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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】担体付き触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/42 20060101AFI20221128BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20221128BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20221128BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20221128BHJP
   B01J 38/18 20060101ALI20221128BHJP
   C01G 23/04 20060101ALI20221128BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20221128BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20221128BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20221128BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20221128BHJP
【FI】
B01J23/42 M
B01J35/10 301J
B01J37/02 101C
B01J37/08
B01J38/18
C01G23/04 Z
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/92
H01M4/88 K
H01M8/10 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019526728
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2018020887
(87)【国際公開番号】W WO2019003788
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2017129810
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】田村 顕治
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-077999(JP,A)
【文献】特開2017-016853(JP,A)
【文献】国際公開第2013/141063(WO,A1)
【文献】特表2007-520327(JP,A)
【文献】特開2009-091206(JP,A)
【文献】特開2012-184458(JP,A)
【文献】特開平10-324990(JP,A)
【文献】CHEN, Bor-Her et al.,Properties of platinum supported on oxides of titanium,J. Phys. Chem.,米国,American Chemical Society,1982年09月01日,Vol. 86, No. 18,pp. 3534-3541,DOI: 10.1021/j100215a10
【文献】IMRAN, M. et al.,Pd/TiO Nanocatalyst with Strong Metal-Support Interaction for Highly Efficient Durable Heterogeneous Hydrogenation,J. Phys. Chem. C,米国,American Chemical Society,2017年01月05日,Vol. 121, No. 2,pp. 1162-1170,DOI: 10.1021/acs.jpcc.6b10274
【文献】HOLMBERG, Bo et al.,Disorder and Order in Solid Solutions of Oxygen in α-Titanium,Acta Chem. Scand.,スウェーデン,Dannish Chemical Society, Finnish Chemical Society, Norwegian Chemical Society and Swedish Chemical Society,1962年,Vol. 16, No. 5,pp. 1245-1250,DOI: 10.3891/acta.chem.scand.16-1255
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01G 1/00-23/08
H01M 4/86-4/98
8/00-8/0297
8/08-8/2495
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒が担体に担持されてなる担体付き触媒であって、
前記担体がチタン酸化物を含み、
前記担体に含まれるチタン元素(Ti)と酸素元素(O)の含有割合(O/Ti)がモル比で表して0.8以上1.4以下であり、
前記担体が少なくともTiO 0.5 の結晶相を有する、担体付き触媒。
【請求項2】
体積抵抗率が10Ω・cm以下である請求項1に記載の担体付き触媒。
【請求項3】
BET比表面積が1m/g以上20m/g以下である請求項1又は2に記載の担体付き触媒。
【請求項4】
TiO0.5の結晶相の結晶子サイズが10nm以上100nm以下である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の担体付き触媒。
【請求項5】
前記担体の表面の一部にTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相が露出しており、
前記触媒が、露出している前記結晶相に直接に接している請求項1ないし4のいずれか一項に記載の担体付き触媒。
【請求項6】
前記担体の表面のうち前記触媒と接していない部分は、TiOが露出している請求項に記載の担体付き触媒。
【請求項7】
前記触媒は、白金、イリジウム及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属又はその合金を含む請求項1ないしのいずれか一項に記載の担体付き触媒。
【請求項8】
組成式TiOa(式中、aは0.4以上1以下の数を表す。)で表されるチタン酸化物を有機溶媒中で粉砕し、次いで乾粉化工程を経ることなく有機溶媒中で触媒を担持させ、 前記触媒を担持した前記チタン酸化物を焼成する、担体付き触媒の製造方法。
【請求項9】
金属チタンと二酸化チタンとの混合物を焼成して、前記組成式TiOa(式中、aは0.4以上1以下の数を表す。)で表されるチタン酸化物を生成させる請求項に記載の担体付き触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
触媒の担体としては様々な無機化合物が用いられている。かかる無機化合物は、触媒の種類や化学反応の種類に応じて導電性を有するものと、非導電性のものが用いられる。無機化合物からなる導電性の担体としては、例えば導電性を有する炭素などの炭素材料が知られている。しかし炭素材料は酸化性の環境下での耐久性に問題があることから、炭素材料の代替材料が種々検討されている。
【0002】
炭素材料に代わる導電性の無機化合物の一つとして導電性酸化チタンが知られている。例えば特許文献1には組成式TiO(式中のxは1.5<x<2の範囲である。)で表され、且つ比表面積が50m/g以上である低次酸化チタンに、金属を担持してなる触媒が提案されている。この触媒は、燃料電池の電極触媒として用いた場合に酸化安定性に優れ、また導電性が高いと同文献には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/141063号パンフレット
【発明の概要】
【0004】
特許文献1に記載の低次酸化チタンは確かに導電性を有するものの、従来用いられていた炭素材料と比較すると導電性が決して高いとは言えず、更なる導電性の向上が望まれていた。
【0005】
したがって本発明の課題は、従来知られている酸化チタンより、導電性が一層向上した酸化チタンを担体とする触媒を提供することにある。
【0006】
本発明は、触媒が担体に担持されてなる担体付き触媒であって、
前記担体がチタン酸化物を含み、
前記担体に含まれるチタン元素(Ti)と酸素元素(O)の含有割合(O/Ti)がモル比で表して0.8以上1.6以下であり、
前記担体がTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相を有する、担体付き触媒を提供することにより前記の課題を解決したものである。
【0007】
また本発明は、前記の担体付き触媒の好適な製造方法として、
組成式TiO(式中、aは0.4以上1以下の数を表す。)で表されるチタン酸化物を有機溶媒中で粉砕し、次いで乾粉化工程を経ることなく有機溶媒中で触媒を担持させ、
前記触媒を担持した前記チタン酸化物を焼成する、担体付き触媒の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は、触媒が担体に担持されてなる担体付き触媒に関するものである。この担体はチタン酸化物を含む。このチタン酸化物は、チタン元素(Ti)と酸素元素(O)とから構成される化合物である。担体は、このチタン酸化物を含み、残部が好ましくは不可避不純物から構成される。チタン酸化物は導電性を有していることが好ましい。
【0009】
触媒が担持された状態の担体(チタン酸化物)におけるチタン元素(Ti)と酸素元素(O)との含有割合は、O/Tiのモル比で表して、O/Tiの値が0.8以上1.6以下であることが好ましく、0.8以上1.4以下であることが更に好ましく、0.9以上1.2以下であることが一層好ましい。チタンの酸化物としては、例えば四価のチタンの酸化物である二酸化チタン(TiO)が典型的なものとして知られているところ、O/Tiの値がモル比で表して0.8以上1.6以下であるチタン酸化物は、二酸化チタンに比べて酸素が欠損した状態になっていると言える。この酸素欠損状態に起因して、本発明で用いるチタン酸化物は導電性を有するものと本発明者は考えている。
【0010】
担体(チタン酸化物)におけるO/Tiのモル比の値は、次の方法で測定される。熱重量分析装置(TG-DTA)(日立ハイテクサイエンス社製STA7300)を用いて、大気中にて10℃/分の昇温速度で1300℃まで昇温することで、重量増加率を測定する。増加した重量のすべてが、担体を構成するチタン酸化物(TiO)の二酸化チタン(TiO)への酸化によるものであると仮定し、測定した重量増加率により、O/Tiのモル比の値を算出する。
【0011】
担体(チタン酸化物)は、O/Tiのモル比の値が上述のとおりであることに加えて、TiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相を有していることが好ましい。結晶性のTiO0.5及びTiOは、背景技術の項で述べたTiO(式中のxは1.5<x<2である。)に比べて導電性の高い物質である。したがって、担体が結晶性のTiO0.5又はTiOを含むことで、担体の導電性が高まり、該担体に担持されている触媒はその性能を十分に発揮することができる。
【0012】
特に担体(チタン酸化物)がTiO0.5の結晶相を有する場合には、該結晶相の結晶子サイズは10nm以上100nm以下であることが好ましく、15nm以上80nm以下であることが更に好ましく、20nm以上65nm以下であることが一層好ましい。TiO0.5の結晶相の結晶子サイズがこの範囲内であることによって、担体の導電性が一層高まり、担体に担持されている触媒はその性能を十分に発揮することができる。
【0013】
担体(チタン酸化物)に含まれるTiO0.5の結晶相の結晶子サイズは、粉末X線回折によって得られる回折ピークからシェラー(Scherrer)の式によって算出される。粉末X線回折による測定には例えば株式会社リガク製のSmartLabを用い、CuKα1線を使用して、測定範囲20°~100°でTiO0.5のX線回折強度を測定したときの結晶面(101)X線回折ピークのピーク幅(半値幅)から、下記のシェラーの式により算出する。
シェラーの式:D=Kλ/βcosθ
D:結晶子サイズ
K:シェラー定数(1.333)
λ:X線の波長
β:半値幅[rad]
θ:回折角
【0014】
担体(チタン酸化物)が、TiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相を有することは、該担体の粉末X線回折(XRD)測定によって確認することができる。担体は、X線回折測定によってTiO0.5の結晶相の存在のみが確認されてもよく、TiOの結晶相の存在のみが確認されてもよく、あるいはTiO0.5の結晶相及びTiOの結晶相の双方の存在が確認されてもよい。担体の導電性の一層の向上の観点からは、担体がTiO0.5の結晶相を少なくとも有することが好ましい。担体に、TiO0.5の結晶相及びTiOの結晶相以外の酸化チタンの結晶相や非晶質相が存在してもよい。そのような酸化物の例としてはTiOやTiなどが挙げられる。TiOが結晶相として存在している場合には、TiOはルチル型及びアナターゼ型、ブルッカイト型のいずれであってもよい。また、TiO0.5の結晶相以外の結晶相を有する場合、担体の導電性の一層の向上の観点から、TiO0.5の結晶相は主結晶相として存在することが好ましい。
【0015】
TiO0.5の結晶相やTiOの結晶相は、Tiの一部が他の元素(例えば、Nb,Ta,Mo,W,Ge,Sb,Bi,Hf,Zr,Mg,Ca,Sr,Ba,Zn,Alなどの金属元素)で置換されていてもよいし、またTiの一部が欠損していてもよい。また、本発明の効果を奏する程度において、担体はチタン酸化物以外の化合物を含有してもよい。
【0016】
担体が有する結晶相の同定は次のように行う。測定装置として例えば株式会社リガク製のSmartLabを用い、CuKα1線を使用して、測定範囲20°~100°で、粉末X線回折の測定を行う。そして、粉末X線回折の測定によって得られた回折パターンを観察することにより、結晶相の同定を行う。担体がTiO0.5の結晶相を主結晶相として有するか否かは、粉末X線回折の測定で得られる回折パターンにおいて、TiO0.5の結晶相に由来する回折ピークの最大強度が、他のいずれの結晶相に由来する回折ピークの最大強度よりも大きいか否かで判断する。
【0017】
本発明の担体付き触媒において、該担体を構成するチタン酸化物には、上述のとおり、TiOが存在していてもよい。特にTiOは、担体の表面の少なくとも一部に露出していることが好ましい。この理由は次のとおりである。すなわち、本発明において担体として用いられるチタン酸化物にはTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相が含まれるところ、TiO0.5やTiOは、背景技術の項で述べた特許文献1に記載のTiO(式中のxは1.5<x<2の範囲である。)に比べて酸化されやすい性質を有している。そこで、担体の表面部分にTiOを配置することで、担体の内部に含まれるTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相が酸化されることが効果的に防止される。TiOの表層は、例えば、チタン酸化物を含む担体に触媒を担持させる工程において、該担体が酸素と触れて酸化が生じることに起因して形成される。
【0018】
本発明の担体付き触媒は、担体として用いられるチタン酸化物の導電性が高いことに起因して体積抵抗率が低いものである。詳細には、本発明の担体付き触媒は、その体積抵抗率が、10Ω・cm以下、特に5Ω・cm以下、とりわけ2Ω・cm以下という低い値を示す。かかる低体積抵抗率を示す本発明の担体付き触媒は、その低体積抵抗率を利用して、例えば自動車用燃料電池、家庭用燃料電池に使用される固体高分子形燃料電池(PEFC)やリン酸形燃料電池(PAFC)の電極触媒などとして有用なものとなる。
【0019】
前記の体積抵抗率は次のようにして測定される。測定には圧粉抵抗測定システム(三菱化学アナリティック社製 PD-41)と抵抗率測定器(三菱化学アナリティック社製 MCP-T600)を用いる。試料1gをプローブシリンダへ投入し、プローブユニットをPD-41へセットする。油圧ジャッキによって3.2MPaの荷重をかけたときの抵抗値を、抵抗率測定器を用いて測定する。測定した抵抗値と試料厚みから、体積抵抗率を算出する。
【0020】
本発明の担体付き触媒において、該触媒が本来的に有する性能を十分に発揮させるためには、担体の表面の一部にTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相が露出しており、且つ触媒が、露出しているTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相に直接に接していることが好ましい。これらの結晶相と触媒とが直接に接していることで、例えば触媒が導電性を有する場合には、これらの結晶相と触媒との間で電気的な導通が確保されるという利点がある。このような接触状態を実現するためには、例えば後述する方法に従い本発明の担体付き触媒を製造すればよい。
【0021】
ところで、担体に含まれるTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相の酸化を効果的に防止するためには、上述のとおり、該担体が表層にTiOを有していることが好ましい。尤もTiOは、TiO0.5やTiOに比べると導電性の低い物質なので、触媒がTiOを介して間接的にTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相に接していることは、触媒活性上有利とは言えない。そこで、上述のとおり触媒は、担体の表面の一部に露出しているTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相に直接に接していることが好ましく、且つ担体の表面のうち触媒と接触していない部分は、TiOが露出している、すなわちTiOの表層が配置されていることが好ましい。担体がこのような表面状態になっていることは、例えばTEM(透過型電子顕微鏡)のEELS分析や、XPS(X線光電子分光法)による表面のチタンの価数測定によって確認できる。
【0022】
本発明の担体付き触媒は、触媒活性を高める観点からBET比表面積が大きいことが好ましい。具体的には、本発明の担体付き触媒のBET比表面積は、1m/g以上20m/g以下であることが好ましく、2m/g以上20m/g以下であることが更に好ましく、4m/g以上20m/g以下であることが一層好ましい。このような範囲のBET比表面積を実現するためには、例えば後述する方法に従い本発明の担体付き触媒を製造すればよい。
【0023】
BET比表面積は、例えば島津製作所社製の「フローソーブ2300」を用い、BET1点法に従い窒素吸着法で測定することができる。測定粉末の量は0.3gとし、予備脱気条件は大気圧下、80℃で10分間とする。
【0024】
BET比表面積に関連して、本発明の担体付き触媒の粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法(例えば、堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置「LA-920」を用いて測定する。)による累積体積50容量%における体積累積粒径D50で表して0.5μm以上100μm以下であることが好ましく、1μm以上50μm以下であることが更に好ましく、3μm以上20μm以下であることが一層好ましい。本発明の担体付き触媒の粒径をこの範囲内に設定することで、触媒活性を十分に高くすることができる。
【0025】
本発明の担体付き触媒において、触媒の担持量は、触媒の種類にもよるが一般に、担体付き触媒に対して1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、5質量%以上40質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以上30質量%以下であることが一層好ましい。触媒の担持量がこの範囲内であることによって、必要最低限の使用量で十分な触媒活性を発現させることができる。触媒の担持量は、担体付き触媒を例えば酸で溶解した溶液を調製し、その溶液を対象としたICP発光分光分析によって測定できる。
【0026】
本発明で用いられる触媒の種類に特に制限はなく、対象とする化学反応を活性化する物質が適切に用いられる。本発明の担体付き触媒を例えば燃料電池の電極触媒として用いる場合には、触媒として各種金属を用いることが好ましい。金属としては、例えば白金、金、パラジウム、銀、イリジウム、ロジウム及びルテニウムなどからなる貴金属触媒が好適なものとして挙げられる。これらの金属は合金として用いることもできる。触媒として水素酸化活性を有するものを用いる場合には、白金、イリジウム及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属又はその合金を含む触媒を用いることが好ましい。例えば白金又は白金を含む合金、イリジウムやイリジウムを含む合金、ルテニウムやルテニウムを含む合金を用いることが好ましい。具体的には、白金、イリジウム、ルテニウム、白金-イリジウム合金、白金-ルテニウム合金、白金-鉄合金、イリジウム-ルテニウム合金などが挙げられるが、これらに限られない。
【0027】
次に本発明の担体付き触媒の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、(1)担体の製造工程、(2)触媒の担持工程、(3)焼成工程の3工程に大別される。以下、それぞれの工程について詳述する。
【0028】
担体の製造工程においては、チタン酸化物を製造する。このチタン酸化物は組成式TiO(式中、aは0.4以上1以下の数を表す。)で表されるものである。このチタン酸化物を生成させるため、本製造方法では出発原料として金属チタン及び二酸化チタンを用いる。金属チタンとしては、D50が0.5μm以上300μm以下である金属チタンの粉末を用いることが、金属チタンと二酸化チタンとの反応性を高める観点から好ましい。同様の観点から、二酸化チタンとしてD50が0.01μm以上5.0μm以下である粉末を用いることが好ましい。二酸化チタンとしてはルチル型、アナターゼ型、及びブルッカイト型のいずれであっても用いることができる。比表面積の高い担体を得る観点からは、アナターゼ型の二酸化チタンを用いることが好ましい。
【0029】
担体の製造工程において、金属チタンと二酸化チタンとを混合させる割合は、TiO(式中、aは0.4以上1以下の数を表す。)で表されるチタン酸化物が得られるように適切に調整される。この観点から、金属チタン100質量部に対して二酸化チタンを好ましくは20質量部以上300質量部以下、更に好ましくは40質量部以上230質量部以下、一層好ましくは50質量部以上180質量部以下の量で混合する。混合に際しては乳鉢、自動乳鉢、ボールミル、スタンプミル、V型混合器、タンブラー型混合器など一般的に乾式で混合可能な装置を用いることができる。
【0030】
金属チタンと二酸化チタンとを混合したら、混合物を焼成してチタン酸化物を生成させる。焼成は一般に真空中で行うことができる。この場合の真空度は、絶対圧で表して1×10-1Pa以下であることが、目的とするチタン酸化物を首尾よく得る点から好ましい。同様の観点から、焼成温度は、600℃以上1300℃以下であることが好ましく、750℃以上1100℃以下であることが更に好ましい。焼成時間は、焼成温度が上述の範囲であることを条件として5時間以上30時間以下であることが好ましく、5時間以上15時間以下であることが更に好ましい。
【0031】
チタン酸化物の担体において、その表面の少なくとも一部に二酸化チタンを存在させるためには、例えば上述した金属チタンと二酸化チタンとの混合物の焼成条件を調整して、一部の二酸化チタンが残存するようにすればよい。
【0032】
以上の工程によってチタン酸化物の担体が得られる。この担体は、上述のとおりTiO(式中、aは0.4以上1以下の数を表す。)で表されるチタン酸化物からなるものである。また、このチタン酸化物中は好ましくはTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相を有する。
【0033】
このようにしてチタン酸化物の担体が得られたら、この担体に触媒を担持させる。触媒の担持に先立ち触媒の粒径を調整することが好ましい。粒径の調整には、例えばペイントシェイカーやビーズミルなどの粉砕装置を用いることができる。この場合、担体が酸素に触れて酸化されることを防止する目的で、担体を有機溶媒中で粉砕することが好ましい。この目的で用いられる有機溶媒としては、例えばエタノール、2-プロパノール、ブタノールなどの脂肪族一価アルコール類、トルエンやベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、その他ケトン類やエステル類、エーテル類などが挙げられる。担体と有機溶媒との使用割合は、粉砕を首尾よく行う観点から、担体100質量部に対する有機溶媒の使用量が100質量部以上9900質量部以下であることが好ましく、100質量部以上900質量部以下であることが更に好ましい。
【0034】
有機溶媒中での担体の粉砕が完了したら、引き続き触媒の担持工程を行う。この場合、粉砕から触媒の担持までの間でも触媒を酸素に極力触れさせないことが、触媒の酸化を防止する観点から好ましい。この目的のために、粉砕が完了した担体に対して乾粉化工程を行うことなく、有機溶媒中に分散した状態の担体に触媒を担持させることが有利である。つまり、担体を有機溶媒中で粉砕し、次いで乾粉化工程を経ることなく有機溶媒中で触媒を担持させることが有利である。粉砕に用いる有機溶媒と、触媒の担持に用いる有機溶媒とは同一のものであってもよく、あるいは異なるものであってもよい。
【0035】
触媒の担持には、触媒を構成する元素を含む原料を用いることができる。かかる原料と、有機溶媒中に分散されている担体とを混合することで、担体の表面に、触媒を構成する元素を付着させる。この場合、必要に応じて分散液を加熱してもよい。触媒を構成する元素を含む原料としては、例えば触媒が白金を含む場合には、ヘキサクロロ白金酸塩、ジニトロアンミン白金塩、ヘキサアンミン白金クロライド、テトラアンミン白金水酸塩、アセチルアセトナト白金塩などを用いることができる。触媒がイリジウムを含む場合には、酸化イリジウム、塩化イリジウム、アセチルアセトナトイリジウム塩などを用いることができる。触媒がルテニウムを含む場合には、塩化ルテニウム、酸化ルテニウム、硝酸ルテニウム、ヘキサアンミンルテニウムクロライド、アセチルアセトナトルテニウム塩などを用いることができる。
【0036】
このようにして、触媒を構成する元素を担体に担持させたら、これを焼成工程に付して、担体の表面に触媒を生成させる。また、必要に応じ、担体中にTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相を生成させる。焼成は一般に還元性雰囲気中で行うことができる。還元性雰囲気としては、水素ガス及びアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスとの混合ガスを用いることが好ましい。この場合、混合ガス中の水素ガスと不活性ガスとの割合を調整することで、還元の程度をコントロールできる。焼成温度は、還元の程度を適切にコントロールする観点から400℃以上1200℃以下であることが好ましく、550℃以上900℃以下であることが更に好ましい。焼成時間は、焼成温度が上述の範囲であることを条件として0.1時間以上20時間以下であることが好ましく、1時間以上10時間以下であることが更に好ましい。
【0037】
担体の表面の一部にTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相が露出している場合、上述の方法を用いれば、該TiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相に直接触媒を担持させることができる。一方、担体の表面のうち触媒と接していない部分にTiOを露出させるためには、例えば担体の製造において、上述した金属TiとTiOとの混合物の焼成条件を調整して、一部のTiOが残存するようにすればよい。
【0038】
以上の工程によって目的とする担体付き触媒を得ることができる。この触媒は、担体の導電性が高いことを活かして種々の用途に用いることができる。そのような用途としては、例えば自動車用燃料電池、家庭用燃料電池に使用される固体高分子形燃料電池(PEFC)やリン酸形燃料電池(PAFC)の電極触媒などが挙げられる。特に、本発明の担体付き触媒は、固体高分子形燃料電池の電極触媒として有用である。
【0039】
本発明の担体付き触媒を燃料電池の電極触媒として用いる場合、該電極触媒は、例えば固体高分子電解質膜の一方の面に配置された酸素極及び他方の面に配置された燃料極を有する膜電極接合体における酸素極又は燃料極の少なくとも一方に含有させることができる。電極触媒は、好適には燃料極に含有させることができる。
【0040】
特に、燃料極は、本発明の担体付き触媒を含む触媒層と、ガス拡散層とを含んでいることが好ましい。電極反応を円滑に進行させるために、担体付き触媒は固体高分子電解質膜に接していることが好ましい。ガス拡散層は、集電機能を有する支持集電体として機能するものである。更に、本発明の担体付き触媒にガスを十分に供給する機能を有するものである。ガス拡散層としては、この種の技術分野において従来用いられてきたものと同様のものを用いることができる。例えば多孔質材料であるカーボンペーパー、カーボンクロスを用いることができる。具体的には、例えば表面をポリ四フッ化エチレンでコーティングした炭素繊維と、当該コーティングがなされていない炭素繊維とを所定の割合とした糸で織成したカーボンクロスにより形成することができる。
【0041】
固体高分子電解質としては、この種の技術分野において従来用いられてきたものと同様のものを用いることができる。例えばパーフルオロスルホン酸ポリマー系のプロトン伝導体膜、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン伝導体の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などが挙げられる。
【0042】
前記膜電極接合体は、その各面にセパレータが配されて固体高分子形燃料電池となされる。セパレータとしては、例えばガス拡散層との対向面に、一方向に延びる複数個の凸部(リブ)が所定間隔をおいて形成されているものを用いることができる。隣り合う凸部間は、断面が矩形の溝部となっている。この溝部は、燃料ガス及び空気等の酸化剤ガスの供給排出用流路として用いられる。燃料ガス及び酸化剤ガスは、燃料ガス供給手段及び酸化剤ガス供給手段からそれぞれ供給される。膜電極接合体の各面に配されるそれぞれのセパレータは、それに形成されている溝部が互いに直交するように配置されることが好ましい。以上の構成が燃料電池の最小単位を構成しており、この構成を数十個~数百個並設してなるセルスタックから燃料電池を構成することができる。
【実施例
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0044】
〔実施例1〕
(1)担体の製造工程
6.7gの金属チタンと3.7gのアナターゼ型二酸化チタンとを混合し、真空炉で900℃にて10時間にわたり焼成を行った。真空炉内の絶対圧は10-1Pa以下になるよう設定した。金属チタンの粒径D50は13μmであった。二酸化チタンの粒径D50は0.2μmであった。この焼成によってTiO(式中、aは0.47である)で表されるチタン酸化物を得た。
【0045】
(2)触媒の担持工程
前記(1)で得られたチタン酸化物4.0gとエタノール16.0gと混合し、それによって得られたスラリーをペイントシェイカーにより、10時間にわたりチタン酸化物の粉砕を行った。次いでチタン酸化物を乾粉化させず、酸素に触れさせることなく、該チタン酸化物を含むスラリーに、300gのエタノール及び3.9mlのジニトロアンミン白金硝酸水溶液(白金濃度15%)を添加して混合液を得た。この混合液を四つ口フラスコに投入した。フラスコ中の混合液を、液温が75℃になるようにオイルバスで6時間にわたり加温した。その後、液を冷却し、更に水洗することで、エタノール及び副塩成分を除去した。これによって得られたケーキを真空乾燥して乾粉を得た。
【0046】
(3)焼成工程
前記(2)で得られた乾粉を焼成した。焼成の雰囲気は2vol%H/Ar混合ガスとした。焼成温度は600℃とした。焼成時間は2時間とした。このようにして担体付き白金触媒を得た。この担体付き白金触媒の粒径D50は6.2μmであった。なお、粒径D50は次の方法で測定した。担体付き白金触媒の粒子を水と混合し、一般的な超音波バスを用いて1分間分散処理を行った。次いでベックマンコールター社製LS13 320を用いてD50を測定した。
【0047】
〔実施例2〕
実施例1において(3)の焼成工程における焼成温度を、以下の表1に示すとおりに変更した。これ以外は実施例1と同様にして担体付き白金触媒を得た。実施例1と同様に測定した結果、実施例2の担体付き白金触媒の粒径D50は7.5μmであった。
【0048】
〔実施例3〕
実施例1において(3)の焼成工程における焼成温度を、以下の表1に示すとおりに変更した。これ以外は実施例1と同様にして担体付き白金触媒を得た。実施例1と同様に測定した結果、実施例3の担体付き白金触媒の粒径D50は5.3μmであった。
【0049】
〔実施例4〕
実施例1において(1)の担体の製造工程における金属チタン及び二酸化チタンの使用量を表1に示すとおりとし、且つ(1)担体の製造工程における焼成温度を、以下の表1に示すとおりに変更した。これ以外は実施例1と同様にして担体付き白金触媒を得た。実施例1と同様に測定した結果、実施例4の担体付き白金触媒の粒径D50は8.9μmであった。
【0050】
〔比較例1〕
(1)担体の製造工程
実施例1と同様に行った。
【0051】
(2)触媒の担持工程
前記(1)で得られたチタン酸化物4.0gとエタノール16.0gと混合し、それによって得られたスラリーをペイントシェイカーにより、10時間にわたりチタン酸化物の粉砕を行った。粉砕後、エタノール及び副塩成分を除去した。これによって得られたケーキを真空乾燥してチタン酸化物の乾粉を得た。この乾粉2.0gと、300gのエタノール及び3.9mlのジニトロアンミン白金水溶液(白金濃度15%)を添加して混合液を得た。その後は実施例1と同様の操作を行った。
【0052】
(3)焼成工程
実施例1と同様に行った。これによって担体付き白金触媒を得た。実施例1と同様に測定した結果、比較例1の担体付き白金触媒の粒径D50は3.1μmであった。
【0053】
〔比較例2〕
比較例1において(3)の焼成工程を行わなかった点以外は、比較例1と同様にして担体付き白金触媒を得た。実施例1と同様に測定した結果、比較例2の担体付き白金触媒の粒径D50は1.1μmであった。
【0054】
〔比較例3〕
(1)担体の製造工程
実施例1と同様に行った。
【0055】
(2)触媒の担持工程
前記(1)で得られたチタン酸化物4.0gとエタノール16.0gと混合し、それによって得られたスラリーをペイントシェイカーにより、10時間にわたりチタン酸化物の粉砕を行った。粉砕後、エタノール及び副塩成分を除去した。これによって得られたケーキを真空乾燥してチタン酸化物の乾粉を得た。この乾粉を用いてコロイド法で白金を担持させた。詳細には、5mlのHPtCl溶液(Pt1gに相当)を蒸留水295mlに溶解させ、15.3gのNaHSOを加えた後、1400mlの蒸留水で希釈した。5%NaOH水溶液を加えて、pHを約5に調整を行いながら35%過酸化水素水(120ml)を滴下し白金のコロイドを含む液を得た。このとき、5%NaOH水溶液を適宜加えて液のpHを約5に維持した。得られた液からPt0.60gに相当する量を分取し、3.0gのチタン酸化物粒子を添加し、90℃で3時間混合した。その後、液を冷却し、更に固液分離した。固液分離により得られた含水した粉体中から塩化物イオンを除去するために、1500mlの蒸留水で再び希釈し90℃で1時間煮沸を行い、液を冷却し固液分離した。この洗浄作業を4回実施した。最後に、固液分離後、大気下にて60℃で12時間にわたり乾燥させた。これによって、チタン酸化物粒子の表面に不定比の白金酸化物を含む白金を担持させた。次いで、このチタン酸化物粒子を2vol%H/Ar雰囲気下に80℃で2時間にわたり熱処理することによって白金の還元を行った。
【0056】
(3)焼成工程
実施例1と同様に行った。これによって担体付き白金触媒を得た。実施例1と同様に測定した結果、比較例3の担体付き白金触媒の粒径D50は5.8μmであった。
【0057】
〔比較例4〕
(1)担体の製造工程
実施例1において(1)の担体の製造工程における金属チタン及び二酸化チタンの使用量を表1に示すとおりとし、且つ(1)担体の製造工程における焼成温度を、以下の表1に示すとおりに変更した。これ以外は実施例1と同様にしてチタン酸化物を得た。この焼成によってTiO(式中、aは1.79である)で表されるチタン酸化物を得た。
【0058】
(2)触媒の担持工程
実施例1と同様に行った。
【0059】
(3)焼成工程
実施例1と同様に行った。これによって担体付き白金触媒を得た。実施例1と同様に測定した結果、比較例4の担体付き白金触媒の粒径D50は2.2μmであった。
【0060】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた担体付き白金触媒について、O/Tiのモル比、結晶相の種類及び結晶相の結晶子サイズを上述の方法で測定した。また、担体付き白金触媒のBET比表面積、体積抵抗率、白金担持量を上述の方法で測定した。更に、担体付き白金触媒を用いたMEAのセル電圧を以下の方法で測定した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0061】
〔MEAのセル電圧〕
実施例及び比較例で得られた担体付き白金触媒を用いて作製した燃料電池について、膜電極接合体(MEA)の発電特性を評価した。
【0062】
得られた担体付き白金触媒0.35gと、直径10mmのイットリウム安定化ジルコニア製ボールを容器に入れ、更に純水、エタノール及びイソプロパノールを35:45:20の質量比(混合液として0.875g)で順に加えた。このようにして得られたインクを、超音波で3分間にわたり分散した。次いで、遊星ボールミル(シンキーARE310)で800rpm、20分間撹拌した。更にインクに5%ナフィオン(登録商標)(274704-100ML、Sigma-Aldrich社製)を加え、超音波分散と遊星ボールミルにより前記と同様な撹拌を行った。ナフィオンの添加量は、ナフィオン/実施例及び比較例の担体付き白金触媒の質量比が7.4となるような量とした。このようにして得られたインクを、ポリ四フッ化エチレンのシート上にバーコーターを用いて塗工し、塗膜を60℃で乾燥させ、アノード用の触媒層とした。
【0063】
一方、カソード触媒用の触媒層は次の方法で得た。田中貴金属工業株式会社製の白金担持カーボンブラック(TEK10E50E)1.00gと、直径10mmのイットリウム安定化ジルコニア製ボールを容器に入れ、更に純水、エタノール及びイソプロパノールを45:35:20の質量比(混合液として10.2g)で順に加えた。このようにして得られたインクを、超音波で3分間にわたり分散した。次いで、遊星ボールミル(シンキーARE310)を用い、800rpmで20分間撹拌した。更にインクに5%ナフィオン(登録商標)(274704-100ML、Sigma-Aldrich社製)を加え、超音波分散と遊星ボールミルにより前記と同様な撹拌を引き続き行った。ナフィオンの添加量は、ナフィオン/白金担持カーボンブラックの質量比が70.0となるような量とした。このようにして得られたインクを、ポリ四フッ化エチレンのシート上にバーコーターを用いて塗工し、塗膜を60℃で乾燥させた。
【0064】
得られたアノード用及びカソード用電極触媒層付ポリ四フッ化エチレンのシートを54mm四方の正方形状に切り出し、ナフィオン(登録商標)(NRE-212、Du-Pont社製)の電解質膜と重ね合わせ、140℃、25kgf/cmの条件下に2分間大気中で熱プレスし、転写を行った。このようにして、ナフィオンからなる固体高分子電解質膜の各面にカソード及びアノード触媒層を形成し、触媒層被覆電解質膜(Catalyst Coated Membrane;CCM)を作製した。電極触媒層における白金の量は、カソード触媒層では0.138mg-Pt/cmで、アノード触媒層では0.116mg-Pt/cmであった。
【0065】
前記で得られたCCMを一対のガス拡散層(SGLカーボン社製、型番:29BC)で挟んだ。更にガス流路が形成された一対のカーボン板からなるセパレータで挟み、固体高分子形燃料電池を作製した。このようにして得られた燃料電池は、JARI標準セルに相当するものである。
【0066】
得られた固体高分子形燃料電池について、出力特性(I-V特性)を以下の方法で測定した。固体高分子形燃料電池のアノード側に水素ガスを供給するとともに、カソード側に酸素ガスを供給した。水素ガスの利用率は70%に、酸素利用率は40%になるように流量を設定した。ガスはそれぞれ外部加湿器で加湿を行ってから燃料電池に供給した。また燃料電池の温度は80℃になるように温度調整を行い、供給ガスの湿度については、相対湿度が100%RHとなるように調整した。このときのセル電圧と電流密度との関係(I-V特性)を測定した。得られたセル電圧と電流密度との関係から、0.1A/cmにおけるセル電圧値Vを得た。そして、得られたセル電圧値に基づき、性能を以下の基準で評価した。
◎:セル電圧が0.8V以上
○:セル電圧が0.79V以上0.8V未満
×:セル電圧が0.79V未満
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例の担体付き白金触媒は、比較例の触媒に比べて、触媒性能が高いことが判る。
また、表には示していないが、各実施例の担体付き白金触媒は、白金がTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相に直接に接しており、且つ白金に接触していないTiO0.5の結晶相又はTiOの結晶相の表面がTiOで被覆されていることが、TEMのEELS分析による測定の結果確認された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、導電性が高く、担持する触媒の性能が十分に発揮される担体付き触媒が提供される。