(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】複合材構造体及び複合材構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/10 20060101AFI20221128BHJP
B29C 70/30 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
B29C70/10
B29C70/30
(21)【出願番号】P 2021116389
(22)【出願日】2021-07-14
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】寺坂 昭宏
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第3501804(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0001553(US,A1)
【文献】特開2020-29057(JP,A)
【文献】国際公開第2007/102573(WO,A1)
【文献】特開2019-136968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層される複数の繊維強化シートを有し、湾曲部で湾曲する第1構造体と、
積層される複数の繊維強化シートを有し、前記湾曲部と前記第1構造体に並んで配置される第2構造体との間に形成された隙間に設けられ、前記湾曲部に取り付けられるフィラーと、を備え、
前記第1構造体に含まれる複数の前記繊維強化シートは、繊維が延在する方向である繊維方向が第1方向である第1繊維強化シートを含む繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートを有し、
前記フィラーに含まれる複数の前記繊維強化シートは、前記第1繊維強化シートを含む繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートを有し、
前記第1構造体における全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率と、前記フィラーにおける全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率とが同等とされている複合材構造体。
【請求項2】
前記第1構造体に含まれる複数の前記繊維強化シートは、繊維方向が第2方向である第2繊維強化シートを有し、
前記フィラーに含まれる複数の前記繊維強化シートは、前記第2繊維強化シートを有し、
前記第1構造体における全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第2繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率と、前記フィラーにおける全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第2繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率とが同等とされている請求項1に記載の複合材構造体。
【請求項3】
前記第1構造体における全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する各繊維方向の前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率と、前記フィラーにおける全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する各繊維方向の前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率とが、全ての繊維方向において同等とされている請求項1または請求項2に記載の複合材構造体。
【請求項4】
前記第1構造体と前記フィラーとは、各繊維方向の前記繊維強化シートの積層方向の順番が同一とされている請求項3に記載の複合材構造体。
【請求項5】
前記第1構造体と前記フィラーとは、繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートを積層した同一の積層体から形成されている請求項1から請求項4のいずれかに記載の複合材構造体。
【請求項6】
積層される複数の繊維強化シートを有し湾曲部で湾曲する第1構造体と、積層される複数の繊維強化シートを有し前記湾曲部と前記第1構造体に並んで配置される第2構造体との間に形成された隙間に設けられ前記湾曲部に取り付けられるフィラーと、を備える複合材構造体の製造方法であって、
繊維が延在する方向である繊維方向が第1方向である第1繊維強化シートを含む繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートから前記第1構造体を製作する構造体製作工程と、
前記第1繊維強化シートを含む繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートから前記フィラーを製作するフィラー製作工程と、を備え、
前記構造体製作工程及び前記フィラー製作工程は、前記第1構造体における全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率と、前記フィラーにおける全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率とが同等となるように、前記第1構造体及び前記フィラーを製作する複合材構造体の製造方法。
【請求項7】
前記フィラー製作工程は、前記繊維強化シートを積層した積層体から切り出すことで前記フィラーを製作する請求項6に記載の複合材構造体の製造方法。
【請求項8】
前記フィラー製作工程は、前記フィラーの形状に応じた形状の前記繊維強化シートを積層することで前記フィラーを製作する請求項6に記載の複合材構造体の製造方法。
【請求項9】
前記第1構造体と前記フィラーとは、繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートを積層した同一の積層体から製作される請求項6に記載の複合材構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合材構造体及び複合材構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機の胴体、主翼等の航空機部品は、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の複合材が用いられる場合がある。航空機部品に用いられる複合材製の構造体として、湾曲する部品同士を接合し、湾曲部分同士の間に形成された隙間を、複合材で形成されたフィラーによって埋めたものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
複合材で形成されるフィラーは、例えば、型成形や引抜成形等によって形が付与される。型成形とは、所定の形状の型に対して、複合材料をローラー等で押し付けることで賦形する方法である。また、引抜成形とは、ローラー等で送り出した複合材料を、所定の形状の型に通すことで賦形する方法である。
賦形後のフィラーは、湾曲する構造体部品の所定の位置へ取り付けられる。その後、フィラーが取付けられた状態の構造体部品を、例えば、オートクレーブ等による加熱等で硬化させることで、フィラーと構造体部品とを接合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
型成形や引抜成形等によって1枚の繊維強化シート(例えば、プリプレグ)を賦形することでフィラーを製造した場合、フィラーの繊維方向(繊維の長手方向)は、全体で同じ方向となる。具体的には、例えば、繊維方向が所定方向の繊維強化シートを賦形することでフィラーを形成した場合には、このフィラーは、全体において、繊維方向が所定方向となる。
【0006】
一方、構造体部品は、繊維強化シートを複数積層した積層体(以下、「チャージ」と称する。)を変形させることで湾曲部等が形成される。このチャージは、強度を向上させるために、繊維方向(繊維が延在する方向)が異なる複数の強化繊維シートを積層することで形成されている。
【0007】
繊維強化シートは、繊維方向に膨張し難く、繊維方向と交差する方向には膨張し易いとの特性を有している。このため、繊維強化シートは、方向によって熱膨張比率が異なる。したがって、繊維方向が所定方向のみの繊維強化シートで形成されたフィラーと、繊維方向が異なる複数の繊維強化シートを有する構造体部品とでは、各方向の熱膨張比率が異なる。具体的には、所定方向においてはフィラーの方が構造体部品よりも熱膨張比率が低くなり、所定方向と交差する方向においてはフィラーの方が構造体部品よりも熱膨張比率が高くなる。したがって、フィラーと構造体部品とを接合するために、フィラーを取り付けた複合材を加熱又は冷却した場合、熱膨張差によってフィラー及び構造体部品に熱応力が発生する。これにより、フィラー及び/又は構造体部品に亀裂が発生したり、フィラーや構造体部品に反りが発生することによって構造体部品からフィラーが剥離したりする可能性がある。フィラーや構造体部品に亀裂や剥離が発生すると、フィラーと構造体部品とを接合した複合材構造体の強度が低下する可能性があった。
【0008】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、強度の低下を抑制することができる複合材構造体及び複合材構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の複合材構造体及び複合材構造体の製造方法は以下の手段を採用する。
本開示の一態様に係る複合材構造体は、積層される複数の繊維強化シートを有し、湾曲部で湾曲する第1構造体と、積層される複数の繊維強化シートを有し、前記湾曲部と前記第1構造体に並んで配置される第2構造体との間に形成された隙間に設けられ、前記湾曲部に取り付けられるフィラーと、を備え、前記第1構造体に含まれる複数の前記繊維強化シートは、繊維が延在する方向である繊維方向が第1方向である第1繊維強化シートを含む繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートを有し、前記フィラーに含まれる複数の前記繊維強化シートは、前記第1繊維強化シートを含む繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートを有し、前記第1構造体における全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率と、前記フィラーにおける全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率とが同等とされている。
【0010】
また、本開示の一態様に係る複合材構造体の製造方法は、積層される複数の繊維強化シートを有し湾曲部で湾曲する第1構造体と、積層される複数の繊維強化シートを有し前記湾曲部と前記第1構造体に並んで配置される第2構造体との間に形成された隙間に設けられ前記湾曲部に取り付けられるフィラーと、を備える複合材構造体の製造方法であって、繊維が延在する方向である繊維方向が第1方向である第1繊維強化シートを含む繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートから前記第1構造体を製作する構造体製作工程と、前記第1繊維強化シートを含む繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートから前記フィラーを製作するフィラー製作工程と、を備え、前記構造体製作工程及び前記フィラー製作工程は、前記第1構造体における全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率と、前記フィラーにおける全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率とが同等となるように、前記第1構造体及び前記フィラーを製作する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、複合材構造体の強度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の実施形態に係る複合材構造体を示す側面図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る複合材構造体に用いられる構造体部品の斜視図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る複合材構造体に用いられるフィラーの斜視図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る構造体部品に用いられる複数の繊維強化シートを示す斜視図である。
【
図5】本開示の実施形態に係るフィラーを製造する方法を示す図である。
【
図6】本開示の実施形態の変形例に係るフィラーを製造する方法を示す図である。
【
図7】本開示の実施形態に係る複合材構造体を製造する方法を示す図である。
【
図8】本開示の実施形態の変形例に係る複合材構造体を製造する方法を示す図である。
【
図9】本開示の実施形態の変形例に係る複合材構造体を製造する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示に係る複合材構造体及び複合材構造体の製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図面及び以下の説明では、フィラーの長手方向をX軸方向とし、X軸方向と直交する方向のうちの一方向をY軸方向とし、X軸方向及びY軸方向と直交する方向をZ軸方向とする。
【0014】
本実施形態に係る複合材構造体10は、
図1に示すように、複合材で形成された第1構造体部品(第1構造体)11と、複合材で形成され第1構造体部品11と接合する第2構造体部品(第2構造体)12と、複合材で形成され第1構造体部品11と第2構造体部品12との間に形成された隙間に設けられるフィラー13と、を備えている。複合材構造体10は、例えば、航空機構造体を構成する航空機部品であるストリンガ、スパー、フレーム、リブ等に用いられる。
【0015】
第1構造体部品11と第2構造体部品12とは、同様の構造とされている。また、第1構造体部品11と第2構造体部品12とは、フィラー13のY軸方向の中心を通過する基準面Bを基準として対称となるように並んで配置される。以下では、代表として主に第1構造体部品11の構造及び製造方法を説明し、第2構造体部品12の構造及び製造方法の詳細な説明は適宜省略する。
【0016】
第1構造体部品11は、繊維が延在する方向(以下、「繊維方向」と称する。)が異なる複数の繊維強化シート20(
図4参照)を積層することで構成されている。すなわち、第1構造体部品11は、繊維方向が異なる複数の繊維強化シート20を有している。繊維強化シート20は、所定方向に延在する複数の繊維に樹脂が含浸している。繊維強化シート20の例として、例えば、プリプレグが挙げられる。繊維強化シート20は、熱可塑性であってもよく、熱硬化性であってもよい。
【0017】
第1構造体部品11は、
図1及び
図2に示すように、X軸方向に直交する断面で切断した際の断面形状が略L状とされている。第1構造体部品11は、X軸方向及びZ軸方向に延在する板状の接合部14と、X軸方向及びY軸方向に延在する板状の平板部15と、接合部14と平板部15とを接続する湾曲部16と、を有している。
接合部14は、
図1に示すように、外周面が第2構造体部品12の接合部17の外周面と接合されている。
湾曲部16は、接合部14のZ軸方向の端部と、平板部15のY軸方向の端部とを接続している。湾曲部16は、X軸方向に直交する断面で切断した際の断面形状が略90度の円弧状とされている。湾曲部16の外周面(半径方向外側の面)は、第2構造体部品12の湾曲部19の外周面と対向するように配置されている。湾曲部16の外周面と第2構造体部品12の湾曲部19の外周面とは、離間している。
【0018】
フィラー13は、繊維方向が異なる複数の繊維強化シート20を有している(
図6参照)。繊維強化シート20を複数積層することで構成されている。フィラー13は、
図1に示すように、第1構造体部品11の湾曲部16の外周面と第2構造体部品12の湾曲部19の外周面との間に形成される隙間に設けられている。フィラー13は、
図3に示すように、X軸方向に延在する部材である。フィラー13は、X軸方向に直交する断面で切断した際の断面形状が略三角形状とされている。詳細には、斜辺に対応する面が湾曲部16及び湾曲部19に応じて凹むように湾曲している。以下、凹むように湾曲する面を湾曲面13aと称する。フィラー13の2つの湾曲面13aは、各々、湾曲部16の外周面及び湾曲部19の外周面に接合している。
【0019】
複合材構造体10を製造する方法について説明する。
まず、第1構造体部品11を製作する。第1構造体部品11の製作に用いるチャージ30Aを作成する方法について
図4を用いて説明する。
図4は、チャージ30Aを構成する複数の繊維強化シート20を分解した斜視図である。チャージ30Aは、繊維方向が異なる複数の繊維強化シート20を積層することで構成されている。
【0020】
複数の繊維強化シート20は、繊維方向がX軸方向(第1方向)である第1繊維強化シート20aと、繊維方向がY軸方向(第2方向)である第2繊維強化シート20bと、繊維方向がX軸方向と45度の角度を為す方向である第3繊維強化シート20cと、繊維方向がX軸方向と45度の角度を為す方向(第3繊維強化シート20cの繊維方向とは異なる方向)である第4繊維強化シート20dと、を有している。これらの複数の繊維強化シート20をZ軸方向に積層することで平板または平板に近い形状のチャージ30を製作する。詳細には、本実施形態では、一例として、
図4に示すように、Z軸方向の下端から、第1繊維強化シート20a,第2繊維強化シート20b,第4繊維強化シート20d,第3繊維強化シート20c,第2繊維強化シート20b,第1繊維強化シート20aの順番で積層している。
【0021】
チャージ30Aを製作すると、次に、チャージ30Aに対して曲げ加工を施す。このとき、
図2に示すように、曲げ線LがX軸方向に沿うように曲げ加工を施す。また、接合部14と平板部15とが略90度を為すように、曲げ加工を施す。
【0022】
このようにして、第1構造体部品11を製作する(構造体製作工程)。
次に、第2構造体部品12を第1構造体部品11と同様の方法で製作する。
【0023】
次に、フィラー13を製作する。フィラー13の製作に用いるチャージ30B(
図5参照)を作成する方法について説明する。チャージ30Bは、第1構造体部品11の製作に用いるチャージ30Aと同様に、繊維方向が異なる複数の繊維強化シート20を積層することで構成されている。
また、チャージ30Bと、チャージ30Aとは同一の構造をしている。すなわち、チャージ30Bも、チャージ30Aと同様に、Z軸方向の下端から、第1繊維強化シート20a,第2繊維強化シート20b,第4繊維強化シート20d,第3繊維強化シート20c,第2繊維強化シート20b,第1繊維強化シート20aの順番で積層することで平板または平板に近い形状とされている。
【0024】
チャージ30Bを製作すると、次に、
図5の矢印で示すように、チャージ30Bからフィラー13を切り出す。このようにして、フィラー13を製作する(フィラー製作工程)。このようにフィラー13をチャージ30Bから切り出すことで、容易にフィラー13を製作することができる。
【0025】
このように、本実施形態では、全ての繊維強化シート20に対する第1繊維強化シート20aの枚数の比率(以下、「枚数積層比率」と称する。)が、第1構造体部品11とフィラー13とで同一とされている。また、同様に、第2繊維強化シート20b、第3繊維強化シート20c及び第4繊維強化シート20dの枚数積層比率も、各々、第1構造体部品11とフィラー13とで同一とされている。
【0026】
本実施形態では、第1構造体部品11に含まれる各繊維強化シート20(第1繊維強化シート20a、第2繊維強化シート20b、第3繊維強化シート20c及び第4繊維強化シート20d)のZ軸方向の長さ(厚さ)と、フィラー13に含まれる各繊維強化シート20のZ軸方向の長さ(厚さ)とは、各々、同一である。したがって、枚数積層比率が同一である本実施形態では、第1構造体部品11における全ての繊維強化シート20のZ軸方向の長さの合計値に対する各繊維強化シート20のZ軸方向の長さの合計値の比率と、フィラー13における全ての繊維強化シート20のZ軸方向の長さの合計値に対する各繊維強化シート20のZ軸方向の長さの合計値の比率と、が同等となる。
第1構造体部品11における全ての繊維強化シートのZ軸方向の長さの合計値とは、換言すれば、チャージ30A(
図4参照)のZ軸方向の長さ(厚さ)である。同様に、フィラー13における全ての繊維強化シート20のZ軸方向の長さの合計値とは、換言すれば、チャージ30B(
図5参照)のZ軸方向の長さ(厚さ)である。また、各繊維強化シート20のZ軸方向の長さの合計値とは、換言すれば、各繊維強化シート20のZ軸方向の長さに、チャージ30A又はチャージ30Bに含まれる各繊維強化シート20の枚数を乗じた値である。すなわち、例えば、チャージ30Aに第1繊維強化シート20aが2枚含まれている場合には、第1繊維強化シート20aのZ軸方向の長さの合計値とは、第1繊維強化シート20aのZ軸方向の長さ×2となる。
なお、以下の説明において、第1構造体部品11又はフィラー13における全ての繊維強化シート20のZ軸方向の長さの合計値に対する各繊維強化シート20のZ軸方向の長さの合計値の比率のことを、単に「積層比率」と称する。
【0027】
また、本実施形態では、第1繊維強化シート20a、第2繊維強化シート20b、第3繊維強化シート20c及び第4繊維強化シート20dを積層する順番も、第1構造体部品11とフィラー13とで同一とされている。
【0028】
次に、
図1に示すように、第1構造体部品11の接合部14と第2構造体部品12の接合部17とを固定する。次に、第1構造体部品11及び第2構造体部品12にフィラー13を取り付ける。詳細には、第1構造体部品11の湾曲部16及び第2構造体部品12の湾曲部19にフィラー13を取り付け、湾曲部16と湾曲部19との間に形成される隙間をフィラー13で埋める。
【0029】
次に、第1構造体部品11、第2構造体部品12及びフィラー13を硬化させることで第1構造体部品11、第2構造体部品12及びフィラー13を接合する。第1構造体部品11、第2構造体部品12及びフィラー13を硬化させる方法は、特に限定されない。例えば、オートクレーブ等による加熱によって硬化させる。
このようにして、複合材構造体10を製造する。
【0030】
なお、フィラー13を製作する方法は、上述の方法に限定されない。例えば、
図6に示すように、Y軸方向の長さが異なる繊維強化シート20をZ軸方向に積層することでフィラー13を製作してもよい。すなわち、Z軸方向の上端から、Y軸方向の長さが徐々に長くなるように、第1繊維強化シート20a、第2繊維強化シート20b、第3繊維強化シート20c及び第4繊維強化シート20dを加工し、これらを積層することでフィラー13を製作してもよい。なお、この場合にも、各繊維強化シートの積層比率及び積層する順番は、第1構造体部品11の積層比率及び順番と同一とされる。
【0031】
このとき、全ての繊維強化シート20に対する第1繊維強化シート20aの積層比率が、後述するフィラー13における第1繊維強化シート20aの積層比率と同一又は同等とされている。また、同様に、第2繊維強化シート20b、第3繊維強化シート20c及び第4繊維強化シート20dの積層比率も、各々、フィラー13における第2繊維強化シート20b、第3繊維強化シート20c及び第4繊維強化シート20dの積層比率と同一又は同等とされている。
このようにフィラー13を製作することで、フィラー13を製作する際に、無駄となる繊維強化シート20の量を低減することができる。
【0032】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
繊維強化シート20は繊維方向には膨張し難く、繊維方向と交差する方向には膨張し易い。
本実施形態では、全ての繊維方向の繊維強化シート20(本実施形態では、第1繊維強化シート20a、第2繊維強化シート20b、第3繊維強化シート20c及び第4繊維強化シート20dの4種類の繊維強化シート20)の積層比率が、第1構造体部品11とフィラー13とで同一とされている。また、第2構造体部品12においても、同様に、積層比率がフィラー13と同一とされている。
これにより、全ての繊維方向において、第1構造体部品11,第2構造体部品12及びフィラー13の熱膨張比率が同等となる。したがって、第1構造体部品11及び第2構造体部品12にフィラー13を取り付けた状態で、第1構造体部品11、第2構造体部品12及びフィラー13を加熱又は冷却した際に、第1構造体部品11、第2構造体部品12及びフィラー13に亀裂や剥離がより生じ難い。よって、複合材構造体10の強度の低下を抑制することができる。
【0033】
また、本実施形態では、第1構造体部品11,第2構造体部品12及びフィラー13において、全ての繊維方向の繊維強化シート20の積層順番が同一とされている。これにより、第1構造体部品11,第2構造体部品12及びフィラー13は、積層方向においても熱膨張比率が同等となる。したがって、第1構造体部品11、第2構造体部品12及びフィラー13に亀裂や剥離がより生じ難い。よって、複合材構造体10の強度の低下をより抑制することができる。
【0034】
なお、本開示は、上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、
図1及び
図7に示すように、断面形状がL状の第1構造体部品11の湾曲部16にフィラー13を設ける例について説明したが、フィラー13を設ける構造体部品の形状はこれに限定されない。例えば、
図8に示すように、断面形状がZ状の構造部品111の湾曲部116にフィラー13を設けてもよい。また、
図9に示すように、断面形状がハット形状の構造部品211の湾曲部216にフィラー13を設けてもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、第1構造体部品11とフィラー13との積層比率を同一とする例について説明したが、本開示はこれに限定されない。積層比率は、同等であればよい。同等の比率とは、同一の比率はもちろん、第1構造体部品11とフィラー13との熱膨張差によって複合材構造体10が破損しない程度の比率の相違を含んでいる。
【0036】
また、上記実施形態では、第1繊維強化シート20a、第2繊維強化シート20b、第3繊維強化シート20c及び第4繊維強化シート20dの全ての積層比率が、第1構造体部品11とフィラー13とで同一とされる例について説明したが、本開示はこれに限定されない。何れか1種類の繊維強化シート20の積層比率を同一又は同等とするだけでもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、第1構造体部品11とフィラー13とで、第1繊維強化シート20a、第2繊維強化シート20b、第3繊維強化シート20c及び第4繊維強化シート20dの積層する順番を同一とする例について説明したが、本開示はこれに限定されない。積層する順番は、同等であればよい。同等の順番とは、同一の順番はもちろん、第1構造体部品11とフィラー13との熱膨張差によって複合材構造体10が破損しない程度の順番の相違を含んでいる。
【0038】
また、上記実施形態では、第1構造体部品11を製作するチャージ30Aと、フィラー13を製作するチャージ30Bとを別々に製作する例について説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、第1構造体部品11とフィラー13とは同一のチャージから製作してもよい。この場合には、まず、上述のチャージ30A,30Bと同様に、繊維方向の異なる複数の繊維強化シート20を積層することで平板状のチャージを作成する。次に、作成したチャージを、第1構造体部品11を製作するチャージ30Aとフィラー13を製作するチャージ30Bとに分割する。その後に、上述の説明と同様に、分割した各チャージ30A,30Bから第1構造体部品11及びフィラー13を製作する。
このようにすることで、積層比率及び順番を同一とした積層体を2つ形成し、各積層体から第1構造体部品11及びフィラー13を製作する場合と比較して、簡易に第1構造体部品11及びフィラー13の積層比率及び順番を同一とすることができる。
【0039】
以上説明した実施形態に記載の複合材構造体及び複合材構造体の製造方法は、例えば以下のように把握される。
本開示の一態様に係る複合材構造体は、積層される複数の繊維強化シート(20)を有し、湾曲部(16)で湾曲する第1構造体(11)と、積層される複数の繊維強化シート(20)を有し、前記湾曲部と前記第1構造体に並んで配置される第2構造体(12)との間に形成された隙間に設けられ、前記湾曲部に取り付けられるフィラー(13)と、を備え、前記第1構造体に含まれる複数の前記繊維強化シートは、繊維が延在する方向である繊維方向が第1方向(X軸方向)である第1繊維強化シート(20a)を含む繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートを有し、前記フィラーに含まれる複数の前記繊維強化シートは、前記第1繊維強化シートを含む繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートを有し、前記第1構造体における全ての前記繊維強化シートの積層方向(Z軸方向)の長さの合計値に対する前記第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率と、前記フィラーにおける全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率とが同等とされている。
【0040】
繊維強化シートは繊維方向には膨張し難く、繊維方向と交差する方向には膨張し易い。
上記構成では、第1構造体における全ての繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率と、フィラーにおける全ての繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率とが同等とされている。これにより、少なくとも第1繊維強化シートの繊維方向である第1方向において、第1構造体とフィラーとの熱膨張比率が同等となる。したがって、第1構造体にフィラーを取り付けた状態で、第1構造体及びフィラーを加熱又は冷却した際に、第1構造体及びフィラーに亀裂や剥離が生じ難い。よって、複合材構造体の強度の低下を抑制することができる。また、亀裂や剥離が生じ難いので、複合材構造体の形状を安定させることができる。
なお、同等の比率とは、同一の比率はもちろん、第1構造体とフィラーとの熱膨張差によって複合材構造体が破損しない程度の比率の相違を含んでいる。
また、例えば、第1構造体における全ての繊維強化シートに対する第1繊維強化シートの枚数の比率と、フィラーにおける全ての繊維強化シートに対する第1繊維強化シートの枚数の比率とを同等としてもよい。このように、枚数の比率を同等とすることで、積層方向の長さの合計値の比率を容易に同等とすることができる。
【0041】
また、本開示の一態様に係る複合材構造体は、前記第1構造体に含まれる複数の前記繊維強化シートは、繊維方向が第2方向(Y軸方向)である第2繊維強化シート(20b)を有し、前記フィラーに含まれる複数の前記繊維強化シートは、前記第2繊維強化シートを有し、前記第1構造体における全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第2繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率と、前記フィラーにおける全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第2繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率とが同等とされている。
【0042】
上記構成では、第1構造体における全ての繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する第2繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率と、フィラーにおける全ての繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する第2繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率とが同等とされている。これにより、第2方向においても、第1構造体とフィラーとの熱膨張比率が同等となる。したがって、第1構造体にフィラーを取り付けた状態で、第1構造体及びフィラーを加熱又は冷却した際に、第1構造体及びフィラーに亀裂や剥離がより生じ難い。よって、複合材構造体の強度の低下をより抑制することができる。
【0043】
また、本開示の一態様に係る複合材構造体は、前記第1構造体における全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する各繊維方向の前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率と、前記フィラーにおける全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する各繊維方向の前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率とが、全ての繊維方向において同等とされている。
【0044】
上記構成では、全ての繊維方向において、第1構造体とフィラーとの熱膨張比率が同等となる。したがって、第1構造体にフィラーを取り付けた状態で、第1構造体及びフィラーを加熱又は冷却した際に、第1構造体及びフィラーに亀裂や剥離がより生じ難い。よって、複合材構造体の強度の低下をより抑制することができる。
【0045】
また、本開示の一態様に係る複合材構造体は、前記第1構造体と前記フィラーとは、各繊維方向の前記繊維強化シートの積層方向の順番が同一とされている。
【0046】
上記構成では、積層方向においても熱膨張比率が同等となる。したがって、第1構造体にフィラーを取り付けた状態で、第1構造体及びフィラーを加熱又は冷却した際に、第1構造体及びフィラーに亀裂や剥離がより生じ難い。よって、複合材構造体の強度の低下をより抑制することができる。
【0047】
また、本開示の一態様に係る複合材構造体は、前記第1構造体と前記フィラーとは、繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートを積層した同一の積層体から形成されている。
【0048】
上記構成では、第1構造体とフィラーとは、繊維方向が異なる複数の繊維強化シートを積層した同一の積層体から形成される。これにより、第1構造体とフィラーとが、全ての繊維強化シートに対する各繊維方向の繊維強化シートの比率(以下、「積層比率」と称する。)が全ての繊維方向において同一となる。また、第1構造体とフィラーとが、各繊維方向の繊維強化シートの積層する順番も同一となる。したがって、第1構造体にフィラーを取り付けた状態で、第1構造体及びフィラーを加熱又は冷却した際に、第1構造体及びフィラーに亀裂や剥離がより生じ難い。よって、複合材構造体の強度の低下をより抑制することができる。
また、同一の積層体から第1構造体及びフィラーを形成しているので、積層比率及び順番を同一とした積層体を2つ形成し、各積層体から第1構造体及びフィラーを形成する場合と比較して、簡易に第1構造体及びフィラーの積層比率及び順番を同一とすることができる。
【0049】
本開示の一態様に係る複合材構造体の製造方法は、積層される複数の繊維強化シート(20)を有し湾曲部(16)で湾曲する第1構造体(11)と、積層される複数の繊維強化シート(20)を有し前記湾曲部と前記第1構造体に並んで配置される第2構造体(12)との間に形成された隙間に設けられ前記湾曲部に取り付けられるフィラー(13)と、を備える複合材構造体(10)の製造方法であって、繊維が延在する方向である繊維方向が第1方向(X軸方向)である第1繊維強化シート(20a)を含む繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートから前記第1構造体を製作する構造体製作工程と、前記第1繊維強化シートを含む繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートから前記フィラーを製作するフィラー製作工程と、を備え、前記構造体製作工程及び前記フィラー製作工程は、前記第1構造体における全ての前記繊維強化シートの積層方向(Z方向)の長さの合計値に対する前記第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率と、前記フィラーにおける全ての前記繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する前記第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率とが同等となるように、前記第1構造体及び前記フィラーを製作する。
【0050】
また、本開示の一態様に係る複合材構造体の製造方法は、前記フィラー製作工程は、前記繊維強化シートを積層した積層体(30B)から切り出すことで前記フィラーを製作する。
【0051】
また、本開示の一態様に係る複合材構造体の製造方法は、前記フィラー製作工程は、前記フィラーの形状に応じた形状の前記繊維強化シートを積層することで前記フィラーを製作する。
【0052】
また、本開示の一態様に係る複合材構造体の製造方法は、前記第1構造体と前記フィラーとは、繊維方向が異なる複数の前記繊維強化シートを積層した同一の積層体から製作される。
【符号の説明】
【0053】
10 :複合材構造体
11 :第1構造体部品(第1構造体)
12 :第2構造体部品(第2構造体)
13 :フィラー
13a :湾曲面
14 :接合部
15 :平板部
16 :湾曲部
17 :接合部
19 :湾曲部
20 :繊維強化シート
20a :第1繊維強化シート
20b :第2繊維強化シート
20c :第3繊維強化シート
20d :第4繊維強化シート
30 :チャージ
30A :チャージ
30B :チャージ(積層体)
111 :構造部品
116 :湾曲部
211 :構造部品
216 :湾曲部
【要約】
【課題】複合材構造体の強度の低下を抑制することを目的とする。
【解決手段】複合材構造体10は、湾曲部16で湾曲する第1構造体部品11と、湾曲部16と第2構造体部品12との隙間に設けられ、湾曲部16に取り付けられるフィラー13と、を備えている。第1構造体部品に含まれる複数の繊維強化シートは、繊維が延在する方向である繊維方向がX軸方向である第1繊維強化シートを含む繊維方向が異なる複数の繊維強化シートを有している。フィラー13に含まれる複数の繊維強化シートは、第1繊維強化シートを含む繊維方向が異なる複数の繊維強化シートを有している。第1構造体部品11における全ての繊維強化シートのZ方向の長さの合計値に対する第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率と、フィラー13における全ての繊維強化シートの積層方向の長さの合計値に対する第1繊維強化シートの積層方向の長さの合計値の比率とが同等とされている。
【選択図】
図1