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特許7183344ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板
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  • 特許-ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/267 20210101AFI20221128BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20221128BHJP
   D06M 13/513 20060101ALI20221128BHJP
   C03C 25/25 20180101ALI20221128BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20221128BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20221128BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20221128BHJP
【FI】
D03D15/267
D03D1/00 A
D06M13/513
C03C25/25
H05K1/03 610T
B29B11/16
B29K105:08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021108824
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2022-01-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 周
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-116793(JP,A)
【文献】特開2021-063320(JP,A)
【文献】特開2005-089691(JP,A)
【文献】特開2012-097165(JP,A)
【文献】特開昭56-166269(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065940(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
D06M13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロスであって、シランカップリング剤で表面処理されており、かつ前記ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物が、5.00×10-3個/μm以下の範囲であるガラスクロス。
【請求項2】
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて2.0×10-3以下である、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項3】
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて1.7×10-3以下である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項4】
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて1.5×10-3以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項5】
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて1.2×10-3以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項6】
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて1.0×10-3以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項7】
前記シランカップリング剤が、下記一般式(1):
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
(式中、Xは、アミノ基、及びラジカル反応性を有する不飽和二重結合基の1つ以上を有する有機官能基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群より選ばれる基である)
で示されるシランカップリング剤を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項8】
プリント配線板基材用である、請求項1~のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載のガラスクロスと、熱硬化性樹脂と、無機充填材とを含有することを特徴とする、プリプレグ。
【請求項10】
請求項に記載のプリプレグを含むことを特徴とする、プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、および5G通信に代表される高速通信化に伴い、高速通信用プリント配線板では、伝送損失低減のため使用される絶縁材料の低誘電率化、および低誘電正接化が著しく進行している。
【0003】
高速通信用プリント配線板の絶縁材料としては、ビニル基又はメタクリロキシ基で末端を変性させたポリフェニレンエーテル等の低誘電熱硬化性樹脂(以下、「マトリックス樹脂」という。)をガラスクロスに含浸させ、乾燥させることで得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させた積層板が使用されており、ガラスクロスにも低誘電率、低誘電正接が求められている(特許文献1~2)。
【0004】
ガラス繊維の表面に有機物等の不純物が存在していると、絶縁体として用いた場合に絶縁体の絶縁抵抗性、および耐熱性の観点で問題が生じることが開示されている(特許文献3)。また、低誘電ガラスクロスは、高温の条件下において、ガラスを構成する成分が揮発し易い傾向にあるため、ガラス糸の破断強度の低下を抑制する観点からは、低温でヒートクリーニングをすることが好ましいと考えられており、比較的、低誘電ガラスクロスの方が、他のガラスクロスよりも有機残存物の影響を受け易いと考えられる(特許文献4)。
【0005】
特許文献5では、複数の空隙が形成された筒状の巻芯に、集束剤の付着したガラス繊維織物を巻き付け、加熱炉内を加熱し、巻芯を加熱炉内に配置し、ガラス繊維織物の周囲の加熱されたガスをガラス繊維織物及び空隙を通して巻芯内に流通させることで、ガラス繊維織物が巻物の状態でも、付着した有機物を効率よく短時間で取り除くことができるガラス繊維織物の脱油方法とその装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献6では、耐水性に優れる高ホウ酸ガラス繊維を効率よく製造するために、ガラスチョップドストランドの状態で350℃~650℃の高温でガラス繊維を加熱する方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献7では、シリカガラスクロスを加熱処理することによる、水酸基(-OH)量の低下によって、ガラスクロスの誘電正接を低下することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2019/065940号
【文献】国際公開第2019/065941号
【文献】国際公開第2014/049877号
【文献】特開2020-100913号公報
【文献】特開2002-143266号公報
【文献】特開平11-079780号公報
【文献】特開2021-63320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献5および6においても、ガラスクロスの状態での加熱温度は650℃以下であることから、ガラスクロスの表面に付着した有機物を従来法より短時間で効率的に除去することができておらず、ガラスクロスの低誘電率及び低誘電正接化に余地がある。また、特許文献7においても、加熱処理後のガラスクロスの誘電正接についてのみが報告されており、シランカップリング剤等の表面処理剤が付着した処理反の状態でのガラスクロスの誘電正接については、報告されていない。プリント配線板用のガラスクロスは、基板の絶縁信頼性向上のために、樹脂とガラスクロスの密着性を増すことが可能なシランカップリング剤等の表面処理を行うことが一般的である。したがって、加熱処理後のガラスクロスだけでは、実用性はなく、処理反の状態でも低い誘電正接を示すガラスクロスの提案が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ガラスクロスの誘電正接を増加させる一因が、ガラスクロス表面に付着したカーボンや残留糊剤劣化物、表面処理剤凝集物等の有機物の粒状異物にあることを見出した。そこで、ガラス繊維の破断強度低下の抑制の観点から従来は避けられていた、ガラスクロスの表面温度が650℃よりも高い温度でガラスクロスを加熱することで、従来よりも、ガラスクロスの表面に付着しているカーボンや有機物を短時間で除去するだけでなく、シランカップリング剤の凝集物の付着を併せて抑制することで、ガラスクロス処理反でも低誘電正接化が可能であることを見出し、本発明に至った。本発明の態様の一部を以下に例示する。
<1>
複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロスであって、前記ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物が、5.00×10-3個/μm以下の範囲であるガラスクロス。
<2>
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて2.0×10-3以下である、項目1に記載のガラスクロス。
<3>
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて1.7×10-3以下である、項目1又は2に記載のガラスクロス。
<4>
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて1.5×10-3以下である、項目1~3のいずれか1項に記載のガラスクロス。
<5>
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて1.2×10-3以下である、項目1~4のいずれか1項に記載のガラスクロス。
<6>
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて1.0×10-3以下である、項目1~5のいずれか1項に記載のガラスクロス。
<7>
シランカップリング剤で表面処理されている項目1~6のいずれか1項に記載のガラスクロス。
<8>
前記シランカップリング剤が、下記一般式(1):
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
(式中、Xは、アミノ基、及びラジカル反応性を有する不飽和二重結合基の1つ以上を有する有機官能基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群より選ばれる基である)
で示されるシランカップリング剤を含む、項目7に記載のガラスクロス。
<9>
プリント配線板基材用である、項目1~8のいずれか1項に記載のガラスクロス。
<10>
項目1~9のいずれか1項に記載のガラスクロスと、熱硬化性樹脂と、無機充填材とを含有することを特徴とする、プリプレグ。
<11>
項目10に記載のプリプレグを含むことを特徴とする、プリント配線板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガラスクロスの表面に付着している、カーボンもしくは有機物の粒状異物を抑制または除去することで、誘電正接を低下させたガラスクロス、並びにそれを用いるプリプレグ、及びプリント配線板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、ガラスクロス表面に付着している粒状異物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0014】
〔ガラスクロス〕
本実施形態のガラスクロスは、複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロスである。
【0015】
〔平均フィラメント径〕
ガラスフィラメントの平均フィラメント径は、好ましくは2.5~9.0μmであり、より好ましくは2.5~7.0μmであり、さらに好ましくは3.5~7.0μmであり、よりさらに好ましくは3.5~5.0μmであり、特に好ましくは3.5~4.5μmである。
【0016】
〔打ち込み密度〕
ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度は、好ましくは10~120本/inch(=10~120本/25.4mm)であり、より好ましくは40~100本/inchであり、さらに好ましくは40~100本/inchである。
【0017】
〔布重量〕
また、ガラスクロスの布重量(目付け)は、好ましくは8~250g/m2であり、より好ましくは8~100g/m2であり、さらに好ましくは8~80g/m2であり、特に好ましくは8~50g/m2である。
【0018】
〔織り構造〕
ガラスクロスの織り構造については、特に限定されないが、例えば、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り、等の織り構造が挙げられる。このなかでも、平織り構造が好ましい。
【0019】
〔ガラス糸を構成する元素〕
ガラス糸を構成する元素としては、Si、B、Al、Ca、Mg、P等が挙げられる。シリカヤーン又は石英ガラスヤーンとして知られるSi含量が95質量%以上のガラス糸、もしくは、B含量が10質量%を超えるガラス糸が、低誘電ガラスクロス用のガラス糸として使用される。
【0020】
〔低誘電ガラスクロスに使用されるガラス糸〕
低誘電ガラスクロスに用いられる、高Si含量ガラス糸のSi含量は、SiO2換算で、好ましくは95~100質量%であり、より好ましくは96~99.97質量%であり、さらに好ましくは97~99.95質量%であり、よりさらに好ましくは98~99.90質量%である。Si含量が95質量%以上であることにより、ガラスクロスの誘電率がより低下する傾向にある。
【0021】
低誘電ガラスクロスに用いられる、高B含量ガラス糸のSi含量、B含量、Ca含量、Mg含量は以下のとおりである。Si含量は、SiO2換算で、好ましくは45~60質量%であり、より好ましくは46~58質量%であり、さらに好ましくは47~56質量%であり、よりさらに好ましくは48~54質量%である。Siはガラス糸の骨格構造を形成する成分であり、Si含量が45質量%以上であることにより、ガラス糸の強度がより向上し、ガラスクロスの製造工程及びガラスクロスを用いたプリプレグの製造などの後工程において、ガラスクロスの破断がより抑制される傾向にある。また、Si含量が45質量%以上であることにより、ガラスクロスの誘電率がより低下する傾向にある。Si含量が60質量%以下であることにより、ガラスフィラメントの製造過程において、溶融時の粘度がより低下し、より均質なガラス組成のガラス繊維が得られる傾向にある。このため、得られるガラスフィラメントに部分的に失透し易い部位、又は部分的に気泡が抜け難い部位が、発生し難くなることから、ガラスフィラメントに局所的に強度の弱い部位が生じ難くなり、結果として均質なガラスフィラメントを用いて得られるガラス糸から構成されるガラスクロスは、破断し難いものとなる。Si含量は、ガラスフィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。
【0022】
高B含量ガラス糸のB含量は、B23換算で、好ましくは15~30質量%であり、より好ましくは17~28質量%であり、さらに好ましくは20~27質量%であり、よりさらに好ましくは21~25質量%であり、さらにより好ましくは21.5~24質量%である。B含量が15質量%以上であることにより、誘電率がより低下する傾向にある。また、B含量が30質量%以下であることにより、耐吸湿性が向上し、絶縁信頼性がより向上する傾向にある。B含量は、ガラスフィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。なお、ガラスフィラメント作製中にB含量が変動し得る場合には、それを予め見越して、仕込量を調整することができる。
【0023】
高B含量ガラス糸のCa含量は、CaO換算で、好ましくは4~10質量%であり、好ましくは5~9質量%であり、より好ましくは5~8.5質量%である。Ca含量が4質量%以上であることにより、ガラスフィラメントの製造過程において、溶融時の粘度がより低下し、より均質なガラス組成のガラス繊維が得られる傾向にある。また、Ca含量が10質量%以下であることにより、誘電率がより向上する傾向にある。Ca含量は、ガラスフィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。
【0024】
高B含量ガラス糸のMg含量は、MgO換算で、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以上1質量%以下であり、よりさらに好ましくは0.05質量%以上0.6質量%以下であり、さらにより好ましくは0.05~0.3質量%である。Mg含量が5質量%以下であることにより、ガラスクロス製造時の開繊工程または表面処理工程等において、ガラスクロスが濡れた状態でスクイズロールまたはニップロール等を通過する際に、破断が生じ難くなる傾向にある。また、Mg含量が5質量%以下のとき、ガラスフィラメント製造時の相分離が抑制され、得られるガラスフィラメントの耐吸湿性がより向上する。これにより、得られるプリント配線板は、高湿度環境の使用環境の影響を受け難く、誘電率の環境依存性を低減することができる。Mg含量は、ガラスフィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。
【0025】
高B含量ガラス糸のP含量は、P24換算で、好ましくは3.0~8.0質量%であり、より好ましくは3.5~7.5質量%であり、更に好ましくは3.7~7.0質量%である。P含量が3.0質量%以上であることにより、ガラスフィラメントの製造過程において、溶融時の粘度がより低下し、より均質なガラス組成のガラス繊維が得られる傾向にある。また、P含量が8.0質量%以下であることにより、誘電率がより向上する傾向にある。P含量は、ガラスフィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。
【0026】
なお、上記各含量は、ICP発光分光分析法により測定することができる。具体的には、Si含量及びB含量は、秤取したガラスクロスサンプルを炭酸ナトリウムで融解した後、希硝酸で溶解して定容し、得られたサンプルをICP発光分光分析法により測定して得ることができる。また、Al含量、Ca含量、Mg含量、及びP含量は、秤取したガラスクロスサンプルを硫酸、硝酸及びフッ化水素により加熱分解した後、希硝酸で溶解して定容し、得られたサンプルをICP発光分光分析法により測定して得ることができる。なお、ICP発光分光分析装置としては、日立ハイテクサイエンス社製のPS3520VDD IIを用いることができる。
【0027】
ガラス糸は複数本のガラスフィラメントを束ね、必要に応じて撚って得られるものであり、ガラスクロスは上記ガラス糸を経糸及び緯糸として製織して得られるものである。ガラス糸はマルチフィラメント、ガラスフィラメントはモノフィラメントにそれぞれ分類される。
【0028】
〔ガラスのバルク誘電正接〕
サイジング剤の熱劣化物や表面処理剤の残留物および変性物の存在によって、誘電正接の増加が顕著にみられるガラス種は、低誘電正接であるほど起き易いことが本発明者によって、明らかとなった。したがって、本発明の効果が発現し易いガラスのバルク誘電正接の範囲は、10GHzにおいて、2.0×10-3以下であることが好ましく、1.7×10-3以下がより好ましく、1.5×10-3以下がさらに好ましく、1.2×10-3以下がより更に好ましく、1.0×10-3以下が特に好ましい。
【0029】
また、各ガラスの組成とバルク誘電正接は次のような関係を示す。
SiO2換算で99質量%以上のガラス:バルクの誘電正接≦1.2×10-3
SiO2換算で50%以上、B23換算で20%以上、P25換算で3%以上のガラス:バルクの誘電正接≦1.7×10-3
SiO2換算で50%以上、B23換算で20%以上、SrO換算で0.4%以上のガラス:バルクの誘電正接≦1.7×10-3
【0030】
〔カーボンもしくは有機物の粒状異物〕
本実施形態に係るカーボンもしくは有機物の粒状異物とは、マイクロスコープや走査型電子顕微鏡等によって、ガラスクロスを構成するガラスフィラメントの表面に付着していることが観察される、カーボンもしくは有機物の不定形の粒子である。前記不定形粒子のサイズは、数10nm~数μmであることが通常であるが、糊剤の種類やヒートクリーニングの条件、表面処理の条件によっては前記のサイズ範囲以外となることもある。一例として、ガラスクロス表面に付着している粒状異物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図1に示す。前記不定形粒子の組成がカーボンであるか、有機物であるか、無機物であるかは、SEM-EDXや顕微ラマン分光測定により判別が可能である。
【0031】
前記カーボンもしくは有機物の粒状異物は、付着頻度が増加するとガラスクロスの誘電正接を上昇させる傾向にある。ガラスクロスを構成する低誘電ガラスの低い誘電正接を発揮させるには、前記カーボンもしくは有機物の粒状異物の付着頻度が5.00×10-3個/μm以下であることが好ましく、4.00×10-3個/μm以下であることがより好ましく、3.00×10-3個/μm以下であることが更に好ましい。また、付着頻度の下限値は、例えば、0個/μmでよく、または0個/μmを超えてよい。
【0032】
〔ガラスクロスの製造方法〕
本実施形態に係るガラスクロスの製造方法は、ガラスクロスの表面温度が650℃より高い温度で、ガラスクロスを加熱する工程を含むことを特徴とする。ガラスクロスの表面温度が650℃より高くなるようにガラスクロスを加熱することによって、ガラスクロス表面に付着している有機物を効率よく除去したり、有機物の除去時間を短縮したりすることができる。ガラスクロスの加熱は、逐次的もしくは連続的に、閉鎖系もしくは開放系で、行われることができ、または閉鎖系と開放系を組み合わせて行われることができる。生産性の観点から、巻出機構と巻取機構と有する装置を用いて、Roll-to-Rollでガラスクロスを加熱処理する方式が特に好ましい。
【0033】
閉鎖系の場合には、加熱手段の観点から、ガラスクロスを加熱炉内に配置することが好ましく、かつ/又は貯蔵スペースおよび加熱範囲の観点から、ガラスクロスを巻物の状態で貯蔵しながら加熱することが好ましい。また、有機物除去の効率を上げたり、有機物の除去時間を短縮したりするという観点から、加熱炉内でガラスクロスを搬送しながら加熱することも好ましい。
【0034】
開放系の場合には、被加熱面積の観点から、ガラスクロスを搬送させながら加熱することが好ましい。ガラスクロスの搬送は、例えば、巻出機構と巻取機構により行われることができる。
【0035】
ガラスクロスを加熱する手段は、ガラスクロス表面温度が650℃より高くなるように加熱が行なわれる限り、既知の加熱方法、加熱媒体、加熱機構、加熱装置および加熱部品でよく、例えば、加熱炉内でのガラスクロスの加熱、加熱部とガラスクロスの接触、高温蒸気をガラスクロスに当てること等でよい。
【0036】
〔加熱炉〕
加熱炉の加熱手段としては、ガラスクロスの表面温度が650℃よりも高い温度となるように加熱できるのであれば、電気式ヒーター、バーナーなど種々のものが考えられ、特定の手段のみに限定されない。また、複数の手段を組み合わせて、加熱をしてもよいが、ガラスクロスを酸素濃度10%以上の雰囲気下で加熱することが好ましく、そのためには、ガス式シングルラジアントチューブバーナー、もしくは、電気式ヒーターを用いることが好ましい。
【0037】
加熱炉は、加熱効率の観点から、加熱炉内で生成したガスを排出する手段、および/または空気循環手段を備えることが好ましい。ガス排出手段は、例えば、ノズル、ガス管、小穴、ガス抜き弁などでよい。空気循環手段は、例えば、ファン、空気調和設備などでよい。
【0038】
また、ガラスクロス表面に付着している有機物を効率よく除去するためには、ガラス繊維織物を巻芯に巻いて、所定の雰囲気温度でガラスクロスを加熱するバッチ方式よりも、ガラスクロスを連続的に加熱炉に通しながら、加熱することが可能な連続方式が好ましい。
【0039】
ガラスクロス表面に付着している有機物を十分に除去するためには、加熱温度としては、ガラスクロスの表面温度が650℃よりも高い温度が好ましく、より好ましくは700℃以上、さらに好ましくは750℃以上、特に好ましくは800℃以上である。ガラスクロスの表面温度は、例えば、熱電対、非接触型温度計などにより測定されることができる。
【0040】
ガラスクロスの表面温度が所定の温度に到達してから、冷却されるまでの加熱時間は、5秒以上が好ましく、8秒以上がより好ましく、10秒以上がさらに好ましく、15秒以上が特に好ましい。加熱時間が5秒よりも短い場合、上記有機物を十分に除去することが困難である。
また、ガラスクロスの加熱時間は、生産性およびガラスクロスへのダメージを軽減するという観点から、上限は60秒未満が好ましく、55秒以下がさらに好ましく、50秒以下が特に好ましい。
【0041】
また、上記有機物の除去のし易さの観点から、ガラスクロスを加熱する際の酸素濃度は、10%以上が好ましく、より好ましくは12%以上、さらに好ましくは13%以上、特に好ましくは15%以上である。酸素濃度は、加熱炉内で生成したガスを排出しながら、空気循環手段によって10%以上に調整されることができる。
【0042】
〔ガラスクロスを加熱するための接触部材〕
ガラスクロスを加熱する方法として、上記加熱炉を使用してもよいが、低ランニングコストの観点から、所定の温度に加熱した部材とガラスクロスを接触させることで、ガラスクロスを加熱してもよい。
【0043】
ガラスクロスの表面温度が650℃を超えるように加熱できれば、接触部材の形状は特に限定されないが、ガラスクロスの搬送のし易さから、ロール形状が好ましい。ロール形状でガラスクロスを加熱することが可能な部材としては、高温領域での使用が可能で、幅方向の温度のばらつきが比較的少ない、誘導発熱方式で加温するロールが好ましい。接触部材でガラスクロスを加熱するときには、接触部材の温度とガラスクロスの表面温度が概ね等しいことが考えられる。
【0044】
また、ガラスクロスを連続加熱するにつれ、加熱ロールに付着する炭化物を除去するために、上記加熱ロール方式は、ロールに付着した汚れや異物を除去する機構、例えば、ブレード等の機構を備えた方式であることが好ましい。
【0045】
〔高温蒸気をガラスクロスに適用すること〕
ガラスクロスに適用される蒸気は、例えば、揮発性溶媒、水蒸気、水蒸気以外のガスなどを含んでよいが、人体への毒性の観点やガラス繊維に用いられる集束剤の分解が促進し易い観点から水蒸気が好ましい。その高温蒸気の温度は、ガラスクロスの表面温度が650℃よりも高い温度にするために、必要であれば、高温蒸気と加熱空気を任意の割合で供給できる方法を用いても良い。高温蒸気の温度は、400℃以上であり、450℃以上が好ましく、550℃以上がより好ましく、600℃以上がさらに好ましく、650℃以上が特に好ましい。高温蒸気適用手段は、限定されるものではないが、噴霧、シャワー拡散、ジェットノズルなどでよい。代替的には、加熱炉から排出したガスを高温蒸気として再利用することがある。
【0046】
〔ガラスクロスの製造装置〕
本実施形態に係るガラスクロスの製造装置は、上述のとおり、ガラスクロスの表面温度が650℃を超えるようにガラスクロスを加熱することができる。より詳細には、ガラスクロスの製造装置は、下記ア~ウの少なくとも1つであるように構成されることができる:
ア.巻出機構と巻取機構を有し、ガラスクロスを搬送させながら、ガラスクロスの表面温度が650℃よりも高い温度でガラスクロスを加熱することが可能な加熱炉と、加熱炉内の酸素濃度が10%以上の雰囲気を維持又は調整するための空気循環手段とを有する、ガラスクロスの製造装置;および
イ.巻出機構と巻取機構を有し、ガラスクロスを搬送させながら、ガラスクロスと接触させることで、ガラスクロスの表面温度が650℃よりも高い温度でガラスクロスを加熱することが可能な接触部材を有する、ガラスクロスの製造装置;および
ウ.400℃以上の温度の蒸気をガラスクロスに当てて、ガラスクロスの表面温度が650℃よりも高い温度でガラスクロスを加熱することが可能な蒸気適用手段を有する、ガラスクロスの製造装置。
【0047】
巻出機構と巻取機構は、例えば、少なくとも一対のロール、Roll tо Roll方式などでよい。加熱炉、空気循環手段、接触部材、および蒸気適用手段は、ガラスクロスの製造方法において説明されたとおりである。
【0048】
構成ア~ウを有するガラスクロスの製造装置は、単独で、又は組み合わせられて使用されることができる。また、構成イを有するガラスクロスの製造装置は、所望により、空気循環手段、接触部材に付着した汚れや異物を除去する機構などを具備してよい。構成ウを有するガラスクロスの製造装置は、所望により、巻出機構と巻取機構を有し、ガラスクロスを搬送させながら加熱してよい。
【0049】
〔ガラスクロスの誘電正接測定方法〕
本実施形態の誘電特性評価方法は、共振法を用いてガラスクロスの誘電特性を測定する工程を含む。上記測定工程における測定方法は、共振法を用いた測定方法であれば、特定の方法のみに限定されない。当該測定方法によれば、測定サンプルとしての基板を作製して誘電特性を評価する従来の測定方法に対し、簡便にかつ精度よく測定することができる。共振法を用いることによってガラスクロスの誘電特性を簡便にかつ精度よく測定できる理由としては、理論に限定されないが、共振法は高周波数領域での低損失材料を評価することに適しているためである。共振法以外の誘電特性評価法としては集中定数法および反射伝送法が知られている。集中定数法では測定資料を2枚の電極で挟んでコンデンサを形成する必要があるため、オペレーションが非常に煩雑であり、反射伝送法では、低損失材料を評価する場合、ポートのマッチング特性の影響が強く表れ、試料の誘電正接を高精度に評価することが困難といった問題点がある。以上のことから当該ガラスクロスの誘電特性の評価法は共振法が好ましい。
【0050】
本測定工程において、共振法を用いた好ましい測定機器として、スプリットシリンダー共振器、開放型共振器、及びNRDガイド励振誘電体共振器が挙げられる。しかしながら、共振法の原理を利用していれば、上記測定機器以外でガラスクロスの誘電特性を評価してもよい。
【0051】
高速通信用プリント配線板用に用いられる上記ガラスクロスの誘電特性を測定するため、測定機器の測定可能範囲は、誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)について、それぞれDk=1.1Fm-1~50Fm-1、Df=1.0×10-6~1.0×10-1の範囲が好ましく、Dk=1.5Fm-1~10Fm-1、Df=1.0×10-5~5.0×10-1の範囲がより好ましく、Dk=2.0Fm-1~5Fm-1、Df=5.0×10-5~1.0×10-2の範囲がさらに好ましい。
【0052】
測定機器の測定可能な周波数は10GHz以上であることが好ましい。周波数が10GHz以上であると、高速通信用プリント配線板用基板のガラスクロスとして実際に使用される場合に想定される周波数帯領域での特性評価を行うことが可能である。
【0053】
より大面積でガラスクロスの誘電特性を測定し、当該測定結果が予め設定された基準値の範囲内であるかを判定するために、当該測定方法の測定面積は、10mm2以上であることが好ましい。当該測定方法の測定面積は、15mm2以上であることがより好ましく、20mm2以上であることが更に好ましい。
【0054】
〔ガラス糸とシランカップリング剤〕
ガラスクロスを構成するガラス糸(ガラスフィラメントを含む)は、好ましくはシランカップリング剤により表面処理される。シランカップリング剤としては、例えば、下記の一般式(1):
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
{式(1)中、Xは、ラジカル反応性を有する炭素-炭素二重結合などのラジカル反応性を有する不飽和二重結合基、またはアミノ基を少なくとも1つ有する有機官能基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、Rは、メチル基、エチル基及びフェニル基から成る群より選ばれる基である}
で示されるシランカップリング剤を使用することが好ましい。
【0055】
上記の一般式(1)中のYについては、アルコキシ基としては、何れの形態も使用できるが、ガラスクロスへの安定処理化のためには、炭素数5以下のアルコキシ基が好ましい。
【0056】
表面処理剤として、一般式(1)に示すシランカップリング剤は単体で使用しても良いし、一般式(1)中のXが異なる2種以上のシランカップリング剤を混合して使用しても良い。また、一般式(1)に示されるシランカップリング剤としては、例えば、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-N-γ-(N-ビニルベンジル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン及びその塩酸塩、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の公知の単体、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0057】
本実施形態のガラスクロスの表面処理方法は、特に限定されないが、例えば、シランカップリング剤を含む処理液によってガラスフィラメントの表面をシランカップリング剤で覆う被覆工程と、加熱乾燥によりシランカップリング剤をガラスフィラメントの表面に固着させる固着工程と、を有する方法が挙げられる。処理液は、0.1重量%~3.0重量%のシランカップリング剤を含有することが好ましい。被覆工程によって、ガラスフィラメントの表面をシランカップリング剤でほぼ完全に覆うことが好ましい。
【0058】
本実施形態のガラスクロスの表面処理方法は、ガラスフィラメントの表面に固着したシランカップリング剤の少なくとも一部を水等の洗浄液により洗浄することにより、シランカップリング剤の付着量を調整する調整工程を含んでいてもよい。洗浄は、高圧スプレー水等で行うことができる。
【0059】
シランカップリング剤を溶解又は分散させる溶媒としては、水、又は有機溶媒のいずれも使用できるが、安全性及び地球環境保護の観点から、水を主溶媒とすることが好ましい。水を主溶媒とした処理液を得る方法としては、シランカップリング剤を直接水に投入する方法、シランカップリング剤を水溶性有機溶媒に溶解させて有機溶媒溶液とした後に該有機溶媒溶液を水に投入する方法のいずれかの方法が好ましい。シランカップリング剤の処理液中での水分散性、安定性を向上させるために、界面活性剤を併用することも可能である。
【0060】
上記の被覆工程、固着工程、及び調製工程は、製織工程後に、ガラスクロスに対して行うことが好ましい。さらに、必要に応じて、製織工程後に、ガラスクロスのガラス糸を開繊する開繊工程を行ってもよい。なお、調整工程を製織工程後に行う場合には、調整工程が開繊工程を兼ねるものであってもよい。なお、開繊前後ではガラスクロスの組成は通常変化しない。上記製造方法により、ガラス糸を構成するガラスフィラメント1本1本の表面全体に、ほぼ完全、かつ均一にシランカップリング剤層を形成することができると考えられる。
【0061】
処理液をガラスクロスに塗布する方法としては、(A)処理液をバスに溜め、ガラスクロスを浸漬、通過させる方法(以下、「浸漬法」という。)、(B)ロールコーター、ダイコーター、またはグラビアコーター等で処理液をガラスクロスに直接塗布する方法等が可能である。上記(A)の浸漬法にて塗布する場合は、ガラスクロスの処理液への浸漬時間を0.5秒以上、1分以下に選定することが好ましい。
【0062】
ガラスクロスに処理液を塗布した後、溶媒を加熱乾燥させる方法としては、熱風、電磁波等の公知の方法が挙げられる。加熱乾燥温度は、シランカップリング剤とガラスとの反応が十分に行われるように、好ましくは90℃以上であり、より好ましくは100℃以上である。また、加熱乾燥温度は、シランカップリング剤が有する有機官能基の劣化を防ぐために、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは200℃以下である。
【0063】
開繊工程の開繊方法としては、特に限定されないが、例えば、ガラスクロスを、スプレー水(高圧水開繊)、バイブロウォッシャー、超音波水、マングル等で開繊加工する方法が挙げられる。開繊加工によるガラスクロスの引張強度の低下を抑えるため、ガラス糸を製織する際の接触部材の低摩擦化、又は集束剤の最適化と高付着量化等の対策を施すことが好ましい。開繊加工時に、ガラスクロスに掛ける張力を下げることにより、通気度をより小さくすることができる傾向にある。
【0064】
シランカップリング剤等の表面処理剤の凝集物に由来する粒状異物は疎水性が強く、また、ガラスフィラメント表面への付着力が強いため、スプレー水などの水洗では除去が困難である。このため、表面処理液を塗布、乾燥した後に有機溶媒洗浄などの工程により、除去する必要がある。表面処理剤の凝集物に由来する粒状異物を除去する工程は、開繊工程の前に実施しても、後に実施してもよい。また、有機溶媒洗浄を行う場合には、用いる有機溶媒は表面処理剤の凝集物に由来する粒状異物を除去できれば何でも良いが、トルエン、アセトン、メタノールなどが好ましい。
【0065】
開繊工程後においても、任意の工程を有していてもよい。任意の工程としては、特に限定されないが、例えば、スリット加工工程が挙げられる。
【実施例
【0066】
次に、本発明を実施例、比較例によってさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。各種の評価方法も以下に説明する。
【0067】
[ガラスクロスの厚さの測定方法]
ガラス長繊維及びガラス長繊維を用いたガラスクロスなどの製品の一般試験方法について規定する、JIS R 3420の7.10に準じて、マイクロメータを用いて、スピンドルを静かに回転させて測定面に平行に軽く接触させ、ラチェットが3回音をたてた後の目盛を読み取った。
【0068】
[目付(ガラスクロス重量)の測定方法]
クロスの目付は、クロスを所定のサイズでカットし、その重量をサンプル面積で除することで求めた。本実施例ではガラスクロスを10cm2のサイズに切り出し、その重量を測定することで、各ガラスクロスの目付を求めた。
【0069】
[換算厚み]
ガラスクロスは空気とガラスから成る不連続の面状体であるため、各ガラスクロスの目付を密度で除することで、共振法で測定する際に必要な換算厚みを算出した。
換算厚み(μm)=目付(g/m2)÷密度(g/cm3
【0070】
〔誘電正接の測定方法〕
主にマイクロ波回路に用いる誘電体基板用ファインセラミックス材料の、マイクロ波帯における誘電特性の測定方法について規定する、JIS R1641/IEC 62562に準拠して、各ガラスクロスの誘電率および誘電正接を測定した。具体的には、各共振器での測定に必要なサイズにサンプリングしたガラスクロスサンプルを23℃50%RHの恒温恒湿オーブンに8時間以上保管して調湿してからスプリットシリンダー共振器(EMラボ社製)およびインピーダンスアナライザー(Agilent Technologies社製)を用いて測定した。測定は各サンプルで5回実施し、その平均値を求めた。また、各サンプルの厚みは前記換算厚みを用いて、測定を行った。
【0071】
〔ガラスクロスAの製造方法〕
SiO2組成量が99.9質量%である石英ガラス繊維を用いて、経糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸、緯糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用し、エアジェットルームを用い、経糸66本/25mm、緯糸68本/25mmの織密度でガラスクロスAを製織した。
【0072】
〔ガラスクロスBの製造方法〕
SiO2組成量が50質量%、Al23組成量が15質量%、MgO組成量が5質量%、B23組成量が25質量%、P24組成量が5質量%である石英ガラス繊維を用いて、経糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸、緯糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用し、エアジェットルームを用い、経糸66本/25mm、緯糸68本/25mmの織密度でガラスクロスBを製織した。
【0073】
〔ガラスクロス表面に付着している粒状異物の頻度〕
4cm角サイズに切り出したガラスクロスを、カーボン両面テープを用いて、試料台に張り付けることで、測定の準備を行った。キーエンス社製超深度マルチアングル顕微鏡VHX-D500を用いて、経糸および緯糸に沿って、それぞれ1325μmずつ観察を行う操作を計5回実施し、カウントした粒状異物の数と観察長から、ガラスクロスに付着している粒状異物の頻度を求めた。
<測定条件>
測定モード:超深度観察モード
倍率:1000倍
プリセット:25mm
【0074】
〔粒状異物のラマン分析〕
粒状異物頻度の測定で確認できた粒状異物を、下記の条件でラマン分析することで、粒状異物をカーボン、有機物、無機物の3タイプに大別した。本操作による分類を粒状異物20点に実施することで、各組成分類の付着率を求めた。
<ラマン測定条件>
装置:Renishaws社製 in Via Reflex
レーザー:532nm
照射時間:10sec
レーザーパワー:5%
対物レンズ:×50
【0075】
〔ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物頻度〕
ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物頻度を下記、計算式に従い、求めた。
カーボンもしくは有機物の粒状異物頻度[×10-3 個/μm]=粒状異物頻度[×10-3 個/μm]×(カーボン粒状異物の付着率[%]+有機物の粒状異物付着率[%])÷100
【0076】
〔強熱減量〕
JIS R 3420に記載されている方法に従い、シランカップリング剤が処理されたガラスクロスの強熱減量を求めた。
【0077】
(実施例1)
ガラスクロスの巻出機構と巻取機構を有する装置の間に電気加熱方式の電気炉を設けた加熱装置でガラスクロスAの加熱処理を行った。ガラスクロスの表面温度をK熱電対を用いて、800℃となるように、加熱炉内温度を設定した。なお、加熱炉内は空気雰囲気下(酸素濃度20%)とした。加熱時間が30秒となるようにライン速度を設定し、ガラスクロスAを加熱脱油処理した。得られた脱油処理後のガラスクロスを、酢酸にてpH=3に調整した純水にシランカップリング剤である、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン;Z6030(ダウ・東レ社製)を0.9%分散させた処理液に浸漬し、加熱乾燥した。次にスプレーで高圧水開繊を実施し、110℃で1分乾燥させた。更にメタノールに浸漬させてガラスクロスの仕上げ洗浄を行い、粒状異物を除去したのち、1分乾燥することで、処理加工済のガラスクロスを得た。
【0078】
(実施例2)
ガラスクロスの表面温度を900℃、加熱時間を30秒とした以外は実施例1と同様の方法で、脱油処理ガラスクロスおよび処理加工済ガラスクロスを得た。
【0079】
(実施例3)
ガラスクロスの表面温度を700℃、加熱時間を50秒とした以外は実施例1と同様の方法で、脱油処理ガラスクロスおよび処理加工済ガラスクロスを得た。
【0080】
(実施例4)
ガラスクロスの表面温度を700℃、加熱時間を50秒として、ガラスクロスBを用いて、加工した以外は実施例1と同様の方法で、脱油処理ガラスクロスおよび処理加工済ガラスクロスを得た。
【0081】
(実施例5)
誘導発熱方式の加熱ロールを用いて、ガラスクロスを加熱脱油加工した以外は実施例1と同様の方法で、脱油処理ガラスクロスおよび処理加工済ガラスクロスを得た。
【0082】
(比較例1)
ガラスクロスの表面温度を400℃、加熱時間を72時間とした点とメタノールによる仕上げ洗浄を行わなかった点以外は実施例1と同様の方法で、脱油処理ガラスクロスおよび処理加工済ガラスクロスを得た。
【0083】
(比較例2)
ガラスクロスの表面温度を500℃、加熱時間を120秒とした以外は実施例1と同様の方法で、脱油処理ガラスクロスおよび処理加工済ガラスクロスを得た。
【0084】
(比較例3)
ガラスクロスの表面温度を400℃、加熱時間を72時間とした以外は実施例4と同様の方法で、脱油処理ガラスクロスおよび処理加工済ガラスクロスを得た。
【0085】
(比較例4)
500mm幅のガラスクロスAを内径3インチ(肉径=5mm)のSUS製コアに500m巻き取り、バッチ式の電気炉に投入した。その後、100℃/hrの速度で昇温を行い、ガラスクロス表面の温度が800℃に達するまで昇温を行った。なお、炉内の焼成雰囲気は大気雰囲気下(酸素濃度20%)とした。ガラスクロスの表面温度が800℃に達してから8hrの間、ガラスクロスを加熱し、加熱脱油処理を行った。冷却後、クロスを巻きだしたが、クロスの破れの箇所が多く、評価に値しない結果であった。
【0086】
(比較例5)
ガラスクロスBを用いたこと以外は、比較例4と同様の方法で、加熱脱油処理を行った。クロスを巻きだしたが、ガラスクロスが瓦解してしまい、評価に値しない結果であった。
【0087】
(比較例6)
ガラスクロスの表面温度を400℃、加熱時間を72時間とした点以外は実施例1と同様の方法で、脱油処理ガラスクロスおよび処理加工済ガラスクロスを得た。
【0088】
【表1】
【要約】
【課題】従来の加熱処理後ガラスクロスには実用性がなく、処理反の状態でも低い誘電正接を示すガラスクロスの提案が強く求められている。
【解決手段】複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロスであって、前記ガラスクロス表面に付着しているカーボンまたは有機物の粒状異物が、5.00×10-3個/μm以下の範囲内であるガラスクロスが提供される。
【選択図】図1
図1