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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】移動体検知システム及び移動体検知方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20221128BHJP
【FI】
G08G1/16 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018166976
(22)【出願日】2018-09-06
(65)【公開番号】P2020042340
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】大日方 圭
(72)【発明者】
【氏名】宮山 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】小野 勝一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 裕史
(72)【発明者】
【氏名】川野 羊三
(72)【発明者】
【氏名】大里 琢馬
【審査官】貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-170762(JP,A)
【文献】特開2010-15450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 1/16
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方を検知する外界センサと、
前記外界センサの検知情報に基づいて自車前方の道路構造を認識する手段と、
前記外界センサの検知情報から移動体を抽出しその未来位置を予測する手段と、
自車の現在走行状態に基づく予測進路に衝突判定領域を設定する手段と、を備え、
前記移動体の未来位置が、前記衝突判定領域にあると判定される場合に警報または制動などの回避措置を発動させるように構成された移動体検知システムにおいて、
自車位置情報と地図データに基づいて経路誘導するナビゲーション機能が作動している状態で、走行予定経路におけるカーブ区間への進入前に前記地図データからカーブ形状を取得し、前記カーブ形状と、前記カーブ区間への進入地点に到達する所定時間前の速度と、減速開始時期に基づいて当該カーブ区間への進入速度と当該カーブ区間の通過速度を予測し、当該カーブ区間における自車の進行方向位置分布と幅方向位置分布を推定する車両位置予測手段を備え、前記位置分布に基づいて前記衝突判定領域を補正する機能を有し、
前記カーブ形状はカーブ曲率を含み、前記通過速度の予測は、前記カーブ曲率に依存して決定される当該カーブ区間の最大通過速度と、前記カーブ区間への進入速度との差に応じた分散を有する速度分布を含むことを特徴とする移動体検知システム。
【請求項2】
前記減速開始時期は、前記カーブ区間への進入地点に到達する所定時間前以降にアクセルオフまたはブレーキオンとなったタイミングであることを特徴とする請求項1記載の移動体検知システム。
【請求項3】
前記カーブ区間への進入地点を通過時に実際の進入速度に基づいて当該カーブ区間の通過速度の予測値を更新し、当該カーブ区間における自車の進行方向位置分布と幅方向位置分布を更新し、前記衝突判定領域を更新する機能をさらに有することを特徴とする請求項1または2記載の移動体検知システム。
【請求項4】
外界センサの検知情報に基づいて自車前方の道路構造を認識するステップと、
前記外界センサの検知情報から移動体を抽出しその未来位置を予測するステップと、
自車の現在走行状態に基づく予測進路に衝突判定領域を設定するステップと、
前記移動体の未来位置が、前記衝突判定領域にあるか否かを判定するステップと、
を含む移動体検知方法において、
自車位置情報と地図データに基づいて経路誘導するナビゲーション機能が作動している状態で、走行予定経路におけるカーブ区間への進入前に前記地図データからカーブ形状を取得するステップと、
前記カーブ形状、前記カーブ区間への進入地点に到達する所定時間前の速度、および、減速開始時期に基づいて当該カーブ区間への進入速度と当該カーブ区間の通過速度を予測するステップと、
当該カーブ区間における自車の進行方向位置分布と幅方向位置分布を推定するステップと、
前記進行方向位置分布および前記幅方向位置分布に基づいて、前記衝突判定領域を補正するステップと、
をさらに含み、
前記カーブ形状はカーブ曲率を含み、前記通過速度の予測は、前記カーブ曲率に依存して決定される当該カーブ区間の最大通過速度と、前記カーブ区間への進入速度との差に応じた分散を有する速度分布を含むことを特徴とする移動体検知方法。
【請求項5】
外界センサの検知情報に基づいて自車前方の道路構造を認識するステップと、
前記外界センサの検知情報から移動体を抽出しその未来位置を予測するステップと、
自車の現在走行状態に基づく予測進路に衝突判定領域を設定するステップと、
前記移動体の未来位置が、前記衝突判定領域にあるか否かを判定するステップと、
をメインプロセスとして含む移動体検知方法において、
自車位置情報と地図データに基づいて経路誘導するナビゲーション機能が作動している状態で、走行予定経路におけるカーブ区間をリストアップするステップと、
前記リストアップしたそれぞれのカーブ区間のカーブ形状を当該カーブ区間への進入前に前記地図データから取得するステップと、
前記リストアップしたカーブ区間への進入地点に到達する所定時間前の速度を取得するステップと、
前記リストアップしたカーブ区間への進入地点に到達する所定時間前以降にアクセルオフまたはブレーキオンとなったタイミングを減速開始時期として取得するステップと、
前記カーブ形状、前記カーブ区間への進入地点に到達する所定時間前の速度、および、前記減速開始時期に基づいて当該カーブ区間への進入速度と当該カーブ区間の通過速度を予測するステップと、
当該カーブ区間における自車の進行方向位置分布と幅方向位置分布を推定するステップと、
をサブプロセスとして含み、
前記サブプロセスを前記メインプロセスと並行して反復実行し、前記サブプロセスで推定された前記進行方向位置分布および前記幅方向位置分布に基づいて、前記メインプロセスにおける前記衝突判定領域を補正することを特徴とする移動体検知方法。
【請求項6】
前記サブプロセスは、前記進行方向位置分布および前記幅方向位置分布を推定するステップに続いてカーブフラグをオンにするステップを含み、
前記メインプロセスは、前記カーブフラグがオンになっている場合に、前記衝突判定領域を補正することを特徴とする請求項記載の移動体検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の移動体検知システムに関し、さらに詳しくは、カーブ区間の走行を考慮した移動体検知とそれに基づく衝突判定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車における安全運転支援や自動運転などを目的として、車載カメラの視界に現れる歩行者や自転車などの移動体を画像認識し、その未来位置を予測し、衝突可能性が高いと判断される場合に、制動制御や警報などの回避処理を発動させる種々の移動体検知システムが開発されている。
【0003】
特許文献1には、自車両周囲の物体の位置情報を取得し、自車両の移動情報に基づいて衝突確率マップを生成し、さらに、自車両の走行領域の幅を取得して衝突確率マップにおける確率分布を補正し、周囲物体の位置に応じて補正後の衝突確率マップに対応付けられた確率を読み出し、衝突確率として出力することが開示されている。
【0004】
しかし、上記衝突判定技術は、自車が直進中であることを前提としており、カーブ走行中における衝突確率についての記載は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-234407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、カーブ走行時において高精度の衝突予測を行うことができる移動体検知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、
自車両の前方を検知する外界センサと、
前記外界センサの検知情報に基づいて自車前方の道路構造を認識する手段と、
前記外界センサの検知情報から移動体を抽出しその未来位置を予測する手段と、
自車の現在走行状態に基づく予測進路に衝突判定領域を設定する手段と、を備え、
前記移動体の未来位置が、前記衝突判定領域にあると判定される場合に警報または制動などの回避措置を発動させるように構成された移動体検知システムにおいて、
自車位置情報と地図データに基づいて経路誘導するナビゲーション機能が作動している状態で、走行予定経路におけるカーブ区間への進入前に前記地図データからカーブ形状を取得し、前記カーブ形状と、前記カーブ区間への進入地点に到達する所定時間前の速度と、減速開始時期に基づいて当該カーブ区間への進入速度と当該カーブ区間の通過速度を予測し、当該カーブ区間における自車の進行方向位置分布と幅方向位置分布を推定する車両位置予測手段を備え、前記位置分布に基づいて前記衝突判定領域を補正する機能を有し、
前記カーブ形状はカーブ曲率を含み、前記通過速度の予測は、前記カーブ曲率に依存して決定される当該カーブ区間の最大通過速度と、前記カーブ区間への進入速度との差に応じた分散を有する速度分布を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る移動体検知システムは、上記のように、カーブ区間への進入前に当該カーブ区間における自車の所定時間後の進行方向位置分布と幅方向位置分布を推定し、それらに基づいて衝突判定領域を補正する機能を有するので、外界センサの検知情報のみでは困難であったカーブ区間内での自車両の未来位置予測と、それに基づく衝突判定、特に、カーブ区間進入直前あるいは直後におけるカーブ区間内での衝突判定の精度を向上するうえで有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】移動体検知システムを示すブロック図である。
図2】車両がカーブ区間に進入する状況を示す概略図である。
図3】車両が移動する予想軌跡を示す線図である。
図4】カーブ走行中の速度分布と存在確率密度の関係を示すグラフである。
図5】カーブ区間の進路に沿った存在確率分布を示す3Dグラフである。
図6】カーブ区間における2次元存在確率分布を示す3Dグラフである。
図7】カーブ区間における車線幅方向の存在確率分布を示すグラフである。
図8】カーブ区間における車線幅方向の存在確率分布を示すグラフである。
図9】カーブ区間進入前の減速状況を示すグラフである。
図10】移動体検知システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明に係る移動体検知システムは、図1に示されるように、外界センサ11、内界センサ14、および、ナビゲーション装置10などからなる入力装置群、道路構造認識部21、移動体検知部22、車両位置予測部23、および、衝突判定部24を含む処理装置20から主に構成されている。
【0011】
外界センサ11は、自車両前方の画像を撮像するステレオカメラなどのイメージセンサ、自車両前方の3D点群データを取得するLIDAR(レーザースキャナ)などを単独または組み合わせて用いることができ、自車両前方の道路構造や移動体の検知に必要な基礎情報の入力手段を構成する。
【0012】
内界センサ14は、アクセルセンサ、ブレーキセンサ、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、舵角センサなどのセンサ群で構成され、自車両の走行状態や運転状態に関する車両情報を車載LAN(CAN)経由で取得し、車両の未来位置を予測するのに必要な情報の入力手段を構成する。
【0013】
ナビゲーション装置10は、自車両の位置情報を取得するGPSセンサ12と、地図データ13を併用して、自車両の現在位置を表示するとともに、予め設定した目的地までの経路案内を行うものであり、経路設定や地図表示、経路案内(ナビゲーション)などを行うための表示および入力装置を備えている。
【0014】
処理装置20は、道路構造認識部21、移動体検知部22、車両位置予測部23、および、衝突判定部24のそれぞれの機能を実行するように動作可能なプログラムを格納するROM(フラッシュメモリ)、演算処理を行うCPU、前記プログラムが読み込まれ前記CPUの作業領域および演算結果の一時記憶領域となるRAM、および入出力インターフェースなどを備えたコンピュータ(ECU)として実装される。
【0015】
道路構造認識部21は、外界センサ11に取得された画像または3D点群データより自車前方の道路構造(道路区分線、ガードレール、中央分離帯など)を認識し、図2に示すように、道路幅Wb(走行レーン幅)を取得する。
【0016】
移動体検知部22は、外界センサ11に取得された画像または3D点群データより、認識処理によって移動体を抽出し、各移動体の位置、幅、速度を所定フレームレートで記憶するとともに、時系列フィルタ(カルマンフィルタ)を用いて各移動体の未来位置を予測し、各移動体を追跡する。
【0017】
車両位置予測部23は、GPSセンサ12に取得される現在位置と、内界センサ14に取得される自車両の走行状態や運転状態に基づいて、自車両の未来位置を予測する。ここで、自車両が直線区間4を走行している場合には、図2に示すように、自車両1の車幅Waを前方に直線的に延長した領域に関して、自車両の走行状態(速度、加速度)に基づいて自車両の進路に沿った縦方向(x方向)の位置を予測する。
【0018】
一方、GPSセンサ12に取得される自車両の現在位置が、ナビゲーション装置10に設定された走行予定経路におけるカーブ区間5に接近した際には、直線区間4とは異なる予測方法を適用する。この点については後述する。
【0019】
衝突判定部24は、移動体検知部22において検知された移動体の未来位置が、車両位置予測部23において予測された自車両の未来位置(Wa)に干渉する確率(衝突確率)を算出し、衝突確率が閾値以上であるか否かの判定を行い、かつ、自車両と移動体との衝突余裕時間(Time To Collision;TTC)を算出する。衝突確率が閾値以上であり、かつ、TTCが所定値以下であればブレーキ制御ユニット32により自動ブレーキを作動させ、TTCが所定値以下でない場合は警報装置31を作動させる。
【0020】
(カーブ区間における自車両の未来位置予測)
ナビゲーション装置10において、ユーザによる目的地や経由地の入力に基づいて走行経路が選定されると、選定された走行予定経路に存在するカーブ区間がリストアップされ、各カーブ区間の座標点データが地図データ13から取得され、それに基づいて、各カーブ区間の曲率や旋回角などのカーブ形状データ(図3)が算出される。この処理は車両位置予測部23にて実行されるが、ナビゲーション装置10側で実行し、経路案内などに利用しても良い。
【0021】
ナビゲーション装置10の案内に従って経路走行を開始すると、最初に通過する予定のカーブ区間の進入地点Aの位置情報とカーブ形状データが車両位置予測部23に読み込まれ、内界センサ14から取得される自車両の現在の車両速度V0に基づいて、カーブ進入地点Aに到達する所定時間tb前に通過する減速検知開始地点Bの位置が算出される。
【0022】
この減速検知開始地点Bの通過後にブレーキオンまたはアクセルオフとなった時点でカーブ走行のための減速が開始されたものとする。例えば、減速検知開始地点B通過時に既にアクセルオフとなっている場合はその後にブレーキオンとなった時点を減速開始時期とする。下り坂などで減速検知開始地点B通過時に既にブレーキオンとなっている場合は地点B通過時を減速開始時期とする。平地走行や上り坂などではアクセルオフとなった時点を減速開始時期とする。
【0023】
この減速開始タイミングと現在速度V0(減速前の速度)からカーブ進入地点Aでの速度(カーブ進入速度V1)を推定し、カーブ曲率と減速開始タイミングからカーブ区間5内での平均予測速度Vmeanを算出し、後述のようにカーブ区間5内での車両1′の進路方向(縦方向x)位置分布と道路幅方向(横方向y)位置分布を推定する。これらの処理はカーブ進入以前に完了し、カーブ進入以降における衝突判定に反映される。
【0024】
例えば、カーブ進入速度V1は、現在の車両速度V0、カーブ進入地点Aまでの距離をL、t1=v0/L、カーブ最大曲率をR1、車両特性から決まる定数をC1,C2として、次式より求められる。
V1=C1(V0・t1^(R1/V0)*C2)
【0025】
カーブ区間内での車両の速度分布Vは、カーブ進入速度V1を平均速度Vmeanとすると、図4に示すように、平均速度Vmeanを中心とした正規分布となるが、分散は、平均速度Vmeanが、カーブ最大通過速度Vmaxから離れるほど大きくなり、図中破線のVmean′で示されるように、カーブ最大通過速度Vmaxに近いほど小さくなる。
【0026】
なお、カーブ区間を通過する最大通過速度Vmaxは、カーブ曲率および路面状態、車両特性によって決まる。単純には、最大旋回角速度ω=(車体コーナリング特性の定数)×速度V×最大舵角δ、v=rωから、r=1/(車体コーナリング特性の定数)×最大舵角δ、のように求めてもよいし、乾燥、湿潤の路面での曲率ごとの最大通過速度を予め実験的に求めた値を使用してもよい。
【0027】
また、図9は、カーブ曲率とカーブ区間進入前の減速状況との関係を示しており、破線で示されるCaは、曲率が小さいカーブ区間進入前の減速状況、実線で示されるCbは、曲率が大きいカーブ区間進入前の減速状況を示している。曲率が大きいカーブ区間に進入する場合は、十分な減速を必要とするのに対し、曲率が小さいカーブ区間に進入する場合は、大きな減速を必要としないので、比較的緩やかな減速となっている。
【0028】
(車両進行方向の位置推定)
次に、カーブ形状データ(図3)に沿って車両が移動するものとして、車両の速度分布Vから想定されるt秒後の車両位置分布を求める(図5)。t秒後の予測とt+△t秒後の予測は同じ軌跡で確率密度分布の違いとなる(図6)。
【0029】
なお、上記の例では、カーブ進入速度V1を平均速度Vmeanとした速度分布Vを基に計算しているが、カーブ進入地点Aの1点ではなく、複数の地点A1~Anについて、先ずA1における速度分布を求め、A1分布からA2分布、A2からA3・・・Anというように順に導出して計算して用いた速度分布を用いることもできる。
【0030】
(車両幅方向の位置推定)
上記と並行して、道路構造認識部21より得られる情報に基づいて、車両幅方向の位置を推定する。すなわち、標準的な規格の道路の走行では、車両が区分線(車道外側線、車線境界線)を逸脱しないと仮定して車線両側の区分線位置における車両の存在確率を0とすれば、中央部分は一定値に近いような分布となる(図7、Rm)。
【0031】
両端からの立ち上がりは、車線幅が狭い場合や車速が速い場合は、道路端に近づき易いので急になる。これに対して、区画線(白線)で画定された路側帯がなく、ガードレールによって道路端が画定される場合は、ガードレールから離れて走行する傾向になり緩やかに立ち上がりの分布となる(図7、Rn)。
【0032】
上記のような基本的特性に加えて、カーブ走行においては、走行位置が外側に膨らむ傾向があり、カーブの内側と外側で確率分布に違いが生じるため、左右非対称な確率を仮定する。以下に計算例を示す。
【0033】
カーブ外側の確率分布を規定するパラメータ:a1、カーブ内側の確率分布を規定するパラメータ:a2、カーブの設計速度v(R=460で100km/h、R=280で80km/h)とし、a1=1-v/50、a2=1+v/100、走行レーン幅員4mとした場合、次式を適用することで、図8のような確率分布になる。
カーブ外側(0<x≦2):
f(x)=c1/a1√(2/π)exp(-x^2/2a1^2)
カーブ内側(2<x≦4):
f(x)=c2/a2√(2/π)exp(-(2-x)^2/2a2^2)
(但し、c1,c2は規格化パラメータ)
【0034】
図8において、Raは、R=280のカーブ走行時、Rbは、R=480のカーブ走行時における車両幅方向の存在確率分布を示している。Rmは、直線走行時における車両幅方向の存在確率分布である。
【0035】
(2次元確率分布)
上記のように求めた車両進行方向および車両幅方向の存在確率分布から、時刻t2~t3まで△t刻みの2次元確率分布を求める。
【0036】
(衝突確率の算出)
以上述べたような車両の未来位置予測と並行して、移動体検知部22では、外界センサ11に取得された画像または3D点群データより抽出した1または複数の移動体の未来位置を予測しており、移動体のt秒後の2次元確率分布と、車両のt秒後の2次元確率分布の重なり合わせから、t秒後の衝突確率を求めることができる。
【0037】
例えば、t秒後に車両がP1地点に存在する確率0.3、P2地点に存在する確率0.1、歩行者がP1地点に存在する確率0.5、P2地点に存在する確率0.3の場合、衝突確率は、0.3×0.5+0.1×0.8=0.23、で23%となる。
【0038】
なお、先述したように、直線区間4では、自車両1の車幅Waを前方に延長した領域に関して車両進行方向(x方向)の位置を予測し、それによって求められる2次元確率分布と、移動体の2次元確率分布との重なり合わせから衝突確率を算出している。
【0039】
カーブ区間5では、道路構造認識部21に取得される区分線などの情報に基づいて道路構造が検知され、領域Waが修正されるので、近距離での予測は可能であるが、道路構造の変化までを予測することはできない。
【0040】
従って、上述したような、GPSセンサ12と地図データ13を利用し、カーブ区間5の進入前の車両走行状態から、カーブ区間5内における自車両の未来位置予測を併用することで、カーブ区間における衝突判定の精度を向上することができる。
【0041】
(移動体検知および衝突判定フロー)
次に、上記実施形態に基づく移動体検知システムの動作について図10を参照しながら説明する。
【0042】
本発明に係る移動体検知システムでは、外界センサ11の検知情報に基づく道路構造認識(21)、移動体検知(22)、それらに基づく衝突判定(24)、警報出力(31,32)に関するメインプロセス(図10(a):ステップ100~108)と、ナビゲーション装置10の設定とGPSセンサ12、地図データ13、内界センサ14の車両情報に基づくカーブ区間での車両位置予測(23)に関するサブプロセス(図10(b);ステップ120~127)が並行して実行されており、カーブ区間において、サブプロセス(b)の車両位置予測がメインプロセス(a)の衝突判定に反映される。以下、便宜的に先にサブプロセス(b)のフローについて述べ、その後でメインプロセス(a)のフローについて述べる。
【0043】
サブプロセス(b)では、ナビゲーション装置10において経路設定がなされ、経路誘導が作動している状態で、車両位置予測部23は、走行予定経路における次のカーブ区間の位置情報およびカーブ形状を地図データ13から取得し、内界センサ14から取得される車速に基づいて減速検知開始地点Bを算出する(ステップ120)。
【0044】
GPSセンサ12の位置情報に基づいて自車両1が減速検知開始地点Bを通過したことが検出されると(ステップ121)、車両位置予測部23は、内界センサ14から出力されるアクセルオフまたはブレーキオンの監視を開始する(ステップ122)。
【0045】
アクセルオフまたはブレーキオンの何れかが検知された時点で、車両位置予測部23は、カーブ進入速度V1の推定およびカーブ内各地点の通過速度の推定を行い(ステップ123)、所定時間後の自車進行方向(x)位置分布および横方向(y)位置分布を算出し(ステップ124)、算出されたt+△t秒後の2次元確率分布に基づく衝突判定領域の補正値を出力待機状態とし、カーブフラグをオンにする(ステップ125)。
【0046】
上記処理(ステップ124~125)は、カーブ区間の終了まで反復され、カーブ内での車速に基づいて2次元確率分布に基づく衝突判定領域の補正値が更新される。
【0047】
GPSセンサ12の位置情報または内界センサ14に検出される舵角が閾値以下となった(0に近づいた)ことにより、カーブ区間の終了が検出されると(ステップ126)、カーブフラグをオフにし(ステップ127)、ステップ120に戻り、次のカーブ区間の処理に備える。
【0048】
一方、メインプロセス(a)では、外界センサ11の検知情報に基づき、道路構造認識部21において走行レーンおよび走行領域の検知を実施し(ステップ100)、移動体検知部22においては移動体検知を実施する(ステップ101)。
【0049】
衝突判定部24は、常にカーブフラグを監視しており(ステップ102)、移動体検知部22の検知情報に基づいてt+△t秒後の移動体存在確率分布を算出し(104)、カーブフラグがオンであれば、道路構造認識部21に取得される衝突判定領域に、車両位置予測部23に算出された2次元確率分布に基づく衝突判定領域の補正値を適用し(ステップ103)、t+△t秒後の衝突確率を算出し、カーブフラグがオフの場合は、補正値を適用せずに道路構造認識部21に取得される衝突判定領域のみに基づき、t+△t秒後の衝突確率を算出する(ステップ105)。
【0050】
衝突確率が閾値以上であれば(ステップ106)、衝突判定部24は、TTCが所定値以下でない場合は警報装置31を作動させ、TTCが所定値以下であればブレーキ制御ユニット32により自動ブレーキを作動させる(ステップ108)。衝突確率が閾値以上でない場合は、自車両および移動体(歩行者)の情報を更新し(ステップ107)、ステップ100に戻り、次の処理に備える。
【0051】
なお、本発明に係る移動体検知システムにおいて衝突判定の対象となる移動体とは、歩行者や自転車の他に、本来道路上に存在しないが移動の結果としてそこに存在する落下物などの静止物体も含まれる。
【0052】
上記実施形態では、減速検知開始地点Bの通過後における減速開始タイミングと現在速度V0からカーブ進入速度V1を推定し、カーブ進入以前に、カーブ区間5内での車両の進路方向位置分布と道路幅方向位置分布を推定する(カーブ進入後は現在速度に基づいて推定値を順次更新する)場合について述べたが、減速検知開始地点Bの通過後における減速開始タイミングと現在速度V0と、カーブ進入地点Aでの実際のカーブ進入速度から、カーブ区間5内での車両の進路方向位置分布と道路幅方向位置分布を推定するようにしてもよい。
【0053】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 車両
4 直線区間
5 カーブ区間
10 ナビゲーション装置
11 外界センサ
12 GPSセンサ
13 地図データ
14 内界センサ
20 処理装置
21 道路構造認識部
22 移動体検知部
23 車両位置予測部
24 衝突判定部
31 警報装置
32 ブレーキ制御ユニット
A カーブ進入地点
B 減速検知開始地点
Wa 車幅
Wb 車線幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10