(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】クレアチニン濃度測定装置の較正方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20221128BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
G01N27/26 381A
G01N27/416 336J
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021065083
(22)【出願日】2021-04-07
(62)【分割の表示】P 2018211046の分割
【原出願日】2015-12-17
【審査請求日】2021-04-07
(32)【優先日】2014-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】500554782
【氏名又は名称】ラジオメーター・メディカル・アー・ペー・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100119781
【氏名又は名称】中村 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】ケーア,トマス
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-325150(JP,A)
【文献】特開2009-271075(JP,A)
【文献】特表2010-539492(JP,A)
【文献】特表2004-506224(JP,A)
【文献】特表2008-516235(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0000378(US,A1)
【文献】ABL800 FLEX operator's manual,2011年04月,URL:https://www.manualslib.com/manual/16316861/Radiometer-abl800-FLEX.html
【文献】ABL800 FLEX Reference manual,2008年01月,URL:https://www.manualslib.com/manual/1220915/Radiometer-abl800-FLEX.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の較正溶液を使用した、クレアチニン濃度を測定するデバイスの較正方法であって、
前記1つ以上の較正溶液の、初期時間のクレアチン(Cr)及び/又はクレアチニン(Crn)濃度を受信することと、
終了時間において、前記デバイスの出力を受信すること、
終了時間において、温度モデルと、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算することであって、前記温度モデルが前記初期時間から前記終了時間までの前記較正溶液の温度の変化を示す、ことと、
前記デバイスの前記出力と、前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することと、を含み、
前記較正溶液の前記初期時間から前記終了時間までの温度変化の測定値を、定期的な間隔で温度プローブから受信することによって、前記温度モデルを決定することを更に含み、
前記終了時間は前記初期時間から14日超経過後である、
方法。
【請求項2】
前記デバイスは1つ以上の前記較正溶液中のクレアチンを測定するセンサを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記デバイスは1つ以上の前記較正溶液中のクレアチニンを測定するセンサを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記デバイスは1つ以上の前記較正溶液中のクレアチン及びクレアチニンを測定するセンサを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記デバイスは電流測定デバイスである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記受信した測定値は記録された測定値である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記温度モデルを前記決定することは、前記受信した前記温度変化の測定値を、第2の温度プローブで較正することを含み、前記第2の温度プローブが参照用温度プロー
ブである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記デバイスの出力と前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することは、前記デバイスのセンサ感度を計算することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記終了時間の後に、温度測定値を受信することと、前記計算した前記デバイスの感度を、前記終了時間の後に受信した前記温度測定値を使用して更新することと、を更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
命令を含むコンピュータ可読記憶媒体であって、前記命令が、電子デバイスの1つ以上のプロセッサにより実行されたときに、前記電子デバイスを、請求項1~9のいずれか一項で請求した方法に従って動作させる、コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項11】
電子デバイスであって、
1つ以上のプロセッサと、
1つ以上の前記プロセッサにより実行されたときに、前記電子デバイスを請求項1~9のいずれか一項で請求した方法に従って動作させる命令を含むメモリと、を含む電子デバイス。
【請求項12】
1つ以上の較正溶液を含み、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法の使用説明書又は請求項11に記載の電子デバイスを含む、パッケージであって、
当該パッケージが、Cr及び/又はCrnの濃度を測定するためのデバイスの較正のために使用される、
パッケージ。
【請求項13】
前記初期時間並びに前記初期時間における前記1つ以上の較正溶液のCr及び/又はCrnの前記濃度の表示を更に含み、
前記表示が、書面で前記パッケージ上に記憶されるか、または、パッケージ自体に電子的に記憶されるものである、
請求項12に記載のパッケージ。
【請求項14】
前記初期時間から前記終了時間までの前記
較正溶液の前記温度を測定するための温度プローブと、前記測定温度を記録するためのメモリを更に含む、請求項12又は13に記載のパッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレアチニン測定デバイスの較正方法及び該方法にて使用する較正溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
クレアチニン(Crn)濃度及びクレアチン(Cr)濃度の測定技術は、医学において、例えば腎疾患のモニター等に有用である。水溶液中のCr濃度(cCr)及びCrn濃度(cCrn)は、電流測定によって求めることができる。cCrnの測定には、2つのセンサ、すなわち、Crを検出するCreaAセンサと、Cr及びCrnの両方を検出するCreaBセンサが使用される。cCrnは、CreaAセンサ、CreaBセンサ測定値間の差に基づく。
【0003】
未知のサンプルのcCrnを、十分な正確さで定量するために、CreaAセンサ及びCreaBセンサを定期的に較正し、それらの実感度を測定しなければならない。当該センサは、cCrn及びcCrが既知である2つの較正水溶液を使用して較正することができる。しかしながら、こうした較正溶液の問題に、cCrn及びcCrが固定されていないということがある。むしろ、水溶液中では、スキーム1の反応式中において、両方向の矢印によって示されるように、CrnはCrへと変換され得、逆反応もまた同様であり、それぞれは加水分解及び脱水による(式中、Tは反応が起こる際の温度であり、k
1及びk
2は、それぞれ加水分解反応及び脱水反応の速度定数である)。
【化1】
【0004】
十分な時間の後一定温度において、混合物はcCr及びcCrnが一定である、動的平衡に達するであろう。しかしながら、溶液温度が変化すると、平衡比がシフトするため、cCr及びcCrnが変化するであろう。
【0005】
平衡比にある既知のcCr及びcCrnを有する較正溶液を、酵素、クレアチニンアミドヒドロラーゼ(CA)をcCr及びcCrnの既知の合計濃度の溶液に添加することで生成させることができ、その後、該溶液を約1時間、特定の温度に保つことにより、該溶液を平衡にできる。CAは、平衡状態となることを促進する。一度所与の温度にて平衡状態に到達すれば、cCr及びcCrnを、該所与の温度での既知の平衡定数を参照することにより、簡単に求めることができる。
【0006】
国際公開第2005/052596号では、医学分析装置の品質管理のための標準溶液及び標準溶液を保持するキットが開示されている。該キットは、第1及び第2の区画を有する容器を含んでいて、薄壁により第1及び第2の区画を分離することができる。薄壁は指圧を加えると破ることができ、これにより、第1及び第2の区画の液体が混合される。第1の区画は、緩衝液を含み、第2の区画は2つの化合物及び触媒を含む。2つの化合物
(compunds)、触媒及び緩衝液を混合すると、熱力学平衡により速く到達し、25℃に調整した場合、溶液は数時間以内に品質管理用標準溶液として使用可能となる。これに対し、触媒を使用しなければ、溶液は前述のようではなく、相当長時間、調整されなければならないであろう。
【0007】
cCr及びcCrnの両方の変化に対して直線的に応答するセンサに対しては、2つの較正溶液の選択した組成物が直線的に独立した方程式系となることが必要である。すなわち、cCrCalX=m・cCrCalY及びcCrnCalX=n・cCrnCalY(ただし、m≠n)が必要である。従って、2つの異なる温度で保存していないのであれば、較正溶液の一方しか、Cr及びCrnを平衡濃度で含むことができない。しかし、本質的に純粋なCrの1つの溶液と、本質的に純粋なCrnの1つの溶液とにより、最良なセンサの較正を達成できる。
【0008】
既知の量のCr及びCrnを含む既知の量の乾燥粉末を、既知の容積の水又はその他の水性媒体中に溶解させることで、非平衡比で既知である、cCr及びcCrnの較正溶液を調製することができる。
【0009】
一般的に、較正溶液は15℃~32℃に保たれ、14日未満の経過日数の溶液については、一定温度にあると近似した場合でさえも、正確な計算が可能となる。従って、現行の方法は、使用した期間が短い(すなわち、tage<14日)較正溶液のcCr及びcCrnを計算可能とするには、十分に正確である。
【0010】
もう1つの代替案は、酸性クレアチニン溶液を作製することであり、酸性クレアチニン溶液は、熱力学的に安定であるため、保管中に維持することが可能である。例えば、米国特許出願公開第2004/0072277号に開示されているように、本溶液を使用直前に緩衝液と混合し、pH及びcCrnが既知である、本質的に純粋なCrnの較正溶液を得ることができる。本手法の問題は、2つの溶液が密閉され気密性のあるパウチ内に収容されている場合は、均一混合物を作製することが難しいことである。加えて、自動式の混合が必要な場合、及び/又はパウチがカセット型溶液パックのような閉鎖系の一部である場合は、混合プロセスは、また、ポンプ手段を必要とするであろう。更に、センサチャンバーを溶液が通過することは、例えば、CA酵素がクレアチニンセンサから溶液へと漏れ出し、それによって、非平衡状態が破られるかもしれないので、望ましくない。これを防止するには、液体移送のための、分離されたチャネルが必要となる可能性がある。
【0011】
両方の場合において、較正溶液の正確さには14日の期限があることは、頻繁に交換する必要がある点で欠点があり、このことは、エンドユーザにとって非経済的で、不便である。その上、エンドユーザは、溶液が製造業者から配達されるための数日間、待たなければならないかもしれないので、短い使用期間が更に短縮されるかもしれない。あるいは、エンドユーザは、使用場所(例えば病院)で、較正溶液を調製することを強いられるかもしれず、例えば、Cr及びCrn粉末の秤量の際や溶媒の液量測定の際の、あるいは不均一な混合による不正確となるリスクに加えてエンドユーザへの追加作業を持ち込む。tage>14日である較正溶液の使用を可能にする手法に関して、未だ満たされていない要求が存在する。
【発明の概要】
【0012】
本発明の第1の態様では、1つ以上の較正溶液を使用した、クレアチニン濃度を測定するデバイスの較正方法であって、1つ以上の較正溶液の、初期時間のクレアチン(Cr)及び/又はクレアチニン(Crn)濃度を受信することと、終了時間において測定デバイスの出力を受信することと、温度モデルを使用して、終了時間における較正溶液中のCr及び/又はCrn濃度を計算することであって、このモデルが初期時間から終了時間まで
の較正溶液の温度の変化を示す、ことと、測定デバイスの出力と、計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することと、を含む方法を、本出願人は利用可能にする。
【0013】
較正溶液の温度モデルを使用することで、溶液の初期濃度が較正の14日より前に測定されている場合でさえ、センサを正確に較正することが可能である。温度モデルは、引き続き正確な較正を提供しながら、顧客がある温度範囲下に溶液を保管することを可能とするので、顧客は較正溶液を受け取った後、較正溶液の利用を短期間内に制限されない。
【0014】
いくつかの例示的実施形態において、測定デバイスは、1つ以上の較正溶液中のクレアチンを測定するセンサを含む。
【0015】
いくつかの例示的実施形態において、測定デバイスは、1つ以上の較正溶液中のクレアチニンを測定するセンサを含む。
【0016】
いくつかの例示的実施形態において、測定デバイスは、1以上の較正溶液中のクレアチン及びクレアチニンを測定するセンサを含む。
【0017】
いくつかの例示的実施形態において、測定デバイスは電流測定デバイスである。
【0018】
いくつかの例示的実施形態において、本方法は、較正溶液の初期時間から終了時間までの温度変化の測定値を温度プローブから受信することによって、温度モデルを決定することを更に含む。初期時間と終了時間の間の期間にわたって温度プローブを較正溶液の温度変化を測定するために使用することで、較正溶液の終了濃度(end concentrations)を正確に計算することが可能となる。
【0019】
いくつかの例示的実施形態において、受信した測定値は記録された測定値である。
【0020】
いくつかの例示的実施形態において、温度モデルを決定することは、受信した温度変化の測定値を、第2の温度プローブで較正することを含む。
【0021】
いくつかの例示的実施形態において、測定デバイスの出力と計算されたCr濃度及びCrn濃度の間の関係を決定することは、測定デバイスのセンサ感度を計算することを含む。
【0022】
いくつかの例示的実施形態において、本方法は終了時間の後に、温度測定値を受信することと、計算した測定デバイスの感度を、終了時間の後に受信した温度測定値を使用して更新することと、を更に含む。
【0023】
いくつかの例示的実施形態において、終了時間は初期時間から14日超経過後である。
【0024】
本発明の別の態様によると、コンピュータ可読記憶媒体であって、電子デバイスの1つ以上のプロセッサにより実行されたときに、電子デバイスを、前述の方法のいずれかに従って動作させる命令を含むコンピュータ可読記憶媒体が提供される。
【0025】
本発明の別の態様によると、1つ以上のプロセッサと、1つ以上のプロセッサにより実行されたときに、電子デバイスを前述の方法のいずれかに従って動作させる命令を含むメモリと、を含む電子デバイスが提供される。
【0026】
本発明の別の態様によると、1つ以上の較正溶液を含み、前述の方法又は前述の電子デバイスのいずれかに使用するのに好適なパッケージが提供される。
【0027】
いくつかの例示的実施形態において、パッケージは初期時間並びに初期時間における1つ以上の較正溶液のクレアチン(Cr)及び/又はクレアチニン(Crn)濃度の表示を更に含む。
【0028】
いくつかの例示的実施形態において、パッケージは初期時間から終了時間までのクレアチニン溶液の温度を測定するための温度プローブと、測定温度を記録するためのメモリを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本提案の装置の実施例を、添付図面を参照して詳細に記述する。
【
図2】較正溶液の温度変化及び、温度変化を推定する、対応2温度モデルを示すグラフである。
【
図3】本提案の方法の導出を示すフローチャートである。
【
図4】本提案の方法の工程を概説するフローチャートである。
【
図5】較正溶液中の濃度を本提案の方法の例示的実施形態に従い計算された濃度と比較した一連のグラフである。
【
図6】較正溶液中の濃度を本提案の方法の更なる例示的実施形態に従い計算された濃度と比較した一連のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
3電極電流測定システム101の概略図である
図1を参照する。電流測定システムは少なくとも2つの電極、作用電極(WE)110と、組み合わされた対極及び参照電極(CE/RE)を有し得る。3電極電流測定システム101では、CE/RE電極の機能は、2つの別個の電極、参照電極(RE)111及び対極(CE)112へと分割される。電流測定システム101の実施例は、また、電流計120、電圧計121及び電圧源122並びに電解液140を含む。
【0031】
WE110は酸化反応が起こり、正に帯電する電極である。RE111は典型的には、Ag/AgCl製であり、特に電流が流れていない場合は、安定な電位を維持することができる。従って、電流をWE110から電解質溶液140に戻すためのCE112が必要である。電解液140/サンプルは、3電極間の電流路を提供する。膜130は、検体を、サンプル150から選択的に通過することができる物質に選択的に変換する。電圧源122は、所望の還元又は酸化反応を維持するために必要な電位を印加し、電源122は電圧計121により制御される。電流計120は電気回路を流れて得られる電流を測定する。
【0032】
図1に示す電流測定システムは例示的実施例であり、いくつかのその他の実施が想定されている。例えば、電流測定システムは前述のように2電極システムとすることができる。
【0033】
電極鎖(electrode chain)を流れる電流の大きさは、WE110において酸化されて
いる(又は還元されている)物質の濃度に比例する。理想的には、電流と濃度を関係づける比例定数が既知であるときは、任意の所与のサンプルの濃度を、その特定のサンプルにより生じる電流を測定することによって得ることができる。
【0034】
電流測定システムでの測定プロセスを示すために次のように想定する。サンプル150は、膜130内で選択的に化学種Aに変換される化学種Bを含有し、化学種AはWE110(WE)においてA+に酸化され得る。そして、電解質140はCE112(陰極)でX-へと還元される化学種Xを含有する。膜130は化学種Aのみをサンプルから電解液140へと通過させるということもまた、想定する。
【0035】
適切な電位を電極間に印加するとき、Aは以下の反応に従ってWE110で酸化される。
A→A++e-
【0036】
Aの酸化は電子の流れを生じさせる。電気回路を完成させるためには、電子が消費される還元反応が必要である。このため、化学種Xは以下の反応に従ってCE112で還元される。
X+e-→X-
【0037】
回路を流れる電流の大きさは、酸化されている検体の濃度に比例する。このため、化学種Xが過剰量であるとすれば、分析装置は自動的にサンプル中の検体の濃度を計算することができる。
【0038】
用語「センサ」とは
図1にて示すような、サンプル150を除く完全な電流測定システムを意味する。
【0039】
Crnは水溶液(例えば血液)中では安定ではなく、可逆的にCrに変換される(スキーム1参照)。cCrnを測定するために、本発明は一方のセンサ(CreaA)がCrのみを検出し、他方のセンサ(CreaB)がCr及びCrnの両方を検出する、2センサシステムを利用する。差異測定を用いることで、cCrn値を得ることが可能である。
【0040】
センサは少なくとも3つの機能層からなる多層膜130により保護されており、言い換えると、外膜層はCrn及びCr透過性であり、中間酵素層及び内膜層はH2O2透過性である。
【0041】
Crn及びCr分子は外膜層全域を拡散する。酵素、クレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチンアミジノヒドロラーゼ及びサルコシンオキシダーゼは内膜層と外膜層の間に固定されている。CreaAセンサはクレアチンアミジノヒドロラーゼ及びサルコシンオキシダーゼのみを含むので、Crのみを検出する。CreaAセンサでは、酵素カスケード(enzymatic cascade)がCrを以下のとおり変化させる。
【表1】
【0042】
CreaBセンサは、クレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチンアミジノヒドロラーゼ及びサルコシンオキシダーゼの全3酵素を含むので、Crn及びCrの両方を検出する。酵素カスケードにおいて、Crn/Crは以下のとおり変化する。
【表2】
【0043】
CreaA及びCreaBセンサの両方において、酵素反応は同一の最終生成物をもたらす。最終生成物の1つはH2O2であり、内膜層を越えてWE110(好ましく白金)へと拡散できる。十分に高い電位をCreaA及びCreaBセンサの電極鎖に印加することで、H2O2をWE110で酸化できる。
H2O2→2H++O2+2e-
【0044】
電気回路を完成させるために、電子はCE112における還元反応で消費され、それによって、WE110、CE112間の電荷バランスが保たれる。
【0045】
H
2O
2を酸化すると、H
2O
2の量に比例する電流(I)が生じ、ひいては、センサ応答モデルに従い、CreaAセンサでのCrの量並びにCreaBセンサでのCr及びCrnの量に直接関係づけられる
【数1】
【数2】
【0046】
式中、IA並びにIBはそれぞれCreaAセンサ及びCreaBセンサで生じる電流である。SCr
A及びSCr
Bは、電流(I)をそれぞれCreaAセンサ中のCr及びCreaBセンサ中のCr濃度に関係づける感度定数であり、SCrn
Bは電流(I)をCreaBセンサ中のCrn濃度に関係づける感度定数である。
【0047】
電流を濃度に関係づける比例定数Sを、通常は感度と称する。該定数はセンサを較正することで決定される。各センサの電流(信号)は分析装置中の電流計120により測定される。センサ感度Sが既知である場合、所与のサンプル中の未知のCrn濃度は、上記式から容易に決定される。
【0048】
cCr及びcCrnの最後の既知値に対するcCr及びcCrnの変化を、アレニウスの式により説明される反応速度式及び速度定数に基づき計算することができる。計算するためには、cCr及びcCrnが最後に既知となったとき(tage)から経過した期間並びに該期間に溶液が受ける温度を知る必要がある。
【0049】
較正溶液がある温度範囲を受けるときに、正確にcCr及びcCrnを推定する1つの方法は、最後の濃度測定からの温度変化を記録することである。例えば較正溶液が出荷されるとき、較正溶液パックは、温度測定デバイス及び温度変化を記録する手段を含んでいてもよい。
【0050】
1つの例示的実施は、この溶液の温度を定期的な間隔で、コンピュータのメモリに記録する温度プローブを含ませることである。その結果、この溶液が較正を必要とする場合、受けた温度を決定するため、このメモリにアクセスすることができる。記録される温度を記録するための温度プローブ及びメモリの組み合わせを、本明細書においては温度自動記録器と称することがある。
【0051】
過去の温度変化が分かると、記録されている初期濃度から較正時における算出濃度までの濃度変化を、正確に計算することが可能である。例えば、アレニウスの式により説明され、記録されている経時的温度に適用される反応速度式及び速度定数に基づき、cCrn及びcCrの経時変化を計算することが可能である。
【0052】
各溶液パックが温度自動記録器を必要とする際、コストを低減するために、低コスト温度プローブを使用することが有益となり得る。低コスト温度プローブでは、温度測定値が不正確となる可能性があり、温度プローブをより正確な温度プローブを用いて較正してもよい。この較正は、測定値間に差があるか否かを決定するため、低コスト温度プローブ及び参照用温度プローブによる、ある1つの温度又はある温度範囲での測定値の比較を伴っ
てもよい。差異が決定される場合は、メモリ中の記録温度を、この差異だけ相殺してよい。記録温度を相殺することは、すでに記録した温度の読み出しへと適用してもよく、あるいは、その後の全ての温度記録へと適用してもよい。
【0053】
溶液パックとともにパッケージ化された温度自動記録器を使用して、溶液パックが保管、輸送されている間の温度変化の正確な測定値を提供することができ、ついには較正センサを補助することができる。較正溶液がそれらの送り先に到達すると、センサを付属の温度自動記録器を用いて較正することができる。その後、確実にセンサ感度を最新に保つために、より正確な温度自動記録器により温度を継続してモニターしてもよい。より正確な温度自動記録器は測定ステーションの一部であってもよく、あるいは、エンドユーザの永久的な測定器(permanent instalment)の一部であってもよい。
【0054】
驚くべきことに、一実施形態において、実際の温度から相殺された温度を有する温度自動記録器と、較正溶液が受けた温度プロファイルとはあまり類似していない熱的暴露によって、較正溶液(calibrators)の換算値を計算することで、依然として、較正溶液中のCr濃度及びCrn濃度の、許容できる推定値を提供できるということが見出された。このため、こうした温度プローブの較正は必要ではない場合があり、低コスト温度プローブを使用してもよい。温度自動記録器を正確な温度プロファイルの見積もりに使用することで、較正溶液中のCr濃度及びCrn濃度を推定するために、十分なデータを提供できる。
【0055】
1つ以上の温度測定デバイスを使用して測定値を記録することにより、最終濃度に対して非常に正確な計算結果をもたらすことができるが、較正溶液の各パックのコストを低減するために、温度プローブ又はメモリを使用することなく、同様に正確な結果を計算することは有利であり得る。1つのこのような方法は、温度モデルを使用して受けた温度変化を推定することを含む。
【0056】
図2は較正溶液の例示的温度プロファイル及び温度変化を推定した、対応する2温度モデルを示すグラフである。実際の温度プロファイル210は、初期時間230(t=0)から終了時間232(t=t
age)までの現実の温度変化を示す。この実施例では、温度は低温の4℃で開始し、初期の4日間は製造業者211の保管庫内にある。較正溶液(calibrations solutions)が輸送される際、温度は31℃の高温に上昇し、おおよそ14日間212にわたる。較正溶液を輸送212した後、較正溶液は顧客213の元で、おおよそ76日間、低温(おおよそ5℃)下に保管される。この実施例では、顧客は、使用するために、14日間(214)にわたって較正溶液を貯蔵庫から出していて、その間、較正溶液はおおよそ20℃の高温に保たれる。
【0057】
温度が既知である水性媒体とCr及びCrnの粉末を組み合わせることにより、ユーザ自ら較正溶液を調製する場合、エンドユーザは較正溶液の温度を認識するであろうが、製造業者が調製する場合は、ユーザは製造時から使用時までの温度プロファイルを認識しないであろう。
図2に示すように、実際の温度プロファイル210は、長期間にわたって大きな変動を伴い、非常に複雑であり得る。従来は、こうした温度変動により、較正溶液の濃度レベルを正確に計算することが困難であった。
【0058】
本出願人は驚くべきことに、顧客が必ずしも温度プロファイルを知らなくても、複雑な温度プロファイルをはるかに単純な温度モデルでモデル化することができることを突き止めた。例示的温度モデルの、2温度モデル220を
図2に示す。複雑な温度プロファイルを、t=0の初期時間230からt=t
1の中間時間231までの第1の期間221では、T
1=2℃の低温241を有し、t=t
1の中間時間231からt=t
ageの終了時間232までの期間222では、T
2=32℃の高温242を有するよう、モデル化する
。
図2の2温度モデル220は厳密には実際の温度プロファイル210と一致しないが、温度変化の実用的な推定を提供する。
【0059】
t1の値は、実際の温度プロファイル210と2温度モデル220との間のあらゆるずれを補正するために最適化され得る。例えば、実際の温度プロファイル210で最後に温度上昇が生じるのは約107日後であるが、2温度モデル220での対応する温度上昇は、より早い時間であるt=t1=95日後に生じる。このt1のより早い時間は、初期の輸送段階212の間の大幅な温度上昇を補正するために実際の温度上昇よりも早くなっている。同様に、もし温度の値T1及びT2が高すぎる又は低すぎるように選定されると、これを補正するために、t1の値を調整する可能性がある。
【0060】
クレアチニン/クレアチン溶液の保管、輸送及び使用の条件のパターンが類似のパターンを辿るようにして、実際の温度プロファイルを複数温度モデルで簡略化することができる。表1はcCrn測定をサポートする例示的較正溶液に対する推定時間及び温度範囲である。
【表3】
【0061】
その他の複数温度モデルを使用することができる。例えば、3つ以上の温度を伴う温度モデルを使用してもよい。例えば、不連続な階段状の温度変化の代わりに、単純な指数関数を使用して温度の累進的な低下及び上昇をモデルに組み込むことができ、あるいは、正弦関数を使用して変動をモデルに組み込むことができる。
【0062】
与えられた例示的実施形態においては、本提案の解決方法の単純な説明を提供するので、2温度モデルを使用する。本例示的実施形態において、CreaAセンサ及びCreaBセンサを較正するために、以下の較正溶液、Cal2及びCal3を使用する。
【表4】
【0063】
Cr及びCrnに加えて、較正溶液Cal2及びCal3は、また、緩衝液、塩、防腐剤及び界面活性剤を含有してもよい。本提案の方法の目的のため、較正溶液中のCr及びCrnの濃度のみを評価する。
【0064】
本明細書で提示される例示的実施形態において、Cr及びCrnの両濃度は、2つの較正溶液及び2つのセンサを使用することによって、測定される。しかし、本提案の方法を使用して、Cr濃度のみ又はCrn濃度のみを計算してよいということが、想定される。1つの物質の濃度のみが測定される場合は(Cr又はCrn)、1つだけの固有のセンサ(Cr又はCrn)及び2つの較正溶液が必要である。
【0065】
スキーム1にて示すように、可逆反応での加水分解及び脱水により、CrnはCrへと変換され得て、逆反応もまた同様である。2つの化学種のいずれかを水中に溶解させると
、本可逆変換反応は直ちに開始し、系が熱力学平衡に到達するまで、すなわち、Crn及びCrが、本反応の平衡定数(K
eq(T))に従う互いの平衡濃度(cX
eq)に到達するまで、一方向により速い速度で反応し続ける。
【数3】
【0066】
平衡定数はまた、スキーム1の変換反応に含まれる正及び逆方向の反応(個々の矢印)の速度定数、k1(T)及びk2(T)でも表すことができる。速度定数は温度依存であるが、必ずしも均等には依存しない。従って、変換反応の平衡定数Keq(T)(従って、Crn及びCrの平衡濃度も)もまた、温度依存である。
【0067】
速度定数の温度依存性はアレニウスの式により規定される。
【数4】
【0068】
ここでは、温度Tの添字を、時間tの関数であり得ることを示す略語として使用する。αi及びβiは、考察する本反応の、関連するアレニウスパラメータであり、非常に高い正確性で知られている。
【0069】
上記反応は、較正溶液Cal2、Cal3中で、生産プロセスの間のCr及び/又はCrnが添加された瞬間から、自発的に起こる。従って、溶液パック内の較正溶液中のCr及びCrnの実濃度は、製造からの経過時間と個々の溶液パックが該期間に受けた温度プロファイルT
profile(t)に強く依存する。表2はCal2及びCal3中のCr濃度及びCrn濃度の変化を、時間及び温度プロファイルの関数として示す。
【表5】
【0070】
表3では、ΔcCrnCal2は、Crへの一対一の変換による、時間tまでのCal2中のCrn濃度変化を示し、ΔcCrCal3は、Crnへの一対一の変換による、時間tまでのCal3中のCr濃度変化を示す。
【0071】
無限小の時間(dt)の間のcCrnの濃度変化(dcCrn)は、反応速度式としても知られている、以下の微分方程式に従う。
【数5】
【0072】
反応速度式(式5)をアレニウスの式(式4)及び2温度モデルに組み合わせると、それぞれ較正溶液「Cal#」中のCr濃度及びCrn濃度である、解析方程式cCrCal#
model(t1)及びcCrnCal#
model(t1)が、典型的には低温である初期温度T1で経過した時間t1の関数として与えられる。
【0073】
実際の温度プロファイル(Tt=Tprofile(t))と、上記反応の関連するアレニウスパラメータ(αi及びβi)と、時間t=0であるときの、較正溶液Cal#中のCr及びCrnの開始濃度であるcCrCal#0及びcCrnCal#0のそれぞれが既知である場合、その後の任意の時間における、その較正溶液中の実際のCr濃度及びCrn濃度の非常に正確な推定を、反応速度式を積分することで得ることができる。
【0074】
温度変化記録を入手できない場合、エンドユーザは、較正溶液が保管、輸送、顧客元での保管、及び使用期間中に受けた実際の温度プロファイルを知らない可能性がある。正確な温度プロファイルが未知である可能性があるとしても、その条件の詳細を明らかにするために測定できる、いくつかの互いに独立な変数が存在する。従って、未知の実際の温度プロファイルの十分正確な推定を得るために、本発明者らは、他の目的に、例えば、CreaAセンサ及びCreaBセンサを較正するためには利用されていない、cCrn測定系の入手可能な全ての自由度(DOFs)を利用する。
【0075】
CreaAセンサ及びCreaBセンサを使用した2つの較正溶液Cal2及びCal3での測定値は、4つのセンサ信号、すなわち、4つの入手可能なDOFをもたらす。表2及び表2を支持するテキストによると、利用可能な4つのDOFのうちの3つが、センサの較正目的に割り当てられ、余剰の未使用のDOFの1つ、すなわちCal2に対するCreaAの信号が残される。その他の3つのDOFを、3つの「未知の」センサ感度を決定するために利用するのと同様に、この1つのDOFを利用して「未知の」要素の値を決定することができる。
【0076】
図3は、本提案の較正溶液中の検体濃度を決定し、続いてセンサを較正する方法の、段階的な導出を示すフローチャートである。
【0077】
前述したように、反応速度式310(式5)は、アレニウスの式311(式4)及び温度モデル320と組み合わされる。適切な温度モデルを選定するために、予想される一般的な温度変動のパターンを、認識する必要がある。表1は、較正溶液が経験する可能性がある異なる条件(製造業者での保管、輸送、顧客元での保管及び使用)を示すので、一般的なパターンの一例を提供する。その表はまた、較正溶液が受けると予想される温度範囲を示し、これら溶液がこれらの条件に留まると予想される期間を示す。
【0078】
選択した温度モデルは、初期時間(tproduction又はt=0)における初期温度(T1)、較正時間(tage)における終了温度(T2)及び温度が初期温度から終了温度へと変化する中間時間(t1)を有してもよい。初期時間及び終了時間は既知であり、初期温度及び終了温度は既知又は推定されるかのいずれかとなるが、中間時間t1は全くの未知であり得る。係るシナリオでは、入手可能なDOFを用いて中間時間t1を決定することができる。
【0079】
当業者は入手可能なデータを考察し、データに従い、温度モデルを構築するであろう。入手可能なDOFが1つであれば、例えば中間時間t1等の未知の要素(unknown)が1
つだけとなるように温度モデルが構築される。入手可能なDOFが2つ以上であれば、温度モデルを、入手可能なDOFと同じだけの未知の要素を伴って構築することができる。
【0080】
上記実施形態では、入手可能なDOFを使用して、2つの既知(又は推定できる)温度及び2温度間で温度が変化する時間t1を含む温度モデルの、可変パラメータt1を決定する。入手可能なDOFの、別の可能な使い道は、1つの未知温度を可変パラメータとして含む温度モデルにおいて全期間tage-tproductionを通して使用される、平均変換温度を決定することである。
【0081】
これとともに提示される実施例では、実際の温度プロファイルT
profile(t)を、初期温度及び終了温度のT
1及びT
2並びに終了時間t
age及び中間時間t
1(更に黙示的に初期時間t
0=0)に依存する2温度モデルによりモデル化することができる。一般的な同定パターンを与えられると、2温度モデル(two temperature)は、中間時
間t
1における、初期温度から終了温度までの簡単な階段状変化としてモデル化可能である。このモデルは、以下のとおり表すことができる:
【数6】
【0082】
原則的には、温度T1及びT2は、任意に選択してよい。しかしながら、モデルが全ての取り得る温度シナリオを確実に包含することができるように、温度T1及びT2を予想される温度範囲に一致するよう設定してよい。表2に示した予想されるパターンを使用して、温度を、表2における3つの事前の温度間隔のいずれかにより特定される最低温度(2℃)及び最大温度(32℃)に設定してよい。初期温度T1は較正溶液の予想される低保管温度を示し得て、終了温度T2は較正溶液が輸送の間及び/又は使用の間に経験すると予想される温度を示し得る。従って、初期温度及び終了温度は、それぞれ、初期時間t1及び終了時間tageにおける実温度でなくてよい。
【0083】
パラメータt1は温度T1で経過した未知の時間である。パラメータtageは、較正溶液中の検体濃度(cCrCal2
0,cCrnCal2
0,cCrCal3
0,cCrnCal3
0)を参照法を使用して測定するときである時間(time point)t=0に対する溶液パックの経過時間である。検体濃度及び検体濃度が測定された絶対的な時間(time
point)を、分析時にそれらが容易に入力できるよう、個々の溶液パック内に電子的手段により保管してよい。
【0084】
工程330では、反応速度式310(式5)、アレニウスの式311(式4)及び温度モデル320の組み合わせを解析的に解く。これは、得られた微分方程式を2回解くこと、すなわち、対応する時間(time spans)がそれぞれt
1及びt
2=t
age-t
1である一定温度T
1及びT
2の区間において、各区間での適切な開始条件を使用することによって行われる。これによって、所与の較正溶液(「Cal#」)内のCr濃度及びCrn濃度を求める以下の式が、t
1の関数として導かれる:
【数7】
【数8】
【0085】
式中cCal#
tot=cCrCal#
0+cCrnCal#
0及びΚ(T)=k1(
T)+k2(T)は定数である。式7は終了時間tageのCr濃度を与える。式7及び式8のパラメータ340の多くは、すでに既知であり、未知の変数はt1である。k1、k2及びKの値は、アレニウスの式から決定することができ、α及びβは相当に正確であることで知られている。濃度cCrCal#
0、cCrnCal#
0及びcCal#
totは、t=0における測定から、既知の濃度である。T1及びT2は使用温度モデルから既知であり(and)、tageは較正溶液の製造時からの時間であることから既知である
。従って、式7及び式8は工程331の式となるが、実濃度を計算し得る前に、未知の変数t1をボックス350中の工程から決定する必要がある。
【0086】
式1のセンサ応答モデル351から、以下の一般に有効な関係式を、較正されていないCreaAセンサを使用した、両方の較正溶液についての、所与の時間、例えばt=t
ageにおける測定値に対して容易に導出することができる:
【数9】
【0087】
式9の関係式は、較正パラメータ、すなわち、Cr感度SCr
Aが式に代入されないので、較正していないCreaAセンサに有効である。式9は、所与の時間において、CreaAセンサ信号と、一方の較正溶液に対して測定したCr濃度の比は、他方の較正溶液についての比と同じ値を有するということを述べている。
【0088】
式7及び式8のcCr
Cal#
model及びcCrn
Cal#
modelに対する解析表現は、式9に代入することができ、「Cr-恒等式」332である式10の形になる。
【数10】
【0089】
CreaAセンサの終了時間における2つの較正溶液に対する未処理の出力は式10の左辺に投入することができる。式の右辺は、未知変数t1が1つ残る非線形関数であり、最も現実的な温度範囲及び時間範囲内では、単調関数である。単調関数ではt1に対しては唯一の解が存在するので、工程333において、数値的方法により式10を解き、t1を見つけることができる。その結果、CreaAセンサの未処理の信号間の比により、1つの可能性があるt1の値と、故に、実際の温度プロファイルに近似した、1つの可能性のある温度プロファイルとに導かれる。
【0090】
t1の値が既知となり、その結果温度モデルが既知となると、較正溶液の濃度を求める式7及び式8を解くことができる334。具体的には、終了時間の較正溶液に対して、Cr濃度cCrCal2及びcCrCal3、並びにCrn濃度cCrnCal2及びcCrnCal3を決定することができる。
【0091】
終了時間の較正溶液に対して、Cr濃度及びCrn濃度が推定されると、これら濃度を、較正溶液の、未処理のセンサ読み取り値(readings)と比較し、感度を決定し、センサを較正する360ことが可能である。
【0092】
式1及び式2は、それぞれCreaAセンサ及びCreaBセンサのセンサ応答モデルを与える。工程361では、これらのセンサ応答モデルを使用して、以下の関係式を導出することができる:
【数11】
【数12】
【数13】
【0093】
工程334から、較正濃度(calibration concentrations)を決定することができ、Cal3でのCreaAセンサ、並びにCal2及びCal3でのCreaBセンサに対する未処理の信号を工程362で決定できる。これらの値を工程363において、式11、式12及び式13に代入し、CreaAセンサのCrに対する感度、並びにCreaBセンサのCr及びCrnに対する感度を計算することができる。これらの感度値を有するので、任意の所与のサンプル中のCr又はCrn濃度を正確に測定することが可能である。
【0094】
図3では、本提案の方法を導くための工程を概説しているが、
図4では本提案の方法の例示的実施形態を実行するための工程を要約している。本提案の方法は
図4に示す工程の順序に限定されず、また、本方法を、この与えられる例示的実施形態にもっぱら限定するようには想定していない。
【0095】
工程410では、初期時間において、較正溶液中のCr及びCrnの濃度を測定し、記録する。初期時間は溶液の製造直後であってよく、また、較正溶液を発送する前の任意の適切な時間であってもよい。濃度は、例えば高速液体クロマトグラフィ(high-performance liquid chromatography,HPLC)等の種々の技術及び既知のセンサを使用して測定してよい。該濃度は、エンドユーザがこれら記録された濃度を、その後の計算で利用できるような任意の手段によって記録してよい。例えば、濃度を書面で較正パック(calibration pack)に記憶してもよいし、電子的手段により、サーバーに記憶してもよいし、較正機械が記憶した変数を自動的に読めるように、電子的手段により較正パック自体に記憶してもよい。同様に、その後の計算を実行する際に初期時間が分かるように、パックにタイムスタンプを押してもよい。
【0096】
工程420では、較正溶液を最終消費者に発送する。この時から、較正溶液が保存される実温度は、未知となり得る。
【0097】
ボックス430は、Crセンサ及びCrnセンサを較正しようとしているエンドユーザが行う工程を示しており、終了時間(tageとも称される)440において、較正溶液を受け取り、較正プロセスを開始することから始まる。
【0098】
工程450では、較正溶液での未処理のCr信号及びCrn信号をセンサで測定する。これらの未処理の信号はセンサの電流出力ICal2
A(tage)、ICal3
A(tage)、ICal2
B(tage)及びICal3
B(tage)である。
【0099】
工程460では、温度モデルを決定する。2温度モデルの実施例では、中間時間t1を、t1についての式10を解くことによって計算することを伴う。この計算を実行するため、工程410で記録した初期時間及び初期濃度とともに関連する反応のアレニウス値(Arrhenius values)を知る必要がある。
【0100】
工程470では、較正溶液中のCr及びCrnの実濃度を、ステップ460で決定した温度モデルを使用して式7及び式8を解くことで計算する。
【0101】
工程480では、工程450で計算したセンサ出力(具体的には、ICal3
A(tage)、ICal2
B(tage)及びICal3
B(tage))及び工程470で計算した濃度を等式11~13へと代入して、センサ感度を決定し、それによってセンサを較正する。
【0102】
ボックス430で実施する工程は、エンドユーザが手動で実施してよい。あるいは、ボックス430での全工程のいくつか又は全ては、システムにより自動化することができる。例えば較正システムは、較正パックを取得し、自動的に初期濃度及び初期時間を示す電子データを読んでもよい。較正システムは、工程450及び工程470に記載されている全ての未処理のセンサ出力を測定してもよい。較正システムは、工程460、470、及び480の計算を実行するプロセッサを有する電子デバイスを含むことができる。本方法の計算のいずれかを自動的に実行するために、ユーザが自身のコンピュータにインストールすることができる読み取り可能な媒体中のコンピュータソフトウエアが供給されてもよい。
【0103】
センサを較正するために使用する温度モデルは較正溶液の実際の温度プロファイルの推定に過ぎないが、本提案の溶液は非常に正確な結果を提供する。
図5では本提案の方法で計算した濃度を伴う、較正溶液の実濃度(例えば、HPLCを使用する)を含む、多数のグラフを示す。
【0104】
溶液パックの実際の時間/温度シナリオ、また表1の特定の時間/温度範囲を超える極端なシナリオにも対応する、種々の期間に対する異なった温度で保管されたCal2溶液及びCal3溶液に対して、試験を実施した。
【0105】
データポイント511、521、531及び541は10℃で53日間保管された較正溶液に対応する。データポイント512、522、532及び542は、10℃で53日間、32℃で15日間、更に10℃で34日間保管された較正溶液に対応する。データポイント513、523、533及び543は、10℃で53日間、6℃で15日間、10℃で29日間、更に6℃で20日間保管された較正溶液に対応する。データポイント514、524、534及び544は10℃で53日間、25℃で15日間、10℃で29日間、更に25℃で20日間保管された較正溶液に対応する。データポイント515、525、535及び545は、10℃で53日間、32℃で32日間、10℃で29日間、更に32℃で20日間保管された較正溶液に対応する。
【0106】
グラフ510は、異なる温度条件での、Cal2溶液中の計算したCr濃度及び実際のCr濃度を示す。線形トレンドライン516(式y=1.0317x+2.0703)は、計算された濃度と実濃度の間に、R2値が0.98の直線関係を示す。グラフ520は、異なる温度条件での、Cal2溶液中の計算したCrn濃度及び実際のCrn濃度を示す。線形トレンドライン526(式y=0.9466x+24.0)は、計算された濃度と実濃度の間に、R2値が0.9786の直線関係を示す。グラフ530は、異なる温度条件での、Cal3溶液中の計算したCr濃度及び実際のCr濃度を示す。線形トレンドライン536(式y=0.9522x+17.951)は、計算された濃度と実濃度の間に、R2値が0.97の直線関係を示す。グラフ540は、異なる温度条件での、Cal3溶液中の計算したCrn濃度及び実際のCrn濃度を示す。線形トレンドライン546(式y=0.9621x+5.5329)は、計算された濃度と実濃度の間に、R2値が0.97の直線関係を示す。
【0107】
これらのグラフは、温度モデルが実際の温度プロファイルの推定に過ぎないものの、本提案の方法で計算した濃度が、一貫して実濃度に近いことを示す。
【0108】
図6は較正溶液の実濃度(例えば、HPLCを使用する)を、温度モデルを生成するために温度自動記録器を使用した例示的実施形態を用いて計算した濃度と比較している、多数のグラフを示す。
【0109】
溶液パックの実際の時間/温度シナリオ、また表1の特定の時間/温度範囲を超える極端なシナリオにも対応する、種々の期間に対する異なった温度で保管されたCal2溶液及びCal3溶液に対して、試験を実施した。
【0110】
グラフ610は実濃度と比較したCal2溶液中の計算されたCr濃度を示す。線形トレンドライン611(式y=1.0395x-0.24446)は、計算された濃度と実濃度の間に、R2値が0.9899の直線関係を示す。グラフ620は実濃度と比較したCal2溶液中の計算されたCrn濃度を示す。線形トレンドライン621(式y=0.9681x+15.401)は、計算された濃度と実濃度の間に、R2値が0.992の直線関係を示す。グラフ630は実濃度と比較したCal3溶液中の計算されたCr濃度を示す。線形トレンドライン631(式y=0.931x+32.896)は、計算された濃度と実濃度の間に、R2値が0.9656の直線関係を示す。グラフ640は実濃度と比較したCal3溶液中の計算されたCrn濃度を示す。線形トレンドライン641(式y=0.9465x+1.5862)は、計算された濃度と実濃度の間に、R2値が0.9707の直線関係を示す。
【0111】
これらのグラフは、温度プローブを使用して温度変化の履歴を記録することにより、Cr及び/又はCrn濃度の非常に正確な計算が可能になることを示す。
【0112】
本開示は、上記した実施形態中に提示した任意の特徴の組み合わせを置換したものを含むことを理解すべきである。特に、添付の従属請求項で提示した特徴は、提供され得る任意のその他の関連する独立請求項と組み合わせて開示されており、本開示は、これらの従属請求項とこれらが元々従属する独立請求項の特徴の組み合わせのみに限定されないと理解すべきである。