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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20221128BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
F16H1/32 B
H02K7/116
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018190571
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2020060221
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正幸
(72)【発明者】
【氏名】南雲 稔也
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠朗
(72)【発明者】
【氏名】劉 媛媛
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-207113(JP,A)
【文献】特開2000-274494(JP,A)
【文献】特開2015-140910(JP,A)
【文献】特開2017-141925(JP,A)
【文献】特開2002-307237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撓み噛合い式歯車機構と、
前記撓み噛合い式歯車機構の中心部分に組み込まれたモータと、
を備え、
前記モータは、ステータと、前記ステータを取り囲むロータとを備え、
前記撓み噛合い式歯車機構は、前記ロータと一体的に回転するように前記ロータに取り付けられた起振体を有し、
前記起振体は前記ロータを取り囲み、
前記ロータは、前記起振体に圧入された圧入部と、前記起振体にローレット嵌合されたローレット嵌合部と、前記圧入部と前記ローレット嵌合部の間に設けられ前記起振体との間に隙間を有する挿入部と、を有し、前記圧入部と前記ローレット嵌合部とが、前記ロータを前記起振体の内側に軸方向の一方から組み込んだときに、前記ローレット嵌合部のローレット嵌合よりも先に前記圧入部が圧入される位置に設けられている、
モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
前記ローレット嵌合部は前記ロータにおける軸方向中央よりも軸方向の一方に設けられ、前記圧入部は前記ロータにおける軸方向中央よりも軸方向の他方に設けられている、
請求項1記載のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
前記ローレット嵌合部は、前記ロータを支持する軸受の軸方向の移動を規制する、
請求項1又は請求項2記載のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
撓み噛合い式歯車機構と、
前記撓み噛合い式歯車機構の中心部分に組み込まれたモータと、
を備え、
前記モータは、ステータと、前記ステータを取り囲むロータとを備え、
前記撓み噛合い式歯車機構は、前記ロータと一体的に回転するように前記ロータに取り付けられた起振体を有し、
前記起振体は前記ロータを取り囲み、
前記ロータは、前記起振体に圧入された圧入部と、前記起振体にローレット嵌合されたローレット嵌合部と、を有し、前記圧入部と前記ローレット嵌合部とが、前記ロータを前記起振体の内側に軸方向の一方から組み込んだときに、前記ローレット嵌合部のローレット嵌合よりも先に前記圧入部が圧入される位置に設けられ、
前記ロータと前記起振体との間に、径方向への熱伝達率よりも軸方向への熱伝達率が高い熱伝達部材が配置されている、モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置。
【請求項5】
前記ローレット嵌合部と前記熱伝達部材の間に前記圧入部が位置する、
請求項記載のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置。
【請求項6】
前記挿入部は、前記圧入部および前記ローレット嵌合部よりも外径が小さくされることで、前記起振体との間に前記隙間が設けられる、請求項1記載のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータ内蔵型の撓み噛合い式歯車装置が開示されている。この撓み噛合い式歯車装置は、ロータ(42)の回転運動を起振体(31)に伝達するために、起振体に径方向に貫通するセットビスを設け、セットビスでロータ(42)と起振体(31)とを係止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-207113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、セットビスの配置スペースが必要な分、モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置が軸方向に長くなるという課題がある。
【0005】
本発明は、軸方向の短縮化を図れるモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
撓み噛合い式歯車機構と、
前記撓み噛合い式歯車機構の中心部分に組み込まれたモータと、
を備え、
前記モータは、ステータと、前記ステータを取り囲むロータとを備え、
前記撓み噛合い式歯車機構は、前記ロータと一体的に回転するように前記ロータに取り付けられた起振体を有し、
前記起振体は前記ロータを取り囲み、
前記ロータは、前記起振体に圧入された圧入部と、前記起振体にローレット嵌合されたローレット嵌合部と、前記圧入部と前記ローレット嵌合部の間に設けられ前記起振体との間に隙間を有する挿入部と、を有し、前記圧入部と前記ローレット嵌合部とが、前記ロータを前記起振体の内側に軸方向の一方から組み込んだときに、前記ローレット嵌合部のローレット嵌合よりも先に前記圧入部が圧入される位置に設けられている、
モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置である。
本発明のもう一つの態様は、
撓み噛合い式歯車機構と、
前記撓み噛合い式歯車機構の中心部分に組み込まれたモータと、
を備え、
前記モータは、ステータと、前記ステータを取り囲むロータとを備え、
前記撓み噛合い式歯車機構は、前記ロータと一体的に回転するように前記ロータに取り付けられた起振体を有し、
前記起振体は前記ロータを取り囲み、
前記ロータは、前記起振体に圧入された圧入部と、前記起振体にローレット嵌合されたローレット嵌合部と、を有し、前記圧入部と前記ローレット嵌合部とが、前記ロータを前記起振体の内側に軸方向の一方から組み込んだときに、前記ローレット嵌合部のローレット嵌合よりも先に前記圧入部が圧入される位置に設けられ、
前記ロータと前記起振体との間に、径方向への熱伝達率よりも軸方向への熱伝達率が高い熱伝達部材が配置されている、モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、軸方向の短縮化を図れるモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態1に係るモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置の断面図である。
図2】実施形態1のロータと起振体との連結部位を説明する図であり、(A)は起振体の断面の一部を示し、(B)はロータの断面の一部を示す。
図3】ロータと起振体との連結工程を説明する図であり、(A)~(C)は連結工程の第1段階から第3段階を示す。
図4】本発明の実施形態2に係るモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置の断面図である。
図5】実施形態2のロータと起振体との連結部位を説明する図であり、(A)は起振体の断面の一部を示し、(B)はロータの断面の一部を示す。
図6】本発明の実施形態3に係るモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置の断面図である。
図7】実施形態3のロータと起振体との連結部位を説明する図であり、(A)は起振体の断面の一部を示し、(B)はロータの断面の一部を示す。
図8】参考例に係るモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置の断面図である。
図9】参考例のロータと起振体との連結部位を説明する図であり、(A)は起振体の断面の一部を示し、(B)はロータの断面の一部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置の断面図である。本明細書では、回転軸O1に沿った方向を軸方向、回転軸O1から垂直な方向を径方向、回転軸O1を中心とした回転方向を周方向と定義する。
【0011】
実施形態1のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1は、モータ10と、撓み噛合い式歯車機構30とを含む。モータ10は、ステータコイル12a及びステータコア12b有するステータ12と、マグネット15aを筒型のロータヨーク15bの内面に固定したロータ15とを有する。ロータ15は、ステータコイル12aを径方向から取り囲むように配置される。
【0012】
撓み噛合い式歯車機構30は、起振体31、起振体軸受32、外歯歯車33、第1内歯歯車部材34、第2内歯歯車部材35、固定部材36、ケーシング37、軸受41、42及び主軸受44を備える。モータ10は、撓み噛合い式歯車機構30の中心部分に撓み噛合い式歯車機構30と同軸に組み込まれている。
【0013】
固定部材36は、モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1の反出力側を覆うように設けられている。出力側とは減速された運動が出力される方向(図1の左方)を意味し、反出力側とは出力側の反対の方向を意味する。固定部材36は、径方向の中央において、回転軸O1に沿って突出した軸部36aを有し、軸部36aがステータ12の内方に進入してボルトによりステータ12と連結されている。
【0014】
起振体31は、中空筒状であり、回転軸O1に垂直な断面の外形が、回転軸O1を中心とする楕円状の起振体本体部31Mと、同断面の外形が回転軸O1を中心とする円形の軸部31Nとを含む。楕円状は、幾何学的に厳密な楕円である必要はなく、略楕円を含む。起振体31は、モータ10のロータ15に外嵌されている。
【0015】
外歯歯車33は、起振体軸受32を介して起振体本体部31Mに外嵌されている。外歯歯車33は、可撓性を有し、起振体本体部31Mの外形に沿った形状(例えば軸方向に見て略楕円形状)で、撓み変形しながら、起振体本体部31Mの周囲を相対的に回転可能に構成される。
【0016】
第1内歯歯車部材34は、環状の形態を有し、その内周部に複数の内歯が形成されて第1内歯歯車34gが構成される。第1内歯歯車部材34は、ケーシング37及び固定部材36にボルト等により連結されている。
【0017】
第2内歯歯車部材35は、環状の形態を有し、その内周部に複数の内歯が形成されて第2内歯歯車35gが構成される。上記の第1内歯歯車34gと第2内歯歯車35gとは、軸方向に並び、それぞれ外歯歯車33と噛み合う。
【0018】
さらに、第2内歯歯車部材35は、主軸受44の内輪として機能する内輪部35iと、相手部材と連結されるフランジ部35fとを有する。相手部材とは、減速された動力の出力先の部材である。内輪部35iは、第2内歯歯車35gの径方向の外方に位置する。フランジ部35fは第2内歯歯車35gよりも出力側に張り出して設けられている。
【0019】
ケーシング37は、ボルト等により固定部材36に連結され、撓み噛合い式歯車機構30の外周部、主に、第2内歯歯車部材35の径方向外方を覆う。ケーシング37の内周部には、主軸受44の外輪として機能する外輪部37oが設けられている。図1においてケーシング37は、軸方向に2分割されているが、これらは単一の部材により一体的に構成されていてもよい。ケーシング37は、主軸受44を介して、第2内歯歯車部材35を回転自在に支持する。
【0020】
軸受41は、ロータ15と固定部材36との間に配置される。軸受42は、第2内歯歯車部材35と起振体31の軸部31Nとの間に配置される。軸受41及び軸受42を介して、固定部材36及び第2内歯歯車部材35が、ロータ15及び起振体31を回転自在に支持する。
【0021】
<回転動作>
モータ10のステータコイル12aに電流が流されてロータ15が回転すると、起振体31が回転軸O1を中心に回転し、この運動が外歯歯車33に伝わる。このとき、外歯歯車33は、起振体本体部31Mの外周面に沿った形状に規制され、軸方向から見て、長軸部分と短軸部分とを有する楕円形状に撓んでいる。さらに、外歯歯車33は、固定された第1内歯歯車34gと噛み合っているため、外歯歯車33は起振体31と同じ回転速度で回転することはなく、外歯歯車33の内側で起振体31が相対的に回転する。そして、この相対的な回転に伴って、外歯歯車33は長軸位置と短軸位置とが周方向に移動するように撓み変形する。この変形の周期は、ロータ15の回転周期に比例する。
【0022】
外歯歯車33が撓み変形する際、その長軸位置が回転移動することで、外歯歯車33と第1内歯歯車34gとの噛み合う位置が回転方向に変化する。ここで、外歯歯車33の歯数が100で、第1内歯歯車34gの歯数が102だとすると、噛み合う位置が一周するごとに、外歯歯車33と第1内歯歯車34gとの噛み合う歯がずれていき、これにより外歯歯車33が回転(自転)する。上記の歯数であれば、ロータ15の回転運動は減速比100:2で減速されて外歯歯車33に伝達される。
【0023】
一方、起振体31の回転によって外歯歯車33と第2内歯歯車35gとの噛み合う位置も回転方向に変化する。ここで、外歯歯車33の歯数と第2内歯歯車35gの歯数とが同数であるとすると、外歯歯車33と第2内歯歯車35gとは相対的に回転せず、外歯歯車33の回転運動が減速比1:1で第2内歯歯車35gへ伝達される。これらによって、ロータ15の回転運動が、減速比100:2で減速されて、第2内歯歯車部材35のフランジ部35fから相手部材に出力される。
【0024】
<ロータと起振体との連結構造>
図2は、実施形態1のロータと起振体との連結部位を説明する図であり、(A)は起振体の断面の一部を示し、(B)はロータの断面の一部を示す。図3は、ロータと起振体との連結工程を説明する図であり、(A)~(C)は連結工程の第1段階から第3段階を示す。以下では、連結工程において、ロータ15を起振体31に嵌入する側の端を「先端」、その逆の端を「後端」と呼ぶ。
【0025】
図2(B)に示すように、ロータヨーク15bの外周部には、軸方向に沿って先端側から順に、圧入部P1、挿入部P2、ローレット嵌合部P3及び軸部P4を有する。圧入部P1は、圧入用に挿入部P2よりも外径が大きい。挿入部P2は、起振体31との間に間隙g1を設けるために、圧入部P1及びローレット嵌合部P3よりも外径が小さい。起振体31の対応する部位の内径が大きくされることで、挿入部P2の外径は圧入部P1と同等又は圧入部P1よりも大きくすることもできる。ローレット嵌合部P3は圧入部P1及び挿入部P2よりも外径が大きく、外周部がローレット加工されている。軸部P4は、軸受41が外嵌される部位であり、ローレット嵌合部P3よりも外径が小さい。なお、ローレット嵌合部P3とは、ローレット加工された部位の全部を指すのではなく、そのうち、起振体31に嵌合されている範囲を指す。圧入部P1についても、起振体31に圧入されている範囲を指す。
【0026】
ローレット嵌合部P3は、ロータヨーク15bの軸方向中央よりも後端側に設けられている。圧入部P1は、ロータヨーク15bの軸方向中央よりも先端側に設けられている。
【0027】
図3(A)に示すように、起振体31の内周部には、径が異なる複数の段部S1、S2、S3、S4が設けられている。段部とは径が略同一の連続する内周面を指し、1つの段部と隣接する段部との間に段差があるものとする。複数の段部S1~S4は、軸方向の一方(先端側)から他方(後端側)にかけて、順に径が大きくなるように設けられている。段部S1は、ロータ15を通さない径を有する。段部S2は、ロータ15の先端部の圧入部P1が圧入される径を有する。すなわち段部S2の内径は圧入部P1の外径より僅かに小さい。段部S3は、ロータ15の圧入部P1及び挿入部P2の外径よりも大きな内径を有する。段部S4は、ロータ15のローレット嵌合部P3がローレット嵌合される径を有する。すなわち、変形前のローレット嵌合部P3の山部外径よりも、段部S4の内径が小さく、段部S4の内径よりも、ローレット嵌合部P3の谷部の外径が小さい。
【0028】
ローレット嵌合とは、ローレット部、その嵌合面又はこれら両方に、ローレット部と嵌合面との間の圧力によって、削れ等の変形が生じた嵌合を言う。ローレット嵌合には、内周が円筒面の筒体と、ローレット加工された外周部を有する軸体との嵌合、あるいは、外周が円筒面の軸体と、ローレット加工された内周部を有する筒体との嵌合が含まれる。
【0029】
図3(A)に示すように、ロータ15は、組み付け時、例えばモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1の反出力側から出力側へ起振体31の中空部に押し込まれる。圧入部P1及び段部S2と、ローレット嵌合部P3及び段部S4とは、ロータ15を起振体31に組み付ける際に、圧入部P1の圧入が先に開始され、その後、ローレット嵌合部P3のローレット嵌合が行われる位置に設けられている。これにより、ロータ15を起振体31に組み付ける際、先ず、図3(A)に示すように、ロータヨーク15bの圧入部P1が起振体31の段部S2に圧入され始めることで、ロータ15と起振体31との芯出しが高い精度でなされる。続いて、図3(B)、(C)に示すように、ロータヨーク15bのローレット嵌合部P3が起振体31の段部S4にローレット嵌合して、これらの間の大きな伝達トルク容量を実現することができる。
【0030】
このような組み付け時の作用は、図3(A)に示すように、ロータ15の所定部分の長さL4が、起振体31の所定部分の長さL3よりも長い構造により実現される。長さL4は、ロータ15の圧入部P1の先端からローレット嵌合部P3の先端までの軸方向の長さである。長さL3は、起振体31における圧入部P1が圧入される段部S2の後端からローレット嵌合部P3が嵌合される段部S4の後端までの軸方向長さである。ここでは、ロータ15の組み付け方向の先方と後方とで後先の向きを表わしている。また、ロータ15と起振体31との組み付け後の構造においては、上記の組み付け時の作用は、例えば、圧入部P1の軸方向における長さL1(図3(C))が、ローレット嵌合部P3の軸方向における長さL2(図3(C))よりも長い構造により実現される。なお、上記の組み付け時の作用が得られる、ロータ15と起振体31との組み付け後の構造は、上記の長さL1、L2の関係を有した構造に限られない。例えば、圧入部P1の途中の区間又はロータ15の挿入方向の先端側の区間は、起振体31の内径が大きくされて、連結工程の途中から圧入が解除される構造であっても、上記の組み付け時の作用は実現される。この場合、組み付け後の圧入部P1の長さL1は、ローレット嵌合部P3の長さL3よりも短くなる場合がある。
【0031】
ロータ15と起振体31との間には、間隙g1が設けられる。間隙g1は、ステータコイル12aに生じるジュール熱が起振体31から撓み噛合い式歯車機構30に伝達することを抑制し、撓み噛合い式歯車機構30の減速動作や寿命に熱の悪影響が及ぼされることを抑制する。
【0032】
軸受41は、ローレット嵌合部P3を位置決め部として軸方向の移動が規制された状態で軸部P4に嵌合される。一方、ロータヨーク15bにおいてローレット嵌合部P3に連続する部位(ローレット加工された部位)の軸方向長さは、起振体31の段部S4の軸方向長さよりも長い。これにより、軸受41の外輪と起振体31との間に間隙g2が設けられる。
【0033】
<実施形態効果>
以上のように、実施形態1のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1によれば、ロータ15の圧入部P1の圧入が先に行われ、その後、ローレット嵌合部P3がローレット嵌合されるように、圧入部P1とローレット嵌合部P3が設けられている。この構成により、ロータ15と起振体31との芯出しを高い精度で実現でき、かつ、ロータ15と起振体31との大きな伝達トルク容量を実現できる。さらに、ロータ15と起振体31とをセットビスで係止するような構造が不要であるため、モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1の軸方向長さの短縮化を図ることができる。
【0034】
さらに、実施形態1のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1によれば、ロータ15の圧入部P1が、ロータ15の軸方向中央より先端側に位置し、ロータ15のローレット嵌合部P3が、ロータ15の軸方向中央より後端側に位置する。これにより、モーメント荷重に対するロータ15と起振体31との連結強度を高めることができる。
【0035】
さらに、実施形態1のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1によれば、ローレット嵌合部P3が軸受41の軸方向の移動を規制する位置決め部として機能する。これにより、位置決め部を別途設ける場合と比較して、装置の軸方向長さの短縮、部品点数の削減、及び、組立工数の削減を図れる。
【0036】
(実施形態2)
図4は、本発明の実施形態2に係るモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置の断面図である。図5は、実施形態2のロータと起振体との連結部位を説明する図であり、(A)は起振体の断面の一部を示し、(B)はロータの断面の一部を示す。
【0037】
実施形態2のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Aは、起振体31Aとロータヨーク15Abとの連結構造の一部が異なる他は、実施形態1と同様である。同様の構成要素については、実施形態1と同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0038】
図5(B)に示すように、ロータヨーク15Abの外周部には、軸方向に沿って先端側から順に、挿入部P11、圧入部P12、ローレット嵌合部P3及び軸部P4を有する。挿入部P11は、起振体31Aとの間に間隙g1を設けるために、圧入部P12よりも外径が小さい。圧入部P12は、圧入用に挿入部P11よりも外径が大きい。ローレット嵌合部P3は、圧入部P12よりも外径が大きく、外周部がローレット加工されている。圧入部P12及びローレット嵌合部P3は、ロータヨーク15Abの軸方向中央よりも後端側に設けられている。
【0039】
図5(A)に示すように、起振体31Aの内周部には、径が異なる複数の段部S1、S12、S4が設けられている。複数の段部S1、S12、S4は、軸方向の一方(先端側)から他方(後端側)にかけて、順に径が大きくなるように設けられている。段部S12は、ロータヨーク15Abの挿入部P11の外径よりも大きな内径を有する一方、圧入部P12が圧入される内径を有する。
【0040】
ロータヨーク15Abは、組み付け時、反出力側から出力側へ起振体31Aの中空部に押し込まれる。圧入部P12及び段部S12と、ローレット嵌合部P3及び段部S4とは、ロータヨーク15Abを起振体31Aに組み付ける際に、圧入部P12の圧入が先に開始され、その後、ローレット嵌合部P3のローレット嵌合が行われる位置に設けられている。この組み付け時の作用は、特に限定されないが、一例として、圧入部P12の軸方向における長さが、ローレット嵌合部P3の軸方向における長さよりも長い構造により実現される。
【0041】
<実施形態効果>
以上のように、実施形態2のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Aによれば、ロータヨーク15Abの圧入部P12と、ローレット嵌合部P3とが、先に圧入部P12の圧入が開始され、その後にローレット嵌合部P3の嵌合が行われる位置に設けられている。この構成によれば、組み付け時に、先に圧入部P12の圧入が開始されることで、ロータヨーク15Abと起振体31Aとの芯出しを高い精度で実現でき、その後のローレット嵌合部P3の嵌合により、ロータヨーク15Abと起振体31Aとの大きな伝達トルク容量を実現できる。さらに、ロータヨーク15Abと起振体31Aとをセットビスで係止するような構造が不要であるため、モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Aの軸方向長さの短縮化を図ることができる。
【0042】
(実施形態3)
図6は、本発明の実施形態3に係るモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置の断面図である。図7は、実施形態3のロータと起振体との連結部位を説明する図であり、(A)は起振体の断面の一部を示し、(B)はロータの断面の一部を示す。
【0043】
実施形態3のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Bは、起振体31Bとロータヨーク15Bbとの連結構造及びその周辺の構成が異なる他は、実施形態1及び実施形態2と同様である。同様の構成要素については、実施形態1及び実施形態2と同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0044】
実施形態3のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Bは、起振体31Bとロータヨーク15Bbとの間に配置される熱伝達部材38を更に備える。
【0045】
熱伝達部材38は、筒状であり、熱伝達率に異方性を有し、径方向の熱伝達率よりも軸方向の熱伝達率の方が大きい。熱伝達部材38は、例えばヒートパイプであり、限定されるものではないが、例えばグラファイトを径方向に積層して構成できる。熱伝達部材38は、起振体31Bとロータヨーク15Bbとの間で、ロータヨーク15Bbの圧入部P12及びローレット嵌合部P3よりも先端側(出力側)に配置される。熱伝達部材38は、さらに、出力側に径方向における内方へ張り出した張出部38aを有する。熱伝達部材38の出力側の端面は、軸方向におけるローレット嵌合部P3がある側とは反対側において、モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Bの外部に露出している。この端面は、第2内歯歯車部材35のフランジ部35fの出力側端面と略面一である。ロータヨーク15Bbの圧入部P12は、軸方向においてローレット嵌合部P3と熱伝達部材38との間に位置する。熱伝達部材38は、起振体31Bに出力側から嵌入されて組み付けられる。
【0046】
図7(B)に示すように、ロータヨーク15Bbの外周部には、軸方向に沿って先端側から順に、挿入部P21、圧入部P12、ローレット嵌合部P3及び軸部P4を有する。挿入部P21は、熱伝達部材38の内側に挿入可能な外径を有する。挿入部P21の軸方向長さは、熱伝達部材38の反出力側の端部から張出部38aまでの軸方向長さよりも短い。これにより、熱伝達部材38の反出力側の端面と、ロータヨーク15Bbの挿入部P21と圧入部P12との間の段差面とが接触する。また、挿入部P21の外径は、熱伝達部材38の反出力側の端部から張出部38aまでの内径よりも小さい。これにより、挿入部P21の外周面と、熱伝達部材38の内周面との間に間隙g3が設けられる。
【0047】
図7(A)に示すように、起振体31Bの内周部には、先端側から、熱伝達部材38が嵌合される段部S21、ロータヨーク15Bbの圧入部P12が圧入される段部S12、並びに、ロータヨーク15Bbのローレット嵌合部P3がローレット嵌合される段部S13が設けられている。段部S21は、熱伝達部材38が嵌合する内径を有し、熱伝達部材38の外周面が接触する。熱伝達部材38が嵌合する段部S21の内径は、圧入部P12が圧入される段部S12の内径よりも大きい。段部S21の軸方向長さは、熱伝達部材38の軸方向長さよりも長い。
【0048】
<実施形態効果>
以上のように、実施形態3のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Bによれば、ロータヨーク15Bbの圧入部P12とローレット嵌合部P3とが、実施形態2と同様に、先に圧入部P12の圧入が開始され、その後にローレット嵌合部P3の嵌合が行われる位置に設けられている。これにより、組み付け時に、圧入部P12の圧入によりロータヨーク15Bbと起振体31Bとの芯出しを高い精度で実現でき、かつ、ローレット嵌合部P3の嵌合により大きな伝達トルク容量を実現できる。さらに、ロータヨーク15Bbと起振体31Bとをセットビスで係止する構造と比べて、セットビスの配置スペースが不要な分、モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Bの軸方向長さを短縮化できる。
【0049】
さらに、実施形態3のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Bによれば、ロータヨーク15Bbと起振体31Bとの間に径方向の熱伝達率よりも軸方向の熱伝達率が大きい熱伝達部材38が配置されている。これにより、ステータコア12bの熱が、熱伝達部材38により軸方向に多く伝達される。したがって、ステータコア12bの熱が径方向に伝達されて、撓み噛合い式歯車機構30に伝わることを抑制できる。これにより、撓み噛合い式歯車機構30の温度上昇を抑えて、温度によって撓み噛合い式歯車機構30の運動に異常が生じることを抑制できる。
【0050】
さらに、実施形態3のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Bによれば、熱伝達部材38は、軸方向におけるローレット嵌合部P3とは反対側に露出している。これにより、熱伝達部材38を介して軸方向に伝達された熱を、装置外部へ放出できる。あるいは、熱伝達部材38の装置外部へ露出した端面の近傍に、動力の出力先である相手部材が配置される場合には、熱伝達部材38から相手部材へ熱を効率的に放出することができる。そして、撓み噛合い式歯車機構30の温度上昇をより抑えることができる。
【0051】
さらに、実施形態3のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Bによれば、ロータヨーク15Bbの圧入部P12が、熱伝達部材38とローレット嵌合部P3との間に位置する。圧入部P12の熱伝達率はローレット嵌合部P3の熱伝達率よりも高く、ステータコア12bの熱は、他の箇所よりも圧入部P12の箇所で多く撓み噛合い式歯車機構30へ伝わる。しかし、この部位に熱伝達部材38が近いことで、圧入部P12を伝わる熱を、装置外部へ多く放出することができ、撓み噛合い式歯車機構30の温度上昇を抑えることができる。
【0052】
(参考例)
図8は、参考例に係るモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置の断面図である。図9は、参考例のロータと起振体との連結部位を説明する図であり、(A)は起振体の断面の一部を示し、(B)はロータの断面の一部を示す。
【0053】
参考例のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Cは、起振体31Cとロータヨーク15Cbとの連結構造及びその周辺の構成が異なる他は、実施形態1から実施形態3と同様である。同様の構成要素については、実施形態1から実施形態3と同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0054】
参考例のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Cは、起振体31Cとロータヨーク15Cbとの間に熱伝達部材38が設けられている。熱伝達部材38、先に説明したように、径方向の熱伝達率よりも軸方向の熱伝達率が高い。熱伝達部材38は、軸方向の一方(出力側)において、モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Cの外部に露出されている。熱伝達部材38の出力側の端面は、第2内歯歯車部材35のフランジ部35fの端面とほぼ面一である。熱伝達部材38は、ロータヨーク15Cbの連結部P32よりも出力側に配置されている。
【0055】
ロータヨーク15Cbと起振体31Cとは、ロータヨーク15Cbの連結部P32において、セットビスB1により連結されている。特に限定されないが、図9(B)に示すように、ロータヨーク15Cbの外周部には、先端側から、熱伝達部材38の内側に嵌合する嵌合部P31と、起振体31Cの内側に遊嵌されてセットビスB1により連結される連結部P32と、軸受41が嵌合される軸部P4とが設けられている。嵌合部P31の外径は、連結部P32の外径よりも小さい。連結部P32の外径は、軸部P4の外径よりも大きい。
【0056】
また、特に限定されないが、図9(A)に示すように、起振体31Cの内周部には、先端側から、熱伝達部材38の外側に嵌合する段部S31と、ロータヨーク15Cbの連結部P32を遊嵌する段部S32とが設けられている。段部S31の内径は、段部S32の内径よりも大きい。さらに、起振体31Cの段部S32には、周方向における複数箇所にネジ孔h1が設けられ、セットビスB1が螺合されている。セットビスB1は、起振体31Cを径方向に貫き、ロータヨーク15Cbの連結部P32に当接して、起振体31Cとロータヨーク15Cbとが相対的に回転しないように、これらを連結する。
【0057】
<参考例効果>
以上のように、参考例のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Cによれば、ロータヨーク15Cbと起振体31Cとの間に径方向の熱伝達率よりも軸方向の熱伝達率が大きい熱伝達部材38が配置されている。これにより、ステータコア12bの熱が、熱伝達部材38により軸方向に多く伝達される。したがって、ステータコア12bの熱が径方向に伝達されて、撓み噛合い式歯車機構30に伝わることを抑制できる。これにより、撓み噛合い式歯車機構30の温度上昇を抑えて、温度によって撓み噛合い式歯車機構30の運動に異常が生じることを抑制できる。
【0058】
さらに、参考例のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Cによれば、熱伝達部材38は、軸方向において、ロータヨーク15Cbと起振体31Cとの連結部P32とは反対側へ露出している。これにより、熱伝達部材38を介して軸方向に伝達された熱を、装置外部へ放出できる。あるいは、熱伝達部材38の装置外部へ露出した端面の近傍に、動力の出力先である相手部材が配置される場合には、熱伝達部材38から相手部材へ熱を効率的に放出することができる。これにより、ステータコア12bの熱が、撓み噛合い式歯車機構30に伝達される量をより抑制でき、撓み噛合い式歯車機構30の温度上昇をより抑えることができる。
【0059】
さらに、参考例のモータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置1Cによれば、ロータヨーク15Cbの連結部P32の部分が、熱伝達部材38に軸方向から接触している。ステータコア12bの熱は、連結部P32を介してロータヨーク15Cbから起振体31Cに多く伝達される。しかし、連結部P32がある部位に熱伝達部材38が接触していることで、この部分の熱を、熱伝達部材38を介して効率的に放出し、撓み噛合い式歯車機構30の温度上昇を抑えることができる。
【0060】
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態ではロータと起振体とのローレット嵌合部として、ロータのローレット部と起振体の内周部とが嵌合した例を示した。しかし、例えば起振体の内周部をローレット加工することで起振体にローレット部を設け、このローレット部とロータの外周面とを嵌合させた部分を、本発明に係るローレット嵌合部として採用してもよい。また、上記実施形態では、ロータにおいて圧入部よりもローレット嵌合部が後端側(ロータを起振体に挿入する方向の逆側)に位置する例を示した。しかし、これらの配置は逆にすることも可能である。
【0061】
また、上記の実施形態では、所謂筒型の撓み噛合い式歯車機構を採用した構成を例にとって説明したが、本発明に係る撓み噛合い式歯車機構はこれに限定されず、例えば所謂カップ型又はシルクハット型の撓み噛合い式歯車機構が適用されてもよい。また、上記の実施形態において、単一の部材により一体的に形成された構成要素は、複数の部材に分割されて互いに連結又は固着された構成要素に置換されてもよい。また、複数の部材が連結されて構成された構成要素は、単一の部材により一体的に形成された構成要素に置換されてもよい。その他、実施形態で具体的に示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0062】
1、1A~1C モータ内蔵型撓み噛合い式歯車装置
10 モータ
12 ステータ
12a ステータコイル
12b ステータコア
15 ロータ
15a マグネット
15b、15Ab、15Bb、15Cb ロータヨーク
30 撓み噛合い式歯車機構
31、31A、31B、31C 起振体
32 起振体軸受
33 外歯歯車
34 第1内歯歯車部材
34g 第1内歯歯車
35 第2内歯歯車部材
35g 第2内歯歯車
35f フランジ部
35i 内輪部
36 固定部材
37 ケーシング
38 熱伝達部材
41、42 軸受
44 主軸受
P1、P12 圧入部
P3 ローレット嵌合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9