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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】温度検出システムおよび温度検出回路
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/25 20060101AFI20221128BHJP
【FI】
G01K7/25 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021080152
(22)【出願日】2021-05-11
(65)【公開番号】P2022174392
(43)【公開日】2022-11-24
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 亮磨
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-175415(JP,U)
【文献】特開2020-094963(JP,A)
【文献】特開2017-146245(JP,A)
【文献】特開2004-090683(JP,A)
【文献】特開2013-057550(JP,A)
【文献】特開2016-061565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 7/00-7/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度に依存して抵抗値が変化する温度検出素子と抵抗との直列回路が、直流電圧源とグランドとの間に接続され、前記温度検出素子と前記抵抗との接続部と前記グランドとの間の電圧が温度依存の電圧として出力される温度検出システムであって、
前記温度検出素子と前記抵抗との前記接続部に直流電流を供給する直流電流源を備え
前記直流電流が供給されない場合に比べて低温側および高温側の両側の出力特性の精度が向上してダイナミックレンジが拡大されるように、前記接続部に供給された直流電流による前記接続部と前記グランドとの間における電圧降下によるオフセット電圧だけ前記温度依存の出力電圧が嵩上げされる
ことを特徴とする温度検出システム。
【請求項2】
前記温度検出素子と前記抵抗との前記接続部に供給される直流電流の大きさは可変である
ことを特徴とする請求項1に記載の温度検出システム。
【請求項3】
前記温度検出素子はNTC型サーミスタであり、前記グランドと前記抵抗との間に接続され、
前記抵抗は前記直流電圧源と前記NTC型サーミスタとの間に接続され、
前記NTC型サーミスタと前記抵抗との前記接続部に、前記直流電流源から前記直流電流が供給される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の温度検出システム。
【請求項4】
前記温度検出素子はPTC型サーミスタであり、前記グランドと前記抵抗との間に接続され、
前記抵抗は前記直流電圧源と前記PTC型サーミスタとの間に接続され、
前記PTC型サーミスタと前記抵抗との前記接続部に、前記直流電流源から前記直流電流が供給される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の温度検出システム。
【請求項5】
前記温度検出素子はPTC型サーミスタであり、前記直流電圧源と前記抵抗との間に接続され、
前記抵抗は前記グランドと前記PTC型サーミスタとの間に接続され、
前記PTC型サーミスタと前記抵抗との前記接続部に、前記直流電流源から前記直流電流が供給される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の温度検出システム。
【請求項6】
前記温度検出素子はNTC型サーミスタであり、前記直流電圧源と前記抵抗との間に接続され、
前記抵抗は前記グランドと前記NTC型サーミスタとの間に接続され、
前記NTC型サーミスタと前記抵抗との前記接続部に、前記直流電流源から前記直流電流が供給される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の温度検出システム。
【請求項7】
前記温度検出素子は、前記抵抗値が半導体スイッチング素子の温度に依存して変化し、前記出力に応動して前記半導体スイッチング素子の通流電流が制御される
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の温度検出システム。
【請求項8】
前記半導体スイッチング素子は、電力変換装置のアームを構成する半導体モジュールとしてパッケージされており、
前記温度検出素子は、前記半導体スイッチング素子がパッケージされた前記半導体モジュールにパッケージされている
ことを特徴とする請求項7に記載の温度検出システム。
【請求項9】
前記直流電圧源、前記直流電流源および前記抵抗の少なくとも一つが、前記半導体スイッチング素子をスイッチング駆動するドライバICに内蔵されている
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の温度検出システム。
【請求項10】
電力変換装置の、始動時、ソーク時、ソフトスタート時、およびソフトエンド処理時のタイミングで、前記直流電流源が供給する前記直流電流の値が変更される
こと特徴とする請求項8または請求項9に記載の温度検出システム。
【請求項11】
温度に依存して抵抗値が変化する温度検出素子と抵抗との直列回路が、直流電圧源とグランドとの間に接続され、前記温度検出素子と前記抵抗との接続部と前記グランドとの間の電圧が温度依存の電圧として出力される温度検出回路であって、
前記温度検出素子と前記抵抗との前記接続部に、直流電流源から直流電流が供給され
前記直流電流が供給されない場合に比べて低温側および高温側の両側の出力特性の精度が向上してダイナミックレンジが拡大されるように、前記接続部に供給された直流電流による前記接続部と前記グランドとの間における電圧降下によるオフセット電圧だけ前記温度依存の出力電圧が嵩上げされる
ことを特徴とする温度検出回路。
【請求項12】
前記温度検出素子と前記抵抗との前記接続部に供給される直流電流の大きさは可変である
ことを特徴とする請求項11に記載の温度検出回路。
【請求項13】
前記温度検出素子はNTC型サーミスタであり、前記グランドと前記抵抗との間に接続され、
前記抵抗は前記直流電圧源と前記NTC型サーミスタとの間に接続され、
前記NTC型サーミスタと前記抵抗との前記接続部に、前記直流電流源から前記直流電流が供給される
ことを特徴とする請求項11または請求項12に記載の温度検出回路。
【請求項14】
前記温度検出素子はPTC型サーミスタであり、前記グランドと前記抵抗との間に接続され、
前記抵抗は前記直流電圧源と前記PTC型サーミスタとの間に接続され、
前記PTC型サーミスタと前記抵抗との前記接続部に、前記直流電流源から前記直流電流が供給される
ことを特徴とする請求項11または請求項12に記載の温度検出回路。
【請求項15】
前記温度検出素子はPTC型サーミスタであり、前記直流電圧源と前記抵抗との間に接続され、
前記抵抗は前記グランドと前記PTC型サーミスタとの間に接続され、
前記PTC型サーミスタと前記抵抗との前記接続部に、前記直流電流源から前記直流電流が供給される
ことを特徴とする請求項11または請求項12に記載の温度検出回路。
【請求項16】
前記温度検出素子はNTC型サーミスタであり、前記直流電圧源と前記抵抗との間に接続され、
前記抵抗は前記グランドと前記NTC型サーミスタとの間に接続され、
前記NTC型サーミスタと前記抵抗との前記接続部に、前記直流電流源から前記直流電流が供給される
ことを特徴とする請求項11または請求項12に記載の温度検出回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、温度検出システムおよび温度検出回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温度検出回路の測温手段として、NTCサーミスタを用いることが知られているが、図12Aに示すように、低温側の精度(分解能、誤差)を改善しようとすると、高温側の精度が得られず、逆に高温側の精度を改善しようとすると、図12Bのように低温側の精度が悪化する課題があった。
温度検出回路の精度改善のために特許文献1,2の手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-272904号公報
【文献】特開2020-60532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、低・高温の特性を改善するために、B定数の違う2個の負の抵抗温度特性を示すサーミスタを積層し、回路的に並列または直列接続することで、線形な温度特性を得ることができると開示されている。
特許文献1に係る手段を用いれば、温度検出回路において、線形な温度特性を得ることができ、低・高温ともに特性向上することが可能である。しかし、B定数の違う素子の組合せ、定数選択肢から温度検出回路の出力範囲を拡大するのが困難であり、出力ダイナミックレンジが狭いという課題があった。このため、出力ダイナミックレンジを拡大して、センサ分解能を向上するには、検出回路の出力をアンプ等で増幅する必要があり、部品点数の増加による大型化、コストが高くなるという課題が生じる。
また、特許文献2では、温度センスダイオードを用いた温度検出回路が開示されている。
温度センスダイオードを用いる場合、当該ダイオードの順方向電圧(以下、Vfと略す)を取得し、温度を推定する。一般的に、該当の温度センサダイオードは線形であるために、低・高温ともに精度向上できる。しかし、当該温度センサダイオードを使用する場合に、1素子あたりVfは温度変化に対して約-2mV/℃程度であるので、温度観測範囲を広げるために、温度検出回路の出力ダイナミックレンジを拡大しようとすると該当ダイオードを多段する必要がある。しかし、当該ダイオードを多段にすると温度センスダイオードのチップ面積が拡大し、小型化、低コスト化の弊害となる。また、温度センスダイオードの精度の向上のためチップ面積の拡大を図ろうとすると、次世代ワイドギャップ半導体、例えば、GaN、SiCのようなチップ面積当たりの価格が高価な場合には、前記温度センサ精度とコストのトレードオフとなる。
以上より、従来のNTCサーミスタを用いた温度検出回路では、出力特性が非線形であるために、低・高温両側の精度を得ることが困難である。また、特許文献1,2に開示される手段により、低・高温両側の精度を得ることは可能であるが、ダイナミックレンジが狭くなるので、低・高温両側の出力特性の精度向上、且つダイナミックレンジ拡大の両立は困難であった。
【0005】
本願は温度検出システムおよび温度検出回路の出力特性向上、且つダイナミックレンジ拡大を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、前述のような実情に鑑みてなされたもので、本願に開示される温度検出システムは、温度に依存して抵抗値が変化する温度検出素子と抵抗との直列回路が、直流電圧源とグランドとの間に接続され、前記温度検出素子と前記抵抗との接続部と前記グランドとの間の電圧が温度依存の電圧として出力される温度検出システムであって、前記温度検出素子と前記抵抗との前記接続部に直流電流を供給する直流電流源を備え、前記直流電流が供給されない場合に比べて低温側および高温側の両側の出力特性の精度が向上してダイナミックレンジが拡大されるように、前記接続部に供給された直流電流による前記接続部と前記グランドとの間における電圧降下によるオフセット電圧だけ前記温度依存の出力電圧が嵩上げされるものである。
また、本願に開示される温度検出回路は、温度に依存して抵抗値が変化する温度検出素子と抵抗との直列回路が、直流電圧源とグランドとの間に接続され、前記温度検出素子と前記抵抗との接続部と前記グランドとの間の電圧が温度依存の電圧として出力される温度検出回路であって、前記温度検出素子と前記抵抗との前記接続部に、直流電流源から直流電流が供給され、前記直流電流が供給されない場合に比べて低温側および高温側の両側の出力特性の精度が向上してダイナミックレンジが拡大されるように、前記接続部に供給された直流電流による前記接続部と前記グランドとの間における電圧降下によるオフセット電圧だけ前記温度依存の出力電圧が嵩上げされるものである。
【発明の効果】
【0007】
従来のサーミスタを用いた温度検出回路は、低温側の精度を改善すると高温側の温度―出力電圧の勾配が緩やかになり、高温側の精度が悪化する、逆に、高温側の精度を改善しようとすると低温側の温度―出力電圧特性の勾配が緩やかになるため、低温側の精度が悪化するという二律背反の問題があったが、本願に開示される温度検出システムおよび温度検出回路によれば、直流電流源から流れる直流電流により、低下していた温度側の電圧をオフセットさせるため、低温側・高温の両の温度検出回路の出力ダイナミックレンジを拡大することができ、低温側・高温の両の温度検出精度の改善が可能である。

【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本願の実施の形態1を示す図で、温度検出システム(回路)を例示する接続図である。
図2】本願の実施の形態1を示す図で、図1に例示の温度検出システム(回路)おける直流電流源の具体的な事例を示す接続図である。
図3】本願の実施の形態1を示す図で、図1に例示の温度検出システム(回路)の出力特性および比較例の出力特性をグラフで例示する図である。
図4】本願の実施の形態1を示す図で、図1に例示の温度検出システム(回路)を半導体スイッチング素子に適用した場合の事例を示す接続図である。
図5】本願の実施の形態1を示す図で、図1に例示の温度検出システム(回路)おける直流電流源の出力直流電流値を変化させる事例を示す接続図である。
図6】本願の実施の形態1を示す図で、図5に例示の温度検出システム(回路)おける直流電流源の出力直流電流値を変化させた場合の温度検出回路の出力特性をグラフで例示する図である。
図7】本願の実施の形態1を示す図で、本願の温度検出システム(回路)を適用できる電力変換装置の例を示す接続図である。
図8】本願の実施の形態1を示す図で、図1に例示の温度検出システム(回路)を図7に例示の電力変換装置に適用した事例を示す接続図である。
図9】本願の実施の形態1を示す図で、図1に例示の温度検出システム(回路)を電力変換装置に適用した事例を示す図8における直流電流源の出力直流電流値を変化させる時期の例をタイムチャートで示す図である。
図10】本願の実施の形態2を示す図で、温度検出システム(回路)を例示する接続図である。
図11】本願の実施の形態2を示す図で、図10に例示の温度検出システム(回路)の出力特性を、直流電流源の3種類の出力直流電流値の場合についてグラフで例示する図である。
図12A】比較例の温度検出回路において、低温側の精度(分解能、誤差)を改善しようとすることにより、高温側の精度が得られない場合の、温度検出回路の出力特性をグラフで例示する図である。
図12B】比較例の温度検出回路において、図12Aの場合とは逆に、高温側の精度(分解能、誤差)を改善しようとすることにより、低温側の精度が得られない場合の、温度検出回路の出力特性をグラフで例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願の係る温度検出システムおよび温度検出システム(回路)の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本願は以下の記述に限定されるものではなく、本願の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、本願の特徴に関係しない構成の図示は省略する。
【0010】
実施の形態1.
以下に、本願の実施の形態1を図1及び図2に基づいて説明する。
図1は、実施の形態1の温度検出システム(回路)の一例を示す接続図であり、図2は実施の形態1の温度検出システム(回路)おける直流電流源の具体的な事例を示す接続図である。
【0011】
本実施の形態1の温度検出システム100は、サーミスタ等の温度検出素子(以下、サーミスタと記す)101、直流電圧源102、直流電流源103、抵抗器104を有しており、正電源電圧Vccの電圧源102と接地電位のグランドGNDとの間に抵抗器104とサーミスタ101とを直列に接続する回路構成とする。
図1の事例では、直流電圧源102側に抵抗器104が接続された所謂プルアップ型抵抗の回路構成であり、グランドGND側にサーミスタ101が接続されている。
直流電流源103は、その直流電流出力端103ioから、サーミスタ101と抵抗器104との接続部105101-104に電流Iを供給し、この直流電流源103からの直流電流Iは、接続部105101-104から、内部抵抗Rthのサーミスタ101に流れ、サーミスタ101の両端の出力端子間にオフセット電圧IRthが生じ、接続部105101-104とサーミスタ101の接地電位のグランドGNDとの間の電圧である、所謂、温度検出システム100の出力電圧Voは、オフセット電圧IRthだけ嵩上げされた電圧となる。つまり、サーミスタ101の出力のダイナミックレンジは拡大され、温度検出精度が改善され、サーミスタの出力に基づいて制御される半導体スイッチング素子201(図4に例示)の長寿命化、使用半導体スイッチング素子の種別の選択範囲の自由度が拡大が、簡単な構成で期待できる。
【0012】
直流電流源103の具体的な回路構成は、図2に例示のように、Vccに接続されたプルアップ型抵抗103r1と、接地端子GNDに接続されたプルダウン型抵抗103r2との直列回路の分圧点に、バイポーラトランジスタ等の半導体導通素子103Trのベースが接続され、Vcc端子に半導体導通素子103Trのコレクタが接続され、接地端子GNDに半導体導通素子103Trのエミッタが接続された回路構成となる。
半導体導通素子103Trのコレクタからエミッタに流れる直流電流Iが、図1における直流電流出力端103ioおよび接続部105101-104経由で、サーミスタ101に流れる。
【0013】
図3中実線の実施の形態1に係る出力特性は、実施の形態1に係る温度検出回路の出力電圧特性を示し、図3中破線の比較例のサーミスタ回路の出力特性は、サーミスタ、直流電圧源、抵抗器の構成からなる比較例のサーミスタ回路による出力電圧特性を示す。
【0014】
図3中の比較例のサーミスタ回路構成では、高温側の精度を改善しようとした場合、低温側の温度に対する出力電圧特性の勾配が緩やかとなり、低温側の精度が悪化している。
一方、本願のように直流電流源103からサーミスタ101に直接直流電流Iを流すことで、NTC型では低温側ほど、PTC型では高温側ほどサーミスタ101の抵抗値Rthが大きくなるので、オフセット電圧IRthが生じる。従って、NTC型の場合について例示的に図示する図3のように、実戦で例示の本願の温度検出システム(回路)の温度特性は、出力電圧Voの範囲及びダイナミックレンジは、鎖線で示す比較例の温度検出回路の温度特性に比べて、矢印で示すように、オフセット電圧IRth分だけ嵩上げされる。従って、温度検出システム(回路)の出力電圧Voの範囲及びダイナミックレンジは、確実に拡大できる。なお、このことは、サーミスタ101がPTC型である場合においても同様なことが言える。
【0015】
また、図4に、実施の形態1に係る温度検出システム(回路)を、電力変換装置などを構成する電力用の半導体スイッチング素子に適用した場合の事例を示す。図4中のドライバIC202は、半導体スイッチング素子201を駆動するためのドライバ回路部2021と、温度検出システム100の温度検出部2022、直流電流源103の機能を有する。半導体スイッチング素子201の温度を直接、もしくは間接的に測定するためにサーミスタ101は半導体スイッチング素子201に熱的に接続した状態に配設されている。抵抗104は直流電圧源102にプルアップ接続されている。
なお、直流電圧源102、抵抗104は、ドライバIC202内に内蔵してあっても構わない。
ここで、半導体スイッチング素子201はMOSFET、IGBT、などのパワー半導体、あるいは次世代ワイドギャップ半導体、例えば、GaN、SiC、などである。
【0016】
以上のことから、実施の形態1に係る温度検出システム(回路)の構成によれば、抵抗104とサーミスタ101との中間点、つまり相互に直列接続された抵抗104とサーミスタ101との接続部105101-104、に直流電流源103から直流電流を供給することで、温度検出システム(回路)の低高温での出力ダイナミックレンジを拡大できるので、低・高温での温度検出精度を改善できる。
特に、広い温度範囲で温度検出が可能となるので、SiC、GaNなどの温度動作範囲が広いデバイスの温度監視に有効である。
【0017】
なお、図1の事例は、サーミスタ、直流電圧源、直流電流源、抵抗器を有する温度検出回路であって、前記直流電圧源とグランド間に前記抵抗器と前記サーミスタを直列に接続する構成において、前記直流電流源から前記抵抗器と前記サーミスタの間に直流電流を供給し、前記抵抗器と前記サーミスタの間を温度検出回路の出力とするものである。換言すれば、温度に依存して抵抗値が変化する温度検出素子と抵抗との直列回路が、直流電圧源とグランドとの間に接続され、前記温度検出素子と抵抗との接続部と前記グランドとの間の電圧が温度依存の電圧として出力される温度検出システムであって、前記温度検出素子と前記抵抗との前記接続部に直流電流を供給する直流電流源を備えている温度検出システムである。更に換言すれば、温度に依存して抵抗値が変化する温度検出素子と抵抗との直列回路が、直流電圧源とグランドとの間に接続され、前記温度検出素子と抵抗との接続部と前記グランドとの間の電圧が温度依存の電圧として出力される温度検出回路であって、前記温度検出素子と前記抵抗との前記接続部に、直流電流源から直流電流が供給される温度検出回路である。
【0018】
次に、サーミスタ101をNTC型とし、直流電圧源102、抵抗104、NTCサーミスタ101の順に接続する構成とした場合の例について、更なる説明をする。ここで、サーミスタ101は負の温度係数を持つ。
【0019】
従来のサーミスタ回路構成では、前述のように、高温側の精度を改善しようとした場合、低温側の温度―出力電圧特性の勾配が緩やかとなって低温側の精度が悪化していたが、本願の実施の形態1のような前述の温度検出システム(回路)の構成とすることで、直流電流源103から抵抗104とサーミスタ101の間に直流電流を供給により、サーミスタ抵抗値に注入される直流電流で出力電圧が可変オフセットするので、低温側で温度―出力電圧特性の勾配が緩やかになっていた電圧特性を上昇できる。
【0020】
したがって、温度検出システム(回路)の出力ダイナミックレンジを拡大でき、かつ、広い温度範囲での温度検出が可能となる。加えて、比較例のサーミスタ構成による温度検出回路の低温側の出力特性を改善できる。つまり、サーミスタ101の出力端子間のオフセット電圧はIRthであるので、サーミスタ101の内部抵抗Rthは、NTC型のサーミスタであれば、低温側の方が抵抗値は大きいので、低温側のサーミスタ出力電圧を拡大でき、従って比較例のサーミスタ構成による温度検出回路の低温側の出力特性に比べ、本実施の形態1では、NTC型サーミスタの場合、低温側の出力特性を改善できる。
このことは、例えば、200Vから400Vの電圧範囲で使用するMOSFET、IGBTなどの半導体スイッチング素子の場合、一般的に低温側での耐圧値が低いという特性を有する。このため、低温側の出力特性を改善することは、温度ディレーティングの緩和、低い耐圧値のスイッチング素子を使用可能といったメリットがある。例えば、半導体スイッチング素子は一般的には低温側での耐圧値が低いので、低温側での耐圧値を考慮して、環境温度に応じて通電する電流値を定格値以下に抑制する、いわゆる温度ディレーティングを行ったり、あるいは低温側でも半導体スイッチング素子の保護が成立するように、低温側の耐圧値に合わせてより高耐圧な半導体スイッチング素子を使用することとなるが、低温側での出力特性が改善しより精度良く測温することができれば、温度ディレーティングを緩和することができ、低い耐圧値のスイッチング素子の使用が可能とる。
【0021】
上述の事例では、前記サーミスタは、NTC型であり、前記直流電圧源側に前記抵抗器を接続し、グランド側に前記NTCサーミスタを接続する。換言すれば、前記温度検出素子はNTC型サーミスタであり、前記グランドと前記抵抗との間に接続され、前記抵抗は前記直流電圧源と前記NTC型サーミスタとの間に接続され、前記NTC型サーミスタと前記抵抗との前記接続部に、前記直流電流源から直流電流が供給される。更に換言すれば、前記温度検出素子はNTC型サーミスタであり、前記グランドと前記抵抗との間に接続され、前記抵抗は前記直流電圧源と前記NTC型サーミスタとの間に接続され、前記NTC型サーミスタと前記抵抗との前記接続部に、前記直流電流源から直流電流が供給される。
【0022】
また、直流電流源103の直流電流値が、例えば、SPI,CAN、LINなど外部信号もしくは通信手段により通信で調整可能である構成をとる。例えば、図5に例示のように、マイクロコントローラー105を設けることにより、直流電流源103からの直流電流値を動的に変更することができる。
【0023】
このようにすることで、直流電流源103からの直流電流値を動的に変更でき、電流値に伴い出力特性を切り替えられるので、その変化量と、所望の特性を記憶もしくは演算結果などと比較して異常判定する故障検知が可能となる。例えば、直流電流源103からの直流電流出力の直流電流値を動的に変更して、スイッチング素子の故障状態を把握し、例えば、電力変換装置の電力変換動作を停止するためには、スイッチング素子を駆動しているドライバIC202から、スイッチング素子へのゲート駆動出力を停止することが可能である。
上述のように、前記直流電流源の電流値は、外部信号もしくは通信で調整可能である。換言すれば、前記温度検出素子と前記抵抗との前記接続部に供給される直流電流の大きさは可変にすることが可能である。
【0024】
また、直流電流源103からの直流電流値を、サーミスタ101の温度の検出温度が常温から低温間で、例えば、0~500uA程度の範囲で変化させる構成とする。なお、「uA」は「μA」と同じ単位である。
このようにすることで、サーミスタの定数選定、温度検出回路の出力設計の自由度が向上する。また、既存の温度チップダイオードの検出にも併用できる。
【0025】
図7に例示のような半導体スイッチング素子201を単数、あるいは複数組み合わせて適用した電力変換を行う電力変換装置200にも、本願の温度検出システム100を適用可能であり、その場合、例えば、半導体スイッチング素子201を測温し、半導体スイッチング素子201のスイッチング駆動を制御する構成とすることができる。
【0026】
電力変換装置は、例えば、車載のAC/DCコンバータ、DC/DCコンバータ、インバータが挙げられるが、これらの電力変換装置は、電力が大きいこと、搭載される環境により、使用温度が広いという特徴がある。
本願が提案する直流電流源103を追加したサーミスタによる温度検出システム(回路)であれば、ダイナミックレンジが広く、観測温度範囲も広いため、電力変換装置に用いることは、より効果的であると言える。例えば、電力変換装置を構成する半導体スイッチング素子は一般的には低温側での耐圧値が低いので、低温側での耐圧値を考慮して、環境温度に応じて通電する電流値を定格値以下に抑制する、いわゆる温度ディレーティングを行ったり、あるいは低温側でも半導体スイッチング素子の保護が成立するように、低温側の耐圧値に合わせてより高耐圧な半導体スイッチング素子を使用することとなるが、低温側での出力特性が改善しより精度良く測温することができれば、電力変換装置を構成する半導体スイッチング素子の温度ディレーティングを緩和することができ、低い耐圧値のスイッチング素子で電力変換装置を構成することが可能とる。
【0027】
例えば、温度検出素子は、その抵抗値が半導体スイッチング素子の温度に依存して変化し、本願の温度検出システム(回路)の温度検出素子から出力される電圧に応動して前記半導体スイッチング素子の通流電流が制御され、半導体スイッチング素子の過負荷状態、異常過熱状態を抑制することができる。
【0028】
また、図8に例示のように、半導体スイッチング素子201が、実装・パッケージ化された各相の半導体モジュール300で、電力変換装置200が構成され、サーミスタ101が半導体モジュール300に内蔵されている構成とすることができる。
サーミスタ101を半導体モジュールに内蔵することにより、半導体モジュール内にある半導体スイッチング素子201の測温精度の向上、また半導体モジュール内部の温度観測・加熱保護が可能となる。
なお、電力変換装置の各相の半導体モジュール300が共通のヒートシンクに搭載されている場合は、各相の半導体モジュール300のいずれか1個にサーミスタ101を内蔵することで、全相の半導体モジュール300の何れか1個の温度観測・加熱保護も可能となる。
【0029】
また、図4および図8に例示のように、温度検出システム100の一部もしくは全部がドライバIC202に内蔵されている構成とすることが可能である。
このようにすることで、温度検出システム100の一部もしくは全部がドライバIC202に内蔵されていることにより、基板実装面積の削減、製品の小型化に貢献する。また、配線長が短くなることにより、ノイズ耐性が向上し、配線ロスによる損失を軽減することが可能となる。
【0030】
さらに、図9に例示のように、前記に加えて、電力変換装置の始動時、ソーク時、ソフトスタート、ソフトエンド処置などのタイミングで、直流電流源103からの直流電流値を増減させる構成とすることが可能である。
このようにすることで、上記タイミングにて、直流電流源103からの電流値を変化させることで、その変化量から電力変換装置におけるオン固着、天絡などの故障診断を実施可能となる。例えば、直流電流源103の出力直流電流の直流電流値を動的に増加制御あるいは減少制御し、当該制御による温度検出システム(回路)の出力電圧V0を、マイコン等のA/Dモニタで変化量を確認することで、故障診断を行うことが可能である。
かかる故障診断を、図9に例示の、始動時、ソフトスタート時、電力変換時、ソフトエンド時、およびソーク時の少なくとも一つの時に、あるいは各々の時に、定期的に実施することで故障検知の信頼度が向上する。
【0031】
なお、上記サーミスタは、NTC型とした場合を主体として記載したが、NTC型サーミスタに替えて、PTC型としても良い。
このようにすることで、温度に対して出力特性が正特性となり、電流源103からサーミスタ101に直接直流電流Iを流すことで、PTC側では高温側ほどサーミスタ101の抵抗値Rthが大きくなることから、オフセット電圧IRthが生じ、高温側における出力ダイナミックレンジが上昇する。
【0032】
実施の形態2.
以下に実施の形態2を図10に基づいて説明する。
図10は、実施の形態2における温度検出回路の一例である。
【0033】
本実施の形態2の温度検出システム100は、サーミスタ101、直流電圧源102、直流電流源103、抵抗104を有しており、サーミスタ101は正の温度係数を持つPTC型であり、直流電圧源102側に前記PTCサーミスタ101を接続し、グランド側に抵抗器104を接続する構成とする。直流電流源103からPTCサーミスタ101と抵抗器104の間に電流を供給し、サーミスタ101と抵抗器104の間を温度検出回路の出力Voとする。
【0034】
以上、実施の形態2に係る温度検出回路の構成によれば、
直流電流源103から抵抗104に直接直流電流Iを流すことで、オフセット電圧が生じ、電圧範囲を調整可能となる。温度検出回路の出力範囲をオフセット調整可能となることから、観測範囲の切り替え、製造ラインでの調整、あるいは、実施の形態1で例示したように、前記直流電流値を動的に切り替えることで温度検出回路の故障検知などのフェールセーフが可能となる。
【0035】
なお、本実施の形態2における上記サーミスタは、PTC型である場合を例示したが、PTC型サーミスタに替えて、NTC型としても良い。このようにすることで、温度に対して出力特性が負特性となり、温度検出回路の出力範囲をオフセット調整可能となることから、観測範囲の切り替え、製造ラインでの調整、あるいは、実施の形態1で示したように、前記直流電流値を動的に切り替えることで温度検出回路の故障検知などのフェールセーフが可能となるなど、同様の効果が期待できる。
【0036】
低温側の出力特性が重要である場合、あるいは高温側の出力特性が重要である場合と、用途に応じて実施の形態1と実施の形態2を適用することで、より効果的に温度検出が可能となる。
【0037】
本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、実施の形態に記載された特徴のみの適用に限られるものではなく、適宜変更可能である。
例えば、抵抗104は、一つではなく、複数の抵抗を直列または並列に接続してもよい。またサーミスタ101に直列または並列に抵抗を追加してもよい。抵抗器追加によって出力特性の調整をより精密に行うことが可能となる。
【0038】
なお、各図中、同一符合は同一または相当部分を示す。
なお、本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
なお、各実施の形態を適宜、組み合わせ、変形、省略することができる。
【符号の説明】
【0039】
100 温度検出システム、101 温度検出素子、102 直流電圧源、103 直流電流源、103io 直流電流出力端、104 抵抗、105 マイクロコントローラー、105101-104 接続部、200 電力変換装置、201 半導体スイッチング素子、202 ドライバIC、300 半導体モジュール、Vcc 正電源電圧、GND グランド。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B