(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/06 20060101AFI20221128BHJP
B60W 50/08 20200101ALI20221128BHJP
【FI】
B60W30/06
B60W50/08
(21)【出願番号】P 2018210895
(22)【出願日】2018-11-08
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100166648
【氏名又は名称】鎗田 伸宜
(72)【発明者】
【氏名】岡田 基
(72)【発明者】
【氏名】高橋 進
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博章
(72)【発明者】
【氏名】原田 里穂
(72)【発明者】
【氏名】平井 美紀子
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-141175(JP,A)
【文献】特開2014-094725(JP,A)
【文献】特開2009-090850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走可能な車両の移動の軌跡情報を記憶手段に記憶させる記憶制御手段と、
前記車両の移動の制御を行う制御手段と、
前記車両の乗員による指示を入力するための入力手段とを有し、
前記記憶制御手段は、前記軌跡情報を記憶させる指示に応じて、前記車両が停止したことを示す区切り目を
、前記車両が停止するごとに前記軌跡情報と関連付けて前記記憶手段に記憶し、
前記制御手段は、前記車両の位置及び方向を復帰させる復帰指示に応じて、前記入力手段が前記復帰指示の入力を受けた位置から前記軌跡情報に含まれる前記区切り目の位置まで、前記記憶手段により記憶された前記軌跡情報に基づいて前記車両の移動を制御
し、
前記記憶制御手段は、前記車両の速度が所定の速度以下の場合に前記軌跡情報を記憶し、前記車両の速度が前記所定の速度を超えても、所定時間は前記軌跡情報の記憶を続行する
ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援装置であって、
前記制御手段は、前記軌跡情報に基づいた前記車両の移動の停止が前記入力手段により指示された場合には、当該指示に応じて停止する
ことを特徴とする運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の運転操作を支援する運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の支援技術は、一般的には機械により運転者の補佐を行う。例えば、特許文献1では、車両の予想進路線を生成し、車両に設置されたカメラで得られた車両周辺画像と予想進路線とを合成して障害物に対する予想進路線の重畳割合を算出し、その重畳割合に応じて車両制御を行うことで車両と障害物との衝突を避ける技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような運転支援技術が普及すれば、車両の安全な走行には寄与することになろうが、その一方で運転者の運転技術が向上しない懸念もある。自動運転機能を備えた車両であっても、運転者がマニュアル操作(運転者による手動操作)で運転する状況もあり得ることから、運転者の運転技術の維持や向上は欠かすことができない。
【0005】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、運転者の運転技術の向上に貢献できる運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は以下の構成を有する。すなわち、本発明の第1の側面によれば、自走可能な車両の移動の軌跡情報を記憶手段に記憶させる記憶制御手段と、
前記車両の移動の制御を行う制御手段と、
前記車両の乗員による指示を入力するための入力手段とを有し、
前記記憶制御手段は、前記軌跡情報を記憶させる指示に応じて、前記車両が停止したことを示す区切り目を、前記車両が停止するごとに前記軌跡情報と関連付けて前記記憶手段に記憶し、
前記制御手段は、前記車両の位置及び方向を復帰させる復帰指示に応じて、前記入力手段が前記復帰指示の入力を受けた位置から前記軌跡情報に含まれる前記区切り目の位置まで、前記記憶手段により記憶された前記軌跡情報に基づいて前記車両の移動を制御し、
前記記憶制御手段は、前記車両の速度が所定の速度以下の場合に前記軌跡情報を記憶し、前記車両の速度が前記所定の速度を超えても、所定時間は前記軌跡の記憶を続行することを特徴とする運転支援装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、運転者の運転技術の向上に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る車両用制御装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第一実施形態]
●自動運転車両の構成
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用制御装置のブロック図であり、車両1を制御する。
図1において、車両1はその概略が平面図と側面図とで示されている。車両1は一例としてセダンタイプの四輪の乗用車である。
【0010】
図1の制御装置は、制御ユニット2を含む。制御ユニット2は車内ネットワークにより通信可能に接続された複数のECU20~29を含む。各ECUは、CPUに代表されるプロセッサ、半導体メモリ等の記憶デバイス、外部デバイスとのインタフェース等を含む。記憶デバイスにはプロセッサが実行するプログラムやプロセッサが処理に使用するデータ等が格納される。各ECUはプロセッサ、記憶デバイスおよびインタフェース等を複数備えていてもよい。
【0011】
以下、各ECU20~29が担当する機能等について説明する。なお、ECUの数や、担当する機能については適宜設計可能であり、本実施形態よりも細分化したり、あるいは、統合することが可能である。
【0012】
ECU20は、車両1の自動運転に関わる制御を実行する。自動運転においては、車両1の操舵と、加減速と、停止との少なくともいずれか一方を自動制御する。後述する制御例では、操舵と加減速の双方を自動制御する。ECU20には、軌跡情報を記憶するための軌跡情報記憶部20aが接続されており、一定の条件を満たした場合に、車両1の走行軌跡を特定するための情報が記憶される。すなわちECU20は、軌跡情報を軌跡情報の記憶部20aに記憶させるための記憶制御手段として制御する。軌跡情報には、たとえば時刻やイベントと関連付けた操舵角や速度(車輪速)、進行方向(前進又は後退)が含まれてよい。そのほかジャイロ5で検知した情報に基づいて算出した車両の方向、GPS車載機で検知した位置情報やタイヤの回転数で検知した位置情報を含んでもよい。なお、記憶部20aは制御ユニット20内及びECU20に接続される構成だけでなく、通信を介して記憶される構成、例えばサーバー上に位置してもよい。
【0013】
ECU21は、電動パワーステアリング装置3を制御する。電動パワーステアリング装置3は、ステアリングホイール31に対する運転者の運転操作(操舵操作)に応じて前輪を操舵する機構を含む。また、電動パワーステアリング装置3は操舵操作をアシストしたり、あるいは、前輪を自動操舵するための駆動力を発揮するモータや、操舵角を検知するセンサ等を含む。車両1の運転状態が自動運転の場合、ECU21は、ECU20からの指示に対応して電動パワーステアリング装置3を自動制御し、車両1の進行方向を制御する。
【0014】
ECU22および23は、車両の周囲状況を検知する検知ユニット41~43の制御および検知結果の情報処理を行う。検知ユニット41は、車両1の前方を撮影するカメラであり(以下、カメラ41と表記する場合がある。)、本実施形態の場合、車両1のルーフ前部でフロントウィンドウの車室内側に取り付けられる。カメラ41が撮影した画像の解析により、物標の輪郭抽出や標識内容、道路上の車線の区画線(白線等)を抽出可能である。
【0015】
検知ユニット42は、Light Detection and Ranging(LIDAR:ライダ)であり(以下、ライダ42と表記する場合がある)、車両1の周囲の物標を検知したり、物標と車両1との距離を測定する。本実施形態の場合、ライダ42は5つ設けられており、車両1の前部の各隅部に1つずつ、後部中央に1つ、後部各側方に1つずつ設けられている。検知ユニット43は、ミリ波レーダであり(以下、レーダ43と表記する場合がある)、車両1の周囲の物標を検知したり、物標と車両1との距離を測定する。本実施形態の場合、レーダ43は5つ設けられており、車両1の前部中央に1つ、前部各隅部に1つずつ、後部各隅部に一つずつ設けられている。
【0016】
ECU22は、一方のカメラ41と、各ライダ42の制御および検知結果の情報処理を行う。ECU23は、他方のカメラ41と、各レーダ43の制御および検知結果の情報処理を行う。車両の周囲状況を検知する装置を二組備えたことで、検知結果の信頼性を向上でき、また、カメラ、ライダ、レーダといった種類の異なる検知ユニットを備えたことで、相互補完作用が働き車両の周辺環境の解析を多面的に行うことができる。
【0017】
ECU24は、ジャイロセンサ5、GPSセンサ24b、通信装置24cの制御および検知結果あるいは通信結果の情報処理を行う。ジャイロセンサ5が角速度を検知することにより、ECU24は車両1の回転運動・回転挙動を検知する。ジャイロセンサ5の検知結果や、車輪速等により車両1の進路を判定することができる。GPSセンサ24bは、車両1の現在位置を検知する。通信装置24cは、地図情報や交通情報を提供するサーバと無線通信を行い、これらの情報を取得する。ECU24は、記憶デバイスに構築された地図情報のデータベース24aにアクセス可能であり、ECU24は現在地から目的地へのルート探索等を行う。
【0018】
ECU25は、車車間通信用の通信装置25aを備える。通信装置25aは、周辺の他車両と無線通信を行い、車両間での情報交換を行う。
【0019】
ECU26は、パワープラント6を制御する。パワープラント6は車両1の駆動輪を回転させる駆動力を出力する動力源となる機構であり、例えば、エンジンと変速機とを含む。あるいは、パワープラント6を電気モータ(単にモータとも呼ぶ)で構成してもよいし、内燃機関とモータとを組み合わせて構成してもよい。ECU26は、例えば、アクセルペダル7Aに設けた操作検知センサ7aにより検知した運転者の運転操作(アクセル操作あるいは加速操作)に対応してエンジンの出力を制御したり、車速センサ7cが検知した車速等の情報に基づいて変速機の変速段を切り替える。車両1の運転状態が自動運転の場合、ECU26は、ECU20からの指示に対応してパワープラント6を自動制御し、車両1の加減速を制御する。
【0020】
ECU27は、方向指示器8(ウィンカ)を含む灯火器(ヘッドライト、テールライト等)を制御する。
図1の例の場合、方向指示器8は車両1の前部、ドアミラーおよび後部に設けられている。
【0021】
ECU28は、入出力装置9の制御を行う。入出力装置9は運転者に対する情報の出力と、運転者からの情報の入力の受け付けを行う。音声出力装置91は運転者に対して音声により情報を報知する。表示装置92は運転者に対して画像の表示により情報を報知する。表示装置92は例えば運転席正面に配置され、インストルメントパネル等を構成する。なお、ここでは、音声と表示を例示したが振動や光により情報を報知してもよい。また、音声、表示、振動または光のうちの複数を組み合わせて情報を報知してもよい。更に、報知すべき情報のレベル(例えば緊急度)に応じて、組み合わせを異ならせたり、報知態様を異ならせてもよい。
【0022】
入力装置93は運転者が操作可能な位置に配置され、車両1に対する指示を行うスイッチ群であるが、音声入力装置やジェスチャー検知装置も含まれてもよい。入力装置93には、本実施形態に係る、復帰スイッチ931も備えられている。復帰スイッチ931は、復帰の要求又は指示のためのスイッチであり。それを運転者が押下することで、制御ユニット2が、車両を、所定の時点または指定された時点または選択された時点の状態に戻す。戻されるのがどの時点での状態であるかは、たとえばあらかじめ決めておいてもよいし、操作の都度運転者が選択してもよい。選択は例えば復帰スイッチを複数設け、操作されたスイッチに応じて行われてもよいし、操作時間によって決定してもよい。
【0023】
ECU29は、ブレーキ装置10やパーキングブレーキ(不図示)を制御する。ブレーキ装置10は例えばディスクブレーキ装置であり、車両1の各車輪に設けられ、車輪の回転に抵抗を加えることで車両1を減速あるいは停止させる。ECU29は、例えば、ブレーキペダル7Bに設けた操作検知センサ7bにより検知した運転者の運転操作(ブレーキ操作)に対応してブレーキ装置10の作動を制御する。車両1の運転状態が自動運転の場合、ECU29は、ECU20からの指示に対応してブレーキ装置10を自動制御し、車両1の減速および停止を制御する。ブレーキ装置10やパーキングブレーキは車両1の停止状態を維持するために作動することもできる。また、パワープラント6の変速機がパーキングロック機構を備える場合、これを車両1の停止状態を維持するために作動することもできる。
【0024】
●制御例
図2に本実施形態に係る車両の運転の例を示す。
図2(A)に示すように、3台並列に駐車している車両がある。そのうち車両201と202とに挟まれた車両1がマニュアル運転で図の右方向へと出庫しようとしている。そのため運転者は右方向へとステアリング操作するが、舵角が不足して左側の障害物203を避けられず、
図2(B)の状態に至っている。
図2(B)中、二つの点線矢印101、102は、車両1の前部および後部の中央部の軌跡をそれぞれ示している。これは他の図でも同様である。
【0025】
図2(B)の状態から障害物203を回避するために、運転者は切り返しを試みる。すなわち左後方へと後退するよう左向きに操舵し、後進して
図2(C)の状態に至る。
図2(C)の状態からは、前方へとやや直進した後で右に向けて操舵することで右方向へと進路をとることができる。しかしながらこの運転者は右側の障害物(駐車車両202)に対する見切りがうまくできずに操舵量が不足し、障害物204を避けきれずに
図2(D)の状態になっている。
【0026】
ここで運転者は、再度の切り返しを行うことなく、元の位置(
図2(C)の車両1の位置)へと戻すべく、右方向へとステアリング操作を行いつつ後退を試みた結果
図2(E)の状態になる。しかしながら、元の位置(
図2(C)の車両1の位置)には戻らず、より車両202に接近した位置(
図2(E))へと移動している。ここで運転者は元の位置(
図2(C)の車両1の位置)に戻っていないことに気づき、また状況の打開に困難を感じて、
図2(C)の位置まで、本実施形態に係る復帰操作を行う。この復帰操作に応じて、車両1はまず、自動運転機能によって
図2(E)の位置から
図2(D)の位置へと、
図2(D)から
図2(E)の位置まで移動した軌跡(又は経路)を逆にたどるよう制御される。続いて、
図2(D)の位置から
図2(C)の位置へと、
図2(C)から
図2(D)の位置まで移動した軌跡を逆にたどるよう制御される。
【0027】
図2(C)の位置へと車両1が戻ったところで自動運転は中断される。この後は、運転者は再度
図2(C)の位置からマニュアル運転で車両1を走行させる。このように再度の試みの結果、例えば
図2(F)に示すように、適切なタイミングで適切な操舵を行うことで、障害物202,204をかわして走行車線に出ることができる。このように、運転が困難な部分を自動運転に委ねるのではなく、むしろマニュアル運転でうまくいかなかった状態を自動運転機能により再現し、マニュアル運転技術を向上させるための訓練に自動運転を利用できる。
【0028】
●復帰のための軌跡情報の記録処理
図3に、車両1の軌跡情報を記録するための処理手順の一例を示す。この手順はたとえば自動運転を制御するECU20により、ECU20が有するメモリに記憶したプログラムを実行することで実現される。
図3の処理は閉ループを構成しているが、たとえばマルチタスク環境で実行されることなどにより他の処理の並列的な実行が可能である。なお軌跡情報は前述したように軌跡そのものとは限らず、車両の経路や姿勢に関する履歴の場合もあるので、運転履歴情報と呼ぶ場合もある。
【0029】
図3の手順が開始されるとまず、軌跡情報を記録すべきことを示す情報である軌跡情報記録フラグがオンであるか判定する(S301)。軌跡情報記録フラグは例えば、常時オンにセットされてもよいし、運転者が操作部などから操作することでオンとオフとを切り替えることができてもよい。オフであれば軌跡情報の記録は行われないのでこのまま処理を終了する。一方、軌跡情報記録フラグがオンであれば、後述する記録タイマのカウントをスタートして、所定時間待機する(S303)。この待機時間が軌跡情報のサンプリング間隔となる。待機後、経路イベントが待機中に発生したか判定する(S305)。経路イベントとは、軌跡情報を参照して車両状態を復帰させる際に区切りとなるイベントであり、車両1が走行した経路の区切り目を示す。経路イベントは復帰動作や運転者による運転し直しの開始点となり得るため、車両速度が0となるようなイベントが望ましい。たとえば、車両1自身に生じるイベントとして、車速が0となり停止したこと、変速機が前進から後退へと操作されたこと、逆に後退から前進へと操作されたことなどがある。また、車両1が例えば自宅車庫の前のあらかじめ指定した位置に達したこと、あるいはその位置で停止したことなど、そのほかの経路イベントもあり得る。これら経路イベントの情報は、それぞれのイベントが生じるアクチュエータやセンサからそれらを制御するECUが受信し、ECU20に通知されてよい。
図3には示していないが、経路イベントの発生を示す情報は、一旦経路イベントが発生するとS305でテストされるまで保持され、S305でテストされると消去されてよい。
【0030】
ここで記録タイマとは、車両の記録を行うサンプリングタイミングの間隔を計測するタイマのことである。サンプリングタイミングは少なくとも1秒以下、好ましくは0.1秒以下であるが、車両1の車速によって変わってよい。さらに言えば、車速が0の間はサンプリングタイミングは1秒以上であってもよい。記録タイマは例えばECU20が有するタイマを用いてよく、あらかじめ定めた所定の期間を測定する。このサンプリングタイミングは、本実施形態では車両の走行軌跡をたどるための軌跡情報のサンプリング間隔であるので、走行軌跡を必要な精度で復元できる程度の時間間隔であれば良い。後述のとおり軌跡情報の記録は一定速度以下の低速領域に限られているので、上述の通りさほど短時間でなくともよい。
【0031】
経路イベベントではないと判定された場合には、現在の走行速度が所定速度以下であるか判定する(S307)。これは、本実施形態の復帰操作は、高速での走行についても適用可能ではあるものの、指定された時点における位置へと車両を高精度で安全に復帰させることができることに特に利点があり、この利点は低速度でより効果的であると考えられるためである。また限られた速度域に限って軌跡情報を記録することは、記憶容量の節約にも役立つ。
【0032】
現在の速度が所定速度以下であると判定した場合には、軌跡情報を記録する(S309)。軌跡情報は時刻と関連付けられて記録されるが、この時刻とは、記録された軌跡情報の末尾に相当する時刻からの相対的な時間が特定できればよい。したがって時刻は、例えば軌跡情報の記録開始時点を起点とした経過時間などでもよい。また軌跡情報は、たとえば操舵輪の舵角と速度と進行方向とを含んでいてよい。速度は例えば車輪速センサにより計測した車輪速であり、測定した各車輪の速度であってもよいし、それらの平均値であってもよい。また進行方向は速度の正負で表すこともできる。このほか、文字通りサンプリング時点での位置と車体の向いている方角とを示す情報であってもよい。これらの他に位置及び方角はGPS24bや、はジャイロ5、タイヤの回転回数で取得してもよい。軌跡情報を記録し終えたなら、蓄積した軌跡情報の量が、所定量を超えていれば、所定量以下になるまで古い軌跡情報から順に削除する(S310)。その後S301へと分岐する。なお軌跡情報を記憶する容量は、時間にして一定時間、例えば1分から5分程度の軌跡を記録できる程度でよいが、もちろんこれに限らない。一方S307で、所定速度を超過していると判定された場合にもS301へと分岐する。なおここでは例えばリングバッファを用いて古い軌跡情報を新しい軌跡情報で上書きするように構成してもよい。そのようにした場合にはS310の工程を省いてよい。
【0033】
一方S305で経路イベントの発生と判定した場合には、現在の車両の速度の絶対値が所定速度以下か判定する(S311)。この判定はS307と同様であってよい。現在の速度が所定速度以下であると判定した場合には、軌跡情報を記憶する(S313)。ここで軌跡情報は、時刻および経路イベントを示す情報と関連付けられて記憶される。時刻についてはS309で説明したとおりである。経路イベントについては、たとえば停止や前進と後退の切り替え、所定位置への到着などを示す情報であってよい。なおS309で記録する情報と統一的な形式とするために、S309でも、時刻に加えて、空の経路イベント情報を軌跡情報に関連付けてもよい。その後S310に分岐する。S311で所定速度を超過していると判定された場合には、S301に分岐する。なおS307やS311で所定速度を超過していると判定されて軌跡情報の記録が行われない場合には、復帰可能な軌跡の記録はそこで中断されるので、それまでに記録した軌跡情報をいったん消去してもよい。
【0034】
以上の手順で、条件に適合したタイミングで車両の軌跡情報を記録する。
図3の手順から、記録タイマに設定した時間間隔で軌跡情報は記録される。そのときに経路イベントが発生していたなら、経路イベントも時刻に関連付けて記録しておく。これによって、たとえば、2つの経路イベントをそれぞれ開始点と終了点とする区間の軌跡情報について、終了点の時刻を0に換算して、そこから軌跡情報を時間に沿って遡り、経過時間に応じた記録情報たとえば舵角及び速度となるようパワープラント6及びステアリング装置3をECU20,21により制御する。この制御を区間の開始点まで行うことで、車両を区間の開始点における位置及び方向に戻す(復帰させる)ことができる。なお
図3の手順では、車速が所定速度を超えると軌跡情報は記録されない。しかし車速が所定速度を超えるのはわずかな期間であり、すぐに所定速度以下へと戻ることもある。そのような場合を想定して、たとえば車速が所定速度を超えても一定時間を記録する続行し、その時間を超過しても車速が所定速度を超えていたなら初めて軌跡情報の記録を停止してもよい。
【0035】
●復帰制御
図4は、
図3の手順で記録し収集した軌跡情報(運転履歴情報)に基づいて、車両を所定の時点における位置及び方向へと復帰させる手順の一例を示す。この手順はたとえば自動運転を制御するECU20により、ECU20が有するメモリに記憶したプログラムを実行することで実現される。
図4の手順はたとえば、復帰スイッチ(復帰操作部)931の操作をトリガとして開始される。なお
図4の手順特にS401以降は自動運転による制御となるので、この間にもレーダやライダ、カメラ、ソナーなどの各種センサによる外部環境の監視は途切れることなく行われ、衝突のおそれがあると判断されれば
図3の手順は中断されて車両は停止する。この場合には中断した時点におけるコンテキストを記憶しておき、衝突のおそれが解消されたなら中断した時点から復帰動作を続けてもよい。また、運転者を監視するモニタや運転者がステアリングホイールを把持していることを検知する把持センサが車両1に備わっているなら、それらセンサを用いて自動運転中の運転者が進行方向や周辺を監視していること、ステアリングホイールを把持していることを監視してもよい。
【0036】
まず現在車両1が停止中であるか判定する。本例では復帰スイッチの操作は停止中に限って受け付けるものとし、停止中でなければ操作は無視する。停止中であると判定した場合には、軌跡情報記録フラグをオフにする(S401)。復帰動作は自動運転であり、その軌跡情報は残す必要がないためである。それから、軌跡情報に従って車両の復帰動作を行う。ここで、現在の停止状態に係る経路イベントを終了点とし、指定されたイベント例えば終了点の直前の経路イベントを開始点とする軌跡情報の区間が復帰動作の対象となる区間である。この区間を終了点から開始点まで遡る軌跡をたどるよう車両1の自動運転を行う。そこでその終了点すなわち当該区間の軌跡情報の末尾から順に、軌跡情報を、奇跡情報に関連付けられた時刻を遡るように参照する(S403)。そして車両の位置及び方向が、遡った時間に対応する軌跡情報に一致するよう、ECU20は車両のパワープラントや各アクチュエータを制御する(S405)。たとえば、前述のサンプリング間隔(S303)が0.1秒に設定されていて、軌跡情報として舵角と車両速度とが0.1秒間隔で記録されているとする。その場合、終了点の状態から軌跡情報を遡り、0.1秒ごとに関連付けられたその舵角と車両速度となるよう、ECU20はたとえばステアリング装置3やパワーユニット6を制御する。ただし進行方向は、軌跡情報の記録とは反対方向とする。すなわち、軌跡情報が前進を示しているなら、ECU20は車両が後退するよう制御する。その逆も同様である。一方、速度の絶対値や舵角は軌跡情報に記録された通りでよい。ここではその運転制御は、制御対象をスムーズに駆動するように行われてよい。たとえば前述した例のように0.1秒間隔である舵角を与えるのであれば、例えば現在の舵角から目的の舵角へ一定のレートで変化させるよう制御される。速度についても同様でよい。なおS405の制御においては、記録した速度をそのまま再現せずに、S307,S311における所定速度を復帰時の速度の上限としてもよい。
【0037】
軌跡情報の1サンプルについて復帰動作が行われたならば、復帰先(すなわり復帰動作の終了)は何により指定されるかを判定する(S407)。なお1サンプルとは一回のサンプリングで記録された軌跡情報の組である。復帰先の指定は、例えば指定した経路イベントの発生時であったり、軌跡情報の終了点から所定時間前まで遡った時点であったり、あるいは、復帰動作を行いながら復帰操作が終了された時点、たとえば復帰スイッチがオン状態からオフ状態へと切り替えられた時点であったりしてよい。
図4ではこの3つのいずれで復帰先が指定されるかを判定している。復帰先の指定は予め決めておいてもよいし、車両1に搭載されるデイスプレイ(図示なし)に候補を表示し利用者が適宜選択してもよい。またいずれか一つに固定しておいてもよい。ディスプレイとしてタッチパネルを用いる場合には、蓄積した軌跡情報及び地図情報を用いて、ディスプレイ上に周辺の地図と記録された軌跡を表示してよい。そしてその表示上で運転者に復帰先を指定させて良い。この場合には表示上で指定された位置に対応する時刻または経路イベントを軌跡情報から特定し、経路イベントを特定できる場合には復帰先のイベントの指定、そうでない場合には時間の指定として処理を進めてよい。
【0038】
S407において、復帰先が、復帰操作終了まで、と判定された場合には、復帰操作が終了しているか判定する(S409)。復帰操作の終了はたとえば復帰スイッチ931をオンからオフへ切り替えたことなどである。復帰操作が終了していれば復帰動作は終了するためS413へと分岐する。復帰動作を終了させないのであればS403から繰り返す。なお復帰操作の終了ではなく、復帰の操作を終了させる指示であってもよい。
【0039】
復帰先が指定イベントと判定された場合には、S405で処理対象とした軌跡情報に含まれた経路イベントが、指定したイベントであるか判定する(S411)。指定したイベントは、予め決めておいてもよいし、運転者が操作の都度選択できてもよい。指定したイベントとしは、たとえば前述したような、軌跡情報の終了点の直前の経路イベント、たとえば停止や前進/後退の切り替えなどであってよい。また指定イベントはたとえば指定した位置(例えば駐車場)への到着などであってもよい。指定したイベントまで復帰動作が行われたなら復帰を終了させるべくS413に遷移する。
【0040】
また、復帰先が指定時間前であると判定された場合には、S405で処理した軌跡情報が、復帰動作を開始した時点(すなわち軌跡情報の末尾に関連付けられた時刻)から指定時間以上前の時刻に関連付けられているか判定する(S415)。指定時間は所定時間であってもよいし、復帰操作の都度指定してもよい。たとえば指定時間が30秒であれば、軌跡情報の末尾に関連付けられた時刻、すなわち現在位置へと到着した時刻から指定時刻即ち30秒の位置まで復帰させる。S415の条件が満たされたなら指定時間前の状態まで復帰したものとしてS413へと分岐し、復帰動作を終了させる。
【0041】
復帰動作を終了させる場合には、自動運転を中止して車両を停車させ、パワーユニットが内燃機関であれば変速機をニュートラル状態とし、軌跡情報記録フラグをオンにし、復帰した分の軌跡情報を消去する(S413)。軌跡情報は、その終了点における車両の位置及び方向が、実際の車両のそれと一致していなければそれを利用して復帰させることが困難なので、本例では一回性のものとしている。また開始点まで復帰した状態から運転者がマニュアル運転を行うことが前提なので、復帰が完了した時点で車両を停止させ、思わぬ方向へと走り出さないように中立状態に戻しておく。
【0042】
図2を参照すると、このようにして例えば
図2(E)から
図2(D)に戻せる。ただし1回の復帰操作でたとえば前回の車両の停止位置まで復帰させるとすれば、
図2(E)から
図2(C)まで戻すためには、2回復帰の操作をすることなる。また、復帰操作がされている間、復帰動作をおこなうならば、運転者は
図2(E)の状態から
図2(C)の状態まで復帰スイッチ931を操作し続ければよい。また、1回の復帰動作で一定時間前の状態に戻る場合には、大体
図2(C)の状態になる回数の復帰操作を行えばよい。なお、復帰動作の途中で運転手によって、ブレーキ操作などの操作が行われた場合は、運転手による操作を優先させる制御を行う。再度、復帰操作が行われた場合に中断された復帰動作をおこなってもよい。
【0043】
以上の手順および制御により、運転者は所望のタイミングにおける位置及び方向へと車両を戻すことができる。そして運転者は、困難を覚えた状況を再現し、自身の運転操作でその状況を乗り越える経験を積むことができる。これによって運転技量の向上を図ることができる。さらに、復帰動作では、現在位置までの経路を逆にたどるので、経路中の所望の位置を運転開始位置として選択することもできる。
【0044】
なお上記実施形態では、車両として自動車を例に挙げているが、自走可能な車両であり、自動運転機能を有する車両であればどのような車両であってもよい。また実施形態では軌跡情報として操舵輪の舵角と速度および方向を記録しているが、元の位置および方向に戻せるのであれば他の情報であってもよい。たとえば、GPS等で取得した位置情報と、ジャイロセンサ等で取得した方角情報とを移動中にサンプリングし、それを軌跡情報としてもよい。この場合には、サンプリングした情報を時間的に遡って、記録された位置と方角(車両の向き)とを再現するように駆動制御される。この場合には、車輪による駆動でなくとも復帰動作を行うことができる。また上記実施形態では、経路イベントの発生を判定しているが、これをやめて予定時間おきのサンプリングのみとしてもよい。この場合には
図3のS305,S311,S313と、
図4のS407における指定イベントの分岐はなくてよい。したがって復帰先の指定は、指定時間前までか、または復帰操作の終了までのいずれかとなる。
【0045】
さらに、実施形態の車両は自動運転機能を有するものであったが、それよりも水準が低い自動駐車機能を有する車両であっても、軌跡情報に沿って戻すのであれば本実施形態の復帰制御が可能である。また経路をたどらずに、軌跡情報の中から指定された時点における位置に移動させ、車体をその時点での方向へと向けてもよい。この場合には、例えば軌跡情報に基づいた走行軌跡をディスプレイに表示し、その軌跡から運転者に位置を指定させてよい。その後は、自動運転機能により、指定された位置へ移動してその位置における方向へ向けるための経路を決定し、その経路に沿った運転を制御すればよい。さらに、上記実施形態では、軌跡情報を記録する条件を自動的に判定して条件具備であれば記録するが、記録開始のトリガを運転者などの乗員が与えてもよい。この場合には、運転者が所定のボタンを押すなどの操作をトリガとして、軌跡情報が記録される。ただしこの場合にも、速度が所定速度以下であることを条件としてもよい。
【0046】
●実施形態のまとめ
(1)本発明の第1の側面によれば、自走可能な車両の移動の軌跡情報を記憶手段に記憶させる記憶制御手段と、
前記車両の移動の制御を行う制御手段と、
前記車両の乗員による指示を入力するための入力手段とを有し、
前記制御手段は、前記指示に応じて前記軌跡情報に含まれる位置へ、前記記憶手段により記憶された前記軌跡情報に基づいて前記車両の移動を制御する
ことを特徴とする運転支援装置が提供される。
【0047】
これにより、困難な状況での運転をやり直すことができ、運転者の運転技術の向上に貢献する。
(2)本発明の第2の側面によれば、(1)に記載の運転支援装置であって、
前記記憶制御手段は、第1の位置から前記入力手段が前記指示の入力を受けた位置までの移動について前記軌跡情報を記憶させ、
前記制御手段は、前記指示に応じて、前記入力手段が前記指示の入力を受けた位置から前記第1の位置まで前記軌跡情報に基づいて前記車両の移動を制御する
ことを特徴とする運転支援装置が提供される。
【0048】
これにより、軌跡情報で特定される現在位置から第1の位置まで車両を戻すことができ、運転をやり直すことができる。
(3)本発明の第3の側面によれば、(2)に記載の運転支援装置であって、
前記第1の位置は、前記入力手段が前記指示の入力を受けた位置に前記車両が達した時点から所定時間前の位置である
ことを特徴とする運転支援装置が提供される。
【0049】
これにより、軌跡情報で特定される現在位置から所定時間前の位置まで車両を戻すことができ、所定時間前の位置から運転をやり直すことができる。
(4)本発明の第4の側面によれば、(2)に記載の運転支援装置であって、
前記第1の位置は、前記入力手段が前記指示の入力を受けた位置に前記車両が達した時点の直前に停止した位置である
ことを特徴とする運転支援装置が提供される。
【0050】
これにより、軌跡情報で特定される現在位置からその直前に停止した位置まで車両を戻すことができ、前に停止した位置から運転をやり直すことができる。
(5)本発明の第5の側面によれば、(2)に記載の運転支援装置であって、
前記第1の位置は、前記軌跡情報に基づいた前記車両の移動の停止が前記入力手段により指示された位置である
ことを特徴とする運転支援装置が提供される。
【0051】
これにより、軌跡情報で特定される現在位置から車両の移動の停止が指示された位置まで車両を戻すことができ、所望の位置から運転をやり直すことができる。
(6)本発明の第6の側面によれば、(1)乃至(5)のいずれかに記載の運転支援装置であって、
前記記憶制御手段は、前記車両の速度が所定の速度以下の場合に、前記軌跡情報を記憶させる
ことを特徴とする運転支援装置が提供される。
【0052】
これにより、軌跡情報を収集する機会を減らして記憶する情報量を抑制できる。
【符号の説明】
【0053】
1 車両、2 制御ユニット、20 ECU、20a 軌跡情報記憶部,931 復帰スイッチ