(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】クレーン、及びクレーンの吊具の振れ検出方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/22 20060101AFI20221128BHJP
【FI】
B66C13/22 M
(21)【出願番号】P 2019028620
(22)【出願日】2019-02-20
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】503002732
【氏名又は名称】住友重機械搬送システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】門前 唯明
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-247681(JP,A)
【文献】特開2009-113889(JP,A)
【文献】特開平06-336394(JP,A)
【文献】特開2008-224419(JP,A)
【文献】特開2003-238067(JP,A)
【文献】特開2017-202884(JP,A)
【文献】特開2001-080878(JP,A)
【文献】特開平08-175785(JP,A)
【文献】国際公開第2006/068125(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊具と、
吊部材を介して前記吊具を吊り下げるトロリと、
前記トロリを横行可能に支持するガーダーと、
前記ガーダーを走行可能に支持し、タイヤを有する走行部と、
加速度センサで検出された加速度に基づいて、前記ガーダーと路面との相対変位を検出する変位検出部と、
前記変位検出部で検出された検出結果に基づいて前記吊具の振れを抑制する制御を行うクレーン制御部と、を備え、
前記変位検出部は、前記ガーダーの
水平方向からの傾斜によって生じる前記加速度センサの誤差を補正する、クレーン。
【請求項2】
前記変位検出部は、前記加速度センサで検出された前記加速度の積分を行う前に、前記加速度センサの誤差を補正する、請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記変位検出部は、前記加速度を積分して第1の積分値を取得した後、当該第1の積分値に対して第1のフィルタをかけ、前記第1のフィルタをかけた前記第1の積分値を積分して第2の積分値を取得した後、当該第2の積分値に対して第2のフィルタをかけることで、前記相対変位を検出する、請求項2に記載のクレーン。
【請求項4】
前記変位検出部は、ハイパスフィルタによって前記加速度センサの誤差を補正する、請求項1~3の何れか一項に記載のクレーン。
【請求項5】
吊具と、
吊部材を介して前記吊具を吊り下げるトロリと、
前記トロリを横行可能に支持するガーダーと、
前記ガーダーの下端にて当該ガーダーを走行可能に支持する走行部と、を備えるクレーンの吊具の振れ検出方法であって、
前記ガーダーの
水平方向からの傾斜によって生じる加速度センサの誤差を補正する補正工程と、
前記補正工程で誤差が補正された前記加速度センサで検出された加速度に基づいて、前記ガーダーと路面との相対変位を検出する変位検出工程と、を備えるクレーンの吊具の振れ検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン、及びクレーンの吊具の振れ検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のクレーンとして、特許文献1に記載されたものが知られている。クレーンは、吊具を水平方向に移動させながら、対象物を吊具で吊り上げている。このクレーンは、横行方向に延びるガーダーと、ガーダーを支持する一対の脚部と、脚部を走行可能に支持する走行部と、吊具を吊り下げてガーダーに沿って横行するトロリと、を備える。走行部は、タイヤを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、クレーンのガーダーは水平方向に対して傾斜する場合がある。例えば、上述のようなタイヤ式のクレーンは、タイヤの空気圧の変化などの影響により、水平方向に対して傾斜し易くなる。クレーンでは、吊具の振れを抑制するための制御が行われるが、クレーンのガーダーが傾斜した状態で揺れると、振れ止めの制御に影響を及ぼす可能性がある。従って、このようなクレーンの傾斜の影響を低減して、吊具の振れ止めの性能を向上することが求められていた。
【0005】
本発明は、吊具の振れ止めの性能を向上できるクレーン、及びクレーンの吊具の振れ検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係るクレーンは、吊具と、吊部材を介して吊具を吊り下げるトロリと、トロリを横行可能に支持するガーダーと、ガーダーを走行可能に支持し、タイヤを有する走行部と、加速度センサで検出された加速度に基づいて、ガーダーと路面との相対変位を検出する変位検出部と、変位検出部で検出された検出結果に基づいて吊具の振れを抑制する制御を行うクレーン制御部と、を備え、変位検出部は、ガーダーの傾斜によって生じる加速度センサの誤差を補正する。
【0007】
クレーンは、加速度センサで検出された加速度に基づいて、ガーダーと路面との相対変位を検出する変位検出部を備える。従って、トロリの横行に伴ってガーダーが変位する場合であっても、変位検出部が、そのようなガーダーの変位を検出することができる。そのため、クレーン制御部は、変位検出部で検出された検出結果に基づくことで、ガーダーの変位を考慮して吊具の振れを抑制する制御を行うことができる。ここで、クレーンは、タイヤを有する走行部を備えている。ガーダーは、タイヤの空気圧や摩耗などの影響により、水平方向から傾斜する場合がある。ガーダーが傾斜した場合、加速度センサの検出結果に誤差が含まれる。これに対し、変位検出部は、ガーダーの傾斜によって生じる加速度センサの誤差を補正する。従って、クレーン制御部は、ガーダーの傾斜の影響を低減した状態で、吊具の振れを抑制する制御を行うことができる。以上により、吊具の振れ止めの性能を向上することができる。
【0008】
クレーンにおいて、変位検出部は、加速度センサで検出された加速度の積分を行う前に、加速度センサの誤差を補正してよい。この場合、積分の結果に加速度センサの誤差の影響が含まれることを抑制できる。
【0009】
クレーンにおいて、変位検出部は、加速度を積分して第1の積分値を取得した後、当該第1の積分値に対して第1のフィルタをかけ、第1のフィルタをかけた第1の積分値を積分して第2の積分値を取得した後、当該第2の積分値に対して第2のフィルタをかけることで、相対変位を検出してよい。このように、各積分値の演算を行うたびにフィルタをかけることで、変位検出部は、ガーダーの相対変位を正確に検出することができる。
【0010】
クレーンにおいて、変位検出部は、ハイパスフィルタによって加速度センサの誤差を補正してよい。これにより、加速度センサの誤差を取り除くことができる。
【0011】
本発明の一形態に係るクレーンの吊具の振れ検出方法は、吊具と、吊部材を介して吊具を吊り下げるトロリと、トロリを横行可能に支持するガーダーと、ガーダーの下端にて当該ガーダーを走行可能に支持する走行部と、を備えるクレーンの吊具の振れ検出方法であって、ガーダーの傾斜によって生じる加速度センサの誤差を補正する補正工程と、補正工程で誤差が補正された加速度センサで検出された加速度に基づいて、ガーダーと路面との相対変位を検出する変位検出工程と、を備える。
【0012】
クレーンの吊具の振れ検出方法は、加速度センサで検出された加速度に基づいて、ガーダーと路面との相対変位を検出する変位検出工程を備える。従って、トロリの横行に伴ってガーダーが変位する場合であっても、変位検出工程にて、そのようなガーダーの変位を検出することができる。そのため、変位検出工程で検出した検出結果に基づくことで、ガーダーの変位を考慮して吊具の振れを抑制する制御を行うことが可能となる。ここで、ガーダーが水平方向から傾斜する場合、加速度センサの検出結果に誤差が含まれる。これに対し、補正工程では、ガーダーの傾斜によって生じる加速度センサの誤差を補正する。従って、吊具の振れを抑制する制御を行う際に、ガーダーの傾斜の影響を低減した状態で制御を行うことができる。以上により、吊具の振れ止めの性能を向上することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、吊具の振れ止めの性能を向上できるクレーン、及びクレーンの吊具の振れ検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係るクレーンのブロック図である。
【
図3】振れを検出するためのカメラ及び光源の位置関係を示す図である。
【
図6】制御装置のクレーン制御部のブロック構成を示すブロック構成図である。
【
図7】加速度センサに発生する誤差について説明するための図である。
【
図8】変位検出部のガーダーと路面の相対変位を検出する検出部の構成を示すブロック図である。
【
図9】フィルタについて説明するためのグラフである。
【
図10】フィルタについて説明するためのグラフである。
【
図11】本実施形態に係るクレーンの吊具の振れ検出方法を含む吊具の振れ止め方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、例示的な実施形態について説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1及び
図2を参照して、本発明の実施形態に係るクレーン100について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るクレーン100のブロック図である。
図2は、クレーン装置20を示す斜視図である。
図1に示すように、クレーン100は、クレーン装置20と、制御装置50と、を備える。
【0017】
図2に示すように、クレーン装置20は、門型のクレーン装置である。クレーン装置20は、例えば、接岸したコンテナ船に対してコンテナCの移載等が行われるコンテナターミナルのコンテナヤードにおいて、コンテナCの荷役を行うクレーン装置である。コンテナヤードCYには、コンテナCが移載されるトレーラ10等の走行路である荷役レーンが敷設されている。クレーン装置20は、例えば荷役レーン上に停止したトレーラ10に対して、コンテナCを自動で移載する。クレーン装置20は、トレーラ10によって搬入されるコンテナCをトレーラ10から取得して、当該コンテナCをコンテナヤードCYの所定位置に載置する。また、クレーン装置20は、コンテナヤードCYに載置されているコンテナCを取得して、当該コンテナCをトレーラ10に載置し、当該トレーラ10によりコンテナCを外部に搬出させる。
【0018】
クレーン装置20は、クレーン本体部21と、吊具22と、を有している。クレーン本体部21は、タイヤ付車輪を有する走行部25により走行可能とされている。走行部25は、走行モータの駆動によって走行する。また、クレーン本体部21は、走行部25に立設された一対の脚部26,26を二組備え、これら脚部26,26の上端部同士を繋ぐガーダー27,27を備える略門形に形成されている。更に、クレーン本体部21は、走行方向に直交する方向にガーダー27上を横行可能なトロリ28を備えている。トロリ28は、横行モータの駆動によって横行する。トロリ28は、ドラム駆動モータ及び当該ドラム駆動モータにより正逆回転するドラムによって構成される巻駆動部29を備え、ワイヤによって構成される吊部材30を介して吊具22を吊り下げている。吊具22は、走行方向へ延びる形状を有している。トロリ28からは、走行方向において二箇所から吊部材30が延びており、吊具22は走行方向における二箇所で吊部材30に吊られている。
【0019】
なお、走行部25及びトロリ28のように、吊具22を水平方向に移動させる機構を移動駆動部35と称する場合がある。移動駆動部35は上記の走行モータ及び横行モータを含んでいる。
図1に示すように、移動駆動部35の走行モータ及び横行モータは、制御装置50によって制御される。また、巻駆動部29のドラム駆動モータは、制御装置50によって制御される。
【0020】
吊具22は、コンテナCを保持して吊り上げるための装置である。吊具22は、コンテナCを上面側から係止可能であり、コンテナCを係止して吊り上げることによりコンテナCの荷役を行う。吊具22は、巻駆動部29からの吊部材30が掛け回されたシーブ33を介して吊り下げられ、巻駆動部29の正逆回転により昇降可能である。吊具22は、制御部23によって制御される。
【0021】
吊具22は、平面視においてコンテナCの上面の形状と略同一の形状を呈している。クレーン本体部21は、長手方向における中央部の上側に、吊部材30が掛け回されるシーブ33を有している。吊具22は、コンテナCを吊具22が係止する際に当該コンテナC上に位置する。吊具22は、ガイド32及びロックピン(不図示)を含んでいる。 ガイド32は、吊具22により取得されるべき目標のコンテナCを吊具22が取得する場合において、吊具22が下降する際に、吊具22を目標のコンテナC上に案内する。ガイド32は、水平方向における吊具22の短手方向の一端部及び他端部のそれぞれにおいて、長手方向の両端付近のそれぞれに設けられている。
【0022】
図3に示すように、クレーン装置20は、カメラ40及び光源41を有している。カメラ40は、光源41の位置を捉えることで吊具22の振れを検出するための画像を取得する機器である。カメラ40は、トロリ28と吊具22との相対変位を検出するための変位検出部の一部として構成される。本実施形態では、カメラ40はトロリ28に設けられ、光源41は吊具22に設けられる。なお、図ではカメラ40及び光源41は、二組設けられているが、一組であってもよく、三組以上でもよい。吊具22に振れが生じていない状態では、各光源41は鉛直方向の上側に光軸LAが延びるように光を照射する。また、各カメラ40は、各光源41の光軸LAに近接した位置に配置される。これにより、吊具22に振れが生じると、各カメラ40は、各光源41の光が移動している様子を示す画像を取得することができる。カメラ40は、取得した画像を制御装置50へ送信する(
図1参照)。なお、カメラ40及び光源41の位置関係は、カメラ40が光源41の光を撮影することが可能である限り、特に限定されるものではない。また、カメラ40が吊具22に設けられ、光源41がトロリ28に設けられてもよい。
【0023】
また、クレーン装置20は、加速度センサ43を有している。加速度センサ43は、ガーダー27の上面に設けられている。ここでは、加速度センサ43は、一対のガーダー27,27のうちの一方のガーダー27に設けられる。加速度センサ43は、設置箇所の加速度を検出する。加速度センサ43は、路面に対するガーダー27の相対変位を検出するための変位検出部の一部として機能する。加速度センサ43は、検出した加速度を制御装置50へ送信する(
図1参照)。
【0024】
図1に示すように、 制御装置50は、プロセッサ、メモリ、ストレージ、通信インターフェース及びユーザインターフェースを備え、一般的なコンピュータとして構成されている。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)などの演算器である。メモリは、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶媒体である。ストレージは、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶媒体である。通信インターフェースは、データ通信を実現する通信機器である。ユーザインターフェースは、液晶やスピーカなどの出力器、及び、操縦レバー、ボタン、キーボードやタッチパネルやマイクなどの入力器である。プロセッサは、メモリ、ストレージ、通信インターフェース及びユーザインターフェースを統括し、後述する機能を実現する。制御装置50では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。制御装置50は、複数のコンピュータから構成されていてもよい。
【0025】
制御装置50は、クレーン100全体を総合的に制御する装置である。制御装置50は、演算部51と、クレーン制御部52と、変位検出部53と、記憶部54と、を備える。
【0026】
演算部51は、クレーン100の制御に必要な各種演算を行う。演算部51は、吊具22でコンテナCを掴む際の動作やコンテナCの搬送位置などを演算する。クレーン制御部52は、クレーン100の動作を制御する。クレーン制御部52は、移動駆動部35の走行モータ及び横行モータへ制御信号を送信することで、吊具22の水平方向への移動を制御する。また、クレーン制御部52は、巻駆動部29のドラム駆動モータへ制御信号を送信することで、吊部材30を介して吊具22の巻上げ及び巻下げの動作を制御する。本実施形態では、クレーン制御部52は、吊具22の振れを抑制するように、移動駆動部35を制御する。当該制御内容の詳細については後述する。
【0027】
変位検出部53は、カメラ40の画像に基づいて、吊具22とトロリ28との相対変位を検出する。変位検出部53は、カメラ40で取得された画像中の光源41の位置に基づいて、吊具22とトロリ28との相対位置を検出する。また、変位検出部53は、加速度センサ43で検出された加速度に基づいて、ガーダー27と路面との相対変位を検出する。変位検出部53は、ガーダー27の傾斜によって生じる加速度センサ43の誤差を補正する。変位検出部53がガーダー27と路面との相対変位を検出するための制御については後述する。記憶部54は、各種情報を記憶する。
【0028】
次に、
図4~
図6を参照して、制御装置50が吊具22の振れ止め制御を行う場合の制御内容について詳細に説明する。
図4は、クレーン装置20の概略正面図である。
図5は、クレーン100の等価モデルである。
図6は、制御装置50のクレーン制御部52のブロック構成を示すブロック構成図である。
【0029】
図4に示すように、ガーダー27が横行方向へ振れることによって、当該ガーダー27上のトロリ28も横行方向へ振れる。すると、トロリ28と吊具22との相対変位の変動に、ガーダー27の揺れの影響が加算されてしまう。
【0030】
このようなガーダー27の揺れが生じる現象について
図5を参照して説明する。
図5(a)は、ガーダー27の揺れ及び吊具22の振れがないバランス状態であるものとする。
図5(b)に示すように、吊具22が風などの外力を受けることで、当該吊具22に振れが発生する。吊具22に振れが発生すると、
図5(c)に示すように、クレーン制御部52は、吊具22の振れを追いかける方向にトロリ28を走行させるように制御する。すると、
図5(d)に示すように、トロリ28からガーダー27に反力が加わり、ガーダー27はトロリ28と反対方向に動く。このとき、トロリ28もガーダー27と共に反対方向へ動くことになる。このように、トロリ28と吊具22との間の相対変位は、ガーダー27の揺れの影響を受け、見た目上の吊具22の振れが、実際の吊具22の振れと異なるものとなる。
【0031】
クレーン制御部52は、トロリ28の速度制御を行うことによって、吊具22の振れ止め制御を行う。クレーン制御部52は、上述のようにして発生するガーダー27の揺れを考慮して、トロリ28の速度制御を行う。クレーン制御部52は、当該速度制御を行うために、
図6に示すようなブロック構成を有する。
【0032】
図6に示すように、クレーン制御部52は、吊具22とトロリ28との相対変位(吊具振れ)と、トロリ28の位置(トロリ位置)と、ガーダー27と路面の相対変位(ガーダー変位)と、を取得する。クレーン制御部52は、変位検出部53から吊具振れ及びガーダー変位を取得する。クレーン制御部52は、トロリの車輪軸に取り付けられた車輪回転量検出用エンコーダからトロリ28の位置を取得する。
【0033】
クレーン制御部52は、トロリ位置の値に対して演算部103Aにて制御ゲインK1を掛け合わせると共に、トロリ位置の値に対して演算部104Aにて微分した後に演算部103Bにて制御ゲインK2を掛け合わせる。クレーン制御部52は、演算部101にて、吊具振れの値とガーダー変位の値とを加算する。これにより、クレーン制御部52は、当該演算部101からの出力値に対して演算部103Cにて制御ゲインK3を掛け合わせると共に、演算部101からの出力に対して演算部104Bにて微分した後に演算部103Dにて制御ゲインK4を掛け合わせる。クレーン制御部52は、演算部103A,103B,103C,103Dからの出力値のそれぞれを演算部102にて加算する。これにより、クレーン制御部52は、演算部102からの出力値をトロリ速度指令信号としてトロリの駆動部45へ出力する。以上のように、クレーン制御部52は、演算部101にてガーダー変位の値を吊具振れの値に加算しているため、ガーダー27の振れを考慮した上で、トロリ28の速度制御を行うことができる。
【0034】
次に、
図7~
図10を参照して、ガーダー27と路面との相対変位を検出するための制御について説明する。
図7は、加速度センサ43に発生する誤差について説明するための図である。
図8は、変位検出部53のガーダー27と路面の相対変位を検出する検出部120の構成を示すブロック図である。
図9及び
図10は、フィルタについて説明するためのグラフである。
【0035】
図7(a)に示すように、走行部25のタイヤ25aの空気圧の変化や摩耗などの影響により、ガーダー27が傾くことがある。このとき、
図7(b)に示すように、加速度センサ43も水平方向に対して傾く。加速度センサ43が傾くと、加速度センサ43の加速度信号に重力の影響による加速度Fが含まれてしまう。従って、
図7(c)に示すように、加速度センサ43が検出した加速度信号が、誤差を含んだものとなる。加速度センサ43が傾いていない場合、加速度信号は、ガーダー27の振動に基づいて、原点を中心位置として振動するような波形を描く。しかし、加速度センサ43が傾いている場合、加速度信号は、傾きによって乗じた誤差の分だけ、中心位置が原点からオフセットした波形を描く。従って、変位検出部53は、このような誤差を補正した後に、ガーダー27と路面との相対変位を検出する。
【0036】
図8に示すように、検出部120は、フィルタ121と、積分演算部122と、フィルタ123(第1のフィルタ)と、積分演算部124と、フィルタ126(第2のフィルタ)と、を備える。フィルタ121は、加速度センサ43の加速度信号である加速度信号から、誤差を除去する。積分演算部122は、誤差が除去された加速度のデータを積分する。フィルタ123は、積分演算部122の演算結果である第1の積分値からノイズを除去することで速度を導き出す。積分演算部124は、速度を積分する。フィルタ126は、積分演算部124の演算結果である第2の積分値からノイズを除去することで変位を導き出す。
【0037】
フィルタ121,123,126は、ハイパスフィルタによって構成されている。ハイパスフィルタは、高周波成分を取り出して、低周波成分を除去するフィルタである。
図9に示すように、加速度センサ43からの加速度信号(「ガーダ加速度」で示す一点鎖線のグラフ)は所定の中心位置を基準として振動する波形を描く。検出部120は、当該波形の中心位置の原点からのオフセットが、加速度センサ43の誤差であると推定する。従って、フィルタ121は、加速度信号から当該オフセットを除去する。
図9(a)の「ガーダ加速度HPF」のグラフがオフセット除去後の加速度信号のグラフである。当該グラフに示すように、オフセット除去後の加速度信号は、原点を中心位置として振動する波形を描く。
【0038】
ここで、フィルタ121の計算開始時には過渡状態の波形の歪みが生じる。具体的には、
図9(a)のグラフの一つ目の波は二つ目以降の波よりも振幅が小さくなっている。フィルタ123,126は、このような波形の歪みの影響を低減することができる。当該効果を説明するために、フィルタ123,126を用いずに、フィルタ121から出力された加速度信号を直接積分しただけの速度のグラフを
図9(b)に示し、更にその速度を直接積分しただけの変位のグラフを
図9(c)に示す。なお、
図9(b)(c)では、フィルタを用いていないため、一点鎖線のグラフと実線のグラフが一致している。
図9(b)に示すように、加速度の計算開始時の波形の歪みの影響により、速度の波形も計算開始時に歪みが生じる。更に、変位は、速度の歪みを引きずった状態で積分を行うため、オフセット誤差を含んだ波形を描く。
【0039】
次に、フィルタ121から出力された加速度信号を積分してフィルタ123を通した時の波形を
図10(a)の「ガーダ速度HPF」に示す。
図10(a)の「ガーダ速度」のグラフは、
図9(b)のグラフと同じである。
図10(a)に示すように、フィルタ123を用いてオフセット除去を行うことで、計算開始時の歪みが低減されている。
図10(b)は、フィルタ123から出力された速度を直接積分してフィルタ126を通していない変位のグラフである。
図10(b)に示すように、フィルタ123を用いることで、変位のオフセットも低減されている。
図10(c)の「ガーダ変位HPF」は、フィルタ123から出力された速度を積分してフィルタ126を通した時の波形である。
図10(c)の「ガーダ変位」のグラフは
図10(b)のグラフと同じである。
図10(c)に示すように、フィルタ126を用いることで、変位のオフセットが更に低減されている。以上より、フィルタ123,126を用いることで、ガーダー27の変位をより正確に検出することができる。
【0040】
次に、
図11を参照して、本実施形態に係るクレーンの吊具22の振れ検出方法を含む吊具22の振れ止め方法について説明する。
図11は、本実施形態に係るクレーンの吊具22の振れ検出方法を含む吊具22の振れ止め方法を示すフローチャートである。
図11に示す処理は、制御装置50内にて繰り返し実行される。
図11に示すように、振れ止め方法は、情報検出工程S10と、補正工程S20と、変位検出工程S30と、振れ止め制御工程S40と、を備える。このうち、クレーンの吊具22の振れ検出方法は、補正工程S20と、変位検出工程S30と、を備える。
【0041】
情報検出工程S10は、トロリ28の位置、及び吊具22とトロリ28との相対変位を検出する工程である。補正工程S20は、ガーダー27の傾斜によって生じる加速度センサ43の誤差を補正する工程である。補正工程S20では、加速度センサ43からの加速度信号をフィルタ121(
図8参照)でオフセット除去することによって実行される。変位検出工程S30は、補正工程S20で誤差が補正された加速度センサ43で検出された加速度に基づいて、ガーダー27と路面との相対変位を検出する工程である。変位検出工程S30では、フィルタ121から出力された加速度信号を積分演算部122で積分してフィルタ123を通して速度を演算し、当該速度を積分演算部124で積分してフィルタ126を通すことで、変位を演算している(
図8参照)。振れ止め制御工程S40は、情報検出工程S10及び変位検出工程S30で検出された値を用いて、吊具22の振れ止めを行う工程である。振れ止め制御工程S40では、第1の
図6に示すクレーン制御部52が演算を行ってトロリ28の速度制御を行うことにより、吊具22の振れ止めを行う。以上により、
図11に示す処理が完了し、再び情報検出工程S10から処理が繰り返される。
【0042】
次に、本実施形態に係るクレーン100、及びクレーンの吊具22の振れ検出方法の作用・効果について説明する。
【0043】
クレーン100は、加速度センサ43で検出された加速度に基づいて、ガーダー27と路面との相対変位を検出する変位検出部53を備える。従って、トロリ28の横行に伴ってガーダー27が変位する場合であっても、変位検出部53が、そのようなガーダー27の変位を検出することができる。そのため、クレーン制御部52は、変位検出部53で検出された検出結果に基づくことで、ガーダー27の変位を考慮して吊具22の振れを抑制する制御を行うことができる。ここで、クレーン100は、タイヤ25aを有する走行部25を備えている。ガーダー27は、タイヤ25aの空気圧や摩耗などの影響により、水平方向から傾斜する場合がある。ガーダー27が傾斜した場合、加速度センサ43の検出結果に誤差が含まれる。これに対し、変位検出部53は、ガーダー27の傾斜によって生じる加速度センサ43の誤差を補正する。従って、クレーン制御部52は、ガーダー27の傾斜の影響を低減した状態で、吊具22の振れを抑制する制御を行うことができる。以上により、吊具22の振れ止めの性能を向上することができる。
【0044】
クレーン100において、変位検出部53は、加速度センサ43で検出された加速度の積分を行う前に、加速度センサ43の誤差を補正する。この場合、積分の結果に加速度センサ43の誤差の影響が含まれることを抑制できる。
【0045】
クレーン100において、変位検出部53は、積分演算部122で加速度を積分して第1の積分値を取得した後、当該第1の積分値に対してフィルタ123をかけ、フィルタ123をかけた第1の積分値を積分演算部124で積分して第2の積分値を取得した後、当該第2の積分値に対してフィルタ126をかけることで、相対変位を検出する。このように、各積分値の演算を行うたびにフィルタをかけることで、変位検出部53は、ガーダー27の相対変位を正確に検出することができる。
【0046】
クレーン100において、変位検出部53は、ハイパスフィルタによって加速度センサ43の誤差を補正する。これにより、加速度センサ43の誤差を取り除くことができる。
【0047】
クレーン100の吊具22の振れ検出方法は、吊具22と、吊部材30を介して吊具を吊り下げるトロリ28と、トロリ28を横行可能に支持するガーダー27と、ガーダー27の下端にて当該ガーダー27を走行可能に支持し、タイヤ25aを有する走行部25と、を備えるクレーン100の吊具22の振れ検出方法であって、ガーダー27の傾斜によって生じる加速度センサ43の誤差を補正する補正工程S20と、補正工程S20で誤差が補正された加速度センサ43で検出された加速度に基づいて、ガーダー27と路面との相対変位を検出する変位検出工程S30と、を備える。
【0048】
クレーン100の吊具22の振れ検出方法は、加速度センサ43で検出された加速度に基づいて、ガーダー27と路面との相対変位を検出する変位検出工程S30を備える。従って、トロリ28の横行に伴ってガーダー27が変位する場合であっても、変位検出工程S30にて、そのようなガーダー27の変位を検出することができる。そのため、変位検出工程S30で検出した検出結果に基づくことで、ガーダー27の変位を考慮して吊具22の振れを抑制する制御を行うことが可能となる。ここで、ガーダー27が水平方向から傾斜する場合、加速度センサ43の検出結果に誤差が含まれる。これに対し、補正工程S20では、ガーダー27の傾斜によって生じる加速度センサ43の誤差を補正する。従って、吊具22の振れを抑制する制御を行う際に、ガーダー27の傾斜の影響を低減した状態で制御を行うことができる。以上により、吊具22の振れ止めの性能を向上することができる。
【0049】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0050】
例えば、上述の実施形態では、クレーンとしてタイヤ25aを有するタイヤ式のクレーンが例示されていたが、クレーンの種類は特に限定されるものではない。例えば、ガーダーが傾斜し得るものであれば、他の種類のクレーンを採用してもよい。
【0051】
また、変位検出部53が吊具22の振れを検出する検出方法は
図3に示すような光源とカメラを用いる方法に限定されず、あらゆる方法で振れを検出してよい。例えば、横行モータのトルクから振れを検出してもよい。
【符号の説明】
【0052】
22…吊具、25…走行部、25a…タイヤ、27…ガーダー、28…トロリ、30…吊部材、43…加速度センサ、52…クレーン制御部、53…変位検出部、100…クレーン。