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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20221128BHJP
   A01D 67/00 20060101ALI20221128BHJP
   A01B 63/10 20060101ALI20221128BHJP
   G01C 21/28 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
A01B69/00 303G
A01B69/00 303Z
A01D67/00 M
A01B63/10 A
G01C21/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019215942
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021083403
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 友彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 脩
(72)【発明者】
【氏名】川畑 翔太郎
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-116609(JP,A)
【文献】特開2019-109130(JP,A)
【文献】特開2019-127121(JP,A)
【文献】国際公開第2016/178294(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0299966(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00 - 69/08
A01D 67/00 - 69/12
A01B 51/00 - 67/00
G01C 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体に備えられると共に測位データを出力する衛星測位モジュールと、
前記衛星測位モジュールに備えられると共に前記衛星測位モジュールの傾斜を示す傾斜データを出力する傾斜センサと、
前記傾斜センサが出力した傾斜データを補正して補正傾斜データとして出力する傾斜補正部と、
前記衛星測位モジュールが出力した前記測位データと前記傾斜補正部が出力した前記補正傾斜データとに基づいて機体の地図座標である機体位置を算出する機体位置算出部と、を備える作業車。
【請求項2】
機体に備えられると共に機体の傾斜を示す機体傾斜データを出力する機体傾斜センサと、
前記傾斜センサが出力した前記傾斜データと前記機体傾斜センサが出力した前記機体傾斜データとを表示する表示装置と、
傾斜補正量の操作入力を受け付け可能な入力装置と、を備え、
前記傾斜補正部は、前記入力装置が受け付けた操作入力が示す傾斜補正量に基づいて前記傾斜センサが出力した傾斜データを補正する請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記入力装置は、傾斜補正量の自動決定を行う旨の操作入力を受け付け可能に構成されており、
前記傾斜補正部は、前記入力装置が傾斜補正量の自動決定を行う旨の操作入力を受け付けたことに応じて、前記機体傾斜センサが出力した前記機体傾斜データに基づいて傾斜補正量を自動決定し、自動決定した傾斜補正量に基づいて前記傾斜センサが出力した傾斜データを補正する請求項2に記載の作業車。
【請求項4】
機体に備えられると共に機体の傾斜を示す機体傾斜データを出力する機体傾斜センサを備え、
前記傾斜補正部は、前記機体傾斜センサが出力した前記機体傾斜データに基づいて前記傾斜センサが出力した前記傾斜データを補正する請求項1に記載の作業車。
【請求項5】
前記機体傾斜センサは、機体左右方向の傾斜角であるロール角と機体前後方向の傾斜角であるピッチ角とを検出し、検出したロール角とピッチ角とを示すデータを前記機体傾斜データとして出力する請求項2から4のいずれか1項に記載の作業車。
【請求項6】
前記機体位置算出部が算出した前記機体位置に基づいて前記機体を自動走行させる走行制御部を備える請求項1から5のいずれか1項に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、衛星測位モジュールを備えた収穫機が記載されている。この収穫機は、衛星測位モジュールが出力する測位データに基づいて機体位置を算出する機能を有する。
【0003】
非特許文献1には、車両の傾斜により生じるGPSの位置計測誤差を補正する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-38291号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】水島晃、他3名、「自律走行車両のGPS位置計測に関わる傾斜補正」、農業機械学会誌、2000、第62巻、第4号、p146~153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の技術によれば、衛星測位モジュールが出力する測位データから機体位置を算出する際、車両の傾斜による誤差を補正して、傾斜による影響を除去することができる。ここで、車両の傾斜を測定する傾斜センサが衛星測位モジュールに設けられている場合、次のような問題が生じる。
【0007】
コンバインやトラクタ、田植機等、農作業に用いられる作業車は、一年のうち使用される時期は限られる。例えばコンバインは、作物の収穫が行われる時期のみ使用され、他の時期は倉庫等に保管される。衛星測位モジュールは高価であるため、作業車に対して着脱可能とし、使用時期の異なる他の作業車と共用にすることが考えられる。そうすると、衛星測位モジュールの着脱に起因して衛星測位モジュールの姿勢が変化する可能性がある。衛星測位モジュールの姿勢が変化すると、衛星測位モジュールに備えられた傾斜センサの出力が誤差を含み、その結果、算出される機体位置が誤差を含んでしまう。
【0008】
また、衛星測位モジュールは衛星からの信号受信のため、機体の高い位置に設けられることが多い。そうすると、作業車を倉庫等に格納する際に衛星測位モジュールが邪魔になるため、衛星測位モジュールの姿勢、位置、高さ等を可変にすることが考えられる。そうすると、衛星測位モジュールの姿勢、位置、高さ等の変更に起因して衛星測位モジュールの姿勢が変化する可能性がある。衛星測位モジュールの姿勢が変化すると、衛星測位モジュールに備えられた傾斜センサの出力が誤差を含み、その結果、算出される機体位置が誤差を含んでしまう。
【0009】
なお、上述したような衛星測位モジュールの着脱、姿勢等の変更によらずとも、作業走行の際の振動に起因して衛星測位モジュールの姿勢が変化する可能性がある。衛星測位モジュールの姿勢が変化すると、衛星測位モジュールに備えられた傾斜センサの出力が誤差を含み、その結果、算出される機体位置が誤差を含んでしまう。
【0010】
本発明の目的は、衛星測位モジュールに備えられた傾斜センサの出力誤差による機体位置算出への悪影響を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る作業車の特徴は、機体に備えられると共に測位データを出力する衛星測位モジュールと、前記衛星測位モジュールに備えられると共に前記衛星測位モジュールの傾斜を示す傾斜データを出力する傾斜センサと、前記傾斜センサが出力した傾斜データを補正して補正傾斜データとして出力する傾斜補正部と、前記衛星測位モジュールが出力した前記測位データと前記傾斜補正部が出力した前記補正傾斜データとに基づいて機体の地図座標である機体位置を算出する機体位置算出部と、を備える点にある。
【0012】
本発明によれば、補正により適切なものとなった補正傾斜データに基づいて機体位置が算出される。すなわち、衛星測位モジュールに備えられた傾斜センサの出力誤差による機体位置算出への悪影響を抑制することができる。
【0013】
本発明においては、機体に備えられると共に機体の傾斜を示す機体傾斜データを出力する機体傾斜センサと、前記傾斜センサが出力した前記傾斜データと前記機体傾斜センサが出力した前記機体傾斜データとを表示する表示装置と、傾斜補正量の操作入力を受け付け可能な入力装置と、を備え、前記傾斜補正部は、前記入力装置が受け付けた操作入力が示す傾斜補正量に基づいて前記傾斜センサが出力した傾斜データを補正すると好適である。
【0014】
本発明によれば、オペレータが、表示装置に表示される機体傾斜データを確認しながら傾斜補正量を入力することができる。そして、入力された傾斜補正量に基づいて、傾斜センサが出力した傾斜データが適切なものへと補正される。従って、衛星測位モジュールに備えられた傾斜センサの出力誤差による機体位置算出への悪影響を適切に抑制することができる。
【0015】
本発明においては、前記入力装置は、傾斜補正量の自動決定を行う旨の操作入力を受け付け可能に構成されており、前記傾斜補正部は、前記入力装置が傾斜補正量の自動決定を行う旨の操作入力を受け付けたことに応じて、前記機体傾斜センサが出力した前記機体傾斜データに基づいて傾斜補正量を自動決定し、自動決定した傾斜補正量に基づいて前記傾斜センサが出力した傾斜データを補正すると好適である。
【0016】
本発明によれば、オペレータの操作入力に基づいて傾斜補正量が自動決定される。傾斜補正量は、機体傾斜センサが出力した機体傾斜データに基づいて決定されるので、機体の傾斜に応じた適切なものとなる。従って、衛星測位モジュールに備えられた傾斜センサの出力誤差による機体位置算出への悪影響を適切に抑制することができる。
【0017】
本発明においては、機体に備えられると共に機体の傾斜を示す機体傾斜データを出力する機体傾斜センサを備え、前記傾斜補正部は、前記機体傾斜センサが出力した前記機体傾斜データに基づいて前記傾斜センサが出力した前記傾斜データを補正すると好適である。
【0018】
本発明によれば、機体傾斜センサが出力した機体傾斜データに基づいて、傾斜センサが出力した傾斜データが適切なものへと自動的に補正される。従って、衛星測位モジュールに備えられた傾斜センサの出力誤差による機体位置算出への悪影響を適切に抑制することができる。
【0019】
本発明においては、前記機体傾斜センサは、機体左右方向の傾斜角であるロール角と機体前後方向の傾斜角であるピッチ角とを検出し、検出したロール角とピッチ角とを示す機体傾斜データを出力すると好適である。
【0020】
本発明によれば、機体傾斜センサが検出した機体のロール角及びピッチ角に基づき、傾斜補正量の操作入力、傾斜補正量の自動決定、又は傾斜データの補正が適切に行われるので、衛星測位モジュールに備えられた傾斜センサの出力誤差による機体位置算出への悪影響を適切に抑制することができる。
【0021】
本発明においては、前記機体位置算出部が算出した前記機体位置に基づいて前記機体を自動走行させる走行制御部を備えると好適である。
【0022】
本発明によれば、適切に補正された補正傾斜データに基づいて機体位置が算出され、その適切な機体位置に基づいて機体を自動走行させるので、目標経路に沿って精密に機体を自動走行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】コンバインの左側面図である。
図2】コンバインの平面図である。
図3】コンバインの正面図である。
図4】制御部に関する構成を示すブロック図である。
図5】オイラー角の説明図である。
図6】表示装置に表示される入力画面の例を示す図である。
図7】制御部に関する構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔コンバインの全体構成〕
図1図2図3に、自脱型のコンバイン(「作業車」の一例)が示されている。このコンバインには、クローラ式の走行装置11が備えられている。コンバインの機体の前部には、圃場の植立穀稈を刈り取って収穫する収穫部12が設けられている。収穫部12は、植立穀稈の根元を切断する刈刃12aを備えている。
【0025】
機体において収穫部12の後方に、運転部13が設けられている。運転部13は、機体の前部における右側に位置する。運転部13の左方に、収穫部12により収穫された収穫物を搬送する搬送部14が設けられている。
【0026】
搬送部14の後方に、搬送部14により搬送された収穫物を脱穀処理する脱穀装置15が設けられている。脱穀装置15の後部に、排藁を切断処理する排藁処理装置16が設けられている。
【0027】
運転部13の後方且つ脱穀装置15の右方に、脱穀装置15により得られた穀粒を貯留する穀粒タンク17が設けられている。
【0028】
穀粒タンク17の後方に、穀粒タンク17に貯留された穀粒を外部に排出する排出装置18が設けられている。排出装置18は、上下方向に延びる旋回軸心周りで旋回可能である。
【0029】
運転部13の前上部における左側部分には、衛星測位モジュール19が設けられている。衛星測位モジュール19には、GPS(Global Positioning System)衛星からの信号を受信するGPSアンテナ20が備えられている。衛星測位モジュール19は、GPSアンテナ20が受信したGPS衛星からの信号に基づいて、衛星測位モジュール19の位置を示す測位データを生成し、制御部70(後述)へ出力する。衛星測位モジュール19は、運転部13の上部に設けられたステー13aに着脱可能な状態で支持されている。
【0030】
衛星測位モジュール19には、姿勢計測装置21(「傾斜センサ」の一例)が備えられている。姿勢計測装置21は、ヨー角φ(方位角)、ロール角θr0(機体左右方向の傾斜角)、ピッチ角θp0(機体前後方向の傾斜角)を計測し、これらを示す傾斜データを制御部70(後述)へ出力する。傾斜データは、衛星測位モジュール19の傾斜を示すデータである。
【0031】
運転部13には、管理端末22(図4参照)が配置されている。管理端末22は、種々のデータを表示可能な表示装置23と、オペレータからの操作入力を受付可能な入力装置24と、を備えている。表示装置23は、例えば、液晶モニタである。入力装置24は、例えば、タッチパネル装置である。
【0032】
運転部13には、機体姿勢計測装置30(「機体傾斜センサ」の一例)が備えられている。機体姿勢計測装置30は、ロール角θr1(機体左右方向の傾斜角)、ピッチ角θp1(機体前後方向の傾斜角)を計測し、これらを示す機体傾斜データを制御部70(後述)へ出力する。機体傾斜データは、機体の傾斜を示すデータである。
【0033】
コンバインは走行装置11により自走可能に構成されており、収穫部12によって圃場の植立穀稈を刈り取りながら走行装置11により走行する収穫走行が可能なように構成されている。
【0034】
〔コンバインによる収穫作業〕
コンバインによる圃場での収穫作業について説明する。まず最初に、圃場における外周側の領域において圃場の境界線に沿って周回するように収穫走行が行われる(初期周回走行)。この初期周回走行によって既作業地となった領域が外周領域として設定され、外周領域の内側の未作業地が作業対象領域として設定される。
【0035】
外周領域は、作業対象領域の植立穀稈の収穫を自動走行により行う際に、コンバインが方向転換するためのスペースとして用いられる。また、外周領域は、運搬車に隣接する排出停車位置への移動や、燃料の補給場所への移動を行うためのスペースとしても用いられる。
【0036】
初期周回走行は、外周領域の幅をある程度広く確保するために、2周~4周程度行われる。初期周回走行は、手動走行により行われてもよいし、自動走行により行われてもよい。初期周回走行は、作業対象領域の1辺(好ましくは対向する2辺)が条方向と平行になるように行われる。
【0037】
初期周回走行に続いて、自動走行により作業対象領域の植立穀稈が収穫される。この自動走行においては、作業対象領域に設定された収穫走行経路上を自動走行しながら植立穀稈を収穫する自動収穫走行と、1つの自動収穫走行と次の自動収穫走行との間に行われるターン走行とが繰り返し行われる。ターン走行は、2つの収穫走行経路の間を繋ぐターン走行経路上の自動走行である。
【0038】
〔制御に関する構成〕
コンバインの動作を制御する制御部70が設けられている。制御部70は、コンピュータシステムであり、図4に示されるように、傾斜補正部71、機体位置算出部72、領域算出部73、経路算出部74、及び走行制御部75を備えている。詳しくは、制御部70は、これらの機能部に対応するプログラムを記憶するメモリ(HDDや不揮発性RAMなど。図示省略)と、当該プログラムを実行するCPU(図示省略)と、を備えている。プログラムがCPUにより実行されることにより、各機能部の機能が実現される。
【0039】
傾斜補正部71は、衛星測位モジュール19の姿勢計測装置21が出力した傾斜データを補正して、補正傾斜データとして出力する。本実施形態では、傾斜補正部71は、次の2つの形態にて傾斜データの補正を行う。
(1)傾斜補正部71は、入力装置24が受け付けた操作入力が示す傾斜補正量に基づいて、姿勢計測装置21が出力した傾斜データを補正する。
(2)傾斜補正部71は、入力装置24が傾斜補正量の自動決定を行う旨の操作入力を受け付けたことに応じて、姿勢計測装置21が出力した機体傾斜データに基づいて傾斜補正量を自動決定し、自動決定した傾斜補正量に基づいて姿勢計測装置21が出力した傾斜データを補正する。
傾斜補正部71による傾斜データの補正の具体的手法については、後述する。
【0040】
機体位置算出部72は、衛星測位モジュール19が出力した測位データと傾斜補正部71が出力した補正傾斜データとに基づいて、機体の地図座標である機体位置を経時的に算出する。機体位置算出部72による機体位置の算出の具体的手法については、後述する。
【0041】
領域算出部73は、機体位置算出部72が算出したコンバインの経時的な機体位置に基づいて、外周領域及び作業対象領域を算出する。具体的には、領域算出部73は、機体位置算出部72が算出したコンバインの経時的な機体位置に基づいて、圃場の外周側における周回走行(初期周回走行)でのコンバインの走行軌跡を算出する。そして、領域算出部73は、算出されたコンバインの走行軌跡に基づいて、コンバインが植立穀稈を収穫しながら走行した圃場の外周側の領域を外周領域として算出する。また、領域算出部73は、算出された外周領域よりも圃場内側の領域を作業対象領域として算出する。
【0042】
経路算出部74は、領域算出部73の算出結果に基づいて、作業対象領域の内側において、自動収穫走行のための収穫走行経路を算出する。例えば、収穫走行経路は、作業対象領域の4つの辺に平行に延びる複数のメッシュ線である。また、経路算出部74は、ターン走行のための、2つの収穫走行経路の間を繋ぐターン走行経路を算出する。
【0043】
走行制御部75は、走行装置11及び収穫部12を制御可能に構成されている。走行制御部75は、経路算出部74が算出した複数の走行経路(収穫走行経路、ターン走行経路等)の内から次に走行する走行経路を設定する。そして走行制御部75は、機体位置算出部72が算出したコンバインの機体位置と、設定した走行経路と、に基づいて、コンバインの機体を自動走行させる。具体的には、走行制御部75は、設定した走行経路に沿ってコンバインが走行するように、コンバインの走行装置11を制御する。そして走行制御部75は、コンバインが収穫走行経路を走行する時に収穫部12を動作させる。
【0044】
〔機体位置の算出、傾斜補正〕
衛星測位モジュール19が出力する測位データは、厳密にいえば、運転部13に設けられた衛星測位モジュール19のGPSアンテナ20の位置を示す。本実施形態では、機体位置算出部72が、衛星測位モジュール19が出力する測位データに基づいて、機体基準点Gの位置(「機体位置」の一例)を算出する。機体基準点Gは、収穫部12の刈刃12aに重なる点であって、収穫部12における機体左右方向の中央に対応する点、すなわち刈り幅の中央に設定されている。
【0045】
機体基準点Gの位置の算出のために、地上座標系(XYZ)と機体座標系(xyz)とを定義する。地上座標系及び機体座標系の概略が図1図2図3に示されている。地上座標系は、Z軸の正方向を鉛直上方とした直交右手系である。機体座標系は、機体の前方向をy軸、右方向をx軸、垂直上方をz軸とした直交右手系である。
【0046】
地上座標系と機体座標系との関係は次の通りである。機体座標系をy軸周りに回転させ、x軸が水平になったときのy軸周りの回転角をロール角θとする。極性は、水平に対しx軸が右下がりを正とする。更に、x軸が水平になった状態からx軸周りに回転させ、y軸が水平になったときのy軸周りの回転角をピッチ角θとする。極性は、水平に対し前上がりを正とする。また、地上座標系X軸と機体座標系x軸とがなす角をヨー角φとする。極性は、X軸から原点周りの右回転を正とする。
【0047】
このように、地上座標系と機体座標系との関係は、順序を有する3つの回転φ、θ、θ、すなわちオイラー角によって定義される。詳しくは、図5に示されるように、まずX系(地上座標系(XYZ)に対応)をZ軸周りに回転角φ回転しX系とする。更にX系をY軸周りに回転角θ回転しX系とする。そしてX系をZ軸周りに回転角θ回転しX系(機体座標系(xyz)に対応)とする。
【0048】
地上座標系により表されるGPSアンテナ20の位置、すなわち測位データを(XGPS,YGPS,ZGPSgroundとする。地上座標系により表される機体基準点Gの位置を(X’,Y’,Z’)groundとする。機体座標系の原点を機体基準点Gとする。機体座標系により表される機体基準点Gの位置は、(0,0,0)vehicleとなる。機体座標系により表されるGPSアンテナ20の位置を、(a,b,h)vehicleとする。
【0049】
地上座標系により表される機体基準点Gの位置(X’,Y’,Z’)groundを、測位データ(XGPS,YGPS,ZGPSground、GPSアンテナ20の位置(a,b,h)vehicle、及びオイラー角(φ,θ,θ)から算出するために、上述したオイラー角の定義を適用し、機体座標系の各座標軸を地上座標系の各座標軸に平行にする変換行列を考える。変換行列は以下の通りとなる。
【0050】
【数1】
【0051】
【数2】
【0052】
【数3】
【0053】
従って、機体座標系上のベクトルを地上座標系上のベクトルに変換する行列は以下の通りとなる。
【0054】
【数4】
【0055】
ただし、
【0056】
【数5】
【0057】
ここで、地上座標系におけるGPSアンテナ20の位置と機体基準点Gの位置との差分(Δx,Δy,Δz)は、上で求めた変換行列を用いて次の通り表される。
【0058】
【数6】
【0059】
以上より、地上座標系により表される機体基準点Gの位置(X’,Y’,Z’)groundは、次の通り表される。
【0060】
【数7】
【0061】
上述した演算に用いられるオイラー角は、地上座標系に対する機体座標系の傾斜角、すなわち水平面に対する機体の傾斜(ロール角、ピッチ角)及び方位角に相当する。本実施形態では、機体位置算出部72は、傾斜補正部71が出力する補正傾斜データ(φ,θ,θ)を、機体位置(XGPS,YGPS,ZGPSgroundの算出に用いる。
【0062】
本実施形態では、傾斜補正部71は、入力装置24が受け付けた操作入力に基づいて傾斜データの補正を行う。具体的には、傾斜補正部71は、図6に示される入力画面100を表示装置23に表示させて、入力装置24を通じたオペレータからの操作入力を受け付ける。換言すれば、オペレータは、入力画面100を見ながら、傾斜補正(傾斜調整)についての操作入力を行う。以下、入力画面100の表示内容とオペレータによる操作入力、及び制御部70の動作について説明する。
【0063】
入力画面100は、数字を表示する6つのテキストボックス101~106、数字の入力を受け付ける2つの入力欄107、108、及び2つのボタン109、110を有している。
【0064】
テキストボックス101、102には、機体に設けられた機体姿勢計測装置30が出力した機体傾斜データが示される。詳しくは、テキストボックス101にロール角θr1が示され、テキストボックス102にピッチ角θp1が示される。制御部70は、機体姿勢計測装置30から経時的に入力される機体傾斜データ(ロール角θr1、ピッチ角θp1)に基づいて、テキストボックス101、102の数値を経時的に更新する。
【0065】
テキストボックス103、104には、衛星測位モジュール19に設けられた姿勢計測装置21が出力した機体傾斜データが示される。詳しくは、テキストボックス103にロール角θr0が示され、テキストボックス104にピッチ角θp0が示される。制御部70は、姿勢計測装置21から経時的に入力される傾斜データ(ロール角θr0、ピッチ角θp0)に基づいて、テキストボックス103、104の数値を経時的に更新する。
【0066】
すなわち、表示装置23は、姿勢計測装置21が出力した傾斜データと機体姿勢計測装置30が出力した機体傾斜データとを表示する。
【0067】
テキストボックス105、106には、傾斜補正部71が算出した傾斜補正量の候補値が示される。詳しくは、テキストボックス105にロール角についての候補値θr2が示され、テキストボックス106にピッチ角についての候補値θp2が示される。
ここで、
θr2=θr1-θr0
θp2=θp1-θp0
である。すなわち、傾斜補正量の候補値は、機体傾斜データと傾斜データとの差分である。制御部70は、傾斜補正部71が経時的に算出する傾斜補正量の候補値(θr2、θp2)に基づいて、テキストボックス105、106の数値を経時的に更新する。
【0068】
入力欄107、108は、オペレータからの傾斜補正量の指示値の入力を受け付ける欄である。オペレータが表示装置23に表示された入力画面100の入力欄107、108にタッチすると、入力装置24(画面上のテンキー、スライドバー等)により傾斜補正量の指示値の入力が可能な状態となる。オペレータは、入力画面100のテキストボックス101~106の数値、すなわち機体傾斜データ、傾斜データ、及び傾斜補正量の候補値を見ながら、入力装置24を操作して傾斜補正量の指示値を入力する。例えば、オペレータは、時々刻々と変動する傾斜補正量の候補値を読み取り、変動の中央の数値を指示値として入力欄107、108へ入力する。
【0069】
ボタン109には、文字列「入力反映」が示されている。オペレータがボタン109にタッチしたことに応じて、傾斜補正部71は、入力欄107、108に入力された数値(候補値)を傾斜補正量として決定する。
【0070】
すなわち、オペレータが傾斜補正量の指示値を入力欄107、108へ入力しボタン109へタッチする操作入力を行ったことに応じて、傾斜補正部71は、入力された指示値を傾斜補正量(ロール角θr3、ピッチ角θp3)として決定する。換言すれば、入力装置24は、傾斜補正量の操作入力を受け付け可能に構成されている。
【0071】
ボタン110には、文字列「自動補正」が示されている。オペレータがボタン110にタッチしたこと(操作入力)に応じて、傾斜補正部71は、テキストボックス105、106に表示されている数値(候補値θr2、θp2)を傾斜補正量(ロール角θr3、ピッチ角θp3)として決定する。換言すれば、入力装置24は、傾斜補正量の自動決定を行う旨の操作入力を受け付け可能に構成されている。
【0072】
傾斜補正部71は、決定した傾斜補正量(ロール角θr3、ピッチ角θp3)に基づいて、次の式により傾斜データを補正し、補正傾斜データを算出する。
θ=θr0-θr3
θ=θp0-θp3
【0073】
なお、本実施形態では、傾斜補正部71は、姿勢計測装置21が計測したヨー角φについては、補正を行わずに傾斜補正データとして出力する。すなわち、φ=φである。
【0074】
〔他の実施形態〕
〔1〕上記の実施形態では、入力装置24を通じたオペレータからの操作入力に応じて、傾斜補正量が決定され、傾斜データの補正が行われる。オペレータからの操作入力によらず、傾斜データの補正が自動的に行われる形態も可能である。
【0075】
本実施形態では、図7に示されるように、機体姿勢計測装置30が出力した機体傾斜データが、傾斜補正部71へ入力される。傾斜補正部71は、次の式により傾斜補正量を算出する。
θr3=θr1-θr0
θp3=θp1-θp0
【0076】
傾斜補正部71は、次の式により、姿勢計測装置21が出力した傾斜データを補正し、傾斜補正データを算出する。
φ=φ
θ=θr0-θr3
θ=θp0-θp3
【0077】
機体位置算出部72は、上記の実施形態と同様の手法にて、衛星測位モジュール19が出力した測位データと傾斜補正部71が出力した補正傾斜データとに基づいて、機体の地図座標である機体位置を経時的に算出する。
【0078】
〔2〕上記の実施形態では、コンバインが備える機体姿勢計測装置30を活用して、衛星測位モジュール19の姿勢計測装置21が出力する傾斜データを補正する手法が説明された。以下説明する手法によれば、コンバインが機体姿勢計測装置30を備えずとも、衛星測位モジュール19の姿勢計測装置21が出力する傾斜データを補正することが可能である。
【0079】
まず、コンバインを所定の地点(基準地点とする。)に停車させて、姿勢計測装置21の出力する傾斜データを記録する(第1傾斜データとする。)。次に、コンバインを走行させて、機体の前後が逆となる姿勢にてコンバインを基準地点に停車させ、姿勢計測装置21の出力する傾斜データを記録する(第2傾斜データとする。)。
【0080】
傾斜補正部71は、次の式により傾斜補正量を算出する。
θr3=(第1傾斜データのロール角+第2傾斜データのロール角)/2
θp3=(第1傾斜データのピッチ角+第2傾斜データのピッチ角)/2
【0081】
上式により傾斜補正量を算出する理由は次の通りである。同じ地点に機体の前後が逆となる姿勢で停車すると、地面の傾斜は同一のまま姿勢計測装置21の向きが前後逆になる。姿勢計測装置21が適切に較正されている場合、2つの姿勢の間で、姿勢計測装置21の出力するロール角、ピッチ角は正負が反転し絶対値が等しくなる筈である。上式により算出された傾斜補正量は、姿勢計測装置21の原点のずれ量を示す。この傾斜補正量を傾斜データから差し引いた傾斜補正データは、機体の傾斜を適切に示すものとなる。
【0082】
傾斜補正部71は、次の式により、姿勢計測装置21が出力した傾斜データを補正し、傾斜補正データを算出する。
θ=θr0-θr3
θ=θp0-θp3
【0083】
〔3〕上記の実施形態では、衛星測位モジュール19がステー13aに着脱可能な状態で支持されるが、衛星測位モジュール19の支持の形態はこれに限られない。衛星測位モジュール19がステー13aに着脱不可の状態で支持されてもよい。ステー13aが、前後左右のいずれかに倒れる姿勢変更や、前後、左右、又は上下の移動が可能なように構成され、衛星測位モジュール19がステー13aの姿勢変更又は移動に伴って姿勢変更又は移動が可能なように構成されてもよい。
【0084】
〔4〕機体位置算出部72による機体基準点Gの位置の算出の手法は、上述の例に限らず、他の手法によっても可能である。
【0085】
〔5〕機体基準点Gの位置は、上述の例に限られず、任意の位置に設定可能である。機体基準点Gは、地表に近い位置に設定されると好ましい。
【0086】
〔6〕上記の実施形態では、傾斜補正部71がロール角及びピッチ角を補正するが、ロール角及びピッチ角のいずれか一方を補正する形態も可能である。また、機体姿勢計測装置30をヨー角(方位角)を測定可能に構成し、傾斜補正部71をヨー角、ロール角、及びピッチ角を補正するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、自脱型コンバインの他、自脱型コンバイン等の収穫機、田植機、トラクタ等の農用作業車に適用でき、農用作業車だけでなく建設機械等の作業車にも適用できる
【符号の説明】
【0088】
19 :衛星測位モジュール
21 :姿勢計測装置(傾斜センサ)
23 :表示装置
24 :入力装置
30 :機体姿勢計測装置(機体傾斜センサ)
71 :傾斜補正部
72 :機体位置算出部
75 :走行制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7