(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】表面処理剤
(51)【国際特許分類】
C23G 1/06 20060101AFI20221128BHJP
C11D 1/72 20060101ALI20221128BHJP
C11D 1/74 20060101ALI20221128BHJP
C11D 3/33 20060101ALI20221128BHJP
C11D 3/36 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C23G1/06
C11D1/72
C11D1/74
C11D3/33
C11D3/36
(21)【出願番号】P 2020550455
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2019038768
(87)【国際公開番号】W WO2020071372
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2018187569
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】竹田 祐二
(72)【発明者】
【氏名】笠原 由起
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-158492(JP,A)
【文献】特開平06-240480(JP,A)
【文献】特開昭57-114673(JP,A)
【文献】特開昭55-141576(JP,A)
【文献】特開平02-004991(JP,A)
【文献】特開昭53-149130(JP,A)
【文献】特開2016-160457(JP,A)
【文献】特開2000-297391(JP,A)
【文献】特開昭62-260081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G1/00-5/06
C11D1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材の表面から、スケールおよびヒュームと同時に油分を除去するために用いられる表面処理剤であって、
キレート剤と、ノニオン系界面活性剤と、陰イオン系界面活性剤と、を含み、
前記陰イオン系界面活性剤は、リン酸エステル型界面活性剤、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、および硫酸エステル型界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記キレート剤は、ホスホン酸系キレート剤、アミノカルボン酸型キレート剤、およびカルボキシエチル基系キレート剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記キレート剤の合計含有量は、3000~22000質量ppmであり、
前記ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル類、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル類、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記ノニオン系界面活性剤の合計含有量は、2000~4000質量ppmであり、
前記陰イオン系界面活性剤は、リン酸エステル型界面活性剤であり、
前記陰イオン系界面活性剤の合計含有量は、4000~8000質量ppmであり、
フッ化物イオンを遊離するフッ素含有化合物をさらに含み、
前記フッ素含有化合物は、フッ化水素酸、酸性フッ化ナトリウム、酸性フッ化アンモニウム、フルオロチタン酸、フルオロジルコニウム酸、フルオロ珪酸、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、二フッ化水素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
pHが
4.5~6である、表面処理剤。
【請求項2】
前記フッ素含有化合物の含有量は、500~3000質量ppmである、請求項
1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
還元剤をさらに含み、
前記還元剤の含有量は、5000~15000質量ppmである、請求項1
又は2記載の表面処理剤。
【請求項4】
防錆剤をさらに含み、
前記防錆剤の含有量は、50~300質量ppmである、請求項1~
3いずれかに記載の表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の表面から、スケールおよびヒュームと同時に油分を除去するために用いられる表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材の表面に付着したスケールおよびヒュームを除去するために、アスコルビン酸等の還元剤と、キレート剤とを含有する表面処理剤が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
上記の表面処理剤において、還元剤は、スケールおよびヒュームの溶解性を高め、キレート剤は、スケールおよびヒュームの金属イオンと配位結合する。そして還元剤とキレート剤との作用により、金属材の表面に付着したスケールおよびヒュームを、同時に除去することができる。
【0004】
しかしながら、例えば、自動車部品の溶接部には、スケールおよびヒューム以外に、油分が付着している。そして、錆が生じやすいやすい部位となっている。また、スケールおよびヒューム以外に油分が付着している場合には、リン酸亜鉛処理やZr処理等の化成処理を実施しても、化成皮膜が形成されにくいという問題がある。このため、化成処理の前に、スケールおよびヒュームとともに、油分を除去する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の表面処理剤では、スケールおよびヒュームは同時に除去できるものの、油分までを効率よく除去することは困難であった。したがって、スケールおよびヒュームを除去する処理と、油分を除去する処理とを、別々に実施して対応していた。
【0007】
また、自動車部品の溶接部以外の各種の金属材においても、金属材の表面からスケールおよびヒュームと同時に油分を、効率よく除去できる表面処理剤が求められている。
【0008】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、金属材の表面から、スケールおよびヒュームと同時に油分を、効率よく除去することのできる表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、金属材の表面から、スケールおよびヒュームのみならず、同時に油分が除去できる表面処理剤について鋭意研究を重ねた。その結果、キレート剤と、ノニオン系界面活性剤と、陰イオン系界面活性剤と、を含み、陰イオン系界面活性剤が、リン酸エステル型界面活性剤、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、および硫酸エステル型界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である表面処理剤とすれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、金属材の表面から、スケールおよびヒュームと同時に油分を除去するために用いられる表面処理剤であって、キレート剤と、ノニオン系界面活性剤と、陰イオン系界面活性剤と、を含み、前記陰イオン系界面活性剤は、リン酸エステル型界面活性剤、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、および硫酸エステル型界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である、表面処理剤である。
【0011】
前記キレート剤は、ホスホン酸系キレート剤、アミノカルボン酸型キレート剤、およびカルボキシエチル基系キレート剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記キレート剤の合計含有量は、3000~22000質量ppmであってもよい。
【0012】
前記ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル類、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル類、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記ノニオン系界面活性剤の合計含有量は、1000~4000質量ppmであってもよい。
【0013】
前記陰イオン系界面活性剤の合計含有量は、2000~8000質量ppmであってもよい。
【0014】
前記陰イオン系界面活性剤は、リン酸エステル型界面活性剤であってもよい。
【0015】
フッ化物イオンを遊離するフッ素含有化合物をさらに含み、前記フッ素含有化合物の含有量は、500~3000質量ppmであってもよい。
【0016】
還元剤をさらに含み、前記還元剤の含有量は、5000~15000質量ppmであってもよい。
【0017】
防錆剤をさらに含み、前記防錆剤の含有量は、50~300質量ppmであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の表面処理剤によれば、金属材の表面から、スケールおよびヒュームと同時に油分を、効率よく除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
<表面処理剤>
本発明の表面処理剤は、キレート剤と、ノニオン系界面活性剤と、陰イオン系界面活性剤と、を含み、陰イオン系界面活性剤は、リン酸エステル型界面活性剤、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、および硫酸エステル型界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0021】
本発明の表面処理剤は、キレート剤と、ノニオン系界面活性剤と、上記の陰イオン系界面活性剤と、を必須成分として含んでいればよく、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を任意に含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、還元剤、防錆剤、フッ素含有化合物等が挙げられる。
【0022】
[キレート剤]
本発明の表面処理剤に含まれるキレート剤は、特に限定されるものではなく、公知のキレート剤を適用することができる。本発明の表面処理剤がキレート剤を含むことにより、金属材の表面から、スケールおよびヒュームを効率よく除去することができる。
【0023】
本発明の表面処理剤に適用できるキレート剤としては、例えば、ホスホン酸系キレート剤、アミノカルボン酸型キレート剤、およびカルボキシエチル基系キレート剤からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0024】
ここで、ホスホン酸系キレート剤としては、例えば、HEDP、NTMP、PBTC、EDTMP等が挙げられる。アミノカルボン酸型キレート剤としては、例えば、EDTA、NTA、DTPA、HEDTA、TTHA、PDTA、DPTA-oh、HIDA、DHEG、GEDTA、CMGA、EDDS等が挙げられる。カルボキシエチル基系キレート剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸の構造異性体、アジピン酸、アミノヘキサン酸等が挙げられる。
【0025】
本発明の表面処理剤に含まれるキレート剤の合計含有量は、3000~22000質量ppmであることが好ましく、さらに好ましくは、5000~13000質量ppmである。キレート剤の合計含有量が3000質量ppm未満である場合には、金属材の表面からスケールおよびヒュームを除去することが難しくなる。一方、キレート剤の合計含有量が22000質量ppmを超える場合には、除去性の向上がほとんど無くなり、非経済的となる。
【0026】
[ノニオン系界面活性剤]
本発明の表面処理剤に含まれるノニオン系界面活性剤は、特に限定されるものではなく、公知のノニオン系界面活性剤を適用することができる。本発明の表面処理剤がノニオン系界面活性剤を含むことにより、金属材の表面から、油分を効率よく除去することができる。
【0027】
本発明の表面処理剤に適用できるノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル類、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル類、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。市販品を適用することもでき、例えば、Genapol EP 2564(クラリアントジャパン社製)、ノイゲンXL100(第一工業製薬社製)、Genagen C 100(クラリアントジャパン社製)等が挙げられる。
【0028】
本発明の表面処理剤に含まれるノニオン系界面活性剤の合計含有量は、1000~4000質量ppmであることが好ましく、さらに好ましくは、2000~4000質量ppmである。ノニオン系界面活性剤の合計含有量が1000質量ppm未満である場合には、金属材の表面から油分を除去することが難しくなる。一方、ノニオン系界面活性剤の合計含有量が4000質量ppmを超える場合には、作業工程において泡立ちやすくなることが懸念される。
【0029】
[陰イオン系界面活性剤]
本発明の表面処理剤に含まれる陰イオン系界面活性剤は、リン酸エステル型界面活性剤、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、および硫酸エステル型界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である。本発明の表面処理剤が上記の陰イオン系界面活性剤を含むことにより、金属材の表面からスケールおよびヒュームと同時に、油分を効率よく除去できる。つまり、陰イオン系界面活性剤は、スケールおよびヒュームの除去と、油分の除去(脱脂)の両方に寄与する。
【0030】
上記の陰イオン系界面活性剤は、特に限定されるものではなく、公知の陰イオン系界面活性剤を適用することができる。市販品を適用することもでき、例えば、DOW TRITON H66(ダウケミカル日本社製、リン酸カリウム型界面活性剤)、ネオゲンAS-20(第一工業製薬社製、スルホン酸型界面活性剤)、ノイゲンES-99(第一工業製薬社製)、サンスパールPDN-173(三洋化成工業社製、カルボン酸型界面活性剤)等が挙げられる。
【0031】
本発明の表面処理剤においては、上記陰イオン系界面活性剤のなかでも、リン酸エステル型界面活性剤を含むことが好ましい。リン酸エステル型界面活性剤としては、例えば、EO付加リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステル、およびホスホン酸エステル等を挙げることができ、本発明においては、これらからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0032】
ここで、EO付加リン酸エステルは、下記の式(1)によって表わされる。
【0033】
【化1】
(式(1)中、R
1は、炭素数1個以上のアルキル基を示す。また、nは1以上である。)
【0034】
また、亜リン酸エステルは、下記の式(2)によって表わされる。
【0035】
【化2】
(式(2)中、R
2およびR
3は、それぞれ炭素数1個以上のアルキル基を示す。)
【0036】
また、酸性リン酸エステルは、下記の式(3)によって表わされる。
【0037】
【化3】
(式(3)中、R
4は、それぞれ炭素数1個以上のアルキル基を示す。)
【0038】
また、ホスホン酸エステルは、下記の式(4)によって表わされる。
【0039】
【化4】
(式(4)中、R
5、R
6およびR
7は、それぞれ炭素数1個以上のアルキル基を示す。)
【0040】
本発明の表面処理剤に含まれる陰イオン系界面活性剤の合計含有量は、2000~8000質量ppmであることが好ましく、さらに好ましくは、4000~8000質量ppmである。リン酸エステル型界面活性剤の合計含有量が2000質量ppm未満である場合には、金属材の表面から油分を除去することが難しくなる。一方で、リン酸エステル型界面活性剤の合計含有量が8000質量ppmを超える場合には、作業工程において泡立ちやすくなることが懸念される。
【0041】
[その他の成分]
本発明の表面処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、表面処理剤に適用される公知の化合物であれば特に限定されるものではないが、例えば、還元剤、防錆剤、フッ素含有化合物であれば、表面処理剤にさらなる機能を付与することができる。
【0042】
(還元剤)
本発明の表面処理剤に任意に含まれる還元剤は、特に限定されるものではなく、公知の還元剤を適用することができる。本発明の表面処理剤が還元剤をさらに含むことにより、金属材の表面に存在するスケールおよびヒュームの溶解性を高めることができ、これにより、金属材の表面から、スケールおよびヒュームを、さらに効率よく除去することができる。
【0043】
本発明の表面処理剤に適用できる還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エリスロアスコルビン酸、イソアスコルビン酸、およびアスコルビン酸誘導体等のアスコルビン酸系の還元剤、エルソルビン酸、没食子酸、ピロガロール、ヒドラジン、硫黄系還元剤、チオ尿素類等が挙げられる。
【0044】
本発明の表面処理剤に還元剤を適用する場合には、その含有量は、5000~15000質量ppmであることが好ましい。還元剤の含有量が5000質量ppm未満である場合には、金属材の表面に存在するスケールおよびヒュームの溶解性を高めることが難しくなる。一方、還元剤の含有量が15000質量ppmを超える場合には、金属材の表面に存在するスケールおよびヒュームの溶解性を高める効果の向上がほとんど無くなり、非経済的となる。
【0045】
(防錆剤)
本発明の表面処理剤に任意に含まれる防錆剤は、特に限定されるものではなく、公知の防錆剤を適用することができる。本発明の表面処理剤が防錆剤をさらに含むことにより、化成処理が行われるまでの金属材の防錆性を高めることができる。
【0046】
本発明の表面処理剤に適用できる防錆剤としては、例えば、いわゆるP系、N系、S系、およびアセチレン系の防錆剤等が挙げられる。P系の防錆剤としては、リン酸塩等が挙げられる。N系の還元剤としては、アルキルアミン、イミダゾール、トリアゾール等が挙げられる。S系の防錆剤としては、サンチオール、チオ尿素等が挙げられる。アセチレン系の防錆剤としては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオールおよび3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール等が挙げられる。市販品を適用することもでき、例えば、KORANTIN PM(BASFジャパン社製)等が挙げられる。
【0047】
本発明の表面処理剤に防錆剤を適用する場合には、その含有量は、50~300質量ppmであることが好ましい。防錆剤の含有量が50質量ppm未満である場合には、金属材の防錆性を高めることが難しくなる。一方、防錆剤の合計含有量が225質量ppmを超える場合には、それ以上の効果の向上はほとんど無くなり、非経済的となる。
【0048】
(フッ素含有化合物)
本発明の表面処理剤に任意に含まれるフッ素含有化合物は、フッ化物イオンを遊離するものであれば特に限定されるものではなく、公知の化合物を適用することができる。本発明の表面処理剤が、フッ化物イオンを遊離するフッ素含有化合物をさらに含むことにより、スケールおよびヒューム中の金属イオンを水溶液中で安定化させることができ、これにより、金属材の表面からスケールおよびヒュームをさらに効率よく除去することができる。
【0049】
フッ化物イオンの供給源となるフッ素含有化合物としては、例えば、フッ化水素酸、酸性フッ化ナトリウム、酸性フッ化アンモニウム、フルオロチタン酸、フルオロジルコニウム酸、フルオロ珪酸、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、二フッ化水素カリウム等が挙げられる。
【0050】
本発明の表面処理剤にフッ素含有化合物を適用する場合には、その含有量は、例えば、500~3000質量ppmであることが好ましく、さらに好ましくは、750-1250質量ppmである。フッ素含有化合物の合計含有量が500質量ppm未満である場合には、スケールおよびヒューム中の金属イオンを水溶液中で安定化させることが難しくなる。
【0051】
<表面処理方法>
本発明の表面処理剤による表面処理方法は、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法が適用できる。
【0052】
[金属材]
本発明の表面処理剤が適用できる金属材としては、特に限定されるものではない。例えば、鉄材、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛メッキ鋼板、アルミ合金材等が挙げられる。なお、溶接部を有する金属材であれば、表面から、スケール、ヒューム、および油分を効率よく除去する必要があることから、本発明の効果を特に享受することができる。
【0053】
表面処理する際の表面処理剤の温度は、例えば、35~60℃である。表面処理剤の温度が35℃未満である場合には、金属材の表面からスケールおよびヒュームを除去することが難しくなる。一方、表面処理剤の温度が60℃を超える場合には、除去性の向上はほとんど無くなり、設備の劣化を早めるため望ましくない。表面処理剤の温度は、40~60℃とすることが好ましく、45~55℃とすることがさらに好ましい。
【0054】
表面処理する際の表面処理剤のpHは、例えば、4~8である。この範囲のpHであれば、金属材の表面からスケールおよびヒュームを効率よく除去することができる。表面処理剤のpHは、4.5~7の範囲であることが好ましい。表面処理剤のpHが4未満である場合には、金属材によっては金属材の表面の色が黒く変色する場合がある。一方、表面処理剤のpHが8を超える場合には、金属材の表面からスケールおよびヒュームを除去することが難しくなる。表面処理剤のpHは、4.5~7の範囲とすることが好ましく、4.5~6の範囲とすることがさらに好ましい。
【0055】
表面処理する際の時間は、例えば、30~300秒であり、さらに好ましくは、60~180秒である。表面処理する時間が30秒未満である場合には、金属材の表面からスケールおよびヒュームを除去することが難しくなる。一方、表面処理する時間が300秒を超える場合には、除去性の向上はほとんど無くなる。
【0056】
以上説明したように、本発明の表面処理剤は、金属材の表面からスケールおよびヒュームと同時に油分を除去するために用いられる表面処理剤であって、キレート剤と、ノニオン系界面活性剤と、陰イオン系界面活性剤と、を含み、陰イオン系界面活性剤は、リン酸エステル型界面活性剤、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、および硫酸エステル型界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも一種であるものである。このような表面処理剤を用いることにより、金属材の表面からスケールとヒュームと油分とを、同時に効率よく除去することができる。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で、その変形、改良が含まれる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例等に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。実施例および比較例で用いた化合物を、以下に示す。
【0059】
(1)キレート剤
ホスホン酸系キレート剤
・HEDP:1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸
・NTMP: ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)
・PBTC:2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸
カルボキシエチル基系キレート剤
・クエン酸
アミノカルボン酸型キレート剤
・EDTA:エチレンジアミン四酢酸
【0060】
(2)ノニオン系界面活性剤
・アデカノールUA90N(ADEKA社製):ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類
・Genapol EP2564(クラリアントジャパン社製):ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類
・Genagen C 100(クラリアントジャパン社製):ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類
【0061】
(3)陰イオン系界面活性剤
リン酸カリウム型界面活性剤
・Triton H66(ダウケミカル日本社製)
カルボン酸型界面活性剤
・サンスパールPDN-173(三洋化成工業社製)
スルホン酸型界面活性剤
・ネオゲンAS20(第一工業製薬社製)
【0062】
(4)還元剤
・アスコルビン酸(扶桑化学工業社製、ビタミンC(L-アスコルビン酸))
・チオ尿素
・ピロガロール
【0063】
(5)防錆剤
・KORANTIN PM(BASFジャパン社製)
・サンチオールN-1(三協化成株式会社製)
・イミダゾール(日本合成化学工業社製)
【0064】
(6)フッ素化合物
・酸性フッ化ナトリウム
・フッ化カリウム
・フッ化水素酸
【0065】
<実施例1>
[金属材の準備]
処理対象となる金属材料として、熱延鋼板および亜鉛メッキ鋼板の2種の鋼板を準備し、油が付着したままで、それぞれ溶接を行った。熱延鋼板については、ビード部付近に、スケールおよび油が付着した金属材(以下、S材と呼ぶ)とし、亜鉛メッキ鋼板については、ビード部付近に、ヒュームおよび油が付着した金属材(以下、G材と呼ぶ)となり、これらを試験片として用いた。
【0066】
[表面処理剤の調製]
キレート剤としてHEDP、ノニオン系界面活性剤としてアデカノールUA90N、陰イオン系界面活性剤としてTriton H66、防錆剤としてKORANTIN PM、フッ素化合物として酸性フッ化ナトリウムを、表1に示す含有量(単位:質量ppm)となるよう水に混合し、KOH水溶液(50%)を用いてpH5となるように調整した表面処理剤を得た。
【0067】
【0068】
[表面処理]
10Lの処理浴に表面処理剤を入れ、温度を50℃に調整し、150rpm程度の攪拌強度にて攪拌を実施した。処理浴中に、S材およびG材を、それぞれ2分間浸漬した後、取り出して十分に洗浄した。洗浄の後、40℃で10分程度の乾燥を行い、表面処理板を得た。
【0069】
[表面調整]
表面処理剤にて表面処理したS材およびG材のそれぞれに対して、pHを10に調製したサーフファインGL1(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)を用いて表面調整を実施し、表面調整材を得た。処理温度は室温、処理時間は120秒とした。
【0070】
[化成処理]
続いて、表面調整を実施したS材およびG材の表面調整材それぞれに対して、サーフダインSD6350(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)を用いて化成処理を実施し、防錆皮膜が形成された化成処理材を得た。処理温度は35℃、処理時間は120秒とした。
【0071】
[評価]
表面処理後の金属材、および化成処理後の金属材について、以下の評価を実施した。結果を、表1に示す。
【0072】
(除去性)
{S材}
化成処理後のS材について、以下の評価基準にて、目視による除去性の評価を実施した。S材については、スケールに油がまざったものについて、除去性を評価した。
5:スケールがほぼ完全に除去できた (除去率:80%を超え100%以下)
4:概ねスケールが除去できた (除去率:60%を超え80%以下)
3:半分程度のスケールが除去できた (除去率:40%を超え60%以下)
2:わずかにスケールが除去できた (除去率:10%を超え40%以下)
1:ほとんどスケールが除去できていない(除去率:10%以下)
【0073】
{G材}
化成処理後のG材について、以下の評価基準にて、目視による除去性の評価を実施した。G材については、ヒュームに油がまざったものについて、除去性を評価した。
5:ヒュームがほぼ完全に除去できた (除去率:80%を超え100%以下)
4:概ねヒュームが除去できた (除去率:60%を超え80%以下)
3:半分程度のヒュームが除去できた (除去率:40%を超え60%以下)
2:わずかにヒュームが除去できた (除去率:10%を超え40%以下)
1:ほとんどヒュームが除去できていない(除去率:10%以下)
【0074】
(濡れ性)
表面処理剤で表面処理したS材を、水洗後、30秒程度静置し、以下の評価基準にて濡れ性を評価した。なお、濡れ性が良好であることは、油分が除去されたことを意味する。脱脂が不十分の場合には、水をはじいて鋼板表面が濡れていない状態となる。
5:完全に水濡れする (水濡れ率:100%)
4:概ね水濡れする (水濡れ率:80%を超え100%未満)
3:ある程度水濡れする (水濡れ率:60%を超え80%以下)
2:あまり水濡れしない (水濡れ率:0%を超え60%以下)
1:全く水濡れしない (水濡れ率:0%)
【0075】
(防錆性)
表面処理剤で表面処理したS材を、洗浄の後、室温で濡れたまま静置し、5分後の錆の発生量について、以下の基準で評価した。
5:錆はまったく、または殆ど発生しなかった(錆発生率:20%以下)
4:わずかに錆が発生した (錆発生率:20%を超え40%以下)
3:一部に錆が発生した (錆発生率:40%を超え60%以下)
2:大面積で錆が発生した (錆発生率:60%を超え80%以下)
1:ほぼ全面に錆が発生した(錆発生率:80%を超え100%以下)
【0076】
<実施例2~10>
キレート剤の種類と配合量を、表1に記載した通りに変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理および化成処理を実施し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0077】
<実施例11~16>
2種類のキレート剤を用いて、その種類と配合量を表2に記載した通りとした以外は、実施例1と同様にして表面処理および化成処理を実施し、評価を実施した。結果を表2に示す。
【0078】
【0079】
<参考例17~18、22~24、実施例19~21、25~26>
ノニオン系界面活性剤と陰イオン系界面活性剤の種類と配合量を、表3に記載した通りとした以外は、実施例1と同様にして表面処理および化成処理を実施し、評価を実施した。結果を表3に示す。
【0080】
【0081】
<実施例27~36>
還元剤と防錆剤とを、表4に記載した通りの配合とした以外は、実施例1と同様にして表面処理および化成処理を実施し、評価を実施した。結果を表4に示す。
【0082】
【0083】
<参考例37、実施例38~42>
フッ素化合物の種類と配合量を、表5に記載した通りとした以外は、実施例1と同様にして表面処理および化成処理を実施し、評価を実施した。結果を表5に示す。
【0084】
【0085】
<実施例44~45、48~50、参考例43、46、47>
表面処理剤のpHと温度を、表6に記載した通りとした以外は、実施例1と同様にして表面処理および化成処理を実施し、評価を実施した。結果を表6に示す。
【0086】
【0087】
<比較例1>
表面処理剤として、キレート剤を含まない脱脂剤:サーフクリーナー EC92(日本ペイント・サーフケミカルズ社製、濃度:サーフクリーナーEC92M 1.6%、サーフクリーナーEC92LA-1 0.54%)を用いた以外は、実施例1と同様にして表面処理および化成処理を実施し、評価を実施した。結果を表7に示す。
【0088】
【0089】
<比較例2>
表面処理剤として、キレート剤を含まないデスケール剤:サーフデラスト 171(日本ペイント・サーフケミカルズ社製、濃度:20%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、表面処理および化成処理を実施し、評価を実施した。結果を表7に示す。
【0090】
<比較例3~5>
表面処理剤の成分を、表1に記載した通りとした以外は、実施例1と同様にして表面処理および化成処理を実施し、評価を実施した。結果を表7に示す。