(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20221128BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
F16J15/3204 101
F16J15/18 A
(21)【出願番号】P 2018540093
(86)(22)【出願日】2018-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2018012199
(87)【国際公開番号】W WO2018181210
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2017064477
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森 達也
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0103075(US,A1)
【文献】実開平05-022949(JP,U)
【文献】特開2003-294154(JP,A)
【文献】実開昭59-147937(JP,U)
【文献】特開2005-090569(JP,A)
【文献】特開昭56-150671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
F16J 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復動軸と、この往復動軸が配置された軸孔の内面との間に配置される密封装置であって、
前記軸孔の内部に配置される剛体製の流体側剛性環と、前記流体側剛性環に取り付けられた弾性体製の流体側弾性環とを有しており、前記流体側弾性環には、前記流体側剛性環よりも半径方向内側に配置されて前記往復動軸に摺動自在に密封接触するオイルリップが形成されているオイルシール部材と、
前記軸孔の内部に配置される剛体製の大気側剛性環と、前記大気側剛性環に固定された弾性体製の大気側弾性環とを有しており、前記大気側弾性環には、前記大気側剛性環よりも半径方向内側に配置されて前記往復動軸に摺動自在に接触するダストリップが形成されているダストシール部材と、
前記軸孔の内部に取り付けられ、前記往復動軸の軸線方向に平行な方向において前記流体側弾性環と前記大気側弾性環との間に配置される剛体製の中間剛性環とを備え、
前記中間剛性環は、金属製であり、前記流体側弾性環と前記大気側弾性環とに接触して
おり、前記流体側剛性環と前記大気側剛性環に固定されることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
往復動軸と、この往復動軸が配置された軸孔の内面との間に配置される密封装置であって、
前記軸孔の内部に配置される剛体製の流体側剛性環と、前記流体側剛性環に取り付けられた弾性体製の流体側弾性環とを有しており、前記流体側弾性環には、前記流体側剛性環よりも半径方向内側に配置されて前記往復動軸に摺動自在に密封接触するオイルリップが形成されているオイルシール部材と、
前記軸孔の内部に配置される剛体製の大気側剛性環と、前記大気側剛性環に固定された弾性体製の大気側弾性環とを有しており、前記大気側弾性環には、前記大気側剛性環よりも半径方向内側に配置されて前記往復動軸に摺動自在に接触するダストリップが形成されているダストシール部材と、
前記軸孔の内部に取り付けられ、前記往復動軸の軸線方向に平行な方向において前記流体側弾性環と前記大気側弾性環との間に配置される剛体製の中間剛性環とを備え、
前記流体側剛性環は、環状部分と、この環状部分の外縁から延びる円筒部分とを有し、
前記大気側剛性環は、環状部分と、この環状部分の外縁から延びる円筒部分とを有し、
前記中間剛性環は、前記流体側剛性環の環状部分と前記大気側剛性環の環状部分とで挟まれ、前記流体側剛性環の円筒部分と前記大気側剛性環の円筒部分とで覆われることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
前記流体側弾性環は、前記流体側剛性環の一側面と、前記流体側剛性環の内周面に固定させられ、
前記大気側弾性環は、前記大気側剛性環の一側面と、前記大気側剛性環の内周面に固定させられていることを特徴とする請求項
1又は2項に記載の密封装置。
【請求項4】
前記中間剛性環の内周面には、弾性材料が固定されていないことを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復動軸を有する機器の軸回りの封止のために用いられる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧シリンダ装置、ショックアブソーバ等の往復動軸を有する機器においては、往復動軸と軸孔内面との間に、これらの間の環状間隙を封止するための密封装置が設けられる。
【0003】
特許文献1には、車両の懸架装置のショックアブソーバ用の密封装置が開示されている。この密封装置は、金属製の補強環と、補強環の内周部に設けられて油室側を向いた主リップと、補強環の内周部に設けられて外部空間側を向いたダストリップを有する。主リップおよびダストリップは、フッ素ゴム等の弾性材料から形成され、補強環に接着されている。より正確には、主リップを有する弾性体部分と、ダストリップを有する弾性体部分が補強環の両面にそれぞれ接着されているとともに、これらの弾性体部分を連結する薄い弾性体部分が補強環の内周面に接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の走行環境や乗り方の多様化に伴い、ショックアブソーバの密封装置の使用条件が過酷になってきている。また、例えばモノチューブ型のショックアブソーバのように内部の油の圧力が高い場合には、密封装置の耐圧性および耐久性を考慮して設計する必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、耐圧性および耐久性が高い密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る密封装置は、往復動軸と、この往復動軸が配置された軸孔の内面との間に配置される密封装置であって、前記軸孔の内部に配置される剛体製の流体側剛性環と、前記流体側剛性環に取り付けられた弾性体製の流体側弾性環とを有しており、前記流体側弾性環には、前記流体側剛性環よりも半径方向内側に配置されて前記往復動軸に摺動自在に密封接触するオイルリップが形成されているオイルシール部材と、前記軸孔の内部に配置される剛体製の大気側剛性環と、前記大気側剛性環に固定された弾性体製の大気側弾性環とを有しており、前記大気側弾性環には、前記大気側剛性環よりも半径方向内側に配置されて前記往復動軸に摺動自在に接触するダストリップが形成されているダストシール部材と、前記軸孔の内部に取り付けられ、前記往復動軸の軸線方向に平行な方向において前記流体側弾性環と前記大気側弾性環との間に配置される剛体製の中間剛性環とを備える。
【0008】
この密封装置においては、オイルシール部材とダストシール部材が別個の部材であり、オイルシール部材とダストシール部材の各々が、軸孔の内部に配置される剛性環と、剛性環に取り付けられた弾性環とを有しており、弾性環には往復動軸に摺動自在に接触するリップが形成されている。往復動軸の軸線方向に平行な方向においてオイルシール部材の流体側弾性環とダストシール部材の大気側弾性環との間には、これらとは別個の部材である中間剛性環が配置されるので、流体側弾性環と大気側弾性環が剛体製の中間剛性環によって補強されうる。オイルリップが形成された流体側弾性環は流体側剛性環で補強され、ダストリップが形成された大気側弾性環は大気側剛性環で補強され、さらにまた、流体側弾性環と大気側弾性環が中間剛性環に起因する強い支持力で支持されるので、密封装置の耐圧性および耐久性を高めることができる。
【0009】
前記密封装置が前記往復動軸と前記軸孔の内面との間に配置されると、前記流体側弾性環と前記大気側弾性環の少なくとも一方は、前記中間剛性環に常に接触する。この場合には、密封装置の使用時には常に流体側弾性環と大気側弾性環の少なくとも一方が中間剛性環に補強されることになる。
【0010】
前記密封装置が前記往復動軸と前記軸孔の内面との間に配置されると、前記流体側弾性環と前記大気側弾性環の両方が、前記中間剛性環に常に接触する。この場合には、密封装置の使用時には常に流体側弾性環と大気側弾性環の両方が中間剛性環に補強されることになる。
【0011】
本発明の一態様における密封装置においては、前記中間剛性環は、前記流体側剛性環と前記大気側剛性環に固定される。この場合には、流体側剛性環、大気側剛性環および中間剛性環が一体の剛体として働き、流体側弾性環と大気側弾性環を強固に補強することができる。
【0012】
本発明の一態様における密封装置においては、前記流体側剛性環は、環状部分と、この環状部分の外縁から延びる円筒部分とを有し、前記大気側剛性環は、環状部分と、この環状部分の外縁から延びる円筒部分とを有し、前記中間剛性環は、前記流体側剛性環の環状部分と前記大気側剛性環の環状部分とで挟まれ、前記流体側剛性環の円筒部分と前記大気側剛性環の円筒部分とで覆われる。換言すれば、中間剛性環は、流体側剛性環の環状部分、流体側剛性環の円筒部分、大気側剛性環の環状部分、および大気側剛性環の円筒部分で囲まれた空間内に嵌め込まれるのが好ましい。この場合には、中間剛性環は、軸孔の内部に配置される流体側剛性環および大気側剛性環に強固に支持される。また、密封装置を軸孔の内部に配備するとき、オイルシール部材、ダストシール部材および中間剛性環の相互の位置決めが容易であり、容易にこれらを組み付けることができる。
【0013】
本発明の一態様における密封装置においては、前記流体側弾性環は、前記流体側剛性環の一側面と、前記流体側剛性環の内周面に固定させられ、前記大気側弾性環は、前記大気側剛性環の一側面と、前記大気側剛性環の内周面に固定させられている。この場合には、流体側弾性環と流体側剛性環の接触面積が大きく、流体側弾性環は強固に流体側剛性環に固定され、大気側弾性環と大気側剛性環の接触面積が大きく、大気側弾性環は強固に大気側剛性環に固定され、密封装置の耐圧性および耐久性をさらに高めることができる。
【0014】
本発明の一態様における密封装置においては、前記中間剛性環の内周面には、弾性材料が固定されていない。この場合には、中間剛性環の内周面から弾性材料が剥離するおそれがなく、密封装置の耐久性を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、オイルリップが形成された流体側弾性環は流体側剛性環で補強され、ダストリップが形成された大気側弾性環は大気側剛性環で補強され、さらにまた、流体側弾性環と大気側弾性環が中間剛性環に起因する強い支持力で支持されるので、密封装置の耐圧性および耐久性を高めることができる。また、オイルシール部材、ダストシール部材および中間剛性環は、互いに別個の部材であるので、状況に応じて、適切な部材に交換したり適切な部材を選択したりすることができる。例えば、オイルシール部材が劣化した場合に、これだけを交換することができる。また、寸法、形状、構造、またはその他の細部が異なるいくつかの種類のオイルシール部材またはいくつかの種類のダストシール部材を準備し、密封装置の使用環境に応じて、適切なオイルシール部材またはダストシール部材を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る密封装置の断面図である。
【
図3】
図1の密封装置のオイルシール部材の製造工程の一例を示す略図である。
【
図4】
図1の密封装置のダストシール部材の製造工程の一例を示す略図である。
【
図5】他の実施形態に係る密封装置の断面図である。
【
図6】他の実施形態に係る密封装置の断面図である。
【
図7】他の実施形態に係る密封装置の断面図である。
【
図8】
図1の密封装置の中間剛性環の変形を示す断面図である。
【
図9】
図1の密封装置の中間剛性環の変形を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施の形態を示す図であり、往復動軸を有する機器であるショックアブソーバの一部と、ショックアブソーバに設けられた密封装置を示す。
【0018】
ショックアブソーバ1は、円筒状のハウジング2と、円柱状の往復動軸4とを有する。ハウジング2は、円筒状であって、往復動軸4が配置された軸孔2Aを有する。軸孔2A内には、オイルすなわち流体Lが入れられている。ハウジング2の下端には、中央に開口3Aが形成された端部壁3が形成されている。
【0019】
ハウジング2の内部には、オイルシールである密封装置6およびロッドガイド8が配置されている。詳細については図示しないが、ロッドガイド8は、ハウジング2に固定されている。ロッドガイド8は、往復動軸4の図中の上下方向(すなわち往復動軸4の軸線方向)の往復運動を案内するとともに、密封装置6を端部壁3に押し付ける。
【0020】
密封装置6は、ハウジング2の内部に配置され、ハウジング2の内周面によって密封装置6の図中の横方向の移動が規制されている。また、密封装置6は、ロッドガイド8と端部壁3に挟まれており、往復動軸4の軸線方向に沿った密封装置6の移動が規制されている。密封装置6は、往復動軸4と、この往復動軸4が配置された軸孔2Aの内面との間に配置され、流体L側から大気A側へ流体Lが漏出するのを防止または低減させる。
【0021】
往復動軸4は円柱状であり、軸孔2Aは断面円形であり、密封装置6はほぼ環状であるが、
図1においては、それらの左半分のみが示されている。
図1には、往復動軸4、軸孔2Aおよび密封装置6の共通の中心軸線Cが示されている。
【0022】
この実施形態において、密封装置6は、3つの別個の部材、すなわちオイルシール部材10、ダストシール部材12、および剛性環(中間剛性環)14を備える。これらの3つの部材を明確に示す分解断面図である
図2を必要に応じて参照されたい。
【0023】
オイルシール部材10は、軸孔2Aの内部に配置されて軸孔2Aに取り付けられる流体側剛性環16と、流体側剛性環16に固定された流体側弾性環18とを有する。流体側剛性環16は、剛体、例えば金属から形成されている。流体側剛性環16は、L字形の断面を有し、環状部分16aと、この環状部分16aの外縁から延びる円筒部分16bとを有する。
【0024】
流体側弾性環18は、弾性材料、例えばエラストマーから形成され、流体側剛性環16の環状部分16aの内周縁に固定されている。流体側弾性環18には、流体側剛性環16よりも半径方向内側に配置されたオイルリップ20が形成されている。オイルリップ20は、往復動軸4の外周面に密封接触し、流体L側から大気A側への流体の漏れを防止または低減する。往復動軸4が中心軸線Cの方向に移動するとき、往復動軸4はオイルリップ20に対して摺動する。
【0025】
さらにオイルシール部材10は外側ガスケット19を有する。外側ガスケット19は、弾性材料、例えばエラストマーから形成され、流体側剛性環16の環状部分16aと円筒部分16bに密着して固定されている。流体側剛性環16は、外側ガスケット19に対して半径方向外側すなわち軸孔2Aの内周面に向かう支持力を与え、外側ガスケット19は軸孔2Aの内周面と流体側剛性環16によって圧縮される。このようにして、外側ガスケット19は、流体L側から大気A側への軸孔2Aの外側部分を通じた流体の漏れを防止または低減する。
【0026】
外側ガスケット19と流体側弾性環18は、分離していてもよいが、この実施形態では、薄膜部21を介して連結されている。すなわち、流体側弾性環18、外側ガスケット19および薄膜部21は、同一材料から形成された連続した一体の弾性部分を構成する。薄膜部21も流体側剛性環16に密着して固定されている。この実施形態では、ロッドガイド8の突起8aがオイルシール部材10の薄膜部21に接触させられ、密封装置6にハウジング2の端部壁3に向かう押圧力を与える。
【0027】
ダストシール部材12は、軸孔2Aの内部に配置されて軸孔2Aに取り付けられる大気側剛性環22と、大気側剛性環22に固定された大気側弾性環24とを有する。大気側剛性環22は、剛体、例えば金属から形成されている。大気側剛性環22は、L字形の断面を有し、環状部分22aと、この環状部分22aの外縁から延びる円筒部分22bとを有する。
【0028】
大気側弾性環24は、弾性材料、例えばエラストマーから形成され、大気側剛性環22の環状部分22aの内周縁に固定されている。大気側弾性環24には、大気側剛性環22よりも半径方向内側に配置されたダストリップ26が形成されている。ダストリップ26は、往復動軸4の外周面に接触し、主に大気A側から流体L側への異物(例えば泥、水、塵埃)の侵入を防止する役割を担う。往復動軸4が中心軸線Cの方向に移動するとき、往復動軸4はダストリップ26に対して摺動する。ダストリップ26は、流体の漏れを防止または低減する役割を果たすように、往復動軸4の外周面に密封接触してもよい。
【0029】
オイルリップ20およびダストリップ26は、往復動軸4の外周面に接触するために、
図1に示された状態よりも半径方向外側に向けて弾性変形させられる。
図1は、密封装置1が往復動軸4の周囲に配置されていない状態を表しており(往復動軸4は仮想線で示されている)、これらのリップ20,26の変形を表していない。
【0030】
剛性環14(中間剛性環14)は、剛体、例えば金属から形成されている。剛性環14は、軸孔2Aの内部に配置されて軸孔2Aに取り付けられる。この実施形態において、中間剛性環14は、円形の平板であり、その中央に往復動軸4が挿入される貫通孔が形成されている。中間剛性環14の厚さは、流体側剛性環16および大気側剛性環22の各々の厚さより大きく、好ましくは流体側剛性環16および大気側剛性環22の各々の厚さの2倍以上である。
【0031】
オイルシール部材10、ダストシール部材12および中間剛性環14に関して「軸孔2Aに取り付けられる」とは、軸孔2Aに直接的または間接的に取り付けられることを意味する。これらが直接的に(例えば締まり嵌めによって)軸孔2Aに取り付けられてもよいし、間接的に(例えば、この実施形態のように、ロッドガイド8によって端部壁3に押圧されることによって)軸孔2Aに取り付けられてもよい。
【0032】
この実施形態において、中間剛性環14の内径は、オイルシール部材10の流体側弾性環18における中間剛性環14に接触する領域の内径よりも小さく、ダストシール部材12の大気側弾性環24における中間剛性環14に接触する領域の内径よりも小さい。したがって、剛性環14は、往復動軸4の軸線方向に平行な方向において流体側弾性環18と大気側弾性環24との間に配置される。
【0033】
中間剛性環14は、流体側剛性環16と大気側剛性環22に固定される。より具体的には、中間剛性環14は、流体側剛性環16の環状部分16aと大気側剛性環22の環状部分22aとで挟まれ、流体側剛性環16の円筒部分16bと大気側剛性環22の円筒部分22bとで覆われる。
【0034】
この実施形態においては、往復動軸4の軸線方向に平行な方向においてオイルシール部材10の流体側弾性環18とダストシール部材12の大気側弾性環24との間には、これらとは別個の部材である中間剛性環14が配置されるので、流体側弾性環18と大気側弾性環24が剛体製の中間剛性環14によって補強される。オイルリップ20が形成された流体側弾性環18は流体側剛性環16で補強され、ダストリップ26が形成された大気側弾性環24は大気側剛性環22で補強され、さらにまた、流体側弾性環18と大気側弾性環24が中間剛性環14に起因する強い支持力で支持されるので、密封装置6、特にリップ20,26の耐圧性および耐久性を高めることができる。
【0035】
好ましくは、密封装置6が往復動軸4と軸孔2Aの内面との間に配置されると、流体側弾性環18と大気側弾性環24の少なくとも一方は、中間剛性環14に常に接触する。この場合には、密封装置6の使用時には常に流体側弾性環18と大気側弾性環24の少なくとも一方が中間剛性環14に補強されることになる。
【0036】
好ましくは、密封装置6が往復動軸4と軸孔2Aの内面との間に配置されると、流体側弾性環18と大気側弾性環24の両方が、中間剛性環14に常に接触する。この場合には、密封装置6の使用時には常に流体側弾性環18と大気側弾性環24の両方が中間剛性環14に補強されることになる。
【0037】
中間剛性環14は、流体側剛性環16と大気側剛性環22に固定される。このため、流体側剛性環16、大気側剛性環22および中間剛性環14が一体の剛体として働き、流体側弾性環18と大気側弾性環24を強固に補強することができる。
【0038】
中間剛性環14は、流体側剛性環16の環状部分16aと大気側剛性環22の環状部分22aとで挟まれ、流体側剛性環16の円筒部分16bと大気側剛性環22の円筒部分22bとで覆われる。換言すれば、中間剛性環14は、流体側剛性環16の環状部分16a、流体側剛性環16の円筒部分16b、大気側剛性環22の環状部分22a、および大気側剛性環22の円筒部分22bで囲まれた空間内に嵌め込まれる。したがって、中間剛性環14は、軸孔2Aの内部に配置される流体側剛性環16および大気側剛性環22に強固に支持される。また、密封装置を軸孔2Aの内部に配備するとき、オイルシール部材10、ダストシール部材12および中間剛性環14の相互の位置決めが容易であり、容易にこれらを組み付けることができる。
【0039】
この実施形態においては、流体側弾性環18は、流体側剛性環16の一側面と、流体側剛性環16の内周面に密着して固定させられ、大気側弾性環24は、大気側剛性環22の一側面と、大気側剛性環22の内周面に密着して固定させられていると好ましい。この場合には、流体側弾性環18と流体側剛性環16の接触面積が大きく、流体側弾性環18は強固に流体側剛性環に固定され、大気側弾性環24と大気側剛性環22の接触面積が大きく、大気側弾性環24は強固に大気側剛性環22に固定され、密封装置6の耐圧性および耐久性をさらに高めることができる。
【0040】
さらにまた、この実施形態においては、往復動軸4の軸線方向に平行な方向においてオイルシール部材10の流体側弾性環18とダストシール部材12の大気側弾性環24との間には、これらとは別個の部材である中間剛性環14が配置されるので、往復動軸4の外周面と中間剛性環14の内周面との隙間を小さく設定することができる。この隙間が小さいため、往復動軸4の往復運動に伴って、オイルリップ20やダストリップ26がその隙間に侵入するおそれが少なく、密封装置6の耐圧性および耐久性をさらに高めることができる。
【0041】
中間剛性環14の内周面には、例えばエラストマーのような弾性材料を固定してもよいが、そのような弾性材料は不要であり、この実施形態では設けていない。このため、中間剛性環14の内周面から弾性材料が剥離するおそれがなく、密封装置6の耐久性を高めることができる。
【0042】
オイルシール部材10を製造するには、例えば、流体側剛性環16に、流体側弾性環18、外側ガスケット19および薄膜部21を有する弾性部材を接着剤で接着してもよい。ダストシール部材12を製造するには、例えば、大気側剛性環22に大気側弾性環24を接着剤で接着してもよい。
【0043】
図3および
図4を参照し、オイルシール部材10およびダストシール部材12の他の製造方法の工程を説明する。例えば、オイルシール部材10およびダストシール部材12の各々は、型30,32を用いて成形することができる。型30は上型30Aと下型30Bを有し、型32は上型32Aと下型32Bを有する。
【0044】
この製造方法においては、流体側剛性環16のうち流体側弾性環18、外側ガスケット19および薄膜部21が固着されるべき箇所に接着剤をコートし、大気側剛性環22のうち大気側弾性環24が固着されるべき箇所に接着剤をコートした後に、流体側剛性環16および大気側剛性環22をそれぞれ型30,32に配置する。そして、型30,32内に弾性材料を配置して、型30,32で圧縮し、流体側弾性環18、外側ガスケット19、薄膜部21および大気側弾性環24を成形することによって、オイルシール部材10およびダストシール部材12を完成する。
図3においては、流体側弾性環18を成形する成形空間18h、外側ガスケット19を成形する成形空間19h、薄膜部21を成形する成形空間21hが示されている。
図4においては、大気側弾性環24を成形する成形空間24hが示されている。
【0045】
この製造方法では、成形空間18hの部分18pや成形空間24hの部分24pへの弾性材料の回り込みが不足するおそれがある。この場合には、
図2に示す流体側弾性環18の領域18q(流体側剛性環16の環状部分16aの内周面に接触する領域)や大気側弾性環24の領域24q(大気側剛性環22の環状部分22aの内周面に接触する領域)の長さが図示の長さよりわずかに小さくなることがありうる。また、型を用いた弾性材料の射出成形でオイルシール部材10およびダストシール部材12を製造することも可能であるが、この場合にも、領域18qや領域24qの長さが図示の長さよりわずかに小さくなることがありうる。
【0046】
しかし、設計上、流体側剛性環16の環状部分16aの内周面の中心軸線Cに平行な方向の長さ、大気側剛性環22の環状部分22aの内周面の中心軸線Cに平行な方向の長さを十分に大きく設定し、領域18qおよび領域24qの設計上の長さを十分に大きく設定しておけば、領域18qおよび領域24qの流体側剛性環16および大気側剛性環22の密着力を確保することができる。
【0047】
また、仮に領域18qや領域24qの長さが不足しても、流体側弾性環18や大気側弾性環24の中心軸線Cに平行な方向での弾性変形により、領域18qや領域24qは中間剛性環14に接触しうる。したがって、流体側弾性環18や大気側弾性環24は、中間剛性環14によって補強される。
【0048】
逆に、領域18qや領域24qの長さが
図2に示す長さよりわずかに大きくなることがありうる。弾性材料の射出成形でオイルシール部材10およびダストシール部材12を製造する場合にも、同様である。しかし、このような場合には、領域18qや領域24qの余分な部分が、流体側弾性環18および大気側弾性環24の間に配置される中間剛性環14によって圧縮され、
図1に示す構造が実現される。したがって、流体側弾性環18や大気側弾性環24は、中間剛性環14によって補強される。
【0049】
以上の通り、領域18qや領域24qの長さが所望の長さより大きくても小さくても、流体側弾性環18および大気側弾性環24は、流体側剛性環16、大気側剛性環22および中間剛性環14により支持されうる。したがって、密封装置6の耐圧性および耐久性を高めることができる。
【0050】
図5は、他の実施形態に係る密封装置36の断面図である。
図5以降の図面において、上記の実施形態と共通する構成要素を示すため、同一の符号が使用され、それらの構成要素については詳細には説明しない。この密封装置36は、オイルリップ20の補強のためのバックアップリング38,39を有する。
【0051】
バックアップリング38,39の各々は、剛体、例えば樹脂または金属から形成されている。オイルシール部材10の流体側弾性環18における中間剛性環14付近の領域の内周面にバックアップリング38,39は、着脱自在に嵌め込まれる。流体側弾性環18における中間剛性環14付近の領域の内周面には、バックアップリング38,39を嵌め込むための溝を形成してもよい。バックアップリング38,39によって、密封装置36、特にオイルリップ20の耐圧性および耐久性を高めることができる。
【0052】
この実施形態では、2つのバックアップリング38,39が使用されているが、バックアップリング38,39のいずれか1つだけを使用してもよい。あるいは、この実施形態の2つのバックアップリング38,39を組み合わせた形状の単一のバックアップリングを使用してもよい。
【0053】
図6は、他の実施形態に係る密封装置46の断面図である。この密封装置46は、上記の実施形態の流体側弾性環18の代わりに、流体側剛性環16に間接的に取り付けられた流体側弾性環49を有する。密封装置46のオイルシール部材47は、流体側剛性環16、流体側剛性環16に密着して固定された外側ガスケット19、流体側剛性環16に密着して固定された中間弾性環48、外側ガスケット19と中間弾性環48を連結する薄膜部21、および流体側弾性環49を有する。薄膜部21も流体側剛性環16に密着して固定されている。
【0054】
外側ガスケット19と中間弾性環48は、分離していてもよいが、この実施形態では、薄膜部21を介して連結されている。すなわち、中間弾性環48、外側ガスケット19および薄膜部21は、同一の弾性材料(例えばエラストマー)から形成された連続した一体の弾性部分を構成する。この実施形態では、流体側剛性環16の環状部分16aは、上記の他の実施形態のそれよりも小さい。中間弾性環48は、環状部分16aの内周面に密着して固定させられている。
【0055】
流体側弾性環49は、弾性材料(例えばエラストマー)から形成されるが、上記の弾性部分とは別個の部材であって、中間弾性環48に対して着脱自在に取り付けられる。中間弾性環48の内周面には、V字形の溝48aが形成され、この溝48aに流体側弾性環49の突起49aが嵌め込まれる。
【0056】
流体側弾性環49には、流体側剛性環16よりも半径方向内側に配置されたオイルリップ50が形成されている。オイルリップ50は、往復動軸4の外周面に密封接触し、流体L側から大気A側への流体の漏れを防止または低減する。往復動軸4が中心軸線Cの方向に移動するとき、往復動軸4はオイルリップ50に対して摺動する。
【0057】
図7は、他の実施形態に係る密封装置56の断面図である。この密封装置56のオイルシール部材10の流体側弾性環18は、主オイルリップ57および副オイルリップ58を有する。主オイルリップ57および副オイルリップ58は、両方とも流体を封止する役割を担う。主オイルリップ57は、リップ26,57,58のうち最も小さい内径を有し、往復動軸4が中心軸線Cの方向に移動するとき、往復動軸4は主オイルリップ57に対して摺動する。副オイルリップ58は、主オイルリップ57を補強するとともに、往復動軸4が軸孔2Aに対して偏心している場合に、主オイルリップ57の流体封止機能を補助する。
【0058】
また、この密封装置56は、流体側弾性環18の周囲に巻かれるガータースプリング60を有する。ガータースプリング18は、主オイルリップ57および副オイルリップ58を往復動軸4に押し付ける力をリップ57,58に与える。
【0059】
図1、
図5、
図6および
図7から明らかなように、上記の異なる実施形態においては、ダストシール部材12および中間剛性環14は共通であり、オイルシール部材の詳細が異なっている。寸法、形状、構造、またはその他の細部が異なるいくつかの種類のオイルシール部材を準備し、密封装置の使用環境に応じて、適切なオイルシール部材を選択することができる。すなわち、本発明では、オイルシール部材、ダストシール部材および中間剛性環は、互いに別個の部材であるので、状況に応じて密封装置をカスタマイズすることができる。寸法、形状、構造、またはその他の細部が異なるいくつかの種類のダストシール部材を準備し、密封装置の使用環境に応じて、適切なダストシール部材を選択してもよい。また、オイルシール部材またはダストシール部材が劣化した場合に、これだけを交換することができる。
【0060】
以上、本発明の様々な実施形態を説明したが、上記の説明は本発明を限定するものではなく、本発明の技術的範囲において、構成要素の削除、追加、置換を含む様々な変形例が考えられる。
【0061】
例えば、本発明は、ショックアブソーバに限らず、油圧シリンダ装置等の往復動軸を有する他の機器に使用される密封装置に適用してもよい。
【0062】
上記の実施形態において、中間剛性環14は単一の部品であるが、
図8および
図9に示すように、複数の部品から構成してもよい。
図8に示す中間剛性環14は、外側環14Aと、外側環14Aの内側に嵌め込まれる内側環14Bを有する。
図9に示す中間剛性環14は、2枚の同じ外径と内径を有する環14C,14Dを有する。中間剛性環14の部品の数は3以上でもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 ショックアブソーバ
2 ハウジング
2A 軸孔
3 端部壁
3A 開口
4 往復動軸
6,36,46,56 密封装置
8 ロッドガイド
10,47 オイルシール部材
12 ダストシール部材
14 剛性環(中間剛性環)
14A 外側環
14B 内側環
14C,14D 環
16 流体側剛性環
16a 環状部分
16b 円筒部分
18 流体側弾性環
18h,19h,21h,24h 成形空間
19 外側ガスケット
20 オイルリップ
21 薄膜部
22 大気側剛性環
22a 環状部分
22b 円筒部分
24 大気側弾性環
26 ダストリップ
30 型,型
30A,32A 上型
30B,32B 下型
38,39 バックアップリング
48 中間弾性環
48a 溝
49 流体側弾性環
49a 突起
50 オイルリップ
57 主オイルリップ
58 副オイルリップ
60 ガータースプリング