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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】光検出装置、光検出システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/107 20060101AFI20221128BHJP
   H01L 27/144 20060101ALI20221128BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
H01L31/10 B
H01L27/144 K
H01L27/146 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018185429
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020057650
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】岩田 旬史
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0339398(US,A1)
【文献】特開2006-179828(JP,A)
【文献】特開2018-064086(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0271108(US,A1)
【文献】特開平10-070303(JP,A)
【文献】特開昭60-182768(JP,A)
【文献】特開昭61-136225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/0392
H01L 31/08-31/119
H01L 31/18-31/20
H01L 51/42-51/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、前記第1面と対向する第2面とを有する半導体基板と、
アバランシェダイオードを含む画素が、前記半導体基板に複数配された画素部と、を有する光検出装置であって、
前記アバランシェダイオードは、断面視において、
第1の深さに配された第1導電型の第1半導体領域と、
前記第1の深さよりも前記第1面に対して深い第2の深さに配され、前記第1半導体領域との間でアバランシェ増倍領域を構成する第2導電型の第2半導体領域と、
前記第2の深さよりも前記第1面に対して深い第3の深さに配され、前記第2半導体領域と接する第3半導体領域と、
前記第1の深さから前記第3の深さに渡って各々延在する、第1分離部と第2分離部とを有し、
前記第2半導体領域は、前記第1分離部から前記第2分離部に渡って延在し、
前記アバランシェダイオードは、平面視において、
前記第1半導体領域の面積は、前記第2半導体領域の面積よりも小さく、
前記第1半導体領域、前記第2半導体領域前記第3半導体領域の各々は重なる部分を有することを特徴とする光検出装置。
【請求項2】
前記第3半導体領域が、前記第1導電型であることを特徴とする請求項1に記載の光検出装置。
【請求項3】
前記第1分離部、前記第2分離部の各々が、前記第2導電型の半導体領域であることを特徴とする請求項1または2に記載の光検出装置。
【請求項4】
前記第1分離部と前記第2分離部は、所定の電位が供給されるコンタクトプラグに接続されることを特徴とする請求項3に記載の光検出装置。
【請求項5】
前記第1の深さにおいて、前記第1半導体領域と前記第1分離部とに接するとともに、前記第1導電型であって、前記第1半導体領域よりも不純物濃度が低い半導体領域をさらに有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の光検出装置。
【請求項6】
前記第1の深さにおいて、前記第1半導体領域と前記第2分離部とに接するとともに、前記第1導電型であって、前記第1半導体領域よりも不純物濃度が低い半導体領域をさらに有することを特徴とする請求項5に記載の光検出装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光検出装置をする光検出システムであって、
第1波長帯の光を前記第1波長帯と異なる第2波長帯の光に変換する波長変換部と、
前記検出装置に保持された複数のデジタル信号から得られる複数の画像の合成処理を行う信号処理手段と、を有し、
前記波長変換部から出力された前記第2波長帯の光が前記検出装置に入射するように構成されていることを特徴とする光検出システム。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光検出装置をする光検出システムであって、
前記光検出装置によって検出される光を発光する発光部と、
前記光検出装置に保持されたデジタル信号を用いて距離算出を行う距離算出手段と、を有することを特徴とする光検出システム。
【請求項9】
移動体であって、
請求項1~6のいずれか1項に記載の光検出装置と、
前記光検出装置からの信号に基づく視差画像から、対象物までの距離情報を取得する距離情報取得手段と、
前記距離情報に基づいて前記移動体を制御する制御手段と、を有することを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換を行う光検出装置および光検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アバランシェ(電子なだれ)増倍を利用した、単一光子レベルの微弱光を検出可能な光検出装置が知られている。
【0003】
特許文献1では、光電変換部を構成する半導体領域のPN接合領域において、単一光子に起因する光電荷がアバランシェ増倍を起こすSPAD(Single Photon Avalanche Diode)を開示している。
【0004】
また、特許文献1のSPADは、第1導電型の第1半導体領域の下部に配される第2導電型の第2半導体領域の一部に、不純物濃度が低い領域を設ける。これにより、第2半導体領域の下部の第3半導体領域にて生じた電荷が第1半導体領域に収集されやすい構造としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-64086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の構造では、第2半導体領域の一部の領域の不純物濃度が低いことにより、第1半導体領域と第2半導体領域との間で局所的に強い電界が生じる場合がある。この強電界によって、ノイズが生成し、SPADの信号精度の低下を生じさせる場合が有る。
【0007】
そこで、本発明は、第3半導体領域にて生じた電荷を第1半導体領域に収集しやすい構造としながら、ノイズを低減した光検出装置、光電変換システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を鑑みて為されたものであり、一の態様は、第1面と、前記第1面と対向する第2面とを有する半導体基板と、アバランシェダイオードを含む画素が、前記半導体基板に複数配された画素部と、を有する光検出装置であって、前記アバランシェダイオードは、第1の深さに配された第1導電型の第1半導体領域と、前記第1の深さよりも前記第1面に対して深い第2の深さに配された第2導電型の第2半導体領域と、前記第2の深さよりも前記第1面に対して深い第3の深さに配され、前記第2半導体領域と接する第3半導体領域と、前記第1の深さから前記第3の深さに渡って各々延在する、第1分離部と第2分離部とを有し、前記第2半導体領域、前記第3半導体領域の各々は、前記第1分離部から前記第2分離部に渡って延在し、前記第1半導体領域、前記第2半導体領域、前記第3半導体領域の各々は平面視において重なる部分を有することを特徴とする光検出装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ノイズを低減した光検出装置、光電変換システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】光検出装置の構成を示す図
図2】画素の構成を示す図
図3】アバランシェダイオードの断面を示す図
図4】アバランシェダイオードの上面図
図5】アバランシェダイオードのポテンシャルを示す図
図6】アバランシェダイオードの不純物濃度を示す図と電界強度を示す図
図7】アバランシェダイオードの製造方法を示す図
図8】光電変換システムの構成を示す図
図9】光電変換システムの構成を示す図
図10】移動体の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら各実施例の光検出装置を説明する。なお、以下に述べる実施例中に記載されるトランジスタの導電型は一例のものであって、実施例中に記載された導電型のみに限定されるものでは無い。実施例中に記載された導電型に対し、導電型は適宜変更可能であるし、この変更に伴って、トランジスタのゲート、ソース、ドレインの電位を適宜変更すればよい。例えば、スイッチとして動作させるトランジスタであれば、ゲートに供給する電位のローレベルとハイレベルとを、実施例中の説明に対し逆転させるようにすればよい。
【0012】
(実施例1)
本発明の第1実施形態による光検出装置について、図1乃至図7を用いて説明する。
【0013】
図1は、本実施例の光検出装置1010のブロック図である。光検出装置1010は、画素部506、制御パルス生成部509、水平走査回路部504、列回路505、信号線507、垂直走査回路部503を有している。
【0014】
画素部506には、画素500が行列状に複数配されている。一つの画素500は、光電変換素子501および画素信号処理部502から構成される。光電変換素子501は光を電気信号へ変換する。画素信号処理部502は、変換した電気信号を列回路505に出力する。
【0015】
垂直走査回路部503は、制御パルス生成部509から供給された制御パルスを受け、各画素500に制御パルスを供給する。垂直走査回路部503にはシフトレジスタやアドレスデコーダといった論理回路が用いられる。
【0016】
信号線507は、垂直走査回路部503により選択された画素500から出力された信号を電位信号として画素500の後段の回路に供給する。
【0017】
列回路505は、信号線507を介して各画素500の信号が入力され、所定の処理を行う。所定の処理とは入力された信号のノイズ除去、増幅、信号補正などを行い、センサ外部に出力する形に変換する処理である。例えば列回路には、パラレル-シリアル変換回路を有する。
【0018】
水平走査回路部504は、列回路505で処理された後の信号を出力回路508へ順次出力するための制御パルスを列回路505に供給する。
【0019】
出力回路508は、バッファアンプ、差動増幅器などから構成され、列回路505から出力された信号を光検出装置1010の外部の記録部または信号処理部に出力する。
【0020】
図1において画素部506における画素500の配列は1次元状に配されていてもよいし、単一画素のみから構成されていてもよい。また、垂直走査回路部503、水平走査回路部504、列回路505は、画素部506を複数の画素列をブロックに分けて、ブロック毎に配置してもよい。また、各画素列に配してもよい。
【0021】
画素信号処理部502の機能は、必ずしも全ての画素500に1つずつ設けられる必要はなく、例えば、複数の画素500によって1つの画素信号処理部502が共有され、順次信号処理が行われてもよい。また、画素信号処理部502は、光電変換素子501の開口率を高めるために、光電変換素子501が設けられた半導体基板とは別の半導体基板に設けられていてもよい。この場合、光電変換素子501と画素信号処理部502は、画素毎に設けられた接続配線を介して電気的に接続される。垂直走査回路部503、水平走査回路部504、信号線507および列回路505も上記のように光電変換素子501が設けられた半導体基板とは別の半導体基板に設けられていてもよい。
【0022】
図2に、本実施例における等価回路を含む画素500のブロック図の一例を示す。図2において、一つの画素500は光電変換素子501および画素信号処理部502を有する。
【0023】
光電変換素子501は、光電変換部601とクエンチ素子(制御部)602を有する。
【0024】
光電変換部601は、光電変換により入射光に応じた電荷対を生成する。光電変換部601には、アバランシェダイオードが用いられる。
【0025】
光電変換部601のカソードにはアノードに供給される電位VLよりも高い電位VHに基づく電位が供給される。そして光電変換部601のアノードとカソードには、光電変換部601がアバランシェダイオードとなるような逆バイアスがかかるように電位が供給される。このような逆バイアスの電位を供給した状態で光電変換することで、入射光によって生じた電荷がアバランシェ増倍を起こしアバランシェ電流が発生する。
【0026】
なお、逆バイアスの電位が供給される場合において、アノードおよびカソードの電位差が降伏電圧より大きいときには、アバランシェダイオードはガイガーモード動作となる。ガイガーモード動作を用いて単一光子レベルの微弱信号を高速検出するフォトダイオードがSPADである。
【0027】
また、光電変換部601のアノードおよびカソードの電位差が、光電変換部601に生じた電荷がアバランシェ増倍を起こす電位差以上であって降伏電圧以下の電位差である場合には、アバランシェダイオードは線形モードになる。線形モードにおいて光検出を行うアバランシェダイオードをアバランシェダイオード(APD)と呼ぶ。本実施例において、光電変換部601はどちらのアバランシェダイオードとして動作してもよい。なお、アバランシェ増倍を起こす電位差については後述する。
【0028】
クエンチ素子602は、高い電位VHを供給する電源電圧と光電変換部601に接続される。クエンチ素子602は、光電変換部601で生じたアバランシェ電流の変化を電圧信号に置き換える機能を有する。さらにクエンチ素子602は、アバランシェ増倍による信号増倍時に負荷回路(クエンチ回路)として機能し、光電変換部601に供給する電圧を抑制して、アバランシェ増倍を抑制する働きを持つ(クエンチ動作)。クエンチ素子602としては、例えば抵抗素子や、アバランシェ電流の増加を検出してフィードバック制御を行うことによりアバランシェ増倍を能動的に抑制する能動クエンチ回路を用いる。
【0029】
画素信号処理部502は、波形整形部603、カウンタ回路609、選択回路606を有する。波形整形部603は、光子レベルの信号の検出時に得られる電圧変化を整形して、パルス信号を出力する。波形整形部603としては、例えばインバータ回路が用いられる。また、波形整形部603として、インバータを一つ用いた例を示したが、複数のインバータを直列接続した回路を用いてもよいし、波形整形効果があるその他の回路を用いてもよい。
【0030】
波形整形部603から出力されたパルス信号は、カウンタ回路609によってカウントされる。カウンタ回路609には、例えばN-bitカウンタ(N:正の整数)の場合、単一光子によるパルス信号を最大で約2のN乗個までカウントすることが可能である。カウントした信号は、検出した信号として保持される。また、駆動線607を介して制御パルスpRESが供給されたとき、カウンタ回路609に保持された検出した信号がリセットされる。
【0031】
選択回路606には、図4の垂直走査回路部503から駆動線608を介して制御パルスpSELが供給され、カウンタ回路609と信号線507との電気的な接続、非接続を切り替える。選択回路606には、例えばトランジスタや、画素外に信号を出力するためのバッファ回路などを用いる。
【0032】
なお、クエンチ素子602と光電変換部601との間や、光電変換素子501と画素信号処理部502との間にトランジスタ等のスイッチを配して、電気的な接続を切り替えてもよい。同様に、クエンチ素子602に供給される高い電位VHまたは光電変換素子501に供給される低い電位VLの電位の供給をトランジスタ等のスイッチを用いて電気的に切り替えてもよい。
【0033】
複数の画素500が行列状に配された画素部506において、カウンタ回路609のカウントを行ごとに順次リセットし、カウンタ回路609に保持された検出した信号を行ごとに順次出力するローリングシャッタ動作によって撮像画像を取得してもよい。
【0034】
または、全画素行のカウンタ回路609のカウントを同時にリセットし、カウンタ回路609に保持された検出した信号を行ごとに順次出力するグローバル電子シャッタ動作によって撮像画像を取得してもよい。なお、グローバル電子シャッタ動作を行う場合には、カウンタ回路609のカウントを行う場合と、行わない場合を切り替える手段を設けたほうがよい。切り替える手段とは、例えば前述したスイッチである。
【0035】
本実施例では、カウンタ回路609を用いて撮像画像を取得する構成を示した。しかし、カウンタ回路609の代わりに、時間・デジタル変換回路(Time to Digital Converter:以下、TDC)、メモリを用いて、パルス検出タイミングを取得する光検出装置1010としてもよい。
【0036】
このとき、波形整形部603から出力されたパルス信号の発生タイミングは、TDCによってデジタル信号に変換される。TDCには、パルス信号のタイミングの測定に、図1の垂直走査回路部503から駆動線を介して、制御パルスpREF(参照信号)が供給される。TDCは、制御パルスpREFを基準として、波形整形部603を介して各画素から出力された信号の入力タイミングを相対的な時間としたときの信号をデジタル信号として取得する。
【0037】
TDCの回路には、例えばバッファ回路を直列接続して遅延をつくるDelay Line方式、Delay Lineをループ状につないだLooped TDC方式などを用いる。その他の方式を用いてもよいが、光電変換部601の時間分解能と同等以上の時間分解能を達成できる回路方式である方がよい。
【0038】
TDCで得られたパルス検出タイミングを表すデジタル信号は、1つまたは複数のメモリに保持される。メモリが複数配された場合には、選択回路606に複数の信号を供給することで、メモリにおいて保持したデジタル信号を信号線507に出力する際に、メモリ毎に信号線507への出力を制御することが可能である。
【0039】
次に図3を用いて、本実施例のクエンチ素子602について説明する。本実施例においてクエンチ素子602は、二つの構成を有する。一つ目の構成は図3(a)に示すように光電変換部601の高い電位VHが供給されるカソードの側にクエンチ素子602が配される構成である。二つ目の構成は、図3(b)に示すように光電変換部601の低い電位VLが供給されるアノードの側にクエンチ素子602が配される構成である。
【0040】
図3(a)および図3(b)の構成において、アバランシェ電流により波形整形部603の入力電位が変化してから、クエンチ素子602による電圧降下によって光電変換部601の初期状態のバイアスに復帰するまでには一定の時間が必要である。このように、一度電荷を検出してから、次に電荷を検出することが可能なバイアス状態に戻るまでの期間をDead timeという。このDead timeが短いほど、時間あたりにカウントできる電荷の数が増加し、光検出装置としてのダイナミックレンジが大きくなる。
【0041】
例として、クエンチ素子602が抵抗素子である場合には、本実施例のアバランシェダイオードのDead time(τd[s])は抵抗(R[Ω])と、入力端子の容量(C[F])、の積で決まる。以下の数式で、光電変換部601のPN接合容量はCpd、光電変換部601のウエルの容量はCw、配線・拡散層の寄生容量はCで示す。
図3(a)の場合には、Dead timeは、数式2で求められる。
τd=R(Cpd+C) …(数式2)
図3(b)の場合には、Dead timeは、数式3で求められる。
τd=R(Cpd+Cw+C) …(数式3)
【0042】
光電変換部601のPN接合容量Cpdは、アバランシェ増倍を生じさせるために強電界を誘起する光検出領域のPN接合容量である。
【0043】
ここまではクエンチ素子602を抵抗素子として説明したが、能動クエンチ回路の場合でも、同様である。
【0044】
以上から、本実施例の画素に対するクエンチ素子602は、光電変換部601のアノードの側に配する場合よりもカソードの側に配する場合の方がダイナミックレンジの向上効果を大きくすることが可能である。
【0045】
次に、図3を用いて、本実施形態における光検出装置について説明する。
【0046】
本実施形態の光検出装置はアバランシェダイオードを含む画素を有する。アバランシェダイオードで生じる電荷対のうち、信号電荷として用いられる電荷を主たるキャリア電荷とする導電型を第1導電型(N型)と呼ぶ。また、第1導電型と反対の導電型を第2導電型(P型)と呼ぶ。
【0047】
図3は、本実施形態におけるアバランシェダイオードの断面模式図である。本実施形態のアバランシェダイオードは、半導体基板100に配される。半導体基板100は第1面と、第1面に対向する第2面を有する。例えば、第1面は半導体基板100の表面であり、第2面は半導体基板100の裏面である。本実施形態では、第1面から第2面へ向かって深さ方向とする。半導体基板100の表面側には、トランジスタのゲート電極や多層配線構造が配される。
【0048】
図3において、分離部204に挟まれた領域に、第1導電型の第1半導体領域101、及び第2半導体領域102が配され、第2導電型の第3半導体領域103、及び第2導電型の第4半導体領域104が配される。このとき、第3半導体領域103と第4半導体領域104は、同一深さ、且つ同一不純物濃度である。典型的には、第3半導体領域103、第4半導体領域104は一体的に形成される。
【0049】
線分AA’で示す第1の深さAには、第1導電型の第1半導体領域101、及び第2半導体領域102、第2導電型の第8半導体領域203が配される。第1半導体領域101と第2半導体領域102、及び第2半導体領域102と第8半導体領域203は、平面視で互いに接している。ここで、第1半導体領域101および第2半導体領域102が第1の深さAに配されるとは、例えば、イオン注入された不純物の濃度ピークが第1の深さAに配されることをいう。しかし、必ずしも、ピークが第1の深さAに配されている必要はなく、設計誤差や製造誤差も許容される。
【0050】
線分BB’で示す第2の深さBは、第1面に対して第1の深さAよりも深い位置にあり、第2導電型の第3半導体領域103及び第4半導体領域104が配される。また、第1導電型の第1半導体領域101と第2導電型の第3半導体領域103の間では、アバランシェ増倍のための高電界領域150が形成される。
【0051】
線分CC’で示す第3の深さCは、第1面に対して第2の深さBよりも深い位置にあり、第5半導体領域105が配される。また、第5半導体領域105は、好ましくは第1導電型である。
【0052】
図4図3の平面模式図であり、図4(a)は図3の第1の深さAにおける平面模式図、図4(b)は図3の第2の深さBにおける平面模式図、図4(c)は図3の第3の深さCにおける平面模式図、を示す。図4では各半導体領域の境界を円形で描いているが、実施形態はこれに限られない。
【0053】
図4(a)において、第1半導体領域101は第2半導体領域102に内包され、第2半導体領域102は第8半導体領域203に内包される。また、第2半導体領域102の面積は、第1半導体領域101の面積よりも大きい。
【0054】
図4(b)においては、第3半導体領域103は第4半導体領域104に内包され、第4半導体領域104は第7半導体領域202に内包される。且つ、第3半導体領域103と第4半導体領域104は、同一深さ、且つ同一不純物濃度で形成される。
【0055】
図4(c)は、第5半導体領域105は、P型半導体領域202に内包される。尚、図4(b)と図4(c)を重ねたとき、平面視において第3半導体領域103及び第4半導体領域104は、第5半導体領域105と重なる。
【0056】
図5に、図3のアバランシェダイオードのポテンシャル図を示す。
【0057】
図5の点線20は、線分FF’のポテンシャル分布を示し、実線21は、線分EE’のポテンシャル分布を示す。この図5では、N型半導体領域の主たるキャリア電荷である電子からみたポテンシャルを示す。なお、主たるキャリア電荷が正孔である場合には、ポテンシャルの高低の関係が逆になる。また図5における深さAは、図3の線分AA’に相当する。以下同様に、深さBは線分BB’、深さCは線分CC’、深さDは線分DD’にそれぞれ相当する。
【0058】
図5において、深さAにおける実線21のポテンシャル高さをA1、点線20のポテンシャル高さをA2、深さBにおける実線21のポテンシャル高さをB1、点線20のポテンシャル高さをB2とする。また、深さCにおける実線21のポテンシャル高さをC1、点線20のポテンシャル高さをC2、深さDにおける実線21のポテンシャル高さをD1、点線20のポテンシャル高さをD2とする。
【0059】
図3および図5より、第1半導体領域101のポテンシャル高さはA1に相当し、第3半導体領域103のポテンシャル高さはB1に相当する。また、第2半導体領域102のポテンシャル高さはA2に相当し、第4半導体域104のポテンシャル高さはB2に相当する。
【0060】
図5の点線20に関して、深さDから深さCに向けて徐々にポテンシャルが下がる。そして、深さCから深さBに向けて徐々にポテンシャルが上がり、深さBではポテンシャルはB2レベルとなる。さらに、深さBから深さAに向けてポテンシャルが下がり、深さAにおいてA2レベルとなる。
【0061】
一方、実線21に関して、深さDから深さC、及び深さCから深さBに向けて徐々にポテンシャルが下がり、深さBではB1レベルとなる。そして、深さBから深さAに向けてポテンシャルは急峻に下がり、深さAにおいてポテンシャルはA1レベルとなる。
深さDにおいて、点線20と実線21のポテンシャルはほぼ同じ高さとなっており、線分EE’および線分FF’で示す領域において、半導体基板100の第1面の側に向かって緩やかに低くなるポテンシャル勾配をもつ。そのため光検出装置において生じた電荷は、緩やかなポテンシャル勾配によって第1面の側に移動する。
【0062】
ここで、前述のとおり、第3半導体領域103と第4半導体領域104は、同一深さ、且つ同一不純物濃度で形成される。本実施形態のアバランシェダイオードは、第1導電型の第1半導体領域101よりも第2導電型の第3半導体領域103の方が、不純物濃度が低く、且つ互いに逆バイアスとなるような電位が供給される。これにより、空乏層領域が第3半導体領域103の側へ形成される。このような構造により、信号電荷である第1導電型電荷にとってのポテンシャル高さは、第4半導体領域104よりも、第3半導体領域103の方が低くなる。すなわち、第5半導体領域105で光電変換された電荷にとって第4半導体領域がポテンシャル障壁となることで、第3半導体領域に収集されやすい構造となる。
【0063】
また、この第3半導体領域103と第4半導体領域104のポテンシャル差により、図3の深さCにおいて、線分FF’から線分EE’の方向にかけてポテンシャルが低くなる。これにより、第5半導体領域105で光電変換された電荷が半導体基板100の第1面に移動する過程において、第3半導体領域103の方向へ電荷が移動しやすくなる。
【0064】
第3半導体領域103付近に移動した電荷は、図5の実線21の深さBから深さAにかけての急峻なポテンシャル勾配、すなわち強電界によって加速されることで、アバランシェ増倍される。
【0065】
これに対し、図3の第2半導体領域102と第2導電型の第4半導体領域の間、すなわち図5の点線20の深さBから深さAにかけては、アバランシェ増倍を起こさないポテンシャル分布となっている。そのため、フォトダイオードサイズに対して強電界領域150の面積を大きくすることなく、第5半導体領域105で発生した電荷を信号電荷としてカウントすることができる。
【0066】
また、第4半導体領域104で光電変換された電荷は、図5の点線20の深さBから深さCにかけてのポテンシャル勾配により、第5半導体領域105に流れ込む。第5半導体領域105内の電荷は、前述の理由により、第3半導体領域103に移動しやすい構造となっている。このため、結果として、第4半導体領域104で光電変換された電荷は、第3半導体領域103を介して第1半導体領域101に移動し、アバランシェ増倍によって信号電荷として検出される。従って、第4半導体領域104で光電変換された電荷は、感度として検出することが可能となる。
【0067】
以下、本発明の実施形態を、不純物濃度の値も含めて、具体的に説明する。尚、ここでは信号電荷が電子である構成について説明するが、信号電荷が正孔である場合にも適用可能である。その場合には、各半導体領域およびポテンシャル関係が逆になる。
【0068】
図3を用いて、本アイデアの実施形態の断面模式図および平面模式図を説明する。
【0069】
ここでは説明をわかりやすくするため、図3の第1半導体領域101をN型、第2半導体領域102をN型、第3半導体領域103をP型とする。また、第4半導体領域104をP型、第5半導体領域105をN型、第6半導体領域201、第7半導体領域202、第8半導体領域203をそれぞれP型として説明する。
【0070】
図3の分離部204は、第1面から深さ方向に向かって配されたP型の半導体領域によって構成されている。具体的には、P型半導体領域203とP型半導体領域202が、第1面から深さ方向にこの順に配され、接している。なお、P型半導体領域202は、P型半導体領域104とP型半導体領域201に対して電気的に接続されている。
【0071】
P型半導体領域203の不純物濃度は、P型半導体領域202、201、104の各々の不純物濃度よりも高い。例えば、P型半導体領域203の不純物濃度は1×10^19~10^20[atoms/(cm^3)]程度である。なお、本明細書では、^の記号はべき乗を表すものとする。つまり、10^19は、10の19乗であることを示している。これにより、P型半導体領域202とコンタクトプラグ302を接続するよりも、P型半導体領域203とコンタクトプラグ302を接続する方が、接触抵抗を低くすることが可能となる。
【0072】
N型半導体領域101は、N型半導体領域105よりも不純物濃度の高い領域である。例えば、N型半導体領域101の不純物濃度は、1×10^18[atoms/(cm^3)]以上であり、N型半導体領域101には、分離部204に対して逆バイアスとなる電位が供給される。
【0073】
N型半導体領域102は、N型半導体領域101よりも不純物濃度を低くする。例えば、N型半導体領域102の不純物濃度は、1×10^16~5×10^17[atoms/(cm^3)]程度である。仮に、第2半導体領域102をP型とした場合、第2半導体領域102の不純物濃度によっては、第1半導体領域101と第2半導体領域102の間でアバランシェ増倍電界が形成され、ノイズ悪化の要因となる。
【0074】
P型半導体領域104の不純物濃度は、P型半導体領域202より不純物濃度を低くし、P型半導体領域103とP型半導体領域104は同一不純物濃度とする。例えば、P型半導体領域103、104の不純物濃度は、1×10^16~1×10^17[atoms/(cm^3)]程度である。
【0075】
P型半導体領域103とN型半導体領域101の間はPN接合が形成されるが、前述のとおり、N型半導体領域101よりもP型半導体領域103の不純物濃度を低くすることで、P型半導体領域103のすべての領域が空乏層領域となるようにする。
【0076】
さらに、この空乏層領域がN型半導体領域101の一部の領域まで延在し、延在した空乏層領域に強電界が誘起される。この強電界により、N型半導体領域101の一部の領域まで延びた空乏層領域においてアバランシェ増倍が生じ、増幅された電荷に基づく電流がコンタクトプラグ301を介して信号電荷として出力される。
【0077】
N型半導体領域101、P型半導体領域103、P型半導体領域104の不純物濃度について説明する。これらの半導体領域の不純物濃度は、N型半導体領域101の一部に生じる空乏層領域においてアバランシェ増倍を起こす電位差を供給した際に、空乏層領域がN型半導体領域101の第1面と接する部分にまで達しない不純物濃度に設定する。これは、半導体基板100の第1面に接するほど空乏層領域が広がると、半導体基板100の表面のダングリングボンド等に起因するノイズが第1面から空乏層領域に混入する確率が高まるためである。
【0078】
そして、空乏層に誘起される深さ方向の電界が充分大きくなるように、N型半導体領域101および分離部204の電位差を設定する。ここで、電界が充分大きくなる電位差とは、電界の影響を受けた電荷がアバランシェ増倍を起こす電位差である。つまり、本構造の光検出素子がアバランシェダイオード(APDまたはSPAD)としての動作を実現する、N型半導体領域101およびP型半導体領域203の電位差のことを示す。
【0079】
具体的には、N型半導体領域101およびP型半導体領域104の電位差は6V以上である。このとき、前述したように、P型半導体領域104と電気的に接続されたP型半導体領域103のすべての領域が空乏層領域となり、且つN型半導体領域101の一部の領域まで延在した空乏層領域に、アバランシェ増倍が生じるような強電界が生じる。
【0080】
また、より好ましくは、N型半導体領域101およびP型半導体領域104の電位差は10V以上であり、30V以下である。このとき、例えば、N型半導体領域101には、10V以上の電位が供給され、P型半導体領域203には0V以下の電位が供給される。ただし、電位差が6V以上となれば、これらの電位の値には限られない。
【0081】
図3において、P型半導体領域103、104を設けずに、不純物濃度が高いN型半導体領域101のすぐ下部に、N型半導体領域101よりも不純物濃度の低いN型半導体領域105を配することを想定する。この場合、N型半導体領域105で電荷を発生させ、N型半導体領域101から電荷を読み出すことは可能であるが、本実施形態と同等の電圧条件下でアバランシェ増倍させることは難しい。これは、N型半導体領域101およびP型半導体領域203の間に印加した電位差の大部分がN型半導体領域105の空乏層領域にかかることにより、N型半導体領域101近傍のアバランシェ増倍領域にかかる電位差が小さくなってしまうためである。他方、本実施形態では、N型半導体領域105は各方位でP型半導体領域に囲まれるため、N型半導体領域105のポテンシャルはN型半導体領域101よりも、周囲のP型半導体領域に近いレベルとなる。すなわち、P型半導体領域104で基板深部への空乏層の過度な広がりを抑制することで、上記の印加する電位差の大部分をN型半導体領域101近傍のアバランシェ増倍領域に集中させることが可能となる。この結果、より低電圧で光電荷をアバランシェ増倍させることができる。このとき、N型半導体領域105の不純物濃度は、N型半導体領域101の不純物濃度よりも低くする必要がある。
【0082】
図3では、N型半導体領域105は、一例として同一の不純物濃度からなる領域を示した。しかし、N型半導体領域105は、半導体基板100の第1面の側に電荷が移動するようなポテンシャル構造になるように不純物濃度の勾配を有していた方がよい。そのような不純物濃度の勾配とすることで、N型半導体領域101に電荷を移動しやすくすることが可能である。
【0083】
また、半導体基板100の第1面の側に電荷が移動するようなポテンシャル構造になるように不純物濃度の勾配を有する場合に、N型半導体領域105が配された領域において、第1面の側がN型半導体領域であり、第2面の側がP型半導体領域となってもよい。もしくは、P型半導体領域104の不純物濃度よりも不純物濃度が低いP型半導体領域が、N型半導体領域5の代わりに配されてもよい。その場合においても、半導体基板100の第1面の側に電荷が移動するようなポテンシャル構造になるように不純物濃度の勾配を有していた方がよい。
【0084】
P型半導体領域201は、N型半導体領域105よりも深い位置に配されており、光電変換領域の深さを定義する。N型半導体領域105は、P型半導体領域103、104、201、202との各々とPN接合を形成する。P型半導体領域201の不純物濃度は、P型半導体領域104の不純物濃度よりも高くする。これにより、P型半導体領域201付近で生じた電荷は、第1面方向に移動しやすくなる。
【0085】
また、N型半導体領域101には、コンタクトプラグ301が接続され、P型半導体領域203にはコンタクトプラグ302が接続される。
【0086】
図3では、コンタクトプラグ302が第1面の側に配されるものとして説明した。しかし、コンタクトプラグ302が第2面の側に配されてもよい。
【0087】
コンタクトプラグ302が第2面の側に配される場合、P型半導体領域201のうちコンタクトプラグ302が配される領域の不純物濃度は、P型半導体領域201の不純物濃度よりも高い方が好ましい。つまり、コンタクトプラグ302が第1面の側に配される構造のP型半導体領域203に相当する半導体領域として不純物濃度が設定される。
【0088】
また、分離部204が第1面の側に絶縁分離部を有する場合においても、コンタクトプラグ302は第2面の側に配されてもよい。
【0089】
次に、図5を用いて、本実施形態におけるポテンシャル構造を説明する。尚、ここでは信号として用いる電荷が電子であるものとして説明する。
【0090】
図5の実線21は、図3の線分EE’の断面ポテンシャルを示す。実線21において、図3の線分AA’と線分EE’が交わる箇所をA1、線分BB’と線分EE’が交わる箇所をB1、線分CC’と線分EE’が交わる箇所をC1、線分DD’と線分EE’が交わる箇所をD1とする。図3のN型半導体領域105で光電変換された電子は、図5のポテンシャルD1からC1、C1からB1に沿って移動し、B1からA1にかけての急峻なポテンシャル勾配でアバランシェ増倍される。そして、N型半導体領域101を通過した後、コンタクトプラグ301に到達し、信号電荷として検出される。
【0091】
また、図5の点線20は、図3の線分FF’の断面ポテンシャルを示す。点線20において、図3の線分AA’と線分FF’が交わる箇所をA2、線分BB’と線分FF’が交わる箇所をB2、線分CC’と線分FF’が交わる箇所をC2、線分DD’と線分FF’が交わる箇所をD2とする。図3のN型半導体領域105で光電変換された電子は、図5のポテンシャルD2からC2に沿って移動するが、C2からB2にかけては、電子にとってポテンシャル障壁となるため、乗り越えることができない。そのため、電子は、図3のN型半導体領域105の線分EE’で示す中央付近に移動する。ここまで移動した電子は、図5のポテンシャル勾配C1からB1に沿って移動し、B1からA1にかけての急峻なポテンシャル勾配でアバランシェ増倍され、N型半導体領域101を通過した後、コンタクトプラグ301に到達し、信号電荷として検出される。
【0092】
また、図3のP型半導体領域104とN型半導体領域105の境界付近で発生した電荷は、図5のポテンシャルB2からC2へのポテンシャル勾配に沿って移動する。その後、前述のように、図3のN型半導体領域105の線分EE’で示す中央付近に移動する。そして、B1からA1にかけての急峻なポテンシャル勾配でアバランシェ増倍される。アバランシェ増倍された電荷は、N型半導体領域101を通過した後、コンタクトプラグ301に到達し、信号電荷として検出される。
【0093】
すなわち、N型半導体領域105に関して、分離部204の近い部分から遠い部分へ向けて緩やかなポテンシャル勾配が形成されることで、N型半導体領域105内で光電変換された電荷は、最終的に図5のポテンシャルB1付近に収集される。
【0094】
次に、図3のP型半導体領域103をP型半導体領域104と同じ不純物濃度に設定する理由を、図6を用いて説明する。
【0095】
図6(a)は、図3の線分EE’の半導体基板100の第1面を起点とした深さ方向の不純物濃度分布を示す。図6(a)の不純物濃度分布30は、深さAにおいてN型不純物濃度分布のピークを示し、不純物濃度分布31及び32は、深さBにおいてP型不純物濃度分布のピークを示す。また、N型不純物とP型不純物が交わる箇所がPN接合部となる。
【0096】
ここで、図6(a)の深さAとは、図3の線分AA’とEE’が交わる箇所であり、深さBとは、図3の線分BB’とEE’が交わる箇所である。
【0097】
また、図6(a)のP型不純物濃度分布31及び32は、P型不純物濃度の違いを表しており、ピーク濃度が低い方をP型不純物濃度分布31、ピーク濃度が高い方をP型不純物濃度分布32で表す。
【0098】
ここで、P型不純物濃度分布32は、図3のP型半導体領域104とP型半導体領域103が同一の不純物濃度である場合を示している。一方、P型不純物濃度分布31は、特許文献1の図10の構造のように、信号電荷の流路となる領域のP型不純物濃度が、周囲のP型不純物濃度よりも低い場合を示す。
【0099】
図6(b)は、図6(a)と同じ深さを横軸にとった場合の電界強度分布である。
【0100】
図6(b)の電界強度分布41は、図6(a)のP型不純物濃度分布が31の場合のものを示し、電界強度分布42は、図6(a)のP型不純物濃度分布が32の場合のものを示す。
【0101】
図6(a)のP型不純物濃度分布31の場合、P型不純物濃度分布32の場合よりもPN接合の低ドープ側濃度が低いため、アバランシェ増倍に必要な強電界を得るためには、印加電圧を高めに設定する必要がある。印加電圧を高くすると、図6(b)の電界強度分布41に示すにように、局所的な強電界領域が形成され、ノイズ悪化の要因となる。
【0102】
一方、P型不純物濃度分布が32の場合、P型不純物濃度分布31の場合よりもPN接合の低ドープ側濃度が高いため、アバランシェ増倍に必要な強電界を得るための印加電圧は、前述の場合よりも低くすることができる。印加電圧を低くすると、図6(b)の電界強度分布42のようになり、電界強度分布41の場合と比較して局所的な強電界領域が形成されにくいため、ノイズを抑制することができる。
【0103】
次に、図7を用いて、図3に示したアバランシェダイオードの製造方法を説明する。特に順番に関して説明のない工程に関しては、適宜順序を入れ替えてもよい。また、図7にて説明を省略する工程に関しては、公知の製造方法を適用することが可能である。
【0104】
図7(a)に示すように、半導体基板100の第1面に対する法線方向から、P型半導体領域201となる領域に不純物(たとえばボロン)をイオン注入する。これにより、半導体基板100の第1面に対して深い位置にP型半導体領域201が形成される。
【0105】
次に、図7(b)に示すように、半導体基板100の第1面に対して法線方向から不純物(たとえばボロン)をイオン注入する。これにより、P型半導体領域202をP型半導体領域201よりも浅い位置に形成する。このとき、P型半導体領域202とP型半導体領域201の一部が接続するようにP型半導体絵領域202を形成する。また、P型半導体領域201の不純物濃度がP型半導体領域202の不純物濃度よりも高くなるようにP型半導体領域202を形成する。
【0106】
次に、図7(c)に示すように、半導体基板100の第1面に対して法線方向から、不純物(たとえばリン、ヒ素)をイオン注入してN型半導体領域105を形成する。また、半導体基板100の第1面に対して法線方向から、不純物(たとえばボロン)をイオン注入してP型半導体領域104、103を形成する。このとき、N型半導体領域105はP型半導体領域103、104よりも深い位置に形成する。また、P型半導体領域103と104は、同一深さ、且つ同一不純物濃度で形成するため、同一フォトマスクパターンで形成することが可能である。
【0107】
次に、図7(d)に示すように、半導体基板100の第1面に対して法線方向から、P型のイオン注入を行い、P型半導体領域203を形成する。このとき、P型半導体領域203はP型半導体領域202よりも浅い位置に、且つその一部が接続するように形成する。
【0108】
次に、図7(e)に示すように、半導体基板100の第1面に対して法線方向から、N型のイオン注入を行い、N型半導体領域101、102を形成する。このとき、N型半導体領域101はP型半導体領域103よりも浅い位置に、N型半導体領域102はP型半導体領域104よりも浅い位置に形成する。
【0109】
次に、図7(f)に示すように、コンタクトプラグ301をN型半導体領域101に接するように、コンタクトプラグ302をP型半導体領域203に接するように、それぞれ配置する。アバランシェ増倍により検出された信号電荷はコンタクトプラグ301を通じて、フォトンカウンティング処理回路へと受け渡される。
【0110】
本実施例の光検出装置は、P型半導体領域103と104が同一深さ、且つ同一不純物濃度としている。本実施例におけるアバランシェ増倍は、N型半導体領域101とP型半導体領域104の間の電圧差によって生じる。仮に、特許文献1の図10の構造のように、P型半導体領域103の濃度がP型半導体領域104の濃度よりも低い場合、N型半導体領域101とP型半導体領域104の相対的な位置が製造誤差等によってずれることが考えられる。この場合、N型半導体領域101とP型半導体領域104の間の電圧差が変化するため、アバランシェ増倍が弱まったり、あるいは強まったりする。この結果、画素500の信号の精度が低下することとなる。
【0111】
しかし、本実施形態のように、P型半導体領域103、104が同一深さ、且つ同一不純物濃度である場合、N型半導体領域101に対する相対的な位置ずれは生じにくい。よって、N型半導体領域101と、P型半導体領域103、104との間の電圧差は変動しにくいことから、本実施例の光検出装置は、画素500の信号精度の低下を抑制することができる効果を有する。
【0112】
なお、本実施例で述べた光検出装置は、第1面から光が入射する表面照射型、第2面から光が入射する裏面照射型のどちらにも適用することができる。
【0113】
(実施例2)
本実施例では、各実施例の光検出装置1010を用いた光検出システムの一例を説明する。図8を用いて光検出システムの一例である不可視光検出システムおよびPET等の医療診断システムについて説明する。
【0114】
なお、本実施例の画素500は、図2のカウンタ回路609の代わりにTDCとメモリを有する。ここでは、TDCをTDC204とし、メモリをメモリ205として説明する。
【0115】
図8は、不可視光検出システムの構成を説明するブロック図である。不可視光検出システムは、波長変換部1201、データ処理部1207を有し、光検出装置1010を複数有する。
【0116】
照射物1200は、不可視光となる波長帯の光を照射する。波長変換部1201は、照射物1200から照射された不可視光となる波長帯の光を受光し、可視光を照射する。
【0117】
波長変換部1201から照射された可視光が入射された光電変換部601は光電変換し、クエンチ素子602、波形整形部603、TDC204を介して、光検出装置1010は光電変換した電荷に基づく信号に基づくデジタル信号をメモリ205に保持する。複数の光検出装置1010は、一つの装置として形成されていてもよいし複数の装置が配列することで形成されてもよい。
【0118】
複数の光検出装置1010のメモリ205で保持された複数のデジタル信号は、データ処理部1207によって信号処理が行われる。ここでは、信号処理手段として複数のデジタル信号から得られる複数の画像の合成処理を行う。
【0119】
次に不可視光検出システムの具体的な例としてPET等の医療診断システムの構成について説明する。
【0120】
照射物1200である被験者は、生体内から放射線対を放出する。波長変換部1201は、シンチレータを構成し、シンチレータは、被験者から放出された放射線対が入射すると可視光を照射する。
【0121】
シンチレータから照射された可視光が入射された光電変換部601は光電変換し、クエンチ素子602、波形整形部603、TDC204を介して、光検出装置1010は光電変換した電荷に基づく信号に基づくデジタル信号をメモリ205に保持する。つまり、光検出装置1010は、被験者から放出された放射線対の到達時間を検出するために配され、シンチレータから照射された可視光を検出し、デジタル信号をメモリ205に保持する。
【0122】
複数の光検出装置1010のメモリ205で保持されたデジタル信号は、データ処理部1207において信号処理される。ここでは、信号処理手段として複数のデジタル信号から得られる複数の画像を用いて画像再構成などの合成処理を行い、被験者の生体内の画像の形成を行う。
【0123】
(実施例3)
本実施例では、各実施例の光検出装置1010を用いた光検出システムの一例を説明する。
【0124】
図9では、光検出システムの一例である距離検出システムついて説明する。なお、本実施例の画素500は、図2のカウンタ回路609の代わりに実施例1で述べたTDCとメモリを有する。ここでは、TDCをカウンタ回路609の代わりにTDC204とし、メモリをメモリ205として説明する。
【0125】
図9を用いて、本実施例の距離検出システムのブロック図の一例を説明する。距離検出システムは、光源制御部1301、発光部1302、光学部材1303、光検出装置1010、距離算出部1309を有している。
【0126】
光源制御部1301は発光部1302の駆動を制御する。発光部1302は、光源制御部1301から信号を受けた際に、撮影方向に対して短パルス(列)の光を照射する。
【0127】
発光部1302から照射された光は、被写体1304に反射する。反射光は光学部材1303を通して、光検出装置1010の光電変換部601で受光し、光電変換された電荷に基づく信号が波形整形部603を介してTDC204に入力される。
【0128】
TDC204は、光源制御部1301から得られる信号と、波形整形部603から入力された信号とを比較する。そして、発光部1302がパルス光を発光してから被写体1304を反射した反射光を受光するまでの時間を高精度にデジタル変換する。TDC204から出力されたデジタル信号は、メモリ205に保持される。
【0129】
距離算出部1309は、メモリ205に保持された複数回測定分のデジタル信号を元に、光検出装置から被写体までの距離を算出する。この距離検出システムは例えば車載に適用することができる。
【0130】
次に、図2のカウンタ回路609を用いた場合の光検出システムの一例を図10に示す。図10では、光検出システムの一例である車載カメラに関する光検出システムについて説明する。
【0131】
光検出システム1000は、本発明に係る測距画素および撮像画素を含む光検出システムである。光検出システム1000は、光検出装置1010により取得した複数のデジタル信号に対し、画像処理を行う画像処理部5030を有する。さらに、光検出システム1000は、画像処理部5030により取得した複数の画像データから視差(視差画像の位相差)の算出を行う視差算出部5040を有する。
【0132】
また、光検出システム1000は、算出された視差に基づいて対象物までの距離を算出する距離計測部1050と、算出された距離に基づいて衝突可能性があるか否かを判定する衝突判定部1060と、を有する。ここで、視差算出部5040や距離計測部1050は、対象物までの距離情報を取得する距離情報取得手段の一例である。すなわち、距離情報とは、視差、デフォーカス量、対象物までの距離等に関する情報である。
【0133】
衝突判定部1060はこれらの距離情報のいずれかを用いて、衝突可能性を判定してもよい。距離情報取得手段は、専用に設計されたハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアモジュールによって実現されてもよいし、これらの組合せによって実現されてもよい。また、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などによって実現されてもよい。さらに、これらの組合せによって実現されてもよい。
【0134】
光検出システム1000は車両情報取得装置1310と接続されており、車速、ヨーレート、舵角などの車両情報を取得することができる。また、光検出システム1000は、衝突判定部1060での判定結果に基づいて、車両に対して制動力を発生させる制御信号を出力する制御装置である制御ECU1410と接続されている。
【0135】
また、光検出システム1000は、衝突判定部1060での判定結果に基づいて、ドライバーへ警報を発する警報装置1420とも接続されている。例えば、衝突判定部1060の判定結果として衝突可能性が高い場合、制御ECU1410はブレーキをかける、アクセルを戻す、エンジン出力を抑制するなどして衝突を回避、被害を軽減する車両制御を行う。警報装置1420は音等の警報を鳴らす、カーナビゲーションシステムなどの画面に警報情報を表示する、シートベルトやステアリングに振動を与えるなどしてユーザに警告を行う。
【0136】
本実施例では車両の周囲、例えば前方または後方を光検出システム1000で撮像する。図10(B)に、車両前方を撮像する場合の光検出システムを示した。また、上記では、他の車両と衝突しない制御を説明したが、他の車両に追従して自動運転する制御や、車線からはみ出さないように自動運転する制御などにも適用可能である。さらに、光検出システムは、自車両等の車両に限らず、例えば、船舶、航空機あるいは産業用ロボットなどの移動体(移動装置)に適用することができる。加えて、移動体に限らず、高度道路交通システム(ITS)等、広く物体認識を利用する機器に適用することができる。
【符号の説明】
【0137】
100 半導体基板
101 N型不純物領域
102 N型不純物領域
103 P型不純物領域
104 P型不純物領域
105 N型不純物領域
201 P型不純物領域
204 分離部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10