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特許7183266金属コード、金属コード-ゴム複合体およびコンベヤベルト
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  • 特許-金属コード、金属コード-ゴム複合体およびコンベヤベルト 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】金属コード、金属コード-ゴム複合体およびコンベヤベルト
(51)【国際特許分類】
   D07B 1/06 20060101AFI20221128BHJP
   B65G 15/36 20060101ALI20221128BHJP
   C25D 3/22 20060101ALI20221128BHJP
   D07B 1/16 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
D07B1/06 Z
B65G15/36
C25D3/22 101
D07B1/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020525630
(86)(22)【出願日】2019-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2019023335
(87)【国際公開番号】W WO2019240190
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2018112305
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】尾花 直彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 義昭
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-4250(JP,A)
【文献】特開昭56-86639(JP,A)
【文献】特表2003-532808(JP,A)
【文献】特開平5-44058(JP,A)
【文献】特開2016-106178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 1/06
B65G 15/36
C25D 3/22
D07B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の金属フィラメントが撚り合わされてなる金属コードにおいて、
最外層を構成する前記金属フィラメントの表面に亜鉛めっき層が形成されてなり、前記亜鉛めっき層表面の、(002)面および(102)面の下記式(1)および(2)、
(002)=(R1(002)/R0(002))×100(%) (1)
(102)=(R1(102)/R0(102))×100(%) (2)
(ここで、式(1)中の、R0(002)は、無配向の亜鉛のピーク強度(002)面の回折強度=22.1であり、R1(002)は、評価サンプルの亜鉛のピーク強度(002)面の回折強度であり、式(2)中、R0(102)は、無配向の亜鉛のピーク強度(102)面の回折強度=8.4あり、R1(102)は、評価サンプルの亜鉛のピーク強度(102)面の回折強度である。)で表される結晶配向度F(002)およびF(102)が120未満であることを特徴とする金属コード。
【請求項2】
前記亜鉛めっき層表面の、(101)面および(100)面の下記式(3)、(4)、
(101)=(R1(101)/R0(101))×100(%) (3)
(100)=(R1(100)/R0(100))×100(%) (4)
(ここで、式(3)中の、R0(101)は、無配向の亜鉛のピーク強度(101)面の回折強度=56.4であり、R1(101)は、評価サンプルの亜鉛のピーク強度(101)面の回折強度であり、式(4)中、R0(100)は、無配向の亜鉛のピーク強度(100)面の回折強度=13.2あり、R1(100)は、評価サンプルの亜鉛のピーク強度(100)面の回折強度である。)で表される結晶配向度F(101)およびF(100)が100以上である請求項1記載の金属コード。
【請求項3】
前記亜鉛めっき層よりも内側に、ブラスめっき層を有する請求項1または2記載の金属コード。
【請求項4】
前記金属フィラメントが、スチールフィラメントである請求項1~3のうちいずれか一項記載の金属コード。
【請求項5】
請求項1~4のうちいずれか一項記載の金属コードが、ゴム組成物に埋設されてなることを特徴とする金属コード-ゴム複合体。
【請求項6】
請求項1~4のうちいずれか一項記載の金属コードを備えたことを特徴とするコンベヤベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属コード、金属コード複合体およびコンベヤベルトに関し、詳しくは、従来よりも、ゴムとの接着性に優れた金属コード、金属コード-ゴム複合体およびコンベヤベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
コンベヤベルトは、ベルト周方向に沿って補強用のスチールコードが埋設されており、これにより、コンベヤベルトのベルト周方向に沿った引張強度(ベルト強力)が高められている。そして、補強用のスチールコードには、一般に、耐腐食性に優れる亜鉛めっきが施されている。これは、コンベヤベルトが運搬物等による損傷でスチールコードが外気に触れやすく、腐食しやすいためである。しかしながら、亜鉛めっきはゴムとの接着性において、タイヤ等で使用されているブラスめっきよりも劣ることが知られている。
【0003】
このような中、特許文献1では、外周部を構成する複数の最外層フィラメント、およびこれらの最外層フィラメントの内側に位置する内側フィラメントを有するストランドが複数本撚り合わされてなり、複数のストランドのうち、補強用スチールコードの外周部を構成する最外層ストランドの最外層フィラメントに、ブラスめっき処理を施し、最外層ストランドよりも内側に位置する少なくとも1つのフィラメントには、亜鉛めっき処理を施した補強用スチールコードが提案されている。これにより、ゴム物品の補強を確実なものとしつつ、スチールコードとゴムとの接着性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-202291号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
今日、コンベヤベルトにおいては、耐久性のさらなる向上が求められており、スチールコードのような補強用の金属コードとゴムとの接着性の改善について、さらなる検討が求められている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、従来よりも、ゴムとの接着性に優れた金属コード、金属コード-ゴム複合体およびコンベヤベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、下記の知見を得た。すなわち、亜鉛めっきを施したスチールコードを補強材とするコンベヤベルトを用いて走行試験を実施し、最外層スチールフィラメント上の亜鉛めっき表面のミクロ解析をおこなったところ、亜鉛めっき表面で亀裂が発生していることを見出した。そして、その亀裂が発生した亜鉛めっきの表面をさらに観察することにより、結晶配向度が多い(102)面の表面で双晶変形が生じているとの知見を得た。かかる知見をもとに、本発明者らは、さらに鋭意検討した結果、亜鉛の結晶構造を所定のものとすることで、上記課題を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の金属コードは、複数本の金属フィラメントが撚り合わされてなる金属コードにおいて、
最外層を構成する前記金属フィラメントの表面に亜鉛めっき層が形成されてなり、前記亜鉛めっき層表面の、(002)面および(102)面の下記式(1)および(2)、
(002)=(R1(002)/R0(002))×100(%) (1)
(102)=(R1(102)/R0(102))×100(%) (2)
(ここで、式(1)中の、R0(002)は、無配向の亜鉛のピーク強度(002)面の回折強度=22.1であり、R1(002)は、評価サンプルの亜鉛のピーク強度(002)面の回折強度であり、式(2)中、R0(102)は、無配向の亜鉛のピーク強度(102)面の回折強度=8.4あり、R1(102)は、評価サンプルの亜鉛のピーク強度(102)面の回折強度である。)で表される結晶配向度F(002)およびF(102)が120未満であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の金属コードにおいては、前記亜鉛めっき層表面の、(101)面および(100)面の下記式(3)、(4)、
(101)=(R1(101)/R0(101))×100(%) (3)
(100)=(R1(100)/R0(100))×100(%) (4)
(ここで、式(3)中の、R0(101)は、無配向の亜鉛のピーク強度(101)面の回折強度=56.4であり、R1(101)は、評価サンプルの亜鉛のピーク強度(101)面の回折強度であり、式(4)中、R0(100)は、無配向の亜鉛のピーク強度(100)面の回折強度=13.2あり、R1(100)は、評価サンプルの亜鉛のピーク強度(100)面の回折強度である。)で表される結晶配向度F(101)およびF(100)が100以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の金属コードにおいては、前記亜鉛めっき層よりも内側に、ブラスめっき層を有することが好ましい。さらに、本発明の金属コードにおいては、前記金属フィラメントは、スチールフィラメントであることが好ましい。
【0011】
また、本発明の金属コード-ゴム複合体は、本発明の金属コードが、ゴム組成物に埋設されてなることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明のコンベヤベルトは、本発明の金属コードを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来よりも、ゴムとの接着性に優れた金属コード、金属コード-ゴム複合体およびコンベヤベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一好適な実施の形態に係る金属コードの概略断面図である。
図2】本発明の他の好適な実施の形態に係る金属コードの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の金属コードについて、図面を用いて詳細に説明する。
本発明の金属コードは、複数本の金属フィラメントが撚り合わされてなる金属コードである。本発明の金属コードにおいては、撚り構造としては、特に制限はなく、単撚り、層撚り等に限らず、金属フィラメントを撚り合わせて単撚りおよび層撚りの金属コードとし、この金属コードをストランドとして複数本撚り合わせた複撚り構造の金属コードであってもよい。
【0016】
図1は、本発明の一好適な実施の形態に係る金属コードの概略断面図であり、図2は、本発明の他の好適な実施の形態に係る金属コードの概略断面図である。図1に示す金属コード10は、2本の金属フィラメント11が撚り合わされたコア12の周りに、シース層13として8本の金属フィラメント11を撚り合わせてストランド15とし、このストランド1本の周りに6本のストランド15を撚り合わせた、7×(2+8)構造の金属コード10である。また、図2に示す金属コード20は、2本の金属フィラメント21が撚り合わされてなるコア22の周りに、第1シース層23として8本の金属フィラメント21を撚り合わせ、この第1シース層23の外側に第2シース層24として14本の金属フィラメント21を撚り合わせてストランド25とし、このストランド1本の周りに、6本のストランド25を撚り合わせた、7×(2+8+14)構造の金属コード20である。
【0017】
本発明の金属コード10、20は、最外層を構成する金属フィラメントの表面に亜鉛めっき層16、26を有する。このように、亜鉛めっき層16、26を設けることで、金属コード10、20の耐腐食性を向上させることができる。本発明の金属コード10、20においては、亜鉛めっき層16、26は、電気亜鉛めっきにて形成すればよい。なお、複撚り構造の金属コードの場合、最外層を構成する金属フィラメントとは、最外層のストランドの最外層の金属フィラメントであり、コアストランドの最外層金属フィラメントは、亜鉛めっき層を設けても、設けなくてもよい。また、本発明の金属コード10、20においては、最外層を構成する金属フィラメントに亜鉛めっき層があればよく、それ以外の金属フィラメントの一部にも亜鉛めっき層を設けてもよく、全ての金属フィラメントに亜鉛めっき層を設けてもよい。
【0018】
本発明の金属コード10、20においては、最外層を構成する金属フィラメント上の亜鉛めっき層16、26の表面の、(002)面および(102)面の下記式(1)および(2)で表される結晶配向度F(002)およびF(102)が120未満である。
(002)=(R1(002)/R0(002))×100(%) (1)
(102)=(R1(102)/R0(102))×100(%) (2)
【0019】
ここで、結晶配向度は、(評価サンプルの亜鉛めっきのピーク高さ)/(無配向の亜鉛ピーク高さ)で表すことができる。具体的には、(002)面の結晶配向度F(002)は、X線回折装置(XRD)を用いて、評価サンプルのZnの(002)面、(102)面、(101)面、(100)面の回折強度を測定し、ピーク強度の合計が100になるようにR1(002)、R1(102)、R1(101)、R1(100)を指数化し、(R1(002)/R0(002))×100(%)から算出することができる。無配向のZnの回折線強度データは、NIST(アメリカ国立標準技術研究所)を参考にし、R0(002)、R0(102)、R0(101)、R0(100)をピーク強度の合計が100になるように指数化している。具体的には、R0(002)=22.1、R0(102)=8.4、R0(101)=56.4、R0(100)=13.2である。F(102)もF(002)と同様に算出することができる。
【0020】
電気亜鉛めっき処理された六方晶の結晶面は、主に、(002)面、(102)面、(101)面および(100)面で構成されている。そして、上述のとおり、電気亜鉛めっきを施したスチールコードを補強材とするコンベヤベルトを用いて走行試験を実施し、最外層スチールフィラメント上の亜鉛めっき表面の亀裂を観察すると、結晶配向度が多い(102)面の表面で双晶変形が生じている。すなわち、(002)面や(102)面は、金属フィラメント表面に対して平行に近いため、コンベヤベルトの長手方向に対して変形しやすく、結晶の破壊が発生しやすい。そこで、最外層フィラメントに設けられた亜鉛めっき層16、26の表面における、(002)面と(102)面の結晶配向度を120未満とし、結晶の破壊を抑制している。好ましくは80未満である。なお、本発明の金属コードにおいては、(002)面および(102)面の結晶配向度F(002)およびF(102)は、下限は小さいほど好ましいが、0以上であってもよい。
【0021】
本発明の金属コード10、20においては、亜鉛めっき層16、26の表面の、(101)面および(100)面の下記式(3)、(4)で表される結晶配向度F(101)およびF(100)が100以上であることが好ましい。
(101)=(R1(101)/R0(101))×100(%) (3)
(100)=(R1(100)/R0(100))×100(%) (4)
【0022】
ここで、結晶配向度は、(評価サンプルの亜鉛めっきのピーク高さ)/(無配向の亜鉛ピーク高さ)で表すことができる。具体的には、(101)面の結晶配向度F(101)は、X線回折装置(XRD)を用いて、評価サンプルのZnの(002)面、(102)面、(101)面、(100)面の回折強度を測定し、ピーク強度の合計が100になるようにR1(002)、R1(102)、R1(101)、R1(100)を指数化し、(R1(101)/R0(101))×100(%)から算出することができる。無配向のZnの回折線強度データは、NIST(アメリカ国立標準技術研究所)を参考にし、R0(002)、R0(102)、R0(101)、R0(100)をピーク強度の合計が100になるように指数化している。具体的には、R0(002)=22.1、R0(102)=8.4、R0(101)=56.4、R0(100)=13.2である。F(100)もF(101)と同様に算出している。
【0023】
(101)面および(100)面は、(002)面や(102)面と比較して、金属フィラメント表面に対して垂直に近いため、コンベヤベルトの長手方向に対して変形し難い。そこで、これらの面の結晶配向度を高めることで、亜鉛めっき層16、26の表面における結晶の破壊を好適に抑制することができる。
【0024】
なお、本発明の金属コードにおいては、(101)面の結晶配向度F(101)、(100)面の結晶配向度F(100)は、上限は大きいほど好ましいが、本発明の金属コードにおいては、(101)面の結晶配向度F(101)は、179以下、(100)面の結晶配向度F(100)は760以下とすることができる。
【0025】
本発明の金属コード10、20における、最外層を構成する金属フィラメントの表面の亜鉛めっき層16、26は、例えば、電気亜鉛めっきにて形成することができる。そして、この場合、亜鉛めっき層の結晶配向は、めっき反応抑制剤を用いることで制御することができる。例えば、めっき反応抑制剤を添加することで、亜鉛めっき層16、26の表面の(002)面および(102)面の結晶配向度を小さくすることができ、(101)面と(100)面の結晶配向度を大きくすることができる。めっき反応抑制剤としては、ポリエチレングリコール、サッカリン、不飽和アルコール等を用いることができる。
【0026】
電気亜鉛めっきに用いる亜鉛めっき浴は、上記めっき反応抑制剤を添加すること以外は、既知の組成のものを用いることができる。例えば、硫酸亜鉛浴や塩化亜鉛浴等、公知のものを用いることができる。硫酸亜鉛浴としては、硫酸亜鉛(7水和物)が50~300g/L程度で、必要に応じて鉱酸や支持電解質を添加したものを用いることができる。また、塩化亜鉛浴としては、塩化亜鉛(7水和物)が50~300g/L程度で、必要に応じて鉱酸や支持電解質を添加したものを用いることができる。亜鉛めっき浴の温度については、30~70℃が好ましい。亜鉛めっき浴の温度を30℃以上とすれば、電気亜鉛めっきにおいて良好な電析効率が得られ、一方、70℃未満とすることで、エネルギーコストを抑えることができる。また、めっき浴の蒸発を抑制することができるため、めっき浴の濃度管理の点においても有利である。
【0027】
本発明の金属コード10、20においては、金属フィラメントの材質には特に制限はないが、金属フィラメントとしては、スチールフィラメントが、コストや強度の面から好ましい。スチールは、鋼、すなわち、鉄を主成分(金属鋼線の全質量に対する鉄の質量が50質量%を超える)とする金属をいい、鉄のみで構成されていてもよいし、鉄以外の、例えば、亜鉛、銅、アルミニウム、スズ等の金属を含んでいてもよい。
【0028】
本発明の金属コード10、20としては、亜鉛めっき層16、26よりも内側に、ブラスめっき層を有することが好ましい。このような構成とすることで、金属コード10、20とゴムとの接着性が向上する。ブラスめっき層は、通常、銅と亜鉛との割合(銅:亜鉛)を、質量基準で60~70:30~40とすることができる。また、ブラスめっき層の層厚は、100nm~300nmとすることができる。
【0029】
本発明の金属コードにおいては、金属フィラメント表面上のブラスめっき層は、例えば、金属フィラメント材を、所定の中間線径まで繰り返し乾式伸線を加え(乾式伸線工程)、得られた金属フィラメント材にパテンティング処理を加え(パテンティング処理工程)、パテンティング処理後の金属フィラメント材に銅、亜鉛を順次めっきし、その後熱を加えてブラスとし(ブラスめっき工程)、得られたブラスめっき金属フィラメント材に連続湿式伸線加工を施す(連続湿式伸線工程)ことにより製造することができる。なお、乾式伸線工程、パテンティング処理工程および連続湿式伸線工程は、既知の条件で行うことができ、銅めっき浴および亜鉛めっき浴は既知のものを用い、既知の条件でおこなうことができる。
【0030】
本発明の金属コード10、20においては、最外層を構成する金属フィラメントの表面に亜鉛めっき層16、26が形成されてなり、この亜鉛めっき層16、26における、(002)面と(102)面の結晶配向度が120未満であること以外に特に制限はない。例えば、図1に示す金属コード10は、7×(2+8)構造であり、図2に示す金属コード20では、2+8+14構造のストランド25を撚り合わせた7×(2+8+14)構造であるが、本発明の金属コードにおいては、コード構造は複撚り構造に限定されることなく、単撚り構造や層撚り構造であってもよい。さらに、金属フィラメント11、21の撚りピッチや撚り方向、ストランド15、25の撚りピッチや撚り方向についても特に制限はなく、目的に応じて、適宜設定することができる。
【0031】
次に、本発明の金属コード-ゴム複合体について説明する。
本発明の金属コード-ゴム複合体は、本発明の金属コード10、20が、ゴム組成物に埋設されてなるものである。本発明の金属コード-ゴム複合体に係るゴム組成物を構成するゴムについては特に制限はない。例えば、ゴム成分としては、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマーゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴム、イソブチレン-イソプレン共重合体ゴム、ポリクロロプレンゴム等が挙げられる。本発明の金属コード-ゴム複合体においては、ゴム成分は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明の金属コード-ゴム複合体においては、上記ゴム成分の他に、本発明の目的を阻害しない範囲で、通常ゴム業界で採用される成分を適宜配合してもよい。その他の成分としては、例えば、硫黄等の加硫剤、シリカやカーボンブラック等の充填剤、プロセスオイル等の油分、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤、酸化亜鉛、および、ステアリン酸等が挙げられる。
【0033】
本発明の金属コード-ゴム複合体に係るゴム組成物は、これら各成分を、常法により混練りし、熱入れおよび押し出しすること等により製造することができる。
【0034】
本発明の金属コード-ゴム複合体は、本発明の金属コードを所定の間隔で平行に並べ、この金属コードの上下両側から、上記ゴム組成物からなる厚さ5.0mm程度の未架橋ゴムシートでコーティングして、これを160℃程度の温度で、20分間程度加硫処理することにより製造することができる。
【0035】
次に、本発明のコンベヤベルトについて説明する。
本発明のコンベヤベルトは、本発明の金属コードを備えたものであり、特に、本発明の金属コードをコンベヤベルトの周方向の補強材として用いたものである。特に、前述のとおり、本発明の金属コードは、ゴムとの接着性に優れているため、本発明のコンベヤベルトは、耐久性に優れている。なお、本発明のコンベヤベルトは、本発明の金属コードを用いたこと以外は特に制限はなく、既知の構造および材質を用いることができる。
【0036】
また、本発明のコンベヤベルトの製造方法についても、特に限定はされず、公知の方法によって製造することができる。例えば、コンベヤベルト用ゴム組成物を押出成形(カレンダー等の公知の成形方法)によりシート状に成形し、補強材である本発明の金属コードを芯材として、これを被覆するようにシート状ゴム成形物(コンベヤベルト用ゴム組成物)を貼り合わせた後、常法に従い加硫硬化させることにより得ることができる。
【実施例
【0037】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1~4および比較例>
線径が0.525、0.46、0.395mmの3種のスチールフィラメントを用いて、表1、2に示す構造のスチールコードを作製した。スチールフィラメントにはブラスめっきが施されており、スチールコードの最外層を構成するスチールフィラメントの表面には、亜鉛めっきを施した。亜鉛めっきに使用した亜鉛めっき浴の組成、電気亜鉛めっきの条件は以下のとおりである。なお、結晶配向度Fは、めっき反応抑制剤の濃度を変化させて調整した。
【0038】
(亜鉛めっき浴組成)
硫酸亜鉛 :300g/L
硫酸 :1g/L
pH :3
めっき反応抑制剤:サッカリン
めっき反応抑制剤濃度:0.5~3.0g/L
めっき槽温度:30℃
電流密度:12.5A/dm
【0039】
得られたスチールフィラメント表面の亜鉛めっき層の表面のF(002)、F(102)、F(101)およびF(100)を、XRD装置(BRUKER社製D8 DISCOVER)を用いて算出した。測定条件は以下のとおりである。得られた結果を表1、2に示す。
(X線回折測定条件)
X線源:クロム
出力 :38kV
【0040】
得られたスチールコードを、周方向の補強材としてコンベヤベルトを作製し、以下の手順に従って、走行試験により耐久性を評価した。なお、コンベヤベルトの構造はST1600とした。
【0041】
<走行試験>
周長11.6mのコンベヤベルトを、プーリー径1200mmのプーリーに掛け、ベルト速度を250m/min、所定のベルト張力をかけて走行試験を行った。ベルト張力は、最小154kg/コードから42秒かけて最大1246kg/コードとし、その後、8秒かけて最小154kg/コードとするサイクルを繰り返し行った。結果は、比較例1のコンベヤベルトが故障するまでの時間を100とする指数とした。この値が大きいほど、コンベヤベルトの耐久性が優れていることを意味する。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
以上より、本発明の金属コードはゴムとの接着性に優れ、特に、コンベヤベルトの補強材として好適であることがわかる。
【符号の説明】
【0045】
10、20 金属コード
11、21 金属フィラメント
12、22 コア
13、23 第1シース層
24 第2シース増層
15、25 ストランド
16、26 亜鉛めっき層
図1
図2