(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】ナノエマルション光学材料
(51)【国際特許分類】
G02B 5/23 20060101AFI20221128BHJP
C09K 9/02 20060101ALI20221128BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20221128BHJP
C08K 5/1545 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
G02B5/23
C09K9/02 B
C08L29/04
C08K5/1545
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021151779
(22)【出願日】2021-09-17
(62)【分割の表示】P 2018529999の分割
【原出願日】2016-11-04
【審査請求日】2021-10-15
(32)【優先日】2015-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518067102
【氏名又は名称】インディゼン オプティカル テクノロジース オブ アメリカ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ロッシーニ クラウディオ
(72)【発明者】
【氏名】トレス-ピエルナ ヘクター
(72)【発明者】
【氏名】ルイス-モリーナ ダニエル
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-286317(JP,A)
【文献】特表2013-508535(JP,A)
【文献】特開平03-067240(JP,A)
【文献】特開平11-116565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/23
C09K 9/02
C09K 23/52
C08L 29/04
C08K 5/1545
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
87%~99%加水分解されている、10,000~250,000ダルトンの分子量を有するポリビニルアルコール(PVA)を含む固体ポリマーマトリックス、および
前記ポリマーマトリックス内に直接分散された、光学的相互作用材料を備える、複数の直径5~200ナノメートルのナノ液滴を備えるナノエマルション光学材料であって、
前記複数のナノ液滴は、前記光学的相互作用材料が溶解されたオイルを備え、該オイルが鉱物オイル、シリコーンオイル及び植物オイルから選択される少なくとも一つであ
り、
前記ナノエマルション光学材料は、オイルまたは光学的相互作用材料のポリマーマトリックスへの明白な拡散なしに、120℃で少なくとも6時間および加圧下で安定であり、
前記ポリマーマトリックス内に懸濁されたナノ液滴は、予めカプセル化されておらず、PVA以外の材料のカプセル壁または皮層によって閉じ込められていないものである、
前記ナノエマルション光学材料。
【請求項2】
前記ナノエマルション光学材料中のオイルの量は、重量で15%~60%である、請求項1に記載のナノエマルション光学材料。
【請求項3】
前記光学的相互作用材料は、フォトクロミック染料、蛍光染料、燐光染料、発光染料、サーモクロミック染料、およびアップコンバート染料からなる群から選択された染料を備える、請求項1に記載のナノエマルション光学材料。
【請求項4】
前記光学的相互作用材料は、フォトクロミック染料である、請求項1に記載のナノエマルション光学材料。
【請求項5】
前記光学的相互作用材料は、T型フォトクロミック染料である、請求項1に記載のナノエマルション光学材料。
【請求項6】
前記ナノエマルション光学材料中のフォトクロミック染料の量は、重量で0.19%~1.2%である、請求項4に記載のナノエマルション光学材料。
【請求項7】
前記複数のナノ液滴は、液晶材料、イオン性液体、および相変化材料のうちの1つ以上を備える、請求項1に記載のナノエマルション光学材料。
【請求項8】
前記複数のナノ液滴の直径は、150ナノメートル以下である、請求項1に記載のナノエマルション光学材料。
【請求項9】
ナノエマルション光学材料を作製する方法であって、
87%~99%加水分解されている、10,000~250,000ダルトンの分子量を有するポリビニルアルコール(PVA)を含むポリマー材料の溶液を溶媒中に形成するステップと、
光学的相互作用材料を含有する複数の直径5~200ナノメートルのナノ液滴を前記溶液中に懸濁させるステップと、
前記溶媒を抽出して、前記光学的相互作用材料を含有する前記ナノ液滴が直接分散された固体ポリマーマトリックスを備える透明なナノエマルション光学材料を得るステップと
を備える、方法であって、
前記複数のナノ液滴は、前記光学的相互作用材料が溶解されたオイルを備え、該オイルが鉱物オイル、シリコーンオイル及び植物オイルから選択される少なくとも一つであ
り、
前記ナノエマルション光学材料は、オイルまたは光学的相互作用材料のポリマーマトリックスへの明白な拡散なしに、120℃で少なくとも6時間および加圧下で安定であり、
前記ポリマーマトリックス内に懸濁されたナノ液滴は、予めカプセル化されておらず、PVA以外の材料のカプセル壁または皮層によって閉じ込められていないものである、
前記方法。
【請求項10】
前記ポリマー材料は、ポリビニルアルコール(PVA)を備え、前記溶媒は、水である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ナノエマルション光学材料中のオイルの量は、重量で乾燥フィルムの9%~60%である、請求9に記載の方法。
【請求項12】
前記光学的相互作用材料は、フォトクロミック染料、蛍光染料、燐光染料、発光染料、サーモクロミック染料、およびアップコンバート染料からなる群から選択された染料を備える、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記光学的相互作用材料は、フォトクロミック染料である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記光学的相互作用材料は、T型フォトクロミック染料である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノエマルション光学材料中のフォトクロミック染料の量は、重量で0.19%~1.2%である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
光学物品であって、
ナノエマルション光学材料のフィルム
を備え、前記フィルムは、
87%~99%加水分解されている、10,000~250,000ダルトンの分子量を有するポリビニルアルコール(PVA)を含む固体ポリマーマトリックス、および
前記ポリマーマトリックス内に直接分散された光学的相互作用材料を備える複数の直径5~200ナノメートルのナノ液滴
を備える、
光学物品であって、
前記複数のナノ液滴は、前記光学的相互作用材料が溶解されたオイルを備え、該オイルが鉱物オイル、シリコーンオイル及び植物オイルから選択される少なくとも一つであ
り、
前記ナノエマルション光学材料は、オイルまたは光学的相互作用材料のポリマーマトリックスへの明白な拡散なしに、120℃で少なくとも6時間および加圧下で安定であり、
前記ポリマーマトリックス内に懸濁されたナノ液滴は、予めカプセル化されておらず、PVA以外の材料のカプセル壁または皮層によって閉じ込められていないものである、前記物品。
【請求項17】
光学素子をさらに備え、
前記ナノエマルション光学材料の前記フィルムは、前記光学素子の表面上に配置された、
請求項16に記載の光学物品。
【請求項18】
前記ナノエマルション光学材料の前記フィルムが埋め込まれた光学素子
をさらに備える、請求項16に記載の光学物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリマー固体中に分散されたナノ液滴から構成される光学材料に関する。ナノ液滴は、染料または他の光学的相互作用材料の溶液を含有しうる。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック染料は、電磁放射による刺激に応答して異なる色を有する2つの状態または形態間で可逆的に変わる化合物である。典型的に、特定の波長帯域内の光による照射が、相対的に透明な形態からより着色されたもしくは吸収性の形態へ異性化または変換を生じさせる。光による照射が一旦中断されると、着色された形態から透明な形態への逆変換が熱過程を通じて自発的に発生しうる。代わりに、透明な状態から着色された状態への変換に用いるのとは異なる波長を照射することによって、着色された形態から透明な形態への変換が誘起または加速されてもよい。着色された形態から透明な形態へ自発的に変わるフォトクロミック染料は、「T型フォトクローム」と呼ばれ、放射に応答して着色された形態から透明な形態へ変わるフォトクロミック染料は、「P型フォトクローム」と呼ばれる。
【0003】
2つの形態間の異性化の速度は、用いる波長、温度、フォトクロミック染料の固有特性、およびフォトクロミック染料の分子を溶解または分散させた媒質によって変化する。一般に、光誘起変換が最も速い。T型フォトクロームの着色された状態から透明な状態への自発的戻り異性化の速度は、より遅く、温度およびフォトクロミック染料を溶解または分散させた媒質に大きく依存する。
【0004】
利用可能なT型フォトクロミック染料は、例えば、分子配座変化(例えば、ジヒドロアズレン)または他のメカニズム(例えば、ビオロゲン類)を通じて相互変換により熱的に元に戻すことが可能な様々なスピロオキサジン類、アゾベンゼン類、クロメン類および他のフォトクロミック系を含む。フォトクロミック染料のこれらのファミリーのすべてについては、それらの2つの状態間の変換が分子レベルの幾何学的かつ顕著な配座変化を必要とする。フォトクロミック染料が溶液中にあるときには、分子が大きい動きの度合を有し、これらの分子変化は、一般に速い。一方で、これらのフォトクロミック染料が固体環境中に直接分散されているときには、特に自発的逆変換について、変換速度が大幅に減速される。これは、多くの用途において重大な問題である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】ナノエマルション光学材料の概略断面図である。
【
図2】ナノエマルション光学材料を製造するためのプロセスのフローチャートである。
【
図3】
図3Aは、
図2のプロセスにおけるある段階の概略断面図である。
図3Bは、
図2のプロセスにおける別の段階の概略断面図である。
図3Cは、
図2のプロセスにおける別の段階の概略断面図である。
【
図4】ナノエマルション光学材料を製造するためのプロセスのフローチャートである。
【
図5】様々なフォトクロミック光学材料についてスイッチング速度を示すグラフである。
【
図6】様々なナノエマルション光学材料についてスイッチング速度を示す別のグラフである。
【
図7】様々なナノエマルション光学材料についてスイッチング速度を示す別のグラフである。
【
図8】あるナノエマルション光学材料についてスイッチング速度を示す別のグラフである。
【
図9】ナノエマルション光学材料のフィルムの透明性を実証する写真である。
【
図10】あるナノエマルション光学材料についてスイッチング速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
この記載の全体にわたって、図にあらわされる要素に3桁の参照番号が割り当てられ、最上位桁は、要素が導入された図番号であり、2つの最下位桁は、要素に固有である。図を伴って記載されない要素は、同じ参照番号を有する前に記載された要素と同じ特性および機能を有すると推測されてよい。
【0007】
装置の説明
次に
図1を参照すると、ナノエマルション光学材料100は、多数の液状ナノ液滴120が懸濁された光学的に透明な固体ポリマーマトリックス110からなり得る。用語「ナノ液滴」は、5~1000nmの直径を有する液滴を意味する。可視光がナノエマルション光学材料100中を散乱することなく透過することを許容するために、ナノ液滴120は、好ましくは200ナノメートル以下の直径を有し得る。
【0008】
各々のナノ液滴120は、第1の溶媒における光学的相互作用材料(黒い正方形140で概略的に表現される)の溶液130で満たされ得る。この文脈では、「光学的相互作用材料」は、入射光と、何らかの仕方で、相互作用することが可能な材料として明示的に定義される。上記のフォトクロミック染料は、光学的相互作用材料の例である。溶液130に含有されてよい他の光学的相互作用材料は、蛍光染料、燐光/発光染料、サーモクロミック染料、アップコンバート染料、および他のタイプのクロミック染料を含む。ナノ液滴内の光学的相互作用材料が溶液中に残って、バルク溶液中で観測される特性を保持する。フォトクロミック染料のケースでは、フィルム中のスイッチング・レートが溶液中と同じくらい速く維持される。
【0009】
ナノ液滴120は、ポリマーマトリックス110内に直接分散される。この出願では、「直接分散される」は、米国特許出願公開第2015/0024126(A1)号に記載されるように異なる材料の皮層またはカプセルによってポリマーマトリックスから分離されるのではなく、ポリマーマトリックスと直接接触して分散されることを意味する。このケースでは、ポリマーマトリックス、光学的相互作用材料を溶解させた溶媒、および光学的相互作用材料が他の材料の存在下で安定でなければならない。さらに、ポリマーマトリックスが溶媒に不溶でなければならない。
【0010】
ナノエマルション光学材料100は、
図1に示されるような平坦な基板105であってよい物体、フレキシブルフィルム、光学素子の平らなもしくは湾曲した表面、または何らかの他の形状の物体の上にコーティングとして付けられてもよい。ナノエマルション光学材料100は、連続フィルムに形成されてもよく、引き続き、例えば、建築用ガラス、プラスチックフィルム、自動車用窓ガラス、眼鏡レンズ、もしくはフォトクロミック特性が所望されうる他の素子内に付けられるか、または組み込まれてもよい。偏光フィルムを組み込むために現在用いられているプロセスと同様のプロセスを用いてナノエマルション光学フィルムがかかる製品内に付けられるか、または組み込まれてもよい。ナノエマルション光学材料100は、引き続き機械加工または他のプロセスによって他の形状に形成するために、ビレットまたはスラブにキャストされてもよい。
【0011】
次に
図2を参照すると、ナノエマルション光学材料を製造するためのプロセス200は、210において開始し、270において終了する。220では、選択された光学的相互作用材料または光学的相互作用材料の組み合わせの第1の溶液が第1の溶媒中に調製されてよい。第1の溶媒は、それ自体が液晶材料のような光学的相互作用材料であってもよく、そのケースでは220において第1の溶液を調製するステップが必要とされなくてよい。230では、選択されたポリマー材料の第2の溶液が第2の溶媒中に調製されてよい。220および230における動作は、同時にまたはいずれかの順序で連続して行われてもよい。
【0012】
第1の溶媒は、(a)選択された1つまたは複数の光学的相互作用材料のための溶媒であり、(b)選択されたポリマー材料のための溶媒ではなく、またはそれと反応せず、(c)第2の溶媒とは完全にまたは部分的に混和しない液体であってよい。第2の溶媒は、(a)選択されたポリマー材料のための溶媒であり、(b)選択された光学的相互作用材料のための溶媒ではなく、またはそれと反応せず、(c)第1の溶媒と混和しない液体であってよい。ポリマー材料は、(a)第2の溶媒の抽出の際に透明な固体を形成し、(b)選択された光学的相互作用材料とは反応せず、(c)第1の溶媒に不溶性の1つ以上のポリマーまたは他のポリマー材料であってよい。
【0013】
第1の溶液および第2の溶液のいずれかまたは両方が、随意的に、ナノエマルションにおける液滴の合体または凝集を阻害するための界面活性剤を含有してよい。
【0014】
240では、2つの溶液が組み合わされ、乳化されてよい、つまり、第2の溶液の連続相内に第1の溶液の液滴のプレエマルションを形成するためにこれらの溶液が撹拌されてよい。乳化前の2つの溶液が概略的に
図3Aに示される。光学的相互作用材料315(黒い正方形であらわされる)を含有する第1の溶液310は、ポリマー材料325(矢印であらわされる)を含有する第2の溶液320とは混和しない。次に、ナノエマルションまたはマイクロエマルションを形成するために、組み合わされた溶液が、例えば、ウルトラソニファイア(ultrasonifier)、高圧ホモジナイザ、高せん断ホモジナイザ、または他の低エネルギー法を用いて乳化されてよい。この文脈では、用語「ナノエマルション」は、5~1000nmの直径をもつ液滴を含有するエマルションを意味する。ナノエマルションが
図3Bに概略的に示される。光学的相互作用材料315を含有する第1の溶液310は、ポリマー材料325を含有する第2の溶液320中に懸濁された小さい液滴330として分散される。ポリマー材料325の分子は、液滴330の表面に付着して、液滴が合体または凝結するのを阻害するための界面活性剤としての機能を果たしうる。ナノエマルションから形成されたフィルムが可視光を散乱することなく透過するように、240において形成されたナノエマルション中の液滴330が好ましくは200ナノメートル、より好ましくは150nm以下の直径を有してよい。
【0015】
図2に戻って参照すると、250では、240からのナノエマルションが
図1に示されるような平坦な基板であってよい物体、または何らか他の形状の物体の上にコーティングされてよい。ナノエマルションは、キャスティング、スプレーイング、ディップ・コーティング、スピン・コーティング、または何らかの他のコーティング技術によって物体上にコーティングされてもよい。ナノエマルションは、ローラ・コーティングもしくは別の連続ロールツーロール・コーティング法を用いて薄いシートまたは連続したフレキシブルフィルムに形成されてもよい。代わりに、250では、引き続き機械加工または他のプロセスによって他の形状に形成するために、ナノエマルションがビレットまたはスラブにキャストされてもよい。
【0016】
260では、第2の溶媒がナノエマルションから蒸発されるか、または別の仕方で抽出されてよい。蒸発は、熱および/または真空を用いて加速されてよい。第2の溶媒の抽出後のナノエマルション光学材料が
図3Cに概略的に示される。第2の溶媒の抽出の間に、ポリマー材料325が沈殿して、第2の溶液310のナノ液滴330が分散された硬いかまたはフレキシブルな透明のマトリックスを形成する。ポリマーマトリックス中に懸濁されたナノ液滴は、予めカプセル化されない、つまり、ポリマーマトリックス以外の材料のカプセル壁または皮層によって閉じ込められない。
【0017】
280では、プロセス200が終了した後に、結果として生じたナノエマルション光学材料が、280において、レンズのような光学物品中に一体化されてもよい。ナノエマルション光学材料は、
図1に示されるような平坦な基板105であってよい光学素子の表面、フレキシブルフィルム、光学素子の平らなもしくは湾曲した表面、または何らかの他の形状の物体に付けられるか、またはラミネートされてもよい。ナノエマルション光学材料100は、例えば、建築用ガラス、自動車用窓ガラス、眼鏡レンズ、またはフォトクロミック特性が所望されうる他の素子内に埋め込まれるか、または組み込まれてもよい。280では、偏光フィルムを組み込むために現在用いられているプロセスと同様のプロセスを用いてナノエマルション光学フィルムがかかる製品内に付けられるか、または組み込まれてもよい。
【0018】
図4は、第1の溶媒にオイルおよび第2の溶媒に水を用いてナノエマルション光学材料を製造するためのプロセス400のフローチャートである。プロセス400は、410において開始し、460において終了する。420では、光学的相互作用材料または光学的相互作用材料の組み合わせをオイル中に溶解させることによって第1の溶液が調製され得る。この文脈では、用語「オイル」は、周囲温度において液体であり、水と混和しない中性の化学物質を意味する。「オイル」のこの一般的な定義は、別の状況では構造、特性、および使用上無関係であり得る化合物のクラスを含む。「オイル」のこの一般的な定義は、典型的にオイルと見做されない液晶材料および相変化材料のような、化合物のクラスを含む。オイルは、典型的に、他のオイルと混和し、420において用いるオイルは、2つ以上の材料の組み合わせであってもよい。オイルは、起源が動物、野菜、または鉱物/石油化学製品であってもよい。420において第1の溶液に取り込まれてよいオイルは、アルカン類および他の鉱物オイル、シリコーンオイル、酸トリグリセリド類のような植物オイル、液晶材料、イオン性液体、相変化材料、および「オイル」の上記の定義をもつ他の材料を含む。液晶材料のような材料は、「オイル」および光学的相互作用材料の両方であってよく、そのケースでは、追加の光学的相互作用材料が必要とされなくてよい。
【0019】
420において調製された第1の溶液は、上記の光学的相互作用材料のうちの1つ以上を含んでよい。用途および材料に依存して、第1の溶液中の光学的相互作用材料の濃度は、重量で0.1%~8%に及んでよい。引き続き記載されることになる具体的な例は、いくつかの異なるフォトクロミック染料を様々なオイル中に用い、第1の溶液中の染料濃度は、重量で1.2%~5%であった。
【0020】
430では、フィルムを形成する水溶性ポリマー材料の第2の溶液が水中に調製され得る。ポリマー材料は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA:polyvinyl alcohol)、ポリビニルピロリドン(PVP:polyvinylpyrrolidone)、セルロース誘導体または他の水溶性ポリマーであってよい。用途およびポリマー材料に依存して、第2の溶液中のポリマー材料の濃度は、重量で3%~40%に及んでよく、典型的に重量で10%~30%に及んでよい。引き続き記載されることになる具体的な例は、異なる分子量および加水分解の度合いを有するいくつかのタイプのPVAをポリマー材料として含有し、第2の溶液中のPVA濃度は、重量で10%~20%であった。
【0021】
引き続き考察されることになる例では、追加の界面活性剤を用いなかった。恐らくはPVAが安定化剤として効果的であるために、ナノエマルション光学フィルム中でナノ液滴の合体または凝結は観察されなかった。
【0022】
440では、2つの溶液が組み合わされて乳化され得る、つまり、第2の溶液の連続相内に第1の溶液の液滴のナノエマルションを形成するためにこれらの溶液が超音波で乳化され得る。組み合わせにおける第1の溶液の量は、第2の溶液中のポリマー材料のグラムごとに0.02mL~1.5mLの第1の溶液に及び得る。引き続き記載されることになる具体的な例は、PVAのグラム当たり0.19mL~1.43mLの溶液1を含有した。
【0023】
450では、440からのナノエマルションが物体上にコーティングされるか、またはフィルム、スラブもしくはビレットにキャストされ得る。460では、大部分またはすべての水が蒸発されるか、または別の方法で抽出され得る。蒸発は、熱および/または真空を用いて加速され得る。水の抽出の間に、PVAが沈殿して、(溶解された染料をもつ)オイルのナノ液滴が懸濁された硬いかまたはフレキシブルな透明のマトリックスを形成する。PVAマトリックス中に懸濁されたナノ液滴は、予めカプセル化されず、PVA以外の材料のカプセル壁または皮層によって閉じ込められない。
【0024】
図4のプロセス400は、以下の実施例を製造するために用いるプロセスを代表する。
【実施例】
【0025】
実施例1
4.6mgのPhotorome(登録商標)Iフォトクロミック染料(シグマアルドリッチから入手可能)を0.4mlのカプリル酸/カプリン酸トリグリセリド・オイル(Sasol(登録商標)から入手可能なMiglyol(登録商標)812)中に溶解させることによって溶液1を調製した。溶液1中の染料の濃度は、重量で1.2%であった。約31,000ダルトンの分子量をもつ2.1gの87%~89%加水分解ポリビニルアルコール(PVA)(シグマアルドリッチから入手可能なMowiol(登録商標)4-88 PVA)を8.4gの水中に溶解させることによって溶液2を調製した。溶液2中のPVAの濃度は、重量で20%であった。2つの溶液を混合して、0℃で冷却中に10分間、超音波処理(ウルトラソニファイア、70%振幅、13mmチップ)を施した。結果として生じた懸濁液は、重量で15.7%がPVA、2.87%がオイルおよび0.042%が染料であり、残りが水であった。懸濁液は、PVAのグラム当たり0.19mlのオイルを含有した。4.5gの混合物を9cmの直径を有するペトリ皿でフィルムにキャストして、水を蒸発させた。結果として生じたナノエマルション・フィルムは、1.08gの乾燥重量を有し、重量で15.6%がオイルおよび0.19%が染料であった。
【0026】
このように製造したナノエマルション・フィルムは、可視光を散乱することなく透過し、フィルム内に懸濁されたナノ液滴の直径が約200nm以下であることを示す。このフィルムは、有用なフォトクロミック特性を有する。
【0027】
比較のために、Photorome(登録商標)Iおよび光学素子に一般に用いられる4つのポリマーの溶液を調製した。各溶液は、クロロホルム溶媒のmlごとに1.2mgのPhotorome(登録商標)Iおよび25mgのポリマーを含有した。新たに清浄化したスライドガラス上に溶液をドロップ・キャスティングすることによってフィルムを形成した。室温における溶媒の蒸発後に、ポリマーフィルムのフォトクロミック応答を測定した。
【0028】
図5は、ナノエマルション・フィルム(実曲線510)、ならびにポリビニルアセタート(曲線520)、ポリカーボネート(曲線522)、ポリスチレン(曲線524)およびポリメチルメタクリレート(曲線526)でできた固体フィルムの着色された状態から透明な状態への自発的戻り異性化を示すグラフである。曲線530は、Miglyol(登録商標)812中のPhotorome(登録商標)Iフォトクロミック染料の溶液の着色された状態から透明な状態への自発的戻り異性化を示す。ナノエマルション・フィルムのフォトクロミック動態(曲線510)は、溶液中のフォトクロミック染料のフォトクロミック動態と同様である。これは、フォトクロミック染料が、ポリマー材料中への染料のかなりの拡散なしに、依然としてナノ液滴内の溶液中にあることを示唆する。このように製造したフィルムは、120℃で少なくとも6時間、圧力下において安定であり、ポリマー材料中へのオイルまたは染料の明らかな拡散がない。
【0029】
実施例2
Photorome(登録商標)I染料の代わりにReversacol(商標)パラティネート(Palatinate)パープル染料(Vivimed Labsから入手可能)を用い、溶液1中のMiglyol(登録商標)812オイルの代わりに等しい体積の以下のオイル、すなわち、カプリル酸/カプリン酸/コハク酸トリグリセリド・オイル(Miglyol(登録商標)829、Sasol(登録商標)から入手可能)、プロピレングリコールジカプリラート/ジカプラート・オイル(Miglyol(登録商標)840、Sasol(登録商標)から入手可能)、テレフタル酸ジオクチル(DOT:dioctyl terphthalate)、フタル酸ジエチル(DEP:diethyl phthalate)、アジピン酸ジイソデシル、ポリエチレングリコール2-エチルヘキサノアート、セバシン酸ジエチルヘキシル(disehtylhexyl sebacate)、室温で1000センチポアズの粘性を有するポリフェニル-メチルシロキサン(シグマアルドリッチから入手可能なAP1000シリコーンオイル)、および室温で20センチポアズの粘性を有するポリフェニル-メチルシロキサン(シグマアルドリッチから入手可能なAR20シリコーンオイル)を用いて、実施例1の手順を繰り返した。結果として生じたフィルムのすべてが予想された逆フォトクロミック動態を示した。すべてのケースにおいて、着色された状態から透明な状態への自発的戻り異性化が溶液中と同じくらい速く、ポリマーマトリックス中の同じフォトクロミック染料の速度より速い。
図6は、以下のオイル、すなわち、DOT(曲線610)、Miglyol(登録商標)840(曲線620)、Miglyol(登録商標)812(曲線630)、Miglyol(登録商標)829(曲線640)およびDEP(曲線650)を用いて作った光学材料の自発的逆異性化応答のグラフ600を示す。
【0030】
実施例3
溶液1中のPhotoromeI染料の代わりに、等しい重量の以下のフォトクロミック染料、すなわち、Reversacol(商標)パラティネートパープル、Reversacol(商標)ボルカニックグレー、Reversacol(商標)ベリーレッド、Reversacol(商標)ストームパープル、Reversacol(商標)クラレット、Reversacol(商標)オックスフォードブルー、Reversacol(商標)ペニングリーン、Reversacol(商標)ハンバーブルー、Reversacol(商標)ラッシュイエロー、Reversacol(商標)ベルベットブルー、Reversacol(商標)ミッドナイトグレー(すべてがVivimed Labsから入手可能)を用いて、実施例1の手順を繰り返した。結果として生じたフィルムのすべてが予想されたフォトクロミック応答を示した。
図7は、以下のフォトクロミック染料、すなわち、Reversacol(商標)クラレット(曲線710)、Photorome(登録商標)I(曲線720)、Reversacol(商標)パラティネートパープル(曲線730)、およびReversacol(商標)オックスフォードブルーまたはReversacol(商標)ストームパープルのいずれか(曲線740)を含有するナノエマルション光学材料の自発的逆応答のグラフ700を示す。すべてのフィルムが溶液中の同じ染料の応答時間に匹敵する予想された速い応答を示した。
【0031】
実施例4
Photorome(登録商標)I染料の代わりにReversacol(商標)パラティネートパープル染料を用い、溶液1中の染料の量を7.6mgおよび19.0mgに増加したことを除いて、実施例1の手順を用いて2つの試料を調製した。2つの溶液中の染料の濃度は、それぞれ、重量で2%および5%の染料であった。結果として生じたフィルムのすべてが予想された速いフォトクロミック応答を示した。フィルム組成は、それぞれ、重量で0.31%および0.77%の染料を含んだ。
【0032】
実施例5
9.8mgのReversacol(商標)パラティネートパープル・フォトクロミック染料を0.5mlのMiglyol(登録商標)812オイル中に溶解させることによって溶液1を調製した。溶液1中の染料の濃度は、重量で2%であった。1.68gの高分子量(88,000~97,000ダルトン)87%~89%加水分解PVA(Alpha Aesar(登録商標)から入手可能なH-88 PVA)を13.8gの水中に溶解させることによって溶液2を調製した。溶液2中のPVAの濃度は、重量で11%であった。懸濁液は、PVAのグラム当たり1.5mlのオイルを含有した。2つの溶液を混合して10分間、超音波処理(ウルトラソニファイア、70%振幅、13mmチップ)を施した。結果として生じた懸濁液は、重量で9.25%がPVA、2.64%がオイル、および0.06%が染料であり、残りが水であった。11.1グラムの混合物をペトリ皿(9cmの直径)でフィルムにキャストして、水を蒸発させた。結果として生じたフィルムは、1.451gの乾燥重量を有し、重量で22.6%がオイルおよび0.45%が染料であった。フィルムは、予想されたフォトクロミック応答を示した。溶液2が13,000ダルトン~205,000ダルトンの分子量を有する重量で8%~20%の86%~88%加水分解PVAを含んだときに、同様の結果が得られた。フォトクロミック応答動態がPVAの分子量を変化させた後に維持されるという事実は、染料分子がすべてナノ液滴中に溶解されてPVAマトリックス中には拡散しないことのさらなる実証である。
【0033】
実施例6
(重量で)2%のReversacol(商標)パラティネートパープル・フォトクロミック染料をMiglyol(登録商標)812中に溶解させることによって溶液1を調製した。溶液1の体積を0.5ml、1.0ml、2.0ml、および3.0mlに増加させたことを除いて、実施例1の手順を用いて4つのナノエマルション光学材料を調製した。対応する懸濁液および乾燥フィルムの組成を表1に示す。4つの懸濁液は、PVAのグラム当たり0.24、0.48、0.95、および1.43mlのオイルを含有した。留意すべきは、懸濁液の残りが水であり、乾燥フィルムの残りがPVAであることである。
【0034】
【0035】
結果として生じたフィルムのすべてが予想された速い退色フォトクロミック応答を示した。
【0036】
実施例7
200mgのReversacol(商標)パラティネートパープル・フォトクロミック染料を10.2mlのMiglyol(登録商標)812オイル中に溶解させることによって溶液1を調製した。溶液1中の染料の濃度は、重量で2%であった。42gのMowiol(登録商標)4-88 PVAを220gの水中に溶解させることによって溶液2を調製した。溶液2中のPVAの濃度は、重量で20%であった。2つの溶液を混合して40分間、超音波処理(ウルトラソニファイア、100%振幅、25mmチップ)を施した。混合物の5.0、10.0および20.0gの部分を別々にペトリ皿でフィルムにキャストして、水を蒸発させた。結果として生じたフィルムは、それぞれ1.18g、2.36g、および4.73gの乾燥重量を有し、重量で19.2%がオイルおよび0.38%が染料であった。乾燥フィルムは、予想された速いフォトクロミック応答を示した。
図8は、実施例7のナノエマルション光学材料の自発的逆応答(曲線810)のグラフ800を示す。超音波処理後のナノエマルションは、透明ではなくむしろ透光性であったが、結果として生じた乾燥フィルムは、非常に透明であった。
図9は、ナノエマルション光学材料が着色していない状態ではそのフィルムを通してテキストがはっきりと見えることを実証する写真を示す。
【0037】
実施例8
1mgのReversacol(登録商標)パラティネートパープル・フォトクロミック染料を0.11mlのMiglyol(登録商標)812オイル中に溶解させることによって溶液1を調製した。溶液1は、重量で1%の染料の濃度を有した。1.05gのMowiol(登録商標)10-98 PVA(61,000Daの分子量、98~99%加水分解、シグマアルドリッチPVA10-98)を10.5gの水中に溶解させることによって溶液2を調製した。溶液2中のPVAの濃度は、重量で10%であった。2つの溶液を混合して、10分の磁気攪拌を施した。続いて、高せん断ホモジナイザ(IKA,T18 digital Ultraturrax)を5000rpmで10分間用いて混合物を乳化させた。次に、エマルションに超音波処理(ブランソン400W-20kHzデジタルソニファイア、70%電力)を20分間施すことによって最終的なナノエマルションを調製した。超音波処理中、混合物をおよそ0℃に維持した。結果として生じたナノエマルションは、部分的に透光性であり、わずかに青みを帯びたオパール色を伴った。ナノエマルションを9cmの直径のペトリ皿にキャストして、室温でおよそ24時間水を乾燥させた。結果として生じたフィルムは、良好な透明性および液体のように速い退色フォトクロミック挙動を有した。
図10は、実施例8のナノエマルション光学材料の自発的逆応答(曲線1010)のグラフ1000を示す。
【0038】
おわりに
この記載を通じて、示された実施形態および実施例は、開示または請求される装置および手順に対する限定ではなく、典型例と見做されるべきである。本明細書に提示される多くの例が方法動作またはシステム要素の具体的な組み合わせを含むが、同じ目標を達成するためにそれらの動作およびそれらの要素が他の仕方で組み合わされてもよいことを理解されたい。フローチャートについては、さらなるまたはより少ないステップが行われてもよく、本明細書に記載される方法を達成するために、示されたステップが組み合わされるか、またはさらに改良されてもよい。1つの実施形態に関連してのみ考察された動作、要素、および特徴が、他の実施形態における同様の役割から除外されることは、意図されていない。
【0039】
本明細書では、「複数」は、2つ以上を意味する。本明細書では、項目の「セット」は、1つ以上のかかる項目を含みうる。本明細書では、書面による説明または特許請求の範囲にかかわらず、用語「備える(comprising)」、「含む(including)」、「運ぶ(carrying)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「伴う(involving)」などは、非限定的であり、すなわち、含むが限定されないと理解すべきである。移行句「からなる(consisting of)」および「から基本的になる(consisting essentially of)」のみが、それぞれ、特許請求の範囲に関するクローズドまたはセミクローズド移行句である。特許請求の範囲において請求要素を限定するための「第1」、「第2」、「第3」などの序数用語の使用は、1つの請求要素の他に対するいずれかの優先、先行、もしくは順序、または方法の動作が行われる時間的順序を単独では含意しないが、ある名前を有する1つの請求要素を(序数用語の使用を除いて)同じ名前を有する別の要素から区別するラベルとして請求要素を区別するために専ら用いられる。本明細書では、「および/または」は、リストされた項目が選択肢であることを意味するが、これらの選択肢は、リストされた項目の任意の組み合わせも含む。