(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】赤外吸収性樹脂組成物並びにそれを含む成形品及び繊維
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20221128BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20221128BHJP
C08K 3/24 20060101ALI20221128BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20221128BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20221128BHJP
B29C 43/00 20060101ALI20221128BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20221128BHJP
B29C 48/00 20190101ALI20221128BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L33/00
C08K3/24
C08K3/20
C08J5/00 CFD
B29C43/00
B29C45/00
B29C48/00
(21)【出願番号】P 2019572297
(86)(22)【出願日】2019-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2019005676
(87)【国際公開番号】W WO2019160109
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2018025104
(32)【優先日】2018-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】小川 直希
(72)【発明者】
【氏名】小林 文人
(72)【発明者】
【氏名】吉住 渉
(72)【発明者】
【氏名】北原 清志
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 遼
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-077575(JP,A)
【文献】特開2000-336524(JP,A)
【文献】国際公開第2005/037932(WO,A1)
【文献】特開昭62-090315(JP,A)
【文献】特開平01-229900(JP,A)
【文献】特開2006-307383(JP,A)
【文献】特開2007-002372(JP,A)
【文献】特開2008-223171(JP,A)
【文献】特開2009-167388(JP,A)
【文献】特開平02-104722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
D04B 1/00- 1/28
D04B21/00- 21/20
D01F 1/00- 6/96
D01F 9/00- 9/04
C08J 5/00
B29C43/00
B29C45/00
B29C48/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン系赤外線吸収性顔料、ポリエチレンテレフタレート、及びアクリル系高分子である分散剤を含む赤外吸収性樹脂組成物を含む
、成形品(ただし繊維、不織布、編地、及び布帛を除く)であって、
前記ポリエチレンテレフタレートは、0.60以上の固有粘度を有し、かつ結晶性の共重合ポリエチレンテレフタレートであり、
前記タングステン系赤外線吸収性顔料の含有量は、前記赤外吸収性樹脂組成物全体に対して、0.1質量%以上3.0質量%未満であり、
前記分散剤が、アクリル主鎖と水酸基またはエポキシ基とを有する高分子分散剤である、
成形品。
【請求項2】
前記ポリエチレンテレフタレートは、0.60以上1.30以下の固有粘度を有する、請求項1に記載の
成形品。
【請求項3】
前記ポリエチレンテレフタレートは、210℃以上240℃以下の融点を有する、請求項1又は2に記載の
成形品。
【請求項4】
前記タングステン系赤外線吸収性顔料の含有量は、前記赤外吸収性樹脂組成物全体に対して、0.1質量%以上1.15質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の
成形品。
【請求項5】
前記タングステン系赤外線吸収性顔料が、
一般式(1):M
xW
yO
z{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物、及び
一般式(2):W
yO
z{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物
からなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の
成形品。
【請求項6】
タングステン系赤外線吸収性顔料、ポリエチレンテレフタレート、及びアクリル系高分子である分散剤を含む赤外線吸収性樹脂組成物を、成形することを含む、
成形品(ただし繊維、不織布、編地、及び布帛を除く)の製造方法であって、
前記ポリエチレンテレフタレートは、0.60以上の固有粘度を有し、かつ結晶性の共重合ポリエチレンテレフタレートであり、
前記タングステン系赤外線吸収性顔料の含有量は、前記赤外吸収性樹脂組成物全体に対して、0.1質量%以上3.0質量%未満であり、
前記分散剤が、アクリル主鎖と水酸基またはエポキシ基とを有する高分子分散剤である、
成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外吸収性樹脂組成物並びにそれを含む成形品及び繊維に関する。特に、本発明は、タングステン系の赤外線吸収性顔料及び特定のポリエチレンテレフタレートを含有する赤外吸収性樹脂組成物並びにこれを用いた成形品及び繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線吸収剤として、タングステン系顔料が知られている。例えば、特許文献1は、タングステン系顔料を、日射遮蔽用構造体に日射遮蔽機能を付与するために用いている。また、特許文献2は、このようなタングステン系顔料を含む樹脂組成物を開示している。さらに、特許文献3は、このようなタングステン系顔料とポリエステル樹脂とを含む樹脂組成物及びこれを用いた成形品を開示している。
【0003】
特許文献4は、ポリエチレンテレフタレートと酸化アンチモンとを含む赤外線吸収性樹脂組成物から紡糸した繊維及びそれを用いた赤外線透過撮影防止用布帛を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2005/087680号
【文献】特開2008-024902号公報
【文献】特開2011-026440号公報
【文献】特開2010-077575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高い赤外線吸収性及び良好な成形性を与えることができる、タングステン系顔料を含有する樹脂組成物並びにそれを含む成形品及び繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
タングステン系赤外線吸収性顔料及びポリエチレンテレフタレートを含む赤外吸収性樹脂組成物であって、前記ポリエチレンテレフタレートは、0.60以上の固有粘度を有し、かつ結晶性の共重合ポリエチレンテレフタレートである、赤外吸収性樹脂組成物。
《態様2》
前記ポリエチレンテレフタレートは、0.60以上1.30以下の固有粘度を有する、態様1に記載の赤外吸収性樹脂組成物。
《態様3》
前記ポリエチレンテレフタレートは、210℃以上240℃以下の融点を有する、態様1又は2に記載の赤外吸収性樹脂組成物。
《態様4》
前記タングステン系赤外線吸収性顔料が、
一般式(1):MxWyOz{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物、及び
一般式(2):WyOz{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物
からなる群より選択される、態様1~3のいずれか一項に記載の赤外吸収性樹脂組成物。
《態様5》
アクリル系高分子である分散剤をさらに含む、態様1~4のいずれか一項に記載の赤外吸収性樹脂組成物。
《態様6》
態様1~5のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物を含む、成形品。
《態様7》
態様1~5のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物を、成形することを含む、成形品の製造方法。
《態様8》
態様1~5のいずれか一項に記載の赤外線吸収性樹脂組成物を含む、繊維。
《態様9》
前記赤外線吸収性樹脂組成物のポリエチレンテレフタレートは、0.60以上0.80未満の固有粘度を有する、態様8に記載の繊維。
《態様10》
前記ポリエチレンテレフタレートは、第三のモノマーとしてイソフタル酸又はそのエステルを含む、態様8又は9に記載の繊維。
《態様11》
態様8~10のいずれか一項に記載の繊維を含む、布帛。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の実施例及び比較例のシートについて測定されたUV-vis-NIRの範囲の吸収スペクトルを示している。
【
図2】
図2は、実施例6、比較例7及び比較例8の布帛の撮影画像を示している。
【
図3】
図3は、実施例6、比較例7及び比較例8の布帛の透過スペクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
《赤外吸収性樹脂組成物》
本発明の赤外吸収性樹脂組成物は、タングステン系赤外線吸収性顔料及びポリエチレンテレフタレートを含む。ここで、そのポリエチレンテレフタレートは、0.60以上の固有粘度を有し、かつ結晶性の共重合ポリエチレンテレフタレートである。
【0009】
本発明者らは、タングステン系赤外線吸収性顔料及びポリエチレンテレフタレートを含む赤外吸収性樹脂組成物において、ポリエチレンテレフタレートとして、固有粘度が0.60以上であり、かつ結晶性の共重合ポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、高い赤外線吸収性と良好な成形性を両立して発現できることを見出した。
【0010】
理論に拘束されないが、本発明の赤外吸収性樹脂組成物においては、ポリエチレンテレフタレートが特定の固有粘度を有し、かつ結晶性の共重合ポリエチレンテレフタレートであることによって、樹脂組成物の加工時の凹凸の発生、紡糸時の繊維切れ等を抑制することができ、かつタングステン系赤外線吸収性顔料の分散性を高めることができたと考えられる。本発明の樹脂組成物において加工時の凹凸を抑制できた理由は、この特定のポリエチレンテレフタレートを用いることによって、樹脂組成物から発生する揮発成分による悪影響が抑制できたためであると考えられる。本発明の赤外吸収性樹脂組成物は、タングステン系赤外線吸収性顔料を高度に分散できることによって高い赤外線吸収性を有することができ、また樹脂組成物の加工時の凹凸の発生を抑制することができることによって高い成形性を有する。樹脂組成物の凹凸は、樹脂組成物を成形した際の成形品の外観不良、強度不足等に関連するため、本発明の赤外吸収性樹脂組成物によって得られる成形品は、非常に有利である。
【0011】
〈タングステン系赤外線吸収性顔料〉
タングステン系赤外線吸収性顔料としては、赤外線吸収性用途で用いられるタングステ酸化物系化合物の粒子を挙げることができる。
【0012】
例えば、タングステン系赤外線吸収性顔料としては、一般式(1):MxWyOz{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物、及び一般式(2):WyOz{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物からなら群より選択される1種以上の赤外線吸収性顔料を挙げることができる。
【0013】
タングステン系赤外線吸収性顔料の製法として、特開2005-187323号公報に説明されている複合タングステン酸化物又はマグネリ相を有するタングステン酸化物の製法を使用することができる。
【0014】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物には、元素Mが添加されている。この為、一般式(1)におけるz/y=3.0の場合も含めて、自由電子が生成され、近赤外光波長領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線を吸収する材料として有効である。
【0015】
特に、近赤外線吸収性材料としての光学特性及び耐候性を向上させる観点から、M元素としては、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe及びSnのうちの1種類以上とすることができる。
【0016】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物を、シランカップリング剤で処理することによって、近赤外線吸収性及び可視光波長領域における透明性を高めてもよい。
【0017】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0超であれば、十分な量の自由電子が生成され近赤外線吸収効果を十分に得ることができる。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し近赤外線吸収効果も上昇するが、通常はx/yの値が1程度で飽和する。x/yの値が1以下として、顔料含有層中における不純物相の生成を防いでもよい。x/yの値は、0.001以上、0.2以上又は0.30以上であってもよく、0.85以下、0.5以下又は0.35以下であってもよい。x/yの値は、特に0.33とすることができる。
【0018】
一般式(1)及び(2)において、z/yの値は、酸素量の制御の水準を示す。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、z/yの値が2.2≦z/y≦3.0の関係を満たすので、一般式(2)で表されるタングステン酸化物と同じ酸素制御機構が働くことに加えて、z/y=3.0の場合でさえも元素Mの添加による自由電子の供給がある。一般式(1)において、z/yの値が2.45≦z/y≦3.0の関係を満たすようにしてもよい。
【0019】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、六方晶の結晶構造を有するか、又は六方晶の結晶構造からなるとき、赤外線吸収性材料微粒子の可視光波長領域の透過が大きくなり、かつ近赤外光波長領域の吸収が大きくなる。六方晶の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光波長領域の透過が大きくなり、近赤外光波長領域の吸収が大きくなる。ここで、一般には、イオン半径の大きな元素Mを添加したときに、六方晶が形成される。具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Fe等のイオン半径の大きい元素を添加したときに、六方晶が形成され易い。しかしながら、これらの元素に限定されるものではなく、これらの元素以外の元素でも、WO6単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すればよい。
【0020】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有する場合には、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下とすることができ、0.30以上0.35以下とすることができ、特に0.33とすることができる。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、六角形の空隙の実質的に全てに配置されると考えられる。
【0021】
また、六方晶以外では、正方晶又は立方晶のタングステンブロンズも近赤外線吸収効果がある。これらの結晶構造によって、近赤外光波長領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光波長領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。このため、可視光波長領域の光をより透過して、近赤外光波長領域の光をより吸収する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いてもよい。
【0022】
一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物において、z/yの値が2.45≦z/y≦2.999の関係を満たす組成比を有する所謂「マグネリ相」は、安定性が高く、近赤外光波長領域の吸収特性も高いため、近赤外線吸収顔料として好適に用いられる。
【0023】
上記のような顔料は、近赤外光波長領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調が青色系から緑色系となる物が多い。また、そのタングステン系赤外線吸収性顔料の分散粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。まず、透明性を保持して応用する場合には、体積平均で2000nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。これは、分散粒子径が2000nm以下であれば、可視光波長領域での透過率(反射率)のピークと近赤外光波長領域の吸収とのボトムの差が大きくなり、可視光波長領域の透明性を有する近赤外線吸収顔料としての効果を発揮できるからである。さらに分散粒子径が2000nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光波長領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。
【0024】
さらに可視光波長領域の透明性を重視する場合には、粒子による散乱を考慮することが好ましい。具体的には、タングステン系赤外線吸収性顔料の体積平均の分散粒子径は、200nm以下であることが好ましく、好ましくは100nm以下、50nm以下、又は30nm以下であることがより好ましい。赤外線吸収性材料微粒子の分散粒子径が200nm以下になると、幾何学散乱又はミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い、散乱が低減し透明性が向上する。さらに分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましい。一方、分散粒子径が1nm以上、3nm以上、5nm以上、又は10nm以上あれば工業的な製造は容易となる傾向にある。ここで、タングステン系赤外線吸収性顔料の体積平均の分散粒子径は、ブラウン運動中の微粒子にレーザー光を照射し、そこから得られる光散乱情報から粒子径を求める動的光散乱法のマイクロトラック粒度分布計(日機装株式会社製)を用いて測定した。
【0025】
タングステン系赤外線吸収性顔料の樹脂組成物中の含有量は、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1.0重量%以上、2.0重量%以上、又は3.0重量%以上であってもよく、20重量%以下、10重量%以下、8.0重量%以下、5.0重量%以下、3.0重量%以下、又は1.0重量%以下であってもよい。例えば、その含有量は、0.1重量%以上20重量%以下、又は0.5重量%以上5.0重量%以下であってもよい。
【0026】
〈ポリエチレンテレフタレート〉
本発明の樹脂組成物に含まれるポリエチレンテレフタレートは、固有粘度が0.60以上であり、かつ結晶性の共重合ポリエチレンテレフタレートである。
【0027】
固有粘度は、ポリマーの分子量、分岐度等に関連する物性値であり、本明細書において言及されている固有粘度は、JIS K 7367-5:2000に準拠して、毛細管粘度計によって測定される値である。
【0028】
ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、0.60以上、0.65以上、0.70以上、0.75以上、0.80以上、0.85以上、0.90以上、0.95以上、1.00以上、又は1.10以上であってもよく、1.30以下、1.25以下、1.20以下、1.15以下、1.10以下、1.05以下、1.00以下、0.95以下、0.90以下、0.85以下、0.80以下、0.75以下、0.70以下であってもよい。ポリエチレンテレフタレートがこのような固有粘度を有することによって、タングステン系赤外線吸収性顔料の分散性を高くすることができると考えられる。例えば、その固有粘度は、0.60以上1.30以下であってもよく、特に本発明の樹脂組成物を繊維にする場合には、0.60以上0.80以下であることが好ましい。
【0029】
そのポリエチレンテレフタレートは、結晶性を有するため、示差走査熱量分析によって測定した場合に、融点の明確なピークが観測される。ポリエチレンテレフタレートの融点が、210℃以上、215℃以上、220℃以上、225℃以上、又は230℃以上であってもよく、240℃以下、235℃以下、230℃以下、又は225℃以下であってもよい。ポリエチレンテレフタレートがこのような融点を有することによって、適切な温度条件で成形品を成形することができる。例えば、その融点は、210℃以上240℃以下、又は215℃以上235℃以下であってもよい。このような範囲であれば、揮発成分が発生しにくい温度で樹脂組成物の加工を行うことができ、樹脂組成物の加工時の凹凸の発生、紡糸時の繊維切れ等を抑制しやすい。
【0030】
そのポリエチレンテレフタレートは、共重合ポリエチレンテレフタレートである。本明細書において、共重合ポリエチレンテレフタレートとは、ジオール成分であるエチレングリコールと、ジカルボン酸成分であるテレフタル酸又はそのエステルとだけではなく、第三のモノマーを用いて共重合させて得られたポリエチレンテレフタレートをいう。ポリエチレンテレフタレートは、第三のモノマーを含むことで非晶性になりやすいが、本発明で用いられるポリエチレンテレフタレートは、第三のモノマーを含む共重合ポリエチレンテレフタレートの中でも結晶性のもののみであり、本発明者らは、このような結晶性の共重合ポリエチレンテレフタレートを用いた場合にのみ、有利な効果を提供できることを見出した。
【0031】
ここで、第三のモノマーとしては、ジオール成分として、得られるポリエチレンテレフタレートが結晶性でありそれにより本発明の有利な効果が得られる限り特に限定されないが、脂肪族ジオール、例えばプロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ネオペンチルグリコール;脂環式ジオール、例えば1,4-シクロヘキサンジメタノール;芳香族ジオール、例えばビスフェノールA、ビスフェノールS等又はそれらのエチレンオキサイド付加物;又はこれらのトリオール、例えばトリメチロールプロパンを挙げることができる。これらのジオール成分を、20モル%以下、10モル%以下、又は5モル%以下の範囲で用いてもよい。
【0032】
また、第三のモノマーとしては、ジカルボン酸成分として、得られるポリエチレンテレフタレートが結晶性でありそれにより本発明の有利な効果が得られる限り特に限定されないが、脂肪族ジカルボン酸、例えばマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、及びアゼライン酸;脂環式ジカルボン酸、例えば1,4-シクロヘキサンジカルボン酸;芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、イソフタル酸、及び2,6-ナフタレンジカルボン酸;並びにこれらの塩、例えばスルホイソフタル酸ナトリウム、及びこれらのエステルを挙げることができる。これらの中でも特に、第三のモノマーとしてイソフタル酸又はそのエステルを用いた共重合ポリエチレンテレフタレートが好ましいことがわかった。これらのジカルボン酸成分を、20モル%以下、10モル%以下、又は5モル%以下の範囲で用いてもよい。
【0033】
ポリエチレンテレフタレートは、赤外線吸収性樹脂組成物に、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上で含まれていてもよく、99質量%以下、98質量%以下、95質量%以下、93質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、又は75質量%以下で含まれていてもよい。例えば、その含有量は、70質量%以上99質量%以下、又は80質量%以上98質量%以下であってもよい。
【0034】
〈分散剤〉
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物は、タングステン系赤外線吸収性顔料を上記のポリエチレンテレフタレートに高度に分散させるための分散剤を含有していてもよい。使用できる分散剤は、タングステン系赤外線吸収性顔料の種類に応じて選択することができるが、アクリル系高分子である分散剤、例えばアクリル主鎖と水酸基またはエポキシ基とを有する高分子分散剤を用いることができる。このような分散剤としては、例えば特許文献2に記載のような分散剤を挙げることができる。
【0035】
分散剤は、タングステン系赤外線吸収性顔料1質量部に対して、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上、3質量部以上、5質量部以上、又は10質量部以上で、赤外線吸収性樹脂組成物に含まれていてもよく、30質量部以下、20質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、3質量部以下、1質量部以下、0.5質量部以下、又は0.1質量部以下で赤外線吸収性樹脂組成物に含まれていてもよい。例えば、その量は、タングステン系赤外線吸収性顔料1質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下、又は1質量部以上5質量部以下であってもよい。
【0036】
〈他の成分〉
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物は、本発明の有利な効果が得られる範囲において、他の熱可塑性樹脂をさらに含有していてもよい。そのような熱可塑性樹脂としては、そのような樹脂としては、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、及びこれらの誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0037】
本発明の赤外線吸収性樹脂組成物は、本発明の有利な効果が得られる範囲において、さらに酸化防止剤、可塑剤、着色剤、顔料、フィラー等の様々な添加剤を含んでいてもよい。
【0038】
《成形品》
本発明の成形品は、上記の赤外線吸収性樹脂組成物を含む。本発明の成形品は、成形時の凹凸の発生が非常に少なく、非常に好適である。
【0039】
本発明の成形品としては、射出成形、押出成形、ブロー成形等の様々な成形方法によって得られた成形品を挙げることができる。また、本発明の成形品としては、熱プレス等によって得られたシート状の形態であってもよい。そのような成形品としては、3次元成形品、フィルム状、シート状等であってもよく、例えば包装容器、建築部材、自動車部品、機械部品、日用品等の様々な製品となることができる。
【0040】
《成形品の製造方法》
本発明の成形品の製造方法は、上記の赤外線吸収性樹脂組成物を、230℃~260℃の温度で成形することを含む。例えば、本発明の成形品の製造方法は、上記の赤外線吸収性樹脂組成物を混練してマスターバッチを得ること、及びそのマスターバッチを成形することを含むことできる。
【0041】
例えば、成形品を成形する前に、上記の赤外線吸収性樹脂組成物に含まれる材料を混練したものをペレット状に押し出して冷却することで、ペレット状の赤外線吸収性樹脂組成物(マスターバッチ)を作製しておくことができる。
【0042】
この場合に混練は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ミキシングロールなどのバッチ式混練機、二軸押出機、短軸押出機などの連続混練機などを用いて行うことができる。この際には、使用する材料に応じて、上記の成形温度、すなわち230℃~260℃の温度で混練することができる。
【0043】
このようにして得られたマスターバッチを、射出成形、押出成形、ブロー成形等の公知の成形方法によって成形することによって、本発明の成形品を製造することができる。また、上述したように混練した赤外線吸収性樹脂組成物を、熱プレス等を行うことによって、シート状の形態の成形品を製造してもよい。
【0044】
《繊維》
本発明の繊維は、例えば、上記のような赤外線吸収性樹脂組成物を溶融紡糸することによって得ることができる。溶融紡糸においては、一般的に用いられる溶融紡糸装置を使用することが可能である。
【0045】
溶融紡糸によって繊維を製造する場合には、赤外線吸収性樹脂組成物に用いられるポリエチレンテレフタレートの固有粘度が、0.60以上0.80未満であることが特に好ましいことがわかった。特に、赤外線吸収性樹脂組成物に用いられるポリエチレンテレフタレートが、第三のモノマーとしてイソフタル酸又はそのエステルを含む結晶性の共重合ポリエチレンテレフタレートであることが好ましいことがわかった。
【0046】
本発明の繊維は、上記のような樹脂組成物のみから紡糸されてもよく、本発明の繊維は、上記のような樹脂組成物を50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、又は95重量%以上含んでいてもよく、また98重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、80重量%以下、又は70重量%以下で含んでいてもよい。
【0047】
本発明の繊維は、このような特徴以外の点については、例えば上記の特許文献4に記載のような周知の特徴を有することができる。
【0048】
《繊維の製造方法》
本発明の繊維の製造方法は、上記のような赤外線吸収性樹脂組成物を溶融混練すること、及び溶融混練した樹脂組成物を溶融紡糸することを含む。
【0049】
例えば、繊維を紡糸する前に、上記の赤外線吸収性樹脂組成物に含まれる材料を混練したものをペレット状に押し出して冷却することで、ペレット状の赤外線吸収性樹脂組成物(マスターバッチ)を作製しておくことができる。
【0050】
この場合に混練は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ミキシングロールなどのバッチ式混練機、二軸押出機、短軸押出機などの連続混練機などを用いて行うことができる。この際には、使用する材料に応じて、例えば230℃~260℃の温度で混練することができる。
【0051】
《布帛》
本発明の布帛は、上記のような繊維を含む。本発明者らの検討によれば、このような布帛は、従来技術で用いられているような他の赤外線吸収材を含む繊維による布帛よりも、高い赤外線吸収特性を有しているため、赤外線カメラによる盗撮をより有効に防止できることが分かった。
【0052】
また、タングステン系赤外線吸収性顔料は、高い光熱変換性を有しており、赤外線を吸収した場合に、温度が上昇することが知られている。したがって、タングステン系赤外線吸収性顔料を含む本発明の布帛は、赤外線を吸収した場合に、高い温度上昇効果を有することができる。またその結果、本発明の布帛は、速乾性を有することもできる。
【0053】
このような特性を活かすために、本発明の布帛は、使用時に露出する面に、上記のような本発明の繊維を多く配置させることが好ましい。例えば、緯糸のみに本発明の繊維を使用して、3/1綾織りで織った本発明の布帛の場合、本発明の繊維が、25%表面に表れている面よりも、75%表面に表れている面を露出面にした方が、温度上昇効果を高くすることができる。一方で、盗撮防止性のみを考慮した場合には、本発明の繊維を布帛の露出面に配置させる必要はない。
【0054】
本発明の布帛は、上記のような繊維のみから構成されてもよく、本発明の布帛は、上記のような繊維を50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、又は95重量%以上含んでいてもよく、また98重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、80重量%以下、又は70重量%以下で含んでいてもよい。
【0055】
本発明の布帛は、このような特徴以外の点については、例えば上記の特許文献4に記載のような周知の特徴を有することができる。
【0056】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
実験A:シートの評価
《製造例》
〈実施例1〉
ポリエチレンテレフタレート(PET)として、固有粘度(IV)=0.80の結晶性の共重合PET(ベルペットIFG8L、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製)95質量%と、タングステン系赤外線吸収性顔料として、分散剤で処理されたセシウム酸化タングステン(CWO(商標):YMDS-874、住友金属鉱山株式会社製)5質量%(セシウム酸化タングステン1質量%+分散剤4質量%)とを用いミキサー混練機で混練し、実施例1の赤外線吸収性樹脂組成物を得た。なお、ここで用いられたPETは、第三のモノマーとして、イソフタル酸が用いられていた。
【0058】
この樹脂組成物を熱プレス機でシート化し、50μmの厚さを有する赤外線吸収性樹脂シートを得た。
【0059】
〈実施例2〉
PETとして、固有粘度(IV)=0.62の結晶性の共重合PET(ベルペットIP121B、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の赤外線吸収性樹脂組成物及び赤外線吸収性樹脂シートを得た。なお、ここで用いられたPETは、第三のモノマーとして、イソフタル酸が用いられていた。
【0060】
〈実施例3〉
PETとして、固有粘度(IV)=1.20の結晶性の共重合PET(クラペットKS710B-8S、株式会社クラレ製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の赤外線吸収性樹脂組成物及び赤外線吸収性樹脂シートを得た。なお、ここで用いられたPETは、第三のモノマーとして、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体が用いられていた。
【0061】
〈比較例1〉
PETとして、固有粘度(IV)=0.87の結晶性のPET(ベルペットEFG85A、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の赤外線吸収性樹脂組成物及び赤外線吸収性樹脂シートを得た。なお、ここで用いられたPETは、モノマーとしてエチレングリコールとテレフタル酸とが用いられて製造されたホモPETであった。
【0062】
〈比較例2〉
PETとして、固有粘度(IV)=0.83の非晶性のPET(ベルペットE-03、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の赤外線吸収性樹脂組成物及び赤外線吸収性樹脂シートを得た。なお、ここで用いられたPETは、第三のモノマーとして、ネオペンチルグリコールが用いられていた。
【0063】
〈比較例3〉
PETとして、固有粘度(IV)=0.58の結晶性のPET(ベルペットIP140B、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3の赤外線吸収性樹脂組成物及び赤外線吸収性樹脂シートを得た。なお、ここで用いられたPETは、第三のモノマーとして、イソフタル酸が用いられていた。
【0064】
〈比較例4〉
タングステン系赤外線吸収性顔料であるセシウム酸化タングステン(Cs0.33WO3)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4の赤外線吸収性樹脂組成物及び赤外線吸収性樹脂シートを得た。
【0065】
《評価》
〈均一性〉
各例の赤外線吸収性樹脂シートの目視上の均一性を評価した。各シートの見た目に、CWO(商標)に起因した青色の濃淡のムラがある場合に不均一であるとして、評価を「×」とし、それ以外の場合に評価を「○」とした。なお、比較例4については、CWO(商標)を混練していないため、評価をなし(「-」)とした。
【0066】
〈光吸収性〉
各例の赤外線吸収性樹脂シートのUV-vis-NIR吸収スペクトルを測定し、全光線透過率と、近赤外域(800~2500nm)の最小透過率(NIR透過率)とを評価した。測定装置は、日立ハイテクサイエンス製分光光度計UH4150(JIS K 0115:2004準拠)を用いた。
【0067】
〈加工性〉
樹脂組成物を用いて成形した成形品の外観不良や強度不足等に関連するため、樹脂組成物の加工性をその表面の凹凸によって評価した。評価方法としては、樹脂組成物の表面をデジタルマイクロスコープ(レーザーテック製ハイブリッドレーザーマイクロスコープOPTELICS)で観察し、25μm×25μmの領域にある凹み部分の面積率を測定し、5%未満である場合を「〇」、5%以上である場合を「×」とした。なお、ここで「凹み部分」は、デジタルマイクロスコープで観察して得たカラー画像を二値化し、黒色に表された領域として定義した。
【0068】
《結果》
上記の各例の赤外線吸収性樹脂シートの構成及び評価結果を、以下の表に示す。また、赤外線吸収性のUV-vis-NIR吸収スペクトルを
図1に示した。
【0069】
【0070】
PETとして、固有粘度が0.60以上であり、かつ結晶性の共重合PETを用いた場合にのみ、加工性と光吸収性とを両立した赤外線吸収性樹脂組成物が得られることがわかった。
【0071】
実験B:繊維及び布帛の評価
《製造例》
〈実施例4〉
固有粘度(IV)=0.80の結晶性の共重合PET(ベルペットIFG8L、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製)と、固有粘度(IV)=0.62の結晶性の共重合PET(ベルペットIP121B、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製)とを混合して、固有粘度(IV)=0.77相当の結晶性の共重合PETを得た。その結晶性の共重合PET95質量%と、タングステン系赤外線吸収性顔料として、分散剤で処理されたセシウム酸化タングステン(CWO(商標):YMDS-874、住友金属鉱山株式会社製)5質量%(セシウム酸化タングステン1.15質量%+分散剤3.85質量%)とを用い二軸押出機で混練し、赤外線吸収性樹脂組成物を得た。なお、ここで用いられたPETは、第三のモノマーとして、イソフタル酸が用いられていた。
【0072】
また、この樹脂組成物を、マルチフィラメント溶融紡糸装置で繊維化し、75デニール24フィラメントの太さを有する実施例4の繊維を得た。紡糸時には、温度290℃、押出量4kg/h、引取速度1500m/minとして、1時間紡糸した。
【0073】
〈実施例5〉
固有粘度(IV)=0.62の結晶性の共重合PET(ベルペットIP121B、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製)のみを用いたこと以外は、実施例4と同様にして繊維を紡糸した。
【0074】
〈実施例6〉
固有粘度(IV)=0.62の結晶性の共重合PET(ベルペットIP121B、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製)を97.5質量%とし、分散剤で処理されたセシウム酸化タングステン(CWO(商標):YMDS-874、住友金属鉱山株式会社製)を2.5質量%(セシウム酸化タングステン0.58質量%+分散剤1.92質量%)としたこと以外は、実施例4と同様にして繊維を紡糸した。
【0075】
さらに、この繊維を2本撚りあわせることで150デニール相当の双糸にした。その双糸を緯糸として用いて、ションヘル型織機で3/1綾織りで織ることで、目付170g/m2の布帛を得た。この布帛は、ポリエステル/ウール混生地であり、その緯糸の混用率は41%であり、経糸は、ポリエステル/ウールが50:50で、250デニール、混用率59%であった。
【0076】
〈比較例5〉
PETとして、固有粘度(IV)=0.65の結晶性のホモPET(ベルペットPBK1、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして繊維を紡糸した。
【0077】
〈比較例6〉
PETとして、固有粘度(IV)=0.58の結晶性の共重合PET(ベルペットIP140B、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして繊維を紡糸した。
【0078】
〈比較例7〉
タングステン系赤外線吸収性顔料であるセシウム酸化タングステン(C0.33WO3)を用いなかったこと以外は、実施例6と同様にして繊維を紡糸し、布帛を得た。
【0079】
〈比較例8〉
ポリエチレンテレフタレートと酸化アンチモンとを含む赤外線吸収性樹脂組成物から紡糸した繊維を用いた、市販の赤外線透過撮影防止用布帛(DIASIELD(商標)、三菱商事ファッション株式会社)を用意した。なお、この布帛の目付及び厚みは、実施例6の布帛と同等であった。
【0080】
〈比較例9〉
実験Aの実施例1の赤外線吸収性樹脂組成物を用いて、マルチフィラメント溶融紡糸装置で繊維化することを検討したところ、溶融紡糸時に繊維を細く巻き取ることが困難であることが分かった。この組成物は、シート用としては有用であるものの、繊維用としては不適切であった。
【0081】
《評価》
〈溶融紡糸適性〉
樹脂組成物の溶融紡糸適性を評価した。溶融紡糸中に、繊維切れが発生した場合には、溶融紡糸適性を「×」とし、それ以外の場合を「〇」とした。
【0082】
〈盗撮防止性〉
画像が印刷してある板の上に布帛のサンプルを被せて、赤外線カメラで透過撮影して、その画像を確認することで透過の有無を判定した。カメラでの通常撮影時と、赤外線撮影時とを比較して、赤外線撮影時の方が画像の視認性が低下している場合を「〇」とし、それ以外の場合を「×」とした。
【0083】
《結果》
上記の各例の構成及び評価結果を、以下の表に示す。また、実施例6、比較例7及び比較例8の布帛の撮影画像及び透過スペクトルを
図2及び
図3に示した。
【0084】
【0085】
PETとして、固有粘度が0.60以上0.80未満であり、かつ結晶性の共重合PETを用いた場合にのみ、溶融紡糸適性と盗撮防止性とを両立した布帛が得られることがわかった。特に、実施例6の布帛は、従来技術の比較例8の布帛よりも、800~1500nmの透過率が低いため、その波長での盗撮防止性において優れていることがわかる。実施例6の布帛のように、800~1500nmの透過率が25%以下である場合には、盗撮防止性が非常に高く、このような布帛は、特に有用である。