(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】経皮薬物送達システムおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20221128BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20221128BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221128BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20221128BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20221128BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
A61F9/007 170
A61M37/00 500
A61P27/02
A61K9/70 405
A61K31/573
A61K47/32
(21)【出願番号】P 2018525282
(86)(22)【出願日】2017-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2017024059
(87)【国際公開番号】W WO2018003952
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-05-28
(32)【優先日】2016-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512286174
【氏名又は名称】センジュ ユーエスエー、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小河 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】礒脇 明治
(72)【発明者】
【氏名】喜田 徹郎
(72)【発明者】
【氏名】川原 康慈
(72)【発明者】
【氏名】豊島 永実子
(72)【発明者】
【氏名】大迫 哲平
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-112671(JP,A)
【文献】国際公開第2004/064817(WO,A1)
【文献】特表2011-505380(JP,A)
【文献】特表2014-519955(JP,A)
【文献】特開2015-211878(JP,A)
【文献】特許第5767094(JP,B2)
【文献】国際公開第2015/117021(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/095772(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61M 37/00
A61P 27/02
A61K 9/70
A61K 31/573
A61K 47/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロニードルアレイ処理された眼瞼皮膚を介して、眼科疾患用の薬物を投与するための経皮薬物送達システムであって、
前記薬物がデキサメタゾンリン酸エステルナトリウム、デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム、ヒドロコルチゾンリン酸エステルナトリウム、ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム、プレドニゾロンリン酸エステルナトリウム、プレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムからなる群より選択される少なくとも1つの水溶性ステロイドであり、
前記経皮薬物送達システムが、非粘着性のハイドロゲルと固定用粘着テープとからなる含水系貼付剤であり、前記ハイドロゲルが前記水溶性ステロイドを含有することを特徴とする、
前記経皮薬物送達システム。
【請求項2】
前記非粘着性のハイドロゲル100質量部あたり、0.00005~35質量部にて前記薬物を含む、請求項1に記載の経皮薬物送達システム。
【請求項3】
前記
非粘着性のハイドロゲルが、ポリビニルアルコールを含有する、請求項
1又は請求項
2に記載の経皮薬物送達システム。
【請求項4】
前記
非粘着性のハイドロゲルが、ポリアクリル酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも一種を含有する、請求項
1又は請求項
2に記載の経皮薬物送達システム。
【請求項5】
前記眼科疾患が、霰粒腫、眼瞼炎、アレルギー性結膜疾患、春季カタル及びマイボーム腺機能不全からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、請求項1に記載の経皮
薬物送達システム。
【請求項6】
眼瞼皮膚穿刺用マイクロニードルアレイ、眼瞼皮膚支持土台、及び、請求項1乃至請求項
5のうちいずれか一項に記載の経皮薬物送達システムを含むことを特徴とする、眼科疾患治療用セット。
【請求項7】
前記眼瞼皮膚支持土台が、挟瞼器又は角膜保護板(リッドプレート)である、請求項
6に記載の眼科疾患治療用セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮薬物送達システム、および、それを必要とする患者の眼瞼(及びその周囲)の皮膚に該経皮薬物送達システムを適用することによる、霰粒腫、眼瞼炎、アレルギー性結膜疾患、春季カタルまたはマイボーム腺機能不全等の眼部の疾患の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
霰粒腫、眼瞼炎、アレルギー性結膜疾患、春季カタル、マイボーム腺機能不全等の眼部の疾患(眼疾患、眼科疾患ともいう)は、一般に、炎症の結果であると認識されており、治療のためにステロイド薬物が使用され、例えば抗炎症薬としての眼科用ステロイド軟膏の形態で提供される。
しかし従来、眼科用ステロイド軟膏の長期的な使用は、眼圧上昇、白内障、角膜上皮障害及び創傷治癒の遅延、コルチコステロイドぶどう膜炎、散瞳および眼瞼下垂症、感染症、ならびに、一過性の眼の不快感やステロイド誘発性のカルシウム沈着等の他の深刻な副作用を誘発する可能性がある(例えば、J Am Acad Dermatol 2006;54:1-15、Surv Ophthalmol 1979;24:57-88.、Br J Dermatol 1976;95:207-8.、Arch Dermatol 1976;112:1326、Arch Dermatol 1978;114:953-4.、Ophthalmology 1997; 104:2112-2116)。
そのため、霰粒腫、眼瞼炎、アレルギー性結膜疾患、春季カタル、マイボーム腺機能不全等の眼科疾患における効果的かつ安全な治療が広く望まれている。
【0003】
特許文献1には、支持体上に眼疾患治療薬を含有する膏体層が設けられた構造を有する眼疾患治療用経皮吸収型製剤が開示され、眼軟膏剤よりも良好な有効性および安全性を示すステロイドパッチ、および眼疾患の治療方法が記載されている。
特許文献2には、簡便で小型の経皮的薬物投与デバイスとして、針の高さが数百ミクロンのマイクロニードルアレイ処理による穿刺後の皮膚表面に、薬物含有ハイドロゲルを載置することで薬物を投与する技術が開示され、薬物含有ハイドロゲルの保型性を所定の範囲に制御することで、透過薬物量を有意に向上させることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-519955号公報(SENJU USA)
【文献】特許第5767094号明細書(ニチバン)
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of American Academy of Dermatology 2006;54:1-15
【文献】Survey of Ophthalmology 1979;24:57-88.
【文献】British Journal of Dermatology 1976;95:207-208
【文献】Archives of Dermatology 1976;112:1326
【文献】Archives of Dermatology 1978;114:953-954
【文献】Ophthalmology 1997;104:2112-2116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献2には、霰粒腫、眼瞼炎、アレルギー性結膜疾患、春季カタル、マイボーム腺機能不全等の眼科疾患の効果的な治療については記載されていない。
本発明は霰粒腫、眼瞼炎、アレルギー性結膜疾患、春季カタル、マイボーム腺機能不全等の眼科疾患の治療に際し、疾患部位へのステロイド薬物の経皮透過量を優位に向上させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、マイクロニードルを穿刺後の眼瞼皮膚表面に、水溶性ステロイド薬物を含有する含水貼付剤を載置することで、霰粒腫、眼瞼炎、アレルギー性結膜疾患、春季カタル、マイボーム腺機能不全等の眼科疾患部位へ薬物の経皮透過量を有意に向上させ、短期間で必要十分量の薬物を投与できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち本発明は、マイクロニードルアレイ処理された眼瞼皮膚を介して、眼科疾患の治療用の薬物を投与するための経皮薬物送達システムであって、前記薬物が水溶性ステロイドであり、前記経皮薬物送達システムが含水系貼付剤であることを特徴とする、経皮薬物送達システムに関する
【0009】
本発明によれば、更に以下の実施態様が提供される。
[1]上記経皮薬物送達システムが、粘着性のハイドロゲルからなる含水系貼付剤、又は非粘着性のハイドロゲルと固定用粘着テープとからなる含水系貼付剤であり、該ハイドロゲルが前記薬物である水溶性ステロイドを含有する、前記経皮薬物送達システム。
[2]上記経皮薬物送達システムが、支持体上に含水系粘着剤層を設けてなる含水系貼付剤であり、前記含水系粘着剤層が前記薬物である水溶性ステロイドを含有する、前記経皮薬物送達システム。
[3]前記薬物が、オクタノール/水分配係数(logD)において-5から0の範囲から選択される少なくとも1つの水溶性ステロイドである、前記経皮薬物送達システム。
[4]前記薬物が、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム、デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム、ヒドロコルチゾンリン酸エステルナトリウム、ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム、プレドニゾロンリン酸エステルナトリウム、プレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムからなる群より選択される少なくとも1つの水溶性ステロイドである、前記経皮薬物送達システム。
[5]前記含水系粘着剤層又はハイドロゲルが、ポリビニルアルコールを含有する、前記経皮薬物送達システム。
[6]前記含水系粘着剤層又はハイドロゲルが、ポリアクリル酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも一種を含有する、前記経皮薬物送達システム。
[7]前記眼科疾患が、霰粒腫、眼瞼炎、アレルギー性結膜疾患、春季カタル及びマイボーム腺機能不全からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、前記経皮薬物送達システム。
[8]眼科疾患の治療方法であって、前記方法は、それを必要とする患者の眼瞼の皮膚表面に、マイクロニードルアレイを用いて眼瞼皮膚にマイクロニードルを穿刺する工程;前記眼瞼皮膚のマイクロニードルの穿刺部位に、前記経皮薬物送達システムを局所的に適用する工程;を含む、方法。
[9]眼瞼皮膚穿刺用マイクロニードルアレイ、眼瞼皮膚支持土台、及び、前記経皮薬物送達システムを含むことを特徴とする、眼科疾患治療用セット。
[10]前記眼瞼皮膚支持土台が、挟瞼器又は角膜保護板(リッドプレート)である、前記眼科疾患治療用セット。
[11]マイクロニードルアレイ処理された眼瞼皮膚を介して、眼科疾患の治療用の薬物を投与するための経皮薬物送達システムであって、
前記薬物が脂溶性ステロイドであり、このとき、前記経皮薬物送達システムは、前記脂溶性ステロイドをエステル化して水溶性とする水溶性添加剤をさらに含んでなり、
前記経皮薬物送達システムが含水系貼付剤であることを特徴とする、
経皮薬物送達システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、霰粒腫、眼瞼炎、アレルギー性結膜疾患、春季カタル、マイボーム腺機能不全等の眼科疾患部位へ、ステロイド薬物の経皮透過量を有意に向上させ、早く、必要十分量のステロイド薬物を患部に到達させることができる経皮薬物送達システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、試験例1における、マイクロニードルによる穿刺あり/なしによる水溶性ステロイド含有含水系貼付剤を用いた皮膚透過性試験の結果を示す図である。
【
図2】
図2は、試験例1における、マイクロニードルによる穿刺あり/なしによる脂溶性ステロイド含有含水系貼付剤を用いた皮膚透過性試験の結果を示す図である。
【
図3】
図3は、試験例2における、マイクロニードルによる穿刺あり/なしによる水溶性ステロイド含有含水系貼付剤を用いた皮膚透過性試験の結果を示す図である。
【
図4】
図4は、試験例2における、マイクロニードルによる穿刺あり/なしによる脂溶性ステロイド含有含水系貼付剤を用いた皮膚透過性試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[経皮薬物送達システム]
本発明の経皮薬物送達システムは、霰粒腫、眼瞼炎、アレルギー性結膜疾患、春季カタルまたはマイボーム腺機能不全等の眼科疾患を罹患しているか、罹患の可能性がある対象(例えばヒト、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、サル等)に適用される。具体的には、後述するマイクロニードルアレイを用いて、対象の眼瞼皮膚にマイクロニードルを穿刺した後、上記含水系貼付剤である経皮薬物送達システムを該穿刺箇所に適用することにより、実施される。
上記眼瞼皮膚とは、眼瞼の表面を含む皮膚表面であり、上眼瞼、下眼瞼もしくは両眼瞼の前面、またはこれらの眼瞼の皮膚表面をいう。
従って、本発明による経皮薬物送達システムは、好ましくは、上眼瞼、下眼瞼または両眼瞼の皮膚表面に沿って貼付できる形状を有する。そのような形状の具体例としては、これらの眼瞼の前面の形状に沿った、矩形、楕円、三日月形、円形、馬蹄形、リング形、レーストラック形等の形状が挙げられる。
本発明の経皮薬物送達システムは、上眼瞼、下眼瞼または両眼瞼の皮膚表面に沿って貼付できる大きさを有すればよく、その面積は対象によっても異なるが、例えば、10cm
2以下とすることができる。好ましくは0.5~10cm2、より好ましくは0.5~5cm2、特に1~3cm2、最も好ましくは1cm2程度とすることができる。
【0013】
本発明の経皮薬物送達システムは、含水系貼付剤であることを特徴とし、該含水系貼付剤は(1)粘着性のハイドロゲル又は非粘着性のハイドロゲルと固定用粘着テープとからなる含水系貼付剤であるか、或いは(2)支持体上に含水系粘着剤層を設けてなる含水系貼付剤である。これらはそれぞれ、薬物(水溶性ステロイド)含有層が、眼瞼皮膚に対して粘着性を有していないか或いは一定期間貼付できる程の粘着性を有していない態様(上記(1)の態様)、眼瞼皮膚に対して粘着性を有する態様(上記(2)の態様)となる。
【0014】
<水溶性ステロイド>
本発明の経皮薬物送達に用いる水溶性ステロイドとしては、薬理学的に許容される任意の水溶性ステロイドが挙げられ、例えば、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム、デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム等のデキサメタゾン類;ヒドロコルチゾンリン酸エステルナトリウム、ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム等のヒドロコルチゾン類;プレドニゾロンリン酸エステルナトリウム、プレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム等のプレドニゾロン類;メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム等のメチルプレドニゾロン類;ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム等のベタメタゾン類等が挙げられる。中でも、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムを好適薬物として挙げることができる。
【0015】
上記薬物(水溶性ステロイド)の配合量並びに用量(投与量)は、薬物の種類、対象の症状、さらに対象の年齢及び体重に応じて種々異なり得る。
上記薬物はハイドロゲル又は含水系粘着剤層中に配合され、例えば、ハイドロゲル或いは含水系粘着剤層100質量部あたり、例えば0.00005~35質量部、好ましくは0.0005~15質量部、より好ましくは0.005~7質量部の割合にて、配合し得る。
また上記薬物の投与時間としては特に限定されないが、例えばマイクロニードル穿刺後に、粘着性のハイドロゲルからなる含水系貼付剤、又は非粘着性のハイドロゲルと固定用粘着テープとからなる含水系貼付剤、あるいは支持体上に含水系粘着剤層を設けてなる含水系貼付剤を1日あたり12時間~24時間程度、継続的に2週間程度貼付することができる。またマイクロニードルの穿刺は、貼付直前に1~10回、好ましくは1~5回、より好ましくは1~3回行うことができる。
【0016】
<脂溶性ステロイド>
なお本発明の経皮薬物送達システムは、薬物として、水溶性ステロイドに替えて、脂溶性ステロイドを用いることもできる。この場合、脂溶性ステロイドをエステル化して水溶性とする水溶性添加剤(以下、単に“水溶性添加剤”という)を脂溶性ステロイドとともに用いることにより、上記<水溶性ステロイド>を投与する場合と同様に機能させることができる。
本発明の経皮薬物送達システムに用いる脂溶性ステロイドとしては、薬理学的に許容される任意の脂溶性ステロイドが挙げられ、例えば、コルチゾン;ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン等のヒドロコルチゾン類;プレドニゾン;プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、吉草酸酢酸プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン等のプレドニゾロン類;トリアムシノロン;パラメタゾン;デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、吉草酸デキサメタゾン、プロピオン酸デキサメタゾン等のデキサメタゾン類;ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン等のベタメタゾン類;クロベタゾン、酪酸クロベタゾン等のクロベタゾン類;トリアムシノロンアセトニド;フルオシノロンアセトニド;アルクロメタゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン等のアルクロメタゾン類;ベクロメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾン等のベクロメタゾン類;デプロドン、プロピオン酸デプロドン等のデプロドン類;モメタゾン、フランカルボン酸モメタゾン等のモメタゾン類;アムシノニド;ハルシノニド;フルオシノニド;ジフルコルトロン、吉草酸ジフルコルトロン等のジフルコルトロン類;ブデソニド;ジフルプレドナート;ジフロラゾン、酢酸ジフロラゾン等のジフロラゾン類;クロベタゾール;プロピオン酸クロベタゾール等のクロベタゾール類;ハロベタゾール、プロピオン酸ハロベタゾール等のハロベタゾール類;フルオロメトロン、酢酸フルオロメトロン等のフルオロメトロン類;ロテプレドノール、エタボン酸ロテプレドノール等のロテプレドノール類;アンドロゲン、テストステロン、ジヒドロテストステロン等の男性ホルモン類;エストロゲン、エストラジオール、エストリオール等の女性ホルモン類等が挙げられる。中でも、クロベタゾール;プロピオン酸クロベタゾール等のクロベタゾール類を好適薬物として挙げることができる。
【0017】
<水溶性添加剤>
脂溶性ステロイドを用いた場合に併用する水溶性添加剤としては、例えば、リン酸、硫酸、炭酸、硝酸、2-スルホ安息香酸、3-スルホ安息香酸、4-スルホ安息香酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ポリ(エチレングリコール)ビス(カルボキシメチル)エーテル、メトキシポリエチレングリコール酢酸、O-メチル-O’-コハク酸ポリエチレングリコール等が挙げられる。
水溶性添加剤の配合割合は使用する脂溶性ステロイドの種類によって異なるが、概ね脂溶性ステロイドに対して1-50当量%、好ましくは1-20当量%、より好ましくは1-5当量%とすることができる。
また脂溶性ステロイドを用いる場合、これを水溶性添加剤に混合した後、後述する含水系貼付剤の製造に使用することができる。
【0018】
なお本発明において、「水溶性ステロイド」「脂溶性ステロイド」における「水溶性」「脂溶性」の指標として、分配係数(オクタノール/水分配係数)を採用することができる。分配係数はpHの影響を考慮しlogDで表すことができ、水溶性はマイナス値、脂溶性はプラス値で示される。
使用する化合物の分配係数(logD)の範囲について、特に制限はないが、皮膚透過性の観点からpH8において-5から0の範囲までの化合物を使用することが好ましい。
例えば上記水溶性ステロイドとして挙げた化合物の、pH8における分配係数(logD)の一例として、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム:-5、デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム:-2、プレドニゾロンリン酸エステルナトリウム:0、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム:-5を挙げることができる。
分配係数は、JIS Z7260-107又は、JIS Z6260-117に記載の方法に準じて求めることができる。
【0019】
<(1)粘着性のハイドロゲルからなる含水系貼付剤、又は非粘着性のハイドロゲルと固定用粘着テープとからなる含水系貼付剤>
本形態において、粘着性のハイドロゲル、あるいは、非粘着性のハイドロゲル(以下、これらをまとめて単に「ハイドロゲル」とも称する)は、上述の薬物である水溶性ステロイド、基材として水溶性高分子、並びに水を含有し、所望によりその他慣用の成分を含有する。
なお本明細書のハイドロゲルにおける「粘着性」とは、タックを有し、患部から容易にずれることがない程度のヒト皮膚への付着性を有するものをいう。ここでいうタックの目安として、例えば、但しこれに限定されないが、ローリングタック(JIS Z0237)にて4以上のタックを有するものを挙げることができる。
【0020】
前記水溶性高分子は、水に溶解する高分子化合物の総称であり、他に影響を与えなければ、ハイドロゲルや後述する含水系貼付剤の技術分野において慣用のものを使用され得る。例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸の塩、アクリル酸・アクリル酸ナトリウム共重合体等のポリアクリル酸部分中和物;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリアクリルアミド;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース誘導体;アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、寒天、デンプン、アルギン酸およびその金属塩、ゼラチン、カゼイン等の天然系高分子等が挙げられる。これら水溶性高分子は、一種または二種以上を組み合わせて使用してもよいし、凍結させてもよいし、放射線を照射してもよい。中でも水溶性高分子としてポリビニルアルコール、又はポリアクリル酸及びその塩を使用することが好ましい。
水溶性高分子の配合量は、ハイドロゲルの総質量に対して、例えば1質量%乃至50質量%、好ましくは5質量%乃至40質量%、例えば3質量%乃至40質量%、更に好適には、5質量%乃至30質量%の範囲とすることができる。配合量を上記数値範囲未満とすると保形性が発揮されず、他方、上記数値範囲を超えると、水溶性高分子が後述するハイドロゲル形成材料中で均一に溶解せず、また増粘性が増し、製造面での取扱性の低下や不均一なハイドロゲルの形成に繋がるため、好ましくない。
【0021】
上記ハイドロゲルに含まれる水の配合量は、ハイドロゲルの総質量に対して、例えば50乃至95質量%とすることができる。
含水量を低いものとした場合、ハイドロゲル形成材料中の薬物等の成分の溶解性が低下して結晶が析出したり、さらには該形成材料の粘度が高くなりすぎて製造面での取扱性の低下が起こり得、また皮膚に適用後に剥がす際に痛みが生ずるなどの皮膚刺激が起こる虞がある。一方、含水量が多すぎると、ハイドロゲル形成材料の粘度低下によりハイドロゲルの保形性が悪化する虞があり、またハイドロゲルのべとつきの発生などが起こる虞があり、さらには水揮散性が高くなるため保管時及び投与時に品質が保てない場合が生じる。
【0022】
上記ハイドロゲルには、さらに架橋剤、アルコール及び多価アルコール、溶剤、皮膚吸収助剤、保湿剤、粘着付与樹脂、界面活性剤、pH調節剤、充填剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、防腐剤等の慣用の成分を適宜配合できる。その他の慣用の成分は、ハイドロゲル自体の保形性、薬物の皮膚透過性、皮膚刺激性等を考慮して、その種類及び配合量を適宜選択できる。
【0023】
上記架橋剤としては、その種類としては特に限定されないが、多価金属化合物、ホウ酸系化合物、多官能エポキシ化合物等が挙げられる。これら架橋剤は、一種または二種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記多価金属化合物としては、アルミニウム化合物が好ましく、例えば乾燥水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ジヒロドキシアルミニウムアミノアセテート、カオリン、ステアリン酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、硫酸アルミニウムカリウム(カリウムミョウバン)、硫酸アルミナアンモニウム(アンモニウムミョウバン)、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、活性アルミナ等の他、メタケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。
上記ホウ酸系化合物としては、ホウ酸、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸カルシウム、メタホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム等が挙げられる。
上記多官能エポキシ化合物としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
架橋剤を配合する場合、その配合量は架橋剤の種類に応じて異なるが、例えばハイドロゲルの総質量に対して0.01質量%乃至30質量%、例えば0.1質量%乃至30質量%、さらには0.1質量%乃至10質量%とすることができる。架橋剤の配合量が上記数値範囲未満であると架橋剤添加による効果が十分得られず、すなわち水溶性高分子の架橋が十分に進行せず、ハイドロゲル形成材料の粘度が低すぎて成形性が悪化する虞がある。また上記数値範囲を超えて架橋剤を配合した場合、水溶性高分子の架橋が進行しすぎてハイドロゲル形成材料の急激な粘度の上昇を招き、ハイドロゲル形成材料の均一性に欠けるものとなったり、製造面での取扱性の低下が起こり得、あるいは形成されたハイドロゲルの皮膚刺激性が高まる虞がある。
【0024】
上記アルコール及び多価アルコールは、溶剤、皮膚吸収助剤、保湿剤などの機能を有し得、例えばエタノール;グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等;1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール等;D-ソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール等などが挙げられる。
これらアルコール類の配合量は特に限定されないが、例えばハイドロゲルの総質量に対して0.1質量%乃至60質量%とすることができる。
【0025】
皮膚吸収助剤としてはさらに乳酸、オレイン酸、リノール酸、ミリスチン酸などの脂肪酸及びそのエステル;ハッカ油、l-メントール、dl-カンフル、N-メチル-2-ピロリドンなどの動植物油及びテルペン化合物などを好適に使用できる。
また界面活性剤としてソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等;pH調整剤として酒石酸、クエン等;充填剤としてベントナイト、カオリン、タルク、チタン白等;を所要量使用することができる。
これらの配合量は特に限定されないが、例えばハイドロゲルの総質量に対して、それぞれ例えば0.1質量%乃至15質量%、好適には0.5質量%乃至10質量%の範囲とすることができる。
【0026】
上記ハイドロゲルの製造方法は特に限定されないが、例えば上記水溶性ステロイドを、必要であれば適当な溶解剤(水、溶剤等)に溶解し、これに基材として水溶性高分子、水、各種成分を加え、必要であれば加熱し、均一に混合した後、静置することで、ハイドロゲルを得ることができる。
ハイドロゲルは、好ましくは薬物含有ハイドロゲルの5分後応力緩和率が35~80%とすることにより、ゲルの構成材料としての基材(高分子)の種類を問わず、ハイドロゲルに含有される薬物の経皮透過量を向上させることができる。なお「5分後応力緩和率」は、特許第5767094号明細書(これらの内容は、参照することにより、本明細書に組み込まれる)に開示される測定方法により得られる値であり、具体的には、ゲルにプローブを一定荷重当て、初期荷重に対する5分後の荷重の変化量の百分率として算出される値である。
上記ハイドロゲルの厚みは必要とする薬物濃度や持続性などによって適宜設定され得、例えば1~5000μm程度である。
【0027】
上記ハイドロゲルの取扱性を向上させるため、投錨性のある支持体をシート状としてハイドロゲルの一方の面に配置することができ、後述する非粘着性のハイドロゲルの場合にはこの上に上記固定用粘着テープを被覆することができる。この際使用できる支持体としては、後述の(2)の含水系貼付剤にて挙げた支持体を好適に用いることができる。
【0028】
本態様において、非粘着性のハイドロゲルの場合、すなわち、ハイドロゲルそれ自体に粘着性がない或いは眼瞼皮膚に一定期間貼付できる程の粘着性を有していない態様である場合、眼瞼皮膚に貼付する際には、上記非粘着性のハイドロゲルの上から、または上記非粘着性のハイドロゲルを積層した支持体の上から、固定用粘着テープを被覆した貼付剤の形態を採り得る。上記非粘着性のハイドロゲルを固定用粘着テープで固定することで、皮膚への適度な圧迫が得られて、後述するマイクロニードルにより穿孔した孔に非粘着性のハイドロゲルが入り込むため、非粘着性のハイドロゲルに含まれる薬物(水溶性ステロイド)投与を効率的に行うことが可能になると考えられる。
なお、粘着性のハイドロゲルを用いる態様であっても、必要に応じて、固定用粘着テープにて固定してもよい。
【0029】
固定用粘着テープは、例えばテープ基材と粘着剤層とから構成されたものを用いることができる。
上記テープ基材の材質は特に制限されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレ-ト、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ナイロンなどのポリアミド、ポリアクリロニトリル、セルロースまたはその誘導体、アルミニウムなどの金属箔などの素材から選ばれる1種または2種以上を組み合わせてフィルム状または布帛(織布、不織布、編布)にしたものが好ましい。特にポリウレタンが好適に用いられる。上記テープの基材厚みは、好ましくは1~200μmであり、より好ましくは5~150μm、さらに好ましくは10~100μmである。該テープ基材の厚みが薄すぎると、強度低下による破れなどの形状破壊や、貼付時の貼りづらさを招き、また、固定用粘着テープが厚すぎると、使用性の低下や貼付時のめくれ、違和感を招く。
固定用粘着テープの上記粘着剤層には、天然ゴム系、合成ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルアルコール系、ポリアミド系など各種の粘着剤を使用することができるが、アクリル系粘着剤を使用すれば皮膚に対する刺激が少ないものを比較的経済的に得ることができる。また、粘着剤層の厚みは、好ましくは5~200μmであり、より好ましくは5~50μmである。粘着剤層の厚みが薄すぎると、皮膚への接着力が低くなり、脱落しやすくなる。一方、粘着剤層の厚みが厚すぎると、使用性の低下や糊残り、違和感を招く。
なお、固定用粘着テープには、剥離性または貼付性の向上を目的として、場合により、割線、ミシン目、キャリアシート等の加工を行ったり、外観性向上やフィルムのズレを防止することを目的として、エンボス加工等を行うことが適宜必要である。
【0030】
<(2)支持体上に含水系粘着剤層を設けてなる含水系貼付剤>
本形態において、含水系粘着剤層は、上述の薬物である水溶性ステロイド、基材として水溶性高分子、並びに水を含有する。
さらに含水系粘着剤層には、上述のその他の慣用の成分、すなわち架橋剤、アルコール及び多価アルコール、溶剤、皮膚吸収助剤、保湿剤、粘着付与樹脂、界面活性剤、pH調節剤、充填剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、防腐剤等の慣用の成分を適宜配合できる。その他の慣用の成分は、含水系貼付剤自体の保形性、皮膚への粘着性、薬物の皮膚透過性、皮膚刺激性等を考慮して、その種類及び配合量を適宜選択できる。
これら水溶性高分子やその他の慣用の成分としては、前述の(1)のハイドロゲルにおいて記載した化合物を適宜使用可能である。
【0031】
上記含水系粘着剤層における各成分の配合量は特に限定されないが、例えば水溶性高分子の配合量は、含水系粘着剤層の総質量に対して、例えば1質量%乃至50質量%、好ましくは5質量%乃至40質量%、更に好適には、5質量%乃至30質量%の範囲とすることができる。配合量を上記数値範囲未満とすると保形性と粘着力が発揮されず、他方、上記数値範囲を超えると、水溶性高分子が後述する粘着剤層形成材料中で均一に溶解せず、また増粘性が増し、製造面での取扱性の低下や不均一な粘着剤層の形成に繋がるため、好ましくない。
【0032】
また含水系粘着剤層に含まれる水の配合量は、前記水溶性高分子100質量部に対して、例えば200質量部乃至2000質量部、好ましくは400質量部乃至1800質量部、更に好ましくは600質量部乃至1600質量部の範囲とすることができる。
含水量を低いものとした場合、粘着剤層形成材料中の薬物等の成分の溶解性が低下して結晶が析出したり、さらには該材料の粘度が高くなりすぎて、支持体への展延の際の作業性が悪化するなどの製造面での取扱性の低下が起こり得、また粘着力が強くなりすぎて皮膚に適用後に剥がす際に痛みが生ずるなどの皮膚刺激が起こる虞がある。一方、含水量が多すぎると、粘着剤層形成材料の粘度低下により粘着剤層の保形性が悪化する虞があり、また粘着剤層のべとつきの発生や粘着力の低下が起こる虞があり、さらには水揮散性が高くなるため保管時及び投与時に品質が保てない場合が生じる。
【0033】
架橋剤を配合する場合、その配合量は架橋剤の種類に応じて異なるが、例えば含水系粘着剤層の総質量に対して0.01質量%乃至10質量%とすることができる。架橋剤の配合量が上記数値範囲未満であると架橋剤添加による効果が十分得られず、すなわち水溶性高分子の架橋が十分に進行せず、粘着剤層形成材料の粘度が低すぎて成形性が悪化したり、また粘着力が十分に発現されない虞がある。また上記数値範囲を超えて架橋剤を配合した場合、水溶性高分子の架橋が進行しすぎて粘着剤層形成材料の急激な粘度の上昇を招き、粘着剤層形成材料の均一性に欠けるものとなったり、粘着剤層形成材料の支持体への展延ムラが生じるなどの製造面での取扱性の低下が起こり得、あるいは形成された粘着剤層の粘着力が強すぎて皮膚刺激性が高まる虞がある。
【0034】
さらにアルコール類を配合する場合、その配合量は特に限定されないが、例えば含水系粘着剤層の総質量に対して0.1質量%乃至60質量%とすることができる。
また皮膚吸収助剤、界面活性剤、pH調整剤、充填剤等を使用する場合、例えば含水系粘着剤層の総質量に対して、それぞれの配合量を例えば0.1質量%乃至15質量%、好適には0.5質量%乃至10質量%の範囲とすることができる。
【0035】
上記支持体上に含水系粘着剤層を設けてなる含水系貼付剤は、一般的な含水系外用貼付剤の製造方法に従って製造することができる。例えば、上記水溶性ステロイドを、必要であれば適当な溶解剤(水、溶剤等)に溶解し、これに基材として水溶性高分子、水、各種成分を加えて混合し、粘着剤層形成材料を調製する。そして該粘着剤層形成材料を後述する適当な支持体に展延して含水系粘着剤層を形成する。
上記含水系粘着剤層の厚みは特に制限されないが、水溶性ステロイドの皮膚透過性や皮膚への粘着性等を考慮し、例えば10~300μmの範囲内で適宜選択することができる。
【0036】
上記支持体上に含水系粘着剤層を設けてなる含水系貼付剤に使用する支持体としては、起伏した眼瞼の前面を含む皮膚表面と密に接触できる程度の柔軟性を有する材質からなるものであれば、特に限定されることなく、貼付剤の技術分野において慣用のものを使用可能である。例えば上記含水系粘着剤層からの染み出しが起こり難く、該粘着剤層に含まれる薬物(水溶性ステロイド)を吸収したり支持体の裏側から放出されないような材質からなるものが好適である。なおこうした材質の支持体は、上述した前記(1)のハイドロゲルの取扱性を向上させるための支持体としても採用できる。
支持体の具体例としては、不織布、織布、編布、フィルム又はシート、多孔質体、発泡体、紙、並びにこれらのうち二種以上を積層してなる複合材料が挙げられる。
【0037】
前記不織布としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、レーヨン、ポリアミド、ポリエステルエーテル、ポリウレタン、ポリアクリル樹脂、ポリビニルアルコール、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、およびスチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体等の繊維からなる材料が挙げられる。
また織布、編布としては、例えば、コットン、レーヨン、ポリアクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびポリビニルアルコール等の繊維からなる材料が挙げられる。
【0038】
上記フィルム・シートとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等のポリアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、セロハン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアミドおよびポリスルホン等からなるフィルム・シートが挙げられる。しかしながら、材料はこれらに限定されない。
上記紙としては、例えば含浸紙、コート紙、上質紙、クラフト紙、和紙、グラシン紙および合成紙等が挙げられる。
【0039】
中でも、眼瞼皮膚に密着することができ、かつ、眼瞼皮膚の動きに追随することができ、そして長時間貼付後において眼瞼皮膚のかぶれ等の発生を抑制できる点において、ポリエステルフィルム、ポリウレタンフィルム又はポリオレフィンフィルムが好ましく、特にポリエステルフィルム(特にポリエチレンテレフタレートフィルム)を用いることが好ましい。
【0040】
なお支持体の厚みは特に限定されないが、通常1~80μmの範囲であり、好ましくは2~70μm、より好ましくは5~60μmの範囲である。支持体の厚みが小さすぎる場合には、支持体の強度が不十分となり、眼瞼への貼付時及び剥離時に支持体が切れてしまうことがあるとともに、支持体の製造が困難となることがある。支持体の厚みが大きすぎると、含水系貼付剤そのものの厚みが大きくなる結果、該貼付剤が皮溝などの微細な凹凸のある眼瞼の皮膚表面に沿って密着しにくく、貼付状態が目立ちやすくなり、違和感も大きくなりやすく、剥離時の痛みも大きくなる。支持体の厚みは、ダイヤルシックネスゲージを用いて測定する。なお、眼科疾患治療用貼付剤の他の層の厚みの測定方法も同様である。
【0041】
また該支持体は、眼瞼皮膚に密着することができ、かつ、眼瞼皮膚の動きに追従することができる程度の柔軟さを有していることが好ましく、例えばそのヤング率が0.01~0.5GPa、好ましくは0.03~0.48GPa、より好ましくは0.05~0.45GPaの弾性率を有するものとすることができる。支持体のヤング率が小さすぎると貼付剤の強度が不足する虞があり、眼科疾患治療用貼付剤を眼瞼皮膚に貼付するとき、貼付中、さらに、所要期間貼付後に剥離するときに破れる虞がある。支持体のヤング率が大きすぎると、貼付剤の眼瞼皮膚への密着性や眼瞼皮膚の動きに対する追従性に劣る場合があり、結果として貼付後直ちに剥がれや浮きが発生するなどして、長期間にわたって眼科疾患治療用貼付剤を貼付できなくなる虞がある。
上記数値範囲の弾性率を有する支持体としては特に限定されないが、多くの場合上記の各種樹脂のフィルム・シートが挙げられる。これらフィルム等のヤング率は、ASTM-D-882に準拠して測定したものを採用し得、フィルムのMD方向(フィルム成形時の押出方向)及びTD方向(フィルム成形時の押出方向と直交方向)の少なくとも一方向、好ましく双方の方向のヤング率が、上記数値範囲の弾性率であることが好ましい。
【0042】
<離型フィルム>
本発明の経皮薬物送達システムでは、上記(1)の態様におけるハイドロゲルの表面、支持体がハイドロゲルの一方の面に配置された態様の場合にはその面とは反対側のハイドロゲルの表面、また非粘着性のハイドロゲルの場合には固定用粘着テープが設けられた面とは反対側のハイドロゲルの表面、又は、(2)の態様における含水系粘着剤層の表面を保護する目的にて、離型フィルムを設けることができる。該離型フィルムは(剥離ライナー・剥離紙などともいう)は、経皮薬物送達システムを使用する際に剥がされるものであり、眼瞼皮膚と接する層を使用するまで保護し、変質を防止するために設けられるものである。該離型フィルムは経皮吸収製剤や貼付製品(貼付材、貼付剤)の技術分野において慣用のものを使用することができ、例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリプロピレン(無延伸、延伸等)、ポリエチレン、ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリアクリロニトリル等のプラスチックフィルム;上質紙、グラシン紙、パーチメント紙、クラフト紙等の紙や合成紙;前記プラスチックフィルム、紙又は合成紙、合成繊維等にシリコーン樹脂やフッ素樹脂等の剥離性能を有する剥離剤をコーティングした剥離加工紙;アルミ箔;これらフィルム・シートを種々積層したラミネート加工紙、及び該ラミネート加工紙に剥離剤をコーティングしたラミネート剥離加工紙などの、無色又は着色したシートを挙げることができる。
【0043】
上記離型フィルムの厚みは特に限定されないが、通常10μm~1mmの範囲で選択され得、例えば20~500μm、好ましくは40~200μm、より好ましくは40~150μmであり、さらに好ましくは40~120μm、特に好ましくは50~100μmである。離型フィルムが薄すぎると、強度低下による破れなどの形状破壊や、経皮薬物送達システムの製造においてトラブルを生じたり、含水系貼付剤を眼瞼皮膚に貼付する際の貼りづらさを招くなどの傾向がある。また、離型フィルムが厚すぎると、経皮薬物送達システムの製造における離型フィルムの裁断適性不良、含水系貼付剤の貼付時のめくれ、原材料としてのコストアップ等を招き得る。
また離型フィルムの形状は方形、矩形、円形等とすることができ、所望により角を丸くした形状とすることができる。その大きさは、(1)の形態においては固定用粘着テープの大きさと同形状か、やや大きめ、そして(2)の形態においては前記含水系貼付剤における支持体の大きさとすることができる。離型フィルムは、1枚または分割されて複数枚から構成されてもよく、その切れ目は直線、波線、ミシン線状で構成されてもよく、離型フィルム同士の一部が重なる状態としてもよい。また薬物の種類や使用法などについて印刷等の加工を行ったり、外観性向上やフィルムのズレを防止することや、包装材からの取りだしを容易にすることを目的としてエンボス加工などを行ってもよい。
【0044】
[マイクロニードルアレイ(MNA)]
本発明の経皮薬物送達システムは、MNA処理された眼瞼皮膚を介して薬物を投与するという用途に用いられ、すなわち、本発明の経皮薬物送達システムの適用に先立ち、眼瞼皮膚に対してMNA処理が実施される。
上記MNA処理の具体的な方法・形態については特に限定されず、例えば、複数の針を同時に穿刺することによって眼瞼皮膚のバリア機能を一時的に低減することができる、いずれかの器具によって実行され得る(例えば、Wu,X.M.ら、(2006)J.Control Release、118:189-195などを参照)。
【0045】
上記MNA処理に使用するMNAを構成するマイクロニードルの構成材料について特に制限はなく、例えば、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリメタクリレート、エチレン-ビニルアセテート共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、ポリエステル、ナイロン、ポリスチレン、ポリオレフィンからなる基材を有する合成プラスチックのマイクロニードル、またはポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸からなる基材を有する自己分解型のマイクロニードル、またはケイ素(化合物)、二酸化ケイ素、セラミック、金属(ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、チタン、ニッケルなど)からなるマイクロニードルが用いられ得る。マイクロニードルの形状やサイズについても特に制限はないが、通常は円錐状や多角錐状(三角錐状、四角錐状など)などの錐状の形状を有し、例えば三角錘状の形状を有する場合、その底面の面積を0.1~0.5mm2程度、錘状の高さを0.2~0.5mm程度、錐状先端径を1~30μm程度とすることができる。
MNAの大きさは、本発明の経皮薬物送達システムの適用面積に特に限定されず、例えば該システムの適用面積と同じかそれより小さい或いはそれより大きい面積とすることができ、好ましくは該システムの適用面積と同じかそれより小さい面積とすることができる。
またMNAを構成するマイクロニードルの設定数(本数)は適宜設定され得、例えば1~500本とすることができる。
【0046】
以上の構成を有する本発明の経皮薬物送達システムは、ステロイド薬物の皮膚透過性をより増大させ、必要十分量のステロイド薬物を眼瞼患部により迅速に到達させることにより、患部の炎症を短期間で治療し改善させることに寄与するものとなり、服用時の負担の軽減や長期使用による副作用抑制の観点、そして服薬コンプライアンスを改善する観点から、有用な経皮薬物送達システムとなることが期待される。
【0047】
[眼科疾患治療用セット]
本発明は、眼瞼皮膚穿刺用マイクロニードルアレイ、眼瞼皮膚支持土台、及び、経皮薬物送達システムと、を含む、眼科疾患治療用セットも対象とする。
本セットにおいて経皮薬物送達システム及び眼瞼皮膚穿刺用マイクロニードルアレイは、前述の本発明の経皮薬物送達システム、並びに、経皮薬物送達システムにおけるマイクロニードルアレイ処理に用いるマイクロニードルアレイをそれぞれ使用することができる。
【0048】
<眼瞼皮膚支持土台>
眼瞼のような柔軟性に富む皮膚は、単に従来のマイクロニードルアレイ処理では十分に穿刺されず、薬剤の透過を向上させる効果を得られない問題が少なからず存在する。これに対し、穿刺される皮膚に適度な硬さを持たせることにより、マイクロニードルによる十分な穿刺が可能となる。この該当する皮膚に適度な硬さを持たせる方法として、該当する皮膚を支持する土台を用いればよい。
すなわち前記眼瞼皮膚支持土台とは、前記マイクロニードルアレイで眼瞼皮膚を穿刺処理する際、例えば眼瞼皮膚と眼球の間の隙間に差し入れて使用する、眼瞼を支持する土台である。
上記眼瞼皮膚支持土台は、例えば眼瞼皮膚と眼球の間の隙間に、すなわち穿刺面とは逆側となる眼瞼内側の結膜から差し入れられ、マイクロニードルアレイ処理時に、マイクロニードルアレイと眼瞼皮膚支持土台で眼瞼皮膚を挟むように配置される。
上記眼瞼皮膚支持土台としては、眼瞼皮膚と眼球の間に挿入できる大きさや厚みを有し、そして上記の機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば挟瞼器又は角膜保護板(リッドプレート、角板とも呼ばれる)を用いることができる。角膜保護板(リッドプレート)とは一般的に眼科で用いられている医療器具のひとつを意味する。挟瞼器を用いる場合、挟瞼器の挟瞼面(板状部材)を、穿刺する皮膚側とは反対の眼瞼内側の結膜に差し込み、挟瞼器の枠(窓部)を用いて、穿刺する皮膚側から眼瞼皮膚を挟み、皮膚を伸展し張りをもたせ、挟瞼器の枠(窓部)内をマイクロニードルにて穿刺処理すればよい。角膜保護板(リッドプレート)を用いる場合、角膜保護板(リッドプレート)の眼瞼側接触面を、穿刺する皮膚側とは反対の眼瞼内側の結膜に差し込み、角膜保護板(リッドプレート)で保持されている眼瞼皮膚をマイクロニードルにて穿刺処理すればよい。また、マイクロニードルアレイに上記眼瞼皮膚支持土台となる機能(部材)を付与し、眼瞼皮膚支持土台の機能を有するマイクロニードルデバイスとして、眼瞼を挟むとともに穿刺する機能を持たせた態様としてもよい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。これらの製剤例及び実施例は単なる例示であり、これらによって本発明の範囲を制限することを意図するものではない。
なお、本実施例において、混合物の組成比における「%」は「質量%」を意味する。
【0050】
[製造例:含水系貼付剤の製造]
以下の手順に従って、含水系貼付剤を製造した。
[例1:水溶性ステロイド含有含水系貼付剤]
水溶性ステロイドとしてデキサメタゾンリン酸エステルナトリウム(DSP)を用い、DSP、ポリビニルアルコール(PVA、(株)クラレ、重合度:1700)及び水を、質量比でDSP/PVA/水=25/7/68割合(例1-1)又は質量比で1.5/8.9/89.6割合(例1-2)にて、撹拌機(使用機器:型式STIRRER SSR、IWAKI、回転数:400~600rpm、温度:25±5℃)にて混合して、粘着剤層形成材料を調製した。
次いでガラス板上に厚さ1.3mmのスライドガラスをスペーサーとして各4辺にセットし、ガラス板上に上述した調製溶液を流し込み、上から別のガラス板をかぶせて挟み成型した。-20℃で凍結し、凍結状態にて長さ11mm×幅5mmの長方形形状にカットした。5℃で解凍したものを水溶性ステロイド含有含水系貼付剤とした。
【0051】
[例2:脂溶性ステロイド含有含水系貼付剤]
粘着剤層形成材料において、水溶性ステロイドの代わりに脂溶性ステロイドであるクロベタゾールプロピオン酸エステル(CP)を用い、CP/PVA/水=1.5/8.9/89.6(質量比)として用いた以外には、例1と同様の手順にて、例2の含水系貼付剤を得た。
【0052】
[試験例1:へアレスマウス摘出皮膚を用いた、マイクロニードル穿刺後の含水系貼付剤投与による薬物皮膚透過試験(1)]
<試験方法>
コルク板上においたへアレスマウス(雄性、7週齢、日本エスエルシー(株))の腹部摘出皮膚に、下記に示すマイクロニードルアレイにて、穿刺速度8.5m/sにて、マイクロニードルを穿刺した。
穿刺部位の皮膚に上述の例1(例1-1:DSP/PVA/水=25/7/68(質量比))又は
例2の含水系貼付剤を貼付し固定用粘着テープとしてカテリープ(ポリウレタンフィルム、ニチバン(株))を上から貼付後、皮膚透過試験用縦型拡散セル(内径:20mmφ、レシーバー容量:約16mL、有効拡散面積:3.14cm2)に皮膚面を装着した。
拡散セルのジャケット内に32℃に加温した温水を通水し、レシーバーチャンバ内に下記に示すレシーバー液を加え、皮膚透過試験を開始した。試験開始から一定時間経過毎に、拡散セルのサンプリングポートから0.5mLずつレシーバー液を採取し、同量のレシーバー液を補充した。そして採取したレシーバー液に同量のメタノールを添加した後、遠心分離して上清をサンプルとして回収した。得られたサンプルをHPLCにより透過薬物量を定量し、累積透過量を算出した。
【0053】
また対照例として、マイクロニードル処理を行わず(穿刺せず)とした以外は同様の手順にて、例1(例1-1:DSP/PVA/水=25/7/68(質量比))及び例2の含水系貼付剤を用いた皮膚透過試験を実施した。
得られた結果を表1(穿刺処理あり)及び表2(穿刺処理なし)、並びに
図1(水溶性ステロイド含有含水系貼付剤適用)及び
図2(脂溶性ステロイド含有含水系貼付剤適用)にそれぞれ示す。
【0054】
《マイクロニードルアレイ》
ポリカーボネートからなる円錐状マイクロニードル(高さ300μm×底面の直径300μm)を1アレイ当たり305本有するマイクロニードルアレイ(長さ11mm×幅5mmの長方形形状)を用いた。
《レシーバー液》
例1(例1-1)(水溶性ステロイド含有含水系貼付剤):リン酸緩衝液(pH:7.4)
例2(脂溶性ステロイド含有含水系貼付剤):20%ポリエチレングリコール水溶液(PEG分子量等:380-420、関東化学(株)
《HPLC》
例1(例1-1)(水溶性ステロイド含有含水系貼付剤)
装置 :LC-2010HT((製)島津製作所)
カラム :Kinetex C8 100A、5μm、4.6×250mm(Phenomenex)
カラム温度:40℃
注入量 :50μL
流速 :0.65mL/min
検出波長 :220nm
移動相 :0.1% リン酸水溶液/アセトニトリル/メタノール=54/35/11
例2(脂溶性ステロイド含有含水系貼付剤)
装置 :LC-2010HT((製)島津製作所)
カラム :Mightysil RP-18 GP、5μm、4.6×150mm(関東化学(株))
カラム温度:25℃
注入量 :30μL
流速 :1.04mL/min
検出波長 :240nm
移動相A :0.05M PBS/アセトニトリル/メタノール=35/45/20
移動相B :メタノール
【0055】
【0056】
【0057】
表1及び表2に示すように、例1(例1-1)の水溶性ステロイド含有含水系貼付剤では、貼付箇所の皮膚にマイクロニードル穿刺処理を実施することにより(表1)、マイクロニードル穿刺処理を行っていない場合(表2)に比べ、累積皮膚透過量が顕著に上昇した。具体的には、貼付24時間後の累積皮膚透過量は、マイクロニードルによる穿刺処理を行っていない場合:4.5μg/cm
2に対し、マイクロニードルによる穿刺処理を行った場合:1095.2μg/cm
2となり、累積皮膚透過量が約243倍高いものとなった(
図1参照)。
一方、例2の脂溶性ステロイド含有含水系貼付剤は、マイクロニードルによる穿刺処理の有無にかかわらず、例1(例1-1)の水溶性ステロイド含有含水系貼付剤と比べ、累積皮膚透過量が格段に低かった。また、マイクロニードル穿刺処理による累積皮膚透過量の増加もみられなかった(
図2参照)。
【0058】
[試験例2:へアレスマウス摘出皮膚を用いた、マイクロニードル穿刺後の含水系貼付剤投与による薬物皮膚透過試験(2)]
<試験方法>
コルク板上においたへアレスマウス(雄性、7週齢、日本エスエルシー(株))の腹部摘出皮膚に、下記に示すマイクロニードルアレイにて、穿刺速度6.0m/sにて、マイクロニードルを穿刺した。
穿刺部位の皮膚に上述の例1(例1-2:DSP/PVA/水=1.5/8.9/89.6(質量比))又は例2の含水系貼付剤を貼付し固定用粘着テープとしてカテリープ(ポリウレタンフィルム、ニチバン(株))を上から貼付後、皮膚透過試験用縦型拡散セル(内径:20mmφ、レシーバー容量:約16mL、有効拡散面積:3.14cm2)に皮膚面を装着した。
拡散セルのジャケット内に32℃に加温した温水を通水し、レシーバーチャンバ内に下記に示すレシーバー液を加え、皮膚透過試験を開始した。試験開始から一定時間経過毎に、拡散セルのサンプリングポートから0.5mLずつレシーバー液を採取し、同量のレシーバー液を補充した。そして採取したレシーバー液に同量のメタノールを添加した後、遠心分離して上清をサンプルとして回収した。得られたサンプルをHPLCにより透過薬物量を定量し、累積透過量を算出した。
【0059】
また対照例として、マイクロニードル処理を行わず(穿刺せず)とした以外は同様の手順にて、例1(例1-2:DSP/PVA/水=1.5/8.9/89.6(質量比))及び例2の含水系貼付剤を用いた皮膚透過試験を実施した。
得られた結果を表3(穿刺処理あり)及び表4(穿刺処理なし)、並びに
図3(水溶性ステロイド含有含水系貼付剤適用)及び
図4(脂溶性ステロイド含有含水系貼付剤適用)にそれぞれ示す。
【0060】
《マイクロニードルアレイ》
ポリカーボネートからなる円錐状マイクロニードル(高さ300μm×底面の直径300μm)を1アレイ当たり305本有する円形マイクロニードルアレイ(直径0.8cm)を用いた。
《レシーバー液》
例1(例1-2)(水溶性ステロイド含有含水系貼付剤):リン酸緩衝液(pH:7.4)
例2(脂溶性ステロイド含有含水系貼付剤):20%ポリエチレングリコール水溶液(PEG分子量等:380-420、関東化学(株)
《HPLC》
例1(例1-2)(水溶性ステロイド含有含水系貼付剤)
装置 :LC-2010HT((製)島津製作所)
カラム :Kinetex C8 100A、5μm、4.6×250mm(Phenomenex)
カラム温度:40℃
注入量 :50μL
流速 :0.65mL/min
検出波長 :254nm
移動相 :0.1% リン酸水溶液/アセトニトリル/メタノール=54/35/11
例2(脂溶性ステロイド含有含水系貼付剤)
装置 :LC-2010HT((製)島津製作所)
カラム :Mightysil RP-18 GP、5μm、4.6×150mm(関東化学(株))
カラム温度:25℃
注入量 :30μL
流速 :1.04mL/min
検出波長 :240nm
移動相A :0.05M PBS/アセトニトリル/メタノール=35/45/20
移動相B :メタノール
【0061】
【0062】
【0063】
表3及び表4に示すように、例1(例1-2)の水溶性ステロイド含有含水系貼付剤では、貼付箇所の皮膚にマイクロニードル穿刺処理を実施することにより(表3)、マイクロニードル穿刺処理を行っていない場合(表4)に比べ、累積皮膚透過量が顕著に上昇した。具体的には、貼付24時間後の累積皮膚透過量は、マイクロニードルによる穿刺処理を行っていない場合:8.1μg/cm
2に対し、マイクロニードルによる穿刺処理を行った場合:1054.0μg/cm
2となり、累積皮膚透過量が約130倍高いものとなった(
図3参照)。
一方、例2の脂溶性ステロイド含有含水系貼付剤は、マイクロニードルによる穿刺処理の有無にかかわらず、例1(例1-2)の水溶性ステロイド含有含水系貼付剤と比べ、累積皮膚透過量が格段に低かった。また、マイクロニードル穿刺処理による累積皮膚透過量の増加も、水溶性ステロイド含有含水系貼付剤と比べ、殆どみられなかった(
図4参照)。
本試験例の結果に示されるように、含水系貼付剤中の水溶性ステロイド(DSP)と脂溶性ステロイド(CP)を同等の濃度とした場合でも、先の試験例1と同じ傾向の結果が得られた。
【0064】
[試験例3:ウサギ眼瞼皮膚を用いた、マイクロニードル穿刺後の含水系貼付剤の投与によるマイボーム腺近傍組織内薬物濃度測定試験]
<試験方法>
ウサギ(Slc:JW/CSK、日本白色種、日本エスエルシー(株))に対してイソフルランの吸入により麻酔を施し、上眼瞼周辺をバリカン及びシェーバーを用いて皮膚が露出するまで剃毛した。上眼瞼の皮膚を挟瞼器で固定し、下記に示すマイクロニードルアレイにて、穿刺速度6.0m/sにて、上眼瞼の剃毛皮膚にマイクロニードルを穿刺した。
穿刺部位の皮膚に上述の例1(例1-1:DSP/PVA/水=25/7/68(質量比))の水溶性ステロイド含有含水系貼付剤(但し大きさは1.5cm×0.8cm、適用面積1.2cm2としたもの)を16時間貼付(固定用粘着テープとしてカテリープ(ポリウレタンフィルム、ニチバン(株))を上から貼付)した後剥離し、貼付部位をメンバンで拭き取った後に、剥離直後(すなわち貼付16時間後)、貼付24時間、72時間、168時間又は336時間経過後に、それぞれ貼付部位からマイボーム腺を含む周辺組織(以下、マイボーム腺近傍組織と表記)を摘出した。組織内の薬物を抽出するべく、摘出したマイボーム腺近傍組織を水/アセトニトリル/メタノール=54/35/11の溶液にて12~24時間に浸漬し、下記に詳述するHPLC分析を用いた測定方法により、組織内の薬物濃度を測定した。
【0065】
《マイクロニードルアレイ》
ポリカーボネートからなる円錐状マイクロニードル(高さ300μm×底面の直径300μm)を1アレイ当たり305本有する円形マイクロニードルアレイ(直径0.8cm)を用いた。
《マイボーム腺近傍組織の薬物濃度測定方法》
摘出したマイボーム腺近傍組織をハサミで細切し遠心管に移し、水/アセトニトリル/メタノール=54/35/11の溶液を1mL加え12~24時間冷蔵庫にて静置した。遠心分離機を用いて、10,000rpmで10分間遠心を行い、上清0.8mLを別の試験管に移した。溶媒を窒素ガス吹付けにより除去し乾固させ、水/アセトニトリル/メタノール=54/35/11の溶液を0.5mL加えて再溶解した。遠心分離機を用いて10,000rpmで10分間遠心を行い、上清0.4mLをフィルターろ過し、HPLC分析により濃度を測定した。
《HPLC》
装置 :LC-2010HT((製)島津製作所)
カラム :Kinetex 5 C8 100A、5μm、4.6×250mm((株)島津ジーエルシー)
カラム温度:40℃
注入量 :50μL
流速 :0.65mL/min
検出波長 :254nm
移動相 :0.1%リン酸緩衝液/アセトニトリル/メタノール=54/35/11
【0066】
【0067】
上眼瞼皮膚への軟膏剤の塗布により疎水性ステロイドを投与した場合、マイボーム腺を含む眼瞼結膜において、投与後15分経過後に約2.1μg/gの組織内濃度(Cmax)が認められることが知られている(Pharmacology Review(s) 2010;NDA 200-738)。
本発明においてはマイクロニードル穿刺処理後に貼付剤の形態にて水溶性ステロイドを投与することにより、軟膏剤よりも約3.9倍高いマイボーム腺近傍組織内薬物濃度が認められた。
また、本発明によれば、投与後16時間でマイボーム腺近傍組織内の薬物濃度を8.2μg/gにまで高めることができ、すなわち、短時間で必要十分量0.050μg/g以上のステロイド剤を患部に到達させることができる。また、投与後336時間、すなわち、2週間もの間、必要十分量である0.050μg/g以上のステロイドを患部に滞留させることができる。
このように本発明によれば、従来の治療法と比べ、患部であるマイボーム腺を含む周辺組織に短時間で必要十分量の投与及び濃度維持が可能であり、ステロイドの長期的な使用を避けることが可能である。そのため、ステロイド点眼剤及び眼軟膏等の眼科用ステロイドの長期的な使用によって誘発される眼圧上昇、白内障、角膜上皮障害及び創傷治癒の遅延、コルチコステロイドぶどう膜炎、散瞳および眼瞼下垂症、感染症、ならびに、一過性の眼の不快感やステロイド誘発性のカルシウム沈着等の他の深刻な副作用がなく、本発明は患者の負担が少ない治療法であると考えられる。