(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】移動焼入れ装置及び移動焼入れ方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/28 20060101AFI20221128BHJP
C21D 1/10 20060101ALI20221128BHJP
C21D 1/667 20060101ALI20221128BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20221128BHJP
H05B 6/38 20060101ALI20221128BHJP
H05B 6/44 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C21D9/28 B
C21D9/28 A
C21D1/10 R
C21D1/667
H05B6/10 371
H05B6/38
H05B6/44
(21)【出願番号】P 2020507808
(86)(22)【出願日】2019-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2019011276
(87)【国際公開番号】W WO2019181889
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-09-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2018055216
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】山根 明仁
(72)【発明者】
【氏名】秦 利行
(72)【発明者】
【氏名】小塚 千尋
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】池渕 立
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-108188(JP,A)
【文献】特開昭48-37742(JP,A)
【文献】国際公開第2005/107324(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D9/00-9/44
C21D1/10
C21D1/42
C21D1/667
H05B6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、前記本体部の軸線方向の一方側の端部に設けられて前記本体部よりも外径が小さい第1小径部と、前記第1小径部の前記軸線方向の一方側の端部に設けられて前記第1小径部よりも外径が小さい第2小径部と、を備える軸状体に、移動焼入れを行う装置であって、
環状に形成されて高周波電流が流され、前記本体部に外挿される1次コイル部材と;
環状に形成され、前記軸状体の前記第1小径部に外挿され前記1次コイル部材内に配置可能な2次コイル部材と;
環状に形成され、前記軸状体の前記第2小径部に外挿され前記2次コイル部材内に配置可能な3次コイル部材と;
を備える移動焼入れ装置。
【請求項2】
前記2次コイル部材の周方向の一部に、第2欠損部が形成され;
前記3次コイル部材の周方向の一部に、第3欠損部が形成され;
前記第2欠損部の周方向の位置と、前記第3欠損部の周方向の位置とが、少なくとも一部において互いに重なっている;
請求項1に記載の移動焼入れ装置。
【請求項3】
本体部と、前記本体部の軸線方向の一方側の端部に設けられ前記本体部よりも外径が小さい第1小径部と、前記第1小径部の前記軸線方向の一方側の端部に設けられ前記第1小径部よりも外径が小さい第2小径部と、を備える軸状体に、移動焼入れを行う方法であって、
前記第2小径部の前記軸線方向の一方側の端部に、環状に形成された3次コイル部材を外挿し、前記3次コイル部材に、環状に形成された2次コイル部材の少なくとも一部を外挿し、前記2次コイル部材に、環状に形成されて高周波電流が流される1次コイル部材の少なくとも一部を外挿し、前記3次コイル部材、前記2次コイル部材、及び前記1次コイル部材を一体にして前記軸線方向の他方側に移動させて、誘導加熱により前記第2小径部を加熱する工程と;
前記3次コイル部材を前記第2小径部の前記軸線方向の他方側の端部に外挿する、又は、前記3次コイル部材を前記軸線方向の一方側に退避させた状態で、前記2次コイル部材及び前記1次コイル部材を一体にして前記軸線方向の他方側に移動させて、誘導加熱により前記第1小径部を加熱する工程と;
前記2次コイル部材を前記第1小径部の前記軸線方向の他方側の端部に外挿する、又は、前記2次コイル部材を前記軸線方向の一方側に退避させた状態で、前記1次コイル部材を前記軸線方向の他方側に移動させて、誘導加熱により前記本体部を加熱する工程と;
を有する移動焼入れ方法。
【請求項4】
本体部と、前記本体部の軸線方向の一方側の端部に設けられ前記本体部よりも外径が小さい第1小径部と、前記第1小径部の前記軸線方向の一方側の端部に設けられ前記第1小径部よりも外径が小さい第2小径部と、を備える軸状体に、移動焼入れを行う方法であって、
前記第1小径部の前記軸線方向の他方側の端部に、環状に形成された2次コイル部材を外挿し、
前記第2小径部の前記軸線方向の他方側の端部に、環状に形成された3次コイル部材を外挿し、
環状に形成されて高周波電流が流される1次コイル部材を前記本体部に外挿しつつ、前記1次コイル部材を前記軸線方向の一方側に移動させて、誘導加熱により前記本体部を加熱する工程と;
前記1次コイル部材内に前記2次コイル部材の少なくとも一部が配置されたときに、前記1次コイル部材及び前記2次コイル部材を一体にして前記軸線方向の一方側に移動させて、誘導加熱により前記第1小径部を加熱する工程と;
前記2次コイル部材内に前記3次コイル部材の少なくとも一部が配置されたときに、前記1次コイル部材、前記2次コイル部材、及び前記3次コイル部材を一体にして前記軸線方向の一方側に移動させて、誘導加熱により前記第2小径部を加熱する工程と;
を有する移動焼入れ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動焼入れ装置及び移動焼入れ方法に関する。
本願は、2018年3月22日に、日本に出願された特願2018-055216号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸状体を誘導加熱により移動焼入れし、軸状体の疲労強度を高めることが行われている。ここで言う、移動焼入れ(traverse hardening)とは、軸状体に対してコイル部材等を軸線方向に移動させながら焼入れすることを意味する。
誘導加熱では、環状に形成された1次コイル部材内に軸状体を挿入し、1次コイル部材に高周波電流を流して誘導加熱により軸状体を加熱する。誘導加熱では、軸状体と1次コイル部材との距離(エアーギャップ)が短いほど軸状体が効率よく加熱される。このため、軸状体が、本体部と、本体部に設けられ本体部よりも径が小さい小径部と、を備える場合には、本体部に比べて小径部が加熱されにくいという課題がある。
【0003】
この課題に対して、1次コイル部材の内側に、1次コイル部材の内径よりも外径が小さい2次コイル部材を備える移動焼入れ装置が提案されている(例えば、特許文献1から3参照)。これらの移動焼入れ装置では、複数のコイル部材が同心円状に配置されているため、エアーギャップは周方向に均一になる。巻き数を多くした電流効率の良いコイル部材を用いることができるため、少ない電流でむらなく効率的に軸状体を加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特公昭52-021215号公報
【文献】日本国特開2015-108188号公報
【文献】日本国特開2000-87134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1から3で開示された移動焼入れ装置は、軸状体の軸線方向に沿った中央部から端部に向かうに従い、本体部、本体部よりも外径が小さい第1小径部、第1小径部よりも外径が小さい第2小径部、が順に連なる軸状体を効率良く移動焼入れできないという問題がある。
この理由は、2次コイル部材の内径を第2小径部の外径に合わせると、2次コイル部材内に第1小径部が挿入できなくなり、2次コイル部材の内径を第1小径部の外径に合わせると、2次コイル部材内に第2小径部を挿入したときに、2次コイル部材と第2小径部とのエアーギャップが大きくなり、効率的に移動焼入れできなくなるためである。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、本体部だけでなく、本体部の端部に設けられた第1小径部、及び第1小径部の端部に設けられた第2小径部も効率的に移動焼入れすることができる移動焼入れ装置及び移動焼入れ方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の態様を提案している。
(1)本発明の一態様に係る移動焼入れ装置は、本体部と、前記本体部の軸線方向の一方側の端部に設けられて前記本体部よりも外径が小さい第1小径部と、前記第1小径部の前記軸線方向の一方側の端部に設けられて前記第1小径部よりも外径が小さい第2小径部と、を備える軸状体に、移動焼入れを行う装置であって、環状に形成されて高周波電流が流され、前記本体部に外挿される1次コイル部材と;環状に形成され、前記軸状体の前記第1小径部に外挿され前記1次コイル部材内に配置可能な2次コイル部材と;環状に形成され、前記軸状体の前記第2小径部に外挿され前記2次コイル部材内に配置可能な3次コイル部材と;を備える。
【0008】
この態様によれば、本体部を移動焼入れするときには、本体部に1次コイル部材を外挿し、軸線方向に移動する1次コイル部材に高周波電流を流す。1次コイル部材と本体部とが電磁誘導することにより本体部が加熱され、この後で、例えば、1次コイル部材の後を追って軸線方向に移動する冷却部により本体部を冷却して、本体部を移動焼入れする。
第1小径部を移動焼入れするときには、第1小径部に2次コイル部材及び1次コイル部材を外挿し、軸線方向に移動する1次コイル部材に高周波電流を流す。1次コイル部材と2次コイル部材とが電磁誘導して2次コイル部材に渦電流が流れる。すると、2次コイル部材と第1小径部とが電磁誘導することにより第1小径部に渦電流が流れて、第1小径部が加熱され、移動焼入れされる。このように、1次コイル部材と第1小径部との間に2次コイル部材が配置されることにより、第1小径部の外周と1次コイル部材の内周との間のエアーギャップが、第1小径部の外周と2次コイル部材の内周との間のエアーギャップへと小さくなり、移動焼入れが効率的に行われる。
【0009】
第2小径部を移動焼入れするときには、第2小径部に3次コイル部材、2次コイル部材、及び1次コイル部材を外挿し、軸線方向に移動する1次コイル部材に高周波電流を流す。1次コイル部材と2次コイル部材とが電磁誘導して2次コイル部材に渦電流が流れる。すると、2次コイル部材と3次コイル部材とが電磁誘導して3次コイル部材に渦電流が流れる。すると、3次コイル部材と第2小径部とが電磁誘導することにより第2小径部に渦電流が流れて、第2小径部が加熱され、移動焼入れされる。このように、1次コイル部材と第2小径部との間に2次コイル部材及び3次コイル部材が配置されることにより、第2小径部の外周と1次コイル部材の内周との間のエアーギャップが、第2小径部の外周と3次コイル部材の内周との間のエアーギャップへと小さくなり、移動焼入れが効率的に行われる。
以上のように、本体部だけでなく、第1小径部及び第2小径部も効率的に移動焼入れすることができる。
なお、本願明細書において言う「環状」とは、「全体としての形状が円い」ことを意味するものであり、本願発明で用いられる各種コイルのようにその環状の周方向に沿った一部に欠損部があるものを含めて「環状」と呼ぶ。
【0010】
(2)上記(1)に記載の移動焼入れ装置において以下の構成を採用してもよい:前記2次コイル部材の周方向の一部に、第2欠損部が形成され;前記3次コイル部材の周方向の一部に、第3欠損部が形成され;前記第2欠損部の周方向の位置と、前記第3欠損部の周方向の位置とが、少なくとも一部において互いに重なっている。
この場合、2次コイル部材と3次コイル部材とが周方向で互いに重なる範囲を広くとることができる。その結果、電磁誘導に寄与しない範囲を小さく抑えることができる。
【0011】
(3)本発明の一態様に係る移動焼入れ方法は、本体部と、前記本体部の軸線方向の一方側の端部に設けられ前記本体部よりも外径が小さい第1小径部と、前記第1小径部の前記軸線方向の一方側の端部に設けられ前記第1小径部よりも外径が小さい第2小径部と、を備える軸状体に、移動焼入れを行う方法であって、前記第2小径部の前記軸線方向の一方側の端部に、環状に形成された3次コイル部材を外挿し、前記3次コイル部材に、環状に形成された2次コイル部材の少なくとも一部を外挿し、前記2次コイル部材に、環状に形成されて高周波電流が流される1次コイル部材の少なくとも一部を外挿し、前記3次コイル部材、前記2次コイル部材、及び前記1次コイル部材を一体にして前記軸線方向の他方側に移動させて、誘導加熱により前記第2小径部を加熱する工程と;前記3次コイル部材を前記第2小径部の前記軸線方向の他方側の端部に外挿する、又は、前記3次コイル部材を前記軸線方向の一方側に退避させた状態で、前記2次コイル部材及び前記1次コイル部材を一体にして前記軸線方向の他方側に移動させて、誘導加熱により前記第1小径部を加熱する工程と;前記2次コイル部材を前記第1小径部の前記軸線方向の他方側の端部に外挿する、又は、前記2次コイル部材を前記軸線方向の一方側に退避させた状態で、前記1次コイル部材を前記軸線方向の他方側に移動させて、誘導加熱により前記本体部を加熱する工程と;を有する。
【0012】
この態様によれば、軸状体に対して相対的に1次コイル部材を軸線方向の他方側に移動させて軸状体を移動焼入れする場合、より具体的に説明すると、以下のように行う。
まず、第2小径部の軸線方向の一方側の端部に3次コイル部材、2次コイル部材、及び1次コイル部材を外挿し、3次コイル部材、2次コイル部材、及び1次コイル部材を一体にして軸線方向の他方側に向かって移動させる。高周波電流が流れる1次コイル部材と2次コイル部材とが電磁誘導して2次コイル部材に渦電流が流れる。すると、2次コイル部材と3次コイル部材とが電磁誘導して3次コイル部材に渦電流が流れる。すると、3次コイル部材と第2小径部とが電磁誘導することにより第2小径部に渦電流が流れて、第2小径部が加熱される。このように、1次コイル部材と第2小径部との間に2次コイル部材及び3次コイル部材が配置されることにより、第2小径部の外周と1次コイル部材の内周との間のエアーギャップが、第2小径部の外周と3次コイル部材の内周との間のエアーギャップへと小さくなり、第2小径部の加熱が効率的に行われる。この後で、例えば、1次コイル部材の後を追って軸線方向の他方側に向かって移動する冷却部により第2小径部を冷却して、第2小径部を移動焼入れする。
【0013】
次に、3次コイル部材を第2小径部の軸線方向の他方側の端部に残して、2次コイル部材及び1次コイル部材を一体にして第1小径部に外挿し、軸線方向の他方側に向かって移動させる。ここで、3次コイル部材は、第2小径部の軸線方向の他方側の端部を加熱した後、この端部の冷却が始まる前に直ちに軸線方向の一方側に退避させることが望ましい。なぜなら、第2小径部を加熱する際に温度が高くなった3次コイル部材を第2小径部から退避させることにより、第2小径部の端部の冷却効率が高まるためである。
高周波電流が流れる1次コイル部材と2次コイル部材とが電磁誘導して2次コイル部材に渦電流が流れる。すると、2次コイル部材と第1小径部とが電磁誘導することにより第1小径部に渦電流が流れて、第1小径部が加熱される。このように、1次コイル部材と第1小径部との間に2次コイル部材が配置されることにより、第1小径部の外周と1次コイル部材の内周との間のエアーギャップが、第1小径部の外周と2次コイル部材の内周との間のエアーギャップへと小さくなり、第1小径部の移動焼入れが効率的に行われる。
【0014】
次に、2次コイル部材を第1小径部の軸線方向の他方側の端部に残して、1次コイル部材を本体部に外挿し、軸線方向の他方側に向かって移動させる。ここで、2次コイル部材は、第1小径部の軸線方向の他方側の端部を加熱した後、この端部の冷却が始まる前に直ちに軸線方向の一方側に退避させることが望ましい。なぜなら、第1小径部を加熱する際に温度が高くなった2次コイル部材を第1小径部から退避させることにより、第1小径部の端部の冷却効率が高まるためである。
高周波電流が流れる1次コイル部材と本体部とが電磁誘導することにより、本体部が加熱される。
なお、第2小径部と同様に、第1小径部及び本体部は、加熱された後で冷却部により冷却される。
以上のように、軸状体に対して1次コイル部材を軸線方向の他方側に相対的に移動して軸状体を移動焼入れする場合に、本体部だけでなく、第1小径部及び第2小径部も効率的に移動焼入れすることができる。
【0015】
(4)本発明の他の態様に係る移動焼入れ方法は、本体部と、前記本体部の軸線方向の一方側の端部に設けられ前記本体部よりも外径が小さい第1小径部と、前記第1小径部の前記軸線方向の一方側の端部に設けられ前記第1小径部よりも外径が小さい第2小径部と、を備える軸状体に、移動焼入れを行う方法であって、前記第1小径部の前記軸線方向の他方側の端部に、環状に形成された2次コイル部材を外挿し、前記第2小径部の前記軸線方向の他方側の端部に、環状に形成された3次コイル部材を外挿し、環状に形成されて高周波電流が流される1次コイル部材を前記本体部に外挿しつつ、前記1次コイル部材を前記軸線方向の一方側に移動させて、誘導加熱により前記本体部を加熱する工程と;前記1次コイル部材内に前記2次コイル部材の少なくとも一部が配置されたときに、前記1次コイル部材及び前記2次コイル部材を一体にして前記軸線方向の一方側に移動させて、誘導加熱により前記第1小径部を加熱する工程と;前記2次コイル部材内に前記3次コイル部材の少なくとも一部が配置されたときに、前記1次コイル部材、前記2次コイル部材、及び前記3次コイル部材を一体にして前記軸線方向の一方側に移動させて、誘導加熱により前記第2小径部を加熱する工程と;を有する。
【0016】
この態様によれば、軸状体に対して相対的に1次コイル部材を軸線方向の一方側に移動させて軸状体を移動焼入れする場合、より具体的に説明すると、以下のように行う。
まず、1次コイル部材を本体部に外挿し、軸線方向の一方側に向かって移動させる。高周波電流が流れる1次コイル部材と本体部とが電磁誘導することにより、本体部が加熱される。この後で、例えば、1次コイル部材の後を追って軸線方向の一方側に向かって移動する冷却部により冷却して、本体部を移動焼入れする。
次に、第1小径部の軸線方向の他方側の端部に外挿した2次コイル部材の少なくとも一部を1次コイル部材が外挿したら、1次コイル部材及び2次コイル部材を一体にして軸線方向の一方側に向かって移動させる。高周波電流が流れる1次コイル部材と2次コイル部材とが電磁誘導して2次コイル部材に渦電流が流れる。すると、2次コイル部材と第1小径部とが電磁誘導することにより第1小径部に渦電流が流れて、第1小径部が加熱される。このように、1次コイル部材と第1小径部との間に2次コイル部材が配置されることにより、第1小径部の外周と1次コイル部材の内周との間のエアーギャップが、第1小径部の外周と2次コイル部材の内周との間のエアーギャップへと小さくなり、第1小径部の移動焼入れが効率的に行われる。
【0017】
次に、第2小径部の軸線方向の他方側の端部に外挿した3次コイル部材を、一体となって移動する1次コイル部材及び2次コイル部材の少なくとも一部が外挿したら、1次コイル部材、2次コイル部材、及び3次コイル部材を一体にして軸線方向の一方側に向かって移動させる。高周波電流が流れる1次コイル部材と2次コイル部材とが電磁誘導して2次コイル部材に渦電流が流れる。すると、2次コイル部材と3次コイル部材とが電磁誘導して3次コイル部材に渦電流が流れる。すると、3次コイル部材と第2小径部とが電磁誘導することにより第2小径部に渦電流が流れて、第2小径部が加熱される。このように、1次コイル部材と第2小径部との間に2次コイル部材及び3次コイル部材が配置されることにより、第2小径部の外周と1次コイル部材の内周との間のエアーギャップが、第2小径部の外周と3次コイル部材の内周との間のエアーギャップへと小さくなり、第2小径部の移動焼入れが効率的に行われる。
なお、本体部と同様に、第1小径部及び第2小径部は、加熱された後で冷却部により冷却される。
以上のように、軸状体に対して相対的に1次コイル部材を軸線方向の一方側に向かって移動させて軸状体を移動焼入れする場合に、本体部だけでなく、第1小径部及び第2小径部も効率的に移動焼入れすることができる。
【発明の効果】
【0018】
上記各態様の移動焼入れ装置及び移動焼入れ方法によれば、本体部だけでなく、本体部の端部に設けられた第1小径部、及び第1小径部の端部に設けられた第2小径部も効率的に移動焼入れすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態の移動焼入れ装置の一部を破断して模式的に示す側面図である。
【
図2】
図1中のII-II線で見た平断面図である。
【
図3】同実施形態における移動焼入れ方法を示すフローチャートである。
【
図4】同実施形態の移動焼入れ方法において第1小径部第1焼入れ工程を説明する図であって、要部の縦断面図である。
【
図5】同実施形態の移動焼入れ方法における本体部焼入れ工程を説明する図であって、要部の縦断面図である。
【
図6】同実施形態の移動焼入れ方法における第1小径部第2焼入れ工程を説明する図であって、要部の縦断面図である。
【
図7】同実施形態の移動焼入れ方法における第2小径部第2焼入れ工程を説明する図であって、要部の縦断面図である。
【
図8】同実施形態の移動焼入れ装置のシミュレーションに用いた解析モデルの側面図である。
【
図9】実施例の移動焼入れ装置によるシミュレーション結果を示す図である。
【
図10】比較例の移動焼入れ装置によるシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る移動焼入れ装置の一実施形態を、
図1から
図10を参照しながら説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の移動焼入れ装置1は、鉄道車両用の車軸等の軸状体101に、高周波電流を用いて移動焼入れ(traverse hardening)を行うための装置である。
まず、軸状体101について説明する。軸状体101は、本体部102と、本体部102の軸線C方向の一方側(他方側)D1の端部に設けられた第1小径部103A及び第2小径部104Aと、本体部102の軸線C方向の他方側(一方側)D2の端部に設けられた第1小径部103B及び第2小径部104Bと、を備えている。
【0021】
本体部102、第1小径部103A,103B、及び第2小径部104A,104Bは、それぞれ円柱状に形成され、本体部102の軸線Cと同軸に配置されている。第1小径部103A,103Bの外径は互いに同等であり、本体部102の外径よりも小さい。第2小径部104A,104Bの外径は互いに同等であり、第1小径部103A,103Bの外径よりも小さい。
第2小径部104Aは、第1小径部103Aの下端部に設けられ、その下端面が軸状体101の下端に達している。第2小径部104Bは、第1小径部103Bの上端部に設けられ、その上端面が軸状体101の上端に達している。
軸状体101は、フェライト相である、炭素鋼、鉄(Fe)を95重量%以上含有する低合金鋼等の導電性を有する材料で形成されている。
【0022】
移動焼入れ装置1は、支持部材6と、1次コイル部材11と、2次コイル部材16A,16Bと、3次コイル部材26A,26Bと、冷却環(冷却部)36と、制御部46と、を備えている。
本実施形態では、2次コイル部材16Aの構成と2次コイル部材16Bの構成とが、上下方向に直交する基準面に対して面対称である。このため、2次コイル部材16Aの構成を、数字、又は数字及び英小文字に英大文字「A」を付加することで示す。2次コイル部材16Bのうち2次コイル部材16Aに対応する構成を、2次コイル部材16Aと同一の数字、又は数字及び英小文字に英大文字「B」を付加することで示す。これにより、重複する説明を省略する。3次コイル部材26A,26B、及び後述する第2支持部18A,18B等についても同様である。例えば、第2支持部18Aの第2支持片19Aと第2支持部18Bの第2支持片19Bとは、基準面に対して面対称の構成である。
【0023】
図1に示すように、支持部材6は、下方センター7と、上方センター8と、を備えている。下方センター7は、軸状体101の第2小径部104Aを第2小径部104Aの下方から支持している。上方センター8は、軸状体101の第2小径部104Bを第2小径部104Bの上方から支持している。下方センター7及び上方センター8は、軸線Cが上下方向に沿い、軸線C方向の一方側D1が下方、他方側D2が上方となるように軸状体101を支持している。
【0024】
1次コイル部材11は、コイルの素線を螺旋状に巻いた環状に形成されている。1次コイル部材11の内径は、本体部102の外径よりも大きい。1次コイル部材11は、本体部102に外挿される。ここで言うA(例えば、本体部102等)に外挿されるとは、Aに対して軸線C方向に移動して、Aの外側を囲うように配置されることを意味する。
1次コイル部材11の各端部は、カーレントトランス12に電気的及び機械的に連結されている。カーレントトランス12は、1次コイル部材11に高周波電流を流す。
【0025】
図1及び
図2に示すように、2次コイル部材16Aは、環状に形成されている。2次コイル部材16Aには、渦電流を発生させるために、2次コイル部材16Aの周方向(以下、単に周方向と言う)の一部に2次コイル部材16Aが配置されない第2欠損部16aAが形成されている。この周方向は、1次コイル部材11、2次コイル部材16B、及び3次コイル部材26A,26Bの周方向と一致する。2次コイル部材16Aの内径は、軸状体101の第1小径部103Aの外径よりも大きい。2次コイル部材16Aの外径は、1次コイル部材11の内径よりも小さい。2次コイル部材16Aは、軸状体101の第1小径部103Aに外挿され、1次コイル部材11内に、第1小径部103A及び1次コイル部材11から互いに離間した状態で配置可能である。
【0026】
2次コイル部材16Aには、第2支持部18Aが固定されている。第2支持部18Aは、2次コイル部材16Aから下方に向かって延びる第2支持片19Aと、第2支持片19Aから径方向外側に向かって延びる第2連結片20Aと、を備えている。第2連結片20Aは、第2支持片19Aにおける2次コイル部材16Aが固定された端部とは反対の端部から径方向外側に向かって延びている。第2支持部18Aは、例えば、電気的な絶縁性を有する棒状部材をL字に折り曲げて形成されている。
第2連結片20Aには、第2移動部21Aが接続されている。第2移動部21Aは、例えば、図示しない3軸ステージ及び駆動モータを備えていて、第2支持部18Aを介して2次コイル部材16Aを、上下方向及び水平面に沿う方向に移動させることができる。
【0027】
2次コイル部材16Bは、2次コイル部材16Aと同様に構成されている。
2次コイル部材16Aと同様に、2次コイル部材16Bには第2支持部18B及び第2移動部21Bが接続されている。
【0028】
3次コイル部材26Aは、環状に形成されている。3次コイル部材26Aには、2次コイル部材16Aと同様に、周方向の一部に3次コイル部材26Aが配置されない第3欠損部26aAが形成されている。この第3欠損部26aA、及び前述の2次コイル部材16Aの第2欠損部16aAは、周方向において同等の位置に形成されている。すなわち、3次コイル部材26Aの第3欠損部26aA及び2次コイル部材16Aの第2欠損部16aAは、周方向において少なくとも一部が互いに重なる位置、より好ましくは周方向において完全に一致する位置に形成されている。
3次コイル部材26Aの内径は、軸状体101の第2小径部104Aの外径よりも大きい。3次コイル部材26Aの外径は、2次コイル部材16Aの内径よりも小さい。3次コイル部材26Aは、軸状体101の第2小径部104Aに外挿され、2次コイル部材16A内に、第2小径部104A及び2次コイル部材16Aから互いに離間した状態で配置可能である。
【0029】
2次コイル部材16Aと同様に、3次コイル部材26Aには第3支持部28A及び第3移動部31Aが接続されている。第3支持部28Aは、第2支持片19A、第2連結片20Aと同様に構成された、第3支持片29A、第3連結片30Aを備えている。
3次コイル部材26Bは、3次コイル部材26Aと同様に構成されている。3次コイル部材26Aと同様に、3次コイル部材26Bには第3支持部28B及び第3移動部31Bが接続されている。1次コイル部材11、2次コイル部材16A,16B、3次コイル部材26A,26Bは、銅等の導電性を有する材料で形成されている。
【0030】
図1に示すように、冷却環36は、環状に形成されている。冷却環36内には内部空間36aが形成されている。冷却環36の内周面には、内部空間36aに連通する複数のノズル36bが周方向に互いに離間して形成されている。冷却環36の内部には、軸状体101が挿入される。冷却環36は、1次コイル部材11よりも下方に配置されている。
冷却環36には、ポンプ37が連結されている。ポンプ37は、水等の冷却液Lを冷却環36の内部空間36a内に供給する。内部空間36aに供給された冷却液Lは、複数のノズル36bを通して軸状体101に向かって噴出し、軸状体101を冷却する。
【0031】
1次コイル部材11、カーレントトランス12、冷却環36、及びポンプ37は、支え板39に固定されている。支え板39には、ピニオンギヤ39aが回転自在に固定されている。支え板39には、ピニオンギヤ39aを回転駆動するモータ40が取付けられている。
支え板39は、図示されないガイドレールを介してラック42に連結されている。支え板39は、前記ガイドレールにより、ラック42に対して相対的に上下方向に移動自在となっている。そして、ピニオンギヤ39aは、ラック42の歯に対して噛合している。そのため、制御部46がモータ40を駆動させると、ピニオンギヤ39aが回転し、ラック42に対して支え板39が上方又は下方に移動する。
【0032】
制御部46は、図示はしないが、演算回路と、メモリと、を備えている。前記メモリには、前記演算回路を駆動するための制御プログラム等が記憶されている。
制御部46は、カーレントトランス12、第2移動部21A,21B、第3移動部31A,31B、ポンプ37、及びモータ40に接続され、これらを制御する。
【0033】
次に、本実施形態の移動焼入れ方法について説明する。
図3は、本実施形態における移動焼入れ方法Sを示すフローチャートである。
予め、軸状体101は、支持部材6により軸線Cが上下方向に沿うように支持されている。1次コイル部材11、2次コイル部材16A,16B、及び3次コイル部材26A,26Bは、軸状体101から取外されている。
【0034】
まず、配置工程(
図3に示すステップS1)において、
図1に示すように、制御部46は、モータ40、第2移動部21A、及び第3移動部31Aを駆動して、3次コイル部材26Aに2次コイル部材16Aの少なくとも一部を外挿し、2次コイル部材16Aに1次コイル部材11の少なくとも一部を外挿する。このとき、1次コイル部材11、2次コイル部材16A、及び3次コイル部材26Aのそれぞれの中心軸は、軸状体101の中心軸(軸線C)と一致するように配置する。3次コイル部材26Aの外周面を2次コイル部材16Aの内周面から離間させ、2次コイル部材16Aの外周面を1次コイル部材11の内周面から離間させておく。
【0035】
第2移動部21B及び第3移動部31Bを駆動して、第1小径部103Bの軸線C方向の下端部に2次コイル部材16Bを外挿し、第2小径部104Bの軸線C方向の下端部に3次コイル部材26Bを外挿する。このとき、2次コイル部材16B、及び3次コイル部材26Bのそれぞれの中心軸は、軸状体101の中心軸と一致させるように配置する。第1小径部103Bの外周面から2次コイル部材16Bの内周面を離間させ、第2小径部104Bの外周面から3次コイル部材26Bの内周面を離間させておく。
カーレントトランス12を駆動して1次コイル部材11に高周波電流を流す。ポンプ37を駆動して、冷却環36の複数のノズル36bから冷却液Lを噴出させる。
配置工程S1が終了すると、ステップS3に移行する。
【0036】
次に、第2小径部第1焼入れ工程(ステップS3)において、制御部46は、モータ40、第2移動部21A、及び第3移動部31Aを駆動して、3次コイル部材26A、2次コイル部材16A、及び1次コイル部材11を一体にして上方に移動させる。
図1に示すように、一体にして移動している3次コイル部材26A、2次コイル部材16A、及び1次コイル部材11を第2小径部104Aの下端部に外挿し、誘導加熱により第2小径部104Aをその下端部から上端部まで加熱する。このとき、3次コイル部材26Aの内周面を第2小径部104Aの外周面から離間させておく。
図2に示すように、1次コイル部材11に方向E1に電流が流れると、電磁誘導により2次コイル部材16Aの外表面に方向E2の渦電流が流れる。2次コイル部材16Aの外表面に方向E2の渦電流が流れると、3次コイル部材26Aの外表面に方向E3の渦電流が流れる。さらに、3次コイル部材26Aの外表面に方向E3の渦電流が流れると、第2小径部104Aの外表面に方向E4の渦電流が流れる。こうして第2小径部104Aの外表面に方向E4に流れる渦電流により、第2小径部104Aが加熱される。
【0037】
高周波電流が流れる1次コイル部材11と、第2小径部104Aとが、2次コイル部材16A及び3次コイル部材26Aを介して電磁誘導することにより、1次コイル部材11の内周面と第2小径部104Aの外周面との間のエアーギャップが、第2小径部104Aの外周面と3次コイル部材26Aの内周面との間のエアーギャップへと小さくなる。1次コイル部材11の後を追って上方に移動する冷却環36により第2小径部104Aを冷却して、第2小径部104Aを移動焼入れする。
【0038】
なお、第2小径部第1焼入れ工程S3、及び後述する第1小径部第1焼入れ工程S5、本体部焼入れ工程S7、第1小径部第2焼入れ工程S9、第2小径部第2焼入れ工程S11では、軸状体101に対する1次コイル部材11及び冷却環36の上方への移動は止めずに継続させながら移動焼入れする。
第2小径部第1焼入れ工程S3が終了すると、ステップS5に移行する。
【0039】
次に、第1小径部第1焼入れ工程(ステップS5)において、制御部46は、
図4に示すように、第3移動部31Aの駆動を停止させて、3次コイル部材26Aを第2小径部104Aの上端部又は下端部に外挿した状態で停止させる。そして、モータ40及び第2移動部21Aを駆動して、2次コイル部材16A及び1次コイル部材11を一体にして上方に移動させて、誘導加熱により第1小径部103Aを加熱する。このとき、第1小径部103Aの外周面から2次コイル部材16Aの内周面を離間させておく。
なお、3次コイル部材26Aを第2小径部104Aの上端部に外挿した状態で停止させるのに代えて、第2小径部104Aを加熱した後であって第2小径部104Aを冷却する前に、3次コイル部材26Aを下方に退避させる方が望ましい。この理由は、(1)第2小径部104Aを加熱する際に温度が高くなった3次コイル部材26Aを第2小径部104Aから退避させてさらなる加熱を防ぐこと、及び、(2)冷却環36から噴出した冷却液Lが第2小径部104Aの上端部に当たりやすくなること、の2点により、第2小径部104Aの端部の冷却効率が高まるためである。
第1小径部第1焼入れ工程S5が終了すると、ステップS7に移行する。
【0040】
次に、本体部焼入れ工程(ステップS7)において、制御部46は、第2移動部21Aの駆動を停止させて、
図5に示すように、2次コイル部材16Aを第1小径部103Aの上端部又は下端部に外挿した状態で停止させる。そして、モータ40を駆動して、1次コイル部材11を、本体部102に外挿しつつ上方に移動させて、誘導加熱により本体部102を加熱する。このとき、本体部102の外周面から1次コイル部材11の内周面を離間させておく。
なお、2次コイル部材16Aを第1小径部103Aの上端部に外挿した状態で停止させるのに代えて、本体部102を加熱した後であって本体部102を冷却する前に、2次コイル部材16Aを下方に退避させる方が望ましい。この理由は、(1)本体部102を加熱する際に温度が高くなった2次コイル部材16Aを本体部102から退避させてさらなる加熱を防ぐこと、及び、(2)冷却環36から噴出した冷却液Lが第1小径部103Aの上端部に当たりやすくなること、の2点により、第1小径部103Aの端部の冷却効率が高まるためである。
本体部焼入れ工程S7が終了すると、ステップS9に移行する。
【0041】
次に、第1小径部第2焼入れ工程(ステップS9)において、制御部46は、モータ40及び第2移動部21Bを駆動して、
図6に示すように、1次コイル部材11内に2次コイル部材16Bの少なくとも一部が配置されたときに、1次コイル部材11及び2次コイル部材16Bを一体にして上方に移動して、誘導加熱により第1小径部103Bを加熱する。このとき、2次コイル部材16Bの外周面から1次コイル部材11の内周面を離間させておく。
第1小径部第2焼入れ工程S9が終了すると、ステップS11に移行する。
【0042】
次に、第2小径部第2焼入れ工程(ステップS11)において、制御部46は、モータ40、第2移動部21B、及び第3移動部31Bを駆動して、
図7に示すように、2次コイル部材16B内に3次コイル部材26Bの少なくとも一部が配置されたときに、1次コイル部材11、2次コイル部材16B、及び3次コイル部材26Bを一体にして上方に移動させて、誘導加熱により第2小径部104Bを加熱する。このとき、3次コイル部材26Bの外周面から2次コイル部材16Bの内周面を離間させておく。
なお、第1小径部第1焼入れ工程S5、本体部焼入れ工程S7、第1小径部第2焼入れ工程S9、及び第2小径部第2焼入れ工程S11において、第1小径部103A、本体部102、第1小径部103B、及び第2小径部104Bが加熱された後で、冷却環36によりこれらの部分が冷却される。
第2小径部第2焼入れ工程S11が終了すると、移動焼入れ方法Sの全工程が終了し、軸状体101全体が移動焼入れされる。移動焼入れされた軸状体101は、硬度が向上する。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の移動焼入れ装置1によれば、本体部102を移動焼入れするときには、本体部102に1次コイル部材11を外挿し、上方に移動する1次コイル部材11に高周波電流を流す。1次コイル部材11と本体部102とが電磁誘導することにより本体部102が加熱され、この後で、1次コイル部材11の後を追って上方に移動する冷却環36により本体部102を冷却して、本体部102を移動焼入れする。
第1小径部103Aを移動焼入れするときには、第1小径部103Aに2次コイル部材16A及び1次コイル部材11を外挿し、上方に移動する1次コイル部材11に高周波電流を流す。1次コイル部材11と2次コイル部材16Aとが電磁誘導して2次コイル部材16Aに渦電流が流れる。すると、2次コイル部材16Aと第1小径部103Aとが電磁誘導することにより第1小径部103Aに渦電流が流れて、第1小径部103Aが加熱され、移動焼入れされる。このように、1次コイル部材11と第1小径部103Aとの間に2次コイル部材16Aが配置されることにより、第1小径部103Aの外周面と1次コイル部材11の内周面との間のエアーギャップが、第1小径部103Aの外周面と2次コイル部材16Aの内周面との間のエアーギャップへと小さくなり、移動焼入れが効率的に行われる。
【0044】
第2小径部104Aを移動焼入れするときには、第2小径部104Aに3次コイル部材26A、2次コイル部材16A、及び1次コイル部材11を外挿し、上方に移動する1次コイル部材11に高周波電流を流す。1次コイル部材11と2次コイル部材16Aとが電磁誘導して2次コイル部材16Aに渦電流が流れる。すると、2次コイル部材16Aと3次コイル部材26Aとが電磁誘導することにより、3次コイル部材26Aに渦電流が流れる。すると、3次コイル部材26Aと第2小径部104Aとが電磁誘導することにより、第2小径部104Aに渦電流が流れて、第2小径部104Aが加熱され、移動焼入れされる。このように、1次コイル部材11と第2小径部104Aとの間に2次コイル部材16A及び3次コイル部材26Aが配置されることにより、第2小径部104Aの外周面と1次コイル部材11の内周面との間のエアーギャップが、第2小径部104Aの外周面と3次コイル部材26Aの内周面との間のエアーギャップへと小さくなり、移動焼入れが効率的に行われる。
以上のように、本体部102だけでなく、第1小径部103A及び第2小径部104Aも効率的に移動焼入れすることができる。
【0045】
下方に第1小径部103A及び第2小径部104Aが形成された軸状体101に対して相対的に1次コイル部材11を上方に移動させて軸状体101を移動焼入れする場合、以下のように軸状体101を移動焼入れする。
まず、第2小径部104Aの下端部に3次コイル部材26A、2次コイル部材16A、及び1次コイル部材11を外挿し、3次コイル部材26A、2次コイル部材16A、及び1次コイル部材11を一体にして上方に移動させる。高周波電流が流れる1次コイル部材11と2次コイル部材16Aとが電磁誘導して2次コイル部材16Aに渦電流が流れる。すると、2次コイル部材16Aと3次コイル部材26Aとが電磁誘導することにより、3次コイル部材26Aに渦電流が流れる。すると、3次コイル部材26Aと第2小径部104Aとが電磁誘導することにより、第2小径部104Aに渦電流が流れて、第2小径部104Aが加熱される。このように、1次コイル部材11と第2小径部104Aとの間に2次コイル部材16A及び3次コイル部材26Aが配置されることにより、1次コイル部材11の内周面と第2小径部104Aの外周面との間のエアーギャップが、第2小径部104Aの外周面と3次コイル部材26Aの内周面との間のエアーギャップへと小さくなり、第2小径部104Aの加熱が効率的に行われる。この後で、1次コイル部材11の後を追って上方に移動する冷却環36により第2小径部104Aを冷却して、第2小径部104Aを移動焼入れする。
【0046】
次に、3次コイル部材26Aを第2小径部104Aの上端部又は下端部に残して、2次コイル部材16A及び1次コイル部材11を一体にして第1小径部103Aに外挿し、上方に移動させる。高周波電流が流れる1次コイル部材11と2次コイル部材16Aとが電磁誘導して2次コイル部材16Aに渦電流が流れる。すると、2次コイル部材16Aと第1小径部103Aとが電磁誘導することにより、第1小径部103Aに渦電流が流れて、第1小径部103Aが加熱される。このように、1次コイル部材11と第1小径部103Aとの間に2次コイル部材16Aが配置されることにより、1次コイル部材11の内周面と第1小径部103Aの外周面との間のエアーギャップが、第1小径部103Aの外周面と2次コイル部材16Aの内周面との間のエアーギャップへと小さくなり、第1小径部103Aの移動焼入れが効率的に行われる。
次に、2次コイル部材16Aを第1小径部103Aの上端部又は下端部に残して、1次コイル部材11を本体部102に外挿し、上方に移動させる。高周波電流が流れる1次コイル部材11と本体部102とが電磁誘導することにより、本体部102が加熱される。
【0047】
なお、第2小径部104Aと同様に、第1小径部103A及び本体部102は、加熱された後で冷却環36からの冷却液Lにより冷却される。
以上のように、軸状体101に対して1次コイル部材11を上方に移動させて軸状体101を移動焼入れする場合に、本体部102だけでなく、第1小径部103A及び第2小径部104Aも効率的に移動焼入れすることができる。
【0048】
上方に第1小径部103B及び第2小径部104Bが形成された軸状体101に対して相対的に1次コイル部材11を上方に移動させて軸状体101を移動焼入れする場合、以下のように軸状体101を移動焼入れする。
まず、1次コイル部材11を本体部102に外挿し、上方に移動させる。高周波電流が流れる1次コイル部材11と本体部102とが電磁誘導することにより、本体部102に渦電流が流れて、本体部102が加熱される。この後で、1次コイル部材11の後を追って上方に移動する冷却環36により冷却して、本体部102を移動焼入れする。
次に、第1小径部103Bの下端部に外挿した2次コイル部材16Bの少なくとも一部を1次コイル部材11が外挿したら、1次コイル部材11及び2次コイル部材16Bを一体にして上方に移動させる。高周波電流が流れる1次コイル部材11と2次コイル部材16Bとが電磁誘導して2次コイル部材16Bに渦電流が流れる。すると、2次コイル部材16Bと第1小径部103Bとが電磁誘導することにより、第1小径部103Bに渦電流が流れて、第1小径部103Bが加熱される。このように、1次コイル部材11と第1小径部103Bとの間に2次コイル部材16Bが配置されることにより、1次コイル部材11の内周面と第1小径部103Bの外周面との間のエアーギャップが、第1小径部103Bの外周面と2次コイル部材16Bの内周面との間のエアーギャップへと小さくなり、第1小径部103Bの移動焼入れが効率的に行われる。
【0049】
次に、第2小径部104Bの下端部に外挿した3次コイル部材26Bを、一体にして移動する1次コイル部材11及び2次コイル部材16Bの少なくとも一部が外挿したら、1次コイル部材11、2次コイル部材16B、及び3次コイル部材26Bを一体にして上方に移動させる。高周波電流が流れる1次コイル部材11と2次コイル部材16Bとが電磁誘導して2次コイル部材16Bに渦電流が流れる。すると、2次コイル部材16Bと3次コイル部材26Bとが電磁誘導して3次コイル部材26Bに渦電流が流れる。すると、3次コイル部材26Bと第2小径部104Bとが電磁誘導することにより、第2小径部104Bが加熱される。このように、1次コイル部材11と第2小径部104Bとの間に2次コイル部材16B及び3次コイル部材26Bが配置されることにより、1次コイル部材11の内周面と第2小径部104Bの外周面との間のエアーギャップが、第2小径部104Bの外周面と3次コイル部材26Bの内周面との間のエアーギャップへと小さくなり、第2小径部104Bの移動焼入れが効率的に行われる。
なお、本体部102と同様に、第1小径部103B及び第2小径部104Bは、加熱された後で冷却環36により冷却される。
以上のように、軸状体101に対して相対的に1次コイル部材11を上方に移動させて軸状体101を移動焼入れする場合に、本体部102だけでなく、第1小径部103B及び第2小径部104Bも効率的に移動焼入れすることができる。
【0050】
2次コイル部材16Aの第2欠損部16aA及び3次コイル部材26Aの第3欠損部26aAは、周方向において同等の位置に形成されている。すなわち、2次コイル部材16Aの第2欠損部16aA及び3次コイル部材26Aの第3欠損部26aAは、周方向において少なくとも一部が互いに重なる位置、より好ましくは周方向において完全に一致する位置に形成されている。第2欠損部16aAの径方向内側に配置された3次コイル部材26Aは、第2欠損部16aAに電流が流れないため電磁誘導が生じにくい。電流が流れず電磁誘導に寄与しない欠損部16aA,26aAの周方向の位置を同等にすることにより、2次コイル部材16Aと3次コイル部材26Aとが周方向で互いに重なる範囲を広くとることができる。その結果、電磁誘導に寄与しない範囲を小さく抑えることができる。
【0051】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態のみに限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、2次コイル部材16Aの第2欠損部16aA及び3次コイル部材26Aの第3欠損部26aAは、周方向において互いに異なる位置に形成されていてもよい。
軸状体101が、第2小径部104Aの下端部に設けられ、第2小径部104Aよりも径が小さい第3小径部、第4小径部、・・を備える場合等には、移動焼入れ装置は4次コイル部材、5次コイル部材、・・を備えてもよい。
【0052】
軸状体101が第1小径部103B及び第2小径部104Bを備えない場合には、移動焼入れ装置1は2次コイル部材16B及び3次コイル部材26Bを備えなくてよい。この場合、移動焼入れ方法Sでは、第1小径部第2焼入れ工程S9及び第2小径部第2焼入れ工程S11は行われなくてよい。
同様に、軸状体101が第1小径部103A及び第2小径部104Aを備えない場合には、移動焼入れ装置1は2次コイル部材16A及び3次コイル部材26Aを備えなくてよい。この場合、移動焼入れ方法Sでは、第2小径部第1焼入れ工程S3及び第1小径部第1焼入れ工程S5は行われなくてよい。
移動焼入れ装置1は、支持部材6及び制御部46を備えなくてもよい。
軸状体101は、鉄道車両用の車軸であるとしたが、ボールネジ等の軸であってもよい。
【0053】
(解析結果)
以下では、実施形態に基づく実施例の移動焼入れ装置1と、比較例の移動焼入れ装置とのそれぞれをシミュレーションした結果について説明する。
図8に、シミュレーションに用いた解析モデルを示す。
本体部102の外径は195mmであり、第1小径部103Aの外径(最小径)は161mmであり、第2小径部104Aの外径(最小径)は131mmであるとした。軸状体101の材質は、炭素鋼であるとした。1次コイル部材11に流す高周波電流の周波数を1kHzとした。移動焼入れにより軸状体101に対して一定の深さの焼入れをするために必要な加熱をする際に、軸状体101の温度の最高値を求めた。
【0054】
移動焼入れ時に軸状体101の温度が高くなり過ぎる(過加熱になる)と、軸状体101の組織が変化してしまうという問題がある。このため、軸状体101に対して一定の深さの焼入れを確保しつつ、軸状体101の温度の最高値を抑制することが望まれる。
【0055】
図9に、実施例の移動焼入れ装置1によるシミュレーション結果を示す。
図9及び後述する
図10中には、灰色の濃淡に対応した温度を示す。
実施例の移動焼入れ装置1により軸状体101を移動焼入れすると、第2小径部104Aで770℃以上に加熱できる深さを少なくとも5.0mm以上確保した場合には、
図9中に示す1次コイル部材11、2次コイル部材16A、及び3次コイル部材26Aの位置の時に、領域R1の温度が約1280℃になることが分かった。
図10に、比較例の移動焼入れ装置1Aによるシミュレーション結果を示す。比較例の移動焼入れ装置1Aは、実施例の移動焼入れ装置1の各構成に対して3次コイル部材26Aを備えていない。比較例の移動焼入れ装置1Aにより軸状体101を移動焼入れすると、第2小径部104Aで770℃以上に加熱できる深さを少なくとも5.0mm以上確保した場合には、領域R2の温度が約1491℃になることが分かった。
実施例の移動焼入れ装置1は、比較例の移動焼入れ装置1Aに比べて、移動焼入れ時における軸状体101の温度の最高値を、約211℃低減できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の移動焼入れ装置及び移動焼入れ方法によれば、本体部だけでなく、本体部の端部に設けられた第1小径部、及び第1小径部の端部に設けられた第2小径部も効率的に移動焼入れすることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 移動焼入れ装置
11 1次コイル部材
16A,16B 2次コイル部材
26A,26B 3次コイル部材
101 軸状体
102 本体部
103A,103B 第1小径部
104A,104B 第2小径部
C 軸線
D1 一方側(他方側)
D2 他方側(一方側)
S 移動焼入れ方法