(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】マルチビーム描画機におけるブラー変化の補正
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20221128BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20221128BHJP
H01J 37/09 20060101ALI20221128BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
H01L21/30 541W
H01J37/305 B
H01J37/09 A
H01J37/317 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021012338
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2021-06-01
(32)【優先日】2020-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509316578
【氏名又は名称】アイエムエス ナノファブリケーション ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュペングラー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ ナエタル
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス ライトナー
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-075543(JP,A)
【文献】特開2016-058714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
H01L 37/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子マルチビーム処理装置(1)においてターゲット(16)に所望のパターンを露光するために露光パターンを計算する方法であって、該処理装置では、粒子ビーム(lb、50)は複数のブランキングアパーチャ(24)から構成されるアパーチャアレイ(26)を含むパターン規定装置(4)へ指向されて照射し、該粒子ビーム(lb)は当該粒子ビームが公称ビーム方向に応じて該ターゲットに衝突することによって該ターゲット上の露光エリア内部の複数のピクセルを露光することにより該所望のパターンを描画するために該複数のブランキングアパーチャ(24)を貫通通過し、該ターゲットは該公称ビーム方向に対し実質的に直角をなす公称ターゲット面(150)に沿って配向されており、
前記所望のパターンを描画するための描画プロセスは、一連の露光期間(T1)の各々において、該ターゲット(16)への該複数のブランキングアパーチャ(24)の画像化、従って、対応する複数のアパーチャ画像(b1、bi0、bi1)の生成を含み、但し、該ターゲット(16)への該複数のブランキングアパーチャ(24)の画像化はブラーを伴い、
該方法は、該露光エリア内部の該ターゲットの該公称ターゲット面(150)に対する相対的な高さと、高さ依存関数に応じた該ターゲットの当該高さに対する該ブラーの依存関係とを考慮し、
該所望のパターンは、該ターゲット上の該露光エリア内の該複数のピクセルに対応する複数の画像要素から構成されるグラフィック表示(72、106)として提供され、
該パターン規定装置では、該複数のブランキングアパーチャ(24、33、43)は当該複数のブランキングアパーチャの相互位置を規定する所定の配置で配置されており、各ブランキングアパーチャは夫々の露光期間中に該ターゲット上に生成される対応するアパーチャ画像へと夫々のブランキングアパーチャを介して露光されるべきドーズ値に関し選択的に調節可能であり、
該方法は、
(i)該露光エリア内部の基準点における該ターゲットの高さ(h)を決定すること、該高さ(h)は該基準点の位置における公称ターゲット面(150)からの該ターゲット(141)の局所的シフトを表すこと、
(ii)該高さ依存関数に基づいて、局所的ブラー値を決定すること、該局所的ブラー値は前記ステップ(i)において決定された該ターゲットの高さ(h)に対応するブラーの実際値を表すこと、
(iii)該局所的ブラー値と所与のターゲットブラーレベルに基づいて、付加的な補正ブラー値を決定し、該補正ブラー値を用いて畳み込みカーネルを計算すること、該畳み込みカーネルは該グラフィック表示の画像要素からピクセル群へのマッピングを記述すること、該ピクセル群は該画像要素の公称位置を中心として配されており、該畳み込みカーネルは該補正ブラー値を与える点広がり関数を表すこと、及び、
(iv)該基準点を含む該露光エリアの少なくとも1つの領域における畳み込みカーネル(89’、121)による該グラフィック表示(72、106)の畳み込みによって、該複数のピクセルに規定されるピクセルラスタグラフィック(ps)として公称露光パターンを計算すること、該公称露光パターンは該ターゲットにおける公称ドーズ分布の生成に適すること;
を含み、
該ステップ(iv)において計算される畳み込みは該公称露光パターンへの該補正ブラーの導入に対応し、該補正ブラーは該露光パターンのブラーを該局所的ブラー値から該ターゲットブラー値へ増大すること
を特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
該方法は前記露光エリア内部における前記公称ターゲット面に対し相対的な前記ターゲットの高さの空間的変化を考慮すること、該方法は該露光エリアを複数の重なり合わないサブ領域(71)へ分割することを含むこと、
前記ステップ(i)~(iv)は前記サブ領域の各々について行われること、
前記ステップ(i)において、前記複数のサブ領域の各々について、サブ領域の夫々の基準点における該ターゲットの夫々の高さが計算され、前記ステップ(ii)~(iv)は夫々の局所的ブラー値を用いて実行され、前記ターゲットブラー値はすべてのサブ領域のうちの局所的ブラー値のセットにわたり最大値を下回らない値として選択されること
を特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
前記複数のサブ領域は複数の平行なストライプとして構成されていること、
各ストライプは全般的描画方向に実質的に平行に配向された長辺を有すること、
該全般的描画方向は、前記荷電粒子マルチビーム処理装置における露光プロセス中に実行されるピクセルの順次の露光が沿うラインの方向を表すこと
を特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
前記ストライプの長辺は、前記全般的描画方向に沿って測定される場合、前記ターゲットに衝突する該粒子ビームの幅を超えて延伸すること
を特徴とする方法。
【請求項5】
請求項2~4の何れかに記載の方法において、
前記パターン規定装置(4)の前記アパーチャアレイ(26)は前記ターゲットへ画像化されてビームアレイフィールドを形成すること、
前記複数のサブ領域の少なくとも幾つかは、該ターゲットへ画像化される前記アパーチャアレイ(2b)の画像の幅より小さい幅を有すること、該幅は全般的描画方向を横切る方向に測定されること
を特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、
前記サブ領域の幅は、前記全般的描画方向に対する横方向に沿った前記ターゲット上のアパーチャ画像(複数)の距離であること
を特徴とする方法。
【請求項7】
請求項2~6の何れかに記載の方法において、
ブラーの計算は前記公称ターゲット面(150)の2つの主軸について実行され、かくして、各主軸について、すべてのサブ領域の夫々の主軸に沿った局所的ブラー値のセットについての最大値を下回らない値としてターゲットブラー値を選択することによって、該2つの主軸の各々についてのターゲットブラー値を獲得すること
を特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、
前記露光パターンのブラーを前記局所的ブラー値から前記2つの主軸の各々についてのターゲットブラー値へ別々に増大する補正ブラー値(DM_AX、CB_AX)を導入することに対応する異方性カーネルが計算されること
を特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法において、
前記露光パターンのブラーを前記局所的ブラー値から前記2つの主軸についての2つのターゲットブラー値のうちのより大きい値へ増大する補正ブラー値(DM_XYEQ、CB_XYEQ)を導入することに対応する異方性カーネルが計算されること
を特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、
前記露光パターンのブラーの等方性ブラーへの補正を可能にする補正成分を含む異方性カーネル(DM_ISO、CB_ISO)が計算されるこ
と
を特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、
前記補正成分は前記カーネル内に非対角補正成分を含むこと
を特徴とする方法。
【請求項12】
請求項2~6の何れかに記載の方法において、
露光システムのトータルブラーに対する候補畳み込みカーネルのセットの効果は、
該候補畳み込みカーネルで試験構造体を露光すること、但し、該候補畳み込みカーネルは夫々所定の値範囲にわたる異なるカーネルブラー値と関連付けられていること;
該試験構造体についての測定値から該トータルブラーを推定すること;及び
前記ステップ(iii)において、該露光システムのトータルブラーが前記ターゲットブラーに一致するよう該所定の値範囲から1つのカーネルブラー値を選択すること、
によって決定されること
を特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1~
12の何れかに記載の方法において、
前記カーネルは離散化された形で表された二次元ガウス関数としてブラーを記述すること
を特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1~
13の何れかに記載の方法において、
前記カーネルは、以下の少なくとも1つである付加的補正ブラーに対応すること:
高さ依存ブラーとベースブラーを含む合計、但し、該ベースブラーは夫々の基準点の周りのパターン密度の関数として計算される、及び、
前記荷電粒子マルチビーム処理装置(1)の1つ以上の環境パラメータに基づいて決定されるブラー、但し、該環境パラメータは、大気圧、該荷電粒子マルチビーム処理装置(1)の特定コンポーネントの温度、前記ターゲットの位置における温度、前記粒子ビームの実際のビーム電流を含む、
を特徴とする方法。
【請求項15】
荷電粒子マルチビーム処理装置においてターゲット(16)に露光パターンを描画する方法であって、
該方法は、粒子ビーム(lb、50)を提供すること、該粒子ビームが貫通通過する複数のブランキングアパーチャ(24)から構成されるアパーチャアレイ(26)を含むパターン規定装置(4)へ該粒子ビームを指向し、かくして、該露光パターンに従って、対応する複数のビームレットからなるパターン化ビーム(pb)を形成すること、露光エリア内部の複数のピクセルを露光することによって前記所望のパターンを描画するために、該パターン規定装置(4)から出射する該パターン化ビーム(pb)を該ターゲット上の露光エリアへ指向すること、を含み、
該方法は、該露光パターンを、該ターゲットへのその露光の前に、請求項1~
14の何れかに記載の方法を用いて修正することを更に含むこと
を特徴とする方法。
【請求項16】
請求項
15に記載の方法において、
前記ターゲット(16)上の少なくとも1つの基準点の高さ(h)は、前記荷電粒子マルチビーム処理装置に設けられた表面測定装置(19)によって決定されること
を特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2020年2月3日に出願された欧州特許出願第20155217.1号についてのパリ条約上の優先権の利益を主張するものであり、当該出願の全内容は引照を以って本書に繰り込みここに記載されているものとする。
【0002】
本発明は、荷電粒子の構造化ビームによってターゲットを露光するための荷電粒子マルチビーム処理装置の分野に関し、とりわけ、荷電粒子リソグラフィ装置においてターゲットに所望のパターンを露光するために露光パターンを計算する方法に関する。そのような処理装置では、粒子ビームは複数のブランキングアパーチャから構成されるアパーチャアレイを含むパターン規定装置へ指向されて照射し、該粒子ビームは当該粒子ビームが公称ビーム方向に応じて該ターゲットに衝突することによって該ターゲット上の露光エリア内部の複数のピクセルを露光することにより該所望のパターンを描画するために該複数のブランキングアパーチャを貫通通過した後、投射光学システムによってターゲットへ画像化される;他方、該ターゲットは該公称ビーム方向に対し実質的に直角をなす公称ターゲット面に沿って配向されている。そのような所望のパターンを描画するための描画プロセスは、一連の露光期間の各々において、該ターゲットへ該複数のブランキングアパーチャを画像化し、従って、対応する複数のアパーチャ画像を生成することを含む;該ターゲットへの該複数のブランキングアパーチャのこの画像化は、以下において更に説明するように、ブラー(ボケ)を伴う。
【背景技術】
【0003】
本出願人は、上記のタイプの荷電粒子マルチビームツールを具現化し、対応する荷電粒子光学系、パターン規定(PD:pattern definition)装置及びマルチビーム描画法を、とりわけ、193nm液浸リソグラフィ用フォトマスクの、EUVリソグラフィ用マスクの及びインプリントリソグラフィ用テンプレート(1×マスク)の最新の複合体を具現化する50keV電子マルチビーム描画機を開発した。該システムは、6”(インチ)マスクブランク基板の露光のためのeMET(electron Mask Exposure Tool)又はMBMW(multi-beam mask writer)と称される。マルチビームシステムは、シリコンウエハ基板に適用される電子ビーム直接描画機(EBDW:electron beam direct writer)用のPML2(Projection Mask-Less Lithography)と称されてきた。マルチビームカラム及び描画法はマルチビーム検査への適用にも使用可能である。
【0004】
マルチビーム描画機の模式的構造を
図1に示す。そのようなリソグラフィ装置は、US6,768,125、EP2 187 427A1(=US8,222,621)及びEP2 363 875A1(=US8,378,320)に記載されているように、従来技術においてよく知られている。以下には、本発明の開示に必要とされる限りにおいてのみこれらの詳細を示す。明確性のため、各コンポーネントは
図1において寸法通りには示されていない。リソグラフィ装置1の主要コンポーネントは―この例では
図1の紙面上下方向の下方に延伸するリソグラフィビームlb、pbの方向に従って―照明システム3、パターン規定(PD:pattern definition)システム4、投射システム5及び基板16を備えるターゲットステーション6である。装置1全体は、装置の光軸cxに沿ってビームlb、pbの妨げのない伝搬を保証(確保)するために高真空に保持された真空ハウジング2内に収容されている。荷電粒子光学システム3、5は静電及び/又は磁気レンズを用いて具現化されている。
【0005】
照明システム3は、例えば、電子銃7、抽出システム8及びコンデンサレンズシステム9を含む。しかしながら、電子の代わりに、一般的に、他の荷電粒子も使用可能であることに注意すべきである。電子以外では、これらの荷電粒子は、例えば、水素イオン又はこれより重いイオン、荷電原子クラスタ、又は荷電分子であり得る。
【0006】
抽出システム8は粒子を典型的には数keV、例えば5keVの規定エネルギに加速する。コンデンサレンズシステム9によって、ソース7から放出された粒子は、リソグラフィビームlbの役割を果たす幅広で実質的にテレセントリックな粒子ビーム50に成形される。そして、リソグラフィビームlbは、複数の開孔ないしアパーチャ24を有する複数のプレートを含むPDシステム4(
図2)を照射する。PDシステム4はリソグラフィビームlbの経路の特定の位置に保持されており、かくして、リソグラフィビームlbは複数のアパーチャを照射し、複数のビームレットに分割される。
【0007】
図2を参照すると、PDシステム4のアパーチャ24の幾つかは、これらが自身を通り抜けて送られるビームの部分(ビームレット51)をターゲットへ到達させるという意味で入射ビームに対し透過性になるよう、「スイッチオン」されているないし「オープン」である;他のアパーチャは「スイッチオフ」されているないし「クローズド」である、即ち、対応するビームレット52はターゲットに到達することはできず、従って、実質的にこれらのアパーチャ及び/又は孔はビームに対し非透過性(不透明)である。かくして、リソグラフィビームlbは、パターン化ビームpbへと構造化されて、PDシステム4から出射する。スイッチオンされたアパーチャのパターン―リソグラフィビームlbに対し透過性であるPDシステム4の僅かな部分―がターゲット16に露光されるべきパターンに応じて選択される。なお、ビームレットの「スイッチオン/オフ」は、通常、PDシステム4のプレート(複数)の1つに設けられたある種の偏向手段によって実現される:「スイッチオフ」ビームレットは(極めて小さい角度だけ)その経路から外れるよう偏向されるため、ターゲットに到達することはできず、リソグラフィ装置の何れかの部位で、例えば吸収プレート11によって、吸収されるだけである。
【0008】
パターン化ビームpbによって代表されるパターンは、次いで、光電磁気式(electro-magneto-optical)投射システム5によって基板16へ投射され、該基板16に「スイッチオン」アパーチャ及び/又は孔の画像を形成する。投射システム5は2つのクロスオーバーc1及びc2を介して例えば200:1の縮小を実行する。ターゲットないし「基板」16は、例えば、6”粒子感受性レジスト層17で被覆されたマスクブランク又はシリコンウエハである。基板はチャック15によって保持され、ターゲットステーション6の基板ステージ14によって位置決めされる。
【0009】
露光されるべきパターンについての情報は電子パターン情報処理システム18によって具現化されるデータパスによってPDシステム4へ供給される(後述するデータパスの説明も参照)。
【0010】
図1に示す形態では、投射システム5は、静電及び/又は磁気レンズ及びその他の偏向手段からなる順に配置された複数の光電磁気式投射器ステージ10a、10b、10cから構成されている。これらのレンズ及び手段は、これらの適用は従来技術においてよく知られているので、象徴的な形態でのみ図示されている。投射システム5はクロスオーバーc1、c2を介した縮小イメージングを行う。両者のステージについての縮小率は、全体で数百分の1の縮小、例えば200:1の縮小を達成するよう選択される。このオーダーの縮小は、PD装置におけるコンパクト化の諸問題を軽減(改善)するために、リソグラフィセットアップについてとりわけ好適である。
【0011】
投射システム5全体は色収差及び幾何収差を大幅に補償するよう構成されている。画像を全体として横方向に即ち光軸cxに対し直角をなす方向に沿ってシフトする手段として、偏向手段12a、12b、12cがコンデンサ[照明システム]3及び投射システム5に設けられている。偏向手段は、例えば、ソース抽出システムの近くに(12a)、
図1に偏向手段12bで示されているように第1のクロスオーバーの近くに、及び/又はこの場合にステージ偏向手段12cで示されているように当該投射器の最終レンズ10cの下流側に位置付けられるマルチポール電極システムとして具現化可能である。この装置では、マルチポール電極配置(システム)は、ステージ運動に対する画像のシフト及び荷電粒子光学系アラインメントシステムと連係するイメージングシステムの補正の両方のための偏向手段として使用される。これらの偏向手段10a、10b、10cは、ストップ(吸収)プレート11と連係して、パターン化ビームpdの選択されたビームレットを「オン」又は「オフ」状態に切換えるために使用されるPDシステム4の偏向アレイ手段と混同されるべきではない。というのは、前者(偏向手段10a、10b、10c)は粒子ビームを全体としてのみ取り扱うからである。アキシャル磁界を提供(形成)するソレノイド13を使用してプログラマブルビーム(複数)の集合体を回転する可能性もある。
【0012】
図2の部分詳細図から見出すことができるように、PDシステム4は、好ましくは、順次的配置構成でスタックされる3つのプレート:「アパーチャアレイプレート(Aperture Array Plate)」(AAP)20、「偏向アレイプレート(Deflection Array Plate)」(DAP)30及び「フィールド境界アレイプレート(Field-boundary Array Plate)」(FAP)40を含む。ここで注意すべきことは、用語「プレート」は夫々の装置の全体的形状のことを指しているが、プレートがただ1つのプレートコンポーネント(これは通常は好ましい具体化態様である)で具現化されていることを必ずしも意味しておらず、寧ろ、特定の実施形態では、例えばアパーチャアレイプレートのような「プレート」は複数のサブプレートから構成されることも可能であることを意味していることである。プレートは、Z方向に沿って相互に所定の距離を置いて、互いに対し平行に配置されることが好ましい。
【0013】
AAP20のフラットな上面は、コンデンサ光学系/照明システム11に対する定義されたポテンシャルインターフェースを形成する。AAPは、例えば、肉薄化された中央部22を有するシリコンウエハ(凡そ1mm厚)21の方形ないし矩形片から構成可能である。プレートは、(US6,858,118によれば)水素又はヘリウムイオンを使用する場合にとりわけ有利であろう導電性保護膜23で被覆可能である。電子又は重イオン(例えばアルゴン又はキセノン)を使用する場合は、膜23は、21及び22の表面部分によって提供されるシリコンからなることも可能であり、この場合、膜23とバルク部21/22との間にはインターフェースはない。
【0014】
AAP20は肉薄部22を貫通する孔として具現化される複数のアパーチャ24を有する。図示の実施形態では、具現化されたアパーチャ24は、膜23に形成された垂直(直進)輪郭部分と、AAP20のバルク層に形成された「下方拡開ないし末広がり(retrograde)」輪郭部分を有し、そのため、該孔の下方開口部25の幅(ないし径)はアパーチャ24の主要部の幅(ないし径)より大きい。垂直輪郭部分及び下方拡開輪郭部分は何れも反応性イオンエッチングのような従来技術の構造化技術によって形成可能である。下方拡開輪郭部分は、孔を貫通通過するビームのミラー荷電効果(mirror charging effects)を強く低減する。
【0015】
DAP30は複数の孔33を有するプレートであり、孔33は、その位置がAAP20のアパーチャ24の位置に対応し、かつ、当該孔33を貫通通過する個別のサブビームを選択的に夫々の経路から外れるように偏向するよう構成された電極35、38を有する。DAP30は、例えば、CMOSウエハにASIC回路を後加工することによって製造可能である。DAP30は、例えば、方形ないし矩形形状を有する一片のCMOSウエハから作られ、かつ、肉薄化された(但し22の厚みと比べて厚みがより大きいことが好適であり得る)中央部32を保持するフレームを構成する肉厚部31を含む。中央部32のアパーチャ孔33の幅(ないし径)はアパーチャ24の幅(ないし径)よりも(例えば24の紙面両外側において夫々凡そ2μmだけ)大きい。CMOS電子回路34は、MEMS技術によって設けられる電極35、38の制御のために使用される。各孔33に隣接して、「アース(ground)」電極35と偏向電極38が設けられる。アース電極(複数)35は、電気的に相互に接続され、共通のアース電位に接続され、かつ、帯電を阻止するための下方延長(retrograde)部36とCMOS回路への不所望の短絡を阻止するための絶縁部37を含む。アース電極35は、シリコンバルク部分31及び32と同じ電位にあるCMOS回路34の部分に接続することも可能である。
【0016】
偏向電極38は選択的に静電位が印加されるよう構成されている。そのような静電位が電極38に印加されると、該電極38は対応するサブビームに偏向を引き起こす電界を生成し、該サブビームをその公称(目標:nominal)経路から外れるよう偏向することになる。電極38もまた、帯電を回避するために下方延長(retrograde)部39を有し得る。電極38は、夫々、(紙面では上側に位置する)その下部(根部)において、CMOS回路34内部の対応するコンタクト部位に接続されている。
【0017】
アース電極35の(プレートからの)高さ(長さ)は、ビーム間のクロストーク効果を抑制するために、偏向電極38の(プレートからの)高さ(長さ)よりも大きい。
【0018】
図2に示されているような(紙面)下方に配向された電極(複数)を有するDAP30を備えるPDシステム4の配置は複数の可能性の1つに過ぎない。例えば埋設型アース電極及び偏向電極を備えた更なるDAP構成は、当業者であれば容易に案出することができる(US8,198,601のような本出願人名義の他の特許参照)。
【0019】
FAPとして機能する第3のプレート40は下流側縮小型荷電粒子投射光学系の第1レンズ部分に対向するフラットな面を有し、従って、該投射光学系の第1レンズ16a[10a]に対する規定電位(ポテンシャル)を提供する。FAP40の肉厚部41はシリコンウエハの部分からなる方形ないし矩形フレームであり、肉薄中央部42を有する。FAP40はAAP20及びDAP30の孔(複数)24、33に対応するがこれらの孔と比べて直径がより大きい複数の孔43を有する。
【0020】
PDシステム4は、とりわけその第1プレートであるAAP20は、ブロード(幅広)荷電粒子ビーム50(ここで「ブロード」ビームは、ビームがAAPに形成されたアパーチャアレイの全領域をカバーするほど十分に幅が広いことを意味する)によって照射され、そのため、該ビーム50は、アパーチャ(複数)24を通過すると、何千本ものマイクロメートルサイズ(径)のビーム51に分割される。ビームレット51及び52は何の妨げもなくDAPとFAPを横断することになる。
【0021】
既述のように、偏向電極38がCMOS電子回路を介して通電されるたびに、偏向電極38と対応するアース電極との間に電界が生成され、通過する夫々のビーム52の小さいが十分な偏向をもたらすことになる(
図2)。孔33及び43は十分に幅広にされているため、偏向されたビームは夫々DAPとFAPを何の妨げもなく横断することができる。しかしながら、偏向されたビーム52はサブカラムのストッププレート11でフィルタ除去される(
図1)。従って、DAPによる影響を受けないビームのみが基板に到達することになる。
【0022】
縮小型荷電粒子光学系5の縮小率は、ビームの寸法(サイズ)、PD装置4におけるビーム間距離及びターゲットにおける構造(パターン)の所望の寸法(サイズ)の観点から適切に選択される。このため、PDシステムではマイクロメートルサイズのビームが考慮されるが、基板へはナノメートルサイズのビームが投射されることができる。
【0023】
AAPによって形成されるような(無影響の)ビームの束は、荷電粒子投射光学系の予め設定された(予設定)縮小率Rで基板へ投射される。従って、基板には、BX=AX/R及びBY=AY/Rの幅を有する「ビームアレイフィールド(beam array field)」(BAF)が投射される。ここで、AX及びAYは夫々X方向及びY方向に沿ったアパーチャアレイフィールドのサイズを表す。基板における個別ビームのビーム径はbX=aX/R及びbY=aY/Rで与えられる。ここで、aX及びaYはDAP30のレベル(高さ)において夫々X方向及びY方向に沿って測定されるようなビーム51のサイズを表す。
【0024】
ここで、
図2に示されている個別ビームレット51、52は、2次元XYアレイに配置された遥かに多数の、典型的には何千本もの、サブビームを代表していることに注意することは重要である。本出願人は、例えば、イオンについてR=200の縮小率を有するマルチビーム荷電粒子光学系や、何千本もの(例えば262,144本の)プログラマブルビームを利用する電子型マルチビームカラムを既に具現化している。本出願人は、基板において凡そ82μm×82μmのビームアレイフィールドを有するそのようなカラムを既に具現化している。これらの例は説明の目的のために言及されたものであり、限定的な例として理解するべきではない。
【0025】
MBMWの典型的な具体化例として、本出願人は、基板において81.92μm×81.92μmのビームアレイフィールド内部に20nmのビームサイズ(ビーム径)の512×512(262,144)本のプログラマブルビームレットを提供する50keVエレクトロンMBMWを既に具現化している。この具現化された描画システムのために、電子線感応性レジストで被覆された基板は、6”マスクブランク(面積:6”×6”=152.4mm×152.4mm;厚み:1”/4=6.35mm)である。更に、本出願人の具現化システムでは、レジスト被覆150mmSiウエハに対するマルチビーム描画が可能である。
【0026】
本出願人の具現化されたMBMWシステムの電流密度は、20nmビームサイズを使用する場合、1A/cm2以下である。従って、262,144本のすべてのプログラマブルビームレットが「オン」の場合、電流は1.05μA以下である。
【0027】
本出願人によって具現化されたようなMBMWカラムは、Elmar Platzgummer et al. “eMET POC: Realization of a proof-of-concept 50 keV electron multibeam Mask Exposure Tool”, Proc. of SPIE Vol.8166, 816622-1 (2011) において実験的に確認されかつ刊行されているように、凡そ5nmの1σ(sigma)ブラー(ボケ:blur)を有する。
【0028】
ビームサイズを20nmから例えば10nmへ変化する可能性もある。200:1の縮小(率)を有するカラムについては、4μm×4μmの開口サイズの代わりに2μm×2μmの開口サイズのアパーチャを有するアパーチャアレイプレート(AAP)を使用するのが簡明である。本出願人のUS8,546,767に概説されているように、ビームサイズのインサイチュ(in-situ)変化の可能性もある。
【0029】
第一世代のMBMW製造ツールは、20nm及び10nmビームを用いて、262,144本のすべてのプログラマブルビームが「オン」の場合に凡そ1μAまでの電流を提供することを目標としている。それ以降の各世代のMBMW製造ツールについては、例えば8nmの一層より小さいビームサイズを使用すること、同時に、基板において81.92μm×81.92μmビームアレイフィールド内部に例えば640×640=409,600本のビームレットを提供することが計画されている。
【0030】
本出願人が提案したマルチビーム描画法は、スポットとスポットの間のオーバーラップ、即ち選択された大きさのオーバーラップで、同じスポットサイズ、例えば20nm、を使用する方法も含む。「ダブルグリッド(Double Grid)」マルチビーム露光では、スポット間のオーバーラップはX方向及びY方向においてビームサイズの半分である。「クワッドグリッド(Quad Grid)」マルチビーム露光では、スポット間のオーバーラップはX方向及びY方向においてビームサイズの4分の1である。基板におけるスポットサイズはaX/Rである。ここで、aXはアパーチャアレイプレートにおけるアパーチャの開口の幅であり(
図2)、Rは荷電粒子投射光学系の縮小率である。各スポットは離散的な(飛び飛びの)ドーズレベルで露光される。例えば、ドーズレベルをプログラムするために4ビットを使用する場合、各スポットのドーズレベルは0,1,2,...14又は15を単位として選択可能である。
【0031】
描画されるべきパターンを、描画プロセスで使用可能な(上述したような)ビームレットドーズ割り当て(beamlet dose assignments)へ変換する描画ツールの処理システム18の部分(
図1)は「データパス(Data path)」と称される。
図12は本発明に関連するデータパス170のフローチャートの一例を示す。データパスはリアルタイムで実行されることが好ましい;1つのバリエーションでは、データパスの計算の一部又は全部は、例えば適切なコンピュータにおいて、予め実行されてもよい。
【0032】
完全なパターン画像は膨大な量の画像データを含むが、このことが、これらのデータの効率的な計算のために、露光されるべきピクセルデータを、好ましくはリアルタイムで、生成するハイスピードデータパスが適切であることの理由である。露光されるべきパターンは、典型的には、一般的により良好なデータ圧縮を提供する、従ってデータストレージに対する要求を低減する例えば矩形、台形又は一般的な多角形のようなジオメトリ(幾何学的形状:geometries)(複数)の集合体(collection)のようなベクトルフォーマットで記述される。これとの関連で、データパスは以下の3つの主要部分から構成される:
・ベクトル型物理補正プロセス(ステップ160);
・ベクトルをピクセルデータへ変換するラスター化プロセス(ステップ161~164);及び
・描画プロセスのための一時的保存(記憶)のためのピクセルデータのバッファリング(ステップ165及び166)
【0033】
データパスはステップ160において露光されるべきパターンPDATAが提供されたときスタート(開始)する。ステップ160では、一般的に、露光されるべきパターンPDATAは、場合によっては幾何学的にオーバーラップしている、多数の小データチャンクに分割される。ベクトル領域に適用可能な補正(例えば近接効果補正)が全てのチャンクに対し個別に、場合によっては並列的に、実行されてもよく、結果として生じるデータは記憶され、後続する各ステップの計算速度を改善する態様でコード化される。出力はチャンク(複数)の集合体であり、この場合、全てのチャンクはジオメトリ(複数)の集合体を含む。
【0034】
ステージ(ステップ)161:ラスター化RAST。全てのチャンクのジオメトリ(複数)がラスター化されたピクセル画像に変換される。このステップでは、各ピクセルには、ラスターグリッドセルの対応する表面と露光されるべきパターン即ち関連する全てのチャンクの実体(全体:entity)との幾何学的オーバーラップに依存する浮動小数点グレースケール強度が割り当てられる。この浮動小数点強度は、夫々のピクセルにおいてターゲットへ供給されるべき理想物理露光ドーズを表す。より詳しくは、1つのジオメトリの内部に完全に存在する(含まれる)全てのピクセルに最大強度が割り当てられる。これに対し、1つのジオメトリの(1つの)エッジ(辺)を跨ぐピクセルの強度はそのジオメトリによって覆われるピクセルの面積の割合(fraction)によって重みが付けられる。この方法は、ジオメトリの面積とラスター化後の全ドーズとの間の線形関係を示唆する。
【0035】
ステージ(ステップ)162:ピクセル・ビームレット割当てASSIGN。このステップでは、特定の描画シーケンスが与えられると、どのピクセルがどのビームレットによって描画されるかが決定される。
【0036】
ステージ(ステップ)163:ピクセルベース補正CORR1。このステップでは、ピクセルドメインに適用可能なすべての補正が実行される。これらの補正は、(既述したような及びUS2015/0347660A1におけるような)アパーチャフィールド上のビーム50の均一な電流密度からのずれの補償及び/又は(US2015/0248993A1におけるような)DAP30における個別不良ビーム偏向器のための補正を含む。ピクセルベース補正は、各個別ピクセルの浮動小数点強度を修正することによって具現化される。これは、ステージ(ステップ)162のピクセル・ビームレット割当てに関して行われており、各ピクセルについて、該ピクセルがどのビームレットによって描画されるかに及び/又は(該ピクセルに)隣接するピクセルがどのビームレットによって描画されるかに依存する補償ドーズ係数q(ないし換言すればドーズシフトs)を定義し、適用することを可能にする。
【0037】
ステージ(ステップ)164:量子化QUANT。量子化プロセスは、所定のグレー値スケールが与えられると、各ピクセルの、場合によっては補正された、浮動小数点強度を量子化された(ないし換言すれば「離散的な(飛び飛びの)」グレーレベルに変換する。
【0038】
ステージ(ステップ)165:グレーレベルピクセルデータドメインにおける更なるオプションのピクセルベース補正CORR2が適用されてもよい(本発明の一部ではない)。
【0039】
ステージ(ステップ)166:ピクセルパッケージングPPACK。ステージ(ステップ)164から得られるピクセル画像は配置グリッド(placement grid)シーケンスに応じてソートされ、描画ツールの処理システム18(
図1)に備えられたピクセルバッファPBUFへ送信される。ピクセルデータは、ストライプ(
図7参照)の露光をトリガするのに十分な量のデータ、典型的には少なくともストライプの長さ、が存在する(蓄積される)に至るまで(バッファに)格納される。データは描画プロセス中にバッファから取り出される。ストライプが描画された後、次の(隣の)ストライプのような次の(隣の)領域のパターンデータについて、上記のプロセスが新たにスタートする。
【0040】
図3(A)には、ゼロブラーの場合についての説明として、30nm幅のラインについての理想強度プロファイル61が示されている。「クワッドグリッド」マルチビーム露光を使用する場合、オーバーラップはビームサイズ(ビーム径)の4分の1である。従って、20nmビームサイズを使用する場合、物理グリッドサイズは5nmである。図示の例では5nm×5nmである各物理グリッドエリアには、離散的ドーズレベルが割り当て可能であり、
図3(B)には、30nmラインの生成のために適用される離散的ドーズレベル(複数)62が示されている。
図3(C)は、ゼロブラー強度プロファイル61(
図3(A))とドーズレベルヒストグラム62(
図3(B))の重ね合わせを示す。一般的なケースでは、ドーズレベルヒストグラムは、予規定(pre-defined)位置(複数)に左右のエッジ(辺)を位置付けるために、対称的ではないであろう。
図3(D)には、0.0nmに位置付けられるべき左側エッジ(左辺)と30.0nmに位置付けられるべき右側エッジ(右辺)とを有する30.0nm幅のラインについてのシミュレーションが示されている。このシミュレーションについては、5.1nmの1σブラー(12.0nmFWHMブラー)を有する20nmビームスポットの露光が想定された。強度プロファイル66は露光スポット63、64及び65のオーバーラップによって形成される。最左側の露光スポット64のドーズレベルは30nmラインが位置67即ち所望の0.0nm位置でスタート(開始)するよう、調節される。最右側の露光スポット65のドーズレベルは、露光されたラインが位置68において30.0nmの幅を有して終了するよう、調節される。
図3(D)に示されているように、20nm露光スポット63、64、65のオーバーラップはビームサイズの4分の1即ち5nmである(「クワッドグリッド」)。
【0041】
20nmビームサイズとクワッドグリッド露光(5nm物理グリッドサイズ)を用いるマルチビーム露光ツールを使用することにより、線幅は0.1nm刻みで変化されることができる。例として、
図4(A)は31.4nm線幅についての強度プロファイルを示し、
図4(B)は40.0nm線幅についての強度プロファイルを示す。ドーズレベル(複数)は整数なので、0.1nmアドレス(address)グリッドからの僅かなずれがある。これらのずれは、
図4(A)及び
図4(B)の紙面上側部分の「エッジ位置エラー」の表題で、30.0nmと40.0nmの間における0.1nm刻みでの所望の線幅の関数として示されている。図から明らかなように、これらのずれは±0.05nmの範囲内にある。更に、
図4(A)及び
図4(B)の紙面下側部分に示されているように、ドーズの10%の変化によるエッジ(辺)位置の変化は、線幅が異なれば少しだけ異なるが、凡そ1nmである。換言すれば、ドーズは本出願人のマルチビーム描画ツールにおいては1%より良好に制御されるため、ドーズの1%の変化によるエッジ位置の変化は凡そ0.1nmのみである。
【0042】
6”マスクブランク又はシリコンウエハのような基板にパターンを描画する場合、所望の特徴(構造)及びパターン忠実度を有するマスクないしウエハを実現するために、マルチビーム描画プロセス中に考慮に入れる必要がある非理想的状況がある。考慮に入れるべきあり得る問題は、例えば、加工に起因する基板の歪み、光学的偏向手段によって補正できないビームアレイフィールドの歪み、ビームフィールドアレイ内部のブラーないしドーズ不均一性、後続のエッチングプロセスにおける「ローディング効果」、又は電荷誘導作用(効果)である。これらの効果はシミュレート及び/又は測定可能である。
【0043】
図5A及び
図5Bは線幅に対するドーズ及びブラー変化の効果を示す。ブラーを無視した場合(「ゼロブラー」)について、30nm線幅を有するラインについての強度プロファイル90が示されている。
図5Aには、(ゼロブラー強度プロファイル90の高さ(height)で示される)露光ドーズは、レジスト現像(resist development)を有する領域とレジスト現像を有しない領域を(互いに対し)分離する(強度プロファイルの「0.5」レベル99で示される)「ドーズ・ツー・クリア(dose to clear)」の2倍に選択されている。ドーズのこの選択は「アイソフォーカルドーズ(isofocal dose)」と称される。なぜなら、これにより、特徴サイズが3σブラーのオーダーであるか又はこれより大きい限りにおいて、エッジ位置が露光ビームレットのフォーカス又はブラーに殆ど依存しないことが保証されるからである。
図5B(公称(基準)エッジ位置91における
図5Aのクローズアップ(拡大詳細図))に示されているように、ドーズがアイソフォーカルドーズから少々ずれると、ないしは特徴サイズが3σブラーより少々小さいと、露光されるエッジ位置は所望の公称位置91とは異なることになり、とりわけ、ブラー変化の下で変動することになる。図示の例では、5nm及び10nm1σブラーに対応する、アイソフォーカルドーズにおける強度プロファイル93、94の露光されるエッジ位置(ドーズ・ツー・クリア99とのそれらの交点)は公称位置91、92と一致するが、15nm及び20nm1σブラーに対応する、強度プロファイル95、96のエッジ位置97、98は公称位置から一層ずれる。パターンがアイソフォーカルドーズに対し相対的にオーバードーズ又はアンダードーズされると、露光されるエッジ位置は、一般的に、公称エッジ位置とは最早一致せず、該パターンを描画するビームレットのブラーに依存することになる。
図5Bには、ドーズ・ツー・クリアが(11%のドーズ増加に対応する)「0.45」レベル99’へ移動すると、露光されるパターンエッジ(辺)は紙面左側へ移動し、低ブラーのドーズプロファイル93、94についてさえも、(公称エッジ位置とは)最早一致しなくなる。
【0044】
ターゲットの面内部における歪み、とりわけ、ターゲット面の局所的要素の、X方向及び/又はY方向に沿ったシフト、回転又は剪断(変形)については、本出願人のUS9,568,907(EP2993684)において既に論じられている(対処されている)。US2014/0168629A1では、ターゲットの面に対し垂直な方向に沿った歪みも、即ちターゲット面に対する相対的な高さ(高度:elevation)も露光されるパターンの空間的歪みをもたらし得ることについて観察されている。これは、ターゲット上のパターンが受ける空間的シフトはターゲット面の隆起(凹凸)によって引き起こされ得るか又はそれに依存し得るという事実の結果である。例えば、ビームの入射角は、通常は(公称)ターゲット面に対し正確に直角をなすことが想定されている公称(目標)ビーム方向からずれ得る。このずれは、ターゲット高さ(elevation)が公称(基準)高さ(height)からずれている場合、ターゲット上に形成される特徴(構造)の空間的変位をもたらすことになる。
【0045】
産業上の適用のために、小さな限界寸法(ないし最小線幅:Critical Dimension)(CD)の達成、とりわけ小さなフィールド(複数)(例えばMBWビームアレイフィールドの面積)の内部におけるローカルCD均一性(一様性:Uniformity)(LCDU)のナノメートルレベルでの3σ又は6σ変化及び基板(例えば6”マスクブランク又は300mmシリコンウエハ)上のMBW描画フィールド全体にわたるグローバルCD均一性(GCDU)のナノメートルレベルの3σ又は6σ変化の達成に関し、非常に要求が厳しいMBW性能要件が課される。
【0046】
上述のように、典型的なMBWでは、「ドーズスロープ(dose-slope)」即ち露光ドーズを単位ドーズだけ増分(増加)したときのある特徴(構造)のエッジ(辺)位置又はCDの変化は、該特徴を描画するビームレットのブラーに依存する。従って、格別に重要なエラー源は、画像フィールド(ビームアレイフィールド)の内部のブラーの不均一性から生じる。なぜなら、これは、とりわけアイソフォーカルドーズに対する相対的なオーバードーズ又はアンダードーズが生じる場合又は3σブラーより小さい特徴が露光される場合、不所望のローカルCDシグネチャ(signatures)をもたらし得るからである。US9,520,268において、本出願人は、露光されるべきパターンに適用されかつブラー変化を補償する2つ以上の畳み込みカーネルによって、画像フィールドの内部のブラーの固有(inherent)変化に起因する限界寸法の変化を補償するための方法を提示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】
【文献】US6,768,125
【文献】EP2 187 427A1
【文献】US8,222,621
【文献】EP2 363 875A1
【文献】US8,378,320
【文献】US6,858,118
【文献】US8,198,601
【文献】US8,546,767
【文献】US2015/0347660A1
【文献】US2015/0248993A1
【文献】US9,568,907
【文献】EP2 993 684
【文献】US2014/0168629A1
【非特許文献】
【0048】
【文献】Elmar Platzgummer et al., “eMET POC: Realization of a proof-of-concept 50 keV electron multibeam Mask Exposure Tool”, Proc. of SPIE Vol. 8166, 816622-1 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0049】
本発明者は、公称面に対し相対的なターゲット高さの変化がUS2014/0168629A1に記載されているような露光パターンの空間的歪みをもたらし得るだけではなく、画像フィールドの内部におけるブラー及びその分布の変化をももたらし得ることに気付いた。これらの変化が対処されなければ、その結果、マスク全体にわたる不所望のCD変化がもたらされ得るうえ、場合によっては、GCDU要件に違背し得る。典型的には数マイクロメートルのオーダーの相対的高さは、(例えば不均一なマスクトポロジに起因する)位置の関数として、(例えば露光装置の形状に影響を及ぼし従ってその焦点面及び像面を変化し得る、一プロセス中におけるターゲットの加熱、又は変動する外気圧、に起因する)時間の関数として変化し得るが、(例えば像面に影響を及ぼすクロスオーバーc1及びc2における電子の相互作用に起因する)荷電粒子光学システム5内の全電流の関数としても変化し得る。
【0050】
それゆえ、本発明の目的(課題)は、ターゲット隆起(凹凸)及びブラーの関連する変化の効果(影響)に対処するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0051】
本発明の第1の視点により、荷電粒子マルチビーム処理装置においてターゲットに所望のパターンを露光するために露光パターンを計算する方法であって、該処理装置では、粒子ビームは複数のブランキングアパーチャから構成されるアパーチャアレイを含むパターン規定装置へ指向されて(これを)照射し、該粒子ビームは当該粒子ビームが公称ビーム方向に応じて該ターゲットに衝突することによって該ターゲット上の露光エリア内部の複数のピクセルを露光することにより該所望のパターンを描画するために該複数のブランキングアパーチャを貫通通過し、該ターゲットは該公称ビーム方向に対し実質的に直角をなす公称ターゲット面に沿って配向されており、前記所望のパターンを描画するための描画プロセスは、一連の露光期間の各々において、該ターゲットへの該複数のブランキングアパーチャの画像化、従って、対応する複数のアパーチャ画像の生成を含み、但し、該ターゲットへの該複数のブランキングアパーチャの画像化はブラーを伴う、方法が提供される。
この方法は、該露光エリア内部の該ターゲットの該公称ターゲット面に対する相対的な高さ(高度:elevation)と、高さ依存関数(elevation dependence function)に応じた該ターゲットの当該高さに対する該ブラーの依存関係とを考慮し、
該所望のパターンは、該ターゲット上の該露光エリア内の該複数のピクセルに対応する複数の画像要素から構成されるグラフィック表示として提供され、
該パターン規定装置では、該複数のブランキングアパーチャは当該複数のブランキングアパーチャの相互位置を規定する所定の配置で配置されており、各ブランキングアパーチャは夫々の露光期間中に該ターゲット上に生成される対応するアパーチャ画像へと夫々のブランキングアパーチャを介して露光されるべきドーズ値に関し選択的に調節可能である。
該方法は、
(i)該露光エリア内部の基準点における該ターゲットの高さを決定すること、該高さは該基準点の位置における公称ターゲット面からの該ターゲットの局所的シフトを表すこと、
(ii)該高さ依存関数に基づいて、局所的ブラー値を決定すること、該局所的ブラー値は前記ステップ(ステップ(i))において決定された該ターゲットの高さに対応するブラーの実際値を表すこと、
(iii)該局所的ブラー値と所与のターゲットブラーレベルに基づいて、付加的な補正ブラー値を決定し、該補正ブラー値を用いて畳み込みカーネル(convolution kernel)を計算すること、該カーネルは該グラフィック表示の(1つの)画像要素から(1つの)ピクセル群へのマッピングを記述すること、該ピクセル群は該画像要素の公称位置を中心として配されており、該カーネルは該補正ブラー値を与える(具現する)点広がり関数(point spreading function)を表すこと、及び、
(iv)該基準点を含む該露光エリアの少なくとも1つの領域における畳み込みカーネルによる該グラフィック表示の畳み込み(convolution)によって、該複数のピクセルに規定されるピクセルラスタグラフィック(pixel raster graphics)として公称露光パターンを計算すること、該公称露光パターンは該ターゲットにおける公称ドーズ分布の生成に適すること;
を含み、
該ステップ(iv)において計算される畳み込み(convolution)は該公称露光パターンへの該補正ブラーの導入に対応し、該補正ブラーは該露光パターンのブラーを該局所的ブラー値から該ターゲットブラー値へ増大すること
を特徴とする(形態1)。
本発明の第2の視点により、荷電粒子マルチビーム処理装置においてターゲットに露光パターンを描画する方法が提供される。この方法は、粒子ビームを提供すること、該粒子ビームが貫通通過する複数のブランキングアパーチャから構成されるアパーチャアレイを含むパターン規定装置へ該粒子ビームを指向し、かくして、該露光パターンに従って、対応する複数のビームレットからなるパターン化ビームを形成すること、露光エリア内部の複数のピクセルを露光することによって前記所望のパターンを描画するために、該パターン規定装置から出射する該パターン化ビームを該ターゲット上の露光エリアへ指向すること、を含む。この方法は、該露光パターンを、該ターゲットへのその露光の前に、上記第1の視点及びこれに関連する形態の何れかの方法を用いて修正(ないし補正)することを更に含むことを特徴とする(形態14)。
【発明を実施するための形態】
【0052】
(形態1)上記本発明の第1の視点参照。
(形態2)形態1の方法において、該方法は前記露光エリア内部における前記公称ターゲット面に対し相対的な前記ターゲットの前記高さの空間的変化を考慮すること、該方法は該露光エリアを複数の重なり合わないサブ領域へ分割することを含むこと、前記ステップ(i)~(iv)は前記サブ領域の各々について行われること、前記ステップ(i)において、前記複数のサブ領域の各々について、サブ領域の夫々の基準点における該ターゲットの夫々の高さが計算され、前記ステップ(ii)~(iv)は夫々の局所的ブラー値を用いて実行され、前記ターゲットブラー値はすべてのサブ領域のうちの局所的ブラー値のセットにわたり最大値を下回らない値として選択されることが好ましい。
(形態3)形態2の方法において、前記複数のサブ領域は複数の平行なストライプとして構成されていること、各ストライプは全般的描画方向に実質的に平行に配向された長辺を有すること、該全般的描画方向は、前記荷電粒子マルチビーム処理装置における露光プロセス中に実行されるピクセルの順次の露光(複数)が沿うライン(複数)の方向を表すことが好ましい。
(形態4)形態3の方法において、前記ストライプの長辺は、前記全般的描画方向に沿って測定される場合、前記ターゲットに衝突する該粒子ビームの幅を超えて延伸することが好ましい。
(形態5)形態2~4の何れかの方法において、前記パターン規定装置の前記アパーチャアレイは前記ターゲットへ画像化されてビームアレイフィールドを形成すること、及び、前記複数のサブ領域の少なくとも幾つかは、該ターゲットへ画像化される前記アパーチャアレイの画像の幅より小さい幅を有すること、該幅は全般的描画方向を横切る方向に(横切って)測定されることが好ましい。
(形態6)形態5の方法において、前記サブ領域の幅は、前記全般的描画方向に対する横方向に沿った前記ターゲット上のアパーチャ画像(複数)の距離であることが好ましい。
(形態7)形態2~6の何れかの方法において、ブラーの計算は前記公称ターゲット面の2つの主軸について実行され、かくして、各主軸について、すべてのサブ領域の夫々の主軸に沿った局所的ブラー値のセットについての最大値を下回らない値としてターゲットブラー値を選択することによって、該2つの主軸の各々についてのターゲットブラー値を獲得することが好ましい。
(形態8)形態7の方法において、前記露光パターンのブラーを前記局所的ブラー値から前記2つの主軸の各々についてのターゲットブラー値へ別々に増大する補正ブラー値を導入することに対応する異方性(anisotropic)カーネルが計算されることが好ましい。
(形態9)形態7の方法において、前記露光パターンのブラーを前記局所的ブラー値から前記2つの主軸についての2つのターゲットブラー値のうちのより大きい値へ増大する補正ブラー値を導入することに対応する異方性カーネルが計算されることが好ましい。
(形態10)形態9の方法において、前記露光パターンのブラーの等方性(isotropic)ブラーへの補正を可能にする補正成分(コンポーネント)を含む異方性カーネルが計算されることが好ましい。
(形態11)形態10の方法において、前記補正成分(コンポーネント)は前記カーネル内に非対角(off-diagonal)補正成分(コンポーネント)を含むことが好ましい。
(形態12)形態2~6の何れかの方法において、露光システムのトータルブラーに対する候補畳み込みカーネル(複数)のセットの効果(作用ないし影響)は、該候補畳み込みカーネル(複数)で試験構造体を露光すること、但し、該候補畳み込みカーネル(複数)は夫々所定の値範囲にわたる異なるカーネルブラー値(複数)と関連付けられていること;該試験構造体についての測定値から該トータルブラーを推定する(決定する)こと;及び前記ステップ(iii)において、該露光システムのトータルブラーが前記ターゲットブラーに一致するよう該所定の値範囲から1つのカーネルブラー値を選択すること、によって決定されることが好ましい。
(形態13)形態1~12の何れかの方法において、前記カーネルは離散化された形で表された二次元ガウス関数として(二次元ガウス関数の離散化された具現化(discretized realization)として)ブラーを記述することが好ましい。
(形態14)形態1~13の何れかの方法において、前記カーネルは、以下の少なくとも1つである付加的補正ブラーに対応すること:
高さ依存ブラーとベースブラーを含む合計、但し、該ベースブラーは夫々の基準点の周りのパターン密度の関数として計算される、及び、
前記荷電粒子マルチビーム処理装置の1つ以上の環境パラメータに基づいて決定されるブラー、但し、該環境パラメータは、大気圧、該荷電粒子マルチビーム処理装置の特定コンポーネントの温度、前記ターゲットの位置(location)における温度、前記粒子ビームの実際のビーム電流を含む、
が好ましい。
(形態15)上記本発明の第2の視点参照。
(形態16)形態15の方法において、前記ターゲット上の少なくとも1つの基準点の高さは、前記荷電粒子マルチビーム処理装置に設けられた表面測定装置(surface metrology device)によって決定されることが好ましい。
【0053】
本発明は、荷電粒子マルチビーム処理装置においてターゲットに所望のパターンを露光するために露光パターンを計算する方法を提案する。該方法は、該露光エリア内部の該ターゲットの該公称ターゲット面に対する相対的な高さ(elevation)と、高さ依存関数(elevation dependence function)に応じた該ターゲットの当該高さに対する該ブラーの依存関係とを考慮する;該所望のパターンは、該ターゲット上の該露光エリア内の該複数のピクセルに対応する複数の画像要素から構成されるグラフィック表示として提供され、該パターン規定装置では、該複数のブランキングアパーチャは当該複数のブランキングアパーチャの相互位置を規定する所定の配置で配置されている。各ブランキングアパーチャは夫々の露光期間中に該ターゲット上に生成される対応するアパーチャ画像へと夫々のブランキングアパーチャを介して露光されるべきドーズ値に関し選択的に調節可能である。
本発明のこの側面に応じた露光パターンの計算方法は以下のステップ:
(i)該露光エリア内部の(1つの)基準点(又は複数の基準点)における該ターゲットの高さを決定すること、該高さは該基準点の位置における公称ターゲット面からの該ターゲットの局所的シフトを表す、
(ii)該高さ依存関数に基づいて、局所的ブラー値を決定すること、該局所的ブラー値は前記ステップ(ステップ(i))において決定された該ターゲットの高さに対応するブラーの実際値を表す、
(iii)該局所的ブラー値と所与のターゲットブラーレベルに基づいて、付加的な補正ブラー値を決定し、該局所的[補正]ブラー値を用いて畳み込みカーネル(convolution kernel)を計算すること、該カーネルは該グラフィック表示の(1つの)画像要素から(1つの)ピクセル群へのマッピングを記述し、該ピクセル群は該画像要素の公称位置を中心として配されており、該カーネルは該局所的[補正]ブラー値を具現する(与える)点広がり関数(point spreading function)を表す、及び、
(iv)全露光領域における又は該基準点を含む該露光エリアの少なくとも1つの領域(「補正領域(correction region)」)における畳み込みカーネルによる該グラフィック表示の畳み込み(convolution)によって、該複数のピクセルに規定されるピクセルラスタグラフィックとして公称露光パターンを計算すること、このようにして得られる該公称露光パターンは該ターゲットにおける公称ドーズ分布を生成するために役立つ;
を含み、
上記ステップ(ステップ(iv))において計算される畳み込み(convolution)は該公称露光パターンへの該補正ブラー値に対応するブラーの導入に対応し、該付加的補正ブラーは該露光パターンのブラーを該局所的ブラー値から該所与のターゲットブラー値へ増大する。
【0054】
この解決策は上述したようなターゲットにわたる高さ(高度:elevation)の変化の効果(影響)の補償に役立つ。本発明の主要思想はイメージングシステムのブラーを均一な値へと高めることである。これは描画法の解像度をある程度減少するかもしれないが、ブラーの均一性(uniform behavior)は、とりわけマスク製造における極めて重要な測定基準(metric)である限界寸法均一性(CDU)に関し、描画されるパターンのエッジ位置の良好な特徴付け(特性評価:characterization)に寄与する。
【0055】
応用の大抵の場合において、本方法は、露光エリア内部における公称ターゲット面に対し相対的なターゲットの高さの空間的変化を考慮し、該露光エリアを複数の(互いに)重なり合わない(非オーバーラップ)サブ領域へ分割するが、ステップ(i)~(iv)は複数のサブ領域(これはセグメントとも称される)の各々について行われ、ステップ(i)においては各サブ領域についてサブ領域の夫々の基準点におけるターゲットの夫々の高さが計算され、ステップ(ii)~(iv)は夫々の局所的ブラー値を用いて実行され、ターゲットブラー値はすべてのサブ領域のうちの局所的ブラー値のセットについて最大値を下回らない値、例えば最大値それ自体、として選択される。例えば、サブ領域(複数)は平行なストライプ(複数)として具現化可能であるが、各ストライプは全般的描画方向に実質的に平行に配向された長辺を有する。この全般的描画方向は、荷電粒子マルチビーム処理装置における(1つの)露光プロセス中に実行されるピクセルの順次の露光(複数)が沿うライン(複数)の方向を表す。好適には、ストライプの長辺は、全般的描画方向に沿って測定される場合、ターゲットに衝突する粒子ビームの幅を超えて延伸し得る。
【0056】
本発明の好適な一具体的形態においては、パターン規定装置のアパーチャアレイはターゲットへ画像化(imaging)されてビームアレイフィールドを形成し、複数のサブ領域の少なくとも幾つかはターゲットへ画像化されるアパーチャアレイの画像の幅より小さい幅を有し得るが、これらの幅は全般的描画方向を横切って(横切る方向に)測定される。例えば、1つのサブ領域の幅は全般的描画方向に対する横方向に沿ったターゲット上の(複数の)アパーチャ画像(間)の距離(長さ)であり得る。
【0057】
多くの実施形態では、ブラーの計算は公称ターゲット面の2つの主軸について実行され、かくして、該2つの主軸の各々についてターゲットブラー値(複数)が得られる。これは、各主軸について、すべてのサブ領域の夫々の主軸に沿った局所的ブラー値のセットについての最大値を下回らない値としてターゲットブラー値を選択することによって行われ得る。更に、露光パターンのブラーを局所的ブラー値から2つの主軸の各々についてのターゲットブラー値へ別々に増大する補正ブラー[値]を導入することに対応する異方性(anisotropic)カーネルを計算することは好適であり得る。代替として又は組み合わせて、異方性カーネルは、該異方性カーネルが露光パターンのブラーを局所的ブラー値から2つの主軸についての2つのターゲットブラー値のうちのより大きい値へ増大する補正ブラー値を導入することに対応するよう、計算され得る。更に、露光パターンのブラーの等方性(isotropic)ブラーへの補正を可能にする補正成分(コンポーネント)(複数)を含む異方性カーネルを計算することは有用であり得る;これらの補正成分(コンポーネント)は、しばしば、カーネル内に非対角(off-diagonal)補正成分(コンポーネント)を含むであろう。
【0058】
カーネルの有利な一具体的形態は、カーネルがブラーを離散化された形で表された二次元ガウス関数(二次元ガウス関数の離散化された具現化(discretized realization))として記述する場合であり得る。
【0059】
カーネルの基礎となるブラーの計算の好適な一具体的形態では、カーネルは、高さ依存ブラーとベースブラーを含む合計である付加的[補正]ブラーに対応し得る又は当該ブラーを含み得る。ここで、ベースブラーは夫々の基準点の周りのパターン密度の関数として計算される。
【0060】
更に、カーネルは、荷電粒子マルチビーム処理装置の1つ以上の環境パラメータに基づいて決定される付加的[補正]ブラーに対応し得る又は当該ブラーを含み得る。ここで、該環境パラメータは、大気圧、該荷電粒子マルチビーム処理装置の特定コンポーネントの温度、ターゲットの位置における温度、粒子ビームの実際のビーム電流を含む。
【0061】
露光システムのトータルブラーに対する候補畳み込みカーネル(複数)のセットの効果(作用ないし影響)を決定するために、例えば、以下を実行することが可能である:該候補畳み込みカーネル(複数)を用いて試験構造体を露光すること、但し、該候補畳み込みカーネル(複数)は夫々所定の値範囲にわたる個別の[異なる]カーネルブラー値(複数)と関連付けられている;該試験構造体についての測定値(複数)から該トータルブラーを推定する(決定する)こと;及びステップ(iii)において、露光システムのトータルブラーがターゲットブラーに一致するよう該所定の値範囲から1つのカーネルブラー値を、このカーネルブラー値の補正カーネル値が使用される場合、選択すること。
【0062】
本発明の他の一側面に応じ、本発明は、荷電粒子マルチビーム処理装置においてターゲットに露光パターンを描画する方法を提案する。粒子ビームは、提供され、当該粒子ビームが貫通通過する複数のブランキングアパーチャから構成されるアパーチャアレイを含むパターン規定装置へ指向され、かくして、該露光パターンに従って、対応する複数のビームレットからなるパターン化ビームを形成する;露光エリア内部の複数のピクセルを露光することによって所望のパターンを描画するために、パターン規定装置から出射するパターン化ビームはターゲット上の該露光エリアへ指向される;更に、露光パターンは、ターゲットへのその露光の前に、本発明の第1の側面の方法を用いて(再)計算[修正ないし補正]される。この意義において、ターゲット上の少なくとも1つの基準点の高さを決定するために、荷電粒子マルチビーム処理装置に表面測定装置(surface metrology device)を備えることは好適であり得る。
【0063】
以下において、本発明は添付の図面を参照しつつ以下に説明する幾つかの実施形態によってより詳細に説明される。ここで強調しておくと、本書に示す実施形態は説明のためのものであり、本発明の範囲を限定するものとして理解されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】従来技術の荷電粒子マルチビームシステムの一例の縦断面図。
【
図2】従来技術のパターン規定装置の一例の一部の縦断面図。
【
図3】マルチビームマスク描画ツールの強度プロファイルの例。(A)は30nm幅のラインについてのゼロブラー強度プロファイルの一例を示す。(B)はオーバーラップする(重なり合う)露光スポット(複数)のドーズレベル(複数)の一例を示す。(C)は(A)と(B)を重ね合わせたものを示す。(D)は30nm幅のラインについてシミュレートされた強度プロファイル66の一例を示す。
【
図4】31.4nmの線幅を有するラインについてのシミュレーション(A)と40.0nmの線幅を有するラインについてのシミュレーション(B)について夫々得られたマルチビーム描画強度プロファイル及び関連データの一例。
【
図5A】本出願人のマルチビーム描画ツールによって露光された30nmラインの強度プロファイルの一例。
【
図5B】強度プロファイルが50%強度レベルを横切る紙面左側部分における
図5Aの細部拡大図。
【
図6】6”フォトマスク基板のレイアウトの一典型例。
【
図7B】
図7Aのセグメント(複数)への均一化(homogenizing)ブラーの割当ての一例。
【
図7C】ターゲット上のデータ要素(複数)に対する均一化ブラーの効果(作用)の一例。
【
図8】点広がり関数及び関連ブラーのZ座標に対する依存関係の一例。
【
図9】ブラーマトリックス(複数)に対しパラメータ(複数)を組み込む幾つかのアプローチの例。(上から)一番目の行(横列)は所与のブラーの開始点の一例を示す。2番目~4番目の行はブラーパラメータを得るための夫々のアプローチの例を示す。
【
図10】高さ歪みを有するターゲットについての高さの測定の一例。
【
図11】(A)に示される高さのマップの、(B)に示される複数のセグメントについての高さ値(複数)の離散的マップへの変換の一例。(C)は結果として得られた離散的マップの一例を示し、高さ値は各セグメントエリアのシェード(濃淡度合い)で表されている。
【
図13】
図9のアプローチに対応するブラーパラメータの計算のフローチャートの一例。
【
図14】6nmの一定の初期ブラーσ
0から開始する、付加ブラーσ
1の加算の効果の一例。この付加ブラーσ
1は連続的なガウスブラー(実線)であり得るか又は種々のサイズ(9×9、7×7、5×5)のマトリックス型カーネルを用いる畳み込みによって導入され得る。座標軸は結果として得られるブラーσ
Tの値を示す。
【実施例】
【0065】
ここに与えられる詳細な議論は本発明及びその例示的実施形態並びに更なる有利な発展形態を説明することが意図されている。本発明の特定の適用に好適であると認められるようなここで議論される実施形態(複数)及び視点ないし側面(複数)の幾つか又は全てを任意に組み合わせることは当業者には明らかなはずである。この開示全体において、「有利な」、「例示的な」又は「好ましい」のような用語は、本発明又はその一実施形態に特に好適である(但し不可欠ではない)要素又は寸法を表し、当業者によって好適であると認められる場合であれば、明示的に別段の言及がない限り、修正可能である。本発明は説明の目的のために与えられかつ単に本発明の好適な具体化例を提示するに過ぎない以下に議論する例示的実施形態に限定されないことは当然である。
【0066】
本発明を具現化するために好適な荷電粒子マルチビームツールを
図1~
図5Bを参照して説明する。とりわけ、
図1のリソグラフィ装置1では、以下に説明する計算及び補正方法は、リソグラフィ装置の処理システム18及び/又はデータを処理し、描画プロセスを制御する他の制御システムにおいて好適に実行され得る。荷電粒子マルチビームツールについての更なる詳細は、US9,520,268、US6,768,125、EP2187427A1及びEP2363875A1及びそれらにおいて引用された文献に見出すことができるが、これらはすべて引照を以って本開示の部分として含まれているものとする。
【0067】
高さ変化及びブラーに対する効果(影響)
【0068】
図6は、局所的に変化する高さ(即ち高さ歪み)が生じ得るターゲットの一例、即ち、露光エリア81が導電性マスキング層及び電子ビーム感受性レジストで被覆された6”×6”×1”/4の石英ガラスプレート80からなる6”フォトマスクブランク80を示す。(本発明の露光エリアの一例を代表する)マスクパターンフィールド83の内部には、異なる密度の露光スポット(複数)のエリア(複数)、例えば高密度パターンエリア84及び低密度パターンエリア85が存在し得る。更に、通常は、アライメントを目的とするパターンを有するサブフィールド(複数)82が存在する。複数のエリア84、85、82が夫々異なる値のパターン密度を有するという事実だけで既に、ターゲット高さの空間的変化の1つの原因としての加熱の影響の変化をしばしばもたらす。勿論、本発明はこのタイプのターゲットに限定されず、広範囲の種類のターゲット及び基板に適用可能である。
【0069】
本発明の多くの好ましい実施形態に応じ、露光エリアは複数の離散的サブ領域、以下においては「セグメント」とも称される、へと分割(区画)される。
図7Aは、複数のセグメント71へとセグメント化された1つの露光エリア(図示されているのは基板パターンフィールドのエリアの一部である)の一例を示す。セグメンテーション(セグメント化)は、規則的グリッドに従う(一致する)こと及び/又は数学的に直線のグリッド72に沿って並べられた(位置合わせされた)グリッドに相当することが可能であるが、その必要はない。好ましくは、サブ領域は矩形又は方形のセグメント71として具現化され得る。なお、本発明の枠内において、当該エリアを任意の他のタイプの有限の要素でカバーすることも可能であることに注意すべきである。ここで、セグメントのサイズ(又は面積)(これは一般的にはセグメントの個数に反比例する)は利用可能な計算能力(データパスの速度)及び要求される精度に関係している。この制限を別とすれば、実際のセグメンテーションは任意に選択可能である;しかしながら、有利には、セグメンテーションは所与の又は期待される高さ歪み及びそれによって引き起こされるブラー変化に関して適切な方法で選択され得る。本発明の1つの典型的具現化例では、計算能力は、マルチビーム描画機のビームアレイフィールドよりも小さい最小セグメントサイズを考慮する(可能にする)ことが望ましい。
【0070】
基板の高さ(height)プロファイルの一例は
図10に示されている。
図10はターゲット面に対し直角をなす1つの仮想的部分に従うターゲットプロファイルを模式的に示す。ターゲット表面141の実際の形状は、公称ターゲット面150上の基準点142(これは通常測定の位置と一致する)における公称ターゲット面150からの何らかのずれ(変位)hを表す。高さプロファイルは、露光エリア内の夫々の要素(サブ領域等)の光軸に沿った位置(これはそのZ座標値zとしても参照される)によって規定され得る;高さは期待z値(これは公称ターゲット面150に一致するであろう)からの実際z値の差である。高さのスケールは、
図10では、ターゲットの横方向の寸法(X/Y)のスケールと比べて大きく誇張されて示されている。
【0071】
複数のセグメント71の各々には、マルチビーム描画ツール及びとりわけターゲットに影響を及ぼす公称ターゲット面からのターゲット変位の関数として高さ変化及びブラーのモデルベース及び/又は測定ベース分析から得られる、高さ歪みによって引き起こされるブラー不均一性の個別の補正が割り当てられる。ブラーの変化の効果(影響)を補正するために、本発明は、既に存在するブラーに加えて、該ブラーを「ターゲットブラー」へと高めるために、「均一化(homogenizing)ブラー」を適用することを提案する。これは、例えば、(1つの)付加ブラーを夫々のセグメント(複数)に、例えば、可変スケールのガウスフィルタによるラスター化データの畳み込みを実行するためのカーネルを用いることによって、導入することによって行われる。(1つの)ガウスフィルタを用いるカーネル(複数)の類似の具現化例は、不所望の異方性(anisotropy)を補正するために、US9,520,268B2において本出願人によって提案されている。
図7Bは、
図7Aのセグメンテーションに対する均一化ブラーの割当ての一例を示す。楕円(複数)73は、夫々のセグメントの露光データに適用され、
図7Cにデータ要素74で表されているようなターゲット上に予めブラー化された(pre-blurred)データを生成するガウスブラーの1σレベルセット(複数)を表す。ここで、データ要素(複数)74は夫々セグメント当たりただ1つの矩形のブラーを象徴的に表す(シャープなエッジを有する矩形は付加ブラーに相当しないであろう)。複数のセグメント71の各々におけるサブ領域高さはハッチングシェード(ハッチングによる濃淡度合い)によって表されている。より淡いシェードは明るい高くされたサブ領域を表し、より濃いシェードは公称ターゲット面に対し相対的に低くされたサブ領域を表す。高さはターゲット面(全体)にわたり僅かしか変化しないので、単純化して、高さは、セグメントのエリアの中心のような基準点における高さの値を採用することによって又は幾つかの測定点について高さを平均化することによって、各セグメント内部において一定であると見なし得ると想定されている。基準点の位置は各セグメントの好適な位置で選択される。また、1つのセグメント内に複数の測定点を有することも好適であり得、基準点は複数の測定点から選択されるが、この場合、高さは対応する高さ値(複数)のうちの代表的値(例えば中央値)を取るか;又は高さ値の平均が基準点についての高さと見なされる。なお、
図7Cの各セグメントにおいて矩形に適用されたブラーは明瞭化を目的として誇張されて示されているが、一般的には、異なるセグメント間で異なるであろう。
【0072】
高さ歪みによるブラー不均一性の主因は(1つの水平空間次元について)
図8に示されている。単一のビームレットのブラーは、該ビームレットのフォーカス(合焦点)に対し相対的なZ方向(即ち光軸cwの方向)における露光位置に依存する。従って、基板と像面の相対位置におけるシフトはビームフィールドアレイの内部のブラー分布(及び画像フィールドの内部の平均ブラー)の変化をもたらすことになる。
図8では、微小の(点形状の)アパーチャ孔101を貫通通過するビーム100の電流密度102は、光軸に沿った位置の関数として表されている(即ち、X座標の関数としての点広がり関数;幾つかの点広がり関数がZ座標の異なる値について示されている)。理想化されたアパーチャ101においては、電流密度は単一(一様:singular)であるが、入射角の逸れ(deviation)のため、他の任意のZ位置における電流[密度]は特定の方向へ広がり、例えば破線100で特徴付けられた1σレベルを有するガウス分布に従う。ビームは、投射システム5によって縮小され、電流密度の広がり103(即ちビームブラー)が、ゼロに近いが(例えば光学収差のため)ゼロではない最小値を有する位置z
focusにおいて合焦される。平坦でない(即ち傾斜のある及び/又は非平面的な)マスク表面104が存在する場合、レジストはz
focusに対し相対的なオフセットΔzを有する異なるZ位置(複数)z
exposureにおいて電子ビームに晒され、不均一な点広がり関数が生じることになる。更に、z
focusは一般的に(例えば画像フィールド湾曲に起因する)パターン規定システム4内部の(垂直方向の)位置に依存して変化するため、ビームアレイフィールド内部のブラーは完璧にフラットな基板上でさえも不均一である。なお、アパーチャ孔のサイズは有限であるため、任意の位置zにおける電流密度は点広がり関数による理想的アパーチャ増の畳み込みによって得られる。
【0073】
更に、本発明はガウス形点広がり関数に限定されず、他のタイプの分布の使用も容易に考えられる。或る閾値を超えるZ軸に対する角度をなして進行する電子は、プレート21、31又は41(
図2)の1つと衝突するため、一般的にはPDシステム4を通過しない可能性を考慮するために、例えば、切頭(truncated)正規分布が使用され得る。
【0074】
ブラー変化の他の原因
【0075】
高さ歪みは、非平坦マスクトポロジによって生じるだけではなく、照明又は投射光学系自体における擾乱によっても引き起こされ得る。(例えばジュール熱による)温度の変化又は大気圧の変化は、例えば、露光装置1の形状に微妙な影響を及ぼし、それによって、例えばその焦点距離を変化させ、かくして、高さ歪みを引き起こす。ブラー変化の他の重要な原因は、例えば、(パターン規定装置においてスイッチオン又はスイッチオフされるビームレットの割合(fraction)を決定する)局所的パターン密度の変化によって引き起こされる、照明光学系を貫通通過する全電流の変化である。クロスオーバー11における電子間相互作用のために、そのような電流変化は、(ランダムな相互作用に起因する)画像フィールドにわたる(合焦点における)最小ブラーを増大すると共に、該クロスオーバーにおける伝播角度の変化により像面をシフトし、以って、高さ歪みが生じる。
【0076】
数学モデル
【0077】
1つの好ましい数学モデルでは、ブラー変化は、高さ歪みによるブラー変化(「高さブラー」)と合焦されたビームの最小ブラーの変化(「ベース(base)ブラー」)の組み合わせとして記述されるが、これらは両方とも空間的及び時間的に変化し得る。実際の挙動を好適に単純化した一例では、1つの点状アパーチャを貫通通過する1つのビームレットの(光軸に対し直角な面に沿った)電流分布は、光軸に沿った任意の位置について二次元の正規分布に従うと考えられる。即ち、時間tにおいて高さzで1つの所与のサブ領域を露光する1つのビームレット(又は一束のビームレット(複数))の点広がり関数pは式
を有すると考えられる。ここで、
は位置ベクトル
と、共分散行列
の逆行列によって与えられる行列Σ
-1と、平均ベクトル
からなるガウス確率密度分布である。共分散行列Σ(z,t)は、主対角線におけるX方向及びY方向についての分散
及び
(これらは夫々xx分散及びyy分散という)と、非対角成分としての共分散
(ここでρはX方向及びY方向における補正係数)を含み、ガウス分布の形状及びスケールを記述するが、高さブラー成分Σ
eとベースブラー成分Σ
bから構成されると考えられる。即ち、
であり、パラメータは以下のとおりである:高さ成分Σ
eのxx分散及びyy分散はZ位置z
x及びz
yにおいてゼロになり(ブラースポットは1つの線になり)、共分散はZ位置z
xyにおいてゼロになる;係数α、β、γは二次元1σ円錐(cone)角度分布100を記述する。ベースブラー成分Σ
bは、例えばビーム又はカラムにおける光学収差又は電子間相互作用によって生成される付加的エラー(複数)を記述するが、これらは正規分布に従うと考えられる。
【0078】
一般的に、モデル係数α、β、γ、z
x、z
y、z
xy、b
xx、b
yy、b
xyは、例えばコンピュータシミュレーションによって決定可能な、時間と空間(即ちサブ領域位置)の任意の関数であり得る。尤も、格別に重要であるのは、露光装置の焦点距離を変化するビーム電流、温度又は大気圧変化による合焦点(複数)z
x、z
y、z
xyの共通のシフト(複数)及びクロスオーバーc1及びc2(
図1)を通過する(ビーム)電流に比例してその強度が増大するビーム内部におけるランダムな電子間相互作用によるベースブラー係数b
xx、b
yy、b
xyの変化である。好適な一モデルでは、係数は、関連する露光及び環境観測可能量(observables)(例えば圧力、温度、電流、パターン密度)と線形(一次)、多項式又は三次スプライン関係を有するようモデル化される。環境観測可能量は露光装置に配置される適切なセンサ-例えばモニタされるべき関連コンポーネントに配される温度センサ又はハウジング2の適切な位置に設けられる圧力センサ18a-によって容易に測定可能であり、リソグラフィ装置1の処理システム18において容易に処理可能である。
【0079】
他の重要な特定の(specific)関数関係は、しばしば、露光エリアの(1つの)サブ領域が「サブセグメンツ(sub-segments)」と称されるビームアレイフィールド(BAF)の対応する特定の部分によって描画されるという観測により現れる。(1つの)サブ領域における合焦点zx、zy、zxy及びベースブラー係数bxx、byy、bxyは当該サブ領域を描画するビームレット(複数)の平均的な光学特性(即ち合焦点(focus)、収差)に(とりわけBAF内部におけるそれらの位置に)依存するが、これは典型的には、例えばUS9,053,906に記載されているようにX方向に沿ったスキャニング方向を有するスキャニングストラテジを利用する場合にY方向におけるBAF幅の整数分の1の幅を有するストライプの形で、露光エリアにわたって周期的に繰り返される。このケースについて説明すると、対象となる(1つの)サブ領域についての係数(複数)(又はそれらの(1つの)成分)は例えば以下を含む方法によって決定され得る:第1ステップにおいて、(i)BAF(サブセグメンツ)の異なる部分(複数)について所望のタイプの係数(複数)(又はそれらの成分(複数))を決定すること、及び(ii)対象となるサブ領域を露光するサブセグメンツを決定すること、及び、第2ステップにおいて、対象となるサブ領域についての係数(複数)を得るために、第1ステップの(ii)で決定されたサブセグメンツについて(わたって)、第1ステップの(i)で得られたBAF関連係数(複数)を平均すること。
【0080】
本発明の好ましい実施形態では、サブ領域高さ、画像フィールド位置及びその他の観測可能量(例えば、係数α、β、γ、zx、zy、zxy、bxx、byy、bxyの基準(base)値及び該観測可能量に対するそれらの関数的依存性(依存関係))に対するブラー依存性(依存関係)は一連の試験露光によって実験的に決定され得るが、この場合、(1つの)試験パターンは種々の高さ、ビームフィールド位置、露光及び環境条件で露光されるが、これは、例えば、夫々の露光中に合焦点の異なる値(複数)を採用すること、大気圧の変化を導入すること、露光装置の部分を人為的に加熱すること又はビーム電流及び/又は試験パターンのパターン密度を変化することによってシミュレートされることも可能である。
【0081】
本発明の適切な一具体化例では、(近接効果のような電子・レジスト間相互作用を含む)ビーム・レジストモデルが、露光された試験パターン形状及び寸法の測定(値)からビームパラメータ(とりわけブラー)を推定する(決定する:estimate)ために使用される。第2ステップにおいて、これらのブラー値は、高さ依存ブラーについての係数(複数)又は係数関数(複数)を推定するために使用される。
【0082】
更に、所与の方向におけるブラーとこの方向において測定される試験パターンのCDの間に線形関係(例えばシミュレーションから得られる該線形(一次)関数の傾き及び切片(ないしそのずれ:offset)を有する)があると考えることによって、ビームブラーを決定するための単純化されたアプローチを採用することは好適であり得る。複数の方向において測定を行うことによって、ビーム形状(即ちガウス形点広がり関数についての共分散行列Σ)は、例えば最小二乗フィッティングによってリカバーされることができる。
【0083】
一般的に、サブ領域(複数)は任意の形状を有し得るが、典型的には、これらは、ビームフィールドにおけるブラー変化を考慮することができるよう、少なくとも1つの空間方向に沿ったターゲット上のビームフィールドのサイズよりも短い寸法を有するであろう。例えば、セグメント(複数)はX方向に沿ってビームフィールド全体よりも幅広であり得るが、Y方向に沿った幅は僅か数(several)ビームフィールド行(rows)(即ち100nmのオーダー)である。この具体化例は、(例えばUS8,222,621において本出願人により説明されているように)X方向に沿って動的に(dynamically)描画を行う場合、格別に有用であり得るが、この場合、上記の係数の変化はY方向(1つのセグメントを描画する決定可能なビームフィールド行(複数)に相当する一方で、ビームフィールド列(複数)(columns)は追跡(決定)不能な方法で混合され得る)においてのみ得ることが可能である。この場合、露光エリアセグメント(複数)の好適に選択される一例は、ビームフィールドセグメント(複数)と同じ厚みとX方向に1つ又は幾つかのビームフィールドの幅(即ち100μmのオーダー)を有するストライプ(複数)から構成されるであろうが、露光エリアの高さ変化を捕捉するために十分である。
【0084】
ブラー不均一性の補正
【0085】
本発明の目標は、ターゲット高さ、露光及び環境パラメータにおける変化を考慮して、露光エリアの全体又は部分(該部分は以下において補正領域Cと称する)にわたってブラーを均一化することである。X-Y位置の関数としてのZ座標値(複数)のマップである露光エリア141の高さ(height)プロファイル147を得るために、
図10に示されているような、Micro-Epsilon Messtechnik社(オルテンブルク、ドイツ)による共焦点式(confocal)センサのような、距離センサ140を使用し得る。ウエハ又はその他の表面の表面形状(surface metrology)を得るための方法及びツールは当業界において周知である。例えばUS6,829,054又はUS2013/0128247A1参照。本発明の好ましい実施形態では、距離センサ140は、サブ領域高さ(elevations)のインサイチュ測定を実行するために、
図1に示されているような、露光装置の部分である表面計測装置19に含まれている。
【0086】
図11(A)は露光装置170内部のターゲット表面141の高さプロファイル147の模式的一例を示す。高さプロファイルの処理を容易にするために、露光領域は概念的に(仮想的に)複数のセグメント171へ分割され(
図11(B))、そして、個別の高さ値は、
図11(C)に示されているように、全てのセグメント171に夫々のz値148a、148bが割り当てられるよう、夫々のセグメント171に割り当てられ得る;
図11(C)には、Z座標zの異なる値は異なるシェード(濃淡度合い)のハッチングとして示されている。そのようなセグメント171の内部におけるzの実際値の変化は一般的に小さく、そのため、z値は(1つの)セグメント全体において一定であると見なすことができることが正当化される。
【0087】
本発明の多くの好ましい実施形態では、露光は本出願人によりUS9,053,906に記載されているようなストライプスキャニング法によって、即ち、一連の(場合によってはオーバーラップする((部分的に)重なり合う))空間的に順次的な(連続的に並べて配される)複数のストライプを用いて実行される。この場合、サブ領域高さは露光中に測定可能であり、測定値は隣り合う露光ストライプのサブ領域高さの予測のために利用可能である。関連する環境又は露光パラメータは一般的には複数のストライプの露光にわたって安定的であるか(例えば温度や圧力)又は容易に推定する(決定する)ことが可能である(例えば可変のパターン密度に起因するビーム電流変動)ため、これらのパラメータは(1つの)ストライプの描画の前に予測することができ、そのため、ブラー均一化モデルに組み込むことも可能である。
【0088】
好適な一具体化例では、補正法は複数のステップで実行される。これについては
図13にフローチャートとして示されている。ブラーを均一化するために、第1ステップ131は、補正領域の露光の前に当該補正領域におけるブラー値の可能な範囲を予測することである(PRED_RANGEで表されている)。次のステップ132は、決定された範囲における最大のブラースポットを決定することである;このステップについて、本発明者は3つの好ましい方法DM_AX、DM_XYEQ及びDM_ISOを案出し、更に以下に説明するように、これらの方法のうちの1つを選択することが可能であり、或いはこれらの方法の幾つか又は全てを同時に実行することも可能である。DM_AXの場合、最大ブラースポットは、最大ブラーの2つの値、即ちX軸及びY軸(即ち公称ターゲット面150の2つの主軸方向)について夫々1つの値を含む;DM_XYEQとDM_ISOの場合は、最大ブラースポットはただ1つの値(2つの主軸に関して等方的(isotropic))を含み、そのため単に最大ブラー('the' maximal blur)と称される。ステップ131及び132は、好ましくは補正領域Cの露光の開始前に(これについては
図13の紙面上側の破線の矩形によって象徴的に示されている)、実行される。第3ステップ133では、補正領域のすべてのサブ領域について、推定された(決定された)物理ブラーを人為的に増大して補正領域の最大ブラーに一致させる補正ブラー(CB:correction blur)が、好ましくはより早期に適用される最大ブラー決定法に依存して、決定されて、夫々の補正ブラー値CB_AX、CB_XYEQ及びCB_ISOが生成される。CORRで示されている最終ステップ134は補正ブラーの適用であり、本出願人によりUS9,520,268B2に記載されているような、適切なスケールの離散化(discretized)ガウスフィルタによるサブ領域のラスター化データの畳み込みを介して優先的に実行される。好ましくは、(
図13の紙面下側の破線の矩形で象徴的に示されているように)ステップ133及び134は、オンラインで、即ち補正領域Cの露光中に(但し補正されるべきサブ領域を含むストライプの露光前に)、実行され得る。
【0089】
ステップ131及び133では、ブラーの可能な範囲及び/又は実際に具現化された物理ブラーが補正領域において推定される(決定される)。優先的には(好ましくは)、この推定(決定)は、既述のような高さブラー及びベースブラー依存モデルを用いて実行されるが、これは、サブ領域高さ、該サブ領域を描画するビームレットのビームフィールド位置、ビーム電流、温度及び圧力のような種々の観察可能ないし予測可能な露光装置特性(値)を考慮し得る。
【0090】
1つの好適な補正領域は、例えば、ただ1つの露光ストライプの形状又は複数の露光ストライプを取り囲む形状(これはY方向におけるビームフィールドのサイズに等しい幅を有しかつX方向に沿う露光エリアの長さにわたって延伸する)を有する。このオプションは、補正領域における最大ブラーに影響を及ぼし得る(複数の)関連観測可能量の変化(とりわけ高さ変化)を、補正領域が包含するストライプ(複数)の前に露光された近隣のストライプ(複数)についての測定値(複数)から容易に推定する(決定する)ことができるという利点を有する。補正領域の他の好適な一オプションは露光エリア全体であり、これは適切なブラー及びCD均一性を考慮する(可能にする)が、(場合によっては最大ブラーを過大評価する)従前の露光(複数)からのブラーに影響を与えるパラメータの変化の正確性がより小さい推定(値)及び/又は露光の前の追加的測定(値)を必要とし得る。
【0091】
本発明の好ましい一具現化例では、物理ブラー及び/又は補正ブラーの形状及び寸法は、xx分散及びyy分散を含む対称的共分散行列と、対象のサブ領域を露光するビームレット(複数)の束に対応するガウス形点広がり関数を表す正規分布の(添え字xyで表される)xy共分散によって記述される。
【0092】
このパラメータ化を使用すると、ステップ131の結果は共分散行列(複数)
のセット(集合)となる。ここで、sは補正領域Cにおける対象となる特定サブ領域を表し、Eは可能な環境条件(複数)e(環境条件eは簡潔のため記号Σ
sの中では表示されていない)のセットを表す。共分散行列のセットは、通常、有限であり(例えば補正領域における各サブ領域s毎に(1つの)推定された物理ブラー共分散行列)、該セット中の行列の各要素(instance)はサブ領域s及び環境条件eの特定値に対応する。代替的に、該セットは「無限」(例えば、補正領域における高さ変化と環境変化は予め知られていないが時間間隔(intervals)を置いて推定される必要がある場合における共分散行列(複数)のファミリー)であり得る;「無限」セットの場合には、行列(複数)は、周囲気圧の圧力範囲p[860mbar, 1080mbar]又は特定のコンポーネントの温度についての温度範囲T
1[15℃, 110℃]のような、特定の時間間隔以内で変化し得る1つ以上のパラメータに対する行列要素(成分)の依存性によって記述される。パラメータに対するそのような依存性は、例えば区間演算を用いることによって、又は支持点間の補間を用いる適切な数値表現によって、シンボリックに反映され得る。ブラー値の範囲を決定するために、ブラー値は夫々のパラメータの範囲にわたって評価され、極値(複数)が決定され、そして、これらの極値はブラー範囲の境界値として使用される。
【0093】
ステップ132及び133では、補正領域にわたる最大ブラーが決定され、対象のサブ領域におけるブラーは(1つの)補正ブラーの分だけ増加され、サブ領域ブラーと補正ブラーの組み合わせから目標の最大ブラーが得られる。数学的には、ガウス形の補正ブラーと物理ブラーの組み合わせは、夫々の共分散行列の和によって記述される。即ち、
であり、上式において、Σ
sは(1つの)サブ領域sにおける物理ブラー(点広がり関数)の共分散行列であり、
は該サブ領域に割り当てられた補正ブラーの共分散行列であり、T
sは結果として得られる共分散行列であり、これはトータル(全)ブラースポットを記述する。既述のように、このようにして得られるトータルブラースポットは補正領域における特定の最大ブラーに一致することが望ましい。
【0094】
ステップ132において最大ブラーを特定し、補正ブラーを決定するために、本発明者は、
図9に示した一例によって説明される幾つかのアプローチを案出した。
図9の(上から)一番目の行(横列)は4つのサブ領域のセット111を示し、該サブ領域の各々において、1σレベルのガウス形点広がり関数がそれらの紙面下側に記載された基礎をなすパラメータと共に楕円グラフによって示されている。簡単化のために、この例はステップ132で使用されるブラースポット(複数)がステップ133のものと一致するよう、選択されている、即ち、サブ領域高さ、露光条件及び環境条件は補正領域の露光の前に既知である;実用上この条件が満たされない場合、期待される位置(1又は複数)及び/又は値(1又は複数)の推定が行われ得る。とりわけ、推定ブラー範囲
は
図9の例における有限セット111であるが、この考察は、夫々のパラメータに対する関数的依存性(依存関係)が計算の夫々の項(terms)に入る(該当する)場合、無限セットにも当て嵌まる。
【0095】
第1のアプローチ(
図13のDM_AX、CB_AX、
図9の(上から)2番目の行参照)では、X方向及びY方向における最大ブラーはX方向及びY方向について別々に決定されかつ補正される:
ここで、最大(値)は、推定ブラー範囲について、即ち、補正領域Cにおけるすべてのサブ領域及び可能な露光及び環境条件Eの範囲(これは、当該高さが既知でない場合、サブ領域高さの範囲を含む)を考慮して、取られる。各サブ領域sについての対応する補正ブラー
は、露光において推定された物理ブラースポット(複数)111(共分散行列Σ
sを有する)が(4つのサブ領域からなる)補正領域110においてX方向及びY方向について別々に均一化されるよう、選択される。結果として得られる補正された点広がり関数は、X方向とY方向において等しい周辺分布を有するが、
図9において補正されたブラースポット(複数)の1σレベルセット(複数)112(及び補正の例示的パラメータ及びトータル/補正ブラー)で示されるように、軸方向分布は異なるスケールを有し得、或るxy共分散(相関関係)は維持される。このアプローチ(DM_AX、CB_AX)は、不均一性補正の主要な目的(focus)が水平及び垂直のライン(複数)の限界寸法(ないし最小線幅)均一性(critical dimension uniformity)に関するものであり、水平ラインと垂直ラインの間のCDの差異及び対角線又は二次元構造の均一性については特別な関連性がない場合、有用であり得る。
【0096】
他の1つのアプローチ(
図13のDM_XYEQ、CB_XYEQ、
図9の(上から)3番目の行参照)では、X方向及びY方向についてのブラースポット(複数)113のスケールは同様に等しくされているが、共分散は修正されておらず、従って、補正されていない(即ち、補正ブラースポットの共分散行列T
sは非ゼロの非対角線値T
xyを有し得る)。これは、均一な(一様な)水平及び垂直ライン(対角線ラインではない)をもたらすこととなり、オプション:
に対応する。
【0097】
第3のアプローチは
図9の(上から)4番目の行に示されている。完全に等方性かつ均一な点広がり関数(及び回転に依存しない、任意の構造の均一性(一様性))を得るために、補正ブラーの共分散は物理ブラーの共分散を補償する必要があり、最大ブラーMは面のすべての方向について決定される。
図13のDM_ISO、CB_ISOによって示されているこのアプローチは、
で与えられ、結果として、等方性かつ等しいブラースポット(複数)114を生じる。
【0098】
ブラー均一化法のステップ134(
図13参照)において理想的に実行される推定補正ブラーのアプローチは、適切なスケールの離散化ガウスフィルタによるサブ領域内のラスター化データの畳み込みを介して、該サブ領域のブラーを人為的に増大することによって実行可能である。とりわけ、補正は、
図12に示されているデータパスのステージ163に好適に適用され得る。US9,520,268B2に記載されているように、畳み込みフィルタは、ピクセル中心(複数)における連続的ガウスブラーを評価することによって(又は、代替的に、該ブラーを該ピクセル(複数)について積分することによって)得られ得る。
【0099】
本発明の他の側面に関連し、連続的ガウスブラーと、補正ブラー決定ステップ133に適用され得る離散化ガウスフィルタによる畳み込みフィルタリングの異なる影響(効果)を考慮することは有益であり得る。これは、例えばパフォーマンス上の理由から、限定された範囲を有する離散的カーネルが使用される場合、格別に重要である。
図14は、シミュレーションデータによる、(等方性ブラーについての)トータルブラーσ
Tに対するこの効果(影響)を示し、異なるタイプの付加ブラーσ
1を初期ブラーσ
0=6nmを有する露光システム(実線)へ導入することの効果を示している。ここで、付加ブラーσ
1は可変のサイズ(横軸の値)を有し得、線400、499、477、455によって夫々示されているような4つの例示的タイプの1つである:即ち、実線400は連続的ガウスブラーとの組み合わせを表し、破線499は9×9切頭ガウスカーネルによるピクセルデータの畳み込みを表し、一点鎖線477は7×7切頭ガウスカーネルによるピクセルデータの畳み込みを表し、点線455は5×5切頭ガウスカーネルによるピクセルデータの畳み込みを表す。これが組み合わされることにより、夫々の線400、499、477、455によって示されているような付加ブラーσ
1の関数としてのトータルブラーσ
T(縦軸の値)が得られる。一例として、8.5nmのターゲットブラーσ
Tを達成するために、追加の6nmガウスブラーが適用される必要があるが(二乗和平方根:root square sum)、類似の露光プロファイル及びCDのためには、σ=8nmを有する9×9切頭ガウスカーネルが使用される必要がある。(例えば、ツールブラーの期待範囲について
図14に示されているような複数の曲線を取得する)離散的ガウスカーネル(複数)の効果を決定するための1つの簡単な方法は、露光の前に期待範囲において共分散行列(複数)から生成される複数の畳み込みカーネルによって、異なる合焦レベル(複数)において試験構造体(複数)(例えば異なるように配向された複数のライン)を露光することである。露光中、畳み込みカーネル(複数)は、ターゲットブラーの効果に最もよく合致する効果を有する補正ブラー値(複数)を用いて生成される。ターゲットブラーが、既述のように、異方性又は等方性であり得ることは明らかである。
【0100】
上記の実施形態の全部又は一部は以下の付記として記載可能であるが、それらに限定されない。
[付記1]荷電粒子マルチビーム処理装置においてターゲットに所望のパターンを露光するために露光パターンを計算する方法であって、該処理装置では、粒子ビームは複数のブランキングアパーチャから構成されるアパーチャアレイを含むパターン規定装置へ指向されて(これを)照射し、該粒子ビームは当該粒子ビームが公称ビーム方向に応じて該ターゲットに衝突することによって該ターゲット上の露光エリア内部の複数のピクセルを露光することにより該所望のパターンを描画するために該複数のブランキングアパーチャを貫通通過し、該ターゲットは該公称ビーム方向に対し実質的に直角をなす公称ターゲット面に沿って配向されている。
前記所望のパターンを描画するための描画プロセスは、一連の露光期間の各々において、該ターゲットへの該複数のブランキングアパーチャの画像化、従って、対応する複数のアパーチャ画像の生成を含み、但し、該ターゲットへの該複数のブランキングアパーチャの画像化はブラーを伴う。
この方法は、該露光エリア内部の該ターゲットの該公称ターゲット面に対する相対的な高さ(高度:elevation)と、高さ依存関数(elevation dependence function)に応じた該ターゲットの当該高さに対する該ブラーの依存関係とを考慮する。
該所望のパターンは、該ターゲット上の該露光エリア内の該複数のピクセルに対応する複数の画像要素から構成されるグラフィック表示として提供される。
該パターン規定装置では、該複数のブランキングアパーチャは当該複数のブランキングアパーチャの相互位置を規定する所定の配置で配置されており、各ブランキングアパーチャは夫々の露光期間中に該ターゲット上に生成される対応するアパーチャ画像へと夫々のブランキングアパーチャを介して露光されるべきドーズ値に関し選択的に調節可能である。
該方法は、
(i)該露光エリア内部の基準点における該ターゲットの高さを決定すること、該高さは該基準点の位置における公称ターゲット面からの該ターゲットの局所的シフトを表すこと、
(ii)該高さ依存関数に基づいて、局所的ブラー値を決定すること、該局所的ブラー値は前記ステップ(ステップ(i))において決定された該ターゲットの高さに対応するブラーの実際値を表すこと、
(iii)該局所的ブラー値と所与のターゲットブラーレベルに基づいて、付加的な補正ブラー値を決定し、該補正ブラー値を用いて畳み込みカーネル(convolution kernel)を計算すること、該カーネルは該グラフィック表示の(1つの)画像要素から(1つの)ピクセル群へのマッピングを記述すること、該ピクセル群は該画像要素の公称位置を中心として配されており、該カーネルは該補正ブラー値を与える(具現する)点広がり関数(point spreading function)を表すこと、及び、
(iv)該基準点を含む該露光エリアの少なくとも1つの領域における畳み込みカーネルによる該グラフィック表示の畳み込み(convolution)によって、該複数のピクセルに規定されるピクセルラスタグラフィック(pixel raster graphics)として公称露光パターンを計算すること、該公称露光パターンは該ターゲットにおける公称ドーズ分布の生成に適すること;
を含む。
該ステップ(iv)において計算される畳み込み(convolution)は該公称露光パターンへの該補正ブラーの導入に対応し、該補正ブラーは該露光パターンのブラーを該局所的ブラー値から該ターゲットブラー値へ増大する。
[付記2]上記の方法において、該方法は前記露光エリア内部における前記公称ターゲット面に対し相対的な前記ターゲットの前記高さの空間的変化を考慮し、該方法は該露光エリアを複数の重なり合わないサブ領域へ分割することを含み、前記ステップ(i)~(iv)は前記サブ領域の各々について行われ、前記ステップ(i)において、前記複数のサブ領域の各々について、サブ領域の夫々の基準点における該ターゲットの夫々の高さが計算され、前記ステップ(ii)~(iv)は夫々の局所的ブラー値を用いて実行され、前記ターゲットブラー値はすべてのサブ領域のうちの局所的ブラー値のセットにわたり最大値を下回らない値として選択される。
[付記3]上記の方法において、前記複数のサブ領域は複数の平行なストライプとして構成されており、各ストライプは全般的描画方向に実質的に平行に配向された長辺を有し、該全般的描画方向は、前記荷電粒子マルチビーム処理装置における露光プロセス中に実行されるピクセルの順次の露光(複数)が沿うライン(複数)の方向を表す。
[付記4]上記の方法において、前記ストライプの長辺は、前記全般的描画方向に沿って測定される場合、前記ターゲットに衝突する該粒子ビームの幅を超えて延伸する。
[付記5]上記の方法において、前記パターン規定装置の前記アパーチャアレイは前記ターゲットへ画像化されてビームアレイフィールドを形成し、及び、前記複数のサブ領域の少なくとも幾つかは、該ターゲットへ画像化される前記アパーチャアレイの画像の幅より小さい幅を有し、該幅は前記全般的描画方向を横切る方向に(横切って)測定される。
[付記6]上記の方法において、前記サブ領域の幅は、全般的描画方向に対する横方向に沿った前記ターゲット上のアパーチャ画像(複数)の距離である。
[付記7]上記の方法において、ブラーの計算は前記公称ターゲット面の2つの主軸について実行され、かくして、各主軸について、すべてのサブ領域の夫々の主軸に沿った局所的ブラー値のセットについての最大値を下回らない値としてターゲットブラー値を選択することによって、該2つの主軸の各々についてのターゲットブラー値を獲得する。
[付記8]上記の方法において、前記露光パターンのブラーを前記局所的ブラー値から前記2つの主軸の各々についてのターゲットブラー値へ別々に増大する補正ブラー値を導入することに対応する異方性(anisotropic)カーネルが計算される。
[付記9]上記の方法において、前記露光パターンのブラーを前記局所的ブラー値から前記2つの主軸についての2つのターゲットブラー値のうちのより大きい値へ増大する補正ブラー値を導入することに対応する異方性カーネルが計算される。
[付記10]上記の方法において、前記露光パターンのブラーの等方性(isotropic)ブラーへの補正を可能にする補正成分(コンポーネント)を含む異方性カーネルが計算され、該補正成分(コンポーネント)は好ましくは該カーネル内に非対角(off-diagonal)補正成分(コンポーネント)を含む。
[付記11]上記の方法において、露光システムのトータルブラーに対する候補畳み込みカーネル(複数)のセットの効果(作用ないし影響)は、該候補畳み込みカーネル(複数)で試験構造体を露光すること、但し、該候補畳み込みカーネル(複数)は夫々所定の値範囲にわたる異なるカーネルブラー値(複数)と関連付けられていること;該試験構造体についての測定値から該トータルブラーを推定する(決定する)こと;及び前記ステップ(iii)において、該露光システムのトータルブラーが前記ターゲットブラーに一致するよう該所定の値範囲から1つのカーネルブラー値を選択すること、によって決定される。
[付記12]上記の方法において、前記カーネルは離散化された形で表された二次元ガウス関数として(二次元ガウス関数の離散化された具現化(discretized realization)として)ブラーを記述する。
[付記13]上記の方法において、前記カーネルは、以下の少なくとも1つである付加的補正ブラーに対応する:
高さ依存ブラーとベースブラーを含む合計、但し、該ベースブラーは夫々の基準点の周りのパターン密度の関数として計算される、及び、
前記荷電粒子マルチビーム処理装置の1つ以上の環境パラメータに基づいて決定されるブラー、但し、該環境パラメータは、大気圧、該荷電粒子マルチビーム処理装置の特定コンポーネントの温度、前記ターゲットの位置(location)における温度、前記粒子ビームの実際のビーム電流を含む。
[付記14]荷電粒子マルチビーム処理装置においてターゲットに露光パターンを描画する方法。この方法は、粒子ビームを提供すること、該粒子ビームが貫通通過する複数のブランキングアパーチャから構成されるアパーチャアレイを含むパターン規定装置へ該粒子ビームを指向し、かくして、該露光パターンに従って、対応する複数のビームレットからなるパターン化ビームを形成すること、露光エリア内部の複数のピクセルを露光することによって前記所望のパターンを描画するために、該パターン規定装置から出射する該パターン化ビームを該ターゲット上の露光エリアへ指向すること、を含む。この方法は、該露光パターンを、該ターゲットへのその露光の前に、上記第1の視点及びこれに関連する形態の何れかの方法を用いて修正(ないし補正)することを更に含む。
[付記15]上記の方法において、前記ターゲット上の少なくとも1つの基準点の高さは、前記荷電粒子マルチビーム処理装置に設けられた表面測定装置(surface metrology device)によって決定される。
【0101】
本発明の全開示(特許請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択(「非選択」を含む。)が可能である。すなわち、本発明は、特許請求の範囲及び図面を含む全開示、本発明の技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【0102】
更に、特許請求の範囲に付記した図面参照符号は専ら発明の理解を助けるためのものであり、本発明を実施形態及び図示の実施例に限定することは意図していない。
【0103】
更に、上記の各文献の全内容は引照を以って本書に繰り込みここに記載されているものとする。