(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】MRIによる導電率測定値に基づいて頭部上の電極位置を最適化したTTFIELD治療
(51)【国際特許分類】
A61N 1/32 20060101AFI20221128BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
A61N1/32
A61B5/055 390
A61B5/055 382
(21)【出願番号】P 2018541590
(86)(22)【出願日】2016-10-28
(86)【国際出願番号】 IB2016056495
(87)【国際公開番号】W WO2017072706
(87)【国際公開日】2017-05-04
【審査請求日】2019-10-28
(32)【優先日】2015-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519275847
【氏名又は名称】ノボキュア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ゼーヴ・ボンゾン
(72)【発明者】
【氏名】コーネリア・ウェンガー
(72)【発明者】
【氏名】ペドロ・ミカエル・カヴァレイロ・ミランダ
(72)【発明者】
【氏名】ノア・ウルマン
(72)【発明者】
【氏名】エイロン・キルソン
(72)【発明者】
【氏名】ヨラム・ワッサーマン
(72)【発明者】
【氏名】ヨラム・パルティ
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0265261(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0017749(US,A1)
【文献】特開平09-173315(JP,A)
【文献】特表2007-517571(JP,A)
【文献】特表2006-513739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/32 - A61N 1/32
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサ
が、被験者の身体上に配置された複数の電極の最適な位置を決定する方法であって、前記電極が、解剖学的体積内の標的組織に電場を与えるように構成され、前記方法が、
前記解剖学的体積における導電率または電気抵抗率測定値を取得するステップと、
前記解剖学的体積を組織タイプにセグメント化せずに、前記取得した導電率または電気抵抗率測定値から直接、前記解剖学的体積の導電率または電気抵抗率の3Dマップを生成するステップと、
前記解剖学的体積内における前記標的組織の場所を特定するステップと、
前記生成するステップで生成された導電率または電気抵抗率の前記3Dマップ、および前記特定するステップで特定された前記標的組織の前記場所に基づいて、前記電極の位置を決定するステップとを含み、
前記取得するステップが、拡散テンソル画像法を使用してMRIデータを獲得するステップを含み、ならびに、獲得された前記MRIデータから拡散テンソルを導き出すことと、前記拡散テンソルおよび導電率テンソルの固有値間で線形関係σ
v=s・d
v(式中、σ
vおよびd
vはそれぞれ、前記導電率テンソルおよび前記拡散テンソルのv番目の固有値)を呈する直接マッピング方法とを含む、方法。
【請求項2】
プロセッサ
が、被験者の身体上に配置された複数の電極の最適な位置を決定する方法であって、前記電極が、解剖学的体積内の標的組織に電場を与えるように構成され、前記方法が、
前記解剖学的体積における導電率または電気抵抗率測定値を取得するステップと、
前記解剖学的体積を組織タイプにセグメント化せずに、前記取得した導電率または電気抵抗率測定値から直接、前記解剖学的体積の導電率または電気抵抗率の3Dマップを生成するステップと、
前記解剖学的体積内における前記標的組織の場所を特定するステップと、
前記生成するステップで生成された導電率または電気抵抗率の前記3Dマップ、および前記特定するステップで特定された前記標的組織の前記場所に基づいて、前記電極の位置を決定するステップとを含み、
前記取得するステップが、拡散テンソル画像法を使用してMRIデータを獲得するステップを含み、前記解剖学的体積の各体積要素における導電率テンソルの固有値の幾何平均が前記体積要素が属する組織タイプの特定の等方性導電率値に対して局所的に整合される、体積正規化方法を含む、方法。
【請求項3】
プロセッサ
が、被験者の身体上に配置された複数の電極の最適な位置を決定する方法であって、前記電極が、解剖学的体積内の標的組織に電場を与えるように構成され、前記方法が、
前記解剖学的体積における導電率または電気抵抗率測定値を取得するステップと、
前記解剖学的体積を組織タイプにセグメント化せずに、前記取得した導電率または電気抵抗率測定値から直接、前記解剖学的体積の導電率または電気抵抗率の3Dマップを生成するステップと、
前記解剖学的体積内における前記標的組織の場所を特定するステップと、
前記生成するステップで生成された導電率または電気抵抗率の前記3Dマップ、および前記特定するステップで特定された前記標的組織の前記場所に基づいて、前記電極の位置を決定するステップとを含み、
前記解剖学的体積が脳であり、
前記電極の位置の決定が、前記脳の導電率または電気抵抗率の前記3Dマップが第1の一定の導電率を有する第1のシェルのモデルに取り囲まれている複合モデルに基づき、
前記電極の位置を決定する前記ステップが、前記標的組織に対応する場所で前記複合モデルにダイポールを追加するステップと、前記ダイポールに帰属し得る電位が最大である外部位置を選択するステップとを含む、方法。
【請求項4】
プロセッサ
が、被験者の身体上に配置された複数の電極の最適な位置を決定する方法であって、前記電極が、解剖学的体積内の標的組織に電場を与えるように構成され、前記方法が、
前記解剖学的体積における導電率または電気抵抗率測定値を取得するステップと、
前記解剖学的体積を組織タイプにセグメント化せずに、前記取得した導電率または電気抵抗率測定値から直接、前記解剖学的体積の導電率または電気抵抗率の3Dマップを生成するステップと、
前記解剖学的体積内における前記標的組織の場所を特定するステップと、
前記生成するステップで生成された導電率または電気抵抗率の前記3Dマップ、および前記特定するステップで特定された前記標的組織の前記場所に基づいて、前記電極の位置を決定するステップとを含み、
前記電極の位置を決定する前記ステップが、前記標的組織において前記電場の最大強度を提供する前記電極の位置を計算するステップを含む、方法。
【請求項5】
前記取得するステップで取得した前記測定値が分子の拡散を表す、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記取得するステップが、拡散強調画像法を使用してMRIデータを獲得するステップを含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項7】
前記取得するステップが、カスタマイズした多重エコー勾配シーケンスを使用してMRIデータを獲得するステップを含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項8】
前記取得するステップが、拡散テンソル画像法を使用してMRIデータを獲得するステップを含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項9】
拡散テンソル画像法を使用してMRIデータを獲得する前記ステップが、獲得された前記MRIデータから拡散テンソルを導き出すことと、前記拡散テンソルおよび導電率テンソルの固有値間で線形関係σ
v=s・d
v(式中、σ
vおよびd
vはそれぞれ、前記導電率テンソルおよび前記拡散テンソルのv番目の固有値)を呈する直接マッピング方法とを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
拡散テンソル画像法を使用してMRIデータを獲得する前記ステップが、前記解剖学的体積の各体積要素における導電率テンソルの固有値の幾何平均が前記体積要素が属する組織タイプの特定の等方性導電率値に対して局所的に整合される、体積正規化方法を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記解剖学的体積が脳の白質および灰白質を含む、請求項1、2、3、または4に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のシェルの前記モデルが、頭皮、頭骨、およびCSFを総合したものを表す、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のシェルの前記モデルがCSFを表し、
前記複合モデルが頭骨を表す第2のシェルを更に含み、前記第2のシェルが第2の一定の導電率を有し、
前記複合モデルが頭皮を表す第3のシェルを更に含み、前記第3のシェルが第3の一定の導電率を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
前記生成するステップにおいて、前記3Dマップが1mm×1mm×1mmよりも高い解像度を有する、請求項1、2、3、または4に記載の方法。
【請求項15】
3Dマップを生成する前記ステップが、前記解剖学的体積を表す単純な幾何オブジェクトを生成するステップを含む、請求項1、2、3、または4に記載の方法。
【請求項16】
3Dマップを生成する前記ステップが、異方性比率に基づいて各体積要素の組織タイプを分類するステップを含む、請求項1、2、3、または4に記載の方法。
【請求項17】
3Dマップを生成する前記ステップが、平均導電率に基づいて各体積要素の組織タイプを分類するステップを含む、請求項1、2、3、または4に記載の方法。
【請求項18】
3Dマップを生成する前記ステップが、導電率テンソルの固有値の幾何平均を特定の等方性基準値に対して整合させるステップを含む、請求項1、2、3、または4に記載の方法。
【請求項19】
前記解剖学的体積は、被験者の胸部を含む、請求項1、2、3、または4に記載の方法。
【請求項20】
前記解剖学的体積は、被験者の腹部を含む、請求項1、2、3、または4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮特許出願第62/247,314号(2015年10月28日出願)および第62/294,372号(2016年2月12日出願)の利益を主張し、それら各々の全体を参照により本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍治療電場、即ちTTFieldsは、中間周波数範囲(100~300kHz)内における低強度(例えば、1~3V/cm)の交流電場である。この非侵襲性治療は、固形腫瘍を標的とするものであり、全体を参照により本明細書に援用する米国特許第7,565,205号に記載されている。TTFieldsは、有糸分裂中の鍵分子との物理的相互作用によって細胞分裂を妨害する。TTFields療法は、再発膠芽腫の場合は認可された単剤療法であり、新たに診断された患者の場合は化学療法との認可された併用療法である。これらの電場は、患者の頭皮上に直接配置された変換器アレイ(即ち、電極のアレイ)によって非侵襲的に誘導される。TTFieldsはまた、身体の他の部分の腫瘍を治療するのに有益であると思われる。
【0003】
TTFieldsは、分裂中期中に正常な微小管集合を妨げ、最終的には分裂終期および細胞質分裂中に細胞を破壊するので、抗有糸分裂性のがん治療モダリティとして確立されている。その有効性は電場強度の増大に伴って増大し、最適周波数はがん細胞株に依存し、TTFieldsによって引き起こされる神経膠腫細胞成長(glioma cells growth)の阻害が最大である周波数は200kHzである。がん治療に関して、腫瘍に近い皮膚領域に直接配置される容量結合変換器を備えた非侵襲性デバイスが開発された。多形神経膠芽腫(GBM)患者の場合、これはヒトにおける最も一般的な原発性の悪性脳腫瘍であるが、TTFields療法を行うためのデバイスはOptune(商標)と呼ばれている。
【0004】
TTFieldsの効果は指向性を有し、電場に対して平行に分裂する細胞が他の方向で分裂する細胞よりも大きく影響を受けるため、また細胞は全方向で分裂するので、TTFieldsは、一般的に、治療されている腫瘍内で垂直電場を発生させる二対の変換器アレイを通して送達される。より具体的には、Optuneシステムの場合、電極の一方の対は腫瘍の左右(LR)に配置され、電極の他方の対は腫瘍の前後(AP)に配置される。これら2つの方向(即ち、LRおよびAP)の間で電場を循環させることで、細胞配向の最大範囲が標的になることが担保される。
【0005】
インビボおよびインビトロ研究によって、電場の強度が増大するのに伴ってTTFields療法の有効性が増大することが示されている。したがって、脳の患部領域での強度を増大するため、患者の頭皮上におけるアレイの配置を最適化することは、Optuneシステムの標準的な慣行である。今日まで、アレイ配置の最適化は、経験則によって(例えば、腫瘍にできるだけ近付けて頭皮上にアレイを配置する)、またはNovoTal(商標)システムを使用して行われている。NovoTal(商標)は、患者の頭部の幾何学形状と、腫瘍の寸法およびその場所を説明する限定された一連の測定値を使用して、最適なアレイのレイアウトを見つける。NovoTal(商標)への入力として使用される測定値は、医師によって患者のMRIから手作業で導き出される。NovoTal(商標)の最適化アルゴリズムは、アレイの位置の関数として電場が頭部内でどのように分布するかについての包括的な理解に依存しており、異なる患者の頭部内における電気的性質分布のばらつきを考慮に入れていない。これらのばらつきは、頭部および腫瘍内の電場分布に影響を及ぼして、NovoTal(商標)が推奨するレイアウトが最適には及ばないという状況につながる場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】A Hitchhiker's Guide to Diffusion Tensor Imaging by J. M. Soares et al., frontiers in Neuroscience, vol. 7, article 31, p.1-14, doi: 10.3389/fnins.2013.00031, 2013
【文献】How the Brain Tissue Shapes the Electric Field Induced by Transcranial Magnetic Stimulation by A. Opitz et al. Neuroimage, vol. 58, no. 3, pp. 849-59, Oct. 2011
【文献】EEG Source Analysis of Epileptiform Activity Using a 1 mm Anisotropic Hexahedra Finite Element Head Model by M. Rullmann et al. NeuroImage 44, 399-410 (2009)
【文献】Influence of Anisotropic Electrical Conductivity in White Matter Tissue on the EEG/MEG Forward and Inverse Solution - A High-Resolution Whole Head Simulation Study, by D. Gullmar, NeuroImage 51, 145-163 (2010)
【文献】www.materialise.com
【文献】The Electric Field Distribution in the Brain During TTFields Therapy and Its Dependence on Tissue Dielectric Properties and Anatomy: A Computational Study by C. Wenger et al, Phys. Med. Biol, vol. 60, no. 18, pp. 7339-7357, 2015
【文献】http://meshlab.sourceforge.net/
【文献】http://www.comsol.com
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、解剖学的体積内の標的組織に電場を与えるのに電極が使用される、被験者の身体上に配置された複数の電極の位置を最適化する第1の方法を対象とする。第1の方法は、解剖学的体積における導電率または電気抵抗率測定値を取得するステップと、取得した導電率または電気抵抗率測定値から直接、解剖学的体積を組織タイプにセグメント化せずに、解剖学的体積の導電率または電気抵抗率の3Dマップを生成するステップとを含む。この方法はまた、解剖学的体積内における標的組織の場所を特定するステップと、生成するステップで生成された導電率または電気抵抗率の3Dマップ、および特定するステップで特定された標的組織の場所に基づいて、電極の位置を決定するステップとを含む。
【0008】
第1の方法のいくつかの実施形態は、決定するステップで決定された位置で、電極を被験者の身体に装着するステップと、装着するステップに続いて、電場を標的組織に与えるように、電極間に電気信号を印加するステップとを更に含む。
【0009】
第1の方法のいくつかの実施形態では、取得するステップで取得した測定値は分子の拡散を表す。第1の方法のいくつかの実施形態では、取得するステップは、拡散強調画像法を使用してMRIデータを獲得するステップを含む。第1の方法のいくつかの実施形態では、取得するステップは、カスタマイズした多重エコー勾配シーケンス(multi echo gradient sequences)を使用してMRIデータを獲得するステップを含む。
【0010】
第1の方法のいくつかの実施形態では、取得するステップは、拡散テンソル画像法を使用してMRIデータを獲得するステップを含む。任意に、これらの実施形態では、拡散テンソル画像法を使用してMRIデータを獲得するステップは、拡散テンソルおよび導電率テンソルの固有値間で線形関係σv=s・dv(式中、σvおよびdvはそれぞれ、導電率および拡散のv番目の固有値)を呈する直接マッピング方法を含む。任意に、これらの実施形態では、拡散テンソル画像法を使用してMRIデータを獲得するステップは、解剖学的体積の各体積要素における導電率テンソルの固有値の幾何平均が、その体積要素が属する組織タイプの特定の等方性導電率値に対して局所的に整合される、体積正規化方法(volume normalized method)を含む。
【0011】
第1の方法のいくつかの実施形態では、解剖学的体積は脳の白質および灰白質を含む。
【0012】
第1の方法のいくつかの実施形態では、解剖学的体積は脳であり、電極の位置の決定は、脳の導電率または電気抵抗率の3Dマップが第1の一定の導電率を有する第1のシェルのモデルに取り囲まれている複合モデルに基づく。これらの実施形態では、第1のシェルのモデルは、頭皮、頭骨、およびCSFを総合したものを表すことがある。あるいは、これらの実施形態では、第1のシェルのモデルがCSFを表し、複合モデルが頭骨を表す第2のシェルを更に含み、第2のシェルが第2の一定の導電率を有し、複合モデルが頭皮を表す第3のシェルを更に含み、第3のシェルが第3の一定の導電率を有することがある。これらの実施形態では、電極の位置を決定するステップは、標的組織に対応する場所で複合モデルにダイポールを追加するステップと、ダイポールに帰属し得る電位が最大である外部位置を選択するステップとを含んでもよい。
【0013】
第1の方法のいくつかの実施形態では、電極の位置を決定するステップは、標的組織において電場の最大強度を提供する電極の位置を計算するステップを含む。第1の方法のいくつかの実施形態では、生成するステップにおいて、3Dマップは、1mm×1mm×1mmよりも高い解像度を有する。第1の方法のいくつかの実施形態では、3Dマップを生成するステップは、解剖学的体積を表す単純な幾何オブジェクトを生成するステップを含む。
【0014】
第1の方法のいくつかの実施形態では、3Dマップを生成するステップは、異方性比率(fractional anisotropy)に基づいて各体積要素の組織タイプを分類するステップを含む。第1の方法のいくつかの実施形態では、3Dマップを生成するステップは、平均導電率に基づいて各体積要素の組織タイプを分類するステップを含む。第1の方法のいくつかの実施形態では、3Dマップを生成するステップは、導電率テンソルの固有値の幾何平均を特定の等方性基準値に対して整合させるステップを含む。
【0015】
本発明の別の態様は、哺乳類の頭部のモデルを作成する第2の方法を対象とする。頭部は、脳組織、CSF、頭骨、および頭皮を含む。この方法は、導電率テンソルの3Dセットを使用して、脳組織に対応する頭部の領域をモデル化するステップと、一定の導電率を有する少なくとも1つのシェルを使用して、CSF、頭骨、および頭皮をモデル化するステップとを含む。
【0016】
第2の方法のいくつかの実施形態では、導電率テンソルの3Dセットを使用して、脳組織に対応する頭部の領域をモデル化するステップは、異なるタイプの健康な脳組織間の境界を特定することなく実現される。
【0017】
第2の方法のいくつかの実施形態では、導電率テンソルの3DセットはMRIを使用して取得される。これらの実施形態のいくつかでは、導電率テンソルの3Dセットは拡散テンソル画像法データセットから導き出される。
【0018】
第2の方法のいくつかの実施形態では、CSF、頭骨、および頭皮をモデル化するステップは、脳組織の外側に脳組織と接触して配設される、第1の一定の導電率を有する第1のシェルとしてCSFをモデル化するステップと、CSFの外側にCSFと接触して配設される、第2の一定の導電率を有する第2のシェルとして頭骨をモデル化するステップと、頭骨の外側に頭骨と接触して配設される、第3の一定の導電率を有する第3のシェルとして頭皮をモデル化するステップとを含む。
【0019】
第2の方法のいくつかの実施形態では、CSF、頭骨、および頭皮をモデル化するステップは、脳組織の外側に脳組織と接触して配設される、一定の導電率を有する単一のシェルとして、CSF、頭骨、および頭皮を総合してモデル化するステップを含む。
【0020】
第2の方法のいくつかの実施形態は、脳組織内の標的組織の場所を特定するステップと、特定するステップで特定された標的組織の場所、導電率テンソルの3Dセット、および少なくとも1つのシェルの導電率に基づいて、複数の電極の位置を決定するステップとを更に含む。任意に、これらの実施形態は更に、決定するステップで決定された位置で、電極を哺乳類の頭部に装着するステップと、装着するステップに続いて、電場を標的組織に与えるように、電極間に電気信号を印加するステップとを含む。任意に、これらの実施形態では、電極の位置を決定するステップは、標的組織に対応する場所でダイポールをモデル化するステップと、ダイポールに帰属し得る電位が最大である位置を選択するステップとを含む。任意に、これらの実施形態では、電極の位置を決定するステップは、標的組織において最適な併用治療仕様を提供する電極の位置を計算するステップを含む。
【0021】
第2の方法のいくつかの実施形態では、導電率テンソルの3Dセットを使用して領域をモデル化するステップは、異方性比率に基づいて各体積要素の組織タイプを分類するステップを含む。第2の方法のいくつかの実施形態では、導電率テンソルの3Dセットを使用して領域をモデル化するステップは、平均導電率に基づいて各体積要素の組織タイプを分類するステップを含む。第2の方法のいくつかの実施形態では、導電率テンソルの3Dセットを使用して領域をモデル化するステップは、導電率テンソルの固有値の幾何平均を特定の等方性基準値に対して整合させるステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】頭部のモデルを作成し、そのモデルを使用して電場を最適化する一例を示すフローチャートである。
【
図2】同じMRIデータセットを使用して作成した3つの異なるモデルにおける仮想腫瘍を通る様々な断面で電場分布を示す図である。
【
図3】腫瘍を通る1つの軸線方向スライスにおける3つの異方性モデルの電場分布を示す図である。
【
図4】変換器アレイが頭皮に装着されている頭皮を示す正面図である。
【
図5A】個別のモデルにおける一連のシェルを示す図である。
【
図5B】個別のモデルにおける一連のシェルを示す図である。
【
図6A】白質シェルの内部にある脳室および仮想腫瘍を示す側面図である。
【
図6B】白質シェルの内部にある脳室および仮想腫瘍を示す上面図である。
【
図7】5つの各モデルの軸線方向スライスでの皮質組織および腫瘍組織における導電率マップと結果として得られる電場分布とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
NovoTal(商標)システムの制限を克服する1つの方策は、アレイ位置の関数としての患者の頭部内の電場分布の正確な計算に基づいて、アレイのレイアウトを最適化することである。患者は、ヒトまたは他のタイプの哺乳類または他の動物であることができる。これは、患者の頭部内における導電率の分布を説明する現実的な計算モデルを構築することによって行うことができる。これはMRIデータを使用して達成することができる。しかしながら、今日まで、かかる現実的な頭部計算モデルを導き出すことは、時間が掛かり、多くの手作業の介入を必要とする。これは、MR画像を様々な組織タイプにセグメント化し、各組織タイプに代表的な導電率値を割り当てることによって、モデルが得られることが理由である。頭皮、頭骨、および脳脊髄液(CSF)のような頭部の外層のセグメント化は、大きな困難なしに標準的なソフトウェアを用いて達成することができるが、皮質組織は非常に複雑な幾何学パターンを有し、処理がはるかに複雑である。
【0024】
皮質組織をセグメント化する自動および半自動アルゴリズムは存在するが、それらの性能は一般に、詳細なモデルを作成するのには不十分である。更に、腫瘍組織および浮腫によって大きく歪んでいる患者のMRIが脳に存在する場合、皮質組織セグメント化アルゴリズムの性能は更に低下し、したがってこのタスクのために広範囲のユーザ介入が必要となる。したがって、MR画像の厳密なセグメント化によって現実的な頭部計算モデルを作成することは、非常に労働集約的であり時間が掛かる。
【0025】
本出願は、ユーザの介入を最小限にしてTTFieldsをシミュレートする現実的な頭部モデルを作成するワークフロー、ならびにこれらの頭部モデルを使用して患者に対するTTFieldsアレイのレイアウトをどのように最適化できるかの詳細について記載する。ここで提示される方策では、頭部モデルの導電率値は、MRIによる導電率測定値から直接決定される。したがって、複雑で正確なセグメント化の必要性が取り除かれて、患者の頭部計算モデルを作成するのに要する時間および労力が低減される。現実的なモデルが構築されると、本明細書にやはり記載するアルゴリズムのシーケンスを使用して、完全自動または半自動の方法で最適化を実施することができる。
【0026】
便宜上、この説明を次の3つの部分に分割する。パート1は、ユーザの介入を最小限にしてMRIデータからTTFieldsシミュレーションのための現実的な頭部モデルを作成する方法の詳細な説明を提供する。パート2は、パート1で作成したモデルを使用してTTFieldsアレイの位置を最適化する方法の詳細な説明を提供する。また、パート3は、単純な凸包を使用して外層をモデル化し、導電率マップを使用して脳をモデル化する、ユーザの介入を最小限にしてTTFieldsシミュレーションのための現実的な頭部モデルを作成する概念の証明について説明する。
【0027】
図1は、モデルを作成し(ステップS11~S14)、そのモデルを使用して電場を最適化する(ステップS21~S24)一例のフローチャートである。
【0028】
パート1: MRIデータから現実的な計算ファントムを作成する
正確な計算ファントムの作成は、好ましくは、計算ファントム内の各地点における電気的性質(例えば、導電率、抵抗率)を正確にマッピングすることを伴う。計算ファントムを作成する1つの従来的な方法は、頭部を個別の等方性の電気的性質を備えた異なる組織タイプにセグメント化することを伴う。この方法を使用してモデルを構築する際、各組織タイプの電気的性質がモデルへと正確にマッピングされるように、3D空間における各組織タイプの境界を正確に特定することが重要である。
【0029】
本明細書に記載する実施形態は、拡散強調画像法(DWI)、拡散テンソル画像法(DTI)、またはカスタム化した多重エコー勾配シーケンス(GRE)などのMRIシーケンスを使用して、3D空間の各地点における電気的性質を直接推定することによって、厳密なセグメント化の必要性を克服する。MRIシーケンスを直接使用して電気的性質をマッピングすることによって、各地点の電気的性質が、セグメント化の間に割り当てられる組織タイプからではなくMRIから直接定義されるので、正確な組織のセグメント化の必要性が低減される。したがって、計算ファントムの精度を犠牲にすることなく、セグメント化プロセスを単純化するか、または更には排除することができる。本明細書に記載する実施形態は導電率のマッピングについて考察しているが、代替実施形態は、抵抗率などの異なる電気的性質をマッピングすることによって同様の結果を提供できることに留意されたい。
【0030】
図1のステップS11~S14は、MRI導電率測定値に基づいて患者を表す計算ファントムを生成するのに使用されてもよい、一連のステップの一例を示している。
【0031】
ステップS11は画像獲得ステップである。このステップでは、構造データと、導電性マップを計算する元となることができるデータの両方が獲得される。構造データは、例えば、標準的なT1およびT2のMRIシーケンスから得ることができる。導電率は、DWI、DTI、またはGREなど、様々なMRIデータ獲得モードを使用して得ることができる。良好な計算ファントムを作成するために、高解像度画像を得なければならない。構造および導電率両方に関する画像に対して、少なくとも1mm×1mm×1mmの解像度が好ましい。より低い解像度の画像がこれらのタイプの画像の一方または両方に使用されてもよいが、より低い解像度は精度の低いファントムを生み出すことになる。
【0032】
データセットが好ましくは検査され、大きいアーチファクトに影響された画像が好ましくは除去される。好ましくは、何らかのスキャナ特異的な前処理が適用される。例えば、画像はDICOM形式からNIFTIに変換されてもよい。異なる前処理ステップは、全ての画像を標準空間(例えば、Montreal Neurological Institute(MNI)空間)に対して位置合わせすることであってもよい。これは、FSL FLIRT、およびSPMを含むがそれらに限定されない、直ぐに利用可能なソフトウェアパッケージを使用して行うことができる。
【0033】
ステップS12は構造画像を処理するステップである。上述したように、ここで提示されるワークフローはMRIによる導電率測定値を利用して計算ファントムを作成する。しかしながら、構造画像は依然として、頭部の境界を特定するのに使用されてもよく、ならびに、MRI測定値から導き出されない一般的な導電率値を割り当てるのが有利なことがある頭部内の特定の組織に属する領域を特定するのに使用されてもよい。例えば、場合によっては、画像内で頭骨、頭皮、およびCSFを特定(およびセグメント化)し、これらの組織に対応する領域に一般的な導電率値を割り当てるのが有利なことがある(ただし依然として、脳に対応する領域に対しては、主要なMRIによる測定値に依存する)。
【0034】
利用可能なソフトウェアパッケージを使用して、これら3つの組織タイプならびに脳室の詳細なセグメント化を得ることが可能である。しかしながら、これらの構造のいくつかは複雑なので、これには依然として顕著な手作業の介入を要することがある。したがって、頭部モデルを構築する単純化したスキームが有益なことがある。ファントム作成の複雑さを軽減する1つの可能性は、外側モデル層(頭皮、頭骨、およびCSF)を表す幾何学形状を単純化することである。例えば、外側組織のシェルまたは凸包をそれらの層のモデルとして使用することができる。外層の大まかなセグメント化が利用可能な場合、対応する凸包の作成は簡単であり、標準的なアルゴリズムおよびソフトウェアを使用して実施することができる。別の選択肢は、ユーザが、構造画像の検査を通して代表的領域(変換器アレイが配置されてもよい領域)で3つの外層(頭皮、頭骨、およびCSF)の厚さを測定することである。これらの測定値を使用して、頭皮、頭骨、およびCSFを表す3つの同心のシェルまたは層を作成することができる。これらの層は、頭皮セグメント化の既定の凸包であることができる、既定の楕円構造を変形することによって得られてもよい。
【0035】
ステップS13およびS14は両方ともDTI画像の処理を扱う。ステップS13は、画像およびテンソル推定を前処理するステップである。DTI測定は、異なる画像化条件で獲得される複数の画像の獲得を伴う。各画像は、その勾配方向およびb値によって特徴付けられる。DTI画像を処理する場合、勾配方向およびb値を最初に抽出する必要がある。これは、標準的なソフトウェアを使用して実施することができる。勾配方向およびb値が抽出されると、画像は好ましくは、サンプル運動(例えば、頭部の動き)から生じる歪みに関して、ならびにデータ獲得中に生成される渦電流から生じるMRIに対する歪みに関して補正される。それに加えて、画像は、好ましくは、前段階で考察した構造画像と重なり合って位置合わせされる。歪みの補正および位置合わせは、標準的なソフトウェアパッケージを使用して実施することができる。この前処理が完了した後、モデルの関連領域の各地点における拡散テンソルを推定することができる。
【0036】
拡散テンソルをDTI画像から導き出す多くのソフトウェアバンドルが存在する。例えば、A Hitchhiker's Guide to Diffusion Tensor Imaging by J. M. Soares et al., frontiers in Neuroscience, vol. 7, article 31, p.1-14, doi: 10.3389/fnins.2013.00031, 2013は、テンソルの推定およびDTIの前処理に利用可能なソフトウェアの詳細な概要を含んでいる。拡散テンソルをDTI画像から導き出す2つの選択肢が試験された。第1の選択肢は、FSL拡散ツールボックスを使用して、画像の補正および位置合わせを行い、主方向(固有ベクトル)、主拡散率(固有値)、および異方性比率を計算する。第2の選択肢は、Bマトリックスの再配向を用いて運動および渦電流の歪み補正を実施するために、TortoiseソフトウェアからDIFFPREPモジュールを使用するものであった。次に、DIFFCALCモジュールを使用して、各ボクセルの拡散テンソルを推定し、テンソルから導き出される量を計算することができる。両方のソフトウェアパッケージにおいて、本来は構造画像である標準的な基準フレームに対して、Bマトリックスの再配向を用いてデータセットを再配向することが可能である。
【0037】
ステップS14は、計算ファントム内で導電率をマッピングするステップである。このステップで、導電率値が計算ファントム内の各体積要素に対してマッピングされる。セグメント化が十分に正確である組織タイプ(例えば、頭骨またはCSF)に属する領域では、各組織タイプに対する代表的な等方性導電率値が割り当てられてもよい。他の領域では、導電率値は、DTIなどのMRIによる導電率測定値に基づいて割り当てられる。
【0038】
導電率値をDTIデータから導き出すのに続いて、導電率テンソルが有効な拡散テンソルと同じ固有ベクトルを共有することが提案される。画像化した各体積要素に対して拡散テンソルが推定されると、任意の適切な方策を使用して、導電率テンソルの推定値を形成することができる。方策のいくつかが、How the Brain Tissue Shapes the Electric Field Induced by Transcranial Magnetic Stimulation by A. Opitz et al. Neuroimage, vol. 58, no. 3, pp. 849-59, Oct. 2011に詳細に記載されている。例えば、1つの適切な方法は、直接マッピング(dM)と呼ばれるものであり、拡散および導電率テンソルの固有値間の線形関係、即ちσv=s・dv(式中、σvおよびdvはそれぞれ、導電率および拡散のv番目の固有値)を仮定する。換算係数の異なる仮定を使用することができるが、適合された換算係数sも以下に適用することができる。例えば、EEG Source Analysis of Epileptiform Activity Using a 1 mm Anisotropic Hexahedra Finite Element Head Model by M. Rullmann et al. NeuroImage 44, 399-410 (2009)を参照のこと。別の適切な方法は、脳の各体積要素における導電率テンソルの固有値の幾何平均が、その要素が属する組織タイプの特定の等方性導電率値に局所的に整合される、体積正規化(vN)方法である。例えば、Influence of Anisotropic Electrical Conductivity in White Matter Tissue on the EEG/MEG Forward and Inverse Solution - A High-Resolution Whole Head Simulation Study, by D. Gullmar, NeuroImage 51, 145-163 (2010)を参照のこと。
【0039】
これらの方法は両方とも、導電率を計算ファントム内の関連領域(主に皮質領域)にマッピングするのに使用することができる。しかしながら、導電率値が各体積要素において、その範囲の組織タイプに関する情報を使用してマッピングされるので、vN方法はセグメント化の高い精度を要する。したがって、体積要素を誤った組織タイプに割り当てることで、計算ファントム内の導電率マップの誤りがもたらされる。他方で、dM方法の場合、導電率値は、その範囲の組織タイプにかかわらず、同じ線形関係を使用して全ての要素に割り当てられる。したがって、TTFieldsシミュレーションのために計算ファントムを作成するパイプラインを単純化するのに、DTIデータのdMは、DTIデータのvNマッピングよりも有用なことがある。しかしながら、dMにおける一定の換算係数は健康な組織でしか正確な値に結び付かないことがあり、腫瘍組織の場合は最適未満のことがあることに留意されたい。
【0040】
代替のマッピング方法を適用することもできる。例えば、vN方法の制限(各体積要素を特定の組織タイプに割り当てることができるために、セグメント化が存在する必要がある)を克服するために、体積要素の組織タイプは、その異方性比率、平均導電率、または他の関連する基準によって分類することもできる。あるいは、導電率テンソルの固有値の幾何平均を、特定の等方性基準値に対して整合させることができる。これは、DTIデータからのみの組織タイプをセグメント化または分類する(場合によっては、更には全体モデルを作成する)一般の手法であろう。異方性比率(または導電率データから導き出すことができる他の任意の基準)が見出されると、アウトライアーを回避するため(例えば、WMの内部で特定されたGM点を排除するため)に、隣接する要素がチェックされるのが好ましいことに留意されたい。
【0041】
パート2: 現実的な頭部モデルを使用してTTFieldsアレイ位置を最適化する
アレイレイアウトの最適化は、患者の脳の患部領域(腫瘍)内の電場を最適化するアレイレイアウトを見つけることを意味する。この最適化は、以下の4つのステップを実施することによって実現されてもよい。(S21)現実的な頭部モデル内における治療の標的とされる体積(標的体積)を特定するステップ、(S22)変換器アレイを自動的に配置し、現実的な頭部モデルにおいて境界条件を設定するステップ、(S23)アレイが現実的な頭部モデルに配置され、境界条件が適用されると、現実的な頭部モデル内で展開する電場を計算するステップ、ならびに、(S24)最適化アルゴリズムを稼働して、標的体積内の最適な電場分布をもたらすレイアウトを見つけるステップ。これら4つのステップを実現するための詳細な例を以下に提供する。
【0042】
ステップS21は、現実的な頭部モデル内で標的体積を位置付ける(即ち、関心領域を規定する)ことを伴う。患者の体内で最適な電場分布をもたらすレイアウトを見つける第1のステップは、電場を最適化すべき場所および標的体積を適正に特定することである。
【0043】
いくつかの実施形態では、標的体積は、肉眼的腫瘍体積(GTV)または臨床的標的体積(CTV)のどちらかとなる。GTVは、腫瘍の肉眼的に実証可能な広がりおよび場所であり、CTVは、存在する場合は実証された腫瘍と、推察された腫瘍を有する他の任意の組織を含む。多くの場合、CTVは、GTVを包含する体積を規定し、GTVの周りの所定の幅を有する縁辺部を追加することによって見出される。
【0044】
GTVまたはCTVを特定するために、MRI画像内の腫瘍の体積を特定することが必要である。これは、ユーザによって手作業で、自動で、またはユーザ支援アルゴリズムが使用される半自動の方策を使用して実施することができる。このタスクを手作業で実施する場合、MRIデータをユーザに提示することができ、データ上にCTVの体積の輪郭を描くようにユーザに求めることができる。ユーザに提示されるデータは構造MRIデータ(例えば、T1、T2データ)であることができる。異なるMRIモダリティを互いの上に位置合わせすることができ、ユーザに対して、データセットのいずれかを見て、CTVの輪郭を描く選択肢を提示することができる。ユーザに対して、MRIの3D体積表示上にCTVの輪郭を描くように求めることができ、またはユーザに対して、データの個々の2Dスライスを見て、各スライス上にCTVの境界を印付ける選択肢を与えることができる。境界が各スライス上に印付けられると、解剖学的体積内の(またしたがって、現実的なモデル内の)CTVを見出すことができる。この場合、ユーザが印付けた体積はGTVに対応するであろう。いくつかの実施形態では、次に、所定の幅の縁辺部をGTVに追加することによってCTVを見出すことができる。同様に、他の実施形態では、ユーザに対して、類似の手順を使用してCTVに印付けるように求めてもよい。
【0045】
手作業の方策に対する代替例は、自動セグメント化アルゴリズムを使用してCTVを見出すものである。これらのアルゴリズムは、構造MRIデータまたは場合によってはDTIデータのどちらかを使用して、自動セグメント化アルゴリズムを実施してCTVを特定する。腫瘍(および任意の浮腫領域)内の拡散テンソルはその周囲とは異なってくるので、DTIデータをこの目的のためにセグメント化に使用することができることに留意されたい。
【0046】
しかしながら、上述したように、現在の全自動セグメント化アルゴリズムは十分に安定していないことがある。したがって、MRIデータの半自動セグメント化の方策が好ましいことがある。これらの方策の一例では、ユーザは、アルゴリズムに反復して入力(即ち、画像上における腫瘍の場所、腫瘍の境界の大まかな印付け、腫瘍が位置する関心領域の境界)を提供し、それが次にセグメント化アルゴリズムによって使用される。次に、ユーザに対して、頭部内におけるCTVの場所および体積のより良好な推定を得るため、セグメント化を改良する選択肢が与えられてもよい。
【0047】
自動または半自動どちらの方策を使用するかにかかわらず特定された腫瘍体積はGTVと対応し、次に、所定の量だけGTV体積を拡張する(例えば、腫瘍の周りの20mm広い縁辺部を包含する体積として、CTVを規定する)ことによって、CTVを自動的に見出すことができる。
【0048】
場合によっては、電場を最適化したい関心領域をユーザが規定すれば十分なことがあることに留意されたい。この関心領域は、例えば、箱形の体積、半球形の体積、または腫瘍を包含する解剖学的体積における任意の形状の体積であってもよい。この方策が使用された場合、腫瘍を正確に特定する複雑なアルゴリズムは不要であってもよい。
【0049】
ステップS22は、所与の反復に対して現実的な頭部モデルにおけるアレイの位置および配向を自動的に計算することを伴う。Optune(商標)デバイスにおいてTTFieldsを送達するのに使用される各変換器アレイは、一組のセラミックディスク電極を備え、それらが医療用ゲルの層を通して患者の頭部に結合される。アレイを実際の患者に配置する場合、ディスクは自然に皮膚と平行に整列し、医療用ゲルが変形して身体の輪郭に合致することによって、アレイと皮膚との間に良好な電気的接触がもたらされる。しかしながら、仮想モデルは固く規定された幾何学形状で作られる。したがって、アレイをモデル上に配置するには、アレイが配置される位置におけるモデル表面の配向および輪郭を見出す、ならびにモデルアレイと現実的な患者モデルとの良好な接触を担保するのに必要なゲルの厚さ/幾何学形状を見出す、正確な方法を要する。電場分布の完全に自動化された最適化を可能にするためには、これらの計算を自動で実施しなければならない。
【0050】
このタスクを実施する様々なアルゴリズムが使用されてもよい。この目的のために最近考案された1つのかかるアルゴリズムのステップについて、以下に説明する。
a. 変換器アレイの中央点がモデル頭部上に配置される位置を規定する。位置は、ユーザが、またはステップS24で考察した電場最適化アルゴリズムのステップの1つとして規定することができる。
b. ステップ(a)からの入力を、ディスクの幾何学形状に関する知識、およびディスクを整列して配列する方法の知識と併せて使用して、モデル内の変換器アレイにおける全てのディスクの中心の近似位置を計算する。
c. ディスクが配置される位置における、現実的なモデルの表面の配向を計算する。計算は、指定のディスク中心からディスク半径1つ分の距離以内にある、計算ファントムの皮膚上の全ての地点を見出すことによって実施される。これらの地点の座標が行列の列状に配列され、特異値分解が行列に対して実施される。そこで、モデルの皮膚に対する法線は、見出される最小固有値に対応する固有ベクトルである。
d. 変換器アレイの各ディスクに関して、ディスクと患者の身体との間の良好な接触を担保するのに要する、医療用ゲルの厚さを計算する。これは、皮膚表面の法線に対して平行にその高さが配向された円筒のパラメータを見出すことによって行われる。円筒は、ディスクの半径に等しい半径を有して規定され、その高さは、法線を見つけるのに使用される皮膚上の点を越えて所定の量(所定の定数)延在するように設定される。これによって、ファントム表面から少なくとも所定の量が延在する円筒がもたらされる。
e. モデル上に、(d)で説明した円筒を作成する。
f. 二値論理演算(例えば、頭部を円筒から減算する)を通して、患者の現実的なモデル内へと突出する円筒の領域をモデルから除去する。結果として得られる「切頭円筒」は、変換器アレイと関連付けられた医療用ゲルを表す。
g. 「切頭円筒」の外側に、変換器アレイのセラミックディスクを表すディスクを配置する。
【0051】
ステップS23は、所与の反復に対する頭部モデル内の電場分布を計算することを伴う。頭部ファントムが構築され、電場を印加するのに使用される変換器アレイ(即ち、電極アレイ)が現実的な頭部モデル上に配置されると、有限要素(FE)法解析に適した体積メッシュを作成することができる。次に、境界条件をモデルに適用することができる。使用されてもよい境界条件の例としては、変換器アレイに対するディリクレ境界(定電圧)条件、変換器アレイに対するノイマン境界条件(定電流)、または電流密度の法線成分の積分が指定の振幅に等しくなるようにその境界の電位を設定する浮遊電位境界条件が挙げられる。それにより、適切な有限要素解法(例えば、低周波数準静的電磁解法(low frequency quasistatic electromagnetic solver))を用いて、あるいは有限差分(FD)アルゴリズムを用いて、モデルの解を得ることができる。メッシュ化、境界条件の付与、およびモデルの解を得ることは、Sim4Life、Comsol Multiphysics、Ansys、またはMatlabなどの既存のソフトウェアパッケージを用いて実施することができる。あるいは、FE(またはFD)アルゴリズムを実現するカスタムコンピュータコードを書くことができる。このコードは、C-Gal(メッシュ作成用)、またはFREEFEM++(迅速試験および有限要素シミュレーション用にC++で書かれたソフトウェア)など、既存のオープンソースソフトウェア資源を利用することができる。モデルの最終解は、電場分布、および所与の反復に対する計算ファントム内における電位などの関連する量を記述する、データセットとなる。
【0052】
ステップS24は最適化ステップである。最適化アルゴリズムを使用して、両方の印加方向(上述したような、LRおよびAP)に関して患者の脳の患部領域(腫瘍)への電場の送達を最適化する、アレイレイアウトが見出される。最適化アルゴリズムは、最適なアレイレイアウトを見出すために、自動アレイ配置の方法、および十分に定義されたシーケンスで頭部モデル内の電場の解を得る方法を利用する。最適なレイアウトは、電場が印加される両方の方向を考慮して、脳の患部領域における電場のある標的関数を最大化または最小化するレイアウトである。この標的関数は、例えば、患部領域内の最大強度、または患部領域内の平均強度であってもよい。また、他の標的関数を規定することも可能である。
【0053】
患者にとって最適なアレイレイアウトを見出すのに使用することができる多数の方策があるが、そのうち3つについて以下に記載する。1つの最適化方策は徹底的な探索である。この方策では、オプティマイザは、試験すべき有限数のアレイレイアウトを備えたバンクを含む。オプティマイザは、(例えば、各レイアウトに対してステップS22およびS23を繰り返すことによって)バンクの全てのアレイレイアウトのシミュレーションを実施し、腫瘍内で最適な電場強度をもたらすアレイレイアウトを選び出す(最適なレイアウトは、最適化標的関数の、例えば腫瘍に送達される電場強度の、最高値(もしくは最低値)をもたらすバンク内のレイアウトである)。
【0054】
別の最適化方策は繰返し探索である。この方策は、最低降下最適化方法およびシンプレックス探索最適化などのアルゴリズムの使用を網羅する。この方策を使用して、アルゴリズムは、頭部に対する異なるアレイレイアウトを反復して試験し、各レイアウトについて腫瘍の電場に対する標的関数を計算する。したがって、この方策は、各レイアウトについてステップS22およびS23を繰り返すことも伴う。各反復において、アルゴリズムは、前の反復の結果に基づいて試験する構成を自動的に選び出す。アルゴリズムは、腫瘍の電場に対する既定の標的関数を最大化(または最小化)するように、収束するように設計される。
【0055】
更に別の最適化方策は、ダイポールをモデル内の腫瘍の中心に配置することに基づく。この方策は、異なるアレイレイアウトに対して電場強度の解を得ることに依存しないので、他の2つの方策とは異なる。それよりもむしろ、モデル内の腫瘍の中心において予期される電場の方向と整列させてダイポールを配置し、電磁ポテンシャルの解を得ることによって、アレイの最適位置が見出される。電位(または場合によっては電場)が最大である頭皮上の領域は、アレイが配置される位置となる。この方法の論理は、ダイポールが腫瘍の中心で最大である電場を生成するというものである。相反性により、計算がもたらした頭皮上の電場/電圧を生成することができた場合、(ダイポールが配置される)腫瘍の中心で最大である電場分布が得られることが予期される。現在のシステムを用いて事実上これに最も近付くことができるのは、頭皮上でダイポールによって誘導される電位が最大である領域にアレイを配置することである。
【0056】
代替の最適化スキームを使用して、脳の患部領域内の電場を最適化するアレイレイアウトを見出すことができることに留意されたい。例えば、アルゴリズムは上述した様々な方策を組み合わせる。これらの方策が組み合わされてもよい方法の一例として、上述した第3の方策(即ち、ダイポールをモデルの腫瘍の中心に位置付ける)を第2の方策(即ち、繰返し探索)と組み合わせるアルゴリズムについて考慮する。この組み合わせで、腫瘍の中心にダイポールがある方策を使用して、アレイレイアウトが最初に見出される。このアレイレイアウトは、最適なレイアウトを見つける繰返し探索に対する入力として使用される。
【0057】
パート3: 単純化した頭部モデルを構築し、正確な結果をもたらすことができる概念の証明
概念の証明は、皮質組織の異方性導電率値を組み込んだ、前に展開した現実的なヒトの頭部モデルに対する修正に基づくものであった。このモデルは健康な被験者から生じたものなので、腫瘍を仮想病変によって表さなければならなかった。ファントムは、TTFields印加後の電場分布を計算するのに既に使用されている。
【0058】
概念を試験するために、脳室を除いて、全ての組織タイプの第1の凸包を作成した。このモデルの嚢胞性腫瘍は、活性のシェルとそれによって取り囲まれる壊死性コアという2つの同心の球体によって表した。それを、側脳室に近い右半球内に配置した。
【0059】
図2は、同じMRIデータセットを使用して作成した3つの異なるモデルの腫瘍を通る様々な断面で電場分布を示している。より具体的には、
図2は、頭部の左右(LR)アレイ(パネル21~23)と前後(AP)部分のアレイ(パネル24~26)のTTFields治療に使用される両方の垂直構成に関する結果を示している。パネル21および24は、MRIが正確にセグメント化され、各組織の代表的な等方性誘電特性がその組織に属する全ての体積要素に割り当てられる、従来的なモデル化方策である現実的な頭部モデルに関する結果を示している。パネル22および24は、組織タイプが凸包としてセグメント化され、代表的な等方性誘電特性が各組織タイプに割り当てられる、単純化したモデル化方策に関する結果を示している。パネル23および26は、DTI画像から導き出された導電率マップに基づいて、導電率値が皮質組織(GM、WM、および小脳)の各体積要素に割り当てられる、単純化したモデルの結果を示している。
【0060】
様々なモデル化方策間の相関は強固である。より具体的には、現実的な頭部モデルの脳および腫瘍内におけるTTFieldsが誘導する電場分布は不均一である。これは、電場強度は活性変換器アレイの近くで最も高いが、パネル21および24で見られるように、追加のホットスポットが頭部の中心で(電場がそこに対して垂直である境界に近い低導電率の組織内で)誘導されることを意味する。等方性の単純化モデルでは、組織境界面が平滑である結果として、電場分布は単に変換器から離れる方向で衰える。いずれにせよ、異質の誘電特性が使用されるので、「通常の」ホットスポットが脳室の近くで、また腫瘍の活性シェルないで見られる。腫瘍内部の電場分布を慎重に観察すると、パネル22および25に見られるように、原型と単純な等方性モデルとで非常に類似したパターンが明らかになる。異方性導電率テンソルを脳組織に組み込むことで、パネル23および26に見られるように、脳内のより一層類似した電場分布が得られる。脳回が目に見えるとともに、いくつかの主要な線維路およびそれらを通る電流が顕著になっていることが分かる。
【0061】
現実的なモデルに対する単純化モデルを使用して計算されるような、腫瘍内の平均電場値を比較すると、等方性モデルのパーセンテージ差は6%未満である。現実的な異方性モデルを単純化した異方性モデルと比較すると、腫瘍シェル内の平均電場強度のパーセンテージ差は5%未満である。両方の場合において、単純化モデルに対してわずかに低い値が予測される。
【0062】
図3では、電場分布がやはり、仮想腫瘍を通る1つの軸線方向スライスに提示されている。パネル31~33のそれぞれで、LRおよびAPアレイのこの軸線方向スライスにおける電場分布は、それぞれパネルの上部および下部に現れる。原型モデル(パネル31)は、皮質組織に関してdM異方性を有する全ての組織の現実的な表現に対応する。simple1モデル(パネル32)も、皮質組織(凸包によって表される)に対するdM異方性導電率テンソルを使用し、全てが等方性導電率値を有する脳室を除いて、全ての表面の凸包またはシェルを用いている。simple2モデル(パネル33)はsimple1モデルに類似しているが、脳室の詳細な表現が無視されており、一方でそれらの存在は、この領域に関してDTIデータから導き出される異方性導電率テンソルを使用することによって考慮に入れられている(原型モデルおよびsimple1モデルの場合、このデータは無視されるか、等方性導電率値を用いる脳室セグメント化によって上書きされていた)。Table 1(表1)は、脳および2つの腫瘍組織における、対応する平均電場強度値を集めている。この仮想病変は脳室に近いので、腫瘍内の電場は進行中の単純化による影響を受けやすい。依然として差は比較的小さいが、LRアレイによって誘導される腫瘍内の平均電場は原型の現実的なモデルでは(simple2と比較して)114%まで増加され、AP刺激では95%まで低減される。
【0063】
【0064】
これは、本明細書に記載する方策を使用することが、頭部における十分に正確な電場分布と、適正な電場強度値につながる一方で、時間効率および演算効率がより良いことを示している。特に、単純化したモデルは電極配置を最適化するのに十分に正確なはずである。
【0065】
外層をモデル化するのに単純な凸包またはシェルが使用され、脳をモデル化するのに導電率マップが使用されるモデルを含む、パート3のモデル化の更なる詳細について以下に考察する。これらのモデルは、拡散テンソル画像法から推定されるテンソル表現を使用することによって、皮質組織における異方性導電率を考慮に入れることができる。誘導電場分布が、単純化した頭部モデルと現実的な頭部モデルとで比較される。脳および腫瘍組織における平均電場強度値は、一般に、現実的な頭部モデルでわずかに高く、標準的な単純化モデルの場合(層の妥当な厚さが確保されているとき)の最大比は114%である。したがって、組織境界面間の複雑度を減少させて、電場分布の増加に関する正確な予測を可能にした、個人化された頭部モデルに対する高速で効率的な手法が提供される。
【0066】
この研究は、異なる頭部組織の基礎的なセグメント化を必要としないであろう、個人化された頭部モデルに対する第1の方策を提示している。方法はむしろ、外層をモデル化する単純な凸包と、拡散テンソル画像法(DTI)データセットから導き出される皮質組織の導電率表現とを使用する。
【0067】
前に展開した現実的なヒト頭部モデルを基底モデルとして使用した。健康な若年女性のMRIデータセットを、頭皮、頭骨、脳脊髄液(CSF)、小脳を含む灰白質(GM)、白質(WM)、および脳室にセグメント化した。中心に位置する仮想腫瘍を、内側の壊死性コアとそれを取り囲む活性腫瘍シェルという2つの同心の球体としてモデル化した。Optune(商標)システムを中央の対称レイアウトとともに、全ての計算に使用した。
図4は、Optune(商標)変換器アレイ42、44が頭皮に装着されている頭皮40の正面図であり、このレイアウトを示している。4つのパッチのうち3つのみが図面で見えており、目または耳のどちらとも凸包上には表現されていないことに留意されたい。最終体積メッシュはMimics (www.materialise.com)を用いて組み立てた。
【0068】
異質組織の等方性導電率値および誘電率値は、過去の研究と同じように仮定し、皮質組織の異方性導電率テンソルは、拡散テンソル画像法(DTI)データから推定した。拡散テンソルを換算するための異なる方策が仮定される。この例では、各ボクセルに対して同じ換算係数を用いる直接マッピング(dM)方策のみが使用された。更なる詳細が、The Electric Field Distribution in the Brain During TTFields Therapy and Its Dependence on Tissue Dielectric Properties and Anatomy: A Computational Study by C. Wenger et al, Phys. Med. Biol, vol. 60, no. 18, pp. 7339-7357, 2015に提示されており、それを参照により本明細書に援用する。
【0069】
モデルを単純化する1つの方策は、複雑で不規則な幾何学形状の代わりに表面メッシュの凸包を使用するというものである。この研究では、凸包はMeshLab (http://meshlab.sourceforge.net/)を用いて作成した。GMおよび小脳は単一のエンベロープとして近似させ、WM、頭皮、頭骨、およびCSFは各々1つの凸包によって表した。
図5Aおよび
図5Bは、SHM1(51)およびSHM2(52)とそれぞれ呼ばれる2つの類似した単純化モデルに関して、凸包(即ち、シェル)の配置を示している。両方のモデルにおいて、凸包は、頭骨54、CSF 55、灰白質(GM)56、および白質(WM)58を含む。SHM1 51のCSF 55は、SHM2 52のCSF 55と比べて非常に薄いことに留意されたい。
図6Aおよび
図6Bはそれぞれ、WM凸包62内部の脳室64および腫瘍66の側面図および上面図を示している。脳室および腫瘍組織(活性シェルおよび壊死性コア)は不変のままであった。
【0070】
4つの異なる単純な頭部モデルを展開した(SHM1~SHM4)。第1のSHM1は、言及した凸包から成り、RHMと比較して大きく異なる組織体積をもたらす。WMは、二倍を超える組織体積の凸包絡を適用するによって大幅に影響される、改変組織の最内部である。これは周囲の組織に影響する。GMはSHMl1の方が小さい体積を有する。GM線維路および小脳全体に及ぶ包絡によって、SHM1におけるCSFの体積が低減される。RHMと比べてSHM1の方がわずかに大きい体積を有する唯一の組織は頭骨であり、それによって頭皮の体積が低減される。依然として、変換器の下にある頭皮および頭骨の層の厚さは、SHM1とRHMとで非常に類似しており、即ち(36個全ての変換器の)平均で、RHMとSHM1の層厚の比は、頭皮では102%、頭骨では110%である。いずれにせよ、この比はCSFの場合は270%である。厚さは、交差する円筒の体積を用いて推定したものであり、即ち、変換器を延長して円筒を作成し、その後、次の組織表面と交差する体積を計算した。したがって、RHMにおけるCSF円筒のより大きい体積は、SHM1のような平面のGMの代わりに溝から得られる追加の体積に起因するものである。
【0071】
第2の単純なモデルSHM2は、これらの矛盾を、即ちSHM1における改変組織体積と最少CSF厚さ(
図5Aで見られる)を低減するために作成された。SHM2は、Mimicsでメッシュを、つまりWMおよびGMを同時に0.97倍で換算し、次いでCSFを0.995倍で換算することによって得られた。これにより、RHMと比較したSHM2の層厚の差が、頭皮は102%、頭骨は100%、CSFは128%に減少した。これら2つのモデルを、最初に等方性および異方性モデルとしてその解を得、RHMの結果と比較した。DTIデータを用いた導電率テンソルの推定は不変のままであった。RHMでは、GM境界外の全てのDTIデータは無視したことに留意されたい。SHM1およびSHM2におけるGMの凸包の一部である、全ての追加のボクセルに関する拡散情報を追加した。
【0072】
SHM3は、皮質組織に対して1つの凸包のみを使用して、WMとGMとの間の境界は除外する、より単純なモデルである。最後の単純化ステップで、SHM4は脳室を更にカットし、他の全てのモデルにおける等方性のCSFで満たされた脳腔(chamber)の代わりに、DTIから導き出される導電率データのみを用いて作業する。
【0073】
電場分布を計算するために、有限要素(FE)ソフトウェアであるComsol Multiphysics (http://www.comsol.com)を使用して、200kHzの周波数領域におけるマクスウェルの方程式の準静的近似の解を得た。等方性および異方性材料の性質については既に考察した。境界条件は、内部境界における法線成分、および外部境界における電気絶縁の連続性を仮定した。TTFieldsの活性化を、活性の変換器それぞれについて、100mAの浮遊電位条件を用いてシミュレートした。
【0074】
研究の結果は次の通りである。各モデルの設定(モデルのタイプ、等方性、または脳の導電率のdM表現)の解は、両方のアレイ電場方向LRおよびAPに対して得られる。
【0075】
第1のシミュレーションを、SHM1モデルを用いて実施し、等方性および異方性の解をRHMモデルと比較した。この最初の単純化したモデルSHM1は、その薄いCSFと共に、脳および腫瘍組織における高い電場強度値を生み出す(Table 2(表2))。SHM2によって導入されるCSFの厚さを適合すると、得られた平均電場強度値は非常に類似しており、RHMと比較して腫瘍内でわずかに減少している。Table 2(表2)に示されるように、最大の増加は、LR活性化および等方性導電率の下で腫瘍シェルの平均電場強度に関して報告された107%である。
【0076】
図7は、それぞれのモデルの軸線方向スライスでの皮質組織および腫瘍組織における導電率マップと結果として得られる電場分布とをそれぞれ示す、5つのパネル71~75を含む。各パネル71~75で、導電率テンソルのトレースが上部に見られ、そこにテンソルのトレースに関する凡例が固定されており、その範囲は0.1~0.6S/mに及ぶ。腫瘍組織の色は、この図では任意である。各パネルで、LRおよびAP電極の電場分布はそれぞれ中央および下部に見られ、強度の凡例の範囲は0~4V/cmである。
【0077】
パネル71および72は、等方性の脳および腫瘍の導電率を有する、等方性RHMおよびSHM2モデルを示している。脳の電場分布はSHM2のみで細かい詳細を有するが、腫瘍の電場分布は、LRおよびAP両方の設定に対して同様であり、誘導される平均電場強度は同様である(Table 2(表2))。異方性が脳組織に導入されると、RHMモデルの脳における電場分布は(パネル71および73と比較して)わずかだけ変更され、SHM2の異方性モデル(パネル74)は増大した詳細を示しており、計算された平均電場強度値は、異方性RHMモデル(パネル73)のものと更に干渉する。
【0078】
SHM2モデル(パネル74)は、上述のSHM3およびSHM4を更に単純化するための基底モデルとして得られた。GMおよびWMが2つの凸包によってのみ表されるという事実を所与として、導電率テンソルを換算するのにdMの方策を使用したので、内側シェルを除去することによる影響は予期されない。実際に、平均電場強度値にほとんど変化は見られなかった(Table 2(表2))。
【0079】
脳室は、CSFで満たされた脳の中心にある複雑な構造であり、したがって等方性であると見なされる。このように、DTIデータから推定される情報は、通常、現実的な頭部モデルを用いた電場の計算に関しては省略され、等方性導電率を用いた詳細なセグメント化が使用される。SHM4は、DTIデータセットから得たテンソルを使用することによって、脳室のセグメント化を無視し、それらの存在を考慮に入れる効果を調査するために作成された。導電率テンソルの結果として得られるトレースは、パネル75の上部に表示される。脳の平均電場強度は、SHM4よりもRHMの方がわずかだけ高い(LRで102%、APで101%)。腫瘍シェルでは、SHM4と比較したRHMにおける最高電場強度の増加は、LRで114%である(Table 2(表2))。これにより、追加の単純化がSHM4モデルに導入されるにもかかわらず、結果は依然として容認可能であることが示される。
【0080】
Table 2(表2)は、LRおよびAP両方の方向での様々なモデル間における電場強度のばらつきを示している。Table 2(表2)のSHM3およびSHM4はそれぞれ、上記のTable 1(表1)のSimple1およびSimple2モデルに対応することに留意されたい。
【0081】
【0082】
提示した方策は、TTFieldsの個人用治療計画のため、GBM患者の頭部モデルを迅速に作成するのに使用することができる。頭皮の外形は、最小限の時間量で既知のソフトウェアを用いて構造画像をセグメント化することによって得ることができる。あるいは、頭部測定値を使用して全体の頭部形状を予測することができる。続く層(頭骨、CSF、脳)は、構造画像からの厚さ測定値によって作成することができる。要約すると、脳外部の凸包は、頭部の測定値を唯一の入力として用いて包括的に生成することができるので、提案する技術は今後のモデル化に簡単に適用可能なはずである。腫瘍および脳自体に関しては、患者のDTIデータセットを使用して、誘電特性(例えば、導電率)が決定される。
【0083】
DTIの獲得は標準的ではないが、指向性が低い拡散強調画像法(DWI)は非常に一般的に獲得され、導電率テンソルのトレースは3つのみの方向で推定することができる。代替実施形態では、誘導電場分布は、テンソル全体ではなく各ボクセルのトレース値のみを使用して決定することができる。これにより、場合によっては精度を犠牲にして、モデルの更なる単純化がもたらされる。
【0084】
DTIは依然として比較的新しい技術であり、画像の解像度は非常に低い(即ち、>1mm3の等方性)。結果として、画像補正およびテンソルの推定方法を慎重に選択することが重要であり、適切な補間方法が得策である。拡散テンソルを導電率テンソルに換算するため、2つの方法が導入される。dMの方策に加えて、体積正規化(vN)方法では、固有値の幾何平均が各ボクセルの等方性基準値に整合される。それを遂行するため、組織タイプの基礎的なセグメント化が実現されてもよい。いくつかの実施形態では、各ボクセルにおけるテンソルの推定トレースを使用して、組織タイプの分類し、セグメント化の代理の役割を果たすことができる。
【0085】
既に指摘したように、詳細なGBMセグメント化のための自動セグメント化アルゴリズムは既に存在している。公的に利用可能なアルゴリズムの一例は、壊死性コア、浮腫、非侵襲性腫瘍、および侵襲性腫瘍を区別すると同時に、4つの異なる画像化モダリティ(T1、T1造影剤、T2造影剤、およびFLAIR)を必要とする、最近の脳腫瘍画像解析(BraTumIA)ソフトウェアである。入力としてT1のみを要する技術も存在する。更に、GBMおよび周囲の浮腫の異質環境が、ボクセル単位のテンソル表現を用いて更に詳細に示されることもある。したがって、単純化したモデルは複雑性が低減されているが、依然としてTTFieldsの電場分布を更に詳細に説明するのに使用することができる。
【0086】
このセクション(即ち、パート3)は、TTFieldsの印加に対して電場分布を計算するための正確な結果を提供する、単純な頭部モデルを作成する第1の試みを提示している。1つの中心腫瘍における電場強度は、単純なモデルを使用したとき、構造画像から導き出される現実的なヒト頭部モデルと比較して、著しく変化しなかった。本明細書に記載する方法は、時間が掛かる組織のセグメント化を必要とせずに、個人化されたモデルを作成することにまで拡張することができる。今後、この方法を使用して、DTIデータセットが利用可能であるという要件はあるが、病変を詳細に表現した個々の患者の頭部モデルを迅速に展開することができる。
【0087】
(例えば、本明細書に説明する方策のいずれかを使用して)患者の脳の患部領域内における電場を最適化するレイアウトが決定されると、電極が決定された位置に位置付けられる。次に、(参照により本明細書に援用する米国特許第7,565,205号に記載されているように)AC電圧が電極に印加されて疾患が治療される。
【0088】
本明細書に記載する概念は、脳の電気的性質を導き出すのにDTIを使用することに限定されないことに留意されたい。対照的に、DWI、導電率画像法、電気インピーダンストモグラフィ(EIT)、および多重エコーGREを含むがそれらに限定されない、同じ目的に使用することができる他の方法にまで及ぶ。
【0089】
また、本明細書に記載する概念は、外層(頭皮、頭骨、CSF)を凸包として表現することに限定されず、MRIデータを大まかに近似するのに他の方法が使用されてもよいことに留意されたい。例としては、楕円体、球体、楕円形状構造などの単純な幾何学形態、または組織の包絡を作成する他の方法も挙げられる。それに加えて、本明細書に記載する概念は外層の近似に制限されず、即ち、頭皮、頭骨、およびCSF層を、MRIの従来のセグメント化を通して得ることもできる。
【0090】
任意に、結果を改善する導電率マップの後処理(例えば、平滑化またはアウトライアーの除去/置換、適合された補間技術など)が実現されてもよい。更に、拡散から導電率までの方法以外の他のマッピング方法、ならびに2つの上記方法の組み合わせ(例えば、dMおよびvNの方策)が使用されてもよい。したがって、皮質組織にはdMを使用し、脳室、および臨床医または放射線科医によって関心領域(ROI)として全て特定されていることがある浮腫領域を含む腫瘍組織には、vNを使用するのが有利なことがある。
【0091】
上述した実施形態のいくつかは、一部の体積要素はそれらが属する組織タイプの代表的な電気的性質が割り当てられ、他の体積要素は特定のMRIシーケンスデータ(この場合はDTI)に基づいて電気的性質が割り当てられる、混合方法を使用する。例えば、頭骨、頭皮、およびCSFは代表的な等方性誘電特性が割り当てられ、白質および灰白質(ならびにいくつかの実施形態では、脳室)の導電率は、DTIデータから導き出された。提示した例では、画像は健康な被験者によるものであったため、腫瘍組織にも仮想の場所で等方性誘電特性が割り当てられたことに留意されたい。しかしながら、代替実施形態では、頭部全体における体積要素の総量に、特定の画像化技術から単独で導き出された等方性または異方性どちらかの誘電特性が割り当てられてもよい。
【0092】
いくつかの実施形態では、頭部の境界表面のみが、例えば頭皮表面の従来のセグメント化によって特定され、導電率および/または誘電率が、MRI導電率測定から導き出される導電率測定値を使用して、ファントム内の全ての点に割り当てられることに留意されたい。
【0093】
いくつかの実施形態では、脳は、既存の全脳抽出アルゴリズムを使用して特定される。次に、頭皮、頭骨、およびCSFが自動手順を使用してセグメント化される。導電率値は、MRI導電率測定を使用して、脳、腫瘍組織(活性シェルおよび壊死性コアを含む)、場合によっては浮腫状領域、ならびに脳室に割り当てられる。バルク導電率値が、頭皮、頭骨、およびCSFに割り当てられる。
【0094】
いくつかの実施形態では、脳は、既存の全脳抽出アルゴリズムを使用して特定される。次に、頭皮、頭骨、CSF、および脳室が自動手順を使用してセグメント化される。導電率値は、MRI導電率測定を使用して、脳、腫瘍組織(活性シェルおよび壊死性コアを含む)、ならびに場合によっては浮腫状領域に割り当てられる。バルク導電率値が、頭皮、頭骨、CSF、および脳室に割り当てられる。
【0095】
いくつかの実施形態では、脳は、既存の全脳抽出アルゴリズムを使用して特定される。腫瘍は、臨床医または放射線科医によってROIとして印付けられる。次に、頭皮、頭骨、およびCSFが自動手順を使用してセグメント化される。導電率値は、MRI導電率測定を使用して、脳および脳室に割り当てられる。バルク導電率値が、頭皮、頭骨、CSF、および腫瘍組織に割り当てられる(例えば、それらの領域のそれぞれに一定の導電率値を割り当てることによる)。
【0096】
また、頭皮、頭骨、およびCSFのセグメント化を使用する代わりに、これらの外層の近似が使用されてもよいことに留意されたい。例えば、ユーザは、代表的な領域における頭皮、頭骨、およびCSFの厚さを測定することが求められることがある。これらの組織は次に、脳を取り囲むユーザ測定の厚さを有する、同心の幾何学的実体(頭皮の既定の凸包、球体、楕円体などに類似)として近似される。この近似は、耳、鼻、口、および顎などの特徴は無視して、(ほぼ)楕円形の構造として頭部をシミュレートする。しかしながら、アレイおよび治療は頭部のテント上領域のみに送達されるので、この近似は正当化されたものと思われる。いくつかの実施形態では、3つの組織タイプのうち2つ以上を組み合わせて1つの層とし、単一の導電率値をその層に割り当てることも可能なことがある。例えば、頭皮および頭骨は、単一の導電率(および任意に均一な厚さ)を有する1つの層として導入されてもよい。
【0097】
本発明者らは、個々の患者に対して現実的な頭部モデルを展開できることは、腫瘍内の電場の最適化を可能にするだけではなく、電場外の再発を軽減する治療計画も可能にできると期待している。これは、腫瘍内の電場強度を考慮に入れるだけではなく、脳の他の領域における電場強度の最適化も試みる、最適化方法を展開することによって達成できる。
【0098】
任意に、患者特異的な頭部計算モデルは、電場強度分布と患者内での疾患の進行との関係を明瞭にし得る遡及的な患者解析に使用されてもよく、最終的には、TTFieldsを患者の体内で送達する方法のより良い理解につながる。
【0099】
この方式で構築される計算ファントムは、頭部内の電場および/または電流分布を計算するのが有用なことがある、他の用途にも使用することができる。これらの用途としては、直流および交流経頭蓋刺激、埋め込まれた刺激電極のフィールドマップのシミュレーション、埋め込まれた刺激電極の配置の計画、ならびにEEGにおける信号源特定が挙げられるが、それらに限定されない。
【0100】
最後に、本出願は頭部上におけるアレイレイアウトを最適化する方法について記載しているが、潜在的には、胸部または腹部などの他の身体領域を治療するためにアレイレイアウトを最適化することにまで拡張することができる。
【0101】
本発明について特定の実施形態を参照して開示してきたが、添付の特許請求の範囲で定義されるような本発明の領域および範囲から逸脱することなく、記載した実施形態に対する多数の修正、改変、および変更が可能である。したがって、本発明は記載した実施形態に限定されず、以下の特許請求の範囲およびその等価物の文言によって定義される全範囲を有するものとする。
【符号の説明】
【0102】
21 現実的な等方性モデル、頭部の左右(LR)アレイ
22 単純化した等方性モデル、頭部の左右(LR)アレイ
23 単純化した異方性モデル、頭部の左右(LR)アレイ
24 現実的な等方性モデル、前後(AP)部分のアレイ
25 単純化した等方性モデル、前後(AP)部分のアレイ
26 単純化した異方性モデル、前後(AP)部分のアレイ
31 原型モデル
32 simple1モデル
33 simple2モデル
40 頭皮
42 変換器アレイ
44 変換器アレイ
51 SHM1
52 SHM2
54 頭骨
55 CSF
56 灰白質
58 白質
62 凸包
64 脳室
66 腫瘍
71 RHM等方性モデル
72 SHM2等方性モデル
73 RHM異方性モデル
74 SHM2異方性モデル
75 SHM4異方性モデル