(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】インクタンク及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20221128BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221128BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20221128BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20221128BHJP
【FI】
B41J2/175 143
B41J2/01 501
B41J2/175 111
B41M5/00 120
C09D11/30
(21)【出願番号】P 2018179946
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2017200730
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017200729
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】元村 槇
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中田 栄一
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-052924(JP,A)
【文献】特開2006-263988(JP,A)
【文献】特開平09-267483(JP,A)
【文献】特開2012-171250(JP,A)
【文献】特開昭56-057649(JP,A)
【文献】特開2002-200766(JP,A)
【文献】特開2002-086750(JP,A)
【文献】特開平10-044452(JP,A)
【文献】特開平09-099563(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0335481(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部にインクを収容する、予め規定された形状に側壁部が収縮する機構を有さず、前記インクの流出に伴って側壁部が収縮するインク収容袋を備える、前記インク収容袋の内部の圧力を調整する機構を有しない、インクジェット記録装置に用いられるインクタンクであって、
前記インク収容袋が、樹脂で構成され、
前記インク収容袋の形状が、円筒型であり、
前記インク収容袋が、ブロー成形品であり、
前記インクが、色材、及び水溶性有機溶剤を含有する水性インクであり、
前記水溶性有機溶剤の平均SP値と、前記インク収容袋を構成する前記樹脂のSP値との差が、2.0(cal/cm
3)
1/2以上であることを特徴とするインクタンク。
【請求項2】
前記水溶性有機溶剤の平均SP値と、前記インク収容袋を構成する前記樹脂のSP値との差が、4.5(cal/cm
3)
1/2以上である請求項1に記載のインクタンク。
【請求項3】
前記水溶性有機溶剤の平均SP値と、前記インク収容袋を構成する前記樹脂のSP値との差が、10.0(cal/cm
3)
1/2以下である請求項2に記載のインクタンク。
【請求項4】
前記水溶性有機溶剤の平均比誘電率が、20.0以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクタンク。
【請求項5】
前記水溶性有機溶剤の平均比誘電率が、50.0以下である請求項4に記載のインクタンク。
【請求項6】
前記インク中の前記水溶性有機溶剤の含有量(質量%)が、前記色材の含有量(質量%)に対する質量比率で、1.0倍以上である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクタンク。
【請求項7】
前記インク中の前記水溶性有機溶剤の含有量(質量%)が、前記色材の含有量(質量%)に対する質量比率で、200.0倍以下である請求項6に記載のインクタンク。
【請求項8】
前記インクが、さらに、界面活性剤を含有する請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクタンク。
【請求項9】
前記インク収容袋の弾性率が、500N/mm
2以下である請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクタンク。
【請求項10】
前記インク収容袋の弾性率が、50N/mm
2以上である請求項9に記載のインクタンク。
【請求項11】
前記インク収容袋の側壁部が、インクの流出に伴って不規則に収縮する請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインクタンク。
【請求項12】
前記インク収容袋が、インクの流出に伴って等方的に潰れる請求項
1乃至11のいずれか1項に記載のインクタンク。
【請求項13】
前記インク収容袋を構成する前記樹脂が、ポリオレフィンを含む請求項1乃至
12のいずれか1項に記載のインクタンク。
【請求項14】
前記インク収容袋を構成する前記樹脂が、ポリエチレン樹脂を含む請求項1乃至
12のいずれか1項に記載のインクタンク。
【請求項15】
前記インク収容袋を構成する前記樹脂が、充填剤を含有する請求項1乃至
14のいずれか1項に記載のインクタンク。
【請求項16】
前記インク収容袋が、単層の前記樹脂で構成される請求項1乃至
15のいずれか1項に記載のインクタンク。
【請求項17】
前記インク収容袋のインク収容量が、100mL以上1,000mL以下である請求項1乃至
16のいずれか1項に記載のインクタンク。
【請求項18】
請求項1乃至
17のいずれか1項に記載のインクタンクと、
前記インクタンクから供給されるインクをインクジェット方式で吐出する記録ヘッドと、を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクタンク、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に用いられるインクタンクとしては、多量のインクを収容できる点から、樹脂製のインク収容袋を備えたインクタンクがある。インク収容袋を有するインクタンクの課題として、インクの使い切り性を挙げることができる。インクタンクのインク供給口を通じてインクジェット記録装置の記録ヘッドへとインクを供給する場合、インクの供給(流出)に伴ってインク収容袋は収縮し、不規則に潰れる。インク収容袋を収縮させて押し潰す力は、通常、インクを流出させる力のみである。
【0003】
インクジェット記録装置を使用して画像を記録する場合、記録に用いられる分に相当する量のインクが、インク収容袋から記録ヘッドへと供給される。大量の画像を一度に記録したとしても、記録ヘッドへと供給されるインクは、インク収容袋内に収容可能なインクの全量と比べるとかなり少ないため、インク収容袋からインクを流出させる力は極めて弱い。そして、インクの残量が少なくなったインク収容袋は収縮して潰れ、部分的に閉塞する。このため、インクを流出させる極めて弱い力だけではインク収容袋内のインクを排出させることができず、インクを使い切ることが困難になり、インクの使い切り性が低下するといった課題が生ずることになる。
【0004】
このような課題を解決すべく、例えば、外圧を付与するバネや弾性部材などの機構を設けてインクを押し出すインク収容袋が提案されている(特許文献1)。このインク収容袋は、2枚のフィルムの縁部を接着することで形成されており、接着面と平行な方向へと潰れるような加工が施されている。また、潰れる方向が制御されたインク収容袋が提案されている(特許文献2)。このインク収容袋は、特定の方向へと潰れるように、予め折り目が付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-226023号公報
【文献】特開2009-226809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、インク収容袋の内部の圧力を調整する機構を設けることや、インク収容袋の潰れ方や折り畳み方を制御するための形状加工を施すことは、製造しやすさ、設置スペース、構造の煩雑さ、及びコスト面で不利であるとも言える。例えば、インク収容袋の内部の圧力を調整する機構を設けなければ、インクタンクの構造を簡素化することができる。また、折り目加工や接着加工などをすることなく、ブロー成形などでインク収容袋を製造すれば、製造しやすさやコスト面で有利である。しかし、インク収容袋の内部の圧力を調整する機構を設けない、又はインク収容袋の収縮を制御する機構を設けない場合には、前述の通り、インクの流出に伴ってインク収容袋は不規則に潰れることになるため、インクを十分に使い切ることが困難になる。また、インクジェット記録装置は、様々な地域での使用を想定して、幅広い温度でも変わりなく使用しうることが要求されるので、極端な温度での使用をも想定した設計とすることが好ましい。このため、インクジェット記録装置の設計に当たっては、温度を変化させながら各種性能を評価する。本発明者らの検討の結果、インクタンクが置かれる温度環境によっては、インク使い切り性がさらに低下する場合があることが判明した。
【0007】
したがって、本発明の目的は、簡易な構成でありながらも、インク使い切り性に優れたインクタンクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、このインクタンクを用いたインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、その内部にインクを収容する、予め規定された形状に側壁部が収縮する機構を有さず、前記インクの流出に伴って側壁部が収縮するインク収容袋を備える、前記インク収容袋の内部の圧力を調整する機構を有しない、インクジェット記録装置に用いられるインクタンクであって、前記インク収容袋が、樹脂で構成され、前記インク収容袋の形状が、円筒型であり、前記インク収容袋が、ブロー成形品であり、前記インクが、色材、及び水溶性有機溶剤を含有する水性インクであり、前記水溶性有機溶剤の平均SP値と、前記インク収容袋を構成する前記樹脂のSP値との差が、2.0(cal/cm3)1/2以上であることを特徴とするインクタンクが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な構成でありながらも、インク使い切り性に優れたインクタンクを提供することができる。また、本発明によれば、このインクタンクを用いたインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のインクタンクの一実施形態を示す模式図である。
【
図6A】ブロー成形法によりインク収容袋を製造する工程を示す模式図である。
【
図6B】ブロー成形法によりインク収容袋を製造する工程を示す模式図である。
【
図6C】ブロー成形法によりインク収容袋を製造する工程を示す模式図である。
【
図7】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)、常圧(1気圧)における値である。
【0012】
本発明者らは、樹脂で構成されたインク収容袋を備え、その内部の圧力を調整する機構を有しないインクタンクのインク収容袋にインクを充填した。そして、インクジェット記録装置の使用環境や輸送時の環境を想定し、このインクタンクをさまざまな温度環境で保存して種々の検討を行った。その結果、寒冷地のような環境を想定し、一旦凍結させた後に溶解させたインクを用いると、インク収容袋内が部分的に閉塞し、インクが使い切れなくなるといった課題が生じやすくなることが確認された。
【0013】
水性インクを0℃以下の環境下に置くと、凍結することがある。このとき、水分子間には水素結合が生ずるため、水以外の水溶性有機溶剤などの成分が水の結晶外に排除された状態で凍結する。その結果、凍結していない部分では、水溶性有機溶剤が濃縮された状態となる。このような状態からインクが溶解すると、濃縮された水溶性有機溶剤は水と速やかに混ざらず、水溶性有機溶剤の濃い部分がインク収容袋に接触する。濃縮された水溶性有機溶剤と接触したインク収容袋の一部は、膨潤して軟化する。その結果、インクの流出(供給)に伴ってインク収容袋が収縮すると、インク収容袋の内面における軟化した箇所が張り付きやすく、部分的に閉塞してインクの使い切り性が低下すると考えられる。
【0014】
なかでも、色材を含有するインクを用いたインクタンクについては、インク使い切り性がより低下しやすい。凍結したインクが溶解する際に、水性インク中の液体成分の中で比誘電率が最も高い部類に属する水が凍結し、水よりも比誘電率が低い水溶性有機溶剤が濃縮された状態になる。これにより、凍結前と比べて、凍結及び溶解後のインク中の液体成分の比誘電率は著しく低下している。このため、濃縮された水溶性有機溶剤の近傍に存在する顔料は静電反発力の低下により凝集するので、インクの粘度が上昇する。また、濃縮された水溶性有機溶剤の近傍に存在する染料は溶解度の低下により凝集するので、インクの粘度が上昇する。その結果、インク収容袋内からのインクの流出が困難となり、インクの使い切り性がより低下すると考えられる。
【0015】
一般的に、SP値は二成分系溶液の相溶性の指標として利用されており、SP値の差が小さい成分同士ほど相互の溶解度が大きい。本発明者らは、検討の結果、水溶性有機溶剤の平均SP値と、インク収容袋を構成する樹脂のSP値との差を2.0(cal/cm3)1/2以上とすることで、インクの凍結及び溶解を経た場合であっても、インク収容袋の膨潤を抑制しうることを見出した。この理由は以下のように推測される。この関係を満たす場合、一旦凍結したインクが溶解する過程で濃縮した水溶性有機溶剤が、インク収容袋を構成する樹脂に接触した場合であっても、樹脂のSP値と水溶性有機溶剤の平均SP値との差が大きく、樹脂と水溶性有機溶剤との相溶性が高まりにくい。このため、インク収容袋の膨潤が抑制され、インクの使い切り性が向上すると考えられる。なお、濃縮した水溶性有機溶剤がインク収容袋を膨潤させている状況下では、水の大部分は凍結している。したがって、インク収容袋の内面に液体の状態で接触している成分のほとんどは、水溶性有機溶剤である。このため、水による影響は少ないので、水のSP値については考慮する必要がない。
【0016】
<インクタンク>
本発明のインクタンクは、その内部にインクを収容するインク収容袋を備える、インクジェット記録装置に用いられるインクタンクである。インク収容袋は、折り目加工などの予め規定された形状に側壁部が収縮する機構を有しない。また、本発明のインクタンクは、インク収容袋の内部の圧力を調整する機構を有しない。すなわち、本発明のインクタンクを構成するインク収容袋は、インクの流出に伴って側壁部が不規則に収縮しうる袋状の部材である。また、インク収容袋は樹脂で構成されており、インクは、色材、及び水溶性有機溶剤を含有する水性インクである。そして、水溶性有機溶剤の平均SP値と、インク収容袋を構成する樹脂のSP値との差が、2.0(cal/cm3)1/2以上である。以下、本発明のインクタンクの詳細について説明する。
【0017】
(インク収容袋)
図1は、本発明のインクタンクの一実施形態を示す模式図である。
図1(a)に示す実施形態のインクタンク50は、筐体10と、筐体10内に収納され、その内部にインク2が収容されたインク収容袋1とを備える。インク収容袋1内に収容されているインク2は、インク供給口3を通じてインク2の外部へと流出し、インク供給口3と連通するインクジェット記録装置の記録ヘッドへと供給される。本実施形態のインクタンク50は、インク収容袋1の内部の圧力を調整する機構を有しない。さらに、インクタンク50を構成するインク収容袋1は、予め規定された形状に側壁部が収縮する機構を有しない。このため、
図1(b)及び
図1(c)に示すように、インク収容袋1内のインク2がインク供給口3を通じて外部へと流出すると、インク2の流出に伴ってインク収容袋1の側壁部は収縮し、不規則に潰れる。インク収容袋1の側壁部とは、インク供給口3を重力方向における上方に向けた姿勢としたときの、「側部」を指す。インク収容袋1の側壁部が収縮して不規則に潰れると、インク収容袋1の側壁部において、対向する内面同士が近接する。但し、インク2には特定の関係を満足する水溶性有機溶剤が含有されているため、インク収容袋1の近接した内面同士の接着は抑制される。これにより、インク収容袋1内のインク2を無駄なく使い切ることができる(
図1(c))。又は、インク収容袋1の一部に閉塞した部分4が生じたとしても、残りインク5の量を極少量にすることが可能となり(
図1(b))、インクの使い切り性を向上させることができる。なお、上述の通り、本発明は、内面の接着による使い切り性の低下を抑制するものであるので、接着による使い切り性の低下という課題が生じない。「底部」は、「側壁部」に含まないものとする。
【0018】
一方、
図2(a)に示すような、インク収容袋1に対し、インク収容袋1の側壁部が収縮する方向への圧力(正圧)を付与することで、インク収容袋の内部の圧力を調整する機構を有するインクタンク60の場合を想定する。このインクタンク60の場合、インク2の残量が少なくなってもインク収容袋1の側壁部は収縮して潰れる(
図2(b))。このため、インク2を使い切ることができる。また、
図3(a)に示すような、インク収容袋1に対し、インク収容袋1が拡張する方向への圧力(負圧)を付与することで、インク収容袋の内部の圧力を調整する機構であるバネ6がインク収容袋1内に配設されたインクタンク70の場合を想定する。このインクタンク70の場合、バネ6により付与される負圧の影響で閉塞が生じないので、インク収容袋1に閉塞した部分が形成されない。このため、
図3(b)に示すようにインクを無駄なく使い切ることができる。
【0019】
また、
図4に示すような、予め規定された形状に側壁部が収縮する機構である接合部12を設けたインク収容袋11を備えるインクタンク80の場合を想定する。
図4(a-1)は、接合部12を備えた面を正面から見た図、
図4(a-2)は、接合部12を備えた面を横方向から見た図である。このインクタンク80の場合、インク収容袋11からインク2が流出すると、インク収容袋11の側壁部は収縮し、予め規定された形状に側壁部が収縮する(
図4(b))。このため、インクを無駄なく使い切ることができる。
【0020】
さらに、
図5に示すような、予め規定された形状に側壁部が収縮する機構である折り目14を設けたインク収容袋13を備えるインクタンク90の場合を想定する。
図5(a-1)及び(a-2)は、
図4(a-1)及び(a-2)と同様の方向から見た図である。このインクタンク90の場合、インク収容袋13からインク2が流出すると、インク収容袋13は折り目14に沿って変形し、予め規定された形状に側壁部が収縮する(
図5(b))。このため、インクを無駄なく使い切ることができる。
【0021】
本発明のインクタンクを構成するインク収容袋は、インクの流出に伴って収縮しやすく、インク漏れを十分に抑制しうる材質である樹脂により構成されている。樹脂の具体例としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリスチレンなどの熱可塑性樹脂;これらの熱可塑性樹脂の混合物及び改質物などを挙げることができる。なかでも、ポリオレフィン及びポリオレフィンを含む混合物を用いることが好ましい。特に、ポリエチレン樹脂を用いることが好ましい。また、インク収容袋を構成する樹脂の組成物には、ガラス、顔料、鉱物などの充填材を含有させてもよい。
【0022】
インク中の水溶性有機溶剤の平均SP値と、インク収容袋を構成する樹脂のSP値との差は、2.0(cal/cm3)1/2以上であり、好ましくは4.5(cal/cm3)1/2以上である。上記のSP値の差は、10.0(cal/cm3)1/2以下であることが好ましい。また、インク収容袋を構成する樹脂のSP値は、5.0(cal/cm3)1/2以上10.0(cal/cm3)1/2以下であることが好ましい。例えば、ポリエチレンのSP値は8.6(cal/cm3)1/2であり、ポリプロピレンのSP値は8.0(cal/cm3)1/2である。
【0023】
本発明におけるSP値(δ)は、下記式(1)に基づき、Fedors法により算出される値である。樹脂のΔEvap及びVは、例えば、コーティング時報No.193号(1992)などの記載を参考にして求めることができる。
【0024】
(前記式(1)中、ΔE
vapは化合物のモル蒸発熱(cal/mol)を表し、Vは25℃における化合物のモル体積(cc/mol)を表す)
【0025】
インク収容袋を構成する樹脂の特性については、以下に示す方法にしたがって検証することができる。インク収容袋を適切な大きさに切り出したものを測定サンプルとし、熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析(Py-GC/MS)で分析する。これにより、インク収容袋を構成する樹脂のユニットの種類を確認することができる。また、確認したユニットの種類、及び核磁気共鳴(NMR)の化学シフトから、ユニットの組成比を求めることができる。そして、求めた樹脂のユニット及びその組成比から、Fedors法によって樹脂のSP値を求めることができる。
【0026】
インク収容袋の弾性率は、500N/mm2以下であることが好ましい。弾性率が500N/mm2以下のインク収容袋は、一般的なインクジェット用のインクタンクに用いられるインク収容袋と比べてかなり柔らかい。柔らかいインク収容袋を用いることで、インクタンク内のインクを使用する過程で、インク収容袋を収縮させる機構を利用しなくとも側壁部が自然と収縮し、インクを流出させることができる。インク収容袋の弾性率は、50N/mm2以上であることが好ましい。また、上記の弾性率とするために、単層の樹脂でインク収容袋を構成することが好ましい。
【0027】
インク収容袋の弾性率は、JIS-K-7127、JIS-K-7161にしたがって測定する。弾性率は、引張試験機を使用し、試験モード:引張り、変位速度:5mm/分(サンプルの降伏点が観測されるまで変位させる)、サンプルのサイズ:縦150mm、幅25mm、厚さ1mm以下、チャック間距離:100mm、の条件で測定する。この条件で、試験力をX、サンプル変位をYとしたときのX-Yの関係が線形である領域、すなわち、降伏点が現れる前の領域におけるX-Yの傾きから弾性率を求める。
【0028】
従来の一般的なインクタンクには、バリア性を重視して、複数のフィルムを張り合わせて多層構成としたインク収容袋や、樹脂フィルムにアルミニウムなどの金属を蒸着させたインク収容袋が用いられてきた。このようなインク収容袋は、弾性率が500N/mm2をはるかに上回り、バリア性は良好であるものの、柔らかくないので、インクを流出させるには何らかの対策を講ずる必要がある。例えば、特許文献1及び2に記載されたインクタンクの場合、硬い材質であってもインクを滞りなく流出させるために、折り目や端部の接着などの加工を施したり、内部の圧力を調整する機構を採用したりしている。
【0029】
インク収容袋の形状は、円筒型であることが好ましい。本発明者らは、円筒型及び角型のインク収容袋のインクの使い切り性について検討した。その結果、円筒型のインク収容袋の方がインク使い切り性に優れていることがわかった。円筒型のインク収容袋は、成形の際に側壁部の厚さが均一となりやすいので、インクの流出に伴って等方的にインク収容袋が潰れやすい。これに対して、角型のインク収容袋は、成形の際に側壁部の厚さが円筒型と比較して均一になりにくいため、インクの流出に伴って不均一に潰れ、閉塞した空間にインクが溜まりやすい。これにより、インクの使い切り性が低下する場合がある。
【0030】
インク収容袋のインク収容量は、インクジェット記録装置のサイズや、使い切り後のインクタンクの取り替え頻度をどの程度に設定するか、などに応じて適宜設定することができる。インク収容袋のインク収容量は、100mL以上1,000mL以下であることが好ましく、200mL以上800mL以下であることがさらに好ましい。インク収容袋のサイズは、インクジェット記録装置のサイズやインク収容量などに応じて適宜設定することができる。インク収容袋の、インク供給口部分を除いた袋部分の底面積は10cm2以上100cm2以下であることが好ましく、高さは10cm以上30cm以下であることが好ましい。
【0031】
製造しやすさやコスト面で、インク収容袋はブロー成形法などの成形方法により製造することが好ましい。
図6A、
図6B、及び
図6Cは、ブロー成形法によりインク収容袋を製造する工程を示す模式図である。
図6Aに示すように、まず、インク収容袋の原料となる溶融樹脂を金型300内に押し出し、パイプ状のパリソン301を形成する(
図6A(a-1))。次いで、パリソン301の内部に矢印Aの方向から気体を送り込み、膨らんだパリソン301を矢印方向、すなわち金型300の内壁に押し当てる(
図6A(a-2))。パリソン301を冷却して、金型300の内部の形状が写し取られた形状を持った中空のインク収容袋21を製造する(
図6A(a-3))。
【0032】
図6Bでは、円筒型のインク収容袋31を製造する場合の工程が示されている。
図6Aに示す工程と同様に、まず、溶融樹脂を金型310内に押し出してパリソン302を形成する(
図6B(b-1))。次いで、パリソン302の内部に気体を送り込み、膨らんだパリソン302を金型310の内壁に押し当てる(
図6B(b-2))。パリソン302を冷却して、金型310の内部の形状が写し取られた形状を持った円筒型のインク収容袋31を製造する(
図6B(b-3))。
【0033】
図6Cでは、角型のインク収容袋41を製造する場合の工程が示されている。
図6Aに示す工程と同様に、まず、溶融樹脂を金型320内に押し出してパリソン303を形成する(
図6C(c-1))。次いで、パリソン303の内部に気体を送り込み、膨らんだパリソン303を金型320の内壁に押し当てる(
図6C(c-2))。パリソン303を冷却して、金型320の内部の形状が写し取られた形状を持った角型のインク収容袋41を製造する(
図6C(c-3))。
図6Cに示すように、ブロー成形法によって角型のインク収容袋41を製造すると、他の部分よりも厚い角部305が形成され(
図6C(c-2))、側壁の厚さが均一になりにくい。このため、前述の通り、インク収容袋の形状は円筒型であることが好ましい。
【0034】
インク収容袋は、例えば、適度な剛性を有する筐体内に収納される。筐体の材質としては、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリフェニレンエーテルなどの熱可塑性樹脂;これらの熱可塑性樹脂の混合物及び改質物などを挙げることができる。筺体の形状は、インク収容袋と同様の形状であることが好ましい。また、筺体内部に配置するインク収容袋の収縮に連動して外部から大気を取り入れることで、筺体内部の圧力を大気圧と同等に維持するため、筺体には大気連通口を設けることが好ましい。
【0035】
(インク)
本発明のインクタンクのインク収容袋に収容されるインクは、色材、及び水溶性有機溶剤を含有するインクジェット用の水性インクである。そして、水溶性有機溶剤の平均SP値と、インク収容袋を構成する樹脂のSP値との差が、2.0(cal/cm3)1/2以上である。インクは、いわゆる「硬化型インク」である必要はない。したがって、インクは、外部エネルギーの付加により重合しうる重合性モノマーなどの化合物を含有しなくてもよい。以下、インクを構成する各成分やインクの物性について詳細に説明する。
【0036】
[色材]
色材としては、顔料や染料を用いることができる。なかでも、顔料を用いることが好ましい。インク中の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.50質量%以上15.00質量%以下であることが好ましく、1.00質量%以上10.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタンなどの無機顔料;アゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、イミダゾロン、ジケトピロロピロール、ジオキサジンなどの有機顔料を挙げることができる。
【0038】
顔料の分散方式としては、分散剤として樹脂を用いた樹脂分散顔料や、顔料の粒子表面に親水性基が結合している自己分散顔料などを挙げることができる。また、顔料の粒子表面に樹脂を含む有機基を化学的に結合させた樹脂結合型顔料や、顔料の粒子の表面を樹脂などで被覆又は内包したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。但し、色材として顔料を用いる場合は、自己分散顔料、顔料の粒子表面に物理的に吸着させた樹脂分散剤により分散された樹脂分散顔料(すなわち、樹脂結合型顔料やマイクロカプセル顔料ではない樹脂分散顔料)が好ましい。
【0039】
顔料を水性媒体中に分散させるための樹脂分散剤としては、アニオン性基の作用によって顔料を水性媒体中に分散させうるものを用いることが好ましい。樹脂分散剤としては、後述するような樹脂、なかでも水溶性樹脂を用いることができる。インク中の顔料の含有量(質量%)は、樹脂分散剤の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.3倍以上10.0倍以下であることが好ましい。
【0040】
自己分散顔料としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などのアニオン性基が、顔料の粒子表面に直接又は他の原子団(-R-)を介して結合しているものを用いることができる。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合において、カウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウムなどを挙げることができる。他の原子団(-R-)の具体例としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基;フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基;カルボニル基;イミノ基;アミド基;スルホニル基;エステル基;エーテル基などを挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基であってもよい。
【0041】
染料としては、アニオン性基を有するものを用いることが好ましい。染料の具体例としては、アゾ、トリフェニルメタン、(アザ)フタロシアニン、キサンテン、アントラピリドンなどの染料を挙げることができる。
【0042】
[水溶性有機溶剤]
インクは、水溶性有機溶剤を含有する水性インクである。そして、水溶性有機溶剤の平均SP値と、インク収容袋を構成する樹脂のSP値との差が、2.0(cal/cm3)1/2以上である。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。水性インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.00質量%以上50.00質量%以下であることが好ましく、10.00質量%以上50.00質量%以下であることがさらに好ましい。通常、「水溶性有機溶剤」は液体であるが、本発明においては25℃(常温)で固体であるものも、便宜上、水溶性有機溶剤に含めることとする。水性インクに汎用な25℃で固体の水溶性有機溶剤の具体例については後述する。
【0043】
一旦凍結したインクが溶解する過程における色材の存在状態を安定に維持することで、インクの使い切り性をさらに向上させることができる。インクが溶解する過程における色材の存在状態を安定に維持するには、上述したSP値の関係を満たすとともに、色材に対して、ある程度の比率で水溶性有機溶剤が存在することが好ましい。このため、インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、色材の含有量(質量%)に対する質量比率で、1.0倍以上であることが好ましい。上記の質量比率が1.0倍以上であると、インクが凍結する際に水の結晶外に排除された成分に対して、水よりも大きい分子の水溶性有機溶剤が色材に対してある程度存在する。このため、溶媒和によって色材の凝集が抑制され、インクの使い切り性の低下を抑制しやすくなる。また、上記の質量比率は200.0倍以下であることが好ましく、20.0倍以下であることがさらに好ましく、10.0倍以下であることが特に好ましい。上記の質量比率を200.0倍以下とすることで、水溶性有機溶剤が色材に対して多くなりすぎないため、色材の過度な凝集が抑制され、インクの使い切り性の低下を抑制しやすくなる。
【0044】
〔SP値〕
インクジェット用の水性インクには、通常、複数種の水溶性有機溶剤を含有させる。このため、本発明のインクタンクに用いるインク中の水溶性有機溶剤のSP値は、「平均SP値」の概念で捉えることが適している。平均SP値とは、水溶性有機溶剤に固有のSP値に、インク中の水溶性有機溶剤の合計量に占める当該水溶性有機溶剤の割合(質量%)を乗じた値を、各水溶性有機溶剤について算出し、積算した値を意味する。インクに含まれる水溶性有機溶剤が1種のみである場合は、この水溶性有機溶剤のSP値が「平均SP値」である。
【0045】
例えば、後述する「実施例」で調製した「インク1」の場合、水溶性有機溶剤の組成(合計25.0質量部)は以下の通りである。括弧内の数値は、各水溶性有機溶剤のSP値(単位は省略)である。
・グリセリン(16.4):11.0質量部
・トリエチレングリコール(13.6):5.0質量部
・2-ピロリドン(12.6):5.0質量部
・1,2-ヘキサンジオール(11.8):2.0質量部
・数平均分子量1,000のポリエチレングリコール(10.1):2.0質量部
【0046】
この「インク1」中の水溶性有機溶剤の平均SP値は、以下のように算出することができる。
平均SP値=16.4×11.0/25.0+13.6×5.0/25.0+12.6×5.0/25.0+11.8×2.0/25.0+10.1×2.0/25.0=14.2
【0047】
インク中の水溶性有機溶剤の平均SP値は、4.5(cal/cm3)1/2以上20.0(cal/cm3)1/2以下であることが好ましく、10.5(cal/cm3)1/2以上16.0(cal/cm3)1/2以下であることがさらに好ましい。また、13.0(cal/cm3)1/2以上16.0(cal/cm3)1/2以下であることが特に好ましい。
【0048】
インクジェット用の水性インクに汎用の水溶性有機溶剤のFedors法によるSP値を、単位(cal/cm3)1/2を省略して以下に示す。グリセリン(16.4)、1,3-プロパンジオール(16.1)、トリメチロールプロパン(15.9)、1,4-ブタンジオール(15.0)、ジエチレングリコール(15.0)、エチレングリコール(14.8)、1,3-ブタンジオール(14.8)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(14.8)、1,2,6-ヘキサントリオール(14.5)、尿素(14.4)、エチレン尿素(14.2)、1,5-ペンタンジオール(14.2)、メタノール(13.8)、トリエチレングリコール(13.6)、1,6-ヘキサンジオール(13.5)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(13.4)、テトラエチレングリコール(12.8)、2-ピロリドン(12.6)、エタノール(12.6)、1,2-ペンタンジオール(12.2)、エチレングリコールモノメチルエーテル(12.0)、n-プロパノール(11.8)、1,2-ヘキサンジオール(11.8)、イソプロパノール(11.6)、N-メチル-2-ピロリドン(11.5)、エチレングリコールモノエチルエーテル(12.0)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(11.4)、n-ブタノール(11.3)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(11.2)、2-ブタノール(11.1)、イソブタノール(11.1)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(10.9)、tert-ブタノール(10.9)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(10.6)、数平均分子量600のポリエチレングリコール(10.5)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(10.5)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(10.3)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(10.2)、数平均分子量1,000のポリエチレングリコール(10.1)、アセトン(9.1)、メチルエチルケトン(9.0)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(8.5)、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(8.4)、エチレングリコールジメチルエーテル(7.6)。インクに含有させる水溶性有機溶剤のSP値は、5.0(cal/cm3)1/2以上、20.0(cal/cm3)1/2以下であることが好ましい。
【0049】
〔比誘電率〕
前述の通り、色材を含有するインクを用いたインクタンクの場合、インク使い切り性が低下する傾向にある。一旦凍結したインクが溶解する過程で水溶性有機溶剤が濃縮されると、濃縮された水溶性有機溶剤の近傍に存在する顔料は静電反発力の低下により凝集するため、インクの粘度が上昇する。また、濃縮された水溶性有機溶剤の近傍に存在する染料は、極性の高い水が存在しなくなったことで極性が相対的に低下し、溶解度の低下により凝集してインクの粘度が上昇する。以上の結果、インク収容袋内のインクの排出が困難となり、インク使い切り性が低下しやすくなる。したがって、インク中の色材との相互作用を考慮し、インクの粘度上昇を抑制してインクの使い切り性をより向上させるには、比誘電率の高い水溶性有機溶剤を用いて顔料の静電反発力や染料の溶解度を維持することが好ましい。具体的には、水溶性有機溶剤の平均比誘電率は20.0以上であることが好ましい。SP値の場合と同様の理由から、水による影響は少ないので、比誘電率についても水の影響を考慮する必要はない。
【0050】
水溶性有機溶剤や水の比誘電率は、誘電率計(例えば、商品名「BI-870」(BROOKHAVEN INSTRUMENTS CORPORATION製)など)を使用し、周波数10kHzの条件で測定することができる。なお、温度25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率は、50質量%水溶液の比誘電率を測定し、下記式(A)から算出した値とする。通常、「水溶性有機溶剤」とは液体を意味するが、本発明においては、25℃(常温)で固体であるものも水溶性有機溶剤に含めることとする。
【0051】
εsol=2ε50%-εwater ・・・(A)
εsol:25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率
ε50%:25℃で固体の水溶性有機溶剤の50質量%水溶液の比誘電率
εwater:水の比誘電率
【0052】
水性インクに汎用な25℃で固体の水溶性有機溶剤の具体例としては、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、エチレン尿素、尿素、数平均分子量1,000のポリエチレングリコールなどを挙げることができる。
【0053】
25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率を50質量%水溶液の比誘電率から算出する理由は、以下に示す通りである。25℃で固体の水溶性有機溶剤のうち、水性インクの構成成分となりうるものには、50質量%を超える高濃度水溶液の調製が困難なものがある。一方、10質量%以下の低濃度水溶液では水の比誘電率が支配的となり、水溶性有機溶剤の確からしい(実効的な)比誘電率の値を得ることは困難である。そこで、本発明者らが検討を行ったところ、インクに用いる25℃で固体の水溶性有機溶剤のほとんどが、測定対象となる水溶液を調製可能であり、かつ、算出される比誘電率も本発明の効果と整合することが判明した。以上の理由により、本発明においては50質量%水溶液の比誘電率から、25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率を算出して用いることとした。25℃で固体の水溶性有機溶剤であっても、水への溶解度が低く、50質量%水溶液を調製できないものについては、飽和濃度の水溶液を利用し、上記のεsolを算出する場合に準じて算出した比誘電率の値を便宜的に用いる。
【0054】
平均比誘電率とは、水溶性有機溶剤に固有の比誘電率に、インク中の水溶性有機溶剤の合計量に占める当該水溶性有機溶剤の割合(質量%)を乗じた値を、各水溶性有機溶剤について算出し、積算した値を意味する。インクに含まれる水溶性有機溶剤が1種のみである場合は、この水溶性有機溶剤の比誘電率が「平均比誘電率」である。
【0055】
例えば、後述する「実施例」で調製した「インク1」の場合、水溶性有機溶剤の組成(合計25.0質量部)は以下の通りである。括弧内の数値は、各水溶性有機溶剤の比誘電率である。
・グリセリン(42.3):11.0質量部
・トリエチレングリコール(22.7):5.0質量部
・2-ピロリドン(28.0):5.0質量部
・1,2-ヘキサンジオール(14.8):2.0質量部
・数平均分子量1,000のポリエチレングリコール(4.6):2.0質量部
【0056】
この「インク1」中の水溶性有機溶剤の平均比誘電率は、以下のように算出することができる。
平均比誘電率=42.3×11.0/25.0+22.7×5.0/25.0+28.0×5.0/25.0+14.8×2.0/25.0+4.6×2.0/25.0=30.3
【0057】
インク中の水溶性有機溶剤の平均比誘電率は、20.0以上50.0以下であることが好ましく、30.0以上40.0以下であることがさらに好ましい。
【0058】
インクジェット用の水性インクに汎用の水溶性有機溶剤の比誘電率を以下に示す。尿素(110.3)、エチルイソプロピルスルホン(59.0)、エチレン尿素(49.7)、ジメチルスルホキシド(48.9)、グリセリン(42.3)、γ-ブチロラクトン(41.9)、エチレングリコール(40.4)、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(37.6)、トリメチロールプロパン(33.7)、メタノール(33.1)、N-メチル-2-ピロリドン(32.0)、トリエタノールアミン(31.9)、ジエチレングリコール(31.7)、1,4-ブタンジオール(31.1)、1,3-ブタンジオール(30.0)、3-メチルスルホラン(29.0)、1,2-プロパンジオール(28.8)、1,2,6-ヘキサントリオール(28.5)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(28.3)、2-ピロリドン(28.0)、1,5-ペンタンジオール(27.0)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(24.0)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(23.9)、エタノール(23.8)、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントイン(23.7)、トリエチレングリコール(22.7)、テトラエチレングリコール(20.8)、数平均分子量200のポリエチレングリコール(18.9)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(18.5)、イソプロパノール(18.3)、1,2-ヘキサンジオール(14.8)、n-プロパノール(12.0)、数平均分子量600のポリエチレングリコール(11.4)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(9.8)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(9.4)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(8.5)、1,6-ヘキサンジオール(7.1)、数平均分子量1,000のポリエチレングリコール(4.6)。インクに含有させるそれぞれの水溶性有機溶剤の比誘電率は、3.0以上120.0以下であることが好ましい。インクに含有させる水溶性有機溶剤の25℃における蒸気圧は、25℃における水の蒸気圧よりも低いことが好ましい。
【0059】
〔検証方法〕
水溶性有機溶剤の特性については、以下に示す方法にしたがって検証することができる。適量のインクをメタノールで希釈し、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)で定性分析することで、水溶性有機溶剤の種類を確認することができる。さらに、分析対象成分の標準液を用いる絶対検量線法により、水溶性有機溶剤の含有量を確認することができる。そして、確認した水溶性有機溶剤の種類及び含有量から、インク中の水溶性有機溶剤の平均SP値及び平均比誘電率を求めることができる。
【0060】
[樹脂]
インクには、樹脂を含有させることができる。インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上20.00質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以上15.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0061】
樹脂は、(i)顔料の分散状態を安定化させるため、すなわち、樹脂分散剤やその補助としてインクに添加することができる。また、(ii)記録される画像の各種特性を向上させるためにインクに添加することができる。樹脂の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。また、樹脂は、水性媒体に溶解しうる水溶性樹脂であってもよく、水性媒体中に分散する樹脂粒子であってもよい。樹脂粒子は、色材を内包する必要はない。また、樹脂粒子は樹脂分散剤を用いなくとも分散しうるものであること、すなわち、自己分散性であることが好ましい。
【0062】
本明細書において「樹脂が水溶性である」とは、その樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に、動的光散乱法により粒子径を測定しうる粒子を形成しない状態で水性媒体中に存在することを意味する。樹脂が水溶性であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、酸価相当のアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)により中和された樹脂を含む液体(樹脂固形分:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体を純水で10倍(体積基準)に希釈して試料溶液を調製する。そして、試料溶液中の樹脂の粒子径を動的光散乱法により測定した場合に、粒子径を有する粒子が測定されない場合に、その樹脂は水溶性であると判断することができる。この際の測定条件は、例えば、以下のようにすることができる。
【0063】
[測定条件]
SetZero:30秒
測定回数:3回
測定時間:180秒
【0064】
粒度分布測定装置としては、動的光散乱法による粒度分析計(例えば、商品名「UPA-EX150」、日機装製)などを使用することができる。勿論、使用する粒度分布測定装置や測定条件などは上記に限られるものではない。
【0065】
水溶性樹脂の酸価は、100mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。樹脂粒子を構成する樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましい。水溶性樹脂の重量平均分子量は、3,000以上15,000以下であることが好ましい。樹脂粒子を構成する樹脂の重量平均分子量は、1,000以上2,000,000以下であることが好ましく、250,000以上550,000以下であることがさらに好ましい。動的光散乱法により測定される樹脂粒子の平均粒子径(体積基準の累積50%粒子径(D50))は、100nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0066】
樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂などを挙げることができる。なかでも、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂が好ましく、アクリル系樹脂がさらに好ましい。
【0067】
アクリル系樹脂としては、親水性ユニット及び疎水性ユニットを構成ユニットとして有するものが好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、芳香環を有するモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの少なくとも一方に由来する疎水性ユニットと、を有する樹脂が好ましい。特に、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、スチレン及びα-メチルスチレンの少なくとも一方のモノマーに由来する疎水性ユニットとを有する樹脂が好ましい。これらの樹脂は、顔料との相互作用が生じやすいため、顔料を分散させるための樹脂分散剤として好適に利用することができる。
【0068】
親水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有するユニットである。親水性ユニットは、例えば、親水性基を有する親水性モノマーを重合することで形成することができる。親水性基を有する親水性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボン酸基を有する酸性モノマー、これらの酸性モノマーの無水物や塩などのアニオン性モノマーなどを挙げることができる。酸性モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンを挙げることができる。疎水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有しないユニットである。疎水性ユニットは、例えば、アニオン性基などの親水性基を有しない、疎水性モノマーを重合することで形成することができる。疎水性モノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香環を有するモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル系モノマーなどを挙げることができる。
【0069】
ウレタン系樹脂は、例えば、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得ることができる。また、鎖延長剤をさらに反応させたものであってもよい。オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができる。
【0070】
[水性媒体]
本発明のインクタンクで用いるインクは、水性媒体として少なくとも水を含有する水性のインクである。インクには、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させる。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。水性インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.00質量%以上95.00質量%以下であることが好ましい。
【0071】
[界面活性剤]
インクは界面活性剤を含有することが好ましい。水溶性有機溶剤と同様に、界面活性剤も凍結の際には水の結晶外に排除された状態で存在し、その疎水部がインク収容袋側に向くとともに、親水部がインクを構成する水性媒体側に向いて、インク収容袋に配向する。このため、インクに界面活性剤を含有させると、インクの流出に伴ってインク収容袋が収縮し、インク収容袋の内面同士が近接した際にも、インク収容袋の閉塞が抑制されやすく、インク使い切り性をさらに向上させることができる。インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上10.00質量%以下であることが好ましい。
【0072】
界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、両性などのイオン性界面活性剤;ノニオン性界面活性剤を挙げることができる。なかでも、ノニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤は電荷を持たないため、同様に電荷を持たないインク収容袋とのファンデルワールス力による相互作用がより強くなり、インク収容袋に配向しやすい。界面活性剤を構成材料で分類すると、炭化水素系、フッ素系、シリコーン系などを挙げることができる。これらのなかでも、フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤が好ましい。特に、ノニオン性のフッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤は、配向したインク収容袋の表面エネルギーを特に効率よく低下させることができる。表面エネルギーの低い材料は、他の材料と接着しにくい。このため、フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤をインクに含有させることで、インク収容袋の内面同士をより接着しにくくすることができ、インク使い切り性をさらに向上させることができる。
【0073】
[その他添加剤]
インクには、上記成分以外にも必要に応じて、消泡剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤など種々の添加剤を含有させてもよい。一般的に、界面活性剤をはじめとしたこれらの添加剤はインク中の含有量もかなり少なく、インク収容袋の膨潤に「直接的に」与える影響も低い。このため、本発明においては、これらの添加剤は「水溶性有機溶剤」には含めないものとし、SP値や比誘電率を算出する対象とはしない。
【0074】
<インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録装置は、上述のインクタンクと、このインクタンクから供給されるインクをインクジェット方式で吐出する記録ヘッドとを備える。以下、本発明のインクジェット記録装置について、図面を参照しつつ説明する。
【0075】
図7は、本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図7に示す実施形態のインクジェット記録装置200は、X方向(主走査方向)に記録ヘッドを往復走査させて記録動作を行う、いわゆるシリアル方式のインクジェット記録装置である。記録媒体101は、搬送ローラ107によってY方向(副走査方向)へと間欠的に搬送される。キャリッジ103は、X方向に沿って配置されたガイドレール105に沿って移動可能に支持されており、ガイドレール105と並行に移動する無端ベルト106に固定されている。無端ベルト106はモータの駆動力によって往復運動する。無端ベルト106の往復運動によって、キャリッジ103がX方向に往復走査される。
【0076】
キャリッジ103に搭載された記録ユニット102は、同様にX方向(主走査方向)に往復走査される。そして、記録媒体101のY方向への搬送と、記録ユニット102のX方向への往復走査と、によって記録動作が行われる。インクは、インクタンク100からインク供給チューブ104を介して記録ユニット102に供給される。その後、記録ユニット102に設けられた記録ヘッドの吐出口からインクが吐出される。本発明のインクジェット記録装置は、フルライン方式、シリアルスキャン方式などの種々の方式に対しても適用可能である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例、比較例、及び参考例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0078】
<インクタンク本体の製造>
ブロー成形により作製したインク収容袋(底面積20cm2、高さ16cm、容量320mL)をポリエチレン製の筐体に収納して、表1に示す構成のインクタンク本体1~10を製造した。各種の物性は、作製したインク収容袋を適当なサイズに切り出して得たサンプルを利用して測定した。樹脂のSP値は組成を分析し、Fedors法により算出した。インク収容袋の弾性率は、インク収容袋を150mm×25mmの短冊状に切り出して得たサンプルについて測定した。弾性率は、引張試験機(商品名「卓上形精密万能試験機AGS-X」、島津製作所製)を使用し、試験種:引張、チャック間距離:100mm、変位速度:5mm/分、の条件で測定した。
【0079】
【0080】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1)
0.3mm径のジルコニアビーズ200部を充填したバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に、顔料10.0部、樹脂の水溶液15.0部、及び純水75.0部の混合物を入れて、水冷しながら5時間分散させた。顔料としては、商品名「クロモフタールジェットマゼンタ2BC」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を用いた。樹脂の水溶液としては、酸価150mgKOH/g、重量平均分子量8,000のスチレン-アクリル酸エチル-アクリル酸共重合体を、その酸価と等モルの水酸化カリウムを含む水に溶解させた、樹脂(固形分)の含有量が20.0%である水溶液を用いた。ポアサイズ3.0μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過して、顔料分散液1を得た。顔料分散液1中の顔料の含有量は10.0%であり、樹脂の含有量は3.0%であった。
【0081】
(顔料分散液2)
樹脂の水溶液として、重量平均分子量20,000のスチレン-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート-エチルアクリレート共重合体(組成(質量)比=50:40:10)の水溶液(樹脂(固形分)の含有量20.0%)を用いた。この樹脂の水溶液を用いたこと以外は、前述の顔料分散液1と同様の手順で顔料分散液2を得た。顔料分散液2中の顔料の含有量は10.0%であり、樹脂の含有量は3.0%であった。
【0082】
<インクの調製>
表2-1及び2-2に示す各成分(単位:%)を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ1.2μmのメンブレンフィルター(商品名「HDCIIフィルター」、ポール製)にて加圧ろ過して、各インクを調製した。ポリエチレングリコールに付した数値は、ポリエチレングリコールの数平均分子量である。「アセチレノールE100」は、川研ファインケミカル製のノニオン性の炭化水素系界面活性剤の商品名である。「ゾニールFS3100」は、デュポン製のノニオン性のフッ素系界面活性剤の商品名である。「BYK348」はビックケミー製のノニオン性のシリコーン系界面活性剤の商品名である。
【0083】
【0084】
【0085】
<評価>
表3の左側に示すインクタンク本体とインクの組み合わせとし、インクタンク本体にインクを充填してインクタンクを用意した。インクの充填量は、インクタンク本体のインク最大収容量の95%の量とした。用意したインクタンクを-10℃の環境に3日間保管した。さらに、インクタンクを25℃で24時間放置した。その後、
図7に示す主要部を有するインクジェット記録装置にセットし、25℃の温度条件下で、インクが供給されなくなるまで連続してインクを吐出した。インクの供給が停止した時点のインクの残量を測定し、下記式(2)に基づき「インク消費率(%)」を算出するとともに、以下に示す評価基準にしたがってインク使い切り性を評価した。結果を表3に示す。
インク消費率(%)={(X-Y)/X}×100 ・・・(2)
X:インクタンク本体に充填したインクの量(g)
Y:インクの供給が停止した時点のインクの残量(g)
【0086】
[評価基準]
A:インク消費率が90%以上であった。
B:インク消費率が80%以上90%未満であった。
C:インク消費率が70%以上80%未満であった。
D:インク消費率が70%未満であった。
【0087】
【0088】
比較例1のインクタンクは、記録終了時にインク収容袋の複数の箇所で閉塞が生じており、十分な量のインクを供給することができなかった。参考例1及び2のインクタンクは圧力調整機構を有するものであったため、インクを使い切ることができた。また、参考例3及び4のインクタンクは収縮制御機構を有するものであったため、インクを使い切ることができた。