(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】レーヨン繊維及び繊維製品並びにレーヨン繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 2/10 20060101AFI20221128BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20221128BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20221128BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20221128BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20221128BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20221128BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20221128BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20221128BHJP
D01F 1/10 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
D01F2/10
A61K8/49
A61K8/73
A61K8/9789
A61K31/353
A61P17/16
A61P31/04
A61Q19/00
D01F1/10
(21)【出願番号】P 2020030459
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000105154
【氏名又は名称】株式会社GSIクレオス
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】森田 雅彦
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-144855(JP,A)
【文献】特開2010-121229(JP,A)
【文献】特開平11-001820(JP,A)
【文献】特開2014-141765(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106435824(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110396729(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0016071(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
31/33-33/44
A61P1/00-43/00
A61Q1/00-90/00
D01F1/00-9/04
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶油に、茶葉から抽出した植物性由来のカテキンを混合させた添加剤を、ビスコース液に添加した後に、前記ビスコース液を口金から押し出して紡糸し、凝固再生することを特徴とするレーヨン繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーヨン繊維及び繊維製品並びにレーヨン繊維の製造方法に関し、詳しくは、添加剤を添加して、機能性の向上を図ったレーヨン繊維及び繊維製品並びにレーヨン繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーヨン繊維に、油性原料や、スイゼンジノリ由来多糖体等の添加剤を添加することにより、保湿性の向上を図ったスキンケア用のレーヨン繊維が開発されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-226012号公報
【文献】特開2019-11542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1及び2のレーヨン繊維では、保湿性の向上を図り、スキンケア効果を有してはいるものの、抗菌性や抗かび性に関しては充分な効果が期待できなかった。また、添加した添加剤が酸化し、繊維が変色したり、独特の香りを発生させたりする虞があった。
【0005】
そこで本発明は、添加剤を添加することにより、保湿性、抗菌性、抗かび性の向上を図ることができるとともに、添加した添加剤の酸化を防止することができるレーヨン繊維及び繊維製品並びにレーヨン繊維の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のレーヨン繊維は、レーヨン繊維内に植物性由来のカテキンを茶油に混合させた添加剤を含有することを特徴としている。また、前記植物性由来のカテキンは、茶葉から抽出したカテキンであると好適である。
【0007】
さらに、本発明の繊維製品は、茶油に、植物性由来のカテキンを混合させた添加剤を添加したレーヨン繊維で形成されることを特徴としている。
【0008】
また、本発明のレーヨン繊維の製造方法は、茶油に、植物性由来のカテキンを混合させた添加剤を、ビスコース液に添加した後に、前記ビスコース液を口金から押し出して紡糸し、凝固再生することを特徴としている。さらに、前記植物性由来のカテキンは、茶葉から抽出したカテキンであると好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレーヨン繊維及び繊維製品並びにレーヨン繊維の製造方法によれば、レーヨン繊維内に含有される茶油が、酸化に抵抗性を示すオレイン酸を多く含むとともに、抗酸化性を有するβ-カロテンや、ビタミンE,CoQ10を含むことから、保湿性、抗酸化性に優れたレーヨン繊維を製造できる。また、レーヨン繊維内に茶油とともに植物性由来のカテキンが含有されることにより、抗菌性、抗かび性の向上を図ることができ、さらに、植物性由来のカテキンにより、茶油の臭いを良好に消すことができるとともに、繊維に混合した茶油が酸化することを防止し、レーヨン繊維が黄色く変色することを防止できる。
【0010】
また、植物性由来のカテキンとして、茶葉から抽出したカテキンを用いることにより、カテキンが茶油に溶け易く、添加剤をビスコース液に添加した後、該ビスコース液を口金から押し出して紡糸する際に、ビスコース液が口金に詰まる虞がなく、ビスコース液を良好に紡糸することができる。
【0011】
さらに、上述のように製造したレーヨン繊維で生産された不織布や生地や編み物等の繊維製品に対しての抗菌性能を測定したところ、黄色ブドウ球菌,肺炎桿菌,モラクセラ菌の抗菌活性値や白癬菌の抗かび活性値が極めて高いことが分かり、上述の保湿性、抗酸化性に優れていることに加え、抗菌性能及び抗かび性能が極めて高いことが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一形態例を示すレーヨン繊維の製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に基づいて、レーヨン繊維の製造方法の一形態例を説明する。
【0014】
まず、周知のように、原料となるパルプに苛性ソーダを加え、スラリー化して得たアルカリセルロースを老成させた後、硫化工程11で二酸化炭素を加えてザンテートを製造する。次いで、溶解工程12で、ザンテートに苛性ソーダを加えた後、熟成工程13,濾過工程14,脱泡工程15を経て熟成させてビスコース液を製造した後、添加剤添加工程16で、茶の実の搾取により抽出される茶油に、酸化防止剤として茶由来のカテキンを混合させた添加剤A1を、ビスコース液に添加して練り込む。なお、添加剤添加工程16で添加される茶油は、ビスコース液に対して、0.1~50%、好ましくは1~20%の練り込み率にすると好適である。また、カテキンは、ビスコース液に対して2~5%加えることが好ましい。
【0015】
添加剤添加工程16を終えたビスコース液は、紡糸工程17で、多数の細孔を有する口金B1から酸性浴中に押し出され、繊維を形成させながら化学反応させてセルロースを再生し、レーヨン繊維が製造される。次いで、延伸工程18で繊維を延伸することで繊維方向を整え、切断工程19で規格の長さに切断する。
【0016】
切断されたレーヨン繊維は、例えば、捲縮工程,水洗工程,脱硫工程,漂白工程,水洗工程,仕上げ工程,乾燥工程を経てレーヨン短繊維に加工され、不織布や生地や編み物等の繊維製品に加工される。
【0017】
次に、上述のように製造されたレーヨン繊維を含有する不織布や生地や編み物に対して、抗菌性試験を行った各結果を下記に示す。
【0018】
試験項目:抗菌性試験
試料 :添加剤A1(ビスコース液に対して、茶油5%,カテキン2%)を添加したレーヨン
試験方法:JIS L 1902:2015 菌液吸収法
生菌の測定方法:混釈平板培養法 培養時間:18時間
界面活性剤(Tween80)0.05%を添加した試験菌液を使用
試験菌株:黄色ブドウ球菌
洗濯方法:繊維評価技術協議会「SEKマーク繊維製品の洗濯方法」-「標準洗濯法」
以上の条件で試験を行った結果を表1に示す。
【0019】
【0020】
試験項目:抗菌性試験
試料 :添加剤A1(ビスコース液に対して、茶油5%,カテキン2%)を添加したレーヨン
試験方法:JIS L 1902:2015 菌液吸収法
生菌の測定方法:混釈平板培養法 培養時間:18時間
界面活性剤(Tween80)0.05%を添加した試験菌液を使用
試験菌株:肺炎桿菌
洗濯方法:繊維評価技術協議会「SEKマーク繊維製品の洗濯方法」-「標準洗濯法」
以上の条件で試験を行った結果を表2に示す。
【0021】
【0022】
試験項目:抗菌性試験
試料 :a,添加剤A1(ビスコース液に対して、茶油5%,カテキン2%)を添加したレーヨン100%の編み物(丸編み)
b,添加剤A1(ビスコース液に対して、茶油5%,カテキン2%)を添加したレーヨン50% コットン50%の編み物(丸編み)
試験方法:JIS L 1902:2015 菌液吸収法
生菌の測定方法:混釈平板培養法 培養時間:18時間
界面活性剤(Tween80)0.05%を添加した試験菌液を使用
試験菌株:黄色ブドウ球菌
洗濯方法:繊維評価技術協議会「SEKマーク繊維製品の洗濯方法」-「標準洗濯法」
以上の条件で試験を行った結果を表3に示す。
【0023】
【0024】
試験項目:抗菌性試験
試料 :a,添加剤A1(ビスコース液に対して、茶油5%,カテキン2%)を添加したレーヨン100%の編み物(丸編み)
b,添加剤A1(ビスコース液に対して、茶油5%,カテキン2%)を添加したレーヨン50% コットン50%の編み物(丸編み)
試験方法:JIS L 1902:2015 菌液吸収法
生菌の測定方法:混釈平板培養法 培養時間:18時間
+ 界面活性剤(Tween80)0.05%を添加した試験菌液を使用
試験菌株:モラクセラ菌
洗濯方法:繊維評価技術協議会「SEKマーク繊維製品の洗濯方法」-「標準洗濯法」
以上の条件で試験を行った結果を表4に示す。
【0025】
【0026】
上記の表1~表4に示される抗菌活性値は、6.0前後の数値となっているが、JIS規格において抗菌活性値が2.0以上であれば抗菌性能があるとされていることから、極めて抗菌性能が高いことが分かる。また、洗濯回数10回の場合であっても数値が変わらないことから、洗濯しても抗菌性能が劣化しないことが分かる。
【0027】
試験項目:抗かび性試験
試料 :添加剤A1(ビスコース液に対して、茶油5%,カテキン2%)を添加したレーヨン100%の編み物(丸編み)
試験方法:JIS L 1921:2015 吸収法
試験菌株:白癬菌
洗濯方法:繊維評価技術協議会「SEKマーク繊維製品の洗濯方法」-「標準洗濯法」
算出方法:抗かび活性値=(logCt-logC0)-(logTt-logT0)
以上の条件で試験を行った結果を表5に示す。
【0028】
【0029】
上記の表5に示される抗かび活性値は、3.0となっている。JIS規格において抗かび効果があるとされるのは抗かび活性値が2.0以上であることから、抗かび性能が高いことが分かる。また、洗濯しても抗かび性能が劣化しないことが分かる。
【0030】
上述のように本形態例では、添加剤添加工程16で、茶油に、茶葉由来のカテキンを混合させた添加剤A1をビスコース液に添加して練り込んだことにより、保湿性、抗菌性、抗かび性に優れたレーヨン繊維を製造することができる。また、茶葉由来のカテキンは、茶油の臭いを良好に消すことができるとともに、酸化防止効果があるので、繊維に混合した茶油が酸化することを防止し、レーヨン繊維の変色を良好に防止することができる。さらに、添加剤A1をビスコース液に添加して練り込むことにより、後加工で添加剤を添加するものとは異なり、洗濯耐久性が向上する。
【0031】
さらに、茶葉由来のカテキンは茶油に溶け易いことから、添加剤A1をビスコース液に添加して練り込んだ後に、ビスコース液を口金B1から押し出して紡糸する際に、ビスコース液が口金B1に詰まる虞がなく、ビスコース液を良好に紡糸することができる。
【0032】
このように、本形態例のレーヨン繊維を含有する不織布や生地や編み物は、保湿性、抗菌性、抗かび性、抗酸化性に優れていることから、例えば、抗菌マスク,紙おむつ用素材,拭き取り化粧水シートなどの化粧用シートなどに好適に用いることができる。また、本形態例のレーヨン繊維を含有する繊維は、包帯やサポータに好適に用いることができるとともに、インナーウエア,靴下,タイツ,ストッキング等の衣料品、タオル,バスマット等の日用品、シーツ等の寝具類にも好適に用いることができる。特に抗かび性能が高いことから、水虫対策としての靴下に好適である。
【0033】
なお、本発明のカテキンは、茶油に溶け易いものであれば、茶葉から抽出したカテキンに限るものではなく、他の植物性由来のものであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
11…硫化工程、12…溶解工程、13…熟成工程、14…濾過工程、15…脱泡工程、16…添加剤添加工程、17…紡糸工程、18…延伸工程、19…切断工程、A1…添加剤、B1…口金