(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】電力変換器
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20221128BHJP
【FI】
H02M3/28 F
H02M3/28 Y
(21)【出願番号】P 2020178534
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2020-10-26
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑弥
【合議体】
【審判長】篠原 功一
【審判官】山澤 宏
【審判官】児玉 崇晶
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-92263(JP,A)
【文献】特開2009-240067(JP,A)
【文献】特開2017-011964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00-3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスを備え、前記トランスの一次巻線にはスイッチング素子を有するブリッジ型のインバータが接続される一方、前記トランスの二次巻線は複数個の巻線で構成され、前記二次巻線を構成する複数個の巻線には、それぞれ個別に半導体素子を有するブリッジ型の整流回路が接続され、かつ、前記整流回路は互いに直列に接続され
ており、前記二次巻線を構成する複数個の巻線の巻数は互いに異なり、前記整流回路を構成する前記半導体素子は、前記整流回路ごとに耐圧が異なっている、電力変換器。
【請求項2】
前記二次巻線の複数個の巻線の個数は2個である、請求項1
に記載の電力変換器。
【請求項3】
前記整流回路を構成する前記半導体素子は、ダイオードである請求項1
または請求項2に記載の電力変換器。
【請求項4】
前記整流回路を構成する前記半導体素子は、スイッチング素子である請求項1
または請求項2に記載の電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電力変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランスを有する絶縁型DC/DCコンバータからなる電力変換器は、トランスの一次側にブリッジ型のインバータが、また、トランスの二次側にブリッジ型の整流回路が接続されたシンプルな回路構成であるため、構成部品が少なく、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)等の電動車両に搭載される車載充電器の回路方式として主流となっている。
【0003】
ここで、車載充電器は、一般的にAC/DCコンバータおよび絶縁型DC/DCコンバータで構成され、系統から入力される電力に対して電力変換を行い、車両のバッテリを充電する役割を担っている。電動車両は従来から航続距離の増加が求められており、バッテリの大電力化、高電圧化が進んでいる。バッテリが大型化する一方、電動車両の普及のために居住空間確保、および低コスト化に対する要求も強く、車載充電器としては、小型、低コスト化、高耐圧化などが求められている。車載充電器の小型、低コスト化のためには、トランス、リアクトル等の磁性部品の小型化が必須であり、そのためには、駆動周波数の高周波化(数十~数百kHz駆動)が望まれる。
【0004】
しかし、高周波駆動に伴い、ダイオードのリカバリ損失の増大が問題となる。さらに、車載充電器は高電圧化が進んでいるバッテリに接続されるため、サージ電圧の増大の問題も生じる。したがって、絶縁型DC/DCコンバータの二次側の整流回路に発生するリカバリ損失、およびサージ電圧に対する高耐圧化の対策が必要である。
【0005】
そのため、従来技術では、上記のサージ電圧を抑制するために、トランスの二次側の整流回路と並列にRCDスナバ回路を配置する技術が提案されている。これは、整流回路に発生するサージ電圧を、スナバダイオードを介してスナバコンデンサにより吸収し、この電荷をスナバ抵抗を介して放電するというものである。
【0006】
しかしながら、この従来のものは、スナバ回路として、ダイオード、コンデンサおよび抵抗の追加が必要であるため、コスト増加となる。高周波化した場合、吸収したサージエネルギーをスナバ抵抗によって消費するため、スナバ抵抗損失が増大する。また、サージ電圧はスナバ回路によって抑制可能であるが、高周波駆動に伴うリカバリ損失は抑制されないため、整流回路のリカバリ損失が増大する。これに対策するには、冷却を改善する必要があるため、冷却器のコスト増加となる。
【0007】
また、他の従来技術では、サージ電圧に対する高耐圧化に関し、半導体素子を直列に複数配置し、各々の半導体素子と並列にコンデンサを配置することで、印加される電圧を分圧する技術が提案されている。これは、各半導体素子の容量に対して相当に大きな容量のコンデンサを各半導体素子と並列に配置することで、容量による分圧を行うものである。
【0008】
しかしながら、この従来のものは、整流回路に発生するリカバリ損失を低減するのに十分でない。しかも、耐圧を確保するために、半導体素子を直列に接続しており、各半導体素子と並列にコンデンサを配置するため、コスト増加となる。また、理想的には各半導体素子に対してコンデンサを並列に接続し、コンデンサの容量で分圧することで、必要な素子耐圧は半分となる。しかし、コンデンサの容量は、一般的に初期ばらつき、温度特性、経年劣化などによるばらつきが大きく、それらを踏まえると、均等な分圧は難しく、半導体素子には、元々の半分以上の耐圧が要求され、その結果、素子数のみ増えるため、大幅なコスト増加となる。
【0009】
そこで、例えば、下記の特許文献1では、リカバリ損失、およびサージ電圧の双方を抑制するために、整流回路と並列に還流用のSiC(Silicon Carbide)ダイオードを配置する技術が提案されている。これは、整流回路のリカバリ電流を還流用のSiCダイオードによりバイパスすることで、リカバリ損失の発生、およびリカバリによるサージ電圧の発生を抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の特許文献1に記載のものは、還流ダイオードとしてのSiCダイオードの特性から、リカバリ損失が非常に小さく、高耐圧であり、リカバリ損失とサージ電圧の双方が抑制可能である。しかしながら、SiCダイオードのコストは、従来からの主流であるSi(Silicon)ダイオードに比べて5~10倍程度と非常に高く、大幅なコスト増加となってしまう。
【0012】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、トランスを有する絶縁型DC/DCコンバータからなる電力変換器に関し、二次側の整流回路に発生するリカバリ損失およびサージ電圧を共に抑制することで、高周波化が可能であり、かつ耐圧の低い素子が適用可能で、低コストな電力変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願に開示される電力変換器は、トランスを備え、前記トランスの一次巻線にはスイッチング素子を有するブリッジ型のインバータが接続される一方、前記トランスの二次巻線は複数個の巻線で構成され、前記二次巻線を構成する複数個の巻線には、それぞれ個別に半導体素子を有するブリッジ型の整流回路が接続され、かつ、前記整流回路は互いに直列に接続されており、前記二次巻線を構成する複数個の巻線の巻数は互いに異なり、前記整流回路を構成する前記半導体素子は、前記整流回路ごとに耐圧が異なっている。
【発明の効果】
【0014】
本願に開示される電力変換器によれば、各々の整流回路を構成する半導体素子に印加される電圧が分割されるため、従来よりも耐圧の低い半導体素子が適用可能となり、電力変換器の低コスト化が可能になる。特に、二次巻線の巻数を異ならせることで、各整流回路の必要耐圧が異なるように調整可能となり、過剰設計を防止し、低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本願の比較例としての電力変換器の回路構成図である。
【
図2】本願の実施の形態1による電力変換器の回路構成図である
【
図3】本願の実施の形態2による電力変換器の回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は、本願の特徴を明確にするために示す、本願の比較例としての電力変換器の回路構成図である。
図1に示す電力変換器は、絶縁型のフルブリッジDC/DCコンバータであり、トランス113を備え、トランス113の一次巻線113aに単相インバータ100が接続されている。一方、トランス113の二次側は、二次巻線113bが分割されることなく、一次巻線113aに対応して1つだけ設けられている。そして、この二次巻線113bに整流回路114が接続されている。
【0017】
ここに、上記の単相インバータ100は、スイッチング素子101~104をブリッジ型(フルブリッジ)に接続したもので、直流電源111の直流電圧Vinを交流電圧に変換する。また、整流回路114は、その整流素子としてダイオード114a~114dをブリッジ型(フルブリッジ)に接続して構成されている。そして、整流回路114の出力側には出力平滑用リアクトル108および出力コンデンサ109が接続され、負荷110へ直流電圧Voutが出力される。
【0018】
また、上記の主回路の外部には制御部112が配置されている。この制御部112は、直流電源111から入力される直流電圧Vin、および負荷110へ出力される直流電圧Voutをモニタし、状況に応じて負荷110へ出力される直流電圧Voutが目標値となるように、スイッチング素子101~104へゲート信号101a~104aを出力することで、スイッチング素子101~104のオンduty(オン期間)を制御し、PMW(Pulse Width Modulation)制御を行う。
【0019】
図1に示す回路構成において、整流回路114を構成するダイオード114a~114dは、SiCダイオードが使用されている。すなわち、
図1に示す回路では、整流回路114を構成するための整流素子として、数十~数百kHzの高周波駆動での熱成立のため、リカバリ損失が小さく、かつ、負荷110へ出力される直流電圧Voutの高電圧化に伴って発生するサージ電圧を考慮して高耐圧が求められる。このため、両者の要求を合わせもつ特性を有する半導体素子としてSiCダイオードが適用されている。
【0020】
しかし、前述のように、SiCダイオードのコストは、従来からの主流であるSiダイオードに比べて5~10倍程度と非常に高価で、電力変換器が大幅なコスト増加となってしまう。
【0021】
図2は、本願の実施の形態1による電力変換器の回路構成図である。なお、
図1と対応する構成部分には、同一の符合を付す。
【0022】
この実施の形態1の電力変換器は、絶縁型のフルブリッジDC/DCコンバータであり、トランス105を備える。そして、トランス105の一次巻線105aには、単相インバータ100が接続されている。
【0023】
一方、トランス105の二次側は、二次巻線が2つに均等分割されている。すなわち、2つに均等分割された二次巻線105bおよび105cで構成されている。したがって、各々の二次巻線105b、105cの巻数は、互いに等しい。そして、各々の二次巻線105b、105cには、整流回路106、107が個別に接続され、かつ、2つの整流回路106、107は、互いに直列に接続されている。
【0024】
ここに、上記の単相インバータ100は、スイッチング素子101~104をブリッジ型(フルブリッジ)に接続したもので、直流電源111の直流電圧Vinを交流電圧に変換する。また、一方の整流回路106は、その整流素子としてダイオード106a~106dをブリッジ型(フルブリッジ)に接続して構成されている。同様に、他方の整流回路107は、その整流素子としてダイオード107a~107dをブリッジ型(フルブリッジ)に接続して構成されている。この場合、各々のダイオード106a~106d、107a~107dは、
図1に示したようなSiCダイオードではなく、従来からの主流である半導体素子としてのSiダイオードがいずれも適用されている。
【0025】
そして、整流回路106および整流回路107を直列接続した構成の出力には出力平滑用リアクトル108および出力コンデンサ109が接続され、負荷110へ直流電圧Voutが出力される。
【0026】
なお、単相インバータ100を構成する各々のスイッチング素子101~104は、ここでは、Si(Silicon)-MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等の自己消弧型半導体スイッチング素子が適用されているが、これに限らず、例えばSiC(Silicon Carbide)、あるいはGaN(Gallium Nitride)などのワイドバンドギャップ半導体、あるいはダイヤモンド系を用いた半導体スイッチング素子でもよい。
【0027】
前述のように、
図2に示したこの実施の形態1の電力変換器において、トランス105は、均等分割された2つの二次巻線105b、105cを備える。
ここで、例えば、トランス105の一次巻線105aの巻数をN1、2つの二次巻線105b、105c全体の総巻数をN2、必要巻数比を1.5(=N2/N1)とすると、一次巻線105aの巻数N1=8ターンの場合、二次巻線全体の総巻数N2=12ターンが必要となるので、均等分割された一方の二次巻線105bの巻数N2b=6ターン、他方の二次巻線105cの巻数N2c=6ターンとなる。
【0028】
このように、均等分割された2つの二次巻線105b、105cを設けることで、二次側に発生する電圧を均等に分圧することができる。そのため、各々の整流回路106、107を構成する整流素子であるダイオード106a~106d、107a~107dの素子耐圧は、
図1に示した整流回路114を構成するSiCダイオード114a~114dの耐圧の半分で成立する。
【0029】
さらに、
図2に示したこの実施の形態1の電力変換器は、素子耐圧の低耐圧化に伴い、一般的にVf(順方向電圧)特性およびリカバリ特性が改善される。よって、素子耐圧を半分とすることでダイオード1個当たりの損失が大幅に低減し、熱成立に裕度ができるため、SiCダイオードではなく、従来からの主流であるSiダイオードの適用が可能となる。
【0030】
この構成変更に伴い、ダイオードの使用個数は
図1の構成の場合の2倍になるが、ダイオード106a~106d、107a~107dの単価は、SiCダイオードに比べて1/5~1/10となるため、素子単価を大幅に低減でき、装置全体のコスト低減が可能となる。
【0031】
なお、トランス105の二次側は、均等分割された2つの二次巻線105b、105cで構成されるが、二次巻線全体としての必要な総巻数N2自体は変更していない。すなわち、上記の例では、N2b(6ターン)+N2c(6ターン)=N2(12ターン)である。トランス105の一次巻線105aの巻数N1は、磁束密度をΔB、印加電圧をVtr、印加時間をton、トランス105のコア断面積をAeとすると、下記の(式1)の関係がある。
【0032】
ΔB=(Vtr・ton)/(Nl・Ae) (式1)
【0033】
ここに、Vtrおよびtonは駆動周波数あるいは動作条件によって決まるため、トランス105のコアの磁気飽和を抑制するためには、磁束密度ΔBが磁束飽和密度を超えないように一次巻線105aの巻数N1およびトランス105のコア断面積Aeを設定する必要がある。また、トランス105のコア損失は、一般的に磁束密度ΔBの2乗に比例する。よって、ΔBはより小さいほうが磁気飽和しにくく、コア損失も小さくなるため、N1×Aeはより大きいほうが好ましい。
【0034】
しかし、コア断面積Aeを大きくすると、トランスのサイズへのインパクトが大きいため、N1を増やすことで、磁気飽和抑制およびコア熱成立を確保することが一般的である。そのため、この実施の形態1では、必要巻数比1.5に対して、N1=2ターン、N2=3ターンではなく、前述のようにN1=8ターン、N2=12ターンとなるように設定した。そのため、二次巻線全体としての必要な総巻数N2自体は変更することなく、二次巻線を2分割することが可能となる。2つの二次巻線105b、105cの総巻数N2自体は
図1の場合と変更がないので、二次巻線の2分割化によるコスト増加はほぼない。
【0035】
以上のように、この実施の形態1によれば、トランス105の二次巻線を2つに均等分割、すなわち均等分割された2つの二次巻線105b、105cを設けることで、2つの整流回路106、107に印加される電圧を2等分できる。これにより、
図1の回路構成と比較して、各々の整流回路106、107を構成するダイオード106a~106d、107a~107に対する素子耐圧を半減することが可能となり、低耐圧化に伴うVf(順方向電圧)およびリカバリの特性改善により損失を低減できる。
【0036】
その結果、従来からの主流であるSiダイオードを適用できるので、大幅なコスト低減が可能である。また、二次巻線105b、105c全体の総巻数N2は変更しておらず、2分割化によるコスト増加はないので、電力変換器の低コスト化が可能となる。また、2つの整流回路106、107は互いに直列に接続されているため、負荷110に対しては、
図1の構成と同様な直流電圧Voutを供給できる。
【0037】
実施の形態2.
図3は、本願の実施の形態2による電力変換器の回路構成図である。なお、
図2に示した実施の形態1と対応する構成部分には、同一の符合を付す。
【0038】
この実施の形態2の電力変換器において、トランス105の二次巻線が2つに分割されている点は実施の形態1と同じであるが、実施の形態1のように、トランス105の二次巻線を2つに均等分割するのではなく、一方の二次巻線105bの巻数N2bと他方の二次巻線105cの巻数N2cとを異ならせている(N2b≠N2c)。
【0039】
例えば、トランス105の一次巻線105aの巻数をN1、分割された二次巻線105b、105c全体の巻数をN2、必要巻数比1.5(=N2/N1)とすると、一次巻線105aの巻数N1=6ターンの場合、二次巻線全体の総巻数N2=9ターンが必要となるので、分割された一方の二次巻線105bの巻数N2b=4ターン、他方の二次巻線105cの巻数N2c=5ターンとなる。
【0040】
このように、一方の二次巻線105bの巻数N2bと他方の二次巻線105cの巻数N2cとが異なるため、各々の二次巻線105b、105cに個別に接続される整流回路106、107を構成するダイオード106a~106d、および107a~107dは、素子耐圧が同一ではなく、整流回路106、107bごとに素子耐圧が異なっている。
その他の構成は、
図2に示した実施の形態1と同様であるので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0041】
このように、この実施の形態2では、一方の二次巻線105bの巻数N2bと他方の二次巻線105cの巻数N2cとを異ならせることで、二次側に発生する電圧を不均等に分割することができる。その場合、N2b=4ターン、N2c=5ターンのため、分圧比=4:5となる。
【0042】
したがって、
図1の回路構成(比較例)で選定したSiCダイオード114a~114dの耐圧と比べると、一方の整流回路106を構成するダイオード106a~106dの素子耐圧は4/9倍、また他方の整流回路107を構成するダイオード107a~107dの素子耐圧は5/9倍で成立し、各々の整流回路106,107における素子耐圧を低減することができ、素子単価を大幅に低減できる。なお、素子耐圧の低耐圧化に対する特性改善、および二次巻線分割に対するコストの影響に関しては、実施の形態1に記載した通りであり、電力変換器の低コスト化が可能となる。
【0043】
ところで、一般に半導体素子の耐圧のラインナップは、離散的な飛び飛びの値をとる。このため、整流回路106、107を構成するダイオード106a~106d、107a~107dの素子耐圧を上記のように4/9倍、あるいは5/9倍に適合できないことがある。その場合、N2bとN2cの分圧比を常に固定したままであると、必要耐圧を確保するためには、より耐圧の大きな素子を適用することが必要となり、その結果、過剰設計、コスト増加となる。
【0044】
その対策としては、二次巻線の総巻数N2を変更せずに、N2bとN2cの比を変更すればよい。例えば、N2b=3ターン、N2c=6ターンとすることで、
図1の回路構成(比較例)で選定したSiCダイオード114a~114dの耐圧と比べると、一方の整流回路106を構成するダイオード106a~106dの素子耐圧は3/9倍、また他方の整流回路107を構成するダイオード107a~107dの素子耐圧は6/9倍で成立する。
【0045】
このように、半導体素子(ここでは、ダイオード106a~106d、107a~107)の耐圧に適切なラインナップが無い場合には、二次巻線105bおよび105cの巻数N2bおよびN2cを変更することで、必要耐圧は調整可能である。このため、過剰設計を防止し、低コスト化を実現することができる。
【0046】
なお、本願は、上記の実施の形態1、2に示した構成のみに限定されるものではなく、本願の趣旨を逸脱しない範囲において、構成を適宜組み合わせたり、その構成に一部変形を加えたり、構成を一部省略することが可能である。
【0047】
例えば、上記の実施の形態1、2では、二次巻線を2分割した場合について説明したが、これに限らず、二次巻線の分割数が3以上の整数の場合であってもよく、また、整流回路106、107を構成するダイオードに代えて、スイッチング素子を適用することも可能である。
【0048】
また、本願は、様々な例示的な実施の形態が記載されているが、一つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるものではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
【0049】
したがって、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも一つの構成要素を変形する場合、追加する場合、または省略する場合、さらには、少なくとも一つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれものとする。
【符号の説明】
【0050】
100 単相インバータ、111 直流電源、101~104 スイッチング素子、
101a~104a ゲート信号、105 トランス、105a 一次巻線、
105b 二次巻線、105c 二次巻線、106 整流回路、
106a~106d ダイオード(半導体素子)、107 整流回路、
107a~107d ダイオード(半導体素子)、108 出力平滑用リアクトル、
109 出力コンデンサ、110 負荷、112 制御部、113 トランス、
113a 一次巻線、113b 二次巻線、114 整流回路、
114a~114d ダイオード、Vin 直流電圧(入力電圧)、
Vout 直流電圧(出力電圧)、N1 一次巻線の巻数、N2b 二次巻線の巻数、
N2c 二次巻線の巻数。