(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】点灯回路および車両用灯具
(51)【国際特許分類】
H05B 45/48 20200101AFI20221128BHJP
B60Q 1/04 20060101ALI20221128BHJP
H01L 33/00 20100101ALI20221128BHJP
【FI】
H05B45/48
B60Q1/04 E
H01L33/00 J
(21)【出願番号】P 2018231516
(22)【出願日】2018-12-11
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】市川 知幸
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-153657(JP,A)
【文献】特開2018-107985(JP,A)
【文献】特開2010-123644(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0332452(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 45/00
B60Q 1/04
H01L 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続される複数の発光素子を含む半導体光源のための点灯回路であって、
入力電圧を受け、前記半導体光源に駆動電流を供給する駆動回路と、
それぞれが前記複数の発光素子の対応する部分と並列に接続される複数m個(m≧2)のバイパススイッチと、
位相シフトしているm相のゲートパルス信号を生成し、各ゲートパルス信号のデューティ比を、対応する部分の目標輝度に応じて変化させ、前記m相のゲートパルス信号に応じて前記m個のバイパススイッチを制御するバイパス制御部と、
を備え、
前記バイパス制御部は、各ゲートパルス信号のデューティ比を、前記入力電圧に応じて補正することを特徴とす
る点灯回路。
【請求項2】
直列に接続される複数の発光素子を含む半導体光源のための点灯回路であって、
入力電圧を受け、前記半導体光源に駆動電流を供給する駆動回路と、
それぞれが前記複数の発光素子の対応する部分と並列に接続される複数m個(m≧2)のバイパススイッチと、
位相シフトしているm相のゲートパルス信号を生成し、各ゲートパルス信号のデューティ比を、対応する部分の目標輝度に応じて変化させ、前記m相のゲートパルス信号に応じて前記m個のバイパススイッチを制御するバイパス制御部と、
を備え、
各ゲートパルス信号のデューティ比は、前記入力電圧に応じて定まる値と前記目標輝度に応じて定まる値のうち、対応するバイパススイッチのオン時間が長くなる一方であることを特徴とする点灯回路。
【請求項3】
直列に接続される複数の発光素子を含む半導体光源のための点灯回路であって、
入力電圧を受け、前記半導体光源に駆動電流を供給する駆動回路と、
それぞれが前記複数の発光素子の対応する部分と並列に接続される複数m個(m≧2)のバイパススイッチと、
位相シフトしているm相のゲートパルス信号を生成し、前記m相のゲートパルス信号に応じて前記m個のバイパススイッチを制御するバイパス制御部と、
を備え、
各ゲートパルス信号のデューティ比は、対応する部分の目標輝度に応じた値と、前記入力電圧に応じた値の一方を有し、
各ゲートパルス信号のデューティ比は、前記入力電圧に応じて定まる値と前記目標輝度に応じて定まる値のうち、対応するバイパススイッチのオン時間が長くなる一方であることを特徴とす
る点灯回路。
【請求項4】
各ゲートパルス信号のデューティ比は、前記入力電圧に応じて定まる値と前記目標輝度に応じて定まる値のうち、対応するバイパススイッチのオン時間が長くなる一方であることを特徴とする請求項
1に記載の点灯回路。
【請求項5】
前記入力電圧に応じて定まるデューティ比の値は、前記入力電圧に応じて連続的に変化することを特徴とする請求項
2から4のいずれかに記載の点灯回路。
【請求項6】
前記バイパス制御部は、m相の三角波信号と、m個の部分の目標輝度に応じたm個の第1スライスレベルと、前記入力電圧にもとづいて定まる第2スライスレベルと、を生成し、i番目の第1スライスレベルと前記第2スライスレベルのうち一方と、i番目の三角波信号の比較結果にもとづいて、i番目のゲートパルス信号を生成することを特徴とする請求項
1から5のいずれかに記載の点灯回路。
【請求項7】
前記駆動回路は、
降圧コンバータと、
前記駆動電流が目標量に近づくように前記降圧コンバータをフィードバック制御するリップル制御方式のコンバータコントローラと、
を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の点灯回路。
【請求項8】
前記駆動回路は、前記降圧コンバータの出力と接続される電流平滑化フィルタをさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の点灯回路。
【請求項9】
複数の発光素子を含む半導体光源と、
前記半導体光源を駆動する請求項1から8のいずれかに記載の点灯回路と、
を備えることを特徴とする車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などに用いられる灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用灯具に用いられる光源として、従来は電球が多く用いられてきたが、近年では、LED(発光ダイオード)などの半導体光源が広く採用されるようになっている。
【0003】
図1は、従来の灯具システム1Rのブロック図である。灯具システム1Rは、バッテリ2、スイッチ4、車両側ECU6および車両用灯具10Rを備える。
【0004】
車両用灯具10Rには、スイッチ4を介してバッテリ2からの直流電圧(入力電圧VIN)が供給され、入力電圧VINを電源として、光源20を点灯させる。また車両用灯具10Rには、車両側ECU6からの制御信号が入力されており、制御信号に応じて、光源20の輝度あるいは配光パターンを制御可能に構成される。
【0005】
車両用灯具10Rは、光源20および点灯回路100Rを備える。光源20は直列に設けられた複数の発光素子(たとえばLED)22_1~22_n(
図1ではn=3)を含む。
【0006】
点灯回路100は、定電流ドライバ110、PWM調光回路120を備える。定電流ドライバ110の出力は光源20と接続されており、目標量に安定化された駆動電流IOUTを光源20に供給し、光源20を発光させる。
【0007】
複数の発光素子22_1~22_3は、共通の駆動電流IOUTによって駆動されるため、いわゆるアナログ調光によって独立して輝度を制御することはできない。複数の発光素子22_1~22_3の輝度および点消灯を独立に制御するために、PWM調光回路120が設けられる。PWM調光回路120は、複数のバイパススイッチSW1~SW3およびバイパス制御部122を含む。i番目のバイパススイッチSWiがオフのとき駆動電流IOUTはそれと並列な発光素子22_iに流れ、発光素子22_iは発光する。i番目のバイパススイッチSWiがオンのとき駆動電流IOUTはバイパススイッチSWi側に迂回するため、発光素子22_iは消灯する。バイパス制御部122は、バイパススイッチSWiを、肉眼で識別できない程度に高速(たとえば60Hz以上)でオン、オフさせ、デューティ比を調節することにより、発光素子22_iの実効的な輝度(輝度の時間平均)を調節することができる。これをPWM調光という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは
図1の点灯回路100Rについて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0010】
発光素子22に、目標量IREFに安定化された駆動電流ILEDが流れているときの順方向電圧をVf0とすると、光源20の両端間電圧(最低点灯電圧という)VMINは、Vf0×nとなる。n=3とすると、白色LEDではVMIN≒11Vであり、赤色LEDではVMIN≒9Vである。言い換えると、LEDドライバ110の出力電圧VOUTが、この最低点灯電圧VMINを下回ると、駆動電流ILEDが目標量IREFを維持できなくなり、複数の発光素子22の輝度が一斉に低下し、消灯する。
【0011】
低コスト化が求められるランプの場合、LEDドライバ110は、定電流シリーズレギュレータあるいは定電流出力の降圧型スイッチングコンバータで構成される。この場合、LEDドライバ110の出力電圧VOUTは、入力電圧VINより低くなる。入力電圧VINは、バッテリの満充電状態で13Vであるが、放電が進むと、10V以下まで低下することも珍しくない。したがって、バッテリ電圧が低下すると(低電圧状態という)、出力電圧VOUTが最低点灯電圧VMINを下回る状況が生じ、複数の発光素子22の輝度が低下する。
【0012】
低電圧状態における光源20の完全消灯を防止するために、バイパス制御部122は、入力電圧VINを監視する。そして入力電圧VINが、あるしきい値VTHより低くなると低電圧状態と判定し、特定のバイパススイッチ(たとえば最も低電位側のバイパススイッチ)SWnを固定的にオンする。この状態では、最低点灯電圧VMIN=Vf0×(n-1)となり、VIN>VMINが保たれる。つまり、発光素子22_nの消灯と引き換えに、残りの発光素子22_1~22_(n-1)の点灯を維持することができる。
【0013】
この制御を行うと低電圧状態において常に同じ発光素子22_nが消灯する。これは、複数の発光素子22_1~22_nを同じ輝度で発光させる場合に輝度ムラの原因となる。あるいは意図的に発光素子22_1~22_nの輝度を異ならしめてある配光パターンを形成したい場合に、所望の配光パターンが得られないという問題が生ずる。
【0014】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、低電圧状態においても、所望の配光パターンを得ることができ、あるいは輝度ムラを抑制可能な点灯回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のある態様は、直列に接続される複数の発光素子を含む半導体光源のための点灯回路に関する。点灯回路は、入力電圧を受け、半導体光源に駆動電流を供給する駆動回路と、それぞれが複数の発光素子の対応する部分と並列に接続される複数m個(m≧2)のバイパススイッチと、位相シフトしているm相のゲートパルス信号を生成し、各ゲートパルス信号のデューティ比を、対応する部分の目標輝度に応じて変化させ、m相のゲートパルス信号に応じてm個のバイパススイッチを制御するバイパス制御部と、を備える。
【0016】
本発明の別の態様も、直列に接続される複数の発光素子を含む半導体光源のための点灯回路に関する。点灯回路は、入力電圧を受け、半導体光源に駆動電流を供給する駆動回路と、それぞれが複数の発光素子の対応する部分と並列に接続される複数m個(m≧2)のバイパススイッチと、位相シフトしているm相のゲートパルス信号を生成し、m相のゲートパルス信号に応じてm個のバイパススイッチを制御するバイパス制御部と、を備える。各ゲートパルス信号のデューティ比は、対応する部分の目標輝度に応じた値と、入力電圧に応じた値の一方を有する。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のある態様によれば、低電圧状態においても、所望の配光パターンを得ることができ、あるいは輝度ムラを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】実施の形態に係る点灯回路を備える車両用灯具のブロック図である。
【
図3】入力電圧V
INが高い場合のPWM調光を説明する波形図である。
【
図4】点灯回路における入力電圧V
INとゲートパルス信号Sgのデューティ比の関係を示す図である。
【
図5】
図5(a)~(d)は、点灯回路の動作波形図である。
【
図6】
図6(a)~(c)は、PWM調光と入力電圧V
INにもとづくデューティ比の補正を説明する図である。
【
図7】PWM調光と入力電圧V
INにもとづくデューティ比を有するゲートパルス信号Sg#の波形図である。
【
図8】入力電圧V
INと半導体光源の光量の関係を示す図である。
【
図9】点灯回路における入力電圧V
INとゲートパルス信号Sgのデューティ比の関係の別の一例を示す図である。
【
図10】バイパス制御部の構成例を示すブロック図である。
【
図12】駆動回路の構成例を示すブロック図である。
【
図13】
図13(a)、(b)は、変形例1に係る点灯回路における入力電圧V
INとゲートパルス信号Sgのデューティ比の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施の形態の概要)
本明細書に開示される一実施の形態は、直列に接続される複数の発光素子を含む半導体光源のための点灯回路に関する。点灯回路は、入力電圧を受け、半導体光源に駆動電流を供給する駆動回路と、それぞれが複数の発光素子の対応する部分と並列に接続される複数m個(m≧2)のバイパススイッチと、位相シフトしているm相のゲートパルス信号を生成し、各ゲートパルス信号のデューティ比を、対応する部分の目標輝度に応じて変化させ、m相のゲートパルス信号に応じてm個のバイパススイッチを制御するバイパス制御部と、を備える。
【0021】
これにより、PWM調光によって、m個の部分の輝度を独立に制御できる。また、ゲートパルス信号の位相シフトによって、同相とする場合に比べて、同時に点灯する発光素子の個数を減らすことができる状況が生ずる。つまり、配光パターンを犠牲にせずに、複数の発光素子を正常点灯できる電圧範囲を広げることができる。
【0022】
バイパス制御部は、各ゲートパルス信号のデューティ比を、入力電圧に応じて補正してもよい。これにより、入力電圧が低下した際には、消灯状態となる部分を順番に入れ替えることができる。これにより、入力電圧が低下したときに、PWM調光を維持しつつ、m個の部分のうちひとつが固定的に消灯するのを防止できる。
【0023】
各ゲートパルス信号のデューティ比は、入力電圧に応じて定まる値と目標輝度に応じて定まる値のうち、対応するバイパススイッチのオン時間が長くなる一方であってもよい。これにより制御を簡素化できる。
【0024】
入力電圧に応じて定まるデューティ比の値は、入力電圧に応じて連続的に変化してもよい。これにより、入力電圧の低下にともなって、半導体光源の光量を連続的に低下させることができ、ハロゲンランプのような自然な減光な電源電圧特性を再現できる。また、デューティ比を不連続に変化させると、あるしきい値近傍で入力電圧が変動するときに、半導体光源の輝度が不連続に変化するチャタリングが発生しうるが、デューティ比を連続的に変化させることで、チャタリングを抑制できる。
【0025】
バイパス制御部は、m相の三角波信号と、m個の部分の目標輝度に応じたm個の第1スライスレベルと、入力電圧にもとづいて定まる第2スライスレベルと、を生成し、i番目の第1スライスレベルと第2スライスレベルのうち一方と、i番目の三角波信号の比較結果にもとづいて、i番目のゲートパルス信号を生成してもよい。
【0026】
駆動回路は、降圧コンバータと、駆動電流が目標量に近づくように降圧コンバータをフィードバック制御するリップル制御方式のコンバータコントローラと、を含んでもよい。負荷変動に対する追従性の高いリップル制御方式を採用することで、オン状態となるバイパススイッチが切り替わるタイミングにおける駆動電流の増大を抑制できる。
【0027】
駆動回路は、降圧コンバータの出力と接続される電流平滑化フィルタをさらに含んでもよい。電流平滑化フィルタによって、負荷変動に起因する駆動電流の変動を抑制できる。
【0028】
(実施の形態)
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0029】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0030】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0031】
また本明細書において、電圧信号、電流信号などの電気信号、あるいは抵抗、キャパシタなどの回路素子に付された符号は、必要に応じてそれぞれの電圧値、電流値、あるいは抵抗値、容量値を表すものとする。
【0032】
図2は、実施の形態に係る点灯回路600を備える車両用灯具500のブロック図である。車両用灯具500には、スイッチ4を介してバッテリ2からの直流電圧(入力電圧)V
INが供給される。
【0033】
車両用灯具500は、半導体光源502および点灯回路600を備える。半導体光源502は、直列に接続される複数n個(n≧2)の発光素子504_1,504_2,…504_nを含む。
図2にはn=3の場合が示される。発光素子504はたとえばLEDが好適であるが、その限りでなく、LD(レーザダイオード)や有機EL素子などを採用してもよい。車両用灯具500は、たとえば配光可変ヘッドランプ(ADB:Adaptive Driving Beam)であり、車両側ECU6からの制御指令CNTに応じた配光を形成可能に構成される。複数の発光素子504それぞれの出射光は、図示しない光学系によって車両前方に照射され、それらの組み合わせによって照射パターンが形成される。
【0034】
点灯回路600は、駆動回路610、複数のバイパススイッチSW1~SW3、バイパス制御部650を備える。
【0035】
駆動回路610は入力電圧VINを受け、半導体光源502に目標量IREFに安定化された駆動電流ILEDを供給する。駆動回路610を昇圧コンバータで構成するとコストが高くなることから、駆動回路610は、(i)定電流リニアレギュレータ、(ii)定電流出力の降圧スイッチングコンバータあるいは、(iii)定電圧出力の降圧スイッチングコンバータと定電流回路の組み合わせ、のいずれかで構成することができる。コストと消費電力の観点からは、定電流出力の降圧スイッチングコンバータを用いるとよい。
【0036】
複数m個のバイパススイッチSW1~SWmはそれぞれ、複数の発光素子504_1~504_nの対応する部分と並列に接続される。本実施の形態では、発光素子504の個数nはバイパススイッチSWの個数mと同じであり、1個のバイパススイッチSW#(#=1,2,…)に対応する部分は、1個の発光素子504_#である。バイパススイッチSWi(i=1,2,3)がオン状態となると、駆動電流ILEDはバイパススイッチSWi側に引き込まれ、対応する発光素子504_iは消灯する。
【0037】
バイパス制御部650は、制御信号CNTに応じた配光が得られるように、複数の発光素子504_1~504_3の輝度を独立にPWM調光(PWM減光)する。具体的には、制御信号CNTに応じて、複数の発光素子504_1~504_3それぞれの調光率(減光率)を取得する。そして、それぞれが調光率に応じたデューティ比d1~d3を有し、位相が互いにシフトした関係にあるm相のゲートパルス信号Sg1~Sg3を生成する。たとえばm=3の場合、m相のゲートパルス信号Sg1~Sg3の位相は、(360/m)°(m=3のとき120°)ずつシフトさせるとよい。
【0038】
本実施の形態ではゲートパルス信号Sg#がハイのときに、対応するバイパススイッチSW#はオンであり、対応する発光素子504_#は消灯する。ゲートパルス信号Sg#のデューティ比が大きいほど、対応する発光素子504の実効的な輝度は低下する関係にある。ゲートパルス信号Sg1~Sg3の周波数は等しく、60Hzより高く規定され、好ましくは100~200Hz程度としてもよい。これにより、発光素子504の点滅は人間の目によって知覚できなくなる。
【0039】
バイパス制御部650は、入力電圧VINを監視し、入力電圧VINにもとづいて、複数のゲートパルス信号Sg1~Sg3のデューティ比d1~d3を補正する。入力電圧VINが十分に高い状態では、補正は不要である。
【0040】
各ゲートパルス信号Sg#の補正後のデューティ比d#’は、入力電圧VINに応じて定まる値dVINと、目標輝度に応じて定まる値d#のうち、対応するバイパススイッチのオン時間が長くなる一方(すなわち値が大きい方)が選択してもよい。入力電圧VINに応じて定まる値dVINは、入力電圧VINと負の相関を有し、入力電圧VINが低下するほど値dVINは増加する。これによりPWM調光と、減電圧状態における消灯防止を簡素化できる。
【0041】
以上が車両用灯具500の構成である。続いてその動作を説明する。
【0042】
はじめに、PWM調光について説明する。理解の容易化のために、入力電圧V
INが十分に高く、デューティ比が補正されない場合を説明する。
図3は、入力電圧V
INが高い場合のPWM調光を説明する波形図である。
図3には、異なる配光パターンに対応した波形が示されている。期間t
0~t
1の間は第1の配光パターンであり、d1=d2=d3=0%であり、すべてのバイパススイッチSW1~SW3がオフに固定され、したがってすべての発光素子504_1~504_3が、最大の輝度で発光する。
【0043】
期間t1~t2は第2の配光パターンであり、3相のゲートパルス信号Sg1~Sg3は、50%のデューティ比を有しており、したがって複数の発光素子504_1~504_3の輝度は最大輝度の50%に減光される。
【0044】
期間t2~t3は第3の配光パターンであり、d1=100%、d2=d3=50%である。したがって発光素子504_1は消灯しており、発光素子504_2,504_3は、最大輝度の50%で点灯する。以上がPWM調光の基本動作である。
【0045】
この制御の利点を説明する。この制御の利点は比較技術との対比によって明確となる。比較技術では3個のゲートパルス信号Sg1~Sg3が同相であるものとする。簡単のため、d1=d2=d3=50%のケースを考える。PWM周期の前半部分においてゲートパルス信号Sg1~Sg3はすべてハイであり、したがってすべてのバイパススイッチSW1~SW3がオン、すべての発光素子504_1~504_3が消灯する。PWM周期の後半部分にではゲートパルス信号Sg1~Sg3はすべてローであり、すべてのバイパススイッチSW1~SW3がオフ、すべての発光素子504_1~504_3が同時点灯する。つまり、比較技術において、ゲートパルス信号Sg1~Sg3を同時に点灯させるためには、駆動回路610の出力電圧VOUTは、Vf0×3より高くなければならない。言い換えれば、VOUT<Vf0×3の状況では、発光素子504_1~504_3の輝度が低下し、正常点灯できなくなる。VIN>VOUTの関係が成り立つから、バッテリ電圧が低下し、VIN<Vf0×3となると正常点灯できなくなる。この場合、所望の配光パターンを犠牲にして、同時点灯する発光素子の個数を2個に減らす必要がある。
【0046】
この比較技術を踏まえて、本実施の形態の利点を説明する。
図3の期間t
1~t
2を参照する。d1=d2=d3=50%のケースでは、3個すべてのバイパススイッチSW1~SW3が同時にオフとならず、言い換えれば、すべての発光素子504_1~504_3が同時点灯しない。したがって駆動回路610の出力電圧V
OUT(すなわちV
IN)は、Vf
0×2より高ければ足りる。したがって比較技術に比べて、所望の配光パターンを犠牲にせずに、複数の発光素子504_1~504_3を正常点灯できる電圧範囲を広げることができる。
【0047】
ここでは、d1=d2=d3=50%のケースを説明したが、この利点が得られるデューティ比の組み合わせはこれに限定されない。たとえばd1=d2=d3>33.3%のケースでは、正常点灯可能な電圧範囲はVIN>Vf0×2に拡大される。d1=d2=d3>66.6%のケースでは、正常点灯可能な電圧範囲はVIN>Vf0に拡大される。
【0048】
実施の形態に係る車両用灯具500は、さらに以下の特徴を有する。
【0049】
続いて入力電圧V
INにもとづくデューティ比の補正を説明する。
図4は、点灯回路600における入力電圧V
INとそれにもとづくゲートパルス信号のデューティ比d
VINの関係を示す図である。本実施の形態では、同時にオン状態となるバイパススイッチの個数kを、入力電圧V
INの低下に応じて、0個、1個、2個と変化させるものとし、したがって同時点灯する発光素子504の個数は、入力電圧V
INに応じて、3個、2個、1個と変化する。
【0050】
ゲートパルス信号Sgのデューティ比は、入力電圧VINの低下とともに、0%から、(kMAX×100/m)%まで増大する。kMAXは同時にオン状態となるバイパススイッチの最大個数、言い換えれば同時に消灯する発光素子504の最大個数である。m=3、kMAX=2のとき、デューティ比は0%から66%の範囲で変化する。
【0051】
図5(a)~(d)は、点灯回路600の動作波形図である。
図5では理解の容易化のために、配光パターンをd1=d2=d3=0%の場合(
図3の期間t
0~t
1)に固定している。
図5(a)~(d)は、入力電圧V
INが異なる4つの状態を示している。各状態は、
図4の動作点(i)~(iv)に対応する。
【0052】
入力電圧VINの低下にともない、点灯する発光素子504の個数を徐々に減らすことができる。さらに消灯している発光素子504が、ゲートパルス信号Sgの周期で順に入れ替わるため、常に同じ発光素子504が消灯する状況を回避でき、半導体光源502の輝度分布のムラを解消できる。車両用灯具500がヘッドランプである場合、配光パターンのムラを低減できる。
【0053】
続いて、制御信号CNTにもとづくデューティ比d#(#=1,2,3)が非ゼロのときの動作を説明する。この場合、各ゲートパルス信号Sg#のデューティ比は、制御信号CNTと、入力電圧VINの両方の影響を受けうる。
【0054】
図6(a)~(c)は、PWM調光と入力電圧V
INにもとづくデューティ比の補正を説明する図である。d#は制御信号CNTにもとづく値を、d
VINは入力電圧にもとづく値を、d#’は補正後の値を表す。
図6(a)~(c)は、制御信号CNTにもとづくデューティ比の値d#が異なっている。なおデューティ比の値はバイパススイッチのオンデューティ比であり、発光素子504_#の輝度は、デューティ比d#’が大きいほど小さくなる。
【0055】
図6(a)~(c)に示すように、各ゲートパルス信号Sg#の補正後のデューティ比d#’は、入力電圧V
INに応じて定まる値d
VINと目標輝度に応じて定まる値d#のうち、対応するバイパススイッチSW#のオン時間が長くなる一方(すなわち値が大きい方)となっている。この方法で、ゲートパルス信号Sg#のデューティ比を決定することにより、PWM調光と入力電圧にもとづく減光処理を同期し、それらを矛盾無く、簡易的な処理で実現できる。
【0056】
図7は、PWM調光と入力電圧V
INにもとづくデューティ比を有するゲートパルス信号Sg#の波形図である。
図7には、d#=0%、25%、50%のときのゲートパルス信号Sg#が示される。
【0057】
車両用灯具500のさらなる利点を説明する。
図8は、入力電圧V
INと半導体光源502の光量の関係を示す図である。
図8には、比較のために、従来のハロゲンランプの光量の電源電圧特性が示される。図示されるハロゲンランプおよび本実施の形態の特性はそれぞれ、電源電圧V
INが13.5Vのときの光量を100%として、電源電圧が変化したときの各光量の相対値を示す。2本の特性の比較からわかるように、入力電圧V
INに応じて、デューティ比を徐々に変化させることにより、
図8に示すように、発光量は入力電圧V
INの低下にともない、連続的に低下していく。これにより、電源電圧の低下にともなって光量が低下するハロゲンランプの特性を再現できる。
【0058】
入力電圧VINに対して、デューティ比を不連続に変化させると、不連続点の近傍で入力電圧VINが変動したときに、半導体光源502の輝度が不連続に変化するチャタリングが発生しうるが、本実施の形態では、このようなチャタリングを抑制できるという利点もある。
【0059】
図9は、点灯回路600における入力電圧V
INとゲートパルス信号のデューティ比の関係の別の一例を示す図である。この例ではk
MAX=1であり、同時にオン状態となるバイパススイッチの個数kを、入力電圧V
INの低下に応じて0個、1個と変化させるものとし、したがって同時点灯する発光素子504の個数は、入力電圧V
INに応じて、3個、2個と変化する。ゲートパルス信号Sgのデューティ比は、入力電圧V
INの低下とともに、0%から33%(=k
MAX×100/m)まで増大する。
【0060】
本発明は、
図2のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0061】
図10は、バイパス制御部650の構成例を示すブロック図である。複数(m個)のランプ波発生器652_1~652_mは、位相差が360°/mであるランプ波Vramp1~Vramp3を生成する。
【0062】
非反転アンプ654は、入力電圧VINを増幅する。クランプ回路656は、非反転アンプ654の出力の電圧を、所定の下限電圧Vclを下回らないようにクランプする。この下限電圧Vclは、デューティ比が66.6%となるように定められる。非反転アンプ654の出力ノードの電位Vdvinは、入力電圧VINにもとづく値dVINを規定する。
【0063】
選択回路657_#(#=1,2,3)には、目標輝度に応じたデューティ比の値d#を示す調光電圧Vdim#と、電圧Vdvinが入力される。Vdim#およびVdvinが高いほど、d#、dVINは小さくなることに留意されたい。選択回路657_#は、スライスレベルを規定する2つの電圧Vdim#とVdvinから、それらの大小関係に応じた一方(ここでは低い方)を選択し、デューティ比指令電圧Vcnt#とする。したがって選択回路657_#は最小値回路で構成してもよい。電圧コンパレータ658_#(#=1,2,3)は、デューティ比指令電圧Vcntをスライスレベルとして、対応するランプ波Vramp#を比較し、矩形のパルス(PWM信号)Spwm#を出力する。これらのパルスの位相は360°/mずつシフトしている。
【0064】
ドライバ659_#は、対応する電圧コンパレータ658_#から出力されるPWM信号Spwm#に応じたゲートパルス信号Sg#を出力する。
【0065】
図11は、
図10のバイパス制御部650の動作波形図である。この配光パターンでは、発光素子504_1と504_3は減光されず、発光素子504_2のみ強く減光される。その結果、Vdim1>Vdvin、Vdim2<Vdvin、Vdim3>Vdim3の関係が成り立っている。
図10のバイパス制御部650によれば、目標輝度および入力電圧V
INに応じたデューティ比を有し、位相がシフトした複数のゲートパルス信号Sg1~Sg3を生成できる。
【0066】
なお
図10において、非反転アンプ654を反転アンプに置換してもよい。クランプ回路656は、反転アンプの出力電圧が所定の上限レベルを超えないように制限してもよい。そして、電圧コンパレータ658の反転入力と非反転有力を入れ替えるか、あるいはドライバ659を反転型で構成することで、同じ動作を実現できる。
【0067】
図12は、駆動回路610の構成例を示すブロック図である。駆動回路610は、降圧コンバータ(Buckコンバータ)612と、コンバータコントローラ614、電流平滑化フィルタ616を備える。コンバータコントローラ614は、駆動電流I
LEDが目標量I
REFに近づくように、フィードバックによりコンバータコントローラ614のスイッチング状態を制御する。
【0068】
図5(a)や(b)に示す動作モードでは、すべてのバイパススイッチがオフの状態とが1個のバイパススイッチのみがオンの状態と、が交互に現れる。すべてのバイパススイッチがオフであるとき、半導体光源502の両端間電圧の電圧(すなわち降圧コンバータ612の出力電圧)は3×Vf
0であり、1個のバイパススイッチがオンの状態では、半導体光源502の両端間電圧は2×Vf
0となり、不連続に変動する。このような不連続かつ急峻な負荷変動は、駆動電流I
LEDの過電流状態を引き起こすおそれがある。そこで急峻な負荷変動に追従するために、高速応答性に優れるリップル制御方式のコンバータコントローラ614を採用するとよい。リップル制御方式は、ヒステリシス制御(Bang-Bang制御)、ボトム検出オン時間固定制御、ピーク検出オフ時間固定制御などが例示される。
【0069】
なお、コンバータコントローラ614にリップル制御方式でなく、エラーアンプを用いたフィードバック回路を採用する場合、あるいはリップル制御方式を採用したとしても、駆動電流ILEDに過電流が生ずるおそれがあるため、降圧コンバータ612の出力に、電流平滑化フィルタ616を接続してもよい。電流平滑化フィルタ616は、リップル制御方式にともなう駆動電流ILEDのリップルを除去するとともに、急峻な負荷変動にともなう駆動電流ILEDの過電流を抑制できる。
【0070】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0071】
(変形例1)
実施の形態では、ゲートパルスSgのデューティ比を、入力電圧V
INに応じて連続的に変化させたがその限りでない。
図13(a)、(b)は、変形例1に係る点灯回路600における入力電圧V
INとゲートパルス信号のデューティ比d
VINの関係を示す図である。
図13(a)はm=3、k
MAX=1の場合、
図13(b)はm=3、k
MAX=2の場合である。この変形例によっても、入力電圧V
INが低下した状態において、特定の発光素子504が固定的にオフとなるのを防止でき、半導体光源502の輝度ムラを抑制できる。
【0072】
なお、この変形例におけるバイパス制御部650の機能は、以下のように把握できる。すなわちバイパス制御部650は、入力電圧VINに応じて、同時にオン状態とすべきバイパススイッチSW1~SW3の個数kを決定する。そしてバイパス制御部650は、所定の周期(100~200Hz程度)で、オン状態であるk個のバイパススイッチを入れ替える。
【0073】
(変形例2)
図4や
図9においてデューティ比d
VINを入力電圧V
INに対して一定の傾きで変化させたがその限りでない。たとえばデューティ比0%と33%の途中、あるいは33%と66%mの途中に、デューティ比d
VINが入力電圧V
INに依存しない平坦な部分があってもよい。あるいは、一定の傾きの直線(1次関数)でなく、傾きが異なる複数の1次関数の組み合わせ、あるいは2次関数やその他の曲線にしたがってデューティ比d
VINが変化してもよい。
【0074】
(変形例3)
実施の形態では、m相のゲートパルス信号の位相差を等しく360°/mとしたがその限りでなく、位相差は必ずしも均一でなくてもよい。
【0075】
(変形例4)
実施の形態では、車両用灯具500がヘッドランプである場合を説明したが、その限りでなく、DRL(Daytime Running Lamps)であってもよいし、ターンシグナル用のアンバーLEDにも適用できる。
【0076】
あるいは車両用灯具500は、ストップランプやテールランプであってもよく、半導体光源502と点灯回路600とが1パッケージに収容されたLEDソケットであってもよい。この場合、低電圧状態において、半導体光源502の輝度分布が均一化されることにより、美観が損なわれるのを防止できる。
【0077】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0078】
1 灯具システム
2 バッテリ
4 スイッチ
6 車両側ECU
10 車両用灯具
20 光源
22 発光素子
500 車両用灯具
502 半導体光源
504 発光素子
600 点灯回路
610 駆動回路
612 降圧コンバータ
614 コンバータコントローラ
616 電流平滑化フィルタ
650 バイパス制御部
652 ランプ波発生器
654 非反転アンプ
656 クランプ回路
657 選択回路
658 電圧コンパレータ
659 ドライバ