IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テルモ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-皮内針及びその包装体並びに注射装置 図1
  • 特許-皮内針及びその包装体並びに注射装置 図2
  • 特許-皮内針及びその包装体並びに注射装置 図3
  • 特許-皮内針及びその包装体並びに注射装置 図4
  • 特許-皮内針及びその包装体並びに注射装置 図5
  • 特許-皮内針及びその包装体並びに注射装置 図6
  • 特許-皮内針及びその包装体並びに注射装置 図7
  • 特許-皮内針及びその包装体並びに注射装置 図8
  • 特許-皮内針及びその包装体並びに注射装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】皮内針及びその包装体並びに注射装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/158 20060101AFI20221128BHJP
   A61M 5/32 20060101ALN20221128BHJP
【FI】
A61M5/158 500H
A61M5/32 510B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020505739
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2019007241
(87)【国際公開番号】W WO2019176523
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2018043852
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】前川 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】川本 英二
(72)【発明者】
【氏名】中島 健太郎
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-66105(JP,A)
【文献】国際公開第2014/033898(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/040188(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/007629(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/158143(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/158
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に穿刺可能な針先(14a)を有する針管(14)と、
前記針管(14)を保持する針ハブ(16)と、
前記針ハブ(16)からフランジ状に伸び出たフランジ部(30)と、
前記フランジ部(30)の先端側に伸び出て前記針管(14)の周囲を囲うように円筒状に形成されたリング突部(32)と、を備え、
前記フランジ部(30)には所定方向の幅が他よりも狭く形成されてなる切欠部(33、82、84、86)が設けられており、前記切欠部(33、82、84、86)は、前記リング突部(32)よりも外周側の領域に設けられていることを特徴とする皮内針。
【請求項2】
請求項記載の皮内針であって、前記切欠部(33、82、86)は、前記フランジ部(30)の一端を切り欠いた第1の欠損部と、前記針ハブ(16)を挟んで前記第1の欠損部と対向する位置で前記フランジ部(30)を切り欠いた第2の欠損部とを有することを特徴とする皮内針。
【請求項3】
請求項記載の皮内針であって、前記第1の欠損部と前記第2の欠損部とが平行に形成されていることを特徴とする皮内針。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の皮内針であって、前記切欠部(33、84)は直線状に切り欠かれていることを特徴とする皮内針。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の皮内針であって、前記フランジ部(30)は前記切欠部(33、82、84、86)以外の部分において前記針ハブ(16)の軸を中心とする円板状に形成されていることを特徴とする皮内針。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の皮内針であって、さらに、前記針管(14)を保持し前記フランジ部(30)から先端側に突出する軸部(28)を備え、前記軸部(28)は先端に生体の表面に接触する先端面(28b1)を有することを特徴とする皮内針。
【請求項7】
皮内針(10)を収容した容器(70)と、
前記容器(70)を密封するシール部材(72)と、を備えた包装体(12)であって、
前記皮内針(10)は、生体に穿刺可能な針先(14a)を有する針管(14)と、前記針管(14)を保持する針ハブ(16)と、前記針ハブ(16)からフランジ状に伸び出たフランジ部(30)と、前記フランジ部(30)の先端側に伸び出て前記針管(14)の周囲を囲うように円筒状に形成されたリング突部(32)と、を備え、前記フランジ部(30)には所定方向の幅が他よりも狭く形成されてなる切欠部(33、82、84、86)が設けられており、前記切欠部(33、82、84、86)は、前記リング突部(32)よりも外周側の領域に設けられていることを特徴とする包装体。
【請求項8】
生体に穿刺可能な針先(14a)を有する皮内針(10)と、
前記皮内針(14a)に脱着可能に取り付けられたシリンジ(20)と、を有する注射装置であって、
前記皮内針(10)は、生体に穿刺可能な針先(14a)を有する針管(14)と、前記針管(14)を保持する針ハブ(16)と、前記針ハブ(16)からフランジ状に伸び出たフランジ部(30)と、前記フランジ部(30)の先端側に伸び出て前記針管(14)の周囲を囲うように円筒状に形成されたリング突部(32)と、を備え、前記フランジ部(30)には所定方向の幅が他よりも狭く形成されてなる切欠部(33、82、84、86)が設けられており、前記切欠部(33、82、84、86)は、前記リング突部(32)よりも外周側の領域に設けられていることを特徴とする注射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を生体に注入する際に用いられる皮内針及びその包装体並びに注射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特許第5366195号公報や特許第5366196号公報のように、皮膚上層部に薬剤を注射するために皮内針が提案されている。皮内針は、針ハブの先端から短く突出した針管を皮膚上層の適切な深さに穿刺させるものであり、穿刺深さを一定にすることが求められる。
【0003】
そこで、皮内針には針管の周りを取り囲む壁状のリング突部が設けられている。リング突部は、所定の押圧力で皮膚表面に押し付けられることにより、針管の周囲の皮膚を押し広げ、皮膚表面を針管に対して垂直に整えることで、針先の穿刺深さを一定に保つ役割をはたす。
【0004】
さらに、リング突部の適切な押圧力を使用者に知らせるために、皮内針にはフランジ部が設けられている。フランジ部は、針ハブの外周側にフランジ状に伸び出た部分であり、このフランジ部が皮膚表面に接触することをもって使用者にリング突部が適切な押圧力で皮膚に押し込まれていることを知らせることができる。
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、従来の皮内針は、フランジ部が大きいため、使用後に誤刺を防止するためのプロテクタなどの安全機構を設けにくく、また、小児の腕などの狭い部位へ使用する場合には使用し難くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、安全機構を設けやすく、また、狭い部位への使用にも好適でありながら、従来のものと同等の性能を有する皮内針及びその包装体並びに注射装置を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の一観点に係る皮内針は、生体に穿刺可能な針先を有する針管と、前記針管を保持する針ハブと、前記針ハブからフランジ状に伸び出たフランジ部と、前記フランジ部の先端側に伸び出て前記針管の周囲を囲うように円筒状に形成されたリング突部と、を備え、前記フランジ部には所定方向の幅が他よりも狭く形成されてなる切欠部が設けられており、前記切欠部は、前記リング突部よりも外周側の領域に設けられていることを特徴とする。
【0008】
上記の皮内針によれば、フランジ部に所定方向の幅が他よりも狭く形成されてなる切欠部を設けている。このようにフランジ部に切欠部を設けた場合であっても、リング突部の適切な押圧力を示すことができ、使用後に誤刺を防止するためのプロテクタなどの安全機構が設けやすく、また、細い部位への使用が可能な小型化されたフランジ部を実現できる。
【0009】
上記の皮内針において、切欠部はリング突部よりも外周側の領域に設けられていてもよい。この構成により、リング突部の機能を損なうことなくフランジ部に切欠部を設けることができる。
【0010】
上記の皮内針において、切欠部は、フランジ部の一端を切り欠いた第1の欠損部と、針ハブを挟んで第1の欠損部と対向する位置で前記フランジ部を切り欠いた第2の欠損部とを有していてもよい。この構成とした場合であっても、切り欠かれていない部分のフランジ部の外周部を皮膚に接触させる程度に押圧すれば、リング突部を一定の押圧力で押し付けることができる。第1の欠損部及び第2の欠損部の分だけフランジ部を小型化でき、使用後に誤刺を防止するためのプロテクタなどの安全機構が設けやすく、また、狭い部分への使用が容易となる。
【0011】
上記の場合において、前記第1の欠損部と第2の欠損部とが略平行に形成されていてもよい。また、前記切欠部は直線状に切り欠かれていてもよい。さらに、前記フランジ部は前記切欠部以外の部分において前記針ハブを中心とする円板状に形成されていてもよい。
【0012】
上記の皮内針において、第1の欠損部と第2の欠損部との間隔は、前記リング突部の直径よりも狭くてもよい。これによりフランジ部をさらに小型にできる。また、このようなフランジ部であっても、リング突部が一定の押圧力で押し付けられていることを使用者に知らせることができる。
【0013】
また、本発明の別の一観点に係る包装体は、皮内針を収容した容器と、前記容器を密封するシール部材とを備えた包装体であって、前記皮内針は、生体に穿刺可能な針先を有する針管と、前記針管を保持する針ハブと、前記針ハブからフランジ状に伸び出たフランジ部と、前記フランジ部の先端側に伸び出て前記針管の周囲を囲うように円筒状に形成されたリング突部と、を備え、前記フランジ部には所定方向の幅が他よりも狭く形成されてなる切欠部が設けられており、前記切欠部は、前記リング突部よりも外周側の領域に設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明のさらに別の一観点に係る注射装置は、生体に穿刺可能な針先を有する皮内針と、前記皮内針に脱着可能に取り付けられたシリンジと、を有し、前記皮内針は、生体に穿刺可能な針先を有する針管と、前記針管を保持する針ハブと、前記針ハブからフランジ状に伸び出たフランジ部と、前記フランジ部の先端側に伸び出て前記針管の周囲を囲うように円筒状に形成されたリング突部と、を備え、前記フランジ部には所定方向の幅が他よりも狭く形成されてなる切欠部が設けられており、前記切欠部は、前記リング突部よりも外周側の領域に設けられていることを特徴とする。この構成により、切欠部を設けた分だけ、皮内針が小型化され、使用後に誤刺を防止するためのプロテクタなどの安全機構が設けやすく、また、注射装置の小児の腕などの狭い部分への使用が容易となる。
【0015】
上記諸観点に係る皮内針及びその包装体並びに注射装置によれば、切欠部によってフランジ部が小型化され、使用後に誤刺を防止するためのプロテクタなどの安全機構が設けやすく、また、より狭い部分への使用が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る皮内針の斜視図である。
図2図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図1の皮内針を先端側から見た正面図である。
図4図1の皮内針を収容した包装体の斜視図である。
図5】本発明の実施形態に係る注射装置の斜視図である。
図6図6Aは、実施形態の実施例1に係る皮内針の正面図であり、図6Bは実施形態の実施例2に係る皮内針の正面図であり、図6Cは実施形態の実施例3に係る皮内針の正面図である。
図7図7は、比較例に係る皮内針の正面図である。
図8図8は、実施例及び比較例に係る皮内針のフランジ部の寸法を示す表である。
図9図9Aは、実施例及び比較例に係る皮内針のリング突部及び突出部位の寸法を示す断面図であり、図9Bは実施例及び比較例に係る皮内針の突出部位の寸法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
以下、皮内針10(医療用針)の各構成について説明する。図1に示すように、皮内針10は、先端側に設けられたフランジ部30を有する第1部材22と、基端側に設けられ、シリンジ20を取り付けるための雄ネジ部40が設けられた第2部材24とを備えている。これらの第1部材22及び第2部材24は略円筒状に形成された針ハブ16を構成し、その針ハブ16の内部において、図2に示すように針管14を保持している。
【0019】
針管14は、軸心部に針孔15を有する硬質な中空管に構成されている。針管14の最先端には鋭利な刃面よりなる針先14aが形成されている。針管14の太さは、特に限定されないが、例えば26~33ゲージのサイズ(0.2~0.45mm)であり、より好ましくは30~33ゲージを適用するとよい。針管14を構成する材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、その他の金属又は硬質樹脂があげられる。
【0020】
針管14は第1部材22によって針ハブ16に固定される。その第1部材22の基端側には第2部材24が接合されている。これらの第1、第2部材22、24を構成する材料としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂材料があげられる。また、針ハブ16は、第2部材24の内部に弾性部材26を有している。
【0021】
第1部材22は、針管14を直接保持する軸部28と、軸部28の外周面から径方向外側にフランジ状に広がるフランジ部30と、フランジ部30の先端面30aから先端方向に突出するリング突部32と、を有する。軸部28は、略円柱状に形成されており、その軸心部には針管14を収容固定する固定孔29が設けられている。固定孔29には、針管14の挿入状態で接着剤34が注入されることで、針管14と第1部材22との固着がなされる。
【0022】
また、軸部28は、第2部材24内に収納される収納部位28aと、フランジ部30よりも先端側に突出する突出部位28bと、を有する。軸部28の突出部位28bは、リング突部32よりも先端方向にわずかに突出し、生体の表面に接触する先端面28b1を有する。固定孔29に固定された針管14は、先端面28b1から適切な寸法(突出長)だけ突出している。先端面28b1は、針管14を皮膚上層部に穿刺するときに、皮膚の表面に接触して針管14を穿刺する深さを規定する。つまり、針管14が穿刺される深さは、針管14の先端面28b1に対する突出長さによって決定される。
【0023】
皮膚上層部の厚みは、皮膚の表面から真皮層までの深さに相当し、概ね、0.5mm~3.0mmの範囲内にある。そのため、針管14の先端面28b1に対する突出長は、0.5mm~3.0mmの範囲に設定することができる。より好ましくは0.9mm~1.4mmの範囲に設定することができる。
【0024】
先端面28b1のサイズは、先端面28b1が針管14の周囲の皮膚を押圧して、皮膚上層部に形成される水泡に圧力を加えることを考慮して設定される。すなわち、先端面28b1が針管14の周囲の皮膚を押圧して、投与された薬剤が漏れることを防止できるように先端面28b1のサイズが設定されている。先端面28b1の周縁から針管14の周面までの距離は、0.3mm~1.4mmの範囲とすることができる。
【0025】
図3に示すように、リング突部32は、軸部28(突出部位28b)から所定距離だけ離れた部分を周回するように円筒状に形成された壁状の部位であり、フランジ部30から先端側に向けて短く突出している。皮内針10の使用時には、リング突部32の端面32a全体が生体の皮膚に接触する。これにより、針管14の周辺の皮膚を緊張させ、針管14を皮膚に対して略垂直になる姿勢に保つ。その結果、針管14のブレを防止し、皮膚に対する針管14の穿刺長さを一定にする。
【0026】
リング突部32の直径Dは、皮膚に形成される水泡の直径と同等か、それよりも大きい値に設定される。具体的には、リング突部32の内壁面から突出部位28bの外周面までの距離を4~15mmの範囲となるように定められる。これにより、リング突部32によって水泡に圧力が印加されてリング突部32によって水泡形成が阻害されることを防止することができる。なお、リング突部32の直径Dが大きくなると小児の腕のような細い部位に針管14を穿刺する場合に、リング突部32の端面32aの全体を皮膚に接触させることが難しくなる。そのため、リング突部32の内壁面から突出部位28bの外周面までの距離を15mm以下とすることが好ましい。
【0027】
フランジ部30は、図2に示すように、軸部28から径方向外側に円板状に延び出ている部分である。フランジ部30は、軸部28の外周面から軸部28の軸心と直交する方向に広がる板状に形成されている。このフランジ部30の先端面30aは、使用時に皮膚と接触する面となっており、その先端面30aは、リング突部32の先端部と略平行に形成されている。なお、フランジ部30の直径は、次に述べる切欠部33を除いた部分で、12~40mmの範囲で設定される。
【0028】
本実施形態では、より狭い部位への使用を可能とするべく、フランジ部30に対して切欠部33が設けられている。図3に示すように、フランジ部30の切欠部33は、針ハブ16の軸を挟んで対向するように一対設けられている。これらの切欠部33は、第1の方向に伸びる一対の平行な直線で円板を切り欠いた形状に形成されている。これにより、フランジ部30は、第1の方向に長く伸び、第2の方向についてはそれより短くなっている。フランジ部30の第2の方向の長さ(幅W)はリング突部32の直径Dと略同じとなっている。すなわち、フランジ部30の幅Wはリング突部32の直径Dと略等しいサイズまで小型化されており、フランジ部30を円板状に形成する場合よりも、使用後に誤刺を防止するためのプロテクタなどの安全機構が設けやすく、また、より狭い部分への使用が可能となっている。
【0029】
このような切欠部33を有するフランジ部30は、第1の方向の端部30cが皮膚に接触するまでリング突部32を押し付けるようにして使用される。フランジ部30は、切欠部33を有することにより、従来の円板状のフランジ部よりも皮膚との接触面積が減少している。
【0030】
従来の皮内針では、円板状のフランジ部の周縁部の全てを皮膚に接触させることにより、リング突部32及び針管14が皮膚を押圧する力を常に所定以上確保できることを保証していた。
【0031】
しかしながら、本願発明者らが種々の検討を行った結果、円板状のフランジ部の周縁部の全てを皮膚に接触させなくてもよいことが明らかとなった。この検討の結果、フランジ部の周縁部のうち、少なくとも、針ハブ16を挟んで対向する2か所で皮膚と接触できていれば、リング突部32及び針管14が皮膚を押圧する力を常に所定以上確保できることが判明した。
【0032】
そこで、本実施形態のフランジ部30では、上記のように一対の切欠部33を設けている。これにより、切欠部33を設けた分だけフランジ部30が小型化されている。また、フランジ部30の第1の方向の端部30cの皮膚への接触をもって、使用者にリング突部32が適切な押圧力で押圧されていることを知らせることができる。
【0033】
図2に示すように、フランジ部30の先端面30aからリング突部32の端面32aまでの針ハブ16の軸方向の距離(リング突部32の高さ)は、針管14及びリング突部32が適正な押圧力で皮膚に穿刺できるように設定されている。具体的なリング突部32の高さは、リング突部32の直径Dに応じて決まる。なお、針管14及びリング突部32の適切な押圧力は、例えば、0.5N~20Nである。
【0034】
図1に示すように、フランジ部30の基端側の面である基端面30b(リング突部32が設けられた先端面30aと反対側の面)には、第2部材24が接合されている。また、フランジ部30の第1の方向の外周縁には、外方に向かって一対の爪部36(図3参照)が突出するようにして形成されている。一対の爪部36は、針ハブ16を挟んで互いに反対位置(180°異なる位置)に設けられている。これらの爪部36は、後述する包装体12に収容する際に皮内針10を固定するために用いられる。
【0035】
図2に示すように、第2部材24は、軸心部に貫通孔25を有する略円筒状に形成されている。貫通孔25の先端側には、第1部材22の収納部位28aが挿入される一方で、貫通孔25の中間には、弾性部材26が収容される。貫通孔25の基端側には、注射装置18の組立時にシリンジ20の先端部42(図5参照)の内部のノズルが挿入される。貫通孔25の基端側の内周面は、シリンジ20のノズルの外周面に面接触可能なテーパ形状に形成されている。
【0036】
第2部材24の先端には、径方向外側に広がる接続用フランジ部38が設けられている。接続用フランジ部38の直径は、第1部材22のフランジ部30の第2の方向の幅Wと同等又はこれよりも小さく形成されている。接続用フランジ部38の先端面38aは、振動溶着等の適宜の固着方法によりフランジ部30の基端面30bに固定される。また、第2部材24の基端側の外周面には、シリンジ20の先端部42が捻じ込まれる雄ネジ部40が設けられている。
【0037】
弾性部材26は、針管14の基端を液密に保持して、針孔15をシリンジ20の内部に対向させる筒状の中継部材である。弾性部材26の内部には、針管用孔部48が設けられ、この針管用孔部48には、挿入された針管14を接触保持する内突部50が形成されている。この弾性部材26は、第2部材24の貫通孔25の内周面に嵌め込まれ、且つ先端側において径方向外側に突出する外方凸部52が第1部材22の基端面と第2部材24の段差部24aに挟み込まれることで、強固に固定される。
【0038】
本実施形態に係る皮内針10は図4に示すように包装体12に収容されて製品提供される。以下、本実施形態に係る皮内針10を収容した包装体12について説明する。皮内針10は、使用直前まで包装体12内に密封されることで、無菌状態に保たれる。
【0039】
包装体12は、皮内針10を収容する容器70と、容器70を閉塞するシール部材72とを有する。シール部材72は、使用時に、使用者によって容器70から剥がされることで、皮内針10を容器70から取り出し可能とする。
【0040】
容器70は、内部に空間を有する円筒状に形成されている。容器70の底面74は、皮内針10のフランジ部30の第1の方向の長さよりも若干大きな直径の円形に形成されている。また容器70の底面74からは、筒壁76が皮内針10の軸方向に伸び出ている。筒壁76は、皮内針10のフランジ部30の第1の方向の長さよりも若干大きな内径に形成されている。また、容器70の上端部にはフランジ部78が形成されている。このフランジ部78にシール部材72が貼り付けられる。
【0041】
容器70の筒壁76の所定箇所には、フランジ部30の爪部36が係合する係合部(不図示)が設けられている。この係合部に爪部36が係合することにより、皮内針10が脱落しない程度の強さで容器70の内部に固定される。また、爪部36は、シリンジ20を皮内針10に捻じ込んで取り付ける際に皮内針10の共廻りを防止する。
【0042】
上記の皮内針10は、図5に示すようにシリンジ20を取り付けて注射装置18に組み上げられて使用される。以下、注射装置18について説明する。シリンジ20は、予め薬液が充填されたプレフィルドシリンジとして構成されている。
【0043】
シリンジ20の先端部42には皮内針10の雄ネジ部40に係合する雌ネジ部が形成されている。また、先端部42の内部には薬液の貯留空間61と連通したノズルが設けられている。先端部42の先端面は、シリンジ20を雄ネジ部40に装着した状態で、弾性部材26(図2参照)の基端面と接触してこれを押圧して密着する。
【0044】
シリンジ20は、シリンジ本体54と、シリンジ本体54内に相対移動可能に挿入されるプランジャ56と、シリンジ本体54の外側を覆うホルダ58と、を有する。シリンジ本体54は、上記の先端部42と、先端部42に連なり薬液を貯留する貯留空間61を有する胴部60と、を備える。一方、プランジャ56は、貯留空間61内に液密に挿入されるガスケット62を先端に有し、また注射装置18の使用者が押圧操作するための操作部64を基端に有する。なお、シリンジ20は、予めガスケット62が貯留空間61に収容されており、使用時にプランジャ56をガスケット62に取り付けるタイプのものであってもよい。
【0045】
ホルダ58は、シリンジ本体54を収容固定する円筒体であり、注射装置18を太くして使用者の把持操作を容易化するために用いられる。このため、ホルダ58の基端には、プランジャ56の操作部64の押圧時に使用者の指に引っ掛けるための引掛部66が設けられている。なお、注射装置18はホルダ58を備えていなくてもよい。
【0046】
ホルダ58の内部空間を構成する内壁には、シリンジ本体54の胴部60の先端部分を支持する複数の支持片(不図示)が設けられている。また、ホルダ58の外周には、シリンジ本体54の基端のフランジ(不図示)を係止する係止窓68が設けられ、さらにホルダ58の先端付近には、シリンジ本体54の貯留空間61を視認可能とする視認用窓69が設けられている。
【0047】
本実施形態に係る皮内針10、皮内針10を収容した包装体12及び注射装置18は、基本的に以上のように構成され、以下その作用について説明する。
【0048】
皮内針10は、図4に示すように包装体12の容器70に収められた状態で提供される。上述したように、この状態では、皮内針10の一対の爪部36が容器70の係合部に引っ掛かることで、包装体12からの皮内針10の脱落が防止されている。また、包装体12は、容器70のフランジ部78にシール部材72が貼り付けられることで、皮内針10を密封している。
【0049】
注射装置18の使用時には、包装体12のシール部材72を剥がし、包装体12にシリンジ20の先端を挿入して、皮内針10とシリンジ20の先端部42との接続を行う。すなわち、図5に示すように、先端部42のノズルを第2部材24の貫通孔25(図2参照)に挿入するとともに、先端部42の雌ネジ部を皮内針10の雄ネジ部40(図2参照)に捻じ込んでゆく。
【0050】
皮内針10とシリンジ20の接続が完了した後、シリンジ20を包装体12から引き離す。これにより、皮内針10の一対の爪部36が包装体12の係合部から外れ、皮内針10とシリンジ20が一体化したまま包装体12から取り出される。
【0051】
その後、皮内針10の針管14を生体に穿刺してシリンジ20の貯留空間61に貯留した薬液の注射を行う。その際には、使用者が皮内針10のリング突部32及び針管14を生体の皮膚に押圧し、さらにフランジ部30の第1の方向の端部30c(図1参照)が皮膚に接触するまでリング突部32を押し込む。このとき、切欠部33を通じてフランジ部30と皮膚との距離を直接目視することができる。これにより、フランジ部30の端部30cの皮膚表面への接触を容易に確認できる。その結果、リング突部32及び針管14が適切な押圧力で皮膚に押し付けられ、針管14の針先14aが皮膚上層部の適切な深さに送り込まれる。
【0052】
以上のような皮内針10は、切欠部33を有するフランジ部30を備えていても、従来の円板状のフランジ部を備えた皮内針と同等の押圧力を使用者に知らせることができる。
【0053】
また、皮内針10は、小児の腕などの狭い部位へ使用する場合には、フランジ部30の切欠部33をスペース的に制約される方向に向けた状態で、リング突部32及び針管14を皮膚に押し込むことができる。これにより、使用後に誤刺を防止するためのプロテクタなどの安全機構が設けやすく、また、狭い部位への使用が容易になるとともに、フランジ部30の第1の方向の端部30cの接触を目安にして適切な押圧力でリング突部32及び針管14を皮膚に押し込むことができる。
【0054】
さらに、フランジ部30の切欠部33からフランジ部30の端部30cと皮膚との間隔を直接目視することが可能となるため、皮内針10の適切な押し込み量を確認しやすくなり、使用者が安心して使用することができる。
【0055】
また、皮内針10は、最も外径が大きなフランジ部30の側部に切欠部33が設けられていることにより、転がりにくくなっており、使用に当たって取り扱い性が向上する。
【0056】
(実施例)
以下、図6A図6Cを参照しつつ実施形態の実施例に係る皮内針10A~10Cについて説明する。なお、皮内針10A~10Cにおいて、図1図5を参照しつつ説明した皮内針10と同様の構成については同一符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0057】
図6Aに示すように、実施例1に係る皮内針10Aは、フランジ部30の両側部に一対の切欠部82が形成されている。この切欠部82は、リング突部32を避けるように段状に形成されているため、フランジ部30の面積をより小さくすることができる。これにより、皮内針10Aでは、フランジ部30の幅W2をリング突部32の直径Dよりも狭くすることができるため、より一層狭い部位への使用が容易となる。
【0058】
図6Bに示すように、実施例2に係る皮内針10Bでは、フランジ部30の片方の側部にのみ切欠部84が形成されている。このような切欠部84を設けることによりフランジ部30が小型化され、また、従来の円形のフランジ部を有する皮内針と同等の押圧力を使用者に知らせることが可能となる。
【0059】
図6Cに示すように、実施例3に係る皮内針10Cでは、フランジ部30の両側部に屈曲した切欠部86が設けられている。図示のように切欠部86は、屈曲している。
【0060】
以上のような実施例に係る皮内針10A~10Cと、比較例に係る皮内針100(図7)を試作して、その穿刺能力を従来の皮内針と比較評価した。なお、図7に示す比較例に係る皮内針100は、フランジ部30が円形に形成されたものである。また、皮内針10A、10B、10C、及び皮内針100のフランジ部30の各部の寸法W1、W2、W3は、図8の表に示す値とした。皮内針10A、10B、10C、100のリング突部32、突出部位28b、針管14については同一形状とし、その寸法を図9A及び図9Bに示す値とした。
【0061】
次に、実施例に係る皮内針10A、10B、10C及び比較例に係る皮内針100に、それぞれシリンジ20(図5参照)を取り付けて、ヒトの皮膚と同等の粘弾性を有する厚さ15mmのシリコーンゴムシートに穿刺する穿刺試験を行った。ここでは、使用者の力加減のばらつきを考慮して、13名の参加者で、各皮内針についてそれぞれ3回ずつ穿刺試験を行った。
【0062】
その後、穿刺したシリコーンゴムシートを切り出し、シリコーンゴムシートの表層から穿刺痕の針先部分までの距離をノギスを用いて測定し、この値を穿刺深さとした。そして、皮内針10A、10B、10Cの穿刺深さについて、比較例に係る皮内針100の穿刺深さに対する二標本t検定を実施した。
【0063】
その結果、皮内針10A、10B、10Cのいずれの場合も、二標本の穿刺深さに有意な差は認められず、実施例に係る皮内針10A、10B、10Cは、従来の皮内針100と同等の穿刺性能を有することがわかった。
【0064】
上記において、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。例えば、シリンジ20はプレフィルドシリンジではなく、使用直前に薬液を充填して使用するものであってもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9