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特許7183049液体吐出ヘッド用基板および液体吐出ヘッド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド用基板および液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20221128BHJP
【FI】
B41J2/14 209
B41J2/14 611
B41J2/14 613
B41J2/14 607
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019003805
(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公開番号】P2019142216
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-01-08
(31)【優先権主張番号】P 2018030192
(32)【優先日】2018-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 麻紀
(72)【発明者】
【氏名】三隅 義範
(72)【発明者】
【氏名】石田 譲
(72)【発明者】
【氏名】船橋 翼
(72)【発明者】
【氏名】松居 孝浩
【審査官】井出 元晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-223709(JP,A)
【文献】特開2015-217543(JP,A)
【文献】特開2015-093453(JP,A)
【文献】特開2006-327180(JP,A)
【文献】特開2017-113905(JP,A)
【文献】特開2015-079804(JP,A)
【文献】特開2014-124922(JP,A)
【文献】特開2014-124921(JP,A)
【文献】特開2016-015452(JP,A)
【文献】特開2001-080073(JP,A)
【文献】特開2014-124920(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0103693(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するために発熱する第1発熱抵抗素子および第2発熱抵抗素子を備える基材と、
前記第1発熱抵抗素子を覆い、導電性を備える第1被覆部と、
前記第2発熱抵抗素子を覆い、導電性を備える第2被覆部と、
前記第1発熱抵抗素子と前記第1被覆部との間および前記第2発熱抵抗素子と前記第2被覆部との間に配された絶縁層と、
前記基材の前記第1被覆部が設けられる側に設けられたヒューズ部と、
前記ヒューズ部を介して前記第1被覆部に電気的に接続され、前記第1被覆部と前記第2被覆部とを電気的に接続するための共通配線と、
前記第1被覆部と前記ヒューズ部とを電気的に接続し、液体吐出ヘッド用基板における積層方向において前記ヒューズ部と同じ層に設けられた個別配線と、
互いに隣接して設けられ、液体を流すための第1開口および第2開口と、
を有する液体吐出ヘッド用基板において、
少なくとも珪素と炭素とを含み、前記ヒューズ部を被覆する被覆層を有するとともに、
前記液体吐出ヘッド用基板を平面視した場合に、前記第1開口と前記第2開口とが隣接する方向と交差する方向において、前記第1発熱抵抗素子、前記第1開口、前記共通配線がこの順に配置されており、
前記個別配線は、前記第1開口と前記第2開口との間の領域を通って配置されており、
前記ヒューズ部は、前記領域よりも前記共通配線の側に位置することを特徴とする液体吐出ヘッド用基板。
【請求項2】
前記被覆層はSiCNを含む、請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項3】
前記基材は、前記液体吐出ヘッド用基板を平面視した場合に、前記ヒューズ部と重なる位置に厚さ1μm以上のSiOを含む層を備える、請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項4】
前記ヒューズ部はタンタルを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項5】
前記共通配線と前記ヒューズ部とは、前記液体吐出ヘッド用基板における積層方向において同じ層として設けられており、
前記被覆層は前記共通配線を被覆している、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項6】
前記共通配線はタンタルを含む請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項7】
前記第1被覆部の、前記第1発熱抵抗素子の側の面と反対側の面は、イリジウムを含む層で構成されている、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項8】
前記ヒューズ部は、前記基材の側からイリジウムを含む層とタンタルを含む層とがこの順に積層された積層体を含み、
前記ヒューズ部の前記イリジウムを含む層と、前記第1被覆部の前記イリジウムを含む層とは、前記液体吐出ヘッド用基板における積層方向において同じ層として構成されている、請求項7に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項9】
前記共通配線と前記ヒューズ部とを介して前記第1被覆部に電位を印加可能である、請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項10】
前記液体吐出ヘッド用基板を平面視した場合に、前記ヒューズ部の重心と前記第1発熱抵抗素子の重心との距離が、150μm以下である、請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項11】
液体を吐出するために発熱する第1発熱抵抗素子および第2発熱抵抗素子を備える基材と、前記第1発熱抵抗素子を覆い、導電性を備える第1被覆部と、前記第2発熱抵抗素子を覆い、導電性を備える第2被覆部と、前記第1発熱抵抗素子と前記第1被覆部との間および前記第2発熱抵抗素子と前記第2被覆部との間に配された絶縁層と、前記基材の前記第1被覆部が設けられる側に設けられたヒューズ部と、前記ヒューズ部を介して前記第1被覆部に電気的に接続され、前記第1被覆部と前記第2被覆部とを電気的に接続するための共通配線と、を備える液体吐出ヘッド用基板と、
前記液体吐出ヘッド用基板の前記第1被覆部の側に設けられ、流路を形成する壁を備える流路形成部材と、
を有する液体吐出ヘッドにおいて、
前記液体吐出ヘッド用基板は、前記液体吐出ヘッド用基板の前記第1被覆部の側に設けられ、少なくとも珪素と炭素とを含み、前記ヒューズ部を被覆する被覆層を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記被覆層はSiCNを含む、請求項11に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記ヒューズ部はタンタルを含む、請求項11または請求項12に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記ヒューズ部は、前記流路の側とは反対側に前記壁から離れた位置に設けられている、請求項11乃至請求項13のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
前記流路形成部材は、前記液体吐出ヘッド用基板を平面視した場合に前記ヒューズ部と重なる位置に貫通口を備え、
前記被覆層は前記貫通口から露出する面を備える、請求項11乃至請求項14のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項16】
前記共通配線と前記ヒューズ部とを介して前記第1被覆部に電位を印加可能である、請求項11乃至請求項15のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドに用いられる液体吐出ヘッド用基板および液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、発熱抵抗素子に通電することで液室の内部の液体を加熱し液体に膜沸騰を生じさせ、この発泡エネルギーを用いて吐出口から液滴を吐出させる液体吐出ヘッドが搭載された液体吐出装置が多く採用されている。このような液体吐出装置によって記録が行われる場合には、発熱抵抗素子上の領域で液体が発泡、収縮、消泡する際に生じるキャビテーションによる衝撃といった物理的作用が発熱抵抗素子上の領域に及ぼされることがある。また、液体が吐出される際に発熱抵抗素子は高温となるため、液体の成分が熱分解して発熱抵抗素子の表面に付着して固着・堆積するといった化学的作用が発熱抵抗素子上の領域に及ぼされることがある。これらの発熱抵抗素子への物理的作用あるいは化学的作用から発熱抵抗素子を保護するために、発熱抵抗素子上には発熱抵抗素子を覆う被覆部としての保護層が配置されている。
【0003】
通常、保護層は液体と接する位置に配置される。従って、保護層に電気が流れると保護層と液体との間で電気化学反応が生じ、保護層としての機能が損なわれる恐れがある。そのため、発熱抵抗素子に供給される電気の一部が保護層へ流れないように、発熱抵抗素子と保護層との間に絶縁層が配置されている。
【0004】
ところが、何らかの原因によって絶縁層の機能が損なわれて(偶発故障)しまい、発熱抵抗素子あるいは配線から保護層へ直接的に電気が流れてしまう導通が生じる可能性がある。発熱抵抗素子に供給される電気の一部が保護層に流れた場合には、保護層と液体との間で電気化学反応が生じ、保護層が変質する可能性がある。保護層が変質すると保護層の耐久性が低下する恐れがある。さらに、異なる発熱抵抗素子をそれぞれ覆う保護層が電気的に接続されている場合は、発熱抵抗素子との導通が生じた保護層とは別の保護層にも電流が流れてしまい、液体吐出ヘッド内で変質の影響が広がる恐れがある。
【0005】
このような影響を防ぐために保護層を個別に分離する構成が有効であるが、液体吐出ヘッドによっては保護層を個別に分離せず互いに接続された構成の方が好ましい場合もある。例えば、電気化学反応を利用して保護層を液体中に溶出させることにより保護層に堆積したコゲを除去するクリーニングを行う場合には、保護層に電圧を印加するために複数の保護層を電気的に接続する構成が好ましい。また、液体に含まれるコゲの原因となる粒子の電位と反発するような電位を保護層に対して印加することで、保護層から粒子を反発させてコゲの発生を抑える場合にも、保護層に電圧を印加するために複数の保護層を電気的に接続する構成が好ましい。
【0006】
ここで、特許文献1には、複数の保護層と電気的に接続された共通配線に対し、ヒューズ部を介してそれぞれの保護層が接続された構成が記載されている。このような構成において上記の導通が生じて1つの保護層に電流が流れた場合に、この電流によってヒューズ部が切断されることで、他の保護層との電気的な接続が切断される。これにより、保護層の変質の影響が広がることを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-124920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヒューズ部を設ける位置としては、被覆部の変質の影響が広がることを抑えるために、発熱抵抗素子を覆う被覆部の近傍にヒューズ部を配置する構成が好ましい。一方で、特許文献1のように液体と接する位置にヒューズ部を設けると、ヒューズ部が液体によって変質する恐れがあり、ヒューズ部の信頼性が低下する可能性がある。
【0009】
そこで、本発明は、発熱抵抗素子と被覆部とが導通した場合の被覆部の変質の影響が広がることを抑えつつ、ヒューズ部が液体によって変質される恐れを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液体吐出ヘッド用基板は、液体を吐出するために発熱する第1発熱抵抗素子および第2発熱抵抗素子を備える基材と、前記第1発熱抵抗素子を覆い、導電性を備える第1被覆部と、前記第2発熱抵抗素子を覆い、導電性を備える第2被覆部と、前記第1発熱抵抗素子と前記第1被覆部との間および前記第2発熱抵抗素子と前記第2被覆部との間に配された絶縁層と、前記基材の前記第1被覆部が設けられる側に設けられたヒューズ部と、前記ヒューズ部を介して前記第1被覆部に電気的に接続され、前記第1被覆部と前記第2被覆部とを電気的に接続するための共通配線と、前記第1被覆部と前記ヒューズ部とを電気的に接続し、液体吐出ヘッド用基板における積層方向において前記ヒューズ部と同じ層に設けられた個別配線と、互いに隣接して設けられ、液体を流すための第1開口および第2開口と、を有する液体吐出ヘッド用基板において、少なくとも珪素と炭素とを含み、前記ヒューズ部を被覆する被覆層を有するとともに、前記液体吐出ヘッド用基板を平面視した場合に、前記第1開口と前記第2開口とが隣接する方向と交差する方向において、前記第1発熱抵抗素子、前記第1開口、前記共通配線がこの順に配置されており、前記個別配線は、前記第1開口と前記第2開口との間の領域を通って配置されており、前記ヒューズ部は、前記領域よりも前記共通配線の側に位置することを特徴とする液体吐出ヘッド用基板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発熱抵抗素子と被覆部とが導通した場合の被覆部の変質の影響が広がることを抑えつつ、ヒューズ部が液体によって変質される恐れを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】記録装置の概略構成図
図2】記録ヘッドの斜視図
図3】記録素子基板を概念的に示す斜視図
図4】記録素子基板の模式的平面図
図5】ヒューズ部の動作に関連する回路図
図6】記録素子基板の断面図
図7】記録素子基板の製造工程を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態の例を説明する。ただし、以下の記載は本発明の範囲を限定するものではない。
【0014】
本実施形態は、インク等の液体をタンクと液体吐出装置間で循環させる形態のインクジェット記録装置(記録装置)であるが、その他の形態であっても良い。例えばインクを循環せずに、液体吐出装置上流側と下流側に2つのタンクを設け、一方のタンクから他方のタンクへインクを流すことで、圧力室内のインクを流動させる形態であっても良い。
【0015】
本実施形態は被記録媒体の幅に対応した長さを有する、所謂ライン型ヘッドであるが、被記録媒体に対してスキャンを行いながら記録を行う、所謂シリアル型の液体吐出装置にも本発明を適用できる。シリアル型の液体吐出装置としては、例えばブラックインク用、およびカラーインク用記録素子基板を各1つずつ搭載する構成があげられる。これに限らず、数個の記録素子基板を吐出口列方向に吐出口をオーバーラップさせるよう配置した、被記録媒体の幅よりも短い、短尺のラインヘッドを作成し、それを被記録媒体に対してスキャンさせる形態のものであっても良い。
【0016】
(インクジェット記録装置)
本実施形態の液体吐出装置、特にはインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置1000(以下、記録装置とも称す)の概略構成を図1に示す。記録装置1000は、被記録媒体2を搬送する搬送部1と、被記録媒体の搬送方向と略直交して配置されるライン型の液体吐出ヘッド3とを備え、複数の被記録媒体2を連続もしくは間欠に搬送しながら1パスで連続記録を行うライン型記録装置である。被記録媒体2はカット紙に限らず、連続したロール紙であってもよい。記録装置1000は、CMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の4種類のインクにそれぞれ対応した4つの単色用の液体吐出ヘッド3を備えている。また、記録装置1000はキャップ1007を備えており、非記録時にキャップ1007で液体吐出ヘッド3の吐出口面の側を覆うことで、吐出口からのインクの蒸発を防ぐことができる。
【0017】
(液体吐出ヘッド)
本実施形態に係る液体吐出ヘッド3の構成について説明する。図2(a)及び図2(b)は本実施形態に係る液体吐出ヘッド3の斜視図である。液体吐出ヘッド3は1つの記録素子基板10で1色のインクを吐出可能な記録素子基板10が直線上に16個配列(インラインに配置)されたライン型の液体吐出ヘッドである。各色のインクを吐出する液体吐出ヘッド3は同様の構成となっている。
【0018】
図2(a)、(b)に示すように、液体吐出ヘッド3は、記録素子基板10と、フレキシブル配線基板40と、信号入力端子91と電力供給端子92が設けられた電気配線基板90と、を備える。信号入力端子91及び電力供給端子92は記録装置1000の制御部と電気的に接続され、それぞれ、吐出駆動信号及び吐出に必要な電力を記録素子基板10に供給する。電気配線基板90内の電気回路によって配線を集約することで、信号入力端子91及び電力供給端子92の数を記録素子基板10の数に比べて少なくできる。これにより、記録装置1000に対して液体吐出ヘッド3を組み付ける時又は液体吐出ヘッドの交換時に取り外しが必要な電気接続部の数が少なくて済む。液体吐出ヘッド3の両端部に設けられた接続部93は、記録装置1000のインク供給系と接続される。記録装置1000の供給系から一方の接続部93を介して液体吐出ヘッド3にインクが供給され、液体吐出ヘッド3内を通ったインクは他方の接続部93を介して記録装置1000の供給系へ回収されるようになっている。このように、液体吐出ヘッド3は、インクが記録装置1000の経路と液体吐出ヘッド3の経路を介して循環可能な構成となっている。
【0019】
(記録素子基板)
図3は、本実施形態の記録素子基板(記録素子基板のことを液体吐出ヘッドとも称する)を概念的に示す斜視図である。
【0020】
記録素子基板10は、液体供給路18および液体回収路19が形成された基板11(液体吐出ヘッド用基板)と、基板11の表面側に流路形成部材120、基板11の裏面側にカバープレート20が形成されている。記録素子基板10の流路形成部材120に、各インク色に対応する4列の吐出口列が形成されている。基板11に設けられた液体供給路18および液体回収路19は吐出口列の方向に沿って延在している。また、基板11には、液体供給路18と連通する供給口17aが吐出口列方向に沿って複数設けられており、液体回収路19と連通する回収口17bも吐出口列方向に沿って複数設けられている。
【0021】
図3に示すように、各吐出口13に対応した位置に、液体を熱エネルギーにより発泡させるための熱作用部130が配置されている。この熱作用部130は液体を吐出させて記録を行うための記録素子である。また、熱作用部130は後述する上部電極131としても用いられる。流路形成部材120により記録素子としての熱作用部130を内部に備える圧力室23が区画されている。熱作用部130に対応して設けられた発熱抵抗素子108(図6)は基板11に設けられた電気配線(不図示)によって、端子16と電気的に接続されている。外部の配線基板(不図示)を介して入力されるパルス信号に基づいて発熱して圧力室23内の液体を沸騰させる。この沸騰による発泡の力で液体を吐出口13から吐出する。
【0022】
また、カバープレート20には液体供給路18に連通する開口21および液体回収路に連通する開口21が設けられており、インクは、開口21、液体供給路18、供給口17aを順に通って圧力室23へと供給される。圧力室23に供給されたインクは、回収口17b、液体回収路19、開口21を通って回収される。
【0023】
図4は、本発明の実施形態に係る基板11を平面視した場合を示す平面図である。図4(a)に本発明の実施形態に係る基板11の平面模式図を示す。また、図4(b)に図4(a)における点線で示す領域A内を拡大した平面模式図を示す。
【0024】
基板11と流路形成部材120との間には、圧力室23を含み、液体が流れる空間である液室121(流路)が形成されている。この液室121内に、発熱抵抗素子108を被覆するように積層された上部電極131と、対向電極132とが配置されている。各電極は、上部電極用の共通配線114、対向電極用の共通配線134を介して、それぞれ端子16に接続されており、この端子16を通して外部から両電極に電位を印加し、液室121内の液体(インク)を介して両電極間に電圧が印加可能な構成となっている。両電極は導電性材料で構成される。なお、発熱抵抗素子108を保護する保護層111のうちの、液体に露出する表面を有する部分が上部電極131として機能する。また、保護層111を被覆部111とも称する。
【0025】
上部電極131は、発熱抵抗素子108を物理的および化学的衝撃から保護する役割と、発熱抵抗素子108で発生する熱を瞬時にインクに伝達する熱伝導性が求められ、700℃程度の加熱により強固な酸化膜を形成しない材料であることが求められる。また、上部電極131を記録動作中において対向電極132に対して相対的に電位が低い状態とすることで、負の電極として機能させることもできる。これにより、主に液体(インク)中に負の荷電粒子が含まれている場合に、これを上部電極131から電気的に反発させて寄せ付けないようにし、上部電極131上へのコゲの付着を抑制することができる。さらに、対向電極132に対して上部電極131を相対的に電位が高い状態とすることで、上部電極131とともに記録動作中に付着したコゲを除去するクリーニングを行うという役割を有していてもよい。
【0026】
このような上部電極131の材料としては、イリジウム(Ir)またはルテニウム(Ru)の単体、あるいはIrと他の金属との合金もしくはRuと他の金属との合金などを用いることが好ましい。例えばIrを用いて上部電極131を構成する場合には、+2.5V以上の電圧を上部電極131に印加することでIrを液体に溶出させることができる。
【0027】
対向電極132は、記録動作中においてインク中の負の荷電粒子を上部電極131から遠ざける場合には、正の電極として機能する。対向電極132は、上部電極131との間の電界を安定に維持するため、導電率が低く、酸化膜が形成され難く、電気化学反応によって溶出が起こり難い金属を含む材料であることが好ましい。
【0028】
このような対向電極132の材料としては、IrまたはRuの単体、あるいはIrと他の金属との合金もしくはRuと他の金属との合金などを用いることが好ましい。例えばIrを用いて対向電極132を構成する場合には、荷電粒子を反発させるために+2.0V以下の電圧を対向電極132に印加する。これにより、Irを溶出させずに安定的に上部電極131との間で電界を形成し、上部電極131から荷電粒子を遠ざけることができる。
【0029】
図4(a)に示すように、基板11には第1発熱抵抗素子108aと第2発熱抵抗素子108bとを含む複数の発熱抵抗素子108が設けられている。そして、基板11には第1発熱抵抗素子108aを覆う第1被覆部111aと第2発熱抵抗素子108bを覆う第2被覆部111bとが設けられている。第1被覆部111aと第2被覆部111bとを含む複数の被覆部111は共通配線114を介して電気的に接続されている。すなわち、複数の上部電極131は共通配線114を介して電気的に接続されている。また、個々の被覆部111(上部電極131)は、個別配線113と、個別配線113の一部に形成されたヒューズ部112とを介して、共通配線114に電気的に接続されている。ヒューズ部112は部分的に配線幅が狭くなっている。これにより、電流が流れた際に電流密度が増加しジュール熱による温度上昇が起こりやすくなり、ヒューズ部112が安定して切断される。なお、ヒューズ部112の幅は、数μm以下、好ましくは3μm以下とすることで、より切断に対するマージンが向上する。なお、本実施形態では、一例として、ヒューズ部112の長さは10μm、幅は2μmとしている。
【0030】
図4(b)に示すように、基板11には、基板11に設けられた開口であり、発熱抵抗素子108に液体を供給するための複数の供給口17a(第1開口と第2開口)が設けられている。また、複数の供給口17aが隣接する方向と交差する方向において、発熱抵抗素子108、供給口17a、共通配線114がこの順に並んで配置されている。ここで、個別配線113は上部電極131に接続されており、互いに隣接する供給口17aの間の領域を通り、吐出口列方向に延在して設けられた共通配線114と接続されている。ヒューズ部112は、供給口17aの間の領域よりも共通配線114の側に設けられており、液室121の領域の外側に配置されている。
【0031】
なお、発熱抵抗素子108と上部電極131との導通の影響が広がることを抑えるために、ヒューズ部112は、発熱抵抗素子108の近傍に配置することが好ましい。そこで、本実施形態においては、図4(b)に示す平面に沿う方向において、発熱抵抗素子108の重心からヒューズ部112の重心までの距離を130μmとしている。発熱抵抗素子108と上部電極131との導通の影響が広がることを抑えるためには、発熱抵抗素子108(吐出口13)の重心とヒューズ部112の重心との距離が150μm以下となるようにヒューズ部112を設けることが好ましい。
【0032】
図4(b)に対応する変形例を図4(c)に示す。この変形例では、図4(b)の構成とは、個別配線113や保護層111の平面形状が異なっている。具体的には、ヒューズ部112から発熱抵抗素子108の上側へ延在する個別配線113、保護層111がT字のような平面形状となっている。図4(b)の構成と比べ、本変形例は共通配線114と上部電極131との間の配線抵抗の増大を抑えることができる。
【0033】
このように、本実施形態においては、ヒューズ部112を液室121から近い位置に配置している。これにより、上部電極131との導通が生じた発熱抵抗素子108を含むできるだけ少ないグループで分離することができ、導通の影響が広範囲にわたり他の発熱抵抗素子に及ぶことを防いでいる。
【0034】
なお、本実施形態では、保護層111は複数の発熱抵抗素子108(本実施形態では2つの発熱抵抗素子108)を覆うようにパターニングされた構成であるが、1つの保護層111が1つの発熱抵抗素子108を覆う構成であってもよい。また、本実施形態では、2つの発熱抵抗素子108に対して1つのヒューズ部112が対応するようにヒューズ部112を設けている。しかし、1つの発熱抵抗素子108に対して1つのヒューズ部112を設ける構成であってもよい。また、導通が生じた場合に導通が生じていない発熱抵抗素子108で補完可能な範囲であれば、3つ以上の複数の発熱抵抗素子108に対して1つのヒューズ部112を設ける構成であってもよい。
【0035】
図5はヒューズの動作に関する回路図である。上部電極131につながる共通配線114を常に0Vとしておくことで、発熱抵抗素子108と上部電極131が導通した場合、ヒューズ部112の両端に電位差が生じることでヒューズ部112が破断される。これにより、導通が生じた発熱抵抗素子108を共通配線114から電気的に分離することができる。
【0036】
なお、発熱抵抗素子108と上部電極131との間の抵抗が大きい場合などは、上部電極131にかかる電位が低く、ヒューズ部112に十分な電流が流れないことも想定される。このような場合に備えて、導通やこれに伴う影響を検知する検知手段を設け、検知手段により導通を検知した際にヒューズ部への電流を流してヒューズ部112の切断をアシストする機構を設けたり、定期的にヒューズ部112への電流を流したりしてもよい。
【0037】
図6に発熱抵抗素子108とヒューズ部112周辺の積層構成を模式的に示す。図6は、図4(a)に示された基板11に流路形成部材120が接合された液体吐出ヘッド(記録素子基板)のX-X線における断面図を示している。簡単のため回路・配線類は省略されているが、基材101に設けられた発熱抵抗素子108とヒューズ部112とはそれぞれ、発熱や切断に必要な電力を得るための配線に電気的に接続されている。
【0038】
以下、液体吐出ヘッドの積層構成について説明するが、下記で挙げる構成や材料は一例であり、下記に限定されるものではない。
【0039】
駆動素子や駆動素子駆動用の配線(不図示)が形成された、基材としてのシリコン基材101の上側にSiOなどからなる絶縁層103が設けられている。さらに、絶縁層103の上に、アルミニウムと銅の合金などからなる配線パターン104が設けられている。この配線パターン104は、発熱抵抗素子108に電圧を供給するための配線であるため、低抵抗であることが望ましい。特に、配線パターン104を0.5μm以上の厚さで形成することが好ましい。本実施形態では、配線パターン104を例えば1μmの厚さで形成している。
【0040】
配線パターン104は、SiOなどからなる絶縁層105で被覆されている。また、絶縁層105には、この配線パターン104と発熱抵抗体層107とを接続するためのプラグ106が設けられており、プラグ106の材料はタングステンなどを用いることができる。絶縁層105の表面はCMP法などを用いて平坦化された面となっている。
【0041】
この絶縁層105は、配線パターン104と発熱抵抗体層107とを絶縁するための層であるため、配線パターン104の厚さよりも厚く形成される。また、蓄熱性の高いSiOで形成された絶縁層105は、蓄熱層としての役割もあり、発熱抵抗素子108やヒューズ部112による放熱に影響を与える。したがって、液体吐出時に発熱抵抗素子108を駆動する際のエネルギー効率を向上したり、ヒューズ部112の切断性を向上したりするためには、絶縁層105は厚い方が好ましい。特に、ヒューズ部112が溶断される温度に達しやすくするためには、基板11を平面視した場合のヒューズ部112と重なるように位置する絶縁層105を1μm以上の厚さで形成することが好ましい。本実施形態では、配線パターン104を被覆しつつ、ヒューズ部112を切断しやすくするために、絶縁層105を例えば2μmの厚さで形成している。
【0042】
絶縁層105の表面上には、TaSiNなどからなる発熱抵抗体層107が設けられている。発熱抵抗体層107のうち両端に接続されたプラグ106を介して電流が流れる部分が発熱抵抗素子108として機能する。発熱抵抗体層107は例えばSiNからなる厚さ200nmの絶縁層110で覆われている。さらにその上には、発熱抵抗素子108を覆う被覆部としての保護層111が設けられている。本実施形態では、保護層111は、一例として、絶縁層110の側から順に30nmのタンタル(Ta)、60nmのIrの2層が積層されて構成されている。このうち、Ir層の液体と接する部分が上述の上部電極131として機能する。また、Ta層は絶縁層110とIr層との密着性を高める役割を有している。発熱抵抗素子108と保護層111とは、絶縁層110によって電気的に絶縁されている。
【0043】
また、絶縁層110の上側には、ヒューズ部112、個別配線113、共通配線114が設けられている。本実施形態では、プロセスコストを抑えるために、ヒューズ部112、個別配線113、共通配線114は、同じ材料を用いて積層方向において同じ層として形成されている。具体的には、ヒューズ部112、個別配線113、共通配線114は、3層の積層体として構成されており、例えば、絶縁層110の側から30nmのTa、60nmのIr、70nmのTaの3層構成としている。このうち、絶縁層110の側Ta層とIr層の2層は保護層111と積層方向において同じ層から形成されており、プロセスコストをより抑えた構成となっている。
【0044】
また、上述のように、ヒューズ部112は、液室121の外側の領域、すなわち、流路形成部材120の液室121を形成する壁120aから、液室121とは反対側に離れた位置に設けられている(図4(b))。
【0045】
ここで、ヒューズ部112は、耐液性(耐インク性)の高い絶縁層である被覆層115で覆われている。この構成に伴う効果について説明する。
【0046】
ヒューズ部112が液体と接する構成であると、液体によって変質が生じる恐れがある。なお、ヒューズ部112が液室121の外部に設けられている構成であっても、印字時や吐出口面のワイピング時に液体が吐出口面をつたって液体が侵入する恐れがある。これにより、ヒューズ部112が液体と接触して変質する可能性がある。具体的には、Taを含むヒューズ部112が液体に接していると、正の電位が印加されることで液体との電気化学反応が生じて陽極酸化が起きる恐れがある。また、負の電位が印加されることで水素が発生し、ヒューズ部112がこの水素を吸蔵してヒューズ部112を構成する材料の脆化が生じる恐れがある。
【0047】
このようにヒューズ部112が変質すると、発熱抵抗素子108と上部電極131とが導通した際に、ヒューズ部112を切断して導通された上部電極131を共通配線114から電気的に分離するというヒューズ部112の機能が損なわれる恐れがある。
【0048】
ここで、ヒューズ部112は、上述のような上部電極131へのコゲの付着抑制や上部電極131に付着したコゲを除去するクリーニングを行う際に、共通配線114から供給される電位を上部電極131へ印加するための配線としても機能する。そのため、ヒューズ部112の変質が生じると、上部電極131への電位の印加が不安定になる可能性があり、長期にわたって安定してコゲの付着を抑制したりクリーニングを行ったりすることが困難となる恐れもある。
【0049】
そこで、上述のようにヒューズ部112を覆う耐液性の高い被覆層115を設けることで、ヒューズ部112が液体によって変質する恐れを抑えることができる。これにより、発熱抵抗素子108と上部電極131とが導通した際に、ヒューズ部112を切断して導通された上部電極131を共通配線114から電気的に分離するというヒューズ部112の機能を維持することができる。また、長期にわたって安定してコゲの付着を抑制したりクリーニングを行ったりすることができる。
【0050】
なお、コゲの付着抑制やクリーニングの際には、個別配線113や共通配線114も上部電極131へ電位を印加するための配線として機能するため、個別配線113や共通配線114も被覆層115に覆われていてもよい。なお、図6に示す構成では、個別配線113を構成する層のうち、被覆層115側のTa層の液室121内の側端部が液体と接している。このように数10nm程度と薄膜であるTa層の側端部が液体と接していても液体による変質の影響は少なく、配線としての機能を長期的に維持することができる。また、このような構成であると、被覆層115とこれに接するTa層とを同じ工程で除去する(図7(g))ことができるため、製造工程の負荷を抑えることができる。
【0051】
また、ヒューズ部112の周辺の絶縁層105や絶縁層110も被覆層115に覆われた構成とすることで、絶縁層105や絶縁層110の液体への溶出を抑えることができる。
【0052】
なお、被覆層115は耐液性(耐インク性)を有していればどのような材料であっても良いが、個別配線113や共通配線114の上側には液室121を形成するための流路形成部材120が積層される。そのため、被覆層115は耐液性を有し、さらに流路形成部材120との密着性にも優れた材料で形成することが好ましい。例えば、有機材料を含む流路形成部材120を用いる場合、これと密着性が高く、耐液性に優れたSiCやSiCNといった、少なくとも珪素と炭素とを含む被覆層115を用いることが好ましい。特に、ヒューズ部112を液体から保護するために、この被覆層115の厚さは50nm以上であることが好ましい。また、SiCNを含む被覆層115は、SiCで構成された被覆層115と比べて絶縁性が高いため、発熱抵抗素子108と上部電極131とが導通した際の陽極酸化が抑えられ、流路形成部材120の剥がれの懸念も少ないため、より好ましい。本実施形態では、被覆層115はSiCNを用いて形成する。
【0053】
また、ヒューズ部112の上側に位置する流路形成部材120に貫通口120bが形成されていてもよい。すなわち、記録素子基板10を平面視した場合に、ヒューズ部112と重なる位置に貫通口120bが流路形成部材120に形成されていてもよい。これにより、発熱抵抗素子108と上部電極131とが導通した場合に、貫通口120bが形成されていない場合と比べて流路形成部材120側への放熱を抑えることができ、ヒューズ部112の温度が上昇しやすくなり、ヒューズ部112が切断されやすくなる。このような貫通口120bが形成されていると、吐出口面側から液体が侵入し、液体が溜まる恐れがあるが、ヒューズ部112は耐液性の高い被覆層115で覆われているため、ヒューズ部112の液体による変質の恐れを抑えることができる。なお、ヒューズ部112と貫通口120bとの位置関係は、記録素子基板10を平面視した場合に、両者の少なくとも一部が互いに重複していればよい。ヒューズ部112の切断性を高めるには、記録素子基板10を平面視した場合に、ヒューズ部112の全体が貫通口120bの範囲内に含まれるように設けられていることがより好ましい。
【0054】
なお、ヒューズ部112上に被覆層115が設けられていると、被覆層115および流路形成部材120が設けられていない構成と比べて放熱が生じやすくなり、ヒューズ部112が切断されにくくなる。そこで、放熱の影響を抑えるために、被覆層115を厚さ300nm以下とすることが好ましい。また、上述のようにヒューズ部112の基材101側に蓄熱性の高いSiOからなる1μm以上と厚い絶縁層105を設けることで、ヒューズ部112の切断性を確保することができる。
【0055】
また、本実施形態のように、被覆層115は、共通配線114や絶縁層110を被覆していていもよい。これにより、共通配線114の変質や絶縁層110の液体への溶出を抑えることができる。
【0056】
(記録素子基板の製造方法)
次に、図7(a)から図7(i)を用い、本実施形態における記録素子基板(液体吐出ヘッド)の製造工程について説明する。図7図6に示した断面図に対応する図である。
【0057】
まず、駆動素子や駆動素子駆動用の配線(不図示)が形成されたシリコン基材101の上側に絶縁層103を成膜し、その上に配線パターン104を形成する(図7(a))。
【0058】
次に、絶縁層105を成膜し、CMP法により絶縁層105の表面を平坦化する(図7(b))。
【0059】
次に、絶縁層105にスルーホールを形成し、少なくともスルーホールが埋まるようにCVD法でプラグ材料を成膜する。更に、CMP法で絶縁層105の表面を平坦化することにより、プラグ106を形成する(図7(c))。
【0060】
次に、発熱抵抗体層107、続いて例えばアルミニウムと銅の合金からなる金属層109をスパッタにより形成し、この金属層109をパターニングする。その後、金属層109をマスクとして用いて発熱抵抗体層107をパターニングする。続いて、発熱抵抗体層107をパターニングする際のマスクとして用いた金属層の部分をウェットエッチングで除去する(図7(d))。
【0061】
次に、発熱抵抗体層107と金属層109とを覆うように絶縁層110を設ける(図7(e))。
【0062】
さらにその上に、絶縁層110の側から、Ta層、Ir層、Ta層の3つの層の金属積層膜118をそれぞれスパッタ法で形成してパターニングを行う。これにより、上部電極131、個別配線113、ヒューズ部112、共通配線114、対向電極132(図4(b))、対向電極用の共通配線134(図4(b))を形成する(図7(f))。
【0063】
その後、SiCNからなる被覆層115を成膜し、上部電極131、対向電極132を露出させるため、これらの上に位置する被覆層115と、3層の金属積層膜118のうちの最表面のタンタル膜をドライエッチングにより除去する(図7(g))。
【0064】
その後、端子16を形成するために、金属層109の上に位置する被覆層115と絶縁層110とに開口を形成し、金属層109と導通するように、例えば、図の上側にAu、その下側にTiWとが積層されたパッド形成部材117を設ける(図7(h))。
【0065】
最後に、図7(i)のように、発熱抵抗素子108の上側に液体を導入するための液室121を形成するための流路形成部材120を作製する。例えば、感光性有機材料を、スピンコート法にて5μmの厚さで塗布し、所定の部分のみを露光し、更にその上から感光性有機材料を5μm厚にて成膜後露光する。最後に2つの感光性有機材料を一括現像して、熱硬化させることで中空構造を伴う流路を形成することができる。
【0066】
また、流路形成部材120にヒューズ部112の上側に位置する貫通口120bを形成する場合は、液室121や吐出口13を形成する際に合わせて貫通口120bを形成することが製造工程の負荷を抑えられるため好ましい。
【0067】
(検証試験)
以下、本発明の効果を確認するために行った複数の検証試験について説明する。
【0068】
実施例の記録素子基板(液体吐出ヘッド)として、上述した図6に示す記録素子基板を図7に示した工程を経て作製した。
【0069】
<吐出耐久試験>
この実施例の記録素子基板に、顔料シアンインクを充填し、吐出耐久試験を行った。まず、上部電極131に負電位に帯電した粒子が付着することを抑えることでコゲを抑制するため、対向電極132が陽極になるように対向電極132に+1.0Vの電位を付与し、上部電極131と対向電極132との間に電圧を印加した。この状態で、発熱抵抗素子108に吐出のための電位を印加して記録素子基板に(10^9)回の吐出動作を行わせた。
【0070】
その後、液室121内をクリアインクで置換して表面状態を観察すると、上部電極131の表面にコゲや付着物が確認された。そこで、顔料シアンインクを再度充填し、上部電極131側が陽極になるように上部電極131に+5.0Vの電位を付与し、上部電極131と対向電極132との間に電圧を印加してクリーニング処理を行った。この際、インクの固着を防ぐために、上部電極131と対向電極132との間で極性を繰り返し反転させながら処理を行った。
【0071】
続いて、同じ記録素子基板を用いて、吐出動作(10^9)回分とクリーニング処理を1サイクルとして、5サイクル行った。
【0072】
5サイクル終了した後に、画像データに従って通常の記録動作を行ったところ、良好な品位の出力画像が確認された。
【0073】
再度、液室121内をクリアインクで置換して観察したところ、流路形成部材120の基板11からの浮きや、個別配線113の変色や割れは観察されなかった。さらに、ヒューズ部112周辺を観察したところ、SiCNからなる被覆層115は、浮いたり剥がれたりすることなくヒューズ部周辺を覆っており、ヒューズ部は初期と同様の状態を保っていることがわかった。
【0074】
<TEG形態でのヒューズ部の切断実験>
ヒューズ部112の下方側、すなわち基材101側のSiOの膜厚とヒューズ部112を切断可能な電流値との関係についてTEG形態にて検証した。
【0075】
サンプル1として、シリコン基板上にSiOが100nmの厚さで形成された基板に対し、PECVDにてSiOを2μmの厚さで形成し、続けてSiNを200nmの厚さで成膜した。その上に、Ta30nm、Ir60nm、Ta70nmを連続してスパッタ成膜し、積層膜を形成した。さらに、この積層膜を厚さ150nmのSiCNで覆う構成とした。さらに、このTa/Ir/Taの積層膜に対し、ヒューズ部とヒューズ部に電圧を印加するためのパッドとを形成するためのパターニングを行い、サンプル1を作製した。
【0076】
サンプル2として、サンプル1のPECVDで形成した厚さ2μmのSiOを厚さ1μmとしたTEGを作製した。その他はサンプル1と同様の構成とした。
【0077】
サンプル3として、サンプル1のPECVDで形成した厚さ2μmのSiOを設けない構成とし、その他はサンプル1と同様の構成であるTEGを作製した。すなわち、サンプル3は、ヒューズ部112のシリコン基板側に、厚さ100nmのSiOが形成された構成とした。
【0078】
サンプル1、サンプル2、サンプル3に対し、電源を用いてヒューズ部の両端にかける電圧値を変え、ヒューズ部の切断特性を調べた。サンプル1はヒューズ部に50mA程度の電流が流れたところでヒューズ部が切断された。サンプル2はヒューズ部に60mA程度の電流が流れたところでヒューズ部が切断された。サンプル3は60mA程度の電流では切断されず、ヒューズ部を流れる電流値が100mA程度で、ヒューズ部が切断された。ヒューズ部の切断性からはSiOの膜厚が1μm以上であることが好ましいことがわかった。
【0079】
<断線試験>
吐出耐久試験で用いた実施例の記録素子基板を用い、任意の発熱抵抗素子108に通常吐出時の電圧の5倍のパルス電圧をかけ、故意に断線を発生させた。断線した発熱抵抗素子108上の上部電極131につながるヒューズ部112は溶断していた。電気検査を行ったところ、断線した発熱抵抗素子108上の上部電極131は、他の発熱抵抗素子108から電気的に分離されていることを確認できた。
【0080】
その後、他の発熱抵抗素子108で通常の印字を行ったところ、安定した吐出動作を維持することが可能であった。
【符号の説明】
【0081】
11 基板(液体吐出ヘッド用基板)
108 発熱抵抗素子
101 基材
110 絶縁層
111 保護層(被覆部)
112 ヒューズ部
113 個別配線
114 共通配線
115 絶縁層(被覆層)
120 流路形成部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7