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特許7183464非水電解質二次電池用正極、並びにこれを用いた非水電解質二次電池、電池モジュール、及び電池システム
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  • 特許-非水電解質二次電池用正極、並びにこれを用いた非水電解質二次電池、電池モジュール、及び電池システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極、並びにこれを用いた非水電解質二次電池、電池モジュール、及び電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20221128BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20221128BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20221128BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221128BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/136
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/66 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022107163
(22)【出願日】2022-07-01
【審査請求日】2022-07-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】吉川 輝
(72)【発明者】
【氏名】佐飛 裕一
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/013228(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/136
H01M 4/58
H01M 4/36
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、前記正極集電体の片面又は一方の面に存在し、1つ以上の正極活物質粒子を含む正極活物質層とを有し、
前記正極活物質層は、炭素原子と鉄原子とを含み、
前記正極活物質粒子の少なくとも一部は、正極活物質の芯部と、前記芯部の表面の少なくとも一部を覆う活物質被覆部とを有し、
前記活物質被覆部は、導電性炭素を含み、
前記芯部は、リン酸鉄リチウムを含み、
前記正極活物質層の表面100μm×100μmの範囲において、縦256点×横256点の合計65536か所の測定点に対して走査型オージェ電子分光測定を行い、各測定点の炭素原子強度と鉄原子強度とをヒストグラム化した場合に、鉄原子の最頻度強度Femaxに対する炭素原子の最頻度強度Cmaxとの比であるCmax/Femaxが10.0以上35.0以下である、非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記走査型オージェ電子分光測定を行い、各測定点の前記炭素原子強度をヒストグラム化した場合に、下位10%となる値D10に対する上位10%となる値D90の比であるD90/D10が1.0以上2.5以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記正極活物質層における導電性炭素の含有量は、前記正極活物質層の総質量に対して、0.5質量%以上3質量%未満である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記正極集電体は、金属材料からなる集電体本体と、前記集電体本体の表面の少なくとも一部を覆う集電体被覆層とを有し、
前記集電体被覆層は、前記正極活物質層に対向し、
前記集電体被覆層は、導電性炭素を含む、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記正極活物質層は、さらに導電助剤を含む、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
前記正極活物質層は、導電助剤を含まない、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極と、負極と、前記非水電解質二次電池用正極と前記負極との間に存在する非水電解質と、を備える、非水電解質二次電池。
【請求項8】
請求項に記載の非水電解質二次電池の複数個を備える、電池モジュール又は電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極、並びにこれを用いた非水電解質二次電池、電池モジュール、及び電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、一般的に、正極、非水電解質、負極、及び正極と負極との間に設置される分離膜(セパレータ)により構成される。
非水電解質二次電池の正極としては、リチウムイオンを含む正極活物質、導電助剤、及び結着材からなる組成物を集電体の表面に固着させたものが知られている。
リチウムイオンを含む正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)等のリチウム遷移金属複合酸化物や、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウムリン酸化合物が実用化されている。
【0003】
特許文献1には、特定の製法で得られる球状LiNiO粒子を含有する正極を有する非水電解質二次電池が提案されている。特許文献1の発明によれば、電池容量の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3434873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非水電解質二次電池には、極めて温度の低い環境下(例えば、-40~-20℃)での出力特性の向上が求められている。加えて、非水電解質二次電池には、充放電サイクルを繰り返した後も出力特性が維持されることも求められている。
本発明は、低温環境下における非水電解質二次電池の出力特性を高め、サイクル特性を高められる非水電解質二次電池用正極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、次の知見を得た。正極活物質層中に適量の導電性炭素を適切な状態で存在させ、正極活物質粒子間の抵抗差を低減することで、導電パスを良好にできる。導電パスを良好にすることで、低温環境下での出力特性を高め、常温環境下での充放電サイクルを経た後の低温環境下での出力特性が維持されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
<1>
正極集電体と、前記正極集電体の片面又は一方の面に存在し、1つ以上の正極活物質粒子を含む正極活物質層とを有し、
前記正極活物質層は、炭素原子と鉄原子とを含み、
前記正極活物質層の表面100μm×100μmの範囲において、縦256点×横256点の合計65536か所の測定点に対して走査型オージェ電子分光測定を行い、各測定点の炭素原子強度と鉄原子強度とをヒストグラム化した場合に、鉄原子の最頻度強度Femaxに対する炭素原子の最頻度強度Cmaxとの比であるCmax/Femaxが10.0以上35.0以下である、非水電解質二次電池用正極。
<2>
前記走査型オージェ電子分光測定を行い、各測定点の前記炭素原子強度をヒストグラム化した場合に、下位10%となる値D10に対する上位10%となる値D90の比であるD90/D10が1.0以上2.5以下である、<1>に記載の非水電解質二次電池用正極。
<3>
前記正極活物質粒子の少なくとも一部は、正極活物質の芯部と、前記芯部の表面の少なくとも一部を覆う活物質被覆部とを有し、
前記活物質被覆部は、導電性炭素を含む、<1>又は<2>に記載の非水電解質二次電池用正極。
<4>
前記正極活物質層における導電性炭素の含有量は、前記正極活物質層の総質量に対して、0.5質量%以上3質量%未満である、<3>に記載の非水電解質二次電池用正極。
<5>
前記正極集電体は、金属材料からなる集電体本体と、前記集電体本体の表面の少なくとも一部を覆う集電体被覆層とを有し、
前記集電体被覆層は、前記正極活物質層に対向し、
前記集電体被覆層は、導電性炭素を含む、<1>~<4>のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
<6>
前記正極活物質粒子は、一般式LiFe(1-x)PO(式中、0≦x≦1、MはCo、Ni、Mn、Al、Ti又はZrである。)で表される化合物を含む、<1>~<5>のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
<7>
前記正極活物質層は、さらに導電助剤を含む、<1>~<6>のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
<8>
前記正極活物質層は、導電助剤を含まない、<1>~<6>のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
【0008】
<9>
<1>~<8>のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極と、負極と、前記非水電解質二次電池用正極と前記負極との間に存在する非水電解質と、を備える、非水電解質二次電池。
【0009】
<10>
<9>に記載の非水電解質二次電池の複数個を備える、電池モジュール又は電池システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温環境下での非水電解質二次電池の出力特性を高め、サイクル特性を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る非水電解質二次電池用正極の一例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明に係る非水電解質二次電池の一例を模式的に示す断面図である。
図3】実施例1~3、比較例1~3の炭素原子の強度分布図である。
図4】実施例1~3、比較例1~3の鉄原子の強度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書及び特許請求の範囲において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載した数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
図1は、本発明の非水電解質二次電池用正極の一実施形態を示す模式断面図であり、図2は本発明の非水電解質二次電池の一実施形態を示す模式断面図である。
なお、図1、2は、その構成をわかりやすく説明するための模式図であり、各構成要素の寸法比率等は、実際とは異なる場合もある。
以下、実施形態を挙げて本発明を説明する。
【0013】
(非水電解質二次電池用正極)
図1に示すように、本実施形態の非水電解質二次電池用正極(単に「正極」ともいう。)1は、正極集電体11と正極活物質層12を有する。
本実施形態において、正極活物質層12は正極集電体11の両面上に存在する。ただし、本発明において、正極集電体11の一方の面にのみ、正極活物質層12が存在してもよい。
図1の例において、正極集電体11は、正極集電体本体14と、正極集電体本体14の正極活物質層12側の表面を被覆する集電体被覆層15とを有する。正極集電体本体14のみを正極集電体11としてもよい。
【0014】
<正極活物質層>
正極活物質層12は、1つ以上の正極活物質粒子を含む。
正極活物質層12は、さらに結着材を含むことが好ましい。
正極活物質層12は、さらに導電助剤を含んでもよい。本明細書において、「導電助剤」という用語は、正極活物質層を形成するにあたって正極活物質粒子と混合する、粒状、繊維状などの形状を有する導電材料であって、正極活物質粒子を繋ぐ形で正極活物質層中に存在させる導電材料を指す。
正極活物質層12は、さらに分散剤を含んでもよい。
【0015】
正極活物質層12の総質量に対して、正極活物質粒子の含有量は80.0~99.9質量%が好ましく、90~99.5質量%がより好ましい。
【0016】
正極活物質層の厚み(正極集電体の両面上に正極活物質層が存在する場合、両面の合計)は30~500μmであることが好ましく、40~400μmであることがより好ましく、50~300μmであることが特に好ましい。正極活物質層の厚みが上記範囲の下限値以上であると、正極を組み込んだ電池のエネルギー密度が高くなりやすく、上記範囲の上限値以下であると、正極活物質層の剥離強度が高く、充放電時に剥がれを抑制できる。
【0017】
[正極活物質粒子]
正極活物質粒子は、正極活物質を含む。正極活物質粒子の少なくとも一部は、被覆粒子である。
被覆粒子において、正極活物質粒子の表面には、導電材料を含む被覆部(以下、「活物質被覆部」ともいう。)が存在する。正極活物質粒子は、活物質被覆部を有することで、電池容量、サイクル特性をより高められる。
例えば、活物質被覆部は、予め正極活物質粒子の表面に形成されており、かつ正極活物質層中において、正極活物質粒子の表面に存在する。すなわち、本稿における活物質被覆部は、正極製造用組成物の調製段階以降の工程で新たに形成されるものではない。加えて、活物質被覆部は、正極製造用組成物の調製段階以降の工程で欠落するものではない。
例えば、正極製造用組成物を調製する際に、被覆粒子を溶媒と共にミキサー等で混合しても、活物質被覆部は正極活物質の表面を被覆している。また、仮に、正極から正極活物質層を剥がし、これを溶媒に投入して正極活物質層中の結着材を溶媒に溶解させた場合にも、活物質被覆部は正極活物質の表面を被覆している。また、仮に、正極活物質層中の粒子の粒度分布をレーザー回折・散乱法により測定する際に、凝集した粒子をほぐす操作を行った場合にも活物質被覆部は正極活物質の表面を被覆している。
活物質被覆部は、正極活物質粒子の外表面全体の面積の50%以上に存在することが好ましく、70%以上に存在することが好ましく、90%以上に存在することが好ましい。
すなわち、被覆粒子は、正極活物質である芯部と、前記芯部の表面を覆う活物質被覆部とを有し、芯部の表面積に対する活物質被覆部の面積(被覆率)は、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0018】
被覆粒子の製造方法としては、例えば、焼結法、蒸着法等が挙げられる。
焼結法としては、正極活物質の粒子と有機物とを含む活物質製造用組成物(例えば、スラリー)を、大気圧下、500~1000℃、1~100時間で焼成する方法が挙げられる。活物質製造用組成物に添加する有機物としては、サリチル酸、カテコール、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、フロログルシノール、ヘキサヒドロキシベンゼン、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、フェニルアラニン、水分散型フェノール樹脂等、スクロース、グルコース、ラクトース等の糖類、リンゴ酸、クエン酸などのカルボン酸、アリルアルコール、プロパルギルアルコール等の不飽和一価アルコール、アスコルビン酸、ポリビニルアルコール等が挙げられる。この焼結法によれば、活物質製造用組成物を焼成することで、有機物中の炭素を正極活物質の表面に焼結して、活物質被覆部を形成する。
また、他の焼結法としては、いわゆる衝撃焼結被覆法が挙げられる。
【0019】
衝撃焼結被覆法は、例えば、衝撃焼結被覆装置において燃料の炭化水素と酸素の混合ガスを用いてバーナに点火し燃焼室で燃焼させてフレームを発生させ、その際、酸素量を燃料に対して完全燃焼の当量以下にしてフレーム温度を下げ、その後方に粉末供給用ノズルを設置し、そのノズルから被覆する有機物と溶媒を用いて溶かしスラリー状にしたものと燃焼ガスからなる固体―液体―気体三相混合物を粉末供給ノズルから噴射させ、室温に保持された燃焼ガス量を増して、噴射微粉末の温度を下げて、粉末材料の変態温度、昇華温度、蒸発温度以下で加速し、衝撃により瞬時焼結させて、正極活物質の粒子を被覆する。
蒸着法としては、物理気相成長法(PVD)、化学気相成長法(CVD)等の気相堆積法、メッキ等の液相堆積法等が挙げられる。
【0020】
前記被覆率は次の様な方法により測定することができる。 まず、正極活物質層中の粒子を、透過電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光法(TEM-EDX)により分析する。具体的には、TEM画像における正極活物質粒子の外周部をEDXで元素分析する。元素分析は炭素について行い、正極活物質粒子を被覆している炭素を特定する。炭素の被覆部が1nm以上の厚さである箇所を被覆部分とし、観察した正極活物質粒子の全周に対して被覆部分の割合を求め、これを被覆率とすることができる。測定は例えば、10個の正極活物質粒子について行い、これらの平均値とすることができる。
また、前記活物質被覆部は、正極活物質のみから構成される粒子(以下、「芯部」と称することもある。)の表面上に直接形成された厚み1nm~100nm、好ましくは5nm~50nmの層であり、この厚みは上述した被覆率の測定に用いるTEM-EDXによって確認することができる。
【0021】
本発明において、被覆粒子は、芯部の表面積に対する活物質被覆部の面積は、100%が特に好ましい。
なお、この被覆率(%)は、正極活物質層中に存在する正極活物質粒子全体についての平均値であり、この平均値が上記下限値以上となる限り、活物質被覆部を有しない正極活物質粒子が微量に存在することを排除するものではない。活物質被覆部を有しない正極活物質粒子(単一粒子)が正極活物質層中に存在する場合、その量は、正極活物質層中に存在する正極活物質粒子全体の量に対して、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、特に好ましくは10質量%以下である。
【0022】
活物質被覆部を炭素で構成する場合には、正極活物質粒子の表面の抵抗率を10~10Ω(6~9logΩ)の範囲とすることが好ましい。導電性の高いカーボンブラックやカーボンナノチューブ、グラフェン等で芯部の表面を被覆した場合は、正極活物質粒子の抵抗率が低くなる。充放電サイクルを行った際、正極活物質粒子の抵抗率が低いほど、電解液との副反応性が高まる。このため、正極活物質粒子の表面の低効率を上記範囲とすることで、電池特性を高めつつ、電池寿命を長くできる。
活物質表面の抵抗率は、例えば、広がり抵抗顕微鏡(SSRM:Scanning Spread Resistance Microscope)により測定できる。
【0023】
正極活物質粒子は、オリビン型結晶構造を有する化合物を含むことが好ましい。
オリビン型結晶構造を有する化合物は、一般式LiFe(1-x)PO(以下「一般式(I)」ともいう。)で表される化合物が好ましい。一般式(I)において0≦x≦1である。MはCo、Ni、Mn、Al、Ti又はZrである。物性値に変化がない程度に微小量の、FeおよびM(Co、Ni、Mn、Al、Ti又はZr)の一部を他の元素に置換することもできる。一般式(I)で表される化合物は、微量の金属不純物が含まれていても本発明の効果が損なわれるものではない。
【0024】
一般式(I)で表される化合物は、LiFePOで表されるリン酸鉄リチウム(以下、単に「リン酸鉄リチウム」ともいう。)が好ましい。
正極活物質粒子として、表面の少なくとも一部に導電材料を含む活物質被覆部が存在するリン酸鉄リチウム粒子(以下「被覆リン酸鉄リチウム粒子」ともいう。)がより好ましい。電池容量、サイクル特性により優れる点から、リン酸鉄リチウム粒子の表面全体が導電材料で被覆されていることがさらに好ましい。
被覆リン酸鉄リチウム粒子は公知の方法で製造できる。
例えば、特許第5098146号公報に記載の方法を用いてリン酸鉄リチウム粉末を作製し、GS Yuasa Technical Report、2008年6月、第5巻、第1号、第27~31頁等に記載の方法を用いて、リン酸鉄リチウム粉末の表面の少なくとも一部を炭素で被覆できる。
具体的には、まず、シュウ酸鉄二水和物、リン酸二水素アンモニウム、及び炭酸リチウムを、特定のモル比で計り、これらを不活性雰囲気下で粉砕及び混合する。次に、得られた混合物を窒素雰囲気下で加熱処理することによってリン酸鉄リチウム粉末を作製する。次いで、リン酸鉄リチウム粉末をロータリーキルンに入れ、窒素をキャリアガスとしたメタノール蒸気を供給しながら加熱処理することによって、表面の少なくとも一部を炭素で被覆したリン酸鉄リチウム粒子を得る。
例えば、粉砕工程における粉砕時間によってリン酸鉄リチウム粒子の粒子径を調整できる。メタノール蒸気を供給しながら加熱処理する工程における加熱時間及び温度等によって、リン酸鉄リチウム粒子を被覆する炭素の量を調整できる。被覆されなかった炭素粒子はその後の分級や洗浄などの工程などにより取り除くことが望ましい。
【0025】
正極活物質粒子は、オリビン型結晶構造を有する化合物以外の他の正極活物質を含む他の正極活物質粒子を1種以上含んでもよい。
他の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム(LiNiCoAl、ただしx+y+z=1)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMn、ただしx+y+z=1)、マンガン酸リチウム(LiMn)、コバルトマンガン酸リチウム(LiMnCoO)、クロム酸マンガンリチウム(LiMnCrO)、バナジウムニッケル酸リチウム(LiNiVO)、ニッケル置換マンガン酸リチウム(例えば、LiMn1.5Ni0.5)、及びバナジウムコバルト酸リチウム(LiCoVO)、これらの化合物の一部を金属元素で置換した非化学量論的化合物等が挙げられる。前記金属元素としては、Mn、Mg、Ni、Co、Cu、Zn及びGeからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
他の正極活物質粒子の表面の少なくとも一部に、前記活物質被覆部が存在してもよい。
【0026】
正極活物質粒子の総質量(活物質被覆部を有する場合は活物質被覆部の質量も含む)に対して、オリビン型結晶構造を有する化合物の含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。100質量%でもよい。
被覆リン酸鉄リチウム粒子を用いる場合、正極活物質粒子の総質量に対して、被覆リン酸鉄リチウム粒子の含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。100質量%でもよい。
【0027】
正極活物質粒子の活物質被覆部の厚さは、1~100nmが好ましい。
正極活物質粒子の活物質被覆部の厚さは、正極活物質粒子の透過電子顕微鏡(TEM)像における活物質被覆部の厚さを計測する方法で測定できる。正極活物質粒子の表面に存在する活物質被覆部の厚さは均一でなくてもよい。正極活物質粒子の表面の少なくとも一部に厚さ1nm以上の活物質被覆部が存在し、活物質被覆部の厚さの最大値が100nm以下であることが好ましい。
【0028】
正極活物質粒子の平均粒子径(活物質被覆部を有する場合は活物質被覆部の厚さも含む)は、0.1~20.0μmが好ましく、0.5~15.0μmがより好ましい。正極活物質粒子を2種以上用いる場合、それぞれの平均粒子径が上記の範囲内であればよい。
前記平均粒子径が上記範囲の下限値以上であると、正極製造用組成物における分散性が良くなりやすく、また、凝集物が発生し難くなりやすい。一方、上記範囲の上限値以下であると比表面積が適度に大きくなり、充放電で反応する面積を確保しやすい。その結果、電池として抵抗が低くなり、入出力特性が低下し難くなって、低温環境下(例えば、-40~―20℃)での出力特性をより高められる。常温環境下(例えば、20~30℃)で充放電サイクルを繰り返した後も、同様に低温環境下での出力特性を高く維持できる(すなわち、サイクル特性に優れる)。
本明細書における正極活物質粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定器を用いて測定した体積基準のメジアン径である。
【0029】
[結着材]
正極活物質層12に含まれる結着材は有機物であり、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルニトリル、ポリイミド等が挙げられる。結着材は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
正極活物質層12の総質量に対して、結着材の含有量は1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましい。
正極活物質層12が結着材を含有する場合、結着材の含有量の下限値は、正極活物質層12の総質量に対して0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。
【0030】
[導電助剤]
正極活物質層12に含まれる導電助剤としては、例えば、グラファイト、グラフェン、ハードカーボン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)等の炭素材料が挙げられる。導電助剤は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
正極活物質層12における導電助剤の含有量は、例えば、正極活物質層12の総質量に対して、3.0質量%未満が好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.7~2.7質量%がさらに好ましく、0.9~2.5質量%が特に好ましい。
また、正極活物質層12は、導電助剤を含まなくてもよい。
なお、正極活物質層12が「導電助剤を含まない」とは、実質的に含まないことを意味し、本発明の効果に影響2を及ぼさない程度に含むものを排除するものではない。例えば、導電助剤の含有量が正極活物質層12の総質量に対して0.1質量%以下であれば、実質的に含まれないと判断できる。
【0031】
[分散剤]
正極活物質層12に含まれる分散剤は有機物であり、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルホルマール(PVF)等が挙げられる。分散剤は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
分散剤は正極活物質層における粒子の分散性向上に寄与する。一方、分散剤の含有量が多すぎると抵抗が増大しやすい。
正極活物質層の総質量に対して、分散剤の含有量は0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましい。
正極活物質層が分散剤を含有する場合、分散剤の含有量の下限値は、正極活物質層の総質量に対して0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。
【0032】
≪正極活物質層の物性≫
正極活物質層12の表面(正極集電体に向く面と反対の面)は、走査型オージェ電子分光測定(Auger electron spectroscopy=AES)を行い、各測定点で得られた炭素原子強度、鉄原子強度をヒストグラムにした際に、特定の分布を示す。
【0033】
正極活物質層12の表面のAESの結果において、鉄原子の再頻度強度Femaxに対する炭素原子の最頻度強度Cmaxの比であるCmax/Femaxは、10.0~35.0が好ましく、10.0~30.0がより好ましい。Cmax/Femaxが上記下限値以上であると、活物質の成分である鉄(Fe)の露出している箇所が少ない。Cmax/Femaxが上記下限値以上であると、高抵抗で充放電反応を阻害しうる部分が少ないため、サイクル時の劣化となる副反応を抑制できる。このため、サイクル特性をより高められる。Cmax/Femaxが上記上限値以下であると、正極活物質の表面に導電性を付与する炭素が十分に存在するため、低抵抗な部分が増えて低温環境下での出力特性をより高められる。
AESは、正極活物質層12の表面における任意の領域(100μm×100μmの正方形)に対して行う。上記任意の領域において、AESの測定点は、縦256点×横256点の合計65536か所である。Cmaxは、各測定点における炭素原子強度をヒストグラム化した場合の最頻度強度である。Femaxは、各測定点における鉄原子強度をヒストグラム化した場合の最頻度強度である。
【0034】
正極活物質層12の表面のAESの結果において、炭素原子強度をヒストグラム化した場合に、下位10%(D10)に対する上位10%(D90)の比であるD90/D10は、1.0~2.5%が好ましく、1.0~2.0%がより好ましい。D90/D10が上記範囲内であると、活物質表面での炭素の存在量や被覆厚みの均一性が高まるため、抵抗の均一性が高まり、低温環境下で充放電反応が遅延する箇所が少なくなり出力特性を高められると共に、充放電サイクルを繰り返した後も劣化を抑える事ができる。
【0035】
AESにおける炭素原子、鉄原子のヒストグラムから得られるCmax/Femaxは、正極活物質粒子の種類、正極活物質層中の正極活物質粒子の含有量、正極活物質層の組成、製造条件(プレス時の圧力、スラリー調製時の攪拌条件等)等の組み合わせにより調節できる。
【0036】
<正極集電体>
本実施形態の正極集電体11は、正極集電体本体14と、正極集電体本体14の両面に位置する集電体被覆層15とを有する。正極集電体11は、正極集電体本体14の片面にのみ、集電体被覆層15を有してもよい。
【0037】
[正極集電体本体]
正極集電体本体14を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性を有する金属が例示できる。
正極集電体本体14は、金属材料からなる箔(金属箔)であり、表面に形成される酸化膜を含んでいてもよい。
正極集電体本体14の厚みは、例えば8~40μmが好ましく、10~25μmがより好ましい。
正極集電体本体14の厚み及び正極集電体11の厚みは、マイクロメータを用いて測定できる。測定器の一例としてはミツトヨ社製の製品名「MDH-25M」が挙げられる。
【0038】
[集電体被覆層]
集電体被覆層15は導電材料を含む。
集電体被覆層15中の導電材料は、炭素を含むことが好ましく、炭素のみからなる導電材料がより好ましい。
集電体被覆層15は、例えばカーボンブラック等の炭素粒子と結着材を含むコーティング層が好ましい。集電体被覆層15の結着材は、正極活物質層12の結着材と同様のものを例示できる。
正極集電体本体14の表面を集電体被覆層15で被覆した正極集電体11は、例えば、導電材料、結着材、及び溶媒を含むスラリーを、グラビア法等の公知の塗工方法を用いて正極集電体本体14の表面に塗工し、乾燥して溶媒を除去する方法で製造できる。
【0039】
集電体被覆層15の厚さは、0.1~4.0μmが好ましい。
集電体被覆層の厚さは、集電体被覆層の断面の透過電子顕微鏡(TEM)像又は走査型電子顕微鏡(SEM)像における被覆層の厚さを計測する方法で測定できる。集電体被覆層の厚さは均一でなくてもよい。正極集電体本体14の表面の少なくとも一部に厚さ0.1μm以上の集電体被覆層が存在し、集電体被覆層の厚さの最大値が4.0μm以下であることが好ましい。
【0040】
<導電性炭素の含有量>
本実施形態において、正極活物質層12又は集電体被覆層15は導電性炭素を含む。
正極活物質層12の総質量に対して、導電性炭素の含有量は0.5質量%以上3.0質量%未満が好ましく、1.0~2.8質量%がより好ましく、1.2~2.6質量%がさらに好ましい。
正極活物質層12中の導電性炭素の含有量が、上記範囲の下限値以上であると正極活物質層12での導電パス形成に十分な量となり、低温環境下での出力特性をより高められる。正極活物質層12中の導電性炭素の含有量が上記上限値以下であると、低温環境下での出力特性をより高められる。
【0041】
正極活物質層12の総質量に対する導電性炭素の含有量は、正極から正極活物質層12を剥がして120℃環境で真空乾燥した乾燥物(粉体)を測定対象物として、下記≪導電性炭素含有量の測定方法≫で測定できる。
例えば、正極活物質層の最表面の、深さ数μmの部分をスパチュラ等で剥がした粉体を120℃環境で真空乾燥させて測定対象物とすることができる。
下記≪導電性炭素含有量の測定方法≫で測定した導電性炭素の含有量は、活物質被覆部中の炭素と、導電助剤中の炭素とを含み、結着材中の炭素及び分散剤中の炭素のいずれをも含まない。
【0042】
≪導電性炭素含有量の測定方法≫
[測定方法A]
測定対象物を均一に混合して試料(質量w1)を量りとり、下記の工程A1、工程A2の手順で熱重量示唆熱(TG-DTA)測定を行い、TG曲線を得る。得られたTG曲線から下記第1の重量減少量M1(単位:質量%)及び第2の重量減少量M2(単位:質量%)を求める。M2からM1を減算して導電性炭素の含有量(単位:質量%)を得る。
工程A1:300mL/分のアルゴン気流中において、10℃/分の昇温速度で30℃から600℃まで昇温し、600℃で10分間保持したときの質量w2から、下記式(a1)により第1の重量減少量M1を求める。
M1=(w1-w2)/w1×100 …(a1)
工程A2:前記工程A1の直後に600℃から10℃/分の降温速度で降温し、200℃で10分間保持した後に、測定ガスをアルゴンから酸素へ完全に置換し、100mL/分の酸素気流中において、10℃/分の昇温速度で200℃から1000℃まで昇温し、1000℃にて10分間保持したときの質量w3から、下記式(a2)により第2の重量減少量M2(単位:質量%)を求める。
M2=(w1-w3)/w1×100 …(a2)
【0043】
[測定方法B]
測定対象物を均一に混合して試料を0.0001mg精秤し、下記の燃焼条件で試料を燃焼し、発生した二酸化炭素をCHN元素分析装置により定量し、試料に含まれる全炭素量M3(単位:質量%)を測定する。また、前記測定方法Aの工程A1の手順で第1の重量減少量M1を求める。M3からM1を減算して導電性炭素の含有量(単位:質量%)を得る。
[燃焼条件]
燃焼炉:1150℃
還元炉:850℃
ヘリウム流量:200mL/分
酸素流量:25~30mL/分
【0044】
[測定方法C]
上記測定方法Bと同様にして、試料に含まれる全炭素量M3(単位:質量%)を測定する。また、下記の方法で結着材由来の炭素の含有量M4(単位:質量%)を求める。M3からM4を減算して導電性炭素の含有量(単位:質量%)を得る。
結着材がポリフッ化ビニリデン(PVDF:モノマー(CHCF)の分子量64)である場合は、管状式燃焼法による燃焼イオンクロマトグラフィーにより測定されたフッ化物イオン(F)の含有量(単位:質量%)、PVDFを構成するモノマーのフッ素の原子量(19)、及びPVDFを構成する炭素の原子量(12)から以下の式で計算することができる。
PVDFの含有量(単位:質量%)=フッ化物イオンの含有量(単位:質量%)×64/38
PVDF由来の炭素の含有量M4(単位:質量%)=フッ化物イオンの含有量(単位:質量%)×12/19
結着材がポリフッ化ビニリデンであることは、試料、又は試料をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒により抽出した液体をフーリエ変換赤外スペクトル(FT-IR)測定し、C-F結合由来の吸収を確認する方法で確かめることができる。同様に19F-NMR測定でも確かめることができる。
結着材がPVDF以外と同定された場合は、その分子量に相当する結着材の含有量(単位:質量%)および炭素の含有量(単位:質量%)を求めることで、結着材由来の炭素量M4を算出できる。
分散剤が含まれる場合は、前記M3からM4を減算し、さらに分散剤由来の炭素量を減算して導電性炭素の含有量(単位:質量%)を得ることができる。
これらの手法は下記複数の公知文献に記載されている。
東レリサーチセンター The TRC News No.117 (Sep.2013)第34~37頁、[2021年2月10日検索]、インターネット<https://www.toray-research.co.jp/technical-info/trcnews/pdf/TRC117(34-37).pdf>
東ソー分析センター 技術レポート No.T1019 2017.09.20、[2021年2月10日検索]、インターネット<http://www.tosoh-arc.co.jp/techrepo/files/tarc00522/T1719N.pdf>
【0045】
≪導電性炭素の分析方法≫
正極活物質の活物質被覆部を構成する導電性炭素と、導電助剤である導電性炭素は、以下の分析方法で区別できる。
例えば、正極活物質層中の粒子を透過電子顕微鏡電子エネルギー損失分光法(TEM-EELS)により分析し、粒子表面近傍にのみ290eV付近の炭素由来のピークが存在する粒子は正極活物質であり、粒子内部にまで炭素由来のピークが存在する粒子は導電助剤と判定することができる。ここで「粒子表面近傍」とは、粒子表面からの深さが、約100nmまでの領域を意味し、「粒子内部」とは前記粒子表面近傍よりも内側の領域を意味する。
他の方法としては、正極活物質層中の粒子をラマン分光によりマッピング解析し、炭素由来のG-bandとD-band、及び正極活物質由来の酸化物結晶のピークが同時に観測された粒子は正極活物質であり、G-bandとD-bandのみが観測された粒子は導電助剤と判定することができる。
さらに他の方法としては、広がり抵抗顕微鏡(SSRM:Scanning Spread Resistance Microscope)により、正極活物質層の断面を観察し、粒子表面に粒子内部より抵抗が低い部分が存在する場合、抵抗が低い部分は活物質被覆部に存在する導電性炭素であると判定できる。そのような粒子以外に独立して存在し、かつ抵抗が低い部分は導電助剤であると判定することができる。
なお、不純物として考えられる微量な炭素や、製造時に正極活物質の表面から意図せず剥がれた微量な炭素などは、導電助剤と判定しない。
これらの方法を用いて、炭素材料からなる導電助剤が正極活物質層に含まれるか否かを確認することができる。
【0046】
<正極の製造方法>
本実施形態の正極1の製造方法は、正極活物質を含む正極製造用組成物を調製する組成物調製工程と、正極製造用組成物を正極集電体11上に塗工する塗工工程とを有する。
例えば、正極活物質及び溶媒を含む正極製造用組成物を、正極集電体11の集電体被覆層15上に塗工し、乾燥し溶媒を除去して正極活物質層12を形成する。これにより、集電体被覆層15と正極活物質層12との積層物である合材積層体16を、正極集電体本体14上に設けて、正極1とする。
正極製造用組成物は導電助剤を含んでもよい。正極製造用組成物は結着材を含んでもよい。正極製造用組成物は分散剤を含んでもよい。
正極集電体11は、例えば、正極集電体本体14の片面又は両面に集電体被覆層15を形成して、製造したものでもよいし、市場から購入したものでもよい。
正極集電体11上に正極活物質層12を形成した積層物を、2枚の平板状冶具の間に挟み、厚み方向に均一に加圧する方法で、正極活物質層12の厚みを調整できる。例えば、ロールプレス機を用いて加圧する方法を使用できる。
【0047】
正極製造用組成物の溶媒は非水系溶媒が好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール;N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等の鎖状又は環状アミド;アセトン等のケトンが挙げられる。溶媒は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
(非水電解質二次電池)
図3に示す本実施形態の非水電解質二次電池10は、本実施形態の非水電解質二次電池用正極1と、負極3と、非水電解液4とを備える。さらにセパレータ2を備えてもよい。図中符号5は外装体である。
本実施形態において、正極1は、板状の正極集電体11と、その両面上に設けられた正極活物質層12と有する。正極活物質層12は正極集電体11の表面の一部に存在する。正極集電体11の表面の縁部は、正極活物質層12が存在しない正極集電体露出部13である。正極集電体露出部13の表面には、集電体被覆層15が存在していてもよいし、集電体被覆層15が存在しなくてもよい(すなわち、正極集電体本体14が露出していてもよい)。正極集電体露出部13の任意の箇所に、図示しない端子用タブが電気的に接続する。
負極3は、板状の負極集電体31と、その両面上に設けられた負極活物質層32とを有する。負極活物質層32は負極集電体31の表面の一部に存在する。負極集電体31の表面の縁部は、負極活物質層32が存在しない負極集電体露出部33である。負極集電体露出部33の任意の箇所に、図示しない端子用タブが電気的に接続する。
正極1、負極3およびセパレータ2の形状は特に限定されない。例えば平面視矩形状でもよい。
図3では、代表的に、負極/セパレータ/正極/セパレータ/負極の順に積層した構造を示しているが、電極の数は適宜変更できる。正極1は1枚以上あればよく、得ようとする電池容量に応じて任意の数の正極1を用いることができる。負極3及びセパレータ2は、正極1の数より1枚多く用い、最外層が負極3となるように積層する。
【0049】
<負極>
負極活物質層32は負極活物質を含む。負極活物質層32は、さらに結着材を含んでもよい。負極活物質層32は、さらに導電助剤を含んでもよい。負極活物質の形状は、粒子状が好ましい。
負極3は、例えば、負極活物質、結着材、及び溶媒を含む負極製造用組成物を調製し、これを負極集電体31上に塗工し、乾燥し溶媒を除去して負極活物質層32を形成する方法で製造できる。負極製造用組成物は導電助剤を含んでもよい。
【0050】
負極活物質及び導電助剤としては、例えば炭素材料、チタン酸リチウム(LTO)、シリコン、一酸化シリコン等が挙げられる。炭素材料としては、グラファイト、グラフェン、ハードカーボン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)等が挙げられる。負極活物質及び導電助剤は、それぞれ1種でもよく2種以上を併用してもよい。
【0051】
負極集電体31の材料は、上記した正極集電体11の材料と同様のものを例示できる。
負極製造用組成物中の結着材としては、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(PAALi)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-六フッ化プロピレン共重合体(PVDF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)等が例示できる。結着材は1種でもよく2種以上を併用してもよい。
負極製造用組成物中の溶媒としては、水、有機溶媒が例示できる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール;N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の鎖状又は環状アミド;アセトン等のケトンが例示できる。溶媒は1種でもよく2種以上を併用してもよい。
【0052】
負極活物質層32の総質量に対して、負極活物質及び導電助剤の合計の含有量は80.0~99.9質量%が好ましく、85.0~98.0質量%がより好ましい。
【0053】
<セパレータ>
セパレータ2を負極3と正極1との間に配置して短絡等を防止する。セパレータ2は、後述する非水電解液4を保持してもよい。
セパレータ2としては、特に限定されず、多孔性の高分子膜、不織布、ガラスファイバー等が例示できる。
セパレータ2の一方又は両方の表面上に絶縁層を設けてもよい。絶縁層は、絶縁性微粒子を絶縁層用結着材で結着した多孔質構造を有する層が好ましい。
セパレータ2の厚さは、例えば、5~30μmとされる。
【0054】
セパレータ2は、各種可塑剤、酸化防止剤、難燃剤を含んでもよい。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリフェノール系酸化防止剤等のフェノール系酸化防止剤;ヒンダードアミン系酸化防止剤;リン系酸化防止剤;イオウ系酸化防止剤;ベンゾトリアゾール系酸化防止剤;ベンゾフェノン系酸化防止剤;トリアジン系酸化防止剤;サルチル酸エステル系酸化防止剤等が例示できる。フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましい。
【0055】
<非水電解液>
非水電解液4は正極1と負極3との間を満たす。例えば、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ等において公知の非水電解液を使用できる。
非水電解質二次電池10の製造に用いる非水電解液4は、有機溶媒と電解質塩と添加剤を含む。
製造後(初期充電後)の非水電解質二次電池10は、有機溶媒と電解質塩を含み、さらに添加剤に由来する残留物又は痕跡を含んでもよい。
【0056】
有機溶媒は、高電圧に対する耐性を有するものが好ましい。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトロヒドラフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、メチルアセテート等の極性溶媒、又はこれら極性溶媒の2種類以上の混合物が挙げられる。
【0057】
電解質塩は、特に限定されず、例えばLiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCF、LiCFCO、LiPFSO、LiN(SOF)、LiN(SOCF、Li(SOCFCF、LiN(COCF、LiN(COCFCF等のリチウムを含む塩、又はこれら塩の2種以上の混合物が挙げられる。
【0058】
添加剤としては、硫黄原子及び窒素原子の一方又は両方を含む化合物Aが挙げられる。添加剤は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
化合物Aの例としては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF)、以下「LiFSI」とも記す)等が挙げられる。
【0059】
<非水電解質二次電池の製造方法>
本実施形態の非水電解質二次電池の製造方法は、正極、セパレータ、負極、非水電解液、外装体等を公知の方法で組み立て、非水電解質二次電池を得る方法が挙げられる。
本実施形態の非水電解質二次電池の製造方法の一例について説明する。例えば、正極1と負極3を、セパレータ2を介して交互に積層した電極積層体を作製する。電極積層体をアルミラミネート袋等の外装体(筐体)5に封入する。次いで、非水電解液(図示せず)を外相体に注入し、外装体5を密閉して、非水電解質二次電池とする。
【0060】
本実施形態の正極によれば、正極活物質層の表面において、炭素原子が特定の分布をしているため、低温環境下における出力特性を高め、常温環境下で充放電サイクルを繰り返した後も、低温環境下で高い出力特性が維持される。これは、正極活物質層中に適量の導電性炭素が適切な状態で存在し、正極活物質粒子同士の抵抗差を低減して、導電パスを良好にできるためと考えられる。
【0061】
本実施形態の非水電解質二次電池は、産業用、民生用、自動車用、住宅用等、各種用途のリチウムイオン二次電池として使用できる。
本実施形態の非水電解質二次電池の使用形態は特に限定されない。例えば、複数個の非水電解質二次電池を直列又は並列に接続して構成した電池モジュール、電気的に接続した複数個の電池モジュールと電池制御システムとを備える電池システム等に用いることができる。
電池システムの例としては、電池パック、定置用蓄電池システム、自動車の動力用蓄電池システム、自動車の補機用蓄電池システム、非常電源用蓄電池システム等が挙げられる。
【実施例
【0062】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0063】
<走査型オージェ電子分光測定の方法、ヒストグラム作成、最頻度値(Cmax、Femax)、D90/D10の算出>
走査型オージェ電子分光装置を用いて、正極活物質層12の表面の走査型オージェ電子分光測定を行い、正極活物質層12の表面における炭素原子及び鉄原子の結合状態によるケミカルシフトの情報を得た。走査型オージェ電子分光の測定範囲は、例えば、縦100μm×横100μmの正方形の領域とした。
縦100μm×横100μmの正方形の範囲において、縦256×横256の合計65536点を測定し、炭素原子強度、鉄原子強度をそれぞれ得た。
次いで、走査型オージェ電子分光で測定された炭素原子強度、鉄原子強度をそれぞれヒストグラム化した。本実施例においては、得られた炭素原子強度については100毎に、鉄原子強度については20毎に区切った区間でヒストグラムを作成した。100毎の区間は例えば0以上から100未満、100以上から200未満とした。20毎の区間は例えば0以上から20未満、20以上から40未満とした。
横軸に強度、縦軸に強度の区間内に存在する測定点数を取りヒストグラムとした。得られたヒストグラムから最大頻度(最も測定点数が多く分布する)となる区間を読みとり、区間の中心となる強度を最頻度強度とした。
区間の中心となる強度は例えば100以上から200未満の区間の中心は150とした。
炭素原子の最頻度強度をCmaxとし、鉄原子の最頻度強度をFemaxとし、Camax/Femaxを求めた。同様に炭素原子の強度ヒストグラムから下位10%の値D10、上位10%の値D90を求めた。
【0064】
測定条件を以下に示す。
・AES装置:SmArt-Tool Auger Nanoprobe、ULVAC PHI社製。
・電子ビーム:10kV、20nA。
・測定範囲:100μm×100μmの四角形の領域。
【0065】
なお、上記AESはあくまで一例であり、AES装置の型式や測定時の電子ビームの条件によって得られる強度の絶対値は異なる。その場合であってもCmaxとFemaxとの比であるCmax/Femaxの関係性は維持されると考えられる。このため、ピーク強度の大小によりヒストグラムを得る際の区間は適宜変更してもよく、Cmax/Femax、D90/D10等の比を求めることが主目的の解析方法である。
【0066】
(評価方法)
<低温出力評価、および充放電サイクル試験>
低温出力評価、および充放電サイクル試験を下記(1)~(8)の手順で行った。
(1)定格容量が1Ahとなるようにセルを作製した。
(2)得られたセルに対して、25℃環境下で0.2Cレート(すなわち、200mA)で一定電流にて終止電圧3.6Vで充電を行った後、一定電圧にて終止電流0.05Cレート(すなわち、20mA)で充電を行った。
(3)25℃環境下で、容量確認のための放電を0.2Cレートで一定電流にて終止電圧2.0Vで行った。このときの放電容量を基準容量とし、基準容量を1Cレートの電流値とした(すなわち、1000mAとした)。
(4)25℃環境下で0.2Cレート(すなわち、200mA)で一定電流にて終止電圧3.6Vで充電を行った後、一定電圧にて終止電流0.05Cレート(すなわち、20mA)で充電を行った。この状態から1.0Cレートにて終止電圧2.0Vで放電を行い、この際に得られた放電容量をA1とした。
(5)25℃環境下で0.2Cレート(すなわち、200mA)で一定電流にて終止電圧3.6Vで充電を行った後、一定電圧にて終止電流0.05Cレート(すなわち20mA)で充電を行った。この状態から-30℃環境で3時間保管し、セルが環境温度と同じくなっている事を確認した後に1.0Cレート(すなわち1000mA)にて終止電圧2.0Vで放電を行い、この際に得られた放電容量をA2とし、A2/A1比を求め100分率とすることで初期状態における低温出力(初期低温出力)を評価した。
(6)(5)の後に環境温度を25℃で3時間保管し、セルが環境温度と同じくなっている事を確認した後に0.2Cレート(すなわち、200mA)にて終止電圧2.0Vで放電を行った。
(7)環境温度25℃において3.0Cレート(すなわち、3000mA)で一定電流にて終止電圧3.6Vで充電を行った後、一定電圧にて終止電流0.05Cレート(すなわち20mA)で充電を行った後に10秒間休止し、3.0Cレート(すなわち、3000mA)で一定電流にて終止電圧2.0Vで放電を行った後に10秒間休止した。
(8)(7)に記載した内容を1000回繰り返すサイクル試験を実施した。
(5)25℃環境下で0.2Cレート(すなわち、200mA)で一定電流にて終止電圧3.6Vで充電を行った後、一定電圧にて終止電流0.05Cレート(すなわち20mA)で充電を行った。この状態から-30℃環境で3時間保管し、セルが環境温度と同じくなっている事を確認した後に1.0Cレート(すなわち1000mA)にて終止電圧2.0Vで放電を行い、この際に得られた放電容量をA3とし、A3/A1比を求め100分率とすることでサイクル試験後における低温出力(1000サイクル後低温出力)を評価した。
【0067】
(使用材料)
<負極>
以下の方法により、負極を製造した。
負極活物質である人造黒鉛100質量部と、結着材であるスチレンブタジエンゴム1.5質量部と、増粘材であるカルボキシメチルセルロースNa1.5質量部と、溶媒である水とを混合し、固形分50質量%の負極製造用組成物を得た。
得られた負極製造用組成物を、銅箔(厚さ8μm)の両面上にそれぞれ塗工し、100℃で真空乾燥した後、2kNの荷重で加圧プレスして負極シートを得た。得られた負極シートを打ち抜き、負極とした。
【0068】
<正極集電体>
以下の方法により、正極集電体を製造した。
カーボンブラック100質量部と、結着材であるポリフッ化ビニリデン40質量部と、溶媒であるN-メチルピロリドン(NMP)とを混合してスラリーを得た。NMPの使用量はスラリーを塗工するのに必要な量とした。
得られたスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔(正極集電体本体)の表裏両面に、乾燥後の集電体被覆層の厚さ(両面合計)が2μmとなるように、グラビア法で塗工し、乾燥し溶媒を除去して正極集電体とした。両面それぞれの集電体被覆層は、塗工量及び厚みが互いに均等になるように形成した。得られた正極集電体を用いた例については、表中の「集電体被覆層の有無」の欄を「あり」とした。
なお、表中の「集電体被覆層の有無」のが「なし」の例は、集電体被覆層を設けていない正極集電体(すなわち、正極集電体本体のみ)を用いた。
【0069】
<正極活物質粒子>
正極活物質粒子として、リン酸鉄リチウムからなる芯部と炭素からなる活物質被覆部とを有する被覆粒子(以下「LFP被覆粒子」ともいう。)を用いた。
≪正極活物質粒子M1≫
・平均粒子径:13.8μm。
・炭素含有量:1.5(質量)%。
・活物質被覆部の被覆率(Cコート被覆率):90%となるように調製されたもの。
≪正極活物質粒子M2≫
・平均粒子径:1.1μm。
・炭素含有量:1.0(質量)%。
・Cコート被覆率:70%となるように調製されたもの。
≪正極活物質粒子M3≫
・平均粒子径:10.2μm。
・炭素含有量:0.3(質量)%。
・Cコート被覆率:70%となるように調製されたもの。
≪正極活物質粒子M4≫
・平均粒子径:0.6μm。
・炭素含有量:2.5(質量)%。
・Cコート被覆率:70%となるように調製されたもの。
≪正極活物質粒子M5≫
・平均粒子径:0.9μm。
・炭素含有量:1.0(質量)%。
・Cコート被覆率:30%となるように調製されたもの。
≪正極活物質粒子M6≫
・平均粒子径:10.6μm。
・炭素含有量:1.5(質量)%。
・Cコート被覆率:30%となるように調製されたもの。
≪正極活物質粒子M7≫
・平均粒子径:9.9μm。
・炭素含有量:1.0(質量)%。
・Cコート被覆率:30%となるように調製されたもの。
≪正極活物質粒子M8≫
・平均粒子径:0.9μm。
・炭素含有量:0.3(質量)%。
・Cコート被覆率:70%となるように調製されたもの。
【0070】
<その他>
導電助剤として、カーボンブラック(CB)又はカーボンナノチューブ(CNT)を用いた。CB及びCNTは不純物が定量限界以下であり、炭素含有量100質量%とみなすことができる。
結着材として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。
溶媒として、N-メチルピロリドン(NMP)を用いた。
【0071】
<実施例1~4、6、7、比較例1、2、4~6>
以下の方法で正極活物質層を形成した。
表1~2に示す組成に従い、正極活物質粒子(表中の配合量)、導電助剤(表中の配合量)、結着材(1質量%)及び溶媒(NMP)をプラネタリーミキサー(混合器)で混合して、正極製造用組成物を得た。正極活物質粒子、導電助剤及び結着材の合計量を100質量%とした。溶媒の配合量は、正極製造用組成物を塗工するのに必要な量とした。なお、表中の組成を示す「%」は、質量%である。
得られた正極製造用組成物を、正極集電体の両面上にそれぞれ塗工し、予備乾燥後、120℃環境で真空乾燥して正極活物質層を形成した。正極製造用組成物の塗工量(表裏両面合計)は20mg/cmとした。両面それぞれの正極活物質層は、塗工量及び厚みが互いに均等になるように形成した。得られた積層物を加圧プレスして正極シートを得た。加圧プレスのプレス圧によって、合材積層体の体積密度を調節した。得られた正極シートには、集電体被覆層と正極活物質層との積層物である合材積層体が正極集電体本体上に形成された。
得られた正極シートを打ち抜き、正極とした。
得られた正極について、走査型オージェ電子分光測定(AES)を行い、その結果を表中に示す。
【0072】
以下の方法で、図2に示す構成の非水電解質二次電池を製造した。
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を、EC:DECの体積比が3:7となるように混合した溶媒に、電解質としてLiPFを1モル/リットルとなるように溶解して、非水電解液を調製した。
各例の正極1と負極3とを、セパレータ2を介して交互に積層し、最外層が負極3である電極積層体を作製した。セパレータとしては、ポリオレフィンフィルム(厚さ15μm)を用いた。
電極積層体を作製する工程では、まず、セパレータ2と正極1とを積層し、その後、セパレータ2上に負極3を積層した。
電極積層体の正極集電体露出部13及び負極集電体露出部33のそれぞれに、端子用タブを電気的に接続し、端子用タブが外部に突出するように、アルミラミネートフィルムで電極積層体を挟み、三辺をラミネート加工して封止した。
続いて、封止せずに残した一辺から非水電解液を注入し、真空封止して、各例の非水電解質二次電池(ラミネートセル)を製造した。
得られた非水電解質二次電池について、低温放電特性を求め、その結果を表中に示す。
【0073】
(実施例5)
表1の組成に従い、正極活物質粒子99質量%、結着材1質量%及び溶媒をプラネタリーミキサーで混合し、次いで湿式ジェットミルで加圧力100MPaの条件で1パス処理して、正極製造用組成物を得た以外は、実施例1と同様にして正極及び非水電解質二次電池を得た。得られた非水電解質二次電池について、低温放電特性を求め、その結果を表中に示す。
【0074】
(比較例3)
表2の組成に従い、正極活物質粒子99質量%、結着材1質量%及び溶媒をプラネタリーミキサーで混合し、次いで湿式ビーズミルで、周速10m/s、ビーズ材質をジルコニアとし、ビーズ充填率を85%とし、ビーズ径0.3mmの条件で1パス処理して、正極製造用組成物を得た以外は、実施例1と同様にして正極及び非水電解質二次電池を得た。得られた非水電解質二次電池について、低温放電特性を求め、その結果を表中に示す。
なお、湿式ビーズミルは、他の混合器に比べて、顕著に強い剪断力や粉砕力を加える。本例においては、湿式ビーズミルを用い、活物質被覆層を剥離し得る程度の強い剪断力や活物質粒子を切断、破壊し得るほどの粉砕力を加えられる。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
各例の評価結果を表1~2に示す。加えて、実施例1~3、比較例1~2について、C原子の強度(炭素原子強度)の強度分布を図3に示し、Fe原子の強度(鉄原子強度)の強度分布を図4に示す。
表1~2に示すように、本発明を適用した実施例1~7は、初期低温出力(A2/A1)が66~83%であり、1000サイクル後低温出力(A3/A1)が58~80%であった。
Cmax/Femaxが3.2~8.5である比較例1、3~6は、初期低温出力が14~43%、1000サイクル後低温出力が2~17%であった。
Cmax/Femaxが145である比較例2は、初期低温出力が77%であるが、1000サイクル後低温出力が24%であった。
これらの結果から、本発明を適用することで、低温環境下での出力特性が向上し、かつ劣化しにくい(サイクル特性に優れる)ことを確認できた。
【符号の説明】
【0078】
1 正極
2 セパレータ
3 負極
4 非水電解液
5 外装体
10 非水電解質二次電池
11 集電体(正極集電体)
12 正極活物質層
13 正極集電体露出部
14 正極集電体本体
15 集電体被覆層
【要約】
【課題】非水電解質二次電池の低温環境下での出力特性をたかめる。
【解決手段】正極集電体11と、前記正極集電体11の片面又は一方の面に存在し、1つ以上の正極活物質粒子を含む正極活物質層12とを有し、前記正極活物質層12は、炭素原子と鉄原子とを含み、前記正極活物質層12の表面100μm×100μmの範囲において、縦256点×横256点の合計65536か所の測定点に対して走査型オージェ電子分光測定を行い、各測定点の炭素原子強度と鉄原子強度とをヒストグラム化した場合に、鉄原子の最頻度強度Femaxに対する炭素原子の最頻度強度Cmaxとの比であるCmax/Femaxが10.0以上35.0以下であることよりなる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4