(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20221128BHJP
C03B 17/06 20060101ALI20221128BHJP
C03C 3/089 20060101ALI20221128BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C03C3/091
C03B17/06
C03C3/089
G09F9/00 302
(21)【出願番号】P 2019071083
(22)【出願日】2019-04-03
(62)【分割の表示】P 2015057573の分割
【原出願日】2015-03-20
【審査請求日】2019-04-03
【審判番号】
【審判請求日】2020-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2014076596
(32)【優先日】2014-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2014087828
(32)【優先日】2014-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2014106847
(32)【優先日】2014-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2014216332
(32)【優先日】2014-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2014230599
(32)【優先日】2014-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村田 隆
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 敦己
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】後藤 政博
【審判官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-134988(JP,A)
【文献】特開2010-241676(JP,A)
【文献】特表2014-504250(JP,A)
【文献】特開2001-151534(JP,A)
【文献】特開2004-244271(JP,A)
【文献】特開2011-42508(JP,A)
【文献】特開平8-333137(JP,A)
【文献】特開2010-241676(JP,A)
【文献】特開2011-136895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
C03B 23/203
C03B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚が0.6mm以下であり、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 50~70%、Al
2O
3 0~11%、B
2O
3 20~30%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 2~10%、CaO 0~5.5%、SrO 0~3%、BaO 0~3%、ZnO 0~5%を含有し、B
2O
3-Al
2O
3が9質量%以上であることを特徴とするガラス板。
【請求項2】
ガラス組成として、質量%で、Al
2O
3 7~11%を含有することを特徴とする請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
ガラス組成として、質量%で、MgO+CaO+SrO+BaO 3~8%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス板。
【請求項4】
B
2O
3-(MgO+CaO+SrO+BaO)が12質量%以上であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のガラス板。
【請求項5】
質量比で(SrO+BaO)/(MgO+CaO)が1以下であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のガラス板。
【請求項6】
密度が2.40g/cm
3以下、30~380℃の温度範囲における熱膨張係数が25~40×10
-7/℃、歪点が610℃以下、且つヤング率が66GPa以下であることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のガラス板。
【請求項7】
液相粘度が10
5.0dPa・s以上であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載のガラス板。
【請求項8】
オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載のガラス板。
【請求項9】
カバーガラスに用いることを特徴とする請求項1~8の何れかに記載のガラス板。
【請求項10】
イオン交換処理されていないことを特徴とする請求項1~9の何れかに記載のガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスに関し、具体的には携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、太陽電池、チップサイズパッケージ(CSP)、電荷結合素子(CCD)、等倍近接型固体撮像素子(CIS)のカバーガラス、特にタッチパネルディスプレイのカバーガラスに好適なガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、PDA等のデバイスは、益々普及する傾向にある。これらの用途には、イオン交換処理された強化ガラスが、タッチパネルディスプレイのカバーガラスとして用いられている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
従来まで、強化ガラスは、予めガラス板を所定形状に切断した後、イオン交換処理を行うこと、所謂、「強化前切断」で作製されていたが、近年、大型の強化用ガラス板をイオン交換処理した後、タッチセンサー等の膜を形成し、所定サイズに切断すること、所謂、「強化後切断」が検討されている。強化後切断を行うと、デバイスの製造効率が飛躍的に向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】泉谷徹郎等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451-498
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、カバーガラスには、(1)傷が付き難いこと、(2)落下衝撃強度が高いことが要求される。従来のカバーガラスは、上記(1)、(2)の特性を満たすために、イオン交換処理により、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスとされている。
【0007】
しかし、イオン交換処理は、カバーガラスの製造コストを高騰させる。
【0008】
また、強化後切断を行う場合、表面に存在する圧縮応力層が障壁になるため、切断時に強化ガラスが破損し易くなると共に、切断後に圧縮応力層が存在しない領域が端面に露出するため、端面強度が低下し易くなる。更に強化ガラスの表面にタッチセンサー等の膜を形成する場合、強化ガラスの面内強度が低下し易くなる。
【0009】
更に、近年では、大型テレビにもカバーガラスを用いることが検討されており、そのカバーガラスには、強化ガラスが使用されている。しかし、従来の強化ガラスは、十分に軽量であるとは言えず、大型デバイスの軽量化に資するものではない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み成されたものであり、その技術的課題は、イオン交換処理しなくても、傷が付き難く、落下衝撃強度が高く、しかも軽量なガラスを創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、種々の実験を繰り返した結果、ガラス組成範囲を所定範囲に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50~70%、Al2O3 0~20%、B2O3 15~30%、Li2O+Na2O+K2O 0~3%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~12%を含有することを特徴とする。ここで、「Li2O+Na2O+K2O」は、Li2O、Na2O及びK2Oの合量を指す。「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量を指す。
【0012】
本発明のガラスは、ガラス組成中にB2O3を15質量%以上含む。このようにすれば、耐スクラッチ性、耐クラック性を高めることができる。更にヤング率が低下するため、落下衝撃性も高めることができる。更に、本発明のガラスは、ガラス組成中のLi2O+Na2O+K2Oの含有量を3質量%以下、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量を12質量%以下、好ましくは8質量%以下に規制している。このようにすれば、密度が低下し易くなり、結果としてカバーガラスを軽量化し易くなる。
【0013】
また本発明のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 58~70%、Al2O3 7~20%、B2O3 18~30%、Li2O+Na2O+K2O 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~10%を含有することが好ましい。
【0014】
また本発明のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50~70%、Al2O3 0~15%、B2O3 15~30%、Li2O+Na2O+K2O 0~3%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~8%を含有することが好ましい。
【0015】
また本発明のガラスは、B2O3-(MgO+CaO+SrO+BaO)が5質量%以上であることが好ましい。ここで「B2O3-(MgO+CaO+SrO+BaO)」とは、B2O3の含有量から、MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量の合量を減じた値を指す。
【0016】
例えば板厚200μm以下のフィルム状ガラスの場合、軽量であること、及びロール状に巻き取る際に有利なように小さい曲率半径で曲げられることが求められる。そこで上記構成を採用すれば、低密度で且つ低ヤング率のガラスを得やすくなり、フィルム状ガラス材質として好適である。
【0017】
また本発明のガラスは、質量比で(SrO+BaO)/(MgO+CaO)が1以下であることが好ましい。ここで「(SrO+BaO)/(MgO+CaO)」とは、SrOとBaOの含有量の合量をMgOとCaOの含有量の合量で除した値を指す。
【0018】
上記構成を採用すれば、低密度のガラスを得やすくなり、フィルム状ガラス材質として好適である。
【0019】
また本発明のガラスは、質量基準でB2O3の含有量がAl2O3の含有量よりも多いこと(すなわち、B2O3-Al2O3が0質量%超であること)が好ましい。
【0020】
上記構成を採用すれば、低ヤング率のガラスを得やすくなり、フィルム状ガラス材質として好適である。
【0021】
また本発明のガラスは、液相粘度が105.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値を指す。
【0022】
また本発明のガラスは、密度が2.40g/cm3以下(特に2.30g/cm3以下)、30~380℃の温度範囲における熱膨張係数が25~40×10-7/℃、歪点が610℃以下、且つヤング率が66GPa以下(特に65GPa以下)であることを特徴とする。ここで、「密度」は、周知のアルキメデス法で測定可能である。「30~380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、ディラトメーターで測定した平均値を指す。「歪点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。「ヤング率」は、周知の共振法で測定した値を指す。
【0023】
また本発明のガラスは、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。ここで、「オーバーフローダウンドロー法」は、溶融ガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス板を作製する方法である。
【0024】
また本発明のガラスは、カバーガラスに用いることが好ましい。
【0025】
また本発明のガラスは、イオン交換処理されていないことが好ましい。このようにすれば、カバーガラスの製造コストを低廉化することができる。
【0026】
ところで本発明のガラスをカバーガラス等として使用する場合、指紋等の付着による汚れが問題となり易い。このような場合、ガラス表面に光触媒粒子が担持されていることが好ましい。
【0027】
このような構成とすれば、光触媒粒子の作用によって、表面に付着した指紋等の汚れを分解除去することができる。
【0028】
またB2O3を多量に含有するガラスは分相傾向が強く、特別な熱処理を行わなくても表面が分相している場合がある。このようなガラスに酸処理を施せば、表面部分が多孔質になり、比表面積の大きいガラスを容易に得ることが可能になる。
【0029】
また本発明のガラスは、ガラス表面が多孔質状であることが好ましい。ここで「表面が多孔質状」であるとは、表面のみが多孔質状であること、言い換えれば粒子全体が多孔質体でない、ということを意味する。「多孔質状」とは、無数の孔が存在する状態を意味しているが、必ずしも孔同士が連通している必要はない。
【0030】
上記構成を採用すれば、ガラス表面に多くの光触媒粒子を担持することができ、また多くの有機物を光触媒体表面に吸着できることから、光触媒機能を大幅に向上させることができる。
【0031】
また本発明のガラスは、光触媒粒子が酸化チタン粒子であることが好ましい。
【0032】
上記構成を採用すれば、太陽光など紫外光を含む光が照射されると、汚れや菌などの有機物を素早く分解し、防汚や抗菌・抗カビなどの優れた効果が得られる。
【0033】
本発明のカバーガラスは、ガラス表面が多孔質状であり、且つ光触媒粒子が担持されていることを特徴とする。
【0034】
上記構成のカバーガラスは、光触媒粒子の作用によって、表面に付着した指紋等の汚れを分解除去可能であるから、清浄な状態を維持することが容易である。
【0035】
本発明のガラスの製造方法は、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50~70%、Al2O3 0~20%、B2O3 15~30%、Li2O+Na2O+K2O 0~3%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~12%を含有するガラスとなるように調製した原料バッチを溶融し、成形することを特徴とする。より好適には、質量%で、SiO2 58~70%、Al2O3 7~20%、B2O3 18~30%、Li2O+Na2O+K2O 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~10%含有するガラスや、質量%で、SiO2 50~70%、Al2O3 0~15%、B2O3 15~30%、Li2O+Na2O+K2O 0~3%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~8%を含有するガラスとなるように原料バッチを調製することが好ましい。
【0036】
また本発明の製造方法は、さらにガラス表面に光触媒成分を含む溶液を塗布した後、熱処理してガラス表面に光触媒粒子を担持させることが好ましい。
【0037】
上記構成を採用すれば、ガラス表面に光触媒粒子を容易に担持させることができる。
【0038】
また本発明の製造方法は、ガラス表面を酸処理した後、光触媒成分を含む溶液を塗布することが好ましい。
【0039】
上記構成を採用すれば、基材となるガラスの表面が多孔質状となり、比表面積を大きくできることから、多量の光触媒粒子を担持させることが可能になる。
【0040】
また本発明の製造方法は、光触媒成分を含む溶液として、酸化チタン粒子が分散した溶液を使用することが好ましい。
【0041】
上記構成を採用すれば、汚れや菌などの有機物を素早く分解できる酸化チタン粒子をガラス表面に容易に塗布することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明のガラスにおいて、上記のように各成分の含有量を限定した理由を以下に示す。なお、以下の%表示は、特に断りがある場合を除き、質量%を指す。
【0043】
SiO2の含有量は、好ましくは50~70%、53~70%、55~70%、58~70%、60~70%、62~69%、特に62~67%である。SiO2の含有量が少な過ぎると、密度が高くなり易い。一方、SiO2の含有量が多過ぎると、高温粘度が高くなって、溶融性が低下することに加えて、ガラス中に失透結晶(クリストバライト)等の欠陥が生じ易くなる。
【0044】
Al2O3は任意成分であるが、その含有量が少な過ぎると、耐スクラッチ性、耐クラック性、耐熱性が低下し易くなる。また分相により透過率が低下し易くなる。よって、Al2O3の好適な下限範囲は0%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、特に9%以上である。一方、Al2O3には、ヤング率を高める働きがあるが、その含有量が多過ぎると、ヤング率が高くなり過ぎて、耐衝撃強度が低下し易くなる。またフィルム状ガラスとする場合には、曲率半径を小さくすることが難しくなる。さらにAl2O3の含有量が多過ぎると、液相温度が高くなって、耐失透性が低下し易くなる。よって、Al2O3の好適な上限範囲は20%以下、19%以下、18%以下、17%以下、15%以下、13%未満、12%以下、特に11%以下である。
【0045】
B2O3は、耐スクラッチ性、耐クラック性を高める成分であり、またヤング率を低下させる成分である。更に密度を低下させる成分である。また誘電損失や、振動損失を少なくする成分である。さらに分相を誘起しやすくする成分である。ガラスが分相していれば、酸処理によってガラス表面を多孔質状に改質しやすくなり、光触媒粒子を担持させて高度な光触媒活性機能を得ることが可能になる。B2O3の含有量は15~30%が好ましい。B2O3の含有量が少な過ぎると、耐スクラッチ性、耐クラック性が低下し易くなることに加えて、ヤング率が高くなって、耐衝撃性が低下し易くなる。またフィルム状ガラスとする場合には、曲率半径を小さくすることが難しくなる。さらに融剤としての働きが不十分になり、高温粘性が高くなって、泡品位が低下し易くなる。更に低密度化を図り難くなる。よって、B2O3の好適な下限範囲は15%以上、18%以上、20%以上、20%超、22%以上、24%以上、特に25%以上である。一方、B2O3の含有量が多過ぎると、耐熱性、化学的耐久性が低下し易くなったり、分相により透過率が低下し易くなる。よって、B2O3の好適な上限範囲は30%以下、28%以下、27%以下である。
【0046】
B2O3-Al2O3は、0%超、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、特に10%以上である。この値が大きいほどヤング率が低下し易くなるため、落下衝撃強度を高め易くなる。またフィルム状ガラスとする場合には、曲率半径を小さくすることが容易になる。なお、「B2O3-Al2O3」は、B2O3の含有量からAl2O3の含有量を減じたものである。
【0047】
アルカリ金属酸化物は、溶融性、成形性を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、密度が高くなったり、耐水性が低下したり、熱膨張係数が不当に高くなって、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。またアルカリ金属酸化物は、表面に光触媒粒子を担持させた場合に、光触媒活性機能を低下させる。よって、Li2O+Na2O+K2Oの含有量は、好ましくは0~3%、0~2%、0~1%、0~0.5%、0~0.2%、0~0.1%、特に0~0.1%未満である。Li2O、Na2O及びK2Oのそれぞれの含有量は、好ましくは0~3%、0~2%、0~1%、0~0.5%、0~0.2%、0~0.1%、特に0~0.1%未満である。なお、アルカリ金属酸化物の含有量が少ないと、SiO2膜等のアルカリバリア膜が不要になる。
【0048】
アルカリ土類金属酸化物は、液相温度を下げて、ガラス中に結晶異物を発生させ難くする成分であり、また溶融性や成形性を高める成分である。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は、好ましくは0~12%、0~10%、0~8%、0~7%、1~7%、2~7%、3~9%、特に3~6%である。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が少な過ぎると、融剤としての働きを十分に発揮できず、溶融性が低下することに加えて、耐失透性が低下し易くなる。一方、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多過ぎると、密度が上昇して、ガラスの軽量化を図り難くなることに加えて、熱膨張係数が不当に高くなって、耐熱衝撃性が低下し易くなる。またガラスの分相性が悪化する。さらにヤング率が高くなり、フィルム状ガラスとする場合には、曲率半径を小さくすることが難しくなる。
【0049】
質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3が小さ過ぎると、耐失透性が低下して、オーバーフローダウンドロー法でガラス板を成形し難くなる。一方、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3が大き過ぎると、密度、熱膨張係数が不当に上昇する虞がある。よって、質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3は、好ましくは0.1~1.2、0.2~1.2、0.3~1.2、0.4~1.1、特に0.5~1.0である。なお、「(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3」は、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量をAl2O3の含有量で除した値を指す。
【0050】
質量比(SrO+BaO)/B2O3は、好ましくは0.1以下、0.05以下、0.03以下、特に0.02以下である。このようにすれば、耐スクラッチ性、耐クラック性を高め易くなる。なお、「SrO+BaO」は、SrOとBaOの合量である。また、「(SrO+BaO)/B2O3」は、SrO+BaOの含有量をB2O3の含有量で除した値を指す。
【0051】
また質量比B2O3/(SrO+BaO)は、好ましくは10以上、20以上、30以上、40以上、特に50以上である。このようにすれば、耐スクラッチ性、耐クラック性を高め易くなる。なお、「B2O3/(SrO+BaO)」は、SrO+BaOの含有量をB2O3の含有量で除した値を指す。
【0052】
B2O3-(MgO+CaO+SrO+BaO)は、好ましくは5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、特に12%以上である。このようにすれば、密度が低下し易くなるため、デバイスの軽量化を図り易くなる。またヤング率が小さくなる。
【0053】
MgOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げ、溶融性を高める成分であり、またアルカリ土類金属酸化物の中では最も密度を下げる効果がある成分である。更に耐クラック性を高める成分である。また分相を誘起しやすくする成分でもある。ガラスが分相していれば、酸処理によってガラス表面を多孔質状に改質しやすくなり、光触媒粒子を担持させて高度な光触媒活性機能を得ることが可能になる。MgOの含有量は、好ましくは0~12%、0~10%、0~8%、0.1~6%、0.5~3%、特に1~2%である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、液相温度が上昇して、耐失透性が低下し易くなる。またガラスが分相し易くなって、透明性が低下し易くなる。
【0054】
CaOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を顕著に高める成分であると共に、本発明のガラス組成系において、耐失透性を高める効果が大きい成分である。よって、CaOの好適な下限範囲は0%以上、0.1%以上、1%以上、2%以上、3%以上、特に4%以上である。一方、CaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数、密度が不当に上昇したり、ガラス組成の成分バランスを損なわれて、かえって耐失透性が低下し易くなる。よって、CaOの好適な上限範囲は12%以下、10%以下、8%以下、7%以下、6%以下、特に5%以下である。
【0055】
SrOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であるが、SrOの含有量が多くなると、耐スクラッチ性、耐クラック性が低下し易くなる。よって、SrOの含有量は、好ましくは0~3%、0~2%、0~1.5%、0~1%、0~0.5%、特に0~0.1%である。
【0056】
BaOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であるが、BaOの含有量が多くなると、耐スクラッチ性、耐クラック性が低下し易くなる。よって、BaOの含有量は、好ましくは0~3%、0~2%、0~1.5%、0~1%、0~0.5%、特に0~0.1%未満である。
【0057】
質量比(SrO+BaO)/(MgO+CaO)は、好ましくは1以下、0.8以下、0.5以下、特に0.3以下である。質量比(SrO+BaO)/(MgO+CaO)が大き過ぎるとガラスの密度が大きくなり過ぎる。
【0058】
上記成分以外にも、以下の成分をガラス組成中に導入してもよい。
【0059】
ZnOは、溶融性を高める成分であるが、ガラス組成中に多量に含有させると、ガラスが失透し易くなり、密度も上昇し易くなる。よって、ZnOの含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~0.5%、0~0.3%、特に0~0.1%である。
【0060】
ZrO2は、ヤング率を高める成分である。ZrO2の含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~0.5%、0~0.2%、特に0~0.02%である。ZrO2の含有量が多過ぎると、液相温度が上昇して、ジルコンの失透結晶が析出し易くなる。
【0061】
TiO2は、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であると共に、ソラリゼーションを抑制する成分であるが、ガラス組成中に多く含有させると、ガラスが着色して、透過率が低下し易くなる。よって、TiO2の含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~1%、0~0.1%、特に0~0.02%である。
【0062】
P2O5は、耐失透性を高める成分であるが、ガラス組成中に多量に含有させると、ガラスが分相、乳白し易くなり、また耐水性が顕著に低下する虞がある。よって、P2O5の含有量は、好ましくは0~5%、0~1%、0~0.5%、特に0~0.1%である。
【0063】
SnO2は、高温域で良好な清澄作用を有する成分であると共に、高温粘性を低下させる成分である。SnO2の含有量は、好ましくは0~1%、0.01~0.5%、0.05~0.3、特に0.1~0.3%である。SnO2の含有量が多過ぎると、SnO2の失透結晶がガラス中に析出し易くなる。
【0064】
上記の通り、本発明のガラスは、清澄剤として、SnO2の添加が好適であるが、ガラス特性が損なわない限り、清澄剤として、CeO2、SO3、C、金属粉末(例えばAl、Si等)を1%まで添加してもよい。
【0065】
As2O3、Sb2O3、F、Clも清澄剤として有効に作用し、本発明のガラスは、これらの成分の含有を排除するものではないが、環境的観点から、これらの成分の含有量はそれぞれ0.1%未満、特に0.05%未満が好ましい。
【0066】
本発明のガラスは、以下の特性を有することが好ましい。
【0067】
密度は2.40g/cm3以下、2.35g/cm3以下、特に2.30g/cm3以下が好ましい。密度が高過ぎると、ガラスの軽量化を図り難くなる。
【0068】
30~380℃の温度範囲における熱膨張係数は、好ましくは25~40×10-7/℃、30~38×10-7/℃、特に32~36×10-7/℃である。熱膨張係数が低過ぎると、各種周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなり、ガラス板が反り易くなる。一方、熱膨張係数が高過ぎると、耐熱衝撃性が低下し易くなる。
【0069】
歪点は、好ましくは610℃以下、600℃以下、590以下、580℃以下、特に570℃以下である。ガラスの粘性、特に歪点が低いと、高度から落下した物体がガラスに衝突した場合、ガラスの変形により衝突の応力を緩和し易くなり、落下の衝撃を緩和し易くなる。
【0070】
102.5dPa・sにおける温度は、好ましくは1650℃以下、1620℃以下、1600℃以下、特に1580℃以下である。泡品位は、ガラスの歩留まりのみならず、タッチセンサーの歩留まりにも影響を及ぼす。このため、高温粘性を低下させて、泡品位を高めることは重要である。ここで、「102.5dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0071】
ヤング率は、好ましくは66GPa以下、65GPa以下、63GPa以下、61GPa以下、特に60GPa以下である。ヤング率を低減すると、一定の変形量当たりに発生する応力を低減することができる。また高度から落下した物体がガラスに衝突した場合、ガラスが弾性変形し易くなるため、落下の衝撃を緩和し易くなる。結果として、ガラスの変形量が小さい範囲に限定される用途、特にカバーガラスに好適になる。またフィルム状ガラスに成形する場合は、ヤング率が低いほど小さい曲率半径でロール状に巻くことが可能となる。
【0072】
液相温度は、好ましくは1180℃以下、1150℃以下、1130℃以下、1110℃以下、1090℃以下、特に1070℃以下である。液相粘度は、好ましくは105.0dPa・s以上、105.2dPa・s以上、105.3dPa・s以上、105.5dPa・s以上、特に105.7dPa・s以上である。このようにすれば、成形時に失透結晶が発生し難くなるため、オーバーフローダウンドロー法等でガラス板を成形し易くなり、ガラス板の表面品位を高め易くなる。
【0073】
スクラッチレジスタンスは、好ましくは5N以上、7N以上、10N以上、12N以上、15N以上である。スクラッチレジスタンスが低いと、クラックを伴う傷がガラスに入り難くなる。ここで、「スクラッチレジスタンス」とはガラス表面をヌープ圧子で0.4mm/sの速さで引っ掻いたときに、引っ掻き方向と垂直な方向にひっかき傷の2倍以上の幅のクラックが、引っ掻いた全長の15%以上の長さ発生する荷重を指す。なお引っ掻き試験は、Bruker社のトライボロジー試験機UMT-2を用い、湿度30%、温度25%に保持された恒温恒湿槽内において行う。
【0074】
クラックレジスタンスは、好ましくは200gf以上、500gf以上、700gf以上、900gf以上、1200gf以上、1500gf以上、2000gf以上、2500gf以上、3000gf以上、特に35000gf以上である。クラックレジスタンスが低いと、ガラスに傷が付き易くなる。ここで、「クラックレジスタンス」とは、クラック発生率が50%となる荷重のことを指す。また、「クラック発生率」は、次のようにして測定した値を指す。まず湿度30%、温度25℃に保持された恒温恒湿槽内において、所定荷重に設定したビッカース圧子をガラス表面(光学研磨面)に15秒間打ち込み、その15秒後に圧痕の4隅から発生するクラックの数をカウント(1つの圧痕につき最大4とする)する。このようにして圧子を50回打ち込み、総クラック発生数を求めた後、総クラック発生数/200×100(%)の式により求める。
【0075】
1MHzの周波数における誘電正接は、0.01以下、0.05以下、特に0.001以下であることが好ましい。
【0076】
内部摩擦は、0.01以下、0.002以下、0.001以下、特に0.0008以下であることが好ましい。
【0077】
本発明のガラスは、所定のガラス組成となるように調合したガラスバッチを連続式ガラス溶融窯に投入し、このガラスバッチを加熱溶融し、得られた溶融ガラスを清澄した後、成形装置に供給した上で平板形状等に成形することにより作製することができる。
【0078】
本発明のガラスは、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。このようにすれば、未研磨で表面品位が良好なガラス板を得ることができる。オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されるため、ガラス板の表面品位を高めることができる。本発明のガラスは、耐失透性に優れると共に、成形に適した粘度特性を有しているため、オーバーフローダウンドロー法でガラス板を効率良く成形することができる。
【0079】
本発明のガラスは、オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の成形方法を採択することができる。例えば、スロットダウン法、フロート法、ロールアウト法等の成形方法を採択することができる。
【0080】
本発明のガラスは、平板形状を有する、つまりガラス板であることが好ましく、その板厚は0.6mm以下、0.5mm以下、0.4mm以下、特に0.05~0.3mmが好ましい。平板形状であれば、カバーガラスに適用し易くなる。また板厚が小さい程、ガラス板を軽量化し易くなり、デバイスも軽量化し易くなる。
【0081】
また本発明のガラスは、フィルム状であることが好ましい。この場合、その板厚は200μm以下、100μm以下、50μm以下、特に30μm以下であることが好ましい。
【0082】
本発明のガラスは、表面上に各種機能膜を有することが好ましい。機能膜として、例えば、導電性を付与するための透明導電膜、反射率を低下させるための反射防止膜、防眩機能を付与して、視認性を高めたり、タッチペン等での書き味を高めるためのアンチグレア膜、指紋の付着を防止して、撥水性、撥油性を付与するための防汚膜等が好ましい。透明導電膜は、タッチセンサー用の電極として機能し、例えば、ディスプレイデバイス側になるべき表面に形成されることが好ましい。透明導電膜として、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等が用いられる。特に、ITOは、電気抵抗が低いため好ましい。ITOは、例えば、スパッタリング法により形成することができる。また、FTO、ATOは、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成することができる。反射防止膜は、観察者側になるべき表面に形成される。また、タッチパネルとカバーガラスとの間に空隙がある場合、カバーガラスの裏面側(ディスプレイデバイス側とは反対側)になるべき表面にも反射防止膜を形成することが好ましい。反射防止膜は、例えば、相対的に屈折率が低い低屈折率層と相対的に屈折率が高い高屈折率層とが交互に積層された誘電体多層膜であることが好ましい。反射防止膜は、例えば、スパッタリング法、CVD法等により形成することができる。アンチグレア膜は、カバーガラスとして使用する場合、観察者側になるべき表面に形成される。アンチグレア膜は、凹凸構造を有することが好ましい。凹凸構造は、ガラスの表面を部分的に覆う島状の構造であってもよい。また、凹凸構造は、規則性を有していないことが好ましい。これにより、アンチグレア機能を高めることができる。アンチグレア膜は、例えば、スプレー法によりSiO2等の透光性材料を塗布し、乾燥させることにより形成することができる。防汚膜は、カバーガラスとして使用する場合、観察者側になるべき表面に形成される。防汚膜は、主鎖中にケイ素を含む含フッ素重合体を含むことが好ましい。含フッ素重合体として、主鎖中に、-O-Si-O-ユニットを有し、且つフッ素を含む撥水性の官能基を側鎖に有する重合体が好ましい。含フッ素重合体は、例えば、シラノールを脱水縮合することにより合成することができる。反射防止膜と防汚膜を形成する場合、反射防止膜の上に防汚膜を形成することが好ましい。更にアンチグレア膜を形成する場合、まずアンチグレア膜を形成し、その上に、反射防止膜及び/又は防汚膜が形成することが好ましい。
【0083】
また本発明のガラス或いはカバーガラスは、表面に光触媒粒子が担持されていることが好ましい。光触媒粒子には種々の材料からなる粒子が使用可能である。例えば酸化チタン粒子、酸化タングステン粒子等が使用できる。特にアナターゼ型の酸化チタン粒子が好ましい。アナターゼ型の酸化チタンが好ましい理由は、ルチル型又はブルッカイト型の酸化チタンと比べて、光触媒としての反応性が高いからである。光触媒粒子の平均粒子径は、1nm以上、2nm以上、特に3nm以上であることが好ましく、また200nm、100nm以下、50nm以下、30nm以下、20nm以下、特に10nm以下であることが好ましい。
【0084】
また上記した紫外光応答型の他に、窒素ドープ型酸化チタン粒子、酸化銅ドープ型酸化チタン粒子、酸化銅ドープ型酸化タングステン粒子等の可視光応答型の光触媒を使用してもよい。このタイプの光触媒を採用すれば、室内環境であっても光触媒の効果が得られる。また野外環境での使用の場合、紫外光応答型よりも多くの光エネルギーを使用できるという利点がある。
【0085】
表面に多量の光触媒粒子を担持させるにはガラス表面が多孔質状であることが望ましい。表面を多孔質状にする方法として、ガラス表面を酸処理する方法を採用することができる。つまり本発明に係るガラス組成は、分相し易い性質を有しており、多くの場合、表面が分相している。このため表面を酸処理すると、ホウ酸成分を多く含む耐酸性の低い相が溶出し、ケイ素を多く含む耐酸性の高い相が表面に残る。その結果、ガラス表面が多孔質状になり、比表面積が著しく増加する。なおガラス内部は分相しにくいことから、酸処理しても多孔質状となるのはガラス表面のみとなる。なお多孔質状となる表面(多孔質層)の厚さ(深さ)は、10μm以下であることが好ましい。多孔質状となる表面の厚さが薄すぎると、比表面積を大きくする効果が小さくなる。表面の厚さが厚すぎると、内部に有機物等が堆積して光触媒としての機能が低下する。
【0086】
次に上記したガラスに光触媒粒子を担持させる方法を説明する。
【0087】
まず上記組成を有するガラスを用意する。用意するガラスは、分相していることが重要である。ガラス中に含まれる分相粒子の大きさは1nm以上、2nm以上、3nm以上、5nm以上、特に10nm以上であることが好ましく、また100nm以下、80nm以下、特に60nm以下であることが好ましい。このようなガラスは、オーバーフローダウンドロー法を用いて作製することができる。なおガラスの組成、特性等の特徴は既述の通りであり、ここでは説明を省略する。
【0088】
前処理として、ガラスの表面を酸処理しておくことが好ましい。予め表面を酸処理しておくことにより、ガラスの表面を多孔質状に改質し、比表面積を大きくすることができる。酸処理の方法としては、例えば酸溶液中にガラスを浸漬する方法を採用することができる。また酸溶液をガラスに噴霧してもよい。酸としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸等を使用することができる。
【0089】
次にガラスの表面に、光触媒粒子を含む溶液を塗布する。塗布の方法は限定されない。例えば、光触媒粒子を分散させて溶液中にガラスを浸漬する方法を採用することができる。また光触媒粒子を含む溶液をガラス表面に噴霧してもよい。
【0090】
続いて、ガラスを熱処理する。熱処理することにより、光触媒粒子をガラス表面に固定することができる。加熱温度としては、250℃以上、410℃以上、特に420℃以上であることが好ましい。加熱温度が高いほど、光触媒粒子を強固にガラス表面に固定できる。なお、加熱温度が高すぎるとガラスが軟化して空孔が塞がれ、表面積が低減するという不具合が生じることがある。そのため加熱温度は650℃以下とすることが好ましい。
【0091】
このようにして光触媒体が表面に担持されたガラスを得ることができる。
【0092】
次に本発明のガラスの好ましい態様を例示する。
(1)ガラス組成として、質量%で、SiO2 55~70%、Al2O3 3~15%、B2O3 18~30%、Li2O+Na2O+K2O 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~7%を含有するガラス。
(2)ガラス組成として、質量%で、SiO2 55~70%、Al2O3 3~12%、B2O3 20~30%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~6%を含有し、密度が2.28g/cm3以下、歪点が610℃以下、且つヤング率が66GPa以下であるガラス。
(3)ガラス組成として、質量%で、SiO2 58~70%、Al2O3 7~20%、B2O3 18~30%、Li2O+Na2O+K2O 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~6%を含有し、ヤング率が63GPa以下であるガラス。
(4) 密度が2.40g/cm3以下、30~380℃の温度範囲における熱膨張係数が36×10-7/℃以下、歪点が610℃以下、且つヤング率が63GPa以下であるガラス。
(5) 密度が2.30g/cm3以下、30~380℃の温度範囲における熱膨張係数が25~36×10-7/℃、歪点が610℃以下、且つヤング率が63GPa以下であるガラス。
(6) 密度が2.30g/cm3以下、30~380℃の温度範囲における熱膨張係数が25~40×10-7/℃、歪点が610℃以下、且つヤング率が65GPa以下であるガラス。
【実施例1】
【0093】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0094】
表1~6は、本発明の実施例(試料No.1~42)を示している。なお、表中の[未]は、未測定であることを示している。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
次のようにして、試料No.1~42を作製した。まず表中のガラス組成になるように調合したガラス原料を白金坩堝に入れ、1600℃で24時間溶融した後、カーボン板上に流し出して平形板状に成形した。次に、得られた各試料について、密度ρ、熱膨張係数α、歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Ts、104dPa・sにおける温度、103dPa・sにおける温度、102.5dPa・sにおける温度、ヤング率E、液相温度TL、液相粘度logηTL、スクラッチレジスタンス(耐スクラッチ性)及びクラックレジスタンス(耐クラック性)を評価した。なお本実施例では清澄剤としてSnO2を使用したが、SnO2以外の清澄剤を使用してもよい。また溶融条件やバッチの調整により泡切れが良好であれば、清澄剤は使用しなくてもよい。
【0102】
密度ρは、周知のアルキメデス法で測定した値である。
【0103】
熱膨張係数αは、ディラトメーターで測定した値であり、30~380℃の温度範囲における平均値である。
【0104】
歪点Ps、徐冷点Ta及び軟化点Tsは、ASTM C336、C338の方法に基づいて測定した値である。
【0105】
104.0dPa・sにおける温度、103.0dPa・sにおける温度及び102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0106】
ヤング率Eは、共振法で測定した値である。ヤング率が大きい程、比ヤング率(ヤング率/密度)が大きくなり易く、平板形状の場合、自重によりガラスが撓み難くなる。
【0107】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300
μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
【0108】
液相粘度logηTLは、液相温度TLにおけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0109】
耐スクラッチ性(スクラッチレジスタンス)は、ガラス表面をヌープ圧子で0.4mm/sの速さで引っ掻いたときに、引っ掻き方向と垂直な方向にひっかき傷の2倍以上の幅のクラックが、引っ掻いた全長の15%以上の長さ発生する荷重を測定し、その荷重が10N以上となる場合を「○」、10N未満となる場合を「×」として評価した。引っ掻き試験は、Bruker社のトライボロジー試験機UMT-2を用い、湿度30%、温度25%に保持された恒温恒湿槽内において行った。
【0110】
耐クラック性(クラックレジスタンス)は、クラック発生率が50%となる荷重が1000gf以上となる場合を「○」、1000gf未満となる場合を「×」として評価したものである。クラック発生率は、次のようにして測定した。まず湿度30%、温度25℃に保持された恒温恒湿槽内において、所定荷重に設定したビッカース圧子をガラス表面(光学研磨面)に15秒間打ち込み、その15秒後に圧痕の4隅から発生するクラックの数をカウント(1つの圧痕につき最大4とする)する。このようにして圧子を50回打ち込み、総クラック発生数を求めた後、総クラック発生数/200×100(%)の式により求めた。
【0111】
1MHzの周波数における誘電正接は、公知の平行板コンデンサ法で1MHz、25℃の条件で測定した。
【0112】
内部摩擦は、公知の半価幅法を用いて測定した。
【実施例2】
【0113】
表1に記載の試料No.4、5の材質を試験溶融炉で溶融して、溶融ガラスを得た後、オーバーフローダウンドロー法で板厚0.3mmのガラス板を成形した。その結果、ガラス板の反りは0.075%以下、うねり(WCA)は0.15μm以下(カットオフfh:0.8mm、fl:8mm)、表面粗さ(Ry)は20Å以下(カットオフλc:9μm)であった。成形に際し、引っ張りローラーの速度、冷却ローラーの速度、加熱装置の温度分布、溶融ガラスの温度、溶融ガラスの流量、板引き速度、攪拌スターラーの回転数等を適宜調整することで、ガラス板の表面品位を調節した。なお、「反り」は、ガラス板を光学定盤上に置き、JIS B-7524に記載の隙間ゲージを用いて測定した値である。「うねり」は、触針式の表面形状測定装置を用いて、JIS B-0610に記載のWCA(ろ波中心線うねり)を測定した値であり、この測定は、SEMI STD D15-1296「FPDガラス基板の表面うねりの測定方法」に準拠している。「平均表面粗さ(Ry)」は、SEMI D7-94「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定した値である。
【実施例3】
【0114】
実施例2で作成したNo.5のガラスを100mm×100mm×0.3mmの大きさに加工することによりガラス試料を準備した。このガラス試料を80℃―5wt%のHClに10分間浸漬し、表面を多孔質状に改質した。続いて酸処理後のガラス試料をエタノール水溶液に10分間浸漬して洗浄した。
【0115】
次に、平均粒子径5nmの酸化チタン(アナターゼ)粒子を2-プロパノール溶液に2wt%分散させた溶液中に、ガラス試料を5分浸漬し、ガラス試料表面にチタン粒子を付着させた。
【0116】
その後、ガラス試料を500℃に保持したアニーラーに入れ、2時間熱処理した後に取り出すことにより、酸化チタン粒子を表面に担持したガラス試料を得た。このようにして得られた試料に紫外線を照射すれば、酸化チタン粒子の光触媒機能により、指紋や有機物を分解することができる。
【実施例4】
【0117】
表3に記載の試料No.19の材質を試験溶融炉で溶融して、溶融ガラスを得た後、オーバーフローダウンドロー法で板厚100μmのフィルム状ガラスを成形した。このフィルム状ガラスは、曲率半径60mmのロール状に巻き取ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のガラスは、カバーガラスとして好適であるが、それ以外にも、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットディスプレイ用基板、CSP、CCD、CIS等のイメージセンサー用基板、タッチセンサー用基板としても好適である。また光触媒粒子を表面に担持させる場合は、その防汚機能を恒久的に維持することが可能であることから、上記用途以外にも、例えば建築用ガラスとして使用することができる