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特許7183452非接触非破壊検査システム、信号処理装置及び非接触非破壊検査方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】非接触非破壊検査システム、信号処理装置及び非接触非破壊検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/14 20060101AFI20221128BHJP
【FI】
G01N29/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021571378
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021460
(87)【国際公開番号】W WO2021240817
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】碓井 隆
(72)【発明者】
【氏名】大野 博司
(72)【発明者】
【氏名】渡部 一雄
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-194541(JP,A)
【文献】特開2018-155662(JP,A)
【文献】特開2007-232373(JP,A)
【文献】特開2013-108920(JP,A)
【文献】特表2005-510283(JP,A)
【文献】特開2008-014911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 - G01H 17/00
G01N 29/00 ー G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を伝搬する第1の弾性波に起因して、前記検査対象物をとりまく媒質に放出される第2の弾性波を検出する第1のセンサと、
前記第1のセンサとは異なる位置に、前記第1のセンサとは異なる角度で配置され、前記第2の弾性波を検出する第2のセンサと、
記第2の弾性波の速度と、前記第1及び第2のセンサのそれぞれによって検出された前記第2の弾性波の振幅比とに基づいて、前記第1の弾性波の速度を検出する速度検出部と、
前記第1の弾性波の速度に基づいて前記検査対象物の損傷を検出する損傷検出部と、
を備える非接触非破壊検査システム。
【請求項2】
前記第1のセンサは、制御信号に応じて前記第1のセンサの角度を調整する機構を備え、
前記第2の弾性波の振幅がより大きく検出される前記第1のセンサの角度を、前記第2の弾性波の波面角度として算出する算出部を更に備え、
前記第2のセンサは、制御信号に応じて前記第2のセンサの角度を調整する機構を備え、
前記第2の弾性波の振幅がより大きく検出される前記第2のセンサの角度を、前記第2の弾性波の波面角度として算出する算出部を更に備える、
請求項1に記載の非接触非破壊検査システム。
【請求項3】
前記第1及び第2のセンサは、異なる箇所に設置され、
前記損傷検出部は、前記第1及び第2のセンサによって検出された前記第2の弾性波の波面角度を示すベクトルの方向と、前記媒質中の音速と、前記第1の弾性波の速度とに基づいて、前記第1の弾性波を発生させた損傷部の位置を特定する、
請求項2に記載の非接触非破壊検査システム。
【請求項4】
前記第1のセンサは、前記検査対象物の材質に応じて定められた前記第1の弾性波の伝播速度に基づく角度と、検査対象の前記第1の弾性波の方向とを含む制御信号に応じて、前記第1のセンサの角度を調整する機構を備え、
前記第2のセンサは、前記検査対象物の材質に応じて定められた前記第1の弾性波の伝播速度に基づく角度と、検査対象の前記第1の弾性波の方向とを含む制御信号に応じて、前記第2のセンサの角度を調整する機構を備える、
請求項1に記載の非接触非破壊検査システム。
【請求項5】
なる角度で配置された複数の部分センサを含むセンサアレイを備え、
前記複数の部分センサは、少なくとも前記第1及び第2のセンサを含み、
前記第2の弾性波の振幅がより大きく検出される前記部分センサの角度を、前記第2の弾性波の波面角度として算出する算出部を更に備える、
請求項1に記載の非接触非破壊検査システム。
【請求項6】
前記センサアレイは、異なる箇所に複数、設置され、
前記損傷検出部は、少なくとも2つの前記センサアレイによって検出された前記第2の弾性波の波面角度を示すベクトルの方向と、前記媒質中の音速と、前記第1の弾性波の速度とに基づいて、前記第1の弾性波を発生させた損傷部の位置を特定する、
請求項に記載の非接触非破壊検査システム。
【請求項7】
前記検査対象物は板状であり、
前記損傷検出部は、前記検査対象物を伝播するLamb波の速度分散特性と、前記第1の弾性波の速度とを比較することにより前記検査対象物の板厚を推定し、前記板厚から前記検査対象物の内部剥離及び減肉の少なくとも一方を検出する、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の非接触非破壊検査システム。
【請求項8】
前記損傷検出部は、前記第1の弾性波の速度から、前記Lamb波の伝搬モードを推定し、前記伝搬モードから前記検査対象物の損傷位置の深さを検出する、
請求項に記載の非接触非破壊検査システム。
【請求項9】
検査対象物を伝搬する第1の弾性波に起因して、前記検査対象物をとりまく媒質に放出される第2の弾性波から、前記第1の弾性波の速度を検出する速度検出部と、
前記第1の弾性波の速度に基づいて前記検査対象物の損傷を検出する損傷検出部と、を備え、
前記第2の弾性波は、第1のセンサと、前記第1のセンサとは異なる位置に、前記第1のセンサとは異なる角度で配置された第2のセンサにより検出され、
前記速度検出部は、前記第2の弾性波の速度と、前記第1及び第2のセンサのそれぞれによって検出された前記第2の弾性波の振幅比とに基づいて、前記第1の弾性波の速度を検出する、
信号処理装置。
【請求項10】
第1のセンサが、検査対象物を伝搬する第1の弾性波に起因して、前記検査対象物をとりまく媒質に放出される第2の弾性波を検出するステップと、
前記第1のセンサとは異なる位置に、前記第1のセンサとは異なる角度で配置された第2のセンサが、前記第2の弾性波を検出するステップと、
信号処理装置が、記第2の弾性波の速度と、前記第1及び第2のセンサのそれぞれによって検出された前記第2の弾性波の振幅比とに基づいて、前記第1の弾性波の速度を検出するステップと、
前記信号処理装置が、前記第1の弾性波の速度に基づいて前記検査対象物の損傷を検出するステップと、
を含む非接触非破壊検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は非接触非破壊検査システム、信号処理装置及び非接触非破壊検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度経済成長期に建設された橋梁等の構造物の老朽化に伴う問題が顕在化してきている。万が一にも構造物に事故が生じた場合の損害は計り知れないため、構造物の状態を監視するための技術が従来から知られている。例えば内部亀裂の発生又は進展に伴い発生する弾性波を、高感度センサにより検出するアコースティック・エミッション(AE:Acoustic Emission)方式により、構造物の損傷を検出する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-85851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、検査対象物の健全性を非接触で評価することが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の非接触非破壊検査システムは、センサと速度検出部と損傷検出部とを備える。第1のセンサは、検査対象物を伝搬する第1の弾性波に起因して、前記検査対象物をとりまく媒質に放出される第2の弾性波を検出する。第2のセンサは、前記第1のセンサとは異なる位置に、前記第1のセンサとは異なる角度で配置され、前記第2の弾性波を検出する。速度検出部は、前記第2の弾性波の速度と、前記第1及び第2のセンサのそれぞれによって検出された前記第2の弾性波の振幅比とに基づいて、前記第1の弾性波の速度を検出する。損傷検出部は、前記第1の弾性波の速度に基づいて前記検査対象物の損傷を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】材料境界での音の反射及び透過を示す概念図。
図2】透過音圧比及び反射音圧比と、音響インピーダンスとの関係を示す図。
図3】第1実施形態のセンサの模式図。
図4A】超音波センサの周波数(10kHzの場合)と指向性の関係を示す図。
図4B】超音波センサの周波数(20kHzの場合)と指向性の関係を示す図。
図4C】超音波センサの周波数(50kHzの場合)と指向性の関係を示す図。
図4D】超音波センサの周波数(100kHzの場合)と指向性の関係を示す図。
図5A】弾性波の伝搬に伴う空中への音波放射を説明するための図。
図5B】弾性波の伝搬に伴う空中への音波放射を説明するための図。
図6】アルミニウムプレートの速度分散特性の例を示す図。
図7】第1実施形態の非接触非破壊検査システムの構成の例を示す図。
図8】第1実施形態のセンサにより検出された波形の例を説明するための図。
図9】第2実施携帯の非接触非破壊検査システムの構成について説明するための図。
図10】第2実施形態の正規化振幅比を説明するための図。
図11A】第3実施形態のセンサアレイの例を示す図。
図11B】第3実施形態のセンサアレイの例を示す図。
図12】第3実施形態の3次元位置標定の概念図。
図13】第4実施形態の弾性波進行方向によるフィルタリングの概念図。
図14】第4実施形態のセンサにより検出された波形の例を説明するための図。
図15】第1乃至第4実施形態の信号処理装置のハードウェア構成の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に添付図面を参照して、非接触非破壊検査システム、信号処理装置及び非接触非破壊検査方法の実施形態を詳細に説明する。
【0008】
アコースティック・エミッションは、材料等の検査対象物の疲労亀裂の進展に伴い発生する弾性波である。AE方式では、この弾性波を、圧電素子を利用したAEセンサにより電圧信号(AE信号)として検出する。AE信号は、検査対象物の破断が生じる前の兆候として検出されるため、AE信号の発生頻度及び信号強度は検査対象物の健全性を表す指標として有用である。そのためAE方式によって構造物の劣化の予兆を検出する技術の研究が盛んに行われている。特に石油タンクの腐食診断、及び、機械装置の製造工程等においては、欧米を中心にAE方式の検出技術が幅広く使用され、またAE方式の検出技術の標準化も行われている。
【0009】
AE法は、検査対象物中で発生した弾性波を接触型のセンサを用いて検出するため、構造物に直接センサを設置できない場合、適用することができない。例えば、工場ラインやドローンによる検査等、検査対象物と検査装置とが相対的に運動する場合などは、AE法の適用が難しい。他にも温度や、品質管理上の理由等でも直接のセンサ接触が困難な場合がある。また、非接触の場合は、外部から超音波を発生させて、検査対象物で反射、もしくは透過した信号の特性から損傷の有無を判別する方法が従来から知られているが、この場合でも、検査対象物中で発生した弾性波に関する情報は得ることができない。
【0010】
以下の第1実施形態では、検査対象物中を伝搬する弾性波の速度および方向を、非接触で検出し、検出された弾性波情報に基づき、検査対象物の健全性を評価する非接触非破壊検査システムについて説明する。
【0011】
(第1実施形態)
はじめに、音響インピーダンスについて説明する。音圧pと粒子速度uとの比を音響インピーダンスZとして下記式(1)のように表現する。
【0012】
【数1】
【0013】
音響インピーダンスZは、密度ρ及び音速vを使って、Z=ρvと表すこともできる。密度ρ及び音速vは、材料に固有の値となるので、音響インピーダンスZも材料固有の値を持つ。
【0014】
次に、材料境界での透過及び反射について説明する。
【0015】
図1は材料境界での音の反射及び透過を示す概念図である。音圧pin及び粒子速度uinの音波が、密度ρ及び音速vの媒質Aから、密度ρ及び音速vの媒質Bへ入射すると、音波の一部が、音圧ptr及び粒子速度utrの透過波として媒質Bへ透過し、音波の一部が、音圧pref及び粒子速度urefの反射波として媒質A及びBの境界面で媒質Aへ反射する。
【0016】
境界面の左右で音圧及び粒子速度は連続であるという条件から、音圧透過率Ktr及び音圧反射率Krefはそれぞれ、下記式(2)及び(3)で表される。
【0017】
【数2】
【0018】
【数3】
【0019】
音響インピーダンスは材料固有の値であり、代表的な数値が存在する。アルミニウムを媒質Aとして例にとると、音響インピーダンスは17.3e-6[Ns/m]である。音波が、アルミニウムとは異なる媒質Bへ入射した場合の音圧透過率Ktr及び音圧反射率Kref図2に示す。
【0020】
図2は透過音圧比及び反射音圧比と、音響インピーダンスとの関係を示す図である。横軸は、媒質Bの音響インピーダンスを示す。縦軸は、反射、透過それぞれの音圧比を示す。例えば、媒質Bが空気である場合、その音響インピーダンスはおよそ0.00041[10e-6Ns/m]である。このときの音圧透過率は4.73977e-5であり、音圧反射率は0.999953となる。エネルギーの透過損失は-10log10(1-Kref )=-40.23[dB]である。すなわち、音波は、およそ40dBの透過損失で、金属(第1実施形態ではアルミニウム)から空気中へ透過する。
【0021】
次に、第1実施形態のセンサについて説明する。
【0022】
[センサの例]
図3は第1実施形態のセンサ10の模式図である。空中に放射される音波を検出する非接触のセンサ10として、例えば圧電素子で構成される空中超音波センサがある。第1実施形態のセンサ10は、整合層11、圧電素子12及び背面層13を備える。
【0023】
圧電素子12の音響インピーダンスと、空気の音響インピーダンスには大きな差があるため、センサ10には、両者の中間的な音響インピーダンスを有する整合層11が設けられている。
【0024】
代表的な圧電材料の音響インピーダンスは、例えば約30[10e-6Ns/m3]である。また、空気の音響インピーダンスは0.00041[10e-6Ns/m3]である。整合層11には、両者の中間的な値をとる整合材として、音響インピーダンスが2~3[10e-6Ns/m3]である樹脂材料(例えばエポキシ樹脂等)が使用される場合が多い。
【0025】
また、第1実施形態のセンサ10では、圧電素子12の後方で反射して発生するリンギングを抑制するために、圧電素子12と同等の音響インピーダンスを有する背面層13が設置されている。
【0026】
このようなセンサ10の指向性は、おおまかには、無限大の剛壁中に埋め込まれ、速度v、角周波数ωで振動する半径aの円板Sの作る音場の問題として考えることができる。円板上の微小面積dSにおける点a、空間上の点bとすると、点bで観測される音圧pは以下のレイリー積分で表すことができる。
【0027】
【数4】
【0028】
[音場シミュレーション結果の例]
円板の半径を20mm、円盤の速度を10m/s、音速を340m/s、媒質(空気)の密度を1.293kg/mとし、周波数を10kHz,20kHz,50kHz,100kHzと変化させた場合の音場シミュレーション結果を図4A~Dに示す。x=0は、円板の中心を示し、zは円板からの距離を示す。上述の式(4)及び、図4A~Dの結果から、周波数が高くなるほど、指向性が高まることがわかる。特に100kHzでは、Z=200mmの距離でも、100kHzより低い周波数の場合に比べて高い音圧を維持している。センサ10としては、Z=200mmの距離に音源があった場合、高い感度で振動板を揺らすこと(すなわち、センシング)が可能であると考えることができ、図4Dの音場シミュレーション結果と同様の指向性を持つことが分かる。
【0029】
次に、弾性波の伝搬に伴う空中への音波放射について説明する。
【0030】
図5Aのように、固体(検査対象物200)中を速度vaeで伝搬する弾性波から放射する音波を考える。振動する粒子が点音源となり空気中に音波を放出し、空気中では音速vairで拡散する。点音源は速度vaeで固体中を移動する。時間tからt’だけ時間が経過した場合、移動した点音源が作り出す音波は、図5Bのように、水平面から下記式(5)の角度θだけ傾いた線上で同位相となる波面を形成する。
【0031】
【数5】
【0032】
検査対象物200の一例として、厚さ3mmのアルミニウムプレートを例に考える。固体材料の場合、弾性波には、縦波(s波)及び横波(s波)の2種類がある。薄板の場合は、端面での反射によって反射p波及び反射s波が励起され、全体としてLamb波と呼ばれるガイド波を形成することが知られている。波動方程式に境界条件を設けることによって、このガイド波を求めることができる。なお、固体材料の弾性波は、周波数に応じて伝搬速度が変化する速度分散特性を有する。
【0033】
図6はアルミニウムプレートの速度分散特性の例を示す図である。図6の例は、厚さ3mmのアルミニウムプレートに対して、速度分散特性を計算した結果を示す。アルミニウムプレートが対称に変形するモードはS(Symmetry)モード、非対称に変形するモードはA(Anti-symmetry)モードと呼ばれ、次数が大きくなるほど周波数が高い。図6では最低次のモード(S0モード及びA0モード)のみを表示している。
【0034】
一般的に、Sモードは速度が速いが振幅が小さく、Aモードは速度が遅く、振幅が大きいという特徴がある。弾性波の周波数が100kHzの場合、A0モードの伝搬速度vlamb_A0は1530m/sである。このときの波面角度θairは、空気中の音速vairに340.29m/sを用いると、上述の式(5)より、下記式(6)のように導くことができる。
【0035】
【数6】
【0036】
以上のことから、固体中の弾性波伝搬に伴い周囲の媒質中に音波が発生し、その放射角度(波面角度)が、固体中の伝搬速度と、空気中の音速比とによって決まる、ということが分かる。
【0037】
次に、第1実施形態の非接触非破壊検査システムの構成について説明する。
【0038】
[非接触非破壊検査システムの構成の例]
図7は第1実施形態の非接触非破壊検査システム100の構成の例を示す図である。第1実施形態の非接触非破壊検査システム100は、センサ10及び信号処理装置20を備える。
【0039】
検査対象物200の損傷部201から、き裂進展等に伴うAEが発生すると、固体中をAEが伝搬する。伝搬に伴い所定の波面角度を有する音波が二次的に放射される。放出された音波はセンサ10で観測される。
【0040】
センサ10は、制御信号に応じてセンサ10の角度を調整する機構を備える。例えば、センサ10は、信号処理装置20からの制御信号に応じてセンサ10を回転させる回転機構を備える。この回転機構によって、音波を検出するセンサ10の角度が調整される。音波の観測周波数は100kHz以上が望ましい。センサ10の圧電素子は空中に放射される音波を検出し、電圧信号を生成する。検出された電圧信号の波形の例を図8に示す。
【0041】
図8は第1実施形態のセンサ10により検出された波形の例を説明するための図である。波形211は、検査対象物200の位置202に接触型センサを配置した場合に検出される波形を示す。波形212は、センサ10によって検出された波形を示す。センサ10は非接触センサのため、センサ10によって検出される波形212の変化は、位置202に配置された接触型センサにより検出される波形211よりも遅れて変化する。
【0042】
図7に戻り、信号処理装置20は、増幅器21、BPF(Band-pass filter)22、振幅検出部23、算出部24及び速度検出部25を備える。なお、増幅器21及びBPF22は、信号処理装置20の外部の装置に備えられていてもよい。
【0043】
増幅器21は、センサ10から受信した電圧信号を40dB~80dB程度増幅し、増幅された電圧信号をBPF22へ送信する。
【0044】
BPF22は、増幅器21から受信した電圧信号から観測帯域外の雑音を除去し、雑音が除去された電圧信号を振幅検出部23に入力する。
【0045】
振幅検出部23は、BPF22から入力された電圧信号から振幅情報を検出し、当該振幅情報を振幅検出部23に入力する。
【0046】
算出部24は、振幅検出部23から入力された振幅情報を基に、振幅がより大きく検出されるセンサ10の角度を、波面角度θairとして算出する。例えば、算出部24は、センサ10の回転機構を制御して、センサ10を回転させ、AE信号の振幅が最大の感度となる角度を、波面角度θairとして算出する。また例えば、算出部24は、複数回のAE信号の平均値が最大となる角度を波面角度θairとして算出する。算出部24は、算出された波面角度θairを速度検出部25に入力する。
【0047】
速度検出部25は、算出部24から入力された波面角度θairと、空気中の音速vairとを上述の式(5)に代入することにより、検査対象物200内の弾性波の速度vaeを検出する。
【0048】
なお、波面角度θairが演算の過程に含まれる場合は明示的に算出しなくてもよく、結果として弾性波の速度vaeが検出されてもよい。
【0049】
検査対象物200の形状が薄板等の板状である場合は、前述したLamb波の速度分散特性と、弾性波の速度vaeとの比較から、検査対象物200の板厚を推定することもできる。板厚の推定によって、内部剥離及び減肉などの損傷を検出することができる。
【0050】
また、Lamb波理論に基づき、弾性波の速度vaeを伝搬モード(例えばA0モード及びS0モード等)の特定に応用することもできる。AEを発生させた損傷部201が板厚の中央部付近に存在する場合は、伝搬モードは対象となり、S0モードが励起されることが知られている。一方で、表面付近の損傷部201でAEが発生した場合はA0モードが支配的となる。このように、深さ方向位置は伝搬モードと関連があるため、弾性波の速度vaeから伝搬モードを特定することで、深さ方向位置の特定も可能になる。損傷検出部26は、弾性波の速度vaeから、Lamb波の伝播モードを推定し、伝搬モードから検査対象物200の損傷位置の深さを検出する。
【0051】
また、波面角度θairを示すベクトルの方向が分かることで、同時にAEが伝搬する弾性波の方向(位置202に到来するAEの伝搬方向)を知ることができる。損傷検出部26が、例えば離間して配置された、少なくとも2つのセンサ10の波面角度θairを示すベクトルの方向から、各地点に到来するAEの伝搬方向を特定することで、AE発生源(損傷部201)の2次元位置標定が可能となる。
【0052】
以上、説明したように、第1実施形態の非接触非破壊検査システム100では、センサ10が、検査対象物200を伝搬するAE(第1の弾性波)に起因して、検査対象物200をとりまく媒質(第1実施形態では、空気)に放出される音波(第2の弾性波)を検出する。速度検出部25が、第2の弾性波の波面角度θairと、第2の弾性波の速度vairとから、第1の弾性波の速度vaeを検出する。そして、損傷検出部26が、第1の弾性波の速度vaeに基づいて検査対象物200の損傷を検出する。
【0053】
これにより第1実施形態によれば、検査対象物200の健全性を非接触で評価することができる。例えば、第1実施形態は、従来AE法の適用が困難であった、回転体及び移動体など、相対的に運動する部材のAE検査にも広く適用が可能である。また例えば、ドローン等の飛行体に、センサ10を搭載することで、大型構造物へ遠隔からのAE検査も可能となる。また例えば、道路を走行する車両、及び、レールを走行する鉄道車両などへセンサ10を搭載することで、路面及び線路等のAE検査を行うことも可能である。
【0054】
(第2実施形態)
次に第2実施形態について説明する。第2実施形態の説明では、第1実施形態と同様の説明については省略し、第1実施形態と異なる箇所について説明する。第2実施形態では、2つのセンサ10により検出された弾性波の振幅比(第2実施形態では、正規化振幅比)を利用して弾性波の速度vaeを算出する構成について説明する。
【0055】
[非接触非破壊検査システムの構成の例]
図9は第2実施形態の非接触非破壊検査システムの構成について説明するための図である。第2実施形態の非接触非破壊検査システムは、センサ10a~10b、増幅器21a~21b、及び、演算部31~33を備える。
【0056】
センサ10a及び10bは、異なる位置に配置され、センサ10a及び10bの角度(最大感度方向)は異なる。
【0057】
第2実施形態の速度検出部25は、センサ10a及び10bのセンサのそれぞれによって検出された音波(第2の弾性波)の振幅比に基づいて、AE(第1の弾性波)の速度を検出する。具体的には、速度検出部25は、下記式(7)により、弾性波の速度vaeを算出する。なお、係数kは、センサ10a及び10bの指向性、および角度条件に基づいて事前にキャリブレーションされる定数である。
【0058】
【数7】
【0059】
上記式(7)に含まれる正規化振幅比を計算する構成について説明する。増幅器21aは、センサ10aから受信した電圧信号を増幅する。同様に、増幅器21bは、センサ10bから受信した電圧信号を増幅する。演算部31は、増幅器21a及び21bから電圧信号を受け付け、正規化振幅比の分子を計算する。演算部32は、増幅器21a及び21bから電圧信号を受け付け、正規化振幅比の分母を計算する。演算部33は、演算部31及び32から演算結果を受け付け、正規化振幅比を計算し、当該正規化振幅比を速度検出部25に入力する。
【0060】
図10は第2実施形態の正規化振幅比rを説明するための図である。kは上述の係数であり、-aはセンサ10aの角度であり、+aはセンサ10bの角度である。正規化振幅比rは、θ=-aで最大になり、θ=+aで最小になる。
【0061】
第2実施形態によれば、センサ10a及び10bのそれぞれにより検出された電圧信号の正規化振幅比rから、上記式(7)によって直接、弾性波の速度vaeを算出することができる。
【0062】
(第3実施形態)
次に第3実施形態について説明する。第3実施形態の説明では、第1実施形態と同様の説明については省略し、第1実施形態と異なる箇所について説明する。第3実施形態では、最大感度方向を変化させた複数のセンサ10(部分センサ)を配列させたセンサアレイによって、弾性波を検出する場合について説明する。
【0063】
図11Aは第3実施形態のセンサアレイ40aの例を示す図である。図11Aのセンサアレイ40aでは、検査対象物200に対して、複数のセンサ10が円周上に配置される。最大感度方向が素子毎に異なっていればよく、必ずしも円周上でなくてもよい。なお、配置されるセンサ10の個数は任意でよい。
【0064】
図11Bは第3実施形態のセンサアレイ40bの例を示す図である。図11Bのセンサアレイ40bでは、検査対象物200に対して平行な直線上に、異なる向きの複数のセンサ10が配置される。なお、配置されるセンサ10の個数は任意でよい。
【0065】
図11A及びBに示すように、あらかじめ角度をつけた複数のセンサ10を配置し、算出部24が、弾性波の振幅がより大きく検出されるセンサ10の角度を最適な傾斜角度として求めることで、1回発生したAE波から波面角度θairを検出できる。図11A及びBの場合、センサアレイ40a及び40bの内、その最大感度方向が、放射角度と一致しているセンサ10cにおいて、検出される信号の振幅が最大となり、センサ10cの角度が放射角度であると求めることができる。
【0066】
また、複数のセンサアレイ40a(又はセンサアレイ40b)を異なる箇所に配置して、損傷部201の3次元位置を特定することができる。具体的には、損傷検出部26は、例えば少なくとも2つのセンサアレイ40aによって検出された音波(第2の弾性波)の波面角度θairを示すベクトルの方向と、空気中の音速と、検査対象物200内の弾性波伝搬速度に基づいて、AE(第1の弾性波)を発生させた損傷部201の位置を特定する。
【0067】
図12は第3実施形態の3次元位置標定の概念図である。図12の例は、半球面上に配置された複数のセンサ10を有する2つのセンサアレイ40a-1及び40a-2を利用して、3次元位置標定をする場合を示す。材料等の検査対象物200の内部の損傷部201で発生したAEは、空気中へ放射される。損傷検出部26は、センサアレイ40a-1及び40a-2で検出された放射角度と、空気中の音速と、検査対象物200内の弾性波伝搬速度に基づいて、検査対象物200内の伝搬ベクトル203a及び203bを算出する。図12のように、2つの伝搬ベクトル203a及び203bの交点として、損傷部201の位置を検出する。
【0068】
第3実施形態によれば、センサアレイ40a又は40bを利用して、波面角度θairの検出、及び、損傷部201の位置を検出できる。なお、損傷部201の位置は、各設置場所に、傾斜角度を調整する機構を備えるセンサ10を1つずつ配置することによって特定してもよい。
【0069】
(第4実施形態)
次に第4実施形態について説明する。第4実施形態の説明では、第1実施形態と同様の説明については省略し、第1実施形態と異なる箇所について説明する。第4実施形態では、センサ10を弾性波のフィルタリングに応用する場合について説明する。
【0070】
第4実施形態のセンサ10は、検査対象物200の材質に応じて定められたAE(第1の弾性波)の伝播速度に基づく角度と、検査対象の第1の弾性波の方向とを含む制御信号に応じて、センサ10の角度を調整する機構を備える。
【0071】
また、第4実施形態の算出部24は、材質毎の弾性波の伝搬速度が記憶されたルックアップテーブルを参照して、検査対象物200の材質に応じてセンサ10を所定の角度(最適な傾斜角度)に傾斜させる機能を更に有する。センサ10の傾斜角度が検査対象物200の材質に応じて決定され、センサ10が、検査対象の弾性波の方向に基づいてプラス又はマイナス方向に傾斜させられることで、弾性波のフィルタリングをすることができる。具体的には、算出部24は、例えば信号処理装置20の通信IFを利用して、上述の制御信号をセンサ10に送信することで、センサ10の角度を調整する。
【0072】
図13は第4実施形態の弾性波進行方向によるフィルタリング(方向性フィルタリング)の概念図である。図13の左向き進行波は、右向き進行波が検査対象物200の端部で反射することによって生じた場合の例を示す。図13のように、センサ10の角度を傾斜させる方向によって、検出される弾性波の進行方向を選択することが可能となる。
【0073】
図14は、第4実施形態のセンサ10により検出された波形の例を説明するための図である。波形221は、参考のため図13のように接触型センサを検査対象物200に配置した場合に検出される波形である。波形222は、検査対象物200に、センサ10を+a傾斜させて配置した場合に検出される波形である。波形222は、検査対象物200を伝搬する右向き進行波に起因して空気中に放出された音波を含み、左向き進行波に起因して空気中に放出された音波は含まない。一方、波形223は、検査対象物200に、センサ10を-a傾斜させて配置した場合に検出される波形である。波形223は、検査対象物200を伝搬する左向き進行波に起因して空気中に放出された音波を含み、右向き進行波に起因して空気中に放出された音波は含まない。
【0074】
第4実施形態によれば、例えば検査対象物200の特定の方向にノイズ発生源が存在する場合には、ノイズ発生源からのノイズを検出しないようにセンサ10を傾斜させることによって、フィルタリングの効果が得られる。同様の原理によって、反射波のフィルタリング、速度によるフィルタリング、及び、伝搬モードによるフィルタリングが可能である。
【0075】
最後に、第1乃至第4実施形態の信号処理装置20のハードウェア構成の例について説明する。
【0076】
[ハードウェア構成の例]
図15は第1乃至第4実施形態の信号処理装置20のハードウェア構成の例を示す図である。
【0077】
信号処理装置20は、制御装置301、主記憶装置302、補助記憶装置303、表示装置304、入力装置305及び通信装置306を備えるコンピュータである。制御装置301、主記憶装置302、補助記憶装置303、表示装置304、入力装置305及び通信装置306は、バス310を介して接続されている。
【0078】
制御装置301は、補助記憶装置303から主記憶装置302に読み出されたプログラムを実行する。主記憶装置302は、ROM(Read Only Memory)、及び、RAM(Random Access Memory)等のメモリである。補助記憶装置303は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、及び、メモリカード等である。
【0079】
表示装置304は表示情報を表示する。表示装置304は、例えば液晶ディスプレイ等である。入力装置305は、コンピュータを操作するためのインタフェースである。入力装置305は、例えばキーボードやマウス等である。コンピュータがタブレット型端末等のスマートデバイスの場合、表示装置304及び入力装置305は、例えばタッチパネルである。
【0080】
通信装置306は、他の装置と通信するためのインタフェースである。なお、信号処理装置20は、表示装置304及び入力装置305を備えていなくてもよく、通信装置306を介して通信可能な外部の端末の表示機能及び入力機能が利用されてもよい。
【0081】
コンピュータで実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、メモリカード、CD-R及びDVD(Digital Versatile Disc)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記録されてコンピュータ・プログラム・プロダクトとして提供される。
【0082】
またコンピュータで実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。またコンピュータで実行されるプログラムをダウンロードさせずにインターネット等のネットワーク経由で提供するように構成してもよい。
【0083】
またコンピュータで実行されるプログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0084】
コンピュータで実行されるプログラムは、上述の信号処理装置20の機能構成(機能ブロック)のうち、プログラムによっても実現可能な機能ブロックを含むモジュール構成となっている。当該各機能ブロックは、実際のハードウェアとしては、制御装置301が記憶媒体からプログラムを読み出して実行することにより、上記各機能ブロックが主記憶装置302上にロードされる。すなわち上記各機能ブロックは主記憶装置302上に生成される。
【0085】
なお上述した各機能ブロックの一部又は全部をソフトウェアにより実現せずに、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアにより実現してもよい。
【0086】
また複数のプロセッサを用いて各機能を実現する場合、各プロセッサは、各機能のうち1つを実現してもよいし、各機能のうち2つ以上を実現してもよい。
【0087】
また信号処理装置20を実現するコンピュータの動作形態は任意でよい。例えば、信号処理装置20を1台のコンピュータにより実現してもよい。また例えば、信号処理装置20を、ネットワーク上のクラウドシステムとして動作させ、複数のセンサ10から信号を受け付けてもよい。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15