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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド用基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20221128BHJP
【FI】
B41J2/16 503
B41J2/16 509
B41J2/16 507
B41J2/16 401
B41J2/16 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018180591
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020049753
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】大塚 学
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲史
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-112618(JP,A)
【文献】特表2012-521079(JP,A)
【文献】特開2018-144325(JP,A)
【文献】特開2017-209951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の第一の面に形成された液体を吐出するためのエネルギー発生素子と、該エネルギー発生素子上に液体を配置する液体流路と、該液体流路に連通して液体を吐出する吐出口と、前記基板の前記第一の面に開口し、該液体流路に液体を供給する液体供給口と、該液体供給口に連通し、前記基板の前記第一の面と反対の第二の面に開口する共通液室と、を備える液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、
前記液体流路の壁部もしくは前記吐出口を形成する部材の少なくとも一部が樹脂層からなり、該樹脂層を形成する工程は、
(1)前記基板の外形よりも大きな支持体上に形成した前記樹脂層を準備する工程と、
(2)前記樹脂層を前記支持体に支持された状態で前記基板に貼り合わせる工程と、
(3)前記支持体の端部上であって、前記基板と非接触の端部樹脂層を、該樹脂層が溶解する溶剤で除去する工程と、
(4)前記支持体を前記樹脂層から剥離する工程と、
をこの順に有することを特徴とする液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項2】
前記工程(3)と前記工程(4)の間に前記溶剤が浸潤した樹脂層を乾燥する乾燥工程を有する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程において、少なくとも前記基板の外周部を加熱する、請求項2に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程は少なくとも減圧環境下で実施する、請求項2又は3に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項5】
前記基板は凹部を有し、前記工程(2)は、該凹部を前記樹脂層が覆うように前記基板に貼り合わせる工程であり、前記乾燥工程における加熱温度が、前記樹脂層を構成する樹脂の軟化点未満である、請求項2~4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項6】
前記工程(3)において、前記基板を回転させながら前記溶剤を導入することにより、前記非接触の端部樹脂層を除去する、請求項1~5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項7】
前記基板の端部に対して、前記支持体の端部が外側に5mm以内の位置にあり、前記工程(3)において、前記基板の回転数を500~2000rpmの範囲に制御する請求項6に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項8】
前記基板の端部に対して、前記支持体の端部が外側に5mmを越える位置にあり、前記工程(3)において、前記溶剤を前記基板側から導入する請求項1~6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体業界では、高精度な寸法精度でデバイスを製造する技術が要求されている。例えば、インクジェット業界においては、その画質を高精細化するために、吐出インク滴の画一性が要求されており、そのためにはインク流路を寸法精度良く画一的に形成する技術が求められる。
【0003】
その手段の1つとして、特許文献1には、基板に対して感光性樹脂から成る樹脂層を貼り合わせることでノズル形成部材を基板上に形成する方法が記載されている。この手法では、樹脂層は基板との貼り合わせ前まで支持体に支えられており、基板と貼り合わされた後、支持体が剥離される。この後、基板上のノズル形成部材をフォトリソグラフィー等によって流路パターンに形成する。
【0004】
インク流路の寸法精度を低下させる一般的な要因としては、ノズル形成部材の形成方法に由来する膜厚のバラツキが挙げられる。特許文献1の貼合わせ手法では、従来のスピンコーティングやスリットコーティングなどと異なり、スピン気流や溶媒乾燥が起因となる膜厚均一性の低下を経験しないため、膜厚のバラツキを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-137065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
支持体上の樹脂層は通常、貼り合わせる基板(ウエハ)と同形状に加工されることが好ましい。しかしながら、貼り合わせの簡便性や支持体の引きはがしなどの観点から、支持体及び樹脂層は基板の形状(有効領域)よりも大きめに加工することが行われている。その場合、本発明者らの検討によれば、支持体引きはがしの際にウエハ領域外に樹脂層のバリが形成され、工程中に欠落したバリが製品の品質を低下させることがあった。
【0007】
したがって、本発明は、支持体上に形成した樹脂層を基板に貼り合わせて構造体を形成する際に、バリが製造工程中に欠落して製品の品質を低下させることを抑制した液体吐出ヘッド用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明の一態様は、基板と、該基板の第一の面に形成された液体を吐出するためのエネルギー発生素子と、該エネルギー発生素子上に液体を配置する液体流路と、該液体流路に連通して液体を吐出する吐出口と、前記基板の前記第一の面に開口し、該液体流路に液体を供給する液体供給口と、該液体供給口に連通し、前記基板の前記第一の面と反対の第二の面に開口する共通液室と、を備える液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、
前記液体流路の壁部もしくは前記吐出口を形成する部材の少なくとも一部が樹脂層からなり、該樹脂層を形成する工程は、
(1)前記基板の外形よりも大きな支持体上に形成した前記樹脂層を準備する工程と、
(2)前記樹脂層を前記支持体に支持された状態で前記基板に貼り合わせる工程と、
(3)前記支持体の端部上であって、前記基板と非接触の端部樹脂層を、該樹脂層が溶
解する溶剤で除去する工程と、
(4)前記支持体を前記樹脂層から剥離する工程と、
をこの順に有することを特徴とする液体吐出ヘッド用基板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、支持体を樹脂層から剥離する前に、支持体の端部上の基板と非接触の端部樹脂層を除去することにより、バリが製造工程中に欠落し、製品の品質を低下させることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】液体吐出ヘッド用基板の一部破断の模式図である。
図2】液体吐出ヘッド用基板の製造工程を示す模式的断面図である。
図3】基板と非接触の端部樹脂層を除去する工程の一例を示す模式図である。
図4】樹脂層が糸引きする様子を示す模式図である。
図5】乾燥工程における加熱方法の一例を示す模式図である。
図6】液体吐出ヘッド用基板の製造工程の一部を説明する工程断面図である。
図7】従来の製造方法によるバリによる課題を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、本明細書では、本発明に係る基板の製造方法について、液体吐出ヘッドに用いられる基板(液体吐出ヘッド用基板)を例に挙げて説明するが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。液体吐出ヘッド用基板は、プリンター、複写機、ファクシミリ、プリンター部を有するワードプロセッサなどのインクを吐出するインクジェット記録装置に好適に使用できる。また、さらにはバイオチップ作製や電子回路印刷用途、カラーフィルター製造用等、各種処理装置と複合的に組み合わせた産業用記録装置に搭載するヘッド等にも適用できる。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法により得られる液体吐出ヘッド用基板の一部破断の模式的斜視図(a)と断面図(b)である。図1において、基板1には、その第一の面1A上にインク等の液体を吐出するために用いられるエネルギーを発生するエネルギー発生素子2およびエネルギー発生素子2に接続された配線(不図示)が形成されている。また、基板1の第一の面1A上には、エネルギー発生素子上に液体を配置する液体流路9と、液体流路9に連通して液体を吐出する複数の吐出口5を備える。液体流路9の壁部を形成する流路形成部材7と、吐出口5を形成する吐出口形成部材8とが設けられている。流路形成部材7と吐出口形成部材8とを合わせてノズル形成部材ということがある。基板1を貫通して、第一の面1Aと反対の第二の面1Bに開口する共通液室3と、液体流路9と共通液室3に連通し、第一の面1Aに開口する液体供給口4とが設けられている。さらに、基板1の第二の面1B上には、液体を共通液室3へ導入するための開口部10が設けられた蓋構造体6が設けられている。
【0014】
以上の構成を有する液体吐出ヘッド用基板において、液体は、開口部10から、共通液室3および液体供給口4を介して液体流路9に供給され、記録信号に応じてエネルギー発生素子2が発生するエネルギーにより、吐出口5から吐出される。例えば、エネルギー発生素子2が電気熱変換体である場合、液体内に瞬間的に発生する気泡の成長によって生じる圧力変化を利用して、液滴を吐出口5から吐出させて、記録媒体に記録する。
【0015】
本発明に係る基板の製造方法は、少なくとも以下の工程をこの順に有している。
(1)前記基板の外形よりも大きな支持体上に形成した前記樹脂層を準備する工程。
(2)前記樹脂層を前記支持体に支持された状態で前記基板に貼り合わせる工程。
(3)前記支持体の端部上であって、前記基板と非接触の端部樹脂層を、該樹脂層が溶解する溶剤で除去する工程。
(4)前記支持体を前記樹脂層から剥離する工程。
【0016】
以下、図2を参照して、本発明の一実施形態に係る基板の製造方法を含む液体吐出ヘッド用基板の製造方法を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図2(a)~(m)は、本実施形態における液体吐出ヘッド用基板の製造方法の工程を示すフロー図であり、基板(ウエハ)の一端部の各工程での断面の模式図を示しているが、ウエハの外周面全周に同様の工程を実施する。液体吐出ヘッド用基板として機能する構成は、図1の液体吐出ヘッド用基板と同様である。
【0017】
まず、図2(a)に示すように、エネルギー発生素子2、共通液室3および液体供給口4が形成された基板1を用意する。なお、基板1の表面には、エネルギー発生素子2の他に配線や層間絶縁膜などから構成される表面メンブレン層(不図示)が形成されている。共通液室3および液体供給口4は、フォトレジストなどを用いてエッチングマスクを形成し、エッチングを行うことにより形成することができる。なお、共通液室3および液体供給口4を形成する工程は、後述する吐出口形成の後に行ってもよい。
【0018】
次いで、図2(b)に示すように、支持体11上に樹脂層12を形成した部材を準備する。支持体11としては、ポリエチレンテレフタラート、ポリイミド、またはポリアミドなどの一般的なフィルム材料や、これらフィルム材料の表面に離型膜を成膜したフィルム、離型処理したフィルムを用いることができる。支持体11の厚みは10μm~200μmであることが好ましく、液体供給口4上の樹脂層12の落込みを抑制する観点から、75μm~200μmであることがより好ましい。樹脂層12に用いられる樹脂としては、感光性樹脂、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。樹脂層12を形成する方法としては、スピンコート法やスリットコート法が挙げられる。樹脂層12の厚みは0.5μm~100μmであることが好ましい。支持体11は、基板1(ウエハ)の外形よりも大きな外形となるように加工される。
【0019】
次いで、図2(c)に示すように、支持体11上に形成した樹脂層12を、共通液室および液体供給口が形成された基板1に貼り合わせる。なお、共通液室および液体供給口を吐出口の形成後に形成する場合は、この時点では、基板1に共通液室および液体供給口は形成されていない。貼り合わせる際は、支持体11の外周が基板1(ウエハ)の外周よりも内側に入り込まない、すなわち、ウエハの全外周で樹脂層12がはみ出した状態とすることが好ましい。ほぼ均等にウエハの全外周で樹脂層12がはみ出した状態とすることがより好ましい。
【0020】
このようにして樹脂層が形成された基板に対して、図2(d)に示すように、支持体11を有する状態で樹脂層が溶解する溶剤13を導入し、図2(e)に示すように、支持体の端部上の基板と非接触の端部樹脂層14を除去する。溶剤は、樹脂層を溶解し得るものであればよいが、支持体や基板上に設けられたパターン等に影響を与えることなく、樹脂層を選択的に溶解させることができる溶剤であることが好ましい。例えば樹脂層を構成する樹脂がエポキシ樹脂である場合、溶剤として、PGMEA(プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート)を用いることができる。溶剤の導入方法としては、スプレー方式等により横から直接樹脂層に溶剤を吹き付ける方法や、支持体の上方から溶剤を導入して表面張力により樹脂層に回り込ませる方法、支持体の下方、すなわち樹脂層が形成されている基板側から溶剤を導入する方法等がある。
【0021】
なお、図2(d)には、支持体の上方から溶剤を導入する方法を示した。この方法によれば、基板を回転させて回転数を制御することで、溶剤に溶解させた樹脂層を、遠心力により効率的に排出させることができ、また、溶剤の回り込み量を制御することができるため好ましい。この際、基板の第二の面に保護テープなどを設けて、溶剤が触れないように、基板の有効領域を保護してもよい。
【0022】
支持体の上方から溶剤を導入する方法において、基板の端部に対して支持体の端部が外側に5mm以内の位置にある場合、基板の回転数は500~2000rpmであることが好ましい。基板の回転数が500rpm以上であれば、樹脂層への溶剤の回り込みの制御性を高めることができる。その結果、溶解した樹脂層が基板の裏面に回り込み、基板に影響を与えることを抑制することができる。また、基板の回転数が2000rpm以下であれば、樹脂層への溶剤の回り込みが容易となる。基板の端部に対して支持体の端部が外側に5mmを超える位置にある場合にも、基板の回転数を小さくすることにより、基板と非接触の樹脂層を除去することは可能である。しかし、溶剤の回り込みの制御性が低下したり、溶解した樹脂層が基板の裏面に回り込み、基板に影響を与えたりすることがある。そのため、この場合には、図3に示すように、基板1側から溶剤13を導入する方法が好ましい。また、この場合においても基板に影響を与えないように、基板の回転数は500~2000rpmとすることが好ましい。
【0023】
ところで、端部樹脂層14を除去する際に、図4(a)に示すように、支持体11と基板1に挟まれた樹脂層も溶剤に浸潤されて、粘度の下がった(変形可能な)樹脂層21が形成されることがある。そして、図4(b)に示すように、支持体11を剥離する際に、樹脂層21が伸びて糸を引き、基板の有効領域にかかることで、製品の品質を低下させることがある。このような場合には、乾燥工程を追加することにより対策することができる。すなわち、本発明に係る基板の製造方法は、基板と非接触の端部樹脂層を溶剤で除去する工程と支持体を樹脂層から剥離する工程との間に、乾燥工程を有することが好ましい。
【0024】
乾燥工程は、前記溶剤の常温(20℃)における飽和蒸気圧が十分に大きい場合には、少なくとも30分以上の常温放置による自然乾燥でもよいが、減圧乾燥や加熱乾燥、その両方等を用いることで溶剤の蒸発を促進させることが好ましい。減圧乾燥は真空度が高いほど効果的であり、蒸発速度を促進させるため、少なくとも真空度が100Pa以下の減圧環境下で実施することが好ましい。
【0025】
なお、乾燥工程では、少なくとも基板の外周部を加熱することが好ましい。ここで、図2に示すように、液体供給口4などの凹部を有する基板においては、該凹部を樹脂層が覆うように、基板と樹脂層が貼り合わせられる。そのため、凹部を有する基板において加熱乾燥を実施する場合、樹脂層が軟化して、凹部に対して樹脂層の落ち込みが生じ、所望の形状を維持することができなくなる場合がある。したがって、乾燥工程における加熱温度は、樹脂層を構成する樹脂の軟化点未満の温度であることが好ましい。樹脂層を構成する樹脂の軟化点を超える温度での加熱が必要な場合には、例えば図5に示すように、基板1の凹部領域を冷却プレート31で冷却しながら、樹脂層21を加熱プレート32で加熱する方法等を用いて、基板の端部のみを選択的に加熱してもよい。
【0026】
次に、図2(f)に示すように、樹脂層12から支持体11を剥離する。ここで、本発明においては、上記工程において基板と非接触の樹脂層14を溶剤で除去しているため、支持体11を樹脂層12から剥離する際に、前記基板と非接触の樹脂層14に由来するバリが発生することを抑制することができる。次いで、基板1上に形成した樹脂層12を用いて、以下の方法により、流路形成部材および吐出口形成部材を形成する。
【0027】
まず、図2(g)に示すように、基板1上に形成された樹脂層12を所望の形状に加工し、流路形成部材7を形成する。流路形成部材7は、樹脂層12が感光性樹脂である場合には、樹脂層12を、フォトマスクを用いて露光し、現像処理することにより形成される。また、樹脂層12が熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂である場合は、これらの樹脂層の上に、感光性樹脂を用いてレジストマスクなどを形成してエッチングを行い、所望の形状に加工する。
【0028】
次いで、図2(h)に示すように、吐出口5を有する吐出口形成部材8を形成する。まず、流路形成部材7が形成された基板1上に、上述した樹脂層12の形成と同様に、吐出口形成部材8となる樹脂層(不図示)を支持体(不図示)に塗布し、基板と貼り合わせた後、基板と非接触の樹脂層を溶剤によって除去する。そして、支持体を樹脂層から剥離した後、フォトリソグラフィーやエッチング等の方法を用いて、吐出口形成部材8に吐出口5を形成する。なお、本工程における樹脂層を形成する樹脂、支持体および溶剤としては、上記流路形成部材の形成において述べたものと同様のものを用いることができる。
【0029】
また、流路形成部材7と吐出口形成部材8を形成する樹脂層が共に感光性樹脂からなる場合は、流路形成部材7の形成時に現像を行わず、吐出口形成部材8の形成後に吐出口5と液体流路9となる未露光部の樹脂層を一括で現像しても構わない。ただし、吐出口形成部材8を形成する第2の感光性樹脂を、流路形成部材7を形成する第1の感光性樹脂よりも高感度のものにして、吐出口形成部材8となる樹脂層の露光時に、流路形成部材7となる樹脂層の未露光部が感光しないようにする。具体的には第2の感光性樹脂に配合する光開始剤(酸発生剤等)を、第1の感光性樹脂に配合するものよりも高感度にする。また、樹脂層が熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂により形成される場合は、レジストマスクなどを用いてエッチングを行い、所望の形状に加工する。なお先述したように、この工程の後に共通液室3や液体供給口4を形成してもよい。
【0030】
次いで、基板1の第二の面に開口する共通液室3上に蓋構造体6を形成する。ます、流路形成部材の形成時と同様に、支持体15上に蓋構造体6となる樹脂層16を形成した部材を用意する。次に、図2(i)に示すように、基板1の共通液室3が形成された第二の面に樹脂層16を貼り合わせる。次いで、流路形成部材と同様の方法で、図2(j)に示すように、基板と非接触の樹脂層18を、該樹脂層が溶解する溶剤17を用いて除去する。次いで、図2(k)に示すように、基板と非接触の樹脂層を除去した状態で、必要に応じて乾燥工程を実施し、図2(l)に示すように、支持体15を樹脂層16から剥離する。そして、図2(m)に示すように、エッチングやフォトリソグラフィーにより、樹脂層16を所望の形状に加工し、開口部10を有する蓋構造体6を形成する。なお、本工程における樹脂層を形成する樹脂、支持体および溶剤としては、上記流路形成部材の形成において述べたものと同様のものを用いることができる。また、乾燥工程についても、流路形成部材の形成においてした説明と同様である。基板の第一の面に形成したノズル形成部材を保護するため、保護部材を設けることが好ましい。
【0031】
以上の工程によって、本発明に係る液体吐出ヘッド用基板が製造される。本発明の製造方法によれば、基板と非接触の樹脂層に由来するバリが製造工程中に欠落することを抑制でき、従来技術よりも製品の品質の低下を抑制することができる。
【実施例
【0032】
本発明を用いて製造される基板として、液体吐出ヘッド用基板を作製した例を説明する。ここでは液体吐出ヘッド用基板を例に挙げて説明しているが、本発明により作製される基板の用途に関しては、これに限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
図2(a)に示すように、エネルギー発生素子2を含む表面メンブレン層の形成されたシリコン製の基板1を用意した。そして、基板1に、RIE(リアクティブイオンエッチング)方式であるボッシュプロセスにより、共通液室3および液体供給口4を形成した。
【0034】
次いで、図2(b)に示すように、支持体11としての厚さ100μmのポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム上に、樹脂層12として第1の感光性樹脂層となるエポキシ樹脂(商品名:N-695、大日本インキ社製、軟化点:60℃)を塗布した。具体的には、上記エポキシ樹脂と、露光波長365nmに感度を有する光開始剤(商品名:CPI-210S、サンアプロ社製)とを、溶剤(PGMEA)に溶解させた溶液を、スリットコート法により支持体11上に塗布した。光開始剤の添加量は、後述する吐出口形成時に、吐出口形成部材となる第2の感光性樹脂層を選択的に露光パターニングできるように感度を調整して決定した。なお、第1の感光性樹脂層の厚みは16μmとした。
【0035】
次に、図2(c)に示すように、樹脂層(第1の感光性樹脂層)と、予め共通液室および液体供給口が形成された基板1とを、ロール式ラミネーターにて接合させた。本実施形態では、基板1上の第1の感光性樹脂層の厚みが15μmとなるように、温度90℃、圧力0.4MPaの条件を適用した。このとき、支持体11の端部が、基板1の端部から0.5mm外側となるように切断した。
【0036】
次に、図2(d)に示すように、枚葉式ウエット処理装置にて、支持体の端部上の基板と非接触の樹脂層14を、該樹脂層が溶解する溶剤13を用いて除去した(図2(e))。溶剤13としてはPGMEAを使用し、基板の回転数は2000rpm、処理時間は5秒とした。次に、基板と非接触の樹脂層を除去した基板を、100Pa以下の減圧環境下にて40℃で30分間加熱乾燥させた。その後、図6(a)に示すように、常温下で支持体を樹脂層12(第1の感光性樹脂層41)から剥離した。
【0037】
次いで、図6(b)に示すように、第1の感光性樹脂層41に、フォトマスク42を介して、露光機にて露光波長365nmの光を5000J/mの露光量で照射した。その後、50℃で5分間のPEB(Post Exposure Bake)を行うことにより、第1の感光性樹脂層41の露光部が流路形成部材7、未露光部が液体流路となるように潜像させた。
【0038】
次いで、図2(b)と同様に、支持体11としての厚さ100μmのPETフィルム上に、樹脂層12(第2の感光性樹脂層)を有する部材を用意した。具体的には、エポキシ樹脂(商品名:157S70、ジャパンエポキシレジン社製、軟化点:50℃)と、露光波長365nmに感度を有する光開始剤(商品名:LW-S1、サンアプロ社製)とをPGMEAに溶解させた溶液を、スリットコート法により支持体11上に塗布した。その後、図6(c)に示すように、第2の感光性樹脂層43と第1の感光性樹脂層41とが接するように、ロール式ラミネーターにて接合させた。本実施形態では、基板1上の第2の感光性樹脂層43の厚みが15μmとなるように、温度55℃、圧力0.2MPaの条件を適用した。このとき、支持体11の端部が、基板1の端部から0.5mm外側となるように切断した。
【0039】
ここで、第1の感光性樹脂層41に形成された液体流路パターンの未露光部が感光されないように、第1の感光性樹脂層41と第2の感光性樹脂層43とに感度差を設けておくことが好ましい。具体的には、第1の感光性樹脂層41の光の感度は、第2の感光性樹脂層43に対して低い感度にしておく。第1の感光性樹脂層41の感度を1とした時の第2の感光性樹脂層43の感度が3以上であれば、第1の感光性樹脂層41への影響がないことが分かった。
【0040】
次に、図2(d)に示す工程と同様に、枚葉式ウエット処理装置にて、支持体の端部上の基板と非接触の樹脂層14を、該樹脂層が溶解する溶剤13を用いて除去した(図6(d))。溶剤13としてはPGMEAを使用し、基板の回転数は2000rpm、処理時間は5秒とした。次いで、基板と非接触の樹脂層を除去した基板を、100Pa以下の減圧環境下にて40℃で30分間加熱乾燥させた。その後、常温下で支持体11を第2の感光性樹脂層43から剥離した。
【0041】
次いで、図6(e)に示すように、第2の感光性樹脂層43に、フォトマスク44を介して、露光機にて露光波長365nmの光を1000J/mの露光量で照射した。その後、90℃で4分間のPEBを行うことにより、第2の感光性樹脂層43の露光部が吐出口形成部材8、未露光部が吐出口5となるように潜像させた。
【0042】
次いで、現像装置にて、PGMEAで未露光部を溶解させることにより、図6(f)に示すように、第1の感光性樹脂層41の未露光部と第2の感光性樹脂層43の未露光部を現像した。さらに、200℃で1時間のキュアリング工程を行い、液体流路9を有する流路形成部材7と、吐出口5を有する吐出口形成部材8を形成した。
【0043】
次いで、吐出口を形成した面に保護部材(不図示)を貼り付けたのち、支持体15としてのPETフィルム上に樹脂層16(第3の感光性樹脂層)となるフォトレジストを積層した部材を用意した。フォトレジストは、エポキシ樹脂系のネガ型フォトレジスト「TMMF」(商品名、東京応化工業社製、軟化点:45℃)を用いた。図2(i)に示すように、この部材を樹脂層側で基板の共通液室3を形成した第二の面にロール式ラミネーターにて接合させた。第3の感光性樹脂層の厚みが20μmとなるように、ステージ温度40℃、ローラー温度40℃、ローラー圧力0.2MPaの条件で接合した。このとき、支持体15の端部が、基板の端部から0.5mm外側となるように切断した。
【0044】
次に、図2(j)に示すように、枚葉式ウエット処理装置にて、支持体の端部上の基板と非接触の樹脂層18を、該樹脂層が溶解する溶剤17を用いて除去した(図2(k))。溶剤17としてはPGMEAを使用し、基板の回転数は2000rpm、処理時間は5秒とした。次いで、基板と非接触の樹脂層を除去した基板を、100Pa以下の減圧環境下にて40℃で30分間加熱乾燥させた。その後、図2(l)に示すように、常温下で支持体15を樹脂層16(第3の感光性樹脂層)から剥離した。
【0045】
次いで、露光機にて、第3の感光性樹脂層に、フォトマスクを介して、露光波長365nmの光を400mJ/mの露光量で照射した。次いで、図2(m)に示すように、保護部材を剥離し、90℃で10分間のPEBを行った後、現像装置にて、PGMEAを用いて未露光部を溶解させることにより現像した。そして、200℃で1時間のキュアリング工程を行い、開口部10を有する蓋構造体6を形成した。このようにして形成された液体吐出ヘッド用基板に対して、エネルギー発生素子(電気熱変換体)を駆動するための電気配線部材の電気的接合(不図示)を行った。これにより、本発明に係る液体吐出ヘッド用基板を得た。
【0046】
[比較例1]
支持体の端部上の基板と非接触の樹脂層を除去する工程を行わなかった以外は、実施例1と同様に比較例1に係る液体吐出ヘッド用基板を作製した。具体的な製造方法は以下のとおりである。
【0047】
実施例1と同様に、基板1上に支持体11の端部が、基板1の端部から0.5mm外側となるように樹脂層12(第1の感光性樹脂層41)を貼り合わせた。
【0048】
次に、支持体11の端部上の基板と非接触の樹脂層14を除去せずに、図7(a)に示すように、支持体11の一端部をジグ51にて把持して樹脂層12(第1の感光性樹脂層41)から剥離した。この時、ジグ51にて把持された樹脂層14Aは、支持体11とともに除去されるが、ジグ51に把持されていない部分の基板と非接触の樹脂層14Bはバリとして残存していた。該バリは、図7(b)に示すように、基板キャリアへの接触や製造工程において欠落し、欠落したバリ52として樹脂層12の表面に付着した。
【0049】
次いで、図7(c)に示すように、第1の感光性樹脂層41に、フォトマスク42を介して、露光機にて露光波長365nmの光を5000J/mの露光量で照射した。この際、欠落したバリ52の一部も同様に露光された。その後、50℃で5分間のPEBを行うことにより、第1の感光性樹脂層41の未露光部が液体流路となるように潜像させた。しかし、欠落したバリ52も同様に露光されて、硬化してしまった。
【0050】
次いで、支持体11としての厚さ100μmのPETフィルム上に、実施例1と同様に第2の感光性樹脂層43(樹脂層12)となるエポキシ樹脂を積層した部材を準備した。図7(d)に示すように、第2の感光性樹脂層43と第1の感光性樹脂層41とが接するように、ロール式ラミネーターにて接合させた。本実施例では、基板1上の第2の感光性樹脂層43の厚みが15μmとなるように温度55℃、圧力0.2MPaの条件を適用した。このとき、支持体11の端部が、基板1の端部から0.5mm外側となるように切断した。なお、バリ52の硬化部分の影響で第2の感光性樹脂層43の平坦性が一部損なわれていた。
【0051】
次に、第1の感光性樹脂層41の場合と同様に、支持体の端部上の基板と非接触の樹脂層14を除去せずに、図7(e)に示すように、支持体11を第2の感光性樹脂層43から剥離した。この時、基板と非接触の樹脂層14はバリとして残存していた。該バリは、図7(f)に示すように、基板キャリアへの接触や製造工程において欠落し、欠落したバリ53として基板の表面に付着した。
【0052】
次いで、実施例1と同様に図7(g)に示すように、第2の感光性樹脂層43に、フォトマスク44を介して、露光機にて、露光波長365nmの光を1000mJ/mの露光量で照射し、その後、90℃で4分間のPEBを行った。この際、欠落したバリ53も同様に露光されて、硬化してしまった。
【0053】
次いで、現像装置にて、PGMEAで未露光部を溶解させることにより、図7(h)に示すように、第1の感光性樹脂層41の未露光部と第2の感光性樹脂層43の未露光部を取り除いた。その後、200℃で1時間のキュアリング工程を行い、液体流路9を有する流路形成部材7と、吐出口5を有する吐出口形成部材8を形成した。この際、吐出口形成部材8上、および流路形成部材7と吐出口形成部材8との間には、製造行程中に欠落したバリ52、53に基づく欠陥部が形成されており、液体流路9’のような液室容量の変化や、吐出口5’のような吐出口長さの異常が見られた。これらの異常により、吐出性能の劣化が確認された。
【0054】
また、実施例1と同様に蓋構造体6を形成する際に支持体の端部上の基板と非接触の樹脂層を除去する工程を行わなかった場合には、蓋構造体6の表面に非接触の樹脂層に由来するバリの被着が認められた。この結果、蓋構造体6の平坦性が損なわれ、吐出液体漏れなどが発生した。
【符号の説明】
【0055】
1:基板
2:エネルギー発生素子
3:共通液室
4:液体供給口
5:吐出口
6:蓋構造体
7:流路形成部材
8:吐出口形成部材
9:液体流路
10:開口部
11:支持体
12:樹脂層
13:溶剤
14:基板と非接触の端部樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7