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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20221128BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
B41J2/14 201
B41J2/14 501
B41J2/14 607
B41J2/18
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018190402
(22)【出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2020059168
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】中川 喜幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】奥島 真吾
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 直純
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-124608(JP,A)
【文献】特開2009-287014(JP,A)
【文献】特表2017-534497(JP,A)
【文献】特開2017-144719(JP,A)
【文献】特開2017-226209(JP,A)
【文献】特開2002-355973(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0007692(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯蔵するためのタンクと、液体を吐出するためのページワイド型液体吐出ヘッドを有する画像形成装置であって、
前記ページワイド型液体吐出ヘッドは、吐出口と、前記吐出口から液体を吐出するための熱エネルギーを発生する発熱素子が配される流路と、前記吐出口と前記流路とを連通する吐出口部と、前記タンクから液体を供給するための供給流路と、前記タンクへ液体を回収するための回収流路と、を備え、液体は前記供給流路及び前記回収流路を介して、前記タンクとの間で循環され、
前記タンクから前記ページワイド型液体吐出ヘッドに供給される液体の水分量が65wt%以下であり、
前記流路と前記吐出口部との連通部の、前記流路内の液体の流れ方向に関する上流側での前記流路の高さをH(μm)、前記吐出口から液体が吐出される方向における前記吐出口部の長さをP(μm)、前記流路内の液体の流れ方向における前記吐出口部の長さをW(μm)とした場合に、
前記Hが20μm以下、前記Pが20μm以下、前記Wが30μm以下であり、かつ、
―0.34 ×P -0.66 ×W>1.7
を満たすことを特徴とする画像形成装置
【請求項2】
記液体の水分量が60wt%以下である請求項1に記載の画像形成装置
【請求項3】
記液体の水分量が55wt%以下である請求項1に記載の画像形成装置
【請求項4】
前記H(μm)、前記P(μm)、前記W(μm)が、
―0.34×P-0.66×W>1.5
を満たす請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像形成装置
【請求項5】
前記流路内の前記液体の流れの速さが0.1mm/s以上、100mm/s以下である請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置
【請求項6】
記液体の固形分量が10wt%以上である請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置
【請求項7】
記液が、自己分散顔料を含有する請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置
【請求項8】
前記ページワイド型液体吐出ヘッドが、液体を加熱するための加熱手段を更に備える請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置
【請求項9】
更に、液体を循環させるための動力源であるポンプが、前記ページワイド型液体吐出ヘッドの外部に設けられていることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インク等の液体を吐出して画像を形成するインクジェット記録装置に用いられる液体吐出ヘッドにおいて、インクを吐出する吐出口からインク中の揮発成分が蒸発することで、吐出口付近のインクが増粘する。これにより吐出される液滴の吐出速度が変化したり、着弾精度に影響がでたりすることが課題となっている。特に吐出を行った後の休止時間が長い場合、インクの粘度の増加が顕著になり、インクの固形成分が吐出口付近に固着し、この固形成分によりインクの流体抵抗を増加し吐出不良となる場合もある。
【0003】
このようなインクの増粘現象に対する対策の1つとして、液体吐出ヘッドに供給するインクを循環路により循環させる方法が知られている。特許文献1には、吐出口が形成された部材と発熱抵抗体が形成された基板との間に形成される流路内のインクを循環させることにより、吐出口からのインク蒸発に伴う吐出口の目詰まりを防止する液体吐出ヘッドが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-355973
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、特許文献1の構成によるインクの循環では、吐出口からのインクの蒸発によるインクの増粘対策が十分でないため、インクの色材濃度が変化して、画像形成時に色ムラが生じるという新たな課題を見出した。特に、水分量が少ないインクの場合、蒸発に伴う増粘が大きくなるため、画像の色ムラが生じ易かった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、吐出口からのインクの蒸発によるインクの増粘によって、形成する画像に色ムラが発生することを低減する画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。即ち本発明は、液体を貯蔵するためのタンクと、液体を吐出するためのページワイド型液体吐出ヘッドを有する画像形成装置であって、前記ページワイド型液体吐出ヘッドは、吐出口と、前記吐出口から液体を吐出するための熱エネルギーを発生する発熱素子が配される流路と、前記吐出口と前記流路とを連通する吐出口部と、前記タンクから液体を供給するための供給流路と、前記タンクへ液体を回収するための回収流路と、を備え、液体は前記供給流路及び前記回収流路を介して、前記タンクとの間で循環され、前記タンクから前記ページワイド型液体吐出ヘッドに供給される液体の水分量が65wt%以下であり、前記流路と前記吐出口部との連通部の、前記流路内の液体の流れ方向に関する上流側での前記流路の高さをH(μm)、前記吐出口から液体が吐出される方向における前記吐出口部の長さをP(μm)、前記流路内の液体の流れ方向における前記吐出口部の長さをW(μm)とした場合に、前記Hが20μm以下、前記Pが20μm以下、前記Wが30μm以下であり、かつ、H ―0.34 ×P -0.66 ×W>1.7を満たすことを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吐出口からのインクの蒸発によるインクの増粘を軽減することで、形成する画像の色ムラを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】液体吐出装置の概略構成を示す斜視図。
図2図1に示す液体吐出装置の第1の循環流路を示す図。
図3図1に示す液体吐出装置の第2の循環流路を示す図。
図4】液体吐出ヘッドの斜視図。
図5図4に示す液体吐出ヘッドの分解斜視図。
図6図4に示す液体吐出ヘッドの各流路部材の平面図及び底面図。
図7図6に示す流路部材の透視図。
図8図4に示す液体吐出ヘッドの断面図。
図9図4に示す液体吐出ヘッドの吐出モジュールの斜視図及び分解斜視図。
図10図4に示す液体吐出ヘッドの記録素子基板の平面図、拡大平面図、及び背面図。
図11図4に示す液体吐出ヘッドの一部切欠斜視図。
図12図4に示す液体吐出ヘッドの隣り合う2つの記録素子基板を示す要部拡大平面図。
図13】液体吐出ヘッドの斜視図。
図14図13に示す液体吐出ヘッドの分解斜視図。
図15図13に示す液体吐出ヘッドの各流路部材の平面図、及び底面図。
図16図13に示す液体吐出ヘッドの記録素子基板と流路部材の流路の接続状態を示す図。
図17図16のF-F線における液体吐出ヘッドの断面図。
図18図13に示す液体吐出ヘッドの吐出モジュールの斜視図及び分解斜視図。
図19図13に示す液体吐出ヘッドの記録素子基板の平面図と中間部と底面図。
図20】液体吐出ヘッドの要部を説明する模式図。
図21】液体吐出ヘッドの吐出口部近傍の液体の流れの様子の例を説明する模式図。
図22】P/HとW/Pの関係を説明するグラフ。
図23】吐出口近傍の液体の流れの様子の例を説明する模式図。
図24】P/HとW/Pの関係を説明するグラフ。
図25】インクの水分蒸発量と粘度の関係を示すグラフ。
図26】圧力室内の粘度(濃度)分布を示す図。
図27】液体吐出ヘッドの要部を説明する模式図。
図28】液体吐出ヘッドの要部を説明する模式図。
図29】液体吐出装置の循環流路を示す図。
図30】液体吐出装置の概略構成を示す斜視図。
図31】液体吐出ヘッドの斜視図。
図32】液体吐出ヘッドの分解斜視図。
図33】流路部材の透視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態の例を説明する。ただし、以下の記載は本発明の範囲を限定するものではない。1例として、本実施形態では発熱素子により気泡を発生させて液体を吐出するサーマル方式が採用されているが、ピエゾ方式およびその他の各種液体吐出方式が採用された液体吐出ヘッドにも本発明を適用することができる。
【0011】
本実施形態は、インク等の液体をタンクと液体吐出ヘッド間で循環させる形態のインクジェット記録装置(記録装置)である。但し、その他の形態であっても良く、例えばインクを循環せずに、液体吐出ヘッド上流側と下流側に2つのタンクを設け、一方のタンクから他方のタンクへインク流すことで、圧力室内のインクを流動させる形態であってもよい。
【0012】
また、本実施形態は被記録媒体の幅に対応した長さを有する、所謂ライン型ヘッドであるが、被記録媒体に対してスキャンを行いながら記録を行う、所謂シリアル型の液体吐出ヘッドにも本発明を適用できる。シリアル型の液体吐出ヘッドとしては、例えばブラックインク用、およびカラーインク用記録素子基板を各1つずつ搭載する構成があげられる。但し、これに限らず、数個の記録素子基板を吐出口列方向に吐出口をオーバーラップさせるよう配置した、被記録媒体の幅よりも短い、短尺のラインヘッドを作成し、それを被記録媒体に対してスキャンさせる形態のものであってもよい。
【0013】
(インクジェット記録装置の説明)
液体を吐出する液体吐出装置、特にはインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置1000(以下、記録装置とも称す)の概略構成を図1に示す。記録装置1000は、被記録媒体4を搬送する搬送部1、被記録媒体の搬送方向と略直交して配置されるライン型(ページワイド型)の液体吐出ヘッド3とを備えている。そして、複数の被記録媒体4を連続もしくは間欠に搬送しながら1パスで連続記録を行うライン型記録装置である。被記録媒体4はカット紙に限らず、連続したロール紙であってもよい。液体吐出ヘッド3はCMYKインクによる(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)フルカラー印刷が可能である。また、後述するように液体を液体吐出ヘッドへ供給する供給路である液体供給手段、メインタンクおよびバッファタンク(図2参照)が流体的に接続される。また、液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力及び吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。吐出ヘッド3内における液体経路及び電気信号経路については後述する。
【0014】
(第1の循環経路の説明)
図2は、本実施形態の記録装置に適用される循環経路の1形態である第1の循環経路を示す模式図で、液体吐出ヘッド3を、第1循環ポンプ(高圧側)1001、第1循環ポンプ(低圧側)1002、及びバッファタンク1003等に流体的に接続した図である。なお図2では、説明を簡略化するためにCMYKインクの内の一色のインクが流動する経路のみを示しているが、実際には4色分の循環経路が、液体吐出ヘッド3及び記録装置本体に設けられる。メインタンク1006と接続される、サブタンクとしてのバッファタンク1003はタンク内部と外部とを連通する大気連通口(不図示)を有し、インク中の気泡を外部に排出することが可能である。バッファタンク1003は、補充ポンプ1005とも接続されている。補充ポンプ1005は、インクを吐出しての記録や吸引回復等、液体吐出ヘッドの吐出口からインクを吐出(排出)することによって液体吐出ヘッド3で液体が消費された際に、消費されたインク分をメインタンク1006からバッファタンク1003へ移送する。
【0015】
2つの第1循環ポンプ1001,1002は、液体吐出ヘッド3の液体接続部111から液体を引き出してバッファタンク1003へ流す役割を有する。第1循環ポンプとしては定量的な送液能力を有する容積型ポンプが好ましい。具体的にはチューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ等が挙げられるが、例えば一般的な定流量弁やリリーフ弁をポンプ出口に配して一定流量を確保する形態であっても用いることができる。液体吐出ユニット300の駆動時には第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002によって、それぞれ共通供給流路211、共通回収流路212内をある一定量のインクが流れる。この流量としては、液体吐出ヘッド3内の各記録素子基板10間の温度差が、記録画質に影響しない程度以上に設定することが好ましい。もっとも、あまりに大きな流量を設定すると、液体吐出ユニット300内の流路の圧損の影響により、各記録素子基板10で負圧差が大きくなり過ぎて画像の濃度ムラが生じてしまう。このため、各記録素子基板10間の温度差と負圧差を考慮しながら、流量を設定することが好ましい。
【0016】
負圧制御ユニット230は、第2循環ポンプ1004と液体吐出ユニット300との経路の間に設けられている。そして、記録を行うDutyの差によって循環系の流量が変動した場合でも負圧制御ユニット230よりも下流側(即ち液体吐出ユニット300側)の圧力を予め設定した一定圧力に維持するように動作する機能を有する。負圧制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構としては、それ自身よりも下流の圧力を、所望の設定圧を中心として一定の範囲以下の変動で制御できるものであれば、どのような機構を用いてもよい。一例としては所謂「減圧レギュレーター」と同様の機構を採用することができる。減圧レギュレーターを用いた場合には、図2に示したように、第2循環ポンプ1004によって、液体供給ユニット220を介して負圧制御ユニット230の上流側を加圧するようにすることが好ましい。このようにするとバッファタンク1003の液体吐出ヘッド3に対する水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの自由度を広げることができる。第2循環ポンプ1004としては液体吐出ヘッド3の駆動時に使用するインク循環流量の範囲において、一定圧以上の揚程圧を有するものであればよく、ターボ型ポンプや容積型ポンプなどを使用できる。具体的には、ダイヤフラムポンプ等が適用可能である。また第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対してある一定の水頭差をもって配置された水頭タンクでも適用可能である。
【0017】
図2に示したように負圧制御ユニット230は、それぞれが互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備えている。2つの負圧調整機構の内、相対的に高圧設定側(図2でHと記載)、相対的に低圧側(図2でLと記載)は、それぞれ、液体供給ユニット220内を経由して、液体吐出ユニット300内の共通供給流路211、共通回収流路212に接続されている。液体吐出ユニット300には、共通供給流路211、共通回収流路212、及び各記録素子基板と連通する個別供給流路213aおよび個別回収流路213bが設けられている。個別流路213は共通供給流路211及び共通回収流路212と連通しているので、液体の一部が、共通供給流路211から記録素子基板10の内部流路を通過して共通回収流路212へと流れる流れ(図2の矢印)が発生する。共通供給流路211には圧力調整機構Hが、共通回収流路212には圧力調整機構Lが接続されているため、2つの共通流路間に差圧が生じているからである。
【0018】
このようにして、液体吐出ユニット300では、共通供給流路211及び共通回収流路212内をそれぞれ通過するように液体を流しつつ、一部の液体が各記録素子基板10内を通過するような流れが発生する。このため、各記録素子基板10で発生する熱を共通供給流路211および共通回収流路212の流れで記録素子基板10の外部へ排出することができる。またこのような構成により、液体吐出ヘッド3による記録を行っている際に、記録を行っていない吐出口や圧力室においてもインクの流れを生じさせることができるので、その部位におけるインクの増粘を抑制できる。また増粘したインクやインク中の異物を共通回収流路212へと排出することができる。このため、液体吐出ヘッド3は、高速で高画質な記録が可能となる。
【0019】
(第2の循環経路の説明)
図3は、本実施形態の記録装置に適用される循環経路のうち、上述した第1の循環経路とは異なる循環形態である第2の循環経路を示す模式図である。前述の第1の循環経路との主な相違点は、負圧制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構が挙げられる。この圧力調整機構は共に、負圧制御ユニット230よりも上流側の圧力を、所望の設定圧を中心として一定範囲内の変動で制御する機構(所謂「背圧レギュレーター」と同作用の機構部品)である。他には、第2循環ポンプ1004が負圧制御ユニット230の下流側を減圧する負圧源として作用する点がある。また、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002が液体吐出ヘッド上流側に配置され、負圧制御ユニット230が液体吐出ヘッド下流側に配置されている点も異なる。
【0020】
液体吐出ヘッド3により記録を行う際の記録Dutyの変化によって生じる流量の変動がある場合がある。この場合であっても、負圧制御ユニット230は、自身の上流側(即ち液体吐出ユニット300側)の圧力変動を、予め設定された圧力を中心として一定範囲内に安定にするように作動する。図3に示すように、第2循環ポンプ1004によって、液体供給ユニット220を介して負圧制御ユニット230の下流側を加圧することが好ましい。このようにすると液体吐出ヘッド3に対するバッファタンク1003の水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの選択幅を広げることができる。第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対して所定の水頭差をもって配置された水頭タンクであっても適用可能である。
【0021】
先の実施形態と同様に、図3に示したように負圧制御ユニット230は、それぞれが互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備えている。2つの負圧調整機構の内、高圧設定側(図3でHと記載)、低圧側(図3でLと記載)はそれぞれ、液体供給ユニット220内を経由して、液体吐出ユニット300内の共通供給流路211、および共通回収流路212に接続されている。2つの負圧調整機構により共通供給流路211の圧力を共通回収流路212の圧力より相対的に高くする。このようにすることで、共通供給流路211から個別流路213及び各記録素子基板10の内部流路を介して共通回収流路212へと流れるインク流れが発生する(図3)の矢印)。このように、第2の循環経路では、液体吐出ユニット300内には第1の循環経路と同様のインク流れ状態が得られるが、第1の循環経路の場合とは異なる2つの利点がある。
【0022】
1つ目の利点は、第2の循環経路では負圧制御ユニット230が液体吐出ヘッド3の下流側に配置されているので、負圧制御ユニット230から発生するゴミや異物がヘッドへ流入する懸念が少ないことである。2つ目の利点は、第2の循環経路では、バッファタンク1003から液体吐出ヘッド3へ供給する必要流量の最大値が、第1の循環経路の場合よりも少なくて済むことである。その理由は次の通りである。記録待機時に循環している場合の、共通供給流路211及び共通回収流路212内の流量の合計をAとする。Aの値は、記録待機中に液体吐出ヘッド3の温度調整を行う場合に、液体吐出ユニット300内の温度差を所望の範囲内にするために必要な、最小限の流量として定義される。また液体吐出ユニット300の全ての吐出口からインクを吐出する場合(全吐時)の吐出流量をFと定義する。そうすると、第1の循環経路の場合(図2)では、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002の設定流量がAとなるので、全吐時に必要な液体吐出ヘッド3への液体供給量の最大値はA+Fとなる。
【0023】
一方で第2の循環経路の(図3)の場合、記録待機時に必要な液体吐出ヘッド3への液体供給量は流量Aである。そして、全吐時に必要な液体吐出ヘッド3への供給量は流量Fとなる。そうすると、第2の循環経路の場合、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002の設定流量の合計値、即ち必要供給流量の最大値はA又はFの大きい方の値となる。このため、同一構成の液体吐出ユニット300を使用する限り、第2の循環経路における必要供給量の最大値(A又はF)は、第1の循環経路における必要供給流量の最大値(A+F)よりも必ず小さくなる。そのため第2の循環経路の場合、適用可能な循環ポンプの自由度が高まり、例えば構成の簡便な低コストの循環ポンプを使用したり、本体側経路に設置される冷却器(不図示)の負荷を低減したりすることができる。それにより、記録装置本体のコストを低減できる。この利点は、A又はFの値が比較的大きくなるラインヘッドであるほど大きくなり、ラインヘッドの中でも長手方向の長さが長いラインヘッドほど有益である。
【0024】
しかしながら一方で、第1の循環経路の方が、第2の循環経路に対して有利になる点もある。すなわち、第2の循環経路では、記録待機時に液体吐出ユニット300内を流れる流量が最大であるため、記録Dutyの低い画像であるほど、各ノズルに高い負圧が印加された状態となる。特に共通供給流路211及び共通回収流路212の流路幅(液体の流れ方向と直交する方向の長さ)を小さくしてヘッド幅(液体吐出ヘッドの短手方向の長さ)を小さくすることを想定する。この場合、ムラの見えやすい低Duty画像でノズルに高い負圧が印加されるためにサテライト滴の影響が大きくなる恐れがある。一方、第1の循環経路の場合、高い負圧がノズルに印加されるのは高Duty画像形成時であるため、仮にサテライトが発生しても視認されにくく、画像への影響は小さいという利点がある。2つの循環経路の選択は、液体吐出ヘッドおよび記録装置本体の仕様(吐出流量F、最小循環流量A、及びヘッド内流路抵抗)に照らして、好ましい選択を採ることができる。
【0025】
(第3の循環経路の説明)
図29は、本実施形態の記録装置に適用される循環経路の1形態である第3の循環経路を示す模式図である。上記第1および第2の循環経路と同様な機能、構成については説明を省略し、異なる点について主体的に説明する。
【0026】
本循環経路では、液体吐出ヘッド3の中央部の2個所と、液体吐出ヘッド3の一端側の計3か所から液体吐出ヘッド3内に液体が供給される。液体は、共通供給流路211から各圧力室23を経た後に共通回収流路212に回収され、液体吐出ヘッド3の他端部にある回収開口から外部へ回収される。個別流路213は共通供給流路211及び共通回収流路212と連通しており、各個別流路213の経路中に記録素子基板10およびその記録素子基板内に配される圧力室23が設けられている。よって、第1循環ポンプ1002で流す液体の一部は、共通供給流路211から記録素子基板10の圧力室23内を通過して、共通回収流路212へと流れる(図29の矢印)。これは、共通供給流路211に接続された圧力調整機構Hと、共通回収流路212に接続された圧力調整機構Lとの間に圧力差が設けられ、第1循環ポンプ1002が共通回収流路212のみに接続されているからである。
【0027】
このようにして、液体吐出ユニット300では、共通回収流路212内を通過するような液体の流れと、共通供給流路211から各記録素子基板10内の圧力室23を通過し共通回収流路212に流れが発生する。このため、圧力損失の増大を抑制しつつ、各記録素子基板10で発生する熱を共通供給流路211から共通回収流路212への流れで記録素子基板10の外部へ排出することができる。また、本循環経路によれば、上記第1および第2の循環経路に比べて液体の輸送手段であるポンプの数を少なくすることが可能となる。
【0028】
(液体吐出ヘッド構成の説明)
液体吐出ヘッド3の構成について説明する。図4(a)及び図4(b)は本実施形態に係る液体吐出ヘッド3の斜視図である。液体吐出ヘッド3は1つの記録素子基板10でC/M/Y/Kの4色のインクを吐出可能な記録素子基板10を直線上に15個配列(インラインに配置)されるライン型の液体吐出ヘッドである。図4(a)に示すように、液体吐出ヘッド3には各記録素子基板10と、フレキシブル配線基板40および電気配線基板90を介して電気的に接続された信号入力端子91と電力供給端子92を備える。信号入力端子91及び電力供給端子92は記録装置1000の制御部と電気的に接続され、それぞれ、吐出駆動信号及び吐出に必要な電力を記録素子基板10に供給する。電気配線基板90内の電気回路によって配線を集約することで、信号出力端子91及び電力供給端子92の数を記録素子基板10の数に比べて少なくできる。これにより、記録装置1000に対して液体吐出ヘッド3を組み付ける時又は液体吐出ヘッドの交換時に取り外しが必要な電気接続部数が少なくて済む。図4(b)に示すように、液体吐出ヘッド3の両端部に設けられた液体接続部111は、記録装置1000の液体供給系と接続される。これによりCMYK4色のインクが記録装置1000の供給系から液体吐出ヘッド3に供給され、また液体吐出ヘッド3内を通ったインクが記録装置1000の供給系へ回収されるようになっている。このように各色のインクは、記録装置1000の経路と液体吐出ヘッド3の経路を介して循環可能である。
【0029】
図5に、液体吐出ヘッド3を構成する各部品またはユニットの分解斜視図を示す。液体吐出ユニット300、液体供給ユニット220、及び電気配線基板90が筐体80に取り付けられている。液体供給ユニット220には液体接続部111(図3)が設けられるとともに、液体供給ユニット220の内部には、供給されるインク中の異物を取り除くため、液体接続部111の各開口と連通する各色別のフィルタ221(図2図3)が設けられている。2つの液体供給ユニット220は、それぞれに2色分ずつのフィルタ221が設けられている。フィルタ221を通過した液体はそれぞれの色に対応して液体供給ユニット220上に配置された負圧制御ユニット230へ供給される。負圧制御ユニット230は、各色別の圧力調整弁からなるユニットである。このユニットは、それぞれの内部に設けられる弁やバネ部材などの働きによって、液体の流量の変動に伴って生じる記録装置1000の供給系内(液体吐出ヘッド3の上流側の供給系)の圧損変化を大幅に減衰させる。そして、圧力制御ユニットよりも下流側(液体吐出ユニット300側)の負圧変化をある一定範囲内で安定化することが可能である。各色の負圧制御ユニット230内には、図2で記述したように、各色2つの圧力調整弁が内蔵されている。これらはそれぞれ異なる制御圧力に設定され、高圧側が液体吐出ユニット300内の共通供給流路211、低圧側が共通回収流路212と、液体供給ユニット220を介して連通している。
【0030】
筐体80は、液体吐出ユニット支持部81及び電気配線基板支持部82とから構成され、液体吐出ユニット300及び電気配線基板90を支持するとともに、液体吐出ヘッド3の剛性を確保している。電気配線基板支持部82は電気配線基板90を支持する為のものであって、液体吐出ユニット支持部81にネジ止めによって固定されている。液体吐出ユニット支持部81は液体吐出ユニット300の反りや変形を矯正して、複数の記録素子基板10の相対位置精度を確保する役割を有し、それにより記録物におけるスジやムラを抑制する。そのため液体吐出ユニット支持部81は、十分な剛性を有することが好ましく、材質としてはSUSやアルミなどの金属材料、もしくはアルミナなどのセラミックが好適である。液体吐出ユニット支持部81には、ジョイントゴム100が挿入される開口83、84が設けられている。液体供給ユニット220から供給される液体はジョイントゴムを介して液体吐出ユニット300を構成する第3流路部材70へと導かれる。
【0031】
液体吐出ユニット300は、複数の吐出モジュール200、流路部材210からなり、液体吐出ユニット300の被記録媒体側の面にはカバー部材130が取り付けられる。ここで、カバー部材130は、図5に示したように、長尺の開口131が設けられた額縁状の表面を持つ部材である。開口131からは、吐出モジュール200に含まれる記録素子基板10及び封止材による封止部110(図9)が露出している。開口131の周囲の枠部は、記録待機時に液体吐出ヘッド3をキャップするキャップ部材の当接面としての機能を有する。このため、開口131の周囲に沿って接着剤、封止材、充填材等を塗布し、液体吐出ユニット300の吐出口面上の凹凸や隙間を埋めることで、キャップ時に閉空間が形成されるようにすることが好ましい。
【0032】
次に液体吐出ユニット300に含まれる流路部材210の構成について説明する。図5に示したように、流路部材210は、第1流路部材50、第2流路部材60、第3流路部材70を積層したものである。そして、液体供給ユニット220から供給された液体を各吐出モジュール200へと分配し、また吐出モジュール200から環流する液体を液体供給ユニット220へと戻すための部材である。流路部材210は液体吐出ユニット支持部81にネジ止めで固定されており、それにより流路部材210の反りや変形が抑制されている。
【0033】
図6(a)~(f)は第1~第3流路部材の各流路部材の表面と裏面を示した図である。図6(a)は、第1流路部材50の、吐出モジュール200が搭載される側の面を示し、図6(f)は、第3流路部材70の、液体吐出ユニット支持部81と当接する側の面を示す。第1流路部材50と第2流路部材60とは、夫々の流路部材の当接面である図6(b)と図6(c)が対向するように接合し、第2流路部材と第3流路部材とは、夫々の流路部材の当接面である図6(d)と図6(e)が対向するように接合する。第2流路部材60と第3流路部材70を接合することにより、夫々の流路部材に形成される共通流路溝62と71とによって、流路部材の長手方向に延在する8本の共通流路が形成される。これにより色毎に共通供給流路211と共通回収流路212のセットが流路部材210内に形成される(図7)。第3流路部材70の連通口72はジョイントゴム100の各穴と連通しており、液体供給ユニット220と流体的に流通している。第2流路部材60の共通流路溝62の底面には連通口61が複数形成されており、第1流路部材50の個別流路溝52の一端部と連通している。第1流路部材50の個別流路溝52の他端部には連通口51が形成されており、連通口51を介して、複数の吐出モジュール200と流体的に連通している。この個別流路溝52により流路部材の中央側へ流路を集約することが可能となる。
【0034】
第1~第3流路部材は、液体に対して耐腐食性を有するとともに、線膨張率の低い材質からなることが好ましい。材質としては例えば、アルミナが挙げられる。他にも、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニルサルファイド)やPSF(ポリサルフォン)や変性PPE(ポリフェニレンエーテル)を母材としてシリカ微粒子やファイバーなどの無機フィラーを添加した複合材料(樹脂材料)が挙げられる。流路部材210の形成方法としては、3つの流路部材を積層させて互いに接着してもよいし、材質として樹脂複合樹脂材料を選択した場合には、溶着による接合方法を用いてもよい。
【0035】
次に図7を用いて流路部材210内の各流路の接続関係について説明する。図7は、第1~第3流路部材を接合して形成される流路部材210内の流路を第1の流路部材50の、吐出モジュール200が搭載される面側から一部を拡大してみた透視図である。流路部材210には、色毎に液体吐出ヘッド3の長手方向に伸びる共通供給流路211(211a、211b、211c、211d)、及び共通回収流路(212a、212b、212c、212d)が設けられている。各色の共通供給流路211には、個別流路溝52によって形成される複数の個別供給流路(213a、213b、213c、213d)が連通口61を介して接続されている。また、各色の共通回収流路212には、個別流路溝52によって形成される複数の個別回収流路(214a、214b、214c、214d)が連通口61を介して接続されている。このような流路構成により各共通供給流路211から個別供給流路213を介して、流路部材の中央部に位置する記録素子基板10にインクを集約することができる。また記録素子基板10から個別回収流路214を介して、各共通回収流路212にインクを回収することができる。
【0036】
図8は、図7のE-E線における断面を示した図である。この図に示すように、それぞれの個別回収流路(214a、214c)は連通口51を介して、吐出モジュール200と連通している。図8では個別回収流路(214a、214c)のみ図示しているが、別の断面においては、図7に示すように個別供給流路213と吐出モジュール200とが連通している。各吐出モジュール200に含まれる支持部材30及び記録素子基板10には、第1流路部材50からのインクを記録素子基板10に設けられるエネルギー発生素子14(図10)に供給するための流路が形成されている。また、エネルギー発生素子14に供給した液体の1部または全部を第1流路部材50に回収(環流)するための流路が形成されている。ここで、各色の共通供給流路211は対応する色の負圧制御ユニット230(高圧側)と液体供給ユニット220を介して接続されており、また共通回収流路212は負圧制御ユニット230(低圧側)と液体供給ユニット220を介して接続されている。この負圧制御ユニット230により、共通供給流路211と共通回収流路212間に差圧(圧力差)を生じさせるようになっている。このため、図7及び8に示したように各流路を接続した本実施形態の液体吐出ヘッド内では、各色で共通供給流路211~個別供給流路213a~記録素子基板10~個別回収流路213b~共通回収流路212へと順に流れる流れが発生する。
【0037】
(吐出モジュールの説明)
図9(a)に1つの吐出モジュール200の斜視図を、図9(b)にその分解図を示す。吐出モジュール200の製造方法としては、まず記録素子基板10及びフレキシブル配線基板40を、予め液体連通口31が設けられた支持部材30上に接着する。その後、記録素子基板10上の端子16と、フレキシブル配線基板40上の端子41とをワイヤーボンディングによって電気接続し、その後にワイヤーボンディング部(電気接続部)を封止材で覆って封止部110を形成する。フレキシブル配線基板40の記録素子基板10と反対側の端子42は、電気配線基板90の接続端子93(図5参照)と電気接続される。支持部材30は、記録素子基板10を支持する支持体であるとともに、記録素子基板10と流路部材210とを流体的に連通させる流路部材である為、平面度が高く、また十分に高い信頼性をもって記録素子基板と接合できるものが好ましい。材質としては例えばアルミナや樹脂材料が好ましい。
【0038】
(記録素子基板の構造の説明)
記録素子基板10の構成について説明する。図10(a)は記録素子基板10の吐出口9が形成される側の面の平面図を示し、図10(b)は図10(a)のAで示した部分の拡大図を示し、図10(c)は図10(a)の裏面の平面図を示す。図10(a)に示すように、記録素子基板10の吐出口形成部材12に、各インク色に対応する4列の吐出口列が形成されている。なお、以後、複数の吐出口9が配列される吐出口列が延びる方向を「吐出口列方向」と呼称する。
【0039】
図10(b)に示すように、各吐出口9に対応した位置には液体を熱エネルギーにより発泡させるための発熱素子であるエネルギー発生素子14が配置されている。隔壁22により、エネルギー発生素子14を内部に備える圧力室23が区画されている。エネルギー発生素子14は、記録素子基板10に設けられる電気配線(不図示)によって、図10(a)の端子16と電気的に接続されている。そして、記録装置1000の制御回路から、電気配線基板90(図5)及びフレキシブル配線基板40(図9)を介して入力されるパルス信号に基づいて発熱して液体を沸騰させる。この沸騰による発泡の力で液体を吐出口9から吐出する。図10(b)に示すように、各吐出口列に沿って、一方の側には供給流路18が、他方の側には回収流路19が延在している。供給流路18及び回収流路19は記録素子基板10に設けられた吐出口列方向に伸びた流路であり、それぞれ供給口17a、回収口17bを介して吐出口9と連通している。
【0040】
図10(c)および図11に示すように、記録素子基板10の、吐出口9が形成される面の裏面にはシート状の蓋部材20が積層されており、蓋部材20には、後述する供給流路18及び回収流路19に連通する開口21が複数設けられている。本実施形態においては、供給流路18の1本に対して3個、回収流路19の1本に対して2個の開口21が蓋部材20に設けられている。図10(b)に示すように蓋部材20の夫々の開口21は、図6(a)に示した複数の連通口51と連通している。図11に示すように蓋部材20は、記録素子基板10の基板11に形成される供給流路18及び回収流路19の壁の一部を形成する蓋としての機能を有する。蓋部材20は、液体に対して十分な耐食性を有している物が好ましく、また、混色防止の観点から、開口21の開口形状および開口位置には高い精度が求められる。このため蓋部材20の材質として、感光性樹脂材料やシリコン板を用い、フォトリソプロセスによって開口21を設けることが好ましい。このように蓋部材は開口21により流路のピッチを変換するものであり、圧力損失を考慮すると厚みは薄いことが好ましく、フィルム状の部材で構成されることが好ましい。
【0041】
次に、記録素子基板10内での液体の流れについて説明する。図11は、図10(a)におけるB-B面での記録素子基板10および蓋部材20の断面を示す斜視図である。記録素子基板10はSiにより形成される基板11と感光性の樹脂により形成される吐出口形成部材12とが積層されており、基板11の裏面には蓋部材20が接合されている。基板11の一方の面側にはエネルギー発生素子14が形成されており(図10)、その裏面側には、吐出口列に沿って延在する供給流路18および回収流路19を構成する溝が形成されている。基板11と蓋部材20によって形成される供給流路18及び回収流路19はそれぞれ、流路部材210内の共通供給流路211と共通回収流路212と接続されており、供給流路18と回収流路19との間には差圧が生じている。液体吐出ヘッド3の複数の吐出口9から液体を吐出し記録を行っている際の、吐出動作を行っていない吐出口について述べる。この吐出口おいては、上述の差圧によって、基板11内に設けられた供給流路18内の液体は、供給口17a、圧力室23、回収口17bを経由して回収流路19へ流れる(図10の矢印Cで示した流れ)。この流れによって、記録を休止している吐出口9や圧力室23において、吐出口9からの蒸発によって生じる増粘インクや、泡・異物などを回収流路19へ回収することができる。また吐出口9や圧力室23のインクの増粘を抑制することができる。回収流路19へ回収された液体は、蓋部材20の開口21及び支持部材30の液体連通口31(図9b参照)を通じて、流路部材210内の連通口51、個別回収流路214、共通回収流路212の順に回収される。そして、最終的には記録装置1000の供給経路へと回収される。
【0042】
即ち、記録装置本体から液体吐出ヘッド3へ供給される液体は下記の順に流動し、供給および回収される。液体は、まず液体供給ユニット220の液体接続部111から液体吐出ヘッド3の内部に供給される。そして、ジョイントゴム100、第3流路部材に設けられた連通口72および共通流路溝71、第2流路部材に設けられた共通流路溝62および連通口61、第1流路部材に設けられた個別流路溝52および連通口51の順に供給される。その後、支持部材30に設けられた液体連通口31、蓋部材に設けられた開口21、基板11に設けられた供給流路18および供給口17aを順に介して、圧力室23に供給される。圧力室23に供給された液体のうち、吐出口9から吐出されなかった液体は、基板11に設けられた回収口17bおよび回収流路19、蓋部材に設けられた開口21、支持部材30に設けられた液体連通口31を順に流れる。その後、第1流路部材に設けられた連通口51および個別流路溝52、第2流路部材に設けられた連通口61および共通流路溝62、第3流路部材70に設けられた共通流路溝71および連通口72、ジョイントゴム100を順に流れる。そして、液体供給ユニットに設けられた液体接続部111から液体吐出ヘッド3の外部へ液体が流動する。図2に示す第1の循環経路の形態においては、液体接続部111から供給された液体は負圧制御ユニット230を経由した後にジョイントゴム100に供給され、図3に示す第2の循環経路の形態では次のようになる。即ち、圧力室23から回収された液体は、ジョイントゴム100を通過した後、負圧制御ユニット230を介して液体接続部111から液体吐出ヘッドの外部へ流動する。
【0043】
また、図2および図3に示すように、液体吐出ユニット300の共通供給流路211の一端から供給された全ての液体が個別供給流路213aを経由して圧力室23に供給されるわけではない。個別供給流路213aに供給されることなく、共通供給流路211の他端から液体供給ユニット220に流動する液体もある。このように、記録素子基板10を経由することなく流動する経路を備える。このようにすることで、本実施形態のような微細で流抵抗の大きい流路を備える記録素子基板10を備える場合であっても、液体の循環流の逆流を抑制することができる。このようにして、本実施形態の液体吐出ヘッドでは、圧力室や吐出口近傍部の液体の増粘を抑制できるので吐出のヨレや不吐を抑制でき、結果として高画質な記録を行うことができる。
【0044】
(記録素子基板間の位置関係の説明)
図12は、隣り合う2つの吐出モジュールにおける、記録素子基板の隣接部を部分的に拡大して示す平面図である。図10に示すように、本実施形態では略平行四辺形の記録素子基板を用いている。図12に示すように、各記録素子基板10における吐出口9が配列される各吐出口列(14a~14d)は、被記録媒体の搬送方向に対し一定角度傾くように配置されている。これによって、記録素子基板10同士の隣接部における吐出列は、少なくとも1つの吐出口が被記録媒体の搬送方向にオーバーラップするようになっている。図12では、D線上の2つの吐出口が互いにオーバーラップ関係にある。このような配置によって、仮に記録素子基板10の位置が所定位置から多少ずれた場合でも、オーバーラップする吐出口の駆動制御によって、記録画像の黒スジや白抜けを目立たなくすることができる。複数の記録素子基板10を千鳥配置ではなく、直線状(インライン)に配置した場合においても、図12のような構成により液体吐出ヘッド3の被記録媒体の搬送方向の長さの増大を抑えることができる。さらに、記録素子基板10同士のつなぎ部における黒スジや白抜け対策を行うことができる。なお、本実施形態では記録素子基板の主平面は平行四辺形であるが、本発明はこれに限るものではない。例えば長方形、台形、その他形状の記録素子基板を用いた場合でも、本発明の構成を好ましく適用することができる。
【0045】
<他の適用例>
本発明の他の適用例(第2の適用例とする)によるインクジェット記録装置1000及び液体吐出ヘッド3の構成を説明する。なお以降の説明においては、主として上記の例(第1の適用例とする)と異なる部分のみを説明し、第1の適用例と同様の部分については説明を省略する。
【0046】
(インクジェット記録装置の説明)
本発明の第2の適用例によるインクジェット記録装置では、第1の適用例と同様に、各液体吐出ヘッド3に対して、記録装置1000の供給系、バッファタンク1003、及びメインタンク1006(図2)が流体的に接続されている。また、それぞれの液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力及び吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続されている。
【0047】
(循環経路の説明)
第1の適用例と同様に、記録装置1000と液体吐出ヘッド3の間の液体循環経路としては、図2又は図3に示した第1及び第2の循環経路を用いることができる。
【0048】
(液体吐出ヘッド構造の説明)
本発明の第2の適用例に係る液体吐出ヘッド3の構造について説明する。図13(a)及び13(b)は本適用例に係る液体吐出ヘッド3の斜視図である。液体吐出ヘッド3は液体吐出ヘッド3の長手方向に直線上に配列される16個の記録素子基板10を備えたインクジェット式のライン型記録ヘッドである。液体吐出ヘッド3は、第1の適用例と同様に、液体接続部111、信号入力端子91、及び電力供給端子92を備えている。しかしながら本適用例の液体吐出ヘッド3は、第1の適用例に比べて吐出口列が多いため、液体吐出ヘッド3の両側に信号出力端子91及び電力供給端子92が配置されている。これは記録素子基板10に設けられる配線部で生じる電圧低下や信号伝送遅れの低減のためである。
【0049】
図14は液体吐出ヘッド3の分解斜視図であり、液体吐出ヘッド3を構成する各部品またはユニットがその機能毎に分割されて表示されている。各ユニット及び部材の役割や液体吐出ヘッド内の液体流通の順序は基本的に第1の適用例と同様であるが、液体吐出ヘッドの剛性を担保する機能が異なる。第1の適用例では主として液体吐出ユニット支持部81によって液体吐出ヘッドの剛性を担保していたが、第2の適用例の液体吐出ヘッドでは、液体吐出ユニット300に含まれる第2流路部材60によって液体吐出ヘッドの剛性を担保している。本適用例における液体吐出ユニット支持部81は第2流路部材60の両端部に接続されており、この液体吐出ユニット300は記録装置1000のキャリッジと機械的に結合されて、液体吐出ヘッド3の位置決めを行う。負圧制御ユニット230を備える液体供給ユニット220と、電気配線基板90は、液体吐出ユニット支持部81に結合される。2つの液体供給ユニット220内にはそれぞれフィルタ(不図示)が内蔵されている。2つの負圧制御ユニット230は、それぞれ異なる圧力を設定するものであり、負圧であるが相対的に高い圧力にする負圧制御ユニット230と、負圧であって相対的に低い圧力にする負圧制御ユニット230である。この図のように液体吐出ヘッド3の両端部にそれぞれ、高圧側と低圧側の負圧制御ユニット230を設置した場合、液体吐出ヘッド3の長手方向に延在する共通供給流路211と共通回収流路212における液体の流れが互いに対向する。このようにすると、共通供給流路211と共通回収流路212の間で熱交換が促進されて、2つの共通流路内における温度差が低減されるので、共通流路に沿って複数設けられる各記録素子基板10における温度差が付きにくくなる。その結果、温度差による記録ムラが生じにくくなるという利点がある。
【0050】
次に液体吐出ユニット300の流路部材210の詳細について説明する。図14に示すように、流路部材210は、第1流路部材50、第2流路部材60を積層したものであり、液体供給ユニット220から供給された液体を各吐出モジュール200へと分配する。また流路部材210は、吐出モジュール200から環流する液体を液体供給ユニット220へと戻すための流路部材として機能する。流路部材210の第2流路部材60は、内部に共通供給流路211及び共通回収流路212が形成された流路部材であるとともに、液体吐出ヘッド3の剛性を主に担うという機能を有する。このため、第2流路部材60の材質としては、液体に対する十分な耐食性と高い機械強度を有するものが好ましい。具体的にはステンレスやTiやアルミナなどを好ましく用いることができる。
【0051】
図15(a)は第1流路部材50の、吐出モジュール200がマウントされる側の面を示し、図15(b)はその裏面である、第2流路部材60と当接される側の面を示した図である。第1の適用例とは異なり、第2の適用例における第1流路部材50は、吐出モジュール200毎に対応した複数の部材を隣接して配列したものである。このように分割した構造を採ることで、複数のモジュールを配列させて、液体吐出ヘッドの長さに対応することが出来るので、例えばB2サイズ及びそれ以上の長さに対応した比較的ロングスケールの液体吐出ヘッドに特に好適に適用できる。図15(a)に示すように、第1流路部材50の連通口51は吐出モジュール200と流体的に連通し、図15(b)に示すように、第1流路部材50の個別連通口53は第2流路部材60の連通口61と流体的に連通する。図15(c)は第2流路部材60の、第1流路部材50と当接される側の面を示し、図15(d)は第2流路部材60の厚み方向中央部の断面を示し、図15(e)は第2流路部材60の、液体供給ユニット220と当接する側の面を示す図である。第2流路部材60の流路や連通口の機能は、第1の適用例の1色分の機能と同様である。第2流路部材60の共通流路溝71は、その一方が図16に示す共通供給流路211であり、他方が共通回収流路212であり、夫々、液体吐出ヘッド3の長手方向に沿って、一端側から他端側に液体が供給される。本適用例においては、第1の適用例と異なり、共通供給流路211と共通回収流路212の液体の流れ方向は互いに反対方向である。
【0052】
図16は、記録素子基板10と流路部材210との液体の接続関係を示した透視図である。図16に示したように、流路部材210内には、液体吐出ヘッド3の長手方向に延びる1組の共通供給流路211及び共通回収流路212が設けられている。第2流路部材60の連通口61は、各々の第1流路部材50の個別連通口53と位置を合わせて接続されており、第2流路部材60の連通口72から共通供給流路211を介して第1流路部材50の連通口51へと連通する液体供給経路が形成されている。同様に、第2流路部材60の連通口72から共通回収流路212を介して第1流路部材50の連通口51へと連通する液体供給経路も形成されている。
【0053】
図17は、図16のF-F線における断面を示した図である。この図に示したように、共通供給流路は、連通口61、個別連通口53、連通口51を介して、吐出モジュール200へ接続されている。図8では不図示であるが、別の断面においては、個別回収流路が同様の経路で吐出モジュール200へ接続されていることは、図16を参照すれば明らかである。第1の適用例と同様に、各吐出モジュール200及び記録素子基板10には、各吐出口9に連通する流路が形成されており、供給した液体の一部または全部が、吐出動作を休止している吐出口9(圧力室23)を通過して、環流できるようになっている。また第1の適用例と同様に、共通供給流路211は負圧制御ユニット230(高圧側)と、共通回収流路212は負圧制御ユニット230(低圧側)と、液体供給ユニット220を介してそれぞれ接続されている。従って、それらの差圧によって、共通供給流路211から記録素子基板10の吐出口9(圧力室23)を通過して共通回収流路212へ至る流れが発生する。
【0054】
(吐出モジュールの説明)
図18(a)に、1つの吐出モジュール200の斜視図を、図18(b)にその分解図を示す。第1の適用例と異なり、記録素子基板10の複数の吐出口列方向に沿った両辺部(記録素子基板10の各長辺部)に複数の端子16がそれぞれ配置され、それらに電気接続されるフレキシブル配線基板40も、1つの記録素子基板10に対して2枚配置される。これは、記録素子基板10に設けられる吐出口列数が例えば20列であり、第1の適用例の8列よりも大幅に増加しているためである。即ち、端子16から、吐出口列に対応して設けられるエネルギー発生素子14までの最大距離を短く抑制して、記録素子基板10内の配線部で生じる電圧低下や信号伝送遅れを低減することを目的としている。また支持部材30の液体連通口31は、記録素子基板10に設けられた全吐出口列に跨がって開口している。その他の点は、第1の適用例と同様である。
【0055】
(記録素子基板の構造の説明)
図19(a)は記録素子基板10の吐出口9が配される側の面の模式図、図19(c)は図19(a)の面の裏面を示す模式図である。図19(b)は、図19(c)において記録素子基板10の裏面側に設けられている蓋部材20を除去した状態の記録素子基板10の面を示す模式図である。図19(b)に示すように、記録素子基板10の裏面には吐出口列方向に沿って、供給流路18と回収流路19とが交互に設けられている。吐出口列数は第1の適用例よりも大幅に増加しているものの、第1の適用例との本質的な差異は、前述のように端子16が記録素子基板の吐出口列方向に沿った両辺部に配置されていることである。吐出口列毎に一組の供給流路18と回収流路19が設けられていること、蓋部材20に、支持部材30の液体連通口31と連通する開口21が設けられていることなど、基本的な構成は第1の適用例と同様である。
【0056】
<液体吐出ヘッド構成の変形例>
図30図33を用いて、上述した液体吐出ヘッド構成の変形例(第3の適用例)について説明する。上述した例と同様な構成、機能については説明を省略し、異なる点について主体的に説明する。本例は、図30図31に示すように液体吐出ヘッド3と外部との液体の接続部である複数の液体接続部111は、液体吐出ヘッドの長手方向の一端側に集約して配置されている。液体吐出ヘッド3の他端側には複数の負圧制御ユニット230を集約して配置している(図32)。液体吐出ヘッド3に含まれる液体供給ユニット220は、液体吐出ヘッド3の長さに対応した長尺状のユニットとして構成され、供給する4色の液体に対応した流路およびフィルタ221を備える。図32に示すように、液体吐出ユニット支持部81に設けられる開口83~開口86の位置も上述した液体吐出ヘッド3とは異なる位置に設けられている。
【0057】
図33に流路部材50,60,70の積層状態を示す。複数の流路部材50,60、70の最上層である流路部材50の上面に複数の記録素子基板10が直線状に配列される。各記録素子基板10の裏面側に形成される開口21(図19)に連通する流路は、液体の色ごとに、個別供給流路213が2つ、個別回収流路214が1つとなっている。これに対応して、記録素子基板10の裏面に設けられる蓋部材20に形成される開口21も、液体の色ごとに供給用の開口21が2つ、回収用の開口21が1つとなっている。図33に示すように、液体吐出ヘッド3の長手方向に沿って延在する共通供給流路211と共通回収流路212とが交互に並列されている。
【0058】
<インクの循環と水分少インク>
以下、これまで説明した液体吐出ヘッドに関して、インクの循環と水分量の少ない水分少インクについて説明する。
【0059】
(ノズル近傍の説明)
図20は、本実施形態におけるインク等の液体を吐出する液体吐出ヘッドの吐出口近傍を詳細に説明する模式図である。図20(a)は吐出口から液滴が吐出される吐出方向から見た平面図、図20(b)は図20(a)におけるA-A´断面図、図20(c)は図20(a)のA-A´断面の斜視図である。
【0060】
図20(a)~(c)において、液体吐出ヘッド3(図3参照)には、液体を吐出する吐出口9、流路13、流路13中に形成される、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子14が形成されている。流路13には一端側から他端側にインク供給が行われ、吐出口9は流路の一端側と他端側との間の領域に形成されている。吐出口9にはインクのメニスカスが張っており、インクと大気との界面である吐出口界面24が形成されている。エネルギー発生素子14である電気熱変換素子(ヒータ)を駆動することにより、液体中に気泡が発生して吐出口9から液体が吐出される。本実施形態においてエネルギー発生素子としてヒータを適用した例で説明するが、本発明はこれに限定されず、例えば圧電素子等の各種エネルギー発生素子を適用可能である。液体吐出ヘッドには流路13と交差する方向に延在する供給流路18及び回収流路19が貫通孔として形成されている。さらに供給流路18は、外部から液体吐出ヘッドへの液体の入口である第3共通供給流路(供給開口)と連通しており、回収流路19は液体吐出ヘッドから外部への液体の出口である第3共通回収流路(回収開口)と連通している。このように液体吐出ヘッド3には、第3共通供給流路(供給開口)、供給流路18、流路13、吐出口9、流路13、回収流路19、第3共通回収流路(回収開口)といった順に液体が供給される液路が形成されている。本実施形態においては後述するように、第3共通回収流路(回収開口)から液体吐出ヘッドの外部に回収された液体が再度、液体吐出ヘッドの第3共通供給流路に供給される、いわゆる循環経路が形成され、液体吐出ヘッドには循環流17が形成される。本実施形態においては、流路13にインクが流れている状態でエネルギー発生素子14を駆動して吐出口9から液滴を吐出させる。流路13を流れる循環流の速度は例えば0.1mm/s以上、100mm/s以下であり、インクが流れた状態で吐出動作を行っても、着弾精度等の影響は少ない。
【0061】
図20(b)において、シリコン(Si)によって構成される基板11にはエネルギー発生素子14が形成されており、吐出口形成部材12には液体を吐出する吐出口9と、吐出口9と流路13とを連通する吐出口部2が形成されている。つまり、吐出口は吐出口形成部材12の表面(液滴が吐出される側の面)に形成される開口部であり、吐出口部は、吐出口9と流路13とを接続する筒状の部分を示す。
【0062】
(P、W、Hの関係について)
上述のように、本発明では、エネルギー発生素子が配される(を有する)流路の内部の液体が、流路の外部との間で循環される。次に、本実施形態における液体吐出ヘッドの流路の高さとオリフィスプレートの厚みと吐出口の長さの関係及びその液体吐出ヘッドにおけるインクの供給方法について説明する。
【0063】
図20(b)に示すように、流路13と吐出口部2との連通部分における、流路13内の液体の流れ方向に関する上流側での流路13の高さをH、吐出口9から液体が吐出される方向における吐出口部2の長さをPと定義する。また、流路13内の液体の流れ方向に関する吐出口部2の長さをWと定義する。本実施形態において、Hは3~30um、Pは3~30um、Wは6~30umで構成し、不揮発性溶媒濃度が30%、色材濃度が3%で、粘度が0.002~0.003Pa・sに調整されているインクを使用した。
【0064】
図21は、液体吐出ヘッド3内を流れる循環流17が定常状態になった際の吐出口9、吐出口部2、及び流路13における循環流17の流れの様子を表したものである。なお、この図においてベクトルの長さは速度の量を表すものではなく、全ての速度値に対して一定とする。図21において、Hが14um、Pが5um、Wが12.4umの形状の液体吐出ヘッドに、供給流路18から1.26×10-4ml/minのインクが流路13に供給された際の流れを矢印で示す。
【0065】
本実施形態は、吐出口からのインクの蒸発により色材濃度変化が生じたインクが、吐出口9及び吐出口部2に滞留することを抑制するため以下のようになっている。つまり、本実施形態の液体吐出ヘッドは、図21に示すように流路13内を流れるインクの循環流17が吐出口部2の内部に流れ込み、吐出口界面24の近傍まで達した後に、吐出口部2を介して流路13に戻る循環流が形成されている。流路13に戻ったインクは回収流路19を介して第3共通回収流路から液体吐出ヘッドの外部へ回収される。このように循環流が吐出口部2の内部に入り込み、吐出口に形成されたメニスカス位置(メニスカス界面近傍)まで到達した後に再度流路13に戻る流れを形成する。これにより蒸発の影響を受けやすい吐出口部2だけでなく、蒸発の影響が特に大きい吐出口界面24近傍のインクまでもが、吐出口部2の内部に滞ることなく流路13へと流れ出すことが可能となる。
【0066】
ここで、本実施形態の循環流17は吐出口界面24近傍における少なくとも中央部(吐出口の中心部)において、流路13内のインクの流れ方向(図21における左から右方向)の速度成分(以降、正の速度成分と呼ぶ)を持つことが特徴的である。なお本明細書においては、図21に示すような、吐出口界面24の少なくとも中央部において循環流17が正の速度成分を持つ流れのモードを流れモードAと呼ぶ。また、後述するように、比較列として示す図23(b)(d)のように、吐出口界面24の中央部で正の速度成分とは逆の、負の速度成分(図23(b)における右から左の方向)を持つ流れのモードを流れモードBと呼ぶこととする。
【0067】
本発明者らの検討により、本実施形態における流れモードAの液体吐出ヘッドは、蒸発により色材濃度変化が生じたインクが吐出口9に滞留することを低減するように、以下の式を満たすことがわかった。つまり、図20における流路高さH(流路13と吐出口部2が連通している箇所の上流側近傍の流路高さ)と、吐出口長さPと、吐出口の幅Wが下記関係式(1)を満たしている。
【0068】
―0.34×P-0.66×W>1.7・・・関係式(1)
ここで上記関係式(1)の左辺を判定値Jと呼ぶ。我々の検討で関係式(1)を満たす液体吐出ヘッドは、図21に示すような流れモードAになり、流れモードBの液体吐出ヘッドは関係式(1)を満たさないことが解明された。関係式(1)について図22から図24を用いて説明する。
【0069】
図22は流れモードAになる液体吐出ヘッドと流れモードBになる液体吐出ヘッドの関係を示す図である。図22の横軸はPとHの比(P/H)であり、縦軸はWとPの比(W/P)である。20はしきい線であり、下記関係式(2)を満たす線である。
【0070】
【数1】
【0071】
ここで、HとPとWの関係が図22のグラフのしきい線20の上部(実斜線の領域)となる液体吐出ヘッドでは流れモードAとなり、しきい線20の下部となる液体吐出ヘッドでは流れモードBとなることが分かった。つまり、下記関係式(3)を満たす液体吐出ヘッドにおいて流れモードAとなる。
【0072】
【数2】
【0073】
関係式(3)を整理すると関係式(1)となることから、HとPとWの関係が関係式(1)を満たすヘッド(判定値Jが1.7以上のヘッド)は流れモードAとなる。
上記関係について図23図24を用いて確認する。図23の各液体吐出ヘッドは、図22においてしきい線20の上部と下部のそれぞれの領域となる液体吐出ヘッドにおける、吐出口部2近傍の循環流17の様子の例を示す。図24は、様々な供給路の形状の液体吐出ヘッドについて流れの様子を確認して、流れモードAになるのか、流れモードBになるのかを判定した結果を示す。図24において、●印は流れモードAとなった液体吐出ヘッドで、×印は流れモードBとなった液体吐出ヘッドである。
【0074】
図23(a)はHが3um、Pが9um、Wが12umの形状の液体吐出ヘッドで、関係式(1)の左辺である判定値Jは1.93となり1.7より大きい。実際の循環流の流れを確認したところ図23(a)に示すように流れモードAとなっている。図24では点Aに対応する。次に図23(b)は、Hが8um、Pが9um、Wが12umの形状の液体吐出ヘッドで、判定値は1.39となり1.7より小さい。実際の循環流の流れも流れモードBとなっている。図24では点Bに対応する。図23(c)は、Hが6um、Pが6um、Wが12umの形状の液体吐出ヘッドで、判定値は2.0となり1.7より大きい。実際の循環流の流れも流れモードAとなっている。図24では点Cに対応する。最後に図23(d)は、Hが6um、Pが6um、Wが6umの形状の液体吐出ヘッドで、判定値は1.0となり1.7より小さい。実際の循環流の流れは流れモードBとなっている。図24では点Dに対応する。
【0075】
このように、図22のしきい線20を境界として、流れモードAになる液体吐出ヘッドと流れモードBになる液体吐出ヘッドを分けることができる。つまり、関係式(1)の判定値Jが1.7より大きい液体吐出ヘッドでは流れモードAとなり、吐出口界面24の少なくとも中央部では循環流17が正の速度成分を持つ。
【0076】
なお吐出口内の循環流17の流れが流れモードAになるのか流れモードBになるのかについては、上記のP、W、Hの条件が支配的な影響を及ぼす。これらの条件以外に、例えば循環流17の流速、インクの粘度、循環流17の流れの方向と垂直方向の吐出口9の幅(Wと直交する方向の吐出口の長さ)といった条件については、P、W、Hに比べて影響が非常に小さい。よって、循環流速やインクの粘度については要求される液体吐出ヘッド(インクジェット記録装置)の仕様や使用される環境条件に合わせて適宜設定すればよい。また使用時の環境変化等により吐出口からのインクの蒸発量が増加する場合には、循環流17の流量を適宜多くすることで流れモードAとすることができる。仮に流れモードBの液体吐出ヘッドについて、流量をいくら多くしても流れモードAにはならない。つまり、モードAになるのか流れモードBになるのかは、インクの流速やインクの粘度の条件ではなく、上述した体吐出ヘッドのH、P、Wの条件が支配的となる。また、流れモードAになる各種液体吐出ヘッドの中でも、特にHが20um以下、Pが20um以下、Wが30um以下となる液体吐出ヘッドは、より高精細な画像形成が可能となり好ましい。
【0077】
関係式(1)は、
―0.34×P-0.66×W>1.7・・・関係式(1)
であるが、本発明においては、下記関係式(4)を満たすことでも、流路内を流れるインクが、吐出口部内に流れ込み、吐出口部のオリフィスプレート厚の少なくとも半分の位置まで達した後に、再び流路に戻る流れとなる。
―0.34×P-0.66×W>1.5・・・関係式(4)
但し、関係式(3)を満たす方が、循環の観点でより好ましい。
【0078】
(P、W、Hと水分少インクの関係について)
水性顔料インクを使用する以上、特に被記録媒体が普通紙であったりすると、カールやコックリングといった課題が発生しやすい。このような課題に対する対策として、水分量を低減したインクを吐出する手段がある。図25は、水分量が65wt%と相対的に少ないインク(水分少インク)と、水分量が75wt%と相対的に多いインク(水分多インク)の、水分蒸発率に対する粘度の変化を示した図である。図25に示すように、水分量が少ないインクは、溶剤や固形分(顔料や樹脂エマルジョンおよび樹脂など)の濃度が高くなるため、水分蒸発に伴い急激な粘度上昇が生じる。特に液体の固形分量が10wt%以上であると、粘度上昇が生じやすい。急激な粘度上昇は、紙面上では滲みや裏抜けを防止し、オフィスプリンターとしての高速印字性と両面対応性の向上に繋がる。一方で、吐出口内では、吐出口からのインクの蒸発に伴って粘度が上昇するため、そのままでは画像の色ムラが発生しやすくなる。これに対し、エネルギー発生素子が配される流路(圧力室)の内部の液体を外部との間で循環させる、即ち循環流を発生させることで、流路(圧力室)内でのインクの粘度上昇を抑制することができる。
【0079】
図26(A)、(B)、(C)は、それぞれ圧力室内の濃縮分布を示した図である。いずれにおいても、インクは水分量が少ないインク(固形分量10wt%、溶剤量30wt%、水分量60wt%)である。濃縮分布は、粘度の大小で表現している。図26(A)は、P=8μm、W=16μm、H=16μmで、判定値J=1.58の流れモードBの条件で、循環流0mm/sの濃縮結果である。図26(B)は、P=8μm、W=16μm、H=16μmで、判定値J=1.58の流れモードBの条件で、循環流1mm/sの濃縮結果である。図26(C)は、P=6μm、W=16μm、H=18μmで、判定値J=2.15の流れモードAの条件で、循環流1mm/sの濃縮結果である。
【0080】
図26(A)に示すように、水分量が少ないインクで循環流がない場合、濃縮が進行したインクは吐出口側から拡散し、濃縮が圧力室内まで進行した状態となる。水分量が少ないインクは、水分蒸発時の増粘が大きいため、このような状態になると正常な吐出を維持することが困難になる。一方、水分量が多いインクの場合、同様に流路から吐出口までのインクが濃縮するが、図25に示すように水分蒸発時の増粘が小さいため、吐出への影響は小さい。
【0081】
図26(B)に示すように、水分量が少ないインクで循環流が生じる場合、圧力室内および吐出口の一部に循環流が供給されるため、濃縮が抑制される。したがって、水分量が少ないインクの場合、圧力室内を循環し、特に吐出口内部に循環流が供給される手段が有効である。しかし、循環流の流れが流れモードBであると、吐出口に形成されたメニスカス位置(メニスカス界面近傍)まで循環流が流れにくい。そして、水分蒸発時の増粘が大きいため、メニスカス界面近傍の濃縮は残り、インクが増粘する。更に水分量が少ないインクの場合、濃縮後の正常な吐出を維持することは困難な場合がある。このような場合には、流れモードAとすることが好ましい。
【0082】
図26(C)に示すように、水分量が少ないインクで循環流が生じ、循環流の流れが流れモードAの場合、吐出口に形成されたメニスカス位置(メニスカス界面近傍)まで循環流が流入しやすい。そのため、水分蒸発時の増粘が大きくても、メニスカス界面近傍のインク濃縮が抑制される。したがって、水分量が少ないインクの場合、流れモードAは濃縮の抑制に非常に有効であることがわかる。更に水分量が少ないインク(例えば水分55wt%)でも、吐出口に形成されたメニスカス位置(メニスカス界面近傍)まで循環流が流入するため、濃縮後の正常な吐出を維持することが可能になる。
【0083】
尚、本発明の「水分量の少ないインク」とは、インクが含有する水分の量(水分量)が65wt%以下のインクである。より課題が発生しやすく、本発明の効果を発現しやすいインクは、水分量が60wt%以下のインクであり、さらに課題が発生しやすく効果を発現しやすいインクは、水分量が55wt%以下のインクである。
【0084】
以上説明した通り、水分が少ないインクの場合、エネルギー発生素子が配される流路(圧力室)の内部の液体を外部との間で循環させることは、濃縮抑制に有効である。特にHが20μm以下、Pが20μm以下、Wが30μm以下となる液体吐出ヘッド3であって、上記関係式(4)を満たすことが好ましく、より好ましくは上記関係式(1)を満たすことである。これによりインクの水分量が小さい場合においても形成する画像の色ムラを低減することが可能となる。
【0085】
上述したインクの水分量の値は、外部から液体吐出ヘッド3の内部に供給された部分から吐出口9までの経路中におけるインクの水分量である。しかしながらこの部位におけるインクの水分量の値は、メインタンク1006(図2図3)内のインクの水分量の値と実質的に等しいため、メインタンク1006内の水分量を測定しても良い。
【0086】
尚、図26は、図20に示すような開口が真円の形状をした吐出口での濃縮結果を示したものであるが、本発明は吐出口の開口の形状が真円に限って成り立つものではない。図27(A)は、突起物を有する液体吐出ヘッドの上面図、図27(B)はそのA-A´における断面図である。また、図27(C)は、突起物を有する液体吐出ヘッドの上面図、図27(D)はそのA-A´における断面図である。図27に示すように、吐出口の中心(内側)に向かって突出するような突起物が、循環流と平行に位置していてもよい。
【0087】
また、図28(A)は、突起物を有する液体吐出ヘッドの上面図、図28(B)はそのA-A´における断面図である。また、図28(C)は、突起物を有する液体吐出ヘッドの上面図、図28(D)はそのA-A´における断面図である。図28で示すように、この突起物が循環流と垂直に位置していてもよい。いずれの場合であっても、流れモードAに必要なP、W、Hの定義は、図27及び図28中に示す通りである。
【0088】
また、圧力室内のインクを循環させる方法としては、図2図3で説明した、2つの流路に圧力差を設ける差圧方式と、記録素子基板10の流路内に循環の動力源(ポンプ)としてマイクロアクチュエータ設けた、所謂マイクロポンプ方式が挙げられる。本発明は、いずれの方式であっても成り立つが、循環流の安定かつ高い流速を実現し易い観点からは、差圧方式であることが好ましい。しかしながらマイクロポンプ方式であっても、発熱素子であるマイクロアクチュエータに加えて、圧電素子からなるアクチュエータ―を付加するといったアシスト機能を設けることで循環流速を向上させることで、本発明を好適に適用可能である。また循環流が流れる流路の断面積を大きくし流抵抗を小さくすることで循環流速を向上させることもできる。
【0089】
また、基板に供給流路や回収流路の一部が形成され、これら流路が基板を貫通している例を示したが、これら流路は基板を貫通していなくてもよい。例えば基板上にのみ、これら流路が形成されていてもよい。
【0090】
上記各実施形態においては、循環を行う動力源であるポンプを液体吐出ヘッドの外部である液体吐出装置の本体に設けられる例を示したが、動力源を液体吐出ヘッド3に設ける構成であっても良い。特に、記録素子を備える記録素子基板10(図9)に、発熱素子やピエゾ素子等からなるマイクロポンプ(マイクロアクチュエータ―)を設ける構成でも良く、装置本体側のポンプとヘッド側のマイクロポンプとを併用する形態であっても良い。
【0091】
マイクロポンプを記録素子基板に設ける場合は、液体を保持する共通液室(不図示)と、圧力室23と共通液室とを連通する第1の流路(不図示)と、圧力室23と共通液室とを連通する第2の流路(不図示)と、を備える。マイクロポンプは第2流路に設ける構成が適用できる。第2流路は屈曲部を有する略U字形状の流路とすることが可能である。
【0092】
上記の圧力室内の循環の効果は、インクの温度を調整する(温調する)ヘッド、特にヘッドに設けられた加熱手段によってインクを加温するヘッドに対して特に有効である。その理由は、インク(ヘッド)温度の増加に伴い、吐出口の水分蒸発量が増加し、増粘し易い環境になる為である。加熱手段としては、インクを吐出するためのエネルギー発生素子とは別に発熱素子を設けても良く、またエネルギー発生素子を加熱手段として兼用しても良い。
【0093】
顔料の分散安定化は,顔料粒子の静電反発力を利用する自己分散顔料と樹脂吸着による立体障害を利用する樹脂分散顔料がある。水分が蒸発し、顔料濃度が上昇する場合、顔料同士の粒子間距離が近接する。その際、樹脂分散顔料は樹脂が阻害し凝集しづらいが、自己分散顔料は阻害するものがなく凝集しやすい。したがって、自己分散顔料は樹脂分散顔料より水分蒸発時の粘度上昇が大きくなる為、インクが含む顔料が自己分散顔料の場合、樹脂分散顔料より圧力室内の循環による濃縮抑制の効果は大きい。特に水分少インクの場合、水分蒸発時の濃縮の影響を受けやすいため、自己分散顔料を含んでいる場合に圧力室内の循環による濃縮抑制の効果は大きくなる。
【符号の説明】
【0094】
2 吐出口部
3 液体吐出ヘッド
9 吐出口
13 流路
14 エネルギー発生素子
18 供給流路
19 回収流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
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