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特許7183138造形物の製造方法、造形物の製造装置、及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】造形物の製造方法、造形物の製造装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/032 20060101AFI20221128BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20221128BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221128BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20221128BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20221128BHJP
【FI】
B23K9/032 Z
B23K9/04 Z
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019204595
(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公開番号】P2021074759
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【弁理士】
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-136711(JP,A)
【文献】特開昭60-210362(JP,A)
【文献】特開2018-083229(JP,A)
【文献】特開2013-139058(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098006(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/032
B23K 9/04
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B33Y 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなる溶接ビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造方法であって、
前記積層体の形状データを用いて、複数の溶接ビードの形状を算出する工程と、
前記複数の溶接ビードのうちの第1の溶接ビードの形状に基づいて、当該第1の溶接ビードを形成するための溶接トーチの軌道位置を設定する工程と、
前記第1の溶接ビードより先に積層される複数の溶接ビードのうち、当該第1の溶接ビードに隣接する第2の溶接ビードの形状に基づいて、前記軌道位置を中心に前記溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を予測した予測パターンを生成する工程と、
前記軌道位置に沿って前記溶接トーチを走行させることにより前記第1の溶接ビードを形成する工程と
を含み、
前記形成する工程では、前記溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を計測した計測パターンを取得し、当該計測パターンが前記予測パターンに近付くように当該溶接トーチの位置を制御することを特徴とする造形物の製造方法。
【請求項2】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなる溶接ビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造方法であって、
前記積層体の形状データを用いて、複数の溶接ビードの形状を算出する工程と、
前記複数の溶接ビードのうちの第1の溶接ビードの形状に基づいて、当該第1の溶接ビードを形成するための溶接トーチの軌道位置を設定する工程と、
前記第1の溶接ビードより先に積層される複数の溶接ビードのうち、当該第1の溶接ビードに隣接する第2の溶接ビードの形状に基づいて、当該第2の溶接ビードの端部位置を中心に前記溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を予測した予測パターンを生成する工程と、
前記軌道位置に沿って前記溶接トーチを走行させることにより前記第1の溶接ビードを形成する工程と
を含み、
前記設定する工程では、前記第2の溶接ビードの端部位置からの距離を前記軌道位置として設定し、
前記形成する工程では、前記溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を計測した計測パターンを取得し、当該計測パターンが前記予測パターンに近付くように当該溶接トーチの位置を制御し、当該計測パターンが当該予測パターンに最も近付いたときの前記第2の溶接ビードの端部位置を特定し、当該端部位置に前記距離を加算することにより、当該溶接トーチの位置を制御することを特徴とする造形物の製造方法。
【請求項3】
前記生成する工程では、前記溶接トーチの傾き、前記溶接トーチの揺動方向、及び、前記溶接トーチの揺動幅の少なくとも何れか1つに更に基づいて、前記予測パターンを生成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の造形物の製造方法。
【請求項4】
前記形成する工程では、予め定められた特徴量について前記計測パターンが前記予測パターンに近付くように前記溶接トーチの位置を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の造形物の製造方法。
【請求項5】
前記予め定められた特徴量は、前記溶接電流又は前記溶接電圧の時間変化割合、前記溶接電流又は前記溶接電圧の最大値、及び、前記溶接電流又は前記溶接電圧が最大値をとる時間の間隔の少なくとも何れか1つであることを特徴とする請求項4に記載の造形物の製造方法。
【請求項6】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなる溶接ビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造方法であって、
第1の溶接ビードより先に積層される複数の溶接ビードのうち、当該第1の溶接ビードに隣接する第2の溶接ビードの形状に基づいて生成された、当該第1の溶接ビードの形状に基づいて設定された軌道位置を中心に溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を予測した予測パターンを取得する工程と、
前記軌道位置に沿って前記溶接トーチを走行させることにより前記第1の溶接ビードを形成する工程と
を含み、
前記形成する工程では、前記溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を計測した計測パターンを取得し、当該計測パターンが前記予測パターンに近付くように当該溶接トーチの位置を制御することを特徴とする造形物の製造方法。
【請求項7】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなる溶接ビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造装置であって、
第1の溶接ビードより先に積層される複数の溶接ビードのうち、当該第1の溶接ビードに隣接する第2の溶接ビードの形状に基づいて生成された、当該第1の溶接ビードの形状に基づいて設定された軌道位置を中心に溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を予測した予測パターンを取得する取得手段と、
前記軌道位置に沿って前記溶接トーチを走行させることにより前記第1の溶接ビードを形成する形成手段と、
前記溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を計測した計測パターンが前記予測パターンに近付くように当該溶接トーチの位置を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする造形物の製造装置。
【請求項8】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなる溶接ビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造装置として、コンピュータを機能させるためのプログラムであって、
前記コンピュータを、
第1の溶接ビードより先に積層される複数の溶接ビードのうち、当該第1の溶接ビードに隣接する第2の溶接ビードの形状に基づいて生成された、当該第1の溶接ビードの形状に基づいて設定された軌道位置を中心に溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を予測した予測パターンを取得する取得手段と、
前記軌道位置に沿って前記溶接トーチを走行させることにより前記第1の溶接ビードを形成する形成手段と、
前記溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を計測した計測パターンが前記予測パターンに近付くように当該溶接トーチの位置を制御する制御手段と
して機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなる溶接ビードを複数重ねた積層体を含む造形物を製造する、造形物の製造方法、造形物の製造装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶接方向に対してトーチを揺動させるウィービング機能を備えた消耗電極型の溶接装置におけるアーク倣い溶接方法であって、消耗電極へ供給する溶接電流及び溶接電圧に高周波成分を重畳するようにしておき、溶接中における溶接電流及び溶接電圧から、電極の高さ変動に伴う抵抗値変化を検出し、検出された抵抗値の変化量とウィービングの左右位置とから溶接線のズレを検出するアーク倣い溶接方法は、知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
所定時間の間、一時的に溶接ワイヤの先端部が空間に進入しない非埋もれ状態へ遷移させ、溶接ワイヤ及び母材間に流れる溶接電流に基づいて開先の位置に対する溶接中心位置の偏倚量を検知するアークセンサから、少なくとも非埋もれ状態にて偏倚量の検知結果を取得し、非埋もれ状態におけるアークセンサの検知結果に基づいて、開先に対する溶接トーチの位置を補正するアーク溶接装置も、知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
溶接方向に対してトーチを揺動させるウィービング動作を行いながら、溶接線に沿って溶接を行うアーク倣い溶接において、溶接線と実際の溶接位置とのズレ量を検出するアーク倣い溶接でのズレ量検出方法であって、ウィービング周期と同じ周期で周期的に繰り返す関数で表される波形を、溶接電流もしくは溶接電圧の波形にフィッティングさせ、フィッティングした波形を基に、アーク倣い溶接でのズレ量を検出する、アーク倣い溶接でのズレ量検出方法も、知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-185513号公報
【文献】特開2018-176255号公報
【文献】特開2018-83229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
積層造形においては、通常の溶接に比べてパス数が多いうえ、溶接ビードの変形や収縮等の影響を考慮して造形する必要がある。そのため、溶接ビードを繰り返し積層して形成されるビード形状に追従して溶接トーチを適切な位置に制御する技術が求められる。しかしながら、積層造形において開先を設けることは工数が増えるうえ、全てのパスに開先を設けることはおよそ現実的でないため、開先溶接でのアーク倣いにおけるトーチ位置の制御をそのまま利用することは困難である。
【0007】
本発明の目的は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなる溶接ビードを複数重ねた積層体を含む造形物を製造する際に、開先を設けることなく溶接トーチを適切な位置に制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的のもと、本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなる溶接ビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造方法であって、積層体の形状データを用いて、複数の溶接ビードの形状を算出する工程と、複数の溶接ビードのうちの第1の溶接ビードの形状に基づいて、第1の溶接ビードを形成するための溶接トーチの軌道位置を設定する工程と、第1の溶接ビードより先に積層される複数の溶接ビードのうち、第1の溶接ビードに隣接する第2の溶接ビードの形状に基づいて、予め定められた位置を中心に溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を予測した予測パターンを生成する工程と、軌道位置に沿って溶接トーチを走行させることにより第1の溶接ビードを形成する工程とを含み、形成する工程では、溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を計測した計測パターンを取得し、計測パターンが予測パターンに近付くように溶接トーチの位置を制御する造形物の製造方法を提供する。
【0009】
生成する工程では、溶接トーチの傾き、溶接トーチの揺動方向、及び、溶接トーチの揺動幅の少なくとも何れか1つに更に基づいて、予測パターンを生成してよい。
【0010】
予め定められた位置は、軌道位置であってよい。
【0011】
予め定められた位置は、第2の溶接ビードの端部位置であってもよい。その場合、設定する工程では、第2の溶接ビードの端部位置からの距離を軌道位置として設定し、形成する工程では、計測パターンが予測パターンに最も近付いたときの第2の溶接ビードの端部位置を特定し、端部位置に距離を加算することにより、溶接トーチの位置を制御してよい。
【0012】
形成する工程では、予め定められた特徴量について計測パターンが予測パターンに近付くように溶接トーチの位置を制御してよい。その場合、予め定められた特徴量は、溶接電流又は溶接電圧の時間変化割合、溶接電流又は溶接電圧の最大値、及び、溶接電流又は溶接電圧が最大値をとる時間の間隔の少なくとも何れか1つであってよい。
【0013】
また、本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなる溶接ビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造方法であって、第1の溶接ビードより先に積層される複数の溶接ビードのうち、第1の溶接ビードに隣接する第2の溶接ビードの形状に基づいて生成された、予め定められた位置を中心に溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を予測した予測パターンを取得する工程と、第1の溶接ビードの形状に基づいて設定された軌道位置に沿って溶接トーチを走行させることにより第1の溶接ビードを形成する工程とを含み、形成する工程では、溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を計測した計測パターンを取得し、計測パターンが予測パターンに近付くように溶接トーチの位置を制御する造形物の製造方法も提供する。
【0014】
更に、本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなる溶接ビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造装置であって、第1の溶接ビードより先に積層される複数の溶接ビードのうち、第1の溶接ビードに隣接する第2の溶接ビードの形状に基づいて生成された、予め定められた位置を中心に溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を予測した予測パターンを取得する取得手段と、第1の溶接ビードの形状に基づいて設定された軌道位置に沿って溶接トーチを走行させることにより第1の溶接ビードを形成する形成手段と、溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を計測した計測パターンが予測パターンに近付くように溶接トーチの位置を制御する制御手段とを備えた造形物の製造装置も提供する。
【0015】
更にまた、本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなる溶接ビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造装置として、コンピュータを機能させるためのプログラムであって、コンピュータを、第1の溶接ビードより先に積層される複数の溶接ビードのうち、第1の溶接ビードに隣接する第2の溶接ビードの形状に基づいて生成された、予め定められた位置を中心に溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を予測した予測パターンを取得する取得手段と、第1の溶接ビードの形状に基づいて設定された軌道位置に沿って溶接トーチを走行させることにより第1の溶接ビードを形成する形成手段と、溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を計測した計測パターンが予測パターンに近付くように溶接トーチの位置を制御する制御手段として機能させるためのプログラムも提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなる溶接ビードを複数重ねた積層体を含む造形物を製造する際に、開先を設けることなく溶接トーチを適切な位置に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態における金属積層造形システムの概略構成例を示した図である。
図2】本発明の実施の形態における制御装置のハードウェア構成例を示す図である。
図3】溶接ビードの形状に応じた電流の変化を捉えられることを確認した実験のイメージを示した図である。
図4】ワークにおける溶接ビードの断面形状を示したグラフである。
図5】(a),(b)は、溶接ビードの断面形状に基づくウィービング時の電流パターンの予測について示した図である。
図6】(a)~(d)は、上記実験の結果を示したグラフである。
図7】本実施の形態を応用可能な積層造形物の例を示した図である。
図8】本発明の実施の形態における積層計画装置の機能構成例を示した図である。
図9】本発明の実施の形態における制御装置の機能構成例を示した図である。
図10】本発明の実施の形態における積層計画装置の動作例を示したフローチャートである。
図11-1】本発明の実施の形態における制御装置のトーチ位置補正部の動作例を示したフローチャートである。
図11-2】本発明の実施の形態における制御装置のトーチ位置補正部の動作例を示したフローチャートである。
図11-3】本発明の実施の形態における制御装置のトーチ位置補正部の動作例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
[金属積層造形システムの構成]
図1は、本実施の形態における金属積層造形システム1の概略構成例を示した図である。
【0020】
図示するように、金属積層造形システム1は、溶接ロボット(マニピュレータ)10と、CAD装置20と、積層計画装置30と、制御装置50とを備える。また、積層計画装置30は、溶接ロボット10を制御する制御プログラムを、例えばメモリカード等のリムーバブルな記録媒体70に書き込み、制御装置50は、記録媒体70に書き込まれた制御プログラムを読み出すことができるようになっている。
【0021】
溶接ロボット10は、複数の関節を有する腕(アーム)11を備え、制御装置50が読み込んだ制御プログラムに従って動作することで溶接作業を行う。また、溶接ロボット10は、腕11の先端に手首部12を介して、積層体の一例である積層造形物100を造形するための溶接トーチ13を有している。そして、金属積層造形システム1の場合、溶接ロボット10は、軟鋼製の溶加材(ワイヤ)14を溶融しながら、溶接トーチ13を移動させて、積層造形物100を製造する。具体的には、溶接トーチ13は、溶加材14を供給しつつ、シールドガスを流しながらアークを発生させて溶加材14を溶融及び固化し、母材90上に複数層の溶接ビード(以下、単に「ビード」という)101を積層して積層造形物100を製造する。尚、ここでは、溶加材14を溶融する熱源としてアークを用いるが、レーザやプラズマを用いてもよい。また、溶接ロボット10は、この他に、溶加材14を送給する送給装置等も含むが、これについては説明を省略する。
【0022】
CAD装置20は、コンピュータを用いて造形物の設計を行うと共に、設計によって得られた三次元データ(以下、「三次元CADデータ」という)を保持する機能を有している。本実施の形態では、造形物の形状データの一例として、三次元CADデータを用いている。
【0023】
積層計画装置30は、CAD装置20が保持する三次元CADデータに基づいて積層造形物100の積層計画を作成する。つまり、溶接トーチ13の軌道を決定すると共に、溶接ロボット10が溶接する際の溶接条件を決定する。そして、この決定した軌道に沿って決定した溶接条件でビード101を形成するように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成し、この制御プログラムを記録媒体70に出力する。
【0024】
制御装置50は、記録媒体70から制御プログラムを読み込んで保持する。そして、この制御プログラムを動作させることにより、積層計画装置30で作成された積層計画に従って、つまり、積層計画装置30で決定された軌道に沿って、積層計画装置30で決定された溶接条件でビード101を形成するよう、溶接ロボット10を制御する。本実施の形態では、造形物の製造装置の一例として、制御装置50を設けている。
【0025】
尚、図1には示していないが、金属積層造形システム1は、データロガー15を更に備える。データロガー15は、溶接ロボット10に電気的に接続されており、溶接トーチ13をウィービングした際の電流パターンを計測して、その電流パターンを制御装置50に送信する。
【0026】
[制御装置のハードウェア構成]
図2は、制御装置50のハードウェア構成例を示す図である。
【0027】
図示するように、制御装置50は、例えば汎用のPC(Personal Computer)等により実現され、演算手段であるCPU51と、記憶手段であるメインメモリ52及び磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)53とを備える。ここで、CPU51は、OS(Operating System)やアプリケーションソフトウェア等の各種プログラムを実行し、制御装置50の各機能を実現する。また、メインメモリ52は、各種プログラムやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域であり、HDD53は、各種プログラムに対する入力データや各種プログラムからの出力データ等を記憶する記憶領域である。
【0028】
また、制御装置50は、外部との通信を行うための通信I/F54と、ビデオメモリやディスプレイ等からなる表示機構55と、キーボードやマウス等の入力デバイス56と、記録媒体70に対してデータの読み書きを行うためのドライバ57とを備える。尚、図2は、制御装置50をコンピュータシステムにて実現した場合のハードウェア構成を例示するに過ぎず、制御装置50は図示の構成に限定されない。
【0029】
また、図2に示したハードウェア構成は、積層計画装置30のハードウェア構成としても捉えられる。但し、積層計画装置30について述べるときは、図2のCPU51、メインメモリ52、磁気ディスク装置53、通信I/F54、表示機構55、入力デバイス56、ドライバ57をそれぞれ、CPU31、メインメモリ32、磁気ディスク装置33、通信I/F34、表示機構35、入力デバイス36、ドライバ37と表記するものとする。
【0030】
[本実施の形態の概要]
このような金属積層造形システム1において、形成されたビード101に隣接する位置で溶接トーチ13がアークを発生させる際にビード101の形状に応じた電流の変化を捉えられることを、以下のような実験から確認した。
【0031】
図3は、実験イメージを示した図である。図示するように、平らな基板190に対してビード101aを1本形成したワーク200を用意した。そして、ビード101aの端部位置から距離Leだけずらした位置に溶接トーチ13の狙い位置を設定し、その狙い位置から振幅2mm(左右へ1mmずつ)のウィービング(揺動)を実施しながらビード101bを形成した。図には、この場合のビード101bしか示していないが、実際には、ビード101aの端部位置を基準として右方向をXの正方向、左方向をXの負方向とし、溶接トーチ13の狙い位置をX=-2mm,-1mm,0mm,+1mmに設定してウィービングを実施した。そして、そのウィービング中における電流の傾向をデータロガー15にて計測した(電流の測定間隔は5msec)。
【0032】
図4は、ワーク200におけるビード101aの断面形状を示したグラフである。このグラフは、積層計画装置30が作成した積層計画に基づいて作成した。
【0033】
図5(a),(b)は、図4に示したビード101aの断面形状に基づくウィービング時の電流パターンの予測について示した図である。ここでは、図5(a)に示すように、ビード101aの端部位置、つまり、X=0mmの位置を中心に溶接トーチ13をウィービングしてビード101bを形成する場合を想定している。また、X=0mmの位置を丸囲みAで示し、X=+1mmの位置を丸囲みBで示し、X=-1mmの位置を丸囲みCで示している。すると、溶接電流の予測される変化のパターンは、図5(b)のようになる。これは、溶接トーチ13と基板190又はビード101aとの間の距離と溶接電流とが相関するという仮定に基づいて作成されたものである。従って、溶接トーチ13が丸囲みBで示された位置にある時間においては溶接電流が小さく、溶接トーチ13が丸囲みCで示された位置にある時間においては溶接電流が大きくなっている。
【0034】
図6(a)~(d)は、上記の実験の結果を示したグラフである。尚、グラフにおいては、傾向を考察し易くするために、計測された電流値を10点間隔(50msec間隔)で移動平均化している。図6(a)~(d)から、X=0mmのときに電流値のピークが最も鮮明に出現することが分かる。逆に、ビード101aの端部位置から離れるほど電流値の推移が全体的にフラットに近い形状となることも分かる。このことから、ウィービング時の電流の変化のパターンを計測しつつ溶接トーチ13の位置を微調整することで、溶接トーチ13の位置とビード101aの端部位置との距離を把握することができる。
【0035】
図7は、本実施の形態を応用可能な積層造形物110の例を示した図である。図示するように、積層造形物110は、母材90上にビード101~101が積層されたものである。また、積層造形物110は、積層方向に対して下向きの面を有するオーバーハング形状となっており、その傾斜角はθであるとする。このような積層造形物110において、ビード101を形成した後にビード101を形成する場合、溶接トーチ13をウィービングした際に計測される電流パターンが軌道位置Pを中心に溶接トーチ13をウィービングした際に予測される電流パターンに近付くように溶接トーチ13の位置を補正するとよい。また、ビード101を形成した後にビード101を形成する場合や、その後にビード101を形成する場合においても、同様にして溶接トーチ13の位置を補正するとよい。このようにすることで、積層造形物110の傾斜角θは実現される。
【0036】
[本実施の形態の機能構成]
(積層計画装置の機能構成)
図8は、本実施の形態における積層計画装置30の機能構成例を示した図である。図示するように、本実施の形態における積層計画装置30は、CADデータ取得部41と、CADデータ分割部42と、積層計画部43と、制御プログラム生成部44と、予測パターン生成部45と、情報出力部46とを備える。
【0037】
CADデータ取得部41は、CAD装置20から、積層造形物100の三次元形状を表す三次元CADデータを取得する。
【0038】
CADデータ分割部42は、CADデータ取得部41が取得した三次元CADデータを複数の層に分割(スライス)することで、各層の形状をそれぞれが表す複数の層形状データを生成する。その際、CADデータ分割部42は、三次元CADデータを複数の層に分割し易い内部形式に変換してもよい。
【0039】
積層計画部43は、CADデータ分割部42が生成した複数の層形状データの各層の高さ及び幅に合ったビード101を溶着する際の溶接条件や溶接トーチ13の軌道位置を含む積層計画を生成する。このような積層計画を生成するには、ビード101の高さや幅の他、ビード101の断面形状を近似するモデルが必要である。これらは測定実験の実測値や、溶着金属量の断面積から計算して推定したものでもよい。本実施の形態では、溶接速度やワイヤ送給速度を数条件振って溶着量を変えつつ、ビードオンプレート溶接や鉛直に数層の積層を行い、各々の条件にて1層当たりの高さや幅を測定した結果をデータベース化する。そして、積層する際に積層する所望の高さや幅を満たす溶接速度と溶着量を選択し、測定した結果から各層のビード101の推定形状を随時計算し、溶接トーチ13の軌道位置を決める。尚、溶着断面の計算は溶加材14の材質や、既に積層した部位の形状の状態によって計算方法を変えるようにしてもよい。この計算方法によって造形物を内包する積層を計画していく。本実施の形態では、第1の溶接ビードの一例として、これから形成するビード101(図3又は図5(a)のビード101b)を用いている。
【0040】
制御プログラム生成部44は、積層計画部43が生成した積層計画に従って溶接を行うように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成する。
【0041】
予測パターン生成部45は、積層計画部43が生成した積層計画を参照し、積層計画における隣接するビード101aの形状に基づいて、積層計画における軌道位置を中心に溶接トーチ13をウィービングした際の予測される電流パターン(以下、「予測パターン」という)を生成する。本実施の形態では、第2の溶接ビードの一例として、隣接するビード101aを用いている。また、予測パターン生成部45は、溶接トーチ13の傾き、溶接トーチ13のウィービング方向、及び、溶接トーチ13のウィービング幅の少なくとも何れか1つに更に基づいて、予測パターンを生成してもよい。例えば、溶接トーチ13の傾きに更に基づいて予測パターンを生成する場合は、予測パターンの生成に用いるビード101a又は母材90と溶接トーチ13との距離を溶接トーチ13の傾きも加味して決めるとよい。溶接トーチ13のウィービング方向又はウィービング幅に更に基づいて予測パターンを生成する場合は、予測パターンの生成に用いるビード101aの形状の部分をウィービング方向又はウィービング幅も加味して決めるとよい。
【0042】
情報出力部46は、制御プログラム生成部44が生成した制御プログラムと、予測パターン生成部45が生成した予測パターンとを含む情報を記録媒体70に出力する。
【0043】
(制御装置の機能構成)
図9は、本実施の形態における制御装置50の機能構成例を示した図である。図示するように、本実施の形態における制御装置50は、情報取得部61と、制御プログラム記憶部62と、制御プログラム実行部63と、予測パターン記憶部64と、計測パターン受信部65と、トーチ位置補正部66とを備える。
【0044】
情報取得部61は、記録媒体70に記録された情報を取得する。この情報には、制御プログラムと、予測パターンとが含まれる。本実施の形態では、予測パターンを取得する取得手段の一例として、情報取得部61を設けている。
【0045】
制御プログラム記憶部62は、情報取得部61が取得した情報のうち、制御プログラムを記憶する。
【0046】
制御プログラム実行部63は、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出して実行する。これにより、制御プログラム実行部63は、積層計画部43が生成した積層計画に従ってビード101を形成するよう、溶接ロボット10を制御する。本実施の形態では、軌道位置に沿って溶接トーチを走行させることにより第1の溶接ビードを形成する形成手段の一例として、制御プログラム実行部63を設けている。また、制御プログラム実行部63は、例えば、1パスの溶接の開始直後や、1パスの溶接の実行中において所定の長さの溶接を終了するごとに、トーチ位置補正部66を呼び出して、溶接トーチ13の位置を補正させる。
【0047】
予測パターン記憶部64は、情報取得部61が取得した情報のうち、予測パターンを記憶する。
【0048】
計測パターン受信部65は、トーチ位置補正部66の指示によりデータロガー15を制御して溶接トーチ13をウィービングした際の電流パターンを計測する。そして、データロガー15からその計測された電流パターン(以下、「計測パターン」という)を受信する。
【0049】
トーチ位置補正部66は、制御プログラム実行部63から呼び出されると、溶接ロボット10を制御して溶接トーチ13をウィービングさせ、データロガー15から計測パターンを受信するよう計測パターン受信部65を制御して計測パターンを取得する。そして、予測パターン記憶部64に記憶された予測パターンと、計測パターン受信部65から取得した計測パターンとを比較する。これにより、計測パターンが予測パターンに近くないと判定した場合は、溶接ロボット10を制御して溶接トーチ13を軌道に交わる方向に移動させた後ウィービングさせ、再びデータロガー15から計測パターンを受信するよう計測パターン受信部65を制御して計測パターンを取得する。そして、予測パターン記憶部64に記憶された予測パターンと、計測パターン受信部65から取得した計測パターンとを比較する。トーチ位置補正部66は、このような処理を繰り返して、計測パターン受信部65が受信した計測パターンが予測パターン記憶部64に記憶された予測パターンに近付くように、溶接トーチ13の位置を補正する。本実施の形態では、計測パターンが予測パターンに近付くように溶接トーチの位置を制御する制御手段の一例として、トーチ位置補正部66を設けている。ここで、予測パターンと計測パターンとの比較は、各パターンの予め定められた特徴量について行ってもよい。その場合、予め定められた特徴量としては、溶接電流の時間変化割合、溶接電流の最大値、及び、溶接電流が最大値をとる時間の間隔の少なくとも何れか1つを用いるとよい。
【0050】
[本実施の形態の動作]
(積層計画装置の動作)
図10は、本実施の形態における積層計画装置30の動作例を示したフローチャートである。
【0051】
積層計画装置30では、まず、CADデータ取得部41が、CAD装置20から三次元CADデータを取得する(ステップ301)。
【0052】
次に、CADデータ分割部42が、ステップ301で取得された三次元CADデータを複数の層に分割して、層形状データを生成する(ステップ302)。
【0053】
次に、積層計画部43が、ステップ302で生成された層形状データから積層計画を生成する(ステップ303)。
【0054】
次に、制御プログラム生成部44が、ステップ303で生成された積層計画に従ってビード101を形成することにより積層造形物100を造形するように溶接ロボット10を制御する制御プログラムを生成する(ステップ304)。
【0055】
一方、予測パターン生成部45が、ステップ303で生成された積層計画から、軌道位置を中心に溶接トーチ13をウィービングした際の予測される電流パターンである予測パターンを生成する(ステップ305)。
【0056】
最後に、情報出力部46が、ステップ304で生成された制御プログラムと、ステップ305で生成された予測パターンとを記録媒体70に出力する(ステップ306)。
【0057】
(制御装置の動作)
制御装置50では、まず、情報取得部61が、記録媒体70から制御プログラムと予測パターンとを取得し、制御プログラムを制御プログラム記憶部62に、予測パターンを予測パターン記憶部64にそれぞれ記憶する。そして、制御プログラム実行部63が制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出してこれを実行する。
【0058】
その際、制御プログラム実行部63が実行する制御プログラムは、例えば、1パスの溶接の開始直後や、1パスの溶接の実行中において所定の長さの溶接を終了するごとに、トーチ位置補正部66を呼び出して実行する。
【0059】
図11-1~図11-3は、このトーチ位置補正部66の動作例を示したフローチャートである。尚、このフローチャートでは、溶接トーチ13の位置を進める距離の最小単位をΔで表す。Δは、予測パターンを生成するために設定したビード101aの端部位置からの距離の最小単位(図3では1mm)よりも小さい距離としてよい。また、このフローチャートでは、予測パターンと計測パターンとを比較した結果を単に「差分」と表記するが、これは予測パターンの特徴量と計測パターンの特徴量との差分であってもよい。
【0060】
図11-1に示すように、トーチ位置補正部66は、制御プログラムから呼び出されると、まず、溶接ロボット10を制御して溶接トーチ13をウィービングさせつつ、計測パターン受信部65を制御して計測パターンを受信させ、これを計測パターン受信部65から取得する(ステップ501)。
【0061】
そして、トーチ位置補正部66は、予測パターン記憶部64に記憶された予測パターンと、ステップ501で取得した計測パターンとを比較し、その差分を算出する(ステップ502)。
【0062】
次に、トーチ位置補正部66は、溶接トーチ13の位置を+Δ進める(ステップ503)。即ち、溶接トーチ13をプラス方向にΔだけ移動するよう溶接ロボット10を制御する。
【0063】
この状態で、トーチ位置補正部66は、再び、溶接ロボット10を制御して溶接トーチ13をウィービングさせつつ、計測パターン受信部65を制御して計測パターンを受信させ、これを計測パターン受信部65から取得する(ステップ504)。
【0064】
そして、トーチ位置補正部66は、予測パターン記憶部64に記憶された予測パターンと、ステップ504で取得した計測パターンとを比較し、その差分を算出する(ステップ505)。
【0065】
次いで、トーチ位置補正部66は、ステップ505で算出された今回の差分が、ステップ502で算出された初回の差分よりも大きくなったかどうかを判定する(ステップ506)。
【0066】
まず、ステップ506で今回の差分が初回の差分よりも大きくなったと判定しなかった場合について説明する。この場合、予測パターンと計測パターンとの差分が最小となる溶接トーチ13の位置はプラスの方向にある可能性がある。そこで、トーチ位置補正部66は、今回の差分を記憶する(ステップ507)。
【0067】
次に、トーチ位置補正部66は、図11-2に示すように、溶接トーチ13の位置を+Δ進める(ステップ521)。即ち、溶接トーチ13をプラス方向にΔだけ移動するよう溶接ロボット10を制御する。
【0068】
この状態で、トーチ位置補正部66は、再び、溶接ロボット10を制御して溶接トーチ13をウィービングさせつつ、計測パターン受信部65を制御して計測パターンを受信させ、これを計測パターン受信部65から取得する(ステップ522)。
【0069】
そして、トーチ位置補正部66は、予測パターン記憶部64に記憶された予測パターンと、ステップ522で取得した計測パターンとを比較し、その差分を算出する(ステップ523)。
【0070】
次いで、トーチ位置補正部66は、ステップ523で算出された今回の差分が、ステップ505又はステップ523で算出された前回の差分よりも大きくなったかどうかを判定する(ステップ524)。
【0071】
今回の差分が前回の差分よりも大きくなったと判定しなければ、予測パターンと計測パターンとの差分が最小となる溶接トーチ13の位置はプラスの更に先の方向にある可能性がある。そこで、トーチ位置補正部66は、今回の差分を記憶し(ステップ525)、処理をステップ521へ戻す。
【0072】
今回の差分が前回の差分よりも大きくなったと判定すれば、予測パターンと計測パターンとの差分が最小となる溶接トーチ13の位置はプラスの更に先の方向にあるとは考え難い。そこで、トーチ位置補正部66は、溶接トーチ13の位置を-Δ進める(ステップ526)。即ち、溶接トーチ13をマイナス方向にΔだけ移動するよう溶接ロボット10を制御する。そして、このように設定された溶接トーチ13の位置が正しい溶接トーチ13の位置であるものとして、処理を終了する。
【0073】
また、図11-1に戻り、ステップ506で今回の差分が初回の差分よりも大きくなったと判定した場合について説明する。この場合、予測パターンと計測パターンとの差分が最小となる溶接トーチ13の位置はプラスの方向にあるとは考え難い。そこで、トーチ位置補正部66は、溶接トーチ13の位置を-2Δ進める(ステップ508)。即ち、溶接トーチ13をプラス方向にΔの位置からマイナス方向に2Δだけ移動するよう溶接ロボット10を制御する。
【0074】
この状態で、トーチ位置補正部66は、再び、溶接ロボット10を制御して溶接トーチ13をウィービングさせつつ、計測パターン受信部65を制御して計測パターンを受信させ、これを計測パターン受信部65から取得する(ステップ509)。
【0075】
そして、トーチ位置補正部66は、予測パターン記憶部64に記憶された予測パターンと、ステップ509で取得した計測パターンとを比較し、その差分を算出する(ステップ510)。
【0076】
次いで、トーチ位置補正部66は、ステップ510で算出された今回の差分が、ステップ502で算出された初回の差分よりも大きくなったかどうかを判定する(ステップ511)。
【0077】
まず、ステップ511で今回の差分が初回の差分よりも大きくなったと判定しなかった場合について説明する。この場合、予測パターンと計測パターンとの差分が最小となる溶接トーチ13の位置はマイナスの方向にある可能性がある。そこで、トーチ位置補正部66は、今回の差分を記憶する(ステップ512)。
【0078】
次に、トーチ位置補正部66は、図11-3に示すように、溶接トーチ13の位置を-Δ進める(ステップ541)。即ち、溶接トーチ13をマイナス方向にΔだけ移動するよう溶接ロボット10を制御する。
【0079】
この状態で、トーチ位置補正部66は、再び、溶接ロボット10を制御して溶接トーチ13をウィービングさせつつ、計測パターン受信部65を制御して計測パターンを受信させ、これを計測パターン受信部65から取得する(ステップ542)。
【0080】
そして、トーチ位置補正部66は、予測パターン記憶部64に記憶された予測パターンと、ステップ542で取得した計測パターンとを比較し、その差分を算出する(ステップ543)。
【0081】
次いで、トーチ位置補正部66は、ステップ543で算出された今回の差分が、ステップ510又はステップ543で算出された前回の差分よりも大きくなったかどうかを判定する(ステップ544)。
【0082】
今回の差分が前回の差分よりも大きくなったと判定しなければ、予測パターンと計測パターンとの差分が最小となる溶接トーチ13の位置はマイナスの更に先の方向にある可能性がある。そこで、トーチ位置補正部66は、今回の差分を記憶し(ステップ545)、処理をステップ541へ戻す。
【0083】
今回の差分が前回の差分よりも大きくなったと判定すれば、予測パターンと計測パターンとの差分が最小となる溶接トーチ13の位置がプラスの更に先の方向にあるとは考え難い。そこで、トーチ位置補正部66は、溶接トーチ13の位置を+Δ進める(ステップ546)。即ち、溶接トーチ13をプラス方向にΔだけ移動するよう溶接ロボット10を制御する。そして、このように設定された溶接トーチ13の位置が正しい溶接トーチ13の位置であるものとして、処理を終了する。
【0084】
また、図11-1に戻り、ステップ511で今回の差分が初回の差分よりも大きくなったと判定した場合について説明する。この場合、予測パターンと計測パターンとの差分が最小となる溶接トーチ13の位置はプラスの方向にあるとは考え難い。そこで、トーチ位置補正部66は、溶接トーチ13の位置を+Δ進める(ステップ513)。即ち、溶接トーチ13をプラス方向にΔだけ移動するよう溶接ロボット10を制御する。そして、このように設定された溶接トーチ13の位置が正しい溶接トーチ13の位置であるものとして、処理を終了する。
【0085】
尚、この動作例では、溶接トーチ13の位置をプラス方向及びマイナス方向に進めて、予測パターンと計測パターンとの差分が最小となる溶接トーチ13の位置を見つけ、この位置を正しい溶接トーチ13の位置としたが、この限りではない。例えば、溶接トーチ13の位置をプラス方向及びマイナス方向に進めて、予測パターンと計測パターンとの差分が予め定めた閾値以下となる溶接トーチ13の位置を見つけ、この位置を正しい溶接トーチ13の位置としてもよい。
【0086】
[本実施の形態の変形例]
上記では、積層計画装置30が、軌道位置を中心に溶接トーチ13をウィービングして予測パターンを生成したが、この限りではない。隣接するビード101aの端部位置を中心に溶接トーチ13をウィービングして予測パターンを生成してもよい。或いは、軌道位置や隣接するビード101aの端部位置以外の予め定められた位置を中心に溶接トーチ13をウィービングして予測パターンを生成してもよい。その意味で、軌道位置や隣接するビード101aの端部位置は、予め定められた位置の一例である。
【0087】
積層計画装置30が軌道位置における予測パターンを生成する場合、制御装置50は、上述したように、予測パターンと計測パターンとが最も近くなるときの溶接トーチ13の位置を求め、これを正しい溶接トーチ13の位置とすればよい。一方で、積層計画装置30は、隣接するビード101aの端部位置を中心に溶接トーチ13をウィービングして予測パターンを生成する場合、隣接するビード101aの端部位置からの距離を軌道位置として設定しておけばよい。そして、制御装置50は、予測パターンと計測パターンとが最も近くなるときの溶接トーチ13の位置を求め、これに設定された距離を加算して正しい溶接トーチ13の位置とすればよい。
【0088】
また、上記では、溶接トーチ13をウィービングした際の溶接電流の変化を予測したパターンを予測パターンとし、溶接トーチ13をウィービングした際の溶接電流の変化を計測したパターンを計測パターンとしたが、この限りではない。溶接トーチ13をウィービングした際の溶接電圧の変化を予測したパターンを予測パターンとし、溶接トーチ13をウィービングした際の溶接電圧の変化を計測したパターンを計測パターンとしてもよい。その意味で、予測パターンは、溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を予測したパターンの一例であると言うことができ、計測パターンは、溶接トーチを揺動させた際の溶接電流又は溶接電圧の変化を計測したパターンの一例であると言うことができる。
【0089】
[本実施の形態の効果]
以上述べたように、本実施の形態では、実際に計測された溶接電流又は溶接電圧の変化のパターンである計測パターンが、積層計画から作成された溶接電流又は溶接電圧の変化のパターンである予測パターンに近付くように、溶接トーチ13の位置を調整するようにした。これにより、アークを用いて溶加材14を溶融及び固化してなるビード101を複数重ねて積層造形物100を製造する際に、開先を設けることなく溶接トーチ13を適切な位置に制御することが可能となった。
【符号の説明】
【0090】
1…金属積層造形システム、10…溶接ロボット、20…CAD装置、30…積層計画装置、41…CADデータ取得部、42…CADデータ分割部、43…積層計画部、44…制御プログラム生成部、45…予測パターン生成部、46…情報出力部、50…制御装置、61…情報取得部、62…制御プログラム記憶部、63…制御プログラム実行部、64…予測パターン記憶部、65…計測パターン受信部、66…トーチ位置補正部、70…記録媒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11-1】
図11-2】
図11-3】