66C13/22 Y
(21)【出願番号】P 2018162832
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2017166925
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503002732
【氏名又は名称】住友重機械搬送システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】庄福 勝美
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-274779(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0031683(US,A1)
【文献】特開2010-006601(JP,A)
【文献】特開2003-118995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/48
B66C 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に延在し前記所定方向に直交する直交方向に走行可能なガーダーと、
前記ガーダー上を横行可能であり、荷を係止し吊り上げ可能な吊り具を有する荷役部と、
前記ガーダーに対して取り付けられ、運転者により操作に関する入力が行われる操作器と、
前記操作器への運転者による入力に基づいて、前記荷役部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記操作器への運転者による入力に基づいて、運転者の手動により前記荷役部の動作を制御する手動制御と、自動的に前記荷役部の動作を制御する自動制御と、を切替可能であ
り、
前記操作器は、手動制御と自動制御の切替を行う切替入力部を備え、
運転者が前記切替入力部に触れている間のみ、前記制御部は、自動制御を行うことを特徴とする荷役装置。
【請求項2】
前記制御部は、自動制御に切り替えられると、目的の荷の上方へ前記荷役部を横行させて位置合わせをし、前記吊り具を目的の荷に対して係止可能とする高さ位置へ位置合わせすることを特徴とする請求項
1に記載の荷役装置。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の荷役装置の運転方法であって、
手動運転によって、前記ガーダー上で前記荷役部を横行させて前記荷役部を目的の荷の上方へ移動させ、
手動運転から自動運転に切り替えて、前記荷役部を目的の荷の上方へ位置合わせし、前記吊り具を目的の荷に対して係止可能とする高さ位置へ位置合わせし、
自動運転から手動運転に切り替えて、前記吊り具により目的の荷を係止し、係止した荷を前記荷役部により搬送することを特徴とする荷役装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷役装置及び荷役装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の特許文献1には、製鋼工場で生産される円筒状の製鋼コイル(以下コイルと呼ぶ)を天井クレーンで自動搬送する技術が記載されている。この特許文献1に記載の天井クレーンは、台車上のコイルを自動的に吊り上げ搬送するものであり、具体的には、左右方向に延在し当該左右方向に直交する前後方向に走行可能なガーダーと、ガーダー上を横行可能なトロリー(クラブ)と、トロリーの回転ドラムにワイヤーロープを介して設けられて上下動しコイルを吊るためのコイル吊り具と、レーザ光をコイルへ向けて照射する投光部及びコイルから反射する反射光を受光する受光部を有するレーザ距離計と、演算装置と、上記ガーダー、トロリー、コイル吊り具等の駆動を自動制御する制御部等を備えている。演算装置は、レーザ距離計によりコイルまでの距離分布を自動演算し、演算した距離分布データに基づいてコイルの中心座標、外径、幅等を演算し、天井クレーンによりコイルを自動搬出するのに必要なデータを得る。そして、これらのデータに基づいて、人手を要することなく天井クレーンを自動制御し、コイルを自動搬送することが可能となっている。
【0003】
このように、近年にあっては、省人化等の目的から例えばクレーン等の完全自動化の要求があり、種々の提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、クレーン等で取り扱う例えばコイル等の荷の形状がほぼ一定であり、搬送パターンが同じような作業であれば、自動制御(自動運転)を検討する場合がある。実際のところ、一部の大手企業では、クレーンの完全自動化の導入が試みられているが、中小企業を始めとした中小の現場では、安全対策を始めとした以下の(1)~(8)の様々な障壁が存在し、導入には至らず断念せざるを得ないことがある。
【0006】
すなわち、(1)関連設備との取り合い等、考慮するのに時間がかかり、手動クレーンに比べ費用が大幅にコストアップする。(2)サイクルタイムが熟練の運転者に比べれば劣るという問題点があるが、それ以上に、(3)以降の障壁が大きい。(3)自動化エリアを区画し、自動化エリア内に人が入ればそれを検知し自動運転を停止する安全対策が、クレーン安全規則上必要となる。これに関連し、(4)例えば同じ建屋にあり隣接する手動クレーンと自動クレーンとの区画割りが必要となるが難しい。(5)工場内への荷の搬入、搬出等の搬送を台車やトラック等で行うが、台車、トラックは殆ど自動化されていないため、自動化エリア進入時の詳細な取り決めが必要となる。(6)同じ建屋内に、荷としてのコイルやパイプ、線材等が複数種混在している場合があり、自動化エリアの区画割りが複雑となる。(7)自動運転中に他の作業が発生した場合、手動介入後の自動運転のリカバリー手段を詳細に決めておく必要がある。(8)種々の状況に応じた安全装置としてのインターロックが必要となるが、制御が非常に複雑となってしまう。
【0007】
このように、中小企業で実施している作業は、上記(1)~(8)のように、対象や区画が多様且つ複雑であり加えて多種多様なニーズがあるため、自動化をする上で様々な条件や情報を整備、確立する必要があり、殆どの中小企業はそれを乗り越えることができずに断念するケースが多く、一部の大手企業しか実現に至っていないのが現状である。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、例えばクレーン等の荷役装置の手動操作による手動運転の一部として、安全な自動運転を組み込み、安価にして手動運転を支援する荷役装置及び荷役装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による荷役装置は、所定方向に延在し所定方向に直交する直交方向に走行可能なガーダーと、ガーダー上を横行可能であり、荷を係止し吊り上げ可能な吊り具を有する荷役部と、ガーダーに対して取り付けられ、運転者により操作に関する入力が行われる操作器と、操作器への運転者による入力に基づいて、荷役部の動作を制御する制御部と、を備え、制御部は、操作器への運転者による入力に基づいて、運転者の手動により荷役部の動作を制御する手動制御と、自動的に荷役部の動作を制御する自動制御と、を切替可能であることを特徴としている。
【0010】
このような荷役装置によれば、操作器への運転者による入力に基づいて、運転者の手動により荷役部の動作を制御する手動制御と、自動的に荷役部の動作を制御する自動制御と、が切り替えられるため、対象や区画が多様且つ複雑であり加えて多種多様なニーズが存在する場合であっても、手動運転の一部として安全な自動運転を組み込むことができ、運転者の負担を軽減しつつ且つ周囲に負担や影響を及ぼさない支援の範囲内で、安価にして手動操作を支援できる。
【0011】
ここで、操作器は、手動制御と自動制御の切替を行う切替入力部を備えているのが好ましい。このような構成を採用した場合、自動制御中に、運転者は、操作器に対する手や握りを持ち替えることなく、操作器に備えられた切替入力部により手動制御に切り替えることができる。このため、自動制御による自動運転を、安全な手動運転に容易且つ直ちに切り替えることができる。
【0012】
また、運転者が切替入力部に触れている間のみ、制御部は、自動制御を行うのが好ましい。ここで、切替入力部に運転者が例えば一度触ってその後触っていなくても自動制御が続行されてしまう構成では、自動運転に関する法律上の規制や制約を受ける可能性があり、この法律上の規制や制約に対処するために、多くの労力や手間がかかる。これに対し、本発明によれば、運転者が切替入力部に触れている間のみ、制御部が自動制御を行い、切替入力部に運転者が触っていなければ手動制御となるため、自動運転に関する法律上の規制や制約を直ちに受けることがなくなり、運転者の手動操作による的確な対処が可能となり安全を確保できる。
【0013】
ここで、制御部としては、具体的には、自動制御に切り替えられると、目的の荷の上方へ荷役部を横行させて位置合わせをし、吊り具を目的の荷に対して係止可能とする高さ位置へ位置合わせする構成が挙げられる。これにより、位置合わせという安全で自動でも対処できる自動制御を、手動運転の一部として適宜組み込むことができ、運転者の負担を軽減しつつ且つ周囲に負担や影響を及ぼさない支援の範囲内で、安価にして手動操作を支援できる。
【0014】
また、本発明による荷役装置の運転方法は、手動運転によって、ガーダー上で荷役部を横行させて荷役部を目的の荷の上方へ移動させ、手動運転から自動運転に切り替えて、荷役部を目的の荷の上方へ位置合わせし、吊り具を目的の荷に対して係止可能とする高さ位置へ位置合わせし、自動運転から手動運転に切り替えて、吊り具により目的の荷を係止し、係止した荷を荷役部により搬送することを特徴としている。
【0015】
このような荷役装置の運転方法によれば、手動運転によって、ガーダー上で荷役部が横行して荷役部が目的の荷の上方へ移動する。次いで、手動運転から自動運転に切り替えられ、自動制御による自動運転によって、荷役部を目的の荷の上方へ位置合わせし、吊り具を目的の荷に対して係止可能とする高さ位置へ位置合わせする。次いで、自動運転から手動運転に切り替えられ、手動操作によって吊り具により目的の荷が係止され、係止された荷が荷役部により搬送される。このように、位置合わせという安全で自動でも対処できる自動制御を、手動運転の一部として適宜組み込むことができ、運転者の負担を軽減しつつ且つ周囲に負担や影響を及ぼさない支援の範囲内で、安価にして手動操作を支援できる。
【0016】
また、本発明による荷役装置は、荷役部により荷役を行う荷役装着であって、運転者により荷役部の操作に関する入力が行われる操作器と、操作器への運転者による入力に基づいて、荷役部の動作を制御する制御部と、を備え、制御部は、操作器への運転者による入力に基づいて、運転者の手動により荷役部の動作を制御する手動制御と、自動的に荷役部の動作を制御する自動制御と、を切替可能であることを特徴としている。
【0017】
このような荷役装置によれば、操作器への運転者による入力に基づいて、運転者の手動により荷役部の動作を制御する手動制御と、自動的に荷役部の動作を制御する自動制御と、が切り替えられるため、対象や区画が多様且つ複雑であり加えて多種多様なニーズが存在する場合であっても、手動運転の一部として安全な自動運転を組み込むことができ、運転者の負担を軽減しつつ且つ周囲に負担や影響を及ぼさない支援の範囲内で、安価にして手動操作を支援できる。
【0018】
ここで、操作器は、手動制御と自動制御の切替を行う切替入力部を備えているのが好ましい。このような構成を採用した場合、自動制御中に、運転者は、操作器に対する手や握りを持ち替えることなく、操作器に備えられた切替入力部により手動制御に切り替えることができる。このため、自動制御による自動運転を、安全な手動運転に容易且つ直ちに切り替えることができる。
【0019】
また、運転者が切替入力部に触れている間のみ、制御部は、自動制御を行うのが好ましい。ここで、切替入力部に運転者が例えば一度触ってその後触っていなくても自動制御が続行されてしまう構成では、自動運転に関する法律上の規制や制約を受ける可能性があり、この法律上の規制や制約に対処するために、多くの労力や手間がかかる。これに対し、本発明によれば、運転者が切替入力部に触れている間のみ、制御部が自動制御を行い、切替入力部に運転者が触っていなければ手動制御となるため、自動運転に関する法律上の規制や制約を直ちに受けることがなくなり、運転者の手動操作による的確な対処が可能となり安全を確保できる。
【0020】
ここで、制御部としては、具体的には、自動制御に切り替えられると、目的の荷の上方へ荷役部を移動させて位置合わせをし、荷役を係止するための吊り具を目的の荷に対して係止可能とする高さ位置へ位置合わせする構成が挙げられる。これにより、位置合わせという安全で自動でも対処できる自動制御を、手動運転の一部として適宜組み込むことができ、運転者の負担を軽減しつつ且つ周囲に負担や影響を及ぼさない支援の範囲内で、安価にして手動操作を支援できる。
【0021】
また、本発明による荷役装置の運転方法は、手動運転によって、荷役部を移動させて荷役部を目的の荷の上方へ移動させ、手動運転から自動運転に切り替えて、荷役部を目的の荷の上方へ位置合わせし、荷を係止するための吊り具を目的の荷に対して係止可能とする高さ位置へ位置合わせし、自動運転から手動運転に切り替えて、吊り具により目的の荷を係止し、係止した荷を荷役部により搬送することを特徴としている。
【0022】
このような荷役装置の運転方法によれば、手動運転によって、荷役部が移動して荷役部が目的の荷の上方へ移動する。次いで、手動運転から自動運転に切り替えられ、自動制御による自動運転によって、荷役部を目的の荷の上方へ位置合わせし、吊り具を目的の荷に対して係止可能とする高さ位置へ位置合わせする。次いで、自動運転から手動運転に切り替えられ、手動操作によって吊り具により目的の荷が係止され、係止された荷が荷役部により搬送される。このように、位置合わせという安全で自動でも対処できる自動制御を、手動運転の一部として適宜組み込むことができ、運転者の負担を軽減しつつ且つ周囲に負担や影響を及ぼさない支援の範囲内で、安価にして手動操作を支援できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、荷役装置の手動操作による手動運転の一部として、安全な自動運転を組み込み可能とし、安価にして手動運転を支援する荷役装置及び荷役装置の運転方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る天井クレーン及び多数のコイルを天井クレーンの走行方向から見た図である。
【
図2】
図1に示す天井クレーンを上方から見た斜視図である。
【
図3】
図1及び
図2中の吊り具及びコイルをトロリーの横行方向から見た図である。
【
図5】TOFカメラにより吊り具の基部下面からコイル中心までの距離を求めるための説明図である。
【
図6】透過型光電センサとコイル孔との位置合わせの状態を示す横断面図である。
【
図7】透過型光電センサとコイル孔との位置合わせの状態を示す縦断面図である。
【
図9】天井クレーンの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明による荷役装置及び荷役装置の運転方法の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る天井クレーン及び多数のコイルを天井クレーンの走行方向から見た図、
図2は、天井クレーンを上方から見た斜視図である。
【0026】
図1及び
図2に示すように、荷役装置は、ここでは、工場又は倉庫等の建屋内の上部に配設された天井クレーン100である。荷となる例えば円筒形状に巻かれた鋼板であるコイルCは、コイル孔Hの軸心が、天井クレーン100の走行方向(
図1の紙面垂直方向)と平行となるように、建屋内のコイルヤード(敷地)上に多数が並設・積載され管理されている。天井クレーン100は、コイルCを対象物として吊り上げ、搬送移動するものである。なお、
図1及び
図2においては、実際には多数のコイルCが並設・積載されているが、図が煩雑になるのを避けるために一部のコイルCのみが描かれている。また、コイルヤード上には、コイルCを位置決めし転がらないように並設するためのスキッド(不図示)等が設けられている。
【0027】
天井クレーン100は、ガーダー1、荷役部2等を主体として備える。荷役部2は、詳しくは後述するが、トロリー3を主体として備え、ワイヤーロープ4、吊り具5、回転ドラム9等を含む。
【0028】
ガーダー1は、荷役部2及び荷となるコイルCの荷重を支持するものであり、
図1の所定方向としての左右方向に延在し建屋内の天井付近の左右両壁に亘って略水平に横架される。ガーダー1は、所定方向に直交する直交方向としての前後方向(
図1の紙面垂直方向)に離間する直線状の剛体部同士の左右両端部を連結し一体化したものである。ガーダー1の左右両端部に対しては、前後方向に延び走行レーンとなるランウェイ7がそれぞれ設けられ、ガーダー1は、ランウェイ7上を前後方向に沿って走行する。ガーダー1には、例えばモータ等の走行駆動部11(
図8参照)が設けられ、その走行が制御される。
【0029】
図2に示すように、ガーダー1の平面視長方形枠状の左右端部を除く部分は開口8となっており、ガーダー1上に当該開口8を跨ぐようにトロリー3が配置される。トロリー3は、ガーダー1上を左右方向(ガーダー1の延在方向)に沿って横行する。トロリー3には、例えばモータ等の横行駆動部12(
図8参照)が設けられ、その横行が制御される。
【0030】
トロリー3上には、ワイヤーロープ4を介して吊り具5を吊り上げ/吊り下げるための回転ドラム9が設けられる。回転ドラム9は、開口8に対向するように配置され、開口8を通してワイヤーロープ4が通されている。吊り具5は、回転ドラム9からのワイヤーロープ4が掛け回されたシーブ10を介して吊り下げられる。そして、回転ドラム9には、例えばモータ等の巻き上げ下げ駆動部13(
図8参照)が設けられ、その回転が制御されることで、吊り具5の上下方向の吊り上げ/吊り下げ位置(高さ位置)が制御される。
【0031】
吊り具5は、コイルCを係止し吊り上げるためのものであり、基部20と、基部20の前後両端部からそれぞれ反対方向へ突出する一対のアーム21a,21bと、を備える。
【0032】
基部20の上部には、上記シーブ10が回転可能に連結されている。また、
図3に示すように、基部20の略中央下面には、画像センサとしてのTOF(Time Of Flight)カメラ30が下方を映し出せるように設置されている。
【0033】
アーム21a,21bは、それぞれ逆さ状のL字状を呈し、基部20の前後両端部からL字がそれぞれ下方へ向くように突出している。アーム21a,21bの下端には、それぞれ内側に突出してコイル孔Hに進入しコイルCを係止するための吊り具爪22a,22bが設けられている。
【0034】
また、
図6に示すように、アーム21aにおいて吊り具爪22aの先端側の下部で図示左側及びこれより下方位置には、透過型光電センサ23の発光部23e,23fがそれぞれ設けられ、さらに、アーム21aにおいて吊り具爪22aの先端側の下部で図示右側及びこれより下方位置には、透過型光電センサ23の発光部23g,23hがそれぞれ設けられている。
【0035】
これに対応し、
図7に示すように、アーム21b側においても、透過型光電センサ23の発光部23e,23fに対向する位置には、透過型光電センサ23の受光部23i,23jがそれぞれ設けられ、透過型光電センサ23の発光部23g,23hに対向する位置には、透過型光電センサ23の受光部23k,23mがそれぞれ設けられている。なお、アーム21a側に発光部23e,23f,23g,23hの全てを設け、アーム21b側に受光部23i,23j,23k,23mの全てを設けるのではなく、アーム21a側に一部の発光部及び一部の受光部を設け、アーム21b側に残りの発光部及び残りの受光部を設けるようにしても良い。この際、発光部及び受光部を交互に並べて設けると、隣接する発光部・受光部間での光の誤検知を抑制することができる。
【0036】
アーム21a,21bは、
図3に示すように、それぞれ基部20側の部分が、前後方向に沿って(
図3の左右方向)に沿ってスライド移動可能であり、実線で示すアーム21a,21bの位置がアーム開位置に位置し,仮想線で示すアーム21a,21bの位置がアーム閉位置に位置している。アーム開位置とは、アーム21a,21bが外側へスライド移動し、吊り具爪22a,22bがコイルCの端面から離間して対向している位置であり、アーム閉位置とは、アーム21a,21bが内側へスライド移動し、吊り具爪22a,22bが、コイル孔Hに進入し、その後、吊り具5の吊り上げ時に、吊り具爪22a,22bがコイル孔Hの上部内周面に係止し得る位置である。
【0037】
アーム21a,21bには、例えばモータ等のアーム開閉駆動部14(
図8参照)が設けられ、その駆動が制御されることで、アーム21a,21bの開閉が制御される。
【0038】
なお、アーム21a,21bは、スライド移動するものに限定されるものではなく、基部20側に近い上部側の回動中心軸線(不図示)を中心として各々アームが回動して吊り具爪同士を開閉できるものであっても、吊り具爪の一方のみがスライド移動するもの等であってもよい。
【0039】
また、
図1及び
図2に示すように、ガーダー1の一方側の端部の下面には、運転者Pが運転するための運転室25が固定して設けられている。運転者Pは、運転室25内の運転席に着席し、
図1、
図2及び
図4に示す操作器26を手で握り所定のクレーン操作を行う。運転室25内には、TOFカメラ30や透過型光電センサ23を含む画像情報センサ15(
図8参照)からの情報を映し出すモニタ27が設置されている。
【0040】
操作器26は、操作に関する入力が行われるもので、具体的には、
図4に示すように、運転者が握ることが可能に立設されると共に基部側がジャバラとされ、操作器26の上面には、各種クレーン動作を司るための手動スイッチ28(
図8参照)が配置されている。
【0041】
また、操作器26の上部の側部には、操作器26の握りを変えることなく親指で押すことができる押ボタン式の切替入力部29が設けられている。この切替入力部29は、手動制御と自動制御の切替を行うものであり、運転者が切替入力部29に触れている間のみ、自動制御を行い、切替入力部29に触れていなければ手動制御を行うようになっている。ここでいう触れているとは、押ボタン式であれば、押し込み続けていることである。また、例えば、タッチパネルのように触れていることを検知できるボタン等であれば、押し込まずに当該部位を触れている状態のことをいう。なお、切替入力部は、ボタンに限定されず、入力できるものであれば、他の入力手段であっても良い。
【0042】
そして、本実施形態の天井クレーン100では、操作器26の手動スイッチ28からの入力に基づいて、ガーダー1を走行させるための走行駆動部11、トロリー3を横行させるための横行駆動部12、吊り具5の高さ位置を調整すべく回転ドラム9を正逆回転させるための巻き上げ下げ駆動部13、アーム21a,21bを開閉するためのアーム開閉駆動部14を手動制御する手動制御部50aと、操作器26の切替入力部29の押しっぱなしの入力、及び、TOFカメラ30や透過型光電センサ23を含む画像情報センサ15に基づいて、上記走行駆動部11、横行駆動部12、巻き上げ下げ駆動部13を自動制御する自動制御部50bと、が設けられた制御部50を具備している。
【0043】
図9は、天井クレーン100の動作を示すフローチャートである。先ず、ステップ1において、運転者は、操作器26を握り手動操作し手動制御部50aによる手動制御でトロリー(荷役部)3を、目的の荷(コイルC)の上方へ移動する。この場合、必要に応じ、走行駆動部11によりガーダー1を走行方向へ走行させ、横行駆動部12によりガーダー1を横行方向へ横行させる。
【0044】
次いで、ステップ2において、操作器26を握りながら親指で押ボタンである切替入力部29を押し、手動制御部50aによる手動運転から自動制御部50bによる自動運転へ切り替える。
【0045】
ステップ3では、自動制御モードであり、TOFカメラ30により上方からコイルCの形状を画像認識できたかを判断する。
【0046】
ステップ3において、コイルCの形状を画像認識できない場合には、手動運転で、目的の荷の上方からかなり離れた位置にトロリー3が位置していると判断してステップ1に戻り、手動操作によりトロリー3を、目的の荷の上方へ再度移動する。
【0047】
一方、ステップ3において、コイルCの形状を画像認識できた場合には、手動操作により概ね目的の荷の上方に位置しているとしてステップ4へ進む。
【0048】
ステップ4では、操作器26の切替入力部29を押し続けて自動制御部50bにより走行駆動部11及び横行駆動部12を自動制御し、上方から見たコイルCの中心と荷役部2(トロリー3)中心を位置合わせする。
【0049】
ステップ5では、操作器26の切替入力部29を押し続け、例えば
図5に示すように、TOFカメラ30により、概ねTOFカメラ30が位置する基部20の下面とコイルCの最上端までの距離L1が分かり、コイルCの外径Lが既知のため、基部20の下面からコイルC(コイル孔H)の中心までの距離L1+(L/2)が計算される。これにより、吊り具爪22a,22bをコイル孔Hへ位置合わせるための吊り具5の下降量を予め算出できる。そして、操作器26の切替入力部29を押し続けて自動制御部50bにより巻き上げ下げ駆動部13を自動制御し、吊り具5を計算位置へ下げる。
【0050】
次いで、ステップ6において、透過型光電センサ23に基づき自動制御し、吊り具爪22a,22bがコイル孔Hに進入できるように、吊り具爪22a,22bをコイル孔Hの位置へ合わせる。
【0051】
ステップ7では、透過型光電センサ23の受光部が、対応する透過型光電センサ23の発光部の光を全て受光すれば、吊り具爪22a,22bがコイル孔Hに進入可能であると判断し、ステップ8へ進む。一方、ステップ7において、一部の受光部で光を受光できない場合には、ステップ6へ戻り、再度位置合わせを行う。
【0052】
ステップ8では、運転者は、操作器26を握りながら親指を押ボタンである切替入力部29から離し、自動制御部50bによる自動運転から手動制御部50aによる手動運転へ移行する。
【0053】
これと同時に、ステップ9では、吊り具爪22a,22bによるコイルCの係止が可能であるとして、吊り具5上に設置されたコイル係止ランプを点灯してステップ10へ進む。
【0054】
ステップ10では、運転者は、操作器26による手動操作により、アーム21a,21bをスライド移動させてアーム閉位置に位置させ、吊り具爪22a,22bをコイル孔Hに進入させ、その状態で、回転ドラム9を回転駆動し吊り具爪22a,22bをコイル孔Hの上部内周面に係止させてコイルCを吊り上げ、手動搬送を行う。
【0055】
なお、運転者は、一連の手動、自動運転中、運転席前のモニタ27を監視することで、正常に動作しているか、安全に作業が行われているかを確認することができる。
【0056】
このように、本実施形態によれば、操作器26への運転者による入力に基づいて、運転者の手動により荷役部2の動作を制御する手動制御と、自動的に荷役部2の動作を制御する自動制御と、が切り替えられる。このため、対象や区画が多様且つ複雑であり加えて多種多様なニーズが存在する場合であっても、手動運転の一部として安全な自動運転を組み込むことができ、運転者の負担を軽減しつつ且つ周囲に負担や影響を及ぼさない支援の範囲内で、安価にして手動操作を支援できる。
【0057】
また、本実施形態によれば、操作器26は、手動制御と自動制御の切替を行う切替入力部29を備えているため、自動制御中に、運転者は、操作器26に対する手や握りを持ち替えることなく、操作器26に備えられた切替入力部29により手動制御に切り替えることができる。このため、自動制御による自動運転を、安全な手動運転に容易且つ直ちに切り替えることができる。
【0058】
ここで、切替入力部29に運転者が例えば一度触ってその後触っていなくても自動制御が続行されてしまう構成では、自動運転に関する法律上の規制や制約を受ける可能性があり、この法律上の規制や制約に対処するために、多くの労力や手間がかかる。これに対し、本実施形態によれば、運転者が切替入力部29に触れている間のみ、制御部50が自動制御を行い、切替入力部29に運転者が触っていなければ手動制御となるため、自動運転に関する法律上の規制や制約を直ちに受けることがなくなり、運転者の手動操作による的確な対処が可能となり安全を確保できる。
【0059】
また、本実施形態によれば、制御部50は、自動制御に切り替えられると、目的の荷の上方へ荷役部2を横行させて位置合わせをし、吊り具5を目的の荷に対して係止可能とする高さ位置へ位置合わせするようにしている。このため、位置合わせという安全で自動でも対処できる自動制御を、手動運転の一部として適宜組み込むことができ、運転者の負担を軽減しつつ且つ周囲に負担や影響を及ぼさない支援の範囲内で、安価にして手動操作を支援できる。その結果、例えば、地上に人員配置され、吊り具5と荷との位置合わせの合図を運転者に送る合図マンが不要となり、省人化を図ることができる。
【0060】
また、本実施形態の運転方法によれば、手動運転によって、ガーダー1上で荷役部2(トロリー3)が横行して荷役部2が目的の荷の上方へ移動し、次いで、手動運転から自動運転に切り替え、荷役部2を目的の荷の上方へ位置合わせし、吊り具5を目的の荷に対して係止可能とする高さ位置へ位置合わせし、次いで、自動運転から手動運転に切り替え、手動操作によって吊り具5により目的の荷を係止し、係止した荷を荷役部2により搬送するようになっている。このように、位置合わせという安全で自動でも対処できる自動制御を、手動運転の一部として適宜組み込むことができ、運転者の負担を軽減しつつ且つ周囲に負担や影響を及ぼさない支援の範囲内で、安価にして手動操作を支援できる。その結果、例えば、地上に人員配置され、吊り具5と荷との位置合わせの合図を運転者に送る合図マンが不要となり、省人化を図ることができる。
【0061】
斯くの如く述べたように、本発明によれば、諸般の種々な理由により導入を断念していた中小企業に対して、全自動ではないが、安全な自動運転を手動運転の支援として導入でき、多大に貢献できるようになる。
【0062】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、上記実施形態では、運転室25を備えているが、運転室25がなく、運転者が天井クレーンに接続された操作器26によって操作を行っても良い。
【0063】
また、
図9に示すフローチャートでは、ステップ2において手動運転から自動運転に切り替えているが、吊り具爪22a,22bを、コイルCの外径以内に位置するように吊り下げるまで手動操作し、それ以降を自動運転としても良い。
【0064】
また、アーム21a,21bが横行方向へ複数(2連、3連)並設されて複数個のコイルCを同時に吊り上げる場合には、運転室25がガーダー1に固定され、運転者から遠い側のコイルC(特にコイル孔H)が視認し難いので、本実施形態を適用するのは、特に有効である。
【0065】
また、透過型光電センサ23の発光・受光部の組は、一組以上であれば良く、反射型光電センサであれば1個以上であれば良い。また、カメラ等の撮像手段を用いることもできる。また、TOFカメラに代えて、3Dスキャナや2Dスキャナ等を用いても良い。
【0066】
また、例えば、コイル孔Hの軸心が横行方向に平行となるようにコイルCが配置されている場合には、鉛直軸周りに90°回転した吊り具を用いれば良い。
【0067】
また、上記実施形態においては、荷役装置を天井クレーン100とし、荷をコイルCとしているが、例えば製紙ロール等であっても良い。また、天井クレーン100以外の例えばトングによりスラブを係止して(掴んで)搬送するアンローダー等に対しても適用可能であり、また、屋内に限定されず、屋外のガーダー付き門形クレーンやガーダー付き橋形クレーンに対しても適用できる。
【0068】
また、ガーダーを有する荷役装置に限定されず、ガーダーを有さない荷役装置に対しても適用できる。例えば、走行式ジブクレーン、走行せずに土台に旋回可能に取り付けられた旋回式ジブクレーン、タワー型ジブクレーン、引込クレーン等にも適用できる。これらのクレーンの場合には、ジブ、ワイヤーロープ、回転ドラム等が荷役部に該当する。また、運転者により荷役部の操作に関する入力が行われる操作器は、ジブが設けられた旋回体に取り付けられる。旋回体に運転室を設けて、運転室内に操作器を収容しても良い。なお、旋回体とは、走行式ジブクレーンや走行式引込クレーンの場合には、地上を走行する走行体に対して垂直軸線を中心に旋回可能に設けられたものであり、旋回体が旋回することで、ジブを任意の方向へ旋回(移動)させることができる。
【符号の説明】
【0069】
1…ガーダー、2…荷役部、3…トロリー、4…ワイヤーロープ、5…吊り具、11…走行駆動部、12…横行駆動部、13…巻き上げ下げ駆動部、14…アーム開閉駆動部、15…画像情報センサ、22a,22b…吊り具爪、23…透過型光電センサ、26…操作器、28…手動スイッチ、29…切替入力部、30…TOFカメラ、50…制御部、50a…手動制御部、50b…自動制御部、100…荷役装置、C…コイル(荷)、P…運転者。