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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221128BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021186114
(22)【出願日】2021-11-16
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金山 隆志
【審査官】土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-039745(JP,A)
【文献】特開2009-147367(JP,A)
【文献】特開平09-019163(JP,A)
【文献】特開2014-014203(JP,A)
【文献】特開2020-137153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体スイッチ素子と、
前記半導体スイッチ素子の温度を検出する温度検出器と、
前記半導体スイッチ素子の駆動を制御する制御部と、を備え
前記制御部は、前記温度検出器によって検出された検出温度が予め設定された制限閾値を超えると電流制限するように前記半導体スイッチ素子の駆動を制御する電力変換装置であって、
前記半導体スイッチ素子は、
連続動作を許容する第1の許容温度と、
前記第1の許容温度より高温での動作を許容する第2の許容温度と、
前記第2の許容温度より高温での動作を許容する第3の許容温度と、を有し、
前記制限閾値は、
正常動作時における前記半導体スイッチ素子の温度が前記第2の許容温度を超えないように、
且つ、電力変換装置の外部異常時により前記半導体スイッチ素子の温度が前記第3の許容温度を超えないように設定されている、とともに、
前記制御部は、
前記制限閾値より高く、且つ前記第3の許容温度より低く設定された過昇温閾値を前記検出温度が超えた場合、前記半導体スイッチ素子の駆動を停止させる、電力変換装置。
【請求項2】
半導体スイッチ素子と、
前記半導体スイッチ素子の温度を検出する温度検出器と、
前記半導体スイッチ素子の駆動を制御する制御部と、を備え
前記制御部は、前記温度検出器によって検出された検出温度が予め設定された制限閾値を超えると電流制限するように前記半導体スイッチ素子の駆動を制御する電力変換装置であって、
前記半導体スイッチ素子は、
連続動作を許容する第1の許容温度と、
予め設定された第1の時間の間、前記第1の許容温度より高温での動作を許容する第2の許容温度と、
前記第1の時間より短く設定された第2の時間の間、前記第2の許容温度より高温での動作を許容する第3の許容温度と、を有し、
前記制限閾値は、
正常動作時における前記半導体スイッチ素子の温度が前記第2の許容温度を超えないように、
且つ、電力変換装置の外部異常時により前記半導体スイッチ素子の温度が前記第3の許容温度を超えないように設定されている、とともに、
前記制御部は、
前記第1の許容温度を超えて前記第2の許容温度以下で前記半導体スイッチ素子を動作させる場合は、前記第1の時間内で動作させ、
前記第2の許容温度を超えて前記第3の許容温度以下で前記半導体スイッチ素子を動作させる場合は、前記第2の時間内で動作させる、電力変換装置。
【請求項3】
制限閾値は、前記半導体スイッチ素子が連続動作中に前記第1の許容温度を超えないように設定された制限閾値下限よりも高く設定されている、請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制限閾値は、第2の許容温度よりも低く設定されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記制限閾値より高く、且つ前記第3の許容温度より低く設定された過昇温閾値を前記検出温度が超えた場合、前記半導体スイッチ素子の駆動を停止させる、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項6】
半導体スイッチ素子と、
前記半導体スイッチ素子の温度を検出する温度検出器と、
前記半導体スイッチ素子の駆動を制御する制御部と、を備え
前記制御部は、前記温度検出器によって検出された検出温度が予め設定された制限閾値を超えると電流制限するように前記半導体スイッチ素子の駆動を制御する電力変換装置であって、
前記半導体スイッチ素子は、
連続動作を許容する第1の許容温度と、
前記第1の許容温度より高温での動作を許容する第2の許容温度と、
前記第2の許容温度より高温での動作を許容する第3の許容温度と、を有し、
前記制限閾値は、
正常動作時における前記半導体スイッチ素子の温度が前記第2の許容温度を超えないように設定された第1の制限閾値と、
電力変換装置の外部異常時により前記半導体スイッチ素子の温度が前記第3の許容温度を超えないように設定された第2の制限閾値と、を備え、
前記第1の制限閾値及び前記第2の制限閾値は、前記半導体スイッチ素子が連続動作中に前記第1の許容温度を超えないように設定された制限閾値下限よりも高く設定されている、電力変換装置。
【請求項7】
半導体スイッチ素子と、
前記半導体スイッチ素子の温度を検出する温度検出器と、
前記半導体スイッチ素子の駆動を制御する制御部と、を備え
前記制御部は、前記温度検出器によって検出された検出温度が予め設定された制限閾値を超えると電流制限するように前記半導体スイッチ素子の駆動を制御する電力変換装置であって、
前記半導体スイッチ素子は、
連続動作を許容する第1の許容温度と、
前記第1の許容温度より高温での動作を許容する第2の許容温度と、
前記第2の許容温度より高温での動作を許容する第3の許容温度と、を有し、
前記制限閾値は、
正常動作時における前記半導体スイッチ素子の温度が前記第2の許容温度を超えないように設定された第1の制限閾値と、
電力変換装置の外部異常時により前記半導体スイッチ素子の温度が前記第3の許容温度を超えないように設定された第2の制限閾値と、を備え、
前記制御部は、
前記第2の制限閾値より高く、且つ前記第3の許容温度より低く設定された第3の制限閾値を前記検出温度が超えた場合、前記半導体スイッチ素子の駆動を停止させる、電力変換装置。
【請求項8】
半導体スイッチ素子と、
前記半導体スイッチ素子の温度を検出する温度検出器と、
前記半導体スイッチ素子の駆動を制御する制御部と、を備え
前記制御部は、前記温度検出器によって検出された検出温度が予め設定された制限閾値を超えると電流制限するように前記半導体スイッチ素子の駆動を制御する電力変換装置であって、
前記半導体スイッチ素子は、
連続動作を許容する第1の許容温度と、
予め設定された第1の時間の間、前記第1の許容温度より高温での動作を許容する第2の許容温度と、
前記第1の時間より短く設定された第2の時間の間、前記第2の許容温度より高温での動作を許容する第3の許容温度と、を有し、
前記制限閾値は、
正常動作時における前記半導体スイッチ素子の温度が前記第2の許容温度を超えないように設定された第1の制限閾値と、
電力変換装置の外部異常時により前記半導体スイッチ素子の温度が前記第3の許容温度を超えないように設定された第2の制限閾値と、を備え、
前記制御部は、
前記第1の許容温度を超えて前記第2の許容温度以下で前記半導体スイッチ素子を動作させる場合は、前記第1の時間内で動作させ、
前記第2の許容温度を超えて前記第3の許容温度以下で前記半導体スイッチ素子を動作させる場合は、前記第2の時間内で動作させる、電力変換装置。
【請求項9】
前記第1の制限閾値及び前記第2の制限閾値は、前記半導体スイッチ素子が連続動作中に前記第1の許容温度を超えないように設定された制限閾値下限よりも高く設定されている、請求項7または8に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記第1の制限閾値は前記第2の許容温度より低く設定され、
前記第2の制限閾値は前記第1の制限閾値より高く、且つ前記第3の許容温度より低く設定されている、請求項6から9のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記制御部は、
前記第2の制限閾値より高く、且つ前記第3の許容温度より低く設定された第3の制限閾値を前記検出温度が超えた場合、前記半導体スイッチ素子の駆動を停止させる、請求項6または8に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記半導体スイッチ素子を冷却するための水冷式の冷却器を備え、
前記冷却器の水は外部の冷却機構により循環され、
前記電力変換装置の外部異常は、前記冷却機構の異常である、請求項1から11のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記冷却機構の異常は冷却水不足である請求項12に記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記半導体スイッチ素子を複数有し、前記半導体スイッチ素子を含むアームが複数並列に接続されており、前記制御部は複数の前記半導体スイッチ素子の駆動を制御する、請求項1から13のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記温度検出器の数は複数の前記半導体スイッチ素子の数よりも少ない、請求項14に記載の電力変換装置。
【請求項16】
前記温度検出器はサーミスタである請求項1から15のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項17】
前記半導体スイッチ素子はワイドギャップ半導体材料で形成された、請求項1から16のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)のような半導体スイッチ素子は、正常時において連続動作時の最大ジャンクション温度Tj_max1と、短時間での動作が許容される最大ジャンクション温度Tj_max2とが一般的に規定されている。最大ジャンクション温度Tj_max2は、最大ジャンクション温度Tj_max1より高温である。アレニウスの法則で一般的に示されるように、高温であるほど温度ストレスが高く劣化が早く進むため、最大ジャンクション温度Tj_max2には動作継続時間及び生涯動作時間といった時間制約が付与されるものの、過負荷等の短時間のみ高温になる動作を最大ジャンクション温度Tj_max2以下の温度であれば許容することが可能となる。したがって、連続動作時の最大ジャンクション温度Tj_max1のみ規定される場合と比べて、最大ジャンクション温度Tj_max2の両方が規定されることにより、半導体スイッチ素子のチップサイズの増大、チップ並列数の増加及び冷却構造の強化などに係るコストアップを抑えることができる。
【0003】
このような半導体スイッチ素子を使用した電力変換装置では、過負荷あるいは異常動作時に半導体スイッチ素子の温度上昇により破壊に至る場合がある。そのため、半導体スイッチ素子の温度を検出可能な温度検出手段を備え、温度上昇した際に電力低減することで、通常規定される最大ジャンクション温度Tj_max1及び最大ジャンクション温度Tj_max2を超えないよう保護する手段を備えた電力変換装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1では、インバータを構成する複数の半導体スイッチ素子(パワーデバイス)の温度を個別に検出し、そのうちの最高温度値の情報を用いて、過熱保護のために電流を制限する制御を行い、半導体スイッチ素子を熱破壊から保護する電気自動車の制御装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-169401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において、インバータは電気自動車の部品の一部であるため、インバータに接続されるバッテリ、モータ、冷却機構などの外部装置に異常が生じた場合であっても、インバータ自身は故障することなく動作継続することが必要となる。例えば、突然停止することのないよう半導体スイッチ素子の過熱時にも一定の動作継続が必要である。またインバータ以外の部品の異常または故障によってインバータも共に故障して交換することは望ましくない。
【0007】
このような外部装置の異常(故障を含む)は、発生頻度は低いが、正常時の動作及び過負荷の状態よりも半導体スイッチ素子の急激な温度上昇を引き起こす。このため、過負荷における半導体スイッチ素子の過熱から保護可能な電流制限を行ったとしても異常時において保護することができず、チップサイズの増大、チップ並列数の増加及び冷却構造の強化など、半導体スイッチ素子の発熱抑制のためにコストアップが必要になるという課題があった。
【0008】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、電力変換装置を構成する半導体スイッチ素子に対し温度の制限閾値を設け、電力変換装置の外部の異常が生じた場合においても半導体スイッチ素子の動作を継続させつつ、保護することでコストアップを抑制可能な電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願に開示される電力変換装置は、
半導体スイッチ素子と、
前記半導体スイッチ素子の温度を検出する温度検出器と、
前記半導体スイッチ素子の駆動を制御する制御部と、を備え
前記制御部は、前記温度検出器によって検出された検出温度が予め設定された制限閾値を超えると電流制限するように前記半導体スイッチ素子の駆動を制御する電力変換装置であって、
前記半導体スイッチ素子は、
連続動作を許容する第1の許容温度と、
前記第1の許容温度より高温での動作を許容する第2の許容温度と、
前記第2の許容温度より高温での動作を許容する第3の許容温度と、を有し、
前記制限閾値は、
正常動作時における前記半導体スイッチ素子の温度が前記第2の許容温度を超えないように、
且つ、電力変換装置の外部異常時により前記半導体スイッチ素子の温度が前記第3の許容温度を超えないように設定されている、とともに、
前記制御部は、
前記第1の許容温度を超えて前記第2の許容温度以下で前記半導体スイッチ素子を動作させる場合は、前記第1の時間内で動作させ、
前記第2の許容温度を超えて前記第3の許容温度以下で前記半導体スイッチ素子を動作させる場合は、前記第2の時間内で動作させる、ものである。
【発明の効果】
【0010】
本願に開示される電力変換装置によれば、電力変換装置の外部の異常が生じた場合においても半導体スイッチ素子が動作を継続しつつ、半導体スイッチ素子に対し過熱から保護が可能となる。これにより、半導体スイッチ素子の発熱抑制のためのチップサイズの増大、チップ並列数の増加及び冷却構造の強化などのコストアップが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
図2】実施の形態1に係る電力変換装置の各アームの構成と制御部との接続を示す図である。
図3】実施の形態1に係る電力変換装置の各アームの検出温度と最大トルクとの関係を説明するための図である。
図4】実施の形態1に係る電力変換装置の各動作時におけるアーム(半導体スイッチ素子)の検出温度の変化を示した図である。
図5】実施の形態2に係る電力変換装置の各アームの検出温度と最大トルクとの関係を説明するための図である。
図6】実施の形態1に係る電力変換装置の各動作時におけるアーム(半導体スイッチ素子)の検出温度の変化を示した図である。
図7】実施の形態1、2に係る電力変換装置が具備する制御部のハードウエア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願で開示される電力変換装置の実施の形態について図を参照して説明する。なお、各図中、同一符号は、同一または相当部分を示すものとする。
【0013】
実施の形態1.
以下に、実施の形態1に係る電力変換装置について図を用いて説明する。
<電力変換装置1の構成>
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置1の構成を示す図である。電力変換装置1は、複数の半導体スイッチ素子が並列接続されて構成された半導体モジュールを備え、上アーム11、13、15及び下アーム12、14、16を有し、上アーム11と下アーム12、上アーム13と下アーム14、上アーム15と下アーム16とのそれぞれ直列回路が3並列で構成されるインバータである。一対の上下アームからなる3つの直列回路は、入力コンデンサ10及び外部の電源2と並列に接続される。また、上アームと下アームとの各接続点u1、v1、w1は負荷である外部のモータ3に接続される。
【0014】
制御部17から各上アーム11、13、15及び下アーム12、14、16に対して駆動信号111、131、151、121、141、161が出力されると共に、各上アーム11、13、15及び下アーム12、14、16から制御部17に対して半導体スイッチ素子の検出温度112、132、152、122、142、162が信号として出力される。これにより上下アームのスイッチング動作によってインバータ動作が行われるとともに各アームの半導体スイッチ素子の検出温度に基づいて過熱保護動作が行われる。
【0015】
また、電力変換装置1は水冷方式により各半導体スイッチ素子の熱を放熱するためにヒートシンク等の冷却器18を備え、外部には冷却水を循環するためのウォータポンプ4、冷却水の熱を逃がす放熱機構5、ホース及びパイプなどで構成される流路6等を有する冷却機構を備える。なお、冷却器18は例えば、各スイッチ素子の搭載された半導体モジュールに設ける。そのため、図1では、冷却器18は上アーム11、13、15及び下アーム12、14、16をカバーする範囲に示している。
【0016】
図2は、上アーム11の構成及び上アーム11と制御部17との接続を示す。なお、その他の上アーム13、15及び下アーム12、14、16も同様の構成である。
上アーム11は半導体スイッチ素子11a、11bとしてそれぞれダイオードが逆並列接続されたIGBTが並列接続されて構成されている。IGBT11a、11bのゲート端子は共通のゲート駆動信号線113で接続され、駆動信号111によりオンオフ駆動される。また、IGBT11aは温度検出器である温度検出用のダイオード114を備え、温度信号線115を介して検出温度112の信号を制御部17へ伝える。なお、コスト低減のため並列接続されたIGBT11a、11bのうち一方のIGBT11aの温度のみ検出する構成としている。例えば、インピーダンスのバラつきによる電流の偏りあるいは特性の違いなどにより温度検出しない側のIGBTの発熱が大きくなるあるいは小さくなる場合を考慮すると、IGBTの温度検出誤差が大となるおそれがある。この場合、両方のIGBT11a、11bに温度検出器を設け、温度の高い方を上アーム11の代表検出温度としてもよい。
【0017】
<インバータの動作>
制御部17は所定のトルク指令に追従するよう、各上アーム11、13、15及び各下アーム12、14、16をオンオフ制御することにより、上アームと下アームとの各接続点u1、v1、w1に所定の電圧を生成する、すなわち、モータ3の線間電圧及び相電圧を生成することでモータを制御する。これにより、電源2の直流電力が電力変換装置1を介して電力変換され、モータ3に交流電力が出力される。電力変換時に、各アームにて導通損失及びスイッチング損失を生じ、発熱する。
【0018】
<許容温度>
各半導体スイッチ素子(IGBT)は動作時の許容温度として3つの異なる最大ジャンクション温度Tj_max1、Tj_max2、Tj_max3を有する。
第一の最大ジャンクション温度Tj_max1は、正常時の半導体スイッチ素子の動作時において、連続動作が許容される温度である。
【0019】
第二の最大ジャンクション温度Tj_max2は、第一の最大ジャンクション温度Tj_max1よりも高温であり、半導体スイッチ素子の動作に時間制約がある温度である。例えば半導体スイッチ素子がオンオフ動作する期間の10%以内の期間または生涯1000時間のような期間で、温度Tj_max1を超え、温度Tj_max2以下の動作が許容される温度である。
【0020】
第三の最大ジャンクション温度Tj_max3は、第二の最大ジャンクション温度Tj_max2よりも高温であり、半導体スイッチ素子の動作に温度Tj_max2よりもさらに短時間の時間制約がある温度である。例えば、スイッチ素子がオンオフ動作する期間の1%以内の期間または生涯10時間のような期間でのみ温度Tj_max2を超え、温度Tj_max3以下の動作が許容される温度である。
【0021】
これら3つの許容温度を守れるように、制御部17は各アームの検出温度に基づいて、各アームの過熱保護を行いながら、各アームを動作させて電力変換を行う。
【0022】
<半導体スイッチ素子の過熱保護方法>
次に、各アーム(半導体スイッチ素子)を過熱から保護する方法について図3を用いて説明する。図3は、各アームの検出温度と最大トルクとの関係を説明するための図である。
各アームの検出温度112、122、132、142、152、162のいずれかが所定の制限閾値を超過すると、トルク指令の最大トルクがτmaxからτ1に制限される。トルク制限によりモータ3及び各アームに導通する電流が制限され、発熱が抑制される。検出温度が制限閾値を下回ると最大トルクの制限はτmaxに戻る。
【0023】
各アームの検出温度112、122、132、142、152、162のいずれかが過昇温閾値を超過した場合は、制御部17によりトルク制御及び半導体スイッチ素子のオンオフ制御を停止する。
【0024】
ここで、制限閾値前後では、最大トルクがτmaxからτ1あるいは最大トルクがτ1からτmaxに変化するが、トルクの急変を抑制するため、トルク指令に対して時間的
な変化率制限(N/m/sec)を設ける。
【0025】
変化率制限を設ける理由は次の理由による。例えば、電力変換装置が電動車両に搭載された場合、トルク急変するように急激に電流制限が行われると、車両の急制動に繋がりドライバの操作性が悪くなる、ドライバを含む乗車者が衝撃を受ける、などの恐れがある。そのため、電流を制限する変化量にも制限をかけて、トルクの急変を抑制する。
【0026】
一方、変化率制限を行う処理により、アーム(半導体スイッチ素子)の温度検出値が制限閾値を超過した場合に、半導体スイッチ素子の温度上昇を瞬時に止めることができなくなる。そのため、半導体スイッチ素子の温度上昇の傾きが大きい異常時においては、制限閾値をより低く設定して、過熱から保護するのがよい。
【0027】
<トルクの制限方法>
次に、トルクを制限する方法について説明する。図3で説明したように、アームの検出温度に応じて最大トルクの設定を変更する、すなわちトルクを制限する。
トルクを制限して電力変換装置1の動作を継続する対象の事象は、(1)正常動作時の過負荷及び(2)電力変換装置1の外部の異常である。
【0028】
(1)正常動作時の過負荷
過負荷は、例えば電力変換装置1及びその外部の装置が正常動作中に負荷変動を生じ、連続動作として通常動作する範囲の電流または電圧を超過した状態である。過負荷は、連続動作に比べて頻度が低いため、第二の最大ジャンクション温度Tj_max2以下でアーム(半導体スイッチ素子)が動作するように制限閾値を決定する。
【0029】
(2)電力変換装置1の外部の異常
電力変換装置1の外部の異常は、例えばモータ3あるいはウォータポンプ4の故障である。電力変換装置1の外部の異常の発生は、過負荷と比較しても発生頻度は低いため、第三の最大ジャンクション温度Tj_max3以下でアーム(半導体スイッチ素子)が動作するように制限閾値を決定する。なお、電力変換装置1の外部の異常において半導体スイッチ素子の発熱が特に過大となるのは、冷却機構の異常であり、その中でも冷却水が抜けて冷却水が不足すると発熱が最大となる。
【0030】
このように、半導体スイッチ素子の過負荷及び電力変換装置1の外部の異常の両方に基づいて、トルクを制限する制限閾値(温度)を決める。
なお、ここでは正常時の過負荷に対しては、第二の最大ジャンクション温度Tj_max2以下でアームが動作し、かつ過熱保護する例を示したが、これに限るものではない。過負荷以外の、例えば低頻度であるが正常時に生じる冷却水温度の上昇による半導体スイッチ素子の過熱を保護するように制限閾値(温度)を決めてもよい。
【0031】
<制限閾値の決定方法>
制限閾値を決める方法について図4を用いて説明する。図4は各動作時におけるアーム(半導体スイッチ素子)の検出温度の変化を示した図である。図において、検出温度はアーム検出温度として信号出力される値であり、点線で示し、スイッチ素子温度は温度検出誤差を考慮した時の最大温度であり、検出温度より高い温度であり、実線で示している。各最大ジャンクション温度Tj_max1、Tj_max2、Tj_max3は低温側から順に一点鎖線で示している。
【0032】
図4(a)は、正常時における連続動作の場合の温度変化を示している。飽和した時のスイッチ素子温度が第1の最大ジャンクション温度Tj_max1以下となるように、検出温度に対し制限閾値を設ける。検出温度に対する制限閾値は制限閾値下限である。この制限閾値下限より他の制限閾値が高く設定されているために、連続動作を行ってもトルク制限されることなく、電力変換装置を動作することができる。図4(a)に示すように、連続動作時のスイッチ素子温度は第1の最大ジャンクション温度Tj_max1以下となるように、各アームは設計されるため、通常制限閾値下限は温度Tj_max1より低い温度となる。
【0033】
図4(b)は、正常時における過負荷動作に対応した制御と温度変化を示している。連続動作の条件を超えた動作等が該当する。これは、トルク指令超過、冷却水温度超過、電圧超過等に起因するものである。過負荷動作中のスイッチ素子温度の最大値が第2の最大ジャンクション温度Tj_max2以下となるように、検出温度に対し制限閾値を決定する。この制限閾値を制限閾値候補1とする。過負荷動作中に検出温度が制限閾値候補1に達すると、制御部17はアームに流れる電流を抑制するように制御する(電流制限開始)。スイッチ素子温度が温度Tj_max2以下の範囲で最大となり、検出温度も下降し、制限閾値候補1より下がると、電流制限は終了する。電流制限期間は出力されるトルクが制限される。この制限閾値候補1の温度は、温度Tj_max2以下であり、過負荷動作時であってもトルク制限を行いながら、温度Tj_max2以下のスイッチ素子温度で電力変換装置は動作を継続することが可能となる。
【0034】
図4(c)は、電力変換装置1の外部の異常である冷却水不足時に対応した制御と温度変化を示している。前述したように、電力変換装置1の外部の異常において半導体スイッチ素子の発熱が最大となるのは、冷却水が抜けることである。そのため、スイッチ素子温度の最大値が第3の最大ジャンクション温度Tj_max3以下となるように、検出温度に対し制限閾値を設定する。この制限閾値を制限閾値候補2とする。冷却水不足が発生し、アームの検出温度が上昇し始め、制限閾値候補2に達すると、制御部17はアームに流れる電流を抑制するように制御し(電流制限開始)、これによりトルクを制限する。すなわち、トルク制限を行った場合に、スイッチ素子温度の最大値が第3の最大ジャンクション温度Tj_max3以下となるように、制限閾値を設定する。なお、図4(c)の例では制限閾値候補2が温度Tj_max1と温度Tj_max2との間に設定された例を示したが、これに限るものではない。温度Tj_max2より低い温度に設定されるが、温度Tj_max1より低い温度に設定される場合もある。
【0035】
前述では、制限閾値として、正常時の過負荷に対応した制限閾値候補1の例及び外部異常に対応した制限閾値候補2の例を示したが、正常時における半導体スイッチ素子の温度が温度Tj_max2を超過しないようにかつ、電力変換装置の外部異常時により半導体スイッチ素子の温度が温度Tj_max3を超過しないように1つの制限閾値を決めてもよい。制限閾値は、制限閾値候補1及び制限閾値候補2のうち低い方の温度に設定してもよい。このように制限閾値を低い方の温度に設定することで、過負荷及び電力変換装置1の外部の異常の両方の場合において、半導体スイッチ素子の温度が素子の保護のために設定された許容温度を超過することなく、動作を継続することが可能となる
【0036】
また、制限閾値は、制限閾値下限より高く、制限閾値候補1及び制限閾値候補2よりも低い範囲に設定すれば同様の効果が得られる。
【0037】
図4(d)は、図4(c)の比較例として、第3の最大ジャンクション温度Tj_max3が設定されていない場合に対応した制御と温度変化を示している。この場合、スイッチ素子温度の最大値が温度Tj_max2以下となるように、検出温度に対し制限閾値候補2を設定する必要がある。冷却水不足による温度上昇は急峻のため、過負荷で決まる制限閾値候補1よりも制限閾値候補2は低く設定することになる。さらに、制限閾値候補2が制限閾値下限以下になる場合には、半導体スイッチ素子のサイズアップ等により、制限閾値下限の低減及び制限閾値候補の高温化を図る必要が生じ、コストアップにつながってしまう。あるいは、速やかに半導体スイッチ素子の動作を停止せざるを得なくなる。
【0038】
<過昇温閾値の決定方法>
図4(c)に示すように、冷却水不足時はトルク制限後にもアーム動作を継続していると、冷却器18の温度が上昇し続け、最終的にスイッチ素子温度が温度Tj_max3を超過してしまう。そのため、制御部17は、トルク制限後に、スイッチ素子温度が温度Tj_max3を超える前にアーム動作を停止するように制御する。検出温度に対し、アーム動作を停止する過昇温閾値を設定する。過昇温閾値は、スイッチ素子温度と検出温度との差異、検出温度の誤差、検出温度の再上昇時の傾き、制御停止指令の遅延等を考慮し、検出温度が過昇温閾値を超えてアーム動作を停止した時に、スイッチ素子温度が温度Tj_max3を超えないように決定する。過昇温閾値を設定することにより、異常時にも半導体スイッチ素子が許容温度を超過しないように保護することができる。
【0039】
以上のように、本実施の形態1に係る電力変換装置1は、インバータを構成する半導体スイッチ素子の動作時の許容温度として3つの異なる最大ジャンクション温度Tj_max1、Tj_max2、Tj_max3を有し、温度Tj_max1は半導体スイッチ素子の正常時の連続動作を許容する温度、温度Tj_max2は温度Tj_max1より高く半導体スイッチ素子の動作を短時間許容する温度、温度Tj_max3は温度Tj_max2より高く温度Tj_max2の場合よりもさらに短時間半導体スイッチの動作を許容する温度であって、電力変換装置1の外部の異常により半導体スイッチ素子の温度が温度Tj_max3を超えないように、半導体スイッチ素子の動作を制御する制限閾値を設けるとともに、この制限閾値に基づいて半導体スイッチ素子の動作を制御し、半導体スイッチ素子の温度上昇を抑制した。これにより、頻度の低い事象である電力変換装置1の外部の異常に対して従来温度Tj_max2により設定していた制限閾値よりも高い温度に制限閾値を設定することが可能となり、半導体スイッチ素子のチップサイズの増大、チップ並列数増加、あるいは冷却構造の強化などの発熱抑制のためのコストアップを抑えることが可能となる。
【0040】
また、冷却機構の異常、特に冷却水不足における急激な温度上昇に対して、温度Tj_max3に対応した制御が可能となり、半導体スイッチ素子のチップサイズの増大等を行うことなく、温度上昇抑制による保護が可能となる。
【0041】
また、本実施の形態1において、インバータは半導体スイッチ素子が多並列で構成されるので、インピーダンスのばらつきによりインバータを流れる電流に偏りを生じ、特定の半導体スイッチ素子において発熱が大きくなる場合がある。図4で示したようにスイッチ素子温度の最大値は検出温度より高く、制御に用いる検出温度に設定される制限閾値をより低く設定しなくてはならない。しかし、温度Tj_max2より高温の温度Tj_max3に基づき、外部異常に対する制限閾値を設定することが可能となり、従来よりも制限閾値を高く設定可能となる。すなわち、半導体スイッチ素子のチップサイズの増大、チップ並列数増加、あるいは冷却構造の強化などの発熱抑制のためのコストアップを抑えることが可能となる。
【0042】
また、コスト削減のためにすべての半導体スイッチ素子の温度を検知せず、一部の半導体スイッチ素子の温度を検知するようにした場合、検知していない半導体スイッチ素子の発熱分を考慮しなくてはならない。しかし、前述のとおり、温度Tj_max2より高温の温度Tj_max3に基づき、外部異常に対する制限閾値を設定することが可能となり、従来よりも制限閾値を高く設定可能となる。すなわち、半導体スイッチ素子のチップサイズの増大、チップ並列数増加、あるいは冷却構造の強化などの発熱抑制のためのコストアップを抑えることが可能となる。
【0043】
実施の形態2.
以下に、実施の形態2に係る電力変換装置について図を用いて説明する。
実施の形態1では、検出温度に対して制限閾値を1つ備え、トルク制限を行う例を示したが、本実施の形態2では、制限閾値を複数備えた例について説明する。なお、実施の形態1と同様の内容は省略し、異なる点を中心に説明する。
【0044】
<半導体スイッチ素子の過熱保護方法>
各アーム(半導体スイッチ素子)を過熱から保護する方法について図5を用いて説明する。図5は、各アームの検出温度と最大トルクとの関係を説明するための図である。
各アームの検出温度112、122、132、142、152、162のいずれかが設定された第1の制限閾値1を超過すると、トルク指令の最大トルクがτmaxからτ1に制限される。さらに、アームの検出温度が上昇し、第2の制限閾値2を超過すると最大トルクがτ1からτ2に制限される。トルク制限によりモータ3及び各アームに導通する電流が制限され、発熱が抑制される。アームの検出温度が第2の制限閾値2を下回ると最大トルクの制限はτ1に戻り、第1の制限閾値1を下回ると、最大トルクの制限はτmaxに戻る。
【0045】
各アームの検出温度112、122、132、142、152、162のいずれかが過昇温閾値を超過した場合は、制御部17によりトルク制御及び半導体スイッチ素子のオンオフ制御を停止する。
【0046】
ここで、制限閾値前後では、最大トルクがτmaxからτ1あるいは最大トルクがτ1からτmaxに変化するが、あるいは、最大トルクがτ1らτ2あるいは最大トルクがτ2からτ1に変化するがトルクの急変を抑制するため、トルク指令に対して時間的な変化率制限(N/m/sec)を設ける。
なお、変化率制限を設ける理由は、実施の形態1に記載した理由と同じである。
【0047】
また、変化率制限を行う処理により、アーム(半導体スイッチ素子)の温度検出値が制限閾値を超過した場合に、半導体スイッチ素子の温度上昇を瞬時に止めることができなくなる。この場合は、実施の形態1に記載と同様に、半導体スイッチ素子の温度上昇の傾きが大きい異常時においては、第1の制限閾値1あるいは第2の制限閾値2をより低く設定して、過熱から保護するのがよい。
【0048】
<制限閾値1、2の決定方法>
制限閾値を決める方法について図6を用いて説明する。図6は各動作時におけるアーム(半導体スイッチ素子)の検出温度の変化を示した図である。図において、検出温度はアーム検出温度として信号出力される値であり、点線で示し、スイッチ素子温度は温度検出誤差を考慮した時の最大温度であり、検出温度より高い温度であり、実線で示している。各最大ジャンクション温度Tj_max1、Tj_max2、Tj_max3は低温側から順に一点鎖線で示している。
なお、図6(a)は図4(a)に相当するので説明を省略する。
【0049】
図6(b)は、正常時における過負荷動作に対応した制御と温度変化を示している。実施の形態1の図4(b)と同様に、スイッチ素子温度の最大値が温度Tj_max2以下となるように、検出温度に対し制限閾値を設定する。この制限閾値を制限閾値候補1とする。過負荷動作中に検出温度が制限閾値候補1に達すると、制御部17は、アームに流れる電流を制御し、最大トルクがτmaxからτ1になるようにトルク制限を開始する。このトルク制限により、スイッチ素子温度は温度Tj_max2以下に抑制される。検出温度が制限閾値候補1より下がると、トルク制限は終了し、再び最大トルクがτmaxとなるように制御部17はアームに流れる電流を制御する。
【0050】
第1の制限閾値1は、制限閾値候補1と同値に設定する。このように第1の制限閾値1を設定することにより、過負荷おいてスイッチ素子の許容温度である温度Tj_max2を超過することなく、アーム(半導体スイッチ素子)は動作を継続、すなわち電力変換装置1は動作を継続することができる。
【0051】
また、第1の制限閾値1は、制限閾値下限より高く、制限閾値候補1よりも低い範囲に設定すれば同様の効果が得られる。
【0052】
図6(c)は、電力変換装置1の外部の異常である冷却水不足時に対応した制御と温度変化を示している。ここではすでに図6(b)で説明した第1の制限閾値1が設定されている。冷却水不足時は検出温度が急峻に上昇しはじめ、第1の制限閾値1に達すると、トルク制限が開始され、アームに流れる電流が抑制されるため、検出温度の上昇は少し緩やかになる、しかし、検出温度の上昇は続く。スイッチ素子温度の最大値が温度Tj_max3を超過することないように、検出温度に対し、第2の制限閾値2を設定する。この第2の制限閾値2を制限閾値候補2とする。検出温度が制限閾値候補2の温度に達すると、最大トルクがτ1からτ2に下がるようにトルク制限が行われ、アームに流れる電流はさらに抑制される。これにより、スイッチ素子温度は温度Tj_max3を超過しないように低下し始める。
【0053】
第2の制限閾値2は、制限閾値候補2と同値に設定する。このように第2の制限閾値2を設定することにより、電力変換装置1の外部の異常において許容温度である温度Tj_max2を超過することなく、アーム(半導体スイッチ素子)は動作を継続、すなわち電力変換装置1は動作を継続することができる。
【0054】
また、第2の制限閾値2は、制限閾値候補1より高く、制限閾値候補2よりも低い範囲に設定すれば同様の効果が得られる。
なお、図6(b)、図6(c)において「トルク制限開始」、「トルク制限終了」は、図4(b)、図4(c)における「電流制限開始」、「電流制限終了」と同義である。
【0055】
なお、図6(c)には図示していないが、アーム(半導体スイッチ素子)の過熱保護のために、実施の形態1と同様に、過昇温閾値を設定する。過昇温閾値は、制限閾値候補2よりも高く温度Tj_max3より低い温度である。
【0056】
以上のように、本実施の形態2に係る電力変換装置1は、実施の形態1と同様の効果を奏する。さらに、第1の制限閾値1、第2の制限閾値2という複数の制限閾値を備えることにより、正常動作として通常有り得る過負荷では最大トルクをτ1に制限し、通常では有り得ない外部異常に起因する異常時においては最大トルクをτ1より低いτ2に制限することができる。これにより、正常時には所望の出力を維持したまま、異常時にのみ十分低いトルク制限を実施するといったアーム(半導体スイッチ素子)の過熱を適切に保護することが可能となる。
【0057】
なお、制御部17は、ハードウエアの一例を図7に示すように、プロセッサ1000と記憶装置2000から構成される。記憶装置は図示していないが、ランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶装置と、フラッシュメモリ等の不揮発性の補助記憶装置とを具備する。また、フラッシュメモリの代わりにハードディスクの補助記憶装置を具備してもよい。プロセッサ1000は、記憶装置2000から入力されたプログラムを実行する。この場合、補助記憶装置から揮発性記憶装置を介してプロセッサ1000にプログラムが入力される。また、プロセッサ1000は、演算結果等のデータを記憶装置2000の揮発性記憶装置に出力してもよいし、揮発性記憶装置を介して補助記憶装置にデータを保存してもよい。
【0058】
<その他の実施の形態>
上記実施の形態1、2では、半導体スイッチ素子の温度検出器として、半導体スイッチ素子11aに接続された温度検出用のダイオード114を例示したが、これに限るものではない。例えば、半導体スイッチ素子11aの近傍に配置されたサーミスタによって半導体スイッチ素子11aの温度を検出する構成であってもよい。温度検知のコストを低減できるが、半導体スイッチ素子の温度を直接測定しないことによる検出誤差と、サーミスタの特性による検出遅延による温度誤差を生じ、これがトルク制限の制限閾値を下げてしまう要因となる。しかし、本実施の形態のトルク制限方法により、従来よりも制限閾値を高く設定可能となるため、温度検出器のコストを低減しつつ、半導体スイッチ素子のチップサイズの増大、チップ並列数増加、あるいは冷却構造の強化などの発熱抑制のためのコストアップを抑えることが可能となる。
【0059】
また、上記実施の形態1、2では半導体スイッチ素子としてシリコン半導体によって構成されるIGBTを例に説明したが、これに限るものではない。例えば炭化ケイ素、窒化ガリウム系材料、またはダイヤモンドを用いたワイドバンドギャップ半導体でもよい。これらのワイドバンドギャップ半導体はシリコン半導体と比較して高価であるため、半導体スイッチ素子のサイズアップを抑制する点ではより効果的である。また、炭化ケイ素はシリコン半導体よりも高温での動作に適しているため、温度の制限閾値をより高く設定できる点でも好適である。また、半導体スイッチ素子はIGBTに限らず、MOSFET(Metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)等、他の半導体スイッチ素子を用いてもよい。
【0060】
なお、本実施の形態1、2では図3または図5に示したように、制限閾値を超過した場合にステップ状に最大トルクを制限する例を示し、制限閾値前後で変化率制限を設けることを説明したが、温度上昇するにつれて最大トルクが低下するような傾斜を持った制限方法であってもよい。
【0061】
また、上記実施の形態1、2のトルク制限では、所定の制限閾値を上回るときと下回るときで最大トルクの制限を変化させているが、制限閾値付近で制限の実施及び解除を繰り返すことを防止するため制限閾値を下回る場合にはヒステリシスを持たせた制限解除閾値を別途設けてもよい。
【0062】
なお、上記実施の形態1、2ではトルクを制限するが、電流が制限される方法であれば他の制御方法でもよい。電流指令、電力指令を制限するもの、あるいは電圧指令を制限することで間接的に電流が制限される方法であってもよい。
【0063】
また、上記実施の形態1、2ではDC/ACインバータにより電力変換装置を構成する例を示したが、その他の電力変換装置であっても同様の効果が得らえる。
【0064】
また、上記実施の形態1、2では半導体スイッチ素子の許容温度として3つの温度を説明しているが、半導体スイッチ素子を含む半導体モジュールの許容温度またはアーム単位の許容温度であってもよい。
【0065】
さらに、電力変換装置1の外部の異常として、半導体スイッチ素子の温度に最も影響を与える冷却水不足を例に説明したが、他の外部異常も考慮して制限閾値を決めてもよい。また、さらに制限閾値を増やしてもよい。第1の制限閾値と第2の制限閾値の間に他の外部異常に基づく第3の制限閾値を設定してもよい。
【0066】
上記実施の形態1、2において、第二の最大ジャンクション温度Tj_max2に対する制約時間を第1の時間、第三の最大ジャンクション温度Tj_max3に対する制約時間を第2の時間と称する。制限閾値候補1は、半導体スイッチ素子が温度Tj_max1を超えてTj_max2以下で動作する時間が、第1の時間内となるように設定するのがよい。
【0067】
また、制限閾値候補2は、半導体スイッチ素子が温度Tj_max2を超えてTj_max3以下で動作する時間が、第2の時間内となるように設定するのがよい。
【0068】
さらに、第三の最大ジャンクション温度Tj_max3には半導体スイッチ素子の動作に第2の時間という時間制約があるため、トルク制限後の温度低下の傾きによって、過昇温閾値を設定することが望ましい。さらに、トルク制限後の温度低下の傾きによっては時間制限も考慮して、アーム動作を停止するように制御してもよい。
【0069】
上記実施の形態1、2において、制御部17が各半導体スイッチ素子を第1の時間、第2の時間内で動作させるようにしてもよい。すなわち、制御部17は、第1の許容温度である温度Tj_max3を超えて第2の許容温度であるTj_max2以下で半導体スイッチ素子を動作させる場合は、第1の時間内で動作させ、第2の許容温度である温度Tj_max2を超えて第3の許容温度である温度Tj_max3以下で半導体スイッチ素子を動作させる場合は、第2の時間内で動作させるようにする。
【0070】
上記実施の形態1、2において、連続動作とは所定の電圧及び電流が継続する動作を示していたが、これに限らず常時発生し得る動作であってもいい。例えば、『最大トルク、電圧100V、水温40℃、10秒継続』と『最大トルク/2、電圧100V、水温50℃、連続』という動作を保証する電力変換装置であれば、この動作を連続動作として制限閾値を設定するものであってもよい。また、過負荷とは、この例において最大トルクを水温40℃あるいは10秒を超えて出力するなど、連続動作を超過した条件での動作としてもよい。
【0071】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0072】
1:電力変換装置、 2:電源、 3:モータ(負荷)、 4:ウォータポンプ、 5:放熱機構、 6:流路、 11、13、15:上アーム、 12、14、16:下アーム、 11a、11b:半導体スイッチ素子、 17:制御部、 18:冷却器、 111、121、131、141、151、161:駆動信号、 112、122、132、142、152、162:検出温度、 114:ダイオード、 1000:プロセッサ、 2000:記憶装置、 u1、v1、w1:接続点。
【要約】
【課題】電力変換装置の外部異常時に半導体スイッチ素子が高温になっても、一定時間の動作継続と過熱からの保護を可能とする。
【解決手段】電力変換装置は、半導体スイッチ素子の温度が予め設定された制限閾値を超えると電流制限するように半導体スイッチ素子の駆動を制御する制御部を備え、前記半導体スイッチ素子は、動作を許容する3段階の許容温度を有し、許容温度は第1から第3に従って高温である、制限閾値は、正常動作時における半導体スイッチ素子の温度が第2の許容温度を超えないように設定された第1の制限閾値と、電力変換装置の外部異常時により半導体スイッチ素子の温度が第3の許容温度を超えないように設定された第2の制限閾値と、を有する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7