(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ及び積層セラミックコンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20221128BHJP
【FI】
H01G4/30 517
H01G4/30 515
H01G4/30 512
(21)【出願番号】P 2019008774
(22)【出願日】2019-01-22
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】会田 森
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-112163(JP,A)
【文献】特開2017-147429(JP,A)
【文献】特開2015-211210(JP,A)
【文献】特開2014-146669(JP,A)
【文献】特開2014-096551(JP,A)
【文献】特開2017-175039(JP,A)
【文献】特開2010-34503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01G 4/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に積層され、かつ前記第1方向と直交する第2方向の端部の位置が前記第2方向に0.5μmの範囲内に相互に揃っている、卑金属材料を主成分とした複数の内部電極を含む容量形成部と、セラミックスを主成分とし前記容量形成部の前記第1方向外側に配置されたカバー部と、を有するセラミック積層チップと、
セラミックスを主成分とし、前記第2方向から前記セラミック積層チップを覆うサイドマージン部と、
前記カバー部における前記サイドマージン部との接合面に配置され、前記卑金属材料を含む酸化物で構成された接合部と、
を具備する積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の積層セラミックコンデンサであって、
前記接合部は、相互に離間して配置された複数の粒子を含む
積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層セラミックコンデンサであって、
前記接合部の前記接合面に対する面積占有率は、0.3%以上である
積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサであって、
前記接合部の前記接合面に対する面積占有率は、10%以下である
積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサであって、
前記卑金属材料はニッケルである
積層セラミックコンデンサ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサであって、
前記酸化物はマグネシウムを含む
積層セラミックコンデンサ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサであって、
前記接合面は、前記セラミック積層チップの前記第2方向に向いた側面のうち、前記カバー部の占める領域である
積層セラミックコンデンサ。
【請求項8】
第1方向に積層され卑金属材料を主成分とした複数の内部電極を含む未焼成の容量形成部と、セラミックスを主成分とし前記容量形成部の前記第1方向外側に配置された未焼成のカバー部と、を有し、前記第1方向に直交する第2方向に向いた側面から前記複数の内部電極が露出する、未焼成のセラミック積層チップを作製し、
前記側面のうち前記カバー部が占める領域に、卑金属粒子を付着させ、
前記セラミック積層チップの前記側面にサイドマージン部を設けることにより、セラミック素体を作製し、
前記セラミック素体を焼成し、かつ前記卑金属粒子を酸化させることで、前記カバー部と前記サイドマージン部との接合面に、前記卑金属材料を含む酸化物で構成された接合部を形成する
積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドマージン部を備えた積層セラミックコンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの製造方法において内部電極の周囲を保護するサイドマージン部を設ける技術が知られている。例えば、特許文献1に記載の積層セラミックコンデンサでは、側面に内部電極が露出した積層部を作製し、この積層部の側面にサイドマージン部としてのセラミック側面層が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように積層部の側面にサイドマージン部(セラミック側面層)を設ける場合、焼成中において、金属材料からなる内部電極とサイドマージン部で焼結挙動が異なり、積層部とサイドマージン部との間に相互に離間する方向の応力が発生する。このため、サイドマージン部の接合面でクラックや剥離が発生しやすく、耐湿性等の耐環境性の低下につながりやすい。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、耐環境性の高い積層セラミックコンデンサ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る積層セラミックコンデンサは、セラミック積層チップと、サイドマージン部と、接合部と、を具備する。
上記セラミック積層チップは、容量形成部と、カバー部と、を有する。
上記容量形成部は、第1方向に積層され、かつ上記第1方向と直交する第2方向の端部の位置が上記第2方向に0.5μmの範囲内に相互に揃っている、卑金属材料を主成分とした複数の内部電極を含む。
上記カバー部は、セラミックスを主成分とし、上記容量形成部の上記第1方向外側に配置される。
上記サイドマージン部は、セラミックスを主成分とし、上記第2方向から上記セラミック積層チップを覆う。
上記接合部は、上記カバー部における上記サイドマージン部との接合面に配置され、上記卑金属材料を含む酸化物で構成される。
【0007】
上記積層セラミックコンデンサの焼成中、卑金属材料で形成された内部電極は数百℃で焼結し始め、それに伴ってセラミック積層チップの中心部に向かって収縮する。一方、数百℃の段階では、サイドマージン部は未焼結の状態であり、収縮は起こらない。このため、内部電極を有するセラミック積層チップとサイドマージン部との間に相互に離間する方向の応力が発生する。
一方、接合部は、内部電極が焼結し始める数百℃で卑金属材料を含んだ酸化物として生成され始め、未焼成のセラミックスよりも高い強度を有する。セラミック積層チップとサイドマージン部との間の接合面に上記接合部を設けることで、応力が発生するこれらの接合面に強度の高い構成を配置することができ、応力に対して耐性を発揮することができる。
また、未焼結のセラミックス同士であるセラミック積層チップのセラミック部分とサイドマージン部との接合よりも、酸化物化した卑金属材料とセラミックスとの接合の方が接合強度が高い。このため、上記接合部により、セラミック積層チップとサイドマージン部との間の接合強度を高めることができ、応力が発生した場合にも接合面におけるクラックや剥離を防止することができる。
したがって、積層セラミックコンデンサに対するクラックや剥離からの水分等の進入を抑制し、積層セラミックコンデンサの耐環境性を高めることができる。
【0008】
上記接合部は、相互に離間して配置された複数の粒子を含んでいてもよい。
これにより、接合面に粒子を分散して配置させることができ、接合面内における接合強度分布を均一化することができる。これにより、接合面全体の接合強度を高め、クラックや剥離の原因となる局所的な空隙等の発生を防止することができる。
【0009】
上記接合部の上記接合面に対する面積占有率は、0.3%以上であってもよい。
これにより、接合部によるクラックや剥離の防止効果を十分に発揮させることができる。
【0010】
上記接合部の上記接合面に対する面積占有率は、10%以下であってもよい。
これにより、接合面における絶縁性を確保することができる。
【0011】
例えば、上記卑金属材料はニッケルであってもよい。
また、上記酸化物はマグネシウムを含んでいてもよい。
【0012】
本発明の他の実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法は、第1方向に積層され卑金属材料を主成分とした複数の内部電極を含む未焼成の容量形成部と、セラミックスを主成分とし上記容量形成部の上記第1方向外側に配置された未焼成のカバー部と、を有し、上記第1方向に直交する第2方向に向いた側面から上記複数の内部電極が露出する、未焼成のセラミック積層チップを作製する工程を含む。
上記側面のうち上記カバー部が占める領域に、卑金属粒子が付着される。
上記セラミック積層チップの上記側面にサイドマージン部を設けることにより、セラミック素体が作製される。
上記セラミック素体が焼成され、かつ上記卑金属粒子が酸化されることで、上記カバー部と上記サイドマージン部との接合面に、上記卑金属材料を含む酸化物で構成された接合部が形成される。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、耐環境性の高い積層セラミックコンデンサ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの斜視図である。
【
図2】上記積層セラミックコンデンサの
図1のA-A'線に沿った断面図である。
【
図3】上記積層セラミックコンデンサの
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【
図4】上記積層セラミックコンデンサの
図3の領域Sを拡大して示す断面図である。
【
図5】上記積層セラミックコンデンサのカバー部におけるサイドマージン部との接合面を拡大して示す部分断面図である。
【
図6】上記積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【
図8】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【
図9】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図面には、適宜相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は全図において共通である。
【0016】
[積層セラミックコンデンサ10の基本構成]
図1~3は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。
図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。
図2は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のA-A'線に沿った断面図である。
図3は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0017】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14と、第2外部電極15と、を具備する。セラミック素体11は、典型的には、X軸方向を向いた2つの端面と、Y軸方向を向いた2つの側面と、Z軸方向を向いた2つの主面と、を有する。セラミック素体11の各面を接続する稜部は面取りされている。
【0018】
なお、セラミック素体11の形状は、上記のものに限定されない。つまり、セラミック素体11は、
図1~3に示すような直方体形状でなくてもよい。例えば、セラミック素体11の各面は曲面であってもよく、セラミック素体11は全体として丸みを帯びた形状であってもよい。
【0019】
外部電極14,15は、セラミック素体11のX軸方向両端面を覆い、X軸方向両端面に接続する4つの面(2つの主面及び2つの側面)に延出している。これにより、外部電極14,15のいずれにおいても、X-Z平面に平行な断面及びX-Y平面に平行な断面の形状がU字状となっている。
【0020】
セラミック素体11は、セラミック積層チップ(積層チップ)16と、サイドマージン部17と、を有する。サイドマージン部17は、積層チップ16のY軸方向を向いた両側面の全領域をそれぞれ覆っている。
【0021】
積層チップ16は、容量形成部19と、カバー部20と、を有する。カバー部20は、容量形成部19のZ軸方向上下面をそれぞれ覆っている。容量形成部19は、複数のセラミック層21と、複数の第1内部電極12と、複数の第2内部電極13と、を有する。カバー部20には、内部電極12,13が設けられていない。
【0022】
内部電極12,13は、Z軸方向に積層された複数のセラミック層21の間に、Z軸方向に沿って交互に配置されている。第1内部電極12は、第1外部電極14に接続され、第2外部電極15から離間している。第2内部電極13は、第2外部電極15に接続され、第1外部電極14から離間している。
【0023】
内部電極12,13は、卑金属を主成分として構成され、積層セラミックコンデンサ10の内部電極として機能する。内部電極12,13を構成する卑金属としては、典型的にはニッケル(Ni)が挙げられ、それ以外に、銅(Cu)等が挙げられる。
【0024】
このように、セラミック素体11では、容量形成部19における外部電極14,15が設けられたX軸方向両端面以外の面がサイドマージン部17及びカバー部20によって覆われている。サイドマージン部17及びカバー部20は、主に、容量形成部19の周囲を保護し、内部電極12,13の絶縁性を確保する機能を有する。
【0025】
容量形成部19における内部電極12,13間のセラミック層21は、誘電体セラミックスによって形成されている。積層セラミックコンデンサ10では、容量形成部19における容量を大きくするために、セラミック層21を構成する誘電体セラミックスとして高誘電率のものが用いられる。
【0026】
より具体的に、積層セラミックコンデンサ10では、セラミック層21を構成する高誘電率の誘電体セラミックスとして、チタン酸バリウム(BaTiO3)系材料の多結晶体、つまりバリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト構造の多結晶体を用いる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では大容量が得られる。
【0027】
なお、セラミック層21は、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)系、チタン酸カルシウム(CaTiO3)系、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)系、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)系、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Zr,Ti)O3)系、ジルコン酸バリウム(BaZrO3)系、酸化チタン(TiO2)系などで構成してもよい。
【0028】
サイドマージン部17及びカバー部20も、誘電体セラミックスによって形成されている。サイドマージン部17及びカバー部20を形成する材料は、絶縁性セラミックスであればよいが、セラミック層21と同様の誘電体セラミックスを用いることによりセラミック素体11における内部応力が抑制される。
【0029】
上記の構成により、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間に電圧が印加されると、第1内部電極12と第2内部電極13との間の複数のセラミック層21に電圧が加わる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間の電圧に応じた電荷が蓄えられる。
【0030】
なお、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10の基本構成は、
図1~3に示す構成に限定されず、適宜変更可能である。例えば、内部電極12,13の枚数やセラミック層21の厚さは、積層セラミックコンデンサ10に求められるサイズや性能に応じて、適宜決定可能である。
【0031】
[積層セラミックコンデンサ10の詳細構成]
積層セラミックコンデンサ10のセラミック素体11は、例えば未焼成の積層チップ16のY軸方向側面に未焼成のサイドマージン部17が接合され、焼成されることで製造される。焼成工程において、内部電極12,13を構成する金属材料と誘電体セラミックスとの焼結温度が異なることから、積層チップ16とサイドマージン部17との間の境界部分である上記側面において応力が集中し、クラックや剥離等の発生が懸念される。クラックや剥離が発生した場合、水分等が容量形成部19へ侵入しやすくなり、積層セラミックコンデンサ10の耐環境性が低下する。したがって、積層チップ16とサイドマージン部17との間の接合強度の確保が非常に重要になる。
【0032】
そこで、積層セラミックコンデンサ10は、積層チップ16とサイドマージン部17との間の接合強度を確保するため、接合部22を備えることを特徴とする。以下、
図4及び
図5を用いて接合部22の構成について説明する。
【0033】
図4は、積層セラミックコンデンサ10の
図3の領域Sを拡大して示す図であり、カバー部20におけるサイドマージン部17との接合面20b付近を示す図である。
図5は、接合面20bの一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【0034】
図4及び
図5に示すように、接合部22は、カバー部20におけるサイドマージン部17との接合面20bに配置される。接合面20bは、積層チップ16のY軸方向に向いた側面のうち、カバー部20が占める領域である。
【0035】
接合部22は、内部電極12,13の主成分であるニッケル等の卑金属材料の酸化物により構成され、絶縁性を有する。これにより、接合部22によるショートの発生を抑制することができる。また接合部22は、ニッケルに加えてマグネシウム(Mg)を含んでいてもよく、マグネシウムを含むニッケル複合酸化物で構成されてもよい。
【0036】
接合面20bに卑金属の酸化物からなる接合部22を設けることで、焼成時に応力が発生しやすい接合面20bに強度の高い構成を配置でき、応力に対する耐性を高めることができる。また、接合部22がサイドマージン部17と高い接合性を有するため、接合面20bとサイドマージン部17との接合強度を高めることができる。
【0037】
接合部22は、本実施形態において、相互に離間して配置された複数の粒子22aを含む。本実施形態の粒子22aは、例えば接合面20bにランダムに分散して配置される。接合部22が複数の粒子22aを含むことで、接合面20b全体に粒子22aを分散させることができる。これにより、接合面20bの接合強度を全体的に高めることができ、クラックや剥離を効果的に防止できる。したがって、クラックや剥離に起因する水分等の進入を抑制し、積層セラミックコンデンサ10の耐環境性を高めることができる。
【0038】
各粒子22aの形状は、球状でも非球状でもよく、棒状、直方体状等でもよい。また各粒子22aは、複数の微粒子が数個程度凝集して構成されてもよい。粒径も特に限定されず、例えば0.1μm~2.0μm程度である。ここでいう各粒子22aの粒径は、接合面20bにおいて観察される粒子22aの最も長い部分の寸法をいうものとする。
【0039】
接合部22の接合面20bに対する面積占有率は、0.3%以上であってもよい。これにより、接合面20bとサイドマージン部17との接合強度を十分高めることができる。
接合部22の接合面20bに対する面積占有率は、10%以下であってもよい。これにより、接合面20bにおける絶縁性をより確実にすることができる。
【0040】
接合部22の接合面20bに対する面積占有率は、以下のように算出できる。
まず、測定対象の積層セラミックコンデンサ10を機械研磨して、接合面20bと、接合面20bが形成されていない、Y軸方向に略2等分した位置におけるY軸方向に垂直な断面(例えば
図2に示す断面)と、を露出させる。後者のカバー部20の断面を、対照面と称する。走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて、接合面20b及び対照面における、Z軸方向に20μm、X軸方向に100μmのサイズの矩形の視野を観察する。
そして、エネルギー分散型X線分光器(EDS:Energy Dispersive x-ray Spectrometry)を用いて、上記視野において卑金属の酸化物が検出された領域の面積をそれぞれ算出する。
接合面20bにおいて算出された面積から、対照面において算出された面積を減じた結果を、接合面20bの上記視野における卑金属の酸化物の面積として算出する。そして、上記視野の面積(2000μm
2)に対する、算出された卑金属の酸化物の面積の割合を、上記積層セラミックコンデンサ10における接合部22の接合面20bに対する面積占有率として算出する。
【0041】
このように、本実施形態においては、容量形成部19の外側に位置する接合面20bに接合部22が形成されることで、接合面20bとサイドマージン部17との間のクラックや剥離を防止し、容量形成部19内への水分等の進入を効果的に抑制できる。これにより、積層セラミックコンデンサ10の耐環境性を高めることができる。
【0042】
[積層セラミックコンデンサ10の製造方法]
図6は、積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。
図7~9は、積層セラミックコンデンサ10の製造過程を示す図である。以下、積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、
図6に沿って、
図7~9を適宜参照しながら説明する。
【0043】
(ステップS01:セラミック積層チップ116の作製)
ステップS01では、容量形成部19を形成するための第1セラミックシート101及び第2セラミックシート102と、カバー部20を形成するための第3セラミックシート103と、を積層し、切断することで、未焼成のセラミック積層チップ(積層チップ)116を作製する。
【0044】
図7に示すセラミックシート101,102,103は、誘電体セラミックスを主成分とする未焼成の誘電体グリーンシートとして構成される。セラミックシート101には、第1内部電極12に対応する未焼成の第1内部電極112が形成される。セラミックシート102には、第2内部電極13に対応する未焼成の第2内部電極113が形成される。セラミックシート103には、内部電極が形成されていない。
【0045】
各内部電極112,113は、X軸方向に平行な切断線Lxを横切り、かつY軸方向に平行な切断線Lyに沿って延びる複数の帯状の電極パターンを有する。これらの内部電極112,113は、印刷法等により、導電性ペーストをセラミックシート101,102に塗布することで形成される。
【0046】
セラミックシート101,102は、
図7に示すように、Z軸方向に交互に積層される。セラミックシート101,102の積層体は、容量形成部19に対応する。セラミックシート103は、セラミックシート101,102の積層体のZ軸方向上下面に積層される。セラミックシート103の積層体は、カバー部20に対応する。
なお、セラミックシート101,102,103の積層枚数等は、適宜調整可能である。
【0047】
続いて、セラミックシート101,102,103の積層体をZ軸方向から圧着し、切断線Lx,Lyに沿って切断する。これにより、
図8に示す積層チップ116が作製される。
【0048】
積層チップ116は、未焼成の内部電極112,113が形成された未焼成の容量形成部119と、未焼成のカバー部120と、を有する。積層チップ116には、切断線Lxに対応する切断面である側面116bと、切断線Lyに対応する切断面である端面116aと、が形成される。側面116bからは、未焼成の内部電極112,113の端部が露出している。
【0049】
(ステップS02:卑金属粒子の付着)
ステップS02では、側面116bのうちカバー部120の占める領域120bに、卑金属粒子を付着させる。
【0050】
卑金属粒子を付着させる方法は、特に限定されない。例えば、側面116bの領域120bに対し卑金属を非常に薄く蒸着することで、領域120bに卑金属粒子を付着させることができる。あるいは、有機溶媒に卑金属粒子を低濃度で分散させた塗料を領域120bに薄く塗布することで、卑金属粒子を付着させてもよい。なお、これらの蒸着又は塗布工程においては、側面116bのうち容量形成部119の占める領域にマスクを配置して行うことで、側面116bの領域120bに対して選択的に卑金属粒子を分布させることができる。
【0051】
卑金属粒子の領域120bに対する面積占有率は、例えば0.3%以上10%以下とすることができる。これにより、焼成後の接合部22の接合面20bに対する面積占有率を、0.3%以上10%以下とすることができる。
【0052】
(ステップS03:サイドマージン部形成)
ステップS03では、ステップS02で得られた、卑金属粒子が付着した積層チップ116の側面116bに未焼成のサイドマージン部117を設けることにより、
図9に示す未焼成のセラミック素体111を作製する。サイドマージン部117は、セラミックシートやセラミックスラリーから形成される。
【0053】
サイドマージン部117は、例えば、セラミックシートを積層チップ116の側面116bに貼り付けることにより形成することができる。また、サイドマージン部117は、積層チップ116の側面116bを、例えば塗布やディップなどによってセラミックスラリーでコーティングすることにより形成することもできる。
【0054】
(ステップS04:焼成)
ステップS04では、ステップS03で得られた未焼成のセラミック素体111を焼結させることにより、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10のセラミック素体11を作製する。つまり、ステップS04により、積層チップ116が積層チップ16になり、サイドマージン部117がサイドマージン部17になる。
【0055】
ステップS04における焼成温度は、セラミック素体111の焼結温度に基づいて決定可能である。例えば、誘電体セラミックスとしてチタン酸バリウム系材料を用いる場合には、焼成温度を1000~1300℃程度とすることができる。また、焼成は、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において行うことができる。
【0056】
焼成時には、積層チップ116とサイドマージン部117とで焼結挙動が異なり、サイドマージン部117から積層チップ116の側面116bに応力が加わる。より詳細には、まず卑金属材料で構成された内部電極112,113が数百℃で焼結し始める。この焼結に伴い、内部電極112,113はY軸方向の中央部に向かって収縮する。一方、焼結温度の高いセラミックで構成されたサイドマージン部117、カバー部120及びセラミック層121は、数百℃では未焼結の状態であり、収縮しない。これにより、積層チップ116の側面116bとサイドマージン部117との間には、Y軸方向に相互に離間する方向の応力が発生する。
【0057】
本実施形態の焼成工程では、セラミック素体111の外部からカバー部120に酸素が供給される。これにより、側面116bのうちカバー部120の占める領域120bに付着した卑金属粒子が酸化し、卑金属粒子の酸化物からなる接合部22が形成される。当該酸化物は、内部電極が焼結し始める数百℃で生成され始める。
【0058】
酸化物で構成された接合部22は、数百℃の状態において、未焼結のセラミック層121及びサイドマージン部117よりも高い強度を有し、応力に対して高い耐性を有する。このため、接合部22により、接合面20bにおけるクラックや剥離の発生を防止することができる。
【0059】
また、焼成時の数百℃の状態では、未焼結のセラミック材料同士の接合強度よりも、酸化物化した卑金属材料と未焼結のセラミック材料との接合強度の方が高い。このため、接合部22が、応力の生じる焼結中にサイドマージン部117とカバー部120とを接合する機能を果たし、クラックや剥離の起点となる空隙の形成を防止することができる。
【0060】
さらに、接合部22が粒子22aとして分散して配置されるため、接合面20b全体の接合強度の分布を均一化することができ、局所的な空隙の形成等を防止することができる。また、接合部22の接合面20bに対する面積占有率を例えば0.3%以上とすることで、クラックや剥離の防止効果が得られる十分な密度で接合部22を形成することができる。
【0061】
(ステップS05:外部電極形成)
ステップS05では、ステップS04で得られたセラミック素体11に外部電極14,15を形成することにより、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10を作製する。ステップS05では、例えば、セラミック素体11のX軸方向端面に、外部電極14,15を構成する下地膜、中間膜、及び表面膜を形成する。
【0062】
より詳細に、ステップS05では、まず、セラミック素体11のX軸方向両端面を覆うように未焼成の電極材料を塗布する。塗布された未焼成の電極材料を、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において焼き付けを行うことにより、セラミック素体11に外部電極14,15の下地膜が形成される。
【0063】
そして、セラミック素体11に焼き付けられた外部電極14,15の下地膜の上に、外部電極14,15の中間膜が形成され、さらに外部電極14,15の表面膜が形成される。外部電極14,15の中間膜及び下地膜の形成には、例えば、電解メッキなどのメッキ処理を用いることができる。
【0064】
なお、上記のステップS05における処理の一部を、ステップS04の前に行ってもよい。例えば、ステップS04の前に未焼成のセラミック素体111のX軸方向両端面に未焼成の電極材料を塗布してもよい。これにより、ステップS04において、未焼成のセラミック素体111の焼成と電極材料の焼き付けとを同時に行うことができる。
【0065】
[実施例及び比較例]
本実施形態の実施例及び比較例として、上記の製造方法に基づいて積層セラミックコンデンサ10のサンプルを作製した。このサンプルでは、X軸方向の寸法を1mmとし、Y軸方向及びZ軸方向の寸法を0.5mmとした。
【0066】
実施例のサンプルでは、ステップS02の卑金属粒子の付着工程を行い、積層チップの側面のうちカバー部の占める領域(接合面)に、複数の粒子を含む接合部を形成した。接合面に対する接合部の面積占有率は、0.3%以上であった。
【0067】
一方、比較例のサンプルでは、ステップS02を行わず、接合部を形成しなかった。
【0068】
各サンプルについて、焼成後における耐湿不良率を評価した。具体的には、試験温度85℃、相対湿度85%の環境下で、5Vの定格電圧を100時間印加した状態で耐湿負荷試験を行った。試験後の抵抗値を測定し、抵抗値が1MΩ未満のものを耐湿不良のサンプルと判定した。各サンプル1000個における耐湿不良と判定されたサンプルの割合を、耐湿不良率として算出した。
【0069】
この結果、接合部を形成しなかった比較例のサンプルでは、耐湿不良率が0.1%であった。これにより、比較例のサンプルでは、サイドマージン部とセラミック積層チップとの間にクラックや剥離等が生じており、耐環境性が十分でない不良品が存在することが確認された。
【0070】
一方で、接合部を形成した実施例のサンプルでは、耐湿不良率が0%であった。これにより、実施例のサンプルでは、サイドマージン部とセラミック積層チップとの間にクラックや剥離等が生じておらず、耐環境性も十分であることが確認された。したがって、接合部により、積層チップとサイドマージン部との間の接合強度を高め、耐環境性を高められることが確認された。
【0071】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0072】
以上の構成に加えて、内部電極12,13のY軸方向端部に金属酸化物が形成されていてもよい。これにより、容量形成部19とサイドマージン部17との間の接合も強化することができ、積層チップ16のY軸方向側面全体における接合強度を高めることができる。
【0073】
以上の製造方法において、未焼成のカバー部120、未焼成のサイドマージン部117等がマグネシウムを含んでいてもよい。この場合、焼成時にマグネシウムがカバー部120の接合面に供給される。これにより、付着しているニッケル等の卑金属粒子がマグネシウム及び酸素を取り込むことで、マグネシウムを含む酸化物からなる接合部22が形成される。したがって、接合部22が十分に酸化され絶縁性の高い構成となる。
【符号の説明】
【0074】
10…積層セラミックコンデンサ
11…セラミック素体
12,13…内部電極
14,15…外部電極
16…積層チップ(セラミック積層チップ)
17…サイドマージン部
19…容量形成部
20…カバー部
20b…接合面
21…セラミック層
22…接合部
22a・・・粒子