(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】静菌剤及び/又は殺菌剤としてのWillaertia属の原生動物の治療的又は非治療的使用
(51)【国際特許分類】
A01N 63/10 20200101AFI20221128BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20221128BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20221128BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20221128BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20221128BHJP
A61K 35/68 20060101ALI20221128BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221128BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20221128BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20221128BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
A01N63/10
A01P3/00
A01N25/02
A61K8/98
A61P31/10
A61K35/68
A61K9/08
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/06
(21)【出願番号】P 2020506724
(86)(22)【出願日】2018-08-09
(86)【国際出願番号】 FR2018052040
(87)【国際公開番号】W WO2019030459
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-06-18
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【微生物の受託番号】ATCC PTA-7824
【微生物の受託番号】ATCC PTA-7825
(73)【特許権者】
【識別番号】514126153
【氏名又は名称】アモエバ
【氏名又は名称原語表記】AMOEBA
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】プラッソン, ファブリース
(72)【発明者】
【氏名】マメリ, ムー ウーラジ
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-508391(JP,A)
【文献】特表2015-501811(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0119485(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0300106(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
B. cinerea、F. solani、C. globosum、P. chrysogenum、P. viticola、T. viride、T. harzianum、A. fumigatus、A. alternata、A. flavus、P. variotii、A. niger、C. albicans、U. botrytis、E. nigrum、B. cinerea、P. roqueforti、C. cladosporioides、E. chevalieri、A. pullulans、及びそれらの組み合わせから選択される真菌を除去するための静菌剤及び/又は殺菌剤としてのWillaertia magna種の原生動物の非治療的使用
であって、
前記Willaertia magna種の原生動物は、死亡細胞溶解物形態であることを特徴とする、使用。
【請求項2】
前記Willaertia magna種の原生動物は、
他の原生動物と組み合わせて用いられることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記Willaertia magna種の原生動物は
、Solumitrisアメーバ属の原生動物、Cercomonas属のケルコゾア原生動物又はParacercomonas属のケルコゾア原生動物
と組み合わせて用いられることを特徴とする請求
項2に記載の使用。
【請求項4】
前記原生動物は、ATCCにおいてPTA-7824の番号で寄託されているWillaertia magna属菌株、又はATCCにおいてPTA-7825の番号で寄託されているWillaertia magna属菌株に相当することを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
植物における寄生真菌の増殖を抑制するための請求項1~
4のいずれか1項に記載の使
用。
【請求項6】
つる植物、穀類、ジャガイモ、果樹及びの野菜園の作物の菌類病の治療のた
めの請求項
5に記載の使用。
【請求項7】
つる植物のうどんこ病、つる植物のべと病、穀類のセプトリア病及びフザリウム病、穀類の網斑病、ジャガイモのべと病及び夏疫病、リンゴの木の腐敗病、セイヨウアブラナ及び野菜のダイズ菌核病、並びにそれらの組み合わせから選択される菌類病の治療のための請求項6に記載の使用。
【請求項8】
(i)空気処理施設のネットワークを消毒するため、
又は、
(ii)食品、食品変換/生産装置、食品変換/生産工場、若しくは化粧品、食品若しくは化粧品と接触する表面における真菌の汚染及び/若しくは真菌のバイオフィルムの形成を抑制するた
めである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静菌剤及び/又は殺菌剤としてのWillaertia属の原生動物、特にWillaertia magnaの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
真菌(酵母及び糸状菌)は、植物、動物及びヒトに発症する多くの疾病の原因となる。
【0003】
従って、真菌を除去する又はその増殖を制限し、その結果、真菌により誘導される疾病を治療及び/又は予防するために多くの殺菌剤が開発されています。
【0004】
その一方で、これらの化合物の使用は、ヒト又は環境に対する有効性又は毒性の点で適切でないことが多い。
【0005】
実際に、農薬又は化学抗菌剤の農業又は非農業バルクの使用は、多くの健康的及び生態学的問題を生じる。環境用語において、植物衛生製品に含まれる分子との土壌及び地下水面の相互汚染が観察されてきた。これらの汚染物質は、非標的生体に対するそれらの潜在的な毒性効果のため、汚染された生態系における混乱の原因となり得る。生態学的リスクに加えて、殺菌剤の使用及び曝露に関連する危険性も実証されており、世界保健機関(WHO)により警告の対象となる。真菌症の治療に関して、ヒトに無毒である抗真菌化合物を提供することが必要である。さらに、これらの化合物のバルク使用は、これらの製品に耐性がある菌株の出現を起こす。汚染が進むことで、最終的に製品の有効性を低減し、有効性の全てを失い得る。
【0006】
化学殺菌剤のバルク使用による生態学及び健康リスクの意識の増大は、数年の間、毒性学的及び環境学的影響を低減する天然起源の抗菌製品の需要の促進に寄与してきた。ヒト及び環境に害が小さいこれらの製品は、低減された規制から恩恵を受けるので、単純な使用の利点も有する。
【0007】
従って、有効で且つ単純に使用され、製造コストが制御される新規の薬効範囲が広い天然殺菌組成物の開発のかなりの必要性がある。
【0008】
適切な有効性を有するために、芽胞に作用できるそのような組成物にとって有利となり得る。
【発明の概要】
【0009】
これに関して、本発明者らは、生存形態、死亡形態及び/又は細胞溶解物形態のWillaertia属の原生動物、特にWillaertia magnaのアメーバ種の原生動物が、特に芽胞に作用することによる静菌及び/又は殺菌活性を有することを証明した。
【0010】
本開示の第1の態様は、静菌剤及び/又は殺菌剤としての、生存若しくは死亡形態及び/又は細胞溶解物形態の例えばWillaertia magna種といったWillaertia属の原生動物の非治療的使用である。
【0011】
本開示の第2の態様は、抗真菌剤として使用するための、生存若しくは死亡形態及び/又は細胞溶解物形態の例えばWillaertia magna種といったWillaertia属の原生動物の使用である。
【0012】
本開示の第3の態様は、生存若しくは死亡形態及び/又は細胞溶解物形態のWillaertiamagna種の原生動物の有効量を含む植物薬製品である。
【0013】
第4の態様は、生存若しくは死亡形態及び/又は細胞溶解物形態のWillaertia magna種の有効量を含む医薬製品である。
【0014】
本開示によると、生存若しくは死亡形態及び/又は細胞溶解物形態のWillaertia属、特にWillaertia magna属の原生動物が予防的又は治療的に用いられ得る。
【0015】
生存又は死亡形態のWillaertia magna種の原生動物は、単独で、又は他の原生動物との組み合わせで、特にSolumitris ameba属の原生動物、Cercomonas属のケルコゾア原生動物又はParacercomonas属のケルコゾア原生動物との組み合わせで用いられ得る。
【0016】
好ましくは、本開示の文脈において用いられる原生動物は、ATCCにおいてPTA-7824で2006年8月21日に寄託されたWillaertia magna属菌株、又はATCCにおいてPTA-7825で2006年8月21日に寄託されたWillaertia magna属菌株に相当し、これら2つの菌株は、最初にCENTRENATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE (CNRS) [French National Center for Scientific Research] - 3 rue Michel Ange - 75794 PARIS CEDEX 16 / France及びUNIVERSITE LYON 1 CLAUDE BERNARD - 43 Boulevard du 11 Novembre 1918- 69622 VILLEURBANNE Cedex / Franceの名義で寄託されていた。当該寄託された菌株は、PCT国際出願公開WO2008/043969においても記載されている。
【0017】
本開示の文脈で用いられる「植物」及び「複数の植物」の用語は、植物全体、及び葉、果実、花、穀物、種子、幹、根、茎等の植物から単離された部分を等しく意味する。
【0018】
本開示の文脈で用いられる「真菌」の用語は、芽胞状又は菌糸体状での酵母及び糸状菌を含む単細胞又は多細胞の真菌を意味する。
【0019】
本開示の文脈で用いられる「植物薬製品」の用語は、以下のことを目的とする物質の製剤又は混合物を意味する。
‐1つ以上の害虫に対して植物を保護する、
‐植物と害虫との作用を防止する、
‐植物の生活過程に作用を及ぼす(但し栄養物質ではない)、及び/又は
‐植物製品の保存を保証する。
【0020】
本開示の文脈で用いられる「生存形態」の用語は、原生動物の代謝的に活発な増殖型を意味する。
【0021】
本開示の文脈で用いられる「死亡形態」の用語は、例えば浸透圧ショック、熱ショック、超音波処理、又は遠心分離による機械的ストレスといった機械的、物理的、熱的又は化学的処理によって不活性化された原生動物の代謝的に不活性型を意味する。「死亡形態」は、微生物の死亡した全体細胞、細胞溶解物又は死亡した全体細胞と細胞溶解物との混合物を含み得る。一般に、溶解液は、問題の微生物の細胞に天然に含まれる細胞内の生物成分の解放を引き起こす細胞溶解型の現象により生物細胞の破壊又は分解の結果として得られる物質を意味する。本発明の目的のために、「死亡形態」の用語は、Willaertiaの死亡細胞、Willaertiaの溶解により得られた溶解液の全て、又はその画分のみを意味することと区別なく用いられる。
【0022】
生存細胞、脂肪細胞及び溶解物の区別は、特に死亡細胞を標識するトリパンブルー(CAS:72-57-1)等の非生存標識を用いた染色による顕微鏡観察により行われ得る。
【0023】
非治療的使用は、以下のような多数の適用を有する。
‐植物の寄生真菌の増殖を抑制するため、好ましくは、つる植物、穀類、ジャガイモ、果樹及びの野菜園の作物の菌類病の治療のため、より好ましくは、つる植物のうどんこ病、つる植物のべと病、穀類のセプトリア病及びフザリウム病、穀類の網斑病、ジャガイモのべと病及び夏疫病、リンゴの木の腐敗病、セイヨウアブラナ及び野菜のダイズ菌核病、並びにそれらの組み合わせから選択される菌類病の治療のため、
‐空気処理施設(冷却塔を除く)のネットワークを消毒するため、
‐食品、食品変換/生産装置、食品変換/生産工場、食品と接触する表面における真菌の汚染及び/又は真菌のバイオフィルムの形成を抑制するため、
‐化粧品、化粧品変換/生産装置、化粧品変換/生産工場、化粧品と接触する表面における真菌の汚染及び/又は真菌のバイオフィルムの形成の抑制のため。
【0024】
抗真菌剤としての使用は、Aspergillus、Candida、U. botrytis、A.niger、P.variotii、A.alternata及びそれらの組み合わせから選択される真菌、好ましくはCandida、より好ましくはCandida albicansにより引き起こされる感染の治療への特定用途を認める。
【0025】
また、本発明は、真菌により引き起こされる院内疾病、特に呼吸器病態の治療への適用を認める。
【0026】
好ましくは、生存若しくは死亡形態(特に細胞溶解物形態)又は生存若しくは死亡形態の混合物でのWillaertia属の原生動物、特にWillaertia magna種は、Ascomycota門から選択される、より好ましくはsordariomycetes、eurotiomycetes、dothideomycetes、saccharomycetes、leotiomycetes、oomycetes綱及びそれらの組み合わせから選択される、さらに好ましくは、Botrytis、Erysiphe、Fusarium、Penicillium、Plasmopara、Phytophthora、Chaetomium、Trichoderma、Aspergillus、Alternaria、Candida、Ulocladium、Epicoccum及びCladosporium属、並びにそれらの組み合わせから選択され、さらに好ましくは、B. cinerea、E. necator、F. solani、C. globosum、P. chrysogenum、P. expansum、P. viticola、P. infestans、T. viride、T. harzianum、A. fumigatus、A. alternata、A. flavus、P. variotii、A. niger、C. albicans、U. botrytis、E. nigrum、B. cinerea、P. roqueforti、C. cladosporioides、E. chevalieri、A. pullulans及びそれらの組み合わせから選択される真菌を除去するために用いられる。
【0027】
特定の一実施形態において、Willaertia magna種の原生動物は、生存形態若しくは死亡形態(特に細胞溶解物形態)又は生存及び死亡形態の混合物で用いられる。特定の一実施形態において、用いられる混合物は、(不活性化前の総原生動物数の割合として)50%以上の死亡形態の原生動物を含み、例えば60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上が死亡形態の原生動物、特に細胞溶解物形態の原生動物を含む。
【0028】
特定の一実施形態において、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia magna種の原生動物は、植物に影響を及ぼす菌類病を排除するために用いられる。好ましくは、植物は、草、双子葉植物、一年生、二年生及び多年生植物、野菜の苗又は収穫された野菜、果樹又は収穫された果実、穀類、油が採れる植物、タンパク質が採れる植物、樹木から選択され、特に、ジャガイモ、ビートの根、サトウキビ、タバコ、つる植物、小麦、セイヨウアブラナ、大麦、米、トウモロコシ、モロコシ、キビ、大豆、豆、トマト、キュウリ、レタス、イチゴ、リンゴの木、ナシの木、シトラスの果実、バナナ、パイナップル、モモ、アンズの木、サクランボの木、クルミの木並びにヘーゼルナッツの木に由来する植物又は製品から選択される。
【0029】
特定の一実施形態において、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia magna種の原生動物は、装置及び/又は換気システムの表面、材料、一部に影響を及ぼす真菌を除去するために用いられる。
【0030】
特定の一実施形態において、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia magna種の原生動物は、ヒト又は動物の健康に影響を及ぼす真菌を除去するために用いられる。
【0031】
特定の他の実施形態において、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia属、特にWillaertia magna種の原生動物は、植物(穀類及びトウモロコシ)の菌類病の治療のためにF. solaniを除去するのに用いられる。
【0032】
特定の他の実施形態において、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia属、特にWillaertia magna種の原生動物は、植物の菌類病、好ましくは穀類又は米に影響を及ぼす菌類病の治療のために、又は紙及び建設材等のセルロース系製品の汚染の処理のために用いられる。
【0033】
特定の他の実施形態において、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia magna種の原生動物は、植物の菌類病、好ましくはつる植物に影響を及ぼす菌類病の治療のためにP. viticolaを除去するのに用いられる。
【0034】
特定の他の実施形態において、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia magna種の原生動物は、植物の菌類病、好ましくはジャガイモに影響を及ぼす菌類病の治療のためにP. infestansを除去するのに用いられる。
【0035】
特定の他の実施形態において、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia属、特にWillaertia magna種の原生動物は、装置及び換気システムの壁、材料、一部等の内部環境の汚染の処理のために、P. chrysogenum等のPenicillium属の糸状菌、Aspergillus niger等のAspergillus属の糸状菌又はCladosporium cladosporioides等のCladosporium属の糸状菌を除去するのに用いられる。
【0036】
特定の他の実施形態において、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia属、特にWillaertia magna種の原生動物は、食品並びに装置及び換気システムの壁、材料、一部等の内部環境の汚染の処理のために、T. viride及び/又はT. harzianumを除去するのに用いられる。
【0037】
特定の他の実施形態において、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia属、特にWillaertia magna種の原生動物は、院内疾病、特に呼吸器病態の治療のためにA. fumigatusを除去するのに用いられる。
【0038】
特定の他の実施形態において、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia属、特にWillaertia magna種の原生動物は、植物の菌類病、好ましくはジャガイモの夏疫病の治療のために、又はヒトの皮膚障害、真菌症及び上気道の感染の治療のために、A. alternataを除去するのに用いられる。
【0039】
特定の他の実施形態において、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia属、特にWillaertia magna種の原生動物は、食品、好ましくは穀類における真菌汚染及び/若しくは真菌のバイオフィルムの形成の処置、又はヒトの真菌症、肺炎、副鼻腔炎の治療のために、P. variotiiを除去するのに用いられる。
【0040】
特定の他の実施形態において、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia属、特にWillaertia magna種の原生動物は、食品、装置及び換気システムの壁、材料、一部等の内部環境等における真菌汚染及び/若しくは真菌のバイオフィルムの形成の処置、又はヒトの内耳真菌症若しくは肺アスペルギルスの治療のためにA. nigerを除去するのに用いられる。
【0041】
特定の他の実施形態において、生存形態又は死亡形態のWillaertia属、特にWillaertia magna種の原生動物は、ヒトの真菌症の治療のためにC.albicansを除去するのに用いられる。
【0042】
特定の他の実施形態において、生存形態又は死亡形態のWillaertia属、特にWillaertia magna種の原生動物は、植物の菌類病の治療、食品における真菌汚染及び/又は真菌のバイオフィルムの形成の処置、並びに爪真菌症の治療のためにU. botrytisを除去するのに用いられる。
【0043】
特定の他の実施形態において、生存形態又は死亡形態のWillaertia属、特にWillaertia magna種の原生動物は、食品若しくは化粧品における真菌汚染及び/又は真菌のバイオフィルムの形成の処置、又は装置及び換気システムの壁、材料、一部等の内部環境等における汚染の処置のために、E. nigrum又はA. pullulansを除去するのに用いられる。
【0044】
特定の他の実施形態において、生存形態又は死亡形態のWillaertia属、特にWillaertia magna種の原生動物は、食品又は化粧品における真菌汚染及び/又は真菌のバイオフィルムの形成の処置のために、A.flavus、P. roqueforti、B. cinerea、C. cladosporioides又はE. chevalieriを除去するのに用いられる。
【0045】
本開示は、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia magna種の原生動物の有効量を含む植物薬組成物にも関する。
【0046】
特定の一実施形態において、植物薬組成物は、細胞溶解形態でのWillaertia magna種の原生動物の有効量を含む。
【0047】
また、特定の一実施形態において、植物薬組成物は、1つ以上の製剤化剤、特に水、必要に応じて1つ以上の追加の活性アジュバントも含む。
【0048】
特定の一実施形態において、植物薬組成物は、固体の乾燥剤形、好ましくは脱水又は凍結乾燥形態を有する組成物である。乾燥形態の植物薬組成物は、使用準備sであるために、使用前に再構成溶媒で再構成されることが意図される。再構成溶媒は、好ましくは水である。
【0049】
特定の他の実施形態において、植物薬組成物は、濃縮された液体剤形を有する組成物である。植物薬組成物は、使用準備済であるために、使用前に希釈溶媒で希釈されることが意図される。希釈溶媒は、好ましくは水である。
【0050】
使用準備済の形態での上記植物薬組成物は、種々の方法及び種々の処置プログラムに従って植物に適用され得る。特に、植物薬組成物は、収穫前又は後に葉、土、花、枝、茎、幹、根及び/又は果実に適用され得る。植物薬組成物は、スプレーにより適用されることが好ましい。植物薬組成物は、他の植物薬製品、肥料、水等との混合物の形態で適用される。
【0051】
非治療的使用のために、生存又は死亡形態のWillaertia magna種の原生動物は、変換/生産装置及び食品又は化粧品と接触する表面の一部、又は治療するための植物に直接に接触させ得る。処置は、例えば水性エアロゾル溶液の形態でスプレーにより実施され得る。また、そのような原生動物は、他の消毒剤及び/又は農薬と組み合わせて用いられ得る。
【0052】
本開示は、抗真菌薬としての生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia magna種の原生動物の有効量と、医薬的に許容可能なキャリアとを含む医薬組成物にも関する。前記医薬組成物は、特に、皮膚又は粘膜に適用されるための有効成分を含む包帯、湿布、薬用絆創膏、ゲル、ペースト、ローション、泡、オイル、乳液、水性溶液、水性懸濁液、クリーム、軟膏、粉末又はスプレーであり得る。
【0053】
抗真菌薬としての使用のために、原生動物、特に生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia magna種は、皮膚又は粘膜における病変に局所的に(例えば、皮膚又は粘膜に適用されるためのクリーム、軟膏、スプレー又は粉末の形態で、膣又は肛門の粘膜に局所的に)適用され得る。
【0054】
本開示は、抗真菌薬の有効量と医薬的に許容可能なキャリアとを含む医薬組成物にも関する。前記医薬組成物は、特に、皮膚又は粘膜に適用されるための有効成分を含む包帯、湿布、薬用絆創膏、ゲル、ペースト、ローション、泡、オイル、乳液、水性溶液、水性懸濁液、クリーム、軟膏、粉末又はスプレーであり得る。
【0055】
本開示の他の対象は、ヒト又は動物の身体に適用する治療方法以外における真菌の増殖を排除する方法であり、該方法は、生存形態、死亡形態若しくは細胞溶解物形態、又は生存形態、死亡形態及び/若しくは細胞溶解物形態の混合物としてのWillaertia magna種の原生生物を真菌に接触させるステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】B. cinereaの発芽におけるアメーバの効果を示す。アメーバ非存在下でB. cinereaの芽胞が存在するマイクロプレートにおける試験である。インキュベーション24時間後の観察結果である。感受性菌株:B05.10及びM421。耐性菌株:M426(呼吸阻害殺菌剤)。
【
図2】B. cinereaの発芽におけるアメーバの効果を示す。B. cinereaの芽胞+MC培地中の500のアメーバが存在するマイクロプレートにおける試験である。感受性菌株:B05.10及びM421。耐性菌株:M426。(呼吸阻害殺菌剤)。MC培地に50000のアメーバ。インキュベーション24時間後に観察した。
【
図3】B. cinereaの感受性菌株の発芽における培養培地(MC)の効果を示す。B. cinereaの芽胞+培養培地(MC)が存在するマイクロプレートにおける試験である。感受性菌株:B05.10及びM421。インキュベーション24時間後に観察した。
【実施例】
【0057】
以下の本実施例は、本発明の説明を可能にするものであるが、本質的にそれに限定されない。
【0058】
(実施例1:19菌株における真菌‐Willaertia相互作用の真菌DNAのqPCR分析)
真菌の19の菌株(表1)における相互作用の試験は、24ウェルプレートにおいてアメーバ/芽胞の比率を10アメーバ/芽胞として、芽胞をATCC PTA-7824の「Willaertia magna」アメーバに接触させることにより行った。
【0059】
第1のプレートにおいて、各菌株の芽胞のみを同一の条件下で(2mlのMEAc中で)インキュベートした。接触の3時間後に、溶液を14000rpmで5分間遠心分離を行った。その後、上清を除去し、DNAの抽出のためにペレットを200μlに入れた。
【0060】
第2プレートにおける24時間実施の試験のために、24時間後に上清を直接にウェルから除去し、DNAを抽出するために「芽胞‐アメーバ混合物」を200μlに入れた。顕微鏡観察によるモニタリングを各ステップで行った。細砂を用いたミリングステップ後に、製造者の説明書に従って「NucleoSpin plant II - Macherey-Nagel」を用いてサンプル(200μl)に対してDNA抽出を行った。
【0061】
真菌のみ及びWillaertia‐真菌複合体のDNAのqPCR増幅をCFX96-Biorad装置で行った。定量化を5μlのDNA、プライマー(300nM)及び10μlのSybrGreen-Mixを含む20μlの最終体積で行った。以下のプログラムを用いた:95℃で10分間の変性ステップと、95℃で15秒間+60℃で1分間を35サイクルの増殖ステップ。
【0062】
19株の真菌で行われる試験を、先のステップで検証されたプロトコールに従って行った。プレートを、分子的分析の着手前に顕微鏡下で観察した。結果は、各条件(芽胞‐3時間、芽胞‐24時間、芽胞‐アメーバ3時間、及び芽胞‐アメーバ24時間)で、トリプリケートで観察したqPCR曲線である。qPCR分析がユニバーサルプライマーを使用する場合、P.chrysogenum菌の範囲は、各試験で増幅されたDNA量を概して見積もるために用いられる。これらのデータは、アメーバが存在しないコントロールで芽胞段階から菌糸体への経過を評価でき、また、アメーバの存在下での発芽の阻害の程度を評価することを可能とする。
【0063】
結果及び結論:表1:芽胞単独(3時間と24時間との間の差異)及び接触の24時間後にアメーバと相互作用した芽胞で行われた試験間のqPCR増幅の差異。ΔCq(3H-24H):3時間における芽胞と24時間における芽胞との間のサイクル数の差異。ΔCq(T24H-Willaertia24H):インキュベーションの24時間後における芽胞単独(T24H)と、アメーバ存在下(Amebae24H)とのサイクル数の差異。
【0064】
【表1】
*:「真菌‐アメーバ24H」試験(低真菌バイオマス)に対応するCqの値が、24時間におけるコントロール試験(高バイオマス)の値よりも大きいため、ΔCq(T24H-Willaertia24H)の値は負である。
【0065】
qPCR分析は、真菌バイオマスを定量化でき、真菌の発生の段階を識別でき、19の菌株における静真菌性及び/又は殺真菌性効果を顕著な差異をもって示すことができる。アメーバの有無における2つの試験間のCqサイクルの数の差異は、非常に顕著であり、ある場合においては10サイクルを超える。これらの結果は、インキュベーションの24時間後においてアメーバの存在下では非常に低い真菌バイオマスの存在、芽胞の発芽の阻害を反映する。3時間における芽胞段階と24時間後に発生された菌糸体との間の差異は、試験菌株における3時間及び24時間での芽胞間の増幅の差異により明確に観察される。qPCRの結果は、このプロトコールを進めるための顕微鏡下で行われる視覚的観察を完全に反映する。
【0066】
(実施例2:Botrytis cinereaの増殖におけるWillaertia magnaの影響の研究)
原理:行われた試験は、従来の殺真菌性分子の効果を評価するために研究室内で用いられる試験に基づく。B. cinerea芽胞の発芽におけるWillaertia magnaアメーバ(ATCC PTA-7824菌株)の影響は、種々の濃度アメーバを真菌の芽胞と接触させることにより分析される。インキュベーションの24時間後、アメーバ存在下でのB. cinerea芽胞の発芽は、アメーバ無しのコントロールと比較される。
【0067】
プロトコール:B. cinerea菌株は、21℃で昼光‐UV光(12時間/12時間)交代条件下において(オートフレークに基づく)培養培地で維持される。菌株は、細胞呼吸阻害剤に属する殺菌剤に感受性又は耐性の表現型を有する。試験される菌株の参照は、B05.10(感受性)、M421(野外で単離されたものであり感受性)及びM426(野外で単離されたものであり耐性)である。
【0068】
B. cinerea分生子の発芽におけるWillaertia magnaアメーバの影響を試験するために、真菌の芽胞を種々の濃度のアメーバと共にインキュベートした。96ウェルプレートにおいて、500のB. cinerea芽胞を、最終体積50μlでウェル毎に5×102及び5×104のアメーバと接触させた。試験されたアメーバを培養培地(MC)で調製した。
【0069】
以下のコントロールも同一の条件下で調製した。
‐YBA液体培養培地におけるB. cinerea芽胞
‐培養培地(MC)におけるB. cinerea芽胞
‐呼吸阻害殺菌剤存在下のB. cinerea芽胞。
【0070】
各条件はトリプリケートで試験した。プレートは21℃で暗中において24時間又は48時間インキュベートした。B. cinerea分生子の発芽は、倒立顕微鏡下で観察され、各条件毎に写真を撮った。
【0071】
結果及び結論:24時間後の芽胞の観察は、高濃度のアメーバにおける真菌の発芽の遅延を証明することを可能とする。B. cinerea菌株にかかわらず、この影響は、真菌がコンフルエント層を形成するアメーバ量と接触すると、よく見られる(
図2)。低比率(500アメーバ)では、コントロールと比較してその影響はほとんど見られない(
図1及び
図2)。B05.10菌株は収集株であり、あまり強く/活発ではない。野生株(野外で採取)と比較して、生長に時間がかかるであろう。培養培地(MC)単独は、真菌の増殖に影響せず、その培養培地は、B. cinerea芽胞の発芽を刺激するとさえ考えられる(
図3)。
【0072】
これらの結果は、観察された定性的用量効果をもって、試験条件下でのB. cinereaの発芽におけるWillaertia magnaの影響を示す。
【0073】
(実施例3:つる植物(P. viticola)べと病におけるWillaertia magnaの効果
原理:若いカベルネソーヴィニヨン植物で試験は行われる。各群の植物は、ポンプスプレーを用いてコントロール条件下で処理される。試験される溶液による植物の処理後、植物へつる植物のべと病の意図的な感染が行われる。7~10日間のインキュベーション後、非処理植物における病気の重篤度に対する種々の製品の効果を評価するために、病気の重篤性が評価される。
【0074】
プロトコール:カベルネソーヴィニヨン植物の切断をグリーンハウス(15℃~30℃)内で行い、6つの植物の6群を各試験条件の研究のために作製した。
【0075】
Willaertia magna細胞を、所望の濃度の9×109/Lが得られるまで、培養培地中で培養した。
【0076】
種々のサンプルを試験した:
1.陰性コントロール、条件1:処置無し。
2.培地のコントロール、条件2:希釈培地。
3.殺菌剤、条件3:培養培地中にWillaertia magna。
4.殺菌剤、条件4:希釈培地で希釈された条件3のサンプル。
5.殺菌剤、条件5:条件3のサンプルを、Willaertia細胞を殺傷するために機械的ストレス下に置いた。そのサンプルを、ポンプにより実質的に閉じた強い真空管を介した圧力下に通し、いくらかの細胞を殺し、いくらかの細胞の溶解を引き起こした。観察されるサンプルを、(トリパンブルーでラベルされていない)生存細胞を数えるために、非生存ラベル(トリパンブルー)を用いて顕微鏡下で観察した。
6.殺菌剤、条件6:条件4のサンプルを、Willaertia細胞を殺傷するために機械的ストレス下に置いた。そのサンプルを、ポンプにより実質的に閉じた強い真空管を介した圧力下に通し、いくらかの細胞を殺し、いくらかの細胞の溶解を引き起こした。観察されるサンプルを、(トリパンブルーでラベルされていない)生存細胞を数えるために、非生存ラベル(トリパンブルー)を用いて顕微鏡下で観察した。
7.陽性コントロール、条件7:3kg/haに相当するボルドー液。
【0077】
各サンプルを、植物全体にスプレーによりそれらの群の6つの植物の1つに適用した。
【0078】
24時間後、P. viticolaの胞子嚢の懸濁液を葉の裏面にスプレーした。その後、植物を、病気の発症に好ましい湿度の個別のチャンバ内において24±5℃で、1日に14時間の照射でインキュベートした。7~10日後、各植物及び各葉の段階で、各条件下における殺菌剤の効果の評価を行った。その評価は、感染表面積及び芽胞形成の度合いの2つの要素からなる真菌病変の視覚的観察に基づく。観察された各葉それぞれにおいて0~100%(5%増加)のスケールが用いられる。効果は、以下の数式に従って算出される。効果=100×[(NT-T)/NT](NTは非処置植物における発病の平均度合であり、Tは処置植物における発病の平均度合である。)。結果を表2に示す。
【0079】
【0080】
結果及び結論:病気の重篤度は非処置植物では高い(56.3%)。また、この値は希釈培地のスプレー後でも高い(55%)。
【0081】
生存形態でWillaertia magnaを処置された植物では極めて少量の病気が観察され、P. viticolaの感染は葉の表面積の2.5~1.3%である(比較として、非処置の陰性コントロールでは56%)。つまり95%以上の効果であり、100%の効果(べと病の発病がない)を有するつる植物のべと病の完全コントロールを可能にする参照殺菌剤(3kg/haのボルドー液)の効果に近い効果を示す。
【0082】
ポンプ及び強い真空管の通過による機械的作用により不活性化された死亡形態のWillaertia magnaで処置された植物では少量の病気が観察され、P. viticolaの感染は葉の表面積の30%から1.3%のみである(比較として、非処置の陰性コントロールでは56%)。
【0083】
結論として、生存形態及び死亡形態のWillaertia magnaは、試験条件下でつる植物のべと病に対して高い活性を提供する。