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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】アラミド紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/26 20060101AFI20221128BHJP
   D04H 1/4342 20120101ALI20221128BHJP
   D21H 25/04 20060101ALI20221128BHJP
   D21H 27/12 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
D21H13/26
D04H1/4342
D21H25/04
D21H27/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019030228
(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公開番号】P2020133066
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】596001379
【氏名又は名称】デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】藤森 竜士
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 新二
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/100688(WO,A1)
【文献】特表2017-534486(JP,A)
【文献】特開2006-200066(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190163(WO,A1)
【文献】特開平07-037571(JP,A)
【文献】特開平08-199494(JP,A)
【文献】国際公開第2013/117462(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/157538(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106223129(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-D21J7/00
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド短繊維及びアラミドファイブリッドを60/40~10/90の質量比で混合してシート状物を形成し、得られたシート状物を一対の発熱体の間に挟み、500kg/cm2以上の圧力を加える熱圧加工処理工程を少なくとも2回行うことを含むアラミド紙の製造方法であって、少なくとも2回行う熱圧加工処理工程が、280℃を超える温度での熱圧加工処理工程(a)及び、その後に行う、280℃未満の温度での熱圧加工処理工程(b)を含むことを特徴とするアラミド紙の製造方法。
【請求項2】
熱圧加工処理工程(a)を、280℃より15℃以上高く、かつアラミドの分解温度未満の温度で行う請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
熱圧加工処理工程(b)を、280℃より10℃低い温度から180℃低い温度の間の温度で行う請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
熱圧加工処理工程(a)と(b)の間に、熱圧加工処理されたシートへの加圧が開放される圧力開放工程が存在する請求項1~3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
一対の発熱体が、一対のカレンダーロールである請求項1~4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
アラミド短繊維及びアラミドファイブリッドを構成するアラミドが、ポリメタフェニレンイソフタルアミドである請求項1~5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
アラミド短繊維及びアラミドファイブリッドを60/40~10/90の質量比で混合してシート化されたアラミド紙であって、厚みが5~35μm、密度が0.70~1.0g/cm3及び引張強度が45MPa以上であることを特徴とするアラミド紙。
【請求項8】
密度が0.75~0.95g/cm3である請求項7記載のアラミド紙。
【請求項9】
坪量が、5~25g/m2である請求項7又は8記載のアラミド紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れた電気絶縁材料の製造方法、特に、薄くて、強度や絶縁性が高いアラミド紙を製造することができるアラミド紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性が要求される電気絶縁分野向けに、耐熱性高分子を素材とする成形材料の適用が検討され、この耐熱性高分子を使用して製造された、改善された強度及び/又は熱安定性を持つ紙が開発されてきた。例えば、アラミド紙は、芳香族ポリアミドよりなる合成紙であり、その優れた耐熱性、難燃性、電気絶縁性、強靭性及び可撓性により、電気絶縁材料及び航空機ハニカム用のベースとして使用されてきた。これらの材料のうち、デュポン(DuPont)社(米国)のノーメックス(Nomex)(登録商標)繊維を含んでなる紙は、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)の短繊維とファイブリッドとを水中で混合し、次に混合したスラリーを抄紙した後、カレンダー加工することによって製造されている。この紙は、高温においてさえ、依然として高い強度及び強靭性を有すると共に優れた電気絶縁性を有することが知られている。
近年においては、変圧器、モータなどの絶縁材料を必要とする機器の小型化、軽量化の流れを受けて、更に薄くて電気絶縁性能の高い材料が求められている。
【0003】
紙を薄くするための手法としては、得られるアラミド紙の坪量を小さくすることが一般的であるが、それに伴い得られるアラミド紙の密度も小さくなり、十分な強度や絶縁性が得られないとの問題がある。これに対して、薄いアラミド紙を得る方法として、例えば、特許文献1には、少なくとも一対の発熱体の間に芳香族ポリアミドから形成されるファイブリッド及び短繊維との混合物から形成されたアラミド紙を挟んで熱圧加工することを含み、上記発熱体による熱圧加工後の上記アラミド紙の収縮率が3%以下である、アラミド紙の製造方法が開示されている。この方法では、一対の発熱体として一対のカレンダーロールを用い、カレンダーロール表面温度250℃、ロール圧力2500kg/cm2又は1250kg/cm2で1回熱圧加工を行っている。この方法によると、耐熱性が高く、薄い電気絶縁シート材料を得ることができることが示されている(実施例)。一方、アラミド紙のガラス転移温度を超える温度である330℃で熱圧加工した場合には、所望の薄さのアラミド紙が得られないことが示されている(比較例2と3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-223021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、薄くて密度が高く、電気的特性に優れていることに加えて、さらに、機械的特性、特に、引張強度が高いアラミド紙を製造することができるアラミド紙の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる状況に鑑み、鋭意検討した結果、アラミド短繊維及びアラミドファイブリッドの特定の割合の混合物から形成したシート状物を一対の発熱体の間に挟んで高圧を加える特定の温度条件下での熱圧加工処理工程を少なくとも2回行うと、上記課題を解決できるとの知見に基づいて、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、下記[1]~[10]を提供する。
[1] アラミド短繊維及びアラミドファイブリッドを60/40~10/90の質量比で混合してシート状物を形成し、得られたシート状物を一対の発熱体の間に挟み、500kg/cm2以上の圧力を加える熱圧加工処理工程を少なくとも2回行うことを含むアラミド紙の製造方法であって、少なくとも2回行う熱圧加工処理工程が、アラミドのガラス転移温度を超える温度での熱圧加工処理工程(a)及び、その後に行う、アラミドのガラス転移温度未満の温度での熱圧加工処理工程(b)を含むことを特徴とするアラミド紙の製造方法。
[2] 熱圧加工処理工程(a)を、アラミドのガラス転移温度より15℃以上高く、かつアラミドの分解温度未満の温度で行う[1]記載の製造方法。
【0007】
[3] 熱圧加工処理工程(b)を、アラミドのガラス転移温度より10℃低い温度から180℃低い温度の間の温度で行う[1]又は[2]記載の製造方法。
[4] 熱圧加工処理工程(a)と(b)の間に、熱圧加工処理されたシートへの加圧が開放される圧力開放工程が存在する[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 一対の発熱体が、一対のカレンダーロールである[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] アラミド短繊維及びアラミドファイブリッドを構成するアラミドが、ポリメタフェニレンイソフタルアミドである[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] アラミド短繊維及びアラミドファイブリッドを60/40~10/90の質量比で混合してシート化されたアラミド紙であって、厚みが5~35μm、密度が0.70~1.0g/cm3及び引張強度が45MPa以上であることを特徴とするアラミド紙。
[8] 密度が0.75~0.95g/cm3である[7]記載のアラミド紙。
[9] 坪量が、5~25g/m2である[7]又は[8]記載のアラミド紙。
[10] [1]~[6]のいずれかに記載の製造方法により得られる[7]~[9]のいずれかに記載のアラミド紙。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によると、アラミド紙の製造原料であるアラミド短繊維及びアラミドファイブリッドの使用量や熱圧加工処理工程における加圧圧力などを適宜調整することにより、広範囲の厚さ、例えば、200μmまでの厚さを有し、機械的特性、電気的特性及び耐熱性に優れるアラミド紙を容易に製造することができる。特に、本発明の製造方法によると、特許文献1に開示のアラミド紙と同等の厚みを有するもの又はそれよりも薄いアラミド紙であって、一層、機械的特性、特に、引張強度が高いアラミド紙を製造することができる。
このように、本発明の製造方法によると、変圧器、モータなどの小型化、軽量化に対応した、高耐熱性で薄く、機械的、電気的特性に優れたアラミド紙を容易に製造することができるとの工業上優れた効果が得られる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[アラミド]
本発明においてアラミドとは、アミド結合の60%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物を意味する。このようなアラミドとしては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびその共重合体、コポリパラフェニレン・3,4’-ジフェニルエーテルテレフタルアミドなどが挙げられる。これらのアラミドは、例えば、芳香族酸二塩化物および芳香族ジアミンとの縮合反応による溶液重合法、二段階界面重合法等により工業的に製造されており、市販品として入手することができるが、これに限定されるものではない。これらのアラミドの中では、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが、良好な成型加工性、熱接着性、難燃性、耐熱性などの特性を備えている点で好ましく用いられる。
【0010】
[アラミド短繊維]
本発明においてアラミド短繊維とは、アラミドを原料とする繊維を所定の長さに切断したものであり、そのような繊維としては、例えば、帝人(株)の「テイジンコーネックス(登録商標)」、デュポン社の「ノーメックス(登録商標)」等の商品名で入手することができるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
アラミド短繊維の長さは、一般に1mm以上25mm未満、好ましくは2mm以上12mm未満の範囲から選ぶことができる。短繊維の長さが1mm以上あると、シート材料の力学特性が良好であり、他方、25mm以下のものは、後述する湿式法でのアラミド紙の製造に際して「からみ」「結束」などの発生が抑制できるので好ましい。
アラミド短繊維の繊維径は、例えば、0.1~40μmの範囲から選ぶことができ、好ましくは、0.5~25μm、より好ましくは1~20μmである。
【0011】
[アラミドファイブリッド]
本発明においてアラミドファイブリッドとは、アラミドからなるフィルム状微小粒子で、アラミドパルプと称することもある。アラミドファイブリッドの製造方法としては、例えば特公昭35-11851号、特公昭37-5732号公報等に記載の方法があげられる。アラミドファイブリッドは、通常の木材(セルロース)パルプと同じように抄紙性を有し、水中分散した後、抄紙機にてシート状に成形することができる。この場合、抄紙に適した品質を保つ目的でいわゆる叩解処理を施すことができる。この叩解処理は、ディスクリファイナー、ビーター、その他の機械的切断作用を及ぼす抄紙原料処理機器によって実施することができる。この操作において、ファイブリッドの形態変化は、JIS P8121に規定の濾水度(フリーネス)でモニターすることができる。本発明において、叩解処理を施した後のアラミドファイブリッドの濾水度は、10~300cm3(カナディアンスタンダードフリーネス)の範囲内にあることが好ましい。この範囲の濾水度のファイブリッドでは、それから成形されるシート状材料の強度の低下を抑制できる。他方、10cm3よりも大きな濾水度のものは、ファイブリッドの微細化の進行を抑制できるので、いわゆるバインダー機能の低下を抑制することが可能となる。
【0012】
[アラミド紙の製造方法]
本発明におけるアラミド紙は、アラミド短繊維及びアラミドファイブリッドを60/40~10/90の質量比で混合してシート状物を形成し、得られたシート状物を一対の発熱体の間に挟み、500kg/cm2以上の圧力を加える熱圧加工処理工程を少なくとも2回行うことを含むアラミド紙の製造方法であって、少なくとも2回行う熱圧加工処理工程が、アラミドのガラス転移温度を超える温度での熱圧加工処理工程(a)及び、その後に行う、アラミドのガラス転移温度未満の温度での熱圧加工処理工程(b)を含むことを特徴とする製造方法によって製造される。
この製造方法では、先ず、アラミド短繊維及びアラミドファイブリッドを60/40~10/90の質量比、好ましくは55/45~15/85の質量比、より好ましくは50/50~20/80の質量比で混合してシート状物を形成する。具体的には、例えば上記アラミド短繊維及びアラミドファイブリッドを乾式ブレンドした後に、気流を利用してシートを形成する方法、アラミド短繊維及びアラミドファイブリッドを液体媒体中で分散混合した後、液体透過性の支持体、例えば網またはベルト上に吐出してシート化し、液体を除いて乾燥する方法などが適用できるが、これらのなかでも水を媒体として使用する、いわゆる湿式抄造法が好ましく選択される。
【0013】
湿式抄造法では、少なくともアラミドファイブリッド、アラミド短繊維を含有する単一または混合物の水性スラリーを、抄紙機に送液し分散した後、脱水、搾水および乾燥操作することによって、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機およびこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などが利用される。コンビネーション抄紙機での製造の場合、配合比率の異なるスラリーをシート成形し合一することで複数の紙層からなる複合体シートを得ることができる。抄造の際に必要に応じて分散性向上剤、消泡剤、紙力増強剤などの添加剤が使用される。
また、上記アラミド短繊維に加えて、その他の繊維状成分(例えば、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、セルロース系繊維、PVA系繊維、ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリイミド繊維などの有機繊維、ガラス繊維、ロックウール、アスベスト、ボロン繊維などの無機繊維)を、本発明の目的を阻害しない範囲で添加することができる。この場合、全構成繊維中に占めるアラミド短繊維の割合は、80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0014】
[熱圧加工]
上記のようにして得られたシート状物を一対の発熱体の間に挟み、500kg/cm2以上の圧力を加える熱圧加工処理工程を少なくとも2回行う。ここで、少なくとも2回行う熱圧加工処理工程が、アラミドのガラス転移温度を超える温度での熱圧加工処理工程(a)及び、その後に行う、アラミドのガラス転移温度未満の温度での熱圧加工処理工程(b)を含む。このような特定の熱圧加工を行うことにより、得られるアラミド紙の厚さを薄くでき、密度や機械的強度を向上させることができる。
本発明では、一対の発熱体として、一対のカレンダーロールを用いるのが好ましい。
圧力は500~10000kg/cm2が好ましく、より好ましくは1000~5000kg/cm2である。
ここで、熱圧加工処理工程(a)を、500kg/cm2以上の圧力を加えつつ、アラミドのガラス転移温度より15℃以上高く、好ましくは20℃以上高く、かつアラミドの分解温度未満の温度、好ましくは380℃までの温度で行うのがよい。
一般的に、アラミドのガラス転移温度は、280℃付近にあると考えられており、分解温度は、400℃付近にあると考えられている。
又、熱圧加工処理工程(b)は、500kg/cm2以上の圧力を加えつつ、アラミドのガラス転移温度より10℃低い温度、好ましくは20℃低い温度から180℃低い温度、好ましくは100℃低い温度の間の温度で行うのがよい。尚、熱圧加工処理工程(a)と(b)における加熱温度差が50℃以上あるのが更に好ましい。
本発明において、熱圧加工処理工程における加熱温度は、発熱体の表面温度として表わすことができ、発熱体としてカレンダーロールを用いる場合には、カレンダーロールの表面温度として表わすことができる。
【0015】
本発明において、ガラス転移温度を超える温度で熱圧加工することにより、機械的強度をより向上させることができるが、その高い発熱体の温度により、一旦発熱体により厚み方向に圧縮されたシートも、発熱体から解放された直後に厚み方向に膨らみ、特にその影響は薄いほど大きく、薄いアラミド紙の強度を向上させても同時に密度を高くすることができない要因であった。そこで、上記の温度差をつけて複数回熱圧加工を行うことにより、薄く、且つ機械的特性と電気的特性を両立させたアラミド紙とすることが可能となったのである。
本発明のアラミド紙の製造方法では、熱圧加工処理工程(a)と(b)の間に、熱圧加工処理されたシートへの加圧が開放される圧力開放工程が存在するのが好ましい。この圧力開放工程では、一対の発熱体、好ましくは一対のカレンダーロールによる加圧から解放されて、外気、好ましくは空気に接触することにより、熱圧加工処理されたアラミド紙の温度がガラス転移温度以下に冷却されるのが好ましい。このような、圧力開放工程は、一対のカレンダーロールとこれに続く一対のカレンダーロールの間隔を離して設置すること等によって設けることができる。
本発明のアラミド紙の製造方法では、上記熱圧加工処理工程(a)と(b)に加えて、常温での加圧処理工程などを組み合わせてもよい。又、熱圧加工処理工程(b)として、圧力や温度が異なる複数の熱圧加工処理工程を含んでもよい。又、熱圧加工処理工程(b)を行う前に、複数の熱圧加工処理工程(a)を行ってもよい。
【0016】
[アラミド紙]
上記の製造方法において、アラミド紙の製造原料であるアラミド短繊維及びアラミドファイブリッドの使用量や熱圧加工処理工程における加圧圧力などを適宜調整することにより、広範囲の厚さ、例えば、200μmまでの厚さを有し(好ましくは5μm以上、100μm以下、密度が0.70~1.0g/cm3)、機械的特性、電気的特性及び耐熱性に優れるアラミド紙を容易に製造することができる。特に、本発明の製造方法によると、特許文献1に開示のアラミド紙と同等の厚みを有するもの又はそれよりも薄いアラミド紙であって、一層、機械的特性、特に、引張強度が高いアラミド紙を製造することができる。
本発明では、特に、アラミド短繊維及びアラミドファイブリッドを60/40~10/90の質量比で混合してシート化されたアラミド紙であって、厚みが5~35μm、密度が0.70~1.0g/cm3、好ましくは0.75~0.95g/cm3及び引張強度が45MPa以上であるアラミド紙を製造することができる。ここで、厚みは、好ましくは10~30μm、より好ましくは15~30μmである。
又、上記特性を有し、坪量が5~25g/m2、好ましくは、10~25g/m2であるアラミド紙を製造することができる。
本発明において引張強度とは、単位断面積あたりの引張強度を表し、縦方向と横方向の平均値を引張強度とする。本発明のアラミド紙の引張強度は45MPa以上であることが好ましく、より好ましくは47MPa以上、更に好ましくは50MPa以上である。引張強度の上限は120MPaであるのが好ましい。
本発明において、ガラス転移温度は、試験片を室温から3℃/分の割合で昇温させ、示差走査熱量計にて発熱量を測定し、吸熱曲線に2本の延長線を引き、延長線間の1/2直線と吸熱曲線の交点から求められる値であり、実施例で用いたアラミド紙のガラス転移温度は275℃であった。
本発明の製造方法によると、変圧器、モータなどの小型化、軽量化に対応した、高耐熱性で薄く、機械的、電気的特性に優れたアラミド紙を容易に製造することができるとの工業上優れた効果が得られる。
【実施例
【0017】
以下、本発明を実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、これらの実施例は、単なる例示であり、本発明の内容を何ら限定するためのものではない。
[測定方法]
(1)シートの坪量、厚み、密度
JIS C 2300-2に準じて実施し、密度は(坪量/厚み)により算出した。
(2)引張強度
ASTM D-828に準じて、縦方向と横方向について実施し、両者の平均値を算出した後、(単位幅あたりの引張強度/厚み)により、単位断面積あたりの引張強度として算出した。
(3)絶縁破壊電圧
ASTM D149に準じて、電極径51mmで交流による直昇圧法により実施した。
【0018】
[原料調製]
特公昭52-15621号公報に記載のステーターとローターの組み合わせで構成されるパルプ粒子の製造装置(湿式沈殿機)を用いる方法によって、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッドを製造した。これを叩解機で処理して長さ加重平均繊維長を0.9mmに調製した(アラミドファイブリッドの濾水度:100cm3(カナディアンスタンダードフリーネス))。一方、デュポン社製メタアラミド繊維(ノーメックス(登録商標)、単糸繊度2デニール、繊維径15μm)を長さ6mmに切断(以下「アラミド短繊維」と記載)し抄紙用原料とした。
[実施例1~4]
上記のとおり調製したアラミドファイブリッド、アラミド短繊維をおのおの水中に分散してスラリーを作製した。このスラリーを、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維が表1に示す各配合比率(質量比)となるよう混合し、タッピー式手抄き機(断面積625cm2)にてシート状物を作製した。次いで、得られたシートを、1対の金属製カレンダーロールにより、ロールとアラミド紙が接する外周長を1mmとなるように調整した後、表1に示す各条件で2回熱圧加工し、アラミド紙を得た。このようにして得られたアラミド紙の主要特性値を表1に示す。
【0019】
表1
【0020】
表1の結果から、本発明(実施例1~4)のアラミド紙は、特定の熱圧加工を複数回行うことにより、薄く、且つ機械的特性と電気的特性を両立したアラミド紙が得られることがわかる。また、このようにして製造したアラミド紙は、アラミド素材の持つ高い耐熱性から、変圧器、モータなどの絶縁材料として有用である。
【0021】
[比較例1~4]
上記のとおり調製したアラミドファイブリッド、アラミド短繊維をおのおの水中に分散してスラリーを作製した。このスラリーを、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維が表2に示す各配合比率(質量比)となるよう混合し、タッピー式手抄き機(断面積625cm2)にてシート状物を作製した。次いで、得られたシートを、1対の金属製カレンダーロールにより、ロールとアラミド紙が接する外周長を1mmとなるように調整した後、表2に示す各条件で熱圧加工し、アラミド紙を得た。このようにして得られたアラミド紙の主要特性値を表2に示す。
【0022】
表2
【0023】
上記表2から明らかなように、比較例1~4のアラミド紙は、ある一定の薄さは得られているものの、高密度の紙が得られていない。更に、比較例1、2、4のアラミド紙は単位断面積あたりの引張強度も低い。したがって、薄い絶縁材料として変圧器、モータなどの機器の小型化、軽量化に有用な、薄く、且つ機械的特性と電気的特性を両立したアラミド紙を得るためには、上記実施例で例示したアラミド紙を用いることが有効であることが判明した。