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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】多孔質膜を用いた醤油の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/50 20160101AFI20221128BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20221128BHJP
   B01D 71/32 20060101ALI20221128BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20221128BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20221128BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20221128BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20221128BHJP
   B01D 65/06 20060101ALI20221128BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
A23L27/50 104C
B01D69/08
B01D71/32
B01D71/34
B01D71/36
B01D71/26
B01D65/02
B01D65/06
B01D69/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018164585
(22)【出願日】2018-09-03
(65)【公開番号】P2019047781
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2017171974
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】小比類巻 辰徳
【審査官】松田 成正
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-040461(JP,A)
【文献】国際公開第02/070115(WO,A1)
【文献】特開2013-075294(JP,A)
【文献】特開2015-073916(JP,A)
【文献】特開2019-047779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/50
B01D 69/08
B01D 71/32
B01D 71/34
B01D 71/36
B01D 71/26
B01D 65/02
B01D 65/06
B01D 69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
澱成分を含有する醤油を火入れして、該澱成分の凝集体を形成する火入れ工程;及び
3次元網目構造の樹脂から構成される多孔質膜に、該澱成分の凝集体を含有する火入れ醤油を通過させて、該澱成分の凝集体からろ液を分離するろ過工程;
を含む醤油の製造方法であって、
該多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域において、1μm以下の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して70%以上であり、かつ、10μm以上の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して15%以下であり、かつ、
該多孔質膜を構成する樹脂は、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、及びこれら樹脂の混合物からなる群から選ばれ、かつ、該3次元網目構造は、該樹脂と、微粉シリカ、溶媒、貧溶媒との組成物の溶融混錬物から形成されたものであり、かつ、
該ろ過工程前の火入れ醤油の澱成分比率をX0、全窒素成分をN0、該ろ過工程後の火入れ醤油の澱成分比率をX1、全窒素成分をN1とするとき、X1/X0×100<5%、及びN1/N0×100≧97%の関係を満たす、
ことを特徴とする前記醤油の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質膜は、該多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域において、1μm超10μm未満の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して15%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多孔質膜の表面開口率は25~60%である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記多孔質膜は中空糸膜である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ろ過工程の後に、該多孔質膜に洗浄液を通過又は浸漬させて、該多孔質膜の内部を洗浄する洗浄工程を更に含み、該洗浄液が50℃~90℃の湯である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ろ過工程の後に、該多孔質膜に洗浄液を通過又は浸漬させて、該多孔質膜の内部を洗浄する洗浄工程を更に含み、該洗浄液が0.05重量%以上0.5重量%以下の次亜塩素酸ナトリウム又は0.4重量%以上4重量%以下の水酸化ナトリウムを含有する水溶液である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記洗浄工程前の前記多孔質膜の引張破断伸度E0と、前記洗浄工程後の前記多孔質膜の引張破断伸度E1との関係が、E1/E0×100≧80%である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記洗浄工程前の前記多孔質膜の引張破断伸度E0と、前記洗浄工程をX回(ここで、Xは2~100の整数である。)繰り返した後の前記多孔質膜の引張破断伸度EXとの関係が、EX/E0×100≧70%である、請求項5又は6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜を用いた火入れ醤油のろ過工程を含む醤油の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、澱成分の凝集物を含有する火入れ醤油から該凝集物を除去するための多孔質膜を用いるろ過工程を含む醤油の製造方法において、ろ過前後の火入れ醤油の全窒素成分の変化が低く、澱成分の除去率が高く、多孔質膜の洗浄工程後の透水量回復性や洗浄液(薬液)耐性も高い方法の関する。
【背景技術】
【0002】
懸濁水である海水、河川水、湖沼水、地下水等の天然水源から飲料水や工業用水を得るための上水処理、下水等の生活排水を処理して再生水を製造し、放流可能な清澄水にするための下水処理、火入れ醤油から澱成分を除去する工程を含む醤油の製造方法等には、懸濁物を分離・除去するための固液分離操作(除濁操作)が必要である。かかる除濁操作においては、上水処理に関しては懸濁水である天然水源水由来の濁質物(粘土、コロイド、細菌等)が除去され、下水処理に関しては下水中の懸濁物、活性汚泥等により生物処理(2次処理)した処理水中の懸濁物(汚泥等)が除去され、醤油の製造方法においては、火入れにより凝集した澱成分凝集物が除去される。
【0003】
従来、これらの除濁操作は、主に、加圧浮上法、沈殿法、砂ろ過法、凝集沈殿砂ろ過法、珪藻土ろ過等により行われてきたが、近年、これらの方法に代えて、膜ろ過法が普及しつつある。膜ろ過法の利点としては、(1)得られる水質の除濁レベルが高く、かつ、安定している(得られる水の安全性が高い)こと、(2)ろ過装置の設置スペースが小さくてすむこと、(3)自動運転が容易であること等が挙げられる。例えば、海水淡水化逆浸透ろ過の前処理では、加圧浮上法の代替手段として、又は加圧浮上法の後段として、加圧浮上処理された処理水の水質をさらに向上するために膜ろ過法が用いられている。これら膜ろ過による除濁操作には、平均孔径が数nm~数百nmの範囲の平膜又は中空糸状の多孔質限外ろ過膜や精密ろ過膜が用いられる。
このように、膜ろ過法による除濁操作は、前記した従来の加圧浮上法、砂ろ過法等にはない利点が多くあるために、従来法の代替又は補完手段として、海水淡水化前処理等への普及が進んでおり、また、多孔質膜として以下の特許文献1に記載されるような樹脂により構成される有機膜が多用されている。
【0004】
また、従来火入れ醤油の澱成分除去には、主に珪藻土ろ過が用いられてきたが、使用済み珪藻土の廃棄費用がかさむことから、近年、代替手段として膜ろ過が使用されている。しかしながら、澱成分を除去するための膜ろ過の前後で、火入れ醤油の全窒素成分が変化しないことが重要であり、また、ろ過工程後の洗浄工程における洗浄液(薬液)として2~3重量%と高い濃度の水酸化ナトリウムを使用する場合には、薬液コストと廃水処理コストが高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-168741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記したように、多孔質膜として樹脂により構成される有機膜が多用されているものの、樹脂素材で多孔質ろ過膜を作製する際、製膜方法が異なると膜を構成する素材のミクロ構造に差異が現れる。また、火入れ醤油の澱成分の除去のためのろ過においては、澱成分の除去率を高く維持しつつ、全窒素成分の低下を極力抑制することが要求される。さらに、通常、ろ過運転を継続すると膜は目詰まりを起こすため、多孔質ろ過膜を用いたろ過方法の運転には、洗浄工程が伴う。他方、洗浄工程に薬剤を使用すると、膜の強度劣化を誘発する。このとき、多孔質ろ過膜を構成する素材のミクロ構造に差異があると、繰り返される洗浄工程で使用する洗浄液(薬液)による多孔質ろ過膜へのダメージの程度が異なる結果、ろ過性能や寿命に影響を及ぼすという問題もある。
かかる問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、澱成分の凝集物を含有する火入れ醤油から該凝集物を除去するための多孔質膜を用いるろ過工程を含む醤油の製造方法において、ろ過前後の火入れ醤油の全窒素成分の変化が低く、澱成分の除去率が高く、多孔質膜の洗浄工程後の透水量回復性や洗浄液(薬液)耐性も高い方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、前記した課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、多孔質ろ過膜の被処理液側である膜の内側からろ液側である膜の外側に至る細孔の連通性が良好な膜を使用することで、澱成分の凝集物を含有する火入れ醤油から該凝集物を除去するための多孔質膜を用いるろ過工程を含む醤油の製造方法において、ろ過前後の火入れ醤油の全窒素成分の変化が低く、澱成分の除去率が高く、さらに、洗浄工程で使用する洗浄液(薬液)として、50℃~90℃の湯、及び/又は0.05重量%以上0.5重量%以下の次亜塩素酸ナトリウム若しくは0.4重量%以上4重量%以下の水酸化ナトリウムを含有する水溶液を使用した場合であっても、膜の劣化を最小限に抑えることができることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]以下の工程:
澱成分を含有する醤油を火入れして、該澱成分の凝集体を形成する火入れ工程;及び
3次元網目構造の樹脂から構成される多孔質膜に、該澱成分の凝集体を含有する火入れ醤油を通過させて、該澱成分の凝集体からろ液を分離するろ過工程;
を含む醤油の製造方法であって、
該多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域において、1μm以下の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して70%以上であり、かつ、
該ろ過工程前の火入れ醤油の澱成分比率をX0、全窒素成分をN0、該ろ過工程後の火入れ醤油の澱成分比率をX1、全窒素成分をN1とするとき、X1/X0×100<5%、及びN1/N0×100≧97%の関係を満たす、
ことを特徴とする前記醤油の製造方法。
[2]以下の工程:
澱成分を含有する醤油を火入れして、該澱成分の凝集体を形成する火入れ工程;及び
3次元網目構造の樹脂から構成される多孔質膜に、該澱成分の凝集体を含有する火入れ醤油を通過させて、該澱成分の凝集体からろ液を分離するろ過工程;
を含む醤油の製造方法であって、
該多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域において、10μm以上の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して15%以下であり、かつ、
該ろ過工程前の火入れ醤油の澱成分比率をX0、全窒素成分をN0、該ろ過工程後の火入れ醤油の澱成分比率をX1、全窒素成分をN1とするとき、X1/X0×100<5%、及びN1/N0×100≧97%の関係を満たす、
ことを特徴とする前記醤油の製造方法。
[3]以下の工程:
澱成分を含有する醤油を火入れして、該澱成分の凝集体を形成する火入れ工程;及び
3次元網目構造の樹脂から構成される多孔質膜に、該澱成分の凝集体を含有する火入れ醤油を通過させて、該澱成分の凝集体からろ液を分離するろ過工程;
を含む醤油の製造方法であって、
該多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域において、1μm以下の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して70%以上であり、かつ、10μm以上の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して15%以下であり、かつ、
該ろ過工程前の火入れ醤油の澱成分比率をX0、全窒素成分をN0、該ろ過工程後の火入れ醤油の澱成分比率をX1、全窒素成分をN1とするとき、X1/X0×100<5%、及びN1/N0×100≧97%の関係を満たす、
ことを特徴とする前記醤油の製造方法。
[4]前記多孔質膜は、該多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域において、1μm超10μm未満の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して15%以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記多孔質膜の表面開口率は25~60%である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記多孔質膜は中空糸膜である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記多孔質膜を構成する樹脂は熱可塑性樹脂である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記熱可塑性樹脂はフッ素樹脂である、前記[7]に記載の方法。
[9]前記フッ素樹脂は、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂、及びこれら樹脂の混合物からなる群から選ばれる、前記[8]に記載の方法。
[10]前記熱可塑性樹脂はポリエチレン(PE)である、前記[7]に記載の方法。
[11]前記ろ過工程の後に、該多孔質膜に洗浄液を通過又は浸漬させて、該多孔質膜の内部を洗浄する洗浄工程を更に含み、該洗浄液が50℃~90℃の湯である、前記[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]前記ろ過工程の後に、該多孔質膜に洗浄液を通過又は浸漬させて、該多孔質膜の内部を洗浄する洗浄工程を更に含み、該洗浄液が0.05重量%以上0.5重量%以下の次亜塩素酸ナトリウム又は0.4重量%以上4重量%以下の水酸化ナトリウムを含有する水溶液である、前記[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[13]前記洗浄工程前の前記多孔質膜の引張破断伸度E0と、前記洗浄工程後の前記多孔質膜の引張破断伸度E1との関係が、E1/E0×100≧80%である、前記[11]又は[12]に記載の方法。
[14]前記洗浄工程前の前記多孔質膜の引張破断伸度E0と、前記洗浄工程をX回(ここで、Xは2~100の整数である。)繰り返した後の前記多孔質膜の引張破断伸度EXとの関係が、EX/E0×100≧70%である、前記[11]又は[12]に記載の方法。
[15]前記ろ過工程前の前記多孔質膜のフラックスL0と、前記洗浄工程後の前記多孔質膜のフラックスL1との関係が、L1/L0×100≧95%である、前記[11]又は[12]に記載の方法。
[16]前記ろ過工程前の前記多孔質膜のフラックスL0と、前記洗浄工程をX回(ここで、Xは2~100の整数である。)繰り返した後の前記多孔質膜のフラックスLXとの関係が、X/L0×100≧90%である、前記[11]又は[12]に記載の方法。
[17]前記洗浄工程は、前記洗浄液による洗浄を行う洗浄液工程と、その後、残存する洗浄液成分を除去するためのリンス水による濯ぎを行うリンス工程とを含む、前記[11]~[16]のいずれかに記載の方法。
[18]前記リンス工程で使用するリンス水の量は、前記多孔質膜の単位面積当たり100L/m以下である、前記[17]に記載の方法。
[19]前記リンス工程後に前記ろ過工程を再開した後のろ液中の塩素濃度が0.1ppm以下であり、かつ、該ろ過液のpHが8.6以下である、前記[17]又は[18]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る醤油の製造方法におけるろ過工程は、多孔質ろ過膜の被処理液側である膜の内側からろ液側である膜の外側に至る細孔の連通性が良好な膜を使用するため、ろ過前後の火入れ醤油の全窒素成分の変化が低く、澱成分の除去率が高く、さらに、洗浄工程で使用する洗浄液(薬液)として、50℃~90℃の湯、及び/又は0.05重量%以上0.5重量%以下の次亜塩素酸ナトリウム若しくは0.4重量%以上4重量%以下の水酸化ナトリウムを含有する水溶液を使用した場合であっても、膜の劣化を最小限に抑えることができる。それゆえ、本発明に係る醤油の製造方法は、ろ過性能、及びその回復性、薬液耐性に優れ、かつ、高寿命の方法である。具合的には、本発明に係る醤油の製造方法におけるろ過工程に用いる多孔質膜は多孔の連通性が高いため、火入れ醤油の全窒素成分の膜への吸着が少なく、ろ過前後での全窒素成分の変化が3%以下であり、かつ、澱成分の除去率は95%超である。さらに、洗浄工程において、1重量%と比較的低い濃度の水酸化ナトリウム水溶液を洗浄液として使用した場合であっても、多孔質膜の透水量を十分に回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の醤油の製造方法におけるろ過工程に用いる多孔質膜の断面のSEM画像の一例である(黒部分は樹脂、白部分は細孔(開孔)を示す)。
図2】実施例1で用いた多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域(丸1~丸4)において、樹脂部の総面積に対する、所定面積を有する樹脂部の面積の合計の割合(%)を示すヒストグラムである。
図3】実施例2で用いた多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域(丸1~丸4)において、樹脂部の総面積に対する、所定面積を有する樹脂部の面積の合計の割合(%)を示すヒストグラムである。
図4】実施例3で用いた多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域(丸1~丸4)において、樹脂部の総面積に対する、所定面積を有する樹脂部の面積の合計の割合(%)を示すヒストグラムである。
図5】比較例2で用いた多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域(丸1~丸4)において、樹脂部の総面積に対する、所定面積を有する樹脂部の面積の合計の割合(%)を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、本実施形態ともいう。)について詳細に説明する。尚、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0012】
<醤油の製造方法>
本実施形態の醤油の製造方法は、以下の工程:
澱成分を含有する醤油を火入れして、該澱成分の凝集体を形成する火入れ工程;及び
3次元網目構造の樹脂から構成される多孔質膜に、該澱成分の凝集体を含有する火入れ醤油を通過させて、該澱成分の凝集体からろ液を分離するろ過工程;
を含む醤油の製造方法であって、該ろ過工程前の火入れ醤油の澱成分比率をX0、全窒素成分をN0、該ろ過工程後の火入れ醤油の澱成分比率をX1、全窒素成分をN1とするとき、X1/X0×100<5%、及びN1/N0×100≧97%の関係を満たす、
ことを特徴とする。
X1/X0×100<0.5%であることが好ましくは、より好ましくはX1/X0×100<0.3%である。
また、N1/N0×100≧98%であることが好ましく、より好ましくはN1/N0×100≧99.5%である。
多孔質膜の形状としては特に制限はなく、平膜、管状膜、中空糸膜であることができるが、ろ過装置の省スペース性の観点から、すなわち、膜モジュール単位体積当たりの膜面積を大きくすることができるため、中空糸膜が好ましい。
【0013】
本実施形態の醤油の製造方法におけるろ過工程としては、例えば、多孔質中空糸膜の中空部(内側表面)に火入れにより凝集した澱成分の凝集物を含有する火入れ醤油(被処理液)を供給し、多孔質中空糸膜の膜厚(肉厚)部を通過させ、多孔質中空糸膜の外側表面から滲み出した液体をろ液として取り出す、いわゆる内圧式のろ過工程であってもよいし、多孔質中空糸膜の外側表面から被処理液を供給し、多孔質中空糸膜の内側表面から滲み出したろ液を、中空部を介して取り出す、いわゆる外圧式のろ過工程であってもよい。
本明細書中、用語「多孔質膜の内部」とは、多数の細孔が形成されている膜厚(肉厚)部を指す。
【0014】
好ましくは、本実施形態の醤油の製造方法は、前記ろ過工程の後に、該多孔質膜に洗浄液を通過又は浸漬させて、該多孔質膜の内部を洗浄する洗浄工程を更に含み、該洗浄液は50℃~90℃の湯(以下、熱水ともいう。)であることができる。
より好ましくは、本実施形態の醤油の製造方法は、前記ろ過工程の後に、該多孔質膜に洗浄液を通過又は浸漬させて、該多孔質膜の内部を洗浄する洗浄工程を更に含み、該洗浄液が0.05重量%以上0.5重量%以下の次亜塩素酸ナトリウム又は0.4重量%以上4重量%以下の水酸化ナトリウムを含有する水溶液(以下、薬液ともいう。)であることができる。上記洗浄工程においては、熱水洗浄の後に、薬液洗浄をすることが好ましい。
洗浄工程は、前記洗浄液による洗浄を行う洗浄液工程と、その後、残存する洗浄液成分を除去するためのリンス水による濯ぎを行うリンス工程とを含むことができる。洗浄液が熱水の場合、熱水の温度は、好ましくは55℃以上85℃以下、より好ましくは60℃以上80℃以下であることができる。洗浄液が前記薬液の場合、薬液の温度は、好ましくは15℃以上35℃以下、より好ましくは20℃以上35℃以下であることができる。また、前記薬液中の水酸化ナトリウムの濃度は、0.7重量%以上4重量%以下がより好ましく、1重量%以上4重量%以下がさらに好ましい。前記薬液中の次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、0.1重量%以上0.5重量%以下がより好ましく、0.2重量%以上0.5重量%以下がさらに好ましい。洗浄工程としては、例えば、ろ過工程における火入れ醤油の流れ方向とは逆方向に、すなわち、ろ液側から火入れ醤油側に洗浄液を通過させることによって多孔質膜のろ過面(火入れ醤油側表面)から付着物(不溶解成分)を引き離して、除去する逆圧水洗浄、エアによって多孔質膜を揺らして多孔質膜に付着した不溶解成分を振るい落とすエアスクラビングなどが挙げられる。前記リンス工程で使用するリンス水の量は、好ましくは、前記多孔質膜の単位面積当たり100L/m以下、より好ましくは50L/m以下であることができる。また、前記リンス工程後に前記ろ過工程を再開した後のろ液中の塩素濃度が0.1ppm以下であり、かつ、該ろ過液のpHが8.6以下であることが好ましい。
本実施形態の醤油の製造方法におけるろ過工程に用いる多孔質膜の構造、素材(材料)、及び製造方法を、以下、詳述する。
【0015】
<多孔質膜>
多孔質膜は、該多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域において、1μm以下の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して70%以上であるもの;同各領域において、10μm以上の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して15%以下であるもの;同各領域において、1μm以下の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して70%以上であり、かつ、10μm以上の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して15%以下であるもの;のいずれかである。好ましい多孔質膜は、同各領域において、1μm以下の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して70%以上であり、1μm超10μm未満の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して15%以下であり、かつ、10μm以上の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して15%以下であるものである。
【0016】
図1は、本実施形態の醤油の製造方法におけるろ過工程に用いる多孔質膜の断面のSEM画像の一例である。かかるSEM画像は、中空糸多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の領域の内、内側に最も近い領域の内、内側に最も近い領域内の所定視野を撮影して得たSEM画像写真を二値化処理した画像である。
尚、前記各領域内では、中空糸多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面と、該内側表面に平行する断面との間では、樹脂部の存在分布の差異、すなわち、孔の連通性の異方性は事実上無視することができる。
本明細書中、用語「樹脂部」とは、多孔質膜において多数の孔を形成する、樹脂から構成される3次元網目構造の樹状骨格部分である。図1に黒色で示す部分が樹脂部であり、白色の部分が孔である。
多孔質膜内部には、膜の内側から外側まで屈曲しながら連通している連通孔が形成されており、多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域において、1μm以下の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して70%以上であれば、孔の連通性が高い(すなわち、膜内部の連通孔の存在割合が高い)ものとなり、被処理液のフラックス(透水量、透水性)、洗浄後の透水量保持率が高く、引張破断伸度で指標される薬液洗浄後の膜へのダメージも軽減される。しかしながら、樹脂部の総面積に対する1μm以下の面積を有する樹脂部の面積の合計の割合が高すぎると、多孔質膜において多数の孔を形成する、樹脂から構成される3次元網目構造の樹状骨格部分が細すぎるものとなるため、1μm以下の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して70%以上であることを維持しつつ、1μm超の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して2%以上30%以下で存在するものが好ましく、10μm以上の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して15%以下で存在するものがより好ましく、1μm超10μm未満の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して15%以下であり、かつ、10μm以上の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して2%以上15%以下で存在するものがさらに好ましい。1μm超の面積を有する樹脂部の面積の合計が、該樹脂部の総面積に対して2%以上30%以下で存在すれば、樹脂から構成される3次元網目構造の樹状骨格部分が細すぎないため、多孔質膜の強度、引張破断伸度を適切に維持することができる。
【0017】
図2~5は、それぞれ、実施例1、実施例2、実施例3、比較例2で用いた多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域(丸1~丸4)において、樹脂部の総面積に対する、所定面積を有する樹脂部の面積の合計の割合(%)を示すヒストグラムである。図1には、樹脂部が粒状に表れている。図2~5は、この粒状の樹脂部のそれぞれの面積を計測し、その粒状の樹脂部の面積毎について、各領域内の所定サイズの視野における全樹脂部の総面積に対する面積割合をヒストグラムとして示している。図2~5における丸1は、多孔質膜の内側表面に直交する膜厚方向における膜断面のSEM画像における、該内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の領域の内、最も内側に近い領域の番号であり、丸4は、最も内側に近い領域の番号である。例えば、実施例1丸1は、実施例1の多孔質中空糸膜の最も内側の領域内の所定サイズの視野を撮影したときのヒストグラムである。多孔質中空糸膜の各領域内の樹脂部の面積分布の測定方法については、後述する。
【0018】
多孔質膜の表面開口率は25~60%であることが好ましく、より好ましくは25~50%であり、更に好ましくは25~45%である。処理対象液と接触する側の表面開口率が25%以上であれば、目詰まり、膜表面擦過による透水性能の劣化が小さくなるため、ろ過安定性を高めることができる。他方、表面開口率が高く、孔径が大きすぎると、要求される分離性能を発揮できないおそれがある。そのため、多孔質膜の平均細孔径は100~700nmであることが好ましく、100~600nmがより好ましい。平均細孔径が100~700nmであれば、分離性能は十分であり、孔の連通性も確保できる。表面開口率、平均細孔径の測定方法については、それぞれ後述する。
【0019】
多孔質膜の膜厚は、好ましくは80~1,000μmであり、より好ましくは100~300μmである。膜厚が80μm以上であれば、膜の強度が確保でき、他方、1000μm以下であれば、膜抵抗による圧損が小さくなる。
【0020】
多孔質中空糸膜の形状としては、円環状の単層膜を挙げることができるが、分離層と分離層を支持する支持層とで違う孔径を持つ多層膜であってもよい。また、膜の内側表面と外側表面で、突起を持つなど異形断面構造であてもよい。
【0021】
(多孔質膜の素材(材質))
多孔質膜を構成する樹脂は、好ましくは熱可塑性樹脂であり、フッ素樹脂がより好ましい。フッ素樹脂としては、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂、及びこれら樹脂の混合物からなる群から選ばれるものが挙げられる。
熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン、オレフィンとハロゲン化オレフィンとの共重合体、ハロゲン化ポリオレフィン、それらの混合物が挙げられる。熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン(ヘキサフルオロプロピレンのドメインを含んでもよい)、これらの混合物が挙げられる。これらの樹脂は、は熱可塑性ゆえに取り扱い性に優れ、且つ強靱であるため、膜素材として優れる。これらの中でもフッ化ビニリデン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、ヘキサフルオロプロピレン樹脂又はそれらの混合物、エチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンのホモポリマー又はコポリマー、あるいは、ホモポリマーとコポリマーの混合物は、機械的強度、化学的強度(耐薬品性)に優れ、且つ成形性が良好であるために好ましい。より具体的には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合物、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合物、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0022】
多孔質膜は、熱可塑性樹脂以外の成分(不純物等)を5質量%程度まで含み得る。例えば、多孔質膜製造時に用いる溶剤が含まれる。後述するように、多孔質膜の製造時に溶剤として用いた第1の溶剤(以下、非溶剤ともいう)、第2の溶剤(以下、良溶剤若しくは貧溶剤ともいう)、又はその両方が含まれる。これらの溶剤は、熱分解GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)により検出することができる。
【0023】
第1の溶剤は、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、及びエポキシ化植物油からなる群から選択される少なくとも1種であることができる。
また、第2の溶剤は、第1の溶剤と異なり、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、及びエポキシ化植物油からなる群から選択される少なくとも1種であることができる。炭素数6以上30以下の脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸等が挙げられる。また、エポキシ化植物油としては、エポキシ大豆油、エポキシ化亜麻仁油等が挙げられる。
第1の溶剤は、熱可塑性樹脂と第1の溶剤との比率が20:80の第1の混合液において、第1の混合液の温度を第1の溶剤の沸点まで上げても、熱可塑性樹脂が第1の溶剤に均一に溶解しない非溶剤であることが好ましい。
第2の溶剤は、熱可塑性樹脂と第2の溶剤との比率が20:80の第2の混合液において、第2の混合液の温度が25℃より高く第2の溶剤の沸点以下のいずれかの温度で熱可塑性樹脂が第2の溶剤に均一に溶解する良溶剤であることが好ましい。
第2の溶剤は、熱可塑性樹脂と第2の溶剤との比率が20:80の第2の混合液において、第2の混合液の温度が25℃では熱可塑性樹脂が第2の溶剤に均一に溶解せず、第2の混合液の温度が100℃より高く第2の溶剤の沸点以下のいずれかの温度では熱可塑性樹脂が第2の溶剤に均一に溶解する貧溶剤であることがより好ましい。
【0024】
また、本実施形態の醤油の製造方法におけるろ過工程においては、熱可塑性樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた多孔質中空糸膜であって、第1の溶剤(非溶剤)を含むものを用いることができる。
この場合、第1の溶剤は、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、エポキシ化植物油からなる群から選択される少なくとも1種であって、ポリフッ化ビニリデンと第1の溶剤との比率が20:80の第1の混合液において、第1の混合液の温度を第1の溶剤の沸点まで上げても、ポリフッ化ビニリデンが第1の溶剤に均一に溶解しない非溶剤であることができる。非溶媒としては、アジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA)が好ましい。
また、上記多孔質中空糸膜は、第1の溶剤とは異なる第2の溶剤を含んでもよい。この場合、第2の溶剤は、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、エポキシ化植物油からなる群から選択される少なくとも1種であって、ポリフッ化ビニリデンと第2の溶剤との比率が20:80の第2の混合液において、第2の混合液の温度が25℃より高く第2の溶剤の沸点以下のいずれかの温度でポリフッ化ビニリデンが第2の溶剤に均一に溶解する良い溶剤であることが好ましい。また、第2の溶剤は、第2の混合液の温度が25℃ではポリフッ化ビニリデンが第2の溶剤に均一に溶解せず、第2の混合液の温度が100℃より高く第2の溶剤の沸点以下のいずれかの温度ではポリフッ化ビニリデンが第2の溶剤に均一に溶解する貧溶剤であることがより好ましい。貧溶媒としては、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)が好ましい。
【0025】
(多孔質膜の物性)
多孔質膜は、引張破断伸度の初期値は60%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは100%以上、特に好ましくは120%以上である。引張破断伸度の測定方法については後述する。
【0026】
また、実用上の観点から、多孔質膜の圧縮強度は0.2MPa以上が好ましく、より好ましくは0.3~1.0MPa、更に好ましくは0.4~1.0MPaである。
【0027】
<多孔質膜の製造方法>
以下、多孔質中空糸膜の製造方法について説明する。但し、本実施形態のろ過方法に用いる多孔質中空糸膜の製造方法は、以下の製造方法に限定されるものではない。
本実施形態の醤油の製造方法におけるろ過工程に用い多孔質中空糸膜の製造方法は、(a)溶融混練物を準備する工程と、(b)溶融混練物を多重構造の紡糸ノズルに供給し、紡糸ノズルから溶融混練物を押し出すことによって中空糸膜を得る工程と、(c)可塑剤を中空糸膜から抽出する工程とを含むものであることができる。溶融混練物が添加剤を含む場合には、工程(c)の後に、(d)添加剤を中空糸膜から抽出する工程をさらに含んでもよい。
【0028】
溶融混練物の熱可塑性樹脂の濃度は好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは25~45質量%であり、更に好ましくは30~45質量%である。この値が20質量%以上であれば、機械的強度を高くすることができ、他方、60質量%以下であれば、透水性能を高くすることができる。溶融混練物は添加剤を含んでもよい。
溶融混練物は、熱可塑性樹脂と溶剤の二成分からなるものであってもよく、熱可塑性樹脂、添加剤、及び溶剤の三成分からなるものであってもよい。溶剤は、後述するように、少なくとも非溶剤を含む。
工程(c)で使用する抽出剤としては、塩化メチレンや各種アルコールなど熱可塑性樹脂は溶けないが可塑剤と親和性が高い液体を使用することが好ましい。
添加剤を含まない溶融混練物を使用する場合には、工程(c)を経て得られる中空糸膜を多孔質中空糸膜として使用してもよい。添加剤を含む溶融混練物を使用して多孔質中空糸膜を製造する場合には、工程(c)後に、中空糸膜から(d)添加剤を抽出除去して多孔性中空糸膜を得る工程をさらに経ることが好ましい。工程(d)における抽出剤には、湯、又は酸、アルカリなど使用した添加剤を溶解できるが熱可塑性樹脂は溶解しない液体を使用することが好ましい。
【0029】
添加剤として無機物を使用してもよい。無機物は無機微粉が好ましい。溶融混練物に含まれる無機微粉の一次粒径は、好ましくは50nm以下であり、より好ましくは5nm以上30nm未満である。無機微粉の具体例としては、シリカ(微粉シリカを含む)、酸化チタン、塩化リチウム、塩化カルシウム、有機クレイ等が挙げられ、これらのうち、コストの観点から微粉シリカが好ましい。上述の「無機微粉の一次粒径」は電子顕微鏡写真の解析から求めた値を意味する。すなわち、まず無機微粉の一群をASTM D3849の方法によって前処理を行う。その後、透過型電子顕微鏡写真に写された3000~5000個の粒子直径を測定し、これらの値を算術平均することで無機微粉の一次粒径を算出することができる。
多孔質中空糸膜内部の無機微粉について、蛍光X線等により存在する元素を同定することで、存在する無機微粉の素材(材料)を同定することができる。
添加剤として有機物を使用する場合、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどの親水性高分子を使用すると中空糸膜に親水性を付与することができる。また、グリセリン、エチレングリコールなど粘度の高い添加剤を使用すると溶融混練物の粘度をコントロールすることができる。
【0030】
次に、本実施形態の多孔質中空糸膜の製造方法における(a)溶融混練物を準備する工程について詳細に説明する。
本実施形態の多孔質中空糸膜の製造方法では、熱可塑性樹脂の非溶剤を、良溶剤又は貧溶剤に混合させる。混合後の混合溶媒は、使用する熱可塑性樹脂の非溶剤である。このように膜の原材料として非溶剤を用いると、3次元網目構造を持つ多孔質中空糸膜が得られる。その作用機序は必ずしも明らかではないが、非溶剤を混合させて、より溶解性を低くした溶剤を用いた方がポリマーの結晶化が適度に阻害され、3次元網目構造になりやすいと考えられる。例えば、非溶剤、及び貧溶剤又は良溶剤は、フタル酸エステル、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、エポキシ化植物油等の各種エステル等からなる群から選ばれる。
熱可塑性樹脂を常温で溶解させることができる溶剤を良溶剤、常温では溶解できないが高温にして溶解させることができる溶剤をその熱可塑性樹脂の貧溶剤、高温にしても溶解させることができない溶剤を非溶剤と呼ぶが、良溶剤、貧溶剤、及び非溶剤は、以下のようにして判定することができる。
試験管に2g程度の熱可塑性樹脂と8g程度の溶剤を入れ、試験管用ブロックヒーターにて10℃刻み程度でその溶剤の沸点まで加温し、スパチュラなどで試験管内を混合し、熱可塑性樹脂が溶解するものが良溶剤又は貧溶剤、溶解しないものが非溶剤である。100℃以下の比較的低温で溶解するものが良溶剤、100℃以上沸点以下の高温にしないと溶解しないものを貧溶剤と判定する。
例えば、熱可塑性樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用い、溶剤としてアセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、セバシン酸ジブチル又はアジピン酸ジブチルを用いると、200℃程度でPVDFはこれらの溶剤に均一に混ざり合い溶解する。他方、溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル、又はセバシン酸ビス2エチルヘキシルを用いると温度を250℃まで上げても、PVDFはこれらの溶剤には溶解しない。
また、熱可塑性樹脂としてエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)を用い、溶剤としてアジピン酸ジエチルを用いると、200℃程度でETFEは均一に混ざり合い溶解する。他方、溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DIBA)を用いると溶解しない。
また、熱可塑性樹脂としてエチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)を用い、溶剤としてクエン酸トリエチルを用いると200℃程度で均一に溶解し、トリフェニル亜リン酸(TPP)を用いると溶解しない。
【実施例
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例、比較例における各物性値は以下の方法で各々求めた。
【0032】
(1)多孔質中空糸膜の外径、内径
多孔質中空糸膜を、長さ方向に直交する断面でカミソリを使って薄くスライスし、100倍拡大鏡にて、外径と内径を測定した。一つのサンプルについて、長さ方法に30mm間隔で60箇所の切断面で測定を行い、平均値を中空糸膜の外径と内径とした。
【0033】
(2)電子顕微鏡撮影
多孔質中空糸膜を、長さ方向に直交する断面で円環状に裁断し、10%リンタングステン酸+四酸化オスミウム染色を実施し、エポキシ樹脂に包埋した。次いで、トリミング後、試料断面にBIB加工を施して平滑断面を作製し、導電処理し、検鏡試料を作製した。作製した検鏡試料を、HITACHI製電子顕微鏡SU8000シリーズを使用し、加速電圧1kVで膜の断面の電子顕微鏡(SEM)画像を5,000~30,000倍で、膜厚(肉厚部)断面の内側表面を含む視野、該膜の外側表面を含む視野、及びこれらの視野の間を等間隔で撮影した2視野の合計4視野の各領域(図2~5における丸1~丸4)内で所定の視野で撮影した。平均孔径に応じて倍率を変えて測定することができ、具体的には、平均孔径が0.1μm以上の場合には、5000倍、平均孔径が0.05μm以上0.1μm未満の場合には、10,000倍、平均孔径が0.05μm未満の場合には、30,000倍とした。尚、視野のサイズは、2560×1920ピクセルとした。
画像処理には、ImageJを用い、撮影したSEM画像に対してThreshold処理(Image-Adjust-Treshold:大津法(Otsuを選択))を施すことより、孔の部分と樹脂部とで二値化した。
表面開口率:二値化画像の樹脂部と孔部との割合を算出することにより表面開口率を測定した。
樹脂部の面積分布:ImageJの「Analyze Particle」コマンド(Analyz Particle:Size0.10-Infinity)を使用し、撮影したSEM画像に含まれる二値化された粒状の樹脂部の大きさをそれぞれ計測した。SEM画像に含まれる全樹脂部の総面積をΣSとし、1μm以下の樹脂部の面積をΣS(<1μm)とした場合に、ΣS(<1μm)/ΣSを算出することによって、1μm以下の面積を有する樹脂部の面積割合を算出した。同様に、所定範囲の面積を有する樹脂部の面積割合を算出した。
尚、二値化処理を施す際のノイズ除去については、0.1μm未満の面積の樹脂部をノイズとして除去し、0.1μm以上の面積の樹脂部を分析対象とした。また、ノイズ除去は、メディアンフィルタ処理(Process-Filters-Median:Radius:3.0pixels)を施すことによって行った。
また、SEM画像の端で切れている粒状の樹脂部についても計測対象とした。また、「Incude Holes」(穴をうめる)の処理は行わなかった。また、「雪だるま」型を「扁平」型などに形状を補正する処理は行わなかった。
平均細孔孔径:ImageJの「Plugins-Bone J-Thickness」コマンドを使用して測定した。尚、空間サイズは空隙に入る最大の円サイズとして定義した。
【0034】
(3)フラックス(透水性、初期純水フラックス)
多孔質中空糸膜をエタノールに浸漬した後、純水浸漬を数回繰り返した後、約10cm長の湿潤中空糸膜の一端を封止し、他端の中空部内に注射針を挿入し、25℃の環境下にて注射針から0.1MPaの圧力で25℃の純水を注入し、膜の外側表面から透過してくる純水量を測定し、下記式:
初期純水フラックス[L/m/h]=60×(透過水量[L])/{π×(膜外径[m])×(膜有効長[m])×(測定時間[min])}
により純水フラックスを決定し、透水性を評価した。
尚、「膜有効長」は、注射針が挿入されている部分を除いた、正味の膜長を指す。
【0035】
(4)実液ろ過時の透水性能保持率 まず、生揚醤油に70℃60分の熱を入れ、火入れし、火入れ醤油原液を作製した。
次に(i)循環タンクに純水を投入し、膜間差圧=0.05MPaになるように循環ろ過を行って1分間透過水を採取し、初期透水量とした。
次いで、(ii)配管内の水を抜いた後、循環タンクに火入れ醤油原液を投入し、膜間差圧=0.15MPaになるように循環ろ過した。
次いで、(iii)配管の中の火入れ醤油残液を抜いた後、循環タンクに純水を投入し、膜間差圧=0.05MPaになるように循環ろ過し、水洗を行った。
次いで、(iv)配管の中の水を抜いた後、循環容器に調合した薬液を投入し、膜循環ろ過を行って30分薬液洗浄を行った。薬液には0.2重量%の次亜塩素酸ナトリウムと1重量%の苛性ソーダを混合させた水溶液を用いた。
次いで、(v)薬液洗浄後、配管の中の薬液を抜いた後、循環タンクに純水を投入し、膜間差圧=0.05MPaになるように循環ろ過を行い、出てきた透過水を10L/mのタイミングで繰り返し採取、透過水の塩素濃度が0.1ppm以下、かつ、pHが8.6以下になった時点で水洗を終了し、そのリンスの水量を記録した。また、引き続き同じ膜間差圧で循環ろ過を行って1分間透過水を採取、透水量とし、初期透水量と比較した。
各パラメーターは、下記式で算出した:
膜間差圧={(入圧)+(出圧)}/2
膜内表面積[m]=π×(中空糸膜内径[m])×(中空糸膜有効長[m])
膜面線速[m/s]=4×(循環水量[m/s])/{π×(膜内径[m])}。また、操作は全て25℃、膜面線速1.0m/秒で行った。
【0036】
(5)引張破断伸度(%)
サンプルとして多孔質中空糸膜をそのまま用い、張破断伸度をJIS K7161に従って算出した。引張破断時の荷重と変位を以下の条件で測定した。
測定機器:インストロン型引張試験機(島津製作所製AGS-5D)
チャック間距離:5cm
引張り速度:20cm/分
【0037】
(8)火入れ醤油のろ過前後の、澱成分比率(X0、X1) 澱成分は、対象の醤油20mLをメスシリンダーに入れ、85℃に設定した恒温槽で90分加熱したのち、室温で5日間静置して、沈殿成分の高さを測定して、ろ過前後の沈殿成分の高さを比較して評価した。静置後澱成分の高さを比較することにより、醤油単位容積中に存在する澱成分比率を求めることができる。
【0038】
(9)全窒素量(N0、N1)の測定
醤油試料を純酸素気流中で燃焼させ、さらに還元して、試料中の全窒素量を窒素ガスとして定量した。全窒素分は試料容量に対する百分比として算出した。測定装置は住化分析センター社製SUMIGRAPH NC-220Fを用い、測定方法はMETHOD「L×M」、試料量は500μL、反応炉温度:870℃、還元炉温度:600℃に設定した。定量は、アスパラギン酸の校正曲線から算出した。
【0039】
[実施例1]
熱可塑性樹脂としてPVDF樹脂(クレハ社製、KF-W#1000)40質量%と、微粉シリカ(一次粒径:16nm)23質量%と、非溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA)32.9質量%と、貧溶剤としてアセチルクエン酸トリブチル(ATBC, 沸点343℃)4.1質量%とを用いて、溶融混練物を調製した。得られた溶融混連物の温度は240℃であった。得られた溶融混連物を2重管構造の紡糸ノズルを用い、中空糸状押出し物を120mmの空走距離を通した後、30℃の水中で固化させ、熱誘起相分離法により多孔質構造を発達させた。得られた中空糸状押出し物を、5m/分の速度で引き取り、かせに巻き取った。巻き取った中空糸状押出し物をイソプロピルアルコール中に浸漬させてDOAとATBCを抽出除去し、次いで、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を水置換し、次いで、20質量%NaOH水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、更に水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去して、多孔質中空糸膜を作製した。
得られた多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種物性を以下の表1示す。得られた多孔質中空糸膜は、3次元網目構造を有していた。また、フラックス(透水性)が高く、連通性の高い膜であった。火入れ工程を実施した。火入れ工程後の醤油20mLをメスシリンダーにいれ、85℃に設定した恒温槽で90分間加熱した後、室温で5日間静置したところ、液面高さ138mmに対して、110mmの澱成分の沈殿が形成された。他方、火入れ工程後の醤油を前記多孔質膜でろ過したろ液20mLを同様に処理したところ、液面高さ138mmに対して、1mmの澱成分の沈殿が形成された。すなわち、該ろ過による澱成分の除去率は99%超であった。また、火入れ醤油のろ過前の全窒素成分は1.77重量%であり、他方、ろ過後の全窒素成分は1.78%であり、2%未満の変化であった。
【0040】
[実施例2]
熱可塑性樹脂としてETFE樹脂(旭硝子社製、TL-081)40質量%と、微粉シリカ(一次粒径:16nm)23質量%と、非溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA)32.9質量%と、貧溶剤としてアジピン酸ジイソブチル(DIBA)4.1質量%とを用いて、溶融混練物を調製した。得られた溶融混連物の温度は240℃であった。得られた溶融混連物を2重管構造の紡糸ノズルを用い、中空糸状押出し物を120mmの空走距離を通した後、30℃の水中で固化させ、熱誘起相分離法により多孔質構造を発達させた。得られた中空糸状押出し物を、5m/分の速度で引き取り、かせに巻き取った。巻き取った中空糸状押出し物をイソプロピルアルコール中に浸漬させてDOAとDIBAを抽出除去し、次いで、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を水置換し、次いで、20質量%NaOH水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、更に水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去して、多孔質中空糸膜を作製した。
得られた多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種物性を以下の表1示す。得られた多孔質中空糸膜は、3次元網目構造を有していた。また、フラックス(透水性)が高く、連通性の高い膜であった。
火入れ工程を実施した。火入れ工程後の醤油20mLをメスシリンダーにいれ、85℃に設定した恒温槽で90分間加熱した後、室温で5日間静置したところ、液面高さ138mmに対して、110mmの澱成分の沈殿が形成された。他方、火入れ工程後の醤油を前記多孔質膜でろ過したろ液20mLを同様に処理したところ、液面高さ138mmに対して、1mmの澱成分の沈殿が形成された。すなわち、該ろ過による澱成分の除去率は99%超であった。また、火入れ醤油のろ過前の全窒素成分は1.77重量%であり、他方、ろ過後の全窒素成分は1.77%であり、2%未満の変化であった。
【0041】
[実施例3]
熱可塑性樹脂として熱可塑性樹脂としてECTFE樹脂(ソルベイスペシャルティポリマーズ社製、Halar901)40質量%と、微粉シリカ(一次粒径:16nm)23質量%と、非溶剤としてトリフェニル亜リン酸(TPP)32.9質量%と、貧溶剤としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DOA)4.1質量%とを用いて、溶融混練物を調製した。得られた溶融混連物の温度は240℃であった。得られた溶融混連物を2重管構造の紡糸ノズルを用い、中空糸状押出し物を120mmの空走距離を通した後、30℃の水中で固化させ、熱誘起相分離法により多孔質構造を発達させた。得られた中空糸状押出し物を、5m/分の速度で引き取り、かせに巻き取った。巻き取った中空糸状押出し物をイソプロピルアルコール中に浸漬させてTPPとDOAを抽出除去し、次いで、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を水置換し、次いで、20質量%NaOH水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、更に水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去して、多孔質中空糸膜を作製した。
得られた多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種物性を以下の表1示す。得られた多孔質中空糸膜は、3次元網目構造を有していた。また、フラックス(透水性)が高く、連通性の高い膜であった。
火入れ工程を実施した。火入れ工程後の醤油20mLをメスシリンダーにいれ、85℃に設定した恒温槽で90分間加熱した後、室温で5日間静置したところ、液面高さ138mmに対して、110mmの澱成分の沈殿が形成された。他方、火入れ工程後の醤油を前記多孔質膜でろ過したろ液20mLを同様に処理したところ、液面高さ138mmに対して、1mmの澱成分の沈殿が形成された。すなわち、該ろ過による澱成分の除去率は99%超であった。また、火入れ醤油のろ過前の全窒素成分は1.77重量%であり、他方、ろ過後の全窒素成分は1.71%であり、約3%の変化であった。
【0042】
[比較例1]
溶剤をATBCのみとしたこと以外は、実施例1と同様にして製膜し、比較例1の中空糸膜を得た。得られた多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種物性を以下の表1示す。得られた多孔質中空糸膜は、球晶構造を有していた。また、フラックスが低く、連通性の低い膜であった。
火入れ工程を実施した。火入れ工程後の醤油20mLをメスシリンダーにいれ、85℃に設定した恒温槽で90分間加熱した後、室温で5日間静置したところ、液面高さ138mmに対して、110mmの澱成分の沈殿が形成された。他方、火入れ工程後の醤油を前記多孔質膜でろ過したろ液20mLを同様に処理したところ、液面高さ138mmに対して、1mmの澱成分の沈殿が形成された。すなわち、該ろ過による澱成分の除去率は99%超であった。また、火入れ醤油のろ過前の全窒素成分は1.77重量%であり、他方、ろ過後の全窒素成分は1.2%であり、約32%の変化であった。
【0043】
[比較例2]
微粉シリカを0%とし、溶剤をγ-ブチロラクトンのみとしたこと以外は、実施例1と同様にして製膜し、比較例2の中空糸膜を得た。得られた多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種物性を以下の表1示す。得られた多孔質中空糸膜は、球晶構造を有していた。また、フラックスは低く、連通性の低い膜であった。
火入れ工程を実施した。火入れ工程後の醤油20mLをメスシリンダーにいれ、85℃に設定した恒温槽で90分間加熱した後、室温で5日間静置したところ、液面高さ138mmに対して、110mmの澱成分の沈殿が形成された。他方、火入れ工程後の醤油を前記多孔質膜でろ過したろ液20mLを同様に処理したところ、液面高さ138mmに対して、1mmの澱成分の沈殿が形成された。すなわち、該ろ過による澱成分の除去率は99%超であった。また、火入れ醤油のろ過前の全窒素成分は1.77重量%であり、他方、ろ過後の全窒素成分は1.3%であり、約27%の変化であった。
【0044】
[比較例3]
溶剤をDOAのみとした以外は、実施3と同様にして製膜し、比較例3の中空糸膜を得た。得られた多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種物性を以下の表1示す。得られた多孔質中空糸膜は、球晶構造を有していた。また、フラックスは低く、連通性の低い膜であった。
火入れ工程を実施した。火入れ工程後の醤油20mLをメスシリンダーにいれ、85℃に設定した恒温槽で90分間加熱した後、室温で5日間静置したところ、液面高さ138mmに対して、110mmの澱成分の沈殿が形成された。他方、火入れ工程後の醤油を前記多孔質膜でろ過したろ液20mLを同様に処理したところ、液面高さ138mmに対して、1mmの澱成分の沈殿が形成された。すなわち、該ろ過による澱成分の除去率は99%超であった。また、火入れ醤油のろ過前の全窒素成分は1.77重量%であり、他方、ろ過後の全窒素成分は1.25%であり、約29%変化であった。
【0045】
[比較例4]
火入れ後の醤油原液をスタンダードスーパーセル(セライト社製)の珪藻土と混合し、内外醸機社製フィルタープレスにより圧力=1.0MPaとなるようにろ過を実施した。火入れ工程後の醤油20mLをメスシリンダーにいれ、85℃に設定した恒温槽で90分間加熱した後、室温で5日間静置したところ、液面高さ138mmに対して、110mmの澱成分の沈殿が形成された。他方、火入れ工程後の醤油を前記珪藻土でろ過したろ液20mLを同様に処理したところ、液面高さ138mmに対して、5mmの澱成分の沈殿が形成された。すなわち、該珪藻土ろ過による澱成分の除去率は約95%であった。また、火入れ醤油のろ過前の全窒素成分は1.77重量%であり、他方、ろ過後の全窒素成分は1.74%であり、約2%変化であった。
【0046】
【表1】
【0047】
以上の結果から、連通性が良好な膜は、ろ過性能、薬液耐性に優れ、かつ、高寿命であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る醤油の製造方法におけるろ過工程は、多孔質ろ過膜の(被処理液側である膜の内側からろ液側である膜の外側に至る細孔の連通性が良好な膜を使用するため、ろ過前後の火入れ醤油の全窒素成分の変化が低く、澱成分の除去率が高く、さらに、洗浄工程で使用する洗浄液(薬液)として、50℃~90℃の湯、及び/又は0.05重量%以上0.5重量%以下の次亜塩素酸ナトリウム若しくは0.4重量%以上4重量%以下の水酸化ナトリウムを含有する水溶液を使用した場合であっても、膜の劣化を最小限に抑えることができる。それゆえ、本発明に係る醤油の製造方法は、ろ過性能、薬液耐性に優れ、かつ、高寿命の方法である。
図1
図2
図3
図4
図5