IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クボタの特許一覧

<>
  • 特許-作業車 図1
  • 特許-作業車 図2
  • 特許-作業車 図3
  • 特許-作業車 図4
  • 特許-作業車 図5
  • 特許-作業車 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20221128BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20221128BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
A01B69/00 301
G08G1/16 A
G08G1/00 X
A01B69/00 303Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019117488
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021003014
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中林 隆志
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】江戸 俊介
(72)【発明者】
【氏名】宮下 隼輔
(72)【発明者】
【氏名】石見 憲一
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-113937(JP,A)
【文献】特開2019-004772(JP,A)
【文献】特開2018-014554(JP,A)
【文献】特開2018-085960(JP,A)
【文献】特開2014-129093(JP,A)
【文献】特開2014-033469(JP,A)
【文献】特開2014-180046(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0316692(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
A01D 41/00 - 41/16
B60R 1/20 - 1/28
G05D 1/00 - 1/02
G08G 1/00 - 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業走行を行う作業車であって、
機体の周囲を撮影する複数の撮像装置と、
複数の前記撮像装置が撮影した周辺画像を合成して、前記機体の周囲全周の周囲画像を生成する画像処理部と、
前記周囲画像が表示される表示装置と、
作業走行の進行方向を検出する方向検出部と、
前記方向検出部が検出した進行方向前方を撮影する前記撮像装置が撮影する1つの前記周辺画像、または、進行方向前方を撮影する前記撮像装置が撮影する前記周辺画像および進行方向前方を撮影する前記撮像装置と隣接して配置される1または複数の前記撮像装置が撮影する前記周辺画像を検知用画像として取得する画像選別部と、
前記画像選別部が取得した前記検知用画像を解析して障害物を検知する検知部とを備える作業車。
【請求項2】
あらかじめ設定された動作を順に行うように前記作業走行を自動走行制御する自動走行制御部を備える請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記自動走行制御部は、前記検知部が前記障害物を検知した場合に、あらかじめ設定された次の前記動作を変更する請求項2に記載の作業車。
【請求項4】
前記画像選別部は、次の前記動作が開始される所定時間前から、次の前記動作における進行方向前方を撮影する前記撮像装置が撮影する前記周辺画像を前記検知用画像として選択的に取得する請求項2または3に記載の作業車。
【請求項5】
前記画像選別部は、次の前記動作が開始される位置より所定の距離だけ手前から、次の前記動作における進行方向前方を撮影する前記撮像装置が撮影する前記周辺画像を前記検知用画像として選択的に取得する請求項2または3に記載の作業車。
【請求項6】
前記自動走行制御部は、前記検知部が前記障害物を検知すると、前記作業走行の停止または前記動作の移行の停止を行う請求項2から5のいずれか一項に記載の作業車。
【請求項7】
前記検知部は、機械学習されたニューラルネットワークを用いて前記障害物の検知を行う請求項1からのいずれか一項に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
機体周囲が撮像された画像を用いて障害物の検知を行う作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
走行しながら作業を行う作業車は、作業走行中に機体の周囲を複数のカメラで撮影し、撮影された機体の周囲の撮像画像を用いて、機体の周囲に存在する障害物を検知する場合がある。障害物の検知は、CPUやECU等が撮像画像を解析することにより行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-49918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のカメラを用いて撮影された機体の周囲の撮像画像はデータ量が非常に大きくなる。そのため、このようなデータ量の大きな撮像画像を高精度に解析するためには、高いプロセッサの処理能力が必要となる。しかしながら、作業車に搭載されるプロセッサには処理能力に限界があり、機体の周囲の撮像画像を短時間に、かつ、高精度に解析することが困難である。
【0005】
本発明は、機体の周囲の撮像画像を用いて、短時間に、かつ、高精度に障害物の検知を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る作業車は、作業走行を行う作業車であって、機体の周囲を撮影する複数の撮像装置と、複数の前記撮像装置が撮影した周辺画像を合成して、前記機体の周囲全周の周囲画像を生成する画像処理部と、前記周囲画像が表示される表示装置と、作業走行の進行方向を検出する方向検出部と、前記方向検出部が検出した進行方向前方を撮影する前記撮像装置が撮影する1つの前記周辺画像、または、進行方向前方を撮影する前記撮像装置が撮影する前記周辺画像および進行方向前方を撮影する前記撮像装置と隣接して配置される1または複数の前記撮像装置が撮影する前記周辺画像を検知用画像として取得する画像選別部と、前記画像選別部が取得した前記検知用画像を解析して障害物を検知する検知部とを備える。
【0007】
機体の周囲の障害物が、撮像装置により撮影された画像を画像解析することで検知される場合がある。また、複数のカメラで機体の周囲を分割して撮影し、撮影された複数の周辺画像を合成して周囲画像を生成し、機体の周囲の状況が1枚の画像として表示される場合がある。このような周囲画像を用いて画像解析することにより、機体の周囲の障害物を検知することも可能であるが、解析装置の性能の限界もあり、データ量が大きくなりがちな周囲画像を用いて障害物の検知を高精度に行うことは困難である。これに対して上記のような構成では、周囲画像の生成に用いられる周辺画像のうち、障害物の検知に必要な進行方向前方を撮影する撮像装置が撮影する周辺画像を検知用画像として選択的に用いて画像解析を行うことができる。そのため、効率的に検知用画像を最適化することで、必要最低限のデータ量の検知用画像を用いて障害物の検知が行われ、データ量が抑制されて、短時間で、かつ容易に障害物の検知を高精度に行うことができる。
また、検知用画像のデータ量を抑制しながら、効率的に最適な範囲の検知画像を選択することができ、より精度良く障害物の検知を行うことができる。
また、運転者や作業者は、機体の周囲の状況を容易に認知することができる。
【0008】
また、あらかじめ設定された動作を順に行うように前記作業走行を自動走行制御する自動走行制御部を備えても良い。
【0009】
このような構成により、自動走行においても、短時間で、かつ容易に障害物の検知を高精度に行うことができる。
【0010】
また、前記自動走行制御部は、前記検知部が前記障害物を検知した場合に、あらかじめ設定された次の前記動作を変更することが好ましい。
【0011】
このような構成により、作業車が障害物に衝突する等の事態を回避して、適切な作業走行を継続することができる。
【0012】
また、前記画像選別部は、次の前記動作が開始される所定時間前から、次の前記動作における進行方向前方を撮影する前記撮像装置が撮影する前記周辺画像を前記検知用画像として選択的に取得しても良い。
【0013】
このような構成により、動作の移行前にあらかじめ、次の動作の進行方向に存在する障害物が検知され、障害物があるにもかかわらず動作の移行が行われることが抑制され、作業車が障害物に衝突する等の事態を回避することができる。
【0014】
また、前記画像選別部は、次の前記動作が開始される位置より所定の距離だけ手前から、次の前記動作における進行方向前方を撮影する前記撮像装置が撮影する前記周辺画像を前記検知用画像として選択的に取得しても良い。
【0015】
このような構成により、動作の移行前にあらかじめ障害物の存在が判明し、障害物があるにもかかわらず動作の移行が行われることが抑制され、作業車が障害物に衝突する等の事態を回避することができる。
【0016】
また、前記自動走行制御部は、前記検知部が前記障害物を検知すると、前記作業走行の停止または前記動作の移行の停止を行うことが好ましい。
【0017】
このような構成により、確実に作業車が障害物に衝突等することを回避することができる。そして、障害物の存在がなくなってから、作業走行を再開し、あるいは動作の移行を行うことができるため、適切な作業走行を継続することができる。
【0018】
【0019】
【0020】
また、前記検知部は、機械学習されたニューラルネットワークを用いて前記障害物の検知を行っても良い。
【0021】
このような構成により、より効率的、かつ高精度に障害物の検知を行うことができる。
【0022】
【0023】
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】普通型コンバインの機体の右側面図である。
図2】普通型コンバインの機体の平面図である。
図3】普通型コンバインの機体の左側面図である。
図4】コンバインの制御系を示す機能ブロック図である。
図5】周囲画像を例示する図である。
図6】検知用画像において障害物を検知する例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の作業車の一例である普通型コンバイン(以下、単にコンバインとも称す)について、図面に基づき説明する。なお、以下の説明においては、図1に示す矢印Fの方向を「前」、矢印Bの方向を「後」とし、図1の紙面の手前方向を「左」、奥向き方向を「右」とする。また、図1に示す矢印Uの方向を「上」、矢印Dの方向を「下」とする。
【0026】
〔コンバインの全体構成〕
まず、図1から図3を用いてコンバインの全体構成について説明する。コンバインは、クローラ式の走行装置11、運転部12、脱穀装置13、穀粒タンク14、収穫部H、搬送装置16、穀粒排出装置18、衛星測位モジュール80を備える。搬送装置16、脱穀装置13および収穫部Hは作業装置の一例である。
【0027】
走行装置11は、機体10の下部に備えられている。コンバインは、走行装置11によって自走可能に構成される。
【0028】
また、運転部12、脱穀装置13、穀粒タンク14は、走行装置11の上側に備えられる。運転部12は、運転座席31、および、運転座席31を覆うキャビン3を備える。運転座席31には、コンバインの作業者や作業を監視する監視者が搭乗可能である。なお、監視者は、コンバインの機外からコンバインの作業を監視していても良い。運転部12には、表示装置2が配置される。
【0029】
穀粒排出装置18は、穀粒タンク14の上側に設けられる。また、衛星測位モジュール80は、運転部12の上面に取り付けられる。
【0030】
収穫部Hは、コンバインにおける前部に備えられる。そして、搬送装置16は、収穫部Hの後方に設けられる。また、収穫部Hは、切断機構15およびリール17を有する。
【0031】
切断機構15により刈り取られた刈取穀稈は、搬送装置16によって脱穀装置13へ搬送される。脱穀装置13において、刈取穀稈は脱穀処理される。脱穀処理により得られた穀粒は、穀粒タンク14に貯留される。穀粒タンク14に貯留された穀粒は、必要に応じて、穀粒排出装置18によって機外に排出される。収穫部H、走行装置11、搬送装置16および脱穀装置13は、動力源の一例であるエンジン8により駆動される。
【0032】
コンバインは、機体10に、機体の周囲を撮影する複数のカメラ4(撮像装置に相当)を備える。複数のカメラ4は、それぞれ機体10の周囲における所定の領域の画像(周辺画像)を撮影し、これらの画像が合成されて機体10の全方向における周囲の画像(周囲画像)が生成される。例えば、カメラ4として、前カメラ41(撮像装置の一例)、後カメラ42(撮像装置の一例)、右カメラ43(撮像装置の一例)、および左カメラ44(撮像装置の一例)が設けられる。前カメラ41、後カメラ42、右カメラ43、および左カメラ44はそれぞれ、機体10の周辺を撮影して周辺画像を生成し、後述の画像処理部70(図4参照)へ出力する。なお、本実施形態において周辺画像は、静止画であっても良いし、動画であっても良い。また、カメラ4は4台に限らず、機体10の全周囲を撮影できるだけの台数が設けられれば良い。
【0033】
図1から図3に示されるように、前カメラ41は、運転部12における前部に設けられる。詳しくは、前カメラ41は、キャビン3における前上部に設けられている。前カメラ41は、キャビン3における機体左右方向左側端部付近に位置しており、機体10における機体左右方向中央部に位置している。前カメラ41は、前斜め下方向に向けられており、機体10の前方を撮影する。
【0034】
後カメラ42は、穀粒タンク14の後端部の上部に設けられる。後カメラ42は、穀粒タンク14の機体左右方向左側端部付近に位置しており、機体10における機体左右方向中央部に位置している。後カメラ42は、後斜め下方向に向けられており、機体10の後方を撮影する。
【0035】
右カメラ43は、キャビン3の右側の側部の上角部に設けられる。右カメラ43は、キャビン3の後端部に位置しており、機体10における機体前後方向の中央部付近に位置している。右カメラ43は、右斜め下方向に向けられており、機体10の右方を撮影する。
【0036】
左カメラ44は、脱穀装置13の左側の側部の上角部に設けられている。左カメラ44は、脱穀装置13の機体前後方向前端部付近に位置しており、機体前後方向の中央部付近に位置している。左カメラ44の機体前後方向の位置は、右カメラ43の機体前後方向の位置とほぼ同じである。左カメラ44は、左斜め下方向に向けられており、機体10の左方を撮影する。
【0037】
運転部12に、表示装置2が設けられる。前カメラ41、後カメラ42、右カメラ43、および左カメラ44が撮影した周辺画像に基づいて合成画像が生成され、合成画像は表示装置2で表示される。表示装置2は、運転座席31の左斜め前に配置される。
【0038】
〔制御系の構成〕
次に、図1を参照しながら図4を用いて、コンバインの制御系の構成を説明する。この実施形態の制御系は、制御ユニット6を含み、多数のECUと呼ばれる電子制御ユニット(プロセッサ)と、各種動作機器、センサ群やスイッチ群、それらの間のデータ伝送を行う車載LANなどの配線網から構成されている。なお、制御ユニット6はこのようなハードウェアで構成されても良いが、一部または全部の構成を、適当な手順が実行されるソフトウェアで構成されても良い。また、このような構成をプロセッサが実行するプログラムにより実現しても良い。この場合、プログラムはコンバインに搭載される任意の記憶装置に格納される。
【0039】
制御ユニット6は、この制御系の中核要素であり、複数のECUの集合体として示されている。制御ユニット6は、各種動作機器、センサ群やスイッチ群等と配線網を介して接続される。さらに、制御ユニット6は、コンバインの外部に設けられる各種機器と通信部9を介してデータ通信可能な状態で接続される。
【0040】
通信部9は、このコンバインの制御系が、遠隔地に設置されているクラウドコンピュータシステム100や携帯通信端末200等との間でデータ交換するために用いられる。携帯通信端末200は、ここでは、作業走行現場における監視者(運転者・作業者も含む)が操作するタブレットコンピュータである。
【0041】
上述の衛星測位モジュール80からの測位データ、および、カメラ4からの画像データは、配線網を通じて制御ユニット6に入力される。
【0042】
制御ユニット6は、入出力インタフェースとして、入力処理部6Aと出力処理部6Bとを備える。入力処理部6Aには、走行系検出センサ群8Aや作業系検出センサ群8Bなどが接続される。走行系検出センサ群8Aには、エンジン回転数調整具、アクセルペダル、ブレーキペダル、変速操作具などの状態を検出するセンサ等を含めることができる。作業系検出センサ群8Bには、収穫部H、脱穀装置13、穀粒排出装置18、搬送装置16における装置状態および穀稈や穀粒の状態を検出するセンサ等を含めることができる。
【0043】
出力処理部6Bには、車両走行機器群7Aや作業装置機器群7Bが接続される。車両走行機器群7Aには、車両走行に関する制御機器、例えばエンジン制御機器、変速制御機器、制動制御機器、操舵制御機器などを含めることができる。作業装置機器群7Bには、収穫部H、脱穀装置13、穀粒排出装置18、搬送装置16における動力制御機器などを含めることができる。
【0044】
制御ユニット6には、作業走行制御モジュール60、画像処理部70、障害物検出部5、機体位置算出部66が備えられる。
【0045】
機体位置算出部66は、衛星測位モジュール80から逐次送られてくる測位データに基づいて、機体1の地図座標(または圃場座標)である機体位置を算出する。
【0046】
この実施形態のコンバインは自動走行(自動操舵)と手動走行(手動操舵)の両方で走行可能である。作業走行制御モジュール60は、走行制御部61と作業制御部62とに加えて、自動走行制御部63および走行経路設定部64を備える。自動操舵で走行する自動走行モードと、手動操舵で走行する手動操舵モードとのいずれかを選択する走行モードスイッチ(非図示)が運転部12に設けられている。この走行モードスイッチを操作することで、手動操舵走行から自動操舵走行への移行、あるいは自動操舵走行から手動操舵走行への移行が可能である。
【0047】
走行制御部61は、エンジン制御機能、操舵制御機能、車速制御機能などを有し、車両走行機器群7Aに走行制御信号を与える。作業制御部62は、収穫部H、脱穀装置13、穀粒排出装置18、搬送装置16などの動きを制御するために、作業装置機器群7Bに作業制御信号を与える。
【0048】
手動操舵モードが選択されている場合、運転者による操作に基づいて、走行制御部61は、制御信号を生成し、車両走行機器群7Aを制御する。また、運転者による操作に基づいて、作業制御部62は、制御信号を生成し、作業装置機器群7Bを制御する。自動操舵モードが選択されている場合、自動走行制御部63によって与えられる自動走行指令に基づいて、走行制御部61は、操舵に関する車両走行機器群7Aや車速に関する車両走行機器群7Aを制御する。また、自動走行制御部63によって与えられる自動走行指令に基づいて、作業制御部62は、作業装置機器群7Bを制御する。
【0049】
走行経路設定部64は、制御ユニット6、携帯通信端末200、クラウドコンピュータシステム100などのいずれかで作成された自動走行のための走行経路を、走行経路設定部64に内蔵されメモリ(図示せず)に展開する。メモリ(図示せず)に展開された走行経路は、順次自動走行における目標走行経路として用いられる。この走行経路は、手動走行であっても、コンバインが当該走行経路に沿って走行するためのガイダンスのために利用することも可能である。自動操舵モードが選択されている場合、目標走行経路と、目標走行経路に対応して順に行われる作業装置機器群7Bの駆動状態が、自動走行に係る動作としてあらかじめ設定される。
【0050】
自動走行制御部63は、より詳しくは、自動操舵指令および車速指令を生成して、走行制御部61にこれらの指令を与える。自動操舵指令は、走行経路設定部64によって走行経路と、機体位置算出部66によって算出された自車位置との間の方位ずれおよび位置ずれを解消するように生成される。車速指令は、前もって設定された車速値に基づいて生成される。さらに、自動走行制御部63は、作業制御部62に、自車位置や自車の走行状態に応じて、作業装置動作指令を与える。
【0051】
画像処理部70は、前カメラ41、後カメラ42、右カメラ43、および左カメラ44が撮影したそれぞれの周辺画像を取得する。具体的には、画像処理部70に、機体10の前方周辺を撮影した前方周辺画像が前カメラ41から入力され、機体10の後方周辺を撮影した後方周辺画像が後カメラ42から入力され、機体10の右方周辺を撮影した右方周辺画像が右カメラ43から入力され、機体10の左方周辺を撮影した左方周辺画像が左カメラ44から入力される。画像処理部70は、周辺画像に基づいて機体10の周囲全周の様子を示す周囲画像を生成し、周囲画像を表示装置2へ出力する。表示装置2は、画像処理部70が出力した周囲画像を表示する。
【0052】
画像処理部70は、記憶部72と、画像合成部73とを備える。
【0053】
記憶部72は、機体10の外観形状を示す機体データを記憶する。機体データは、機体10の平面的な形状を示すデータあっても良いが、機体10の立体的な形状を示すデータであって、例えば、機体10の3Dモデルを示すデータであっても良い。機体データには、収穫部Hの外観形状を示すデータ、穀粒排出装置18の外観形状を示すデータ、および穀粒タンク14の外観形状を示すデータが含まれる。
【0054】
画像合成部73は、前カメラ41、後カメラ42、右カメラ43、および左カメラ44から入力された4つの周辺画像と、記憶部72に記憶された機体データとに基づいて、機体10と機体10の周辺とを示す画像である周囲画像を生成し、表示装置2へ出力する。周囲画像には、収穫部H、穀粒排出装置18、および穀粒タンク14が示されることになる。
【0055】
ここで、図1図4を参照しながら図5を用いて周囲画像の例を説明する。図5は、コンバインが圃場を前進しながら収穫作業を行っている場合の周囲画像300を例示する図である。
【0056】
周囲画像300は画像合成部73で生成される。まず、画像合成部73は、前カメラ41、後カメラ42、右カメラ43、および左カメラ44から入力された4つの周辺画像から周辺合成画像301を生成する。周囲画像300は、あらかじめ記憶部72に記憶された機体画像302と周辺合成画像301とが、画像合成部73で合成されて生成される。機体画像302の周囲の周辺合成画像301には、機体10の右方および後方の既刈り地Pと、機体10の左方および前方の未刈り地Sとが示される。
【0057】
図4に示すように、障害物検出部5は、方向検出部51と、画像選別部52と、検知部53とを備える。
【0058】
方向検出部51は、作業走行制御モジュール60から取得する作業走行の状況、または機体位置算出部66が算出する機体位置の変化、あるいはこれらを総合的に判断して、機体10の進行方向を求める。
【0059】
画像選別部52は、方向検出部51が求めた機体10(以下、いずれも図1参照)の進行方向を撮影するカメラ4が、前カメラ41、後カメラ42、右カメラ43、および左カメラ44(いずれも、図1参照)のいずれであるかを判断する。画像選別部52は、機体10の進行方向を撮影するカメラ4と判断されたカメラ4が撮影した周辺画像を取得する。例えば、機体10の進行方向が前進であると判断された場合、画像選別部52は、前カメラ41(図1参照)が撮影した前方周辺画像を、検知用画像303(以下、いずれも図6参照)として選択的に取得する。取得された検知用画像303は、検知部53に受け渡される。
【0060】
検知部53は、画像選別部52から受け渡された検知用画像303を解析して、障害物を検知する。障害物の検知は、種々の画像解析装置や画像解析手法によって行うことができるが、例えば、障害物の検知は、人工知能を用いた画像解析により行うこともできる。具体的には、検知部53は、機械学習(深層学習)により学習されたニューラルネットワーク等の学習済みデータを用いて障害物を検知することができる。検知部53は、検知結果として、障害物の有無や、検知できる場合には障害物の位置、種類を作業走行制御モジュール60に送信する。
【0061】
ここで、図4を参照しながら図6を用いて、機体10が前進している場合の検知用画像303の例を示しながら障害物の検知についての具体例を説明する。
【0062】
機体10が前進している場合であるため、検知用画像303は、収穫部Hおよび機体10より前方の圃場の映像が含まれる。圃場に作物以外の異物がある場合、検知部53は、異物を障害物として検知する。この検知用画像303では、人物F3が障害物として検知される。
【0063】
このように、本実施形態では、障害物の検知の際に、解析対象となる検知用画像303として、複数のカメラ4が撮影した周辺画像の内、機体10の進行方向に相当する周辺画像が選択的に取得される。一般的に、解析対象となる画像のデータ量が大きくなると、解析装置等の性能に起因して、解析精度や解析速度等の解析能力が低下する。これに対して、本実施形態では、機体10の進行方向に相当する周辺画像が検知用画像303として解析対象となるので、解析装置等への負担が低減される。その結果、解析精度や解析速度等の解析能力が向上し、障害物を、短時間に、より高い確度で検知することができる。また、検知用画像303の範囲がしぼられるため、検知用画像303の解像度を高めることが容易となり、それによっても障害物の検知精度を向上させることができる。さらに、作業走行の進行方向における周辺画像のみを用いて障害物の検知を行うことにより、作業走行の障害にならない障害物を検知することを抑制しながら、作業走行の障害となる可能性の高い障害物を適切に検知することができる。
【0064】
さらに、障害物が検知された際には、作業走行制御モジュール60の自動走行制御部63は、障害物の検知結果を受信し、検知結果に応じて設定済みの動作を変更する構成とすることもできる。コンバインが自動走行している際には、自動走行制御部63は、走行経路設定部64が設定した走行経路を走行しながら、作業装置機器群7Bを制御する動作を、あらかじめ設定された順に移行しながら作業走行を行うように制御する。そして、障害物が検知された際に、自動走行制御部63は、このあらかじめ設定された動作を変更する。例えば、障害物が検知された旨の検知結果を受信すると、自動走行制御部63は、走行を停止させたり、走行経路を変更したり、作業装置機器群7Bを停止させたり、作業装置機器群7Bの状態を変化させたりする。
【0065】
進行方向に、上記のように、障害物が検知された際に自動走行における動作を変更することにより、障害物により適切な作業走行が行われなくなる事態を回避することができる。例えば、作業走行を停止することにより、障害物を排除してから作業走行を開始することができる。これにより、障害物があったとしても、適切な作業走行を継続することができる。
【0066】
〔別実施形態〕
(1)上述のように、自動走行による作業走行においては、ある動作から次の動作に移行しながら、あらかじめ設定された動作が順に行われる。この際、上記実施形態では、ある動作が行われている際の進行方向前方が撮影された画像に相当する周辺画像(進行方向前方を撮影するカメラ4が撮影した周辺画像)が検知用画像として選択される。動作が移行される際には、移行の前から、次の動作における進行方向前方が撮影される画像に相当する周辺画像が検知用画像として選択されても良い。例えば、動作の移行として、直進走行後に左旋回が行われる場合、直進走行の最終段階において、検知用画像として選択される周辺画像が、前カメラ41が撮影した前方周辺画像から、左カメラ44が撮影した左方周辺画像が切り替えられる。切り替えるタイミングは、次の動作が開始される所定時間前でも良いし、次の前記動作が開始される位置より所定の距離だけ手前にコンバインに到達した時でも良い。この際、障害物検出部5は、図4に示すように、方向検出部51と、画像選別部52と、検知部53とに加えて、動作開始時検出部54を備える。動作開始時検出部54は、動作が移行するタイミングに対して、所定時間前、あるいは所定の距離だけ手前にコンバインに到達した時を検出し、その旨を画像選別部52に送信する。そして、画像選別部52は、次の動作における進行方向前方の周辺画像を検出用画像として選択して取得する。なお、進行方向は、前進走行する場合の機体10前方に限らず、後進走行の場合は、機体10の後方が進行方向となる。また、左旋回の場合は機体10の左方向が進行方向となる。
【0067】
このように、動作が移行される前に、次の動作における進行方向前方を撮影するカメラ4が撮影する周辺画像を検知用画像として選択し、その検知用画像を用いて障害物を検知する。これにより、動作を移行した際にも、その直前から移行後の進行方向前方に存在する障害物を検知することができる。そのため、動作の移行時においても、作業走行の障害となる障害物を適切に検知することができる。さらに、動作の移行前に次の動作における進行方向前方で障害物が発見された場合、作業走行を停止したり、動作の移行を停止したりすることもできる。これにより、次の動作における進行方向の障害物が存在しなくなってから動作の移行を行うことができ、適切な作業走行を継続することができる。
【0068】
(2)上記各実施形態において、検知用画像は、進行方向前方が撮影された画像に相当する周辺画像に加えて、進行方向前方が撮影された画像と隣接する画像に相当する周辺画像を検知用画像とすることもできる。例えば、コンバインが前進走行している際に、前カメラ41が撮影した前方周辺画像と左カメラ44が撮影した左方周辺画像とが検知用画像として選択され、障害物が検知される。
【0069】
このような構成により、周辺画像の全てを検知用画像として用いないことにより、高精度に障害物を検知することができると共に、障害物の検知範囲を効率的に広げることができるため、より適切に障害物を検知することができる。
【0070】
(3)検知部53は、障害物の検知結果を作業走行制御モジュール60に送信し、作業走行制御モジュール60は障害物の有無や位置、種類に応じて動作を変更する場合が説明されたが、上記各実施形態において、障害物を検知ができれば、その後の処理は任意である。例えば、障害物の検知結果に応じて、制御ユニット6は、表示装置2に障害物を示した検知用画像303や障害物が存在する旨の情報を表示させたり、携帯通信端末200にこれらの検知用画像303や情報を表示させたり、図示しない報知部に警報を報知させたりしても良い。
【0071】
これにより、作業者が障害物の存在に気付くことができ、必要に応じて、手動により適切な対応を行うことができる。これにより、作業走行を適切に継続することができる。
【0072】
(4)上記各実施形態において、前カメラ41、後カメラ42、右カメラ43、および左カメラ44は常時周辺画像を撮影しており、画像選別部52は、これらの周辺画像のうちから1または2以上の周辺画像を検知用画像として選択的に取得しても良いが、前カメラ41、後カメラ42、右カメラ43、および左カメラ44は常時周辺画像を撮影することは要せず、少なくとも画像選別部52が選択した周辺画像を撮影するカメラ4が撮影を行う構成としても良い。さらに、検知用画像は、周辺画像単位で選択されても良いが、周辺画像または周囲画像において、必要な領域の画像を抽出する構成としても良い。
【0073】
(5)前カメラ41、後カメラ42、右カメラ43、および左カメラ44の配置位置は上記実施形態の配置位置に限らず、前カメラ41、後カメラ42、右カメラ43、および左カメラ44は、それぞれが機体10の周囲の少なくとも一部を撮影できれば任意の位置に配置できる。例えば、後カメラ42は脱穀装置13の上部の後端部に設けられても良く、右カメラ43は穀粒タンク14の上部の右端部前側部分に設けられても良い。また、カメラ4は機体10に直接設けられる場合に限らず、ステイ等を介してより適切な周辺画像を撮影できる場所に設けることもできる。さらに、カメラ4は4個に限らず、任意の数のカメラを設けることができる。また、周囲画像は、必ずしも機体10の周囲の全周を網羅する必要はなく、周囲の領域の一部が欠落されていても良い。
【0074】
(6)異物は、人物F3以外にも作物の異常であっても良く、作物の異常が障害物の一種として検知されることも可能である。図6に示す検知用画像303では、雑草F1や倒伏した作物F2が障害物として検知される。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、普通型コンバインや自脱型コンバインを始めとする農作業車や、その他の作業車に適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
2 表示装置
4 カメラ(撮像装置)
10 機体
51 方向検出部
52 画像選別部
53 検知部
63 自動走行制御部
70 画像処理部
300 周囲画像
303 検知用画像
F1 雑草(障害物)
F2 倒伏した作物(障害物)
F3 人物(障害物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6