(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】ココア飲料調製用のココア濃縮液
(51)【国際特許分類】
A23G 1/56 20060101AFI20221128BHJP
A23L 2/385 20060101ALI20221128BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20221128BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
A23G1/56
A23L2/385
A23L2/38 C
A23L2/00 B
(21)【出願番号】P 2022140020
(22)【出願日】2022-09-02
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2022074792
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】釜山 孝佑
(72)【発明者】
【氏名】大屋 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】フリュー 美季
(72)【発明者】
【氏名】高橋 周
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-108351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00- 9/52
A23L 2/00- 2/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
200~3000mg/Lのテオブロミンを含有し、
0.7g/100mL以上のココア由来不溶性固形分を含有し、
pH3.1~5.0である、
希釈して飲用するための、ココア濃縮液。
【請求項2】
体積比で2~6倍に希釈して飲用するための、請求項1に記載のココア濃縮液。
【請求項3】
酸味料を含有する、請求項1に記載のココア濃縮液。
【請求項4】
請求項1または3に記載のココア濃縮液と、
水またはミルクから選ばれる1種以上と、を含み、
前記ココア濃縮液の量に対し、前記水またはミルクから選ばれる1種以上の合計の量が、体積比に基づいて1~5倍である、ココア飲料。
【請求項5】
テオブロミンの濃度が200~3000mg/Lであり、0.7g/100mL以上のココア由来不溶性固形分を含有し、かつ、pHが3.1~5.0となる量の酸味料を含有するココア濃縮液を調製する工程、及び
前記ココア濃縮液の量に対し、水またはミルクから選ばれる1種以上を合計で、体積比に基づいて1~5倍の量で添加する工程、
を含む、ココア飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水や乳原料などで希釈してココア飲料を作るためのココア濃縮液に関する。より詳細には、希釈してココア飲料とした際に、ココアのコクと後味のさっぱり感とを両立できるココア濃縮液に関する。また、このココア濃縮液を含有するココア飲料と、その製造方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
カカオ豆を原材料としたココア飲料は、一般に、ココアパウダーを、砂糖等の甘味料、乳原料(牛乳、全粉乳、脱脂粉乳、及びその他の乳製品)または植物性ミルク(豆乳など)、香料等とともに水に溶解して調整された飲料であり、飲料缶等の容器に充填、殺菌され製品化されている。
【0003】
このような通常のココア飲料は、ココアパウダーの不溶性固形分や、砂糖やミルク由来の甘味によるコクを楽しむ嗜好飲料であるが故に、後味が続き、飲用後にさっぱりとしない味わいであることが多い。
【0004】
ココア飲料の味わいに関する技術としては、ガンマー・ポリグルタミン酸を配合することでコクや濃厚感を高める技術(特許文献1)、カカオ分を多く含有しつつ、増粘安定剤、結晶セルロース、乳化剤を併用することで、嗜好性と品質安定性を両立させる技術(特許文献2)等が挙げられるが、ココア飲料のコクと、後味のさっぱり感とを両立させる技術は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-189946号公報
【文献】特開平9-313145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常のココア飲料は、ココアパウダーの不溶性固形分や、砂糖やミルク由来の甘味によるコクを楽しむ嗜好飲料であるため、舌に残る後を引く味が強く、飲用後にさっぱりしないという課題があった。本発明は、ココアのコクは維持したまま、後味のさっぱり感を増強したココア飲料を製造することが出来る、ココア濃縮液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ココア濃縮液において、テオブロミン含有量と、pHを所定範囲内に調整することにより、ココアのコクは損なわれないまま、後味のさっぱり感が増強されることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明のココア濃縮液は、希釈することによりいわゆる通常の「ココア」と呼ばれる飲料を調製することができる。ココア飲料は、通常、ココア由来の不溶性固形分を含有する。
【0008】
ココア飲料は通常、品質安定性のためにpHは6.5~7程度の中性であり、製造工程においてpHを酸性域に調整するということは実施しない。これに対し、本発明者らはココア濃縮液のpHを酸性域に調整することで、意外にも、希釈時のココア飲料の味わいを上記の通り改善できるということを見出した。
【0009】
本発明は、これに限定されるものではないが、以下の態様を包含する。
[1]200~3000mg/Lのテオブロミンを含有し、
0.7g/100mL以上のココア由来不溶性固形分を含有し、
pH3.1~5.0である、
希釈して飲用するための、ココア濃縮液。
[2]体積比で2~6倍に希釈して飲用するための、[1]に記載のココア濃縮液。
[3]酸味料を含有する、[1]に記載のココア濃縮液。
[4][1]または[3]に記載のココア濃縮液と、
水またはミルクから選ばれる1種以上と、を含み、
前記ココア濃縮液の量に対し、前記水またはミルクから選ばれる1種以上の合計の量が、体積比に基づいて1~5倍である、ココア飲料。
[5]テオブロミンの濃度が200~3000mg/Lであり、0.7g/100mL以上のココア由来不溶性固形分を含有し、かつ、pHが3.1~5.0となる量の酸味料を含有するココア濃縮液を調製する工程、及び
前記ココア濃縮液の量に対し、水またはミルクから選ばれる1種以上を合計で、体積比に基づいて1~5倍の量で添加する工程、
を含む、ココア飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のココア濃縮液を用いると、水やミルクと混ぜるだけで、コクと後味のさっぱり感とが両立された嗜好性の高いココア飲料を調製でき、利便性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ココア濃縮液)
本明細書に置いて、「ココア濃縮液」とは、これを希釈して生じるココア飲料(以後、単に希釈飲料と表記することがある)を飲用に供するための、チョコレート類を含む液体をいう。液体媒体は水である。「チョコレート類」とは、「チョコレート利用食品の表示に関する公正競争規約 平成30年9月14日 公正取引委員会・消費者庁告示第15号」(以下、規約1と呼ぶ)に記載の通り、チョコレート生地、準チョコレート生地、カカオマス、ココアバター、ココアケーキ、ココアパウダー(ココア)及びカカオエキスパウダーをいう。これらのうち「チョコレート生地、準チョコレート生地、カカオマス、ココアバター、ココアケーキ及びココアパウダー」は、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(以下、規約2と呼ぶ)に規定のものをいう。また、「カカオエキスパウダー」は、上記規約1に規定の通り、カカオニブ、カカオマス、ココアバター、ココアケーキ又はココアパウダーから抽出濃縮したカカオエキスを粉末状にしたものをいう。本明細書において、「ココア飲料」とは、上記規約1にあるように、チョコレート類を原料とし、必要により糖類、乳製品、食用油脂、香料その他の可食物を加え、混合、均質化して製造し、そのままで飲用に供するものであって、カカオ分が全重量の0.5%以上のものをいう。なお、本明細書においては、乳製品には動物性の乳原料の他、植物性ミルクも含むものとする。「カカオ分」とは、上記規約1にあるように、カカオニブ、カカオマス、ココアバター、ココアケーキ、ココアパウダー(香料その他のものを含まないもの)及びカカオエキスパウダーの水分を除いた合計量をいう。ココアパウダーとは、上記規約2に記載のココアパウダー及び調整ココアパウダーをいう。本発明のココア濃縮液は、香味の観点、及び飲料製造工程での取り扱い易さから、チョコレート類として、ココアパウダー及び/又はカカオエキスパウダーを含有することが好ましい。
【0012】
本発明のココア濃縮液を希釈するための希釈倍率は、飲用者の嗜好に合わせて適宜設定してよいが、体積比に基づいて2~6倍程度とするのが好ましく、3~5倍程度であってもよい。具体的には、たとえば体積比に基づいて3倍の希釈倍率とは、1体積部のココア濃縮液に対して2体積部の希釈媒体を加えることをいう。本明細書において、希釈倍率は体積比に基づくものとする。
【0013】
本発明は、ココア濃縮液において、テオブロミン含有量とpHとを特定の範囲に調整することにより、前期ココア濃縮液を希釈して生じる飲料において、ココア飲料のコクは維持しながら、後味のさっぱり感が改善されるいう発見に基づくものである。本発明において、ココアのコクとは「ココアの複雑な味の広がり」のことを言い、後味とは、「飲用後に舌に残る後を引く甘味」のことを言う。
【0014】
テオブロミンとは、ココア由来のカフェインによく似た化学構造を有するカカオ豆に特有のアルカロイド成分であり、ココアの苦味と香りのもとになっている。そのためのココア飲料の呈味は、テオブロミン含有量が高いほど強く、低いほど弱くなる。ココア濃縮液を希釈して生じる飲料において、ココアの好ましい呈味を付与するために、ココア濃縮液のテオブロミン含有量は、200mg/L以上とする。テオブロミン含有量がこれよりも低い場合には、希釈して生じる飲料において、ココアの呈味が十分ではなくなるおそれがある。ココア濃縮液のテオブロミン含有量は、好ましくは210mg/L以上であり、さらに好ましくは250mg/L以上であり、さらに好ましくは500mg/L以上であり、さらに好ましくは600mg/L以上であり、さらに好ましくは1000mg/L以上であり、さらに好ましくは1500mg/L以上であり、さらに好ましくは2200mg/L以上である。一方、ココア濃縮液において、ココアの不溶性固形分を非常に多く含むと、製造効率が悪くなるため、ココア濃縮液のテオブロミン含有量の上限値は3000mg/Lが適当であると考える。したがって、ココア濃縮液のテオブロミン含有量は3000mg/L以下であり、2500mg/L以下がより好ましい。
【0015】
テオブロミンは、通常、カカオ豆から調製した原料に由来する。ココア濃縮液において、カカオ豆の使用量の指標となるココア由来不溶性固形分としては0.7g/100mL以上が好ましく、1.0g/100mL以上がより好ましく、1.1g/100mL以上がさらに好ましく、1.2g/100mL以上がさらに好ましく、1.3g/100mL以上がさらに好ましく、1.5g/100mL以上がことさらに好ましい。上限値は15.0g/100mL以下が好ましく、12.5g/100mL以下がより好ましく、7.5g/100mL以下がさらに好ましい。本発明のココア濃縮液を希釈して調製する飲料は、いわゆる通常の「ココア」と呼ばれる飲料であり、茶色で不透明のココア由来不溶性固形分が懸濁した外観を呈する飲料である。希釈前のココア濃縮液に関しても同様の外観を呈する。
【0016】
希釈後の飲料におけるテオブロミン含有量は、ココア濃縮液中のテオブロミン含有量と希釈倍率とで決まる。一般には、希釈飲料におけるテオブロミン含有量が100~900mg/L程度となるように、ココア濃縮液中のテオブロミン含有量と希釈倍率とを組み合わせて用いることが好ましい。ココアの十分な呈味の観点からは、希釈飲料におけるテオブロミン含有量は110mg/L以上が好ましく、125mg/L以上がより好ましく、140mg/Lがさらに好ましい。また、強すぎる呈味を避ける観点からは、希釈飲料におけるテオブロミン含有量は800mg/L以下が好ましく、750mg/L以下がより好ましく、700mg/L以下がさらに好ましい。希釈飲料におけるココア由来不溶性固形分としては0.3~5.5g/100mL程度であり、0.4g/100mL以上がさらに好ましく、0.5g/100mL以上がさらに好ましく、0.6g/100mL以上がさらに好ましく、0.7g/100mL以上がより好ましく、0.8g/100mL以上がさらに好ましい。また、5.0g/100mL以下が好ましく、4.5g/100mL以下がさらに好ましく、4.0g/100mL以下がより好ましい。
【0017】
ココア濃縮液中のテオブロミン含有量や、希釈後飲料中のテオブロミン含有量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法等の公知の方法によって測定することができる。
【0018】
また、ココア濃縮液または希釈飲料中のココア由来不溶性固形分は、ココア濃縮液または希釈飲料のうち、カカオ豆に由来する不溶性の固形分をいう。ココア由来不溶性固形分の量は、以下の方法により測定することができる:
100mLのココア濃縮液または希釈飲料を遠沈管に注ぎ、1000rpmで10分間遠心分離を行う。遠心分離後、上澄み液を取り除き、遠沈管を50℃で48時間乾燥させて重量測定を行う。得られた値から遠沈管の重量を差し引いて固形分の重量を得る。ココア濃縮液または希釈飲料には、例えば、ミルク分、甘味成分、pH調整剤、香料等のカカオ豆に由来しない成分が含まれることがあるが、通常これらは可溶性であり、上記の操作でほとんど沈殿しないので、上記で得た固形分の重量に基づいてココア由来不溶性固形分の量を算出することができる。一方、もしもココア濃縮液または希釈飲料に、カカオ豆由来原料以外の明らかに溶解しない成分、例えばカカオ豆以外の果実そのものやゲル状の食材など、を追加した場合には、それらのカカオ豆に由来しない成分の重量を上記で得た固形分の重量から差し引くことにより、ココア由来不溶性固形分の量を算出する。
【0019】
(pH)
本発明のココア濃縮液は、テオブロミン含有量とpHとを特定の範囲に調整することにより、ココア濃縮液を希釈して生じる飲料において嗜好飲料としての好ましいコクが有りながら、さっぱりした後味を有することを特徴とする。
【0020】
ココア濃縮液のpHが低すぎると、希釈飲用時のココア飲料において酸味が立ってしまいココアとしての嗜好性が低く感じられるため、本発明のココア濃縮液のpHは、希釈飲用時の嗜好性の観点から3.1以上、好ましくは3.5以上、より好ましくは4.0以上であり、後味の改善効果の観点から5.0以下、好ましくは4.8以下、より好ましくは4.4以下となるように調整する。pHは、酸味料によって調整することができる。使用できる酸味料としては、例えば、これらに限定されないが、リン酸、クエン酸、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、DL-リンゴ酸、フマル酸、乳酸、氷酢酸、アジピン酸、グルコノデルタラクトン、フィチン酸等を挙げることができる。希釈飲用時の後味の改善効果とコクとの両立の観点から、上記の酸味料の中でも、酸味が立ちにくいリン酸が好ましい。pHの調整において、酸味成分を含む果実や野菜などのカカオ豆以外の植物系食材のジュース、エキス、ピューレ、ペーストなどを用いることも考えられるが、これらの植物系食材には酸味成分以外の渋味成分なども含まれており、ココア濃縮液に含有させるとココアとしての呈味を損ねる可能性が有るため、カカオ豆以外の植物系素材のジュース、エキス、ピューレ、ペースト等は用いないことが好ましい。
【0021】
ここで、本明細書におけるpHとは、濃縮液100mLを200mLのビーカーに量り取り、20℃に温度調整をしてpHメータにより測定する値をいう。
(その他成分)
本発明の効果を損なわない限りで、本発明のココア濃縮液には、甘味料(ショ糖、異性化糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース、ステビアなど)、酸化防止剤(L-アスコルビン酸ナトリウムなど)、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなど)、増粘安定剤(結晶セルロースなど)、香料等を適宜配合することができる。
【0022】
なお、上述した通り、カカオ豆由来の原料以外の植物系食材(例えば、カカオ豆以外の果実、野菜、ハーブ、樹皮など)は、飲料のココアらしい呈味を損ねるおそれがあるので、配合しないことが好ましい。
【0023】
(容器詰ココア濃縮液)
本発明のココア濃縮液は、殺菌処理され容器に充填された形態であってもよい。容器としては汎用されるものを用いればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶などを挙げることができる。殺菌処理の方法は、特に限定されない。食品衛生法等の所定の基準を満たすように殺菌を行えばよい。
【0024】
(希釈媒体)
本発明のココア濃縮液を希釈することにより、ココア飲料を提供することができる。ココア濃縮液を希釈するための希釈媒体としては、飲食品上許容できる液体であればいずれを用いてもよいが、通常は、水またはミルクから選ばれる一種以上である。特に、ミルクを用いることが好ましい。本明細書でいうミルクとは、そのままではココアの香味を希薄化させる、タンパク質や脂肪が微細なコロイド粒子となって存在する白色の液体をいい、牛乳などの動物性ミルクの他、豆乳やアーモンドミルク、ライスミルク、ココナッツミルクなどの植物性ミルクが含まれるものとする。ミルクの中では牛乳又は豆乳が好ましい。
【0025】
本発明のココア濃縮液は、テオブロミン含有量とpHとを所定範囲内に調整することにより、希釈媒体で希釈して生じる飲料においてもココアのコクが有りながら、後味のさっぱり感が増強されることを特徴とする。そのため、本発明のココア濃縮液は、たっぷりのミルクで混ぜた場合にも、ミルクに負けないココアの豊かなコクと後味のさっぱり感とを感じる飲料を調製することができる。このように、本発明のココア濃縮液は、ミルクで希釈するための濃縮液として好適に使用される。
【0026】
(ココア飲料)
上述した通り、本発明のココア濃縮液を水またはミルクから選ばれる一種以上(希釈媒体)で希釈することにより、本発明のココア飲料(希釈飲料とも呼ぶ)を製造することができる。希釈倍率は上述した通り、体積比に基づいて2~6倍程度とするのが好ましく、3~5倍程度であってもよい。これはすなわち、ココア濃縮液の量に対して、希釈媒体の量が1~5倍程度、より好ましくは2~4倍程度であることを意味する。
【0027】
ココア飲料(希釈飲料)におけるテオブロミン含有量は、上述した通り、100~900mg/L程度とするのが好ましい。ココアの十分な呈味の観点からは、ココア飲料のテオブロミン含有量は、110mg/L以上が好ましく、125mg/L以上がより好ましく、140mg/Lがさらに好ましい。また、強すぎる呈味を避ける観点からは、800mg/L以下が好ましく、750mg/L以下がより好ましく、700mg/L以下がさらに好ましい。ココア飲料(希釈飲料)におけるココア由来不溶性固形分としては0.3~5.5g/100mL程度であり、0.4g/100mL以上がさらに好ましく、0.5g/100mL以上がさらに好ましく、0.6g/100mL以上が好ましく、0.7g/100mL以上がより好ましく、0.8g/100mL以上がさらに好ましい。また、5.0g/100mL以下が好ましく、4.5g/100mL以下がさらに好ましく、4.0g/100mL以下がより好ましい。
【0028】
上述した通り、本発明のココア濃縮液を希釈して調製するココア飲料は、いわゆる通常の「ココア」と呼ばれる飲料であり、茶色で不透明のココア由来不溶性固形分が懸濁した外観を呈する飲料である。
【0029】
(ココア飲料の製造方法)
上述した通り、本発明のココア濃縮液を希釈することにより、ココア飲料を製造することができる。したがって、本発明は、下記の工程を含むココア飲料の製造方法も提供する。
【0030】
テオブロミンの濃度が200~3000mg/Lであり、0.70g/100mL以上のココア由来不溶性固形分を含有し、かつ、pHが3.1~5.0となる量の酸味料を含有するココア濃縮液を調製する工程、及び
前記ココア濃縮液の量に対し、水またはミルクから選ばれる1種以上を合計で、体積比に基づいて1~5倍の量で添加する工程。
【実施例】
【0031】
以下、実験例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本明細書において、特に記載しない限り、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。また、飲料中のテオブロミン含有量は、以下の方法で測定できる。
【0032】
<テオブロミン含有量の測定>
テオブロミン濃度は、各サンプルを移動相Aで10倍希釈(w/w)した後、メンブランフィルター(ADVANTEC製 Cellulose Acetate0.45μm)で濾過し、HPLCに注入して定量した。HPLCの測定条件は以下の通りである。
・カラム:TSK-gel ODS-80TsQA(4.6mmφ×150mm、東ソー株式会社)
・移動相A:水:トリフルオロ酢酸=1000:0.5
B:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=1000:0.5
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:40℃
・グラディエント条件;分析開始から8分後まではA液96%、B液4%
8分から10分までA液96%、B液4%保持、
10分から20分まででA液89.5%、B液10.5%、
20分から26分までA液89.5%、B液10.5%保持、
26分から27分まででA液40%、B液60%、
27分から29分まででA液30%、B液70%、
29分から30分までA液30%、B液70%保持、
30分から36分まででA液96%、B液4%、
・注入量:5.0μL
・検出波長:280nm
・リテンションタイム:13.3分
・標準物質:テオブロミン。
【0033】
<ココア由来不溶性固形分の量の測定>
100mLのサンプルを遠沈管に注ぎ、株式会社コクサン製の遠心機H-9R、アングルローターMN1を用い、1000rpmで10分間遠心分離を行った。遠心分離後、上澄み液を取り除き、遠沈管を50℃で48時間乾燥させて、重量を測定した。得られた値から、遠沈管の重量を差し引いて、ココア由来不溶性固形分の量とした。
【0034】
実験1:ココア濃縮液の製造と評価
ココアパウダー(森永製菓株式会社製、商品名:純ココア)を使用し、水、ショ糖、アセスルファムK、及び75%リン酸を添加して表1に示されるテオブロミン含有量及びpHとなるようにココア濃縮液を調製した。ココア濃縮液におけるココア由来不溶性固形分の量は、0.7g/100mLよりも十分に大きかった。ココア濃縮液を牛乳で希釈して、サンプル1-1~1-4を作成し、専門パネル8名で香味評価を行った。先ず、事前にパネルがサンプル1-1を飲用し、ココア飲料のコク(ココアの複雑な味の広がり)及び後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)についてディスカッションをし、共通認識を持つようにした。その後、各サンプルについて以下の評価基準に基づいて評価をした。
【0035】
<コクの評価基準>
各サンプルについて、各パネルが個別に評価し、8名のパネル全員がサンプル1-1(対照)と同等のコクがあると評価した場合を○、5~7名のパネルがサンプル1-1(対照)と同等のコクがあると評価した場合を△、4名以下のパネルがサンプル1-1(対照)と同等のコクがあると評価した場合を(パネル全員が対照と変わらないと評価した場合を含む)を×とした。
【0036】
<後味の評価基準>
各サンプルについて、以下の評価基準に基づいて各パネルが評価し、その平均点を採用した。平均点が2.0点以上であると、後味(下に残る後を引く甘味)が控えめで、後味が良好(さっぱりした後味)であるといえる。
4:後味が残らない
3:後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)がわずかに感じられる
2:後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)が感じられるが、飲用後に水を飲まなくても甘味が消える
1:後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)が強く、飲用後に水を飲まないと甘味が消えない(サンプル1-1と同等)
評価結果を表1に示す。ココア濃縮液に含まれるテオブロミン含有量を3000mg/Lに固定した場合、pH5.0以下であると、pH6.0以上である場合に比べて、ココア飲料のコクは維持しながら、後味が改善された。
【0037】
【0038】
実験2:ココア濃縮液の製造と評価
表2に示されるテオブロミン含有量及びpHとなるようにした以外は実験1と同様にしてココア濃縮液を調製した。ココア濃縮液におけるココア由来不溶性固形分の量は、0.7g/100mLよりも十分に大きかった。ココア濃縮液を牛乳で希釈して、サンプル2-1~2-4を作成し、専門パネル8名で香味評価を行った。先ず、事前にパネルがサンプル2-1を飲用し、ココア飲料のコク(ココアの複雑な味の広がり)及び後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)についてディスカッションをし、共通認識を持つようにした。その後、各サンプルについて以下の評価基準に基づいて評価をした。
【0039】
<コクの評価基準>
各サンプルについて、各パネルが個別に評価し、8名のパネル全員がサンプル2-1(対照)と同等のコクがあると評価した場合を○、5~7名のパネルがサンプル2-1(対照)と同等のコクがあると評価した場合を△、4名以下のパネルがサンプル2-1(対照)と同等のコクがあると評価した場合を(パネル全員が対照と変わらないと評価した場合を含む)を×とした。
【0040】
<後味の評価基準>
各サンプルについて、以下の評価基準に基づいて各パネルが評価し、その平均点を採用した。平均点が2.0点以上であると、後味(下に残る後を引く甘味)が控えめで、後味が良好(さっぱりした後味)であるといえる。
4:後味が残らない
3:後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)がわずかに感じられる
2:後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)が感じられるが、飲用後に水を飲まなくても甘味が消える
1:後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)が強く、飲用後に水を飲まないと甘味が消えない(サンプル2-1と同等)
評価結果を表2に示す。ココア濃縮液に含まれるテオブロミン含有量を1200mg/Lに固定した場合、pH4.5以下であると、pH6.5であるサンプル2-1と比べて、ココア飲料のコクは維持しながら、後味が改善された。サンプル2-4については、コクは維持しながら、後味は改善されたが、酸味を感じ飲みづらいという評価をしたパネルがいたことから、pH2.5は好ましくないことが示唆された。
【0041】
【0042】
実験3:ココア濃縮液の製造と評価
表3に示されるテオブロミン含有量及びpHとなるようにした以外は実験1と同様にしてココア濃縮液を調製した。ココア濃縮液におけるココア由来不溶性固形分の量は、0.7g/100mLよりも十分に大きかった。ココア濃縮液を牛乳で希釈して、サンプル3-1~3-4を作成し、専門パネル8名で香味評価を行った。先ず、事前にパネルがサンプル3-1を飲用し、ココア飲料のコク(ココアの複雑な味の広がり)及び後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)についてディスカッションをし、共通認識を持つようにした。その後、各サンプルについて以下の評価基準に基づいて評価をした。
【0043】
<コクの評価基準>
各サンプルについて、各パネルが個別に評価し、8名のパネル全員がサンプル3-1(対照)と同等のコクがあると評価した場合を○、5~7名のパネルがサンプル3-1(対照)と同等のコクがあると評価した場合を△、4名以下のパネルがサンプル3-1(対照)と同等のコクがあると評価した場合を(パネル全員が対照と変わらないと評価した場合を含む)を×とした。
【0044】
<後味の評価基準>
各サンプルについて、以下の評価基準に基づいて各パネルが評価し、その平均点を採用した。平均点が2.0点以上であると、後味(下に残る後を引く甘味)が控えめで、後味が良好(さっぱりした後味)であるといえる。
4:後味が残らない
3:後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)がわずかに感じられる
2:後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)が感じられるが、飲用後に水を飲まなくても甘味が消える
1:後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)が強く、飲用後に水を飲まないと甘味が消えない(サンプル3-1と同等)
評価結果を表3に示す。ココア濃縮液に含まれるテオブロミン含有量を300mg/Lに固定した場合、pH4.5以下であると、pH6.5であるサンプル3-1と比べて、ココア飲料のコクは維持しながら、後味が改善された。サンプル3-4については、コクは維持しながら、後味は改善されたが、酸味を感じ飲みづらいという評価をしたパネルがいたことから、pH2.5は好ましくないことが示唆された。
【0045】
【0046】
実験4:ココア濃縮液の製造と評価
表4に示されるテオブロミン含有量及びpHとなるようにした以外は実験1と同様にしてココア濃縮液を調製した。ココア濃縮液におけるココア由来不溶性固形分の量は、0.7g/100mLよりも十分に大きかった。ココア濃縮液を牛乳で希釈して、サンプル4-1~4-4を作成し、専門パネル8名で香味評価を行った。先ず、事前にパネルがサンプル4-1を飲用し、ココア飲料のコク(ココアの複雑な味の広がり)及び後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)についてディスカッションをし、共通認識を持つようにした。その後、各サンプルについて以下の評価基準に基づいて評価をした。
【0047】
<コクの評価基準>
各サンプルについて、各パネルが個別に評価し、8名のパネル全員がサンプル4-1(対照)と同等のコクがあると評価した場合を○、5~7名のパネルがサンプル4-1(対照)と同等のコクがあると評価した場合を△、4名以下のパネルがサンプル4-1(対照)と同等のコクがあると評価した場合を(パネル全員が対照と変わらないと評価した場合を含む)を×とした。
【0048】
<後味の評価基準>
各サンプルについて、以下の評価基準に基づいて各パネルが評価し、その平均点を採用した。平均点が2.0点以上であると、後味(下に残る後を引く甘味)が控えめで、後味が良好(さっぱりした後味)であるといえる。
4:後味が残らない
3:後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)がわずかに感じられる
2:後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)が感じられるが、飲用後に水を飲まなくても甘味が消える
1:後味(飲用後に舌に残る後を引く甘味)が強く、飲用後に水を飲まないと甘味が消えない(サンプル4-1と同等)
評価結果を表4に示す。ココア濃縮液に含まれるテオブロミン含有量を200mg/Lに固定した場合、pH5.0以下であると、pH6.0以上である場合に比べて、ココア飲料のコクは維持しながら、後味が改善された。
【0049】
【要約】
【課題】ココアのコクは維持したまま、後味のさっぱり感を増強したココア飲料を製造することができるココア濃縮液の提供。
【解決手段】0.7g/100mL以上のココア由来不溶性固形分を含有する、希釈して飲用するためのココア濃縮液において、テオブロミンの含有量を200~3000mg/Lとし、pHを3.1~5.0とする。
【選択図】なし