(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】タンパク質、及びPasteurellaタンパク質を含有する免疫化組成物、ならびに使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/102 20060101AFI20221128BHJP
A61K 39/116 20060101ALI20221128BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20221128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221128BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20221128BHJP
C07K 14/285 20060101ALI20221128BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221128BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20221128BHJP
【FI】
A61K39/102 ZNA
A61K39/116
A61P31/04 171
A61P43/00 171
A61P43/00 121
A61K35/74 A
C07K14/285
C12N1/21
C12N15/31
(21)【出願番号】P 2019543050
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(86)【国際出願番号】 US2018017682
(87)【国際公開番号】W WO2018148586
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-02-05
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518007980
【氏名又は名称】エピトピックス, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】カーヴァー, チャールズ ネルソン ザ サード
(72)【発明者】
【氏名】エメリー, ダリル
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-505085(JP,A)
【文献】国際公開第2007/006101(WO,A1)
【文献】特表2002-541790(JP,A)
【文献】特開平08-187093(JP,A)
【文献】特表2011-511630(JP,A)
【文献】Am. J. Vet. Res. (2001) vol.62, no.5, p.697-703
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/102
A61P 31/04
C07K 14/285
C12N 15/31
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のアミノ酸25~968に対して少なくとも
90%の
アミノ酸配列同一性を有する単離されたタンパク質、配列番号4のアミノ酸27~790に対して少なくとも
90%の
アミノ酸配列同一性を有する単離されたタンパク質、配列番号6のアミノ酸23~727に対して少なくとも
90%の
アミノ酸配列同一性を有する単離されたタンパク質、配列番号8のアミノ酸25~964に対して少なくとも
90%の
アミノ酸配列同一性を有する単離されたタンパク質、配列番号10のアミノ酸26~848に対して少なくとも
90%の
アミノ酸配列同一性を有する単離されたタンパク質、配列番号12のアミノ酸27~784に対して少なくとも
90%の
アミノ酸配列同一性を有する単離されたタンパク質、
および配列番号14のアミノ酸25~742に対して少なくとも
90%の
アミノ酸配列同一性を有する単離されたタンパク
質を具備する組成物であって、Pasteurella multocidaを用いた抗原曝露からニワトリを保護する、前記組成物。
【請求項2】
配列番号44のアミノ酸26~805に対して少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する単離されたタンパク質をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
分子量が249kDa、60kDa、42kDa、38kDa、27kDa、26kDaもしくは22kDa
の少なくとも1つの単離されたタンパク質であって、P.multocidaから単離可能である前記タンパク質を更に含む、請求項
1または
2に記載の組成物。
【請求項4】
(i)少なくとも
7種
のタンパク質を発現するように操作された単離された全細胞
であって、前記少なくとも7種のタンパク質が、配列番号2のアミノ酸25~968に対して少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、配列番号4のアミノ酸27~790に対して少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、配列番号6のアミノ酸23~727に対して少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、配列番号8のアミノ酸25~964に対して少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、配列番号10のアミノ酸26~848に対して少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、配列番号12のアミノ酸27~784に対して少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、および配列番号14のアミノ酸25~742に対して少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質を含む、単離された細胞、または
(ii)2つ以上の微生物集団であって、前記集団の各々が(i)に列挙した前記少なくとも7種のタンパク質のサブセットを発現し、前記2つ以上の微生物集団は、全体として考えると、前記少なくとも7種のタンパク質を発現する、2つ以上の微生物集団
を具備する組成物であって、Pasteurella multocidaを用いた抗原曝露からニワトリを保護する、前記組成物。
【請求項5】
前記単離された細胞または前記2つ以上の微生物集団が、配列番号44のアミノ酸26~805に対して少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質をさらに発現するように操作される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記
単離された細胞
または前記2つ以上の微生物集団がE.coliである、請求項
4に記載の組成物。
【請求項7】
医薬的に許容される担体を更に含む、請求項1、3または4に記載の組成物。
【請求項8】
アジュバントを更に含む、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ニワトリが第1のニワトリであり、前記組成物によって前記第1のニワトリがP.multocida血清型2×5を用いた抗原曝露から保護され、前記組成物によって第2のニワトリがP.multocida血清型3×4を用いた抗原曝露から保護される、請求項1
~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物の少なくとも1つのタンパク質に特異的に結合する抗体を産生するように対象を誘導するための請求項1
~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
P.multocidaに起因する感染症を有するかまたはそのリスクに曝されている対象における感染症を治療するための請求項1
~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
P.multocidaに起因する感染症を有するかまたはそのリスクに曝されている対象における症状を治療するための請求項1
~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
P.multocidaによるコロニー形成を被った対象におけるコロニー形成を低減させるための請求項1
~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記対象が哺乳動物である、請求項1
0~1
3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記哺乳動物がウシである、請求項1
4に記載の組成物。
【請求項16】
前記対象が鳥類である、請求項1
0~1
3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記鳥類がニワトリまたはシチメンチョウである、請求項
16に記載の組成物。
【請求項18】
少なくとも700マイクログラム(μg)乃至1200μg以下のタンパク質が投与されることを特徴とする、請求項1
0~1
3のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年2月10日に出願された米国特許仮出願第62/457,599号の利益を主張するものであり、本文献は本明細書において参照により援用されている。
【背景技術】
【0002】
Pasteurella spp.は、様々な動物においてだけでなくヒトにおいても疾患を発症させる恐れのあるグラム陰性、通性嫌気性及び多形桿菌である。家畜及び野生動物におけるPasteurellaの種は、上気道の粘膜、口腔の粘膜、及び下部生殖管に対する特定のニッチを進化させてきた。家畜における疾患は、臨床症状に基づくほか、疾患に付随する特定のPasteurella種にも基づく。今日、家畜(とりわけ、家禽、畜牛、豚、及びラビット)に関する臨床疾患に関し、Pasteurellaceae科の中で最も広く認識されている2つの種が、Pasteurella multocida及びMannheimia haemolyticaである。Pasteurellaceae科は昨今では、Pasteurella、Mannheimia、Actinobacillus、Haemophilus及びLonepinellaの5つの属を含み、大規模な再分類の対象とされてきた(Angen et al.Int.J.Syst.Bacteriol.49:67-86(1999)。最近になってから、Pasteurella haemolyticaは、リボソームシークエンシング及びDNA-DNAハイブリダイゼーションに基づいて分類学的にMannheimia haemolyticaに分類されてきた(Oystein et al.Int.J.Syst.Bacteriol.49:6-86(1999)。
【0003】
Pasteurella multocidaは、鳥コレラ菌(俗称:家禽コレラ)の病原因子とされており、広範囲に分布し、且つニワトリ、シチメンチョウ、ガチョウ、アヒルにおいて発生率が高く、経済的に重大な意味を持つ家禽の疾患である(Rhoades et al.Fowl Cholera.In:Adlam,C.F.及びRutter,J.M.(Eds.),Pasteurella and Pasteurellosis.Academic Press,London,pp.95-113.1989)。また、この生物は野鳥、商業的に飼育された猟鳥及びシスタチンにおける臨床疾患の誘発にも関与している(Rhoades及びRimler,1989,Fowl cholera.In Pasteurella及びPasteurellosis,pp.95-113.Edited by C.F.Adlam & J.M.Rutter.London:Academic Press)。トリは全種にわたって感受性の度合いが多様である。重種は軽種よりも感受性が高く、成鳥や成長後期のトリは、若鳥よりも感受性が高いと思われる(Jordan et al.Poultry Diseases.Ballierre Tindall,London,Pp42-50.1990.)。Pasteurella multocidaの鳥類株の中で認識されている莢膜血清群には、A、B、D及びFの4通りがある(Rhoades et al.Avian Dis.31:895-898(1987)。家禽においてPasteurellosisの主な病原体として認識されているのが、A型莢膜に属する菌株である(Rhoades and Rimler,1987,Avian Dis 31,895-898;Rhoades et al.Fowl Cholera.In:Adlam,C.F.and Rutter,J.M.(Eds.),Pasteurella and Pasteurellosis.Academic Press,London,pp.95-113.1989;Wilson et al.J.Clin.Microbiol.31:255-259 1993))。多座酵素電気泳動及びDNA-DNAハイブリダイゼーションによって実証済みであるように、Pasteurella multocidaの鳥類株は遺伝的に多種多様であることが、明らかにされてきた。これらの所見に基づき、P.multocidaは現在、multocida、sptica及びgallicidaの3通りの亜種に細分されている。
【0004】
P.multocidaの病因は、十分には判明していないが、宿主及び病原体の両方の特異的因子に依存している。今日に至るまで、株間の疾患と関連する病原性因子は1つも存在していない。今日までに研究されてきた毒性因子としては、カプセル、内毒素、外膜タンパク質、血清耐性、鉄獲得系、熱ショックタンパク質、ノイラミニダーゼ産生、接着因子、抗体開裂酵素、及び細胞変性毒素の存在する可能性が挙げられる。
【0005】
疾患の臨床症状は、甚急性/急性から慢性感染までの範囲に及ぶことがあり、初期には上気道のコロニー形成によって起こる場合もあれば、続いて浸潤及び敗血症によって起こる場合もある。急性感染症を患っている間じゅう、臨床的徴候は死亡までに殆ど観察されず、敗血症性病変が猛威を奮うのが一般的である。慢性型P.multocida感染症の場合、化膿性病変は、気道の粘膜、咽頭、鼻腔、結膜及び頭部の隣接組織を含め、広範囲に分布する可能性がある。
【0006】
P.multocidaの偏在性、ひいては経済的損失が莫大な額に及ぶ可能性があるという理由から、採卵鶏及び繁殖用ブロイラーの養鶏事業における家禽コレラの勃発を防ぐため、米国全土だけでなく海外においても市販ワクチンが開発されてきた。現在出回っている市販の不活化家禽コレラワクチンは、防御が為されるように、体細胞の血清型に依存している。殆どの不活化ワクチンは、最小限でも、血清型1(別称:A対1)、血清型3(別称:A対3)、及び血清型4(別称:A対4)のPasteurella multocida株を含む。1種の血清型を用いて作製された家禽コレラワクチンの場合、他の血清型を交差防御の対象としない。例えば、血清型1株を用いて作製されたワクチンの場合、血清型3または4を防御の対象としない。
【0007】
Pasteurella multocidaが脊椎動物宿主の自然防御機構を回避する能力は、宿主の鉄を獲得する能力に幾分かは依存するものであり、ひいては、宿主-病原体相互作用に直接的に影響を及ぼす。鉄の本質的性質ゆえに、脊椎動物の宿主は、体液中の鉄を結合するための精巧な機序(例えば、血液中のトランスフェリン及びリンパ液中のトランスフェリン、ならびに外部分泌物中のラクトフェリン)を発達させてきた。これらの高親和性鉄結合タンパク質によって、宿主内に鉄制限環境が創出され、鉄のレベルが、およそ10~18モルまで(すなわち、ほぼ全ての細菌の成長を支持するには低すぎる濃度まで)低減することになる。これらの宿主の鉄封鎖機序は、細菌の侵入を食い止めるための自然界の防御機序として作用する。細菌種の多くは、これらの鉄制限条件を回避する目的から、鉄を獲得するための機序を進化させてきた。最も一般的な機序としては、ポーリンを介した可溶性鉄の拡散、及びシデロフォアを介して鉄の取り込みを媒介する特殊な輸送系が挙げられる。この後者の系は、鉄獲得のための最も普遍的且つ徹底的に研究された機序の1つであり、シデロフォアを介した三価鉄の特異的キレート化及びそれらの同族輸送系の合成を含む。これにより、引き続き、細菌が宿主の非特異的防御機序を複製し克服することを可能にしている。継続的な複製、ひいては感染プロセスにおける各ステップは、最終的に、生物がその宿主から鉄を獲得する能力に依存する。
【0008】
鉄、コバルト、銅、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、セレン、及び亜鉛のような二価金属イオンは、動物及びヒトの両方の宿主に感染する細菌が生存するうえでしばしば必須とされる微量元素である。これらの微量金属元素は、生物に必要とされる様々な代謝経路に対する生化学反応を触媒する酵素のための補因子として、細菌により使用される。細菌の病因に対し鉄が及ぼす影響は、大々的に研究されてきた。鉄は、ほぼ全ての生命にとって不可欠であり、しかも、あらゆる系統発生レベルにおいて生物の酵素経路及び代謝経路に必要とされる。細菌性敗血症中に、血清中の鉄、銅、及び亜鉛のような数種の金属イオンの濃度に変動が生ずることは、十分に文書化されてきた。例えば、感染症の発症に伴い、亜鉛の血清レベルが10パーセント乃至60パーセントまで低下する。感染の発症に続いて間もなく、亜鉛は血漿から肝臓へと再分配され、肝臓内でメタロチオネインに結合する。感染症の間は血清鉄が最大50パーセントまで減少することが記載されてきた一方で、炎症性刺激に反応して血清銅が増加することも明らかにされてきた。これらの微量の血清中金属イオンが変動すると、細菌感染性の重篤度及び進行に対し直接的な影響が及ぶ可能性がある。
【0009】
細菌類は、鉄の利用可能性に依拠する基本的機能を非常に多く備えていることから、多様な生理学的条件下にて鉄を獲得するための、複雑な規制ネットワークを進化させてきた。嫌気性条件下では、鉄は可溶性の二価鉄の形態(Fe II)で存在し、外膜のポーリンを通過してペリプラズム内へと自由に拡散できる。例えば、E.coliでは、細胞質膜内に存在するFeoAB輸送系によって、二価鉄分子が細胞の細胞質内へと輸送される。好気的条件下及び中性pH下では、鉄は、主に不溶性三価鉄の形態(Fe III)で存在するため、受動拡散では外膜ポーリンを通過できない。代わりに、三価鉄に対して高い親和性を有する、シデロフォアと呼ばれる分子が、細菌によって分泌される。三価鉄-シデロフォア複合体は、TonB依存性受容体と総称される外膜内の受容体によって認識される。これらの受容体は、いったんロードされたシデロフォアに結合すると、周辺質内及び細胞質膜内に局在する、TonB及びその関連タンパク質と相互作用するものと考えられている。これらのタンパク質間相互作用は、十分には解明されていないが、外膜を貫通してペリプラズム空間を通して三価鉄-シデロフォア複合体を輸送するのに必要なエネルギーを供給する機能を果たす。細胞質膜内に存在するABC輸送系は、細胞質膜を貫通して鉄-シデロフォア複合体を輸送する機能を果たす。三価鉄がレダクターゼ酵素を介して二価鉄形態に還元されると、この二価鉄が、シデロフォアから解離されて細胞内に放出される。
【0010】
いくつかの種の病原性細菌は、哺乳動物宿主から鉄を獲得する目的で、トランスフェリン、ヘム及び他のヘム含有化合物を直接的に結合するなどの、追加的な機序を用いる。これらの鉄含有分子を結合する受容体タンパク質は、鉄-シデロフォア複合体と同様、外膜を貫通してヘムを輸送するのに必要とされるエネルギーを得るには、TonB複合体に依存するのが最も確実と思われる。この場合、特異的なABCトランスポーターを用いることにより、ヘムが細胞質膜を貫通して輸送される。加えて、いくつかの細菌によって、低分子のヘモフォアが分泌される。このヘモフォアは、ヘムを結合して細菌細胞表面上の受容体に対し提示し得る。また、いくつかの病原性種は、赤血球を溶かす毒素である溶血素を産生し、ヘム及びヘモグロビンを、細菌によって取り込まれるように放出する。
【0011】
動物及び人間において疾患を発症させる全ての病原性細菌をはじめとする細菌類が生存するうえで不可欠な多くの必須栄養素の選択的透過性は、グラム陰性菌の外膜タンパク質によって制御される。こうした栄養素の選択的透過性は、ポーリンと呼ばれる或るクラスの膜タンパク質によって制御される。昨今では、グラム陰性菌の表面上の外膜タンパク質の大部分が、ポーリン類であると考えられるようになり、これらのポーリン類は、一般ポーリン(例、OmpF)、単量体ポーリン(例、OmpA)、特異的ポーリン(例、マルトース特異的ポーリンLamB)、及びTonB依存性ゲート型ポーリン(例、シデロフォア受容体FepA)として同定されている。ポーリンクラスのタンパク質は、概して、外膜へと延在するβバレルを含む、構造的特徴を共有している。
【0012】
微生物が生存するための必須栄養素としての鉄の役目を超越し、細菌の生存、恒常性及び病因において危急的役割を果たす明確に定義された遷移金属は、鉄、マンガン、銅、亜鉛、マグネシウム、コバルト、ニッケルなど、他にも数多く存在する(Waldron and Robinson and 2009;Porcheron;2013)。哺乳類において最も豊富に存在する2価金属イオンを、濃度の降順に挙げれば、鉄、亜鉛、銅の3つである。これらの遷移金属を、高精度に調節された取り込み系または獲得系を介して細菌が利用できれば、病原性細菌類の毒性に多大に寄与する。周知のように、同じ属/種内の細菌が有する遷移金属獲得用の取り込み系がそれぞれ異なり、その原因は、菌株毎に病原性が相違することに起因している。細菌類が、発現した取り込み系に応じて異なる遷移金属を使用する能力がこのように相違することを鑑みれば、或る生物の侵入可能な臓器または組織が具体的に指示され得る。
【0013】
Pasteurella multocidaによる鉄獲得については殆ど未解明であり、その研究はE.coli鉄輸送系が研究されてきた程度には大方匹敵しない。Pasteurellaの鉄調節タンパク質は、これまで調査されてきたように、複数の動物種における種々のワクチン戦略に対する標的抗原として将来性ある免疫原であるとされている。これまでに明らかにされてきたように、これらのタンパク質は相同的な抗原曝露に対しては防御効果を発揮する。ところが、これらのタンパク質が非相同な防御を発揮するための組み合わせについては、研究未踏となっていた。
Glisson et al.(Avian Diseases 37:1074-1079,1993)は、P.multocida株X-73(血清型1)及びP-1059(血清型3)から鉄制限培養条件下でバクテリンを調製することにより、血清型をまたがって交差防御が誘導されるようにすることを試み、低鉄培地中で産生されたバクテリンが、非相同的な抗原曝露に対し一貫して有意な防御を誘発しなかったことを、見出した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】Angen et al.Int.J.Syst.Bacteriol.49:67-86(1999)
【文献】Oystein et al.Int.J.Syst.Bacteriol.49:6-86(1999)
【文献】Rhoades et al.Fowl Cholera.In:Adlam,C.F.及びRutter,J.M.(Eds.),Pasteurella and Pasteurellosis.Academic Press,London,pp.95-113.1989
【文献】Jordan et al.Poultry Diseases.Ballierre Tindall,London,Pp42-50.1990
【文献】Rhoades et al.Avian Dis.31:895-898(1987)
【文献】Wilson et al.J.Clin.Microbiol.31:255-259 1993
【文献】Waldron and Robinson and 2009;Porcheron;2013
【文献】Glisson et al.(Avian Diseases 37:1074-1079,1993)
【発明の概要】
【0015】
我々の観察によると、2つの非相同株(血清型3×4中の1つ、及び血清型1中の1つ)を鉄制限培地中で成長させ、一方の株をワクチン株とし他方の株を抗原曝露株としたワクチン及び抗原曝露モデルを企図したときに、ワクチンと抗原曝露とが異なる血清型であった場合、結果はGlisonと同様(実施例6~9を参照)であった。すなわち、或る程度の保護が観察された。一方、我々が病原性Pasteurella multocidaの野外株どうしを比較した際、とりわけ、これらの株内に存在する金属調節タンパク質のパターンを比較した際に見出されたのが、これらの病原性株の中でも優勢な金属調節タンパク質における2つの主要パターンであった。一方のパターンには2つまたは3つの主要な金属調節タンパク質が含まれ、他方のパターンには4つの別個の金属調節タンパク質が含まれる。これら2つのパターン型の金属調節タンパク質を、2つのP.multocida株(血清型2、5中の1つ、及び血清型3,4中の1つ)から採取し、それらを併用して動物にワクチン接種したときに、我々が観察したのは、P.multocidaの血清型をまたいで非相同な防御が為されたこと、例えば、ワクチンの製造に用いられた2つの株には見られない別の血清型のP.multocidaに対して防御が為されたことであった。この結果は、予想外で、しかも驚愕的なものであった。P.multocida感染症に対する防御を施すワクチンにおいてこの種の非相同防御が観察されていたレポートを我々は一つも知らなかった。
【0016】
組成物類が、本明細書中に提供されている。一実施形態において、組成物は、配列番号2のアミノ酸25~968に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号4のアミノ酸27~790に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号6のアミノ酸23~727に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号8のアミノ酸25~964に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号10のアミノ酸26~848に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号12のアミノ酸27~784に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号14のアミノ酸25~742に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号44のアミノ酸26~805に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、またはそれらの組み合わせを含む。本組成物は、Pasteurella multocidaを用いた抗原曝露に対して、例えば、ニワトリなどの動物を防御するものである。
【0017】
別の実施形態において、或る組成物は、分子量が99kDa、81kDa、及び80kDaであり、鉄キレート剤含有の培地中でインキュベートした場合にはPasteurella multocidaから単離可能である一方、鉄キレート剤不含の培地中で成長させた場合には単離不可能である単離されたタンパク質、分子量が109kDa、89kDa、及び87kDaであり、鉄キレート剤含有の培地中でインキュベートされた場合にP.multocidaから単離可能であり、且つ鉄キレート剤不含の培地中でインキュベートされた場合に前記P.multocidaによって発現し、鉄キレート剤含有の培地中での成長中には発現レベルが増強する単離されたタンパク質を含む。本組成物は、P.multocidaを用いた抗原曝露に対して、例えば、ニワトリなどの動物を防御するものである。
【0018】
一実施形態において、組成物は、配列番号44のアミノ酸26~805に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質を含み、P.multocidaを用いた抗原曝露からニワトリを保護する組成物である。
【0019】
本明細書中に記載されている組成物には、任意に、分子量が249kDa、60kDa、42kDa、38kDa、27kDa、26kDaもしくは22kDaで少なくとも1つの単離されたタンパク質であってP.multocidaから単離可能であるタンパク質を、更に含めてもよい。
【0020】
一実施形態において、或る組成物は、本明細書中に記載されている組成物のタンパク質のうちの少なくとも1種を含む単離された全細胞を含む。本組成物は、Pasteurella multocidaを用いた抗原曝露に対して、例えば、ニワトリなどの動物を防御するものである。一実施形態において、全細胞は、タンパク質のうちの1種以上を発現するように操作された細胞である。一実施形態において、本細胞は、E.coliである。
【0021】
本明細書中に記載されている組成物のタンパク質に特異的に結合する単離された抗体を具備する組成物も、更に提供されている。一実施形態において、本抗体はポリクローナル抗体である。
【0022】
本明細書中に記載されている組成物に、医薬的に許容される担体、アジュバント、またはそれらの組み合わせを、更に含めてもよい。
【0023】
また、方法も提供されている。一実施形態において、或る方法は、本明細書中に記載されている組成物を対象に投与することを含み、この投与量は、本組成物の少なくとも1つのタンパク質に特異的に結合する抗体を産生するように対象を誘導するのに有効な量とされる。一実施形態において、或る方法は、対象における感染症に対する治療を目的としたものであり、本方法は、P.multocidaに起因する感染症を有するかまたはそのリスクに曝されている対象に対し有効量の本明細書に記載の組成物を投与することを含む。一実施形態において、或る方法は、対象における症状を治療することを目的としたものであり、本方法は、P.multocidaに起因する感染症を有するかまたはそのリスクに曝されている対象に対し有効量の本明細書中に記載されている組成物を投与することを含む。一実施形態において、或る方法は、対象におけるコロニー形成を低減させることを目的としたものであり、本方法は、P.multocidaによるコロニー形成を被った対象に対し有効量の本明細書中に記載されている組成物を投与することを含む。一実施形態において、或る方法は、対象における感染症に対する治療を目的としたものであり、本方法は、P.multocidaに起因する感染症を有するかまたはそのリスクに曝されている対象に対し有効量の組成物を投与することを含み、本組成物は、本明細書中に記載されている組成物のタンパク質に特異的に結合する抗体を含む。一実施形態において、或る方法は、対象における症状に対する治療を目的としたものであり、本方法は、P.multocidaに起因する感染症を有するかまたはそのリスクに曝されている対象に対し有効量の組成物を投与することを含み、本組成物は、本明細書中に記載されている組成物のタンパク質に特異的に結合する抗体を含む。一実施形態において、或る方法は、対象におけるコロニー形成を低減させることを目的としたものであり、本方法は、P.multocidaによるコロニー形成を被った対象に対し有効量の組成物を投与することを含み、本組成物は、本明細書中に記載されている組成物のタンパク質に特異的に結合する抗体を含む。
【0024】
一実施形態において、本対象は、ウシなどの哺乳動物、またはチキンもしくはシチメンチョウなどの鳥類であり得る。一実施形態では、少なくとも700マイクログラム(μg)乃至1200μg以下のタンパク質が投与される。
【0025】
また、キットも提供されている。一実施形態において、或るキットは、タンパク質に特異的に結合する抗体を検出することを目的としたものであり、本キットには、(i)請求項1または2に記載の組成物の単離されたタンパク質と、(ii)そのタンパク質と特異的に結合する抗体を検出する試薬とが、別々の容器に収容されている。一実施形態において、或るキットは、タンパク質を検出することを目的としたものであり、(i)本明細書中に記載されている組成物の単離されたタンパク質に特異的に結合する抗体と、そのタンパク質に特異的に結合する第2の試薬と、を具備する。
【0026】
「及び/または」という用語は、列挙された要素のうちの1つもしくは全て、または列挙された要素のうちの任意の2つ以上の組み合わせを意味する。
【0027】
「好ましい」及び「好ましくは」という単語は、或る特定の状況下で或る特定の利益をもたらし得る本発明の実施形態を指す。しかしながら、同じまたは他の状況下では、他の実施形態もまた、好ましいものとなり得る。更になお、1つ以上の好ましい実施形態が列挙されているからといって、他の実施形態が有用ではないことを含意するものではないし、他の実施形態を本発明の範囲から除外することを意図するものでもない。
【0028】
「含む」という用語及びその変形は、これらの用語が明細書中及び特許請求の範囲中に出現する場合には限定的な意味を有さない。
【0029】
本明細書において実施形態が「を含む(include)」、「が挙げられる(includes)」、または「をはじめとする(including)」などの用語を伴って記載されている場合は常に、「からなる」及び/または「から本質的になる」に関して記載された別段の類似の実施形態もまた提供されていることが理解される。
【0030】
別途指定しない限り、「a」、「an」、「the」及び「少なくとも1つ」は同義に用いられ、1つ以上を意味する。
【0031】
また、本明細書において、端点による数値範囲が列挙されている場合は、その範囲内に包含される全ての数が含まれる(例えば、1~5には、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などが含まれる)。
【0032】
本明細書中に開示されている、個別のステップを含む如何なる方法についても、当該のステップを任意の実行可能な順序で実行できる。また、必要に応じて、2つ以上のステップを任意に組み合わせて同時に実行してもよい。
【0033】
本発明の上記概要は、開示されている各実施形態、または本発明の全ての実施態様を説明することを意図したものではない。例証的な実施形態については、下記説明に更に具体的に例示する。本出願全体を通したいくつかの箇所で、実施例のリストを介したガイダンスが用意されており、それらの実施例を様々な組み合わせで使用できる。各実例において、列挙されているリストは、あくまで代表的な群としての役割を果たすものに過ぎず、排他的なリストとして解釈すべきではない。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
配列番号2のアミノ酸25~968に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号4のアミノ酸27~790に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号6のアミノ酸23~727に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号8のアミノ酸25~964に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号10のアミノ酸26~848に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号12のアミノ酸27~784に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号14のアミノ酸25~742に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号44のアミノ酸26~805に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、またはそれらの組み合わせを具備する組成物であって、Pasteurella multocidaを用いた抗原曝露からニワトリを保護する、前記組成物。
(項目2)
配列番号2のアミノ酸25~968に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号4のアミノ酸27~790に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号6のアミノ酸23~727に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号8のアミノ酸25~964に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号10のアミノ酸26~848に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、配列番号12のアミノ酸27~784に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質、及び配列番号14のアミノ酸25~742に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質を含む、項目1に記載の組成物。
(項目3)
分子量が99kDa、81kDa、及び80kDaである単離されたタンパク質であって、前記タンパク質が、鉄キレート剤含有の培地中でインキュベートした場合にはPasteurella multocidaから単離可能である一方、前記鉄キレート剤不含の培地中で成長させた場合には単離不可能である前記タンパク質、
分子量が109kDa、89kDa、及び87kDaである単離されたタンパク質であって、前記タンパク質が、鉄キレート剤含有の培地中でインキュベートされた場合にPasteurella multocidaから単離可能であり、且つ前記タンパク質が、前記鉄キレート剤不含の培地中でインキュベートされた場合に前記P.multocidaによって発現し、鉄キレート剤含有の培地中での成長中には発現レベルが増強する前記タンパク質、Pasteurella multocidaを用いた抗原曝露からニワトリを保護する、前記組成物。
(項目4)
配列番号44のアミノ酸26~805に対して少なくとも80%の類似性を有する単離されたタンパク質を具備する組成物であって、Pasteurella multocidaを用いた抗原曝露からニワトリを保護する、前記組成物。
(項目5)
分子量が249kDa、60kDa、42kDa、38kDa、27kDa、26kDaもしくは22kDaで少なくとも1つの単離されたタンパク質であって、P.multocidaから単離可能である前記タンパク質を更に含む、項目1、3、または4に記載の組成物。
(項目6)
項目1または2に記載の組成物のタンパク質または項目4に記載の組成物のタンパク質のうちの少なくとも1種を含む単離された全細胞を具備する組成物であって、Pasteurella multocidaを用いた抗原曝露からニワトリを保護する、前記組成物。
(項目7)
前記全細胞が、前記タンパク質のうちの1種以上を発現するように操作された細胞である、項目6に記載の組成物。
(項目8)
前記細胞がE.coliである、項目6に記載の組成物。
(項目9)
医薬的に許容される担体を更に含む、項目1、3または4に記載の組成物。
(項目10)
アジュバントを更に含む、項目9に記載の組成物。
(項目11)
前記ニワトリが第1のニワトリであり、前記組成物によって前記第1のニワトリがP.multocida血清型2×5を用いた抗原曝露から保護され、前記組成物によって第2のニワトリがP.multocida血清型3×4を用いた抗原曝露から保護される、項目1、3、または4に記載の組成物。
(項目12)
対象前記組成物の少なくとも1つのタンパク質に特異的に結合する抗体を産生するように前記対象を誘導するのに有効な量の項目1、3または4に記載の組成物を前記対象に投与することを含む方法。
(項目13)
対象における感染症を治療するための方法であって、前記方法が、P.multocidaに起因する感染症を有するかまたはそのリスクに曝されている対象に対し有効量の項目1、3もしくは4に記載の組成物を投与することを含む、前記方法。
(項目14)
対象における症状を治療するための方法であって、前記方法が、P.multocidaに起因する感染症を有するかまたはそのリスクに曝されている対象に対し有効量の1、3もしくは4に記載の組成物を投与することを含む、前記方法。
(項目15)
対象におけるコロニー形成を低減させるための方法であって、前記方法が、P.multocidaによるコロニー形成を被った対象に対し有効量の1、3または4に記載の組成物を投与することを含む、前記方法。
(項目16)
対象における感染症を治療するための方法であって、前記方法が、P.multocidaに起因する感染症を有するかまたはそのリスクに曝されている対象に対し有効量の組成物を投与することを含み、前記組成物が、1、3もしくは4に記載の組成物のタンパク質に特異的に結合する抗体を含む、前記方法。
(項目17)
対象における症状を治療するための方法であって、前記方法が、P.multocidaに起因する感染症を有するかまたはそのリスクに曝されている対象に対し有効量の組成物を投与することを含み、前記組成物が、1、3もしくは4に記載の組成物のタンパク質に特異的に結合する抗体を含む、前記方法。
(項目18)
対象におけるコロニー形成を低減させるための方法であって、前記方法が、P.multocidaによるコロニー形成を被った対象に対し有効量の組成物を投与することを含み、前記組成物が1、3または4に記載の組成物のタンパク質に対し特異的に結合する抗体を含む、前記方法。
(項目19)
前記対象が哺乳動物である、項目12~18のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
前記哺乳動物がウシである、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記対象が鳥類である、項目12~18のいずれか一項に記載の方法。
(項目22)
前記鳥類がニワトリまたはシチメンチョウである、項目21に記載の方法。
(項目23)
少なくとも700マイクログラム(μg)乃至1200μg以下のタンパク質が投与される、項目12~18のいずれか一項に記載の方法。
(項目24)
タンパク質に特異的に結合する抗体を検出するためのキットであって、
項目1、3または4に記載の組成物の単離されたタンパク質と、
前記タンパク質に特異的に結合する抗体を検出する試薬とが、別々の容器に収容されている、前記キット。
(項目25)
タンパク質を検出するためのキットであって、
項目1、3または4に記載の組成物の単離されたタンパク質に特異的に結合する抗体と、タンパク質に特異的に結合する第2の試薬と、
別々の容器に具備する、前記キット。
(項目26)
項目1、3または4に記載の組成物のタンパク質に特異的に結合する単離された抗体を具備する組成物。
(項目27)
前記抗体がポリクローナル抗体である、項目26に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】鉄制限条件下、及び鉄充足条件下で成長する、細菌抽出物のSDS-PAGEゲルである。レーン1及び10は広範囲の分子量マーカーであり、レーン2は鉄制限下のワクチン候補MS061130であり、レーン3は鉄充足条件下でのワクチン候補株である。レーン4は鉄限定条件下での血清型1基準株X-73である。レーン5は鉄充足条件下でのX-73である。レーン6は鉄限定条件下での血清型3基準株P1059である。レーン7は鉄充足条件下でのP1059である。レーン8は鉄制限条件下での参照株P-1662であり、レーン9は鉄分充足条件下でのP-1662である。矩形中に描かれている鉄調節タンパク質どうしの分子量がほぼ同じであることに注目されたい。
【
図2】非相同Pasteurella血清型1を用いた抗原曝露に対抗する単一株から産生された3つのPasteurella multocidaワクチン系列の効力を示す。同じ抗原からなる3つのワクチン系列を、Master Seed MS061130から調製した。注:2つの別々の発酵プロセスを表す2つの抗原調製物を用いて、抗原A及び抗原Bと命名された2つの抗原ロットを調製した。抗原Aと抗原Bの混合物を用いて第1のワクチン系列を調製し、抗原Aのみを用いて第2のワクチン系列を調製し、抗原Bのみを用いて第3のワクチン系列を調製した。
【
図3】血清型A:1及び血清型A:3の基準抗原曝露株内にあることが公知であるタンパク質を、ワクチン株と比較した表である。基準株ゲノムのうちの少なくとも1つに存在し但しワクチン株内には存在しないタンパク質が8つ存在することに注目されたい。
【
図4】ワクチン株(MS061130)が欠落している外膜タンパク質を例証するベン図である。番号は、
図3のタンパク質識別番号と相関する。
【
図5】Pasteurella multocidaの30以上の臨床野外分離株、及び基準株の金属調節タンパク質バンディングパターンの樹状図である。大括弧[]内の4つのバンドパターン、及び中括弧{}内の3つのバンドパターンとして描かれている、2つの主要バンドパターンに注目されたい。他の殆どの株は、これら2つのパターンのバリエーションであるように見える。
【
図6】
図5のパターン型を表す13通りの分離株において発現した38個の鉄調節タンパク質の比較である。(+)はタンパク質が発現したことを示し、(-)はタンパク質が検出可能なレベルでは発現しなかったことを示す。大多数のタンパク質を網羅する2つの潜在的ワクチン標的は、楕円で同定されている。
【
図7】非相同防御を示すニワトリにおいてPasteurella血清型1を用いて抗原曝露された2つのマスターシード株からなるワクチンを用いたワクチンの有効性を示す。
【
図8-1】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図8-2】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図9-1】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図9-2】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図10-1】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図10-2】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図11-1】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図11-2】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図12-1】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図12-2】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図13-1】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図13-2】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図14-1】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図14-2】配列番号2、4、6、8、10、12及び14のアミノ酸配列、ならびに各アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11及び13)の例である。
【
図15-1】配列番号2の配列アラインメント、及び他の4つの配列WP_053521090.1(配列番号15)、1121_HgbA_968aa(配列番号2)、WP_005756141.1(配列番号16)、AAQ14873.1(配列番号17)、WP_061405928.1(配列番号18)である。Haemophilus influenzaeであるWP_053521090.1を除き、全ての配列はP.multocidaである。
【
図15-2】配列番号2の配列アラインメント、及び他の4つの配列WP_053521090.1(配列番号15)、1121_HgbA_968aa(配列番号2)、WP_005756141.1(配列番号16)、AAQ14873.1(配列番号17)、WP_061405928.1(配列番号18)である。Haemophilus influenzaeであるWP_053521090.1を除き、全ての配列はP.multocidaである。
【
図16-1】配列番号4の配列アラインメント、及び他の4つの配列ESQ71136.1(配列番号19)、WP_014391205.1(配列番号20)、WP_016534044.1(配列番号21)、1121_FepA_790aa(配列番号4)、WP_005756883.1(配列番号22)である。全ての配列はP.multocidaである。
【
図16-2】配列番号4の配列アラインメント、及び他の4つの配列ESQ71136.1(配列番号19)、WP_014391205.1(配列番号20)、WP_016534044.1(配列番号21)、1121_FepA_790aa(配列番号4)、WP_005756883.1(配列番号22)である。全ての配列はP.multocidaである。
【
図17-1】配列番号6の配列アラインメント、及び他の4つの配列WP_071522773.1(配列番号23)、WP_016534444.1(配列番号24)、WP_005755819.1(配列番号25)、1121_PfhR_727aa(配列番号6)、EGP05580.1(配列番号26)である。全ての配列はP.multocidaである。
【
図17-2】配列番号6の配列アラインメント、及び他の4つの配列WP_071522773.1(配列番号23)、WP_016534444.1(配列番号24)、WP_005755819.1(配列番号25)、1121_PfhR_727aa(配列番号6)、EGP05580.1(配列番号26)である。全ての配列はP.multocidaである。
【
図18-1】配列番号8の配列アラインメント、及び他の5つの配列1135_PM0300_964aa(配列番号8)、WP_005753642.1(配列番号27)、WP_016534557.1(配列番号28)、WP_010906573.1(配列番号29)、AAQ 14873.1(配列番号30)、1121_HgbA_968aa(配列番号2)である。全ての配列はP.multocidaである。
【
図18-2】配列番号8の配列アラインメント、及び他の5つの配列1135_PM0300_964aa(配列番号8)、WP_005753642.1(配列番号27)、WP_016534557.1(配列番号28)、WP_010906573.1(配列番号29)、AAQ 14873.1(配列番号30)、1121_HgbA_968aa(配列番号2)である。全ての配列はP.multocidaである。
【
図18-3】配列番号8の配列アラインメント、及び他の5つの配列1135_PM0300_964aa(配列番号8)、WP_005753642.1(配列番号27)、WP_016534557.1(配列番号28)、WP_010906573.1(配列番号29)、AAQ 14873.1(配列番号30)、1121_HgbA_968aa(配列番号2)である。全ての配列はP.multocidaである。
【
図19-1】配列番号10の配列アラインメント、及び他の4つの配列WP_017861186.1(配列番号31)、AAU29202.1(配列番号32)、EGP04511.1(配列番号33)、1135_HasR_848aa(配列番号10)、WP_005752163.1(配列番号34)である。全ての配列はP.multocidaである。
【
図19-2】配列番号10の配列アラインメント、及び他の4つの配列WP_017861186.1(配列番号31)、AAU29202.1(配列番号32)、EGP04511.1(配列番号33)、1135_HasR_848aa(配列番号10)、WP_005752163.1(配列番号34)である。全ての配列はP.multocidaである。
【
図20-1】配列番号12の配列アラインメント、及び他の4つの配列WP_005751557.1(配列番号35)、1135_PM0741_784aa(配列番号12)、WP_016534554.1(配列番号36)、WP_064972816.1(配列番号37)、WP_074865020.1(配列番号38)である。全ての配列はP.multocidaである。
【
図20-2】配列番号12の配列アラインメント、及び他の4つの配列WP_005751557.1(配列番号35)、1135_PM0741_784aa(配列番号12)、WP_016534554.1(配列番号36)、WP_064972816.1(配列番号37)、WP_074865020.1(配列番号38)である。全ての配列はP.multocidaである。
【
図21-1】配列番号14の配列アラインメント、及び他の4つの配列WP_050948957.1(配列番号39)、WP_014391043.1(配列番号40)、WP_016533738.1(配列番号41)、1135_P1062_0207600_742aa(配列番号14)、WP_025248456.1(配列番号42)である。Haemophilus influenzaeであるWP_050948957.1を除き、全ての配列はP.multocidaである。
【
図21-2】配列番号14の配列アラインメント、及び他の4つの配列WP_050948957.1(配列番号39)、WP_014391043.1(配列番号40)、WP_016533738.1(配列番号41)、1135_P1062_0207600_742aa(配列番号14)、WP_025248456.1(配列番号42)である。Haemophilus influenzaeであるWP_050948957.1を除き、全ての配列はP.multocidaである。
【
図22-1】配列番号44のアミノ酸配列、及びそのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号43)の例である。配列番号43の最初の78ヌクレオチドは、配列番号44のシグナル配列(アミノ酸1~26)をコードするものと予測される。
【
図22-2】配列番号44のアミノ酸配列、及びそのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(配列番号43)の例である。配列番号43の最初の78ヌクレオチドは、配列番号44のシグナル配列(アミノ酸1~26)をコードするものと予測される。
【
図23】組み換え亜鉛(rZinc)タンパク質をSRP抽出物と比較した、Pasteurella multocidaを用いて抗原曝露されたニワトリの生存率である。その結果から、Pasteurella multocidaのSRP抽出物及びrZincタンパク質の両方の有効性が、非ワクチン接種のプラセボ対照と比較して明らかに認められる。
【
図24】Pasteurella multocida組み換え亜鉛獲得タンパク質の封入体調製物を示す、ゲル画像である。レーン1は未誘導全細胞であり、レーン2は誘導全細胞であり、レーン3は溶解細胞上清であり、レーン4は1×Bugbusterウォッシュであり、レーン 5は1/10×Bugbusterウォッシュであり、レーン6はTBWウォッシュであり、レーン7は可溶化封入体であり、レーン8は分子量90.85kDaの組み換えタンパク質を示す可溶化後ペレットである。
【
図25】Mannheimia haemolytica(ZAP、配列番号45)由来の亜鉛獲得タンパク質の亜鉛親和性領域の配列アライメント、及びその他10個の呼吸器病原体AHG81836.1(配列番号46)、WP_005612269.1(配列番号47),WP_027074597.1(配列番号48)、AHG73391.1(配列番号49)、WP_021114857.1(配列番号50)、WP_026212957.1(配列番号51)、WP_028858792.1(配列番号52)、WP_016534590.1(配列番号53)、KDN24548.1(配列番号54)、及びWP_027021676.1(配列番号55)である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(発明の詳細な説明)
タンパク質
一態様において、本開示には、タンパク質、及びタンパク質を具備する組成物が提供されている。本明細書中に用いられている「タンパク質」とは、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸のポリマーを指す。それゆえ、例えば、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、及び酵素という用語は、タンパク質の定義範囲内に包含される。また、この用語には、例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化などのような、タンパク質に対する1つ以上の発現後修飾を含み得るタンパク質も包含される。タンパク質という用語は、アミノ酸のポリマーの特定の長さは含意しない。タンパク質は、天然の供給源から直接的に単離可能な場合もあれば、または組み換え技法、酵素技法もしくは化学的技法を利用して調製される場合もある。天然に存在するタンパク質の事例において、そのようなタンパク質は単離されるのがごく一般的である。
【0036】
「単離された」タンパク質は、その自然環境から除去されたものである。例えば、単離されたタンパク質とは、細胞質からまたは細胞膜から除去されていて、その自然環境のタンパク質、核酸、及び他の細胞材料の多くがもはや存在していないタンパク質を言う。
【0037】
特定の供給源から「単離可能」として特徴付けられるタンパク質とは、適切な条件下で、同定された供給源によって産生されるタンパク質で、但し、例えば従来の組み換え技法、化学技法、または酵素技法を用いて代替供給源から得ることが可能なタンパク質である。それゆえ、タンパク質を特定の供給源から「単離可能」なものとして特徴付けたからといって、そのタンパク質を採取すべき特定の供給源を示唆するわけではないし、またはそのタンパク質を採取すべき特定の条件もしくはプロセスを示唆するわけでもない。
【0038】
「精製」タンパク質とは、天然に会合している他の成分を少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも90%含まないタンパク質を言う。天然に存在する生物体の外部において、例えば化学的手段または組み換え手段により産生されるタンパク質は、自然の環境内には存在していなかったことから、定義上、単離及び精製されたものであると見なされる。
【0039】
概して、タンパク質は、分子量、アミノ酸配列、質量指紋、そのタンパク質をコードする核酸、免疫学的活性、またはそのような2つ以上の特徴の任意の組み合わせにより特徴付けることができる。タンパク質の分子量は、典型的にはキロダルトン(kDa)で表され、例えば、ゲル濾過、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)を含むゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、質量スペクトロメトリー、液体クロマトグラフィー(HPLCなど)をはじめとする常法を用い、観察または予測されたアミノ酸配列から分子量を計算することによって、算定することが可能である。分子量に言及した場合、別途指示されていない限り、還元条件及び変性条件下で、約4%の濃縮用ゲル及び約10%の分離用ゲル含有のSDSポリアクリルアミドゲルを用いてタンパク質を分離することによって算定される分子量を指す。一実施形態において、SDS-PAGEにより同定されたタンパク質の分子量には、規定された値の上下1kDa、2kDa、3kDa、4kDa、または5kDaの分子量が包含される。
【0040】
本明細書に記載のタンパク質は、金属調節されたものであり得る。本明細書中に用いられている「金属調節タンパク質」とは、微生物により発現するタンパク質において、微生物を低金属条件下で成長させた場合の方が、同じ微生物を高金属条件下で成長させた場合と比べて発現レベルが増強されるタンパク質を言う。低金属条件及び高金属条件は、本明細書中に記載されている。例えば、P.multocidaによって産生される金属調節タンパク質によっては、高金属条件下では微生物の成長中に検出可能なレベルにて発現しない反面、低金属条件下では成長中に検出可能なレベルにて発現するものもある。一実施形態では、金属調節タンパク質を、シデロフォア受容体タンパク質とする場合もある。低鉄条件において成長した後のP.multocidaから単離可能な金属調節タンパク質の例としては、分子量が104kDa~75kDaである金属調節タンパク質が挙げられる。低鉄条件において成長した後のP.multocidaから単離可能な金属調節タンパク質の具体例としては、還元条件及び変性条件下で、約4%濃縮用ゲル及び約10%分離用ゲルを含有するSDSポリアクリルアミドゲルを使用してタンパク質を分離することによって算定された99kDa、81kDa、及び80kDaのタンパク質が挙げられる。一実施形態において、低鉄条件とは、2,2’-ジピリジルの存在下で成長させることを言う。分子量が99kDa、81kDa、及び80kDaである鉄調節タンパク質の例、ならびにこれらのタンパク質をコードするヌクレオチド配列の例を、それぞれ
図10、
図14、及び
図6に示す。低亜鉛条件下での成長後にP.multocidaから単離可能な金属調節タンパク質の具体例には、還元条件及び変性条件下で、約4%濃縮用ゲル及び約10%分離用ゲルを含有するSDSポリアクリルアミドゲルを使用してタンパク質を分離することによって算定された91kDaのタンパク質が挙げられる。一実施形態において、低亜鉛条件とは、Ν,Ν,Ν’,Ν’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)(Sigma-Aldrich,St.Louis MO)の存在下で成長させることを言う。分子量が91kDaである亜鉛調節タンパク質、及びそのタンパク質をコードするヌクレオチド配列の例を、
図22に示す。
【0041】
本明細書中に記載されているタンパク質は、高金属条件下では微生物の成長中における発現レベルが検出可能レベルの場合がある一方、低金属条件下では成長中における発現レベルが増強される場合もある。そのようなタンパク質の発現を、本明細書中では、低金属条件における成長中に「増強された」と呼んでいる。典型的に、低金属条件下で成長中のタンパク質の発現の増加率は、高金属条件下で成長中のタンパク質の発現と比較して50%~500%である。
【0042】
低鉄条件で成長した後に、発現が増強し且つP.multocidaから単離可能となった金属調節タンパク質の例としては、分子量が114kDa~82kDaの金属調節タンパク質が挙げられる。低鉄条件での成長後にP.multocidaから単離可能な金属調節タンパク質の具体例としては、還元条件及び変性条件下で、約4%濃縮用ゲル及び約10%分離用ゲルを含有するSDSポリアクリルアミドゲルを使用してタンパク質を分離することによって算定された109kDa、89kDa、及び87kDaのタンパク質が挙げられる。分子量が109kDaであるタンパク質、及びそれらをコードするヌクレオチド配列の例を、
図8及び
図11に示す。分子量が89kDa及び87kDaであるタンパク質、ならびにそれらのタンパク質をコードするヌクレオチド配列の例を、それぞれ
図13及び
図9に示す。
【0043】
また、本開示には、金属調節されていない特定のタンパク質に関しても記載されている。そのようなタンパク質は、例えば塩化鉄の存在下などの、金属イオンの存在下にて発現するだけでなく、低鉄条件において成長させた場合にも発現する。この種のタンパク質のうち、P.multocidaから単離可能なものの例には、分子量が254kDa~244kDa、65kDa~55kDa、及び47kDa~17kDaのタンパク質が挙げられる。この種のタンパク質の分子量の例としては、249kDa、60kDa、42kDa、38kDa、27kDa、26kDa、及び22kDaが挙げられる。タンパク質の更なる例としては、組み換え産生バージョンの、本明細書に記載のタンパク質が挙げられる。組み換え産生タンパク質には、mRNA転写物から翻訳可能な全アミノ酸配列が含まれる場合がある。代替的に、組み換え産生タンパク質には、翻訳可能なアミノ酸配列全体のフラグメントが含まれる場合がある。例えば、組み換え産生タンパク質は、タンパク質のいずれかの末端において開裂性配列(例えば、タンパク質のアミノ末端において開裂性シグナル配列)を欠く場合がある。
【0044】
一実施形態において、タンパク質は、野生型細胞から得られたコード配列によってコードされるタンパク質のアミノ末端からの1以上のアミノ酸を欠く。例えば、タンパク質はシグナル配列を欠いている。それゆえフラグメントは、タンパク質のアミノ末端からの少なくとも1アミノ酸、少なくとも2アミノ酸、少なくとも3アミノ酸、少なくとも4アミノ酸、少なくとも5アミノ酸、少なくとも6アミノ酸、少なくとも7アミノ酸、少なくとも8アミノ酸、少なくとも9アミノ酸、少なくとも10アミノ酸、少なくとも11アミノ酸、少なくとも12アミノ酸、少なくとも13アミノ酸、少なくとも14アミノ酸、少なくとも15アミノ酸、少なくとも16アミノ酸、少なくとも17アミノ酸、少なくとも18アミノ酸、少なくとも19アミノ酸、少なくとも20アミノ酸、少なくとも21アミノ酸、少なくとも22アミノ酸、少なくとも23アミノ酸、少なくとも24アミノ酸、少なくとも25アミノ酸、少なくとも26アミノ酸、少なくとも27アミノ酸、少なくとも28アミノ酸、少なくとも29アミノ酸、少なくとも30アミノ酸、少なくとも31アミノ酸、少なくとも32アミノ酸、少なくとも33アミノ酸、少なくとも34アミノ酸、少なくとも35アミノ酸、少なくとも36アミノ酸、少なくとも37アミノ酸、少なくとも38アミノ酸、少なくとも39アミノ酸、少なくとも40アミノ酸、少なくとも41アミノ酸、少なくとも42アミノ酸、少なくとも43アミノ酸、少なくとも44アミノ酸、少なくとも45アミノ酸、少なくとも46アミノ酸、少なくとも47アミノ酸、少なくとも48アミノ酸、少なくとも49アミノ酸、少なくとも50アミノ酸、少なくとも51アミノ酸、少なくとも52アミノ酸、少なくとも53アミノ酸、少なくとも54アミノ酸、少なくとも55アミノ酸、少なくとも56アミノ酸、少なくとも57アミノ酸、少なくとも58アミノ酸、少なくとも59アミノ酸、少なくとも60アミノ酸、少なくとも61アミノ酸、少なくとも62アミノ酸、または少なくとも63アミノ酸を欠く可能性がある。一実施形態において、配列番号2に示されるタンパク質のフラグメントはアミノ酸1~24を含まない。一実施形態において、配列番号4に示されるタンパク質のフラグメントはアミノ酸1~26を含まない。一実施形態において、配列番号6に示されるタンパク質のフラグメントはアミノ酸1~22を含まない。一実施形態において、配列番号8に示されるタンパク質のフラグメントはアミノ酸1~24を含まない。一実施形態において、配列番号10に示されるタンパク質のフラグメントはアミノ酸1~25を含まない。一実施形態において、配列番号12に示されるタンパク質のフラグメントはアミノ酸1~26を含まない。一実施形態において、配列番号14に示されるタンパク質のフラグメントはアミノ酸1~24を含まない。一実施形態において、配列番号44に示されるタンパク質のフラグメントはアミノ酸1~26を含まない。
【0045】
タンパク質が金属調節タンパク質、増強タンパク質または非金属調節タンパク質のいずれに該当するかは、タンパク質の存在を比較するうえで有用な方法により判別できる。それらの方法としては、例えば、ゲル濾過、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を含むゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、質量スペクトロメトリー、相対及び絶対定量用の同重体タグ(iTRAQ)、ならびにHPLCを含めた液体クロマトグラフィーが挙げられる。微生物の別々の培養物を、高金属条件下及び低金属条件下で成長させる場合もあれば、タンパク質を本明細書に記載のようにして単離させる場合もあれば、各培養物中に存在するタンパク質を分離及び比較する場合もある。各培養物からのタンパク質を等量ずつ使用するのが、ごく一般的である。一実施形態では、還元条件及び変性条件下で、約4%の濃縮用ゲル及び約10%の分離用ゲル含有のSDSポリアクリルアミドゲルを用いてタンパク質を分離させる場合もある。例えば、各培養物からの全タンパク質30μgを用いて、ゲルのウェルに充填してもよいし、ゲルを泳動させ、タンパク質をクマシーブリリアントブルーで染色した後、2つのレーンを比較してもよい。タンパク質が検出可能なレベルで発現するか否かを判別する際は、培養物からの全タンパク質30μgを、SDS-PAGEゲル上で分離させてから、当該技術分野において公知の方法を用いてクマシーブリリアントブルーで染色する。目視で明視化できるタンパク質は検出可能なレベルで発現するものと考えられ、一方、目視で明視化できないタンパク質は検出可能なレベルでは発現しないものと考えられる。
【0046】
代替的に、タンパク質が金属調節タンパク質であるかそれとも非金属調節タンパク質であるかを、マイクロアレイに基づく遺伝子発現分析を用いて判別する場合もある。微生物の別々の培養物を、高金属条件下及び低金属条件下で成長させてもよいし、RNAは各培養物の細胞から抽出してもよいし、高金属条件下で成長させた細胞内でのRNA発現と低金属条件で成長させた細胞内でのRNA発現との相違を検出し比較してもよい。例えば、確立済みのプロトコールを用い、8~10μgの細菌RNAから標識cDNAを調製してもよいし、標識cDNAを、微生物のゲノムのマイクロアレイに適用してもよい。そのようなマイクロアレイは市販のものが出回っていて、そのようなアレイを用いて遺伝子発現を評価することは通常である。
【0047】
本明細書中に記載されているタンパク質は、免疫学的活性を有し得る。「免疫学的活性」とは、動物においてタンパク質が免疫学的応答を誘発させる能力を指す。タンパク質に対する免疫学的応答とは、動物においてタンパク質に対する細胞性の免疫応答及び/または抗体媒介性の免疫応答が発生することを言う。通常、免疫学的応答としては、限定されるものではないが、以下の効果:タンパク質のエピトープ(単数または複数)に対する、抗体、B細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、及び/または細胞傷害性T細胞を産生することのうちの、1つ以上が挙げられる。「エピトープ」とは、特定のB細胞及び/またはT細胞が抗体産生を目的に応答を向ける、抗原上の部位を指す。免疫学的活性は、防御的であり得る。「免疫学的活性」とは、動物においてタンパク質が、P.multocidaによる感染を阻害または制限するための免疫学的応答を誘発させる能力を指す。タンパク質が防御的免疫学的活性を有するかどうかは、例えば、実施例6~9及び実施例15~16に記載の方法などの、当該技術分野において公知の方法により判別できる。タンパク質は血清反応活性を有し得る。本明細書中に用いられている「血清反応活性」とは、候補タンパク質が、P.multocidaに感染した動物由来の回復期血清中に存在する抗体に反応する能力を指す。
【0048】
本明細書に記載のタンパク質は、基準タンパク質の特徴を有し得る。その特徴としては、例えば、分子量、質量指紋、アミノ酸配列、またはそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。一実施形態において、タンパク質は微生物から得られる場合がある。微生物は、本明細書に記載の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、または9つのタンパク質を発現し得る。基準タンパク質は、グラム陰性菌、好ましくはPasteurellaceae科のメンバー(Pasteurella属、Mannheimia属、またはHaemophilus属など)から単離させることが可能である。Pasteurella Mannheimia属及びHaemophilus属のメンバーは、本明細書においてそれぞれPasteurella spp.、Mannheimia spp.及びHaemophilus spp.とも呼ばれている。一実施形態において、基準タンパク質はP.multocidaによって発現する。一実施形態において、P.multocidaは血清型2、5または血清型3、4であり得る。
【0049】
本明細書において、タンパク質のアミノ酸配列が基準タンパク質と比較して指定量の配列類似性及び/または配列同一性を有する場合、タンパク質は基準タンパク質と「構造的に類似」であり得る。また、基準タンパク質の同等の質量指紋と比較して指定量の同一性を有する質量指紋を呈する場合も、タンパク質は基準タンパク質と「構造的に類似」であり得る。それゆえ、タンパク質は、基準タンパク質と比較して、十分なレベルのアミノ酸配列同一性、アミノ酸配列類似性、またはそれらの組み合わせを有する場合、基準タンパク質と「構造的に類似」であり得る。一実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、以下に記載するように、構造的にアミノ酸25~968配列番号2、アミノ酸27~790配列番号4、アミノ酸23~727配列番号6、アミノ酸25~964配列番号8、アミノ酸26~848配列番号10、アミノ酸27~784配列番号12、アミノ酸25~742配列番号14、またはアミノ酸26~805配列番号44に類似のアミノ酸配列を有する可能性がある。
【0050】
タンパク質配列の類似性、及びタンパク質配列の同一性
2つのタンパク質の構造的類似性は、それらの配列の長さに沿って同一アミノ酸の数を最適化するために2つのタンパク質の残基(例えば、本明細書に記載の候補タンパク質及び任意の適切な参照タンパク質)を整列させて、同一アミノ酸の数をそれらの配列の長さに沿って最適化することによって算定できる。同一アミノ酸の数を最適化する目的で整列を行う際に、いずれか一方または両方の配列におけるギャップが許容されるが、にもかかわらず、各配列中のアミノ酸はそれらの適切な順序を維持していなければならない。基準タンパク質は、適宜に、本明細書に記載のタンパク質、または任意の公知の金属調節タンパク質であり得る。基準タンパク質の例としては、限定されるものではないが、アミノ酸25~968配列番号2、アミノ酸27~790配列番号4、アミノ酸23~727配列番号6、アミノ酸25~964配列番号8、アミノ酸26~848配列番号10、アミノ酸27~784配列番号12、アミノ酸25~742配列番号14、及びアミノ酸26~805配列番号44が挙げられる。候補タンパク質とは、基準タンパク質と比較されるタンパク質である。候補タンパク質は、例えば、微生物から単離される場合もあれば、あるいは組み換え技法を使用して製造される場合もあれば、あるいは化学的または酵素的に合成される場合もある。
【0051】
本明細書中に別途に記載されているような修正がない限り、GCGパッケージのBESTFITアルゴリズムを使用して、アミノ酸配列のペアワイズ比較分析を遂行できる(バージョン10.2,Madison WI)。代替的に、Tatiana et al(FEMS Microbiol Lett,174:247-250(1999))に記載のBLAST 2検索アルゴリズムのBlastpプログラムを使用してタンパク質を比較してもよい。このBlastpプログラムは、NCBI(National Center for Biotechnology Information)ウェブサイトで入手可能である。全てのBLAST2検索パラメータのデフォルト値(例えば、マトリックス=BLOSUM62;オープンギャップペナルティ=11、エクステンションギャップペナルティ=1、ギャップ×ドロップオフ=50、期待値=10、ワードサイズ=3、及びフィルターオン)を使用できる。
【0052】
2つのアミノ酸配列の比較において、構造的類似性は、「同一性(%)」と呼ばれる場合もあれば、または「類似性(%)」と呼ばれる場合もある。「同一性」とは、同一アミノ酸の存在を指す。「類似性」とは、同一アミノ酸の存在だけでなく、保存的置換の存在をも指す。タンパク質中のアミノ酸に対する保存的置換は、そのアミノ酸が属するクラスの他のメンバーから選択できる。例えば、タンパク質生化学の分野では、特に活性とは直接的に関連しないタンパク質の領域においてタンパク質の活性を改変させることなしに、特定のサイズまたは特徴(電荷、疎水性もしくは親水性など)を有するアミノ酸のグループに属するアミノ酸を別のアミノ酸で置換できることは、周知となっている。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンが挙げられる。極性中性アミノ酸としては、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンが挙げられる。正に帯電した(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リジン及びヒスチジンが挙げられる。負に荷電した(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。保存的置換としては、例えば、LysをArgで置換及びその逆の置換によって正電荷を維持すること、GluをAspで置換及びその逆の置換によって負電荷を維持すること、SerをThrで置換して遊離OHが維持すること、ならびにGlnをAsnで置換して遊離NH2を維持することが挙げられる。同様に、例えばタンパク質の免疫学的活性のような機能的活性を排除しない、1つ以上の隣接または非隣接アミノ酸の欠失または付加を含むタンパク質の生物学的に活性な類似体もまた、意図される。
【0053】
それゆえ、本明細書中に記載されるようなタンパク質及び/または1つ以上の配列ID番号のアミノ酸配列は、本明細書中に用いられている場合、基準アミノ酸配列に対して少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%)、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列類似性を有するタンパク質が含まれる場合がある。
【0054】
代替的に、本明細書中に記載されるようなタンパク質及び/または1つ以上の配列ID番号のアミノ酸配列は、本明細書中に用いられている場合、基準アミノ酸配列に対して少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列類似性を有するタンパク質が含まれる場合がある。
【0055】
図15~
図21に、配列番号2、4、6、8、10、12、及び14に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質に対するClustal Omegaアライメントを示す。このアラインメントは、種々のP.multocida株にわたって、及び
図15及び21に関してはHaemophilus influenzaeにわたって各タンパク質の変異体内にアミノ酸が保存されていることを示す。
図15~
図21中、アスタリスク(*)は、完全に保存された単一残基を有する位置を示す。コロン(:)は、Gonnet PAM 250マトリックスにおいてスコアを0.5超とした場合とほぼ同等な強く類似した特性のグループ間の保存を示す。ピリオド(.)は、Gonnet PAM 250マトリックスでスコアリングが0より大きく且つ0.5以下であるとほぼ同等である、弱く類似した特性のグループ間の保存を示す。当業者であれば、活性(免疫学的活性、防御的免疫学的活性、または修飾タンパク質の血清学的活性)に過度に影響を及ぼすことなしに、置換(特に保存的置換)が許容され得ることを、タンパク質のそのようなデータ領域から推測することができる。
【0056】
前述の理由により、本明細書に記載のタンパク質としては、例えばタンパク質が最初に単離/または同定された微生物種もしくは株以外の微生物種もしくは株に由来する(生物学的及び/または組み換え的に)相同タンパク質をはじめとする特定の変異体を挙げることができる。
【0057】
また、本明細書中に記載されるタンパク質を、例えば、付加されたC末端アミノ酸及び/またはN末端アミノ酸に対しコード配列を付加するといったように、更に1つ以上の配列が提供されるように設計することにより、抗体をカラム上に捕捉するかあるいは抗体を使用して、精製を容易にすることが可能である。そのようなタグとしては、例えばヒスチジンリッチタグが挙げられ、このタグは、ニッケルカラム上でタンパク質の精製を可能にする。そのような遺伝子改変技法及び好適な更なる配列は、分子生物学分野において周知である。また、本明細書に記載のタンパク質は、C末端及び/またはN末端の或るアミノ酸が欠失されるように設計してもよい。
【0058】
本明細書に記載のタンパク質に「修飾」を含めてもよい。修飾とは、1つ以上の構成アミノ酸における化学的または酵素的誘導体化を指す。そのような修飾としては、例えば、側鎖修飾、主鎖修飾、N末端修飾、及び/またはC末端修飾、例えばアセチル化、ヒドロキシル化、メチル化、アミド化、炭水化物及び/または脂質部分、補因子など、ならびにそれらの組み合わせの付着を挙げることができる。本明細書に記載の修飾タンパク質は、未修飾タンパク質の生物学的活性(例えば、免疫学的活性など)を保持する場合もあれば、または未修飾タンパク質と比較して生物学的活性の低下もしくは上昇が見られる場合もある。
【0059】
本明細書に記載のタンパク質(その生物学的に活性な類似体及び/またはその修飾体を含む)としては、天然(天然に存在する)タンパク質、組み換えタンパク質、化学合成タンパク質もしくは酵素合成タンパク質を挙げることができる。例えば、本明細書中に記載されるタンパク質は、天然の供給源からタンパク質を単離することによって調製される場合もあれば、または、例えば細菌もしくは他の宿主細胞内の融合タンパク質として調製することを含む従来の方法によって組み換え的に調製される場合もある。
【0060】
ポリヌクレオチド配列の類似性、及びポリヌクレオチド配列の同一性
本明細書中に記載されているようなタンパク質はまた、そのタンパク質をコードするポリヌクレオチドという点で同定可能である。それゆえ、本開示は、本明細書に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド、あるいは標準的なハイブリダイゼーション条件下で、本明細書に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド、及びそのようなポリヌクレオチド配列の相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドを提供する。
【0061】
本明細書中に記載されるようなポリヌクレオチド及び/または1つ以上の配列番号1、3、5、7、9、11、13もしくは43またはそのフラグメントの核酸配列は、本明細書中に用いられている場合、同定された基準ポリヌクレオチド配列に対して少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%)、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するポリヌクレオチドが含まれる場合がある。
【0062】
これに関連して、「配列同一性」とは、2つのポリヌクレオチド配列間の同一性を指す。配列同一性は概して、2つのポリヌクレオチドの塩基(例えば、候補配列のヌクレオチド配列と、例えば、配列番号1、3、5、7、9、11、13もしくは43またはそれらのフラグメントなどの本明細書中に開示されているヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列)を整列させて、同一ヌクレオチドの数をそれらの配列の長さに沿って最適化することによって算定される。共有ヌクレオチドの数を最適化する目的で整列を行う際に、いずれか一方または両方の配列におけるギャップが許容されるが、にもかかわらず、各配列中のアミノ酸はそれらの適切な順序を維持していなければならない。候補配列は、既知の配列(本明細書に記載のヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列、例えば配列番号1、3、5、7、9、11、13もしくは43など、またはそのフラグメント)と比較される配列である。例えば、Tatusova et al.,174:247-250(1999)に記載されているように、BLAST 2検索アルゴリズムのBlastnプログラムを使用して2つのポリヌクレオチド配列を比較することができ、このBlastnプログラムは、ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/のワールドワイドウェブサイト上で入手可能である。全てのBLAST2検索パラメータのデフォルト値(例えば、一致に対する加点=1、不一致に対する減点=-2、オープンギャップ減点=5、エクステンションギャップペナルティ=2、ギャップ×ドロップオフ=50、期待値=10、ワードサイズ=11、及びフィルターオン)を使用できる。
【0063】
最後に、本明細書に記載のポリヌクレオチドには、本明細書に記載のタンパク質をコードする任意のポリヌクレオチドが含まれる場合がある。それゆえ、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、ポリヌクレオチドによってコードされるべきアミノ酸配列から推定することが可能である。
【0064】
本開示は、微生物の全細胞調製物も提供する。一実施形態において、調製物は、本明細書に記載のタンパク質を発現するように操作された微生物を含む。例えば、配列番号2、4、6、8、10、12、14もしくは44と構造的類似性を有するタンパク質、もしくはそれらのフラグメント、またはそれら8つのタンパク質の任意の副組み合わせを発現するように、微生物を操作してもよい。微生物は、グラム陰性菌またはグラム陽性菌を含む、遺伝子操作に適した任意の微生物細胞であり得る。グラム陰性菌の例としては、限定されるものではないが、E.coli、Salmonella spp.、及びP.multocidaのようなPasteurella spp.が挙げられる。
【0065】
一実施形態において、調製物は、微生物の2つ以上の母集団を含む。各母集団は、配列番号2、4、6、8、10、12及び14の全て、またはそれらのフラグメントを発現していない。寧ろ、各個体群は7つのタンパク質のサブセットを発現し、2つ以上の母集団は、全体として考えると7つのタンパク質を発現する。例えば、一実施形態では、微生物の1つの母集団は配列番号2、4及び6を発現し、微生物の第2の母集団は配列番号8、10、12及び14、またはそのフラグメントを発現する。母集団は、野生型微生物、または操作された微生物であり得る。調製物は、1つ以上の野生型微生物、1つ以上の操作された微生物、または野生型微生物と操作された微生物との組み合わせが含まれる場合がある。野生型細胞の例としては、P.multocidaなどのPasteurella属のメンバーが挙げられる。一実施形態において、細胞は弱毒化されたP.multocidaである。我々が判断したように、特定の種のPasteurella株を全細胞として投与することによって、個々の株を別々に投与した結果とは異なる免疫学的性質が得られることが予期される。異なる免疫学的特性には、動物に投与されたP.multocida細胞とは異なる血清型を有するP.multocida株に対して防御する能力が含まれる。一実施形態において、ある全細胞はP.multocida血清型2、5であり、第2の全細胞はP.multocida血清型3,4であり、一方は7つのタンパク質のうちの3つを発現し、他方は7つのタンパク質のうち4つを発現する。一実施形態において、微生物の母集団のうちの1つ以上は、配列番号44またはそのフラグメントを発現できる。
【0066】
全細胞調製物中に存在する細胞は、細胞が複製できないように不活性化できるが、微生物によって発現される本明細書に記載のタンパク質の免疫学的活性は維持される。典型的には、細胞は、グルタルアルデヒド、ホルマリン、またはホルムアルデヒドなどの薬剤に曝すことによって殺滅させることができる。
【0067】
組成物
組成物は、本明細書に記載の単離された1つのタンパク質、本明細書に記載の少なくとも2つの単離されたタンパク質、または2を超える整数(例えば、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、少なくとも15個、少なくとも16個、少なくとも17個、少なくとも18個、少なくとも19個もしくは少なくとも20個など)であるいくつかのタンパク質が含まれる場合がある。一実施形態において、本明細書に記載の1つのタンパク質を含む組成物は、配列番号44と同一であるか、または構造的類似性を有するタンパク質もしくはそのフラグメントを含む。特定のレベルの配列類似性及び/または同一性が本明細書に明示的に指示されていない限り(例えば、少なくとも80%の配列類似性、少なくとも90%の配列同一性など)、同定された配列ID番号のアミノ酸配列に言及した場合、本明細書中の「タンパク質配列類似性及びタンパク質配列同一性」の節に記載される配列類似性のレベル、及び/または配列同一性のレベルを有する変異体を含む。
【0068】
ベクターが適切な宿主細胞内に導入されたときに、タンパク質の発現を可能にするベクターから、組み換え産生タンパク質を発現させることができる。宿主細胞は、本明細書に記載の1つ以上の組み換え産生タンパク質を産生するように構築することが可能であり、そうすることで、本明細書に記載のタンパク質をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む1つ以上のベクターを含めることができる。それゆえ、本明細書に記載の1つ以上のポリヌクレオチド、すなわち本明細書に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、各ベクターに含めてもよい。P.multocidaなどの微生物に対する遺伝子操作の方法は、当該技術分野において公知の常法である。
【0069】
或る組成物、例えば、組み換え産生タンパク質を含むものなどには、最大数のタンパク質が含まれる場合がある。いくつかの実施形態において、タンパク質の最大数は、タンパク質の最大総数を指し得る。特定の組成物は、例えば、50個以下のタンパク質(例えば、40個以下のタンパク質、30個以下のタンパク質、25個以下のタンパク質、20個以下のタンパク質、17個以下のタンパク質、16個以下のタンパク質、15個以下のタンパク質、14個以下のタンパク質、13個以下のタンパク質、12個以下のタンパク質、11個以下のタンパク質、10個以下のタンパク質、9個以下のタンパク質、8個以下のタンパク質、7個以下のタンパク質、6個以下のタンパク質、5個以下のタンパク質、4個以下のタンパク質、3個以下のタンパク質、2個のタンパク質、または1個以下のタンパク質など)が含まれる場合がある。他の実施形態では、類似の方法で、最大数の組み換え産生タンパク質を特定する場合がある。更に他の実施形態では、類似の方法で、最大数の非組み換え産生タンパク質を特定する場合がある。
【0070】
一実施形態では、微生物が、本明細書中に記載されるタンパク質と同一であるタンパク質または構造的類似性を有する1つ以上のタンパク質を発現するように操作されている場合、組成物は、1つの微生物から単離可能なタンパク質が含まれる場合がある。一実施形態において、微生物は、配列番号2、4、6、8、10、12、14及び44のうちの1つ以上もしくはそれらのフラグメントと同一であるタンパク質、または構造的類似性を有するタンパク質を発現するように操作されている。一実施形態において、微生物は、配列番号44もしくはそのフラグメントと同一であるタンパク質、または構造的類似性を有するタンパク質を発現する。一実施形態において、組成物には、2つ以上の微生物から単離可能なタンパク質が含まれる場合がある。例えば、組成物には、2つ以上の野生型P.multocidaから単離可能なタンパク質が含まれる場合がある。
【0071】
特定の実施形態において、組成物には、全細胞の調製物が含まれる場合がある。一実施形態において、調製物は、本明細書中に記載されるタンパク質と同一であるタンパク質または構造的類似性を有する1つ以上のタンパク質を発現するように操作された、全細胞である。一実施形態において、微生物は、配列番号2、4、6、8、10、12及び14もしくはそれらのフラグメントと同一であるタンパク質、または構造的類似性を有するタンパク質を発現するように操作されている。一実施形態において、微生物は、配列番号2、4、6、8、10、12、14及び44もしくはそれらのフラグメントと同一であるタンパク質、または構造的類似性を有するタンパク質を発現するように操作されている。一実施形態において、微生物は、配列番号44もしくはそのフラグメントと同一であるタンパク質、または構造的類似性を有するタンパク質を発現する。一実施形態において、調製物は、各集団がタンパク質のサブセット、例えば7つのタンパク質(配列番号2、4、6、8、10、12及び14もしくはそれらのフラグメントと同一または構造的類似性を有するタンパク質)、または8つのタンパク質
(配列番号2、4、6、8、10、12、14及び44もしくはそれらのフラグメントと同一または構造的類似性を有するタンパク質)を発現する2以上の微生物集団であり、且つ2つ以上の母集団は、全体として考えると7つのタンパク質を発現する。これらの実施形態のいくつかにおいて、全細胞は、野生型P.multocidaのようなP.multocidaであり得る。いくつかの実施形態において、組成物には、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つの株からの全細胞調製物が含まれる場合がある。
【0072】
組成物の具体例としては、これらに限定されるものではないが、下記のものが挙げられる。一実施形態において、組成物は、金属規制タンパク質と強化タンパク質とが含まれている。金属調節タンパク質は、低鉄条件において成長した後にP.multocidaから単離可能であり、その分子量は、104kDa~75kDa(例えば99kDa、81kDa及び80kDa)である。タンパク質は、配列番号6、10もしくは14のフラグメントである場合もあれば、またはそのフラグメントに対し構造的類似性を有する場合もある。強化タンパク質は、低鉄条件において成長した後にP.multocidaから単離可能であり、その分子量は、156kDa~146kDa(例えば151kDa)、114kDa~82kDa(例えば109kDa、89kDa及び87kDa)である。タンパク質は、配列番号2、4、8、または12のフラグメントである場合もあれば、またはそのフラグメントに対し構造的類似性を有する場合もある。任意に、組成物には、P.multocidaから単離可能な非金属調節タンパク質が含まれる場合がある。非金属調節タンパク質の分子量は、254kDa~244kDa、例えば249kDa、65kDa~55kDa、例えば60kDa、及び47kDa~17kDa、例えば42kDa、38kDa、27kDa、26kDa、及び22kDaであり得る。組成物の別の具体例は、配列番号44のフラグメントであるタンパク質、またはそのフラグメントに対し構造的類似性を有するタンパク質もしくはそのフラグメントを含むものである。
【0073】
任意に、本明細書に記載のタンパク質を、担体タンパク質に共有結合させることにより、タンパク質の免疫学的特性を向上させることが可能である。有用な担体タンパク質は、当該技術分野において公知である。本明細書に記載のタンパク質の化学的結合は、公知の常法を用いて遂行できる。例えば、ビス(スルホスクシンイミジル)スベラート、ビス(ジアゾベンジジン)、ジメチルアジピミデート、ジメチルピメミデート、ジメチルスプライデート、ジスクシンイミジルスベレート、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミド、スルホ-m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミド、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドエチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スルホスクシンイミジル4-(p-マレイミド-フェニル)ブチレート及び(1-エチル-3-(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)などの様々なホモ二官能性及び/またはヘテロ二官能性架橋剤を使用できる(Harlow and Lane,Antibodies,A Laboratory Manual,generally and Chapter 5,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,NY(1988))。
【0074】
本明細書中に記載されている組成物は、低濃度のリポ多糖(LPS)を含み得る。LPSは、殆どのグラム陰性微生物の外膜の成分であり(例えば、Nikaido and Vaara,Outer Membrane,In:Escherichia coli and Salmonella typhimurium,Cellular and Molecular Biology,Neidhardt et al.,(eds.)American Society for Microbiology,Washington,D.C.,pp.7-22(1987)を参照、典型的には多糖類(O-特異的鎖、外側及び内側コア)、ならびに脂質A領域を含む。LPSの脂質A成分は、LPS構造において最も生物学的に活性な成分であると共に、哺乳動物においては広範な病態生理学的効果を誘発する成分でもある。最も劇的な影響は、発熱、播種性血管内凝固、補体活性化、低血圧性ショック、及び死亡である。LPSの非特異的な免疫刺激活性によって、LPSを含む組成物の投与部位における肉芽腫の形成を促進することが可能である。そのような反応は、動物に対し過度のストレスを引き起こす可能性があり、それにより、動物に一定期間にわたって飼料または水を断念させて、動物における感染状態を悪化させる恐れもある。加えて、注射部位に肉芽腫が形成されると、注射部位に組織の瘢痕化または傷が生じることから、屠殺体のダウングレードが見込まれる尤度が助長される可能性がある。
【0075】
LPSの濃度は、当該技術分野において公知の常法を用いて算定できる。そのような方法としては、典型的には、LPSによる染料結合の測定(例えば、Keler and Nowotny,Analyt.Biochem.,156,189(1986))、またはリムルスアメーバ様細胞溶解物(LAL)試験の使用(例えば、Endotoxins and Their Detection With the Limulus Amebocyte Lystate Test,Alan R.Liss,Inc.,150 Fifth Avenue,New York,NY(1982)を参照)が挙げられる。LAL試験で通常使用される基本的な市販の方法には、ゲル-クロット試験、濁度(分光光度)試験、比色試験、及び発色試験の4通りがある。ゲルクロットアッセイの実施例は、E-TOXATE(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO;Sigma Technical Bulletin No.210を参照)、及びPYROTELL(Associates of Cape Cod,Inc.,East Falmouth,MA)という商標名で市販されている。典型的には、アッセイ条件は、カブトガニLimulus polyphemusの循環アメーバ様細胞の溶解物を含む調製物と組成物とを接触させることを含む。溶解物は、LPSに曝された際に、粘度だけでなく不透明度も増し、ゲル化する場合がある。約0.1ミリリットルの組成物を溶解物に加える。組成物のpHは、典型的には6~8の間、好ましくは6.8~7.5の間である。組成物と溶解物との混合物を、37℃にて1時間静置してインキュベートする。インキュベーション後は、混合物を観察することによって、混合物のゲル化があったかどうかを判別する。ゲル化が認められた場合、内毒素が存在するものと判定される。組成物中に存在するエンドトキシンの量を算定するには、エンドトキシン標準化溶液の希釈液を作製して、本組成物の試験と同時に本希釈液の試験を行う。エンドトキシンの標準液は、例えば、Sigma Chemical(カタログ番号210-SE)、U.S.Pharmacopeia(Rockville,MD,カタログ番号235503)、及びAssociates of Cape Cod,Inc.,(カタログ番号E0005)から市販されている。本発明の組成物は、本明細書に記載の方法(例えば、細胞を破壊及び可溶化して不溶性タンパク質を回収することを含む方法)により、P.multocidaなどの微生物からタンパク質を単離することによって調製されるのが、一般的である。本発明の組成物中のLPS量は、同じ条件下で破砕され但し可溶化されていない同量の微生物の混合物中に存在するLPS量未満となる。典型的には、本発明の組成物中のLPSレベルは、同じ微生物を破壊し但し可溶化させずに調製された組成物中のLPSレベルに対して、優先度の昇順に少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%減少する。
【0076】
本明細書中に記載されている組成物は、任意に、医薬的に許容される担体を更に含む。「医薬的に許容される」とは、本組成物の他の成分と相溶性があり、そのレシピエントに対し有害にはならない、希釈剤、担体、賦形剤、塩などを指す。典型的には、本組成物が本明細書に記載のように用いられている場合、本組成物中に医薬的に許容される担体が含まれる。例示的な医薬的に許容される担体には緩衝液が含まれ、一般的には、例えば全血及び/または血漿のような血液産物は除外される。本明細書に記載の組成物は、選択された投与経路(抗原に対する免疫応答を刺激するのに好適な経路など)に適合した様々な形態の医薬製剤に製剤化できる。それゆえ、本明細書に記載の組成物は、例えば、経口;皮内、経皮及び皮下を含む非経口;筋肉内、静脈内、腹腔内などをはじめとする公知の経路を介して投与することも可能であるし、ならびに、鼻腔内投与、肺内投与、乳房内投与、膣内投与、子宮内投与、皮内投与、経皮投与及び直腸投与など局所的投与も可能である。動物の体全体に対し分泌性IgA抗体を産生する等、粘膜免疫を刺激する目的で、(例えばスプレーまたはエアロゾルで)鼻粘膜または呼吸粘膜への投与によって、組成物を粘膜表面に投与する場合のあることが予測される。
【0077】
また、本明細書に記載の組成物は、徐放インプラントまたは遅延放出インプラントを介して投与される場合もある。本発明による使用に適したインプラントは公知であり、例えば、国際公開第WO2001/037810号及び/または国際公開第WO1996/001620号に開示されているものが挙げられる。インプラントは、エアロゾルまたはスプレーで投与するのに十分に小さいサイズで製造できる。また、インプラントには、ナノスフェア及びマイクロスフェアが含まれる場合がある。
【0078】
本発明の組成物は、本明細書に記載のタンパク質または全細胞に対する免疫学的応答を生ずるのに十分な量で投与される。組成物中に存在するタンパク質の量は、変動する可能性がある。例えば、タンパク質の投与量は、0.01マイクログラム(μg)~3000ミリグラム(mg)、典型的には100μg~2000ugとされる場合がある。組成物が全細胞調製物である場合、細胞は、106細菌/ml、107細菌/ml、108細菌/ml、または109細菌/mlの濃度で存在可能である。全細胞の混合物(例えば、タンパク質のサブセットを発現する或る細胞母集団、及び別のタンパク質のサブセットを発現する第2の母集団)を投与する場合、母集団の比率は1:1であり得る。注射用組成物(例えば、皮下、筋肉内など)では、タンパク質が、投与される組成物の総容量が、好ましくは0.5ml~5.0mlとなる量にて、典型的には1.0~3.0mlとなる量にて、本組成物中に存在する。組成物を全細胞調製物とした場合、細胞は、投与される組成物の総容量が、好ましくは0.5ml~5.0mlとなる量にて、典型的には1.0~2.0mlとなる量にて、本組成物中に存在する。投与量は多様な要因に応じて異なる。これらの要因としては、限定されるものではないが、選択された特定のタンパク質または細胞、動物の体重、体調及び年齢、ならびに投与経路が挙げられる。それゆえ、したがって、所与の単位剤形に含有されるタンパク質の絶対重量、または細胞数は、変動する可能性があり、動物の種、年齢、体重及び体調などの要因、ならびに投与方法に依存する。そのような因子は当業者によって特定される場合がある。本発明に好適な投薬量の他の例は、Emery et al.(米国特許第6,027,736号)に開示されている。
【0079】
製剤は、便宜的に単位剤形で提供される場合もあれば、薬学分野において周知の方法により調製される場合もある。医薬的に許容される担体を含む組成物を調製する方法はいずれも、活性化合物(例えば、本明細書に記載のタンパク質または全細胞)を1つ以上の副成分を構成する担体と会合させるステップを含む。一般には、活性化合物を液体担体、微細に分割された固体担体、またはその両方と均一且つ密接に会合させ、次いで、必要に応じて生成物を所望の製剤に成形することによって、製剤を調製する。
【0080】
また、医薬的に許容される担体を含む組成物中に、アジュバントを含める場合もある。「アジュバント」とは、非特異的に作用して特定の抗原に対する免疫応答を増強させ、ひいては、任意の所与の免疫化組成物中に必要とされる抗原の量、及び/または必要な注射の頻度を潜在的に低減させることにより、目的の抗原に対する適切な免疫応答を生起させる薬剤を指す。アジュバントとしては、例えば、IL-1、IL-2、乳化剤、ムラミルジペプチド、臭化ジメチルジクラデシルアンモニウム(DDA)、アビジン、水酸化アルミニウム、油、サポニン、α-トコフェロール、多糖類、乳化パラフィン(MVP Laboratories,Ralston,Nebraska製EMULSIGENという商標名で入手可能)、ISA-70、RIBI、及び当該技術分野において公知の他の物質を挙げることができる。
【0081】
別の実施形態では、医薬的に許容される担体を含む組成物中に、例えば、IL-2、IL-4及び/またはIL-6、TNF、IFN-α、IFN-γ、ならびに免疫細胞に影響を及ぼす他のサイトカインなどの生物学的応答調節剤を含める場合がある。また、組成物中に抗生物質、保存料、抗酸化剤、キレート剤などを含める場合もあり、そのような成分は当該技術分野において公知である。
【0082】
製造方法
また、本開示には、本明細書に記載のタンパク質及び全細胞を得るための方法も提供されている。本明細書に記載のタンパク質及び全細胞調製物は、本明細書に記載のタンパク質のうちの1種以上の発現を促進する条件下で、P.multocidaのような微生物をインキュベートすることによって得ることができる。本明細書に記載のタンパク質及び全細胞調製物は、タンパク質のうちの1種以上を組み換え的に発現するように操作された微生物から単離可能であり得る。一実施形態では、血清型2、5または血清型3,4のP.multocidaが使用される。加えて、そのような微生物は、当該技術分野において公知の常法の技法により、容易に入手可能である。微生物は、感染した動物から野外分離株として誘導されてから、本明細書中に記載されるようなタンパク質及び/または全細胞調製物を得るため使用される場合もあれば、あるいは将来の使用に備えて、例えば、20%グリセロール含有の細菌学的培地、及び他の同様の培地中に入れて、-20℃~-95℃または-40℃~-50℃の凍結貯蔵庫内で貯蔵される場合もある。
【0083】
また、本発明は、本明細書中に開示されている方法により調製された組成物を含む。そのような条件は、典型的に、低金属条件である。本明細書中に用いられている「低金属条件」という語句は、微生物に検出可能なレベルにて金属調節タンパク質を発現させる量の遊離金属を含有する、環境、典型的には細菌学的媒地を指す。本明細書中に用いられている「高金属条件」という語句は、低金属条件下にて金属調節タンパク質を発現させる場合と比較して、微生物による金属調節タンパク質発現レベルを低減させる量の遊離金属を含有する環境を指す。いくつかの事例において、「高金属条件」とは、細胞に対し本明細書に記載の金属調節タンパク質のうちの1つ以上を検出可能なレベルで発現させないようにする環境を指す場合がある。
【0084】
いくつかの事例において、「高金属条件」は、金属分に富む自然環境及び/または金属キレート剤を含まない金属分に富む培地中での培養を含み得る。対照的に、いくつかの事例において、「低金属条件」は、以下により詳細に記載されているように、金属キレート剤を含む培地中での培養を含み得る。金属は、周期律表中、第1~17族(IUPAC表記;CAS表記では、それぞれ、I-A族、II-A族、III-B族、IV-B族、V-B族、VI-B族、VII-B族、VIII族、I-B族、II-B族、III-A族、IV-A族、V-A族、VI-A、及びVII-A族とも呼ばれる)の配下に存在するものである。金属は、好ましくは2~12族、より好ましくは3~12族のものである。金属は、更により好ましくは鉄、亜鉛、銅、マグネシウム、ニッケル、コバルト、マンガン、モリブデン、またはセレンであり、最も好ましくは鉄、銅、または亜鉛である。
【0085】
低金属条件は、一般に、金属キレート化合物を細菌学的媒地に添加するか、金属含有量の少ない細菌学的培地を使用するか、またはそれらの併用により得られる結果である。媒地中にキレート剤が存在していない場合、媒地に金属を添加した場合、またはそれらを併用した場合には、一般的に、高金属条件が存在する。金属キレート剤の例としては、天然及び合成の化合物が挙げられる。天然化合物の例としては、フラボノイド類のような植物フェノール化合物が挙げられる。フラボノイドの例としては、鉄キレート剤ミリセチンが挙げられる。合成鉄キレート剤の例には、2,2’-ジピリジル(当該技術分野において2,2’-ビピリジルとも呼ばれる)、8-ヒドロキシキノリン、エチレンジアミン-ジ-O-ヒドロキシフェニル酢酸(EDDHA)、デスフェリオキサミンメタンスルホネート(デスフェロール)、トランスフェリン、ラクトフェリン、オボトランスフェリン、生物学的シデロフォア(カテコレート及びヒドロキサメートなど)、ならびにクエン酸塩が挙げられる。
【0086】
一実施形態において、2,2’-ジピリジルは、鉄をキレート化する用途に使用される。典型的に、2,2’-ジピリジルは、少なくとも0.0025マイクログラム/ミリリットル(μg/ml)、少なくとも0.025μg/ml、または少なくとも0.25μg/mlの濃度で培地に添加される。2,2’-ジピリジルは、10μg/ml、20μg/ml、または30μg/mlとした場合、高レベルとされる。
【0087】
TPENは、典型的に、少なくとも25マイクロモル濃度(μM)、少なくとも50μM、または少なくとも70μMの濃度で培地に添加される。一実施形態において、TPENは、本明細書中に記載のポリペプチドを発現させるために70μMとする場合もあれば、また、それより高いレベルで使用される場合もある。
【0088】
P.multocidaのfur遺伝子において突然変異が起きた場合、本発明の金属調節タンパク質の全てではないにしてもその多くに構成的発現を生ずるものと予想される。P.multocidaにおけるfur突然変異体の生成は、常法を用いて生起させることが可能である。方法としては、例えば、グラム陰性菌における遺伝子ノックアウトに有用なエレクトロポレーション及び遺伝子構築物が挙げられる。
【0089】
一実施形態において、本明細書に記載の組成物、例えば単離されたタンパク質を含む組成物または全細胞を含む組成物を作製するために使用されるP.multocidaなどの微生物は、本明細書に記載のタンパク質のうちの1種以上を組み換え的に発現するように操作されたP.multocidaを用いて産生される場合がある。一実施形態では、タンパク質のうちの1種以上を発現するP.multocidaを、他のタンパク質が発現されるように操作する場合がある。一実施形態では、低鉄条件の存在下で、そのようなP.multocidaをインキュベートし、その低鉄条件でインキュベートしている間に、1つ以上の組み換えタンパク質を発現させる。その結果として得られるP.multocidaは、鉄調節タンパク質及び1つ以上の組み換えタンパク質を発現する。
【0090】
Pasteurella種の多くは、適応後にはじめて、低金属条件にて人工培地中in vitroで成長できる。例えば、Pasteurella spp.は、低濃度の鉄キレート剤の存在下で成長させ、キレート剤を含有する培地中で成長させた後にキレート剤の濃度を徐々に漸増させることにより、in vitroで低鉄条件に適応させることができる。例えば、Pasteurella spp.は、培地に0.0025μg/mlの2,2’-ジピリジルを添加し、キレート剤の濃度をより高い濃度、例えば25μg/mlまで徐々に漸増させることにより、低鉄条件での成長に適応させることができる。
【0091】
微生物をインキュベートするのに使用される培地は、危急的なものではなく、P.multocidaの培養に有用な条件は当業者に公知である。微生物をインキュベートするために使用される培地の量は、変動する可能性がある。P.multocida微生物における、本明細書に記載のタンパク質の産生能力を評価する際には、その微生物を好適な容量、例えば10ミリリットル~1リットルの培地中で成長させる場合がある。例えば、動物への投与に用いられるタンパク質を得る目的で微生物を成長させる場合、単離させるタンパク質を大量化するため微生物をバイオリアクター中で成長させる場合もある。バイオリアクター内で微生物を成長させるための方法は、当該技術分野において公知の常法である。微生物を成長させるために用いられる条件は、好ましくは金属キレート剤、より好ましくは鉄キレート剤、例えば2,2’-ジピリジル、TPEN、またはケルセチンを含み、pHを6.5~7.5、好ましくは6.9~7.1とし、且つ温度を37℃とする。発酵槽を使用したときは、溶存酸素含有率を低減する目的で、培養物を適切なガスでパージする場合がある。そのようなガスの一例が、窒素である。溶存酸素を、撹拌によって自動的にまたは手動で調整することによって、滅菌空気または純粋な酸素を培養物に導入することが可能である。
【0092】
本発明のいくつかの態様では、P.multocidaを成長後に採取する場合がある。採取することは、微生物を濃縮して体積を減少させることと、成長培地とは異なる培地に懸濁させることとを含む。微生物を濃縮するための方法は、当該技術分野において公知の常法であり、例えば濾過及び/または遠心分離を含む。典型的には、濃縮微生物を漸減量の緩衝液中に懸濁させる。最終緩衝剤は、金属キレート剤、好ましくはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むことが好ましい。使用可能な緩衝剤の実施例は、pH8.5にてトリス塩基(7.3グラム/リットル)及びEDTA(0.9グラム/リットル)を含有する。任意に、最終緩衝液によっても、タンパク質の分解を最小限に抑えられる。これを達成するために、最終緩衝液をpH8.0超、好ましくは少なくとも8.5とし、及び/または1つ以上のプロテイナーゼ阻害剤(例えば、フェニルメタンスルホニルフルオリド)を含める場合がある。任意に、好ましくは、濃縮された微生物を破砕されるまで-20℃以下で凍結する。一実施形態において、細菌細胞を遠心分離などによってペレットに濃縮し、濃縮細胞を浸透圧ショック緩衝液(OMS;7.26グラム/リットルのトリス塩基及び0.93グラム/リットルのEDTAを、pH8.5に調整したもの)中に懸濁させる場合がある。細胞とOMSの比率は、1リットルのOMSに対して細胞ペレット50グラム、細胞ペレット60グラム、または細胞ペレット70グラムであり得る。OMS中の細胞の懸濁液を、2~8℃で少なくとも24時間、少なくとも48時間、または少なくとも60時間インキュベートすることによって、細胞から余分なエンドトキシンを除去してもよい。一実施形態において、インキュベーションは72時間以内である。インキュベーション後、懸濁液を再度遠心分離させ、上清を破棄して遊離のエンドトキシン及び細胞外物質、例えば分泌タンパク質を除去する。
【0093】
P.multocidaを全細胞調製物として使用する必要がある場合、採取された細胞を、公知の常法を用いて処理して、細胞を不活性化してもよい。代替的に、P.multocidaを使用して、本発明のタンパク質を調製する場合、例えば、焼入れプレス、超音波処理もしくは均質化など、当該技術分野において公知の化学的、物理的または機械的な常法を用いて、P.multocidaを破砕してもよい。好ましくは、均質化を用いる。本明細書中に用いられている「破砕」は、細胞が破壊されることを指す。微生物の破砕度は、例えば、光学密度の変化をはじめとする、当該技術分野において公知の常法によって測定できる。典型的には、1:100の希釈率を測定したときに透過率(%)が20%増加するまで、微生物を破砕させる。破砕中の温度を通常4℃に保つことによって、タンパク質分解が更に最小限に抑えられる。
【0094】
破砕された微生物を、陰イオン性、双性イオン性、非イオン性、または陽イオン性洗剤などの洗剤中で可溶化する。洗剤は、好ましくはサルコシン、より好ましくはラウロイルサルコシン酸ナトリウムである。本明細書中に用いられている「可溶化する」という用語は、細胞材料(例えばタンパク質、核酸、炭水化物)を、微生物が破砕された緩衝液の水相中に溶解させること、及び不溶性細胞材料の凝集体を形成することを指す。可溶化のための条件は、好ましくは、本発明のタンパク質を凝集させることによって、例えば遠心分離により容易に単離できるほど十分大きい不溶性凝集体を生ずることである。
【0095】
好ましくは、破砕された微生物のグラム重量に対するサルコシンの最終比が1.0グラムサルコシン/4.5グラムペレット質量~6.0グラムサルコシン/4.5グラムペレット質量、好ましくは4.5グラムサルコシン/4.5グラムペレット質量となるように、サルコシンを添加する。微生物の溶解度は、例えば、光学密度の変化をはじめとする、当該技術分野において公知の常法によって測定できる。可溶化は、典型的には、少なくとも24時間、より好ましくは少なくとも48時間、最も好ましくは少なくとも60時間生起させる。破砕中の温度は、典型的には低く維持され、好ましくは4℃に維持される。
【0096】
本明細書に記載のタンパク質を含む不溶性凝集物は、遠心分離、濾過、またはそれらの組み合わせなどの、当該技術分野において公知の常法によって単離することが可能である。一実施形態では、不溶性凝集物を、接線方向またはクロスフロー濾過などの濾過によって単離する。接線方向の濾過と共に用いられる分子量カットオフの例は、100kDaまたは300kDaである。一実施形態において、接線濾過システムは、孔径0.2ミクロンである。接線方向の濾過は、タンパク質懸濁液から残留サルコシンを除去する助けになり得る。接線方向の濾過によって、結果として、タンパク質懸濁液が濃縮されるので、不溶性凝集物を単離するためのコストを、大幅に削減できる。
【0097】
一実施形態では、単離されたタンパク質からサルコシンを除去する。単離されたタンパク質からサルコシンを除去する方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、透析濾過、沈殿、疎水性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、及び限外濾過のほか、透析濾過によってイソプロピルアルコールなどのアルコール中でタンパク質を洗浄することが挙げられる。単離後のタンパク質を緩衝液中に懸濁させ、-20℃以下などの低温にて貯蔵した。
【0098】
全細胞調製物を作製する必要のある本発明の態様では、成長後の微生物を、培養物中の細胞を不活性化するのに十分な濃度で、グルタルアルデヒド、ホルマリン、またはホルムアルデヒドなどの薬剤を添加することにより、殺滅させる場合がある。例えば、ホルマリンは、0.3%(体積:体積)の濃度で添加できる。細胞を不活性化するのに十分な時間が経過した後、細胞を、例えば透析濾過及び/または遠心分離により採取し、洗浄してもよい。
【0099】
他の態様では、本発明の単離されたタンパク質は、組み換え的に調製できる。タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、組み換え的に調製されている場合に、同定して、適切な発現宿主にクローン化できる。組み換え発現宿主を適当な培地中で成長させ、破砕して、タンパク質を上記のように単離してもよい。
【0100】
使用方法
また、本明細書に記載の組成物を使用する方法も、提供されている。本方法は、動物に対し有効量の本明細書中に記載されている組成物を投与することを含む。本明細書に記載の組成物の「有効量」とは、本明細書中に用いられている場合、レシピエントにおいて所望の反応を誘発できる量である。組成物は、母系抗体が存在し得る時点で、例えば、早ければ生後1日目に投与される場合もあれば、または動物の生涯の後期に投与される場合もある。一実施形態において、本組成物が動物に投与されるのは、動物の離乳前、または動物の離乳した時点(動物が母親の母乳以外の食物に慣れ始めた頃)である。動物は、例えば、魚類、鳥類(例えば、ニワトリまたはシチメンチョウを含む)、ウシ類(例えば、畜牛を含む)、ヤギ類(例えば、ヤギを含む)、ヒツジ類(例えば、ヒツジを含む)、ブタ類(例えば、ブタを含む)、バイソン類(例えば、バッファローを含む)、ウマ類(例えば、ウマを含む)、伴侶動物(例えば、イヌまたはネコを含む)、Cervidae科のメンバー(例えば、シカ、エルク、ムース、カリブー、トナカイを含む)、またはヒトであり得る。伴侶動物の例としては、イヌ及びネコが挙げられる。一実施形態において、動物はマウスである。一実施形態において、動物は飼い慣らされた動物である。
【0101】
本明細書に記載の方法は、グラム陰性微生物に言及する。本明細書中に用いられているグラム陰性微生物としては、限定されるものではないが、Pasteurella spp.などのPasteurellaceae科のメンバー、例えば、Pasteurella spp.(例えば、P.multocida及びP.haemolyticaなど)、Photobacterium damsela subsp.、Piscicida(旧称:Pasteurella piscicida)、Mannheimia spp.、及びHaemophilus spp.、Vibrionaceae科のメンバー(例えば、Vibrio cholerae)、Campylobacter spp.(例えば、C.jejuniなど)、Enterobacteriaceae科のメンバー(例えば、Klebsiella spp.、E.coli、Shigella spp.、Salmonella spp.、Proteus spp.、Serratia spp.、及びYersinia spp.など)、及びPseudomonadaceae科のメンバー、好ましくはPseudomonas spp.(例えば、Pseudomonas aeruginosaなど)が挙げられる。Klebsiella spp.の例としては、K.pneumoniae及びK.oxytocaが挙げられる。Salmonella spp.の例としては、Salmonella enterica serovars.、Bredeney、Dublin、Agona、Blockley、Enteriditis、Typhimurium、Hadar、Heidelberg、Montevideo、Muenster、Newport senftenberg、Salmonella cholerasuis、及びS.typhiが挙げられる。P.multocida株の例としては、例えば、P.multocida血清型1~16(血清型1、2、3,4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15もしくは16)またはそれらの組み合わせは、(例えば2、5、別名:2×5;血清型2及び5の両方をP.multocidaが発現する。あるいは3、4、別名:3×4;血清型3及び4の両方をP.multocidaが発現する)が挙げられる。E.coli株の例には、例えばE.coli血清型Ola、O2a、O78、及びO157;0104、0111、026、0113、091などの、種々のO:H血清型;K88+、F4+、F18ab+及びF18ac+のような腸管毒素原性E.coliの溶血性菌株;E.coliの腸管病原性(EPEC)株、腸管出血性(EHEC)株、腸管侵入性(EIEC)株及び腸管凝集性(EAEC)株;尿路病原性株などの腸管外感染症を発症させる恐れのあるE.coliが挙げられる。一実施形態において、グラム陰性微生物は病原微生物である。呼吸器病原体は、例えば、B.bronchiseptica種、B.pertussis種及びB.parapertussis種、ならびにB.avium種などのBordetellaである。
【0102】
いくつかの実施形態において、或る方法は、動物に対し、組成物を更に投与(例えば、1回以上の追加免疫投与)することによって、二次免疫応答を増強または刺激することを更に含み得る。追加免疫は、初回投与後の或る時点で、例えば、組成物の初回投与後、1~8週間目に、好ましくは2~4週間目に投与できる。後続の追加免疫は、1年に1回、2回、3回、4回、またはそれ以上の回数投与できる。理論に束縛されることを意図するものではないが、いくつかの実施形態では、動物に投与される組成物のタンパク質上に存在するエピトープに対し構造的に関連するエピトープを有するタンパク質を発現する微生物に曝露することによって、実地にて動物に抗原曝露が為されるので、年次の追加免疫は必要のないことが予期される。
【0103】
一実施形態において、或る方法は、例えば、動物において抗体の産生を誘導することにより、または組み換え技法により、本明細書に記載のタンパク質に対する抗体を作製することを含む。産生される抗体としては、本組成物中に存在する少なくとも1つのタンパク質に対し特異的に結合する抗体が挙げられる。本実施形態において、「有効量」は、動物において抗体を産生させるのに有効な量である。本明細書に記載の組成物中に存在するタンパク質に特異的に結合する抗体が動物によって産生されたかどうかを判別するための方法は、常法を用いて特定できる。また、本明細書に記載のタンパク質に特異的に結合する抗体、及びそのような抗体を含む組成物も、提供されている。
【0104】
本明細書中に用いられている、タンパク質に対し「特異的に結合する」できる抗体は、抗体の合成を誘導した抗原のエピトープと相互作用する抗体、または構造的に関連するエピトープと相互作用する抗体である。本明細書に記載のタンパク質中に存在するエピトープのうちの少なくともいくつかは、異なる種のタンパク質及び異なる属の微生物内に保存されているエピトープである。したがって、本明細書に記載のタンパク質を使用して産生された抗体は、2つ以上の種の微生物によって発現されるタンパク質に結合し、グラム陰性微生物に対して広域スペクトル保護を提供すると予期される。
【0105】
一実施形態において、或る方法は、グラム陰性微生物に起因する、動物における感染症の治療を含む。本明細書中に用いられている「感染症」という用語は、動物の体内にグラム陰性微生物が存在することが、臨床的に明らかである可能性もあればそうでない可能性もあることを意味する。感染症の治療は予防的である場合もあれば、あるいは動物が微生物に感染した後に開始される場合もある。例えば、対象が微生物に感染する前、または感染が無症候性のまま維持されているうちに開始される予防的な治療は、本明細書中では、「リスクに曝されている」対象の治療と呼ばれている。本明細書中に用いられている「リスクに曝されている」という用語は、記載されたリスクを実際に保持している可能性もあればそうでない可能性もある動物を指す。それゆえ、典型的には、微生物による感染の「リスクに曝されている」動物は、たとえ動物が微生物による感染の検出可能な徴候をまだいっさい顕現化していない場合でも、且つ動物が無症状量の微生物を保有しているかどうかには関係なしに、動物が微生物に感染していると同定され、及び/または微生物に曝露される可能性の高い地域に存在する動物である。したがって、組成物の投与は、動物が初めて微生物と接触する前、接触している間、または接触した後に実施できる。治療開始が、動物が初めて微生物に接触した後であった場合、微生物による症状の重篤度及び/または感染の臨床的徴候が軽減され、微生物が完全に除去され、及び/または組成物が投与されていない動物と比較して臨床的に明らかな感染を経験する尤度が低下する。本方法は、本明細書に記載の有効量の組成物を、グラム陰性微生物に起因する感染症を有するかまたは有するリスクに曝されている動物に投与することと、感染症を発症させる微生物の数が減少したかどうかを判別することとを含む。本実施形態において、「有効量」とは、組成物が投与されていない動物と比較して、動物における特定の微生物の数を減少させるのに有効な量、または動物が臨床的に明らかな感染を経験する尤度を低下させるのに有効な量である。感染症がグラム陰性微生物に起因するかどうかを判別するための方法は、感染症が軽減されたかどうかを判別するための方法と同様に、当該技術分野において公知の常法である。動物におけるグラム陰性微生物感染症に対する治療の奏功については、実施例15~16に開示されており、本明細書に記載の組成物が2つのP.multocida株(1つの血清型2×5及び1つの血清型3×4)から作製されたものであり、血清型1のP.multocidaによる抗原曝露からニワトリを保護したことを実証する。
【0106】
別の実施形態において、或る方法は、グラム陰性微生物による感染に起因する可能性のある、動物の特定の病態の1つ以上の症状または臨床徴候を治療することを含む。本方法は、本明細書に記載の有効量の組成物を、病態を有するかまたは有するリスクに曝されているか、または病態の症状及び/または臨床的徴候を示す動物に投与することと、その病態の少なくとも1つの症状及び/または臨床徴候が変化したか、好ましくは低減したかどうかを判別することと、を含む。一実施形態において、その動物は、Pasteurella spp.(例えば、P.multocida、P.haemolytica、及びP.anatipestiferなど)、Mannheimia spp.、またはHaemophilus spp.のようなPasteurellaceae科のメンバーに起因する症状を有する。症状の例としては、限定されるものではないが、家禽コレラ、ニューダック病、ウシ呼吸器病症候群(出荷熱肺炎、または単に肺炎とも呼ばれる)、熱帯・亜熱帯地域内の畜牛、バッファロー及びバイソンの出血性敗血症、ブタの肺炎及び萎縮性鼻炎、ウサギの鼻カタル、及びヒツジの乳房炎及び肺炎が挙げられる。Mannheimia haemolyticaは、 Pasteurella haemolyticaとしても公知であり、ウシの海綿状熱、新生児の敗血症、及び成体のヒツジの肺炎と乳房炎に関与する線維性胸膜炎の病因となる恐れがある。Haemophilus spp.は、ブタのグレーサー病、ニワトリのトリコリーザ、ウマ類の伝染性子宮炎の病因となる恐れがある。P.multocidaは、甚急性の形態では最も有毒でしかも非常に感染力の高い家禽疾患の1つである、家禽コレラの病因となる恐れがある。P.anatipestiferは、ニューダック病(別称:アヒル敗血症、または感染性漿膜炎)の病因となる恐れがある。
【0107】
グラム陰性微生物による感染に起因する病態に付随する症状及び/または臨床徴候の治療は、予防的とされる場合もあれば、代替的に本明細書に記載の病態が発症した後に開始される場合もある。本明細書中に用いられている「症状」という用語は、患者が経験し、微生物による感染に起因する疾患または病態の主観的証拠を指す。本明細書中に用いられている「臨床徴候」または単に「徴候」という用語は、微生物による感染に起因する疾患または病態の客観的証拠を指す。本明細書で言及される病態に付随する症状及び/または臨床徴候、ならびにそのような症状の評価は、当該技術分野において公知の常法である。例えば、対象が微生物に起因する病態の症状または徴候を示す前に開始される予防的治療は、本明細書では、病態を発症する「リスクに曝されている」対象に対する治療と呼ばれる。それゆえ、典型的には、病態を発症する「リスクに曝されている」動物とは、動物が微生物に起因する如何なる病態の症状もしくは徴候をまだ顕現化していない場合でさえも、その病態を有する動物が診断されている及び/またはその病態の原因となる微生物に曝露される恐れの高い地域に存在する動物である。したがって、組成物の投与は、本明細書に記載の病態が発呈する前、発呈している間、または発呈した後に実施できる。グラム陰性微生物感染に起因する症状及び/または臨床徴候は、当業者に公知である。症状及び/または臨床徴候の例としては、限定されるものではないが、肺炎、鬱病及び中毒症;粘液膿性鼻分泌に対し深刻な発熱;湿咳;急速表浅呼吸率;畜牛及びブタの肺における膿瘍または病変;家禽及び野鳥における急性敗血症、関節感染症及び関節炎;ブタにおける鼻甲介萎縮;ネコにおける表在性膿瘍;ヒトにおける(通常はイヌもしくはネコによる咬傷が原因で起こる)咬傷感染症が挙げられる。病態の発症後に治療を開始することによって、結果的に、その病態のうちの1つの症状もしくは徴候の重篤度が軽減される可能性もあれば、またはその症状もしくは徴候が完全に解消される可能性もある。本実施形態において、「有効量」とは、疾患の症状もしくは徴候の顕現化を予防し、疾患の症状もしくは徴候の重篤度を軽減し、及び/またはその症状もしくは徴候を完全に解消するのに有効な量である。
【0108】
また、グラム陰性微生物によるコロニー形成抑制法、例えば、骨格系の組織(骨、軟骨、腱及び靭帯など)、筋肉系(骨格筋及び平滑筋など)、循環器系(心臓、血管、毛細血管及び血液など)、神経系(脳、脊髄、肛門及び末梢神経など)、呼吸器系(鼻、気管の肺、気管支、細気管支、肺胞など)、消化器系(口、唾液腺、食道、肝臓、胃、大腸及び小腸など)、排泄系(腎臓、尿管、膀胱、尿道及び尿道など)、内分泌系(視床下部、下垂体、甲状腺、膵臓及び副腎など)、生殖器系(卵巣、卵管、子宮、膣、乳腺、精巣及び精嚢など)、リンパ系/免疫系(リンパ球、リンパ節及びリンパ管;単核球;または白血球、例えばマクロファージ、好中球、単球、好酸球、好塩基球、T細胞もしくはB細胞などのリンパ球)、特異的な細胞系譜(前駆細胞、上皮細胞、幹細胞)ならびにそれらに類するものなどのグラム陰性微生物の付着部位を遮断する方法も提供されている。
【0109】
動物におけるコロニー形成の低減は、予防的に行われる場合もあれば、代替的に、動物が微生物によるコロニー形成を被った後に開始される場合もある。本明細書において予防的な治療は、例えば、対象が微生物によるコロニー形成を被る前にまたは何らかのコロニー形成が未検出のままのうちに開始された場合、微生物によるコロニー形成を被る「リスクに曝されている」対象に対する治療と呼ばれている。それゆえ、典型的には、微生物によるコロニー形成を被る「リスクに曝されている」動物は、たとえ動物が微生物によるコロニー形成を被る検出可能な徴候をまだいっさい顕現化していない場合でも、且つ動物の保有している微生物数がコロニー形成数を下回るかどうかには関係なしに、動物が微生物に感染していると同定され、及び/または微生物に曝される可能性の高い地域に存在する動物である。したがって、組成物の投与は、動物が初めて微生物と接触する前、接触している間、または接触した後に実施できる。治療開始が、動物が初めて微生物に接触した後であった場合、微生物によるコロニー形成の度合いを低減させ、微生物を完全に除去し、及び/または組成物の投与されていない動物と比較して動物に微生物がコロニー形成する尤度を低下させる。それゆえ、本方法は、グラム陰性微生物によるコロニー形成を被った動物に対し、またはそのグラム陰性微生物によるコロニー形成を被るリスクに曝されている動物に対し、本明細書に記載の有効量の組成物を投与することを含む。本実施形態において、「有効量」とは、動物における微生物のコロニー形成を減少させるのに十分な量であり、ここで言うコロニー形成の低減とは、微生物によるコロニー形成の度合いを低減させること、微生物を完全に除去すること、及び/または組成物の投与されていない動物と比較して動物に微生物がコロニー形成する尤度を低下させること、のうちの1つ以上を指す。動物における微生物のコロニー形成を評価するための方法は、当該技術分野において公知の常法である。例えば、動物の気道に微生物がコロニー形成したかどうかは、気管スワブ、経気管洗浄、または気管支肺胞洗浄によって動物の下気道から採取された標本内の微生物の存在を測定することによって確認できる。動物における微生物のコロニー形成を低減させることにより、同じ種または異なる種の他の動物に対する微生物の伝播が低減することが、予期される。
【0110】
また、本明細書に記載のタンパク質上に存在するエピトープと構造的に関連するエピトープを有するタンパク質を発現する微生物を標的とすることを目的とした、そのような抗体の使用も提供されている。本明細書に記載の組成物を用いることにより、細菌感染に対する能動的または受動的免疫を提供することが可能となる。一般に、本組成物を動物に投与することにより、能動免疫を提供できる。一方、また、本組成物を使用して、抗体のような免疫産物の産生を誘導することも可能であるし、これらの免疫産物を産生動物から採取して別の動物に投与することで、受動免疫をもたらすことも可能である。抗体のような免疫成分を収集して、受動免疫療法用の血清、血漿、血液、初乳などから組成物(好ましくは、抗体を含有するもの)を調製できる。モノクローナル抗体及び/または抗イディオタイプを含む抗体組成物もまた、公知の方法を用いて調製できる。キメラ抗体は、重鎖及び軽鎖両方のヒト由来定常領域と、抗原特異的であるネズミ由来可変領域と、を含む(Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1984,81(21):6851-5;LoBuglio et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989,86(11):4220-4;Boulianne et al.Nature,1984,312(5995):643-6.)。ヒト化抗体は、(可変領域の)ネズミの定常及びフレームワーク(FR)をヒトの対応物で置換する(Jones et al.,Nature,1986,321(6069):522-5;Riechmann et al.,Nature,1988,332(6162):323-7;Verhoeyen et al.,Science,1988,239(4847):1534-6;Queen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989,86(24):10029-33;Daugherty et al.,Nucleic Acids Res.,1991,19(9):2471-6.)。代替的に、ほぼ完全にヒト起源の抗体を産生するように遺伝的に操作された或るマウス株を用い、免疫後に、これらのマウスのB細胞を採取して不死化させることによって、ヒトモノクローナル抗体の産生が可能になる(Bruggeman and Taussig,Curr.Opin.Biotechnol.,1997,8(4):455-8;Lonberg and Huszar,Int.Rev.Immunol.,1995;13(1):65-93;Lonberg et al.,Nature,1994,368:856-9;Taylor et al.,Nucleic Acids Res.,1992,20:6287-95.)。受動抗体組成物及びそのフラグメント、例えばscFv、Fab、F(ab’)2もしくはFv、またはそれらの他の修飾型は、血清、血漿、血液、初乳などの形態でレシピエントに投与できる。一方、また、公知の方法を用い、血清、血漿、血液、初乳などから抗体を単離することで、爾後に、例えば洗浄溶液、含浸包帯剤及び/または局所剤などのような、濃縮形態または再構成形態にて使用する目的に対応できる。受動免疫製剤は、急性全身性疾患の治療、または母体初乳を通して適切なレベルの受動免疫を受けられなかった幼若動物の受動免疫にとりわけ有利であり得る。また、受動免疫に有用な抗体は、全身的もしくは局所的感染の最中に、本明細書に記載のタンパク質上に存在するエピトープと構造的に関連するエピトープを有するタンパク質を発現する細菌を直接標的とし得る、種々の薬物または抗生物質に対し共役させるのに有用であり得る。
【0111】
動物モデルは、本明細書に記載の組成物を実験的に評価する目的に利用可能である。これらのモデルは、グラム陰性微生物に起因する疾患を研究する目的で、一般に是認されたモデルである。グラム陰性微生物が、ウシまたはニワトリのような動物において疾患を発症させる事例では、天然宿主を用い、本明細書に記載の組成物を実験的に評価してもよい。
【0112】
しかし、組成物がグラム陰性微生物による感染に対して動物を保護できるかどうかを評価する方法は、動物モデルにおける防御だけに限られたものではない。適応免疫応答は、体液性(抗体)応答及び細胞性(T細胞)応答の、2つの主要区分からなる。感染部位の樹状細胞は、細菌性病原体に感染した後、微生物抗原に遭遇し、特定の細菌に関連する保存された分子パターンに応答して、例えば表面受容体及びサイトカインなどのシグナル伝達分子を産生する。これらのシグナルは病原体の性質によって形作られ、理想的には適切な抗体反応及びT細胞反応に至り、宿主を疾患から防御する。いくつかの細菌性疾患は、主に抗体機能によって制御されるのに対し、他の細菌性疾患は、防御にT細胞応答、または抗体及びT細胞の両方の応答を必要とする。ワクチン生物学の目的は、まず防御を施す免疫応答を同定すること、次にこれらの応答のうちの1つ以上をヒトにおいて生ずるようなワクチンを設計することにある。
【0113】
抗体は、例えば補体固定、オプソニン化、中和及び/または凝集のような、感染に対し防御を施すうえで多種多様な機能を有し得る。更にそのうえ、抗体のサブクラスによっては、特定の機能が他のサブクラスより優れるものもある。例えば、ヒトIgGサブクラスでは、補体固定用に存在する階層は以下の通り:IgG3>IgG1>IgG2>IgG4である。
【0114】
抗体の免疫学的機能を研究する方法は、多岐にわたり得る。例えば、分離されたタンパク質のサイズに基づいて抗原特異的結合を同定するには、ウエスタンブロットを用いる一方、血清中の抗体価に関する定量的な情報を生成するには、標準の酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いる。抗体表面結合研究を用いて、血清中の抗体が無傷の細菌表面上の抗原を認識できるかどうかを判別する。これは、抗体がin vivoで作用し得るかどうかに関する重要な指標となる。それゆえ、ウエスタンブロット、ELISA(例えば、ヒト抗血清を用いる)などの抗体結合アッセイ、及び/または表面結合が、微生物感染に対する免疫学的活性を提供する特異的に結合した抗原と正に相関することが、当業者に認識される。しかしながら、当業者に更に認識されるように、例えばウエスタンブロット、ELISA、または表面結合アッセイのようなアッセイにおいて抗体結合が欠如するからといって、アッセイされた抗原が微生物感染に対して免疫学的活性を提供できないことを意味するものではない。
【0115】
抗体は、栄養素の獲得を妨げるか、または補体媒介性の膜貫通を開始することにより、細菌死を仲介する場合があり、これは浸透圧溶解につながる。殺菌抗体は、当業者に公知の適切な条件下で、血清を生培養物と混合し、生存細菌の存在に関する測定を行うことによってアッセイできる。抗体及び補体結合細菌を、ヒトまたはマウスの食細胞と組み合わせて細菌殺滅レベルを判別するオプソニン食作用アッセイ(OPA)などの技法は、抗体機能を研究するうえで有用である。同様の酸化的バーストアッセイを用いて、抗体及び補体結合細菌との相互作用後の、新鮮なヒトまたはマウス好中球による活性酸素種(ROS)のレベルを評価してもよい。
【0116】
いくつかの事例において、本明細書に記載のタンパク質は、グラム陰性微生物に対して細胞性免疫活性を有し、抗体の産生を誘導することなしに、そのタンパク質が免疫活性を呈し得ることを判別できる。細胞傷害性またはCD8 T細胞は、主に様々なエフェクター機序を介して直接的に感染細胞を殺滅させる一方、ヘルパーCD4 T細胞はサイトカインのように、重要なシグナル伝達が提供されるように機能する。これらのT細胞クラスにより産生されたサイトカインに基づいて、T細胞クラスを更に細分でき、種々の細菌性病原体に対して種々のサブクラスが有効となる。T細胞は、多くの場合、フローサイトメトリーで表現型を評価し、抗体を使用し、特異的表面マーカーのレベルを視覚化し、T細胞の分類(例えば、最近活性化されたCD4+T細胞、メモリーCD8+T細胞など)を可能にすることにより、研究される。加えて、サイトカイン及びT細胞の他の産物は、リンパ系組織からT細胞を単離してそれらを同種抗原で再刺激することによって研究できる。抗原刺激後、T細胞によってサイトカインが産生される。このサイトカインを明視化する目的で、例えば、細胞内サイトカイン染色とフローサイトメトリーとを併用するかまたは細胞上清を収集しLuminexビーズ技術を用いて、15~25個のサイトカインを同時測定する場合もある。
【0117】
それゆえ、当業者に認識されるように、本明細書に記載の方法と相応な免疫学的活性は、動物モデルと相関し得るだけでなく、微生物病原体に曝露された動物由来の血清が本明細書に記載のタンパク質に特異的に結合する抗体を含むことを示すウエスタンブロットデータ;本明細書に記載のタンパク質に曝露された動物由来の血清がグラム陰性微生物に特異的に結合する抗体を含むことを示すウエスタンブロットデータ;本明細書に記載のタンパク質に特異的に結合する抗体がグラム陰性微生物に特異的に結合することを実証する細胞表面結合アッセイ;オプソニン食作用データ;及びサイトカイン誘導のうちのいずれか1つ以上とも相関し得る。
【0118】
また、本明細書に記載のタンパク質に対し特異的に結合する抗体を検出する方法も、提供されている。これらの方法は、例えば、動物が本明細書に記載のタンパク質に対し特異的に結合する抗体を有するかどうかを検出するうえで、及び動物が本明細書に記載のタンパク質とエピトープを共有するタンパク質を発現する微生物に起因する病態を有し得るかどうかを診断するうえで有用である。そのような診断システムは、キットの形態とされる場合もある。本方法は、本明細書に記載のタンパク質含有の調製物に抗体を接触させることにより、混合物を得ることを含む。抗体は、血液、乳汁または初乳のような、生物学的サンプル中に存在する場合がある。本方法は、タンパク質に対し抗体が特異的に結合するのを可能にする条件下で、混合物をインキュベートすることにより、タンパク質:抗体複合体を形成することを更に含む。本明細書中に用いられている「タンパク質-抗体複合体」という用語は、抗体がタンパク質に対し特異的に結合したときに結果として生ずる複合体を指す。また、本明細書に記載のタンパク質を含む調製物には、タンパク質:抗体複合体の形成に適した条件を提供する、緩衝液などの試薬を含める場合もある。次いで、プロテイン抗体複合体が検出される。抗体の検出は、当該技術分野において公知であり、例えば免疫蛍光またはペルオキシダーゼを含む場合がある。本明細書に記載のタンパク質に対し特異的に結合する抗体の存在を検出するための方法は、抗体を検出する目的に使用されてきたラジオイムノアッセイ及び酵素結合免疫吸着アッセイをはじめとする、様々な形式で使用できる。
【0119】
キット
また、キットも提供されている。一実施形態において、キットは、本明細書に記載のタンパク質に対し特異的に結合する抗体を検出することを目的としたものである。検出された抗体は、グラム陰性微生物に起因する感染症を有することが疑われる動物から得ることが可能である。別の実施形態において、キットは本明細書に記載のタンパク質を検出することを目的としたものである。更に別の実施形態において、キットは、例えば、本明細書に記載のタンパク質を用いて、抗体を産生すること、病態を治療すること、または感染症を治療することを目的としたものである。
【0120】
本キットは、本明細書に記載のタンパク質のうちの少なくとも1つ(例えば、1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つなど)、または好適なパッケージング材料中の本明細書に記載の抗体を、少なくとも1つのアッセイもしくは使用に十分な量にて具備する。また、任意に、緩衝液及び溶液など、他の試薬を含めてもよい。例えば、本キットはまた、試薬も含み得る。この試薬は、本明細書に記載のタンパク質に対し特異的に結合する抗体(例えば、動物から得られる抗体に特異的に結合するように設計され、検出可能に標識された二次抗体など)の検出を可能にする。
また、パッケージされた抗体またはタンパク質の使用指示書も、付属しているのが一般的である。本明細書中に用いられている「パッケージング材料」という語句は、本キットの内容物を収容するために用いられる1つ以上の物理的構造を指す。パッケージング材料は、概して、汚染物フリーの無菌環境が提供されるように常法で作製されている。パッケージング材料には、本明細書に記載のタンパク質に対し特異的に結合する抗体を検出する目的に、または本明細書に記載のタンパク質を使用する目的に、タンパク質を使用可能であることを指示するラベルを付けることができる。加えて、パッケージング材料には、本キット中の材料の使用法を指示する指示書も収録されており、抗体の検出、または動物に対するタンパク質投与が可能になっている。本明細書中に用いられている「パッケージ」という用語は、タンパク質及び他の試薬(例えば、二次抗体)を一定範囲内に保持できる、ガラス、プラスチック、紙、ホイルなどのような容器を指す。それゆえ、例えば、パッケージを、マイクログラム量のタンパク質が付着されたマイクロタイタープレートウェルとしてもよい。また、パッケージに、二次抗体も収録されている場合もある。「使用指示書」には通常、試薬濃度、または混合される試薬とサンプルの相対量、試薬/サンプル混合物の維持期間、温度、緩衝液条件などのような少なくとも1つのアッセイ方法パラメータを記述した、実体的な表現が含まれる。
【0121】
本発明を、下記実施例によって例証する。特定の実施例、材料、量、及び手順は、本明細書に記載の本発明の範囲及び趣旨に従って広く解釈する必要のあることを理解すべきである。
【実施例】
【0122】
実施例1
型株の選択及び調製
Pasteurella multocida株X-73、P-1059及びP-1662は、それぞれ血清型A:1、A:3及びA:4に対する基準株である。また、血清型1、3、及び4は、それぞれ血清型1、3、及び4とも呼ばれる。これらの菌株をそれぞれ凍結乾燥培養物として、USDA National Veterinary Services Laboratory(NVSL)(Ames,IA)から入手した。培養液を滅菌食塩水中に再懸濁させ、単離用に、滅菌接種用ループを用いてトリプチカーゼ大豆寒天(TSA)+5%ヒツジ血液(Becton Dickenson,Sparks MD)上に画線し、37℃で一晩インキュベートした。無菌接種ループを用いて、プレートからいくつかの単離したコロニーを選び取り、凍結保存の目的で、ポリスチレンビーズ含有のクライオバンクチューブ(Copan diagnostics,Murrietta CA)に移した。その後、クライオバンクチューブを-60℃未満で貯蔵した。
【0123】
実施例2
Pasteurella multocida分離株の調製
Pasteurella multocidaの血清型3×4は当初に、パスツレラ症の臨床徴候を示した自然界条件下にて、44週齢のシチメンチョウ繁殖鶏の肝臓及び肺から単離されたものであった。分離株をトリプシン大豆寒天培地(TSA)+5%ヒツジ血液上に播種した。この生体を、初回分離後に、非動物由来のトリプチケースソイブロス(naTSB)(EM Science,Darmstatd,Germany)(18μg/mlの2,2’-ジピリジル(DP)(Sigma Aldrich,St.Lois,MO)及び酵母エキス6g/1(Becton Dicokenson,Sparks,MD)を補充したもの)に5回通した。概略説明すると、コロニーを採取し、500mlのnaTSB中に接種し、毎分105回転(RPM)に設定された卓上振盪機上で、培養物を37℃にて16時間25分間インキュベートした。翌朝、25mlの一晩培養物を500mlの新鮮なnaTSBに移し、同じ温度にて撹拌しながら8時間インキュベートした。5mlの培養物を500mlの新鮮なnaTSBに移し、上記と同じ条件下で15時間インキュベートした。この培養液50mlを500mlの新鮮なnaTSBに移し、同じ方法で4時間かけてインキュベートした。naTSB900mlをそれぞれ含有する4本のボトルに、それぞれ先行の培地を100mlずつ接種し、3時間45分かけてインキュベートした。培養物4リットルを無菌的に500mlのNalgeneジャーに分注し、BeckmanモデルJ2-21遠心分離機(Beckman Coulter,Brea CA)で3500rpmまたは約1350×gにて20分間遠心分離させて、細菌細胞をペレット化した。上清を吸引により無菌的に除去し、凍結保存剤として20%グリセロールを含有する総量500mlのnaTSB中に、細胞ペレットを再懸濁させた。次いで、細胞懸濁液をバイアル243本に、1バイアル当たり2mlずつ分注して、-60℃未満で凍結させた。この冷凍マスターシードは、MS061130と命名された。
【0124】
上記の冷凍マスター種子から作業用種子を調製した。概略説明すると、凍結種子1~25μlを、6g/lの酵母抽出物を含有する修飾トリプトースホスフェートブロス(mTPB)100ml内に接種した。540nmまたは630nmに設定されたSpectronic 20D分光光度計(Thermo Fisher Scientific,Mississauga,Ontario,Canada)上で、培養物が0.6~0.8の光学密度(O.D.)に達するまで、培養物を卓上振盪機上で37℃にて13時間インキュベートした。18μg/mlの2,2’ジピリジルを補充された90mlのmTPB中に、培養物10mlを移して、撹拌しながら37℃にて2~3時間インキュベートした。上記と同じ方法で、培養物を更に2回移して成長させた。培養物がO.D.0.8に達したときに細胞を約3500rpmにて20分間遠心分離させ、上清を吸引により無菌的に除去して、培養物を元の容量の新鮮mTPB中に再懸濁させた。最終濃度が20%に達するように、滅菌グリセロールを加えた。培養物を十分に混合し、滅菌極低温バイアルに1バイアル当たり2ml分取して、-60℃未満で凍結貯蔵した。
【0125】
実施例3
金属調節タンパク質の製造
Pasteurella multocida型株(X-73、P-1059、及びP-1662)及び実施例2のワクチン候補株(MS061130)を、差次的な膜タンパク質発現を呈するように、鉄制限条件及び鉄充足条件で成長させた。
【0126】
実施例1からの凍結型株培養物、及び実施例2からの作業種子単離物の各々を、10mlのブタ脳心臓注入ブロス(BD-Difco,Sparks MD)+ 6gの酵母抽出物(pBHI)中に接種してから、撹拌しながら37℃にて一晩インキュベートした。培養液のうち2つはブロス中で直接的に成長しなかったので、まずTSA+血液寒天プレート上に接種してから、37℃にて一晩インキュベートした後、コロニーをpBHIに移した。一晩培養された培養物各5mlを、鉄充足条件または鉄枯渇条件に対して、それぞれ20μg/mlのFeCl3もしくはDPを含有する新鮮なpBHI100mlに移した。培養物を、卓上シェーカー(Barnstead,Dubuque IA)上で撹拌しながら37℃にて7時間30分インキュベートした。インキュベーション後に、ボトルが白濁したことから、力強い成長が示唆された。次いで、培養物50mlを、FeCl3またはDPのいずれかを含有する500mlの新鮮pBHIに移してから、撹拌しながら37℃で15時間インキュベートした。
【0127】
培養物を処理し、外膜タンパク質を単離した。概略説明すると、JA-10ローター装備のBeckmanフロアモデル遠心分離機で、培養物を約11,000×gにて20分間遠心分離させた(Beckman Coulter,Brea CA)。上清を傾瀉させて破棄した。7.26グラム/リットルのトリス塩基及び0.93グラム/リットルのEDTA含有の浸透圧ショック緩衝液(OMS)35ml中に、細胞ペレットを再懸濁させ、pHを8.5に調整して、細胞懸濁液を-80℃で3時間凍結することにより、細胞壁構造の減弱化を助けた。次いで、細胞懸濁液を解凍し、氷水浴なかで90秒間超音波処理し(Branson sonifier,モデル102c)(Branson Ultrasonics,Danbury,CT)、破壊された細胞懸濁液が過剰に加熱するのを防止した。細胞残屑を、約37,000×gにて20分間遠心分離することにより、除去した。保持された上清に、ラウロイルサルコシルナトリウムを添加し、3%v/vの濃度に達したら、タンパク質懸濁液を4℃で18~24時間かけて、わずかに撹拌しながら可溶化させた。不溶性膜タンパク質を、37,000×gにて少なくとも2時間遠心分離することにより収集した。トリス緩衝水中にペレットを再懸濁させ、メーカーの指示に従い、結果として得られた抗原のタンパク質含有率を、ビシンコニン酸(BCA)アッセイ(Pierce BCAタンパク質アッセイ、ThermoFisher Scientific,Waltham MA)により、測定した。
【0128】
実施例4
SDS-PAGEによる金属調節タンパク質パターンカバレッジに対する試験、及びタンパク質結合の分析
鉄制限下で成長させた各単離物由来の細胞抽出物を、4%濃縮用ゲル及び10%分離用ゲルを用いて、SDS-PAGEゲル上でサイズ分画させた。4分間煮沸した30μlのSDS還元サンプル緩衝液(62.5mM Tris-HCl(pH6.8)、20%グリセロール、2%SDS、5%β-メルカプトエタノール)とサンプル30μgとを混合することによって、電気泳動用サンプルを調製した。標準的な方法に従い、各抽出物のサンプルを10%SDS-PAGEゲル上で分離させ、クマシーブルー染色により明視化した(
図1)。ワクチン候補株(MS061130)を、SDS-PAGEゲル上の型株と比較した。66~116kDaの間の領域における、バンディングパターンに特に注目した。ワクチン候補株は、
図1に示すような、型株と重複するバンドを実証しており、更なる防御研究のための有力候補であると考えられた。
【0129】
実施例5
金属調節タンパク質の製造
抗原A及び抗原Bと命名された、Pasteurella multocidaの単一のMaster Seed MS061130株を用いて、2つの別々の抗原組成物を生産規模にて調製した。この調製を実施することにより、製造プロセスの一貫性を評価した。
【0130】
発酵
実施例2の作業用種子の極低温バイアルを30~35℃で10~15分間解凍し、解凍した細胞懸濁液0.1mlを37℃のmTPB250mlに添加した。70rpmに設定された卓上振盪機上で、培養物を37℃にて6.5時間インキュベートした。インキュベーション後に、培養物25mlを300mlのmTPBと18μg/mlのDPに移して鉄を制限した。この第2の培養物を、70rpmで振盪させながら37℃で約2時間インキュベートした。培養物250mlを上記の培地3リットル中に移し、(540nmにて測定された)ODが1に達するまで70rpmで振盪させながら37℃で約3時間インキュベートした。全培養物を使用して、70リットルのmTPB+18μg/mlのDP及び0.5ml/消泡剤1個(MAZU DF 204 Chem/Serv,Minneapolis,MN)を充填した130リットルの発酵槽(Bio-Service,Easton,PA)に接種した。発酵のパラメータは以下の通り:自動撹拌制御及び気流スパージを、毎分60リットル(LPM)及び1平方インチ当たり5ポンド(PSI)の背圧に設定することによって、溶存酸素(DO)を20%(目標15~30%)に維持した。溶存酸素を20%に制御することにより自動的に制御し、培養物を撹拌しながらインキュベートした。50%水酸化ナトリウムまたは10%塩酸を自動滴定することにより、pHを6.9~7.1の間に自動的に制御した。温度を37℃に維持した。Beckman DU600分光光度計(Beckman Instruments,Fullerton,CA)で測定して540nmにて光学濃度が4.21に達するまで、このようにして培養物を約5時間成長させた。増殖培養物全体を、上記のように989lのmTPB+DP及び消泡剤を充填した1200リットルの発酵容器(New Brunswick Scientific,Edison,NJ)に移した。発酵条件は以下の通り:気流を300LPMに設定し、背圧を5PSIに設定した。まず撹拌を100RPMに設定し、次いで20%溶存酸素設定値(15~30%の範囲)により制御した。培養物を更に5時間成長させる。遂には、1:100希釈で1.5時間かけて成長をプラトーに到達させることにより、光学密度測定により540nmにて約2.5と測定され、成長が安定となる。培養pHを8.7に調節し、温度を23℃に調節することによって、採取まで成長を中断させた。
【0131】
採取
接線流濾過によって、細菌細胞を収集した。2つの30ft2 Alpha 300-Kオープンチャンネルフィルター(カタログ番号AS300C5)装備のPall Filtron Tangential Flow Maxisette-25(Pall Filtron Corporation,Northboro,MA)、カタログ番号AS300C5(Pall Filtron)を、約44Hzに設定されたWaukesha Model U-60フィードポンプ(Wakesha Chemy-Burrell,Delevan,Wis.)に接続し、これを使用して、細菌発酵物を濃縮し、洗浄した。元の培養液量1078リットルを、フィルター入口圧力30psi及び残留物圧力12~14psiを用い、プロセスタンク(Lee Industries,モデル2000LBDT)に注入して、約100リットルに減少させた。保持液(100リットル)を、7.26グラム/リットルのトリス塩基と0.93グラム/リットルのEDTAとを含有する無菌の浸透圧衝撃緩衝液(OMS)を用いて200リットルに調整し、pHを8.5に調整した。OMS中のEDTAは、細胞壁からLPSを除去するのに役立つ一方、pHを上昇させることで、凍結及び破砕後のタンパク質分解の多くを防止する。pHを上昇させる代わりに、またはそれに加えて、プロテアーゼ阻害剤を使用してもよい。保持液を濃縮して約65リットルに戻し、系を20リットルのOMSでフラッシュした。ボトムマウント磁気駆動ミキサーを使用して、200リットルタンク中で、保持液を完全に混合した。
【0132】
保持液をバイオセイフティキャビネット内の4リットルの滅菌NALGENEコンテナ番号2122に無菌的に分取(3.5リットル)し、貯蔵用に-20℃の冷凍庫に入れた。細菌ペレットを凍結すると、細胞壁構造の脆弱化が助長され、下流の破砕が効率化されることになる。発酵培養物のサンプル30mlを遠心分離させ、最終採取することにより、ペレット質量を計算した。概略説明すると、JA-21ローター(Beckman Instruments,Palo Alto Calif)を用い、予備秤量された50mlのNALGENEコニカルチューブを、BECKMAN J2-21遠心分離機で39,000×gにて90分間遠心分離させた。実験の終了時点で、上清を破棄してチューブを再び秤量した。ペレット質量をステージ毎に計算した。発酵プロセスで、湿潤ペレット塊3.7キログラムが生じた。
【0133】
細菌採取のための代替方法を使用してもよい。細菌採取を行う際に、中空糸フィルター法が用いられる場合もある。細菌培養物の採取には、0.6μM~750kDaの範囲のサイズのフィルターカートリッジ、好ましくは750kDaカートリッジが使用される。培養液を1/2~1/20に減量し、続いて透析濾過により緩衝液で1~5回洗浄した後、4℃で保存するかまたは-20℃で凍結した。このようにすると、所望されない培地タンパク質、細菌タンパク質及びLPSが、培養物から除去される。別の代替法では、細菌採取を行う際には、例えばディスクスタック遠心分離機を使用するといったように、産業規模の遠心分離が用いられる。
【0134】
破砕
凍結細菌細胞スラリーのOMS混液65リットル(ペレット塊3.7kg)を、4℃で解凍した。各容器からの液体培養懸濁液を、150リットルのジャケット付きプロセスタンク(Lee,Model Style U)の蒸気中に無菌的に吸引した。細胞懸濁液をホモジナイズして破砕した。概略説明すると、細菌懸濁液を含有する150リットルタンクを、AvestinモデルEF-C500Bホモジナイザー(Avestin,Inc.Ottawa,ON,Canada)に接続した。トップマウントミキサー(Eastern、Model TME-1/2、EMI Incorporated、Clinton、CT)装備の250リットルジャケット付きプロセスタンク(空)(Lee、モデル259LU)をホモジナイザーに接続し、プロセスタンク内の流体を、ホモジナイザーに通して空のタンク内に元通りに収容する。これにより、この流体を複数回にわたってホモジナイザーを通しながら、依然として閉鎖系を維持することが可能となる。均質化中の温度を4℃に維持した。通過開始時に、流体をホモジナイザー(500ガロン/時)に通し、Waukeshaモデル10DOポンプ(Waukesha)を介して60psiにて循環させ、元のタンクに戻した一方、ホモジナイザーの圧力を15,000psiに調整した。均質化に先立って、均質化前のサンプル2つをホモジナイザーから取り出し、破砕度を特定してpHモニター用にベースラインを確立した。破砕度を透過率(540nmにて1:100希釈時の%T)によりモニターし、均質化されていないサンプルと比較した。1:100希釈では、開始時の%Tが86.65であった。細胞スラリーをホモジナイザーに1回通した。結果として得られた%Tは、1:100希釈で89.9であった。
【0135】
ホモジナイズした後、ラウロイルサルコシン酸ナトリウム1リットル(Hamposyl L-30,Chem Serv,Minneapolis,MN)を均質化スラリー81リットルに無菌的に通して可溶化させた。ジャケット付き容器をホモジナイザーから取り出し、30%のミキサー速度で5℃にて混合しながら、チラーループに保持した。29時間後に、ホルムアルデヒド121mlを防腐剤として加え、続いて2リットルのOMSで洗浄した。可溶化を合計46時間16分かけて続行した。この期間は、可溶化を完了するうえで重要とされた。高pH(8.0~8.5)にてOMSの可溶化時間を長くすると、金属調節タンパク質が凝集して大きな不溶性凝集塊を形成することが、発見された。この不溶性凝集塊は、遠心分離によって容易に除去された。
【0136】
タンパク質採取
可溶化プロセス流体内の凝集した金属調節タンパク質を、T-1 SHARPLES(Alfa Laval Separations,Warminster,PA)を用い、遠心分離によって収集した。概略説明すると、可溶化ホモジネートのタンクを、11psiにて供給速度170ml/分で12台のSharplesに給送した。Sharplesのボウルに収集された、大型の細胞残屑と細胞壁材料とから成る、初回通過タンパク質を破棄した。流出液を閉鎖滅菌ループに通し、第2の250リットルジャケット付きプロセスタンク内に収集することによって、この流出液を遠心分離機に複数回通しながら、閉鎖系を維持することが可能になる。遠心分離中の温度を4℃に維持した。可溶化ホモジネートを、給送速度150ml/分及び圧力21PSIにて、更に7回遠心分離機に通し、通過させるたびにタンパク質を収集した。タンパク質を回収して再懸濁させ、トリス緩衝液(pH8.5)7.46リットル中に分取した。ホルムアルデヒド25ml(Sigma)を防腐剤として加え、0.3%濃度に到達させた。
【0137】
タンパク質採取のための代替方法を使用してもよい。例えば、所望されるタンパク質を採取する際に、中空糸フィルター法が用いられる場合もある。タンパク質の採取には、5kDa~0.2μMのサイズの範囲のフィルターカートリッジ、好ましくは50kDa~750kDaのカートリッジが使用される。培養液を1/2~1/20に減量し、続いて透析濾過により緩衝液で1~5回洗浄した後、4℃で保存するかまたは-20℃で凍結した。
【0138】
透析濾過
タンパク質懸濁液を4℃での透析濾過により洗浄し、タンパク質に結合された可能性のあるあらゆる混入サルコシンを取り除いた。概略説明すると、タンパク質8640mlを、回転するボトムマウントDaytonミキサーモデル2Z846(Dayton Electric,Chicago,Ill.)を備えた無菌トリス緩衝液(pH8.5)50リットル含有の200リットルプロセスタンク内に無菌的に125回転/分にて吸引した。Waukesha Model U30フィードポンプに接続された25平方フィートのスクリーンチャンネルシリーズAlpha 10K Centrasetteフィルター(Pall Filtron)装備のMILLIPORE PELLICON TANGENTIAL FLOW FILTERアセンブリ(Millipore Corporation)に対し、プロセスタンクを無菌的に接続した。タンパク質溶液59リットルにTBWを添加して150リットルにし、35リットルに濃縮させて、110リットル容量のTBWとした後、最終抗原容量を10.4リットルに濃縮した。タンパク質濃縮物を、4リットルの滅菌NALGENE容器に無菌的に分取(3.5リットル)し、貯蔵用に-20℃の冷凍庫に入れた。
【0139】
このプロセスは、LPS含量が低く、且つサルコシン残基の含量が殆どゼロ乃至ゼロである金属調節タンパク質を含有する組成物を製造した。タンパク質を、純度及びバンディングプロファイルについてSDS-PAGEにより調べ、また細菌混入、残存サルコシン及びLPSについても調べた。完成品のバンディングプロファイルは、電気泳動により調べたところ、一貫したパターンを示した。ヒツジ赤血球(5%)を寒天ベース(1.5%)に組み入れた改良寒天ゲル拡散試験を用いて、本組成物のサルコシン試験を実施した。ウェルを寒天に切り込み、最終製品のサンプルを、0.05%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、1.0%及び2.0%の濃度のサルコシンの対照サンプルと共にウェルに入れた。ゲルを25℃で24時間インキュベートし、溶血度を対照と比較して決定した。このプロセスでは、0.05%未満のレベルの検出可能なサルコシンを除去し、この濃度では対照サンプルにおいて最小限の溶血を示した。LPSの濃度は、商標名PYROTELL(Associates of Cape Cod,Inc.,East Falmouth,Mass.)で入手可能なリムルスアメーバ様細胞溶解物(LAL)試験により調べる。
【0140】
実施例6
Pasteurella multocidaから得られた免疫化組成物の調製
同じ抗原からなる3つのワクチン系列を、実施例5のマスターシードMS061130から調製した。注記:2つの別々の発酵プロセスを表す2つの抗原調製物を用いて、抗原A及び抗原Bと命名された2つの抗原ロットを調製した。こうして、抗原Aと抗原Bの混合物を用いて第1のワクチン系列を調製し、抗原Aのみを用いて第2のワクチン系列を調製し、抗原Bのみを用いて第3のワクチン系列を調製した。
【0141】
抗原A、B及びA+Bからなるワクチン組成物を、以下の成分:44.44%水性タンパク質懸濁液を0.1%正規化食塩水中に溶かしたもの(1ニワトリ用量当たり150μgタンパク質に標準化)50%Drakeol 6鉱油(VOPAK USA,Inc,Kirkland,WA)、3.0%Span85及び2.56%Tween85(Ruger Chemicals,Hellside,NJ)で調製した。概略説明すると、鉱油とSpan85とを混合し、高速乳化装置(IKAモデルProcess pilot 2000/4または同等品)を備えた容器に分取した。抗原、Tween85及び0.1%ホルマール食塩水を、第2の容器に分取した。乳化装置を60hzに設定し、水溶液を7℃に予備冷却した油中にポンプ輸送した。ワクチンを連続的に撹拌しながら、滅菌ボトルにポンプ注入した。
【0142】
実施例7
ニワトリのワクチン接種
レグホン型特異的病原体フリー(SPF)ニワトリ(Hy-Vac,Adel,IA)に実施例6の組成物をワクチン接種した。概略説明すると、11週齢の(WOA)特定病原体フリー(SPF)レグホンニワトリ74羽を入手し、1週間順応させた後で、ワクチン接種した。トリを抗原A+B(トリ21羽)、抗原A(トリ21羽)、抗原B(トリ21羽)、と称される3つの群及び非ワクチン接種対照群(トリ11羽)に分類した。トリは色付きの脚バンドで識別されていた。抗原A+B群、抗原A群、及び抗原B群における、12週齢の全てのトリの胸部に、適切なワクチンを0.25ml筋肉内接種した。ニワトリ11羽の群は、ワクチン非投与とし、対照群としての役目を果たした。15週齢の時点で、または第2のワクチン接種後21日目に、ワクチン接種を受けた全てのトリを対象として、第2のワクチン接種を施した。
【0143】
実施例8
抗原曝露生物の調製及び投与
抗原曝露の1日前に、実施例1のPasteurella multocidaのX-73株の極低温ビーズ1つを凍結ストックから無菌的に取り出し、5%のヒツジ血液を含有する2つのTSA IIプレート(Becton Dickenson)に広げた。次いで、これをコロニー分離用に画線した。プレートを37℃にて16~19時間インキュベートした。第2のワクチン接種後14日目または14日を経た時点で、ヒツジ血液寒天プレートからのいくつかのコロニーを血液プレートから掻き取り、滅菌13×100試験管中に懸濁させた。コロニーを添加するか、または懸濁液をトリプトースブロスで希釈し、Spectronics 20D(ThermoFisher)分光光度計を使用して、630nmにおける透過率(%T)として71~75%が得られた。懸濁液をトリプトースブロス中で1:100,000の希釈率になるまで連続希釈した。この希釈物を抗原曝露用に血清バイアルに分取した。
【0144】
各ワクチン接種群のニワトリ(1群当たり20羽)、及び対照群のニワトリ10匹に対し、上記希釈された抗原曝露物0.5mlをそれぞれ胸部に筋肉内接種した。この時点で、ワクチン接種群及び対照群から追加のニワトリが除去された。
【0145】
実施例9
抗原曝露の結果
図2に示されている結果は、3回連続して実施された3通りの個別の抗原曝露研究の平均値である。抑制率(PF)という用語は、リスク比(RR)の補数であり、保護因子の予防的役割、または実施された介入プログラムの予防的奏功を示す表現として、疫学者に使用されてきて久しい(Miettinen,1974,Am J Epidemiol 99:325-332)(Field Epidemiology,Oxford University Press,2002,ppl47-7)。抑制率PF=1-p2/p1(式中、p2=ワクチン接種群における罹患率、及びp1=非ワクチン接種群またはプラセボ群における罹患率)。獣医用コレラワクチンは、PF53%以上、好ましくは62.5%以上を日常的に実証するものであると予期されている。ワクチンのPFが53%未満の場合、防御能を有することが実証されている。
【0146】
表1は、
図2からの死亡率データ、及び
図2の抗原Bに対する抑制率についての計算を示す。ワクチンの有効率(すなわち抑制率)は、30%であると計算された。この30%とは、ワクチン接種を受けなかった場合に発生した可能性のある症例の30%が、ワクチン接種を受けたトリの間ではワクチン接種によって予防されたことを示唆するものである。抗原A及びA+Bについてこれらの計算を繰り返して、各ワクチンについて抑制率を得た。
【表1】
【0147】
ワクチン接種と対照との間の差分は、3つのワクチン接種群のうちの2群に対して有意である(p<0.05)が、抑制率は、抗原1、抗原2、及び複合抗原に対してそれぞれ53%、30%、及び44%であった。このワクチンは、或る事例において53%PFレベルを満たした反面、終始一貫した実証は不可能であったので、市販の家禽コレラワクチンとしての効力は不十分とされる。実施例4で観察されたバンディングプロファイルに基づいて、発明者らは防御が極めて良好となることを予期した。残念なことに、観察された防御は、予想を下回っていた。これらの予期せぬ結果から判るように、
図1に示すようなSDS-PAGEゲル上で視覚的に重なり合うように見えるバンドは、所望される保護レベルを付与するうえで十分ではない。
【0148】
実施例10
公知のゲノム分析
現在公知のゲノムを対象に、有望な金属調節タンパク質に関する調査が実施された。Pasteurella multocidaのいくつかの株は、パブリックドメイン内で利用可能な完全または部分的ゲノム配列を有する。タンパク質配列及び注釈データのための包括的なリソースが、Universal Protein Resource(Uniprot)である。このデータベース内には、検索の時点で、血清型1の基準株X-73及び血清型3の基準株P-1059の全配列データまたは部分配列データが存在していた。これらの生物の各々について、分子量が50キロダルトン~150キロダルトンの間で、鉄摂取に関する注釈リファレンスが付された全てのタンパク質を対象として、データベース検索を行った。同定されたタンパク質を、系統立てて表の形に編成した(
図3)。表中、類似性が95%以上の異種株どうしが、一体的にグループ化されている。これらの株の間では、14通りの別個のタンパク質が同定された。
【0149】
それらのタンパク質を、MALDI-TOF分析により同定された以前のワクチン候補(MS061130)の発現済み金属調節タンパク質と比較した。鳥類に由来する他のPasteurella multocida株の更なるゲノムにおいて同定されたタンパク質のうち、ワクチン候補には存在しないと思われるタンパク質には、8通りが存在した(
図3及び
図4を参照)。
【0150】
これらの結果によって実証されたように、Pasteurellaの追加的な株に関するゲノム分析によって同定された所望される7種のタンパク質が、我々のワクチン候補(MS061130)には欠落している可能性があった。これと同じ観察は、実施例9で使用された抗原曝露株のゲノム分析においても見られた。この抗原曝露株には、MS061130ワクチン候補に存在していなかった7通りのタンパク質サブセットも存在していた。ゆえに、実施例6~9に記載のワクチン株は、抗原曝露株に存在していた7つのタンパク質を欠いていた(
図3)。
図4のベン図には、関連する抗原曝露株P1059及びX73内には存在し、但しワクチン株MS061130内には存在しない、タンパク質の数が例証されている。これらの所見を基に、7通りのタンパク質サブセットの包括的シデロフォア受容体カバレッジと2つ以上の株との併用によって、防御効力度が向上するだけでなく、交差防御が血清型非依存にもなることが明らかである、と我々は仮定するに至った。
【0151】
実施例11
Pasteurella multocidaの野生株と型株における鉄制限タンパク質のバンディングパターンの比較
Pasteurella中の金属調節タンパク質に関してもっと徹底的な理解が得られるように、Pasteurella multocidaの33種の型株及び臨床野外株を鉄制限培地中で成長させ、実施例3の方法で膜結合タンパク質を処理し、精製した。結果として得られたタンパク質組成物を、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)ゲル上で、金属調節タンパク質のバンディングパターンについて分析した(Criterion TGX Stain-free gels,Bio-Rad laboratories,Hercules,CA)。個々のレーンを比較し、1次元ゲル分析プログラムであるPhoretix 1D(TotalLab,Newcastle upon Tyne,UK)を使用してグループ分けした。
図5に例証するような、バンディングパターンの類似性を示す樹状図を、Phoretix 1Dソフトウェアで作成した。型株及び臨床野外分離株の分析によって、発現された金属調節タンパク質の2つの主要パターン、角括弧[]でマークされた4バンドパターン、及び中括弧{}で示された3バンドパターンが明らかにされた。他の株は、これらの2つのパターンにバリエーションがあり、1つまたは2つのタンパク質バンドが欠落しているように見える。
【0152】
実施例12
MALDI-TOFによるタンパク質の分析
図5で観察された様々なバンドパターンの代表として、実施例11から、分離株13個を選択した。これら実施例11の分離株13個からの、75,000~115,000の分子量範囲の各タンパク質バンドを、マトリックス支援レーザー脱離飛行時間スペクトロメトリー(MALDI-TOF MS)及びペプチドマスフィンガープリンティングを用い、タンパク質同定分析用に、SDS-PAGEゲルから切り出した。ペプチド質量を、ゲノムの公知のタンパク質配列が収録されているデータベース(この場合、Uniprot)と比較した。この比較は、コンピュータプログラムを使用して生物の既知のゲノムをタンパク質に変換し、次いで理論的にタンパク質をペプチドに切断し、各タンパク質からペプチドの絶対質量を計算することによって達成された。続いて、未知のタンパク質のペプチドの質量と、ゲノム内にコードされた各タンパク質の理論上のペプチド質量との比較を行う。結果を統計的に分析し、ベストマッチを見つけた。
図6では、これらのタンパク質の同一性を、93%超の類似性でグループ化し、その結果を表に示してある。分離株13個からの合計38のバンドを分析し、7つのタンパク質のうちの1つであると同定した。
図6には、それらのタンパク質の分子量が示されている。2つの分離株(
図6に楕円で指し示めされている1121及び1135)を併用して、7通りの全てのタンパク質バンドを発現させた。これら2つの株は共に、
図6では、残りの分離株11個の全てのタンパク質を発現し、また、
図5では、同定された2つの主要バンディングパターンの代表であったことから、新規な混合ワクチン用に選択された。
【0153】
実施例13
Pasteurella培養種子の調製
実施例12及び
図6からのPasteurella multocida株1121及び1135のマスターシードストックを調製した。株1121は血清型3×4として同定され、株1135は血清型2×5として同定された。これらの分離株は、トリパスツレラ症で死亡したシチメンチョウから単離されたものである。典型的には、肝臓及び肺の標本を綿棒で集めて、結果として得られたスワブを5%ヒツジ血液寒天プレートに画線し、37℃にて24時間インキュベートした。6g/lの酵母抽出物及び12ug/mlのDPを含有するpBHI中に分離株を接種することによって、マスターシードを調製した。次いで、培養物を18μg/mlのDP含有の上記培地に連続的に移し、更に5回通過させて、有機体を鉄制限環境に適応させ、目的タンパク質の成長及び発現を最大限に高めた。培養物を7,000rpm(Beckman Coultier,Brea,CA)で30分間遠心分離によって濃縮し、20%グリセロール(凍結防止剤として)を含有し但しDP不含の新鮮なpBHI中に再懸濁させた。結果として得られたマスターシードを、3mlのクライオバイアル中に2.2ml容量ずつ等分し、-60℃以下で貯蔵した。分離株に、識別番号PM1121、20140911及びPM1135、20140925を付与し、それぞれマスター種子MS1121及びMS1135として確立させた。その後、マスター種子を、金属規制タンパク質の生産に用いられる作業用種子に展開した。
【0154】
実施例14
金属調節タンパク質の製造
制御された発酵条件下でPasteurella multocidaを成長させることで、外膜と会合したタンパク質をはじめとするタンパク質を発現させることが可能である。その後、細菌を採取することにより、タンパク質を単離し、精製して、組成物中の免疫原として使用できる。
【0155】
発酵:
実施例13の1135株の作業用種子の極低温バイアル(109CFU/mlにて1ml)を使用して、酵母抽出物6g/1(BD)含有の37℃改良ブタ脳心臓注入培地(pBHI)300ml(BD Difco)に接種した。培養物を30~400rpmで5時間振盪しながら35~38℃でインキュベートし、その時点で22ug/mlのDP含有の修飾pBHI1500mlに移して、利用可能な鉄を制限する。培養物を、光学濃度が0.6以上に達するまで、37℃で2時間38分間インキュベートした。全培養物を、18リットルフラスコ中の修飾pBHI15リットル+22ug/mlのDPに移した。この培養物を約2時間30分インキュベートし、540nmで0.75の光学密度に達した。次いで、培養物を、鉄制限を維持するためDP22μgを有する修飾pBHI270リットルと、炭素源として1リットル当たり40mlの50%グルコース溶液とを含有する300リットルの発酵槽に移した。培養物を撹拌しながら35~38℃でインキュベートし、溶存酸素含有率を30%以上に維持することにより制御した。培養物を、Beckmanシリーズ600分光光度計で測定して、光学密度約5.4まで成長させた。発酵の終了時に、培養物のpHを8.5以上に調整し、温度を15℃以下に調整した。
【0156】
全細胞の採取:
2つの30ft 2 Alpha 300-Kオープンチャンネルフィルター(カタログ番号AS300C5)装備のPall Filtron Tangential Flow Maxisette-25(Pall Filtron)を、約44Hzに設定されたWaukesha Model U-60フィードポンプ(Waukesha Chemy-Burrell,Delevan,Wis.)に接続し、接線流濾過により、全細胞細菌懸濁液を約1/10の体積に濃縮した。培養物をトリス緩衝食塩水で更に洗浄し、次いで全細胞懸濁液約45リットルに濃縮した。細胞懸濁液の副サンプルを乾燥させ、秤量して最終的な乾燥ペレット重量を得た。次いで、最終的な全細胞懸濁液を-20℃で凍結した。
【0157】
全細胞の破砕:
全細胞懸濁液を5~7℃で3日間解凍した。全細胞の個々の容器をプールし、40%に設定したミキサー付き滅菌タンク中で混合した。液体細胞懸濁液を均質化により破砕した。概略説明すると、懸濁した全細胞を、15,000~18,000ポンド/平方インチ(PSI)の圧力で、Avestinホモジナイザー、モデルEmulsiflix C500B(Avestin,Inc.,Ottawa,Canada)に2回通し、遂には、Beckmanシリーズ600分光光度計(Beckman Instruments,Brea,CA)で、ホモジネートの1:100希釈率を80%透明度(540nmにおける%T)に到達させた。第2のプロセスタンクをホモジナイザーに接続し、閉鎖系を維持しながら、流体をホモジナイザーに複数回通して往復させてもよい。ラウロイルサルコシン酸ナトリウム(Hamposyl L-30,Chattem Chemicals,Chattanooga,TN)を、破砕した細胞ホモジネートに3%容量/容量で加えて、細胞膜及び非膜タンパク質を可溶化した。2~7℃にて約72時間可溶化を続行した。11PSIに設定されたSharples T1連続遠心分離機を用いた遠心分離により、細胞残屑を取り除いた。
【0158】
タンパク質採取:
タンパク質懸濁液を、連続洗浄接線流濾過により、0.2%ホルマリン含有のトリス緩衝水(TBW)(pH7.4)800リットルで洗浄した(Maxisette 300kDa filter,Pall corp,NY,NY)。タンパク質を、ホルマリンと10%エタノールとを含有する100リットルのTBWで更に洗浄した。エタノール洗浄後、タンパク質懸濁液を200リットルのTBW+ホルマリン(0.2%)で更に洗浄して、エタノールを除去した。残存TBWを系から洗い流したとき、最終抗原容量が約20リットルになるまで、連続濾過によって容量を減少させた。次いで、最終抗原ロット1135-A0001を、33℃にて93時間連続混合しながら、0.2%ホルマリンで不活性化した。
【0159】
株1121の作業用種子を用いて、抗原ロット1121-A0001を株1135と同じ方法で調製した。
【0160】
実施例15
ワクチンの調製
実施例14で調製された抗原を使用し、50%鉱油をアジュバントとして用い、実施例6に記載のTween/Spanを乳化剤として用いた、2つの20リットル水中油型ワクチンを調製した。
【0161】
概略説明すると、10,145mlのDrakeol6鉱油及び609mlのSpan85を乳化剤として、Silversonモデル150UHSLSミキサー(Silverson Machines,East Longmeadow,MA)装備の滅菌容器に加えた。ミキサーを52Hzに設定し、アジュバント相再循環を毎分2.5リットルに設定した。水相成分:Tween 85(517ml)、540mlの抗原ロット1121-A0001、1420mlの抗原ロット1135-A0001を第2の容器に加え、7010mlのリン酸緩衝食塩水(pH7.4)を20分かけてゆっくり加えた。0.25ml用量当たり100μgの全抗原(各株から50ug)及び200μgの全抗原(100μgの各株)がそれぞれ含有されるように、ワクチンを調合した。これらの2つの結合抗原は、非相同血清型保護の増強に必要とされる、実施例12及び
図6の7つのタンパク質を表す。
【0162】
実施例16
ワクチン接種及び抗原曝露モデル
実施例15で調製したワクチンを、ワクチン接種抗原曝露モデルにおいて、SPFニワトリの1型抗原曝露に対し使用した。概略説明すると、雄と雌の両方のSPFレグホンニワトリ60匹を、Valo BioMedia(Adel,IA)から入手した。ニワトリを雄雌別に分類し、メンドリとオンドリとからなり、それぞれ雌及び雄の数が等しい、トリ20羽ずつの3つの群に分けた。トリの翼帯に番号付けして識別する一方、各トリの左右の羽に同じ番号を付けて同一性を保持した。一方の群には、実施例14の200μgワクチンを0.25ml接種した。第2の群には、実施例14の100μgワクチンを0.25ml接種した。第3の群には、抗原の代わりにリン酸緩衝食塩水(PBS)中に油性アジュバントを含有するプラセボを、ワクチン接種した。12週齢及び15週齢の全てのトリの首の背後にワクチンを皮下接種し、実施例8の方法で調製された約6,000cfuの血清型1抗原曝露株X-73を、17週齢の全てのトリの乳房筋肉内に抗原曝露した。
図7に、試験結果を示す。100μg及び200μgワクチン接種群に対し、それぞれ抑制率69%及び75%、ならびにp値0.001及び0.0004以下で、防御レベルが大幅に改善されることは明らかである。これらの結果から明らかに分かるように、ニワトリワクチン接種及び抗原曝露モデルにおいて、
図6の7つ全てのタンパク質を発現する2つの抗原の組み合わせが、非相同抗原曝露に対して抑制率の増加に寄与する。
【0163】
実施例17
亜鉛及び呼吸器病原体
我々の以前の研究(データ不図示)において、我々はグラム陰性病原体の多くが、亜鉛制限下で新規なタンパク質を発現することを明らかにした。これらの細菌の多くは呼吸器病原体である。これらの病原体のいくつかとしては、Moraxella catarrhalis、Haemophilus parasuis、Mannheimia haemolytica、Acinetobacter baumannii、Pasteurella multocida、Bordetella pertussis、及びActinobacillus pleuropneumoniaが挙げられる(Stork et al.PLoS Pathogens,6(7),el 000969 2010)。これまでレポートされてきたように、この亜鉛獲得タンパク質は、細胞外壁に位置するZnuDとして現在同定されている膜貫通βバレルタンパク質であり、このZnuDは、2つのシステインを含む単一表面露出ループを利用し、ジスルフィド結合によって一体化されたとき、亜鉛イオンと相互作用し得るヒスチジンのクラスターを形成する(Stork et al.,PLoS Pathogens,6(7),el000969.2010)。それゆえ、ZnuDは、宿主生物によって隔離された亜鉛の獲得に用いられるスカベンジャータンパク質として作用する。
【0164】
これら全てのZnuD同族体には、亜鉛の結合において同定されているHis及びAspに富む領域が含まれる。これは、亜鉛獲得機序が、気道内内に常駐する細菌にとって重要であることを示唆している。ここでの説明によると、粘膜管内の未結合亜鉛濃度が低すぎるため、ポーリンタンパク質を介して細菌膜を貫通する単純な拡散が不可能であり(Stork et al.PLoS Pathogens,6(7),el000969 2010)、この理由から、ZnuDのようなタンパク質が、亜鉛を捕捉する目的に必要とされている。このスカベンジングには、非結合亜鉛だけでなく、カルプロテクチンなどのタンパク質からの封鎖亜鉛のストリッピングも含まれる(Liu et al.,Cell host & microbe,11(3),Pp227-239.2012)。この理論は、健常保因者由来のZnuDに対する回復性抗体が検出されることにより裏付けられてきた。このことは、気道内に存在する細菌によってZnuDが発現するという想定を可能にしている(Stork et al.,PLoS Pathogens,6(7),el 000969.2010)。この実験の目標は、Pasteurella multocidaの亜鉛獲得タンパク質の有効性を同定し、クローニングし、評価することであった。Pasteurella multocida内にZnuDホモログが発現する場合、この呼吸器病原体を制御できるように、現在未踏のワクチン開発を目的に、もう1つの想定し得る標的を提供する。
【0165】
実施例18
Pasteurella multocida P-1059のゲノム配列決定
本研究に用いられたPasteurella multocidaの分離株は、実施例1の基準株P-1059であった。Invitrogen by Life Technologies ChargeSwitch gDNA Mini Bacteria Kitを使用して、Pasteurella multocida分離株からゲノムDNAを単離した(Life Technologies,Carlsbad,CA,製品番号:CS11301)。ゲノムDNAの抽出に先立って、分離株の新鮮培養物を、5%ヒツジ血液含有トリプチケース・ソイ寒天培地II(Becton,Dickinson and Company,Franklin Lakes,NJ,製品コード:221261)中、37℃にて一晩成長させた。メーカーのプロトコールに従って手順を行った。最終収量33.7μgのゲノムDNAを、配列決定が為されるまで-20℃で貯蔵した。このゲノムDNAを、配列決定用にACGT,Inc.に送付した(Wheeling,IL)。Genbank基準配列CP004752及びCP004753を、分離株の全ゲノム配列のアセンブリに使用した。
【0166】
実施例19
想定し得る標的遺伝子
分離株の完全なゲノム配列を受け取った後、National Center for Biotechnology Information(NCBI)データベースを用い、tBlastnアライメントを行い、ZnuDに対する相同性に基づいて目的の遺伝子を同定した(GenBank AAF62323.1)。tblastnアラインメントで見つかった相同遺伝子によって翻訳されたタンパク質を、blastx検索を用いて同定した。同定されたZnuDホモログ及びZnuD亜鉛親和性領域を対象に、EMBOSS Matcherを使用して対配列アラインメントを行った(Rice et al.,Trends in genetics,16(6)、pp276-277.2000)。
【0167】
実施例20
亜鉛獲得タンパク質の発現
Pasteurella multocidaの亜鉛獲得タンパク質を同定することを目的に、我々は、自身の実験室において以前に同定されたMannheimia haemolyticaの亜鉛獲得タンパク質の配列を用いた。概略説明すると、TPEN(Tokyo Chemical Industry Co.,Ltd.,Portland,OR,Product code:T1487)を用いた細菌細胞成長に使用されたBacto Brain Heart Infusion,ブタ培養培地(BHI)(Becton,Dickinson and Company,Franklin Lakes,NJ,製品コード:256110)を補充することによって、標的タンパク質の発現を評価した。細菌成長中に、0~100μMの範囲にわたってTPENの滴定を用いた。種々の濃度のTPENを含有するBHI培地中に、TPEN不含のBHI中の分離株のスターターカルチャーを接種した。この接種量は、最終培養物の全容量の1%であった。細菌が特定の濃度で成長できない場合を除き、激しく撹拌しながら、培養物を、OD540が1.0になるまで37℃で成長させた。
【0168】
いったんODが1.0に到達したら、細菌を7,000×gにて10分間遠心分離することによりペレット化した。(Molloy et al.,European Journal of Biochemistry,267(10),pp2871-2881.2000)に記載されている手順に変更を加えて実施し、ペレット化した細菌に対して外膜調製を行い、外膜内の内在性膜タンパク質を単離する。細菌ペレットを、30mlの60mM Tris-HCl(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,製品コード:T3253)及び2.5mM EDTA(pH8.5)(EMD,Billerica,MA,製品コード:EX0539-3)中に再懸濁させた。次いで、al02-C変換器(Branson Ultrasonics Corporation,Danbury,CT,製品コード:101-063-198,101-47-037、及び101-135-066の各々)に取り付けられた直径1/2インチチップ付きバイオホーン装備のSonifier S-450Aアナログ超音波プロセッサーを使用して、電力設定9、デューティサイクル90にて、氷上で1分間30秒間、超音波処理によって細菌を溶解した。サンプルを39,000×g、4℃で20分間遠心分離することにより清澄化させて、大型の細胞残屑を取り除いた。内膜、ペプチドグリカン及び外膜の内部に見つからないタンパク質を除去するために、Hamposyl L-30(Chattem Chemicals,Inc.,Chattanooga,TN,製品コード:BD2099)を最終濃度1%にて上清に添加し、上下に揺らしながら4℃で16時間インキュベートする。外膜を39,000×g及び4℃にて2時間遠心分離することにより、ペレット化した。外膜ペレットを洗浄し、25mM Tris-HCl緩衝水(pH7.2)中に再懸濁させた。
【0169】
内在性膜タンパク質を、SDS-PAGEにより明視化した。電気泳動に先立って、BCA(Thermo Fisher Scientific Inc.,Rockford,IL,製品コード:23225)を実施し、等価タンパク質負荷30μgを見込んで、各サンプル内のタンパク質を定量した。サンプルを等容量にし、続いて3×負荷緩衝液(New England BioLabs Inc.,Ipswich,MA,製品番号:B7703S)を添加した。サンプルをゲル上で比較して、標的タンパク質が発現しているかどうか調べた。
【0170】
実施例21
タンパク質の同定
外膜調製物からのバンディングプロファイルを、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量スペクトロメトリー(MALDI)により分析し、目的のバンドのいずれかが、BLAST相同性により同定された遺伝子と一致するかどうかを判別した。メスを使用してバンドをゲルから切り出し、分析用にMayo Clinic Proteomics Core施設に送付した。
【0171】
実施例22
構造モデリング
Swiss Modelを用い、相同性シーケンシングに基づいて、Mannheimia haemolyticaの亜鉛獲得タンパク質の3D構造モデルを作成した(Arnold et al.Bioinformatics,(22)、pp195-201.2006).)。タンパク質モデルを作成する際に用いられたPDBテンプレートは、4epaAであった。細胞外ループ(ECL)配列位置を、Swiss Modelから入手された3D構造モデルを使用して同定した(Arnold et al.Bioinformatics,(22),pp195-201.2006).),Prediction of TransMembrane Beta-Barrel Proteins(Bagos et al.BMC Bioinformatics,5(29).2004).),Orientations of Proteins in Membranes (OMP) database and Positioning of Proteins inMembranes(PPM)server(Lomize et al.,Nucleic Acids Res,40(Database issue):D370-6.2012)。
【0172】
実施例23
ターゲット遺伝子の同定
いったん同定されたバンディングプロファイル内のタンパク質を、BLAST相同性により同定された目的タンパク質と比較した。バンディングプロファイル内の1つのタンパク質は、BLAST相同性により同定されたタンパク質と一致した。このタンパク質は、OMRファミリー外膜鉄受容体(GenBank:EDN73812.1)として同定された。この受容体は、本論文中では亜鉛獲得タンパク質とも呼ばれている。標的遺伝子は、ゲノム内のヌクレオチド1,160,319...1,162,691に位置していた。シグナルペプチドを、SignalP 4.1を用いて同定した(Petersen et al.,Nature methods,8(10),pp785-786.2011))。Pasteurella multocidaにおいて同定された亜鉛獲得タンパク質のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を、
図22に示す。
【0173】
実施例24
呼吸器病原体全体にわたる亜鉛獲得タンパク質の相同性
Mannheimia haemolyticaの獲得タンパク質の配列(データ不図示)を用いて、呼吸器病原体全体にわたる亜鉛獲得タンパク質の相同性、特に亜鉛親和性領域を、NCBIによって確立されたタンパク質ブラストサーチツールを用いて判別した。10通りの異なる種の細菌に、同一性が49%超である亜鉛獲得タンパク質ホモログが含有されていることが見出された。同定された種はいずれも、呼吸器系病原体である。Clustal Omegaを使用して、相同タンパク質をZAPの亜鉛親和性領域に整合させると、著しく類似したアミノ酸モチーフ同士が強調される。全ての同族体には、2つのシステイン、ならびに複数のヒスチジン及びアスパラギン酸が含有される。
図25では、アミノ酸モチーフが、GLAM2を用いて強調されている。システイン、ヒスチジン、及びアスパラギン酸の空間配置は、相同体全体にわたって一定のまま維持されている。
【0174】
【表2】
結果から明らかであるように、事実上、複数の呼吸器病原体は、Mannheimia Haemolyticaの亜鉛獲得タンパク質に対し或る程度の相同性を呈し、同一性は49~98パーセントの範囲に及ぶ。
【0175】
実施例25
亜鉛獲得タンパク質の発現及び識別
クローニング
Pasteurella multocida亜鉛遺伝子を、P-1059株のゲノムDNAからPCR増幅し、ギブソンアセンブリ法を用いてプラスミドベクターpQE-T7-2(Qiagen;Hilden,Germany)に挿入した。次いで、アセンブルされたプラスミドを、クローン選択及び発現用に、NEB T7 Express Competent E.coliに形質転換した(New England Biolabs;Ipswitch,MA;カタログ番号C2566H)。
【0176】
発現
50μg/mLのカナマイシンを含有するLBブロスのスターターカルチャーに、組み換えプラスミド含有のクローンを接種した。培養物を、OD540が0.6になるまで増殖させ、次いで新鮮なLBブロスに移した。新しい培養物を、OD540が0.6になるまで再び増殖させた。次いで、発現を1mM IPTGで誘導させ、更に16時間インキュベートした。細胞を遠心分離により収集し、処理を施すまで-80℃で貯蔵した。
【0177】
封入体の精製
細胞を解凍し、BugBuster Protein Extraction Reagent(Merck Millipore;Billerica,MA;カタログ番号70584-4)中に再懸濁させた。リゾナーゼバイオプロセシング試薬10μL(Merck Millipore;Billerica,MA;カタログ番号71230)を加えて、懸濁液を周囲温度で1時間インキュベートした。次いで、マイクロチップを用い、出力6、90%デューティサイクルにて、懸濁液を30秒間超音波処理した(Branson Sonifier,モデル102c;Branson Ultrasonics,Danbury,CT)。溶解物を16000×gで20分間遠心分離し、不溶性物質を収集した。ペレットを、3回(第一にBugBusterで、第二に1/10×BugBusterで、第三にトリス緩衝水で)洗浄した。8M尿素と1mMジチオトレイトールとを含有するpH8.0のトリス緩衝食塩水中に、封入体プレップを可溶化させて、組み換えタンパク質10mgを得た。
図24は、300Vで10%Criterion Stain Free-TGXゲル(Bio-Rad,Hercules,CA)上で泳動させた亜鉛獲得タンパク質の様々な発現段階を示す。この泳動には、未誘導全細胞調製物、誘導全細胞調製物、溶解細胞上清、1×BugBuster洗浄液、1/10×BugBuster洗浄液、可溶化封入体及び可溶化後のペレットを含めた。
【0178】
実施例26
ニワトリ敗血症モデルにおけるPasteurella multocidaの新規組み換え亜鉛タンパク質のワクチン媒介防御
以下の実験的研究の目的は、ニワトリ敗血症モデルにおけるPasteurella multocidaの有毒な抗原曝露に対する組み換え亜鉛タンパク質(rZinc)の防御効力を評価することにあった。実施例14で非ワクチン接種対照と比較されたPasteurella multocidaのSRP抽出組成物の有効性を、実施例25のrZincタンパク質の有効性と比較した。概略説明すると、SPFレグホンニワトリ(雄)30匹を、Valo BioMedia(Adel,IA)から入手した。ニワトリをそれぞれ、トリ10羽ずつの3つのグループに分けた。トリは色付きの脚バンドで識別されていた。処置群を、A群(プラセボ)、B群(rZinc)及びC群(Pasteurella multocidaタンパク質抽出物)と命名した。この実験においてワクチンの有効性を評価する目的に使用された結果パラメータは、非ワクチン接種のプラセボ群と比較対照された、ワクチン接種群間の総死亡率であった。全てのニワトリに、食物及び水を自由に与えた。
【0179】
実施例27
免疫組成物の調製
8.0g/lのNaCl、0.2g/lのKCl、1.44g/lのNa2HPO4及び0.24g/lのKH2PO4(pH7.4)を含有するリン酸緩衝食塩水(PBS)中で抗原を希釈することにより、実施例14及び25のタンパク質組成物からワクチン(SRP抽出物及びrZinc)を調製した。以下の成分:44.44%水性タンパク質懸濁液を0.1%正規化食塩水中に溶かしたもの、50%Drakeol 6鉱油(VOPAK USA,Inc,Kirkland,WA)、3.0%Span85及び2.56%Tween(Ruger Chemicals,Hellside,NJ)を乳化することにより、各ワクチンを調製した。ワクチン組成物(亜鉛及びSRP抽出物)毎の最終的なトリの1回分用量は250μg及び400μgであった。この用量は、それぞれ0.5ml及び0.25ml容量で投与された。抗原を生理食塩水で置換し、上記製剤0.5ml用量で用いて懸濁液を乳化することにより、プラセボを調製した。14週齢及び17週齢(21日間隔)の全てのトリに、皮下接種した。
【0180】
実施例28
抗原曝露及び結果
実施例8に記載のように調製した5450コロニー形成単位(CFU)のPasteurella multocida(血清型1)株X-73を、19週齢の時点の全てのトリに乳房筋肉内に抗原曝露した。抗原曝露後の14日間にわたって、トリの死亡率を観察した。この結果から明らかに実証されるように、Pasteurella multocidaのSRP抽出物及びrZincワクチンは両方とも有効(両方の生存率はそれぞれ100%及び50%)であり、生存率ゼロの非ワクチン接種対照とは対照的であった(
図23)。本研究における組み換え亜鉛タンパク質を単一濃度250μgで評価し、有毒抗原曝露に対して50%の生存率(p=0.0325)が示された。
【0181】
本明細書中に引用されている全ての特許、特許出願、及び出版物、ならびに電子的に入手可能な資料(例えば、GenBank及びRefSeqなどにおけるヌクレオチド配列提出;及びSwissProt、PIR、PRF、PDBなどにおけるアミノ酸配列提出;ならびにGenBank及びRefSeqにおける注釈付きコード領域からの翻訳を含む)の完全な開示は、その全体が参照により援用されている。出版物中に参照されている補足資料(例えば、補足表、補足図、補足資料及び方法、及び/または補足実験データ)も、その全体が参照により援用されている。本明細書中に参照により援用されている任意の文書の開示(複数可)と本出願の開示との間に何らかの矛盾が存在する場合、本出願の開示の方が優先されるものとする。前述の詳細説明及び実施例は、もっぱら理解を明確にすることを期して提供されているに過ぎないので、詳細説明及び実施例によって不必要な制限を理解するべきではない。当業者にとって明らかな変形例は、特許請求の範囲により定義される本発明の範囲内に含まれるので、本発明は図示及び記載されている正確な詳細だけに限定されない。
【0182】
別途指示されていない限り、明細書及び特許請求の範囲において用いられている成分の量、分子量などを表す全ての数は、全ての場合において「約」という用語により修飾されているものと理解すべきである。したがって、別途指示されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において規定されている数値パラメータは、本発明により得られるよう企図された所望の特性に応じて変動する可能性のある近似値である。少なくとも、特許請求の範囲に対する均等物の原則を限定する試みとしてではなく、レポートされている有効桁数を考慮し、通常の丸め技法を適用することにより、各数値パラメータを少なくとも解釈すべきである。
【0183】
本発明の広い範囲を規定する数値範囲及びパラメータは近似値であるにもかかわらず、特定の実施例において規定されている数値は可能な限り精密にレポートされている。一方、全ての数値には、それらの各々の試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生ずる範囲が本質的に含まれる。
【0184】
全ての見出しは読者の便宜を図ることを目的としたものであって、別途そのような指定がない限り、見出しの後に続く本文の意味を制限する目的に使用すべきではない。
【配列表】