(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
A01D 69/00 20060101AFI20221128BHJP
A01D 69/08 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
A01D69/00 302Z
A01D69/00 301
A01D69/08 Z
(21)【出願番号】P 2019102495
(22)【出願日】2019-05-31
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】松本 健太
(72)【発明者】
【氏名】戸田 義之
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-255042(JP,A)
【文献】特開2010-187572(JP,A)
【文献】特開2005-178631(JP,A)
【文献】特許第5697946(JP,B2)
【文献】特開2000-116226(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0203243(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 41/00 - 41/16
A01D 69/00 - 69/12
F02D 29/00 - 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動可能な駆動源と、
前記駆動源によって駆動される作業装置と、
前記駆動源から前記作業装置へ動力伝達可能な伝動ベルトと、
前記伝動ベルトに動力を伝達させる伝達状態と、前記伝動ベルトに動力を伝達させない非伝達状態と、に切換可能なベルトテンション式の作業クラッチと、
前記作業クラッチの入操作に関する制御信号である入制御信号と、前記作業クラッチの切操作に関する前記制御信号である切制御信号と、に基づいて前記作業クラッチを前記伝達状態と前記非伝達状態とに切換操作可能なクラッチ操作ユニットと、
前記駆動源の回転数を検出可能な回転数検出センサと、が備えられ、
前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が予め設定された閾値以下である場合、前記クラッチ操作ユニットは、前記非伝達状態の前記作業クラッチを前記伝達状態にする伝達切換操作を直ちに行い、
前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が前記閾値よりも高い場合、前記クラッチ操作ユニットは、前記回転数が前記閾値以下となるように前記駆動源の前記回転数を下げる第一回転数制御を行
い、かつ、前記回転数が前記閾値以下となった状態で前記伝達切換操作を行
い、かつ、前記伝達切換操作が完了したら前記回転数が前記閾値よりも高くなるように前記駆動源の前記回転数を上げる第二回転数制御を行い、
前記第一回転数制御における前記回転数の単位時間当たりの変化率である第一変化率と、前記第二回転数制御における前記回転数の単位時間当たりの変化率である第二変化率と、が設定され、
前記第一変化率は、前記第二変化率よりも小さい作業車。
【請求項2】
前記第一変化率は、前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出した時点における前記回転数にかかわらず一定である請求項
1に記載の作業車。
【請求項3】
回転駆動可能な駆動源と、
前記駆動源によって駆動される作業装置と、
前記駆動源から前記作業装置へ動力伝達可能な伝動ベルトと、
前記伝動ベルトに動力を伝達させる伝達状態と、前記伝動ベルトに動力を伝達させない非伝達状態と、に切換可能なベルトテンション式の作業クラッチと、
前記作業クラッチの入操作に関する制御信号である入制御信号と、前記作業クラッチの切操作に関する前記制御信号である切制御信号と、に基づいて前記作業クラッチを前記伝達状態と前記非伝達状態とに切換操作可能なクラッチ操作ユニットと、
前記駆動源の回転数を検出可能な回転数検出センサと、が備えられ、
前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が予め設定された閾値以下である場合、前記クラッチ操作ユニットは、前記非伝達状態の前記作業クラッチを前記伝達状態にする伝達切換操作を直ちに行い、
前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が前記閾値よりも高い場合、前記クラッチ操作ユニットは、前記回転数が前記閾値以下となるように前記駆動源の前記回転数を下げる第一回転数制御を行い、かつ、前記回転数が前記閾値以下となった状態で前記伝達切換操作を行い、かつ、前記伝達切換操作が完了したら前記回転数が前記閾値よりも高くなるように前記駆動源の前記回転数を上げる第二回転数制御を行い、
前記第一回転数制御の完了から前記伝達切換操作の開始までの時間である第一間隔時間と、前記伝達切換操作の完了から前記第二回転数制御の開始までの時間である第二間隔時間と、が設定され、
前記第二間隔時間は前記第一間隔時間よりも長
い作業車。
【請求項4】
前記回転数を設定するアクセル操作具が備えられ、
前記クラッチ操作ユニットは、前記回転数が前記アクセル操作具の設定回転数に達するように前記第二回転数制御を行う請求項
1から3の何れか一項に記載の作業車。
【請求項5】
回転駆動可能な駆動源と、
前記駆動源によって駆動される作業装置と、
前記駆動源から前記作業装置へ動力伝達可能な伝動ベルトと、
前記伝動ベルトに動力を伝達させる伝達状態と、前記伝動ベルトに動力を伝達させない非伝達状態と、に切換可能なベルトテンション式の作業クラッチと、
前記作業クラッチの入操作に関する制御信号である入制御信号と、前記作業クラッチの切操作に関する前記制御信号である切制御信号と、に基づいて前記作業クラッチを前記伝達状態と前記非伝達状態とに切換操作可能なクラッチ操作ユニットと、
前記駆動源の回転数を検出可能な回転数検出センサと、が備えられ、
前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が予め設定された閾値以下である場合、前記クラッチ操作ユニットは、前記非伝達状態の前記作業クラッチを前記伝達状態にする伝達切換操作を直ちに行い、
前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が前記閾値よりも高い場合、前記クラッチ操作ユニットは、前記回転数が前記閾値以下となるように前記駆動源の前記回転数を下げる第一回転数制御を行うとともに、前記回転数が前記閾値以下となった状態で前記伝達切換操作を行い、
前記伝達切換操作に関する報知を可能な報知部が備えられ、
前記報知部は、前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出した時点と、前記伝達切換操作の開始から予め設定された設定時間が経過した時点と、に亘って前記伝達切換操作に関する報知をし続け
る作業車。
【請求項6】
前記設定時間は、前記伝達切換操作の完了前の時点に設定され、
前記報知部は、前記設定時間が経過した時点で報知を止める請求項
5に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転駆動可能な駆動源と、駆動源によって駆動される作業装置と、駆動源から作業装置へ動力伝達可能な伝動ベルトと、伝動ベルトに動力を伝達させる状態に可能なベルトテンション式の作業クラッチ(文献では「クラッチ」)と、が備えられた作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に、作業装置(文献では「刈取部」や「脱穀部」等)が駆動源によって駆動される作業車輛が開示されている。駆動源と作業装置との間に伝動ベルト(文献では「ベルト」)が介在し、伝動ベルトは、作業クラッチによって、駆動源の動力を伝達する状態と、駆動源の動力を伝達しない状態と、に切換可能に構成されている。駆動源の動力を伝達する状態に伝動ベルトが切換えられる場合には、駆動源の回転数が下げられてから作業クラッチが操作される。これにより、伝動ベルトの切換時における伝動ベルトのスリップが軽減され、伝動ベルトの保護が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に示されるように、作業クラッチが伝動ベルトを切換操作する際に駆動源の回転数が下げられる構成では、作業者が最初に伝動ベルトの切換操作を行ってから、実際に伝動ベルトの切換が完了するまでにタイムラグが生じる。このため、このタイムラグの長さ次第では作業者に不快感を与えてしまうことも考えられる。このため、本発明の目的は、伝動ベルトの保護と作業者の操作の快適性とが両立された作業車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による作業車は、回転駆動可能な駆動源と、前記駆動源によって駆動される作業装置と、前記駆動源から前記作業装置へ動力伝達可能な伝動ベルトと、前記伝動ベルトに動力を伝達させる伝達状態と、前記伝動ベルトに動力を伝達させない非伝達状態と、に切換可能なベルトテンション式の作業クラッチと、前記作業クラッチの入操作に関する制御信号である入制御信号と、前記作業クラッチの切操作に関する前記制御信号である切制御信号と、に基づいて前記作業クラッチを前記伝達状態と前記非伝達状態とに切換操作可能なクラッチ操作ユニットと、前記駆動源の回転数を検出可能な回転数検出センサと、が備えられ、前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が予め設定された閾値以下である場合、前記クラッチ操作ユニットは、前記非伝達状態の前記作業クラッチを前記伝達状態にする伝達切換操作を直ちに行い、前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が前記閾値よりも高い場合、前記クラッチ操作ユニットは、前記回転数が前記閾値以下となるように前記駆動源の前記回転数を下げる第一回転数制御を行い、かつ、前記回転数が前記閾値以下となった状態で前記伝達切換操作を行い、かつ、前記伝達切換操作が完了したら前記回転数が前記閾値よりも高くなるように前記駆動源の前記回転数を上げる第二回転数制御を行い、前記第一回転数制御における前記回転数の単位時間当たりの変化率である第一変化率と、前記第二回転数制御における前記回転数の単位時間当たりの変化率である第二変化率と、が設定され、前記第一変化率は、前記第二変化率よりも小さいことを特徴とする。
【0006】
本発明によると、駆動源の回転数が予め設定された閾値以下である場合には、クラッチ操作ユニットは作業クラッチを直ちに伝達状態に切換操作するため、作業クラッチの操作にタイムラグが生じることなく、作業クラッチの操作の迅速性が確保される。また、駆動源の回転数が閾値よりも高い場合には、駆動源の回転数が閾値以下に下げられた後で、クラッチ操作ユニットが作業クラッチを伝達状態に切換操作するため、伝動ベルトのスリップがしっかりと軽減される。つまり、本発明であれば、作業クラッチの切換操作のタイミングが駆動源の回転数に応じて調整されるため、伝動ベルトの保護と作業者の操作の快適性とが両立された作業車が実現される。また、例えば駆動源が作業装置以外の機器を駆動している場合、駆動源に当該機器の駆動負荷が掛かっていることによって、第一回転数制御に伴って駆動源の回転数が急低下することが考えられる。この場合、駆動源や当該機器の動作に急激な変化が生じると、作業者が驚いたり不快に感じたりする虞がある。本構成では、第一変化率が第二変化率よりも小さいため、駆動源の回転数が上げられる際の回転数の変化よりも、駆動源の回転数が下げられる際の回転数の方が徐々に変化する。このため、作業装置以外の機器が駆動している場合であっても、駆動源や当該機器の動作に急激な変化がなく、作業者が驚いたり不快に感じたりする虞が大きく軽減される。なお、本発明における『前記回転数が予め設定された閾値以下である場合』という意味に、『前記回転数が予め設定された閾値よりも低い場合』という意味も含まれる。また、『前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が前記閾値よりも高い場合』という意味に、『前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が前記閾値以上である場合』という意味も含まれる。加えて、本発明の第一回転数制御における『前記回転数が前記閾値以下となるように前記駆動源の前記回転数を下げる』という意味に、『記回転数が前記閾値未満となるように前記駆動源の前記回転数を下げる』という意味も含まれる。また、本発明における『駆動源の回転数』は、駆動源に対する目標回転数であっても良いし、駆動源で実際に検出された回転数であっても良い。
【0007】
本発明において、前記第一回転数制御が行われて前記回転数が前記閾値以下となった状態で前記伝達切換操作が完了したら、前記クラッチ操作ユニットは、前記回転数が前記閾値よりも高くなるように前記駆動源の前記回転数を上げる第二回転数制御を行うと好適である。また、本発明において、前記回転数を設定するアクセル操作具が備えられ、前記クラッチ操作ユニットは、前記回転数が前記アクセル操作具の設定回転数に達するように前記第二回転数制御を行うと好適である。
【0008】
本構成であれば、駆動源の回転数が下げられても、作業クラッチの切換操作の完了後に駆動源の回転数が自動的に上げられる。このため、作業者が手動で駆動源の回転数を上げる構成と比較して、作業者にとっての煩わしさが軽減され、作業クラッチの操作性がしっかりと確保される。また、作業クラッチの切換操作の完了後に駆動源の回転数がアクセル操作具の設定回転数まで上げられる構成によって、作業者にとっての煩わしさが一層軽減される。
【0009】
本発明において、前記第一変化率は、前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出した時点における前記回転数にかかわらず一定であると好適である。
【0010】
第一変化率が駆動源の回転数にかかわらず一定である構成によって、当該機器の動作変化が一層安定的になる。
【0011】
本発明による作業車は、回転駆動可能な駆動源と、前記駆動源によって駆動される作業装置と、前記駆動源から前記作業装置へ動力伝達可能な伝動ベルトと、前記伝動ベルトに動力を伝達させる伝達状態と、前記伝動ベルトに動力を伝達させない非伝達状態と、に切換可能なベルトテンション式の作業クラッチと、前記作業クラッチの入操作に関する制御信号である入制御信号と、前記作業クラッチの切操作に関する前記制御信号である切制御信号と、に基づいて前記作業クラッチを前記伝達状態と前記非伝達状態とに切換操作可能なクラッチ操作ユニットと、前記駆動源の回転数を検出可能な回転数検出センサと、が備えられ、前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が予め設定された閾値以下である場合、前記クラッチ操作ユニットは、前記非伝達状態の前記作業クラッチを前記伝達状態にする伝達切換操作を直ちに行い、前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が前記閾値よりも高い場合、前記クラッチ操作ユニットは、前記回転数が前記閾値以下となるように前記駆動源の前記回転数を下げる第一回転数制御を行い、かつ、前記回転数が前記閾値以下となった状態で前記伝達切換操作を行い、かつ、前記伝達切換操作が完了したら前記回転数が前記閾値よりも高くなるように前記駆動源の前記回転数を上げる第二回転数制御を行い、前記第一回転数制御の完了から前記伝達切換操作の開始までの時間である第一間隔時間と、前記伝達切換操作の完了から前記第二回転数制御の開始までの時間である第二間隔時間と、が設定され、
前記第二間隔時間は前記第一間隔時間よりも長いことを特徴とする。
【0012】
本発明によると、駆動源の回転数が予め設定された閾値以下である場合には、クラッチ操作ユニットは作業クラッチを直ちに伝達状態に切換操作するため、作業クラッチの操作にタイムラグが生じることなく、作業クラッチの操作の迅速性が確保される。また、駆動源の回転数が閾値よりも高い場合には、駆動源の回転数が閾値以下に下げられた後で、クラッチ操作ユニットが作業クラッチを伝達状態に切換操作するため、伝動ベルトのスリップがしっかりと軽減される。つまり、本発明であれば、作業クラッチの切換操作のタイミングが駆動源の回転数に応じて調整されるため、伝動ベルトの保護と作業者の操作の快適性とが両立された作業車が実現される。また、伝動ベルトが作業状態に切換えられた直後においては、伝動ベルトがスリップしたり振動したりしている可能性が考えられる。このため、伝達切換操作の完了から第二回転数制御の開始までの間に、伝動ベルトを安定的に慣らすための時間が確保されることが望ましい。一方で、作業クラッチの操作性の観点から、クラッチ操作ユニットによる切換操作は出来るだけ迅速に行われることが望ましい。本構成であれば、第二間隔時間が第一間隔時間よりも長いため、第二間隔時間が経過する間に伝動ベルトを十分に慣らすことが可能である。これにより、伝動ベルトが保護されながらも、作業者に待ち時間の不快感を与えることなく、作業クラッチが出来るだけ速やかに伝達状態に切換えられる。
【0013】
本発明による作業車は、回転駆動可能な駆動源と、前記駆動源によって駆動される作業装置と、前記駆動源から前記作業装置へ動力伝達可能な伝動ベルトと、前記伝動ベルトに動力を伝達させる伝達状態と、前記伝動ベルトに動力を伝達させない非伝達状態と、に切換可能なベルトテンション式の作業クラッチと、前記作業クラッチの入操作に関する制御信号である入制御信号と、前記作業クラッチの切操作に関する前記制御信号である切制御信号と、に基づいて前記作業クラッチを前記伝達状態と前記非伝達状態とに切換操作可能なクラッチ操作ユニットと、前記駆動源の回転数を検出可能な回転数検出センサと、が備えられ、前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が予め設定された閾値以下である場合、前記クラッチ操作ユニットは、前記非伝達状態の前記作業クラッチを前記伝達状態にする伝達切換操作を直ちに行い、前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出したときに前記回転数が前記閾値よりも高い場合、前記クラッチ操作ユニットは、前記回転数が前記閾値以下となるように前記駆動源の前記回転数を下げる第一回転数制御を行うとともに、前記回転数が前記閾値以下となった状態で前記伝達切換操作を行い、前記伝達切換操作に関する報知を可能な報知部が備えられ、前記報知部は、前記クラッチ操作ユニットが前記入制御信号を検出した時点と、前記伝達切換操作の開始から予め設定された設定時間が経過した時点と、に亘って前記伝達切換操作に関する報知をし続けることを特徴とする。
【0014】
本発明によると、駆動源の回転数が予め設定された閾値以下である場合には、クラッチ操作ユニットは作業クラッチを直ちに伝達状態に切換操作するため、作業クラッチの操作にタイムラグが生じることなく、作業クラッチの操作の迅速性が確保される。また、駆動源の回転数が閾値よりも高い場合には、駆動源の回転数が閾値以下に下げられた後で、クラッチ操作ユニットが作業クラッチを伝達状態に切換操作するため、伝動ベルトのスリップがしっかりと軽減される。つまり、本発明であれば、作業クラッチの切換操作のタイミングが駆動源の回転数に応じて調整されるため、伝動ベルトの保護と作業者の操作の快適性とが両立された作業車が実現される。また、本構成であれば、クラッチ操作ユニットが作業クラッチを伝達状態に切換操作している状態が報知部によって作業者へ報知されるため、クラッチ操作ユニットが切換操作中であることを作業者は認識できる。これにより、クラッチ操作ユニットが入制御信号を検出したときに、作業クラッチが直ちに伝達状態に切換えられない場合であっても、作業者に故障と誤解される虞は回避される。
【0015】
本発明において、前記設定時間は、前記伝達切換操作の完了前の時点に設定され、前記報知部は、前記設定時間が経過した時点で報知を止めると好適である。
【0016】
クラッチ操作ユニットが入制御信号を検出したときに、クラッチ操作ユニットの切換操作の状態が報知部によって作業者へ報知される。このため、伝達切換操作の完了前の時点で報知が停止される構成によって、報知部による報知がしつこくならずに済み、作業者にとって不快な報知となる虞は軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】作業車としてのコンバインを示す側面図である。
【
図2】作業車としてのコンバインを示す平面図である。
【
図3】コンバインの動力伝達を示す伝動系統図である。
【
図4】クラッチ操作ユニットの切換操作とデータの流れを示す機能ブロック図である。
【
図5】クラッチの切換制御を示すフローチャート図である。
【
図6】クラッチの切換制御を示すフローチャート図である。
【
図7】クラッチの切換制御を示すタイムチャート図である。
【
図8】クラッチの切換制御を示すタイムチャート図である。
【
図9】クラッチの切換制御を示すタイムチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔全体構成〕
以下、図面に基づいて、本発明に係る作業車の実施形態を、
図1及び
図2に示される普通型コンバインに適用した場合について説明する。
図1及び
図2に、稲、麦、大豆などの作物を収穫対象とする普通型のコンバインが示されている。この実施形態で、コンバインの走行機体の前後方向を定義するときは、作業状態における機体進行方向に沿って定義し、機体の左右方向を定義するときは、機体進行方向視で見た状態で左右を定義する。すなわち、
図1及び
図2に符号(F)で示す方向が機体前側、
図1及び
図2に符号(B)で示す方向が機体後側である。
図2に符号(L)で示す方向が機体左側、
図2に符号(R)で示す方向が機体右側である。従って、機体左右方向が走行機体横幅方向に対応する。
【0019】
走行機体の機体フレーム1の下部に左右一対のクローラ走行装置2が備えられている。
走行機体の前方に、作業装置としての収穫部3が設けられ、収穫部3は収穫対象の作物を収穫して後方に搬送する。そして、機体フレーム1上に、脱穀装置4、グレンタンク5、穀粒排出装置6等が、本発明の作業装置として備えられている。脱穀装置4は、収穫部3から搬送される刈取穀稈を扱き処理するとともに、その扱き処理で得られた脱穀処理物を穀粒と排出物とに選別する。グレンタンク5は、脱穀装置4にて得られた穀粒を貯留する。穀粒排出装置6は、グレンタンク5に貯留される穀粒を機外に排出する。コンバインは、植立穀稈の株元を切断して刈り取り、刈り取った刈取穀稈の全部を脱穀装置4に投入する全稈投入型に構成されている。
【0020】
機体フレーム1上に運転部7が備えられ、運転部7は、操縦者が搭乗して運転操作を行うキャビン付きの領域である。運転部7は機体前部右側に位置し、運転部7の後方にグレンタンク5が位置している。更に、脱穀装置4が左側に位置し、グレンタンク5が右側に位置する状態で、脱穀装置4とグレンタンク5とが左右方向に並ぶ状態で備えられている。そして、運転部7の下方側には、回転駆動可能な駆動源としてのエンジン8が備えられている。脱穀装置4は、機体前後方向に沿う軸芯周りで回転駆動される扱胴9を有し、脱穀装置4の前部に搬送される刈取穀稈を機体後方に送りながら扱胴9によって扱き処理するように構成されている。
【0021】
収穫部3に、刈取部10とフィーダ11とが前後に並んで設けられている。刈取部10は、収穫部3の前部に設けられるとともに、収穫対象となる植立穀稈を刈り取り、刈り取った刈取穀稈を機体横幅中間部に横送り合流させる。フィーダ11は、刈取部10の後部に接続され、かつ、刈取部10にて刈取られて刈取部10の機体横幅中間部に集められた刈取穀稈の全稈を脱穀装置4に向けて後方搬送する。これら刈取部10とフィーダ11とを含む収穫部3は、機体フレーム1とフィーダ11とに亘って架設された昇降用の油圧シリンダ12が伸縮作動することで、横軸芯P1周りで上昇位置と下降位置との間で上下揺動自在に支持されている。
【0022】
刈取部10は、角パイプや断面L字形のアングル材等を連結して構成される刈取フレーム13にて支持されている。刈取部10に、左右一対のデバイダ14,14と、掻込リール15と、刈刃16と、横送りオーガ17と、が備えられている。左右一対のデバイダ14,14は、走行機体の最前端に設けられるとともに、収穫対象となる植立穀稈と非刈取対象の植立穀稈とを分草する。掻込リール15は、デバイダ14の後方かつ上方に位置するとともに、収穫対象の植立穀稈を後方に向けて掻き込む。刈刃16は、デバイダ14の後方に位置するとともに、掻込リール15により後方に掻き込まれた収穫対象の植立穀稈の株元側を切断するものであり、例えばバリカン型に構成されている。横送りオーガ17は、刈刃16とフィーダ11との間に位置するとともに、刈刃16による切断後の刈取穀稈を左右方向の中間側に横送りして寄せ集めて後方のフィーダ11に向けて送り出す。
【0023】
〔伝動構造〕
エンジン8の動力を脱穀装置4や収穫部3等へ伝達するための伝動構造に関する説明が、以下に記載される。
図3は、エンジン8の駆動力をクローラ走行装置2と収穫部3と脱穀装置4と穀粒排出装置6との夫々に伝達する伝動機構の系統図である。エンジン8に出力軸8aが設けられている。出力軸8aはエンジン8の本体よりも機体左右の夫々に突出する。出力軸8aと唐箕駆動軸21との夫々のプーリに亘って第一伝動ベルト23が巻回され、出力軸8aと走行伝達軸22との夫々のプーリに亘って第二伝動ベルト24が巻回されている。これにより、出力軸8aは、唐箕駆動軸21と走行伝達軸22との夫々をベルト駆動可能に構成されている。
【0024】
第一伝動ベルト23にベルトテンション式の脱穀クラッチ23Aが設けられ、脱穀クラッチ23Aが第一伝動ベルト23に張力を付与することによって、第一伝動ベルト23は動力を伝達可能に構成されている。脱穀クラッチ23Aは、本発明の『作業クラッチ』に相当する。
【0025】
走行伝達軸22に伝達された動力は走行駆動装置Aに伝達される。詳細な説明は省略するが、走行駆動装置Aは、機体前部における下部に備えられるとともに、静油圧式無段変速装置やトランスミッションを有する。また、走行駆動装置Aは、運転部7に備えられた図示しない変速操作具や旋回操作具等の運転操作に基づいて、左右のクローラ走行装置2,2を運転操作に適した速度で駆動するように構成されている。直進するときは左右のクローラ走行装置2,2を等速または略等速とし、旋回するときは左右のクローラ走行装置2,2に速度差をつけるように、走行駆動装置Aは駆動する。
【0026】
唐箕駆動軸21の伝達動力は、選別用伝動ベルト25を介して一番物回収部28と二番物回収部29との夫々に伝達される。また、唐箕駆動軸21の伝達動力は、脱穀用伝動ベルト30を介して脱穀用中継軸37に伝達される。唐箕駆動軸21に唐箕33が設けられ、唐箕33は唐箕駆動軸21を軸芯に回転する。
【0027】
唐箕駆動軸21と、中継軸26と、一番物回収部28と、二番物回収部29と、に亘って選別用伝動ベルト25が巻回され、一番物回収部28と二番物回収部29とは選別用伝動ベルト25を介して一体的にベルト駆動される。中継軸26と揺動選別装置32とに亘って選別用伝動ベルト27が巻回され、唐箕駆動軸21の伝達動力が選別用伝動ベルト25と中継軸26と選別用伝動ベルト27とを介して揺動選別装置32に伝達される。
【0028】
唐箕駆動軸21と、脱穀用中継軸37と、に亘って脱穀用伝動ベルト30が巻回されている。脱穀用中継軸37のうち、脱穀用伝動ベルト30が巻回されている側と反対側の端部にベベルギヤ43aが設けられ、ベベルギヤ43aは扱胴軸9Aのベベルギヤ43cと係合する。扱胴軸9Aは扱胴9の回転軸芯であって前後方向に延び、ベベルギヤ43cが扱胴軸9Aの前端部に設けられている。また、左右方向において扱胴軸9Aを挟んで脱穀用中継軸37の位置する側と反対側にカウンタ軸39が設けられている。カウンタ軸39の機体左側端部にベベルギヤ43bが設けられ、ベベルギヤ43bはベベルギヤ43cと係合する。脱穀用中継軸37とカウンタ軸39とは機体横向きの同一軸芯上に配置され、脱穀用中継軸37の回転に伴って、ベベルギヤ43a,43b,43cを介して脱穀用中継軸37の回転動力が扱胴軸9Aとカウンタ軸39との夫々に伝達される。カウンタ軸39は脱穀用中継軸37の回転方向と逆向きに回転する。脱穀用中継軸37と扱胴軸9Aとカウンタ軸39との夫々は軸ケース36によって覆われる。脱穀用中継軸37の機体左側端部は軸ケース36よりも機体左側へ突出し、カウンタ軸39の機体右側端部は軸ケース36よりも機体右側へ突出する。
【0029】
脱穀用中継軸37の伝達動力は刈取用伝動ベルト40を介して刈取入力軸42に伝達可能に構成される。刈取用伝動ベルト40は、脱穀用中継軸37から前方に向けて延びる状態で備えられている。また、カウンタ軸39は、刈取用伝動ベルト41を介して刈取入力軸42に伝達可能に構成される。刈取用伝動ベルト41は、左右方向においてフィーダ11を挟んで刈取用伝動ベルト40の位置する側と反対側に位置する。
【0030】
刈取入力軸42は、フィーダ11の駆動軸として機能するものであり、フィーダ11の搬送ケースから左側外方に突出する状態で備えられている。刈取入力軸42の左右両端に、刈取用伝動ベルト40,41の夫々が巻回されている。刈取入力軸42のうち、フィーダ11よりも内側の箇所にスプロケットが取り付けられ、このスプロケットを介して刈取入力軸42とフィーダ搬送チェーン11Aとが一体回転する。
【0031】
刈取用伝動ベルト40にベルトテンション式の刈取クラッチ40Aが設けられ、刈取クラッチ40Aが刈取用伝動ベルト40に張力を付与することによって、刈取用伝動ベルト40は動力を伝達可能に構成されている。刈取用伝動ベルト41にベルトテンション式の刈取クラッチ41Aが設けられ、刈取クラッチ41Aが刈取用伝動ベルト41に張力を付与することによって、刈取用伝動ベルト41は動力を伝達可能に構成されている。刈取クラッチ40A,41Aの夫々は、同時に刈取用伝動ベルト40,41の夫々に張力を付与することはなく、刈取クラッチ40A,41Aの何れか一方が、刈取用伝動ベルト40,41の何れか一方に張力を付与するように構成されている。刈取クラッチ40Aが刈取用伝動ベルト40に張力を付与するすると、刈取部10やフィーダ11は刈取穀稈を機体後方へ搬送するように回転する。刈取クラッチ41Aが刈取用伝動ベルト41に張力を付与するすると、刈取部10やフィーダ11は逆転し、例えば刈取穀稈がフィーダ11で詰まった場合に刈取穀稈は機体前方へ戻される。
【0032】
刈取入力軸42の伝達動力は、フィーダ11の右側部よりも外側に沿って前後方向に延びる刈取伝動ベルト44により刈取中継軸45に伝達される。刈取中継軸45の伝達動力は、チェーン46を介して横送りオーガ17に伝達されるとともに、往復回動ロッド47を介して刈刃16に伝達される。往復回動ロッド47は、所定の角度で往復回動することによって、刈刃16を往復摺動させることを可能に構成されている。更に、刈取中継軸45の伝達動力は、チェーン46,48とベルト49とを介して掻込リール15に伝達される。
【0033】
出力軸8aのうち、第一伝動ベルト23や第二伝動ベルト24の位置する側と反対側の端部に、排出伝動ベルト50を巻回するプーリが設けられ、出力軸8aと排出入力軸51とに亘って排出伝動ベルト50が巻回されている。排出伝動ベルト50にベルトテンション式の排出クラッチ50Aが設けられ、排出クラッチ50Aが排出伝動ベルト50に張力を付与することによって、排出伝動ベルト50はエンジン8の動力を排出入力軸51へ伝達可能に構成されている。排出クラッチ50Aが排出伝動ベルト50に張力を付与すると、排出入力軸51を介して穀粒排出装置6の内部の排出スクリュー6Aが回転し、グレンタンク5に貯留された穀粒が穀粒排出装置6を経由して機外へ排出される。このように、本発明の作業装置は、駆動源としてのエンジン8によって駆動される。
【0034】
〔クラッチについて〕
図3に基づいて説明した通り、伝動ベルトに動力を伝達させることが可能なクラッチとして、脱穀クラッチ23Aと、刈取クラッチ40A,41Aと、排出クラッチ50Aと、が備えられている。これらのクラッチは、上述の動力伝達系統に介在する。脱穀クラッチ23Aは第一伝動ベルト23に隣接して配置されている。刈取クラッチ40Aは刈取用伝動ベルト40に隣接して配置され、刈取クラッチ41Aは刈取用伝動ベルト41に隣接して配置されている。排出クラッチ50Aは排出伝動ベルト50に隣接して配置されている。これらのクラッチの夫々は、夫々の隣接する伝動ベルトと係合可能なベルトテンショナーであって、伝達状態と非伝達状態とに切換可能なように構成されている。なお、本実施形態において、『伝達状態』とは、クラッチが夫々の隣接する伝動ベルトに動力を伝達させる状態を意味し、『非伝達状態』とは、クラッチが夫々の隣接する伝動ベルトに動力を伝達させない状態を意味する。これらのクラッチは、
図4に示されるような第一クラッチ操作ユニット52Aや第二クラッチ操作ユニット52Bによって操作可能に構成されている。
【0035】
図示はしないが、脱穀クラッチ23Aと第一クラッチ操作ユニット52Aとが操作ワイヤによって連係される。第一クラッチ操作ユニット52Aは、この操作ワイヤを引っ張ることによって、脱穀クラッチ23Aを伝達状態に切換操作可能に構成される。図示はしないが、脱穀クラッチ23Aにバネが備えられ、脱穀クラッチ23Aは第一伝動ベルト23から離れる方向へ付勢されている。このことから、第一クラッチ操作ユニット52Aが脱穀クラッチ23Aの操作ワイヤを引っ張らなければ、脱穀クラッチ23Aは非伝達状態に保持される。
【0036】
図示はしないが、刈取クラッチ40Aと第二クラッチ操作ユニット52Bとが操作ワイヤによって連係される。第二クラッチ操作ユニット52Bは、この操作ワイヤを引っ張ることによって、刈取クラッチ40Aを伝達状態に切換操作可能に構成される。刈取クラッチ41Aと第二クラッチ操作ユニット52Bとが操作ワイヤによって連係される。第二クラッチ操作ユニット52Bは、この操作ワイヤを引っ張ることによって、刈取クラッチ41Aを伝達状態に切換操作可能に構成される。排出クラッチ50Aと第二クラッチ操作ユニット52Bとが操作ワイヤによって連係され、第二クラッチ操作ユニット52Bは、この操作ワイヤを引っ張ることによって、排出クラッチ50Aを伝達状態に切換操作可能に構成される。第二クラッチ操作ユニット52Bは、刈取クラッチ40A,41Aと、排出クラッチ50Aと、の夫々を各別に(独立的に)伝達状態と非伝達状態とに切換操作可能に構成されている。
【0037】
図示はしないが、脱穀クラッチ23Aと、刈取クラッチ40A,41Aと、排出クラッチ50Aと、の夫々にバネが備えられ、これらのクラッチの夫々は、夫々の隣接するベルトから離れる方向へ付勢されている。このことから、第二クラッチ操作ユニット52Bが、刈取クラッチ40A,41Aと、排出クラッチ50Aと、の夫々の操作ワイヤを引っ張らなければ、刈取クラッチ40A,41Aと、排出クラッチ50Aと、の夫々は非伝達状態に保持される。
【0038】
〔クラッチ操作ユニットによる伝達切換操作について〕
図4に示されるように、クラッチ操作ユニット52は、第一クラッチ操作ユニット52Aと第二クラッチ操作ユニット52Bとを有する。第一クラッチ操作ユニット52Aと脱穀クラッチ23Aとは操作ワイヤを介して互いに連係する。図示はしないが、第一クラッチ操作ユニット52Aは電動モータを有し、第一クラッチ操作ユニット52Aと脱穀クラッチ23Aとに亘る操作ワイヤが、この電動モータによって引っ張られたり緩められたりする。
【0039】
第二クラッチ操作ユニット52Bと刈取クラッチ40Aとは操作ワイヤを介して互いに連係する。第二クラッチ操作ユニット52Bと刈取クラッチ41Aとは操作ワイヤを介して互いに連係する。第二クラッチ操作ユニット52Bと排出クラッチ50Aとは操作ワイヤを介して互いに連係する。即ち、第二クラッチ操作ユニット52Bに、刈取クラッチ40Aと連係する操作ワイヤと、刈取クラッチ41Aと連係する操作ワイヤと、排出クラッチ50Aと連係する操作ワイヤと、の三つの操作ワイヤが繋がれている。図示はしないが、第二クラッチ操作ユニット52Bは電動モータを有し、これら三つの操作ワイヤが、この電動モータによって引っ張られたり緩められたりする。
【0040】
第二クラッチ操作ユニット52Bの電動モータの動作に伴って、これら三つの操作ワイヤが各別に引っ張られたり緩められたりするように、第二クラッチ操作ユニット52Bは構成されている。例えばこれら三つの操作ワイヤの夫々と当該電動モータとの間に、三つの操作ワイヤの夫々に対応して三つのカム機構が介在し、これら三つのカム機構の夫々が、三つの操作ワイヤの夫々に対応して各別形状に形成されている。そして、当該電動モータの動作に伴って夫々のカム機構が回動することによって、これら三つの操作ワイヤが各別に引っ張られたり緩められたりする。なお、第二クラッチ操作ユニット52Bの電動モータの動作に伴って、これら三つの操作ワイヤが同時に引っ張られたり緩められたりする構成であっても良い。
【0041】
クラッチ操作ユニット52は、第一クラッチ操作ユニット52Aや第二クラッチ操作ユニット52Bの他に、ECU(Electronic Control Unit)やメモリ(例えばDRAMやEEPROM)、リレー回路、各種入出力機器等を有する。つまり、クラッチ操作ユニット52は、電子制御ユニットとしても構成され、第一クラッチ操作ユニット52Aと第二クラッチ操作ユニット52Bとの夫々の電動モータが、この電子制御ユニットによって制御される。
【0042】
操作スイッチ54は、運転部7(
図1参照)における任意の箇所に配置されるとともに、運転部7に搭乗する搭乗者によって操作可能なように構成されている。操作スイッチ54の制御信号がクラッチ操作ユニット52に入力され、クラッチ操作ユニット52は、操作スイッチ54の制御信号に基づいて第一クラッチ操作ユニット52Aの電動モータや第二クラッチ操作ユニット52Bの電動モータを制御する。つまり、第一クラッチ操作ユニット52Aと第二クラッチ操作ユニット52Bとの夫々の電動モータが、操作スイッチ54の制御信号に基づいて動作可能に構成され、上述した夫々の操作ワイヤが引っ張られたり緩められたりする。
【0043】
制御信号は、入制御信号と切制御信号とを有する。つまり、クラッチ操作ユニット52は操作スイッチ54から入制御信号と切制御信号とを検出可能に構成されている。入制御信号は、クラッチの入操作に関する制御信号であって、電動モータが入制御信号に基づいて操作ワイヤを引っ張るように回転制御されると、クラッチは非伝達状態から伝達状態に切換えられる。また、切制御信号はクラッチの切操作に関する制御信号であって、電動モータが切制御信号に基づいて操作ワイヤを緩めるように回転制御されると、クラッチは伝達状態から非伝達状態に切換えられる。
【0044】
このように、第一クラッチ操作ユニット52Aは、脱穀クラッチ23Aの入操作に関する制御信号である入制御信号と、脱穀クラッチ23Aの切操作に関する制御信号である切制御信号と、に基づいて脱穀クラッチ23Aを伝達状態と非伝達状態とに切換操作可能に構成されている。また、第二クラッチ操作ユニット52Bは、刈取クラッチ40A,41Aと、排出クラッチ50Aと、の夫々の入操作に関する制御信号である入制御信号と、これらのクラッチの切操作に関する制御信号である切制御信号と、に基づいて、これらのクラッチの夫々を伝達状態と非伝達状態とに切換可能なように構成されている。換言すると、クラッチ操作ユニット52は、クラッチの入操作に関する制御信号である入制御信号と、クラッチの切操作に関する制御信号である切制御信号と、に基づいてクラッチを伝達状態と非伝達状態とに切換操作可能に構成されている。
【0045】
図3に基づいて上述したように、
図3に示される夫々の伝動ベルトはエンジン8の動力によって回転駆動されているため、これらの伝動ベルトの回転数はエンジン8の回転数に比例する。駆動源としてのエンジン8の回転数を、以下『エンジン回転数R』と称する。
エンジン回転数Rは、『エンジン8に対する目標回転数』という意味を含む。また、エンジン回転数Rは、『エンジン8の実際の回転数』という意味を含むものであっても良い。
【0046】
エンジン回転数Rが高い状態で、上述したベルトテンション式のクラッチが非伝達状態から伝達状態に切換えられると、クラッチに隣接する伝動ベルトが突然高速で回転し始める。この場合、伝動ベルトに急激な負荷が掛かることによって衝撃や振動、スリップ等が伝動ベルトに生じ、伝動ベルトの寿命が低下する虞がある。特に、第一伝動ベルト23は、収穫部3や脱穀装置4等を含む作業装置に動力を伝達するため、第一伝動ベルト23には大きな負荷が掛かり易い。このことから、クラッチが非伝達状態から伝達状態に切換えられる際には、エンジン回転数Rは低い状態であることが望ましい。このため、本実施形態におけるクラッチ操作ユニット52は、クラッチを非伝達状態から伝達状態に切換える際に、エンジン回転数Rを調整可能に構成されている。なお、クラッチ操作ユニット52がクラッチを非伝達状態から伝達状態に切換える操作を、以下『伝達切換操作』と称する。
【0047】
クラッチ操作ユニット52は、アクセル操作具53から設定回転数を入力可能に構成されるとともに、回転数検出センサ55からエンジン8の実際の回転数を入力可能に構成されている。アクセル操作具53は、例えばダイヤル式やレバー式の操作具であって、アクセル操作具53の操作量に基づいてエンジン8の目標回転数を設定可能に構成されている。回転数検出センサ55は、例えばエンジン8に装着された回転検出器である。
【0048】
クラッチ操作ユニット52は、アクセル操作具53の操作量に基づいてエンジン制御ユニット56へ指示信号を出力可能に構成されている。エンジン制御ユニット56はエンジン8に対する種々の制御を可能に構成され、クラッチ操作ユニット52からの指示信号に基づいてエンジン8の実際の回転数がエンジン制御ユニット56によって調整される。エンジン8の実際の回転数は回転数検出センサ55によって検出され、この検出回転数が検出信号として回転数検出センサ55からクラッチ操作ユニット52へ周期的(例えば0.1秒毎)に伝達される。
【0049】
クラッチ操作ユニット52は報知部57に報知信号を出力可能に構成され、クラッチ操作ユニット52によるクラッチによる伝達切換操作が行われる際に、報知信号はクラッチ操作ユニット52から報知部57へ出力される。報知部57は、例えば運転部7に配置されたモニターやブザー、表示灯等であって、伝達切換操作に関する報知を可能に構成されている。運転部7の搭乗者は、報知部57の報知によって、クラッチの非伝達状態から伝達状態に切換えられている状態を認識できる。なお、報知部57は、運転部7の搭乗者や圃場で作業している作業者が携帯する端末(例えばスマートフォンや携帯コンピュータ)に組み込まれる構成であっても良い。
【0050】
図4乃至
図6に基づいて、クラッチ操作ユニット52によるクラッチの切換制御に関して説明する。
図5及び
図6では、第一クラッチ操作ユニット52Aが脱穀クラッチ23Aを非伝達状態から伝達状態に切換える場合の制御がフローチャートで示される。
図5における「スタート」は、クラッチ操作ユニット52が入制御信号を検出したタイミングである。このタイミングからクラッチの切換制御が開始され、最初に報知処理が開始される(ステップ#01)。報知処理は、クラッチ操作ユニット52が報知部57に報知信号を出力する処理であって、クラッチの切換制御の開始が、報知部57を介して運転部7の搭乗者に報知される。この報知処理は、クラッチの切換制御の処理が後述するステップ#17に到達するまで継続する。
【0051】
報知処理の開始後に、予め設定された閾値RLよりもエンジン回転数Rが高いかどうかが判定される(ステップ#02)。閾値RLは、例えばクラッチ操作ユニット52のメモリに予め記憶されている。そして、エンジン回転数Rと閾値RLとが比較される。なお、閾値RLは任意のヒステリシス幅を有するものあっても良く、ヒステリシス幅によってエンジン回転数Rと閾値RLとの比較に基づく判定が安定的になる。エンジン回転数Rが閾値RL以下(または閾値RL未満)である場合(ステップ#02:No)、クラッチの切換制御は後述のステップ#11へ進む。
【0052】
エンジン回転数Rが閾値RLよりも高い場合(ステップ#02:Yes)、回転数制御フラグFLがONに設定される(ステップ#03)。回転数制御フラグFLは、クラッチ操作ユニット52のECUの処理で用いられる変数であって、後述の第二回転数制御で用いられる。回転数制御フラグFLがONに設定された後、第一回転数制御が行われる(ステップ#04)。『第一回転数制御』とは、エンジン回転数Rが閾値RL以下(または閾値RL未満)となるようにエンジン回転数Rを下げる制御である。第一回転数制御では、エンジン回転数Rを下げる指示信号がクラッチ操作ユニット52からエンジン制御ユニット56へ伝達され、エンジン制御ユニット56は、エンジン8の実際の回転数が閾値RL以下(または閾値RL未満)になるようにエンジン8を制御する。エンジン回転数Rは経時的に変化し、エンジン回転数Rが閾値RLより高いかどうかの判定が周期的に繰り返される(ステップ#05)。エンジン回転数Rが閾値RL以下(または閾値RL未満)である場合(ステップ#05:No)、エンジン回転数Rの第一回転数制御が終了し、クラッチの切換制御は後述のステップ#11へ進む。
【0053】
ステップ#11では、回転数制御フラグFLがONに設定されているかどうかが判定される。回転数制御フラグFLがONであると判定された場合(ステップ#11:Yes)、このタイミングでは第一回転数制御が行われた直後であるため、エンジン8のトルクが不安定である場合も考えられる。この状態で、例えば脱穀クラッチ23Aが伝達切換操作されると、このタイミングでエンジン8の出力が不安定になることも考えられる。このような不都合を回避するため、ステップ#12~ステップ#14に示されるような待ち処理が実行される。なお、回転数制御フラグFLがOFFである場合(ステップ#11:No)、クラッチの切換制御は後述のステップ#15へ進む。
【0054】
ステップ#12では第一待ちタイマTw1のカウントが開始され、第一待ちタイマTw1がカウントアップするまでステップ#13の判定が繰り返される。第一待ちタイマTw1は、クラッチ操作ユニット52のECUの処理で用いられるタイマ変数である。ステップ#12では第一待ちタイマTw1のカウントが開始されてからステップ#13で第一待ちタイマTw1がカウントアップするまでの時間を、『第一間隔時間』と称する。第一間隔時間は、第一回転数制御の完了から伝達切換操作の開始までの時間であって、第一回転数制御が行われた後に、エンジン8における実際の回転数の変化が収束してエンジン8のトルクが安定するための待ち時間として設定される。また、第一間隔時間は、クラッチ操作ユニット52のメモリに記憶され、適宜変更可能な値である。もちろん、第一間隔時間はゼロ値であっても良く、この場合には第一待ちタイマTw1が直ちにカウントアップして(ステップ#13:Yes)、待ち時間は発生しない。第一待ちタイマTw1がカウントアップすると(ステップ#13:Yes)、第一待ちタイマTw1のカウント状態はクリアされる(ステップ#14)。
【0055】
ステップ#15では報知タイマTnのカウントが開始される。報知タイマTnは、クラッチ操作ユニット52のECUの処理で用いられるタイマ変数であって、ステップ#01で開始された報知処理の終了タイミングを設定するために用いられる。報知タイマTnのカウントの開始後に、脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作が開始される(ステップ#16)。なお、ステップ#15における報知タイマTnのカウント開始と、ステップ#16における脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作の開始と、は同時に行われても良い。
【0056】
本実施形態では、報知部57による報知処理は、脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作の完了前に終了する。このため、脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作の開始後に、報知タイマTnがカウントアップしたかどうかが判定される(ステップ#17)。報知タイマTnのカウントアップ時間は、脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作に要する時間よりも短い時間に設定される。また、報知タイマTnのカウントアップ時間は、クラッチ操作ユニット52のメモリに記憶され、適宜変更可能な値である。
【0057】
報知タイマTnがカウントアップすると(ステップ#17:Yes)、報知部57による報知処理が終了し(ステップ#18)、報知タイマTnのカウント状態はクリアされる(ステップ#19)。そして、脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作が完了したかどうかが判定され(ステップ#20)、脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作が完了するまで、ステップ#17~ステップ#20の処理が繰り返される。この間に、脱穀クラッチ23Aと第一クラッチ操作ユニット52Aとに亘る操作ワイヤが、第一クラッチ操作ユニット52Aの電動モータの動作によって引っ張られ、脱穀クラッチ23Aが非伝達状態から伝達状態に切換えられる。なお、ステップ#17でYesの判定が行われてステップ#18とステップ#19との処理が行われた後で、ステップ#17~ステップ#20の処理が繰り返される場合、報知タイマTnはカウント状態ではないため、ステップ#17は必ずNoの判定になる。また、フローチャートに示されていないが、伝達切換操作が完了し(ステップ#20:Yes)、かつ、報知タイマTnがカウント中である場合、報知部57による報知処理が終了するとともに報知タイマTnのカウント状態はクリアされる。
【0058】
脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作が完了すると(ステップ#20:Yes)、回転数制御フラグFLがONに設定されているかどうかが判定される(ステップ#21)。回転数制御フラグFLがOFFである場合(ステップ#21:No)、クラッチの切換制御は、そのまま終了する。回転数制御フラグFLがONである場合(ステップ#21:Yes)、ステップ#23~ステップ#27の処理で第二回転数制御が行われる。『第二回転数制御』とは、第一回転数制御が行われてエンジン回転数Rが閾値RL以下(または閾値RL未満)となった状態で伝達切換操作が完了したら、エンジン回転数Rが閾値RLよりも高くなるようにエンジン回転数Rを上げる制御である。この第二回転数制御によって、エンジン回転数Rが元に戻される。
【0059】
ステップ#22で回転数制御フラグFLがクリアされた後、第二待ちタイマTw2のカウントが開始され(ステップ#23)、第二待ちタイマTw2がカウントアップするまでステップ#24の判定が繰り返される。第二待ちタイマTw2は、クラッチ操作ユニット52のECUの処理で用いられるタイマ変数である。ステップ#23では第二待ちタイマTw2のカウントが開始されてからステップ#24で第二待ちタイマTw2がカウントアップするまでの時間を、『第二間隔時間』と称する。第二間隔時間は、伝達切換操作の完了から第二回転数制御の開始までの時間であって、第一伝動ベルト23に掛かる衝撃や振動が収束して第一伝動ベルト23の回転状態が安定するための待ち時間として設定される。また、第二間隔時間は、クラッチ操作ユニット52のメモリに記憶され、適宜変更可能な値である。もちろん、第二間隔時間はゼロ値であっても良く、この場合には第二待ちタイマTw2が直ちにカウントアップして(ステップ#24:Yes)、待ち時間は発生しない。第二待ちタイマTw2がカウントアップすると(ステップ#24:Yes)、第二待ちタイマTw2のカウント状態はクリアされる(ステップ#25)。
【0060】
なお、第一待ちタイマTw1と、第二待ちタイマTw2と、報知タイマTnと、の夫々のカウントは、ゼロ値からカウントアップ時間の値までインクリメントされる構成であっても良い。また、第一待ちタイマTw1と、第二待ちタイマTw2と、報知タイマTnと、の夫々のカウントは、カウントアップ時間の値からゼロ値までデクリメントされる構成であっても良い。第一待ちタイマTw1と、第二待ちタイマTw2と、報知タイマTnと、の夫々におけるカウントアップ時間は、各別に設定される。
【0061】
ステップ#26で第二回転数制御が開始され、第二回転数制御の完了が判定されるまでステップ#27の判定が繰り返される。この間に、エンジン回転数Rが経時的に変化して、エンジン回転数Rとアクセル操作具53の設定回転数とが周期的に比較される。第二回転数制御では、エンジン回転数Rを上げる指示信号がクラッチ操作ユニット52からエンジン制御ユニット56へ伝達され、エンジン制御ユニット56は、エンジン8の実際の回転数がアクセル操作具53の設定回転数に達するように、エンジン8を制御する。エンジン回転数Rがアクセル操作具53の設定回転数に到達すると、第二回転数制御の完了が判定され(ステップ#27:Yes)、クラッチの切換制御は終了する。
【0062】
図7乃至
図9に、エンジン回転数Rと、脱穀クラッチ23A(
図4等参照、以下同じ)の状態と、報知部57(
図4参照、以下同じ)による報知処理と、の夫々がタイムチャートとして経時的に示されている。
図7乃至
図9において、脱穀クラッチ23Aの非伝達状態と伝達状態との夫々が水平な線で示され、脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作が行われている最中の状態が傾斜線で示されている。
【0063】
図7には、エンジン回転数Rが常に閾値RL以下である場合において、クラッチ操作ユニット52(
図4参照、以下同じ)による伝達切換操作が行われる様子が示されている。
図7に示される例では、
図5に示されるフローチャートに基づいて、ステップ#02でNoの判定が行われる。そして、回転数制御フラグFLはONに設定されないため、ステップ#11でNoの判定が行われ、ステップ#21でもNoの判定が行われる。このことから、ステップ#01の処理と、ステップ#15の処理と、ステップ#16の処理と、が略同時に行われる。このため、脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作が開始されるタイミングと、報知部57による報知処理の開始タイミングと、が略同時である。
【0064】
図7において、脱穀クラッチ23Aが非伝達状態から伝達状態に移行し始めるタイミングが、入制御信号の検出タイミングである。
図5に示されるステップ#01の処理と、
図6に示されるステップ#15及びステップ#16の処理と、が入制御信号の検出タイミングで略同時に行われている。このように、クラッチ操作ユニット52が入制御信号を検出したときにエンジン回転数Rが予め設定された閾値RL以下である場合(または閾値RLよりも低い場合)、クラッチ操作ユニット52は脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作を直ちに行う。
【0065】
図8では、エンジン回転数Rが閾値RLよりも高回転なR1である場合に、クラッチ操作ユニット52による伝達切換操作が行われる様子が示されている。この場合、アクセル操作具53(
図4参照、以下同じ)の設定回転数はR1となるように設定される。また、
図9では、エンジン回転数Rが閾値RLよりも高回転なR2である場合に、クラッチ操作ユニット52による伝達切換操作が行われる様子が示されている。この場合、アクセル操作具53の設定回転数はR2となるように設定され、R2はR1よりも低い回転数である。
【0066】
図8及び
図9に示される例の何れにおいても、クラッチ操作ユニット52が入制御信号を検出したタイミングで、
図5におけるステップ#01~ステップ#04の処理が行われる。
図8に示される例では第一回転数制御が時間Td1の間に亘って行われ、
図9に示される例では第一回転数制御が時間Td2の間に亘って行われる。このように、クラッチ操作ユニット52が入制御信号を検出したときにエンジン回転数Rが閾値RLよりも高い場合、クラッチ操作ユニット52は第一回転数制御を行うとともに、エンジン回転数Rが閾値RL以下(または閾値RL未満)となった状態で脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作を行う。
【0067】
図8に示される第一回転数制御では、時間Td1の間にエンジン回転数RがR1から閾値RLに下げられている。第一回転数制御におけるエンジン回転数Rの単位時間当たりの変化率を第一変化率Rdと定義すると、
図8に示される例では第一変化率Rdが以下の式から算出される。
Rd=(R1-RL)/Td1
【0068】
また、
図9に示される第一回転数制御では、時間Td2の間にエンジン回転数RがR2から閾値RLに下げられている。
図9に示される例では、上述した第一変化率Rdが以下の式から算出される。
Rd=(R2-RL)/Td2
【0069】
第一変化率Rdは、
図8及び
図9においてエンジン回転数Rのグラフの傾斜度合いによって表される。
図9のエンジン回転数Rのグラフに示される破線は、
図8のエンジン回転数Rのグラフに示される実線を重ね合わせたものである。
図9に示されるように、エンジン回転数RがR1から閾値RLに下げられる際のエンジン回転数Rのグラフの傾斜度合い(破線)と、エンジン回転数RがR2から閾値RLに下げられる際のエンジン回転数Rのグラフの傾斜度合い(実線)と、が同じである。このことから、第一変化率Rdは、以下の式に示されるように、クラッチ操作ユニット52が入制御信号を検出した時点におけるエンジン回転数Rにかかわらず一定である。
Rd=(R1-RL)/Td1=(R2-RL)/Td2
【0070】
図8及び
図9に示される例の何れにおいても、第一回転数制御の完了後、
図6に示されるステップ#12,ステップ#13の処理に基づく第一待ちタイマTw1のカウントが行われ、第一間隔時間が
図8及び
図9の『Tw1』で示されている。第一間隔時間の経過後に、
図6に示されるステップ#16の処理に基づいて脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作が開始される。伝達切換操作の完了後に、ステップ#23,ステップ#24の処理に基づく第二待ちタイマTw2のカウントが行われ、第二間隔時間が
図8及び
図9の『Tw2』で示される。
【0071】
第二間隔時間の経過後に、
図8及び
図9に示される例の何れにおいても、
図6におけるステップ#26の処理に基づく第二回転数制御が行われる。
図8に示される例では第二回転数制御が時間Ta1の間に亘って行われ、
図9に示される例では第二回転数制御が時間Ta2の間に亘って行われる。
【0072】
図8に示される第二回転数制御では、時間Ta1の間にエンジン回転数Rが閾値RLからR1に上げられている。第二回転数制御におけるエンジン回転数Rの単位時間当たりの変化率を第二変化率Ruと定義すると、
図8に示される例では第二変化率Ruが以下の式から算出される。
Ru=(R1-RL)/Ta1
【0073】
また、
図9に示される第二回転数制御では、時間Ta2の間にエンジン回転数Rが閾値RLからR2に上げられている。
図9に示される例では、上述した第二変化率Ruが以下の式から算出される。
Ru=(R2-RL)/Ta2
【0074】
第二変化率Ruは、
図8及び
図9においてエンジン回転数Rのグラフの傾斜度合いによって表される。また、第二変化率Ruは、以下の式に示されるように一定である。
Ru=(R1-RL)/Ta1=(R2-RL)/Ta2
なお、第二変化率Ruは一定でなくても良く、例えばアクセル操作具53の設定回転数に応じて第二変化率Ruが変化しても良い。
【0075】
本実施形態では、第一変化率Rdは第二変化率Ruよりも小さく設定されている。換言すると、時間Td1が時間Ta1よりも長く設定され、時間Td2が時間Ta2よりも長く設定されている。第一回転数制御の実行時にクローラ走行装置2が駆動している場合、クローラ走行装置2の駆動負荷によってエンジン8の実際の回転数が急に下がることも考えられる。このような場合、クローラ走行装置2が急減速することによって、作業者が驚いたり不快に感じたりする虞がある。本構成であれば、第一変化率Rdに基づいてエンジン回転数Rが徐々に下げられるため、クローラ走行装置2は急減速することなく徐々に減速する。このため、第一回転数制御の実行時に作業者が驚いたり不快に感じたりする虞が大きく軽減される。
【0076】
第一間隔時間は、第一回転数制御の直後においてエンジン8(
図3参照、以下同じ)の出力が安定するのを待つ時間であって、第二間隔時間は、伝達切換操作の直後において第一伝動ベルト23(
図4参照、以下同じ)に掛かる衝撃や振動が収束するのを待つ時間である。上述したように、第一回転数制御においてエンジン回転数Rは徐々に下げられるため、第一回転数制御の直後におけるエンジン8の出力は、伝達切換操作の完了後に第一伝動ベルト23の衝撃や振動の収束を待つ場合よりも速く安定する。このため、本実施形態では、
図8及び
図9の『Tw1』で示される第一間隔時間が、
図8及び
図9の『Tw2』で示される第二間隔時間よりも短く設定されている。換言すると、
図8及び
図9の『Tw2』で示される第二間隔時間が、
図8及び
図9の『Tw1』で示される第一間隔時間よりも長く設定されている。第二間隔時間は、例えば0.7秒に設定される。第一間隔時間は、例えば0~0.3秒に設定され、ゼロ値であっても良い。
【0077】
報知タイマTnがカウントする設定時間は、
図7乃至
図9における『Tn』の間隔時間で示され、報知タイマTnのカウントが終了するタイミングで報知処理はONからOFFに切換えられている。報知タイマTnがカウントする設定時間は、脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作の開始から予め設定された設定時間である。つまり、
図7乃至
図9に示されるように、報知部57は、クラッチ操作ユニット52が入制御信号を検出した時点と、伝達切換操作の開始から予め設定された設定時間が経過した時点と、に亘って伝達切換操作に関する報知をし続ける。
【0078】
報知処理がONからOFFへ切換えられたタイミングでは、脱穀クラッチ23Aに対する伝達切換操作は完了していない。つまり、報知タイマTnがカウントする設定時間は、伝達切換操作の完了前の時点に設定されている。例えば、伝達切換操作の開始から完了までに要する時間が1.3秒であれば、報知タイマTnがカウントする設定時間は、例えば1秒に設定される。そして、報知タイマTnのカウントが設定時間を経過した時点で、報知部57は報知を止める。このため、報知部57による報知がしつこくならずに済み、作業者が報知を不快に感じる虞は軽減される。
【0079】
〔別実施形態〕
本発明は、上述の実施形態に例示された構成に限定されるものではなく、以下、本発明の代表的な別実施形態を例示する。
【0080】
(1)上述した実施形態では、クラッチ操作ユニット52が脱穀クラッチ23Aを伝達切換操作する構成が例示されたが、本発明の『作業クラッチ』は、刈取クラッチ40A,41Aや排出クラッチ50Aであっても良い。刈取クラッチ40Aが本発明の『作業クラッチ』である場合、本発明の『伝動ベルト』は刈取用伝動ベルト40である。また、刈取クラッチ41Aが本発明の『作業クラッチ』である場合、本発明の『伝動ベルト』は刈取用伝動ベルト41である。加えて、排出クラッチ50Aが本発明の『作業クラッチ』である場合、本発明の『伝動ベルト』は排出伝動ベルト50である。
【0081】
(2)上述した実施形態において、第一回転数制御が行われてエンジン回転数Rが閾値RL以下となった状態で伝達切換操作が完了したら、クラッチ操作ユニット52は第二回転数制御を行うが、この実施形態に限定されない。例えば、クラッチ操作ユニット52は第二回転数制御を行わないように選択設定可能な構成であっても良い。
【0082】
(3)上述した実施形態において、クラッチ操作ユニット52は、エンジン回転数Rがアクセル操作具53の設定回転数に達するように第二回転数制御を行うが、この実施形態に限定されない。例えば、
図6に示されるステップ#03において、回転数制御フラグFLがONに設定されると同時に、このタイミングにおけるエンジン回転数Rがクラッチ操作ユニット52のメモリに記憶される構成であっても良い。この場合、第二回転数制御では、エンジン制御ユニット56は、エンジン8の実際の回転数がステップ#03で記憶されたエンジン回転数Rに達するように、エンジン8を制御する構成であっても良い。そして、ステップ#27において、エンジン回転数Rがステップ#03で記憶されたエンジン回転数Rに到達すると、第二回転数制御の完了が判定され、クラッチの切換制御は終了する構成であっても良い。
【0083】
(4)上述した実施形態において、第一回転数制御では、第一変化率Rdに基づいてエンジン回転数Rが時間に比例して下げられているが、この実施形態に限定されない。例えば、第一回転数制御では、エンジン回転数Rが、公知の躍度最小モデル等に基づく制御よってS字カーブ状に下げられる構成であっても良い。また、例えば、第二回転数制御では、エンジン回転数Rが、公知の躍度最小モデル等に基づく制御よってS字カーブ状に上げられる構成であっても良い。
【0084】
(5)上述した実施形態において、第一回転数制御の完了から伝達切換操作の開始までの時間である第一間隔時間が設けられているが、第一間隔時間が設けられない構成であっても良い。
【0085】
(6)上述した実施形態において、報知部57は、クラッチ操作ユニット52が入制御信号を検出した時点から、伝達切換操作の完了前の時点まで伝達切換操作に関する報知を行うが、この実施形態に限定されない。例えば、報知タイマTnがカウントする設定時間が伝達切換操作の完了後の時点に設定されても良い。また、報知タイマTnがカウントアップした後も、報知部57が何らかの報知を行う構成であっても良い。
【0086】
(7)上述した実施形態において、第二間隔時間は、第二待ちタイマTw2のカウント時間であって、伝達切換操作の完了から第二回転数制御の開始までの時間であるが、この実施形態に限定されない。例えば、第二待ちタイマTw2のカウント時間は、伝達切換操作の開始から第二回転数制御の開始までの時間として設定されても良い。この場合、第二待ちタイマTw2のカウント時間は伝達切換操作に要する時間よりも長く設定されると良い。もちろん、第二待ちタイマTw2のカウント時間が報知タイマTnのカウント時間よりも長く設定されても良い。この場合に例えば、伝達切換操作の開始から完了までに要する時間が1.3秒であれば、報知タイマTnがカウントする設定時間は、例えば1秒に設定され、第二待ちタイマTw2のカウント時間は、例えば2秒に設定される構成であっても良い。
【0087】
なお、上述の実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能である。
また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、作業車に関するものである。このため本発明は、上述の普通型コンバイン以外にも、自脱型コンバインやトウモロコシ収穫機、耕耘装置などの作業装置を取り付けたトラクタ、水田作業機、バックホー等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0089】
3 :収穫部(作業装置)
4 :脱穀装置(作業装置)
5 :グレンタンク(作業装置)
6 :穀粒排出装置(作業装置)
8 :エンジン(駆動源)
23 :第一伝動ベルト(伝動ベルト)
23A :脱穀クラッチ(作業クラッチ)
52 :クラッチ操作ユニット
53 :アクセル操作具
55 :回転数検出センサ
57 :報知部
R :エンジン回転数(回転数)
RL :閾値
Rd :第一変化率
Ru :第二変化率
Tn :報知タイマ(伝達切換操作の開始から予め設定された設定時間)
Tw1 :第一待ちタイマ(第一間隔時間)
Tw2 :第二待ちタイマ(第二間隔時間)