(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】下降窓開閉補助具
(51)【国際特許分類】
E05F 11/38 20060101AFI20221128BHJP
B61D 25/00 20060101ALI20221128BHJP
E05F 1/16 20060101ALI20221128BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
E05F11/38 A
B61D25/00 F
E05F1/16 E
F16F7/00 G
(21)【出願番号】P 2020132490
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000163372
【氏名又は名称】近畿車輌株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】寺村 弘
(72)【発明者】
【氏名】安川 祥平
(72)【発明者】
【氏名】広沢 賢
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】実公昭31-3268(JP,Y1)
【文献】特開2011-88467(JP,A)
【文献】特開平4-277284(JP,A)
【文献】特開2004-324058(JP,A)
【文献】実開平2-9697(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 1/00-13/04
E05F 17/00
B61D 15/00
B61D 19/00
B61D 25/00
F16F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の下降窓の開閉操作を補助する下降窓開閉補助具であって、
前記下降窓の下方に配置される本体と、
一端が前記下降窓の下方で上下に旋回できるように、他端が前記本体に軸支されているアームと、
前記アームを旋回させる回転運動を往復運動に変換する変換部と、
前記下降窓を持ち上げる向きに前記アームを旋回させるように、前記変換部の往復運動を付勢する付勢バネと、
前記付勢バネに直列に配置され、内蔵するバネ材を圧縮状態で保持するストッパーが圧縮方向へのみ可動となっているバネユニットと
を備えたことを特徴とする下降窓開閉補助具。
【請求項2】
前記変換部は、
前記アームの旋回中心に取り付けられたギアと、
前記ギアの回転運動を往復運動に変換するラックと
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の下降窓開閉補助具。
【請求項3】
前記変換部は、前記ギアと前記ラックとの間に、前記ギアの回転を減速させる中間ギアを備えていることを特徴とする請求項2に記載の下降窓開閉補助具。
【請求項4】
前記変換部の前記付勢バネは、前記ラックの往復運動を付勢する圧縮バネであることを特徴とする請求項2又は3に記載の下降窓開閉補助具。
【請求項5】
前記変換部は、
前記アームの旋回中心に取り付けられたギアと、
前記ギアの回転力を、連接棒を介して前記バネユニットの伸縮方向に沿った往復運動に変換するクランク部と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の下降窓開閉補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の窓の開閉機構に関するものであり、特に、通勤用途に適した近郊型車両において、側下降窓の開閉操作を容易にするための下降窓開閉補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の下降窓の昇降機構に対して用いられるバランサ(釣合装置)としては、主に2種類のタイプのものが知られている。
【0003】
一つは、下降窓を閉方向(上向き)に付勢する揺動アームを用いた揺動アーム式(シュリーレン式とも呼ばれる。)のバランサであり、もう一つは、スパイラル式のバランサである。スパイラル式は軽量窓(単板ガラス構造)にしか対応できないが、揺動アーム式はスパイラル式と比較して質量の大きい昇降窓にも対応可能である。
【0004】
揺動アーム式のバランサは、リンク機構と複数本のバネを用いて構成される。ところで、複層ガラス構造による1000mm幅の窓の質量は約30kgになり、乗客が補助無しで容易に持ち上げられるものではない。この高重量の窓を揺動アーム式のバランサで支える場合、20~24本のバネが必要となる。揺動アーム式の機構では、窓の質量と操作力とを考慮して補助に必要なバネの本数を変更できる構造となっている。このような揺動アーム式のバランサの構成については、特許文献1に開示されている。
【0005】
一方、スパイラル式のバランサは、窓一つに対して両側に設置される2本のスパイラルバネのねじり量に応じて生じる反発力によって窓の開閉操作を補助する構造となっている。このようなスパイラル式のバランサの構成については、特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実公昭33-017450号公報
【文献】特開2008-057653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では、ダブルスキン構造を有するアルミニウム合金製の構体が主流となっており、従来のステンレス鋼を用いたシングルスキン構造の構体よりも窓の下の空間が狭くなっていることが多い。これに対して、揺動アーム式のバランサでは、複数のバネを使用し複雑なリンク機構を用いていることから装置の厚みが大きくなる。よって、たとえば、ダブルスキン構造において、一定の客室空間を確保するためには、側構体の一部を切り欠くといった対応が必要になる。場合によっては、十分な設置スペースを確保できないために、適用できない車種もある。また、一部が切り欠かれた側構体には、補強を入れるなどの対策が必要となる。さらに、バネ本数が多いならびに複雑なリンク構成では、メンテナンスに時間を要する上に、装置の重量が増大してしまう。
【0008】
また、スパイラル式のバランサでは、比較的バネの反発力が小さいので、上で述べたように軽量窓にしか適用できない。そして、設置の際の調整は一つの窓に対して同時に2人で行う必要があり、揺動アーム式の倍の作業時間を要する。取り付け後の再調整では、カーテンを収納するカーテンキセや、カーテン下端の横棒をガイドする溝が形成されたカーテン溝島などを取り外さなければならないため、復旧に時間を要する。
【0009】
上述の揺動アーム式及びスパイラル式の何れのバランサにおいても、閉状態と全開状態との間でバネの抵抗力に大きな差が生じるので、スムーズに開閉操作を行うことが難しい。
【0010】
そこで、本発明は、コンパクトな構造でありながら閉状態から全開状態にかけて生じるバネの反発力に基づく負荷の急激な上昇を低減させることにより、スムーズな開閉操作を可能にし、且つ、設置を容易にする下降窓開閉補助具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の下降窓開閉補助具は、鉄道車両の下降窓の開閉操作を補助する下降窓開閉補助具であって、前記下降窓の下方に配置される本体と、一端が前記下降窓の下方で上下に旋回できるように、他端が前記本体に軸支されているアームと、前記アームを旋回させる回転運動を往復運動に変換する変換部と、前記下降窓を持ち上げる向きに前記アームを旋回させるように、前記変換部の往復運動を付勢する付勢バネと、前記付勢バネに直列に配置され、内蔵するバネ材を圧縮状態で保持するストッパーが圧縮方向へのみ可動となっているバネユニットとを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の下降窓開閉補助具は、上記構成に加えて、前記変換部が、前記アームの旋回中心に取り付けられたギアと、前記ギアの回転運動を往復運動に変換するラックとを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の下降窓開閉補助具は、上記構成に加えて、前記変換部が、前記ギアと前記ラックとの間に、前記ギアの回転を減速させる中間ギアを備えていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の下降窓開閉補助具は、上記構成に加えて、前記変換部の前記付勢バネが、前記ラックの往復運動を付勢する圧縮バネであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の下降窓開閉補助具は、上記構成に加えて、前記変換部が、前記アームの旋回中心に取り付けられたギアと、前記ギアの回転力を、連接棒を介して前記バネユニットの伸縮方向に沿った往復運動に変換するクランク部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、下降窓の下方に配置された本体に対して旋回可能にアームが軸支されているので、旋回するアームが下降窓を下方から持ち上げることができる。
【0017】
アームの旋回による回転運動は変換部で往復運動に変換される。この往復運動は、アームが下降窓を持ち上げるように付勢されているので、開閉操作において、この付勢に基づく力が担う分だけ下降窓の重量が軽減される。
【0018】
付勢バネと直列に配置されるバネユニットは、内蔵されるバネ材が圧縮状態で保持されている。このバネ材を保持しているストッパーは圧縮方向へのみ可動となっているので、付勢バネの力が内蔵バネの力を越えると、付勢バネ及び内蔵バネは直列の合成バネとして作用する。すなわち、アームに作用する力が、付勢バネ単独から合成バネに移行する際に、全体のバネ定数が低下する。これにより、付勢に基づく力の変化が緩和され、スムーズな操作感が得られる。
【0019】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、ギアとラックを用いて変換部が構成されているので、スムーズな操作感を得ることができる上に、変換部を含む本体を薄型に形成す
ることができる。
【0020】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、ギアの回転を減速させてラックへ伝達されるので、アームの動きに対してラックの往復運動を小さい範囲に設定することができる。これにより、付勢バネ及びバネユニットによる力の特性のうち、変化の緩やかな領域が狭小な範囲であっても有効に利用することができる。
【0021】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、圧縮バネを用いると簡易な構成により耐久性の高い設計が容易になる。
【0022】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、変換部がクランク機構により構成されているので、ギアのみの構成と比較して往復動作における衝撃を低減できる。また、クランク部の連接棒の位相とバネユニットの位置との関係における力の変化を利用して、下降窓の開閉位置に対する荷重の変化を調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る下降窓開閉補助具を表し、(a)は全体斜視図、(b)は本体の一部を破断させた斜視図である。
【
図2】
図1の下降窓開閉補助具の使用状態を示す正面図である。
【
図3】本体内部の動作を表し、(a)は下降窓の閉状態、(b)は開状態を示す図である。
【
図4】本体に用いられている圧縮バネの特性を示す図である。
【
図5】本発明の第2の実施の形態に係る下降窓開閉補助具を示す図である。
【
図6】
図5の下降窓開閉補助具の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係る下降窓開閉補助具について図を用いて説明する。
【0025】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る下降窓開閉補助具1を表している。
図1(a)は全体斜視図、
図1(b)は内部構造を確認できるように、後述する本体2の一部を破断させた斜視図である。
【0026】
図1に示すように、下降窓開閉補助具1は、本体2と、この本体2に対して旋回可能に一端が軸支されたアーム4を備えている。アーム4の先端には、回転自在にローラ4aが設けられている。アーム4の旋回中心となる軸は、本体2内のギア12に接続されている。このギア12の回転力に基づく動力は、中間ギア16を介してラック14に伝達されるように構成されている。中間ギア16は、ギア12側の動きを下歯車16bで受け、速度を減じて上歯車16aに伝達する減速ギアである。中間ギア16の動力は水平方向に延びるように配置されたラック14に伝達される。本実施の形態に係る構成では、中間ギア16によってギア12の回転による動きをほぼ半減させてラック14に伝達することができる。
【0027】
ラック14の一端側には、バネユニット8が配置されている。このバネユニット8には、バネ材として圧縮バネ8bが内蔵されている。圧縮バネ8bは圧縮状態で一端をストッパー8aによって封止されている。圧縮バネ8bの内側にはボルト状のガイド8cが貫通して配置されており、このガイド8cに沿ってスライド可能にストッパー8aが設けられている。ストッパー8aはガイド8cの頭部により規制され、圧縮バネ8bの伸長を阻止している。ガイド8cの先端はラック14に螺合されており、圧縮バネ8bの圧縮の程度はガイド8cのねじ込み量によって調節される。圧縮状態で収容されている圧縮バネ8b
の反発力を越える力を外側からストッパー8aに加えると、ストッパー8aがラック14側へ押し込まれるように構成されている。
【0028】
ストッパー8aに一端を当接させるようにして圧縮バネ6がバネユニット8(の圧縮バネ8b)と直列に配置されている。圧縮バネ6の他端側は、調節部20によって封止されている。調節部20は、固定壁22と可動壁24とを有している。頭部を圧縮バネ6側に配置したボルト状の調節軸26が、固定壁22及び可動壁24を貫通して配置されている。本体2の外側に突出した調節軸26の端部を把持して回すと、固定壁22の位置を基準として可動壁24と共に調節軸26の頭部がスライドする。これにより圧縮バネ6の圧縮の程度を調節することができる。調節された調節軸26は、外側の固定ナット28によって固定される。
【0029】
図2は、下降窓開閉補助具1の使用状態を示す正面図である。
図1に示した下降窓開閉補助具1が側構体100の下降窓101の下方空間に設けられている。旋回するアーム4の先端にはローラ4aが設けられており、このローラ4aを下降窓101の下端に当接させるようにして持ち上げて、下降窓101を支える構成となっている。下降窓101に対して持ち上げる向きにアーム4から付勢が作用しており、下降窓101の重量を軽減するように設定されている。
【0030】
本体2は、
図1に示したようにギア類をケースで囲むだけの、シンプルな薄型構造となっている。中間ギア16についてもギア比の異なる歯を一体的に形成した構造とし、厚さの低減に寄与している。これにより、近年のダブルスキン構造によるアルミニウム合金製の構体内の限られたスペースにも、構体に切り欠きを形成することなく収容できる。
【0031】
図3は、本体2の内部の動作を表している。
図3(a)は下降窓の閉状態、
図3(b)は開状態を示している。ローラを含むアーム4の先端側は、説明の便宜のため図示を省略している。
【0032】
まず、
図3(a)を参照して、力の伝達経路を辿りながら各構成の動きを見ていく。アーム4が上方(閉方向)へ旋回する向きは図中に矢印A1で示している。上方へアーム4が旋回するときのギア12の回転方向は矢印A2の向きとなる。さらに、このときギア12の回転を伝達する中間ギア16の回転の向きは、矢印A3の向きになる。これにより、ラック14は矢印A4の向きに直線運動を行う。同様に、
図3(b)には、開方向に対する各構成の動きを矢印B1からB4(それぞれが矢印A1からA4に対して逆向き)で表している。
【0033】
図3(a)と
図3(b)とを比較すると分かるように、
図3(a)の閉状態では、バネユニット8のストッパー8aはガイド8cの左端に位置しているが、
図3(b)の開状態では、ストッパー8aはガイド8cの左端から離れてラック14側に押し込まれている。
図3(a)の状態から
図3(b)の状態になるとき、ラック14の開方向移動量は距離D1となる。このとき、バネユニット8のガイド8cの左端からストッパー8aは距離D2だけ離れている。
【0034】
本実施の形態に係る構成では、バネユニット8の圧縮バネ8bの初期状態の弾性反発力は、閉状態における圧縮バネ6の弾性反発力よりも大きくなるように設定されている。すなわち、ストッパー8aがガイド8cの左端を離れるまでは、実質的に、圧縮バネ6の弾性反発力だけが、アーム4を下降窓101(
図2参照)の閉方向へ旋回させるための付勢として作用している。しかし、アーム4の開方向への旋回角度がある領域を越えると、圧縮バネ6の弾性反発力がバネユニット8の圧縮バネ8bの弾性反発力を上回り、ストッパー8aがガイド8cの左端から離れる。このとき、圧縮バネ6と圧縮バネ8bとが直列に
合成された合成バネとして作用している。したがって、見かけ上のバネ定数は、圧縮バネ6のバネ定数K1から合成バネのバネ定数K2へと変化する。一般に、バネを直列に接続するとバネ定数は低下する。このため、合成バネのバネ定数K2は、圧縮バネ6単独のバネ定数K1より小さい。この合成バネが作用する動作領域で開閉操作を行えるように設定すると、圧縮バネ6単独による弾性反発力よりも変化が緩やかであるため、利用者はスムーズな操作感で開閉操作を行うことができる。
【0035】
ここで、下降窓開閉補助具1のバネ特性を参照しながら動作説明を行う。
【0036】
図4は、本体2に用いられている圧縮バネ6、8bの特性を表した図である。
図4の縦軸はバネ反力(荷重)を表し、横軸は下降窓の開度の拡大に伴って増大するラック14の開方向移動量を表している。
【0037】
ラック14の開方向移動量が小さい領域から大きい領域にかけて直線の傾きが変化しているのが見て取れる。下降窓の開度が大きくなるほど、バネ反力が大きくなるのが分かる。開方向移動量が小さい領域は、圧縮バネ6のみが付勢を生じている領域であって、圧縮バネ6のばね定数K1の特性だけが表れている。一方、開方向移動量が大きい領域は、
図3を用いて上述した合成バネの付勢が作用している領域である。
図3(b)に示したように、バネユニット8のストッパー8aがガイド8cの左端から離れる程度に圧縮バネ6の力が増大した状態がこの領域に相当する。合成バネのバネ定数はK2であり、圧縮バネ6のバネ定数K1よりも小さい。したがって、バネ定数K2の領域では、バネ特性の傾きも緩やかになっている。
【0038】
釣り合い位置Bは、このバネ定数K2の領域にあり、アーム4の旋回位置がほぼ水平になった状態で釣り合うように設定されている。なお、具体的には、質量30kgの窓を7kg重程度の力で閉じることができるような設定となっている。
【0039】
ところで、本実施の形態にかかる構成では、ギア12の動きは中間ギア16によって減速されてラック14に伝達されることは上述した。これにより、アーム4の動作に対するラック14の可動域は小さく抑えられる。すなわち、
図4に示したラック14の開方向移動量L1からL2のような狭い範囲にラック14の可動域Rを収めるように設定すると、付勢が緩やかに変化する領域を利用することができる。これにより、利用者は開度に関わらず荷重変化の少ないスムーズな操作が可能となる。
【0040】
以上のように、本発明の下降窓開閉補助具では、下降窓を閉じる向きに付勢を与えるバネ機構として、予め圧縮したバネユニットを含む直列配置の合成バネが用いられている。このようにバネ機構の一部をユニット化することにより、比較的自然長の長いバネ材を短くした状態で取り扱うことができるので、組立作業やメンテナンス時の調整作業が容易になるという利点がある。よって、比較的バネ定数の小さいバネ材を、バネ反力の高い状態で利用しやすい。すなわち、バネユニット8に比較的バネ定数の小さい圧縮バネ8bを用いた上で、この圧縮バネ8bと圧縮バネ6とを直列に配置して合成バネとして作用させることによりさらに全体のバネ定数を小さくすることができる。これにより、省スペースであってもバネ定数の小さいバネ材から十分な力を得ることが可能となる。
【0041】
これに加えて、アーム4の回転による動きを縮小して伝達し、ラック14に繋がる圧縮バネ6及び圧縮バネ8bの作用範囲を小さく抑えるために中間ギア16が採用されている。このように構成されているので、全体のバネ特性において、ラックの開放移動量が比較的小さい範囲を選択して設定することができる(
図4の可動域R)。すなわち、シュリーレン式の構成のように複雑なリンク機構を用いることなく、変動の少ない作用範囲を上述の調節部20によって選択することができるので、下降窓の開閉操作をスムーズに行うこ
とができる。さらに、バネ反力の変動を緩やかに設定できることを利用して、開閉途中の下降窓を任意の場所で停止させるフリーストップに近い状態を実現することも可能である。
【0042】
(第2の実施の形態)
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る下降窓開閉補助具30を示す図である。ここでは、第1の実施の形態において示した下降窓開閉補助具1と同一の構成については、同一の符号を用いて説明することとする。また、
図5は
図3の説明と同様に、本体31内部の構造が分かりやすいように、正面側の一部を切り欠いて表しており、アーム4の先端の構造は図示を省略している。
【0043】
アーム4によって下降窓101(
図2参照)の開閉に基づく外力が入力され、このアーム4の旋回力を往復運動に変換して圧縮バネ6で受けるという概略の構成は、第1の実施の形態に示した下降窓開閉補助具1と共通である。しかし、回転力を往復運動に変換する変換部33の構成が異なっている。以下では、この変換部33を中心に説明を行う。
【0044】
図1の下降窓開閉補助具1と異なり、変換部33は、ギア12とラック14の構成ではなく、ギア12とクランク部34によって構成されている。クランク部34には、アーム4の旋回中心に設けられたギア12と噛み合う円弧状ギア部36を有している。そして、クランク部34の回転中心からの距離が円弧状ギア部36よりも近い位置に連接棒35の一端が接続されている。この連接棒35の他端は
図1のバネユニット8に相当するバネユニット32に連結されている。このように構成されているので、ギア12から伝達される回転力は、クランク部34及び連接棒35を介して往復運動に変換され、バネユニット32に伝達される。なお、上述のように、円弧状ギア部36の方が、連接棒35の連結位置よりもクランク部34のクランクシャフト37から遠い位置に設けられているので、ギア12から伝達される回転運動を減速させる作用が生じる。すなわち、第1の実施の形態に示した中間ギア16によるギア比による減速作用は、連接棒35の取り付け位置によって調節することができる。
【0045】
バネユニット32については、連接棒35が回転自在に連結できるように構成されている以外は、第1の実施の形態の構成と実質的に同一である。
【0046】
下降窓101の開放に伴って旋回するアーム4により回転力が入力され、それに応じて徐々に連接棒35がバネユニット32を押し込む。これにより、バネユニット32の圧縮バネ32bの強度をもう一方の圧縮バネ6の力が越える時点で両者が合成バネとして作用する。
【0047】
なお、変換部33としてクランク機構を用いる場合、ギアとラックの組み合わせによる変換機構とは異なり、回転の位相に対する連接棒35の連結位置を調節することによって、往復運動側にピークとなるポイントを設定することができる。これにより、窓の開閉に伴う操作感を様々に設定することも可能である。
【0048】
<変形例>
図6は、
図5の下降窓開閉補助具30の変形例である下降窓開閉補助具40を示す図である。
図5の場合と同様に、第1の実施の形態において示した下降窓開閉補助具1と同一の構成については、同一の符号を用いて説明することとする。また、本体内部の構造が分かりやすいようにする図示の形態も同様である。
【0049】
第1の実施の形態と比べて、アーム4、ギア12および圧縮バネ6については同様の構成であるが、変換部43の構成が異なっている。
図6の変換部43はカム機構によって構
成されている。
【0050】
本体41内には、ギア12と同一平面内に板カム44が設けられている。この板カム44の縁の一部には、
図5のクランク部34の円弧状ギア部36と同様の円弧状ギア部46が形成されている。そして、カムシャフト47からの半径が変化してカム作用が得られる位置に、バネユニット42に設けられた従動節45が当接するように構成されている。このように構成されているので、アーム4の旋回によって入力された回転力は、ギア12を介してカムを回転させ、カム機構によってバネユニット42の往復運動に変換される。
【0051】
図6のようなカム機構によっても、
図5のクランク機構を利用した変換部33と同様に、往復運動のピーク位置を設定することが可能である。
【0052】
以上に述べてきたような構成は本発明の一例であり、さらに以下のような変形例も含まれる。
【0053】
(1)上記の第1の実施の形態では、変換部を構成するラックが直線状に形成された例を示した。しかし、スムーズな往復運動が可能な構成であれば、円弧状のラックでも構わない。
【0054】
(2)上記の第1の実施の形態では、ギアとラックとの間に中間ギアを設けた構成を例として示した。しかし、スムーズに回転運動を往復運動に変換できる構成であれば、中間ギアを用いなくても構わない。
【0055】
(3)上記の第1の実施の形態では、ギアの回転を減速させる中間ギアが1枚で構成されている例を示した。しかし、複数枚を組み合わせた中間ギアを用いても構わない。
【0056】
(4)上記の第1の実施の形態では、変換部の付勢バネとしてコイル状の圧縮バネを用いた構成を例として示した。しかし、板バネ等の付勢バネに置き換えることも可能である。
【0057】
(5)上記の実施の形態では、バネユニットが変換部に直結する構成を例として示した。しかし、圧縮バネをバネユニットと変換部との間に設ける構成でも構わない。
【0058】
(6)上記の実施の形態では、1つのバネユニットを用いてバネ機構を構成する例を示した。しかし、圧縮バネ及びバネユニットからなる直列のバネ機構を少なくとも1つ含んでいれば、バネユニットは複数ユニットで置き換えることも可能である。また、単一又は複数のバネユニットと圧縮バネとを直列に組み合わせたバネ機構を少なくとも1つ含んだ並列の構成でも構わない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の下降窓開閉補助具は、コンパクトな設計でありながら、高重量の下降窓を力の変化が緩やかな操作感で操作することができるので、鉄道車両に限らず、広く、車両用の昇降窓や開閉扉において有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 下降窓開閉補助具
2 本体
4 アーム
4a ローラ
6 圧縮バネ(付勢バネ)
8 バネユニット
8a ストッパー
8b 圧縮バネ(バネ材)
8c ガイド
10 変換部
12 ギア
14 ラック
16 中間ギア
16a 上歯車
16b 下歯車
20 調節部
22 固定壁
24 可動壁
26 調節軸
28 固定ナット
30 下降窓開閉補助具
31 本体
32 バネユニット
32a ストッパー
32b 圧縮バネ
32c スライダー
32d ガイド
33 変換部
34 クランク部
35 連接棒
36 円弧状ギア部
37 クランクシャフト
40 下降窓開閉補助具
41 本体
42 バネユニット
42a ストッパー
42b 圧縮バネ
42c スライダー
42d ガイド
43 変換部
44 板カム
45 従動節
46 円弧状ギア部
47 カムシャフト
100 側構体
101 下降窓
P 釣合い位置
R 可動域
K1、K2 バネ定数