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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】脱硝触媒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/30 20060101AFI20221128BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20221128BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20221128BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20221128BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20221128BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
B01J23/30 A ZAB
B01J37/04 102
B01J35/04 301Z
B01D53/94 222
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019044639
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020146610
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 広
(72)【発明者】
【氏名】田中 智明
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-126690(JP,A)
【文献】特開2016-187793(JP,A)
【文献】特開平05-184932(JP,A)
【文献】特表2014-519972(JP,A)
【文献】特開平11-342333(JP,A)
【文献】特開昭56-168835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/86
B01D 53/94
F01N 3/00 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンを含み、かつタングステンおよび/またはバナジウムを含む酸化物成分(A)、およびストークス法による平均粒子径が3.0μm以上のカオリナイト(B)を含有する脱硝触媒。
【請求項2】
前記酸化物成分(A)が、下記(A1)~(A4)のいずれか一つ以上を含む請求項1に記載の脱硝触媒。
(A1)酸化チタン
(A2)チタンおよびタングステンの二元複合酸化物
(A3)チタンおよびバナジウムの二元複合酸化物
(A4)チタン、タングステンおよびバナジウムの三元複合酸化物
【請求項3】
さらに強度付与剤(C)を含有する請求項1または2に記載の脱硝触媒。
【請求項4】
前記酸化物成分(A)の含有量が60~99質量%であり、前記カオリナイト(B)の含有量が1~40質量%である請求項1~3のいずれか一項に記載の脱硝触媒。
【請求項5】
成型物である請求項1~4のいずれか一項に記載の脱硝触媒。
【請求項6】
ハニカム形状成型物である請求項5に記載の脱硝触媒。
【請求項7】
圧縮強度が85N/cm2以上である請求項6に記載の脱硝触媒。
【請求項8】
チタンを含み、かつタングステンおよび/またはバナジウムを含む酸化物成分(A)の原料(a)、ストークス法による平均粒子径が3.0μm以上のカオリナイト(B)、および任意に他の成分を混合し、次いで任意に成型し、次いで焼成する脱硝触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硝触媒およびその製造方法に関し、より詳細には、重油または石炭焚きボイラー、各種化学装置に付設される燃焼炉、製鐵プラント、あるいはディーゼルエンジン、タービン等の内燃機関からの排ガス中に含有される窒素酸化物(以下「NOX」と略記する。)の還元無害化に好ましく用いられる脱硝触媒およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排ガス中のNOXをアンモニアなどの還元剤を使用して除去する脱硝触媒としては、一般に酸化チタン担体に酸化タングステン、酸化バナジウムなどの活性成分を担持した、ハニカム形状の触媒成型物が工業的に使用されている。工業的に使用される脱硝触媒成型物は、排ガス中に含まれるダスト、硫黄化合物(以下「SOX」と略記する。)などにも対処することが必要であるため、ただ単に脱硝活性が高いのみだけでなく、SO3への酸化能(SO3転化率)が低いこと、圧縮強度、摩耗強度が強いこと、使用に際して圧力損失が低いこと等の種々の性能が要求される。
【0003】
一般に、排ガス中に含まれるSOXの大部分はSO2であるが、このSO2の一部は脱硝触媒上で酸化されてSO3となり、このSO3は還元剤として使用するNH3の未反応分と結合して酸性硫安を生成し、後流の熱交換器などの装置の閉塞を起こし、また、SO3そのものが装置などの腐蝕を起こすなどの問題があった。そこでSO3転化率の低い脱硝触媒が望まれていた。
【0004】
本出願人らの提案にかかる特許文献1には、予めチタンとタングステン及びケイ素の三元系複合酸化物を形成せしめた後該酸化物にバナジウム化合物を添加することを特徴とする脱硝触媒の調製方法が開示されている。特許文献2には、チタンとタングステン及びケイ素の三元系複合酸化物と、酸化チタンまたはその前駆物質と、酸化バナジウムまたはその前駆物質とから製造される脱硝触媒成型物が開示されている。また特許文献3には、酸化チタンと酸化タングステンとの混合物からなる多孔質状成形物の表面付近にバナジウム化合物が局在した脱硝触媒が開示されている。これらの触媒は、脱硝活性が高く、かつSO3転化率が低いという特徴を有している。
【0005】
さらに、特許文献4には、酸化チタンおよび粒径0.1~100μの粘土系無機物質からなる担体に触媒活性成分として非貴金属遷移金属化合物(バナジウム、タングステン等の酸化物など)を担持させたアンモニア還元用触媒が開示されている。この触媒は、活性が高く、かつ耐圧強度に優れている。
【0006】
一方、脱硝活性の高い触媒であっても、ハニカム状、リング状、円柱状、球状などの所望の形状に成型できない限り、実用化は困難である。
触媒の成型性を改善するためには成型助剤が使用されることが多く、代表的な成型助剤として、粘土物質が一般的に用いられている。しかしながら、粘土物質は、その主成分がSiO2およびAl23であるため、チタン系脱硝触媒の成型にこれを使用すると脱硝活性の低下を招くことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭59-213442号公報
【文献】特開平11-342333号公報
【文献】特開昭56-168835号公報
【文献】特開昭52-126690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術には、脱硝活性が高く、SO3転化率が低く、ハニカム形状などに成型する際の成型性に優れ、かつ圧縮強度も高い脱硝触媒成型物を実現するという観点から、さらなる改善の余地があった。
【0009】
そこで本発明は、NOXおよびSOXを同時に含有する排ガスにアンモニアを加え、接触的に反応させるに際して、脱硝活性が高く(すなわち、NOX除去率が高く)、SO3転化率が低く、ハニカム形状などに成型する際の成型性に優れ、かつ圧縮強度が高い脱硝触媒およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究した結果、触媒基材に平均粒子径が3.0μm以上のカオリナイトを配合することにより上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成した。
本発明は以下の[1]~[8]に関する。
【0011】
[1]
チタンを含み、かつタングステンおよび/またはバナジウムを含む酸化物成分(A)、およびストークス法による平均粒子径が3.0μm以上のカオリナイト(B)を含有する脱硝触媒。
[2]
前記酸化物成分(A)が、下記(A1)~(A4)のいずれか一つ以上を含む前記[1]の脱硝触媒。
(A1)酸化チタン
(A2)チタンおよびタングステンの二元複合酸化物
(A3)チタンおよびバナジウムの二元複合酸化物
(A4)チタン、タングステンおよびバナジウムの三元複合酸化物
[3]
さらに強度付与剤(C)を含有する前記[1]または[2]の脱硝触媒。
[4]
前記酸化物成分(A)の含有量が60~99質量%であり、前記カオリナイト(B)の含有量が1~40質量%である前記[1]~[3]のいずれかの脱硝触媒。
[5]
成型物である前記[1]~[4]のいずれかの脱硝触媒。
[6]
ハニカム形状成型物である前記[5]の脱硝触媒。
[7]
圧縮強度が85N/cm2以上である前記[6]の脱硝触媒。
[8]
チタンを含み、かつタングステンおよび/またはバナジウムを含む酸化物成分(A)の原料(a)、ストークス法による平均粒子径が3.0μm以上のカオリナイト(B)、および任意に他の成分を混合し、次いで任意に成型し、次いで焼成する脱硝触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の脱硝触媒は、脱硝活性が高く、SO3転化率が低く、圧縮強度が高く、かつ成型性に優れる。このため、本発明の脱硝触媒の使用により、排ガス中のNOXを効果的かつ経済的に還元無害化するとともに、SO3への転化率が低いため装置の腐蝕を抑制できる。
【0013】
さらに、本発明の製造方法によれば、脱硝活性が高く、SO3転化率が低く、圧縮強度が高く、かつ成型性に優れる脱硝触媒を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳述する。
[脱硝触媒]
本発明の脱硝触媒は、チタンを含み、かつタングステンおよび/またはバナジウムを含む酸化物成分(A)、およびストークス法による平均粒子径が3.0μm以上のカオリナイト(B)を含有することを特徴としている。
【0015】
(A)酸化物成分:
酸化物成分(A)は、チタンを含み、かつタングステンおよび/またはバナジウムを含む酸化物成分である。換言すると、酸化物成分(A)は金属の酸化物であって、前記金属としてチタンを含み、かつタングステンおよび/またはバナジウムを含む。
【0016】
酸化物成分(A)は、好ましくは下記(A1)~(A4)のいずれか一つ以上を含む。
(A1)酸化チタン;
(A2)チタンおよびタングステンの二元複合酸化物(以下「TiO2-WO3二元複合酸化物」とも記載する。);
(A3)チタンおよびバナジウムの二元複合酸化物(以下「TiO2-V25二元系複合酸化物」とも記載する。);
(A4)チタン、タングステンおよびバナジウムの三元複合酸化物(以下「TiO2-WO3-V25三元系複合酸化物」とも記載する。)。
【0017】
前記TiO2-WO3二元系複合酸化物、前記TiO2-V25二元系複合酸化物、および前記TiO2-WO3-V25三元系複合酸化物)は、酸化チタン、酸化タングステンおよび/または酸化バナジウムを単に混合したものではなく、予め該二元系または該三元系複合酸化物を形成せしめることにより、その特異な性能が発現するものである。チタンとタングステンおよび/またはバナジウムの二元系または三元系複合酸化物を使用する有利点は、得られる触媒が高い脱硝活性と低いSO3転化率を示すことにある。
【0018】
酸化物成分(A)としては、酸化チタンと、タングステンを含む前駆物質および/またはバナジウムを含む前駆物質の溶液とを混合し、さらにアンモニア水を加えてタングステンおよび/またはバナジウムを含む酸化物成分を沈殿させ、次いで前記溶液中の溶媒を除去し、固形分残渣を焼成(焼成温度は、例えば300~800℃である。)して得られるものも挙げられる。
【0019】
前記酸化物成分(A)におけるバナジウムの含有量(V25含有量に換算。)は、SO3転化率を抑える観点からは、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、脱硝活性が高くかつ成型性が良好であることから、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下である。
【0020】
前記酸化物成分(A)におけるタングステンの含有量(WO3含有量に換算。)は、好ましくは1~40質量%、より好ましくは2~25質量%である。
チタンの含有量(TiO2含有量に換算。)は、前記酸化物成分(A)の量からバナジウムの含有量(V25含有量に換算。)およびタングステンの含有量(WO3含有量に換算。)を差し引いた量(バランス)である。
【0021】
前記TiO2-WO3二元系複合酸化物、前記TiO2-V25二元系複合酸化物、および前記TiO2-WO3-V25三元系複合酸化物は、例えば、特開平11-342333号公報に記載されている方法で調製される。具体的には以下の方法が例示される。
【0022】
(1)四塩化チタン、硫酸チタニル、テトラアルコキシチタンなどの水溶性チタン化合物の液または水溶液にアンモニア水、水などを加え加水分解してチタンの水酸化物を得る。これにパラタングステン酸アンモン、メタタングステン酸アンモンなどのタングステンの水溶性塩等からなる酸化タングステンの前駆物質をそのまま、または水溶液として、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸バナジルなどのバナジウムの水溶性塩等からなる酸化バナジウムの前駆物質をそのまま、または水溶液として、同時または順次加え、混合した後、乾燥し、更に150~800℃で焼成する。
【0023】
(2)前述のチタンの水溶性化合物と前述の酸化バナジウムの前駆物質および前述の酸化タングステンの前駆物質とを混合し、アンモニア水を加えて沈殿を生じさせ、この沈殿を洗浄、乾燥後150~800℃で焼成する。
【0024】
(3)酸化チタン粉末と前述の酸化バナジウムの前駆物質および前述の酸化タングステンの前駆物質とを混合し、アンモニア水を加えて沈殿を生じさせ、この沈殿を洗浄、乾燥後150~800℃で焼成する。
【0025】
(4)メタチタン酸に前述の酸化バナジウムの前駆物質と前述の酸化タングステンの前駆物質を加え、混合、乾燥後、150~800℃で焼成する。
【0026】
(B)カオリナイト:
本発明の脱硝触媒は、カオリナイト(B)を含有する。カオリナイト(B)の、以下に詳述するストークス法による平均粒子径は3.0μm以上であり、より好ましくは3.2μm以上である。一方、平均粒子径が3.0μmよりも過度に小さい場合は、成型時にひび割れが発生するなど成型性に劣り、脱硝活性が低下する。
カオリナイト(B)の平均粒子径は、脱硝触媒の成型性に優れ、SOx転化率が低いという観点からは、好ましくは7.0μm以下であり、より好ましくは6.0μm以下である。
【0027】
<ストークス法による平均粒子径の測定方法>
純水とピロリン酸ソーダにて調製した0.2%のピロリン酸ソーダ溶液にカオリナイトを加え、懸濁液(固形分濃度1質量%)を調製する。調製した懸濁液を超音波分散機にて5分間分散処理をした後、X線透過式沈降法粒度分布測定装置(たとえば、MICROMERITICS社製のSediGraphTM III5120)を用いて、液中のカオリナイトの平均粒子径(ストークス径)を測定する。
【0028】
(C)強度付与剤:
本発明の脱硝触媒は、好ましくは強度付与剤(C)を含む。本発明の脱硝触媒は、強度付与剤(C)を含むと、機械的強度(圧縮強度等)により一層優れる。
前記強度付与剤(C)の例としては、無機繊維、合成繊維、セラミック粉体が挙げられる。
【0029】
前記無機繊維の例としては、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維が挙げられ、前記合成繊維の例としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリアクリロニトリル繊維等が挙げられ、前記セラミック粉体の例としては、コージェライト、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素等の粉体が挙げられる。
【0030】
本発明の脱硝触媒における前記酸化物成分(A)の含有量は、高い脱硝活性を発現させる観点からは、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、脱硝触媒がハニカム成形体である場合にはさらに好ましくは75質量%以上であり、高い成型性を発現させる観点からは、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下、脱硝触媒がハニカム成形体である場合にはさらに好ましくは96質量%以下である。
【0031】
本発明の脱硝触媒における前記カオリナイト(B)の含有量は、高い成型性を発現させ、高い圧縮強度を発現させ、かつSO3転化率を抑制する観点からは、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、脱硝触媒がハニカム成形体である場合にはさらに好ましくは4質量%以上であり、高い脱硝活性を発現させる観点からは、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、脱硝触媒がハニカム成形体である場合にはさらに好ましくは25質量%以下である。
【0032】
本発明の脱硝触媒における前記強度付与剤(C)の含有量は、高い圧縮強度を発現させ、かつ高い脱硝活性を発現させる観点からは、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、SO3転化率を抑制する観点からは、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0033】
本発明の脱硝触媒は、以下に詳述するBET法によって測定した比表面積(SABET)が35~100m2/gであることが好ましく、40~90m2/gであることがより好ましい。
【0034】
<BET法(BET比表面積)の測定方法>
乾燥させた試料(0.2g)を測定セルに入れ、窒素ガス気流中、300℃で60分間脱ガス処理を行い、その上で試料を窒素30体積%とヘリウム70体積%の混合ガス気流中で液体窒素温度に保ち、窒素を試料に平衡吸着させる。次に、上記混合ガスを流しながら試料の温度を徐々に室温まで上昇させ、その間に脱離した窒素の量を検出し、予め作成した検量線により、試料の比表面積を測定する。
【0035】
このようなBET比表面積測定法(窒素吸着法)は、例えば従来公知の表面積測定装置を用いて行うことができる。
本発明の脱硝触媒は、水銀圧入ポロシメトリー法によって測定した細孔容積(PVHg)が0.1~1.0ml/gであることが好ましく、0.3~0.8ml/gであることがより好ましい。
【0036】
水銀圧入ポロシメトリー法とは、ポロシメーターを使用する水銀圧入法であり、例えば従来公知の測定装置を用いて測定することができる。
本発明の脱硝触媒は成型物(以下「脱硝触媒成型物]とも記載する。)であってもよく、脱硝触媒成型物の形状としては、ハニカム状、リング状、円柱状、球状などが挙げられる。特に、ハニカム形状の脱硝触媒成型物は、使用に際して圧力損失が低いので好適である。
【0037】
本発明の脱硝触媒は、ハニカム状の脱硝触媒成型物である場合、以下に詳説する方法により測定される圧縮強度が、好ましくは85N/cm2以上であり、より好ましくは85~110N/cm2である。圧縮強度が前記範囲にあると、工業触媒として実際の使用に好ましい。
【0038】
<圧縮強度の測定方法>
ハニカム状の脱硝触媒成型物から一辺70mmの立方体形状(ただし、向かい合う2つの面の法線方向と、ハニカム構造中のセルの長手方向とを一致させる。)の測定試料を切り出し、これを圧縮強度試験機(例:東京試験機製作所製:型式AC/B30P、最大圧縮荷重30000kN)に乗せ、測定試料におけるハニカム構造中のセルの長手方向と直角をなす方向に負荷を与え、測定試料が完全に破壊された際の荷重(以下「最大荷重」と記載する。)を読みとり、次式により圧縮強度(N/cm2)を算出する。
圧縮強度(N/cm2)=最大荷重(N)/(7.0(cm)×7.0(cm))
【0039】
本発明の脱硝触媒は、NOXを含有する排ガス、特にボイラー排ガスなどのようにNOX、SOXを含有するほか重金属、ダストを含有する排ガスに、アンモニアなどの還元剤を添加して接触還元するNOX除去法に好適に使用される。
【0040】
本発明の脱硝触媒の使用条件としては、通常の脱硝処理条件が採用され、具体的には、反応温度は150~600℃、空間速度は1,000~100,000h-1の範囲などが例示される。
【0041】
[脱硝触媒の製造方法]
本発明の脱硝触媒の製造方法は、チタンを含み、かつタングステンおよび/またはバナジウムを含む酸化物成分(A)の原料(a)、ストークス法による平均粒子径が3.0μm以上のカオリナイト(B)、および任意に他の成分を混合し、次いで任意に成型し、次いで焼成することを特徴としている。
【0042】
本発明の脱硝触媒の製造方法の一例としては、酸化チタンと、タングステンを含む前駆物質および/またはバナジウムを含む前駆物質あるいはその溶液と(以上は原料(a)である。)、前記カオリナイト(B)とを混合し、さらにアンモニア水を加えてタングステンおよび/またはバナジウムを含む酸化物成分を沈殿させ、次いで、任意に前記強度付与剤(C)を加え、任意に加工助剤(D)を加えてさらに混合した後に成型し、次いで前記溶液中の溶媒を除去し、次いで焼成する方法が挙げられる。
【0043】
酸化チタンは、好ましくは粉末状である。
タングステンを含む前駆物質の例としては、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウムなどのタングステンの水溶性塩が挙げられる。
【0044】
バナジウムを含む前駆物質の例としては酸化バナジウム、硫酸バナジル、蓚酸バナジル、メタバナジン酸アンモニウムなどのバナジウムの水溶性塩が挙げられる。
加工助剤(D)は、成型に供する混合物の成型性を高めるために添加され、その例としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアマイド、ポリビニルアルコール、でん粉などの有機物が挙げられる。
【0045】
原料(a)、カオリナイト(B)および強度付与剤(C)の量は、好ましくは、製造される脱硝触媒における酸化物成分(A)、カオリナイト(B)および強度付与剤(C)の各成分の割合が上述の範囲内となるように設定される。また酸化チタン、タングステンを含む前駆物質およびバナジウムを含む前駆物質の量は、好ましくは、製造される酸化物成分(A)中のチタン、タングステンおよびバナジウムの割合が上述の範囲となるように設定される。
【0046】
タングステンを含む前駆物質および/またはバナジウムを含む前駆物質の溶液の溶媒は、好ましくは水である。溶媒には水溶性塩の水溶性を高めるための助剤(モノエタノールアミンなど)が含まれていてもよい。
【0047】
前記溶液の溶媒を除去する方法としては、自然乾燥、熱風乾燥等が挙げられる。
焼成は、好ましくは300~800℃で行われる。
焼成は、好ましくは0.5~~24時間行われる。
さらに、焼成は、好ましくは大気雰囲気または不活性ガス雰囲気で行われる。
本発明の製造方法により、上述した本発明の脱硝触媒を製造することができる。
【実施例
【0048】
以下に、実施例を示し本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<評価方法>
(脱硝性能)
実施例等で製造された脱硝触媒成型物から所定の形状に切り出した測定試料を流通式反応器に充填し、下記条件で脱硝率を測定した。脱硝率は触媒接触前後のガス中の窒素酸化物NOxの濃度をケミルミ式窒素酸化物分析計にて測定し次式により求めた。
脱硝率(%)=[未接触ガス中のNOx(ppm)-接触ガス中のNOx(ppm)]/未接触ガス中NOx(ppm)×100
試験条件
・触媒形状:3×3目、長さ300mm
・反応温度:380℃
・SV:10000h-1
・ガス組成:NOx=180ppm、NH3=216ppm、O2=2%、SO2=500ppm、H2O=10%、N2=バランス
【0049】
(SOX酸化能)
実施例等で製造された脱硝触媒成型物から所定の形状に切り出した測定試料を流通式反応器に充填し、下記条件でSO3転化率を測定した。SO3転化率は触媒接触前後のガス中のSO2濃度を赤外線式SO2ガス濃度測定計により測定し次式により求めた。
SO3転化率(%)=[未接触ガス中のSO2(ppm)-接触ガス中のSO2(ppm)]/未接触ガス中SO2(ppm)×100
試験条件
・触媒形状:3×3目、長さ300mm
・反応温度:380℃
・SV:10000h-1
・ガス組成:O2=2%、SO2=500ppm、N2=バランス
【0050】
(成型性)
実施例等で製造された脱硝触媒成型物、およびその製造過程(乾燥後かつ焼成前)の外観を目視で観察した。
【0051】
(圧縮強度)
実施例等で製造された脱硝触媒成型物から一辺70mmの立方体形状(ただし、向かい合う2つの面の法線方向と、ハニカム構造中のセルの長手方向とを一致させる。)の測定試料を切り出し、これを、圧縮強度試験機(東京試験機製作所製:型式AC/B30P、最大圧縮荷重30000kN)に乗せ、測定試料におけるハニカム構造中のセルの長手方向と直角をなす方向に負荷を与え、最大荷重(N)を読みとり、次式により定義される圧縮強度(N/cm2)を算出した。
圧縮強度(N/cm2)=最大荷重(N)/(7.0(cm)×7.0(cm))
【0052】
(細孔容積)
実施例等で製造された脱硝触媒成型物の細孔容積を、水銀圧入ポロシメトリー法により測定した。
【0053】
(比表面積)
実施例等で製造された脱硝触媒成型物の比表面積を、BET法により測定した。
【0054】
[実施例1]
メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)168.2gを、モノエタノールアミン200gと純水2000mlとの混合溶液中で、105℃で煮沸溶解して、バナジウム塩溶液Aを得た。バナジウム塩溶液Aと、酸化チタン粉末(石原産業(株)製、MC-90)20.77kgと、平均粒子径5.0μmのカオリナイト(IMERYS社製、HydriteFlat DS)を乾燥基準で2500gと、パラタングステン酸アンモニウム1500gとをニーダーに入れ、かき混ぜながら、さらに500m1の15%アンモニア水および2000mlの純水を加えてこれらを混合した。その後、混合しながら加熱して水分を蒸発させた。混合物がスラリー状から粘土状に変化した時点で加熱をやめ、混合物に加工助剤としてカルボキシメチルセルロース60gとポリビニルアルコール60gと強度付与剤としてEガラスチョップストランド(繊維長さ5mm、繊維径9μm:日東紡績(株)製)1250gを加え混合捏和して、混合捏和物Aを得た。
【0055】
この混合捏和物Aを、ハニカム押し出し用ダイスを備えたスクリュー付真空押出機で、ハニカム状に成型した。この成型物を十分時間をかけて自然乾燥した後、60℃の熱風で通風しながら2日間乾燥後、軸方向(長手方向)の両端を切り揃え電気炉で、大気雰囲気下、600℃、5時間焼成してセルピッチ7.4mm、壁厚1.0mm、長手方向の断面形状が一辺70mmの正方形、長さ500mmのハニカム状である脱硝触媒成型物Aを得た。脱硝触媒成型物Aの評価結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
カオリナイトを乾燥基準で2500gの平均粒子径3.5μmのカオリナイト(BASF社製、ASP-400P)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、脱硝触媒成型物Bを得た。脱硝触媒成型物Bの評価結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
酸化チタン粉末の量を22.09kgに変更し、カオリナイトを乾燥基準で1250gの平均粒子径が3.5μmのカオリナイト(BASF社製、ASP-400P)に変更したこと以外は実施例1と同じ方法により、脱硝触媒成型物Cを得た。硝触媒成型物Cの評価結果を表1に示す。
【0058】
[実施例4]
メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)336.4gを、モノエタノールアミン400gと純水4000mlとの混合溶液中で、105℃で煮沸溶解してバナジウム塩溶液Bを得た。バナジウム塩溶液Aをバナジウム塩溶液Bに変更し、酸化チタン粉末の量を20.63kgに変更したこと以外は実施例2と同様の方法により、脱硝触媒成型物Dを得た。脱硝触媒成型物Dの評価結果を表1に示す。
【0059】
[実施例5]
酸化チタン粉末の量を17.99kgに変更し、平均粒子径3.5μmのカオリナイトの量を乾燥基準で5000gに変更したこと以外は実施例4と同様の方法により、脱硝触媒成型物Eを得た。脱硝触媒成型物Eの評価結果を表1に示す。
【0060】
[比較例1]
酸化チタン粉末の量を23.41kgに変更し、カオリナイトを用いなかったこと以外は実施例1と同様の方法により、脱硝触媒成型物R1を得た。脱硝触媒成型物R1の評価結果を表1に示す。
【0061】
[比較例2]
カオリナイトを乾燥基準で2500gの平均粒子径2.6μmの酸性白土(水沢化学工業(株)製、ミズカエース♯400)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、脱硝触媒成型物R2を得た。脱硝触媒成型物R2の評価結果を表1に示す。
【0062】
[比較例3]
平均粒子径3.5μmのカオリナイトを乾燥基準で2500gの平均粒子径0.25μmのカオリナイト(KaMin and CADAM社製、AMAZON Plus)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、脱硝触媒成型物R3を得た。脱硝触媒成型物R3の評価結果を表1に示す。
【0063】
[比較例4]
カオリナイトを乾燥基準で2500gの平均粒子径1.2μmのカオリナイト(Thile社製、RC-32)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、脱硝触媒成型物R4を得た。脱硝触媒成型物R4の評価結果を表1に示す。
【0064】
[比較例5]
カオリナイトを乾燥基準で2500gの平均粒子径3.0μmのモルデナイト(新東北化学工業(株)の天然ゼオライトCP(モルデナイト)を乾式粉砕機にて粉砕処理して得れたもの)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、脱硝触媒成型物R5を得た。脱硝触媒成型物R5の評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例の触媒成型物は、成型性が良く、圧縮強度が高く、脱硝率が高く、かつSO3転化率が低かった。