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特許7183064モールド振動装置、連続鋳造鋳片の製造方法及びモールド振動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】モールド振動装置、連続鋳造鋳片の製造方法及びモールド振動方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/16 20060101AFI20221128BHJP
【FI】
B22D11/16 105
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019019750
(22)【出願日】2019-02-06
(65)【公開番号】P2020124737
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】田丸 浩二
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 大輔
(72)【発明者】
【氏名】萩原 俊太
(72)【発明者】
【氏名】山本 昇一
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-211256(JP,A)
【文献】特開平04-172161(JP,A)
【文献】特開平02-268947(JP,A)
【文献】特開昭64-053746(JP,A)
【文献】特開平07-116801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注湯された溶融金属を冷却して鋼片を連続的に鋳造するように構成されたモールドに対して、所定の非正弦波状の目標波形に応じた振動を生じさせるように構成された振動発生機と、
前記モールドの振動に伴い前記振動発生機に生ずる変形に基づいて、前記目標波形を構成する複数の正弦波成分をそれぞれ補正することにより、複数の補正波形を生成するように構成された補正部と、
前記複数の補正波形を合成して一つの合成波形を生成し、前記合成波形の信号を前記振動発生機に出力するように構成された合成部とを備え
前記補正部は、前記変形に起因して前記複数の補正波形のそれぞれの振幅及び位相が変化した後の各波形が、対応する前記複数の正弦波成分と略一致するように、前記複数の補正波形を生成するように構成されている、モールド振動装置。
【請求項2】
前記振幅及び位相は前記振動発生機の共振角周波数及び減衰定数に基づいて算出される、請求項に記載の装置。
【請求項3】
前記複数の正弦波成分は2つ又は3つの正弦波成分を含む、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記複数の正弦波成分はそれぞれ、基本角周波数の整数倍で且つ互いに異なる倍数の角周波数を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記振動発生機は、
直動運動可能な駆動部と、
回転支点によって支持され、且つ、前記駆動部と前記モールドとが互いに異なる箇所に接続されたアームとを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
モールドに対して所定の非正弦波状の目標波形に応じた振動を振動発生機により生じさせる際に、前記モールドの振動に伴い前記振動発生機に生ずる変形に基づいて、前記目標波形を構成する複数の正弦波成分をそれぞれ補正し、複数の補正波形を生成することと、
前記複数の補正波形を合成して一つの合成波形を生成することと、
前記合成波形の信号を前記振動発生機に出力して前記モールドを振動させつつ、前記モールドに溶融金属を注湯して、鋼片を連続的に鋳造することとを含み、
前記複数の補正波形を生成することは、前記変形に起因して前記複数の補正波形のそれぞれの振幅及び位相が変化した後の各波形が、対応する前記複数の正弦波成分と略一致するように、前記複数の補正波形を生成することを含む、連続鋳造鋳片の製造方法。
【請求項7】
注湯された溶融金属を冷却して鋼片を連続的に鋳造するように構成されたモールドに対して、所定の非正弦波状の目標波形に応じた振動を振動発生機により生じさせる際に、前記モールドの振動に伴い前記振動発生機に生ずる変形に基づいて、前記目標波形を構成する複数の正弦波成分をそれぞれ補正し、複数の補正波形を生成することと、
前記複数の補正波形を合成して一つの合成波形を生成することと、
前記合成波形の信号を前記振動発生機に出力して前記モールドを振動させることとを含み、
前記複数の補正波形を生成することは、前記変形に起因して前記複数の補正波形のそれぞれの振幅及び位相が変化した後の各波形が、対応する前記複数の正弦波成分と略一致するように、前記複数の補正波形を生成することを含む、モールド振動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モールド振動装置、連続鋳造鋳片の製造方法及びモールド振動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、溶融金属をモールドに注湯して連続的に鋳片を鋳造する連続鋳造設備を開示している。連続鋳造に際して、モールド内の溶湯に潤滑剤(例えば、モールドパウダー)を添加し、さらにモールドを上下(鋳造方向)に振動させる技術が知られている。モールドが振動することにより、モールドと溶湯との間に潤滑剤が流入しやすくなり、モールドと鋳片との間での焼き付きを抑制することができる。また、非正弦波形に応じた振動(例えば、下降速度が上昇速度よりも速い振動)をモールドに生じさせることにより、モールドからの鋳片の引き抜き安定性を高める技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-211256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非正弦波は多数の高調波成分を含んで構成されていることがある。この高調波成分とモールドを振動させる振動機構とが共振してしまうと、モールドが所望の動作を行うことができなくなってしまう。そこで、特許文献1は、当該振動機構の固有振動数の影響を排除するために、モールド及びアクチュエータの状態推定量に基づくフィードバック制御を行っている。状態推定量を観測するためには、状態観測器(オブザーバ)を構築して、複雑な行列演算処理をする必要がある。このような処理が可能なコントローラは、一般に高価である。
【0005】
そこで、本開示は、鋳片の安定的な連続鋳造を極めて簡易な手法で実現することが可能なモールド振動装置、連続鋳造鋳片の製造方法及びモールド振動方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
例1.本開示の一つの観点に係るモールド振動装置は、注湯された溶融金属を冷却して鋼片を連続的に鋳造するように構成されたモールドに対して、所定の非正弦波状の目標波形に応じた振動を生じさせるように構成された振動発生機と、モールドの振動に伴い振動発生機に生ずる変形に基づいて、目標波形を構成する複数の正弦波成分をそれぞれ補正することにより、複数の補正波形を生成するように構成された補正部と、複数の補正波形を合成して一つの合成波形を生成し、合成波形の信号を前記振動発生機に出力するように構成された合成部とを備える。この場合、補正部によって、振動発生機に生ずる変形が予め折り込まれた複数の補正波形が得られる。そのため、当該複数の補正波形が合成された合成波形が振動発生機を介してモールドに出力されると、振動発生機による変形の影響を受けて当該合成波形が変化し、この変化後の波形がモールドに作用する。従って、状態推定量を利用することなく、モールドに理想的な振動を生じさせることができる。その結果、鋳片の安定的な連続鋳造を極めて簡易な手法で実現することが可能となる。
【0007】
例2.例1の装置において、補正部は、変形に起因して複数の補正波形のそれぞれの振幅及び位相が変化した後の各波形が、対応する複数の正弦波成分と略一致するように、複数の補正波形を生成するように構成されていてもよい。この場合、当該複数の補正波形が合成された合成波形が振動発生機を介してモールドに出力されると、振動発生機による変形の影響を受けて当該合成波形が目標波形と同等の波形に変化し、この変化後の波形がモールドに作用する。そのため、より精度よくモールドを振動させることが可能となる。
【0008】
例3.例2の装置において、振幅及び位相は振動発生機の共振角周波数及び減衰定数に基づいて算出されてもよい。この場合、実験等で比較的容易に共振角周波数及び減衰定数を得ることができる。そのため、より簡易且つ高速に補正部による演算処理を行うことが可能となる。
【0009】
例4.例1~例3のいずれかの装置において、複数の正弦波成分は2つ又は3つの正弦波成分を含んでいてもよい。この場合、補正部による補正の演算処理の対象となる成分が少なくて済む。そのため、より簡易且つ高速に補正部による演算処理を行うことが可能となる。
【0010】
例5.例1~例4のいずれかの装置において、複数の正弦波成分はそれぞれ、基本角周波数の整数倍で且つ互いに異なる倍数の角周波数を含んでいてもよい。
【0011】
例6.例1~例5のいずれかの装置において、振動発生機は、直動運動可能な駆動部と、回転支点によって支持され、且つ、駆動部とモールドとが互いに異なる箇所に接続されたアームとを含んでいてもよい。
【0012】
例7.本開示の他の観点に係る連続鋳造鋳片の製造方法は、モールドに対して所定の非正弦波状の目標波形に応じた振動を振動発生機により生じさせる際に、モールドの振動に伴い振動発生機に生ずる変形に基づいて、目標波形を構成する複数の正弦波成分をそれぞれ補正し、複数の補正波形を生成することと、複数の補正波形を合成して一つの合成波形を生成することと、合成波形の信号を振動発生機に出力してモールドを振動させつつ、モールドに溶融金属を注湯して、鋼片を連続的に鋳造することとを含む。この場合、例1と同様の効果が得られる。
【0013】
例8.本開示の他の観点に係るモールド振動方法は、注湯された溶融金属を冷却して鋼片を連続的に鋳造するように構成されたモールドに対して、所定の非正弦波状の目標波形に応じた振動を振動発生機により生じさせる際に、モールドの振動に伴い振動発生機に生ずる変形に基づいて、目標波形を構成する複数の正弦波成分をそれぞれ補正し、複数の補正波形を生成することと、複数の補正波形を合成して一つの合成波形を生成することと、合成波形の信号を振動発生機に出力してモールドを振動させることとを含む。この場合、例1と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係るモールド振動装置、連続鋳造鋳片の製造方法及びモールド振動方法によれば、鋳片の安定的な連続鋳造を極めて簡易な手法で実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、連続鋳造設備の一例を概略的に示す側面図である。
図2図2は、モールド振動装置の一例を示す側面図である。
図3図3は、コントローラのハードウェア構成を中心に示す概略図である。
図4図4は、モールド振動装置の一例を示すブロック図である。
図5図5は、目標波形、複数の正弦波成分及び複数の補正波形の例をそれぞれ示す図である。
図6図6は、合成波形、複数の歪み波形、振動波形の例をそれぞれ示す図である。
図7図7は、振動発生機110及びモールド14のモデルの一例を示す図である。
図8図8(a)は、駆動アーム全体が剛体である場合のモールドの変位の例を示す図であり、図8(b)及び図8(c)はそれぞれ、駆動アームが部分的に剛体である場合のモールドの変位の例を示す図であり、図8(d)は、駆動アームが剛体でない場合のモールドの変位の例を示す図である。
図9図9(a)は、実施例に係るピストンロッドの位置指令とその位置実績とを示すグラフであり、図9(b)は、実施例に係るモールドの位置指令とその位置実績とを示すグラフである。
図10図10(a)は、比較例に係るピストンロッドの位置指令とその位置実績とを示すグラフであり、図10(b)は、比較例に係るモールドの位置指令とその位置実績とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0017】
[連続鋳造設備の構成]
まず、連続鋳造設備1の構成について説明する。連続鋳造設備1は、図1に示されるように、取鍋10と、タンディッシュ12と、モールド14と、複数の鋳片支持ロール16と、モールド振動装置100とを備える。
【0018】
取鍋10は、溶融金属(溶湯;溶鋼)Mを貯留する容器である。タンディッシュ12は、取鍋10の下方に配置されている。タンディッシュ12は、取鍋10の底壁に設けられたノズルの吐出口から流出した溶融金属Mを貯留するように構成されている。
【0019】
モールド14は、タンディッシュ12の下方に配置されている。モールド14は、タンディッシュ12の底壁に設けられたノズルから注湯された溶融金属Mを冷却しながら所定形状に成形するように構成されている。複数の鋳片支持ロール16は、モールド14の下方に配置されている。複数の鋳片支持ロール16は、モールド14から引き抜かれた鋳片Sをさらに冷却しつつ下流側に搬送するように構成されている。
【0020】
モールド14によって成形された直後の鋳片Sは、表面部が凝固した凝固シェルS1と、凝固シェルS1の内部に充填された未凝固部S2とを含む。未凝固部S2は、未凝固状態の溶湯であり、流動性を有している。鋳片Sが下流側に向かうにつれて冷却され、未凝固部S2が徐々に凝固していき、凝固シェルS1が成長する。すなわち、凝固シェルS1の成長に伴って、未凝固部S2が縮小し、凝固シェルS1の厚みが増加する。鋳片Sが鋳片圧下装置(図示せず)に至る前までに、鋳片Sは完全に凝固する。
【0021】
モールド振動装置100は、モールド14に対して所定の目標波形に応じた振動を生じさせるように構成されている。モールド振動装置100は、図2に示されるように、振動発生機110と、センサ120と、サーボ弁130と、コントローラ140(制御部)とを含む。
【0022】
振動発生機110は、駆動部111と、リンク機構112とを含む。駆動部111は、本体113と、ピストンロッド114とを含む。本体113は、回転支点P1を介して床に取り付けられており、回転支点P1周りに揺動可能である。ピストンロッド114は、本体113に対してスライド可能に取り付けられている。駆動部111は、例えば、油圧シリンダであってもよいし、ボールスクリューとサーボモータとを組み合わせた電動シリンダであってもよいし、リニアモータであってもよい。
【0023】
リンク機構112は、架台115と、駆動アーム116(アーム)と、補助アーム117とを含む。架台115は、床に対して固定されている。駆動アーム116は、その中央近傍において、回転支点P2を介して架台115の下部に取り付けられている。そのため、駆動アーム116は、回転支点P2周りに揺動可能である。駆動アーム116の一端は、回転支点P3を介してピストンロッド114の先端に取り付けられている。駆動アーム116の他端は、回転支点P4を介してモールド14の下部に接続されている。補助アーム117の一端は、回転支点P5を介して架台115の上部に取り付けられている。補助アーム117の他端は、回転支点P6を介してモールド14の上部に取り付けられている。
【0024】
駆動部111とモールド14とがリンク機構112を介して接続されているので、ピストンロッド114が外方に向けて進出すると、駆動アーム116が回転支点P2を中心として時計回りに揺動し、モールド14が下方に移動する。一方、ピストンロッド114が本体113に向けて退行すると、駆動アーム116が回転支点P2を中心として反時計回りに揺動し、モールド14が上方に移動する。したがって、ピストンロッド114が進退を繰り返すことにより、モールド14が上下に振動する。
【0025】
センサ120は、本体113に対するピストンロッド114の位置を検出するように構成されている。センサ120は、例えば、ロッドセンサなどの直動型エンコーダであってもよい。センサ120は、駆動部111内に内蔵されていてもよい。センサ120によって検出されたデータは、コントローラ140に送信される。
【0026】
サーボ弁130は、コントローラ140からの制御信号に基づいて弁を開閉し、本体113に対する作動油の流動方向と流量とを制御するように構成されている。サーボ弁130によって作動油の流動方向が変化すると、ピストンロッド114の移動方向が変化する。サーボ弁130によって作動油の流量が変化すると、ピストンロッド114の移動速度が変化する。
【0027】
コントローラ140は、センサ120から受信したデータを処理して、サーボ弁130の動作を制御するように構成されている。
【0028】
コントローラ140のハードウェアは、例えば一つ又は複数の制御用のコンピュータにより構成される。コントローラ140は、ハードウェア上の構成として、例えば図3に示されるように、プロセッサCtr1(演算部)と、メモリCtr2(記憶部)と、入力ポートCtr3(入力部)と、出力ポートCtr4(出力部)とを有する。コントローラCtrは、電気回路要素(circuitry)で構成されていてもよい。
【0029】
プロセッサCtr1は、メモリCtr2と協働してプログラムを実行し、入力ポートCtr3及び出力ポートCtr4を介した信号の入出力を実行することで、後述する各機能モジュールを構成する。すなわち、プロセッサCtr1は、センサ120からの入力信号に基づいて、サーボ弁130を駆動するための出力信号を生成するように構成されている。メモリCtr2は、プログラム、入力信号、出力信号等を記憶するように構成されている。入力ポートCtr3は、センサ120からの入力信号をプロセッサCtr1に送信するように構成されている。出力ポートCtr4は、プロセッサCtr1で生成された出力信号をサーボ弁130に送信するように構成されている。
【0030】
コントローラ140は、図4に示されるように、機能モジュールとして、目標波形設定器141と、基本波生成器142と、補正器143(補正部)と、合成器144(合成部)と、比較器145と、増幅器146とを含む。なお、これらの機能モジュールは、プログラムによりソフトウェア上で実現されていてもよいし、電気回路要素(例えば論理回路)又はこれを集積した集積回路により実現されていてもよい。
【0031】
目標波形設定器141は、例えばオペレータからの入力に基づき、モールド14を振動させるための所定の目標波形W1の条件を設定するように構成されている。目標波形W1の条件は、基本波生成器142に出力される。目標波形W1は、非正弦波状であってもよい。目標波形W1は、図5(a)に示されるように、例えば、モールド14の下降速度が上昇速度よりも速くなるような振動をモールド14に対して生じさせるような波形であってもよい。目標波形W1が非正弦波の場合、目標波形W1の条件は、例えば、振幅と、非サイン率又は歪み係数とを含んでいてもよい。非サイン率とは、本明細書において、半周期での非正弦波の谷から山までの変動時間に対する、半周期での非正弦波の山から谷までの変動時間との割合をいうものとする。歪み係数とは、本明細書において、sinωtの振幅に対するcos2ωtの振幅の割合をいうものとする。
【0032】
基本波生成器142は、目標波形設定器141において設定された目標波形W1の条件に基づき、複数の正弦波成分W2,W2,・・・,W2(ただし、Nは2以上の整数)を生成するように構成されている。生成された複数の正弦波成分W2,W2,・・・,W2は、補正器143に出力される。このうち、任意の正弦波成分W2(ただし、nは1~Nの自然数)は、例えば、目標波形W1をフーリエ級数展開したときの第n項(n次高調波)と等しくなる。目標波形W1を構成する複数の正弦波成分の数は特に限定されないが、例えば、2個又は3個であってもよい。図5(b)に、目標波形W1を3つの正弦波成分W2,W2,W2に分解した例を示す。
【0033】
補正器143は、モールド14の振動に伴いリンク機構112に生ずる変形(例えば、駆動アーム116のたわみ)に基づいて、複数の正弦波成分W2,W2,・・・,W2をそれぞれ補正することにより、複数の補正波形W3,W3,・・・,W3を生成するように構成されている。生成された複数の補正波形W3,W3,・・・,W3は、合成器144に出力される。
【0034】
ところで、複数の補正波形W3,W3,・・・,W3の合成波形W4がリンク機構112に入力された場合、モールド14の振動に伴いリンク機構112に変形が生ずる。そのため、当該変形によって複数の補正波形W3,W3,・・・,W3がそれぞれ歪んだ複数の歪み波形W5,W5,・・・,W5が、振動発生機110からモールド14に出力される。そこで、補正器143は、複数の歪み波形W5,W5,・・・,W5がそれぞれ複数の正弦波成分W2,W2,・・・,W2と略一致するような複数の補正波形W3,W3,・・・,W3を生成するように構成されていてもよい。図5(c)に、振動発生機110の変形を考慮して3つの正弦波成分W2,W2,W2がそれぞれ補正された3つの補正波形W3,W3,W3の例を示す。なお、より詳しい補正の計算方法については、後述する。
【0035】
合成器144は、補正器143で生成された複数の補正波形W3,W3,・・・,W3を合成して一つの合成波形W4を生成するように構成されている。生成された合成波形W4は、比較器145に出力される。合成波形W4は、例えば、複数の補正波形W3,W3,・・・,W3をそれぞれ加算したものであってもよい(W4=W3+W3+・・・+W3)。図6(a)に、3つの補正波形W3,W3,W3が合成された合成波形W4の例を示す。
【0036】
比較器145は、合成波形W4の現時点での値(目標値)Xと、センサ120によって検出されたピストンロッド114の位置の現在値Yとの偏差Eを算出するように構成されている。すなわち、比較器145は、目標値Xから現在値Yを減算することで、偏差Eを算出する(E=X-Y)。算出された偏差Eは、増幅器146に出力される。
【0037】
増幅器146は、比較器145で算出された偏差Eに所定の比例ゲインKpを乗算して、出力値Qを算出するように構成されている(Q=Kp×E)。増幅器146で算出された出力値Qは、サーボ弁130に出力される。当該出力値Qに基づいて動作するサーボ弁130により駆動部111のピストンロッド114が進退(昇降)し、リンク機構112を介してモールド14が振動する。このとき、上述のように、合成波形W4を構成する複数の補正波形W3,W3,・・・,W3が歪んで、複数の歪み波形W5,W5,・・・,W5がモールド14に作用する。
【0038】
図6(b)に、3つの補正波形W3,W3,W3がリンク機構112を経て歪んだ後の3つの歪み波形W5,W5,W5の例を示す。3つの歪み波形W5,W5,W5はそれぞれ、3つの正弦波成分W2,W2,W2と略一致する。また、図6(c)に、3つの歪み波形W5,W5,W5の合成波がモールド14に作用したときのモールド14の振動波形W6の例を示す。この振動波形W6は、目標波形W1と略一致する。
【0039】
[補正の計算方法]
(1)振動発生機110及びモールド14のモデル化
歪み波形W5が正弦波成分W2と略一致するような補正波形W3を得るための計算方法について説明する。説明にあたって、振動発生機110及びモールド14を図7に示されるようにモデル化する。具体的には、パラメータL,L,A,A,mをそれぞれ以下のように定める。なお、駆動部111側(入力側)の一端と回転支点P2との間の駆動アーム116の部分を「駆動アーム116」といい、モールド14側(出力側)の他端と回転支点P2との間の駆動アーム116の部分を「駆動アーム116」というものとする。また、図7の上方向を正とする。
【0040】
:駆動アーム116の長さ[m]
:駆動アーム116の長さ[m]
:ピストンロッド114(駆動アーム116の一端)の振幅[m]
:モールド14(駆動アーム116の他端)の振幅[m]
:モールド14の質量
【0041】
(2)駆動アーム116の全体が剛体の場合
まず、駆動アーム116の全体が剛体であって変形しないと仮定する(図8(a)参照)。この場合、駆動部111によって駆動アーム116の一端に正弦波の振動が付与されると、当該一端の変位xは式1で表される。式1において、パラメータω,t,θは、
ω:角周波数[rad/sec]
t:時間[sec]
θ:変位xの初期位相[rad]
である。
【数1】

また、モールド14の変位をxとするとx:L=x:Lが成り立つので、変位xについて式2が得られる。なお、式2において、Aは変位xの振幅である。
【数2】

ここで、式2より、Aについて式3が成り立つ。
【数3】
【0042】
(3)駆動アーム116が剛体ではない場合
続いて、駆動アーム116が剛体であるが、駆動アーム116が剛体ではなく可撓性を有する(板バネである)と仮定する(図8(b)参照)。この場合、駆動アーム116の運動方程式は式4で表される。式4において、パラメータk,c,a,a21,v21,x21は、
:駆動アーム116のばね定数[N/m]
:駆動アーム116の減衰係数[N・sec/m]
:駆動部111の動作によってモールド14に生ずる加速度[m/sec
21:駆動アーム116のたわみによってモールド14に生ずる加速度[m/sec
21:駆動アーム116のたわみによってモールド14に生ずる速度[m/sec]
21:駆動アーム116のたわみによってモールド14に生ずる変位[m]
である。
【数4】

ここで、aは、式2を2階微分することにより得られる(式5参照)。
【数5】

式5を式4に代入すると、式6が得られる。
【数6】
【0043】
式6は強制振動の運動方程式の一形態であり、時間が十分に経過したとき(t→∞)、強制振動の運動方程式の一般解は特殊解と等しくなる。そのため、パラメータA21,φ,h,ωn1をそれぞれ
21:変位x21の振幅[m]
φ:変位x21の遅れ位相[rad]
:減衰定数(減衰比)
ωn1:共振角周波数[rad/sec]
とすると、式6の特殊解は式7で表され、振幅A21は式8で表され、遅れ位相φは式9で表される。ただし、θ21=θ-φと定義する。
【数7】

【数8】

【数9】

ただし、減衰定数hは測定によって得られる値であり、共振角周波数ωn1及びパラメータZはそれぞれ式10及び式11にて定義される。
【数10】

【数11】
【0044】
(4)駆動アーム116が剛体ではない場合
続いて、駆動アーム116が剛体であるが、駆動アーム116が剛体ではなく可撓性を有する(板バネである)と仮定する(図8(c)参照)。この場合、駆動アーム116の運動方程式は式12で表される。式12において、パラメータk,c,a,a22,v22,x22は、
:駆動アーム116のばね定数[N/m]
:駆動アーム116の減衰係数[N・sec/m]
:駆動部111の動作によってモールド14に生ずる加速度[m/sec
22:駆動アーム116のたわみによってモールド14に生ずる加速度[m/sec
22:駆動アーム116のたわみによってモールド14に生ずる速度[m/sec]
22:駆動アーム116のたわみによってモールド14に生ずる変位[m]
である。
【数12】

式5を式12に代入すると、式13が得られる。
【数13】
【0045】
式13は強制振動の運動方程式の一形態であり、時間が十分に経過したとき(t→∞)、強制振動の運動方程式の一般解は特殊解と等しくなる。そのため、パラメータA22,φ,h,ωn2をそれぞれ
22:変位x22の振幅[m]
φ:変位x22の遅れ位相[rad]
:減衰定数(減衰比)
ωn2:共振角周波数[rad/sec]
とすると、式13の特殊解は式14で表され、振幅A22は式15で表され、遅れ位相φは式16で表される。ただし、θ22=θ-φと定義する。
【数14】

【数15】

【数16】

ただし、減衰定数hは測定によって得られる値であり、共振角周波数ωn2及びパラメータZはそれぞれ式17及び式18にて定義される。
【数17】

【数18】
【0046】
(5)駆動アーム116,116が共に剛体ではない場合
続いて、駆動アーム116,116が共に剛体ではない場合(現実の駆動アーム116)について検討する(図8(d)参照)。すなわち、駆動アーム116の全体が板バネであると仮定する。このときのモールド14の現実の変位xは、式19に示されるように、駆動アーム116が撓まない場合のモールド14の変位xと、駆動アーム116が撓む場合のモールド14の変位x21と、駆動アーム116が撓む場合のモールド14の変位x22との重ね合わせによって表現できる。
【数19】
【0047】
変位xの振幅をAとし、変位xの初期位相をθとすると、変位xは式20で表される。
【数20】

式19に、式2、式7、式14及び式20を代入すると、式21が得られる。
【数21】

ここで、加法定理を用いて式21の右辺を展開すると、式22が得られる。
【数22】

ただし、式22において、パラメータa,bは以下の式23及び式24とおりである。
【数23】

【数24】
【0048】
式23及び式24より、A、sinθ、cosθはそれぞれ式25~式27にて表される。
【数25】

【数26】

【数27】
【0049】
式25に式3、式8、式9、式15及び式16を代入すると、式28が得られる。
【数28】

式28をAについて解くと、式29が得られる。
【数29】
【0050】
一方、モールド14側の初期位相θを基準(θ=0)とする場合、sinθ=0であるので、式27より式30が得られる。
【数30】

式30に式3、式8、式9、式15及び式16を代入して、θについて整理すると、式31が得られる。
【数31】
【0051】
ところで、式9、式11、式16及び式18において、ωはモールド14に生じさせたい理想的な振動の振動数であり、設定によって定まる。式29において、Aはモールド14に生じさせたい理想的な振動の振幅であり、設定によって定まる。したがって、式9、式11、式16、式18、式29及び式31によれば、A及びθに含まれる未知数は、ωn1,ωn2,h,hの4つである。以上より、これらの変数ωn1,ωn2,h,hと、モールド14に生じさせたい理想的な振動の振幅A及び振動数ωとを式29及び式31にそれぞれ代入することにより、モールド14に理想的な振動を生じさせるためのピストンロッド114の振幅A及び初期位相θを得ることができる。
【0052】
(6)未知数ωn1,ωn2,h,hの測定方法
未知数ωn1,ωn2は、例えば次のように測定されてもよい。まず、実際の振動発生機110及びモールド14を用意する。次に、振動発生機110及びモールド14が静止した状態において、コントローラ140からサーボ弁130にインパルス信号を出力する。すなわち、ピストンロッド114を、ごく短時間の間に、所定のストローク量で動作させる。次に、インパルス信号の入力によりモールド14に生じた変位を測定する。次に、モールド14の変位の実測値から、モールド14の減衰自由振動の周期を測定する。これにより、未知数ωn1,ωn2が得られる。一方、未知数h,hは、例えば、半値幅法、減衰率法、インピーダンス法等の種々の公知の方法によって測定されてもよい。
【0053】
[鋳片の製造方法]
続いて、鋳片Sの製造方法(モールド14の振動方法)について説明する。まず、予め、振動発生機110及びモールド14の実機の共振角周波数ω及び減衰定数hを測定する。次に、モールド14に生じさせたい理想的な振動のデータをオペレータがコントローラ140に入力する。目標波形設定器141は、当該入力に基づいて当該振動に対応する目標波形W1を生成し、基本波生成器142に目標波形W1を出力する。
【0054】
次に、基本波生成器142は、目標波形W1を複数の正弦波成分W2,W2,・・・,W2に分解する。これにより、任意の正弦波成分W2の振幅及び角周波数ωが得られる。基本波生成器142は、これらの正弦波成分W2,W2,・・・,W2を補正器143に出力する。なお、基本角周波数をωとするとき、角周波数ωは、式32に示されるように基本角周波数ωの整数倍であってもよい。基本角周波数ωの大きさは、振動発生機110及びモールド14の実機に応じて設定してもよい。例えば、ω/2πの値が6Hz以下に設定されてもよい。
【数32】
【0055】
次に、補正器143は、正弦波成分W2,W2,・・・,W2の各振幅及び各角周波数と、共振角周波数ω及び減衰定数hとから、正弦波成分W2,W2,・・・,W2のそれぞれを補正し、複数の補正波形W3,W3,・・・,W3を生成する。例えば、任意の補正波形W3の振幅及び初期位相θはそれぞれ、式29及び式31より算出することができる。そのため、任意の補正波形W3の変位は、式1に振幅及び初期位相θを代入することにより、式33にて得られる。補正器143は、生成した複数の補正波形W3,W3,・・・,W3を合成器144に出力する。
【数33】
【0056】
次に、合成器144は、複数の補正波形W3,W3,・・・,W3を合成して一つの合成波形W4を生成する。合成波形W4の変位xは、式33を用いて、式34にて表される。
【数34】
【0057】
合成器144によって生成された合成波形W4は、比較器145による比較処理と、増幅器146による増幅処理とを経て、サーボ弁130に出力される。これにより、サーボ弁130が駆動部111を動作させ、合成波形W4に応じた振動がリンク機構112に作用する。振動がリンク機構112を伝播する過程で、駆動アーム116の変形の影響により合成波形W4が歪み、目標波形W1に応じた振動がモールド14に生ずる。目標波形W1に応じた振動するモールド14に対して、タンディッシュ12から溶融金属Mが注湯されると、溶融金属Mは、モールド14によって冷却されつつ所定の形状に成形される。モールド14から引き抜かれた鋳片Sがさらに冷却されて完全に凝固すると、鋳片Sが完成する。
【0058】
[作用]
以上の例によれば、補正器143によって、振動発生機110に生ずる変形が予め折り込まれた複数の補正波形W3,W3,・・・,W3が得られる。そのため、これらの複数の補正波形W3,W3,・・・,W3が合成された合成波形W4が振動発生機110を介してモールド14に出力されると、振動発生機110による変形の影響を受けて合成波形W4が変化し、この変化後の波形(複数の歪み波形W5,W5,・・・,W5の合成波)がモールド14に作用する。従って、状態推定量を利用することなく、モールド14に理想的な振動を生じさせることができる。その結果、鋳片Sの安定的な連続鋳造を極めて簡易な手法で実現することが可能となる。また、この場合、補正器143による演算処理が極めて簡略化されるので、例えば市販のコントローラ等を用いて低コスト且つ高速に演算処理を行うことが可能となる。
【0059】
以上の例によれば、複数の補正波形W3,W3,・・・,W3の角周波数ωが固有振動数に近い値であっても、補正によって共振の影響が抑圧されるので、モールド14の異常振動を抑制することが可能となる。
【0060】
以上の例によれば、振幅A及び位相θは振動発生機110(駆動アーム116)の共振角周波数ωn1,ωn2及び減衰定数h,hに基づいて算出される。共振角周波数ωn1,ωn2及び減衰定数h,hは実験等で比較的容易に得ることができる。そのため、より簡易且つ高速に補正器143による演算処理を行うことが可能となる。
【0061】
なお、以上の例において、駆動アーム116,116が共に剛体ではない場合のモールド14の現実の変位xについて検討したが、他の要素に撓みや歪みが生ずる場合も考慮に入れて、変位Xを計算してもよい。当該他の要素としては、例えば、ピストンロッド114、架台115、補助アーム117等が挙げられる。
【0062】
[試験結果]
上記の例に係る振動発生機110及びモールド14を用いてモールド14を振動させた場合に、モールド14が目標波形W1に応じて振動することを確認するために、実機を用いて試験を行った(実施例)。具体的には、モールド14の位置指令の波形(図9(b)の破線参照)を目標波形W1として補正器143による補正を経て、モールド14を振動させ、モールド14の位置変化を測定した。その結果、合成波形W4に相当する波形(図9(a)の破線参照)に応じて振動したモールド14の位置実績の波形(図9(b)の実線参照)は、モールド14の位置指令の波形(図9(b)の破線参照)と略一致した。従って、モールド14が目標波形W1に応じて振動することが確認された。
【0063】
なお、本試験において、共振周波数ω/2πは18.5Hzであり、減衰定数hは0.087であった。また、基本波生成器142では、基本周波数を370cpm(サイクル毎分)として、それぞれ370cpm(≒6.17Hz),740cpm(≒12.33Hz),1110cpm(=18.5Hz)の周波数を有する3つの正弦波成分を目標波形W1から生成した。
【0064】
一方、補正器143による補正を経ずに、同様の試験を行った(比較例)。具体的には、モールド14の位置指令の波形(図10(b)の破線参照)を反転させた波形(図10(a)の破線参照)にてピストンロッド114を動作させることにより、モールド14の位置変化を測定した。その結果、モールド14の位置実績の波形(図10(b)の実線参照)は、大きく歪んでしまい、モールド14の位置指令の波形(図10(b)の破線参照)と一致しなかった。
【0065】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。例えば、補正器143は、振動発生機110(駆動アーム116)の変形に起因して複数の補正波形W3,W3,・・・,W3のそれぞれの振幅及び位相が変化した後の複数の歪み波形W5,W5,・・・,W5が、複数の正弦波成分W2,W2,・・・,W2と略一致するように、複数の補正波形W3,W3,・・・,W3を生成するように構成されていてもよい。この場合、複数の補正波形W3,W3,・・・,W3が合成された合成波形W4が振動発生機110を介してモールド14に出力されると、振動発生機110による変形の影響を受けて合成波形W4が目標波形W1と同等の波形W6に変化し、この変化後の波形W6がモールド14に作用する。そのため、より精度よくモールド14を振動させることが可能となる。
【0066】
基本波生成器142は、目標波形W1を2~5個の正弦波成分に分解するように構成されていてもよく、目標波形W1を2~3個の正弦波成分に分解するように構成されていてもよい。この場合、補正器143による補正の演算処理の対象となる成分が少なくて済む。そのため、より簡易且つ高速に補正器143による演算処理を行うことが可能となる。
【0067】
複数の正弦波成分W2,W2,・・・,W2がそれぞれ有する角周波数は、共振角周波数の2倍以下の値であってもよい。
【0068】
上記の例では、駆動部111がリンク機構112を介してモールド14に接続されており、ピストンロッド114の進退に応じて駆動アーム116が揺動することで、モールド14を上下に振動させていた。しかしながら、リンク機構112を介さずに、駆動部111がモールド14に直接的又は間接的に接続されていてもよい。この場合、ピストンロッド114の進退が直ちにモールド14の昇降となる。
【符号の説明】
【0069】
1…連続鋳造設備、14…モールド、100…モールド振動装置、110…振動発生機、111…駆動部、112…リンク機構、116…駆動アーム(アーム)、120…センサ、130…サーボ弁、140…コントローラ(制御部)、141…目標波形設定器、142…基本波生成器、143…補正器(補正部)、144…合成器(合成部)、M…溶融金属、P2…回転支点、S…鋳片、W1…目標波形、W2,W2,・・・,W2…正弦波成分、W3,W3,・・・,W3…補正波形、W4…合成波形。
図1
図2
図3
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図5
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図10