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特許7183435燃料電池スタック、および燃料電池スタックの運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】燃料電池スタック、および燃料電池スタックの運転方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04746 20160101AFI20221128BHJP
   H01M 8/0258 20160101ALI20221128BHJP
   H01M 8/2484 20160101ALI20221128BHJP
   H01M 8/023 20160101ALI20221128BHJP
   H01M 8/0267 20160101ALI20221128BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20221128BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/0258
H01M8/2484
H01M8/023
H01M8/0267
H01M8/10 101
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021544054
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2020033618
(87)【国際公開番号】W WO2021045197
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019162198
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100125151
【弁理士】
【氏名又は名称】新畠 弘之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕磨
(72)【発明者】
【氏名】前川 全
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-158596(JP,A)
【文献】特開2013-191433(JP,A)
【文献】特開2002-025584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の主面に燃料極が配置され、前記主面と反対側の主面に酸化剤極が配置される電解質膜と、前記電解質膜の燃料極側の主面に燃料極流路が形成される親水性微細孔を有する導電性の燃料極多孔質流路板と、前記電解質膜の酸化剤極側の主面に酸化剤極流路が形成される親水性微細孔を有する導電性の酸化剤極多孔質流路板と、を有し、前記燃料極多孔質流路板の前記燃料極流路が配置される前記主面と反対側の主面、又は前記燃料極多孔質流路板の前記酸化剤極流路が配置される前記主面と反対側の主面にセルを冷却するための冷却水流路が形成される単位セルを複数積層したセル積層体を備え、
前記セル積層体では、少なくとも一部の前記燃料極多孔質流路板の一方の主面と、前記酸化剤極多孔質流路板の一方の主面とは接しており、前記燃料極多孔質流路板及び前記酸化剤極多孔質流路板を合わせた前記親水性微細孔の含有水による毛管力により、前記酸化剤極流路内の酸化剤ガスと前記燃料極流路内の燃料ガスとの直接混合が防止される、燃料電池スタック。
【請求項2】
前記冷却水流路内の冷却水の冷却水圧力と、前記酸化剤ガスの酸化剤ガス圧力との差圧の最大値を前記酸化剤極多孔質流路板の前記親水性微細孔の毛管力よりも小さくし、かつ、前記冷却水圧力と、前記燃料ガスの燃料ガス圧力との差圧の最大値を前記燃料極多孔質流路板の前記親水性微細孔の毛管力よりも小さくし、かつ、前記酸化剤ガス圧力と前記燃料ガス圧力との差圧の最大値を前記燃料極多孔質流路板及び前記酸化剤極多孔質流路板を合わせた前記親水性微細孔の前記毛管力よりも小さくする、請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
前記冷却水圧力は前記燃料極流路内の燃料ガスよりも低くし、かつ、前記燃料極流路における入口部の燃料ガス圧力と、前記入口部に対応する前記冷却水流路内の冷却水圧力との差圧は、前記燃料極流路における出口部の燃料ガス圧力と、前記出口部に対応する前記冷却水流路内の冷却水圧力との差圧よりも小さくする、請求項2に記載の燃料電池スタック。
【請求項4】
前記セル積層体では、前記主面投影面上の各々重ならない位置に前記冷却水の冷却入口部、前記冷却水の冷却出口部、前記酸化剤ガスの酸化剤ガス入口部、前記酸化剤ガスの酸化剤ガス出口部、前記燃料ガスの燃料ガス入口部、前記燃料ガスの燃料ガス出口部が設けられる、請求項3に記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記燃料極流路は、前記セル積層体の積層方向に沿った第1側面から前記第1側面に対向する第3側面に前記燃料ガスを導入する第1流路と、前記第3側面から前記第1側面に前記燃料ガスを導入する第2流路とを有し、前記燃料極流路の前記第1流路は、前記第1側面及び前記第3側面に隣接し、前記セル積層体の積層方向に沿った第2側面側に配置され、
前記冷却水流路は、前記第2側面側が上流領域であり、前記第2側面に対向する第4側面側が下流領域である、請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
前記燃料極流路は、前記セル積層体の積層方向に沿った第1側面から前記第1側面に対向する第3側面に前記燃料ガスを導入する第1流路と、前記第3側面から前記第1側面に前記燃料ガスを導入する第2流路とを有し、前記燃料極流路の前記第1流路は、前記第1側面及び前記第3側面に隣接し、前記セル積層体の積層方向に沿った第2側面側に配置され、
前記冷却水流路は、前記第2側面側が上流領域であり、前記第2側面に対向する第4側面側が下流領域であり、
前記燃料極流路の前記入口部は、前記第1側面の前記第2側面側に配置され、前記燃料極流路の前記出口部は、前記第1側面の前記第4側面側に配置され、
前記冷却水流路の入口部は、前記第2側面に配置され、前記冷却水流路の出口部は、前記第4側面側に配置される、請求項4に記載の燃料電池スタック。
【請求項7】
前記冷却水流路内の冷却水圧力は前記酸化剤極流路内の酸化剤ガスよりも低く、かつ、前記酸化剤極流路における入口部の酸化剤圧力と、当該入口部に対応する前記冷却水流路内の冷却水圧力との差圧は、前記酸化剤極流路における出口部の酸化剤圧力と、前記出口部に対応する前記冷却水流路内の冷却水圧力との差圧よりも小さい、請求項6に記載の燃料電池スタック。
【請求項8】
前記第1側面に配置され、前記燃料ガスを供給する供給空間と前記燃料ガスを排出する排出空間とをデバイダーで分断した燃料極マニホールドと、
前記第2側面に配置され、前記冷却水流路に前記冷却水を供給する冷却水マニホールドと、
を備え、
前記冷却水マニホールド側に前記供給空間を配置した、請求項7に記載の燃料電池スタック。
【請求項9】
前記第2側面に配置され、前記酸化剤ガスを供給する供給空間と前記酸化剤ガスを排出する排出空間とをデバイダーで分断した酸化剤極マニホールドを更に備え、
前記冷却水マニホールド側に前記供給空間を配置した、請求項8に記載の燃料電池スタック。
【請求項10】
前記燃料極流路における前記入口部に対応する前記冷却水流路内の冷却水圧力は、当該入口部から最短距離にある前記冷却水流路内の冷却水圧力であり、前記燃料極流路における前記出口部に対応する前記冷却水流路内の冷却水圧力は、当該出口部から最短距離にある前記冷却水流路内の冷却水圧力であり、前記酸化剤極流路における前記入口部に対応する前記冷却水流路内の冷却水圧力は、当該入口部から最短距離にある前記冷却水流路内の冷却水圧力であり、前記酸化剤極流路における前記出口部に対応する前記冷却水流路内の冷却水圧力は、当該出口部から最短距離にある前記冷却水流路内の冷却水圧力である、請求項8に記載の燃料電池スタック。
【請求項11】
一方の主面に燃料極が配置され、前記主面と反対側の主面に酸化剤極が配置される電解質膜と、前記電解質膜の燃料極側の主面に燃料極流路が形成される親水性微細孔を有する導電性の燃料極多孔質流路板と、前記電解質膜の酸化剤極側の主面に酸化剤極流路が形成される親水性微細孔を有する導電性の酸化剤極多孔質流路板と、を有し、前記燃料極多孔質流路板の前記燃料極流路が配置される前記主面と反対側の主面、又は前記燃料極多孔質流路板の前記酸化剤極流路が配置される前記主面と反対側の主面にセルを冷却するための冷却水流路が形成される単位セルを複数積層したセル積層体を備える燃料電池スタックの運転方法であって、
前記セル積層体では、少なくとも一部の前記燃料極多孔質流路板の一方の主面と、前記酸化剤極多孔質流路板の一方の主面とは、接しており、
前記燃料極多孔質流路板及び前記酸化剤極多孔質流路板を合わせた前記親水性微細孔の含有水による毛管力により、前記酸化剤極流路内の酸化剤ガスと前記燃料極流路内の燃料ガスとの直接混合が防止されるように運転する、燃料電池スタックの運転方法。
【請求項12】
前記冷却水流路内の冷却水の冷却水圧力と、前記酸化剤ガスの酸化剤ガス圧力との差圧の最大値を前記酸化剤極多孔質流路板の前記親水性微細孔の毛管力よりも小さくし、かつ、前記冷却水圧力と、前記燃料ガスの燃料ガス圧力との差圧の最大値を前記燃料極多孔質流路板の前記親水性微細孔の毛管力よりも小さくし、かつ、前記酸化剤ガス圧力と前記燃料ガス圧力との差圧の最大値を前記燃料極多孔質流路板及び前記酸化剤極多孔質流路板を合わせた前記親水性微細孔の前記毛管力よりも小さくするように運転する、請求項11に記載の燃料電池スタックの運転方法。
【請求項13】
前記冷却水圧力は前記燃料極流路内の燃料ガスよりも低く、かつ、前記燃料極流路における入口部の燃料ガス圧力と、前記入口部に対応する前記冷却水流路内の冷却水圧力との差圧は、前記燃料極流路における出口部の燃料ガス圧力と、前記出口部に対応する前記冷却水流路内の冷却水圧力との差圧よりも小さくする、請求項12に記載の燃料電池スタックの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、燃料電池スタック、および燃料電池スタックの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池スタックは、水素等の燃料ガスと空気等の酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、燃料の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに変換する発電装置である。燃料電池には電解質の違いにより幾つかの形式、例えば、固体酸化物形、溶融炭酸形、リン酸形、固体高分子形が知られており、その運転条件の違い等から用途により適用される形式が異なる。この中で固体高分子形の燃料電池は、運転温度が低く起動・停止が容易であり、出力密度が高く出来ることから自動車向け、家庭用、さらには業務用の電源として開発・実用化が幅広く進められている。
【0003】
固体高分子形燃料電池で現在主流となっているのはプロトン(水素イオン)交換型の電解質膜を使用する固体電解質膜形燃料電池である。これらの電解質膜においてはプロトンの伝導性を確保するために電解質膜を含水させる必要があり、燃料ガスおよび酸化剤ガスを加湿して運用する。ガスを加湿する方法として、燃料電池スタックの外部に加湿装置を設ける方式(外部加湿方式)や電池スタック内で加湿する方式(内部加湿方式)等があるが、一般にセル積層体に供給されるガス流量が多いと積層体のガス入口部では湿度が低下し乾燥状態となる。ところが、燃料電池スタックを構成する電解質膜の劣化は、低湿度且つ高温であるほど加速してしまうことが知られている。
【0004】
一方で、現在広く実用化されている固体高分子形燃料電池の運用温度は水の沸点以下であり、酸化剤極における反応生成水や燃料極における水素消費に伴って過剰(過飽和)になる加湿水はセル内で凝縮する。凝縮水が滞留してガス流路が閉塞した場合、反応に必要な酸素あるいは水素が欠乏して、セル電圧が低下して運転が不安定になってしまう。特に燃料極で水素が不足する場合、セル部材を構成する炭素(カーボン部材)が水と反応して二酸化炭素とプロトンになるカーボン腐食反応が促進される結果、セル部材が減耗し、セルを著しく劣化させる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-25584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、電解質膜の乾燥による劣化と凝縮水の滞留を抑制可能な燃料電池スタック、および燃料電池スタックの運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態によれば、燃料電池スタックは、一方の主面に燃料極が配置され、主面と反対側の主面に酸化剤極が配置される電解質膜と、電解質膜の燃料極側の主面に燃料極流路が形成される燃料極多孔質流路板と、電解質膜の酸化剤極側の主面に酸化剤極流路が形成される酸化剤極多孔質流路板と、を有し、燃料極多孔質流路板の燃料極流路が配置される主面と反対側の主面、又は燃料極多孔質流路板の酸化剤極流路が配置される主面と反対側の主面に冷却水流路が形成される単位セルを複数積層したセル積層体を備え、冷却水流路内の冷却水圧力は燃料極流路内の燃料ガスよりも低く、かつ、燃料極流路における入口部の燃料ガス圧力と、入口部に対応する冷却水流路内の冷却水圧力との差圧は、燃料極流路における出口部の燃料ガス圧力と、出口部に対応する冷却水流路内の冷却水圧力との差圧よりも小さく,冷却水圧力と酸化剤圧力の差圧の最大値と冷却水圧力と燃料極圧力の差圧の最大値の大きいほうの差圧が流路板の毛管力よりも小さい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電解質膜の乾燥による劣化と凝縮水の滞留を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】マニホールドを外した燃料電池スタックの構造を示す斜視図。
図2】燃料電池セルの基本構成を示す斜視図。
図3】第1多孔質セパレータにおける電解質膜の燃料極側の主面形状を示す模式図。
図4】第2多孔質セパレータの主面の形状を示す模式図。
図5】第2多孔質セパレータの主面の反対側の主面の形状を示す模式図。
図6】多孔質セパレータにおける、凝縮水吸収メカニズムを示す模式図。
図7】多孔質セパレータにおける、ガス入口部加湿メカニズムを示す模式図。
図8】セル積層体の積層方向に沿った側面にマニホールドを装着した状態を示す図。
図9】燃料ガス圧力と冷却水圧力との差圧を示す図。
図10】酸化剤ガス圧力と冷却水圧力との差圧を示す図。
図11】側面にマニホールドを装着した状態を示す従来の燃料電池スタックの模式図。
図12】従来の燃料電池スタックにおける燃料ガス圧力と冷却水圧力との差圧を示す図。
図13】第1多孔質セパレータにおける酸化剤極側の主面形状を示す模式図。
図14】第2多孔質セパレータ16の燃料極側の主面形状を示す模式図。
図15】変形例に係るセル積層体の積層方向に沿った側面にマニホールドを装着した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、マニホールドを外した燃料電池スタック1の構造を示す斜視図である。図1に示すように、一実施形態に係る燃料電池スタック1は、燃料電池セルにおける電気化学反応により発電する構造体である。すなわち、燃料電池スタック1は、セル積層体10と、2つの集電板20と、電力端子20aと、2つの絶縁板30と、2つの締付板100と、複数のタイロッド200、を備えて構成される。締付板100は、エンドプレート110と、梁部120とを有している。図1は、セル積層体10の積層方向に平行なZ方向と、Z方向に垂直で互いに平行なX方向およびY方向を示している。本実施形態の燃料電池スタック1を水平面上に設置する場合、Z方向は水平方向であり、重力方向に垂直となる。なお、燃料電池スタック1の実運転時には、例えばx、y面が底部とされる。
【0012】
セル積層体10の積層方向の両側には、2つの集電板20が配置される。2つの集電板20は、板状の導電体であり、セル積層体10の両端面のそれぞれに配置される。集電板20に設けられた電力端子20aから電気エネルギーが取り出される。2つの絶縁板30は、板状の絶縁体であり、2つの集電板20と、2つの締付板100との間にそれぞれ配置される。このように、セル積層体10の積層方向の両側には、2つの集電板20と2つの絶縁板30が順に配置されており、これらを一体的に積層方向の両側から2つの締付板100で締め付けることで、燃料電池スタック1が得られる。2つの締付板100に設けられた対向する孔部にタイロッド200を通した状態で、座金を介してナットが締め付けられ、2つの締付板100が連結される。
【0013】
図2乃至図5に基づき、第1実施形態に係る燃料電池セル10aの詳細な構成について説明する。図2は、燃料電池セル10aの基本構成を示す斜視図である。図2に示すように、燃料電池セル10aは、電解質膜12と、第1多孔質セパレータ14と、第2多孔質セパレータ16と、を備える。この電解質膜12は、一方の主面に触媒層31およびガス拡散層33からなる燃料極が形成され、他方の主面には触媒層32およびガス拡散層34からなる酸化剤極が形成される。電解質膜12は、例えば高分子型の電解質膜である。また、電解質膜12と触媒層31と触媒32を合わせて膜電極接合体と呼ばれる場合がある。この燃料電池セル10aを複数積層し、セル積層体10が構成される。なお、本実施形態に係る燃料電池セル10aが単位セルに対応する。
【0014】
図3は、第1多孔質セパレータ14における電解質膜12の燃料極側の主面における燃料ガスの流れを示す模式図である。図3に示すように、第1多孔質セパレータ14は、親水性微細孔を有する導電性多孔質板で構成される。電解質膜12の燃料極側の主面14aに、燃料極に沿った燃料極流路140を形成している。また、燃料極流路140は、第1入口部14bと、第1出口部14cと、第2入口部14dと、第2出口部14eと、を有する。すなわち、燃料極流路140は、第1入口部14bと第1出口部14cとを結ぶ第1燃料ガス流路と、第2入口部14dと第2出口部14eとを結ぶ第2燃料ガス流路により形成される。第1入口部14bから導入され燃料ガスは、燃料極流路140の第1燃料ガス流路に沿って流れ第1出口部14cから排出される。また、第2入口部14dから導入された燃料ガスは、燃料極流路140の第2燃料ガス流路に沿って流れ第2出口部14eから排出される。第1多孔質セパレータ14の親水性微細孔は含水されており、親水性微細孔内の水の毛管力により燃料ガスの透過を防止しつつ、微細孔のネットワークを通じて含水された水の移動を可能としている。
【0015】
図4及び図5は、第2多孔質セパレータ16の構成を示す図であり、図4は、第2多孔質セパレータ16の主面16aにおける酸化剤ガスの流れを示す模式図であり、図5は、第2多孔質セパレータ16の主面16aの反対側の主面16bにおける冷却水の流れを示す模式図である。図4に示すように、第2多孔質セパレータ16は、親水性微細孔を有する導電性多孔質板で構成される。この第2多孔質セパレータ16は、電解質膜12の酸化剤極側の主面16aに、酸化剤極に沿った酸化剤極流路160aを形成している。また、酸化剤極流路160aは、第1入口部16cと、第1出口部16dと、第2入口部16eと、第2出口部16fと、を有する。第1入口部16cから導入され酸化剤ガスは、酸化剤極流路160aに沿って流れ第1出口部16dから排出される。また、第2入口部16eから導入され酸化剤ガスは、酸化剤極流路160aに沿って流れ第2出口部16fから排出される。なお、本実施形態に係る第1多孔質セパレータ14が燃料極多孔質流路板に対応し、第2多孔質セパレータ16が燃料極多孔質流路板に対応する。第2多孔質セパレータ16の親水性気孔も第1多孔質セパレータ14と同様に含水されており、親水性微細孔内の水の毛管力により酸化剤ガスの透過を防止しつつ、微細孔のネットワークを通じて含水された水の移動を可能としている。
【0016】
図5に示すように、酸化剤極側と反対側の主面16bに、冷却水流路160bを形成している。冷却水流路160bは、第1入口部16gと、第1出口部16hと、を有する。第1入口部16gから導入され冷却水は、冷却水流路160bに沿って流れ第1出口部16hから排出される。冷却水流路160bを流れる冷却水の圧力は、燃料極流路140を流れる燃料ガス、及び酸化剤極流路160aを流れる酸化剤ガスよりも低くなるように設定される。冷却水流路160b内の冷却水は第1多孔質セパレータ14内の親水性微細気孔および第2多孔質セパレータ16内の親水性微細気孔内に含有されている水と連通している。これにより、含有水の毛管力により燃料ガスと酸化剤ガスの直接混合を防止するとともに、微細孔のネットワークが酸化剤ガスと燃料ガスの加湿経路および酸化剤ガス流路内、燃料ガス流路に凝縮した水の吸収経路を構成する。また、酸化剤ガス圧力と冷却水の圧力差および燃料ガス圧力と冷却水の圧力差を微細孔の毛管力よりも低く維持することにより、親水性気孔内に水を安定的に保持することができる。
【0017】
図6は、多孔質セパレータにおける、凝縮水吸収メカニズムを示す模式図である。図6に示すように、親水性微細気孔を有する第1多孔質セパレータ14などの多孔質体内部における流体の移動速度m(質量流束)は多孔質セパレータの透過係数k[m2]、水圧差ΔP[Pa]、水の密度ρ[kg/m3]および水の粘性係数μ[Pa・s]を用いて(1)式に記述できる。水圧差ΔPは、ガス圧力P[Pa]と冷却水圧力P[Pa]との差圧である。ここで、図6に示すように、ガス溝内の凝縮水の圧力がほぼ流路内のガス圧力Pに等しく、多孔質セパレータの透過係数Kに気孔率と屈曲度の効果を含めれば、毛管長さLは冷却水流路(冷却水溝)160bから燃料極流路(ガス溝)140までの距離と等価となる。したがって、透過係数kや厚さ、水の物性値が一定の条件では、ガス圧力Pからと水圧Pwとの圧力差、すなわち、ガス側の圧力と冷却水圧力の差圧が大きいほど吸水速度が大きくなる。なお、図6では、簡単のため代表的な1本の細孔を示している。実際のセパレータにおいては無数の細孔がネットワーク状に接続された複雑な構造になっている。ここでは、ネットワークを為す細孔群全体の代表通過の断面積として透過係数Kを定義することが可能である。
【数1】
【0018】
図7は、多孔質セパレータにおける、ガス入口部加湿メカニズムを示す模式図である。図7に示すように、第1多孔質セパレータ14表面における加湿速度mvは、燃料極流路140近傍の細孔端部に形成される気液界面からガス側への水の蒸発速度である。水の蒸発速度上限値は冷却水流路160bから、燃料極流路140近傍までの毛管力による水の輸送速度により規定される。図7においても水の輸送速度は式(1)に従っているが、図6との違いは駆動圧力差ΔPがガス流路表面近傍気液界面水側の毛管内の圧力Pwsと冷却水流路160bの圧力Pwとの圧力差となっていることである。このPwsはガス圧力Pと(3)式の関係にあり、さらに(3)式中の微細孔代表半径rcはセパレータの水透過係数Kと(4)式の関係があることから(2)式の関係が成立する。ここで、ρは水の密度[kg/m]であり、μは水の粘性係数[Pa・s]であり、μは水の粘性係数[Pa・s]であり、θは多孔質セパレータ微細孔内壁への水接触角[rad]であり、rcは多孔質セパレータ微細孔の代表半径[m]であり、εは多孔質セパレータの気孔率[-]であり、Kは多孔質セパレータの透過係数[m]であり、Lはガス流路~冷却水流路までの距離[m]である。
【数2】
【数3】
【数4】
【0019】
(2)式において、水輸送の主たる駆動力は毛管圧力であり、P-Pは、駆動力の目減り分を表す。したがって、P-PW、すなわち、燃料極流路140と冷却水流路160bとの差圧がなるべく小さいほうが望ましい。
【0020】
なお、図6と同様に図7でも代表的な1本の細孔を示している。実際のセパレータにおいては無数の細孔がネットワーク状に接続された複雑な構造になっているが、ネットワークを為す細孔群全体の代表通過の断面積として透過係数、毛管特性として代表気孔半径を定義ずることにより(3)式が適用可能である。以上に関しては、燃料極流路140と冷却水流路160bとの関係について説明したが、酸化剤極流路160aと冷却水流路160bとも同様の現象が生じる。
【0021】
さて、燃料電池セル10aは積層されるため、第1多孔質セパレータ14のZ方向に、次の燃料電池セル10aの第2多孔質セパレータ16が積層される。このため、第1多孔質セパレータ14は、Z方向の少なくともいずれかの冷却水流路160b内の冷却水により冷却される。さらにまた、燃料極流路140内の燃料ガスへの加湿は、最近傍位置の冷却水流路160b内の冷却水圧の影響を受ける。すなわち、燃料極流路140内の燃料ガス圧と最近傍位置の冷却水流路160b内の冷却水圧との差圧が小さくなるにしたがい燃料ガスの加湿がより進むことになる。逆に、差圧が大きくなるにしたがい、燃料極流路140内の凝縮水の吸収が促進され滞留が抑制される。
【0022】
同様に、酸化剤極流路160aの酸化剤ガスへの加湿は、最近傍位置の冷却水流路160b内の冷却水圧の影響を受ける。すなわち、酸化剤極流路160a内の酸化剤ガス圧と最近傍位置の冷却水流路160b内の冷却水圧との差圧が小さくなるにしたがい酸化剤ガスの加湿がより進むことになる。逆に、差圧が大きくなるにしたがい、酸化剤極流路160a内の凝縮水の吸収が促進され滞留が抑制される。
【0023】
これら複数の燃料電池セル10aは、化学式1で示す反応により発電する。より詳細には、燃料ガスは例えば水素含有ガスである。燃料ガスは、第1多孔質セパレータ14の燃料極流路140に沿って流れ、燃料極反応をおこす。酸化剤ガスは例えば酸素含有ガスである。酸化剤ガスは、第2多孔質セパレータ16の酸化剤極流路160aを沿って流れ、酸化剤極反応をおこす。燃料電池スタック1は、これらの電気化学反応を利用して、集電板20(図1)に設けられた電力端子20aから電気エネルギーを取り出す。
【0024】
(化学式1)
燃料極反応:2H→4H+4e
酸化剤極反応:4H+O+4e→2H
【0025】
図8は、燃料電池セルスタック1のセル積層体10の積層方向に沿った側面にマニホールドを装着した状態を示す図である。図8に示すように、燃料電池セルスタック1は、燃料極マニホールド42と、燃料極対向マニホールド44と、冷却水マニホールド46と、冷却水対向マニホールド48とを更に備える。
【0026】
燃料極マニホールド42は、燃料電池セルスタック1の積層方向に沿った第1側面に配置される。燃料極マニホールド42は、燃料ガス供給装置から供給された燃料ガスを第1入口部14bにより燃料電池セル10a内の燃料極流路140に供給する供給空間42bと、第2出口部14eから排出された燃料ガスを更に排出するための排出空間42aとをデバイダーで分断したマニホールドである。
【0027】
燃料極対向マニホールド44は、第1側面に対応する第3側面に配置される。燃料極対向マニホールド44は、燃料極流路140の第1出口部14cから排出された燃料ガスを、第2入口部14dから燃料電池セル10a内の燃料極流路140に供給するマニホールドである。
【0028】
冷却水マニホールド46は、第1冷却水マニホールド46aと、第1酸化剤極マニホールド46bと、第2酸化剤極マニホールド46cとを有している。冷却水マニホールド46は、第1側面に隣接し、燃料電池セルスタック1の積層方向に沿った第2側面に配置される。第1冷却水マニホールド46aは、第1入口部16gを介して燃料電池セル10a内の冷却水流路160bに冷却水を供給するマニホールドである。
【0029】
第1酸化剤極マニホールド46bは、酸化剤ガス供給装置から供給された酸化剤ガスを第1入口部16cにより燃料電池セル10a内の酸化剤極流路160aに供給する。第2酸化剤極マニホールド46cは、第2出口部16fから排出された燃料ガスを更に排出する。第1酸化剤極マニホールド46bと第2酸化剤極マニホールド46cとはデバイダーで分断される。
【0030】
冷却水対向マニホールド48は、第1冷却水対向マニホールド48aと、酸化剤極対向マニホールド48bと、を有している。冷却水対向マニホールド48は、第2側面に対向し、燃料電池セル10aの積層方向に沿った第4側面に配置される。
【0031】
第1冷却水対向マニホールド48aは、第1出口部16hから排出された冷却水を更に排出するための排出空間を有するマニホールドである。酸化剤極対向マニホールド48bは、第1出口部16dから排出された酸素含有ガスを第2入口部16eから燃料電池セル10a内の酸化剤極流路160aに供給するマニホールドである。
【0032】
図8に示すように、第1入口部14bと第1出口部14cとを結ぶ第1燃料ガス流路は冷却水流路160bの上流側の領域の鉛直上方に配置され、第2入口部14dと第2出口部14eとを結ぶ第2燃料ガス流路を冷却水流路160bの下流側の領域の鉛直上方に配置される。冷却水流路160b内の冷却水圧力は下流に行くに従い低下する。同様に、燃料極流路140内の燃料ガスは下流に行くに従い低下する。また、一般に冷却水流路160bの入口部16gと出口部16hの差圧は、燃料極流路140の第1入口部14bと第1出口部14cとの差圧よりも大きくなる。
【0033】
図9は、燃料極流路140における燃料ガスと、燃料極流路140に対応する位置の冷却水流路内の冷却水圧力との差圧を示す図である。縦軸が圧力を示す。ライン70は、燃料極流路140の第1入口部14bから第2出口部14eまでの燃料極流路140に沿った位置の燃料ガスの圧力を示す。ライン72は、燃料極流路140に沿った位置と対応する冷却水流路160b内の冷却水圧力を示す。すなわち、燃料極流路140に沿った位置と対応する冷却水流路160b内の冷却水圧力は、燃料極流路140に沿った各位置から最短距離にある冷却水流路160b内の位置における冷却水圧である。より具体的には、各位置からの鉛直下方又は鉛直上方位置における冷却水流路160b内の冷却水圧力を示す。
【0034】
図9に示すように、燃料極流路140の上流から下流に向けて、燃料ガス圧力と冷却水圧力との差圧を大きくすることが可能となる。このため、燃料極流路140における第1入口部14bの燃料ガス圧力と、第1入口部14bの鉛直下方又は上方の位置における冷却水流路160b内の冷却水圧力との差圧は、燃料極流路140における第2出口部14eの燃料ガス圧力と、第2出口部14eの鉛直下方又は上方の位置における冷却水流路160b内の冷却水圧力との差圧よりも小さくなる。なお、直下方又は上方の位置に冷却水流路160bが無い場合は、その近傍の冷却水流路160b内の冷却水圧圧を用いて差圧を求めることとする。
【0035】
上述のように、第1多孔質セパレータ14及び第2多孔質セパレータ16は、微細孔を有する導電性多孔質板で構成されるため、燃料ガス圧力と冷却水圧力との差圧が小さくなるほど、第2多孔質セパレータ16及び電解質膜12を介して第1多孔質セパレータ14に浸潤する水分が増加する。これにより、燃料極流路140における第1入口部14bでは、第2出口部14eよりも燃料ガスをより加湿しやすくなる。このため、電解質膜12の乾燥と高温化を抑制可能となる。
【0036】
一方で、上述のように、燃料ガス圧力と冷却水圧力との差圧が大きくなるほど、燃料極流路140に滞留した凝縮水を吸収しやすくなる。このため、第2出口部14eでは、燃料極流路140に発生した凝縮水を第1入口部14bよりも吸収しやすくなる。つまり、燃料極流路140の下流に行くに従い差圧がより大きくなるので、下流に行くに従い燃料極流路140の水溜まりに起因するカーボン腐食と特性低下をより抑制できる。このように、燃料極流路140の上流から下流に向けて、燃料ガス圧力と冷却水圧力との差圧を大きくすることにより、第1入口部14bでは、燃料ガスの加湿がより進み、第2出口部14eでは、凝縮水の吸収がより進む効果がある。これにより、第1入口部14bでは、燃料ガスの加湿がより進み、第2出口部14eでは、凝縮水の吸収がより進む効果がある。
【0037】
図10は、酸化剤極流路160aの第1入口部16cにおける酸化剤ガスと冷却水圧力との差圧と、第2出口部16fにおける酸化剤ガスと冷却水圧力との差圧を示す模式図である。縦軸が圧力を示す。第1入口部16cは、第2出口部16fよりも冷却水流路160bの上流側に配置される。これにより、第1入口部16cの酸化剤ガス圧力と、第1入口部16cの鉛直下方の位置における冷却水流路160b内の冷却水圧力との差圧は、第2出口部16fの酸化剤ガス圧力と、第2出口部16fの鉛直下方の位置における冷却水流路160b内の冷却水圧力との差圧よりも小さくなる。
【0038】
第1多孔質セパレータ14は、上述のように微細孔を有する導電性多孔質板で構成されるため、酸化剤ガスと冷却水圧力との差圧が小さくなるほど、第1多孔質セパレータ14を浸潤する水分が増加する。これにより、酸化剤極流路160における第1入口部16cでは、第2出口部16fよりも酸化剤ガスをより加湿しやすくなる。このため、電解質膜12の乾燥と高温化を抑制可能となる。
【0039】
一方で、酸化剤ガスと冷却水圧力との差圧が大きくなるほど、酸化剤極流路160に滞留した凝縮水を吸収しやすくなる。このため、第2出口部16fでは、酸化剤極流路160に滞留した凝縮水を第1入口部16cよりも吸収しやすくなる。これにより、酸化剤極流路160の水溜まりに起因する特性低下を抑制できる。このように、第1入口部16cの酸化剤ガス圧力と冷却水圧力との差圧を第2出口部16fの酸化剤ガス圧力と冷却水圧力との差圧より小さくすることにより、第1入口部16cでは、酸化剤ガスの加湿がより進み、第2出口部16fでは、凝縮水の吸収がより進む効果がある。
【0040】
(比較例)
図11は、燃料電池セルスタック1の燃料電池セルの積層方向に沿った側面にマニホールドを装着した状態を示す従来の燃料電池スタックの模式図である。図11に示すように、従来の燃料電池スタック4では、燃料極流路140の第1入口部14bと第2出口部14eとの位置が、本実施形態に係る燃料電池スタック1と逆の位置となっている。また、従来の燃料電池スタック4では、酸化剤極流路160aの第1入口部16cと第2出口部16fとの位置が、本実施形態に係る燃料電池スタック1と逆の位置となっている。
【0041】
図12は、従来の燃料電池スタックにおける燃料極流路140における燃料ガス圧力と、燃料極流路140に対応する位置の冷却水流路の冷却水圧力との差圧を示す図である。縦軸が圧力を示す。ライン74は、燃料極流路140の第1入口部14bから第2出口部14eまでの燃料極流路140に沿った位置の燃料ガスの圧力を示す。ライン72は、燃料極流路140に沿った位置の鉛直下方位置における冷却水流路160b内の冷却水圧力を示す。
【0042】
従来の燃料電池スタック4では、燃料極流路140の第1入口部14dと第2出口部14eとの位置が、本実施形態に係る燃料電池スタック1と逆の位置となっている。このため、第1入口部14bの燃料ガス圧力と、第1入口部14bの鉛直下方又は上方の位置における冷却水流路160b内の冷却水圧力との差圧は、燃料極流路140における第2出口部14eの燃料ガス圧力と、第2出口部14eの鉛直下方又は上方の位置における冷却水流路160b内の冷却水圧力との差圧よりも大きくなる。このため、第1入口部14bの乾燥が第2出口部14eより進むことになる。また、第2出口部14eの凝縮水の吸収が第1入口部14bより抑制されることになる。
【0043】
同様に、従来の燃料電池スタック4では、酸化剤極流路160aの第1入口部16cと第2出口部16fとの位置が、本実施形態に係る燃料電池スタック1と逆の位置となっている。このため、第1入口部16cの酸化剤ガス圧力と、第1入口部16cの鉛直下方の位置における冷却水流路160b内の冷却水圧力との差圧は、第2出口部16fの酸化剤ガス圧力と、第2出口部16fの鉛直下方の位置における冷却水流路160b内の冷却水圧力との差圧よりも大きくなる。このため、第1入口部16cの乾燥が第2出口部16fより進むことになる。また、第2出口部16fの凝縮水の吸収が第1入口部16cより抑制されることになる。このように、従来の燃料電池スタック4では、本願に係る燃料電池スタック1で得られる効果と相反する効果となる。
【0044】
以上のように、本実施形態によれば、燃料極流路140における第1入口部14bの燃料ガス圧力と、第1入口部14bに対応する冷却水流路160b内の冷却水圧力との差圧を、燃料極流路140における第2出口部14eの燃料ガス圧力と、第2出口部14eに対応する冷却水流路160b内の冷却水圧力との差圧よりも小さくすることとした。これにより、第1入口部14bでは、燃料ガスの加湿がより進み、第2出口部14eでは、凝縮水の吸収がより進む効果がある。このように、第1入口部14bで燃料ガスをより加湿することが可能となり、電解質膜12の乾燥による劣化が抑制され、第2出口部14eに近づくほど差圧が大きくなるので凝縮水の滞留をより抑制できる。
【0045】
また、第1入口部14bと第1出口部14cとを結ぶ第1燃料ガス流路を冷却水流路160bの上流側の領域の鉛直上方又は下方に配置し、第2入口部14dと第2出口部14eとを結ぶ第2燃料ガス流路を冷却水流路160bの下流側の領域の鉛直上方又は下方に配置した。このため、燃料極流路140の上流から下流に向けて、燃料ガス圧力と冷却水圧力との差圧を大きくすることが可能となり、第1入口部14bでは、燃料ガスの加湿がより進み、第2出口部14eでは、凝縮水の吸収がより進む効果がある。
【0046】
(第1実施形態の変形例1)
第1実施形態の変形例1に係る燃料電池スタック1は、第1多孔質セパレータ14に酸化剤極流路160aを形成し、第1多孔質セパレータ16に燃料極流路140を形成した点で第1実施形態に係る燃料電池スタック1と相違する。以下では、第1実施形態に係る燃料電池スタック1と相違する点に関して説明する。
【0047】
電解質膜12(図2)は、鉛直上方側の主面に酸化剤極が形成され、他方の主面に燃料極が形成される点で第1実施形態と相違する。
図13は、第1多孔質セパレータ14における電解質膜12の酸化剤極側の主面形状を示す模式図である。電解質膜12の酸化剤極側の主面16aに、酸化剤極に沿った酸化剤極流路160aを形成している。
【0048】
図14は、第2多孔質セパレータ16の主面14aの形状を示す図であり、図14に示すように、電解質膜12の燃料極側の主面14aに、燃料極に沿った燃料極流路140を形成している。このように、第1多孔質セパレータ14に酸化剤極流路160aを形成し、第2多孔質セパレータ16に燃料極流路140を形成しても、鉛直上方から見た場合に図8と同等の配置を得ることが可能である。なお、本実施形態に係る第1多孔質セパレータ14が燃料極多孔質流路板に対応し、第2多孔質セパレータ16が燃料極多孔質流路板に対応する。
【0049】
以上のように変形例1によれば、第1入口部14bと第1出口部14cとを結ぶ第1燃料ガス流路は冷却水流路160bの上流側の領域の鉛直上方又は下方に配置され、第2入口部14dと第2出口部14eとを結ぶ第2燃料ガス流路は冷却水流路160bの下流側の領域の鉛直上方又は下方に配置される。このため、燃料極流路140の上流から下流に向けて、燃料ガス圧力と冷却水圧力との差圧を大きくすることが可能となり、第1入口部14bでは、燃料ガスの加湿がより進み、第2出口部14eでは、凝縮水の吸収がより進む効果がある。
【0050】
(第1実施形態の変形例2)
第1実施形態の変形例2に係る燃料電池スタック1は、燃料極流路140を流れる燃料ガスの向きを反対にし、酸化剤極流路160aを流れる酸化剤ガスの向きを反対にし、冷却水流路160bに流れる冷却水の向きを反対にした点で第1実施形態に係る燃料電池スタック1と相違する。以下では、第1実施形態に係る燃料電池スタック1と相違する点に関して説明する。
【0051】
図15は、変形例2に係る燃料電池セルスタック1の燃料電池セルの積層方向に沿った側面にマニホールドを装着した状態を示す図である。図15に示すように、第1実施形態に係る燃料電池セルスタック1に対して、燃料極流路140を流れる燃料ガスの向きを反対にし、酸化剤極流路160aを流れる酸化剤ガスの向きを反対にし、冷却水流路160bに流れる冷却水の向きを反対にする運転を行っている。
【0052】
以上のように本変形例によれば、燃料電池セルスタック1の運転方法の変更により、第1実施形態に係る燃料電池セルスタック1に対して、燃料極流路140を流れる燃料ガスの向きを反対にし、酸化剤極流路160aを流れる酸化剤ガスの向きを反対にし、冷却水流路160bに流れる冷却水の向きを反対にすることとした。この運転方法に対しても燃料極流路140における第1入口部14bの燃料ガス圧力と、第1入口部14bに対応する冷却水流路160b内の冷却水圧力との差圧を、燃料極流路140における第2出口部14eの燃料ガス圧力と、第2出口部14eに対応する冷却水流路160b内の冷却水圧力との差圧よりも小さくすることが可能である。これにより、第1入口部14bでは、燃料ガスの加湿がより進み、第2出口部14eでは、凝縮水の吸収がより進む効果がある。このように、第1入口部14bで燃料ガスの加湿が可能となり、電解質膜12の乾燥による劣化が抑制され、第2出口部14eに近づくほど差圧が大きくなるので凝縮水の滞留を抑制できる。
【0053】
また、燃料電池セルスタック1の運転方法の変更により、第1入口部14bと第1出口部14cとを結ぶ第1燃料ガス流路を冷却水流路160bの上流側の領域の鉛直上方に配置し、第2入口部14dと第2出口部14eとを結ぶ第2燃料ガス流路を冷却水流路160bの下流側の領域の鉛直上方に配置することが可能である。これにより、燃料極流路140の上流から下流に向けて、燃料ガス圧力と冷却水圧力との差圧を大きくすることが可能となり、第1入口部14bでは、燃料ガスの加湿がより進み、第2出口部14eでは、凝縮水の吸収がより進む効果がある。
【0054】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15